(1.パンの製造方法)
まず、本発明によるパンの製造方法について詳細に説明する。
本発明によるパンの製造方法は、工程(a)として、小麦粉、水及びα−アミラーゼを混合して加温することによって、又は小麦粉及び水を混合して加温した後α−アミラーゼを添加してさらに加温することによって、糖化度が100〜2000である糖化生地を調製する工程を含む。
本明細書において、工程(a)を「糖化処理工程」と称する場合がある。また、本明細書において、“小麦粉、水及びα−アミラーゼを混合して加温すること”又は“小麦粉及び水を混合して加温した後α−アミラーゼを添加してさらに加温すること”を「糖化処理」と称する場合がある。
本明細書において「パン」には、食パン(山型食パン等)、ロールパン(バターロール等)、菓子パン、フランスパン、冷凍生地パン等といった焼成されることにより製造されるものの他、ドーナツ、蒸しパン等も含まれる。本明細書における「パン」は、小麦粉と水とを使用して得られる生地を加熱して得られるものをすべて包含し、特に限定はされない。
工程(a)において用いられる小麦粉は、小麦を加工して得られる小麦粉であれば特に制限なく用いることができ、国産小麦由来の小麦粉及び外国産の小麦由来の小麦粉のいずれも用いることができる。より柔らかく老化の遅いパンを得るために、低アミロース小麦品種由来の小麦粉を用いてもよい。ここで、低アミロース小麦品種は、例えば、Wx−B1タンパク質を欠失しており、アミロース含量がやや低い小麦品種・系統であり、ハルユタカ、春のあけぼの、はるひので、春よ恋、はるきらり、キタノカオリ、ゆめちから、きたほなみ、ホクシン等の品種を例示することができる。
工程(a)において、均一な生地を調製するために、例えば、対小麦粉当たり100〜2000重量%の水が用いられる。より均一に生地を調製し、かつ、小麦粉原料等の沈殿を低減する観点から、例えば、対小麦粉当たり200〜1500重量%の水が好適に用いられる。
工程(a)で用いられるα−アミラーゼとして、例えば、新日本化学工業社製のスミチームAS;天野エンザイム社製のビオザイムA;ノボザイムズジャパン社製のファンガミル;α―アミラーゼを含む天然物(例えば、麦芽粉末(モルトパウダー)等の発芽した穀物、米麹など)等を用いることができる。糖化生地の糖化度(後述)は、添加する酵素活性の度合い、処理温度、処理時間等によって調整が可能であるため、α−アミラーゼの添加量については特に限定はないが、例えば、α−アミラーゼの添加量としては、対小麦粉当たり50〜1000000mU/gが好ましく、100〜800000mU/gがより好ましい。前述のα−アミラーゼの酵素活性ユニットの測定方法として、例えば、α−アミラーゼキット(Ceraipha,Me−gazyme Co.,Ltd.,Wicklow,Ireland)を用いる渡辺らの方法(渡辺ら:日本食品工業学会誌,41,927−932(1994))を挙げることができる。
工程(a)は、糖化度が100〜2000である糖化生地を調製する工程である。本明細書において「糖化生地」とは、糖化処理することによって調製される、糖化度が100〜2000である生地をいう。
本発明者らは、鋭意検討した結果、工程(a)で得られる糖化生地を用いることで、日本人好みのほどよい甘味を有し、製パン性が非常に良好なパンを製造できることを明らかにした。その理由として、特定の理論に縛られることを望むものではないが、α−アミラーゼを用いて糖化処理を行うことで、生地中の澱粉が程よく分解され、麦芽糖を中心とする甘味成分が生地中に生成されていることが考えられる。
工程(a)において、糖化生地の糖化度が100〜2000、好ましくは150〜1500となるように調製される。このような糖化度の範囲では、麦芽糖由来の甘さが十分に引き出され、かつ、グルコースの過度な生成によって麦芽糖由来の甘さがマスキングされることが低減される。
糖化生地の糖化度の測定方法として、例えば、糖化生地中の還元糖量をDNS法(Ghose,T.K.Pure&Appl.Chem.59:257−268,1987)により測定する方法が挙げられ、この場合、糖化度は以下の式で求めることができる。
糖化度=S×A/A−W
S:DNS法によって得られた上澄みのグルコース換算の還元糖量(mg/g)
A:糖化生地に用いたすべての原料の合計重量(g)
