JP6992111B2 - 血液処理用分離膜及びその膜を組み込んだ血液処理器 - Google Patents

血液処理用分離膜及びその膜を組み込んだ血液処理器 Download PDF

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Description

本発明は、血液中の特定の物質を分離するために使用される血液処理用分離膜及びその
膜を組み込んだ血液処理器に関する。
体外循環療法においては、選択的分離膜を用いた中空糸膜型血液処理器が広く使用され
ている。例えば慢性腎不全患者に対する維持療法としての血液透析において、急性腎不全
や敗血症等の重篤な病態の患者に対する急性血液浄化療法としての持続血液ろ過、持続血
液ろ過透析、持続血液透析等において、また開心手術中の血液への酸素付与又は血漿分離
等において、中空糸膜型血液処理器が用いられている。
これらの用途においては、中空糸膜として、機械的強度や化学的安定性に優れ、また、
透過性能の制御が容易なだけでなく、溶出物が少なく、生体成分との相互作用が少なく、
生体に対して安全であることが求められている。
近年、機械的強度や化学的安定性、透過性性能の制御性の観点から、ポリスルホン系樹
脂からなる選択的分離膜が急速に普及している。ポリスルホン系樹脂は疎水性高分子であ
るため、そのままでは膜表面の親水性が著しく不足し、血液適合性が悪く、血液成分との
相互作用が引き起こされ、血液の凝固なども起こりやすくなり、さらには蛋白成分等の吸
着により、透過性能が劣化しやすい。
そこでこの欠点を補うために、ポリスルホン系樹脂等の疎水性高分子に加え、ポリビニ
ルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の親水性高
分子を含有させることで血液適合性を付与する検討がなされている。例えば、疎水性高分
子と親水性高分子をブレンドした紡糸原液を用いて製膜し、乾燥させることや、製造され
た膜を親水性高分子を含む溶液と接触させた後、乾燥させることにより、親水性高分子を
被覆させ、血液適合性を付与する方法などが知られている。
ところで体外循環療法においては、血液処理器中の選択的分離膜に、血液を直接接触さ
せて使用するため、使用前に選択的分離膜が滅菌処理されていることが必要である。
滅菌処理においては、エチレンオキサイドガス、高圧蒸気、放射線などが用いられてい
たが、エチレンオキサイドガス滅菌や高圧蒸気滅菌では残留ガスによるアレルギーや滅菌
装置の処理能力、材料の熱変形等の問題があり、現在ではγ線や電子線などの放射線滅菌
が主流となってきている。
一方で取扱い性、寒冷地保管時の凍結の問題などから、血液処理器としてドライ製品が
主流となりつつある中、放射線滅菌による酸素存在下の滅菌工程では、発生ラジカルによ
り、親水性高分子の架橋反応や分解、ひいては酸化劣化等が生じ、それにより膜素材に変
性が引き起こされ、血液適合性の低下原因となる。
このような膜素材の劣化を防止する方法としては、ドライ製品でないものについては、
膜モジュールに抗酸化剤溶液を充填してγ線滅菌することで膜の酸化劣化を防止する方法
や、PH緩衝液やアルカリ水溶液を充填して滅菌することで充填液の酸化を抑制する方法
が開示されている。
一方、ドライ製品に関しては、滅菌時の酸素濃度を0.001%以上0.1%以下に抑
制する方法が開示されている(特許文献1)。しかしながら特許文献1の技術においては
、包装袋内を不活性ガスで置換して滅菌するか、包装袋内に脱酸素剤を封入し一定時間の
経過後に滅菌するなどの必要があり、ドライ状態でかつ大気下の放射線滅菌で、十分な血
液適合性を発現する技術は確立されていない。
特許文献2には、ポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)をガス交換用多孔質中
空糸膜の外面に被覆することが開示されている。しかし、滅菌処理についての検討はない
国際公開第2006/016575号 特許3908839号公報
本発明は、血液適合性に優れ、大気下、ドライ状態で放射線滅菌しても血液適合性の低
下の少ない血液処理用分離膜及びその膜を組み込んだ血液処理器を提供することを目的と
する。
本発明者らが、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、少なくともポリスルホン系高
分子とポリビニルピロリドンを含む分離膜に、ポリメトキシエチルアクリレート(PME
A)を含む被膜をコーティングした血液処理用分離膜は、非常に優れた血液適合性を有し
、また、大気下で滅菌を行ってもその非常に優れた血液適合性が維持されることを見出し
、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
ポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンを含有する分離膜と、
該分離膜の表面に設けられ、ポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)を含む被膜
と、
を有する血液処理用分離膜。
また、本発明の別の態様は、以下のとおりである。
ポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンを含有する分離膜を製膜する工程と、
