<1>
実施形態に係る電磁波検出装置は、基準電圧及び偏波された電磁波の入力に基づき第1電流を出力する第1検出部と、前記第1検出部と電気的特性が等価であり少なくとも前記基準電圧の入力に基づき第2電流を出力する第2検出部と、前記第1及び第2電流に基づいて前記電磁波の強度を出力する出力部とを備え、前記第2検出部は、前記第1電流のうち前記電磁波の入力に基づき出力される第1成分よりも、前記第2電流のうち前記電磁波の入力に基づき出力される第2成分の方が小さくなるように配置される。ここで、電磁波の一例としては、テラヘルツ波が挙げられる。第1検出部の一例及び第2検出部の一例としては夫々、ショットキーバリアダイオードを検出素子として用いたものが挙げられる。
本実施形態によれば、例えば最適バイアス電流を与えるバイアス電圧としての基準電圧が印加された状態にある第1検出部に電磁波が入射すると、基準電圧と該入射した電磁波の入力とに応じた第1電流が第1検出部から出力される。これと並行して又は相前後して、基準電圧が印加された状態にある第2検出部からは、少なくとも基準電圧に応じた第2電流が第2検出部から出力される。
ここで、例えばショットキーバリアダイオードを検出素子として用いてなる第1検出部でこのような電磁波検出を行う場合、電磁波の強度が同一であったとしても、動作温度が変わると、検出素子の抵抗値或いはインピーダンスが変わる。この結果、第1検出部から出力される電流も変化し、この変化分が検出誤差となってしまう。即ち、最適なバイアス電圧或いはバイアス電流を与えるだけでは、動作温度に寄らずに正しい検出結果を得ることは困難である。
更に、仮に或る温度で最適バイアス電流を与えるようにバイアス電圧を固定したとすると、動作温度によっては最適バイアス電流から外れたバイアス電流が流れる結果、最適或いは好適なダイナミックレンジでないレンジでの検出となり得る。即ち、仮に動作温度の変化による電流の変化に対する補正を、第1検出部から出力される電流に対して施したとしても、このような最適或いは好適なダイナミックレンジでないレンジでの検出となり、本質的に分解能が低く検出誤差が大きな検出しかできない可能性がある。
そこで先ず、本実施形態に係る「基準電圧」は、例えば何れの動作温度においても最適バイアス電流を与える基準電圧とされる。具体的には、「基準電圧」は、好ましくは動作温度に応じた可変値等とされ、理想的には最もダイナミックレンジが広く取れるバイアス電流を流す電圧に設定される。即ち、第1及び第2検出部に流れるバイアス電流が、最適バイアス電流になるように、基準電圧は、第1及び第2検出部に対し、バイアス電圧として印加される。
更に本実施形態では、最適バイアス電流が与えられる状況でも発生する動作温度の変化に起因した検出誤差を小さくするために、単一の検出部からの電流からだけではなく、以下詳述するように第1電流及び第2電流から、電磁波の強度を出力する。
即ち、電磁波検出の際に、第1検出部から基準電圧及び偏波された電磁波の入力に基づき第1電流が出力され、第1検出部と電気的特性が等価である第2検出部から少なくとも基準電圧の入力に基づき第2電流が出力されると、出力部は、例えば、第1電流から第2電流を差し引いての差分出力として或いは第1電流を第2電流で除しての比出力として、電磁波の強度(例えば、電磁波の強度を直流電流値で示す電気的信号)を出力する。ここに「電気的特性が等価」とは、電気的特性が全く等しい場合に限らず、出力部から出力される電磁波の強度を検出する上で、電気的特性が等しいと実践上みなせる程度に、電気的特性が互いに近い場合も含む概念である。
よって、動作温度が変化しても、第1検出部及び第2検出部を流れるバイアス電流も夫々、相互に同一或いは類似に変化することとなるので、これら二者からの出力電流である第1電流及び第2電流に基づいて、該動作温度の変化に起因した変化分が少なくとも部分的に相殺或いは軽減された形での出力が可能となる。
しかも、第2検出部は、第1電流のうち電磁波の入力に基づき出力される第1成分(より具体的には、第1成分の電流値)よりも、第2電流のうち電磁波の入力に基づき出力される第2成分(より具体的には、第2成分の電流値)の方が小さくなるように配置される。
