次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1に示すように、本発明のブレーキ装置を備える一実施形態のクラッチユニット1は、乗物用シートの一例としての車両用シートSのシートクッションS1の高さを調整するための公知のハイトアジャスト機構に適用されるものである。クラッチユニット1は、操作入力部材50にレバーLVが取り付けられ、レバーLVの操作により、後述する出力側回転部材30を回転させてハイトアジャスト機構を駆動してシートクッションS1の高さを調整可能である。具体的には、レバーLVを中立位置Nから上げると、シートクッションS1が所定量上がり、レバーLVを中立位置Nから下げると、シートクッションS1が所定量下がるようになっている。なお、レバーLVを、上または下の位置から中立位置Nに戻すときには、出力側回転部材30が回転しないようになっている。
図2に示すように、クラッチユニット1は、ハウジング100に各部材が収納されて構成されている。なお、ハウジング100は、外輪10、取付板85およびカバー部材60の組合せにより構成されている。また、以下の説明では、カバー部材60および操作入力部材50が配置される図2の左側を「入力側」と称し、出力側回転部材30が配置される図2の右側を「出力側」と称する。
クラッチユニット1は、入力側に設けられ、操作入力部材50の揺動動作による入力トルクを伝達・遮断するラチェット装置2と、出力側に設けられ、ラチェット装置2からの入力トルクを出力側回転部材30の出力ギヤ35に伝達するとともに、出力ギヤ35からの逆入力トルクを遮断するブレーキ装置3とを備えてなる。
ラチェット装置2とブレーキ装置3の構成部品の概略を説明すると、ラチェット装置2は、操作入力部材50と、規制部材71と、ローラ72と、リターンスプリング73とを備えてなる。また、ブレーキ装置3は、外輪10と、ブレーキシュー20と、出力側回転部材30と、入力側回転部材40と、可動片の一例としてのローラ81と、付勢部材の一例としてのスプリング82と、フリクションリング83と、ワッシャ75とを備えてなる。なお、入力側回転部材40は、ラチェット装置2の出力部材であるとともに、ブレーキ装置3の入力部材であり、ラチェット装置2とブレーキ装置3のいずれの部品ともいうことができる。
次に、ブレーキ装置3およびラチェット装置2の構成の詳細を説明する。
まず、ブレーキ装置3の構成について説明する。
外輪10は、所定肉厚のリングからなり、円筒状の内周面11と、円筒状の外周面12と、内周面11と外周面12を繋ぐ一対の側面13,14とを有している。一対の側面13,14は、内周面11よりも外輪10の径方向外側に位置し、内周面11の軸線に対し直交する平面となっている。なお、本明細書において、径方向および周方向は、外輪10を基準とする。
外輪10とともにハウジング100の一部を構成する取付板85は、ブレーキ装置3を支持するための板金部材である。取付板85は、シートクッションS1のフレームなどにブレーキ装置3を取り付けるための取付部として取付孔85Bが2つ形成されている。また、取付板85は、中央に出力側回転部材30を通すための貫通孔85Aが形成されている。外輪10は、取付板85と固定されていることで、クラッチユニット1は、いろいろな装置に取り付けることが可能である。
外輪10は、厚板をプレス成形により打ち抜くことで成形されており出力側の側面14の外周縁14Bにおいて、レーザ溶接により、取付板85の入力側の面と溶接されている。この溶接は、図8に示すように、側面14(外周縁14B)の全周に渡ってなされている。取付板85が外輪10の側面14の全周に渡って溶接されていることで、溶接の強度を高めるとともに、外輪10を取付板85により補強することができる。そして、側面14と取付板85は、環状の側面14における最外周部分に沿って溶接されていることで、回転方向の力に対する溶接の保持力が高くなっている。
図2に戻り、ブレーキシュー20は、外輪10との間でブレーキ力を発生する部材であり、外輪10の径方向内側に周方向に等間隔で並ぶように3つ配置されている。ブレーキシュー20は、周方向に延びる本体部20Aと、本体部20Aの外周において径方向外側に突出する突出部20Bおよび突起20Cとを有して構成されている。
突出部20Bは、本体部20Aの外周の周方向両端部に1つずつ設けられている。各突出部20Bは、径方向外側の先端に、外輪10の内周面11に対向して当該内周面11と接触可能なブレーキ面21を有している。このブレーキ面21は、外輪10の内周面11と略同じ曲率であり、図3に示すように、ブレーキ面21のうち、円周方向の外側付近で外輪10の内周面11に接触するように配置されている。これにより、ブレーキシュー20が径方向外側に付勢されたときには、ブレーキ面21の周方向外側付近の接触部が外輪10の内周面11に押し付けられるようになっている。
突起20Cは、本体部20Aの外周の周方向中央部に設けられている。突起20Cの径方向外側の先端には、外輪10の内周面11に当接可能な支持面26が設けられている。別の言い方をすれば、支持面26は、一対のブレーキ面21の間における中央に設けられている。この支持面26は、外輪10の内周面11と略同じ曲率であり、外輪10の内周面11に沿った円筒面形状を有している。支持面26は、ブレーキシュー20および出力側回転部材30に負荷が掛かっていない状態において、外輪10の内周面11から離間している。
ブレーキシュー20は、一対のブレーキ面21の一方と支持面26との間、および、一対のブレーキ面21の他方と支持面26との間に、ブレーキ面21より小径の円筒面状の外周面22を有している。また、ブレーキシュー20は、径方向内側を向く内側面23を有している。そして、ブレーキシュー20は、周方向の端部に内側面23の両端部と2つのブレーキ面21の端部21Eとを繋ぐ端面24を有している。また、ブレーキシュー20は、ブレーキ面21と外周面22との間の段差に、周方向を向く回転力入力面25が形成されている。
支持面26は、出力側回転部材30の軸方向において、少なくとも一部が一対のブレーキ面21と同じ範囲内にある。つまり、一対のブレーキ面21と支持面26をともに通過する出力側回転部材30に直交する平面が少なくとも1つ存在する。本実施形態では、一対の突出部20Bの厚みと突起20Cの厚みが略等しくなっており(図2参照)、出力側回転部材30の軸方向において、支持面26は、その略全体が一対のブレーキ面21と同じ範囲内にある。
