JP6708182B2 - プレス成形品の製造方法 - Google Patents
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Description
なお、長手方向に沿って湾曲部は2以上存在していても良い。その場合、隣り合う湾曲部間に直線部が存在していても良い。
車体構造部品に用いられるプレス成形品の一つとして、例えばAピラーアッパーのような、平面視で、長手方向に沿って所定の曲率半径で製品幅方向に湾曲した天板部及びフランジ部を有するハット形断面部品が挙げられる。このような部品にプレス成形した場合、成形下死点で、湾曲凸側(湾曲の凸側)に圧縮応力が発生すると共に湾曲凹側(湾曲の凹側)に引張応力が発生し、これらの応力差によって製品幅方向へのスプリングバックが発生する。このような部品形状に、ハイテン材からなる金属板をプレス成形で作製した場合、前述の下死点での応力差が大きくなり、上記スプリングバックが増加するといった課題が発生する。更に、ハイテン材では材料強度のバラツキが大きくなるため、寸法精度のバラツキも大きくなる、すなわち材料強度感受性が悪いという課題がある。
特許文献1に記載の方法では、略ハット形断面でかつ長手方向に沿って幅方向に湾曲した部品について、前工程で、曲げ加工された略ハット形断面の先端側フランジ部のみが残留応力をキャンセルする方向に曲げ戻すことが提案されている。これによって、後工程で発生する応力を低減し、スプリングバックを抑制すると記載されている。
また、特許文献2に記載の方法では、前工程において湾曲部全体の曲率半径を大きくすることにより応力を低減させるが、曲げ内側(湾曲部の凹側)の伸びフランジ成形部位では、前工程で成形形状の曲率半径を大きくすることによって、後工程で線長が余り、十分に応力を打ち消すことが難しく、また前工程での曲率半径の設計を機械的に行うことができない。
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、ハイテン材を使用した場合でも、金型が複雑にすることなく、長手方向に沿った幅方向へのスプリングバックを大きく低減できるプレス成形品の製造方法を提供することを目的とする。
この結果、本発明の一態様によれば、材料強度が振れた場合でも、寸法精度の高い部品が得られ、歩留りの向上に繋がる。更に、例えばハット断面形状の部品を用いて車体構造部品とする際に、部品の組立てを容易に行うことが可能となる。
以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに特定されるものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
本実施形態が対象とするプレス成形で成形される製品形状1は、図1に示すような、天板部1Aの幅方向両側に側壁部1Bが連続した断面形状を有すると共に長手方向に沿って幅方向に湾曲した湾曲部を有する製品形状1である。天板部1Aの幅方向両側に側壁部1Bが連続した断面形状の代表例として、ハット形断面やコの字形断面がある。コの字形断面の場合、側壁部1Bがフランジとなる。
そのような製品形状1に、平板状のブランク材からなる金属板をプレス成形すると、図2に示すように、湾曲凸側WAに圧縮応力が発生すると共に湾曲凹側WBに引張応力が発生し、これらの応力差によって製品幅方向へのスプリングバックが発生する。
このとき、金属板の材料強度の増加に伴い、この残留応力が増加して、幅方向へのスプリングバック量が大きくなる傾向がある。すなわち、590MPa以上のハイテン材を採用するとスプリングバックが大きくなる。
また、図4に示す製品形状の例は、湾曲凸側WAには、側壁部1Bに連続するフランジ部を設けず、また、湾曲凹側WBの側壁部1Bに長手方向に延びる段差を設けて、湾曲凹側WBの剛性が高くなるようにしている。
なお、フランジ外周をトリムするトリム加工(不図示)を有する。トリム加工は、第1の工程の前に実施しても良いし、第1の工程と第2の工程の間で実施しても良いし、第2の工程の後に実施しても良い。本実施形態では、トリム加工を第1の工程でのプレス加工の前に実施する場合で説明する。この場合、中間部品は、フランジ外周のトリム加工が行われた状態の部品となる。
上記の線長の調整は、例えば、天板部1Aと側壁部1Bとの間の曲げ線位置1aや、側壁部1Bとフランジ部1Cとの曲げ線位置1bでの線長を代表して実施すれば良い(図1参照)。