ここに「第1成分」は、第1検出部が出力する検出対象である電磁波の強度の高低に応じて変化する、当該電磁波を検出する上での有効成分である。第1電流には、このように有効な第1成分と、基準電圧に対応するバイアス電流(即ち理想的には最適バイアス電流)に起因しており動作温度により変化する変動成分(以下適宜「第1変動成分」と称する)とが含まれている。該第1変動成分は、当該電磁波を検出する上では、不要な成分である。
他方で、「第2成分」は、第2検出部が意図せずとも多少なりとも出力してしまう又は出力してしまう可能性のある、検出対象である電磁波の強度の高低に応じて変化する、当該電磁波を検出する上では有効でない成分である。第2電流には、このように有効でない第2成分と、基準電圧に対応するバイアス電流(即ち理想的には最適バイアス電流)に起因しており動作温度により変化する変動成分(以下適宜「第2変動成分」と称する)とが含まれている。
よって、このような第2成分は、当該電磁波を検出する上では、小さければ小さいほど良いことになる。他方、このような第2変動成分は、第1変動成分と同等又は類似の電流値を有するので、動作温度の変動に応じて変動する第1変動成分(即ち、当該電磁波を検出する上では、不要な成分)を相殺或いは軽減するのに利用される。
典型的には、出力部が、第1電流と第2電流との差分から、電磁波の強度を出力する具体的構成を採れば、このような第2変動成分により、非常に簡単且つ確実に、第1変動成分を部分的に又は実質的に完全に相殺可能となる。或いは、出力部が、第1電流と第2電流との比から、電磁波の強度を出力する具体的構成を採れば、このような第2変動成分により、非常に簡単且つ確実に、第1変動成分を低減可能となる。
なお、第1成分及び第2成分については夫々、動作温度の変動に応じて変動するものとして捉えることもできるが、そのような変動成分は、動作温度の変動に応じて変動する第1変動成分の変動及び第2変動成分の変動と共に差分出力上或いは比出力上で相殺或いは低減される。或いは、第1成分が動作温度の変動に応じて変動する成分については、第1変動成分の一部として捉え、第2成分が動作温度の変動に応じて変動する成分については、第2変動成分の一部として捉えることもでき、その場合、第1変動成分の一部及び第2変動成分の一部として、差分出力上或いは比出力上で相殺或いは低減される。いずれの捉え方によっても、第1成分及び第2成分に関する、動作温度の変動に応じて変動する成分ついては、出力部による出力上では相殺若しくは低減される。
本実施形態では特に、電磁波は偏波されているので、偏波特性を利用することで、簡単な光学的配置の採用によって、このように第1成分よりも、第2成分の方が小さくなるような配置(理想的には、第2成分の方が極度に小さくなるような、より理想的には第2成分がゼロに近くなるような配置)を極めて容易にして実現できる。例えば、このような偏波特性を利用した光学的配置の採用によって、第2検出部は、第1成分よりも、第2成分の方が小さくなるように配置されるので、第2成分の第1成分に対する相対的な小ささに応じて、検出の精度を高めることが可能となる。
なお、「第2検出部」が「…のように配置される」とは、第2検出部の第1検出部に対する相対的な配置を意味しており、「第1及び第2検出部」が「…のように配置される」と言い換えてもよい。
以上の結果、第2検出部の配置によって、検出対象である電磁波の強度に応じて変化する成分については、第1成分よりも第2成分の方がより小さくなるので、第1電流と第2電流の差分、比等を採ることで、動作温度の変化に起因する検出誤差を低減或いは軽減することが可能となる。しかも、動作温度に応じて最適なバイアス電流を第1及び第2検出部に印加する構成を採ることが非常に容易となっており、最適或いは好適なダイナミックレンジでの検出が可能となり、本質的に分解能が高く検出誤差が小さな検出を実行可能となる。
これらの結果、温度変化の影響を抑制することができ、動作温度に寄らずに高精度の検出結果を得ることが可能となる。
<2>
本実施形態の一態様では、電磁波検出装置は、前記基準電圧を、前記第2電流のうち前記基準電圧の入力に基づき出力される電流成分を所定の電流値若しくは所定範囲内の電流値を有するバイアス電流として流すように、印加するバイアス電圧印加手段を更に備える。
