以下に、本発明の実施の形態に係るモータ駆動装置、電動送風機、電気掃除機およびハンドドライヤを図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、以下の説明では単相構造のモータへの適用例を中心に説明するが、他の用途への適用を除外する趣旨ではない。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るモータ駆動装置1の構成例を示す図である。モータ駆動装置1は、電源10および単相モータ12に接続されている。モータ駆動装置1は、単相モータ12の駆動を制御する。
電源10は、モータ駆動装置1に直流電圧Vdcを供給する。電源10は、直流電圧Vdcを直接供給する電池であってもよいし、コンセントなど外部から取得した交流電圧を直流電圧Vdcに変換する回路であってもよい。
単相モータ12は、モータ駆動装置1の駆動対象のモータである。単相モータ12は、好ましくはブラシレスモータである。ブラシレスモータにおいて、ロータ12aには、回転方向すなわち外周に沿って配列された図示しない複数個の永久磁石が配置される。複数個の永久磁石は、着磁方向が回転方向において交互に反転するように配置され、ロータ12aの複数個の磁極を形成する。単相モータ12は、永久磁石が配置されたロータ12aを回転させる。また、単相モータ12において、ステータには図示しないモータ巻線が巻かれている。モータ電流は、モータ巻線に流れる交流電流である。なお、本実施の形態では、磁極数は4極とするが、4極以外の磁極数でもよい。単相モータ12の負荷としては、電動送風機を備えた電気掃除機が例示される。なお、単相モータ12では、実際に回転するのはロータ12aであるが、説明の便宜上、単相モータ12が回転する、単相モータ12の回転速度などと記載する。
モータ駆動装置1の構成について説明する。モータ駆動装置1は、インバータ11と、電圧検出部20と、電流検出部21と、制御部25と、アナログデジタル変換部30,31と、駆動信号生成部32と、を備える。制御部25は、プロセッサ33と、メモリ34と、を備える。
インバータ11は、単相モータ12に接続され、単相モータ12に交流電圧を出力する。図2は、実施の形態1に係るモータ駆動装置1が備えるインバータ11の回路構成図を示す図である。インバータ11は、ブリッジ接続されたスイッチング素子51,52,53,54を有する。インバータ11は、スイッチング素子51~54を用いて直流電圧Vdcを交流電圧に変換し、交流電圧を単相モータ12に出力する。高電位側に位置するスイッチング素子51,53は、上アームのスイッチング素子と称される。また、低電位側に位置するスイッチング素子52,54は、下アームのスイッチング素子と称される。スイッチング素子51とスイッチング素子52との接続端、およびスイッチング素子53とスイッチング素子54との接続端は、ブリッジ回路における交流端を成す。インバータ11は、各交流端に単相モータ12が接続される回路構成となる。
スイッチング素子51~54には、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)を使用する。MOSFETは、FETの一例である。スイッチング素子51~54のそれぞれにおいて、ドレインとソースとの間に並列に接続されるダイオードは還流ダイオードと称される。ただし、本実施の形態では、MOSFETの内部に形成される寄生ダイオードであるボディダイオードを還流ダイオードとして使用する。
スイッチング素子51~54のうちの少なくとも1つは、ワイドバンドギャップ半導体を用いて形成することができる。ワイドギャップ半導体は、例えば、SiC(炭化珪素)、GaN(窒化ガリウム)、またはダイヤモンドである。スイッチング素子51~54のうちの少なくとも1つにワイドバンドギャップ半導体を用いることで、当該スイッチング素子の耐電圧性および許容電流密度が高くなるため、当該スイッチング素子を組み込んだ半導体モジュールの小型化が可能となる。また、ワイドバンドギャップ半導体は、耐熱性も高いため、放熱部の小型化及び放熱構造の簡素化が可能になる。
電流検出部21は、単相モータ12の動作状態を表す物理量を検出する検出部である。具体的には、電流検出部21は、単相モータ12に流れる電流の電流値を検出する。電流検出部21は、単相モータ12に流れる電流の電流値が検出できれば配置場所は限定されない。図2では、単相モータ12と直列に接続されているが、電流検出部21は、スイッチング素子51~54に直列に配置されていてもよいし、インバータ11の電源線またはグランド線に配置されていてもよい。本実施の形態では、電流検出部21が単相モータ12に直列に配置された場合について説明する。電流検出部21において電流を検出する方法には、例えば、抵抗器を回路上に挿入し、電圧値を検出することでオームの法則から電流値を算出する方法がある。また、トランスを用いた検出方法、ホール効果を用いた検出方法などが挙げられるが、電流値を検出できればどの方法でもよい。
電圧検出部20は、単相モータ12の動作状態を表す物理量を検出する検出部である。具体的には、電圧検出部20は、電源10がモータ駆動装置1に出力する電圧を検出する。電圧検出部20は、モータ駆動装置1に出力される電圧を検出できればどこに配置されてもよく、また検出方法についても限定されない。
なお、電流検出部21および電圧検出部20は、モータ駆動装置1において、単相モータ12の動作状態を表す物理量を検出する検出部の一例である。モータ駆動装置1は、単相モータ12の動作状態を表す物理量を検出する検出部として、他の検出部を備えてもよい。
アナログデジタル変換部30は、電圧検出部20で検出された電圧値のアナログ信号をデジタル信号に変換する。アナログデジタル変換部31は、電流検出部21で検出された電流値のアナログ信号をデジタル信号に変換する。