W:糖化生地に用いた水重量(g)
還元糖量の測定方法を以下に例示する。糖化生地を均一拡散できる濃度になるよう適宜蒸留水を加え、ホモジネーターを用いて均一に撹拌後、蓋付きプラスチックチューブに分注し、遠心分離機を用いて10000G、5℃、15分間遠心分離を行い、得られた上澄みをろ過して得られたろ液を適切な濃度に希釈後、ガラス試験管内で希釈液1mLと3,5−Dinitrosalicylic acid(DNS)試薬1mLを混合し沸騰水中で5分間保持し、急冷した後5mLの蒸留水を加え540nmでの吸光度を測定し、あらかじめグルコースを用いた標準液で作成した検量線からグルコース換算の還元糖量を求める。
工程(a)では、(i)小麦粉、水及びα−アミラーゼを混合して加温することによって糖化生地を調製してもよく、(ii)小麦粉及び水を混合して加温した後α−アミラーゼを添加してさらに加温することによって糖化生地を調製してもよい。上記(i)及び(ii)において加温する際の温度については、α−アミラーゼの活性を保つ観点から、例えば、55℃〜80℃が好ましい。特定の理論に縛られることを望むものではないが、上記(i)では、小麦粉、水及びα−アミラーゼを混合して加温することで、澱粉の糊化が進み、糊化された澱粉に対してα−アミラーゼが作用することで、生地中に麦芽糖が効率良く生成することが考えられ;上記(ii)では、小麦粉と水とを混合し加温することで澱粉が糊化し、所定程度糊化された状態の澱粉に対してα−アミラーゼが作用することで、生地中に麦芽糖が効率良く生成することが考えられる。生地における澱粉の糊化を効率的に進める観点から、加温する際の温度は、例えば、55℃〜80℃、好ましくは58℃〜80℃、さらに好ましくは60℃〜80℃であり、また、糖化生地の糖化度は、添加する酵素の種類、酵素活性の度合い、処理温度、処理時間等によって調整が可能であるため、加温時間については特に限定されないが、例えば、上記(i)の場合、好適には20分間〜2時間、より好適には20〜80分間であり、上記(ii)の場合、α−アミラーゼ添加前に好適には10分間〜1時間、より好適には10〜40分間、α−アミラーゼ添加後も同様に好適には10分間〜1時間、より好適には10〜40分間である。
工程(a)において用いられる酵素として、α―アミラーゼは必須であるが、その他の澱粉を基質とする酵素を併用してもよい。例えば、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼを使用することが好ましい。これらを使用することで、澱粉由来の種々の糖類が複合的に生成され、より好ましい甘味をもたらすことができる。糖化生地の糖化度は、添加する酵素の種類、酵素活性の度合い、処理温度、処理時間等によって調整が可能であるため、これらの酵素の添加量については特に限定されないが、酵素活性ユニットとして、β―アミラーゼについては、例えば、対小麦粉当たり500〜300000mU/g、好ましくは1500〜150000mU/g;グルコアミラーゼについては、例えば、対小麦粉当たり100〜60000mU/g、好ましくは200〜40000mU/g;プルラナーゼについては、例えば、対小麦粉当たり100〜80000mU/g、好ましくは300〜60000mU/gとすることができる。なお、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼを単独で使用してもよいし、併用してもよい。また、これらのα―アミラーゼ以外の酵素の工程(a)における添加のタイミングについては、例えば、α―アミラーゼを添加する際に併せて添加することができる。
上記の各酵素の具体例及び酵素活性ユニットの測定法について以下に示す。
β―アミラーゼについては、例えば、ナガセケムテックス社製のβ―アミラーゼL/Rやエイチビィアイ社製のハイマルトシンG、合同酒精社製のGOGO−GBA2等の市販の酵素剤を使用することができる。β―アミラーゼの酵素活性ユニットの測定法については、例えば、1.2%澱粉糊液(pH5.5、50mM酢酸緩衝液)5mLに酵素溶液1mLを加え40℃で20分間反応させ、この条件下で1分間に100μgのグルコースに相当する還元力を生成する活性を1ユニットと定義することができる。
