以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
本発明のレーザー溶着体を製造している途中を示す斜視図を図1(a)に、それのA−A矢視部分模式断面図を同図(b)に夫々示す。レーザー溶着体10は、複数の樹脂部材同士のレーザー溶着による接合によってそれら樹脂部材を一体化させたものである。レーザー溶着体10は、第1樹脂部材であるレーザー光弱吸収性樹脂部材1と第2樹脂部材であるレーザー光透過性樹脂部材2とが重ね合わされて、両樹脂部材1,2の重ね合わせ面の一部である接触部位Cで溶着しているものである。両樹脂部材1,2は均一な厚さを有する平坦な矩形の板状をなしている。両樹脂部材1,2は熱可塑性樹脂を含んでおり、レーザー光弱吸収性樹脂部材1はレーザー光吸収剤としてニグロシンを含んでいる。レーザー光吸収剤は、レーザー光の一部を吸収するというレーザー光吸収性と、それの他の一部を透過させるというレーザー光透過性とを有していることによりレーザー光透過吸収剤として作用する。
レーザー光弱吸収性樹脂部材1はレーザー光Lの照射側に配置されているレーザー光被照射部材である。レーザー光Lは、レーザー光透過性樹脂部材1の照射面に対して略垂直に照射される。レーザー光LはX方向へ向かって、例えば速度0.5〜10.0mm/秒で一直線に走査する。それによりレーザー溶着体10は、接触部位Cで大きな溶融プールが形成された後に固化することによって、溶着され一体化した両樹脂部材1,2を有している。
レーザー光弱吸収性樹脂部材1は入射したレーザー光Lの波長の一部を吸収し、別な波長の一部を透過するというレーザー光透過吸収性を有している。このようなレーザー光弱吸収性樹脂部材1の吸光度a1は、例えば半導体レーザーから出射される940nmの波長域を有するレーザー光に対し、0.1〜0.5であることが好ましく、0.11〜0.47であることがより好ましい。吸光度a1がこの範囲であることにより、レーザー光弱吸収性樹脂部材1は、レーザー光透過性樹脂部材2との溶着に必要な発熱特性と、入射したレーザー光Lのエネルギー集中による過剰発熱の抑止とを両立させている。その結果、レーザー光を吸収するレーザー光弱吸収性樹脂部材1側からのレーザー光Lの照射操作によって、レーザー溶着体10を得ることができる。
吸光度a1が上記の上限値を超えると、レーザー光弱吸収性樹脂部材1が過度にレーザー光Lを吸収するので、レーザー光Lの入射箇所でエネルギー集中が生じる。そのためレーザー出力や走査速度のようなレーザー溶着条件の選定の余地が狭まってレーザーの照射をコントロールし難くなるので、レーザー光弱吸収性樹脂部材1に傷や焦げやボイドを生じ易く、レーザー溶着体10に外観不良を引き起こし易い。更にレーザー光弱吸収性樹脂部材1が、レーザー光Lの入射面側で溶融した溶融箇所である溶融プールが接触部位Cにまで到達せず、高い溶着強度を有するレーザー溶着体を得ることができない。一方吸光度a1が上記の下限値未満であると、レーザー光弱吸収性樹脂部材1にレーザー光Lを照射したとしても発熱量が不足し、レーザー光弱吸収性樹脂部材1がレーザー光透過性樹脂部材2との溶着に足りる発熱・溶融を生じない。そのためレーザー溶着体10を得ることができない。
レーザー光弱吸収性樹脂部材1のメルトフローレート(JIS K7210:2014に準拠)は、10〜50g/10分であることが好ましく、11〜30g/10分であることがより好ましい。また、レーザー光弱吸収性樹脂部材1はニグロシンを含有していることにより、このレーザー光弱吸収性樹脂部材1に含まれる熱可塑性樹脂で形成された樹脂部材に比較して低い結晶化温度を有しており、流動性が向上している。特に、レーザー光弱吸収性樹脂部材1がニグロシン硫酸塩を含有している場合、ニグロシン塩酸塩を含有する樹脂部材に比較して更に低い結晶化温度示し、流動性向上の効果が顕著である。そのためレーザー光Lの入射を受けて熱溶融したレーザー光弱吸収性樹脂部材1は、溶融時の流動性に富むので、例え接触部位Cに両樹脂部材1,2の表面粗さやひけに起因する空隙が形成されていたとしても、この空隙に熱溶融したレーザー光弱吸収性樹脂部材1が流れ込んでそれを確りと塞ぐ結果、両樹脂部材1,2が強固に溶着される。このようなレーザー光弱吸収性樹脂部材1のメルトフローレートは、11〜30g/10分であることが好ましく、12〜20g/10分であることがより好ましく、13〜18g/10分であることが一層好ましい。
レーザー光透過性樹脂部材2は、レーザー光弱吸収性樹脂部材1の原材料樹脂と同種又は異種の熱可塑性樹脂で成形されている。レーザー光透過性樹脂部材2の吸光度a2は、例えば半導体レーザーから出射される940nmの波長域を有するレーザー光に対し、最大でも0.1に満たない、0.01〜0.098であることが好ましく、0.01〜0.09であることがより好ましく、0.05〜0.09であることが一層好ましく、0.07〜0.09であることがより一層好ましい。またレーザー光透過率は20%以上であることが好ましい。このような範囲の吸光度a2は、レーザー光透過性樹脂部材2の原料として含有される熱可塑性樹脂が元来有する吸光度によって得ることができる。一方、この熱可塑性樹脂の吸光度が上記の下限値未満である場合、レーザー光透過性樹脂部材2の原材料組成物にニグロシンのようなレーザー光吸収剤を極少量、例えば0.001〜0.08質量%の含有量で含ませることによって上記範囲の吸光度a2をレーザー光透過性樹脂部材2に付与できる。含ませたニグロシンがレーザー光を吸収することにより、レーザー光弱吸収性樹脂部材1が生じる熱よりも低い温度でレーザー光透過性樹脂部材2が発熱して、余熱効果が発生する。それにより両樹脂部材1,2間での温度差を小さくしたレーザー溶着をすることが可能である。吸光度a2は、特に0.07〜0.098であることが好ましく、0.07〜0.09であることがより好ましい。
また、吸光度a1と吸光度a2との吸光度比a1/a2は、1.3〜45であることが好ましく、1.5〜40であることがより好ましく、1.7〜20であることが一層好ましい。
なお、両樹脂部材1,2が同一色調又は同系色調であると、それらの界面や溶着跡が目立たず、意匠性に富むレーザー溶着体10を得ることができる。色調は濃色であることが好ましく、特に黒色色調とすることが好ましい。例えば、レーザー光透過性樹脂部材2の原料である熱可塑性樹脂にアントラキノンを含有する着色剤、具体的にアントラキノン青色染料と赤色染料と黄色染料を含有する着色剤を添加することがより好ましい。
このようなレーザー溶着体10は、次のようにして製造される。その製造工程は、例えば下記の工程A〜Dを有している。
工程A:熱可塑性樹脂及びレーザー光吸収剤を含み、必要に応じて、着色剤や添加剤を含んでいてもよいレーザー光弱吸収性樹脂部材1を成形するためのレーザー光弱吸収性樹脂組成物を調製する。レーザー光吸収剤の含有量は、この熱可塑性樹脂が元来有する吸光度に基づいて、吸光度a1が上記の0.1〜0.5の範囲に収まるように調整される。次いで成形機を用い、例えば矩形の板状のレーザー光弱吸収性樹脂部材1を成形する。
工程B:レーザー光弱吸収性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂と同種又は異種の熱可塑性樹脂を含有するレーザー光透過性樹脂組成物を調製する。この熱可塑性樹脂が著しく低い吸光度を有している場合、必要に応じて、レーザー光吸収剤及び/又は着色剤をレーザー光透過性樹脂組成物に添加し、吸光度a2を上記の0.1未満、具体的に0.01〜0.098、更に0.01〜0.09の範囲に収まるように調整してもよい。このようにして、レーザー光Lの入射により接触部位Cで溶着できる程度の発熱を生じるレーザー光透過性樹脂部材2を成形するためのレーザー光透過性樹脂組成物を調製できる。次いで成形機を用い、例えば矩形の板状のレーザー光透過性樹脂部材2を、成形する。
工程C:レーザー光弱吸収性樹脂部材1とレーザー光透過性樹脂部材2とを重ね合わせて接触部位Cを形成する。このとき、両樹脂部材1,2を治具で挟んで加圧して固定してもよい。更にレーザー光弱吸収性樹脂部材1のレーザー光Lの入射側の面に、ガラス板や反射防止膜のような反射防止機能を有する部材や、レーザー光を所望の範囲で遮蔽したり減衰させたりしないガラス板のような透過性部材を、配置してもよい。
工程D:所定の条件に調整されたレーザー光Lを、レーザー光弱吸収性樹脂部材1側から接触部位Cへ、X方向に走査させながら照射する。レーザー光Lの一部は、レーザー光弱吸収性樹脂部材1を透過する。また別な一部は、レーザー光弱吸収性樹脂部材1に吸収され、接触部位Cを発熱させる。レーザー光弱吸収性樹脂部材1は、レーザー光Lを吸収した箇所でそれに含まれる熱可塑性樹脂の融点以上に発熱する。それにより熱可塑性樹脂が液状に溶融し、レーザー光弱吸収性樹脂部材1内の一部であたかも液体が溜まっているかのような溶融プールが形成される。
また溶融プールの熱は、レーザー光弱吸収性樹脂部材1とレーザー光透過性樹脂部材2との界面に輻射及び伝導する。一方レーザー光透過性樹脂部材2は、吸光度a2を有していることにより、レーザー光弱吸収性樹脂部材1を透過したレーザー光Lの一部をすべて透過せず、極僅かに吸収する。溶融プールの熱伝導とレーザー光Lの極僅かな吸収とによって、レーザー光透過性樹脂部材2は、接触部位Cで発熱して溶融する。その結果溶融プールは、接触部位Cでレーザー光弱吸収性樹脂部材1からレーザー光透過性樹脂部材2へ向かって広がるように成長する。
このとき、レーザー光弱吸収性樹脂部材1の吸光度a1がレーザー光透過性樹脂部材2の吸光度a2よりも大きいことに起因して、レーザー光弱吸収性樹脂部材1側で形成される溶融プールは、レーザー光透過性樹脂部材2側のそれよりも大きい体積を有している。特に、接触部位Cが略水平に位置するように両樹脂部材1,2が作業台に載置されていると、レーザー光弱吸収性樹脂部材1で生成した溶融プールが重力によってレーザー光透過性樹脂部材2へ向かって成長し易い。この場合、接触部位Cのより広い範囲で溶融プールを成長させることができる。この溶融プールが冷却され、両樹脂部材1,2に含まれる熱可塑性樹脂は固化する。それにより接触部位Cで、レーザー光弱吸収性樹脂部材1側に広がりつつ、レーザー光透過性樹脂部材2にわたった断面略楕円形の融着部位が形成される。その結果両樹脂部材1,2は、溶着した接触部位Cで強固に接合され、レーザー溶着体10が完成する。
なお工程Dにおいて、レーザー光Lの入射側の面に、低温又は室温の空気や不活性ガスを吹き付けるという冷却処理を施してもよい。また、レーザー溶着の際、両樹脂部材1,2がガスを生じる場合、ガス処理装置を用いてこれを処理してもよい。それによりレーザー光被照射面のレーザー焼け(焦げ)を防止できる。
図2(a)に別なレーザー溶着体10を製造している途中を示す模式断面図を示す。レーザー光Lの照射側に配置されているレーザー光弱吸収性樹脂部材1は、これに重なっているレーザー光透過性樹脂部材2と接触部位Cで溶着されている。一方レーザー光透過性樹脂部材2は、二分割されたレーザー光透過性樹脂部材片2a,2bを有している。レーザー光透過性樹脂部材片2aの吸光度a2−1、及びレーザー光透過性樹脂部材片2bの吸光度a2−2は、例えば半導体レーザーから出射される940nmの波長域を有するレーザー光に対し、最大でも0.1に満たない、0.01〜0.098であることが好ましく、0.01〜0.09であることがより好ましく、0.05〜0.09であることが一層好ましく、0.07〜0.09であることがより一層好ましい。吸光度a2−1及び吸光度a2−2はこの値の範囲内であれば互いに同一であっても異なっていてもよい。またレーザー光弱吸収性樹脂部材1の吸光度a1と吸光度a2−1との吸光度比a1/a2−1は1.3〜45であることが好ましく、0.07〜0.09であることがより好ましい。吸光度a1と吸光度a2−2との吸光度比a1/a2−2も吸光度比a1/a2−1と同様である。吸光度比a1/a2−1及び吸光度比a1/a2−2はこの値の範囲内であれば互いに同一であっても異なっていてもよい。
レーザー光透過性樹脂部材片2a,2bは、互いに隣り合って端部同士を接触させている当接部位Nで溶着されている。レーザー光Lが当接部位Nの直上に照射されている。それによってレーザー光弱吸収性樹脂部材1とレーザー光透過性樹脂部材片2a,2bとは、接触部位C及び当接部位Nで溶着されて一体化している。
図2(b)に別なレーザー溶着体10を製造している途中を示す模式断面図を示す。レーザー光弱吸収性樹脂部材1とレーザー光透過性樹脂部材2とが重ね合わされて、接触部位Cが形成されている。レーザー光弱吸収性樹脂部材1は、レーザー光弱吸収性樹脂部材片1a,1bに二分割されており、それらが隣り合って端部同士を接触させている。それにより、当接部位Nが形成されている。レーザー光弱吸収性樹脂部材1側から、当接部位Nにレーザー光Lが照射されており、それによってレーザー光弱吸収性樹脂部材片1a,1bとレーザー光透過性樹脂部材2とは、接触部位C及び当接部位Nで溶着されて一体化している。