制御部25は、アナログデジタル変換部30から取得した電圧値と、アナログデジタル変換部31から取得した電流値とを用いて、インバータ11から単相モータ12に出力される交流電圧を制御する。すなわち、制御部25は、電流検出部21および電圧検出部20で検出された物理量に応じてインバータ11から単相モータ12に出力される交流電圧を制御する。制御部25は、電流検出部21および電圧検出部20で検出された物理量を用いて単相モータ12においてロータ12aの回転方向における位置を推定することができる。制御部25は、物理量すなわち推定されるロータ12aの位置に応じてインバータ11から単相モータ12に出力される交流電圧を制御する。制御部25において、プロセッサ33は、後述する電流値に対する閾値に基づく、インバータ11から単相モータ12に出力される交流電圧の制御を行う。メモリ34には、プロセッサ33で使用される閾値を決定するためのパラメータなどが保持されている。
駆動信号生成部32は、制御部25から出力された信号、すなわちプロセッサ33で算出された制御演算結果に基づいて、インバータ11のスイッチング素子51~54を駆動するための駆動信号を生成する。
つづいて、モータ駆動装置1の動作について説明する。図3は、実施の形態1に係るモータ駆動装置1のインバータ11が単相モータ12に出力する交流電圧Vm(θe)および単相モータ12で誘起される誘起電圧em(θe)の例を示す図である。ここで、θeは、単相モータ12においてロータ12aの位置を示す電気角である。θeは、時間変化する変数である。単相モータ12では電気角の位相に合わせて誘起電圧em(θe)が変化することから、θeの変化に合わせて単相モータ12に流れる電流の時間変化量、すなわち電流の変化率が変化することは自明である。
誘起電圧em(θe)は、単相モータ12においてロータ12aが回転する際、コイルを通過する磁束の変化によって生じる起電力である。誘起電圧em(θe)は、単相モータ12の回転速度、ロータ12aに配置された永久磁石の向きなどによって電圧値が変化する。誘起電圧em(θe)は、通常、正弦波状に生成される。誘起電圧em(θe)は、電気角速度ωeおよび鎖交磁束記号φfを用いると、式(1)のように表すことができる。
em(θe)=ωe×φf×sinθe …(1)
また、インバータ11から単相モータ12の図示しないモータ巻線に出力される交流電圧Vm(θe)は、電源10からインバータ11に供給される直流電圧Vdcと同等とすると、電気角によって式(2)のように変化する。
電気角速度が一定の場合、図3で示されるθ1,θ2において、π/2≦θ1<θ2<πであり、sinθ1>sinθ2、およびVm(θ1)=Vm(θ2)であることから、式(3)のように表すことができる。
Vm(θ1)-em(θ1)<Vm(θ2)-em(θ2) …(3)
直流電圧Vdcはモータ巻線に供給されるまでに配線抵抗、スイッチング素子51~54のオン抵抗などによって電圧降下が発生するが、微小な値として本実施の形態では考慮しない。ここで、単相モータ12の回路方程式は、式(4)のように表すことができる。
式(4)において、Rはモータ巻線の抵抗成分であり、Im(θe)はモータ巻線に流れる電流であり、Lはモータ巻線のインダクタンス成分であり、dIm(θe)/dtはモータ巻線に流れる電流Im(θe)の変化率を表している。式(4)において、左辺はインバータ11が出力する交流電圧である。式(4)において、右辺の第一項はモータ巻線の抵抗成分で発生する電圧降下分であり、右辺の第二項はモータ巻線のインダクタンスに流れる電流の変化から発生する電圧であり、右辺の第三項はロータ12aによって単相モータ12で誘起される誘起電圧である。式(4)に示す単相モータ12の回路方程式から、モータ巻線に流れる電流の変化率について、式(5)のように表すことができる。
簡略化のため、抵抗成分Rは微小な値とし、Vm(θe)-em(θe)に対してRIm(θe)は無視する。単相モータ12の電気角θeにおける大小関係を求めると、式(3)に示すように、Vm(θ1)-em(θ1)<Vm(θ2)-em(θ2)であることから、式(6)のように表すことができる。
このように、インバータ11が出力する交流電圧Vm(θe)と誘起電圧em(θe)との差が大きいほど、単相モータ12のモータ巻線に流れる電流の変化率の割合は大きくなる。すなわち、図3では、誘起電圧em(θe)が大きくなる点θ1では、インバータ11が出力する交流電圧Vm(θe)との電位差が小さくなる。そのため、モータ巻線では、供給される交流電圧Vm(θe)が小さくなるため、電流増幅率すなわち変化率が小さくなる。これに対して、誘起電圧em(θe)が小さくなる点θ2では、インバータ11が出力する交流電圧Vm(θe)との電位差が大きくなる。そのため、モータ巻線では、供給される交流電圧Vm(θe)が大きくなるため、電流増幅率すなわち変化率が大きくなる。
図4は、実施の形態1に係るモータ駆動装置1のインバータ11から出力される交流電圧Vm(θe)、単相モータ12の誘起電圧em(θe)、単相モータ12に流れる電流Im(θe)、および電流Im(θe)に対する3つの閾値の例を示す図である。3つの閾値は、第1の閾値、第2の閾値、および第3の閾値である。図4において、横軸は時間を示す。以降の同様の図においても同じである。
第1の閾値は、単相モータ12に流れる電流Im(θe)の下限を示すものである。制御部25は、電流Im(θe)が第1の閾値未満の場合、インバータ11から単相モータ12に交流電圧Vm(θe)を出力する印加モードにする。具体的には、制御部25は、インバータ11のスイッチング素子51,54を導通させ、スイッチング素子53,52を非導通とする、または、インバータ11のスイッチング素子51,54を非導通とし、スイッチング素子53,52を導通させるように、スイッチング素子51~54を動作させる信号を駆動信号生成部32に出力する。駆動信号生成部32は、制御部25からの信号に基づいてスイッチング素子51~54を駆動するための駆動信号を生成し、出力する。これにより、モータ駆動装置1は、単相モータ12に交流電圧Vm(θe)を出力し、単相モータ12に電流Im(θe)を流すことができる。
