図1~図60を通して、互いに対応する部分については、同一の参照符号を付し、重複説明を省略することがある。図1~図60のうち、図1~図52は、ジャワリブリッジを用いた弦楽器(第1のタイプと称する)の例を示し、図53~図55はジャワリブリッジと発振回路を用いた弦楽器(第2のタイプ)の例を示す。
1.第1のタイプの弦楽器
第1のタイプについて、まず、図1~図12を参照するに、図示の弦楽器は、ボディ部1と、複数の弦3と、弦励振部5と、ブリッジ7とを含む。ボディ部1は、内部空間100と、内部空間100を画定する表面板101、裏面板102、上面板107、底面板108及び2枚の側面板103、104を有する。もっとも、内部空間100及びそれを画定する裏面板102、上面板107、底面板108及び側面板103、104の全てを備えることは、必ずしも必須ではない。上面板107、底面板108及び2枚の側面板103、104は、補強材1020~1026によって補強されている。
内部空間100を画定する表面板101~104、107、108は、木製でもよいし、その一部又は全体が金属、非金属又はそれらの材料を組み合わせた複合材料で構成されていてもよい。非金属材料には、カーボン・グラファイト、炭素繊維、グラスファイバ等の合成繊維もしくは合成樹脂またはそれらの複合材料等が含まれる。例えば、繊維強化プラスチック等で構成されていてもよい。また、これらの材料のラミネート板等を用いることもできる。
ボディ部1は、この実施例では、六面体状であるが、それに限定する趣旨ではない。内部空間100を持たない平板状であってもよいし、外形形状が曲面等を含む他の形状であってもよい。更に、ボディ部1は、ある部分では、音響効果を高めるのに適した薄い厚みとし、他の部分では、厚みを増大させ、機械的強度を増加させる等の処理が施される。薄い部分を繊維強化プラスチック等の軽量材料で構成し、他の部分を金属材料等の高強度材料で構成してもよい。もっとも、弦楽器自体から生じる音に依拠せずに、弦3に生じた振動を電気・電子回路によって増幅する等して、外部に出す場合には、ボディ部1を、薄い部分を設けずに、全体として厚くして、機械的強度を優先させる構造としてもよい。この構造は、ボディ部1を、外部からの音圧の影響を受けにくい構造とする場合も有効である。
表面板101~104、107、108のうち、表面板101には、貫通孔111が開けられている。表面板101の端には、チューニング・ペグ9が配置されている。チューニング・ペグ9は、表面板101を貫通して取り付けられ、表面板101の外側にペグ901~913のつまみ部が配置されている。実施例では、表面板101に貫通孔111が設けられているから、貫通孔111を通して、指先で各弦を鳴らしながらチューニング用のペグ901~913を使って調弦することができる。ペグ901~913は、弦3の本数に合わせて備えられる。したがって、弦3の本数が変われば、ペグ901~913の数も変わる。この実施例では、13本の弦単線301~313が備えられているから、13本のペグ901~913が備えられている。
表面板101と向き合う裏面板102の側の外面には、三角形の3頂点に立つ3つの脚部151~153が立設されている。この3つの脚部151~153によってボディ部1を支えることにより、設置面に歪みがあったとしても、必ず全ての脚部151~153が設置面と接触して支える。この実施の形態では、更に、底面板の外側にも、底面板から迫り出して本体を支える脚部156~158が立設されている。この底面側の3つの脚部156~158によって、ボディ部1を縦に起こした状態で支えることができる。
2つの側面板103、104のうち、側面板104には、電源スイッチ兼入力ボリューム用のポット121、オリジナル・ボリューム用のポット122、出力ボリューム用のポット123、入力ジャック131、出力ジャック132、電源ジャック133が配置されている。電源ジャック133から電源を供給する構造の他、電池を内蔵する構造や、電源ジャック133から充電可能なバッテリを内蔵する構造等を採用することもできる。
弦3、弦励振部5及びブリッジ7は、ボディ部1の内部空間100に配置されている。まず、弦3は、13本の弦単線301~313を、間隔をおいて平行配置したものである。したがって、12音平均律の各音に調律することができる他、音階の中の特徴的なピッチについて、複数の弦が同じ音程を受け持つことにより、特定の音階に調律することもできる。また、微分音程からなる任意の音律に調律することもできる。もっとも、弦単線301~313の本数は増減できる。
実施例に示す弦3は、磁性金属線であるが、実施の形態によっては、非磁性線を用いることもできる。弦3の弦単線301~313は、一端が、上面板107の側において、表面板101の内面に設けたテールピース142によって固定され、表面板101の内面に添って、上面板107と対向する底面板108の方向に導かれる。テールピース142は、表面板101の内面に形成された取付部141に、ネジ143等によって固定されている(後述の図38参照)。弦3の各弦単線301~313は、更に、表面板101の内面に立設されたピン161~173に架けられ、他端が、表面板101の表面側から内面側に貫通させたペグ901~913の巻取軸921~933に巻き取られる。実施例では、弦3の各弦単線301~313に対するピン161~173の位置を互いに異ならせ、それによって弦長を異ならせることにより、広い音域をカバーしている。音域は、弦長の他、張力及び線密度等によっても調整することができる。
ボディ部1の内部空間100には、更に、ブリッジ7及び弦励振部5が設けられている。ブリッジ7の詳細は、図5~図32に図示されている。これらの図に示すように、ジャワリブリッジ7は、弦3との接触する面71が、僅かに湾曲する凸曲面である。弦3は、このジャワリブリッジ7に支えられることにより、高次倍音成分の付加された音を響かせる。