前記分離膜の表面に、ポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)、水及び有機溶媒
を含有するコート液をコーティングする工程と、
を有する血液処理用分離膜の製造方法。
本発明の血液処理用分離膜及び該膜を組み込んだ血液処理器は、大気下、ドライ状態で
放射線滅菌された場合であっても、非常に優れた血液適合性を発現できる。
実施例1の血液処理用分離膜表面に対して全反射赤外吸収測定(ATR-IR)を実施したときの赤外吸収曲線 PMEAに対して熱分解ガスクロマトグラフ質量分析を実施した時のクロマトグラム 実施例1においてPMEAコートする前の分離膜に対して熱分解ガスクロマトグラフ質量分析を実施した時のクロマトグラム 実施例1の血液処理用分離膜に対して熱分解ガスクロマトグラフ質量分析を実施した時のクロマトグラム 実施例1の血液処理用分離膜の、クロマトグラムRT1.7(分)付近ピークのマススペクトルである。なお、これを解析したところ、下部に示した化学構造式(2-メトキシエチルアルコール)のものと同定された。
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について以下詳
細に説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものでなく、その要旨の範囲内
で種々変形して実施することができる。
本実施形態の血液処理用分離膜は、ポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンとを
含む分離膜を含み、その分離膜の表面に血液適合性を付与するためのポリメトキシエチル
アクリレートを含む被膜を有する。
まず、ポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンとを含む分離膜について説明する

<ポリスルホン系高分子>
本実施形態において、ポリスルホン系高分子とは、スルホン(-SO2-)基をその構
造内に含有する高分子である。ポリスルホン系樹脂の具体例としては、ポリフェニレンス
ルホン、ポリスルホン、ポリアリルエーテルスルホン、ポリエーテルスルホン及びこれら
の共重合体等が挙げられる。
ポリスルホン系高分子としては、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上の混合物
を用いても良い。
中でも分画性を制御する観点で、下記式(1)又は下記式(2)で示されるポリスルホ
ン系高分子が好ましい。
(-Ar-SO2-Ar-O-Ar-C(CH32-Ar-O-)n (1)
(-Ar-SO2-Ar-O-)n (2)
式(1)及び式(2)中、Arはベンゼン環を、nはポリマーの繰り返しを表し、1以
上の整数である。
式(1)で示されるポリスルホン系高分子としては、例えば、ソルベイ社から「ユーデ
ル(商標)」の名称で、ビーエーエスエフ社から「ウルトラゾーン(商標)」の名称で市
販されているものが挙げられる。また、式(2)で示されるポリエーテルスルホンとして
は、例えば、住友化学株式会社から「スミカエクセル(商標)」の名称で市販されている
ものが挙げられ、重合度等によっていくつかの種類が存在するので、これらを適宜利用す
ることができる。
<ポリビニルピロリドン>
ポリビニルピロリドンとは、N-ビニルピロリドンをビニル重合させた水溶性の親水性
高分子であり、親水化剤や孔形成剤として中空糸膜の素材として広く用いられている。
ポリビニルピロリドンとしては、例えば、ビーエーエスエフ社から「ルビテック(商標
)」の名称でそれぞれいくつかの分子量のものが市販されているので、これらを適宜利用
することができる。
ポリビニルピロリドンとしては、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上の混
合物を用いてもよい。
分離膜は、その構成成分として、ポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドン以外の
構成成分が含まれていてもよい。その他の構成成分としては、例えば、ポリヒドロキシエ
チルメタクリレート、ポリヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリヒドロキシブチルメ
タクリレート等のポリヒドロキシアルキルメタクリレート、ポリエチレングリコールが挙
げられる。その他の構成成分の含有量に限定はなく、20質量%以下としてよいし、10
質量%以下としてもよいし、5質量%以下としてもよい。また、その他の構成成分を全く
含まなくてもよい。
また、本実施形態の分離膜においては、ポリスルホン系高分子に対するポリビニルピロ
リドンの比率を27質量%以下とすると、ポリビニルピロリドンの溶出量を抑制すること
ができるので好ましい。より好適には、18質量%以上とすることにより、分離膜表面の
ポリビニルピロリドン濃度を好適な範囲に制御でき、タンパク質吸着を抑制する効果を高
められ、血液適合性に優れた血液処理用分離膜とすることができる。
分離膜の形状に限定はないが、分離膜は中空糸形状を有していることが好ましい。また
、透過性能の観点からは、クリンプが付与されていることがさらに好ましい。
次に、ポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)を含む被膜について説明する。
PMEAの血液適合性については、田中 賢,人工臓器の表面を生体適合化するマテリ