図2(c)に別なレーザー溶着体10を製造している途中を示す模式断面図を示す。矩形をなしているレーザー光弱吸収性樹脂部材1はそれの一辺で第1継しろ部1cを、矩形をなしているレーザー光透過性樹脂部材2はそれの一辺で第2継しろ部2cを、夫々有している。両継しろ部1c,2cは、同一の高さの段差形をなしている。両継しろ部1c,2cの段差形が対向しかつ互い違いに組み合わされていることにより、両樹脂部材1,2が重なった接触部位C、並びにそれらの端部同士が突き合わされた上側突合せ部位B1及び下側突合せ部位B2が形成されている。接触部位Cにおいて、第1継しろ部1cがレーザー光Lの入射側に配置されている。レーザー光Lが第1継しろ部1c側から照射されており、それによってレーザー光弱吸収性樹脂部材1とレーザー光透過性樹脂部材2とは、接触部位Cで溶着されて一体化している。
更に、上側突合せ部位B1及び下側突合せ部位B2へもレーザー光Lを照射することにより、両樹脂部材1,2は接触部位Cに加えて、それら突合せ部位B1,B2も溶着されていてもよい。それによって、より一層高強度で溶着した両樹脂部材1,2により構成されたレーザー溶着体10を得ることができる。なおこの場合レーザー光Lは、レーザー光弱吸収性樹脂部材1から入射するように上側突合せ部位B1及び下側突合せ部位B2へ向かって斜めに照射してもよい。
図2(d)に別なレーザー溶着体10を製造している途中を示す模式断面図を示す。レーザー光弱吸収性樹脂部材1とレーザー光透過性樹脂部材2とが重ね合わされて、接触部位Cが形成されている。レーザー光弱吸収性樹脂部材1は二分割されてレーザー光弱吸収性樹脂部材片1a,1bを、レーザー光透過性樹脂部材2も二分割されてレーザー光透過性樹脂部材片2a,2bを、夫々有している。それにより、レーザー光弱吸収性樹脂部材片1a,1bの端部同士が接触した第1当接部位N1、及びレーザー光透過性樹脂部材片2a,2bの端部同士が接触した第2当接部位N2が夫々形成されている。第1当接部位N1はレーザー光透過性樹脂部材片2aと、第2当接部位N2はレーザー光弱吸収性樹脂部材片1bと、夫々重なっている。すなわち、第1当接部位N1と第2当接部位N2とは、互いに重ならないようにずれて形成されている。
一方レーザー光Lは、レーザー光弱吸収性樹脂部材片1bの面上でX方向(図1(a)参照・図2(d)中、奥行方向)に沿いつつ、かつこれに直交するY方向(図2(d)中、左右方向)にも走査している。それにより、両樹脂部材1,2が接触部位Cの広範囲で溶着されていることに加え、両当接部位N1,N2でも溶着されている。更に、両当接部位N1,N2がずれていることにより、第1当接部位N1がレーザー光透過性樹脂部材片2aに、第2当接部位N2がレーザー光弱吸収性樹脂部材1bに、夫々支持されている。そこのように両樹脂部材1,2は、広範囲にわたって溶着されている接触部位Cと、各樹脂部材片1b,2aに夫々支持されつつ溶着した各当接部位N1,N2とにより、高強度に溶着されている。その結果、このレーザー溶着体10は、曲げや捻りのような外力を受けても、溶着された部位で剥離を生じ難い。
両樹脂部材1,2が任意の形状に成形されていていることにより、レーザー溶着体10は湾曲や屈曲したロール状、円筒状、角柱状、又は箱状をなしていてもよい。例えばレーザー光透過性樹脂部材2は、図3(a)に示すように開口した両端を有する筒形に成形されていてもよく、同図(b)に示すように複数箇所ですべてを山折り又は谷折りに折り曲げられて又は成形されそれの端部同士を突き合せつつ接触させている当接部位Nを有していてもよい。レーザー光透過性樹脂部材2がこのような形状を有していても、レーザー光弱吸収性樹脂部材1をレーザー光Lの照射側に配置して、そこへレーザー光Lを照射することにより、両樹脂部材1,2の接触部位C及び/又はレーザー光透過性樹脂部材2の端部同士が突き合わされた当接部位Nで両樹脂部材1,2が溶着されたレーザー溶着体10を得ることができる。
図4に示すように、レーザー光透過性樹脂部材である既存の透明な樹脂製ボトル3にレーザー光弱吸収性樹脂部材であるラベル4を重ね、その上からレーザー光Lを照射することにより、樹脂製ボトル3の湾曲した胴部とラベル4との接触部位で、両者を溶着させてもよい。それによれば、樹脂製ボトル3を用い、必要に応じて事後的にレーザー溶着体10を得ることができる。
また図5(a)に示すように、レーザー光透過性樹脂部材片である円筒形部材5a,5bの端部同士を接触させて環状をなした当接部位を形成し、レーザー光弱吸収性樹脂部材である帯状部材6で当接部位を覆って接触部位を形成した後、同図(b)に示すように帯状部材6で沿ってレーザー光Lを走査させながら照射してもよい。それによれば、当接部位N及び接触部位Cで円筒形部材5a,5bと帯状部材6とが溶着され、円筒形部材5a,5bを継ぎ合わせたレーザー溶着体10が得られる。
更に、図6(a)に示すようにレーザー光透過性樹脂部材である円筒形容器7の開口部に、レーザー光弱吸収性樹脂部材である蓋体8を嵌めて、円筒形容器7の開口縁7aと蓋体8との接触部位を形成してから、同図(b)に示すように蓋体8側からこの接触部位Cに沿ってレーザー光Lを走査させながら照射してもよい。それによれば、接触部位Cで円筒形容器7と蓋体8とを溶着させたレーザー溶着体10が得られる。
レーザー光弱吸収性樹脂部材1とレーザー光透過性樹脂部材2とを突き合わせて形成した突合せ部位に向かって、レーザー光弱吸収性樹脂部材1のレーザー光被照射面に対して斜めに入射するようにレーザー光Lを照射して、レーザー溶着体10を作製してもよい。例えば、図7に示すように、レーザー光弱吸収性樹脂部材1とレーザー光透過性樹脂部材2との端面を、互いに同じ傾斜角を有するように傾斜させ、この傾斜端面を突き合わせて突合せ部位Bを形成してもよい。この場合レーザー光Lの照射角は、傾斜端面に対し略垂直に照射する角度であることが好ましい。それにより、突合せ部位Bが傾斜していても、突合せ部位Bの広範囲にわたった溶着部位が形成されて両樹脂部材1,2が強固に接合したレーザー溶着体10が得られる。
レーザー光Lとして、可視光より長波長域の800〜1600nmの赤外光線、好ましくは800〜1100nmに発振波長を有するレーザー光を用いることができる。例えば、固体レーザー(Nd:YAG励起、及び/又は半導体レーザー励起)、半導体レーザー、チューナブルダイオードレーザー、チタンサファイアレーザー(Nd:YAG励起)を好適に用いることができる。また、その他に700nm以上の波長の赤外線を発生するハロゲンランプやキセノンランプを用いてもよい。またレーザー光の照射角度は、レーザー光弱吸収性樹脂部材1の面に対して、垂直方向からでも斜め方向からでもよく、一方向又は複数方向から照射してもよい。レーザー光の出力は、走査速度と、両樹脂部材1,2の吸光度a1,a2とに応じ、適宜調整される。
700nm以上の波長の赤外線を発生するハロゲンランプを用いる場合、例えばランプ形状として、帯状にランプを配したものを挙げることができる。照射態様としては、例えば、ランプ照射部が移動することにより広範囲にわたってレーザー光を照射可能な走査タイプ、同様に、溶着すべき部材が移動するマスキングタイプ、及び溶着すべき樹脂部材に対して多方面からランプを同時照射させるタイプが挙げられる。また照射は、適宜、赤外線の照射幅、照射時間、及び照射エネルギーのような諸条件を調整して行なうことができる。ハロゲンランプは近赤外域を中心としたエネルギー分布を持っているため、そのエネルギー分布の短波長側、すなわち可視領域においてエネルギーが存在することがある。このような場合、入射した部材の表面に溶着痕を生じることがあるため、例えばカットフィルターを用いて可視領域のエネルギーを遮断してもよい。
両樹脂部材1,2の厚さは、200〜5000μmであることが好ましい。厚さが200μm未満であるとレーザー光エネルギーのコントロールが難しく、レーザー溶着の際に、熱溶融の過不足が生じ、過熱により破断したり熱不足によって十分な接合強度が得られなくなることがある。一方、厚さが5000μmを超えると、溶着すべき部位までの距離が長いため、レーザー光弱吸収性樹脂部材1に入射したレーザー光が、それの内部にまで透過せずに減衰してしまい、十分な接合強度が得られない。
両樹脂部材1,2に含有されるレーザー光吸収剤として、ニグロシンを挙げたが、その他にニグロシンの塩、アジン系化合物、アニリンブラック、フタロシアニン、ナフタロシアニン、ポルフィリン、シアニン系化合物、ペリレン、クオテリレン、アゾ系金属錯体、近赤外吸収性のアントラキノン、スクエア酸、及びインモニウム染料が挙げられる。ニグロシンの塩はニグロシン硫酸塩であることが好ましい。これらは一種だけ用いてもよく、複数種を混合して用いてもよいレーザー光吸収剤の吸収係数εd(ml/g・cm)は、1000〜8000であり、好ましくは1000〜6000、より好ましくは3000〜6000(ml/g・cm)である。
吸収係数(吸光係数)εdの測定方法は、レーザー光吸収剤0.05gを精秤し、50mlメスフラスコを用いて、例えば、溶媒N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解後、その1mlを、50mlメスフラスコを用いてDMFで希釈して測定サンプルとし、分光光度計(株式会社島津製作所製、商品名:UV1600PC)を用いて、吸光度測定を行なうというものである。
熱可塑性樹脂の着色は、装飾効果、色分け効果、成形品の耐光性向上、内容物の保護や隠蔽の目的で行われる。産業界において最も重要なのは、黒色着色である。また樹脂への分散性や樹脂との相溶性が良好であることから、油溶性染料による着色が適している。中でも、黒色着色剤としてもレーザー光吸収剤としても用いることができ、より高い接合強度を得ることができるニグロシンが好適である。
ニグロシンとして、C.I.Solvent Black 5及びC.I.Solvent Black 7としてカラーインデックスに記載されているような黒色アジン系縮合混合物が挙げられる。このようなニグロシンは、例えば、アニリン、アニリン塩酸塩及びニトロベンゼンを、塩化鉄の存在下、反応温度160〜180℃で酸化及び脱水縮合することにより合成し得る。熱可塑性樹脂の流動性向上の観点から、C.I.Solvent Black 5がより好ましい。
ニグロシンの体積抵抗率は、0.5×109〜5.0×1011Ω・cmであることが好ましく、3.0×109〜1.0×1011Ω・cmであることがより好ましい。無機塩の不純物を取り除くという精製工程を経たニグロシンは、両樹脂部材1,2の原料である樹脂組成物の物性を低下させないことから、好適に用いることができる。また、高い体積抵抗率を示すニグロシンを含有する材料は、電気・電子機器の部品や精密機器の部品に例示されるような高い絶縁性が要求される部品に好適に使用できるので、産業界において幅広く適用することができる。なお、ニグロシンの体積抵抗率は次のように求められる。ニグロシンの一定量を量った試料に200kgfの荷重をかけて固め、この試料の体積を求める。次いでその試料をデジタル超高抵抗/微少電流計(株式会社エーディーシー製、商品名:8340A)で測定する。
ニグロシンは、硫酸塩であることが好ましい。ニグロシン硫酸塩は、流動性向上剤、表面光沢向上剤、及び結晶化温度低下剤としての働きを有しているため、レーザー溶着時の樹脂組成物の流動性を向上させる。
触媒として塩化鉄を用いたニグロシンの生成反応系によれば、塩化鉄や過剰の塩酸存在下での反応が行われるため、ニグロシン塩酸塩が生成する。ニグロシン塩酸塩からニグロシン硫酸塩を得るのに、ニグロシン中で塩を構成する塩化物イオンの全て又は相当部分が、硫酸イオンに置換される処理であれば特に制限されず、公知の反応方法を用い得る。なお、ニグロシン硫酸塩は、C.I.Solvent black 5に属する油溶性黒色染料であり、C.I.Acid Black 2に属する水溶性黒色染料でない。
ニグロシン硫酸塩を製造するのに、具体的に、例えば、ニグロシンを希硫酸に分散させ、適度に加熱(例えば、50〜90℃)する方法が挙げられる。また例えば、ニグロシンを製造して得られた縮合反応液を希硫酸に分散させ、適度に加熱(例えば、50〜90℃)することにより製造される。更に例えば、スルホン化が起きないように、反応液温度を低温に調節しながらニグロシンを濃硫酸に溶解させたものを、大量の氷水に加えて結晶を析出させることによってもニグロシン硫酸塩を製造できる。
ニグロシン硫酸塩において、硫酸イオン濃度が、0.3〜5質量%、好ましくは0.5〜3.5質量%であることにより、熱可塑性樹脂の結晶温度の低下効果が大きくなるので、簡便に安定してレーザー溶着を行うことができる。
このようなニグロシンとして、オリヱント化学工業株式会社製の商品名:NUBIAN BLACKシリーズが市販されている。