実施例において、弦単線301~313は、凸曲面である面71との接触点を第1支持点P1とし、ピン161~173との接触点を第2支持点P21~P33とする弦長を有する(図4~図9参照)。第1支持点P1は、面71に対する弦単線301~313の傾斜角度によって定まるもので、弦単線301~313において、必ずしも一致するものではないが、説明の簡単化のため、一致するものとして説明する。なお、弦単線301~313の傾斜角度は、第2支持点P21~P33における弦支持高さを制御することによって、制御することができる。
第2支持点P21~P33は互いに異なる。ジャワリブリッジ7の面71は、凸曲面となっているので、面71のうち、第1支持点P1よりも第2支持点P21~P33の側にある面が、弦3に対して微小間隔を隔てて向き合い、弦3の振動時には、弦3の接触する面となる。
なお、面71のうち、第1支持点P1よりも第2支持点P21~P33の側にあって、弦3の振動時に、弦3の接触する箇所以外は、必ずしも凸曲面である必要は無い。図示は省略されているが、例えば、面71のうち、隣り合う弦単線の間の位置に、弦3と平行に溝や山が設けられていても良い。
また、面71のうち、第1支持点P1よりも第2支持点P21~P33の側にない面については、必ずしも凸曲面である必要は無い。図示は省略されているが、例えば、面71のうち、第1支持点P1よりもテールピース142の側にある面に、弦3を嵌めることができる溝等を設けても良い。
図1~図5に示した実施の形態では、ブリッジ7は、弦支持部70と、取付部75とを含んでいる。弦支持部70には、図6に示した弦支持部70が用いられている。ブリッジ7は、個別に形成された弦支持部70と取付部75を組み合わせて構成されていても良いし、弦支持部70と取付部75を一体形成して構成されていても良い。また、後述の図35~図55に示す実施の形態のように、ブリッジ7は、取付部75を設けずに、弦支持部70によって構成されていてもよい。また、図示は省略されているが、弦支持部70は、各弦単線301~313のそれぞれ毎に設けても良い。
弦3のうち、最も弦長の長い弦単線301の弦長をL1とし、n番目に長い弦長を持つ弦単線の弦長をLnとする。図1~図5に示した実施の形態において、n番目に長い弦長を持つ弦単線の弦長Lnは、下記の式(1)で表される。
なお、式(1)は、12音平均律の比率に基づいた弦長にした場合の弦長であるが、その他の比率に基づいた弦長にしても良い。例えば、24音平均律など、12音以外の数に分割した平均律の比率に基づいた弦長にしても良い。また、純正律の比率や、種々の微分音を使用した音律に基づいた比率の弦長にしても良い。
発明者による検討の結果、弦長の異なる複数の弦3を有する弦楽器において、面71の凸曲面は、弦3の振動時に各弦と接触する各箇所において、より短い弦長を有する弦と接触する箇所の方が、より長い弦長を有する弦と接触する箇所よりも、小さい曲率半径を有する形状が適していることがわかった。これは、以下の理由によると考えられる。
図33及び図34を参照しながら説明すると、弦長の異なる複数の弦3において、各弦の基本振動の最大振幅が同じとき、第1支持点P1付近での弦の振幅は、弦長が短いほど大きくなる。なお、実際の弦振動には、各弦の2倍振動以上の、複数の次数の倍音が合成されるが、図33及び図34では、説明の簡単化のため、2倍振動以上の倍音を省略している。
例えば、弦単線301の基本振動の腹の位置A1での振幅A101と、弦単線313の基本振動の腹の位置A2での振幅A213とが同じ振幅である場合、第1支持点P1付近の位置A3での弦単線313の振幅A313は、位置A3での弦単線301の振幅A301よりも大きくなる。(振幅A101)=(振幅A213)のとき、(振幅A313)>(振幅A301)となる。
第1支持点P1付近での弦3の振幅に対して、面71の曲率半径が大きすぎると、弦3と面71とが接触しすぎてしまう。このため、弦3の振動が妨げられてしまい、音が小さくなってしまったり、音がすぐに鳴り止んでしまったりする。また、高次倍音の振動も妨げられてしまい、響きにくくなってしまう。したがって、第1支持点P1付近での弦3の振幅が大きいほど、面71の曲率半径を小さくする必要がある。したがって、面71の凸曲面の形状は、凸曲面と接触する弦3の弦長が短いほど、小さな曲率半径を有する形状が適している。
反対に、第1支持点P1付近での弦3の振幅に対して、面71の曲率半径が小さすぎると、弦の接触が起こりにくくなる。このため、弦3の振幅が大きな時にしか高次倍音が付加されなくなってしまったり、弦3と面71との接触が起こらずに、高次倍音が付加されなくなってしまったりする。したがって、第1支持点P1付近での弦3の振幅が小さいほど、曲率半径を大きくする必要がある。したがって、面71の凸曲面の形状は、凸曲面と接触する弦3の弦長が長いほど、大きな曲率半径を有する形状が適している。
図6及び、これに関連する図7~図12を参照すると、面71は、各弦単線301~313の振動時に、各弦単線301~313と接触する、各面7101~7113を有している。面71の、各面7101~7113の凸曲面は、曲率半径R1~曲率半径R13までを有する形状である。面71の、各面7101~7113は、より短い弦長を有する弦と接触する面の方が、より長い弦長を有する弦と接触する面よりも、小さい曲率半径を有する形状である。
図6及び、これに関連する図7~図12に示した実施の形態では、面71の凸曲面は、弦の振動時に各弦単線301~313と接触する各箇所において、より短い弦長を有する弦と接触する箇所の方が、より長い弦長を有する弦と接触する箇所よりも、小さい曲率半径を有する形状である。したがって、面71は、弦長の異なる複数の弦3との接触を、均一、かつ、十分に得ることができる。また、高次倍音を付加した響きを、弦長の異なる複数の弦3において、均一、かつ、十分に得ることができる。