第2の閾値は、単相モータ12に流れる電流Im(θe)の上限を示すものである。制御部25は、インバータ11から単相モータ12に交流電圧Vm(θe)を出力させ、単相モータ12に流れる電流Im(θe)が第2の閾値以上になった場合、インバータ11から単相モータ12への交流電圧Vm(θe)の出力を停止する停止モードにする。具体的には、制御部25は、インバータ11のスイッチング素子51~54を全て非道通にする、またはスイッチング素子51,53を導通とし、スイッチング素子52,54を非導通とする、またはスイッチング素子51,53を非導通とし、スイッチング素子52,54を導通とするように、スイッチング素子51~54を動作させる信号を駆動信号生成部32に出力する。駆動信号生成部32は、制御部25からの信号に基づいてスイッチング素子51~54を駆動するための駆動信号を生成し、出力する。これにより、モータ駆動装置1は、単相モータ12への交流電圧Vm(θe)の出力を停止し、単相モータ12への電流Im(θe)の供給を停止することができる。単相モータ12では、モータ巻線に交流電圧Vm(θe)が供給されず、単相モータ12に流れる電流が減少する。
スイッチング素子51~54を全て非道通にした場合、モータ巻線のインダクタンス成分によりモータ巻線に流れていた電流は流れ続けようとする。そのため、下側のスイッチング素子52またはスイッチング素子54に並列に接続されている還流ダイオードを通り、モータ巻線を通り上側のスイッチング素子51またはスイッチング素子53に並列に接続されている還流ダイオードから電源線へと電流が流れ、電源10に回収される回生モードとなる。回生モード中に電流が流れるスイッチング素子の組み合わせは、スイッチング素子51,54、またはスイッチング素子52,53である。このスイッチング素子の組み合わせにおいて、制御部25が片方のスイッチング素子を非導通から導通にすることで、導通にしたスイッチング素子の還流ダイオードではなく、スイッチング素子内部を電流が通過するようになる。この結果、還流ダイオードで発生した損失を抑えることができる。このような方式は、スイッチング素子がMOSFETなど半導体内で電流が逆流することが可能な素子に限られる。
スイッチング素子51,53を導通とし、スイッチング素子52,54を非導通とした場合、モータ巻線のインダクタンス成分によりモータ巻線に流れていた電流は流れ続けようとするため、モータ巻線とスイッチング素子51,53の中をループする還流モードとなる。この場合、順方向とは逆側に電流が流れているスイッチング素子については、非導通としても還流ダイオードを通る。逆流が可能なスイッチング素子は還流ダイオードを通さないことで損失が少なくなるが、逆流ができないスイッチング素子については非導通とし還流ダイオードに電流が流れるようにする必要がある。
スイッチング素子51,53を非導通とし、スイッチング素子52,54を導通とした場合、モータ巻線のインダクタンス成分によりモータ巻線に流れていた電流は流れ続けようとするため、モータ巻線とスイッチング素子52,54の中をループする還流モードとなる。この場合、順方向とは逆側に電流が流れているスイッチング素子については、非導通としても還流ダイオードを通る。逆流が可能なスイッチング素子は還流ダイオードを通さないことで損失が少なくなるが、逆流ができないスイッチング素子については非導通とし還流ダイオードに電流が流れるようにする必要がある。
上記のスイッチング素子の動作の方法は一例であり、単相モータ12すなわちモータ巻線に交流電圧Vm(θe)が供給されない状態であれば、スイッチング素子の導通、非道通の形態についてはどのような方式でも構わない。
モータ巻線に交流電圧Vm(θe)が供給されないため、回生モードでも還流モードでもモータ巻線に流れる電流が減少する傾向になる。この結果、第2の閾値を超えても電流はすぐに第2の閾値を下回ることになる。
誘起電圧em(θe)が小さい箇所では電流Im(θe)の増幅率が大きく、誘起電圧em(θe)が大きい箇所では電流Im(θe)の増幅率が小さくなる。そのため、単相モータ12に交流電圧Vm(θe)が供給されているときの時間、および単相モータ12に交流電圧Vm(θe)が供給されていないときの時間が、誘起電圧em(θe)の位相によって可変することは自明である。インバータ11が単相モータ12に交流電圧Vm(θe)を出力したタイミングから、交流電圧Vm(θe)の出力を停止し、再度交流電圧Vm(θe)を出力するまでの時間を1周期とした場合、誘起電圧em(θe)の位相によってこの1周期の間隔が変化する。そのため、インバータ11から出力される交流電圧Vm(θe)の1周期、すなわちスイッチング周波数が不均一になる。一般的なインバータ駆動では、一定のスイッチング周波数によってPWM(Pulse Width Modulation)波形が出力されるため、スイッチング周波数帯のノイズのピークが大きくなる。しかしながら、本実施の形態では、インバータ11から出力される交流電圧Vm(θe)は固定のスイッチング周波数でないため、インバータ11のスイッチング素子51~54のスイッチングによるノイズの影響が広帯域に拡散される。
制御部25は、インバータ11の出力電圧すなわち交流電圧Vm(θe)の極性を反転させるには、誘起電圧em(θe)のゼロクロスを検出する必要がある。誘起電圧em(θe)がゼロクロスに近づくと、誘起電圧em(θe)の値が小さくなるため電流Im(θe)の増幅率が大きくなる。制御部25が電流Im(θe)と閾値との比較を制御周期Tcで行う場合、誘起電圧em(θe)のゼロクロス付近では、制御周期Tcの間で電流Im(θe)が第2の閾値を越えて第3の閾値に到達する。このとき、制御部25は、誘起電圧em(θe)はゼロクロス付近であると判定し、インバータ11が出力する交流電圧Vm(θe)の極性を反転させる。