吸光度a1を調整するニグロシンのようなレーザー光吸収剤の含有量は、レーザー光弱吸収性樹脂部材1中、0.001〜0.5質量%であり、好ましくは0.001〜0.4質量%である。例えば、レーザー光弱吸収性樹脂部材1に熱可塑性樹脂としてポリアミド樹脂を用いた場合、レーザー光吸収剤の含有率は、レーザー光弱吸収性樹脂部材1中、0.01〜0.2質量%であることが好ましく、0.01〜0.15質量%であることがより好ましい。この含有量が0.01質量%未満であると、吸光度a1が上記の下限値に満たない。そのためレーザー光のエネルギーの一部を吸収したレーザー光弱吸収性樹脂部材1の発熱量が過少であるため、それらが十分に昇温せず、接触部位C、突合せ部位B、及び当接部位Nにおける溶着が不足して両樹脂部材1,2の接合強度が不足する。また、含有量が0.2質量%を超えると、吸光度a1が上記の上限値を超えてしまう。そのためレーザー光透過率が過度に低下し、レーザー光弱吸収性樹脂部材1のようなレーザー光入射側の樹脂部材のみが、エネルギー吸収を過剰に生じて発熱して溶融するので、両樹脂部材1,2を均一に溶着させることができず、高い接合強度が得られない。更にレーザー光の入射側に配置された樹脂部材は、レーザー光のエネルギーを過剰に吸収すると、それの原料である熱可塑性樹脂が有する物理的・化学的特性のような樹脂特性が失われ易い。
一方吸光度a2として、レーザー光透過性樹脂部材2に含まれる熱可塑性樹脂が元来有する吸光度をそのまま用いることができる。この場合レーザー光透過性樹脂部材2は、レーザー光吸収剤や着色剤を含有していなくてもよい。この熱可塑性樹脂の吸光度が上記の吸光度a2の下限値に満たない場合、熱可塑性樹脂に少量のレーザー光吸収剤を添加して吸光度a2を上記の値の範囲に収めることができる。
両樹脂部材1,2に含まれる熱可塑性樹脂は、レーザー光吸収剤を含有させることができるものであれば、特に限定されない。
この熱可塑性樹脂として、具体的に例えば、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリアミド樹脂(ナイロン(登録商標)、PA)、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂のようなポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、メタクリル樹脂、アクリルポリアミド樹脂、エチレンビニルアルコール(EVOH)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂やポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂のようなポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアリルサルホン樹脂、フッ素樹脂、及び液晶ポリマーが挙げられる。
熱可塑性樹脂は、これを形成する単量体の複数種が結合した共重合体樹脂であってもよい。例えば、AS(アクリロニトリル−スチレン)共重合体樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)共重合体樹脂、AES(アクリロニトリル−EPDM−スチレン)共重合体樹脂、PA−PBT共重合体、PET−PBT共重合体樹脂、PC−PBT共重合体樹脂、及びPC−PA共重合体樹脂が挙げられる。またポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、及びポリエステル系熱可塑性エラストマーのような熱可塑性エラストマー;これらの樹脂類を主成分とする合成ワックス及び天然ワックスが挙げられる。なお、これらの熱可塑性樹脂の分子量は、特に限定されない。また、これらの熱可塑性樹脂を単独で又は複数種を混合して用いてもよい。
この熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂であることが好ましい。中でもニグロシンのようなレーザー光吸収剤と良好な相溶性を示す観点から、ポリアミド樹脂、及びポリカーボネート樹脂がより好ましい。
本発明におけるポリアミド樹脂とは、その分子中に酸アミド基(−CONH−)を有し、加熱溶融できるポリアミド重合体である。好ましくは、脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とからなる塩及び芳香族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とからなる塩より選ばれる少なくとも1種を構成単位(a)として含むポリアミド樹脂である。ポリアミド樹脂全構成単位中の前記構成単位(a)の割合は、好ましくは30モル%以上であり、より好ましくは40モル%以上である。更に具体的には、ラクタムの重縮合物、ジアミンとジカルボン酸との重縮合物、ω−アミノカルボン酸の重縮合物等の各種ポリアミド樹脂、又はそれ等の共重合ポリアミド樹脂やブレンド物等が挙げられる。ポリアミド樹脂の重縮合の原料であるラクタムとして、例えば、ω−ラウロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ラウリルラクタム、α−ピロリドン、α−ピペリドン、及びω−ラウロラクタム等が挙げられる。
ジアミンとして、例えば、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、(2,2,4−又は2,4,4−)トリメチルヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、5−メチルノナンメチレンジアミンのような脂肪族ジアミン;1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、及びアミノエチルピペラジンのような脂環族ジアミン;メタキシリレンジアミン(MXDA)、パラキシリレンジアミン、パラフェニレンジアミン、ビス(4−アミノフェニル)エーテル、ビス(アミノメチル)ナフタレンのような芳香族のジアミン等が挙げられる。
ジカルボン酸として、例えば、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、グルタル酸、ピメリン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカジオン酸、ヘキサデカジオン酸、ヘキサデセンジオン酸、エイコサンジオン酸、ジグリコール酸、2,2,4−トリメチルアジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、キシリレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
ω−アミノカルボン酸として、例えば、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸、2−クロロ−パラアミノメチル安息香酸、及び2−メチル−パラアミノメチル安息香酸等が挙げられる。
ポリアミド樹脂として、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド69、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド96、非晶質性ポリアミド、高融点ポリアミド、ポリアミドRIM、ポリアミド4、ポリアミド6I、ポリアミド56、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミドMXD6、ポリアミドMP6、ポリアミドMP10、及びそれらの2種類以上の共重合体が挙げられる。この共重合体として、具体的に、ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド6/66/610共重合体、ポリアミド6/66/11/12共重合体、及び結晶性ポリアミド/非結晶性ポリアミド共重合体が挙げられる。またポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂と他の合成樹脂との混合重合体であってもよい。そのような混合重合体の例として、ポリアミド/ポリエステル混合重合体、ポリアミド/ポリフェニレンオキシド混合重合体、ポリアミド/ポリカーボネート混合重合体、ポリアミド/ポリオレフィン混合重合体、ポリアミド/スチレン/アクリロニトリル混合重合体、ポリアミド/アクリル酸エステル混合重合体、及びポリアミド/シリコーン混合重合体が挙げられる。これらのポリアミド樹脂を、単独で又は複数種を混合して用いてもよい。
ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂は、(−φ−S−)[φは置換又は非置換のフェニレン基]で表わされるチオフェニレン基からなる繰り返し単位を主とする重合体である。PPS樹脂は、パラジクロルベンゼンと硫化アルカリとを高温、高圧下で反応させて合成したモノマーを、重合させたものである。PPS樹脂は、重合助剤を用いた重合工程だけで目的の重合度にさせた直鎖型のものと、低分子の重合体を酸素存在下で熱架橋させた架橋型のものとの二タイプに大まかに分類される。特に、直鎖型のPPS樹脂は、レーザー光透過率が優れている点で好ましい。また、PPS樹脂の溶融粘度は、溶融混練が可能であれば特に制限はないが、通常5〜2000Pa.sの範囲であることが好ましく、100〜600Pa・sの範囲であることがより好ましい。
また、PPS樹脂はポリマーアロイであってもよい。例えば、PPS/ポリオレフィン系アロイ、PPS/ポリアミド系アロイ、PPS/ポリエステル系アロイ、PPS/ポリカーボネート系アロイ、PPS/ポリフェニレンエーテル系アロイ、PPS/液晶ポリマー系アロイ、PPS/ポリイミド系アロイ、及びPPS/ポリサルホン系アロイが挙げられる。PPS樹脂は、耐薬品性・耐熱性と高い強度とを有するので、例えば電子部品や自動車部品の用途に適している。
ポリエステル樹脂として、例えばテレフタル酸とエチレングリコールとの重縮合反応によって得られるポリエチレンテレフタレート樹脂、及びテレフタル酸とブチレングリコールとの重縮合反応によって得られるポリブチレンテレフタレート樹脂が挙げられる。その他のポリエステル樹脂の例として、テレフタル酸成分中、15モル%以下(例えば0.5〜15モル%)、好ましくは5モル%以下(例えば0.5〜5モル%)、及び/又はエチレングリコール及びブチレングリコールのようなグリコール成分中、15モル%以下(例えば0.5〜15モル%)、好ましくは5モル%以下(例えば0.5〜5モル%)のように、テレフタル酸成分やグリコール成分中の一部を、例えば炭素数1〜4のアルキル基のような置換基で置換した共重合体が挙げられる。またポリエステル樹脂は、単独で又は複数種を混合して用いてもよい。
ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸化合物として具体的に、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体が好ましく使用される。芳香族ジカルボン酸として、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル−2,2’−ジカルボン酸、ビフェニル−3,3’−ジカルボン酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルフォン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルイソプロピリデン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、アントラセン−2,5−ジカルボン酸、アントラセン−2,6−ジカルボン酸、p−ターフェニレン−4,4’−ジカルボン酸、及びピリジン−2,5−ジカルボン酸等が挙げられ、テレフタル酸を好ましく使用できる。これらの芳香族ジカルボン酸は、2種以上を混合して使用してもよい。これらは周知のように、遊離酸以外にジメチルエステル等をエステル形成性誘導体として重縮合反応に用いることができる。なお、少量であればこれらの芳香族ジカルボン酸と共にアジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、及びセバシン酸等のような脂肪族ジカルボン酸や、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、及び1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等のような脂環式ジカルボン酸を1種以上混合して、使用することができる。