この態様によれば、バイアス電圧印加手段によって、基準電圧により出力される電流成分を最適バイアス電流とするような当該基準電圧を、第1及び第2検出部に印加することで、動作温度の高低によらずに最適バイアス電流を第1及び第2検出部に流すことが可能となる。その結果、比較的容易な装置構成及び方法で、検出対象である電磁波に対して最適或いは好適なダイナミックレンジを使用することで検出精度を高められる。
本態様に係る「基準電圧」については、ダイナミックレンジを広く取れ、これに加えて又は代えて検出時のリニアリティを長く取ることができ、或いは検出ゲイン感度を高め、DCオフセットを抑圧でき、温度特性による変化に基づく検出誤差を抑圧し、個体差による検出誤差を抑制し、総じて検出精度を高められるように、動作温度に応じて最適な値に設定するのが好ましい。このように基準電圧を設定し、第1及び第2電流から出力を得る構成を採ることで、検出部の個体差に起因した検出誤差をも容易にして低減可能となる。
バイアス電圧印加手段からこのようにバイアス電圧を印加することは、いずれの動作温度であっても、最適或いは好適なダイナミックレンジ又はそれになるべく近いレンジでの検出を可能ならしめるので、分解能を高め、検出誤差を小さくする目的からは、極めて有効である。
<3>
本実施形態の他の態様では、前記出力部は、前記第1及び第2電流の差分を、前記強度として出力する。
この態様によれば、電磁波検出の際に、出力部は、第1電流から第2電流を差し引いての差分出力として、電磁波の強度を出力する。ここで、動作温度が変化したことによる、第1及び第2検出部における電流の変化分は夫々、相互に同一或いは類似に変化するので、このように差分をとることで、該変化分が少なくとも部分的に相殺された形での出力が可能となる。これにより、温度変化の影響を簡単かつ確実に抑制することができる。また、上述の如く基準電圧を設定しつつ、このように差分を出力とする構成を採ることで、検出部の個体差に起因した検出誤差をも容易にして低減可能となる。
出力部でこのように差分を出力することは、動作温度の変化による検出誤差を簡易且つ効率的に相殺する目的からは、極めて有効である。
<4>
本実施形態の他の態様では、前記第1及び第2検出部は夫々、前記第1成分よりも前記第2成分の方が小さくなるように、前記電磁波の検出方向が相異ならしめられている。
この態様によれば、偏波特性を利用することで、簡単な光学的配置の採用によって、このように第1成分よりも、第2成分の方が小さくなるような配置を極めて容易にして実現できる。例えば、第2検出部は、第2成分が理想的にはゼロとされる或いはゼロに近くとされるまで小さくなるように配置される。
<5>
この態様では、前記第1及び第2検出部は、同一平面上で前記電磁波の検出方向が相互に72度〜108度の角度をなすように配置されてよい。
このように構成すれば、検出感度については、COSθ(但し、θは第1及び第2検出部の検出方向がなす角度)の二乗に比例するため、第2成分の感度が第1成分の感度に比べて、10分の1以下となる。よって、出力部では、第1成分の10分の1以下という小ささに抑えられた第2成分を含む第2電流を用いることで、第1電流及び第2電流から、実践的な意味で検出誤差が無視できる程度に小さく抑えられた電磁波の強度を出力し得る。
<6>
本実施形態の他の態様では、前記第1及び第2検出部は、同一基板上に、アノード同士又はカソード同士が一体的に接続された半導体素子を含んで構成されている。
この態様によれば、例えば半導体製造技術であるプレーナ技術によって、比較的製造が容易であると共に構造が比較的単純であり、しかも電気的特性が相互に等価である当該第1及び第2検出部(特に、その検出素子の部分)を構築できる。
<7>
この態様では、前記電磁波は、テラヘルツ波であり、前記半導体素子は、ショットキーバリアダイオードを有してもよい。
この態様によれば、ショットキーバリアダイオードの動作温度に寄らずに、テラヘルツ波を高精度で検出可能となる。特に最適バイアス電流を流しつつ第1及び第2電流から出力を得るので、非常に高精度の電磁波検出が可能となる。