設計工程10Aは、コンピュータによるシミュレーション解析によって、上述のように長手方向に沿って幅方向に湾曲した湾曲部に対し、湾曲の凸側である湾曲凸側WAの長手方向に沿った線長を製品形状1での線長よりも短く成形すると共に、湾曲の凹側である湾曲凹側WBの長手方向に沿った線長を上記製品形状1での線長よりも長い形状を演算して設計する工程である。そして、設計した形状にプレス成形するための第1の工程10B用の金型形状を決定する。
例えば、設計工程10Aは、金属板を1回のプレス成形で製品形状1とするシミュレーション解析をコンピュータで行うことで、湾曲部における湾曲凸側WAに発生する長手方向圧縮応力領域での長手方向の線長L1と長手方向平均ひずみ量ε1とを求める。そして、設計工程10Aは、湾曲凸側WAの第1の工程10B後の線長をL2と定義した場合、下記(1)式を満足するように、第1の工程10Bの線長を設定する。
0 < L1−L2 ≦ 2× |L1×ε1|・・・・・(1)
0 < L2’−L1’ ≦ 2× |L1’×ε1’| ・・・・(2)
ここで、第1の工程10Bの成形には、ドロー成形又はフォーム成形を適用すればよい。
第2の工程10Cは、上述のように、中間部品に対し、湾曲部における、湾曲凸側WAの線長を、第1の工程10Bの線長よりも長く成形し、湾曲凹側WBの線長を第1の工程10Bの線長よりも短く成形する工程である。
L2 < L3 ≦ 1.01×L2 ・・・・(3)
L2’ > L3’ ≧ 0.99×L2’ ・・・・(4)
更に、L3’がL2’以上になった場合、第2の成形工程の成形下死点において、湾曲凹側WBで応力反転せず、スプリングバックが十分抑制されない。またL3’が0.99×L2’より小さくなった場合、第2の成形工程の成形下死点において、湾曲凹側WBに過度の引張応力が発生し、逆向きのスプリングバックが発生するおそれがある。
上記第2の工程10Cで使用する金型の形状についても、設計工程10Aにて、金属板をプレス成形で製品形状1とするシミュレーション解析をコンピュータで行って設計すればよい。
本実施形態のプレス成形品の製造方法では、スプリングバックを低減するために、第1の工程10Bでは、湾曲部について、湾曲凸側WAについては、長手方向に沿った湾曲部の線長を製品形状1での線長よりも短く成形し、湾曲凹側WBについては、長手方向に沿った湾曲部の線長を製品形状1での線長よりも長く成形して中間部品を製造し、第2の工程10Cで、中間部品の湾曲部に対し、湾曲凸側WAについては、第1の工程10Bの線長よりも長く成形し、湾曲凹側WBについては、第1の工程10Bの線長よりも短く成形して目標の製造部品を得る。
プレス加工する金属板としてはハイテン材を対象とするが、鋼板やアルミニウム板などを用いてもよい。
これにより、応力差が低減し、製品幅方向へのスプリングバック量が低減すると共に、材料強度が振れた場合であっても、材料強度の感受性を低減させることが可能となる。
この結果、本実施形態によれば、材料強度が振れた場合でも、寸法精度の高い部品が得られ、歩留りの向上に繋がる。更に、ハット断面形状の部品を用いて車体構造部品とする際に、部品の組立てを容易に行うことが可能となる。
図6に、製品形状1が、長手方向に沿って1つの直線部Kと1つの湾曲部Qとからなる場合の一例を示す。
図7に、製品形状1が、長手方向に沿って2つの湾曲部Q1、Q2からなる場合を例示する。なお、この場合には、各湾曲部Q1、Q2毎に個別に上記線長を求めて実施すればよい。
本実施例では、図4に示すような、上面視で長手方向に沿って幅方向に湾曲した略ハット形断面部品をプレス成形する場合を対象とした。プレス成形品の寸法(単位はmm)は、図4に記載したとおりである。
表1に、比較例(No.1〜No.3)及び発明例(No.4〜No.6)における、成形条件及び発生したスプリングバック量について記載する。
比較例(No.1〜No.3)では、1回のプレス成形で製品形状1に成形する条件として、製品形状1金型でのプレス成形解析とスプリングバック解析とを実施し、上面視での幅方向へのスプリングバック量(Y方向変位)を測定した。
ここで、プレス成形に使用する金属板は、板厚t=1.6mの鋼板とした。このとき、No.1では材料強度(引張強度)が590MPaの鋼板とし、No.2では材料強度が980MPaの鋼板とし、No.3では材料強度が1180MPaの鋼板とした。
表1から分かるように、No.1のサンプルでは、スプリングバック量が−9.2mm、No.2のサンプルでは、スプリングバック量が−12.7mm、No.3のサンプルでは、スプリングバック量が−16.1mmであり、材料強度の増加に伴いスプリングバック量が大きくなっていた。