グルコアミラーゼについては、例えば、天野エンザイム社製のグルクザイムAF6、酒造用グルコアミラーゼ「アマノ」SD、新日本化学工業社製のスミチーム、ノボザイムズジャパン社製のAMG等の市販の酵素剤を使用することができる。グルコアミラーゼの酵素活性ユニットの測定法については、例えば、1.2%澱粉糊液(pH4.5、0.1M酢酸緩衝液)5mLに酵素溶液1mLを加え40℃で10分間反応させ、この条件下で1分間に1mgのグルコースに相当する還元力を生成する活性を1ユニットと定義することができる。
プルラナーゼについては、例えば、天野エンザイム社製のプルラナーゼ「アマノ」3、ノボザイムズジャパン社製のプロモザイムD2等の市販の酵素剤を使用することができる。プルラナーゼの酵素活性ユニットの測定法については、例えば、プルラン1.2%溶液(pH6.0)を40℃で反応させた際に、1分間に1μmolのグルコースに相当する還元糖を生成する活性を1ユニットと定義することができる。
工程(a)において、高圧条件下で糖化処理を行って糖化生地を調製してもよい。より具体的には、例えば、小麦粉、水及びα−アミラーゼを混合(上記の他の酵素を併用する場合には、他の酵素も混合する)したものを、1〜800Mpaの条件下で、20〜80℃、1分間〜2時間;より好ましくは、10〜600MPaの条件下で、30〜75℃、2分間〜1時間処理する。圧力処理の方法としては、例えば、小麦粉、水及びα−アミラーゼを混合(上記の他の酵素を併用する場合には、他の酵素も混合する)したものをプラスチック製の袋に充填し、密封した後、圧力処理装置(例えば、静水圧による圧力処理装置)にセットして圧力を加える方法が挙げられる。このような圧力処理を施すことで、酵素の反応速度が飛躍的に向上するために、少量の酵素剤添加又は短時間で糖化処理を完了させることが可能になる。
前記工程(a)において、対小麦粉当たり10〜1000重量%の小麦粉以外のデンプン粉がさらに用いられてもよい。“小麦粉以外のデンプン粉”としては、例えば、米粉、もち米粉、大麦粉、ライ麦粉、トウモロコシ粉、うるちキビ粉、ホワイトソルガム粉、じゃがいも粉、キャッサバ粉、タロイモ粉、ユカイモ粉等を挙げることができる。なお、用いられる小麦粉以外のデンプン粉がβ−アミラーゼを有していない場合、又は、β−アミラーゼを少量しか有していない場合には、β−アミラーゼを併用することが望ましい。β−アミラーゼの添加量等の詳細については、前述の通りである。
糖化処理により得られた糖化生地を用いて、最終生地(後述)を調製するが、糖化処理後の生地については、例えば、85℃で10分間加熱することで酵素を失活させた後、冷水にて冷却した後に最終生地の調製に使用してもよく、また、酵素を失活させて冷却後、例えば5℃で48時間保存後に最終生地の調製に使用してもよい。
本発明によるパンの製造方法は、工程(b)として、工程(a)で得られた糖化生地を用いて最終生地を調製する工程を含む。
工程(b)で得られる「最終生地」とは、本明細書において、工程(a)で得られた糖化生地を用いて調製することで得られる生地であり、製パン過程において、「最終生地」を最終発酵させ、焼成する、揚げる、蒸す等してパンを完成させることができる。ここで、「糖化生地を用いて最終生地を調製する」ことについて説明する。本発明によるパンの製造方法は、直捏法、再捏法、中種法、直捏法湯種製パン法(後述)、中種法湯種製パン法(後述)、冷凍生地法等のいずれの方法においても用いることができる。「糖化生地を用いて最終生地を調製する」とは、例えば、“直捏法”においては、糖化生地に材料(小麦粉、砂糖、食塩、ショートニング、水等)を配合しミキサーにて捏ね上げることで最終生地とすることをいい、また、例えば、“中種法”においては、糖化生地にあらかじめ混合、発酵させた中種生地及び本捏の材料(小麦粉、砂糖、食塩、ショートニング、水等)を配合しミキサーにて捏ね上げることで最終生地とすることをいい、また、例えば、“直捏法湯種製パン法”においては、糖化生地に湯種生地(後述)及び材料(小麦粉、砂糖、食塩、ショートニング、水等)を配合しミキサーにて捏ね上げることで最終生地とすることをいい、また、例えば、“中種法湯種製パン法”においては、糖化生地にあらかじめ混合、発酵させた中種生地、湯種生地(後述)及び本捏の材料(上記同様)を配合しミキサーにて捏ね上げることで最終生地とすることをいう。