<8>
本実施形態の他の態様では、電磁波検出装置は、前記第1及び第2検出部へ至る前記電磁波の進行路に配置された偏波手段を更に備える。
この態様によれば、例えば偏光子等の偏波手段によって電磁波は偏波されているので、偏波特性を利用することで、簡単な光学的配置の採用によって、上述の如く第1成分より第2成分の方が小さくなるような配置(理想的には、第2成分の方が極度に小さくなるような、より理想的には第2成分がゼロに近くなるような配置)を極めて容易にして実現できる。例えば、偏波特性を利用した第1及び第2検出部の相対的な光学的配置の採用によって、該第2成分の相対的な小ささに応じて、検出精度を高めることが可能となる。
本実施形態の作用及び他の利得は次に説明する実施例から明らかにされる。
本発明の電磁波検出装置に係る実施例を図面に基づいて説明する。以下の実施例では、本発明に係る「電磁波検出装置」の一例として「テラヘルツ波強度検出装置」を挙げる。本発明に係る「電磁波」の一例として「テラヘルツ波」を挙げる。
<第1実施例>
テラヘルツ波強度検出装置に係る第1実施例について、図1乃至図11を参照して説明する。第1実施例に係るテラヘルツ波強度検出装置1では、テラヘルツ波の検出素子として、ショットキーバリアダイオードが用いられている。
(ショットキーバリアダイオード)
先ず、ショットキーバリアダイオードの特徴、及びショットキーバリアダイオードを用いたテラヘルツ波の強度検出方法各々の概要について図1乃至図3を参照して説明する。図1は、電圧電流特性の一例を、ショットキーバリアダイオードに入射するテラヘルツ波の強度毎に示す図である。図2は、ショットキーバリアダイオードの電圧電流特性の温度変化の一例を示す図である。図3は、ショットキーバリアダイオードを用いたテラヘルツ波の強度検出方法を示す概念図である。
図1に示すように、ショットキーバリアダイオードに入射するテラヘルツ波の強度が弱くなる程、該ショットキーバリアダイオードに発生する電流も小さくなる。特に、ショットキーバリアダイオードにバイアス電圧が印加されていない場合(図1において電圧0を示す破線参照)、入射するテラヘルツ波の強度が弱くなると、ショットキーバリアダイオードに発生する電流が0に近づき、テラヘルツ波の強度検出ができなくなる。
ショットキーバリアダイオードにバイアス電圧を印加すれば、該ショットキーバリアダイオードに入射するテラヘルツ波の強度が弱くても、検出可能な程度の電流をショットキーバリアダイオードに発生させることができる(図1において電圧Vを示す破線参照)。
しかしながら、図2に示すように、ショットキーバリアダイオードの電圧電流特性は、温度依存性を有している。このため、バイアス電圧を固定値としてしまうと、ショットキーバリアダイオードにテラヘルツ波が入射していなくても、温度変化に起因して、該ショットキーバリアダイオードに発生する電流が変化してしまう(電圧V並びに電流I1、I2及びI3参照)。
ここで、テラヘルツ波の強度検出方法について、図3を参照して説明する。ショットキーバリアダイオードにバイアス電圧として電圧Vfが印加され、ショットキーバリアダイオードにテラヘルツ波が入射していない場合に該ショットキーバリアダイオードに発生する電流を電流Ifとする。
ショットキーバリアダイオードにテラヘルツ波が入射した場合に該ショットキーバリアダイオードに発生する電流が電流Itsであるとすると、電流Itsと電流Ifとの差分Isigが、テラヘルツ波に起因して増加した電流となる。上述の如く、ショットキーバリアダイオードに入射するテラヘルツ波の強度に応じて、該ショットキーバリアダイオードに流れる電流も変化する。このため、電流Itsと電流Ifとの差分Isigから、テラヘルツ波の強度を検出することができる。
特に、図1から図3から明らかなように、バイアス電圧Vを印加しておいた方が、バイアス電圧を0とした場合よりも、テラヘルツ波の強度の高低に応じて電流の増減が大きくなっている。即ち、検出におけるダイナミックレンジが大きくなっている。
