JP6805934B2 - 環境水中のリン吸着剤及びその製造方法、リン吸着剤の品質管理方法、並びにリン吸着剤を用いた環境水中のリンの除去方法 - Google Patents
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Description
富栄養化が進行すると、窒素やリン等を栄養分とする植物プランクトン等が異常増殖し、アオコの大量発生や魚介類の大量斃死を引き起こすだけでなく、上水道や農工業用水、水産資源への影響など、水利用の観点からも大きな影響を及ぼすおそれがあり、湖沼水中のリンや窒素を適切な濃度に制御する必要がある。
これらの方法は、例えば国土交通省の「湖沼における水理・水質管理の技術」に掲載されている、下記表1に示すように、流入河川対策、湖内対策、流域対策に分類することが可能である。
また直接浄化法には、吸着法、土壌処理法、植生浄化法等があり、吸着法には、微生物を礫などの支持担体に付着させて微生物と有機物とを接触させて有機物を酸化処理する接触酸化法があるが、このような生物処理方法では、窒素やリンの除去率が低く、更に処理の安定性も良好ではない等の問題がある。
植生浄化法及び土壌浄化法では、処理のために広い処理面積が必要となる等の問題点を有している。
生物学的処理法は、コストの面、BOD・窒素・リンの同時除去が可能であること等から有望な処理方法ではあるが、処理の安定性に欠けている問題があり、今後の技術開発が期待されている。
かかる物理化学的処理には、凝集沈殿法、加圧浮上法、凝集剤添加活性汚泥法、晶析(接触)脱リン法、吸着法、鉄接触材リン除去法等があり、一般的には凝集沈殿法が利用されている。これらの物理化学的処理は、そのほとんどが凝集剤もしくは吸着剤として、カルシウム塩、マグネシウム塩、鉄塩を用いている処理方法である。
しかし、コストの面、維持管理の面等から、現状の物理化学的リン除去方法にも問題があり、今後の技術開発が期待されている。
しかし、上記技術はコストの観点から環境水への適用は好適でない。
なお、ここでは、重金属に加え、ヒ素、セレン、ホウ素等の半金属及びフッ素等のハロゲンを総称して、「重金属等」と称する。
また、上記凝集沈殿法、晶析(接触)脱リン法、吸着法には、カルシウム塩として生石灰が広く用いられているが、生石灰は一定程度の溶解度を有するため、吸着剤が溶液中に溶解してしまい、繰り返しの利用には向かず、さらに、生石灰は、鉛やカドミウム等の重金属の不溶化には吸着性能を発揮するが、ヒ素、セレン等の半金属に対する吸着能は低いことが、「北海道立衛生研究所報 Rep. Hokkaido Inst. Pub. Health, 62, 35-41(2012)」(非特許文献1)及び「新潟県保健環境科学研究所年報 第25 巻 93-95(2010)」(非特許文献2)に開示されている。
(2)上記(1)のリン吸着剤において、更に第一鉄化合物を含有することを特徴とする。
(3)上記(1)又は(2)のリン吸着剤において、前記CaOを含む焼成炭酸塩化合物は、焼成ドロマイトであることを特徴とする。
(4)上記(1)乃至(3)いずれかのリン吸着剤において、更に重金属、半金属及びハロゲンを吸着することを特徴とする。
(6)上記(5)のリン吸着剤の製造方法において、前記CaO相を含む焼成炭酸塩化合物に、更に第一鉄化合物を配合することを特徴とする。
(8)本発明の環境水中のリンの除去方法は、上記(1)乃至(4)いずれかのリン吸着剤を、リンを含む環境水と接触させることを特徴とする、環境水中のリンの除去方法である。
また、本発明のリン吸着剤は、原料となるドロマイト鉱石等の産地による組成の相違や、焼成温度等の焼成条件の設定などに依存することなく、優れたリン及び重金属等吸着性能を有することが可能となり、カラムでの利用に適したリン吸着剤とすることが可能である。
本発明のリン吸着剤の製造方法は、上記本発明の優れたリン及び重金属等吸着性能を有するリン吸着剤を、特別な装置等を必要とすることなく、経済的且つ有効に製造することができる。
本発明のリン吸着剤を用いたリン等の除去方法は、環境水からリンや重金属等を有効に簡便に除去処理することが可能となり、カラム等に充填して用いることが可能である。