なお、直捏法では、糖化生地に上述の材料を配合して最終生地を調製し、中種法では、糖化生地にあらかじめ混合、発酵させた中種生地及び本捏の材料を配合して最終生地を調製し、直捏法湯種製パン法では、糖化生地に上述の材料及び湯種生地を配合して最終生地を調製し、中種法湯種製パン法(後述)では、糖化生地にあらかじめ混合、発酵させた中種生地、湯種生地(後述)及び本捏の材料を配合して最終生地を調製する。これらの場合、糖化生地は、例えば、最終生地中の小麦粉100重量部に対して、好ましくは糖化生地中の小麦粉40重量部以下の量で配合され、さらに好ましくは糖化生地中の小麦粉30重量部以下の量で配合される。糖化処理によって生地中に小麦粉由来の変性グルテンが生成するが、この範囲の糖化生地の配合量では、生地全体の未変性グルテン量を十分に保つことができ、製パン性の良好なパンを製造することができる。
なお、前述の糖化生地;直捏法で使用する材料;中種法での中種生地及び本捏の材料;直捏法湯種製パン法(後述)で使用する材料及び湯種生地(後述);並びに中種法湯種製パン法(後述)での中種生地、湯種生地(後述)及び本捏の材料には、必要に応じて、ブドウ糖などの単糖類、砂糖などの二糖類、小麦粉以外のデンプン粉(前述)、塩、油脂、イースト、脱脂粉乳、ショートニング、L−アスコルビン酸、バター等といった一般に製パンに用いられる種々の原料を所望の配合量で配合させることができる。ただし、ブドウ糖などの単糖類、砂糖などの二糖類については、製パンにおける一般的な配合量の60%以下、好ましくは50%以下に低減させるか、又は、使用しないことが好ましい。糖化処理により生成した麦芽糖に由来するさわやかな甘みは、単糖類及び麦芽糖以外の二糖類よりもマイルドであり、単糖類及び麦芽糖以外の二糖類によって弱められてしまう傾向があるからである。
本発明のパンの製造方法を、“直捏法湯種製パン法”又は“中種法湯種製パン法”にて用いる場合について説明する。これらの場合、工程(b)において、糖化生地に湯種生地を混合して最終生地を調製する。「湯種生地」とは、小麦粉と熱湯を混捏して作成する生地、又は温水に小麦粉を添加し加温しながら混捏する生地をいう。“直捏法湯種製パン法”においては、工程(a)で得られた糖化生地に、材料(小麦粉、砂糖、食塩、ショートニング、水等)及び湯種生地(必要に応じて、あら熱を除去したもの又は一晩冷所にて保存したもの)を配合し、ミキサーにて捏ね上げて、最終生地を調製する。また、“中種法湯種製パン法” においては、工程(a)で得られた糖化生地に、中種生地、湯種生地(上記同様、あら熱を除去したもの又は一晩冷所にて保存したもの)及び本捏の材料(小麦粉、食塩、ショートニング、水等)を配合し、ミキサーにて捏ね上げて、最終生地を調製する。本発明のパンの製造方法を、“直捏法湯種製パン法”又は“中種法湯種製パン法”にて用いる場合、麦芽糖由来の甘さを強調できるとともに、より一層柔らかく老化の遅いパンを製造することができる。
また、より柔らかく老化の遅いパンを得るために、最終生地は、低アミロース小麦品種由来の小麦粉を含んでいてもよい。低アミロース小麦品種由来の小麦粉は、前述の通り、糖化生地に用いられてもよい。“中種法”を採用した場合には、糖化生地の他に、中種生地及び本捏の材料に低アミロース小麦品種由来の小麦粉を用いてもよい。また、“直捏法湯種製パン法”を採用した場合には、糖化生地の他に、湯種生地に低アミロース小麦品種由来の小麦粉を用いてもよい。また、“中種法湯種製パン法” を採用した場合には、糖化生地の他に、中種生地、湯種生地及び本捏の材料に低アミロース小麦品種由来の小麦粉を用いてもよい。低アミロース小麦品種の詳細については、前述同様である。
また、最終生地は、小麦粉以外のデンプン粉を含んでいてもよい。小麦粉以外のデンプン粉は、前述の通り、糖化生地に用いられてもよい。“中種法”を採用した場合には、糖化生地の他に、中種生地及び本捏の材料に小麦粉以外のデンプン粉を用いてもよい。また、“直捏法湯種製パン法”を採用した場合には、糖化生地の他に、湯種生地に小麦粉以外のデンプン粉を用いてもよい。また、“中種法湯種製パン法” を採用した場合には、糖化生地の他に、中種生地、湯種生地及び本捏の材料に小麦粉以外のデンプン粉を用いてもよい。小麦粉以外のデンプン粉の詳細については、前述同様である。