また特に、図2から明らかなように、ショットキーバリアダイオードに発生する電流が、温度変化に起因して変化してしまうと、仮に単純に一つのショットキーバリアダイオードを流れる電流値だけからでは、テラヘルツ波の強度を正しく検出することができなくなる。そのため、本実施例では、後に詳述するように二つのショットキーバリアダイオードからの電流の差分を、電磁波強度を示す電流値として採用している。
加えて、図3に示した、本実施例に係る「電圧Vf」は、或る動作温度若しくは動作温度範囲で最適或いは好適なダイナミックレンジを与える最適バイアス電流を流すバイアス電圧を意味しており、基準電圧として二つのショットキーバリアダイオードに印加される。このようなバイアス電圧については、ダイナミックレンジを広く取れ、これに加えて又は代えて検出時のリニアリティを長く取ることができ、或いは検出ゲイン感度を高め、DCオフセットを抑圧でき、温度特性による変化に基づく検出誤差を抑圧し、個体差による検出誤差を抑制し、総じて検出精度を高められるように、動作温度若しくは動作温度範囲に応じて最適な値に設定するのが好ましい。このような設定は、例えば、各個体(即ち個々のショットキーバリアダイオードを夫々含んでなる個々の検出部)に対して、上記の各種視点から検出精度を高められる最適バイアス電流値(又は該最適バイアス電流を流すバイアス電圧値)を、実験的、経験的、あるいはシミュレーションにより個別具体的に求め、このような最適バイアス電流を流す電圧(又は温度別に設定されたバイアス電圧)を、実際の検出時における基準電圧として採用すればよい。典型的には、動作温度に応じて可変となる電圧若しくは温度別に設定された電圧となる。また、このように基準電圧を設定し、第1及び第2電流から出力を得る構成を採ることで、本実施例では以下に詳述するように、検出部の個体差に起因した検出誤差をも容易にして低減可能となる。
(テラヘルツ波強度検出装置)
次に図4から図11を参照して、テラヘルツ波強度検出装置の具体的構成について説明する。
図4において、実施例に係るテラヘルツ波強度検出装置を構成するショットキーバリアダイオードと、本発明に係る「偏波手段」の一例としての偏光子とを含んでなる検出光学系は、テラヘルツ発信器101、コリメートレンズ102及び対物レンズ103を備え、テラヘルツ発信器101からコリメートレンズ102及び対物レンズ103をこの順に介してテラヘルツ波100を測定試200に対して照射するように構成されている。検出光学系は更に、対物レンズ104、偏光子105、コリメートレンズ106及びショットキーバリアダイオードD1,D2を備え、測定試200からのテラヘルツ波100を対物レンズ104、偏光子105及びコリメートレンズ106をこの順に介してショットキーバリアダイオードD1,D2に対して照射するように構成されている。偏光子105は、特定一方向に偏光されたテラヘルツ波を、透過又は反射により出射するように構成されている。
ショットキーバリアダイオードD1は、本発明に係る「第1検出部」が有する検出素子の一例を構成しており、ショットキーバリアダイオードD2は、本発明に係る「第2検出部」が有する検出素子の一例を構成している。後で詳述するように、ショットキーバリアダイオードD1は、偏光子105による偏光方向と検出方向とが平行になっており、ショットキーバリアダイオードD2は、偏光子105による偏光方向と検出方向とが直交する。ここに「平行」とは、本実施例でテラヘルツ波100を検出する際の精度上で平行からのずれが実践上無視できる検出誤差を発生させる程度に平行であれば足りる趣旨であり、理想的には完全に平行であるが、実践的な意味で平行であれば足りる。他方「直交」とは、本実施例でテラヘルツ波100を検出する際の精度上で直交からのずれが実践上無視できる検出誤差を発生させる程度に直交であれば足りる趣旨であり、理想的には完全に直交であるが、実践的な意味で直交であれば足りる(これらについては図11等を参照して後述する)。
図4に示したショットキーバリアダイオードD1,D2を有するテラヘルツ波強度検出装置1は、図5に示す回路を有している。