電流Im(θe)と閾値との比較の応答性を高めるためには、制御周期Tcが高速である必要がある。制御周期Tcが高速の場合、制御部25は、電流Im(θe)が第3の閾値に到達する前に第2の閾値の段階でインバータ11の出力を停止してしまい、誘起電圧em(θe)のゼロクロスを検知できなくなる。そのため、制御部25は、誘起電圧em(θe)のゼロクロスが近づいた際に電流Im(θe)と閾値との比較を行う周期を制御周期Tcから間引きすることで、電流Im(θe)が第3の閾値に到達する時間を確保することができる。なお、制御対象の単相モータ12の定数によって適切な間引きの周期が異なるため、予め試験によって適切な周期を調査する必要がある。適切な周期の調査については、例えば、モータ駆動装置1および単相モータ12を備える機器の設計者などが行う。
制御部25は、電流Im(θe)の電流値が負の値の場合、電流値の絶対値を算出する。これにより、制御部25は、電流Im(θe)の電流値が正の値の場合と同様、第1の閾値、第2の閾値、および第3の閾値との比較を行うことができる。このように、制御部25は、制御周期Tc毎に、電流Im(θe)の電流値の絶対値が第1の閾値未満の場合はインバータ11から単相モータ12に交流電圧Vm(θe)を出力させる。また、制御部25は、制御周期Tc毎に、電流Im(θe)の電流値の絶対値が第2の閾値以上かつ第3の閾値未満の場合はインバータ11から単相モータ12への交流電圧Vm(θe)の出力を停止させる。また、制御部25は、制御周期Tc毎に、電流Im(θe)の電流値の絶対値が第3の閾値以上の場合はインバータ11が単相モータ12に出力する交流電圧Vm(θe)の極性を反転させる。
なお、極性を反転した直後は誘起電圧em(θe)がゼロクロス付近であり、依然として電流Im(θe)の増幅率が高い。そのため、制御部25では、極性の反転によって単相モータ12に交流電圧Vm(θe)を出力すると、直ぐに第3の閾値に到達したと判定してしまう可能性がある。そこで、制御部25は、極性反転直後は第3の閾値に到達しても極性を反転させず、第2の閾値を越えたときと同様にインバータ11の出力を回生モードまたは還流モードに移行させることとする。すなわち、制御部25は、交流電圧Vm(θe)の極性を反転してから規定された期間は第3の閾値を用いた判定を行わない。
電流Im(θe)の時間変換を示す式(5)の右辺について、誘起電圧em(θe)=ωe×φf×sinθeであり、交流電圧Vm(θe)であることから、電流Im(θe)の変化率は電気角速度ωeおよび単相モータ12に供給される交流電圧Vm(θe)によって変動することが確認できる。従って、電流Im(θe)に対する第1の閾値、第2の閾値、および第3の閾値も同様に、電気角速度ωeおよびモータ巻線に供給される交流電圧Vm(θe)によって変動させる必要がある。
図5は、実施の形態1に係るモータ駆動装置1のインバータ11が供給する直流電圧Vdcと、制御部25のプロセッサ33内部でのカウントアップの様子を示す図である。プロセッサ33は、等間隔Tsでカウントアップを行う。プロセッサ33は、インバータ11が出力する交流電圧Vm(θe)が反転すなわち転流するタイミングでカウントアップをリセットする。プロセッサ33は、リセットした際のカウント値をNとして保持し、Tsとの積を算出することで転流までの時間を獲得する。プロセッサ33は、例えば、4極回転子のロータ12aを有する単相モータ12の場合、転流を4回行うことで単相モータ12が1回転する。そのため、プロセッサ33は、60/(Ts×N×4)を計算することで、1分間の回転速度rpmを取得することができる。
制御部25は、算出した回転速度に応じて、第1の閾値、第2の閾値、および第3の閾値を変更することができる。図6は、実施の形態1に係るモータ駆動装置1における単相モータ12の回転速度による閾値の違いを示す図である。図6に示すように、単相モータ12の回転速度が変化すると、回転速度に起因する誘起電圧em(θe)が変化するため、単相モータ12に流れる電流Im(θe)も変化する。第1の閾値、第2の閾値、および第3の閾値を固定値にしてしまうと、制御部25では、電流Im(θe)の値が第3の閾値に到達しないため誘起電圧em(θe)のゼロクロス付近の検知が困難になる。そこで、あらかじめ各回転速度で誘起電圧em(θe)のゼロクロスが検知できる第1の閾値、第2の閾値、第3の閾値を調査する。制御部25は、図6に示すように、回転速度が大きくなった場合、回転速度が小さいときよりも第1の閾値、第2の閾値、および第3の閾値を小さくし、かつ第1の閾値、第2の閾値、および第3の閾値の間隔を小さくする。
図7は、実施の形態1に係るモータ駆動装置1の制御部25が使用する、単相モータ12の回転速度に応じた第1の閾値、第2の閾値、および第3の閾値の例を示す図である。図7に示すグラフは、単相モータ12の回転速度による第1の閾値、第2の閾値、および第3の閾値の違いを示している。図7において、(a)の範囲は単相モータ12の起動時を意味している。モータによって起動時に必要な電流値は異なる。例えば、コギングトルクが大きくなる構造のモータだと、起動時にコギングトルクから脱出するために大きな電流が必要となるため閾値が高く設定される。図6に示す例は、図7の(a)の範囲を示している。