また、製パンの全工程において、前述の工程(a)の糖化処理は通常1回行われるが、必要に応じて糖化処理を複数回行ってもよい。
以上説明したように、本発明によるパンの製造方法では、糖化処理を行うことで、麦芽糖由来のさわやかな甘みを有するパンを製造することができる。また、必要に応じてブドウ糖などの単糖類及び砂糖などの二糖類の使用量を低減させることができ、又は単糖類及び二糖類を使用せずにパンを製造することができるため、低糖又は無糖パンに対する消費者ニーズに応えることができる。
また、本発明によるパンの製造方法では、麦芽糖由来のさわやかな甘みを有するとともに、柔らかく老化の遅いパンを製造することができる。その主な理由として、特定の理論に縛られることを望むものではないが、小麦粉中の澱粉がα―アミラーゼで分解された際に、麦芽糖以外にオリゴ糖、デキストリン等といった分解物が生成され、その保水力によってパン中の澱粉のゲルが柔らかくなり、非常にソフトなパンとなることが考えられる。さらに、これらのオリゴ糖、デキストリン等の保水力は、焼成した後のパンの保存中にも維持されるために、パンの保存中の老化の進行が極めて緩やかであり、しっとりした製造直後の食感が長期に維持される。
また、糖化生地を用いることで、消費者が求めるような低糖又は無糖パンを、製パン性を落とすことなく製造することが可能になり、大手製パンメーカーで行われているような機械による大量生産も可能になる。
(2.パン)
次に、本発明によるパンについて説明する。
本発明によるパンは、前述の本発明によるパンの製造方法により製造される。本発明による「パン」には、前述の通り、食パン(山型食パン等)、ロールパン(バターロール等)、菓子パン、フランスパン、冷凍生地パン等、焼成されることにより製造されるものの他、ドーナツ、蒸しパン等も含まれる。
本発明によるパンは、前述の通り、麦芽糖由来のさわやかな甘みを有するとともに、柔らかく老化が遅く、また、外観、内相、食感及び風味が良好で、大きな比容積を有する。
パンの柔らかさ及び老化の評価方法として、例えば、山型食パンの場合、パンをポリエチレン袋に入れて保存した後、例えば、1日後、2日後の山型食パンをスライスし、パン片のクラムの中央をカットし、そのカットクラムを半分の厚さまで1mm/sのスピードで圧縮した時の最大応力を測定し、その値をパンの硬さの値とする方法が挙げられる(この場合、パンの硬さの値が低いほど、パンが柔らかいことを表す)。
また、パンの外観、内相及び食感及び風味(甘みを含む)の評価は、例えば、複数名のパネラーによって、焼成後(例えば、焼成1日後)のパンを用いて行うことができる。また、パンの比容積の測定は、例えば、焼成後(例えば、保存1時間後)のパンを用いて菜種置換法によって行うことができる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、図1−4において、製パン配合における各原料の数値は、小麦粉100重量部に対する値として示される。
(実施例1)
直捏法によって山型食パンを製造するために、以下の製パン実験を行った。
図1に記載の製パン配合にて、各原料を配合した。より具体的には、製パン実施例1−3及び比較例1−2について、各々のミキサーボールにおいて、小麦粉(市販外麦強力粉)、砂糖(製パン実施例3以外)、食塩、ショートニング、イースト、L−アスコルビン酸及び水を、各々図1に記載の分量にて配合した。製パン実施例1ではさらに糖化生地1(後述)を配合し、製パン実施例2ではさらに糖化生地2(後述)を配合し、製パン実施例3ではさらに糖化生地3(後述)を配合した。
砂糖の配合量について、比較例1では一般的な配合量であり、製パン実施例1−2及び比較例2では一般的な配合量よりも少量であり、製パン実施例3では砂糖不使用である。
製パン実施例1−3に用いた糖化生地1−3について説明する。なお、以下の通り調製した糖化生地については、85℃で10分間加熱することで酵素を失活させた後、冷水にて急速冷却し、5℃で48時間保存後に製パンに使用した。
糖化生地1の調製方法を説明する。小麦粉100重量部、水400重量部、α−アミラーゼ1重量部(商品名:ビオザイムA(天野エンザイム社製)、酵素活性:小麦粉当たり400000mU/g)を攪拌機を用いて均一に混合し、プラスチック製の容器に入れて加温し、70℃±1℃とした。この状態で水分蒸発が起こらないように容器を十分密閉し、40分間保持して糖化生地1を調製した。調製後の糖化生地1の糖化度は688であった。