図5において、 “OA1”はオペアンプの一例を示している。ショットキーバリアダイオードD2は、偏光されたテラヘルツ波に対してその検出方向が直交している。ショットキーバリアダイオードD1は、偏光されたテラヘルツ波に対してその検出方向が平行とされている。本発明に係る「出力部」の一例を構成する差電圧検出部50によって、これらのショットキーバリアダイオードD1,D2を流れる電流の差分をとることで、本実施例に係るテラヘルツ波強度検出装置1は、テラヘルツ波の入射の有無や強弱に拘わらず、検出結果が受ける動作温度の変化による悪影響が、低減されるように構成されている。
即ち本実施例では、ショットキーバリアダイオードD1の電気的特性と、ショットキーバリアダイオードD2の電気的特性とは等価である。加えて、ショットキーバリアダイオードD1は、ショットキーバリアダイオードD2が置かれた熱的環境と近い熱的環境に置かれる。これらは、後述のようにショットキーバリアダイオードD1,D2が一基板上に近接して作り込まれる(好ましくはカソード同士或いはアノード同士が共通で作り込まれる)ことで、容易に達成され得る。
図5に示した差電圧検出部50は、例えば、図6に示した回路を有する。
図5において、テラヘルツ波強度検出装置1では、テラヘルツ波(THz波)の測定中に、ショットキーバリアダイオードD2に所定電流値Ifが発生するようにバイアス電圧として電圧Vfが印加される。具体的には、直流電源の正極とオペアンプOA1のプラスの入力端子間の抵抗値を“R1”として、直流電源の正極の電位が“V1=If×R1+Vf”に設定される。差電圧検出部50のマイナスの入力端子の電位は“V1”である。
ショットキーバリアダイオードD1にテラヘルツ波(THz波)が入射したときに該ショットキーバリアダイオードD1に発生する電流を“Its”、オペアンプOA1の出力端子とオペアンプOA1のマイナスの入力端子との間の抵抗値を“R1”とする。オペアンプOA1の出力端子の電位V2は、“V2=Its×R1+Vf”と表せる。差電圧検出部50のプラスの入力端子の電位は“V2”であり、差電圧検出部50のマイナスの入力端子の電位は“V1”である。そして、差電圧検出部50からは、“V2−V1=Its×R1+Vf−(If×R1+Vf)=Its×R1−If×R1=Isig×R1”を示す信号が出力される。抵抗値R1は既知であるので、差電圧検出部50の出力から、ショットキーバリアダイオードD1に入射したテラヘルツ波の強度が検出されることとなる。この際、バイアス電圧Vfの高低は、差電圧検出部50からの差分出力に関係してこない。
このように第1実施例では、本発明に係る「バイアス電圧印加手段」の一例がV1を与える直流電源と、オペアンプOA1とを含んで構成されており、本発明に係る「出力部」の一例が、差電圧検出部50を含んで構成されている。
次に、図7及び図8を参照して、ショットキーバリアダイオードD1,D2の具体的な素子構造の一例について説明する。
図7に示すように、ショットキーバリアダイオードD1(又はD2)を含む半導体素子では、半導体基板10上に、高濃度ドープn型半導体11、n型半導体12、ショットキー電極13、オーミック電極14が、この順に積層されてなる。半導体は、例えばエピタキシャル成長により成膜される。
半導体基板10は、例えばInPから構成される半導体ウエハである。高濃度ドープn型半導体11は、例えばエピタキシャル成長により主にInGaAsから構成され、In組成は53%であり、ドーパントはSiで、そのドープ量は2×1018[原子/Cm3]以上とされる。n型半導体12は、例えばエピタキシャル成長により主にInGaAsから構成され、In組成は53%であり、ドーパントはSiで、そのドープ量は1×1016〜1×1018[原子/Cm3]とされる。ショットキー電極13は、例えば、主にAl又はTiから構成される。オーミック電極14は、例えば主にAuGeNi合金から構成される。
更に各層が、図8の平面図に示した如く、図7のショットキー電極13がショットキーバリアダイオードD1及びD2に夫々設けられ、ショットキーバリアダイオードD1のカソード16及びアノード17、並びにショットキーバリアダイオードD2のアノード17及びカソード18が設けられるようにパターンニングされる(図8(a)参照)。これにより、図5に示した如き、ショットキーバリアダイオードD1,D2の回路部分が、同一基板上に構築されている(図8(a)に対応する図8(b)を参照のこと)。特に、二つのショットキーバリアダイオードD1,D2のアノード同士は、一体的に接続されている(言い換えれば、両者のアノードは共通である)。二つのショットキー電極13の形状は同じとなるように構成されている。