誘起電圧em(θe)の式(1)から、回転速度が上昇するにつれて電気角速度ωeが大きくなるため、誘起電圧em(θe)が上昇することが分かる。誘起電圧em(θe)が上昇すると式(5)より電流増幅率すなわち変化率が小さくなることは自明である。この結果、図8に示すように、電流Im(θe)が成長せず小さい値のまま誘起電圧em(θe)がゼロクロス付近に近づくと、電流Im(θe)が急成長しスパイクが発生する。図8は、実施の形態1に係るモータ駆動装置1のインバータ11から供給される交流電圧Vm(θe)、単相モータ12の誘起電圧em(θe)、単相モータ12に流れる電流Im(θe)、および電流Im(θe)に対する1つの閾値を示す図である。前述のスパイクは、高調波を多く含む。このように、閾値また力率の低下を招く図7の(b)の範囲では、誘起電圧em(θe)が上昇するにつれて電流Im(θe)が第3の閾値に到達する前の成長途中で極性が反転してしまう。そのため、回転速度の上昇に合わせて第3の閾値を下げる必要がある。
制御部25は、単相モータ12の回転速度がある回転速度に到達すると、第3の閾値と第2の閾値とを一致させる。制御部25は、第3の閾値が第2の閾値を下回ると電流Im(θe)が第3の閾値に到達するたびにインバータ11が出力する交流電圧Vm(θe)の極性を反転させる。制御部25は、図8に示すように、各極性において複数回インバータ11のスイッチング素子51~54をスイッチングさせる必要がなくなる。制御部25では、図7の(c)の範囲、すなわち単相モータ12が高回転のときには、第1の閾値および第2の閾値が不要となる。その結果、モータ駆動装置1は、インバータ11のスイッチング素子51~54によるスイッチング損失を抑制し、高効率でのモータ駆動が可能となる。
このように、制御部25は、単相モータ12の回転速度に応じて、第1の閾値、第2の閾値、および第3の閾値の大きさを変化させる。制御部25は、図7に示すような回転速度に対応する第1の閾値、第2の閾値、および第3の閾値についてのテーブルをあらかじめ実測より算出し保持しておく。テーブルについては、例えば、モータ駆動装置1および単相モータ12を備える機器の設計者などが作成してもよい。または、制御部25は、回転速度に対応する第1の閾値、第2の閾値、および第3の閾値を決める式を導出しておき、一次式の係数を単相モータ12の回転状況に合わせて学習および最適化してもよい。
なお、制御部25は、回転速度だけではなく、インバータ11に供給される電源10からの直流電圧Vdcによって第1の閾値、第2の閾値、および第3の閾値を変更する制御を行ってもよい。例えば、インバータ11に直流電圧Vdcを供給する電源10が電池であった場合、時間経過と共に直流電圧Vdcは小さくなる。直流電圧Vdcが小さくなると、電流Im(θe)の変化量も小さくなる。この場合、第1の閾値、第2の閾値、および第3の閾値を固定値にしてしまうと、電流Im(θe)が第3の閾値に到達しなくなり、制御部25において誘起電圧em(θe)のゼロクロス付近の検出が困難になる。そのため、制御部25は、あらかじめ電池の下限電圧から満充電電圧までの電源電圧値において誘起電圧em(θe)のゼロクロスが検出できる第1の閾値、第2の閾値、および第3の閾値を調査し、テーブルとしてメモリ34に保持する。図9は、実施の形態1に係るモータ駆動装置1の制御部25が使用する、直流電圧Vdcに応じた第1の閾値、第2の閾値、および第3の閾値の例を示す図である。なお、制御部25は、電源10の直流電圧Vdcに合わせてプロセッサ33が演算より適切な第1の閾値、第2の閾値、第3の閾値を算出して各閾値を変化させてもよい。テーブルについては、例えば、モータ駆動装置1および単相モータ12を備える機器の設計者などが作成してもよい。
ある回転速度において、電源10の直流電圧Vdcが一定の電圧を下回ると、第3の閾値と第2の閾値が一致する。電源10の直流電圧Vdcが小さくなることで、インバータ11が出力する交流電圧Vm(θe)と単相モータ12の誘起電圧em(θe)との差が小さくなる。制御部25は、図7に示す回転速度の変化の場合と同様、第3の閾値が第2の閾値を下回ると電流Im(θe)が第3の閾値に到達するたびにインバータ11が出力する交流電圧Vm(θe)の極性を反転させる。制御部25は、図8に示すように、各極性において複数回インバータ11のスイッチング素子51~54をスイッチングさせる必要がなくなる。制御部25では、図9の(d)の範囲、すなわち直流電圧Vdcが小さいときには、第1の閾値および第2の閾値が不要となる。一方、制御部25では、図9の(e)の範囲、すなわち直流電圧Vdcが大きいときには、直流電圧Vdcの上昇に合わせて第3の閾値を上げる必要があり、第3の閾値は第2の閾値以上になるため、第1の閾値および第2の閾値が必要となる。このように、制御部25は、直流電圧Vdcの大きさに応じて、第1の閾値、第2の閾値、および第3の閾値の大きさを変化させる。
単相モータ12の回転速度、またはインバータ11に供給される電源10の直流電圧Vdcに応じて閾値を変更する方法は一例であり、制御部25は、モータの種類、インバータ11の特性に応じてこれらの閾値を変化させてもよい。
制御部25は、前述のように、単相モータ12の動作状態を表す物理量と閾値とに応じてモードを変化させ、交流電圧Vm(θe)を変化させる。ここで、インバータ11からの交流電圧Vm(θe)の出力波形は矩形波の形状であり、各極性において交流電圧Vm(θe)を平均化した波形は、台形波状になる。
図10は、実施の形態1に係るモータ駆動装置1のインバータ11が単相モータ12に出力する交流電圧Vm(θe)を平均化した交流電圧Vmfil(θe)の第1の例を示す図である。制御部25は、電流Im(θe)が第4の閾値以上になると、インバータ11が単相モータ12に交流電圧Vm(θe)を出力する時間幅を段階的に小さくする。すなわち、時間幅T1>時間幅T2>時間幅T3>時間幅T4である。制御部25は、インバータ11から出力される交流電圧Vm(θe)にフィルタ処理を行って鈍らせたフィルタ処理後の交流電圧Vmfil(θe)を時間および電圧で表した形状が台形波となるように制御する。誘起電圧em(θe)がゼロクロスに近づくと、電流Im(θe)の伸びが大きくなる、すなわち電流Im(θe)の変化率di/dtの絶対値が大きくなる。なお、図10および後述する図11において、di/dtは前述のdIm(θe)/dtと同じである。制御部25は、電流Im(θe)の変化率di/dtの絶対値が第5の閾値以上になった場合、すなわち図10に示す時間幅T4の付近で、インバータ11が単相モータ12に出力する交流電圧Vm(θe)の極性を反転させる。