糖化生地2の調製方法を説明する。小麦粉100重量部及び水400重量部をプラスチック製の容器に入れ、加温して70℃±1℃とし、この状態で水分蒸発が起こらないように容器を十分密閉し20分間保持した。その後、水100重量部、α−アミラーゼ0.5重量部(商品名:ビオザイムA(天野エンザイム社製)、酵素活性:小麦粉当たり200000mU/g)、グルコアミラーゼ0.01重量部(商品名:スミチーム(新日本化学工業社製)、酵素活性:小麦粉当たり200mU/g)を攪拌機を用いて均一に混合し、再度密閉後65℃で20分間保持して糖化生地2を調製した。調製後の糖化生地2の糖化度は382であった。
糖化生地3の調製方法を説明する。小麦粉100重量部、水300重量部、α−アミラーゼ0.75重量部(商品名:ビオザイムA(天野エンザイム社製)、酵素活性:小麦粉当たり300000mU/g)、グルコアミラーゼ0.5重量部(商品名:スミチーム(新日本化学工業社製)、酵素活性:小麦粉当たり10000mU/g)を攪拌機を用いて均一に混合し、プラスチック製の容器に入れ水分蒸発が起こらないように容器を十分密閉し、高圧処理装置(MFP−7000、三菱重工社製)を用いて600Mpa、60℃、10分間保持して糖化生地3を調製した。調製後の糖化生地3の糖化度は585であった。
製パン実施例1−3各々のミキサーボールに糖化生地を含む各原料を入れて、小型ピンミキサーを用いて捏上温度27℃にて、高速で最適時間ミキシング(ミキシング時のピンミキサーの電力量の変化を指標に電力量ピークを少し過ぎるまで高速でミキシング)を行い、最終生地を得た。また、比較例1−2についても同様にミキシングを行い、ミキシング生地を得た。
前述の製パン実施例1−3の最終生地及び比較例1−2のミキシング生地について、以下の条件で発酵、焼成して、製パン実施例1−3及び比較例1−2の山型食パンを得た。
フロアタイム:30℃、60分間
分割、丸め:生地量100gずつ手分割し、手丸目を行った。
ベンチタイム:30℃、15分間
成形:モルダーにて成形し、パン型に入れた。
最終発酵:38℃、湿度85%、60分間
焼成:180℃、25分間
図1に、“製パン結果”として、製パン時生地状態、パンの外観、内相、食感、風味(甘みを含む)及び比容積を示す。なお、製パン時生地状態、外観、内相及び食感、風味の評価基準は、◎:非常に良好、○:良好、△:やや劣る、×:劣る、である。「製パン時生地状態」とは、最終発酵を行う前の生地状態をいい、適度な弾力性があってべとつかない状態である場合に“◎”と評価され、生地がだれておりべとつく状態である場合に“×”と評価される。「(パンの)外観」とは、パンの形状、焼き色の度合い及び焼き色の均一性で評価され、パンが大きく膨らんでおり良好な形状で、均一かつ良好な焼き色がついた状態である場合に“◎”と評価される。「(パンの)内相」とは、パンの内部の白い部分(クラム)の状態を評価するものであり、クラムが白くかつ均一な細かい気泡からなり、気泡以外のパンの壁の部分(内相のマク)の厚さが薄い状態である場合に“◎”と評価される。評価方法については、6人のパネラーによって、製パン時生地状態、焼成1日後の外観、内相、食感・風味の評価を行った。また、焼成1時間後に菜種置換法によって比容積測定評価を行った。
また、図1に、保存後のパンの“老化の評価”として、パンをポリエチレン袋に入れて、20℃で保存した後、クラム部分の硬さ(1日後、2日後)を評価した結果を示す。パンの硬さの評価方法について、より具体的には、山型食パンを2cmにスライスし、中央部の合計3枚のパン片のクラムの中央を3cm×3cmにカットし、そのカットクラムを半分の厚さまで1mm/sのスピードで圧縮した時の最大応力を測定し、その平均値をパンの硬さの値とした。なお、パンの硬さの値が低いほど、パンが柔らかいことを表す。
図1の“製パン結果”より、製パン実施例1−3の生地の製パン性は従来法の比較例1とほぼ同等であり、製パン実施例1−2と同量の砂糖を使用した比較例2と比べて良好な結果を示した。高圧処理による短時間の糖化処理を行った糖化生地を用いた製パン実施例3の糖化度は製パン実施例1とほぼ同等であり、砂糖を全く使用していないにも関わらず、製パン性に大きな影響もない上に、甘みを含む風味については従来法の比較例1を上回っていた。また、製パン実施例1−3では、食感及び風味の評価が非常に高く、保存後の老化の評価においても、比較例に比べて明らかに保存中の老化が遅く、柔らかさが維持され、比較例以上の結果が示された。