内側面23は、それぞれ、出力側回転部材30の後述する対向面36に対向する3つの面を有している。詳しくは、図4(a)に示すように、内側面23は、第1接触面23Aと、第1接触面23Aに対して図の反時計回り側に配置された第1傾斜面23Bと、第1接触面23Aに対して図の時計回り側に配置された第1傾斜面23Cとを有している。第1接触面23Aは、ローラ81と接触可能であるととともに、一対のブレーキ面21の周方向の両端部21E(図3参照)同士を繋いだ方向(図に矢印で示した接続方向)に平行な平面となっている。第1傾斜面23B,23Cは、これらの間にある第1接触面23Aから離れるにつれて対向面36(図の下側)に近づくように第1接触面23Aに対して傾斜した平面となっている。
図2に示すように、出力側回転部材30は、軸状の作用部31と、この作用部31の出力側に形成されたフランジ32と、作用部31から入力側に突出し、作用部31と同軸で小径の支持軸部33と、支持軸部33から入力側に突出し、支持軸部33と同軸で支持軸部33より小径の軸部37と、フランジ32の出力側に突出して形成された出力ギヤ35とを備えて構成されている。出力側回転部材30は、各ブレーキシュー20の径方向内側に配置されている。出力ギヤ35は、取付板85の貫通孔85Aを通して出力側に突出している。
図3に示すように、作用部31は、その外周に、ブレーキシュー20の内側面23に対向する対向面36と、曲面部38とを有している。対向面36は、各ブレーキシュー20の内側面23に対応して作用部31の外周に3つ設けられている。また、曲面部38は、各ブレーキシュー20に対応した各対向面36を繋ぐ部分であり、作用部31の外周の周方向に隣り合う一対の対向面36の間に1つずつ、合計で3つ設けられている。曲面部38は、出力側回転部材30の回転中心を中心とする断面視円弧形状の曲面として形成されている。
図4(b)に示すように、対向面36は、当該対向面36における周方向の外側の両端部に1つずつ配置された第2接触面36A,36Bと、両端部の各第2接触面36A,36Bを繋ぐ接続面部36Cとを有している。第2接触面36Aは、接続面部36Cに対して図の反時計回り側に配置され、第2接触面36Bは、接続面部36Cに対して図の時計回り側に配置されている。
第2接触面36A,36Bは、ブレーキシュー20に負荷が掛かっていない状態において、ローラ81と接触可能であるとともに、第1接触面23Aに対して傾斜した面となっている。詳しくは、第2接触面36A,36Bは、外輪10の内周面11の中心11C(図3参照)を通り、第1接触面23Aに直交する基準平面PLから離れるほど第1接触面23A(図の上側)に近づくように傾斜している。また、第2接触面36A,36Bは、出力側回転部材30の軸方向に沿って見て、ブレーキシュー20に向けて凸となる曲面部分を有する。この第2接触面36A,36Bの曲面部分は、基準平面PLから離れるほど曲率半径が小さくなる曲面となっている。このような第2接触面36A,36Bを有することで、対向面36は、ブレーキシュー20の内側面23の一部である第1接触面23Aに対して非平行な部分を含んでいる。
接続面部36Cは、周方向の中央部に設けられた平面部36Dと、周方向の両端部に設けられた傾斜部36Eとを有している。平面部36Dは、ブレーキシュー20および出力側回転部材30に荷重が入力されていない状態において、基準平面PLに対して直交する平面となっている。これにより、平面部36Dは、ブレーキシュー20および出力側回転部材30に荷重が入力されていない状態において、第1接触面23Aと平行に配置される。傾斜部36Eは、基準平面PLから離れるほど、言い換えれば、平面部36Dの端から第2接触面36A,36Bの周方向内側の端に向けて、第1接触面23Aから離れるように傾斜している。これにより、対向面36は、各第2接触面36A,36Bと接続面部36Cとの接続部分に、第2接触面36A,36Bの周方向内側の端部と傾斜部36Eとによって形成される凹部36Fを有している。なお、ブレーキシュー20および出力側回転部材30に荷重が入力されていない状態において、第1接触面23Aと接続面部36C(平面部36D)の間隔は、ローラ81の直径よりも小さくなっている。もっとも、第1接触面23Aと接続面部36Cの間隔は、ローラ81の直径以上であってもよい。
図3に示すように、ローラ81は、各ブレーキシュー20の内側面23と出力側回転部材30の各対向面36の間に一対ずつ配置されている。ここでは、各内側面23と各対向面36の間に配置された一対のローラのうち、図3の反時計回り側に配置された方をローラ81Aとし、時計回り側に配置された方をローラ81Bとする。ブレーキシュー20および出力側回転部材30に負荷が掛かっていない状態において、ローラ81Aは、第1接触面23Aと第2接触面36Aに挟まれた状態でこれらに接触し、ローラ81Bは、第1接触面23Aと第2接触面36Bに挟まれた状態でこれらに接触している。このように、内側面23と対向面36の間にローラ81が配置されることで、ブレーキ装置3では、内側面23と対向面36との間で、ローラ81を介して荷重が伝達される。
スプリング82は、圧縮コイルバネであり、一対のローラ81A,81Bの間に1つずつ設けられている。スプリング82は、一対のローラ81A,81Bを互いに周方向に離間させて、内側面23と対向面36の間に形成される空間の狭い側に付勢している。
内側面23および対向面36は、入力側回転部材40によりブレーキシュー20に回転トルクを与えるとローラ81を介して内側面23が対向面36を押して出力側回転部材30が回転する一方、出力側回転部材30に回転トルクを与えても、ローラ81を介して対向面36が内側面23を押してブレーキ面21が外輪10の内周面11に押し付けられることでブレーキシュー20が回転しないように構成されている。すなわち、そのように機能するように、内側面23の第1接触面23Aおよび対向面36の第2接触面36A,36Bと、ローラ81とが接触するように、第1接触面23Aに対する第2接触面36A,36Bの傾斜角や位置などが調整されている。