面71の形状において、n番目に長い弦長を持つ弦の振動時に、この弦と接触する箇所の曲率半径をRnとする。例えば、この曲率半径Rnは、下記の式(2)によって算出してもよい。
Rn=y・Ln+z (2)
上記の式(2)において、yは倍率、zは補正値である。z=0のとき、倍率yは、0.15~1.6であることが望ましい。
曲率半径Rnを式(2)によって算出した場合も、面71の凸曲面は、弦3の振動時に各弦と接触する各箇所において、より短い弦長を有する弦と接触する箇所の方が、より長い弦長を有する弦と接触する箇所よりも、小さい曲率半径を有する形状である。したがって、面71は、弦長の異なる複数の弦3との接触を、均一、かつ、十分に得ることができる。また、高次倍音を付加した響きを、弦長の異なる複数の弦3において、均一、かつ、十分に得ることができる。
図11に示したように、弦支持部70において、第1支持点P1の位置での各面の厚さは、各弦の第1支持点P1の位置において同じ厚さT1になっている。このため、第1支持点P1の位置において、各弦を同じ弦高とすることができる。これにより、弦励振部5と弦3との間隔を、各弦で揃えることや、弦励振部5と弦3を、より近づけることができる。弦励振部5と各弦の間隔を揃えることや、近づけることができると、弦励振部5のエネルギーを、よりばらつき無く弦3に伝えることや、より効率良く弦3に伝えることができる。
面71の、P2方向の端の厚さのうち、各弦単線301~313と向かいあう場所は、各厚さT201~T213を有している。
図13は、本発明に係る弦楽器用ブリッジを構成する弦支持部の別の実施例を示す図である。図13及び、これに関連する図11及び図14~図18を参照すると、面71の凸曲面は、弦の振動時に各弦単線301~313と接触する各箇所において、曲率半径R1~曲率半径R13までを有する形状である。面71の凸曲面は、弦の振動時に各弦単線301~313と接触する各箇所において、より短い弦長を有する弦と接触する箇所の方が、より長い弦長を有する弦と接触する箇所よりも、小さい曲率半径を有する形状である。面71は、図6の弦支持部70とは異なり、弦の振動時に各弦と接触する部分同士が、なめらかに連なる形状をもつ。
弦3の数は、2本以上であれば、他の本数でもよい。例えば、弦3の数を12本とし、図19及び、これに関連する図14、図15、図20~図23に示す実施の形態の弦支持部70としてもよい。
弦3の並び方は、他の並び方でもよい。例えば、図19の実施例とは逆の順番となる弦3の並び方として実施してもよい。この実施例に用いられる弦支持部70は、図24及び、これに関連する図14、図15、図20、図25~図27に示されている。
更に、図28及び、これに関連する図14、図29、図30~図32に示す弦支持部70は、弦3の数を4本とした場合の実施例である。
図6~32に示した実施の形態を通して、面71の凸曲面は、弦3の振動時に各弦と接触する各箇所において、より短い弦長を有する弦と接触する箇所の方が、より長い弦長を有する弦と接触する箇所よりも、小さい曲率半径を有する形状である。したがって、面71は、弦長の異なる複数の弦3との接触を、均一、かつ、十分に得ることができる。また、高次倍音を付加した響きを、弦長の異なる複数の弦3において、均一、かつ、十分に得ることができる。
ブリッジ7は、表面板101の内面に設けられたブレーシング73の上に立設された複数の支柱72によって支持されている。表面板101のうち、ブリッジ7の配置される部分は、音響効果を高める観点から、薄い方がよい。ブレーシング73は、薄型化による機械的強度低下を補う手段となる。一方、ピン161~173の立設される領域は、ピン161~173に対する取付強度増大のために、厚くする。実施例では、表面板101の長手方向の略中間部に、厚み変化部が設定されている。既に述べたことであるが、弦3に生じた振動を電気・電子回路によって増幅する等して、外部に出す場合、或いは、ボディ部1を、外部からの音圧の影響を受けにくい構造とする場合には、ボディ部1を、薄い部分を設けずに、全体として厚くしてもよい。
弦励振部5は、外部から供給される電気信号によって駆動され、電気信号に応じて弦3を励振するものであって、励振器51を有する。励振器51は、図4に図示するように、ボディ部1の表面板101の内面に取り付けられている。実施例に示す励振器51は、電磁コイルを含むマグネティック・ドライバ(電磁ドライバ)であり、磁性金属線でなる弦3に、直接に磁力線を作用させる位置に配置され、入力信号に応じて発生した磁力線の作用により、弦3を励振する。より具体的には、ジャワリブリッジ7からピン161~173に至る弦3の中間位置において、表面板101の内面に支持部52を設け、この支持部52の上に、電磁コイルでなる励振器51を支持する取付板53を、例えば、ネジ留め等の手段によって固定した構造となっている。励振器51を構成する電磁コイルは、コアの周りにコイルを巻いた周知の構造であって、コアの端面から磁力線を出す。また、励振器51は、励振する場所の弦長に対する比率を一致させる目的で、弦3の方向に対して、斜めに配置することもある。
弦励振部5の励振器51は、振動した弦3に接触しない程度に近づけた状態で配置されている。これは、できるだけ効率よく、弦3に磁力線を作用させるためである。弦3以外の磁性体に磁力線を放射すると、オリジナル音が響いてしまう。磁力線を、弦3に効率よく直接的に放射することにより、入力されたオリジナル音を、弦励振部5から発生させること無く、弦3を励振することができる。また、消費電力も押さえられる。