このように、制御部25は、電流Im(θe)の電流値の絶対値が第4の閾値以上になった場合、第1の期間でインバータ11から単相モータ12への交流電圧Vm(θe)を停止する第1の処理、および第2の期間でインバータ11から単相モータ12に交流電圧Vm(θe)を出力する第2の処理を交互に行う。制御部25は、第1の処理および第2の処理を交互に行いつつ、第2の期間の長さを段階的に短くし、第2の期間における電流Im(θe)の変化率di/dtの絶対値が第5の閾値以上になった場合はインバータ11が単相モータ12に出力する交流電圧Vm(θe)の極性を反転させる。制御部25は、3つの閾値で制御する方式とは別に、インバータ11が単相モータ12に交流電圧Vm(θe)を出力する時間幅を段階的に少しずつ小さくする、すなわちPWM波形のDuty比を変えることで、交流電圧Vmfil(θe)を台形波の形状になるように制御することもできる。
また、高速回転時または電源10の直流電圧Vdc低下時も同様、交流電圧Vm(θe)の出力波形は矩形波の形状であり、各極性において交流電圧Vm(θe)を平均化した交流電圧Vmfil(θe)の波形は、台形波状になる。図11は、実施の形態1に係るモータ駆動装置1のインバータ11が単相モータ12に出力する交流電圧Vm(θe)を平均化した交流電圧Vmfil(θe)の第2の例を示す図である。この場合も、制御部25は、電流Im(θe)の変化率di/dtの絶対値が第5の閾値以上になった場合、インバータ11が単相モータ12に出力する交流電圧Vm(θe)の極性を反転させる。
モータ駆動装置1は、交流電圧Vm(θe)が台形波または矩形波の場合、インバータ11のスイッチング素子51~54によるスイッチング回数が減るためスイッチング損失が低減され、高効率で単相モータ12を駆動することが可能となる。
インバータ11では、台形波状に交流電圧Vmfil(θe)を出力する場合、誘起電圧em(θe)のゼロクロス付近でスイッチング素子51~54のスイッチングが発生する。ゼロクロス付近ではIm(θe)の増幅率が高いため電流歪みが発生しやすい。インバータ11は、このゼロクロス近傍でスイッチング素子51~54をスイッチングすることで、電流Im(θe)の極度な増加を押さえ、電流歪みを減少させる。電流歪みは単相モータ12の回転に振動を付加するため、ファンなどの羽物の負荷を回転させるモータ駆動制御において効果を発揮する。このような単相モータ12を掃除機、ドライヤなどの装置に搭載した場合、装置において騒音の低下が可能である。
これらの効果を発揮する交流電圧Vmfil(θe)の台形波の形状は左右対称でもよいし、左右非対称でも同等の効果が得られる。ここで、交流電圧Vmfil(θe)の実際の形状は、図10の下図において点線で示される形状となる。このとき、フィルタ処理で使用されるフィルタの時定数τは、交流電圧Vm(θe)の1/4周期よりも短い時定数とする。時定数τは、交流電圧Vm(θe)の極性を切り替えてから、交流電圧Vmfil(θe)が交流電圧Vm(θe)の63%の電圧になるまでの時間である。交流電圧Vm(θe)の1/4周期の際に、フィルタから出力される交流電圧Vmfil(θe)が飽和する状態が理想である。同様に、交流電圧Vm(θe)の3/4周期の際に、フィルタから出力される交流電圧Vmfil(θe)が飽和する状態が理想である。
そのため、時定数τは、例えば、交流電圧Vm(θe)の1/4周期の1/5倍以下に設計するのが望ましい。すなわち、「5×τ<交流電圧Vm(θe)の1/4周期」の条件を満たすようにする。図10の下図において、フィルタ処理後の交流電圧Vmfil(θe)が飽和する期間は、図10の点Bおよび点Cで示される線分BCの期間となる。点Bから、点Bより手前の時間で交流電圧Vm(θe)の極性が切り替わった点Aに向けて直線を引き、この直線を線分ABとする。また、点Cから、点Cより先の時間で交流電圧Vm(θe)の極性が切り替わる点Dに向けて直線を引き、この線分を線分CDとする。交流電圧Vm(θe)において極性が切り替わる期間は、点A,Dを結ぶ線分ADの期間となる。このように、交流電圧Vmfil(θe)において、台形波の形状は、線分BCを上底とし、線分ADを下底とし、さらに、線分AB,CDを加えた4つの線分で表される形状である。交流電圧Vm(θe)が負の極性の場合、すなわち点D,E,F,Gで表される台形波も同様である。すなわち、制御部25は、実際の交流電圧Vmfil(θe)の形状から得られる4つの線分で形成される形状が台形波となるように制御する。制御部25は、交流電圧Vm(θe)の1/4周期および3/4周期のタイミングにおいて、フィルタ処理後、すなわちフィルタから出力される交流電圧Vmfil(θe)が飽和しているように制御するともいえる。
矩形波の信号をフーリエ展開すると、式(7)のように表される。
基本波sinxが4/π倍されるため、交流電圧Vm(θe)が矩形波状で出力されると単相モータ12の電圧利用率が増加する。同じ出力の場合、電圧の利用率が増加した分、単相モータ12のコイルの巻き込みを増やすことで電流を少なくすることが可能となり、単相モータ12での銅損、インバータ基板での半導体の熱損失などを低下することができる。特に、電源電圧が低い48V以下のバッテリ、電池などにおいて効果が高い。