図2に示す入力側回転部材40は、外輪10および出力側回転部材30などの軸周りに回転可能であり、ラチェット装置2の回転出力を受け、ブレーキ装置3のブレーキシュー20に周方向で当接してブレーキシュー20に回転トルクを与えることが可能な部材である。入力側回転部材40は、円筒状の受圧リング部41と、受圧リング部41から出力側に向けて突出した複数の係合脚42と、受圧リング部41の軸方向の中央付近から径方向内側へ向かって延びる板状部43と、板状部43の出力側の面から出力側へ向かって伸びる保持部44(図6参照)と、板状部43の中央に形成された貫通孔45を備えて構成されている。受圧リング部41の内周面41Aは、円形断面を有している。
係合脚42は、各ブレーキシュー20に対応して等間隔で3対設けられており、外輪10の内周面11とブレーキシュー20の外周面22との間に配置されている。一対の係合脚42は、図3に示すように、突起20Cと図3の反時計回り側の突出部20Bの間に配置される係合脚42Aと、突起20Cと図3の時計回り側の突出部20Bの間に配置される係合脚42Bからなる。突出部20Bおよび突起20Cと、係合脚42A,42Bとの間には、周方向に僅かな遊びができるように、突出部20B、突起20Cおよび係合脚42A,42Bの大きさが設定されている。各係合脚42A,42Bは、略同じ形状で形成されている。
保持部44は、内側面23と対向面36の間からローラ81が脱落するのを抑制する部分であり、ローラ81の周方向に隣接して配置されている。具体的には、各ブレーキシュー20に対応する一対のローラ81A,81Bの周方向の両側に隣接して配置され、全部で3つ設けられている。
保持部44は、入力側回転部材40および出力側回転部材30に荷重が入力されていない状態において、ローラ81から離間して配置されている。より詳細には、保持部44は、出力側回転部材30に通常使用範囲の回転トルクが入力されている状態において、当該回転トルクの回転方向の上流側に隣接するローラ81、本実施形態ではローラ81Bに対し非接触であるように配置されている。
また、保持部44は、出力側回転部材30に回転トルクが入力されている状態から、入力側回転部材40を出力側回転部材30の回転トルクと同じ回転方向に回転させてブレーキシュー20に周方向で当接させた時点において、当該回転方向の下流側に隣接するローラ81、本実施形態ではローラ81Aに対し非接触であるように配置されている。
また、保持部44は、入力側回転部材40がブレーキシュー20に周方向で当接してブレーキシュー20を回転させている状態において、保持部44の回転方向下流側に隣接するローラ81に対し接触するように配置されている。もっとも、保持部44は、入力側回転部材40によりブレーキシュー20を回転させている状態において、ローラ81に対し非接触であってもよい。
図6に示すように、貫通孔45は、出力側回転部材30の作用部31が挿通可能であり、その内周に、作用部31の曲面部38に沿った3つの円周面部46と、各円周面部46の間に配置され、円周面部46に対し、径方向内側に突出した3つの凸面部47とを有する。各凸面部47は、最も径方向内側に突出した頂部47Aと、頂部47Aに対して図6の時計回り側(図3では反時計回り側)に隣接した解除面47Bと、図6の反時計回り側(図3では時計回り側)に隣接した逃げ面47Cとを有する。
解除面47Bは、対向面36と対向して配置され、車両用シートSに座った乗員の重みによる図3の時計回り方向の回転トルクが出力側回転部材30に入力されている状態から、入力側回転部材40を当該回転トルクと逆の回転方向(図3の反時計回り方向)に回転させてブレーキシュー20に周方向で当接させた時点において、略同時に対向面36に当該逆の回転方向の回転トルクを伝達可能な形状を有している。
逃げ面47Cは、入力側回転部材40および出力側回転部材30に外部から荷重が入力されていない状態において、対向面36の平面部36D(図4参照)に対する角度の大きさが解除面47Bの平面部36Dに対する角度の大きさよりも大きく形成され、入力側回転部材40を図3の時計回り方向に回転させてブレーキシュー20に周方向で当接された時点において平面部36Dに当接しない形状となっている。もっとも、逃げ面47Cは、平面部36Dに対する角度の大きさが解除面47Bの平面部36Dに対する角度の大きさと同じであって、図3における入力側回転部材40の時計回り方向について、解除面47Bと同様の機能を有していてもよい。
図2に示すように、フリクションリング83は、ブレーキ装置3のブレーキ力が切れた瞬間に急激に出力側回転部材30の動作が開始するのを抑制するためのフリクションを発生する部材である。フリクションリング83は、出力側回転部材30の作用部31の外周に略合致した孔を有するリング部83Aと、リング部83Aから径方向外側に延出し、先端部が外輪10の内周面11に圧接する3つの摩擦発生アーム83Bとを備える。フリクションリング83は、リング部83Aの孔が作用部31と係合することで、出力側回転部材30と一体に回転するようになっている。また、図5に示すように、フリクションリング83は、ブレーキシュー20の出力側に配置されている。
図3に示すように、摩擦発生アーム83Bは、径方向外側へ行くほど、図3における時計回り方向に位置するように、径方向に対して傾斜している。このため、フリクションリング83は、図3の時計回り方向に回転するときには、内周面11に食い付きやすいので、反時計回りに回転するときよりも大きな摩擦力を発生することができる。そのため、車両用シートSのハイトアジャスト機構のブレーキにクラッチユニット1を適用する場合には、出力側回転部材30が図3の時計回り方向に回転するときに車両用シートSが下降するように組み付けると、車両用シートSの望ましくない下降を効果的に抑制することができる。
図2に戻り、ワッシャ75は、出力側回転部材30の軸部37の外径よりも僅かに小さい直径の孔75Aを有し、この孔75Aが軸部37に圧入されている(図5参照)。ワッシャ75の外径は、後述するカバー部材60の支持孔64より大きく、ワッシャ75により出力側回転部材30が出力側に抜けないようになっている。
次に、ラチェット装置2の構成について説明する。