本発明のリン吸着剤は、CaOを含む焼成炭酸塩化合物であって、粉末X線回折によるリートベルト法を用いて解析したCaOの含有量が、3.7≦x≦13.5(質量%)である、リン吸着剤である。
本発明は、焼成炭酸塩化合物中のCaO相の含有量と、リン吸着除去率とが相関関係を有することにより、焼成炭酸塩化合物中に含まれるCaO相を定量して、上記範囲内の含有量とすることで、原料となる炭酸塩化合物の産地による組成の相違や、焼成温度等の焼成条件の設定などに関係なく、焼成炭酸塩化合物が優れたリンや重金属等吸着性能を有し、且つ、リンや重金属等吸着後の吸着剤残存率に優れる吸着剤とすることが可能となる。
焼成ドロマイトの原料となる原料ドロマイトは、特に限定されず、市場で入手し得る任意の原料ドロマイトを用いることができ、産地や原料ドロマイトの組成は問わない。
ドロマイトは、国内に多量に存在しており、ドロマイトを使用した吸着剤は、コストや環境負荷の点からも有利である。
CaMg(CO3)2→MgO+CaO+2CO2・・・(1)
で表される分解反応を示す。
ドロマイトを焼成することによる上記熱分解により、CaOが形成されてリンや重金属等吸着性能を発揮しているものと考えられる。
CaOの含有量が3.7質量%より小さい場合では、リンの吸着性能が低下し、また、13.5質量%より多い場合では、リン吸着後の吸着剤残存率が低下してしまう。
ドロマイトは、具体的には下記熱分解反応により2段階で熱分解しCaOが生じる。
CaMg(CO3)2→CaCO3+MgO+CO2 約 750−800℃
CaCO3+MgO+CO2→CaO+MgO+2CO2 約 800℃を超えて−1000℃
また生成したCaOがリンと反応し、下記反応式により難溶性のヒドロキシアパタイトが生成する。
5Ca2++4OH−+HPO4 2−→Ca5(OH)(PO4)3+3H2O
ここでCaCO3とCaOが水和し生成すると考えられるCa(OH)2の溶解度を比較すると2桁程度Ca(OH)2の方が高い(25℃:CaCO3・・0.015g/l、Ca(OH)2・・1.7g/l)。焼成度合が高いドロマイトほど、CaO相の生成する割合が増え、同時に溶液中においてCa2+として存在する割合が増えることとなる。
よって焼成度合が低い、例えば、焼成温度が低い又は焼成時間が短い焼成条件では、CaOの生成量が十分でなく、上記反応が進行せずヒドロキシアパタイトが生成しなかったと考えられる。
焼成度合いが高すぎた場合、例えば、焼成温度が高い又は焼成時間が長い焼成条件では、リン吸着剤残存率が下がると考えられる。
従って、CaO含有量が13.5(質量%)を超える焼成ドロマイトは、例えば、カラムでの使用には好適でないと考えられる。
一方、粉末X線回折によるリートベルト法は、TG−DSC法と異なり、焼成ドロマイト中に含まれるCaCO3相、MgO相、CaO相の量を正確に解析することができるため、焼成ドロマイト中に生成したCaO相の正確な定量を可能とすることができる。
ここで、吸着除去することができる「重金属等」に含まれる重金属としては、例えば、クロム、鉛、ヒ素、カドミウム等の1種若しくは2種以上のものが例示でき、半金属としてはヒ素、セレン、ホウ素などを例示でき、ハロゲンとしては塩素、フッ素等を例示することができるが、これらの重金属、半金属やハロゲンに限定されるものではない。
焼成炭酸塩化合物と混合される第一鉄化合物としては、塩化第一鉄や硫酸第一鉄等を例示することができる。
その含有量は、上記残留CaO相の含有量が、3.7≦x≦13.5(質量%)である焼成ドロマイトに対して、質量比で好ましくは5:5〜9:1、より好ましくは9:1である。
かかる含有範囲で第一鉄化合物を含有することにより、その還元、共沈、吸着作用によって、より有効に重金属等を吸着及び不溶化することができ、河川や湖沼などの環境水から重金属等を、より有効に除去することが可能となる。
上記したように、原料としてのCaを含む炭酸塩化合物としては、石灰石やドロマイト等を例示することができる。
かかる第一鉄化合物としては、硫酸第一鉄や塩化第一鉄等を例示することができる。