ボディ部1の表面板101の内面には、圧電素子を用いたピエゾ・ピックアプ17が設置されている。ピエゾ・ピックアプ17は、ボディ部1の表面板101の振動を拾うことができる。ピエゾ・ピックアプ17は、この実施の形態では、ジャワリブリッジ7の近辺の表面板101に配置してあるが、ボディ部1の表面板101の振動を拾うことができる位置にあればよいので、図示の位置に限定されない。例えば、ブリッジ7に設置したり、或いはブリッジ7の内部に内蔵させたりすることもできる。
上述したように、図1~図5に図示された弦楽器は、ボディ部1と、複数の弦3と、ブリッジ7とを含んでおり、弦3はボディ部1によって支持され、弦3を第1支持点P1で支持するブリッジ7も、ボディ部1によって支持されているから、第1支持点P1と第2支持点P21~P33とによって規定される弦3の弦長、張力及び線密度等に応じた振動周波数の音が発生する。
本発明に係る弦楽器は、更に、弦励振部5を含んでおり、弦励振部5の励振器51は、電気信号によって駆動され、電気信号に応じて、弦3を励振するから、声や、演奏しやすい任意の楽器などの様々な音を、音声電気信号として、弦励振部5に供給することにより、演奏技術をもたない者でも、本発明に係る弦楽器から生じた音響を楽しむことができる。
ブリッジ7は、第1支持点P1と、第1支持点P1よりも第2支持点P21~P33の側にあって、弦3の振動時に弦3の接触する面71とを有しているから、弦3が、弦励振部5の励振器51からの励振信号に共振して振動したとき、弦3がブリッジ7の面71に複雑に接触することによって、弦振動に高次倍音成分の付加された共鳴音を響かせる。したがって、演奏技術をもたない者でも、インド古典楽器のシタールと同様の、高次倍音成分の付加された共鳴音を楽しむことができる。また、弦3は弦励振部5によって励振されるため、高次倍音成分の付加された共鳴音を、簡単、かつ、十分に発生させることができる。
更に、面71の凸曲面は、弦の振動時に各弦単線301~313と接触する各箇所において、より短い弦長を有する弦と接触する箇所の方が、より長い弦長を有する弦と接触する箇所よりも、小さい曲率半径を有する形状である。したがって、面71は、弦長の異なる複数の弦3との接触を、均一、かつ、十分に得ることができる。また、高次倍音を付加した響きを、弦長の異なる複数の弦3において、均一、かつ、十分に得ることができる。
しかも、図1~図4に示した実施の形態の場合、弦3、弦励振部5及びブリッジ7は、ボディ部1の内部空間100に配置されるから、弦3の端の尖った部分に触れてけがをする危険がなくなるほか、弦3が切れたときに、はじけた弦3でけがをする危険も無くなる。また、ボディ部1の手入れが容易になるという利点も得られる。なお、図5、図6及び図13において、矢印P2は、第2支持点P21~P33のある方向を示している。
次に、図35~図38に示す実施の形態では、ブリッジ7は、弦支持部70によって構成されている。弦支持部70には、図24に示した弦支持部70が用いられている。なお、ブリッジ7は、図5に示したように、取付部75を含む構成としても良い。
図35~図38を参照するに、ボディ部1は、内部空間100を画定する表面板101、裏面板102及び4枚の側面板103~106を有する。
この実施例では、12本の弦単線301~312が備えられているから、12本のペグ901~912が備えられている。
4つの側面板103~106のうち、側面板105には、電源スイッチ兼入力ボリューム用のポット121、オリジナル・ボリューム用のポット122、出力ボリューム用のポット123、入力ジャック131、出力ジャック132、電源ジャック133が配置されている。
弦3の弦単線301~312は、一端が、側面板106の側において、表面板101の内面に設けたテールピース142によって固定され、表面板101の内面に添って、側面板106と対向する側面板105の方向に導かれる。テールピース142は、表面板101の内面に形成された取付部141に、ネジ143等によって固定されている(図38参照)。弦3の各弦単線301~312は、更に、表面板101の内面に立設されたピン161~172に架けられ、他端が、表面板101の表面側から内面側に貫通させたペグ901~912の巻取軸921~932に巻き取られる。
実施例において、弦単線301~312は、凸曲面である面71との接触点を第1支持点P1とし、ピン161~172との接触点を第2支持点P21~P32とする弦長を有する(図37~図38参照)。
ブリッジ7は、表面板101の内面に設けられたブレーシング73の上に立設された複数の支柱72によって支持されている。
ボディ部1の側面板104には、ボディ部1の外側に向けて、内蔵マイク18が設置されている。内蔵マイク18(図35、図36参照)には、好ましくは、小型の単一指向性マイクが用いられる。
上述したように、図35~図38に図示された弦楽器は、ボディ部1と、複数の弦3と、ブリッジ7とを含んでおり、弦3はボディ部1によって支持され、弦3を第1支持点P1で支持するブリッジ7も、ボディ部1によって支持されているから、第1支持点P1と第2支持点P21~P32とによって規定される弦3の弦長、張力及び線密度等に応じた振動周波数の音が発生する。
ブリッジ7は、第1支持点P1と、第1支持点P1よりも第2支持点P21~P32の側にあって、弦3の振動時に弦3の接触する面71とを有しているから、弦3が、弦励振部5の励振器51からの励振信号に共振して振動したとき、弦3がブリッジ7の面71に複雑に接触することによって、弦振動に高次倍音成分の付加された共鳴音を響かせる。したがって、演奏技術をもたない者でも、インド古典楽器のシタールと同様の、高次倍音成分の付加された共鳴音を楽しむことができる。また、弦3は弦励振部5によって励振されるため、高次倍音成分の付加された共鳴音を、簡単、かつ、十分に発生させることができる。