図2に示すように、操作入力部材50は、レバーLVと係合してレバーLVと一体に揺動可能であるとともに、ローラ72を介して入力側回転部材40と一体に動くようになることで、入力側回転部材40にレバーLVからの回転トルクを伝達する部材である。このため、操作入力部材50は、カム板部51と、このカム板部51から入力側に延出した2つのレバー係合部52とを備えてなる。
図7に示すように、カム板部51は、外周面に3箇所の小径部53と3箇所の大径部54が交互に配置されており、小径部53と大径部54を平面からなる対向面55が接続している。小径部53と大径部54の切り替わりの箇所は6箇所あるので、これに対応して対向面55は6つ形成されている。対向面55は、中心軸からの距離が徐々に変化するように形成されている。
各対向面55と受圧リング部41の内周面41Aとの間には、それぞれ、ローラ72が配置されている。ローラ72は、後述する動作説明で分かるように、操作入力部材50および入力側回転部材40に対し係合・離脱することで入力トルクの伝達・遮断を行うものである。ローラ72は、各対向面55に対応して計6つ配置されている。対向面55は、図5に示すように、ローラ72の軸方向長さの半分よりその方向に長く、ローラ72の軸方向における中心部(中心線C1参照)を含む範囲でローラ72と当接可能に配置されている。これにより、対向面55は、受圧リング部41との間で安定してローラ72を挟持することができる。
ここで、図2に戻り、規制部材71について説明すると、規制部材71は、ローラ72の位置を規制する部材であり、複数のローラ72の出力側の側面を覆う側壁部71Aと、側壁部71Aの外周縁から入力側に向けて延出した3つの規制部71Bとを備えて構成されている。規制部71Bは、ローラ72の軸方向の長さよりも長く、その先端がカバー部材60の嵌合穴66に圧入嵌合している。
図7に示すように、規制部71Bは、レバーLVを操作していない非作動時において大径部54の径方向外側で同じ回転位置に配置されており、対向面55と受圧リング部41の間にあるローラ72の周方向についての移動を規制している。隣接する規制部71Bの間に配置された2つのローラ72の間には、圧縮コイルバネからなるリターンスプリング73がそれぞれ初期荷重を与えられて配置されている。このため、図7の非作動時において、各ローラ72は規制部71Bに接している。ここで、規制部71Bは、外輪10の径方向において、ローラ72の中心が位置するところを含むように配置され、ローラ72の、周方向に最も出っ張っているところに接している。これにより、規制部71Bは、ローラ72を安定して支持することができる。なお、図7においては、ローラ72を、規制部71Bに接した状態で表しているが、ローラ72は、対向面55と内周面41Aに挟持されることで、規制部71Bから僅かに離れていてもよい。
図2に示すように、レバー係合部52は、円弧状の断面でカム板部51から延出している。レバー係合部52は、レバーLVと係合している(図示省略)。
カバー部材60は、円板状の側壁部61と、側壁部61の外周縁から出力側に延びる円筒状の外周部62と、外周部62の出力側の端部から径方向外側に広がるフランジ63とを備えてなる。フランジ63は、図5および図8に示すように、外輪10の側面13に合わされ、その外周縁に沿って側面13とレーザ溶接により溶接されている。外輪10は、このようにカバー部材60が溶接されることで補強されている。この溶接は、フランジ63の全周に渡ってなされている。
図2に示すように、側壁部61には、その中心に円形の支持孔64と、支持孔64の周囲で円弧形状に延びる2つの円弧孔65と、円弧孔65よりも径方向外側に位置し、周方向に3つ等間隔で配置された嵌合穴66とが形成されている。
支持孔64は、出力側回転部材30の支持軸部33と嵌合し、出力側回転部材30を軸支する部分である。
円弧孔65は、操作入力部材50のレバー係合部52に対応して設けられ、レバー係合部52よりも広い角度範囲で円弧状に形成されている。これにより、円弧孔65は、レバー係合部52を受け入れるとともに、レバー係合部52が円弧孔65の中において所定角度範囲で移動することが可能となっている。
嵌合穴66は、規制部材71の3つの規制部71Bに対応して3つ設けられた貫通孔であり、規制部材71がカバー部材60に対し相対回転しないように、カバー部材60と嵌合されている。規制部材71とカバー部材60とは、複数箇所で嵌合していることで、規制部材71の回転の規制をしっかりと行うことができる。
次に、以上のように構成されたクラッチユニット1の動作について説明する。
まず、ラチェット装置2の動作について説明する。
図7に示す中立位置において、ローラ72は、入力側回転部材40の内周面41Aと操作入力部材50の対向面55の間に位置するが、これらの間には僅かな隙間があり、これらに挟持されてはいない。ローラ72は、リターンスプリング73により規制部71Bに押し付けられている。レバーLVの操作により操作入力部材50を時計回り方向に少し揺動させると、対向面55が時計回りに回動してローラ72に接し、内周面41Aと対向面55の間でローラ72が挟持される。これにより、操作入力部材50と入力側回転部材40は一体に回転できるようになる。
そのため、図9に示すように、操作入力部材50を時計回りに回していけば、入力側回転部材40と操作入力部材50とが一体になったまま、時計回りに回動する。すなわち、操作入力部材50を回動させた入力トルクが入力側回転部材40に伝達される。
図9の状態からレバーLVを反時計回りに揺動させて中立位置に戻すときには、ローラ72から対向面55が反時計回りに逃げていき、ローラ72は対向面55と内周面41Aには挟持されないので、図10に示すように、入力側回転部材40が静止したまま、操作入力部材50が中立位置に向けて回動する。すなわち、操作入力部材50を戻すときの入力トルクは入力側回転部材40には伝達されず、遮断される。操作入力部材50は、リターンスプリング73の付勢力により中立位置に向けて操作するのが補助されるとともに、中立位置に維持される。
レバーLVを中立位置から上に上げ、また、上の位置から中立位置に戻すときの動作は、上述の下への揺動の場合と同様であるので説明を省略する。
次に、ブレーキ装置3の動作について説明する。