モータの回路方程式を示す式(4)において、モータ巻線の抵抗成分およびインダクタンス成分が既知であれば、電流検出部21を用いることで、右辺の第一項は容易に求まる。第二項については、式(8)に示すように、電流が第1の閾値から増幅し第2の閾値に到達するまでに要した時間Timeから電流の増幅率を算出することで求める。
これより、式(4)に示す回路方程式において、誘起電圧em(θe)以外の値が全て求まるため、これらの値を用いることで誘起電圧em(θe)の算出が可能である。
前述した方式以外にも、鎖交磁束および回転速度から誘起電圧em(θe)を算出する方法、誘起電圧em(θe)検出用の回路を別途用意する方法など、様々な方法がある。どの方式でも誘起電圧em(θe)の算出または検知が可能であり、特定の方法に制限する必要はない。
単相モータ12の回路方程式で用いるモータ巻線の抵抗、インダクタンスなどのパラメータについては、あらかじめ設計値となるパラメータを保持しておく方法、単相モータ12の起動時にパラメータ同定を用いることで求める方法などがある。
制御部25は、算出した誘起電圧em(θe)のゼロクロスといった規定された閾値に合わせてインバータ11が出力する交流電圧Vm(θe)の極性を反転させることでも、単相モータ12を制御することが可能である。電流検出部21および電圧検出部20で検出された物理量は、単相モータ12においてロータ12aの回転方向における位置を表すものである。制御部25は、物理量に基づく単相モータ12で発生する誘起電圧em(θe)を用いて、単相モータ12においてロータ12aの回転方向における位置を推定することができる。制御部25は、誘起電圧em(θe)すなわち推定されるロータ12aの位置に応じてインバータ11から単相モータ12に出力される交流電圧を制御する。なお、制御部25は、電流検出部21および電圧検出部20で検出された物理量があればインバータ11から単相モータ12に出力される交流電圧を制御できるため、物理量から単相モータ12においてロータ12aの回転方向における位置を実際に推定してもよいし、推定しなくてもよい。
制御部25は、このように、誘起電圧em(θe)を算出して制御する方式、前述した電流値と複数の閾値とを比較して制御する方式、どちらを使用しても構わない。制御部25は、両方同時に使用することで制御の精度を高めること、また、各方式が得意とする回転速度帯または条件に応じて使用する方式を変更することでも制御の精度を高めることができる。すなわち、制御部25は、物理量に基づく単相モータ12で発生する誘起電圧em(θe)を用いて、単相モータ12においてロータ12aの回転方向における位置を推定することができる。制御部25は、電流値と閾値とを用いた制御、および誘起電圧em(θe)を用いた制御のうち少なくとも1つを用いて、インバータ11から単相モータ12に出力する交流電圧を制御する。
本実施の形態におけるモータ駆動装置1を搭載することで、位置センサを用いないモータ駆動装置が実現される。この結果、単相モータ12本体と基板との分離が可能となり、基板を、モータ駆動装置1の熱の影響を受けない位置に配置することが可能となる。また、構造の自由度が増すだけでなく、水周りでの製品の使用が可能となる。例えば、モータ駆動装置1を電気掃除機に搭載することで、ゴミだけでなく水分の吸い込みが可能になる。
また、単相モータ12の製造工程においても、位置センサの取り付け工程がなくなるため、製造コストを抑え、位置センサ取り付けによるバラツキの影響などをモータ制御上で無視することができるようになる。
本実施の形態の制御部25の動作を、フローチャートを用いて説明する。図12は、実施の形態1に係るモータ駆動装置1の制御部25の動作を示す第1のフローチャートである。図12に示すフローチャートは、制御部25の図4に示す動作を示すものである。制御部25は、電流検出部21で検出された物理量である電流Im(θe)の絶対値が第1の閾値以上か否かを判定する(ステップS1)。制御部25は、電流Im(θe)の絶対値が第1の閾値未満の場合(ステップS1:No)、インバータ11から単相モータ12に交流電圧Vm(θe)を出力させる(ステップS2)。制御部25は、電流Im(θe)の絶対値が第1の閾値以上の場合(ステップS1:Yes)、電流Im(θe)が第2の閾値以上か否かを判定する(ステップS3)。制御部25は、電流Im(θe)の絶対値が第2の閾値未満の場合(ステップS3:No)、前回判定時の制御状態を維持する(ステップS4)。制御部25は、電流Im(θe)の絶対値が第2の閾値以上の場合(ステップS3:Yes)、電流Im(θe)が第3の閾値以上か否かを判定する(ステップS5)。制御部25は、電流Im(θe)の絶対値が第3の閾値未満の場合(ステップS5:No)、インバータ11から単相モータ12への交流電圧Vm(θe)の出力を停止させる(ステップS6)。制御部25は、電流Im(θe)の絶対値が第3の閾値以上の場合(ステップS5:Yes)、インバータ11から単相モータ12に出力する交流電圧Vm(θe)の極性を反転させる(ステップS7)。制御部25は、図12に示すフローチャートの動作を制御周期Tcで繰り返し実施する。
図13は、実施の形態1に係るモータ駆動装置1の制御部25の動作を示す第2のフローチャートである。図13に示すフローチャートは、制御部25の図8に示す動作を示すものである。制御部25は、電流Im(θe)の絶対値が第3の閾値未満の場合(ステップS5:No)、インバータ11から単相モータ12に交流電圧Vm(θe)を出力させる(ステップS2)。制御部25は、電流Im(θe)の絶対値が第3の閾値以上の場合(ステップS5:Yes)、インバータ11から単相モータ12に出力する交流電圧Vm(θe)の極性を反転させる(ステップS7)。制御部25は、図13に示すフローチャートの動作を制御周期Tcで繰り返し実施する。