その配合は、上記したように、上記残留CaO相の含有量が3.7≦x≦13.5(質量%)である焼成ドロマイトに対して、質量比で好ましくは5:5〜9:1、より好ましくは9:1で配合して混合するが、その混合方法は、均一に混合することができれば、特に限定されない。
本発明のリン吸着剤と環境水との接触方法としては、特に限定されず、任意の公知の方法を適用することができ、例えば、本発明のリン吸着剤をカラムに充填し、該カラム内に河川や湖沼などの環境水を、ポンプ等を用いて通液する方法等や、河川や湖沼などの環境水中への投入攪拌方法等を例示することができる。なお、例えば、河川や湖沼などの環境水中へ投入した場合には、その後、凝集剤等を配合して、固液分離方法により回収することも可能である。
当該カラムは、複数個で用いることができ、直接または並列に設置されて利用することも可能である。
本発明のリン吸着剤は、水溶液のpHをアルカリ性にすることができるため、例えば、カドミウム等のような重金属を水酸化物の形態で沈殿除去させることができるとともに、鉛、ヒ素、セレン、クロム等の重金属等も有効に吸着除去することが可能となる。
(実施例1〜5・比較例1〜12)
(1)焼成ドロマイトの調製
ドロマイト(産地:栃木(葛生地方)、粒径:3〜7mm)を用いて、焼成温度800℃又は750℃で、下記表2に示す各焼成時間(5〜300分)で焼成することにより、各焼成ドロマイトを調製した。なお、比較のために、焼成していないドロマイトも準備した。以下、焼成ドロマイトと焼成していないドロマイトを焼成ドロマイト等と称する。
上記(1)で得られた各焼成ドロマイト等である塊状の焼成ドロマイト等を、遊星ミルを用いて、平均粒径が50±10μm程度まで粉砕(300 rpm, 10 min)して、各焼成ドロマイト等粉末を、リン吸着剤とした。得られた各リン吸着剤粉末を、以下の条件下での粉末X線回折及びリートベルト解析を実施して、表2に示す各相の定量測定を実施した。
使用装置:PANalytical X’Pert Pro MPD
リートベルト解析ソフト:PANalytical High Score Plus
測定条件:管球 Cu−Kα , 管電圧 45 kV, 電流 40 mA
発散スリット 可変 (12 mm)
アンチスキャッタースリット(入射側) 無し
ソーラースリット(入射側) 0.04 rad.
受光スリット 無し
アンチスキャッタースリット(受光側) 可変 (12 mm)
ソーラースリット (受光側) 0.04 rad
走査範囲 2θ=20〜70°,
走査ステップ 0.008°,
計数時間 最強線のカウント数が10000±1000 cpsになるように調整
各測定は、Goodness of fit≦7となった際に、解析が成功したとみなし、その結果を下記表2に示した。
下記表3に示す各試薬を表3示す各種イオンが表3に示す所定の濃度となるように配合して、模擬環境水Aを調製した。
50mlコニカルチューブに、上記(1)で得られた上記表2に示す組成を有する各焼成ドロマイト等(粒径3〜7mm)と、上記(3)で得られた模擬環境水Aとを、固液比(質量比)が1:100となるように添加して、それぞれ30分間振とうした。
次いで、0.45μmメンブランフィルターを用いて吸引ろ過を実施し、ろ液中のリン濃度を、ICP−AES(ICP発光分光法、測定装置:SPECTRO社製 ARCOS FHX22)により定量し、下記式2より、吸着除去率を算出した。その結果を、表4及び図1〜2に示す。
また、吸着試験後における吸着剤残存率についても、下記式3より算出するとともに、ろ液のpH及び酸化―還元電位(ORP)を、(株)堀場製作所製の卓上型pHメーター:F−73(pH電極:9615S−10D、ORP電極:9300−10D)にて測定した。その結果も、表4及び図1〜2に示す。
Ci=吸着試験前の模擬環境水A中のリン酸初期濃度(mg/l)
Cf=吸着試験後の模擬環境水Aのろ液中のリン酸濃度(mg/l)
吸着剤残存率(%)= Af/Ai × 100 ・・・(3)
Ai = 吸着試験前の初期の吸着剤の質量(g)、
Af = 吸着試験後の吸着剤の質量(g)