更に、面71の凸曲面は、弦の振動時に各弦単線301~312と接触する各箇所において、より短い弦長を有する弦と接触する箇所の方が、より長い弦長を有する弦と接触する箇所よりも、小さい曲率半径を有する形状である。したがって、面71は、弦長の異なる複数の弦3との接触を、均一、かつ、十分に得ることができる。また、高次倍音を付加した響きを、弦長の異なる複数の弦3において、均一、かつ、十分に得ることができる。なお、図24において、矢印P2は、第2支持点P21~P32のある方向を示している。
次に、図39~図41を参照すると、弦3及びブリッジ7は、ボディ部1の表面板101の表面(外面)に配置されている。弦励振部5は、ボディ部1の内部空間100に配置されている。ブリッジ7は、弦支持部70によって構成されている。弦支持部70には、図19に示した弦支持部70が用いられている。弦3及びブリッジ7が、ボディ部1の外面に配置されていて、弦励振部5を構成する励振器51の電磁コイルがボディ部1の内部空間100に配置されている。したがって、励振器51の電磁コイルからの磁力線は、表面板101を介して、弦3に作用することになる。弦励振部5は、図40及び図41に示すように、表面板101の内面に連続する支持部52を設け、この支持部52の上に、励振器51を支持する取付板53を、例えば、ネジ留め等の手段によって固定した構造となっている。
図39~図41に図示した実施の形態の場合も、ブリッジ7は、弦3の接触する面71が凸曲面のジャワリブリッジ7であるから、シタールと同様の、高次倍音成分の付加された共鳴音を楽しむことができる。更に、面71の凸曲面は、弦の振動時に各弦単線301~312と接触する各箇所において、より短い弦長を有する弦と接触する箇所の方が、より長い弦長を有する弦と接触する箇所よりも、小さい曲率半径を有する形状である。したがって、面71は、弦長の異なる複数の弦3との接触を、均一、かつ、十分に得ることができる。また、高次倍音を付加した響きを、弦長の異なる複数の弦3において、均一、かつ、十分に得ることができる。なお、図19において、矢印P2は、第2支持点P21~P32のある方向を示している。
次に、図42及び図43の実施の形態でも、弦励振部5は、電磁コイルでなる励振器51を含んでおり、弦3に対する作用端部となるコア端部511が、弦3及びブリッジ7のある表面板101の表面に露出している。ブリッジ7は、弦支持部70によって構成されている。弦支持部70には、図19に示した弦支持部70が用いられている。励振器51を構成する電磁コイルの大部分は、ボディ部1の内部空間100にあって、そのコア端部511だけが、表面板101に設けられた貫通孔を貫通して、表面に導かれる。したがって、励振器51を構成する電磁コイルのコア端部511から生じる磁力線が、表面板101を間に介することなく、弦3に直接的に作用し、これを励振することになる。
次に、図44に図示された弦楽器について説明する。図44に示した実施の形態の特徴は、弦励振部5の励振器55が、圧電振動子で構成されていることである。励振器55を構成する圧電振動子は、円板状の圧電基板551の周辺を、錘となるリング552によって縁取った構造を持ち、圧電基板551の中心部に連結した振動棒から、圧電振動を取り出すようになっている。もっとも、励振器55を構成する圧電振動子は、図示のものに限定されない。
図44に示した実施の形態によれば、圧電振動子で構成された励振器55を電気信号によって駆動すると、励振器55の圧電振動子に生じた電歪振動が振動棒からブリッジ7に伝達される。そして、ブリッジ7の振動を介して、弦3が励振される。ブリッジ7は、弦支持部70によって構成されている。弦支持部70には、図24に示した弦支持部70が用いられている。図示は省略するが、励振器55を構成する圧電振動によって、ボディ部1の表面板101を励振し、ボディ部1の振動を介して、弦3を間接的に励振してもよい。図44において、矢印P2は、第2支持点P21~P32のある方向を示している。
図44に示した励振器55において、圧電振動子の代わりに、磁歪振動子、超磁歪振動子を用いてもよい。
図45及び図46は、励振器60の具体的な構造を示す図である。これらは、何れもボイスコイル型励振器である。まず、図45に示す励振器60は、キャップ状の第1ヨーク601の筒状端面にリング状第2ヨーク603を配置すると共に、第1ヨーク601の中心部に配置した永久磁石602の先端面に第3ヨーク606を配置し、第3ヨーク606と第2ヨーク603との間に生じる隙間に、コイル604を配置した構造になっている。第2ヨーク603の下側には、弾性材でなるダンパ605が設けられており、ダンパ605の側を、取付板607に取り付けてある。
図46に示すボイスコイル型励振器60は、リング状のマグネット602を、第1ヨーク601及びリング状の第2ヨーク603で挟み込んである。第1ヨーク601は、中心ヨーク部をリング状マグネット602及びリング状第2ヨーク603の中心孔内に位置させてあり、リング状第2ヨーク603の内面と第1ヨーク601との間に発生するリング状の隙間に、コイル604を配置した構造となっている。第2ヨーク603と支持体との間には、ダンパ605が配置されている。もっとも、ボイスコイル型励振器60は、図45、図46に図示された構造のものに限らず、種々のタイプのものを用いることができる。
図47は、ボイスコイル型励振器60によって構成される弦励振部5により、ボディ部1の、例えば表面板101を励振し、ボディ部1の振動によって、弦を間接的に励振する例を示している。
次に、図48~図50の実施の形態では、ボディ部1の内部空間100にスピーカ600を、弦3と向き合うように配置し、スピーカ600の音圧によって、ボディ部1の内部空間100に張設された弦3を励振するようになっている。表面板101には、スピーカ600と向き合う位置に貫通孔111が設けられている。スピーカ600は、表面板101の内面に設けた支持台57の上に取り付けられている。ブリッジ7は、弦支持部70によって構成されている。弦支持部70には、図24に示した弦支持部70が用いられている。