図11に示すように、車両用シートSに座った乗員の重みにより出力側回転部材30に、図における時計回り方向の回転トルク、つまり、通常使用範囲の回転トルクを与えると、出力側回転部材30が時計回りに少し回転し、第2接触面36A(一の対向面36の一対の第2接触面36A,36Bのうち反時計回り側の1つ)と第1接触面23Aの間隔が狭くなることで、ローラ81A(一のブレーキシュー20に対応する一対のローラ81のうち反時計回り側の1つ)と第2接触面36Aおよび第1接触面23Aの圧力が高まる。なお、出力側回転部材30に荷重が入力されていない状態において、ローラ81Aが第1傾斜面23Bに接していた場合には、ローラ81Aは、対向面36と内側面23の間を転がって、第1接触面23Aに接する位置まで移動したところで第2接触面36Aおよび第1接触面23Aとの間の圧力が充分に高まって対向面36および内側面23に対して止まる。一方、出力側回転部材30が時計回りに回転するにつれ、第2接触面36B(一の対向面36の一対の第2接触面36A,36Bのうち時計回り側の1つ)と第1接触面23Aの間隔が広くなるため、ローラ81B(一のブレーキシュー20に対応する一対のローラ81のうち時計回り側の1つ)は、第2接触面36Bと第1接触面23Aの間で強く挟まれることなく転がることができる。
このとき、第2接触面36Aは、ローラ81Aを力F1で押し、ローラ81Aは、第1接触面23Aを力F2で押す。これにより、ブレーキシュー20は、一対のブレーキ面21が外輪10の内周面11に力F3で押し付けられる。その結果、ブレーキ面21と内周面11の間で摩擦力が発生するので、出力側回転部材30が回転しない。すなわち、車両用シートSが下がるのを阻止するブレーキ力が発生する。そして、このような、出力側回転部材30に通常使用範囲の回転トルクを与えた状態においては、支持面26は、外輪10の内周面11から離間している。
また、このとき、ローラ81Bは、出力側回転部材30の回転方向、つまり、時計回り方向に隣接する保持部44から僅かに離間している。そのため、ローラ81Aが対向面36と内側面23に挟まれているだけでなく、スプリング82の付勢力によりローラ81Bも対向面36と内側面23に挟まれた状態を維持することができる。これにより、その後、ブレーキシュー20をいずれの方向に回転しても、ブレーキシュー20と外輪10の間の摩擦力を維持できるので、予期せぬブレーキ力の解除を抑制することができる。
図11のブレーキ状態から、車両用シートSの高さを上げるためにレバーLVを操作して入力側回転部材40を反時計回りに回転させると、図12に示すように、入力側回転部材40の係合脚42Aが反時計回り側の端部でブレーキシュー20の回転力入力面25に周方向で当接する。この時点において、略同時に入力側回転部材40の解除面47Bが対向面36の平面部36Dに接して反時計回り方向の回転トルクを出力側回転部材30に伝達可能となる。これにより、ブレーキシュー20のブレーキ面21が外輪10の内周面11に強く押し付けられていた場合においても、ブレーキ力を解除して、入力側回転部材40を回して車両用シートSを上げ始めるときの引っかかり感を抑制することができる。
そして、さらに入力側回転部材40を反時計回りに回転させると、係合脚42Aが回転力入力面25を力F11で押すことでブレーキシュー20が反時計回り方向に回転し、第1接触面23Aがローラ81Aを力F12で押し、ローラ81Aが第2接触面36Aを力F13で押す。この力F13により、出力側回転部材30が図の反時計回りに回転する。このときも、支持面26は、外輪10の内周面11から離間している。
また、図11のブレーキ状態から、車両用シートSの高さを下げるためにレバーLVを操作して入力側回転部材40を時計回りに回転させると、図13に示すように、入力側回転部材40の係合脚42Bが時計回り側の端部でブレーキシュー20の回転力入力面25に周方向で当接する。このとき、保持部44は、回転方向下流側(時計回り方向側)に隣接するローラ81Aに対して非接触である。そして、さらに入力側回転部材40を時計回りに回転させると、係合脚42Bが回転力入力面25を力F21で押し、ブレーキシュー20が時計回り方向に回転し始める。
ブレーキシュー20が図13の状態から時計回り方向に回転すると、ブレーキシュー20と出力側回転部材30は、図11において出力側回転部材30を時計回り方向に回転させた場合と相対的に逆の動作をする。すなわち、図14に示すように、ブレーキシュー20が時計回りに少し回転し、第1接触面23Aと第2接触面36B(一の対向面36の一対の第2接触面36A,36Bのうち時計回り側の1つ)の間隔が狭くなることで、ローラ81B(一のブレーキシュー20に対応する一対のローラ81のうち時計回り側の1つ)と第1接触面23Aおよび第2接触面36Bの圧力が高まる。なお、ローラ81Bが第1傾斜面23Cに接していた場合でも、ローラ81Bは、対向面36と内側面23の間を転がって、第1接触面23Aに接する位置まで移動したところで第2接触面36Bおよび第1接触面23Aとの間の圧力が充分に高まって対向面36および内側面23に対して止まる。一方、ブレーキシュー20が時計回りに回転するにつれ、第1接触面23Aと第2接触面36A(一の対向面36の一対の第2接触面36A,36Bのうち反時計回り側の1つ)の間隔が広くなるため、ローラ81A(一のブレーキシュー20に対応する一対のローラ81のうち反時計回り側の1つ)は、第1接触面23Aと第2接触面36Aの間でこれらとの圧力が徐々に下がっていきながら転がることができる。そして、図14の状態では、保持部44は、回転方向下流側に隣接するローラ81Aに接触して、ローラ81Aを時計回り方向に押している。
このように、図13の状態では、保持部44がローラ81Aに対して非接触であることで、第1接触面23Aと第2接触面36Bの間にローラ81Bが充分な力で挟まれる前には、ブレーキ力を発生していたローラ81Aが保持部44に押されないので予期せずブレーキ力が弱まることが抑制される。一方、図14に示すように、ローラ81Bが第1接触面23Aと第2接触面36Bに充分な力で挟まれた後は、保持部44がローラ81Aに接触するので、仮に、ローラ81Aが内側面23と対向面36の間で何らかの事態により固着したような場合であっても、ローラ81Aを内側面23と対向面36の間から離してブレーキ力を解除し、安定した動作を実現することができる。