以上の結果から、本実施例の糖化生地を用いた製パン法により、添加する砂糖の量を2分の1以下に減らしても従来法以上の品質のパンが製造できることが明らかになった。また、本実施例のパンは、保存中の老化が非常に遅いのが特徴であり、焼成後のソフトな食感が長い時間維持されることが判った。
(実施例2)
中種法によって山型食パンを製造するために、以下の製パン実験を行った。
図2に記載の製パン配合にて、中種の各原料を配合した。より具体的には、ミキサーボールに、小麦粉(市販外麦強力粉)、イースト、L−アスコルビン酸及び水を入れ、小型ピンミキサーを用いて捏上温度24℃にて低速で2分間ミキシングを行い、30℃、4時間発酵を行うことで、製パン実施例4−5及び比較例3−4の中種生地を得た。
前述の中種生地に、図2の本捏の各原料を配合し、本捏ミキシングを行った。より具体的には、製パン実施例4−5及び比較例3−4の中種生地の全量、及び図2の本捏の各原料(小麦粉、砂糖(製パン実施例5を除く)、食塩、ショートニング及び水)をミキサーボールに入れた。製パン実施例4ではさらに糖化生地4(後述)を配合し、製パン実施例5ではさらに糖化生地5(後述)を配合した。
砂糖の配合量について、比較例3では一般的な配合量であり、製パン実施例4及び比較例4では一般的な配合量よりも少量であり、製パン実施例5では砂糖不使用である。
製パン実施例4−5に用いた糖化生地4−5について説明する。なお、以下の通り調製した糖化生地については、85℃で10分間加熱することで酵素を失活させた後、冷水にて常温まで冷却した後、製パンに使用した。
糖化生地4の調製方法を説明する。小麦粉100重量部、米粉300重量部、水1000重量部、α−アミラーゼ1重量部(商品名:スミチームAS(新日本化学工業社製)、酵素活性:小麦粉当たり140000mU/g)、β−アミラーゼ1重量部(商品名:β−アミラーゼL/R(ナガセケムテックス社製)、酵素活性:小麦粉当たり150000mU/g)を攪拌機を用いて均一に混合し、プラスチック製の容器に入れて加温し、68℃±1℃とした。この状態で水分蒸発が起こらないように容器を十分密閉し、60分間保持して糖化生地4を調製した。調製後の糖化生地4の糖化度は187であった。
糖化生地5の調製方法を説明する。小麦粉100重量部、もち米粉600重量部、水1500重量部、α―アミラーゼ0.5重量部(商品名:ビオザイムA(天野エンザイム社製)、酵素活性:小麦粉当たり200000mU/g)、β−アミラーゼ1重量部(商品名:β−アミラーゼL/R(ナガセケムテックス社製)、酵素活性:小麦粉当たり150000mU/g)、グルコアミラーゼ0.5重量部(商品名:スミチーム(新日本化学工業社製)、酵素活性:小麦粉当たり10000mU/g)、プルラナーゼ1重量部(商品名:プルラナーゼ「アマノ」3(天野エンザイム社製)、酵素活性:小麦粉当たり30000mU/g)を攪拌機を用いて均一に混合し、プラスチック製の容器に入れて加温し、68℃±1℃とした。この状態で水分蒸発が起こらないように容器を十分密閉し、60分間保持して糖化生地5を調製した。調製後の糖化生地5の糖化度は470であった。
製パン実施例4−5各々のミキサーボールに糖化生地を含む各原料を入れて、前述同様の小型ピンミキサーを用いて捏上温度27℃にて、高速で最適時間ミキシング(ミキシング時のピンミキサーの電力量の変化を指標に電力量ピークを少し過ぎるまで高速でミキシング)を行い、最終生地を得た。また、比較例3−4についても同様にミキシングを行い、ミキシング生地を得た。
前述の製パン実施例4−5の最終生地及び比較例3−4のミキシング生地について、以下の条件で発酵、焼成して、製パン実施例4−5及び比較例3−4の山型食パンを得た。
フロアタイム:30℃、15分間
分割、丸め:生地量100gずつ手分割し、手丸目を行った。
ベンチタイム:30℃、15分間
成形:モルダーにて成形し、パン型に入れた。
最終発酵:38℃、湿度85%、50分間発酵
焼成:180℃、25分間