上記の比較例の結果に基づき、本発明に基づいた例(No.4〜No.6)では、第1の工程10Bの湾曲凸側WAは製品よりも短い線長に、湾曲凹側WBは製品よりも長い線長に成形し、第2の工程10Cの湾曲凸側WAは第1の工程10Bの線長より長い線長に、湾曲凹側WBは第1の工程10Bの線長より短い線長に成形するプレス成形解析を行った。
そして、
L1−L2 = 0.7× |L1×ε1|
L2’−L1’= 0.3× |L1’×ε1’|
となるように、第1の工程10Bでの湾曲凸側WA及び湾曲凹側WBの線長を設定した。
ここで、
L2 :湾曲凸側WAの第1の工程10B後の線長
L2’:湾曲凹側WBの第1の工程10B後の線長
である。
ここで、プレス成形に使用する金属板は、比較例と同様に、板厚t=1.6mの鋼板とした。すなわち、No.4では材料強度(引張強度)が590MPaの鋼板とし、No.5では材料強度が980MPaの鋼板とし、No.6では材料強度が1180MPaの鋼板とした。
そして上記の条件で、第1の工程10Bの金型モデルを用いてプレス成形解析を実施し、成形下死点まで成形されたプレス成形品の離型後におけるスプリングバック解析を行った。その後、スプリングバック後の成形品を第2の工程10Cでリストライク成形する成形解析を実施し、成形下死点まで成形されたプレス成形品の離型後におけるスプリングバック解析を行った。
すなわち、本発明例では、比較例と比較してスプリングバック量が低減した。更に590MPa材と1180MPa材の寸法精度差を比較すると、比較例では寸法精度差が6.9mmだったのに対して、本発明例では寸法精度差が3.4mmになり、寸法精度変動が低減した。
このように本発明を適用することで、材料強度が振れた場合でも、寸法精度の高い部品が得られることが分かる。
1A 天板部
1B 側壁部
1C フランジ部
1a、1b 曲げ線位置
10A 設計工程
10B 第1の工程
10C 第2の工程
K 直線部
Q、Q1、Q2 湾曲部
WA 湾曲凸側
WB 湾曲凹側
Claims (5)
- 天板部の幅方向両側に側壁部が連続した断面形状を有すると共に長手方向に沿って幅方向に湾曲した湾曲部を有する製品形状に、金属板をプレス成形して製造する際に、
上記湾曲部について、湾曲の凸側である湾曲凸側の長手方向に沿った線長を上記製品形状での線長よりも短く成形すると共に、湾曲の凹側である湾曲凹側の長手方向に沿った線長を上記製品形状での線長よりも長く成形して中間部品を製造する第1の工程と、
上記中間部品に対し、上記湾曲凸側の線長を上記第1の工程での線長よりも長く成形すると共に、上記湾曲凹側の線長を上記第1の工程での線長よりも短く成形する第2の工程と、
を有し、
上記線長は、上記天板部と上記側壁部との間の曲げ線位置、又は上記側壁部の幅方向端部位置での上記長手方向に沿った線長とする、
ことを特徴とするプレス成形品の製造方法。 - 上記金属板は、材料強度が590MPa以上の鋼板であり、
上記金属板を、製品形状金型を用いて1回のプレス成形で上記製品形状とするプレス成形解析をコンピュータで行うことで、上記湾曲凸側に発生する長手方向圧縮応力領域での上記長手方向の線長L1と長手方向平均ひずみ量ε1とを求め、
上記湾曲凸側の上記第1の工程後の線長をL2と定義した場合、下記(1)式を満足するように第1の工程における上記湾曲凸側の線長を設定することを特徴とする請求項1に記載したプレス成形品の製造方法。
0 < L1−L2 ≦ 2× |L1×ε1| ・・・・(1) - 上記金属板は、材料強度が590MPa以上の鋼板であり、
上記金属板を、製品形状金型を用いて1回のプレスで上記製品形状とするプレス成形解析をコンピュータで行うことで、上記湾曲凹側に発生する長手方向引張応力領域での上記長手方向の線長L1’と長手方向平均ひずみ量ε1’とを求め、
上記湾曲凹側の上記第1の工程後の線長をL2’と定義した場合、下記(2)式を満足するように第1の工程における上記湾曲凹側の線長を設定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載したプレス成形品の製造方法。
0 < L2’−L1’ ≦ 2× |L1’×ε1’| ・・・・(2) - 第1の工程の成形にドロー成形又はフォーム成形を適用し、第2の工程の成形にリストライク加工を適用することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載したプレス成形品の製造方法。
- 上記金属板は、材料強度が590MPa以上の鋼板であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載したプレス成形品の製造方法。
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