そして、図14に示すように、係合脚42Bが回転力入力面25を力F21で押し、第1接触面23Aがローラ81Bを力F22で押し、ローラ81Bが第2接触面36Bを力F23で押す。この力F23により、出力側回転部材30が図の時計回りに回転する。このときも、支持面26は、外輪10の内周面11から離間している。
一方、出力側回転部材30に、通常使用範囲より大きい過大な時計回り方向の回転トルクが入力された場合、図15に示すように、通常使用範囲の回転トルクを与えた場合よりも、出力側回転部材30が時計回りに大きく回転し、第2接触面36Aと第1接触面23Aの間隔がより狭くなることで、ローラ81Aと第2接触面36Aおよび第1接触面23Aの圧力がより高まる。このとき、第2接触面36Aは、ローラ81Aを大きな力F31で押し、ローラ81Aは、第1接触面23Aを大きな力F32で押す。これにより、ブレーキシュー20は、本体部20Aが径方向外側に撓むように変形し、支持面26が外輪10の内周面11に当接する。その結果、ブレーキシュー20は、支持面26が外輪10によって支持されることになり、それ以上の変形が抑制されるため、当該ブレーキシュー20に掛かる負荷を低減することができる。
また、過大な時計回り方向の回転トルクが入力されて出力側回転部材30が時計回りに大きく回転した場合には、第2接触面36Bと第1接触面23Aとの間が広がってローラ81Bがこれらの間で遊ぶことがある。このような場合、ローラ81Bは、回転方向下流側、ここでは時計回り方向に隣接する保持部44に当接する。これにより、保持部44がローラ81Bを支持するので、内側面23と対向面36の間からローラ81Bが脱落することが抑制される。
以上においては、出力側回転部材30に時計回り方向の回転トルクが入力されてブレーキ力が発生した後、入力側回転部材40を時計回り方向または反時計回り方向に回転させた場合について説明した。クラッチユニット1を車両用シートSに適用した場合には、出力側回転部材30には、時計回り方向の回転トルクしか入力されないので、上述のようにしか動作しないが、仮に、出力側回転部材30に反時計回り方向の回転トルクが入力されてブレーキ力が発生した後、入力側回転部材40を時計回り方向または反時計回り方向に回転させた場合は、ブレーキシュー20、出力側回転部材30および入力側回転部材40は、鏡像対称(図3で線対称)に構成されているので、上述と回転方向が異なるだけで、同様の動作が実現される。
以上説明した本実施形態のクラッチユニット1に適用されたブレーキ装置3によれば、出力側回転部材30に回転トルクが与えられると、ローラ81がブレーキシュー20の内側面23を押してブレーキ面21が外輪10の内周面11に押し付けられることでブレーキシュー20が回転しない。この状態において、入力側回転部材40によりブレーキシュー20を一方の回転方向または他方の回転方向に回転させると、ローラ81が内側面23と出力側回転部材30の対向面36の間に形成される空間の狭い側に付勢されているため、いずれかのローラ81を常に内側面23と対向面36の間に挟まれた状態、つまり、これらに接触した状態に維持することができる。このため、ブレーキ力が一気に抜けることを抑制することができる。また、周方向に並んだ複数のブレーキシュー20のそれぞれでブレーキ力を発生できるので、ブレーキ装置3の軸方向の大きさが大きくなるのを抑制することができる。これらにより、軸方向の大きさを小さくすることができるとともに、安定した動作をすることができる。
また、ローラ81が、内側面23の第1接触面23Aと、対向面36の、第1接触面23Aに対して傾斜した第2接触面36A,36Bとの間に挟まれて、これらに接触していることで、ローラ81を安定して保持することができるとともに、ローラ81のガタを抑制することができる。
ところで、前述したとおり、出力側回転部材30に回転トルクが与えられて出力側回転部材30が少し回転したときに、第1接触面23Aと第2接触面36A,36Bの間隔が狭くなると、ローラ81と、第1接触面23Aおよび第2接触面36A,36Bとの圧力が高まる。この状態から、与えられた回転トルクが過大であるなどして、出力側回転部材30がさらに回転した場合、仮に、第2接触面が平面であると、第1接触面と第2接触面がなす角度が大きくなり、場合によっては、ローラが第1接触面と第2接触面の間の広い側に動いて圧力が低下し、ブレーキ力が低下する可能性がある。一方、本実施形態では、第2接触面36A,36Bがブレーキシュー20に向けて凸となる曲面を有するので、出力側回転部材30がさらに回転した場合の、第1接触面23Aと、第2接触面36A,36B(詳しくは、第2接触面36A,36Bとローラ81の接触部分に接する平面)がなす角度の増加を抑えて適正な範囲に維持することができる。これにより、ローラ81が第1接触面23Aと第2接触面36A,36Bの間の広い側に動くことが抑制されるので、ローラ81を第1接触面23Aと第2接触面36A,36Bとの間に挟まれた状態(圧力が高まった状態)に維持することができる。これにより、ブレーキ力を維持することができるため、安定してブレーキ力を発生させることができる。
特に、本実施形態では、第2接触面36A,36Bは、基準平面PLから離れるほど曲率半径が小さいので、出力側回転部材30がさらに回転した場合の、第1接触面23Aと第2接触面36A,36Bがなす角度の増加をより抑えて、より適正な範囲に維持することができる。これにより、ローラ81を第1接触面23Aと第2接触面36A,36Bとの間に挟まれた状態に良好に維持できるので、より安定してブレーキ力を発生させることができる。
また、第2接触面36A,36Bが対向面36の両端部に1つずつ配置されているので、出力側回転部材30に回転トルクが与えられた場合、一方の回転方向および他方の回転方向の両方について、ブレーキシュー20が回転しない構成を実現することができる。
また、対向面36が接続面部36Cを有する分、一方の第2接触面36Aに接触可能なローラ81Aと、他方の第2接触面36Bに接触可能なローラ81Bとの間に空間を確保することができる。これにより、当該空間に配置されるスプリング82を容易に組み付けることができる。