アル,BIO INDUSTRY,Vol20,No.12,59-70 2003 に
詳細に述べられている。
その中で、PMEAおよびその比較のために側鎖構造の異なる(メタ)アクリレート系
ポリマーを作成し、血液を循環させたときの血小板,白血球,補体,凝固系の各種マーカ
ーを評価したところ,「PMEA表面は他の高分子に比べて血液成分の活性化が軽微であ
った。また,PMEA表面はヒト血小板の粘着数が有意に少なく粘着血小板の形態変化が
小さいことから血液適合性に優れる」と記載されている。
このように、PMEAは、単に構造中にエステル基があるから血液適合性が良いという
のではなく、その表面に吸着した水分子の状態が血液適合性に大きな影響を与えると考え
られている。
このようにPMEAは生体適合性ポリマーとしては既知の物質であるが、これを表面に
塗布した分離膜の血液適合性をより向上させるためには、表層におけるその存在量を多く
することが特に重要であることが分かった。
ポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンを含有する分離膜はポーラス体であるた
め、その上にコート液を塗布すると、コート液が分離膜中へ孔を通じて浸透してしまう場
合がある。特に、コート液の溶媒の種類によっては分離膜の孔径を大きくすることもあり
、その場合には、浸透がより一層起こりやすくなる。
また、コート液の溶媒の種類によっては、コート液が分離膜上に塗布された際、その表
面から流れ出てしまって、表面にとどまることができないこともある。
このように、分離膜上に塗布されたPMEAが、塗布後も分離膜の表層に存在する量に
は、コート時に用いられるPMEAを含むコート液の溶媒の種類と組成が影響すると考え
られる。
すなわち、PMEAを溶解したコート溶液は、ポーラスな分離膜の表面上に塗布された
際に、そのまま表面にとどまってPMEAを表面にとどめるようなものであることが重要
である。
そして、本発明者らが鋭意研究したところ、コート液の溶媒が水と有機溶媒の混合物で
ある場合、水と有機溶媒の混合比によって、PMEAが表面にとどまる量が大きく変わる
ことが分かった。
具体的には、有機溶媒の混合比率が小さいほど、PMEAは分離膜表面にとどまりやす
い傾向にある。その理由は明らかではないが、コート液の溶媒中の有機溶媒の混合比率が
大きいと、PMEAはコート液に良く溶解しているため、コート液を分離膜上にコートし
た時にPEMAも膜内に浸透し表面にとどまりにくいが、有機溶媒の混合比率が小さいと
、PMEAのコート液に対する溶解度が小さいため、コート液を分離膜上にコートした時
に、有機溶媒が先に膜内に浸透するなどして溶媒中の有機溶媒/水のバランスが崩れると
、PMEAがコート液から析出し分離膜表面上に残るためではないかと推定される。
また、ATR-IR法においては、試料に入射した波は試料にわずかにもぐり込んで反
射するため、このもぐり込み深さ領域の赤外吸収を測定できることが知られているところ
、本発明者らは、このATR-IR法の測定領域が、前述の「表層」の深さとほぼ等しい
ことも見出した。すなわち、ATR-IR法の測定領域とほぼ等しい深さ領域における血
液適合性が、その試料(血液処理用分離膜)の血液適合性を支配し、その領域にPMEA
を特定量以上存在させることで(換言すると、ATR-IRによる赤外吸収曲線における
PMEA由来のピーク強度を用いてPMEAの量を規定することで)、一定の血液適合性
を有する血液処理用分離膜を提供できることに想到し、本発明のより好ましい態様を完成
させた。
なお、ATR-IR法による測定領域は、空気中での赤外光の波長、入射角、プリズム
の屈折率、試料の屈折率等に依存し,通常、膜表面から1μm以内の領域である。
ポリメトキシエチルメタクリレート(PMEA)が分離膜表面に存在することは、分離
膜の熱分解ガスクロマトグラフ質量分析により確認できる。PMEAの存在は分離膜の表
面に対する全反射赤外吸収(ATR-IR)測定で、赤外吸収曲線の1735cm-1付近
にピークが見られれば推定されるが、この付近のピークは他の物質に由来する可能性もあ
る。そこで、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析を行い、PMEA由来の2-メトキシエ
タノールを確認することでPMEAと断定する。
本実施形態における血液処理用分離膜が実用上十分な血液適合性を示すには、ATR-
IRで測定されるポリメトキシエチルメタクリレート(PMEA)由来のエステル基-O
-C=Oの赤外吸収ピーク(1735cm-1付近)のピーク強度P1のポリスルホン系高
分子由来のC=C(Ar内のC=C)の赤外吸収ピーク(1595cm-1付近)のピーク
強度P2に対する比(P1/P2)が0.05以上であることが好ましく、0.07以上
であることがより好ましく、さらに好ましくは、0.09以上である。
本実施形態の血液処理用分離膜の血液適合性が非常に優れている理由は明らかではない
が、分離膜に含まれるポリビニルピロリドン(PVP)とポリメトキシエチルメタクリレ
ート(PMEA)との間に何等かの相互作用(例えば、PVPとPMEAの間の分子同士
の絡み合い)によるアンカー効果が生じているためと推定される。
前述のPMEA由来のピーク(1735cm-1付近)とポリスルホン系高分子由来のピ
ーク(1595cm-1付近)のピーク強度比(P1/P2)は、コーティング時に使用す
るコート液の溶媒の組成(具体的には有機溶媒と水の混合比)を変化させることにより調