次に、図9及び図10を参照して、ショットキーバリアダイオードD1,D2の検出方向をそれぞれ規定するアンテナの構造について説明を加える。
図10に示すように、同一平面上で、アンテナAN1は、その検出方向がX方向に沿って配置され、アンテナAN2は、その検出方向がY方向に沿って配置される。即ち、アンテナAN1及びアンテナAN2は、検出方向が同一平面内で相互に直交するように配置されたダイポールアンテナとして構築されている。
更に、このようなアンテナ1及び2が、ショットキーバリアダイオードD1(又はD2)のオーミック電極(図7及び図8参照)の上に、重ねて配置される。これらの結果、ショットキーバリアダイオードD1の検出方向と、ショットキーバリアダイオードD2の検出方向とは、同一平面内で相互に直交する配置となる。このため、図4に示した偏光子105を介してX方向に偏光されたテラヘルツ波は、ショットキーバリアダイオードD1では、100%に近い検出感度で検出され、ショットキーバリアダイオードD2では、0%に近い検出感度で検出されることになる。即ち、Y方向をその検出方向とするショットキーバリアダイオードD2では、図4に示したテラヘルツ波100は殆ど検出されないことになる。例えば、理論上は、仮にアンテナAN2の“幅”(図9参照)がゼロであるならば、図10に示したショットキーバリアダイオードD2では、X方向に偏波されたテラヘルツ波は全く検出されない。
図8及び10に示したように、回路としてアノード同士が接続されて利用される状況(図5参照)の下で、本実施例によれば、製造当初からアノード同士が一体的に連続して形成されるので、図7に示した如き半導体基板上に各層を製造する際の製造効率は非常に高い。或いは、本実施例で利用する半導体素子の特性を逆転させてカソード同士が一体的に連続して形成される回路構成を採用しても、同様に各層を製造する際の効率は高くなる。
加えて、図8及び10に示したように、二つのショットキーバリアダイオードD1及びD2が近接配置されるので、これらの電気的特性を等価にすることが容易となる。特に図7に示した如き半導体基板上に各層を製造する際には、半導体基板を構成する半導体ウエハの面内位置に応じて、半導体の特性は大なり小なり相異なるので、このように近接配置することは、係る電気的特性の差異を小さくする上で非常に役立つ。更に、このように近接配置することで、図10に示した如き装置をアレイ状或いはマトリクス状に高密度で複数配列する用途においても、非常に有利となる。
図11に示すように、ショットキーバリアダイオードD1,D2の検出感度は、各ショットキーバリアダイオードD1,D2の検出方向となるアンテナAN1,AN2と、偏光子105による偏光方向とのなす角度θに依存している。なお、本実施例では図8から図10等を参照して説明した通り、この角度θは、二つのショットキーバリアダイオードのD1,D2の検出方向のなす角度θに一致している。ここで、より具体的には、検出感度は、図11から明らかなように、COSθの二乗に比例するため、θ=72度〜108度の範囲にあれば、ショットキーバリアダイオードD2でテラヘルツ波による電流が検出される際の感度が、ショットキーバリアダイオードD1でテラヘルツ波による電流が検出される際の感度に比べて、10分の1以下となる。
よって、差電圧検出部50(図5及び図6参照)で二つのショットキーバリアダイオードのD1,D2からの検出電流の差分を出力することから、二つのショットキーバリアダイオードのD1,D2の検出方向は、(理想上は、相互に90度の角度をなすものの)実践上は、72度〜108度に入っていれば、十分な検出精度が得られる次第である。
(技術的効果)
第1実施例では特に、偏光子105(図4参照)の作用によってテラヘルツ波が殆ど入射していないときにショットキーバリアダイオードD2に発生する電流を、常に所定電流値Ifとすることができる。従って、当該テラヘルツ波強度検出装置1の検出結果に対する温度変化の影響を抑制することができる。