次に、図51及び図52に示す実施の形態では、ブリッジ7は、第1支持点P1とともに、第1支持点P1よりも第2支持点P21~P32の側にあって、弦3の振動時に、弦3の接触する面71を有している。ボディ部1の内部空間100にスピーカ600を、弦3と向き合うように配置し、スピーカ600の音圧によって、ボディ部1の表面板101の外面に張設された弦3を励振するようになっている。表面板101には、スピーカ600と向き合う位置に貫通孔111が設けられている。スピーカ600は、表面板101の内面の一部を構成する支持台57の上に取り付けられている(図52参照)。ブリッジ7は、弦支持部70によって構成されている。弦支持部70には、図19に示した弦支持部70が用いられている。
図35~図52の実施の形態の場合も、ブリッジ7は、弦3の接触する面71が凸曲面のジャワリブリッジ7であるから、演奏技術をもたない者でも、シタールと同様の、高次倍音成分の付加された共鳴音を楽しむことができる。
更に、図35~図52の実施の形態の場合を通して、面71の凸曲面は、弦の振動時に各弦単線301~312と接触する各箇所において、より短い弦長を有する弦と接触する箇所の方が、より長い弦長を有する弦と接触する箇所よりも、小さい曲率半径を有する形状である。したがって、面71は、弦長の異なる複数の弦3との接触を、均一、かつ、十分に得ることができる。また、高次倍音を付加した響きを、弦長の異なる複数の弦3において、均一、かつ、十分に得ることができる。なお、図35~図52の実施の形態において、ブリッジ7は、図5に示したように、取付部75を含む構成としても良い。
2.第2のタイプの弦楽器
図53~図55及び図60に示す実施の形態では、ブリッジ7は、弦支持部70によって構成されている。弦支持部70には、図28に示した弦支持部70が用いられている。なお、ブリッジ7は、図5に示したように、取付部75を含む構成としても良い。
図53~図55及び図60に示す実施の形態では、弦3の弦単線301~304毎に、励振器及びその振動を電気信号に変換する変換器が備えられている。具体的には、ボディ部1の表面板101の内面に配置された弦3の各弦単線301~304のそれぞれに対して、第1励振器211、第2励振器232、第3励振器213及び第4励振器234を対向して配置してある。第1励振器211の対向する弦単線301に第1変換器221を対向させ、第2励振器232の対向する弦単線302に第2変換器242を対向させ、第3励振器213の対向する弦単線303に第3変換器223を対向させ、第4励振器234の対向する弦単線304に第4変換器244を対向させてある。第1励振器211~第4励振器234及び第1変換器221~第4変換器244は、何れも電磁コイルである。
図示の例では、第1励振器211、第3励振器213、第1変換器221及び第3変換器223を、一つの支持台215の一面上に取り付けて、第1組み立て体21を構成し、第1組み立て体21の支持台215を、側面板103、104の内面に添って、表面板101の内面に立設した取付部571、572に取り付けた構造となっている。同様に、第2励振器232、第4励振器234、第2変換器242及び第4変換器244を、一つの支持台235の一面上に取り付けて、第2組み立て体23を構成し、第2組み立て体23の支持台235を、第1組み立て体21から間隔をおいて、側面板103、104の内面に添って表面板101の内面に立設した取付部571、572に取り付けた構造となっている。
図53~図55及び図60の実施の形態の場合も、面71の凸曲面は、弦の振動時に各弦単線301~304と接触する各箇所において、より短い弦長を有する弦と接触する箇所の方が、より長い弦長を有する弦と接触する箇所よりも、小さい曲率半径を有する形状である。したがって、面71は、弦長の異なる複数の弦3との接触を、均一、かつ、十分に得ることができる。また、高次倍音を付加した響きを、弦長の異なる複数の弦3において、均一、かつ、十分に得ることができる。なお、図28において、矢印P2は、第2支持点P21~P24のある方向を示している。
図53~図55に示す実施の形態に係る弦楽器の動作については、図58~図60を参照して後で詳しく説明する。
3.回路・音響情報系
本発明に係る弦楽器の回路・音響情報系は、図1~図52に図示された弦楽器に向けられた図56~図57の回路・音響情報系と、図53~図55に図示された弦楽器に向けられた図58~図60の回路・音響情報系の2つに大別される。なお、図56~図60において、点線矢印付ラインは、音響・音圧伝搬を示す。
(1)図56~図57の回路・音響情報系
図56は、図1~図52に示した弦楽器及びその電気・電子回路とともに、音響情報の流れを示すブロック図、図57は弦楽器と外部との間の電気・電子回路とともに、音響情報の流れを示すブロック図である。図において、参照符号Aは本発明に係る弦楽器を示し、参照符号Bは外部入力機器または入力信号を示し、参照符号Cは外部音響を示している。図56及び図57は、一つの図として統合できるものであるが、紙面の都合から、2つに分けて示した。以下、図56及び図57とともに、随時、図1~図52を参照しながら説明する。
まず、外部で演奏された、楽器音や声などの音40は、内蔵マイク18によって拾われる。マイクやピックアップ41が内蔵された楽器の音40は、内蔵マイク18によって拾う方法の他、入力ジャック131から、音響情報を入力することもできる。電気ギターや電子ピアノなどの電気楽器42は、入力ジャック131から音響情報を入力する。また、音楽プレーヤーやパソコンからの音声信号43も、入力ジャック131から、音響情報を入力することができる。