節することが出来る。具体的には、有機溶媒の量が多いほど、ATR-IRを実施したと
きのポリメトキシエチルメタクリレート(PMEA)由来のピーク(1735cm-1付近
)のピーク強度P1は弱くなり、有機溶媒量が少ないほどPMEA由来のピーク(173
5cm-1付近)のピーク強度P2は強くなる。
ポリメトキシエチルメタクリレート(PMEA)の溶媒に対する溶解性は特異なものが
ある。例えば、PMEAは100%エタノール溶媒には溶解しないが、水/エタノール混
合溶媒にはその混合比によって溶解する領域がある。そして、その溶解する領域内の混合
比では、水の量が多いほど、PMEA由来のピーク(1735cm-1付近)のピーク強度
P1は強くなる。
ポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンを含む分離膜表面に、PMEAを含む被
膜をコートした場合の、PMEA含有被膜の分離膜上での存在状態については、透水性能
のひとつの指標であるUFRを測定することで評価することが出来る。
PMEAを含む被膜で分離膜をコートした場合には、そのポーラスな膜表面の穴径の変
化が小さいので、透水性能の変化があまりなく製品設計が簡単である。これはPMEAを
含む被膜が、分離膜表面に極薄膜状に付着し、穴をあまり塞がない状態で分離膜をコート
するためであると考えられる。
本実施形態において、ポリメトキシエチルメタクリレート(PMEA)重合体の重量平
均分子量は、例えば、実施例に記載するように、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ
ー(GPC)などにより測定することができる。
本実施形態において、分離膜の表面にPMEAを含む被膜を設ける方法としては、例え
ば、PMEAを分離膜製膜時の製膜(紡糸)原液に混合溶解して紡糸する方法、PMEA
を分離膜製膜時の中空内液に混合溶解して紡糸する方法、及びPMEAを溶解したコート
液を分離膜にコーティングする方法等が好適に用いられる。
これらの方法の中でも、PMEAの製膜原液及び中空内液に対する溶解性を考慮すると
、分離膜にコート液をコーティングするコーティング方法が最も適していると思われる。
PMEAを溶解したコート液を分離膜にコーティングする方法としては、分離膜に対し
、好適には、分離膜を製膜し血液処理器に組み込んで成型した後に、分離膜表面に対し、
コート液を通液して接触させることにより、被覆させることができる。
本実施形態の血液処理用分離膜は、例えば、酸素濃度15%以上の雰囲気でも、放射線
滅菌によって滅菌処理を施すことができる。すなわち、血液処理用分離膜に放射線滅菌を
施す際に、脱酸素剤を用いたり、窒素などの不活性ガスに置換したりして、酸素濃度を低
下させる必要がなく、大気下で放射線滅菌を施すことができる。
次に、血液処理器について説明する。
本実施形態の血液処理器は、本実施形態の血液処理用分離膜が組み込まれている血液処
理器であって、血液透析、血液ろ過、血液ろ過透析、血液成分分画、酸素付与、及び血漿
分離などの体外循環式の血液浄化療法に用いることができる。本実施形態の血液処理器は
、その血液処理用分離膜に大気下で放射線滅菌を施した場合であっても、分離膜に含まれ
るポリビニルピロリドンとPMEAとの間で何等かの相互作用(分子同士の絡み合いによ
るアンカー効果等)による強固な結びつきを成しているため、PMEA含有被膜が剥がれ
ること等がなく、血液適合性が非常に良好である。
血液処理器は、血液透析器、血液ろ過器、血液ろ過透析器等において好ましく用いられ
、これらの持続的用途である、持続式血液透析器、持続式血液ろ過器、持続式血液ろ過透
析器として用いることがより好適である。各用途に応じて、分離膜の寸法や分画性等の詳
細仕様が決定される。
次に、本実施形態の血液処理器の製造方法について説明する。
本実施形態の血液処理用分離膜の製造方法は、少なくともポリスルホン系高分子とポリ
ビニルピロリドンを含む分離膜を製膜する工程と、前記分離膜の表面に、ポリメトキシエ
チルアクリレート(PMEA)、水及び有機溶媒を含有するコート液をコーティングする
工程と、を含む。
さらに、分離膜の水分含有率を10質量%以下に乾燥する工程や、血液処理用分離膜を
酸素濃度が15%以上の雰囲気下で放射線滅菌する工程を含むこともできる。
分離膜は、少なくともポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンを含む製膜原液を
用いて、通常の方法により製膜することにより用意することができる。
製膜原液としては、ポリスルホン高分子とポリビニルピロリドンを溶媒に溶解すること
によって調製することができる。
かかる溶媒としては、例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メ
チル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、スルホラン、及びジオキサンなどが挙げ
られる。
溶媒としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合溶媒を用いてもよい。
製膜原液中のポリスルホン系高分子の濃度は、製膜可能で、かつ得られた膜が透過膜と
しての性能を有するような濃度の範囲であれば特に制限されないが、5~35質量%であ
ることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましい。高い透水性能を達成す
る場合にはポリスルホン系樹脂濃度は低い方がよく、10~25質量%であることがさら
に好ましい。
製膜原液中のポリビニルピロリドン濃度に限定はないが、例えば、ポリスルホン系高分
子に対するポリビニルピロリドンの比率(ポリビニルピロリドンの質量/ポリスチレン系
高分子の質量)が好ましくは27質量%以下、より好ましくは18~27質量%、さらに
好ましくは20~27質量%となるように調整することが好ましい。
ポリスルホン系高分子に対するポリビニルピロリドンの比率を27質量%以下とするこ
とにより、ポリビニルピロリドンの溶出量を抑制することができる。また、好適には、1
8質量%以上とすることにより、分離膜表面のポリビニルピロリドン濃度を好適な範囲に
制御でき、タンパク質吸着を抑制する効果を高められ、血液適合性に優れた血液処理用分
離膜とすることができる。
以上のような製膜原液を用いて、通常用いられている方法により平膜や中空糸膜の分離
膜を製膜することができる。
中空糸膜の製造方法の一例を説明する。
チューブインオリフィス型の紡糸口金を用い、該紡糸口金のオリフィスからは製膜紡糸
原液を、チューブからは該製膜紡糸原液を凝固させる為の中空内液を、同時に空中に吐出
させる。中空内液としては、水や水を主体とした液体が使用でき、一般的には製膜紡糸原
液に使った溶剤と水との混合溶液が好適に使用される。例えば、20~70質量%のジメ
チルアセトアミド水溶液などが用いられる。
製膜紡糸原液吐出量と中空内液吐出量を調整することにより中空糸膜の内径と膜厚を所
望の値に調整することができる。
中空糸膜の内径は、特に限定はないが、血液処理用途においては一般に170~250
μmであればよく、180~220μmであることが好ましい。透過膜としての物質移動
抵抗による低分子量物の拡散除去の効率の観点から、中空糸膜の膜厚は50μm以下であ
ることが好ましい。
また強度の観点からは10μm以上であることがより好ましい。
紡糸口金から中空内液とともに吐出された製膜紡糸原液は、エアーギャップ部を走行さ
せられ、次いで、紡糸口金下部に設置された水を主体とする凝固浴中へ導入され、一定時
間浸漬されて、その凝固が完了する。このとき、製膜紡糸原液吐出線速度と引取速度の比
で表されるドラフトが1以下であることが好ましい。
なお、エアーギャップとは、紡糸口金と凝固浴との間の空間を意味し、製膜紡糸原液は
紡糸口金から同時に吐出された中空内液中の水などの貧溶媒成分(ポリスルホン系高分子
及びポリビニルピロリドンに対する貧溶媒成分)によって、内表面側から凝固が開始する
。凝固開始時に平滑な分離膜表面を形成し、分離膜構造を安定にするためには、ドラフト
は1以下が好ましく、より好ましくは0.95以下である。
ついで熱水等による洗浄によって中空糸膜に残留している溶媒を除去した後、連続的に
乾燥機内に導き、熱風などにより乾燥した中空糸膜を得ることができる。洗浄は不要なポ
リビニルピロリドンを除去するため、60℃以上の熱水にて120秒以上実施することが
好ましく、70℃以上の熱水にて150秒以上洗浄することがより好ましい。
後工程においてウレタン樹脂で包埋するため、また、本実施の形態においては、ドライ
状態で放射線滅菌を行うために、乾燥により分離膜の水分含有率を10質量%以下とする
のが好ましい。
以上の工程を経て得られた中空糸膜は、所望の膜面積となるように、長さと本数を調整
した束としてモジュール製造工程に供することができる。この工程では、中空糸膜は側面
の両端部付近に2本のノズルを有する筒状容器に充填され、両端部がウレタン樹脂で包埋
される。
次に両端の硬化したウレタン部分を切断して中空糸膜が開口(露出)した端部に加工す
る。この両端部に、液体導入(導出)用のノズルを有するヘッダーキャップを装填して血
液処理器の形状に組み上げる。
以上のようにしてモジュールを組み立てた後、PMEAを含むコート液を中空糸膜内に
注入することにより、分離膜表面にポリビニルピロリドンを含む被膜を形成することもで
きる。
次に、分離膜の表面に、PMEAを含む被膜を形成する方法について詳述する。
本実施形態においては、例えば、分離膜の表面に、PMEAを含むコート液を塗布する
ことによって、被膜を形成することができる。
コート液は、ポリスルホン系高分子を溶解しない溶媒であって、PMEAを溶解する又
は分散させることのできるものであれば特に限定されるものではないが、工程の安全性や
、続く乾燥工程での取り扱いの良さから、水やアルコール水溶液が好ましい。沸点、毒性
の観点から、水、エタノール水溶液、メタノール水溶液、及び、イソプロピルアルコール
水溶液などが好適に用いられる。
なお、コート液の溶媒の種類、溶媒の組成については、前述したように被塗布基材であ
る分離膜との関係も含めて考慮する必要がある。
コート液のPMEAの濃度に限定はないが、例えば、コート液の0.001質量%~1
質量%とすることができ、0.005質量%~0.2質量%であることがより好ましい。
コート液の塗布方法に限定はないが、例えば、ノズルを有するヘッダーキャップより分
離膜上に注入し、次いで、圧縮空気を用いて余分な溶液を除去する方法を採用することが
できる。
塗布後、乾燥を行うことが好ましく、乾燥方法に制限はないが、恒量となるまで減圧乾
燥してもよいし、加熱乾燥してもよい。加熱乾燥の温度は、モジュールの部材が劣化しな