また、対向面36が第2接触面36A,36Bと接続面部36Cとの接続部分に凹部36Fを有するので、凹部36Fを目印として凹部36Fに沿ってローラ81を組み付けることができるとともに、ローラ81を組み付けた後はローラ81が凹部36Fに嵌ることでローラ81を仮止めできるので、2つのローラ81の間にスプリング82を組み付けやすい。つまり、ブレーキ装置3によれば、ローラ81やスプリング82を容易に組み付けることができる。
また、接続面部36Cが平坦な平面部36Dを有するので、接続面部36Cが、平面部36Dの代わりに、ブレーキシュー側に向けて凸となる面を有する構成や、ブレーキシュー側とは反対側に向けて凹となる面を有する構成と比較して、接続面部36Cとブレーキシュー20の間に適度な大きさの空間を確保することができる。これにより、当該空間に配置されるスプリング82を容易に組み付けることができる。
また、可動片がローラ81であるため、可動片として球を用いる場合よりも、内側面23や対向面36との接触面積が大きくなることで、耐荷重を上げることができる。また、可動片がローラ81であることで、多角形の場合よりも滑らかな動作となるので、安定した動作を実現することができる。
また、出力側回転部材30に過大な回転トルクが与えられ、出力側回転部材30の対向面36によってローラ81を介してブレーキシュー20の内側面23が径方向外側に押された場合には、ブレーキシュー20の支持面26が外輪10の内周面11に当接するので、ブレーキシュー20の一対のブレーキ面21の間の部分に掛かる負荷を外輪10で支持することができる。これにより、ブレーキシュー20に掛かる負荷を低減することができる。
また、支持面26は、ブレーキシュー20に負荷が掛かっていない状態においては内周面11から離間しているので、出力側回転部材30に過大な回転トルクが与えられていないとき、つまり、通常使用範囲の回転トルクが与えられているときには、ブレーキシュー20の外周の周方向両端部に設けられた一対のブレーキ面21でブレーキ力が発生するため、ブレーキ力を安定させることができる。一方で、出力側回転部材30に過大な回転トルクが与えられて支持面26が内周面11に当接したときには、ブレーキシュー20の過大な撓みを抑制できるので、内側面23が対向面36から受ける力をしっかり受け止め、大きなブレーキ力を発生させることができる。また、入力側回転部材40によりブレーキシュー20に周方向に通常使用範囲の回転トルクを与え、ブレーキシュー20を回転させるときには、支持面26と内周面11とが擦れないので、支持面26などの摩耗を抑制することができるとともに、良好な動作をすることができる。
また、ブレーキシュー20が、支持面26が設けられる突起20Cを有するので、ブレーキシュー20の剛性を向上させることができる。そして、このように、ブレーキシュー20自身の剛性が向上することで、当該ブレーキシュー20に掛かる負荷をより低減することができる。また、支持面26が内周面11に当接するときに、支持面26と内周面11が当接する位置がはっきりするので、より安定した動作をすることができる。
また、支持面26が一対のブレーキ面21の間における中央に設けられているので、支持面26が内周面11に当接したときに、ブレーキシュー20の曲げ応力が最大となる位置を支持することができる。これにより、ブレーキシュー20に掛かる負荷をより低減することができる。
また、支持面26が内周面11に沿った形状を有するので、これによっても、支持面26が内周面11に当接したときに、ブレーキシュー20を安定して支持することができる。これにより、ブレーキシュー20に掛かる負荷をより低減することができる。
以上に本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されることなく適宜変形して実施することができる。
例えば、前記実施形態においては、支持面26が、各ブレーキシュー20に1つだけ設けられていたが、支持面は、各ブレーキシューに複数設けられていてもよい。例えば、図16に示すブレーキ装置3では、各ブレーキシュー20は、本体部20Aの外周における、一対の突出部20B(一対のブレーキ面21)の間に、径方向外側に突出する2つの突起20Cを有し、各突起20Cの径方向外側の先端に支持面26が設けられている。つまり、図16のブレーキ装置3では、支持面26が、各ブレーキシュー20に2つずつ設けられている。このブレーキ装置3において、支持面26は、出力側回転部材30の軸方向に沿って見て、内周面11の中心11Cとローラ81を結ぶ直線に交差する位置に配置されている。詳しくは、反時計回り側に配置される支持面26Aは、中心11Cとローラ81Aの中心を結ぶ直線L1に交差する位置に配置され、時計回り側に配置される支持面26Bは、中心11Cとローラ81Bの中心を結ぶ直線L2に交差する位置に配置されている。このようなブレーキ装置3によれば、出力側回転部材30に過大な回転トルクが与えられた場合には、ブレーキシュー20の外周の、内側面23のローラ81によって押される部分とは径方向の略反対側の位置で、支持面26が内周面11に当接するので、ローラ81からブレーキシュー20に掛かった荷重を支持面26で効率良く支持することができる。これにより、ブレーキシュー20に掛かる負荷をより低減することができる。
また、前記実施形態においては、内側面23が第1接触面23Aと第1傾斜面23B,23Cを有し、第2接触面36A,36Bが基準平面PLから離れるほど第1接触面23Aに近づくように傾斜する構成であったが、これに限定されるものではない。例えば、図17に示すように、第1傾斜面23B,23Cは無くても構わないし、第2接触面36G,36Hは、基準平面PLから離れるほど第1接触面23Aから遠ざかるように傾斜していてもよい。詳しくは、図17のブレーキ装置3の各ブレーキシュー20は、径方向内側に符号を省略して示す凹部を有している。そして、当該凹部は、底面が内側面23となっており、内側面23は、ローラ81と接触可能であるととともに、一対のブレーキ面21の周方向の両端部同士を繋いだ方向に平行な第1接触面23Aを有している。また、凹部の周方向の面は、スプリング82を支持するスプリング支持面28となっている。出力側回転部材30は、外周に、内側面23に対向する対向面36を有し、対向面36は、基準平面PLから離れるほど第1接触面23Aから遠ざかるように傾斜した第2接触面36G,36Hを有している。ローラ81は、各ブレーキシュー20の内側面23と、対応する対向面36の間に一対ずつ配置されている。スプリング82は、各ローラ81に対応して1つずつ設けられ、スプリング支持面28と、対応するローラ81との間に配置されている。スプリング82は、対応するローラ81を、内側面23と対向面36の間に形成される空間の狭い側、すなわち、対向面36の周方向中央に向けて付勢している。