外部からの音声信号及び内蔵マイク18からの信号は、入力ジャック131に組み込まれた入力セレクタ801によって選択される。入力ジャック131に、外部からの音声信号を伝送するプラグが接続されると、入力ジャック131からの音声信号が選択される。一方、入力ジャック131に外部からの音声信号を伝送するプラグが接続されなければ、内蔵マイク18からの信号が選択される。入力セレクタ801によって選択された入力装置からの音声信号は、入力ボリューム802で入力音量が調節される。入力ボリューム802で音量調節された音声信号は、内蔵アンプ803で増幅される。
内蔵アンプ803で増幅された音声信号は、弦励振部5に供給される。そして、弦励振部5によって、弦3が振動させられる。振動させられた弦3は、ブリッジ7の面71の複数の点で接触することにより、高次倍音成分の付加された共鳴音を響かせる。即ち、弦3が、弦励振部5からの励振信号に共振して振動したとき、弦3がブリッジ7の面71に複雑に接触することによって、さまざまな次数の高次倍音成分が弦振動に付加され、高次倍音成分の付加された共鳴音を響かせる。したがって、演奏技術を持たない者であっても、高次倍音成分の付加された共鳴音を楽しむことができる。また、弦3は弦励振部5によって励振されるため、高次倍音成分の付加された共鳴音を、簡単、かつ、十分に発生させることができる。
更に、面71の凸曲面は、弦3の振動時に各弦と接触する各箇所において、より短い弦長を有する弦と接触する箇所の方が、より長い弦長を有する弦と接触する箇所よりも、小さい曲率半径を有する形状である。したがって、面71は、弦長の異なる複数の弦3との接触を、均一、かつ、十分に得ることができる。また、高次倍音を付加した響きを、弦長の異なる複数の弦3において、均一、かつ、十分に得ることができる。
弦3の振動音は、表面板101及びボディ部1に伝わり、アコースティックな音響62として放出されるともに、ピエゾ・ピックアップ808によって拾われ、更に、出力ボリューム810によって調節され、出力ジャック132から出力される。
また、入力セレクタ801から分岐されたオリジナル音の音響信号は、オリジナル・ボリューム816でオン・オフと音量が調節され、オンの場合は出力ジャック132から出力される。
出力ジャック132から出力された音声信号は、外部のアンプ812とスピーカ813を通して、音量が増幅された音響63として放出される。または、外部の録音機器814に直接録音される。
上記の音響情報の伝達の結果、楽器音や声などの音40を発すると、オリジナル音響61が響くと同時に、その音に反応して、共鳴音のアコースティック音響62が響く。また、外部アンプ812及びスピーカ813が設置されていると、そのオリジナル音と、高次倍音成分が付加された共鳴音がミックスされた増幅音響63が響く。このとき、ミックスされる割合は、オリジナル・ボリューム816及び出力ボリューム810を調整することにより、自在に調整することができ、オリジナル音のみや、高次倍音成分が付加された共鳴音のみを、増幅音響63として響かせることもできる。
電気ギターや電子ピアノなどの電気楽器42を演奏した場合や、録音された音源を音楽プレーヤーやパソコン43などから再生させた場合は、外部アンプ812及びスピーカ813が設置されていると、そのオリジナル音と、高次倍音成分の付加された共鳴音とをミックスした増幅音響63が響く。このとき、ミックスされる割合は、オリジナル・ボリューム816及び出力ボリューム810を調整することにより、自在に調整することができ、オリジナル音のみや、高次倍音成分が付加された共鳴音のみを、増幅音響63として響かせることもできる。また、オリジナル音のみの増幅音響63の音量を調節し、高次倍音成分が付加された共鳴音のアコースティック音響62と一緒に響かせることや、高次倍音成分が付加された共鳴音のアコースティック音響62のみを響かせることもできる。また、これらを外部録音機器814に録音することもできる。
(2)図58~図60の回路・音響情報系
図58、図59は、主として、図53~図55に示した弦楽器及びその電気・電子回路とともに、音響情報の流れを示すブロック図である。図58及び図59は、一つの図として統合できるものであるが、紙面の都合から、2つに分けて示した。図58、図59では、特に、図53~図55の弦楽器の音響情報の流れに関係する部分だけを取り出して示してある。図58、図59において、図56、図57に現れた部分に対応する部分については、同一参照符号を付し、重複説明は省略する。
図58及び図59とともに、図53~図55を参照しながら説明すると、弦単線301~304に独立して向けられた第1変換器221~第4変換器244からの信号を、同じ弦単線に独立して用意された内蔵アンプ827を通して、同じ弦に独立して向けられた第1励振器211~第4励振器234に送る。上記回路は、弦3の振動→マグネチック・ピックアップ(電磁コイルによる変換器)→内蔵アンプ827→マグネチック・ドライバ(電磁コイルによる励振器)→弦3の励振という正帰還形の発振回路を構成する。
上述した発振回路によると、弦3を鳴らしていない状態であっても、正帰還ループ内で起こるノイズなどをトリガ信号として、正帰還が起こり、弦3に含まれる弦単線301~304のうち、対応する弦単線が、その共振周波数で振動を始める。振動し始めた弦3は、その振動を一定の振幅まで成長させるため、弦振動の音が、わき上がるように響く。一定の振幅まで成長し、安定状態に達すると、その安定状態で、弦振動は持続される。動作を停止すると、弦振動は減衰して鳴り止む。
このとき、図53及び図60に図示したように、弦3は、ジャワリブリッジ7に支えられているため、高次倍音成分の付加された音をわき上がるように立ち上がらせたのち、高次倍音成分が付加された持続音を響かせ続けることができる。動作を停止すると、高次倍音成分の付加された音が、自然な減衰を始め、やがて鳴り止む。