い温度であれば、工程の時間との兼ね合いだけなので、適宜設定すればよい。
以上のようにして得られたPMEAを分離膜表面に有する血液処理用分離膜には、放射
線滅菌処理を施すことができる。放射線滅菌処理を行う雰囲気に限定はなく、酸素濃度1
5%以上の雰囲気で、さらには大気下でも、分離膜の変性等を引き起こすことなく放射線
滅菌を施すことができる。
放射線滅菌法には、電子線、ガンマ線、エックス線等を用いることができ、いずれを用
いてもよい。放射線の照射線量は、電子線やガンマ線の場合は、通常15~50Kgyで
あり、20~40Kgyの線量範囲で照射することが好ましい。このような放射線滅菌等
の滅菌工程を経て、血液処理器として完成する。
以下に実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施
例に限定されるものではない。
(1)赤外ATR(全反射法)測定
サンプルの手順は以下のようにした。
中空糸形状分離膜の内表面を蒸留水で1.5m2あたり100ml/minで5分間洗
浄することによりプライミングを行った。プライミング後の血液処理器を分解してサンプ
リングした中空糸を剃刀で開き中空糸分離膜表面を上向きにしてその部分にプリズムを圧
しあて赤外ATR測定を行った。(650cm-1~4000cm-1
PMEA由来の1735cm-1付近のエステル基-O-C=Oの赤外吸収ピークのピー
ク強度面積(1715cm-1と1755cm-1をベースラインとしたピーク面積)をP1
、ポリスルホン由来の1595cm-1付近のC=Cの赤外吸収ピークのピーク強度面積(
1555cm-1と1620cm-1をベースラインとしたピーク面積)をP2とし、P1/
P2の比から分離膜表面のPMEAの存在量を測定した。
(2)熱分解ガスクロマトグラフ質量分析
以下の装置を用いて、以下の条件にて熱分解ガスクロマトグラフ質量分析を行った。
装置名 Agilent 5973N-MSD(アジレント製)
熱分解装置名 ダブルショットパイロライザーPy-2020iD(フロンティア・ラ
ボ製)
カラム名 HP-5MS
カラム概要 長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm、フェニルメチルシロ
キサン膜
熱分解温度/時間 600°C 0秒
熱分解装置インターフェース温度 320°C
GCインジェクション温度 320°C
GCオーブン初期温度/保持時間 40°C/3分
GCオーブン昇温速度 10°C/分
GCオーブン到達温度/保持時間 300°C/0分
MSトランスファーライン温度 300°C
MSイオン化源温度 230°C
MS四重極温度 150°C
MSイオン化電圧/電流 70eV/35μA
MSスキャン範囲 29-550
(3)UFR(ml/Hr・mmHg)の測定
血液処理器の血液側入り口(bin)から血液側出口(bout)へ元液(Urea=
1000ppm,VB-12(ビタミンB12)=10ppm/純水)を100ml/m
inで流し、透析液側入り口(din)から透析液側出口(dout)へ、純水を元液と
交差する方向に500ml/minで流した。
UFRは以下の式で表される。
UFR(ml/Hr・mmHg)
={binの流量(ml/min)×60(min/Hr)×UFR係数}/TMP
={100×60×UFR係数}/TMP
ここで、UFR係数はUFR測定値を算出する場合の基準圧力である。また、TMP(m
mHg)は血液側出口(bout)部をストップさせた時に血液処理用分離膜にかかる圧
力であって、以下の式で表される。
TMP={(Pbin+Pbout)-(Pdin+Pdout)}/2
(4)接触角の測定
中空糸形状分離膜の内表面を蒸留水で1.5m2あたり100ml/minで5分間洗
浄することによりプライミングを行った。プライミング後の血液処理器を分解してサンプ
リングした中空糸を剃刀で開き、中空糸分離膜表面を上向きにして接触角を測定した。
次いで、1.5m2あたり100ml/minで5分間洗浄するプライミングを5回繰
り返し、中空糸分離膜表面の接触角の変化の有無を確認した。
(5)PMEA(ポリメトキシエチルアクリレート)の作製
2-メトキシエチルアクリレート15gを1,4-ジオキサン60g中でアゾビスイソ
ブチロニトリル(0.1重量%)を開始剤として、窒素バブリングしながら75℃で10
時間重合を行った。重合反応終了後、得られた重合溶液をn-ヘキサンに滴下し、生成物
を沈殿させ、単離した。得られた生成物をテトラヒドロフランに溶解し、さらに2回n-
ヘキサンを用いて精製を行った。精製物を一昼夜減圧乾燥した。無色透明で水飴状のポリ
マーが得られた。収量(収率)は12.3g(82.0%)であった。
得られたポリマー構造は、1H-NMRによって確認した。
また、GPCの分子量分析の結果から、その数平均分子量(Mn)は20,000であ
り、分子量分布(Mw/Mn)は2.4であった。
(6)PMEAの溶媒との溶解性の確認
コート液を作製するため、PMEAの溶媒との溶解性を確認した。結果を以下の表に示
す。エタノール/水系とメタノール/水系とでは、PMEAの溶解性に違いがあることが
わかった。
Figure 0006992111000001
Figure 0006992111000002
(7)血液適合性 乳酸脱水酵素(LDH)活性の測定と残血本数
分離膜の血液適合性は、膜表面への血小板の付着性で評価し、膜に付着した血小板に含
まれる乳酸脱水素酵素(LDH)の活性を指標として定量化した。