ポリエステル樹脂を構成するジヒドロキシ化合物として、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、へキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−メチルプロパン−1,3−ジオール、ジエチレングリコール、及びトリエチレングリコール等のような脂肪族ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール等の脂環式ジオール等、及びそれらの混合物等が挙げられる。なお、少量であれば、分子量400〜6000の長鎖ジオール、すなわち、ポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、及びポリテトラメチレングリコール等を1種以上共重合してもよい。また、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、及び2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のような芳香族ジオールを用いてもよい。また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、及びトリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため、脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することができる。
ポリエステル樹脂として、主としてジカルボン酸とジオールとの重縮合を含むもの、即ち樹脂全体の50質量%、好ましくは70質量%以上がこの重縮合物を含むものが用いられる。ジカルボン酸として芳香族カルボン酸が好ましく、ジオールとして脂肪族ジオールが好ましい。酸成分の95モル%以上がテレフタル酸であり、アルコール成分の95質量%以上が脂肪族ジオールであるポリアルキレンテレフタレートがより好ましい。その例として、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンテレフタレートが挙げられる。これらはホモポリエステルに近いもの、即ち樹脂全体の95質量%以上が、テレフタル酸成分及び1,4−ブタンジオール又はエチレングリコール成分であることが好ましい。ポリエステル樹脂として、主成分がポリブチレンテレフタレートであることが好ましい。ポリブチレンテレフタレートは、イソフタル酸、ダイマー酸、及びポリテトラメチレングリコール(PTMG)等のようなポリアルキレングリコール等の共重合物であってもよい。
ポリオレフィン系樹脂として、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1のようなα−オレフィンの単独重合体及びこれらの共重合体、並びにこれらと他の共重合可能な不飽和単量体との共重合体(共重合体としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体を挙げることができる。)が挙げられる。より具体例には、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、及びエチレン−アクリル酸エチル共重合体のようなポリエチレン系樹脂;プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体又はランダム共重合体、及びプロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体のようなポリプロピレン系樹脂;ポリブテン−1、及びポリ4−メチルペンテン−1が挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂は、単独で又は複数種を混合して用いてもよい。これらの中でも、ポリエチレン樹脂及び/又はポリプロピレン樹脂が好ましい。より好ましくは、ポリプロピレン系樹脂である。このポリプロピレン系樹脂の分子量は特に制限されず、広範囲の分子量のものを使用できる。
なお、ポリオレフィン系樹脂として、不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性された酸変性ポリオレフィンや発泡ポリプロピレンのように樹脂自体に発泡剤を含有したものを用いてもよい。また、エチレン−α−オレフィン系共重合体ゴム、エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン系化合物共重合体(例えばEPDM)、エチレン−芳香族モノビニル化合物−共役ジエン系化合物共重合ゴム、及びこれらの水添物のゴム類を、ポリオレフィン系樹脂が含有していてもよい。
ポリカーボネート樹脂は、主鎖に炭酸エステル結合を持つ熱可塑性樹脂であり、優れた機械的性質、耐熱性、耐寒性、電気的性質、及び透明性を備えているエンジニアプラスチックである。現在、工業的に量産されているポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールAから得られる芳香族ポリカーボネートである。これの製法として、ホスゲン法及びエステル交換法が挙げられる。ポリカーボネート樹脂の化学構造式は、芳香族炭化水素の炭酸エステルを多数連結した直鎖状分子中、分子主鎖に嵩張ったベンゼン核とフレキシブルなカーボネートとを有している。前者は高い熱変形温度や優れた物理的及び機械的性質を与え、後者は、成形性と柔軟性に寄与するが、アルカリで加水分解し易い。
レーザー光弱吸収性樹脂部材1は、黒色着色剤であるニグロシンのようなレーザー光吸収剤を含んでいるため、それの含有量に応じて灰色から黒色の色調を呈している。しかし0.1〜0.5の吸光度a1を示すように、レーザー光吸収剤の含有量が決定されるので、レーザー光弱吸収性樹脂部材1の色濃度が十分でなく、例えば灰色のように淡色を呈している場合がある。このような場合、レーザー光弱吸収性樹脂部材1に所望の色濃度を付与するのに、これを成形するためのレーザー光弱吸収性樹脂組成物に着色剤を添加してもよい。また、レーザー光透過性樹脂部材2を成形するためのレーザー光透過性樹脂組成物にも、着色剤を添加することができる。それにより、例えば、両樹脂部材1,2に同一色を付与して、両者の界面や溶着跡を目立たなくすることができる。
着色剤は、この樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂の色相及び色濃度に応じて、選択される。例えば、濃色の黒色を両樹脂部材1,2に付与する場合、青色着色剤と赤色着色剤と黄色着色剤との組合せ、紫色着色剤と黄色着色剤との組合せ、緑色着色剤と赤色着色剤との組合せのように、複数種の着色剤を組み合わせて黒色着色剤を調製することができる。
このような着色剤は、可視域を吸収し、熱可塑性樹脂との相溶性に富み、かつレーザー光に対して低い散乱特性を有する複数種の染料の組合せであるものが好ましい。更に着色剤は、両樹脂部材1,2の成形時やレーザー光の照射による溶融時の高温に晒されても退色し難く、優れた耐熱性を有し、更にレーザー光の近赤外域の波長に吸収性を有さないものであることがより好ましい。
このような着色剤として、具体的に、アゾメチン系、アントラキノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、ジケトピロロピロール系、アントラピリドン系、イソインドリノン系、インダンスロン系、ペリノン系、ペリレン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、キノリン系、及びトリフェニルメタン系の有機染顔料が挙げられる。レーザー溶着に用いられるレーザー光に対して透過性を有するアントラキノン染料を少なくとも含有する着色剤が好ましい。
このようなアントラキノン染料は、アントラキノン系油溶性染料であることが好ましく、具体的に例えば、C.I.Solvent Blue 11、12、13、14、26、35、36、44、45、48、49、58、59、63、68、69、70、78、79、83、87、90、94、97、98、101、102、104、105、122、129、及び132;C.I.Disperse Blue 14、35、102、及び197;C.I.Solvent Green 3、19、20、23、24、25、26、28、33、及び65;C.I.Solvent Violet 13、14、15、26、30、31、33、34、36、37、38、40、41、42、45、47、48、51、59、及び60のカラーインデックスで市販されている染料が挙げられる。
アントラキノン系染料として、590〜635nmの範囲に最大吸収波長を有するものが挙げられる。このようなアントラキノン染料は、青色を呈することが多く、例えば、アントラキノン緑色染料に比較して高い視認性を有している。黒色混合染料を組み合わせる場合、減法混色によって、アントラキノン系青色染料に、赤色染料や黄色染料を組み合わせることにより、高い着色力を有する濃黒色の着色剤を得ることができる。
また、アントラキノン系染料の940nmレーザー光透過率が60〜95%であることが好適である。市販品されているこのようなアントラキノン染料として、例えば、「NUBIAN(登録商標) BLUE シリーズ」及び「OPLAS(登録商標) BLUE シリーズ」(いずれも商品名、オリヱント化学工業株式会社製)等が挙げられる。
アントラキノン系染料の電気伝導度は、50〜500μS/cmであることが好ましい。それによれば、両樹脂部材1,2の絶縁性を向上させることができるので、電気・電子機器部品や精密機器部品のような高い絶縁性を要する樹脂部品に、レーザー溶着体10を好適に用いることができる。
この電気伝導度は、以下のようにして測定される。試料であるアントラキノン系染料5gを500mLのイオン交換水に分散して、その重量を記録する。これを煮沸してイオン成分を抽出し、その後濾過する。濾液の重量を先に測定した重量と同じになるまでイオン交換水を加え、この溶液の電気伝導度を電気伝導率計(東亜ディーケーケー株式会社製、製品名:AOL−10)で測定する。
染料の組合せとして、例えば、アントラキノン系青色染料とその他の青色染料、赤色染料、及び黄色染料との組合せ、並びにアントラキノン系青色染料と緑色染料、赤色染料、及び黄色染料との組合せが挙げられる。この赤色染料又は黄色染料として、アゾ染料、キナクリドン染料、ジオキサジン染料、キノフタロン染料、ペリレン染料、ペリノン染料、イソインドリノン染料、アゾメチン染料、トリフェニルメタン染料、赤色又は黄色のアントラキノン染料が挙げられる。これらは、一種又は複数種を組合せて用いてもよい。レーザー光弱吸収性樹脂組成物と、レーザー光透過性樹脂組成物との両樹脂組成物に良好な発色性を付与する染料として、ペリノン染料、赤色又は黄色のアントラキノン染料が挙げられる。
好ましくは、590〜635nmの範囲に最大吸収波長を有する上記のようなアントラキノン青色染料と赤色染料との組合せを用いる。好適な例として、良好な耐熱性を有し赤色を示すことが多い上記のようなペリノン染料が挙げられる。このような赤色染料の市販品として、例えば、「NUBIAN(登録商標) RED シリーズ」及び「OPLAS(登録商標) RED シリーズ」(いずれも商品名、オリヱント化学工業株式会社製)が挙げられる。
ペリノン染料として、具体的に例えば、C.I.Solvent Orange 60;C.I.Solvent Red 135、162、178、及び179が挙げられる。
アントラキノン赤色染料(アントラピリドン染料を含む)として、例えば、C.I.Solvent Red 52、111、149、150、151、168、191、207、及び227;C.I.Disperse Red 60が挙げられる。このようなペリノン染料及びアントラキノン赤色染料は、上記のカラーインデックスで市販されている。
このようなアントラキノン赤色染料と組合せて用いる染料として、アントラキノン黄色染料が好適である。着色剤において、(i)アントラキノン黄色染料の質量/(ii)青色、緑色、及び/又は紫色のアントラキノン染料の質量比(i)/(ii)の範囲が、0.15〜1.0であることが好ましい。アントラキノン黄色染料の市販品として、例えば、「NUBIAN(登録商標) YELLOW シリーズ」及び「OPLAS(登録商標) YELLOW シリーズ」(いずれも商品名、オリヱント化学工業株式会社製)等が挙げられる。
黄色染料として、具体的に例えば、C.I.Solvent Yellow 14、16、32、33、43、44、93、94、98、104、114、116、133、145、157、163、164、167、181、182、183、184、185、及び187;C.I.Vat Yellow 1、2、及び3のカラーインデックスで市販されている染料が挙げられる。