上述したように、図53~図55に示した弦楽器によれば、演奏技術をもたない者でも、高次倍音成分の付加された持続音を、簡単、かつ、十分に発生させ、その持続音を楽しむことができる。
更に、面71の凸曲面は、弦3の振動時に各弦と接触する各箇所において、より短い弦長を有する弦と接触する箇所の方が、より長い弦長を有する弦と接触する箇所よりも、小さい曲率半径を有する形状である。したがって、面71は、弦長の異なる複数の弦3との接触を、均一、かつ、十分に得ることができる。また、高次倍音を付加した響きを、弦長の異なる複数の弦3において、均一、かつ、十分に得ることができる。
内蔵アンプ827に含まれる各内蔵アンプは、コントロール部804によって、個別に制御される。内蔵アンプ827の動作開始、動作順序、信号増幅度、動作停止、更には、動作開始と動作停止の周期等は、コントロール部804によって実行される。制御方法としては、好ましくは、アナログ的な手法が用いられる。もっとも、コントロール部804を、CPU(Central Processing Unit)や、MPU(Micro-Processing Unit)等を含む構成とし、内蔵アンプ827をプログラム制御してもよい。コントロール部804による内蔵アンプ827の設定に関しては、例えば、次のような場合を例示することができる。
(a)弦単線301~304の全て、又は、任意に選択された弦単線を、持続的に鳴らし続けるように設定する。
(b)弦単線301~304のそれぞれについて、個別に、動作開始と動作停止のタイミングを設定し、鳴らし続ける。
(c)弦単線301~304のそれぞれについて、その動作開始及び動作停止がランダムに現れるようなプログラムを設定し、鳴らし続ける。
上記(a)~(c)のような設定をすることにより、タンブーラのように高次倍音成分が複雑に絡み合った持続音を、任意の音程に調律された弦から響かせ続けることができる。特に、各弦単線301~304を一定のリズムで順番に鳴らし続ける設定によると、タンブーラの演奏に近い音響となる。
図60は、内蔵アンプ827及びコントロール部804の具体的な回路構成を示している。図を参照すると、内蔵アンプ827は、弦単線301~304の本数に合わせて、内蔵アンプ831~834の4つを備えている。まず、内蔵アンプ831は、弦単線301に備えられた変換器221から供給される弦振動検出信号を増幅し、その増幅信号を、弦単線301を励振する励振器211に供給する。他の内蔵アンプ832~834のそれぞれも、弦単線302~304のそれぞれに備えられた変換器242、223、244から供給される弦振動検出信号のそれぞれを増幅し、その増幅信号を、弦単線302~304を励振する励振器232、213、234のそれぞれに、個別に供給する。
4.変形例
本発明に係る弦楽器は、更に、以下のような変形が可能である。
(1) 図1~図52に図示した弦楽器は、外部からの音に反応して、高次倍音成分が付加された共鳴音を響かせるが、図56に示すように、FM音源などのサウンドチップを使用した内蔵音源・内蔵音源のコントロール部819を搭載し、これから発生される音声信号を、内蔵アンプ803で増幅したうえで、励振部5に送ることにより、共鳴音を響かせてもよい。
これにより、例えば、内蔵音源から持続音の信号を送り、その信号に共振可能な弦が共振することにより、持続音を、アコースティックな弦振動の音として響かせ続けることができる。また、このような弦3の持続音を、内蔵音源からの信号を使って響かせ続けながら、同時に外部からの音を使って、弦振動による高次倍音成分が付加された共鳴音を一緒に響かせることもできる。
(2) 図1~図55に図示した弦楽器において、図56及び図58に示すように、本発明に係る弦楽器から生じた音を拾う手段として、圧電振動子を用いたピエゾ・ピックアップ808の他に、内部音用の内蔵マイク805や、電磁コイルを用いたマグネティック・ピックアップ815などを設置して使用してもよい。内部音用の内蔵マイク805は、表面板101及びボディ部1の振動から発せられる音圧を捉える。マグネティック・ピックアップ815は、弦3の振動を捉える。本発明に係る弦楽器から生じた音を拾う手段として、複数の装置を設置した場合には、ピックアップセレクタ809を設置し、どの装置からの信号を出力ボリューム810に送るのかを選択することができる。
(3)図53~図55に示した実施の形態において、図58に示すように、入力ジャック131、入力ボリューム802及び内蔵アンプ803等をとおして、外部から励振器818に信号を与えてもよい。これによると、持続音を響かせ続けながら、同時に外部からの音を使って、外部音に共振した共鳴音を、一緒に響かせることができる。もっとも、励振器818は、励振器211、213、232、234をそのまま用いてもよいし、別に備えてもよい。
(4)図示は省略されているが、図58に示す回路に対して、図56及び図57に示された構成を、適宜組み込むことができる。更には、図1~図52に示した弦楽器と、ボディ部1を共有する関係で組み合わせてもよい。
(5)図6~図32に図示した弦支持部を含むブリッジ7を、シタール等の、弦長の異なる複数の弦を有する弦楽器に組み込んでもよい。
(6)図1~図60に示した実施の形態において、弦励振部は、電磁コイル、圧電振動子、磁歪振動子、超磁歪振動子、ボイスコイル型励振器、またはスピーカ等によって構成される。これらは、その性質に反しない限り、相互に置換することが可能である。したがって、図1~図60に示した各種の実施の形態において、図示された一つの実施形態は、図示されていない他の励振器の形態をも示唆するものと解釈されなければならない。また、変換器は、好ましくは、非接触型の振動検出センサで構成される。その好ましい一例は、電磁コイルである。