実施例に係る「ショットキーバリアダイオードD1」は、本発明に係る「第1検出部」を構成する検出素子の一例である。実施例に係る「ショットキーバリアダイオードD2」は、本発明に係る「第2検出部」を構成する検出素子の一例である。
<第2実施例>
次に第2実施例に係るテラヘルツ波強度検出装置について、図12を参照して説明する。第2実施例では、テラヘルツ波強度検出装置の構成の一部が異なっている以外は、上述した第1実施例と同様である。よって、第2実施例について、第1実施例と重複する説明を省略すると共に、図面上における共通箇所には同一符号を付して示し、基本的に異なる点についてのみ図12を参照して説明する。図12は、第2実施例に係るテラヘルツ波強度検出装置の検出回路の要部の一例を示す図である。
(テラヘルツ波強度検出装置)
テラヘルツ波強度検出装置2は、図12に示す回路を有している。図12において、“OA3”及び“OA4”はオペアンプである。当該テラヘルツ波強度検出装置2では、直流電源の正極とオペアンプOA4のマイナスの入力端子との間の抵抗値を“R2”として、直流電源の正極の電位が“V3=If×R2”に設定される。
図12に示すように、オペアンプOA4のマイナスの入力端子とオペアンプOA4の出力端子とがショットキーバリアダイオードD2を介して電気的に接続されているので、オペアンプOA4のマイナスの入力端子の電位V−と、オペアンプOA4のプラスの入力端子の電位V+とが同電位(ここでは、グランド電位)となる。
図12に示すように、オペアンプOA4のマイナスの入力端子とオペアンプOA4の出力端子との間に配置されたショットキーバリアダイオードD2には、所定電流値Ifが流れる。従って、ショットキーバリアダイオードD2には、所定電流値Ifが発生する電圧Vfがバイアス電圧として印加していることとなる。
上述の如く、オペアンプOA4のマイナスの入力端子の電位V−(即ち、ショットキーバリアダイオードD2のアノード側の電位)は、グランド電位であるので、オペアンプOA4の出力端子の電位V4(言い換えれば、ショットキーバリアダイオードD2のカソード側の電位)は、“−Vf”となる。従って、ショットキーバリアダイオードD1のカソード側の電位も“−Vf”となる。
図12に示すように、オペアンプOA3のマイナスの入力端子とオペアンプOA3の出力端子とが電気的に接続されているので、オペアンプOA3のマイナスの入力端子の電位V−と、オペアンプOA3のプラスの入力端子の電位V+とが同電位となる。ここで、オペアンプOA3のプラスの入力端子の電位V+は、ショットキーバリアダイオードD2のアノード側の電位と等しいので、グランド電位である。この結果、オペアンプOA3のマイナスの入力端子の電位V−、言い換えれば、ショットキーバリアダイオードD1のアノード側の電位もグランド電位となる。つまり、ショットキーバリアダイオードD1には、電圧Vfがバイアス電圧として印加されている。
ショットキーバリアダイオードD1にテラヘルツ波が入射すると、ショットキーバリアダイオードD1には電流Its(Its>If)が発生する。このとき、オペアンプOA3のマイナスの入力端子とオペアンプOA3の出力端子との間の抵抗(抵抗値R3)に流れる電流は、キルヒホッフの法則により、“Its−If”となり、図12に示す回路の出力電圧は“(Its−If)×R3=Isig×R3”となる。抵抗値R3は既知であるので、オペアンプOA3の出力から、ショットキーバリアダイオードD1に入射したテラヘルツ波の強度が検出されることとなる。この際、バイアス電圧Vfの高低は、オペアンプOA3からの差分出力に関係してこない。
このように第2実施例では、本発明に係る「バイアス電圧印加手段」の一例がV3を与える直流電源と、オペアンプOA4とを含んで構成されており、本発明に係る「出力部」の一例がオペアンプOA3を含んで構成されている。
本発明は、上述した実施形態或いは実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う電磁波検出装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。