レーザー溶着体10に、耐候性、耐熱性、及び耐ブリード性のような堅牢性が求められる場合、上記に挙げた油溶性染料として、酸性染料と有機アミンとを組合せた造塩染料を好適に用いることができる。このような造塩染料は、[酸性染料のアニオン・有機アンモニウム塩]のように表すことができる。着色剤中、アントラキノン染料を造塩染料に代え、[アントラキノン酸性染料のアニオン・有機アンモニウム塩]のように表わされるアントラキノン系造塩染料を用いることにより、着色剤の堅牢性を向上させることができる。
造塩染料に用いられるアントラキノン酸性染料として、具体的に例えば、C.I.Acid Blue 25、27、40、41、43、45、47、51、53、55、56、62、78、111、124、129、215、230、及び277;C.I.Acid Green 37;C.I.Acid Violet 36、41、43、51、及び63のカラーインデックスで市販され、一分子中に一つのスルホン酸基を有するアントラキノン染料が挙げられる。
アントラキノン酸性染料として、上記の他、具体的に例えば、C.I.Acid Blue 23、35、49、68、69、80、96、129:1、138、145、175、221、及び344;C.I.Acid Green 25、27、36、38、41、42、及び44;C.I.Acid Violet 34及び42のカラーインデックスで市販され、アントラキノンの一分子中に二つのスルホン酸基を有するアントラキノン染料が挙げられる。
中でもC.I.Acid Blue 49、80、96、129:1、138、145、及び221、C.I.Acid Green 25、27、36、38、41、42、及び44、並びにC.I.Acid Violet 34のように、アントラキノン骨格中に、少なくとも一つの置換基として、アニリノ基にスルホン酸基を有する置換基が結合した構造を有するものが好ましい。
好適なアントラキノン造塩染料として、アニリノ基誘導体を置換基として有するアントラキノン造塩染料が挙げられる。このようなアントラキノン造塩染料は、芳香族熱可塑性樹脂に対して高い相溶性を示し、高い耐熱性を付与することができる。
このような好ましいアントラキノン染料は、下記化学式(1)
(化学式(1)中、X及びYは互いに独立して水素原子、水酸基、ハロゲン原子、又はアミノ基であり、R
1〜R
5は互いに独立して水素原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、炭素数1〜18で直鎖若しくは分枝鎖のアルキル基、炭素数1〜18で直鎖若しくは分枝鎖のアルコキシ基、ハロゲン原子、フェニルオキシ基、カルボキシ基であり、(P)
b+は有機アンモニウムイオン、a及びbは1〜2の正数、m及びnは1〜2の正数であり、Aは水素原子、水酸基、アミノ基、ハロゲン原子、又は下記化学式(2)
(化学式(2)中、R
6〜R
10は互いに独立して水素原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、炭素数1〜18で直鎖若しくは分枝鎖のアルキル基、炭素数1〜18で直鎖若しくは分枝鎖のアルコキシ基、又はハロゲン原子である)である)で表わされる。
化学式(1)及び(2)中、炭素数1〜18で直鎖又は分枝鎖のアルキル基として、具体的に例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、3−ペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、及びオクチル基が挙げられる。また炭素数1〜18で直鎖又は分枝鎖の炭素数1〜18のアルコキシ基として、具体的に例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、sec−ペンチルオキシ基、3−ペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、及びヘキシルオキシ基が挙げられる。更にハロゲン原子として、具体的に例えば、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素が挙げられる。
化学式(1)で表わされる造塩染料は、一分子中に二つのフェニルアミノ誘導体を置換基として有するアントラキノン造塩染料が好ましい。それによれば、各樹脂部材1,2,3の成形時やレーザー溶着時において、熱溶融によるそれらの熱劣化を抑えることができる。造塩染料に好適に用いられるような一分子中に二つのフェニルアミノ誘導体を置換基として有するアントラキノン酸性染料として、具体的に例えば、C.I.Acid Green 25、27、36、38、41、42、及び44;C.I.Acid Blue 80及び221;C.I.Acid Violet 34が挙げられる。
化学式(1)で表わされる造塩染料に好適に用いられるアミン類として、具体的に例えば、ヘキシルアミン、ペンチルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ジ−(2−エチルヘキシル)アミン、及びドデシルアミンのような脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、及びジハイドロアジエチルアミンのような脂環族アミン;テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、2−メチルオクタメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン、m−キシレンジアミン、及びp−キシレンジアミンのような脂肪族、脂環族、芳香族ジアミン;3−プロポキシプロピルアミン、ジ−(3−エトキシプロピル)アミン、3−ブトキシプロピルアミン、オクトオキシプロピルアミン、及び3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンのようなアルコキシアルキルアミン;α−ナフチルアミン、β−ナフチルアミン、1,2−ナフチレンジアミン、1,5−ナフチレンジアミン、及び1,8−ナフチレンジアミンのような芳香族アミン;1−ナフチルメチルアミンのような芳香族アルキルアミン;N−シクロヘキシルエタノールアミン、N−ドデシルエタノールアミン、及びN−ドデシルイミノ−ジエタノールのようなアルカノール基含有アミン;1,3−ジフェニルグアニジン、1−o−トリルグアニジン、及びジ−o−トリルグアニジンのようなグアニジン誘導体が挙げられる。
アミン類として、市販の四級アンモニウムを用いてもよい。このような四級アンモニウムとして、具体的に例えば、コータミン24P、コータミン86Pコンク、コータミン60W、コータミン86W、コータミンD86P(ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド)、サニゾールC、及びサニゾールB−50(以上、花王株式会社製、コータミン及びサニゾールは登録商標);アーカード210−80E、2C−75、2HT−75(ジアルキル(アルキルはC14〜C18)ジメチルアンモニウムクロライド)、2HTフレーク、2O−75I、2HP−75、及び2HPフレーク(以上、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、アーカードは商品名);プライミン(PRIMENE)MDアミン(メタンジアミン)、プライミン81−R(高分枝鎖tert−アルキル(C12〜C14)一級アミン異性体混合物)、プライミンTOAアミン(tert−オクチルアミン)、プライミンRB−3(tert−アルキル一級アミン混合物)、及びプライミンJM−Tアミン(高分枝鎖tert−アルキル(C16〜C22)一級アミン異性体混合物)(以上、ダウ・ケミカル社製、PRIMENEは登録商標)が挙げられる。
着色剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.01〜3質量部であり、好ましくは0.05〜1.0質量部、より好ましくは0.1〜0.8質量部である。着色剤の含有量をこのような範囲に調整することにより、高発色性のレーザー光弱吸収性樹脂組成物及びレーザー光透過性樹脂組成物を得ることができる。
これらの樹脂組成物を調製する際、着色剤を含有させたマスターバッチを調製し、このマスターバッチを熱可塑性樹脂組成物に添加することが好ましい。それによれば、着色剤が均一に分散するので、これらの樹脂組成物に色ムラを生じさせない。マスターバッチ中の着色剤の含有量は、5〜90質量%であることが好ましく、20〜60質量%であることがより好ましい。
レーザー光透過性樹脂組成物が、レーザー光吸収剤非含有である、又はそれの含有量を少量としていることにより、レーザー光透過性樹脂部材2を無彩色だけでなく、有彩色の着色部材とすることができる。例えば、上記に例示した着色剤を用い、黄色、赤色、青色、緑色、及び紫色に、レーザー光透過性樹脂部材2を着色することができる。
これらの樹脂組成物に、必要に応じ、着色剤の他、熱可塑性樹脂原料に種々の添加剤を配合してもよい。このような添加剤としては、例えば、補強材、充填材、紫外線吸収剤又は光安定剤、酸化防止剤、抗菌・防かび剤、難燃剤、助色剤、分散剤、安定剤、可塑剤、改質剤、帯電防止剤、潤滑剤、離型剤、結晶促進剤、及び結晶核剤が挙げられる。更に酸化チタン、硫酸亜鉛、亜鉛白(酸化亜鉛)、炭酸カルシウム、及びアルミナ白のような白色顔料や有機白色顔料が挙げられる。それによれば、無彩色の熱可塑性樹脂原料を、有機染顔料と組合せて、有彩色に調整できる。
補強材は、合成樹脂の補強に用い得るものであればよく、特に限定されない。例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、チタン酸カリウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、セピオライト、ウォラストナイト、及びロックウールのような無機繊維、並びにアラミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド、ポリエステル、及び液晶ポリマーのような有機繊維が挙げられる。例えば、樹脂部材に透明性を付与する場合、それの補強にガラス繊維を好適に用いることができる。このようなガラス繊維の繊維長は2〜15mmでありその繊維径は1〜20μmである。ガラス繊維の形態については特に制限はなく、例えばロービングや、ミルドファイバーが挙げられる。これらのガラス繊維は、一種を単独で用いても、2種以上を組合せて用いてもよい。その含有量は、例えばレーザー光透過性樹脂部材1の100質量部に対し、5〜120質量部とすることが好ましい。5質量部未満であると、十分なガラス繊維補強効果を得られず、120質量部を超えると成形性が低下する。好ましくは10〜60質量部、特に好ましくは20〜50質量部である。
充填材として粒子状充填材が挙げられ、例えば、タルク、カオリン、クレー、ウォラストナイト、ベントナイト、アスベスト、及びアルミナシリケートのような珪酸塩;アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、及び酸化チタンのような金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及びドロマイトのような炭酸塩;硫酸カルシウム及び硫酸バリウムのような硫酸塩;ガラスビーズ、セラミックビ−ズ、窒化ホウ素、及び炭化珪素のようなセラミックが挙げられる。また充填剤は、マイカ、セリサイト、及びガラスフレークのような板状充填材であってもよい。
紫外線吸収剤及び光安定剤として、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物、シアノアクリレート系化合物、ベンゾエート系化合物、オギザアリド系化合物、ヒンダードアミン系化合物、及びニッケル錯塩が挙げられる。
酸化防止剤として、フェノール性ヒドロキシル基を有するフェノール系化合物、トリフェニルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、及びビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等などのリン原子を有するリン系化合物、ジドデシルチオジプロピオネート、ジテトラデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、チオビス(N−フェニル−β−ナフチルアミン)、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、テトラメチルチウラムジサルファイド、ニッケルジブチルジチオカルバメート、ニッケルイソプロピルキサンテート、及びトリラウリルトリチオホスファイト等イオウ原子を有するイオウ系化合物及びチオエーテル系化合物が挙げられる。