生理食塩水(大塚生食注、大塚製薬株式会社)にて血液処理器を洗浄することにより、
プライミングを行った。プライミング後の血液処理器を分解して採取した分離膜を有効長
15cm、膜内表面の面積が5×10-32となるように両端をシリコンで加工し、ミニ
モジュールを作製した。このミニモジュールに対し、生理食塩水10mlを中空糸内側に
流し洗浄した。
その後、ヘパリン加人血15ml(ヘパリン1000IU/L)を1.3ml/min
の流速で上記作製したミニモジュールに37℃で4時間循環させた。生理食塩水によりミ
ニモジュールの内側を10ml、外側を10mlでそれぞれ洗浄した。洗浄したミニモジ
ュールから長さ7cmの中空糸膜を全体の半数本採取後、これを細断してLDH測定用の
スピッツ管に入れたものを測定用試料とした。またミニモジュール中の中空糸に残血(血
液が中空糸の中で凝固したもの)が何本発生しているかを目視で判断した。
次に、燐酸緩衝溶液(PBS)(和光純薬工業株式会社)にTritonX-100(
ナカライテスク株式会社)を溶解して得た0.5容量%のTritonX-100/PB
S溶液をLDH測定用のスピッツ管に0.5ml添加後、振とう処理を60分行って分離
膜に付着した細胞(主に血小板)を破壊し、細胞中のLDHを抽出した。この抽出液を0
.05ml分取し、さらに0.6mMのピルビン酸ナトリウム溶液2.7ml、1.27
7mg/mlのニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)溶液0.3mlを加
えて37℃で1時間反応させた後にその340nmの吸光度を測定した。
同様に血液と反応させていない分離膜(ブランク)についても同様に吸光度を測定し、
下記式により吸光度の差△Abs(340nm)/Hrを算出した。
△Abs(340nm)/Hr
=[ブランク(血液非接触膜)の1Hr後のAbs(340nm)]-[サンプル(血
液接触膜)の1Hr後のAbs(340nm)]
そして、ポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンを含有する分離膜単体(今回は
比較例1)についても同様にコントロールサンプルとして△Abs(340nm)/Hr
を測定し、その値を100とした場合の比例値を算出した。
本方法では、この比例値を各サンプルのLDH活性とした。LDH活性が高いと、膜表
面への血小板の付着量が多く、血液適合性が低いことを意味する。尚、測定は3回行い、
その平均値として記載した。
血液適合性が優れる分離膜としては、LDH活性が5以下のものが好ましく、LDH活
性が2以下のものは血液適合性が非常に優れると判断できる。
(実施例1)
製膜紡糸原液は、ジメチルアセトアミド(キシダ化学社製、試薬特級)79質量部にポ
リスルホン(ソルベイ社製、P-1700)17質量部及びポリビニルピロリドン(ビー
エーエスエフ社製、K-90)4質量部を溶解して作製した。
中空内液は、ジメチルアセトアミド60質量%水溶液を使用した。
チューブインオリフィス型の紡糸口金から、製膜紡糸原液及び中空内液を吐出させた。
吐出時の製膜紡糸原液の温度は40℃とした。吐出した製膜紡糸原液をフードで覆った落
下部を経て水よりなる60℃の凝固浴に浸漬して凝固させた。紡糸速度は30m/分とし
た。
凝固後、水洗、乾燥を行って中空形状分離膜を得た。水洗温度は90℃、水洗時間は1
80秒とした。なお、乾燥後の膜厚が35μm、内径が185μmとなるように製膜紡糸
原液及び中空内液の吐出量を調整した。
得られた中空糸分離膜を血液処理器に組み込んで成型し、有効面積1.5m2のモジュ
ールを組み上げた。次いでPMEA(Mn20,000,Mw/Mn2.4)0.1gを
エタノール40g/水60gの水溶液(100g)中に溶解させ、コート液を作製した。
組み立てたモジュールを垂直に把持しその上部からコート液を流速100ml/min流
し分離膜表面にコート液を接触させた。
コート液接触後、0.1KMpaのエアーでモジュール内のコート液を吹き飛ばし、真
空乾燥機内にモジュールを入れて35℃15時間真空乾燥させ、大気雰囲気下、25Kg
yでガンマ線滅菌を実施し血液処理器を得た。
得られた血液処理器に対して血液適合性試験を実施した結果、LDH活性は1.3、残
血本数は0であった。
この試料について赤外ATR測定を行った。その赤外吸収曲線を図1に示す。
PMEA由来の赤外吸収(1735cm-1付近)のエステル基(-O-C=O)ピーク
を確認した。
また、赤外吸収(1735cm-1付近)ピーク強度面積P1と赤外吸収(1595cm
-1付近)ピーク強度面積P2の比P1/P2は0.115であった。
この試料について熱分解ガスクロマトグラフ質量分析を行った。
その結果を図4に示す。また、対照として、PMEAについて熱分解ガスクロマトグラ
フ質量分析を行った結果を図2に示す。
PMEAの熱分解物のクロマトグラムのピークはRT1.7minにあるところ(図2
)、同様の痕跡がこの試料にも見られた(図4)。そして、マススペクトルの検索結果(
図5)から、このピークは2-メトキシエタノールのものであることが解った。2-メト
キシエタノールはPMEAの(側鎖部分の)熱分解物が加水分解したものであると考えら
れるので、このことから、実施例1の分離膜表面にはPMEAが存在していることが確認
できた。なお、後述(比較例1)するが、PMEAをコートしていない分離膜についても