出力側回転部材30に、図における時計回り方向の通常使用範囲の回転トルクを与えると、第2接触面36Gと第1接触面23Aの間隔が狭くなることで、ローラ81Aと第2接触面36Aおよび第1接触面23Aの圧力が高まる。これにより、第2接触面36Gがローラ81Aを力F41で押し、ローラ81Aが第1接触面23Aを力F42で押すことで、各ブレーキシュー20の一対のブレーキ面21が外輪10の内周面11に力F43で押し付けられ、ブレーキ力が発生する。このとき、第2接触面36Hと第1接触面23Aの間隔は広くなるが、ローラ81Bは、スプリング82により第1接触面23Aと第2接触面36Hの間に形成される空間の狭い側に付勢されることで、第1接触面23Aと第2接触面36Hに接触した状態に維持される。
図17のブレーキ状態から、入力側回転部材40を反時計回り方向に回転させると、係合脚42Aが回転力入力面25に当接してブレーキシュー20を反時計回り方向に押し、ブレーキシュー20が反時計回りに回転する。そして、第1接触面23Aがローラ81Aを押し、ローラ81Aが第2接触面36Gを押すことで、出力側回転部材30が反時計回りに回転する。一方、図17のブレーキ状態から、入力側回転部材40を時計回り方向に回転させると、図18に示すように、係合脚42Bが回転力入力面25に当接してブレーキシュー20を力F51で時計回り方向に押し、ブレーキシュー20が時計回りに回転する。そして、第1接触面23Aがローラ81Bを力F52で押し、ローラ81Bが第2接触面36Hを力F53で押す。前述したとおり、ブレーキ状態において、ローラ81Bは、第1接触面23Aと第2接触面36Hに接触しているので、入力側回転部材40が回転力入力面25に当接してブレーキシュー20を押すと、即座に力F53が発生して、この力により出力側回転部材30が時計回りに回転する。このように、このブレーキ装置3によれば、ローラ81が内側面23と対向面36の間で遊ぶのを抑制して、安定した動作を実現することができる。
前記実施形態では、ローラ81が接触する内側面23が、平面の組合せにより構成されていたが、曲面の組合せであってもよいし、ローラ81と接触する部分が、全体として滑らかな曲面であってもよい。また、前記実施形態では、ローラ81が接触する対向面36が内側面23の第1接触面23Aに対して傾斜した第2接触面36Aを有していたが、対向面は、その全体が、第1接触面に対して平行な平面であってもよい。
また、前記実施形態においては、出力側回転部材30に回転トルクを与えた場合に、その回転方向が時計回り方向および反時計回り方向のいずれであっても、ローラ81を介して対向面36が内側面23を押してブレーキ面21が外輪10の内周面11に押し付けられることでブレーキシュー20が回転しないように構成されていたが、これに限定されるものではない。例えば、図19に示すように、ローラ81Bや、ローラ81Bに対応する第2接触面36Bを無くし、出力側回転部材30に回転トルクを与えた場合、一方の回転方向、具体的には、図の時計回り方向についてのみ、ローラ81Aを介して対向面36(第2接触面36A)が内側面23(第1接触面23A)を押してブレーキ面21が外輪10の内周面11に押し付けられることでブレーキシュー20が回転しないように構成されていてもよい。なお、図19のブレーキ装置3の出力側回転部材30には、径方向外側に突出する3つの係合部39が設けられている。これにより、出力側回転部材30を図の反時計回り方向に回転させた場合には、係合部39がブレーキシュー20を反時計回り方向に押すことで、ブレーキシュー20が回転するようになっている。
前記実施形態においては、通常使用範囲の回転トルクが出力側回転部材30に与えられている状態(図11参照)において、ローラ81Bが保持部44と非接触とされていたが、この状態において、ローラ81Bが保持部44に多少接していても構わない。この場合であっても、ブレーキシュー20を時計回り方向に回転させるのに伴い、他方のローラ81Aが対向面36と内側面23に挟まれている間に一方のローラ81Bと内側面23および対向面36が接触状態を得ることできるのであれば、実用上問題はない。
また、前記実施形態においては、出力側回転部材30に荷重が入力されていない状態や、通常使用範囲の回転トルクが出力側回転部材30に与えられている状態(図11〜図14参照)において、支持面26が外輪10の内周面11から離間していたが、これに限定されるものではない。例えば、ブレーキシューが回転するときの動作を妨げないのであれば、出力側回転部材に通常使用範囲の回転トルクが与えられている状態において、支持面が内周面に多少接していても構わない。また、支持面は、外輪の内周面に沿った形状でなくても構わない。
また、前記実施形態において、出力側回転部材30は、対向面36を繋ぐ部分が曲面(曲面部38)であったが、対向面を繋ぐ部分は、平面であっても構わない。
また、前記実施形態において、付勢部材として圧縮コイルバネを例示したが、トーションバネや板バネ、ゴムなどであっても構わない。
前記実施形態においては、可動片としてローラ81を例示したが、可動片は、球や多角柱、楕円断面の柱状であっても構わない。
前記実施形態においては、ブレーキシュー20は3つ設けられていたが、ブレーキシューは、2つでも、4つ以上であってもよい。
前記実施形態においては、ブレーキ装置3が、可動片としてのローラ81と、付勢部材としてのスプリング82を備え、内側面23と対向面36との間で、ローラ81を介して荷重が伝達される構成であったが、これに限定されるものではない。例えば、可動片と付勢部材を備えずに、内側面と対向面とが直接接触して、これらの間で直接荷重が伝達される構成であっても構わない。
また、ブレーキ装置3、ラチェット装置2およびクラッチユニット1は、車両用シートSのハイトアジャスト機構に用いられるだけでなく、他の装置に任意に適用することができる。