抗菌・防かび剤として、2−(4'−チアゾリル)ベンズイミダゾール、10,10'−オキシビスフェノキシアルシン、N−(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、及びビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛が挙げられる。
難燃剤は特に限定されず、例えば、有機ハロゲン化合物、アンチモン化合物、ケイ素含有化合物、リン化合物、窒素化合物等の有機難燃剤及び無機難燃剤が挙げられる。有機ハロゲン化合物として、例えば、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールA、ペンタブロモベンジルポリアクリレート、テトラブロモビスフェノールA誘導体、ヘキサブロモジフェニルエーテル及びテトラブロモ無水フタル酸等が挙げられる。アンチモン化合物として、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、及びリン酸アンチモン等が挙げられる。ケイ素含有化合物として、例えば、シリコーンオイル、有機シラン、及びケイ酸アルミニウムが挙げられる。リン化合物として、例えば、トリフェニルホスフェート、トリフェニルホスファイト、リン酸エステル、ポリリン酸、ポリリン酸アンモニウム、赤リン、並びにリン原子と窒素原子との結合を主鎖に有するフェノキシホスファゼン、及びアミノホスファゼン等のホスファゼン化合物が挙げられる。窒素化合物として、例えば、メラミン、シアヌル酸、シアヌル酸メラミン、尿素、及びグアニジン等が挙げられる。無機難燃剤として、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ素化合物、及びホウ素化合物等が挙げられる。
可塑剤は特に限定されず、例えば、フタル酸エステル(例えばフタル酸ジメチル、フタル酸ブチルベンジル、及びフタル酸ジイソデシル等)、リン酸エステル(例えばリン酸トリクレジル、及びリン酸2−エチルヘキシルジフェニル)、スルホンアミド系可塑剤(例えば、n−ブチルベンゼンスルホンアミド、及びp−トルエンスルホンアミド等)が挙げられる。更に、ポリエステル系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ビスフェノール系可塑剤、アミド系可塑剤、エステル系可塑剤、アミドエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、及びエポキシ系可塑剤(例えば、エポキシステアリン酸アルキルと大豆油とからなるエポキシトリグリセリド)等を用いることができる。
耐衝撃改良剤として、樹脂の耐衝撃性改良効果を奏するものであれば、特に制限されない。例えば、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、シリコーン系エラストマー、及びアクリル系のコア/シェル型エラストマー等、公知のものが挙げられる。中でも、ポリエステル系エラストマー、及びスチレン系エラストマーが好ましい。
両樹脂部材1,2を、所望の着色熱可塑性樹脂組成物のマスターバッチを用いて製造してもよい。このようなマスターバッチは、任意の方法により得られる。例えば、マスターバッチのベースとなる樹脂の粉末及び/又はペレットと、着色剤とをタンブラーやスーパーミキサーのような混合機で混合した後、押出機、バッチ式混練機又はロール式混練機により加熱溶融してペレット化又は粗粒子化することにより得ることができる。
両樹脂部材1,2の成形は、通常行われる種々の手順により行い得る。例えば、着色ペレットを用いて、押出機、射出成形機、及びロールミルのような加工機により成形できる。また、透明な熱可塑性樹脂のペレット及び/又は粉末、粉砕された着色剤、並びに必要に応じ各種の添加物を、適当なミキサー中で混合し、それにより得られた樹脂組成物を、加工機を用いて成形してもよい。また例えば、適当な重合触媒を含有するモノマーに着色剤を加え、この混合物を重合により所望の樹脂を合成し、これを適当な方法で成形してもよい。成形方法として、例えば射出成形、押出成形、圧縮成形、発泡成形、ブロー成形、真空成形、インジェクションブロー成形、回転成形、カレンダー成形、及び溶液流延のような成形方法を採用することができる。このような成形により、様々な形状の両樹脂部材1,2を得ることができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(レーザー光透過性の黒色着色剤の調製)
[着色剤A]アントラキノン青色油溶性染料(C.I.Solvent Blue 104):ペリノン赤色油溶性染料(C.I.Solvent Red 179):アントラキノン黄色油溶性染料(C.I.Solvent Yellow 163)=5:3:2(質量比)で粉体混合して、着色剤Aを得た。
[着色剤B]アントラキノン青色酸性染料(C.I.Acid Blue 80)とヘキサメチレンジアミンとの造塩染料:ペリノン赤色油溶性染料(C.I.Solvent Red 179):アントラキノン黄色油溶性染料(C.I.Solvent Yellow 163)=7:2:1(質量比)で粉体混合して、着色剤Bを得た。
[着色剤C]アントラキノン青色酸性染料(C.I.Acid Blue 80)と2−エチルヘキシルアミンとの造塩染料:ペリノン赤色油溶性染料(C.I.Solvent Red 179:アントラキノン黄色油溶性染料(C.I.Solvent Yellow 163)=7:2:1(質量比)で粉体混合して、着色剤Cを得た。
[着色剤D]アントラキノン青色酸性染料(C.I.Acid Blue 236)と2−エチルヘキシルアミンとの造塩染料:ペリノン赤色油溶性染料(C.I.Solvent Red 179):アントラキノン黄色油溶性染料(C.I.Solvent Yellow 163)=6:3:1(質量比)で粉体混合して、着色剤Dを得た。
[着色剤E]アントラキノン青色油溶性染料(C.I.Solvent Blue 104)を着色剤Eとした。
[着色剤F]アントラキノン青色酸性染料(C.I.Acid Blue 80)と2−エチルヘキシルアミンとの造塩染料を着色剤Fとした。
(実施例1−1)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材1(第1樹脂部材)の作製
ポリアミド(PA)66樹脂(旭化成株式会社製、商品名:レオナ(登録商標)1300S)の499.9gと、ニグロシンA(特許3757081号公報の記載に従い硫酸濃度を変更して合成したニグロシンの硫酸塩;硫酸イオン 1.96質量%;体積抵抗率2.0×1010Ω・cm)の0.1gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合した。得られた混合物を、射出成形機(東洋機械金属株式会社製、商品名:Si−50)を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度80℃で通常の方法により成形して、縦80mm×横50mm×厚さ1mmで矩形板状のレーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。
(2)レーザー光透過性樹脂部材2(第2樹脂部材)の作製
PA66樹脂の490gと、着色剤Aの10gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合した。得られた混合物を、射出成形機(東洋機械金属株式会社製、商品名:Si−50)を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度80℃で通常の方法により成形して、縦80mm×横50mm×厚さ1mmで矩形板状のレーザー光透過性樹脂部材2を1枚作製した。
(透過率及び吸光度)
レーザー光吸収性樹脂部材及びレーザー光弱吸収性樹脂部材の成形板の透過率、反射率を、分光光度計(日本分光株式会社製、商品名:V−570)を用いて測定した。試料を溶解して測定される一般的な吸光度(Absorbance)は、透過率の対数をとって正数としたものである。本発明のように、成形された樹脂部材の吸光度を測定する場合、レーザー光が成形板表面で反射されるため、真の透過率を求める必要がある。真の透過率Tは、T=I
T/(I
0−I
R)で表される。940nmの吸光度を示すLambert−Beerの法則は、下記数式(1)
(数式(1)中、Tは真の透過率であり、(I
O)は入射光強度であり、(I
T)は透過光強度であり、(I
R)は反射光強度である)で表される。ここで、入射光強度I
Oを100%とし、更に透過光強度I
T及び反射光強度I
Rとして、測定値の百分率である透過率、反射率を数式(1)に夫々代入することにより、吸光度を求めて、この値を樹脂部材の厚さで除して1mm当たりの吸光度aを算出した。その結果、実施例1−1のレーザー光弱吸収性樹脂部材1の透過率は68.6%であり、反射率は8.2%であり、1mm換算の吸光度a
1は0.12であった。またレーザー光透過性樹脂部材2の透過率は80.1%であり、反射率は9.9%であり、1mm換算の吸光度a
2は0.06であった。
(メルトフローレート)
レーザー光弱吸収性樹脂部材1を所定の寸法に切断し、80℃で15時間乾燥して、測定試料を作製した。JIS K7210:2014(プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の求め方)に準じ、メルトインデクサー F−F01型(東洋精機製作所社製、商品名)を用い、試験温度280℃、試験荷重2.16kgfの条件で、測定した。測定を3回行い、それらの値の平均を算出してメルトフローレートを求めた。その結果、レーザー光弱吸収性樹脂部材1のメルトフローレートは、13.4g/10分であった。
(3)レーザー溶着体10の作製
図1に示すように、レーザー光弱吸収性樹脂部材1とレーザー光透過性樹脂部材2とを重ね合わせて、両樹脂部材1,2の厚さ方向に単位面積当たり0.4Paの圧力を加えた。更にレーザー光弱吸収性樹脂部材1の表面に、5mm厚のガラス板(レーザー光透過率90%)を載せて3層樹脂部材を固定した。次いで、レーザー光弱吸収性樹脂部材1の上方からこれの面に対して略垂直に、出力50Wのダイオード・レーザー[波長:940nm 連続的](浜松ホトニクス株式会社製)からレーザー光Lを、それらの長辺の一方から一直線に横断するように、幅1mm、走査速度2.0mm/秒、及び走査距離20mmで走査させながら照射した。それにより接触部位Cで溶着し、両樹脂部材1,2が一体化した実施例1−1のレーザー溶着体10を得た。このレーザー溶着体10について、以下の評価を行った。
(引張試験)
JIS K7161:2014プラスチック−引張特性の試験方法に準じ、引張試験機(株式会社島津製作所製、商品名:AG−50kNE)を用いて、レーザー溶着体10の両樹脂部材1,2を、長手方向でそれらが離反するように水平に、試験速度10mm/分で引っ張り、引張強度を測定した。結果を表1に示した。
(溶着状態の評価)
以下のように、溶着状態を評価した。結果を表1に示した。
〇:レーザー溶着でき、かつレーザー溶着体の引張試験の結果が400N以上であった。
△:レーザー溶着できたが、レーザー溶着体の引張試験の結果が400N未満であった。
×:レーザー溶着できず、レーザー溶着体を作製できなかった。
(実施例1−2)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材1の作製
PA66樹脂の499.8gと、ニグロシンA(ニグロシンの硫酸塩;硫酸イオン 1.96質量%;体積抵抗率2.0×1010Ω・cm)の0.2gとを用いたこと以外は、実施例1−1と同様に操作して、レーザー光透過性樹脂部材1を作製した。このレーザー光透過性樹脂部材1の透過率及び反射率を実施例1−1と同様に操作して測定したところ、透過率は52.6%であり、反射率は7.0%であった。これらから求めた吸光度a1は0.24であった。また、実施例1−1と同様に操作して測定したメルトフローレートは、14.3g/10分であった。
(2)レーザー光透過性樹脂部材2の作製
PA66樹脂の500gを用いたこと、及び着色剤を用いなかったこと以外は実施例1−1と同様に操作して、レーザー光透過性樹脂部材2を1枚作製した。このレーザー光透過性樹脂部材1の透過率及び反射率を実施例1−1と同様に操作して測定したところ、透過率は80.3%であり、反射率は9.6%であった。これらから求めた吸光度a2は0.05であった。
(3)レーザー溶着体10の作製
レーザー出力及び走査速度を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1−1と同様に操作して、実施例1−2のレーザー溶着体10を得た。このレーザー溶着体10について、実施例1と同様に操作して引張試験及び溶着状態の評価を行った。結果を表1に示した。