図14は、実施の形態1に係るモータ駆動装置1の制御部25の動作を示す第3のフローチャートである。図14に示すフローチャートは、制御部25の図10に示す動作を示すものである。制御部25は、電流検出部21で検出された物理量である電流Im(θe)の絶対値が第4の閾値以上か否かを判定する(ステップS11)。制御部25は、電流Im(θe)の絶対値が第4の閾値未満の場合(ステップS11:No)、インバータ11から単相モータ12に交流電圧Vm(θe)を出力させる(ステップS12)。制御部25は、電流Im(θe)の絶対値が第4の閾値以上の場合(ステップS11:Yes)、インバータ11から単相モータ12に、PWM制御方式によって段階的に時間幅を小さくして交流電圧Vm(θe)を出力させる(ステップS13)。制御部25は、電流Im(θe)の変化率の絶対値が第5の閾値以上か否かを判定する(ステップS14)。制御部25は、電流Im(θe)の変化率の絶対値が第5の閾値未満の場合(ステップS14:No)、ステップS13の動作を継続する。制御部25は、電流Im(θe)の変化率の絶対値が第5の閾値以上の場合(ステップS14:Yes)、インバータ11から単相モータ12に出力する交流電圧Vm(θe)の極性を反転させる(ステップS15)。制御部25は、図14に示すフローチャートの動作を、インバータ11から単相モータ12に出力する交流電圧Vm(θe)の極性を反転させる毎に実施する。
図15は、実施の形態1に係るモータ駆動装置1の制御部25の動作を示す第4のフローチャートである。図15に示すフローチャートは、制御部25の図11に示す動作を示すものである。制御部25は、電流Im(θe)の変化率の絶対値が第5の閾値未満の場合(ステップS14:No)、インバータ11から単相モータ12に交流電圧Vm(θe)を出力させる(ステップS12)。制御部25は、電流Im(θe)の変化率の絶対値が第5の閾値以上の場合(ステップS14:Yes)、インバータ11から単相モータ12に出力する交流電圧Vm(θe)の極性を反転させる(ステップS15)。制御部25は、図15に示すフローチャートの動作を、インバータ11から単相モータ12に出力する交流電圧Vm(θe)の極性を反転させる毎に実施する。
本実施の形態で示した演算、インバータ11が出力する交流電圧Vm(θe)の制御、図5に示す回転速度算出については、図1に示すプロセッサ33によって実現可能である。プロセッサ33は、各種演算を行う処理部である。メモリ34は、プロセッサ33によって読みとられるプログラム、回転速度に対する第1の閾値、第2の閾値、第3の閾値などが保存される。メモリ34は、プロセッサ33が演算処理を行う際の作業領域として使用される。なお、プロセッサ33は、CPU(Central Processing Unit)、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、またはDSP(Digital Signal Processor)などと称されるものであってもよい。また、メモリ34は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)といった不揮発性又は揮発性の半導体メモリが一般的である。
以上説明したように、本実施の形態によれば、モータ駆動装置1において制御部25は、単相モータ12の動作状態を表す物理量に応じてインバータ11から単相モータ12に出力される交流電圧Vm(θe)を制御することとした。これにより、制御部25は、位置センサを用いることなく、単相モータ12を効率良く駆動することができる。また、従来の位置センサ付きの単相モータに対して製造コストを抑え、構造の自由度が増すことで単相モータの用途を拡大することができる。
実施の形態2.
実施の形態2では、実施の形態1で説明したモータ駆動装置1を具体的に電気機器に適用する場合について説明する。
図16は、実施の形態2に係る、モータ駆動装置1を備えた電気掃除機61の構成例を示す図である。電気掃除機61は、直流電源であるバッテリ67と、モータ駆動装置1を備えて図示しない単相モータ12により駆動される電動送風機64と、集塵室65と、センサ68と、吸込口体63と、延長管62と、操作部66とを備える。バッテリ67は図1に示す電源10に相当する。電気掃除機61を使用するユーザは、操作部66を持ち、電気掃除機61を操作する。電気掃除機61のモータ駆動装置1は、バッテリ67を電源として電動送風機64を駆動する。電動送風機64が駆動することにより、吸込口体63からごみの吸込みが行われ、吸込まれたごみは、延長管62を介して集塵室65へ集められる。
図17は、実施の形態2に係る、モータ駆動装置1を備えたハンドドライヤ90の構成例を示す図である。ハンドドライヤ90は、ケーシング91と、手検知センサ92と、水受け部93と、ドレン容器94と、モータ駆動装置1を備えて図示しない単相モータ12により駆動される電動送風機95と、カバー96と、センサ97と、吸気口98と、を備える。ここで、センサ97は、ジャイロセンサおよび人感センサの何れかである。ハンドドライヤ90では、水受け部93の上部にある手挿入部99に手が挿入されることにより、電動送風機95による送風で水が吹き飛ばされ、吹き飛ばされた水は、水受け部93で集められた後、ドレン容器94に溜められる。
このように、モータ駆動装置1は、図16に示す電気掃除機16、図17に示すハンドドライヤ90などに適用することができるが、一例であり、モータが搭載された電気機器一般に適用されることを想定している。モータが搭載された電気機器は、例えば、焼却炉、粉砕機、乾燥機、集塵機、印刷機械、クリーニング機械、製菓機械、製茶機械、木工機械、プラスチック押出機、ダンボール機械、包装機械、熱風発生機、物体輸送、吸塵用、一般送排風、またはOA(Office Automation)機器のような電動送風機を備えた機器である。
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。