但し、吸着試験後の吸着剤重量Afは、JIS Z 8801−1−2000で規定されている公証目開き2.8mmの篩上に残るもののみの重量とした。
上記実施例1及び3の焼成ドロマイト及び上記(3)の模擬環境水Aを用いて、固液比(質量比)をそれぞれ1:50、1:30、1:20、1:10に変えて、上記(4)と同様のリン吸着試験を実施した。
その結果を下記表5に示す。なお、リン酸イオン濃度は全リン濃度とする。
例えば、霞ヶ浦に係る湖沼水質保全計画(第6期)における全リンの目標値は0.084 mg/lと定められており、その基準に合致するような固液比となるように、本発明のリン吸着剤を投入することが可能である。
なお、上記表5においては、リン低減目標値の一例として霞ヶ浦における目標値を例示したが、霞ヶ浦に限定されることなく、河川や湖沼の目標基準に応じて、本発明のリン吸着剤の添加量を任意に調整することができ、これにより、目標とする濃度にまでリン濃度を低減することができる。
環境水中のリン酸及びヒ素吸着試験を、下記模擬環境水Bを調製して実施した。具体的には、模擬環境水Bとしては、下記表6に示す各試薬を表6に示す各種イオンが表6に示す所定の濃度となるように配合して、模擬環境水Bを調製した。
また、各焼成ドロマイトに硫酸第一鉄一水和物を内割で10質量%添加した吸着剤についても同様の試験を行った。
次いで、0.45μmメンブランフィルターを用いて吸引ろ過を実施し、ろ液中のリン濃度を、ICP−AES(ICP発光分光法、測定装置:SPECTRO社製 ARCOS FHX22)により定量し、またろ液中のヒ素濃度を、JIS K 0102:2013 61.3に準じて(測定装置:SPECTRO社製 ARCOS FHX22、水素化物発生装置 TELEDYNE CETAC社製 HGX−200)定量し、下記式4より、それぞれ吸着除去率を算出した。
塊状の各焼成ドロマイト等の結果を表7に、また、塊状の焼成ドロマイト等に硫酸第一鉄一水和物を添加した吸着剤の結果を表8に示す。
また、ろ液のpH及び酸化―還元電位(ORP)を、(株)堀場製作所製の卓上型pHメーター:F−73(pH電極:9615S−10D、ORP電極:9300−10D)にて測定した。これらの結果も表7及び8に示す。
Ci=吸着試験前の模擬環境水B中のリン酸又はヒ素初期濃度(mg/l)
Cf=吸着試験後の模擬環境水Bのろ液中のリン酸又はヒ素濃度(mg/l)
Claims (8)
- CaOを含む焼成炭酸塩化合物であって、粉末X線回折によるリートベルト法を用いて解析したCaOの含有量が、3.7≦x≦13.5(質量%)であり、MgOの含有量が15.2≦MgO≦16.8(質量%)であることを特徴とする、リン吸着剤。
- 請求項1記載のリン吸着剤において、更に第一鉄化合物を含有することを特徴とする、リン吸着剤。
- 請求項1又は2記載のリン吸着剤において、前記CaOを含む焼成炭酸塩化合物は、焼成ドロマイトであることを特徴とする、リン吸着剤。
- 請求項1乃至3いずれかの項記載のリン吸着剤において、更に重金属、半金属及びハロゲンを吸着することを特徴とする、リン吸着剤。
- Caを含む炭酸塩化合物を焼成するにあたり、粉末X線回折によるリートベルト法を用いて解析した、焼成後の焼成炭酸塩化合物中のCaO相の含有量が、3.7≦x≦13.5(質量%)となり、MgOの含有量が15.2≦MgO≦16.8(質量%)となるように焼成することを特徴とする、リン吸着剤の製造方法。
- 請求項5記載のリン吸着剤の製造方法において、前記CaO相を含む焼成炭酸塩化合物に、更に第一鉄化合物を配合することを特徴とする、リン吸着剤の製造方法。
- 粉末X線回折によるリートベルト法を用いて解析した、焼成後の焼成炭酸塩化合物中のCaO相の含有量が3.7≦x≦13.5(質量%)となり、MgOの含有量が15.2≦MgO≦16.8(質量%)となるように管理することを特徴とする、リン吸着剤の品質管理方法。
- 請求項1乃至4いずれかの項記載のリン吸着剤を、リンを含む環境水と接触させることを特徴とする、環境水中のリンの除去方法。
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