(実施例1−3)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材1の作製
PA66樹脂の499.7gと、ニグロシンB(ニグロシンの硫酸塩;硫酸イオン 1.52質量%;体積抵抗率2.7×1010Ω・cm)の0.3gとを用いたこと以外は、実施例1−1と同様に操作して、レーザー光透過性樹脂部材1を作製した。このレーザー光透過性樹脂部材1の透過率及び反射率を実施例1−1と同様に操作して測定したところ、透過率は39.2%であり、反射率は5.9%であった。これらから求めた吸光度a1は0.36であった。また、実施例1−1と同様に操作して測定したメルトフローレートは、14.8g/10分であった。
(2)レーザー光透過性樹脂部材2の作製
実施例1−2と同様に操作して、レーザー光透過性樹脂部材2を1枚作製した。
(3)レーザー溶着体10の作製
レーザー出力及び走査速度を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1−1と同様に操作して、実施例1−3のレーザー溶着体10を得た。このレーザー溶着体10について、実施例1と同様に操作して引張試験及び溶着状態の評価を行った。結果を表1に示した。
(実施例1−4)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材1の作製
PA66樹脂の499.6gと、ニグロシンC(ニグロシンの硫酸塩;硫酸イオン 0.70質量%;体積抵抗率0.9×1010Ω・cm)の0.4gとを用いたこと以外は、実施例1−1と同様に操作して、レーザー光透過性樹脂部材1を作製した。このレーザー光透過性樹脂部材1の透過率及び反射率を実施例1−1と同様に操作して測定したところ、透過率は32.2%であり、反射率は5.3%であった。これらから求めた吸光度a1は0.45であった。また、実施例1−1と同様に操作して測定したメルトフローレートは、15.4g/10分であった。
(2)レーザー光透過性樹脂部材2の作製
実施例1−2と同様に操作して、レーザー光透過性樹脂部材2を1枚作製した。
(3)レーザー溶着体10の作製
レーザー出力及び走査速度を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1−1と同様に操作して、実施例1−4のレーザー溶着体10を得た。このレーザー溶着体10について、実施例1と同様に操作して引張試験及び溶着状態の評価を行った。結果を表1に示した。
(実施例1−5〜1−12及び比較例1−1〜1−5)
PA66樹脂量、ニグロシンAの量、並びに着色剤の種類及び量を、表1に示すように変更したこと以外は、実施例1−1と同様に操作して、実施例1−5〜1−12及び比較例1−1〜1−5のレーザー溶着体を作製するのに用いる樹脂部材を作製し、実施例1−1と同様に操作して透過率及び反射率を測定して、吸光度を求めた。更に実施例1−5、1−7、及び1−9のメルトフローレートを、実施例1−1と同様に操作して測定した。またこの樹脂部材を用いて、レーザー出力及び走査速度を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1−1と同様に操作して実施例1−5〜1−12のレーザー溶着体を作製した。更にこれらのレーザー溶着体について、実施例1−1と同様に操作して引張試験及び溶着状態の評価を行った。一方、実施例1−1と同様に操作して重ね合わせた比較例1−1〜1−5の樹脂部材にレーザー光を照射したが、樹脂部材同士が溶着せず、レーザー溶着体を得ることができなかった。実施例1−1〜1−4と併せて実施例1−5〜1−12の結果を表1に、比較例1−1〜1−5の結果を表2に夫々示した。
0.1〜0.5の吸光度a1を有するレーザー光弱吸収性樹脂部材1と0.1未満(具体的に0.01〜0.09)の吸光度a2を有するレーザー光透過性樹脂部材2とが比較的低い出力のレーザー光の照射によって溶着した実施例のレーザー溶着体は、溶着痕がなく、かつ高い引張強度を有するものであった。一方、0.1未満の吸光度a1を有するレーザー光透過性樹脂部材を用いた比較例は、高出力のレーザー光を照射しても樹脂部材同士を溶着できなかった。また0.5を超える吸光度a1を有するレーザー光弱吸収性樹脂部材を用いた比較例は、レーザー光照射によりレーザー光弱吸収性樹脂部材の表層に焦げ痕が見られたり、溶融プールの広がりが不十分で高い強度の溶着ができなかったりした。
図8(a)に実施例1−3の、同図(b)に実施例1−4のレーザー溶着体10の融着部位の断面拡大写真を、夫々示す。なお同図中白抜き矢印は、レーザー光の照射方向及び位置を示している。断面略楕円形をなしている溶融部位は、レーザー光入射側に配置されたレーザー光弱吸収性樹脂部材1に大きく広がり、これとレーザー光透過性樹脂部材2との接触部位Cを経てレーザー光透過性樹脂部材2まで到達している。それにより両樹脂部材1,2が溶着されて一体化している。この溶着部位は、レーザー光透過性樹脂部材2よりもレーザー光弱吸収性樹脂部材1側に広がっていることから、レーザー光照射によってレーザー光弱吸収性樹脂部材1でより広くかつ深い範囲で溶融した溶融プールが形成されていたことが分かった。
(実施例2−1)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材1の作製
ポリプロピレン(PP)樹脂(株式会社プライムポリマー製、商品名:J−762HP)の499.5gと、ニグロシン(オリヱント化学工業社製、商品名:NUBIAN(登録商標) Grey IR−B C.I.Solvent Black 7の高耐熱性ニグロシン;体積抵抗率1.2×1011Ω・cm)の0.5gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合した。得られた混合物を、射出成形機(東洋機械金属株式会社製、商品名:Si−50)を用いて、シリンダー温度210℃、金型温度40℃で通常の方法により成形して、縦80mm×横50mm×厚さ1.5mmのレーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。
(2)レーザー光透過性樹脂部材2の作製
PP樹脂の500gを、射出成形機を用いて、シリンダー温度210℃、金型温度40℃で通常の方法により成形して、縦80mm×横50mm×厚さ1.5mmでレーザー光透過性樹脂部材2を1枚作製した。
実施例1−1と同様に操作し、レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光透過性樹脂部材2の透過率を測定して、吸光度を求めた。結果を表3に示した。
(3)レーザー溶着体10の作製
図1に示すように、レーザー光弱吸収性樹脂部材1とレーザー光透過性樹脂部材2とを重ね合わせて、両樹脂部材1,2の厚さ方向に単位面積当たり0.4Paの圧力を加えた。更にレーザー光弱吸収性樹脂部材1の表面に、5mm厚のガラス板(レーザー光透過率90%)を載せて3層樹脂部材を固定した。次いで、レーザー光弱吸収性樹脂部材1の上方からこれの面に対して略垂直に、出力50Wのダイオード・レーザー[波長:940nm 連続的](株式会社ファインディバイス製)からレーザー光Lを、それらの長辺の一方から一直線に横断するように、幅1mm、走査速度2.0mm/秒、及び走査距離20mmで走査させながら照射した。それにより接触部位Cで溶着し、両樹脂部材1,2が一体化した実施例2−1のレーザー溶着体10を得た。このレーザー溶着体10について、実施例1−1と同様に操作して、引張試験及び溶着状態の評価を行った。結果を表3に示した。
(実施例2−2及び2−3)
ニグロシン量を、表3に示すように変更したこと以外は、実施例2−1と同様に操作して、実施例2−2及び2−3のレーザー溶着体を作製するのに用いる樹脂部材を実施例2−1と同様に操作して作製し、それらの透過率を測定して吸光度を求めた。またこの樹脂部材を用いて、レーザー光の走査速度を表3に示すように変更したこと以外は実施例2−1と同様に操作して、実施例2−2及び2−3のレーザー溶着体10を作製した。更に実施例2−1と同様に操作して引張試験及び溶着状態の評価を行った。結果を表3に示した。
(実施例2−4)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材1の作製
PP樹脂の量を498.0gとしたこと、及びニグロシンの量を2.0gとしたこと以外は、実施例2−1と同様に操作して、レーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。
(2)レーザー光透過性樹脂部材2の作製
PP樹脂の495.0gと、着色剤Aの5.0gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合した。得られた混合物を、射出成形機を用いて、シリンダー温度210℃、金型温度40℃で通常の方法により成形して、縦80mm×横50mm×厚さ1mmで矩形板状のレーザー光透過性樹脂部材2を1枚作製した。
実施例2−1と同様に操作し、レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光透過性樹脂部材2の透過率を測定して、吸光度を求めた。結果を表3に示した。
(3)レーザー溶着体10の作製
レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光透過性樹脂部材2を用いて、実施例2−1と同様に操作して実施例2−4のレーザー溶着体10を作製した。更に実施例2−1と同様に操作して引張試験及び溶着状態の評価を行った。結果を表3に示した。
(比較例2)
ニグロシンを用いなかったこと、及びPP樹脂の500gを用いたこと以外は、実施例2−1と同様に操作してレーザー光弱吸収性樹脂部材を作製した。また実施例2−1と同様に操作してレーザー光透過性樹脂部材を作製した。実施例2−1と同様に操作して、これらの樹脂部材の透過率を測定し、吸光度を求めた。また、実施例2−1と同様に操作して重ね合わせたこれらの樹脂部材にレーザー光を照射したが、樹脂部材同士が溶着せず、レーザー溶着体を得ることができなかった。比較例2の結果を表3に示した。
0.1〜0.5の吸光度a1を有するレーザー光弱吸収性樹脂部材1を用いた実施例2−1〜2−4のレーザー溶着体10は、溶着痕がなく、かつ高い強度で樹脂部材同士が溶着しているという良好な溶着状態を示した。一方、吸光度a1が0.1に満たない樹脂部材を用いた比較例2は、レーザー光照射によって樹脂部材同士を溶着できなかった。
(実施例3−1)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材1の作製
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、商品名:ノバデュラン(登録商標)5010G30)の499.99gと、ニグロシン(オリヱント化学工業株式会社製、商品名:NUBIAN(登録商標)BLACK TH−807 C.I.Solvent Black 7;体積抵抗率4.0×1010Ω・cm)の0.01gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合した。得られた混合物を、射出成形機(東洋機械金属株式会社製、商品名:Si−50)を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度80℃で通常の方法により成形して、縦80mm×横50mm×厚さ1.5mmのレーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。
(2)レーザー光透過性樹脂部材2の作製
PBT樹脂の500.0gを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌した。これを、射出成形機を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度80℃で通常の方法により成形して、縦80mm×横50mm×厚さ1.5mmのレーザー光透過性樹脂部材2を1枚作製した。
実施例1−1と同様に操作し、レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光透過性樹脂部材2の透過率を測定して吸光度を求めた。結果を表4に示した。
(3)レーザー溶着体10の作製
図1に示すように、レーザー光弱吸収性樹脂部材1とレーザー光透過性樹脂部材2とを重ね合わせて、両樹脂部材1,2の厚さ方向に単位面積当たり0.4Paの圧力を加えた。更にレーザー光弱吸収性樹脂部材1の表面に、5mm厚のガラス板(レーザー光透過率90%)を載せて3層樹脂部材を固定した。次いで、レーザー光弱吸収性樹脂部材1の上方からこれの面に対して略垂直に、出力50Wのダイオード・レーザー[波長:940nm 連続的](株式会社ファインディバイス製)からレーザー光Lを、それらの長辺の一方から一直線に横断するように、幅1mm、走査速度2.0mm/秒、及び走査距離20mmで走査させながら照射した。それにより接触部位Cで溶着し、両樹脂部材1,2が一体化した実施例3−1のレーザー溶着体10を得た。このレーザー溶着体10について、実施例1−1と同様に操作して、引張試験及び溶着状態の評価を行った。結果を表4に示した。