同様に熱分解ガスクロマトグラフ質量分析したところ(図3)、RT1.7minにピー
クの痕跡は見られなかった。
この試料について接触角の測定を実施した。
その結果を以下の表に示す。
接触角は60°程度で、プライミングを繰り返しても接触角に変化は見られなかった。
Figure 0006992111000003
この試料についてUFR(ml/Hr・mmHg)を測定したところ、UFR=477
(ml/Hr・mmHg)であった。
(比較例1)
分離膜にコート液を接触させない以外は実施例1と同様にして、有効面積1.5m2
モジュールを組み上げた。これについて血液適合性試験を実施した結果、LDH活性は1
00、残血本数は6であった。
この試料について赤外ATR測定を行ったが、その吸収曲線では赤外吸収(1735c
-1付近)ピークは見られなかった。
この試料について行った熱分解ガスクロマトグラフ質量分析の結果を図3に示す。PM
EA由来の2-メトキシエタノールは確認できなかった。
実施例1と同様に接触角の測定を行った。結果を以下の表に示す。接触角は70°程度
で、プライミングを繰り返しても接触角に変化は見られなかった。
Figure 0006992111000004
(比較例2)
実施例1の製膜紡糸原液にポリビニルピロリドンを加えないこと以外は実施例1と同様
にして分離膜を製膜し、これを血液処理器に組み込んで実施例1と同様に成型し、PME
Aをコートしたものについて血液適合性試験を実施したところ、LDH活性は27、残血
本数は3本であった。
また、この試料について接触角を測定した。結果を以下の表に示す。接触角はプライミ
ングを繰り返すことにより疎水性へ変化した。PMEAの分離膜表面への固定化が不安定
であったと考えられる。
Figure 0006992111000005
(実施例2~5,比較例3)
実施例1と同様にして中空糸分離膜を製膜し、これを血液処理器に組み込んで成型し、
有効面積1.5m2のモジュールを組み上げた。
次いで、コート液のPMEA濃度と水と有機溶媒(エタノール)の混合比を表1のとお
り変化させた以外は実施例1と同様にして、血液処理器を作製し、LDH活性、残血本数
、赤外吸収ピーク比を測定した。
結果を以下の表1にしめす。
PMEA濃度を増加させるとLDH活性は若干改善されるが大差は見られなかった。
一方、混合溶媒比(ETOH/H2O)を変化させると、有機溶媒の量が多くなるにつ
れ、ピーク比(P1/P2)は小さくなる、すなわち分離膜表面のPMEAの存在量が少
なくなる傾向にあり、また、LDH活性は大きくなる、すなわち血液適合性が低下する傾
向にある。但し、LDH活性はいずれも通常市販品が有する値の範疇にある。
Figure 0006992111000006
実施例1と同様に実施例2~5および比較例3の試料について、熱分解ガスクロマトグ
ラフ質量分析で解析した。全ての試料について、PMEAの熱分解物のピークであるRT
1.7minのピークが確認され、マススペクトルの検索結果からこのピークは2-メト
キシエタノールであることが解った。このことから実施例2~5および比較例3において
も膜表面にPMEAが存在していることが確認できた。
(実施例6~7)
製膜紡糸原液に関し、ジメチルアセトアミド(キシダ化学社製、試薬特級)79質量部
に対するポリスルホン(ソルベイ社製、P-1700)の量とポリビニルピロリドン(ビ
ーエーエスエフ社製、K-90)の量を以下の表に示すように変化させた以外は実施例1
と同様にして中空糸分離膜を製膜し、血液処理器に組み込んでPMEAをコートしてLD
H活性を測定した。
結果を以下の表に示す。製膜原液組成を変更してもLDH活性は小さく血液適合性は良
好であった。
Figure 0006992111000007
(比較例4)
市販品CX-21U(東レ製)について同様に血液適合性試験を実施しLDH活性と残
血本数を測定したところ、そのLDH活性は66.2、残血本数は4であった
残血が発生している言うことは、血液適合性は劣ると考えられる。
なお、ここでは、LDH活性測定に使用するHFとしては残血糸を含まないものを選択
している。
本発明の血液処理用分離膜及びその膜を組み込んだ血液処理器は、大気下、ドライ状態
で放射線滅菌され、ドライ状態で供される血液処理用分離膜でありながら、非常に良好な
血液適合性を発現すると言う効果を奏し、血液透析、血液ろ過、血液ろ過透析、血液成分
分画、酸素付与、及び血漿分離などの体外循環療法において好適に用いることができる。

Claims (2)

  1. ポリスルホン系高分子とポリビニルピロリドンを含有する分離膜と、
    該分離膜の表面に設けられ、ポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)を含む被膜と、
    を有する血液処理用分離膜を含む放射線滅菌済血液処理器であって、
    前記分離膜の水分含有率が10質量%以下であり、
    前記血液処理器中の酸素濃度が15%以上である、放射線滅菌済血液処理器。
  2. 前記血液処理用分離膜の表面に対して全反射赤外吸収測定(ATR-IR)を実施したときの赤外吸収曲線において、1735cm-1付近の赤外吸収ピークのピーク強度(P1)と1595cm-1付近の赤外吸収ピークのピーク強度(P2)の比(P1/P2)が0.05以上である、請求項1に記載の放射線滅菌済血液処理器
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