(実施例3−2)
ニグロシン量を、表4に示すように変更したこと以外は、実施例3−1と同様に操作して、実施例3−2のレーザー溶着体を作製するのに用いる樹脂部材を作製し、実施例3−1と同様に操作して、それらの透過率を測定し、吸光度を求めた。またこの樹脂部材を用いて、レーザー光の走査速度を表4に示すように変更したこと以外は実施例3−1と同様に操作して、実施例3−2のレーザー溶着体10を作製した。更に実施例3−1と同様に操作して引張試験及び溶着状態の評価を行った。結果を表4に示した。
(実施例3−3)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材1の作製
実施例3−1と同様に操作して、レーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。
(2)レーザー光透過性樹脂部材2の作製
PBT樹脂の497.0gと、着色剤Aの3.0gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合した。得られた混合物を、射出成形機を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度80℃で通常の方法により成形して、縦80mm×横50mm×厚さ1mmで矩形板状のレーザー光透過性樹脂部材2を1枚作製した。
実施例3−1と同様に操作し、レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光透過性樹脂部材2の透過率を測定して、吸光度を求めた。結果を表5に示した。
(3)レーザー溶着体10の作製
レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光透過性樹脂部材2を用いて、実施例3−1と同様に操作して実施例3−3のレーザー溶着体10を作製した。更に実施例1−1と同様に操作して引張試験及び溶着状態の評価を行った。結果を表4に示した。
(比較例3)
ニグロシンを添加しなかったこと、及びPBT樹脂の500gを用いたこと以外は、実施例3−1と同様に操作してレーザー光弱吸収性樹脂部材を作製した。また実施例3−1と同様に操作してレーザー光透過性樹脂部材を作製した。実施例3−1と同様に操作し、これらの樹脂部材の透過率を測定して吸光度を求めた。また、実施例3−1と同様に操作して重ね合わせたこれらの樹脂部材にレーザー光を照射したが、樹脂部材同士が溶着せず、レーザー溶着体を得ることができなかった。
比較例3の結果を表4に示した。
0.1〜0.5の吸光度a1を有するレーザー光弱吸収性樹脂部材1を用いた実施例3−1〜3−3のレーザー溶着体10は、溶着痕がなく、かつ良好な溶着状態を示した。一方、吸光度a1が0.1に満たない樹脂部材を用いた比較例3は、レーザー光照射によって樹脂部材同士を溶着できなかった。
(実施例4−1)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材1の作製
ポリカーボネート(PC)樹脂(帝人株式会社製、商品名:パンライト(登録商標)1225Y)の499.9gと、ニグロシンとして変性ニグロシン(アルキルベンゼンスルホン酸:ニグロシン=20:80(質量比)の混合ニグロシン C.I.Solvent Black 5)の0.1gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合した。得られた混合物を、射出成形機(東洋機械金属株式会社製、商品名:Si−50)を用いて、シリンダー温度300℃、金型温度100℃で通常の方法により成形して、縦80mm×横50mm×厚さ2mmのレーザー光弱吸収性樹脂部材1を1枚作製した。
(2)レーザー光透過性樹脂部材2の作製
PC樹脂の500.0gを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌した。これを、射出成形機を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度80℃で通常の方法により成形して、縦80mm×横50mm×厚さ2mmのレーザー光透過性樹脂部材2を1枚作製した。
実施例1−1と同様に操作し、レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光透過性樹脂部材2の透過率を測定して、吸光度を求めた。結果を表5に示した。
(3)レーザー溶着体10の作製
図1に示すように、レーザー光弱吸収性樹脂部材1とレーザー光透過性樹脂部材2とを重ね合わせて、両樹脂部材1,2の厚さ方向に単位面積当たり0.4Paの圧力を加えた。更にレーザー光弱吸収性樹脂部材1の表面に、5mm厚のガラス板(レーザー光透過率90%)を載せて3層樹脂部材を固定した。次いで、レーザー光弱吸収性樹脂部材1の上方からこれの面に対して略垂直に、出力50Wのダイオード・レーザー[波長:940nm 連続的](株式会社ファインディバイス製)からレーザー光Lを、それらの長辺の一方から一直線に横断するように、幅1mm、走査速度2.0mm/秒、及び走査距離20mmで走査させながら照射した。それにより接触部位Cで溶着し、両樹脂部材1,2が一体化した実施例4−1のレーザー溶着体10を得た。このレーザー溶着体10について、実施例1−1と同様に操作して、引張試験及び溶着状態の評価を行った。結果を表5に示した。
(実施例4−2)
PC樹脂の量を499.75gとしたこと、及びニグロシンとして変性ニグロシン(アルキルベンゼンスルホン酸:ニグロシン=30:70(質量比)の混合ニグロシン C.I.Solvent Black 5)の0.25gを用いたこと以外は、実施例4−1と同様に操作してレーザー光弱吸収性樹脂部材1を作製した。また、実施例4−1と同様に操作してレーザー光透過性樹脂部材2を作製した。実施例4−1と同様に操作し、レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光透過性樹脂部材2の透過率を測定して、吸光度を求めた。結果を表5に示した。
実施例4−1と同様に操作して実施例4−2のレーザー溶着体10を得た。このレーザー溶着体10について、実施例4−1と同様に操作して、引張試験及び溶着状態の評価を行った。結果を表5に示した。
(実施例4−3)
まず、実施例4−1と同様に操作してレーザー光弱吸収性樹脂部材1を作製した。次いで、PC樹脂の490.0gと、着色剤E(アントラキノン青色油溶性染料、C.I.Solvent Blue 104)の10gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合した。得られた混合物を用い、実施例4−1と同様に操作してレーザー光透過性樹脂部材2を作製した。実施例4−1と同様に操作し、レーザー光弱吸収性樹脂部材1及びレーザー光透過性樹脂部材2の透過率を測定して、吸光度を求めた。結果を表5に示した。
実施例4−1と同様に操作して実施例4−3のレーザー溶着体10を得た。このレーザー溶着体10について、実施例4−1と同様に操作して、引張試験及び溶着状態の評価を行った。結果を表5に示した。
(比較例4)
PC樹脂の499.975gと、ニグロシンとして変性ニグロシンの0.025gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合した。それ以外は、実施例4−1と同様に操作してレーザー光弱吸収性樹脂部材を作製した。また実施例4−1と同様に操作してレーザー光透過性樹脂部材を作製した。実施例4−1と同様に操作し、これらの樹脂部材の透過率を測定して、吸光度を求めた。また、実施例4−1と同様に操作して重ね合わせたこれらの樹脂部材にレーザー光を照射したが、樹脂部材同士が溶着せず、レーザー溶着体を得ることができなかった。
比較例4の結果を表5に示した。
0.1又は0.25の吸光度a1を有するレーザー光弱吸収性樹脂部材1を用いた実施例4−1〜4−3のレーザー溶着体10は、溶着痕がなく、かつ良好な溶着状態を示した。一方、吸光度a1が0.1に満たない樹脂部材を用いた比較例4は、レーザー光照射によって樹脂部材同士を溶着できなかった。
(実施例5−1)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製
ポリアミド(PA)66樹脂(旭化成株式会社製、商品名:レオナ(登録商標)1300S)の499.8gと、ニグロシンA(特許3757081号公報の記載に従い硫酸濃度を変更して合成したニグロシンの硫酸塩;硫酸イオン 1.96質量%;体積抵抗率2.0×1010Ω・cm)の0.2gとを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌混合した。得られた混合物を、射出成形機(東洋機械金属株式会社製、商品名:Si−50)を用いて、シリンダー温度270℃、金型温度60℃で通常の方法により成形して、斜視図である図9(a)に示すような、円板形をなしている頭部8aとこれと同軸の円筒形をなしている袖部4bとを有するレーザー光弱吸収性樹脂部材である蓋体8を作製した。頭部8aの外寸は、外径50mm×厚さ2mmである。袖部8bの外寸は、外径42mm×高さ4mmである。蓋体8は、頭部8aと袖部8bとの外径差によって、4mm幅の段差部8cを、それの外周面に有している。
(2)レーザー光透過性樹脂部材の作製
PA66樹脂の500.0gを、ステンレス製タンブラーに入れ、1時間攪拌した。これを、射出成形機を用いて、シリンダー温度270℃、金型温度60℃で通常の方法により成形して、図9(a)に示すような、円形の底部と、この底部の周縁で上方に向かって延びた周壁部と、この周壁部の上端で開口した開口縁7aを有し、レーザー光透過性樹脂部材である円筒形容器7を作製した。円筒形容器7の外寸は外径50mm×高さ35mmであり、それの内寸は内径43mm×高さ32mmである。円筒形容器7は3mmの肉厚を有している。
実施例1−1と同様に操作し、レーザー光吸収性樹脂部材である蓋体8、及びレーザー光透過性樹脂部材である円筒形容器7の透過率を測定し、吸光度を求めた。結果を表6に示した。
(3)レーザー溶着体の作製
蓋体8の袖部8bを円筒形容器7の内空に開口縁7aから挿入し、蓋体8と円筒形容器7とを手で嵌め合わせた。それにより、蓋体8と円筒形容器7との一部拡大縦断面図である図9(b)に示すように、段差部8cと開口縁7aとが重なって接触した接触部位Cと、袖部8bと円筒形容器7の内壁面とが突き合わされた突合せ部位Bを形成した。突合せ部位Bは、袖部8bの外径と円筒形容器7の内径との寸法差、及び嵌め合わされた蓋体8と円筒形容器7との中心軸のずれによって、袖部8bと円筒形容器7の内壁面とが面接触している箇所とわずかな遊び(間隙)を生じている箇所とを有している。
蓋体4の上方からこれの面に対して略垂直に接触部位Cに向かって、出力50Wのダイオード・レーザー[波長:940nm 連続的](浜松ホトニクス株式会社製)からレーザー光Lを、接触部位Cに沿って円を描くように、走査速度2.0mm/秒で走査させながら照射した。それにより接触部位Cで溶着し、蓋体8と円筒形容器7とが一体化した実施例5−1のレーザー溶着体10を得た。このレーザー溶着体10について、実施例1−1と同様に操作して溶着状態の評価を行った。結果を表6に示した。
(実施例5−2)
(1)レーザー光弱吸収性樹脂部材の作製
PA66樹脂の量を499.7gとしたこと、及びニグロシンの量を0.3gとしたこと以外は、実施例5−1と同様に操作して、図9(a)に示す蓋体8を作製した。
(2)レーザー光透過性樹脂部材の作製
PA66樹脂の量を497.0gとしたこと、及び着色剤Cの3.0gを用いたこと以外は、実施例5−1と同様に操作して、図9(a)に示す円筒形容器7を作製した。
レーザー光吸収性樹脂部材である蓋体8、及びレーザー光透過性樹脂部材である円筒形容器7の透過率及び吸光度を、実施例5−1と同様に操作して夫々測定した。結果を表6に示した。
(3)レーザー溶着体の作製
レーザー光Lの走査速度を3.0mm/秒としたこと以外は、実施例5−1と同様に操作して、実施例5−2のレーザー溶着体10を得た。このレーザー溶着体10について、実施例5−1と同様に操作して溶着状態の評価を行った。結果を表6に示した。
表6に示すように、レーザー溶着体10は、蓋体8と円筒形容器7との突合せ部位Bで良好にレーザー溶着レーザー溶着されていることにより、円筒形容器7内は確りと密封されていた。