製パン評価は、実施例1と同様に行った。図2の結果から、中種法で製造された製パン実施例4−5における製パン性は、比較例4に比べ良好であり、比較例3の従来法の通常の中種法の生地と同等の製パン性を示した。また、生地の分割、成形時の状態、パンの外観、内相、食感及び甘みを含む風味の評価は高く、大きな比容積を示し、従来法の比較例3とほぼ同等の結果を示した。また、保存後の老化の評価においては、比較例3−4に比べ製パン実施例4−5のパンは老化が非常に遅く、比較例3の通常の中種法のパン以上であった。試験例5については砂糖を全く使用していないにも関わらず、製パン性に大きな影響もないうえに、甘みを含む風味については従来法の比較例4を上回っていた。総合的に製パン実施例5の生地、パンは非常に好ましく、従来法の中種法のパンと製パン性は同等の特性を示し、焼成1日後のパンのソフトさ、パンの老化については、それ以上であった。
以上の結果から、本実施例の製パン法は、工場での多量生産適性の高い中種法においても十分効果を発揮し、工場でのパンの多量生産に適用できることが明らかになった。これにより、本実施例の製パン法の製パン業界への貢献は、多大であると考えられる。
(実施例3)
ノータイム法によってバターロールを製造するために、以下の製パン実験を行った。
図3に記載の製パン配合にて、各原料を配合した。より具体的には、製パン実施例6−7及び比較例5−6について、各々のミキサーボールにおいて、小麦粉(市販外麦強力粉)、砂糖、食塩、バター、イースト、全卵、脱脂粉乳、L−アスコルビン酸及び水を、各々図3に記載の分量にて配合した。製パン実施例6ではさらに糖化生地6(後述)を配合し、製パン実施例7ではさらに糖化生地7(後述)を配合した。
砂糖の配合量について、比較例5では一般的な配合量であり、製パン実施例6−7及び比較例6では一般的な配合量よりも少量である。
製パン実施例6−7に用いた糖化生地6−7について説明する。なお、以下の通り調製した糖化生地については、85℃で10分間加熱することで酵素を失活させた後、冷水にて常温まで冷却後に製パンに使用した。
糖化生地6の調製方法を説明する。小麦粉100重量部、水200重量部、モルトパウダー1.5重量部(α−アミラーゼ剤として市販のモルトパウダーを使用、酵素活性:小麦粉当たり4950mU/g)、プルラナーゼ2重量部(商品名:プルラナーゼ「アマノ」3(天野エンザイム社製)、酵素活性:小麦粉当たり60000mU/g)を攪拌機を用いて均一に混合し、プラスチック製の容器に入れ、水分蒸発が起こらないように容器を十分密閉し、高圧処理装置(まるごとエキス(500mLタイプ)、東洋高圧社製)を用いて100Mpa、65℃、30分間保持して、糖化生地6を調製した。調製後の糖化生地6の糖化度は1383であった。
糖化生地7の調製方法を説明する。小麦粉100重量部、もち米粉10重量部、水300重量部、α−アミラーゼ0.005重量部(商品名:スミチームAS(新日本化学工業社製)、酵素活性:小麦粉当たり700mU/g)、β−アミラーゼ0.01重量部(商品名:β−アミラーゼL/R(ナガセケムテックス社製)、酵素活性:小麦粉当たり1500mU/g)、プルラナーゼ2重量部(商品名:プルラナーゼ「アマノ」3(天野エンザイム社製)、酵素活性:小麦粉当たり60000mU/g)を攪拌機を用いて均一に混合し、プラスチック製の容器に入れ水分蒸発が起こらないように容器を十分密閉し、高圧処理装置(まるごとエキス(500mLタイプ)、東洋高圧社製)を用いて50Mpa、70℃、60分間保持して、糖化生地7を調製した。調製後の糖化生地7の糖化度は201であった。
製パン実施例6−7各々のミキサーボールに糖化生地を含む各原料を入れて、小型ピンミキサーを用いて捏上温度28℃にて、高速で最適時間ミキシング(ミキシング時のピンミキサーの電力量の変化を指標に電力量ピークを少し過ぎるまで高速でミキシング)を行い、最終生地を得た。また、比較例5−6についても同様にミキシングを行い、ミキシング生地を得た。
前述の製パン実施例6−7の最終生地及び比較例5−6のミキシング生地について、以下の条件で発酵、焼成して、製パン実施例6−7及び比較例5−6のバターロールを得た。
フロアタイム:30℃、15分間
分割、丸め:生地量40gずつ手分割し、手丸目を行った。
ベンチタイム:30℃、15分間
成形:バターロール形状に手成形した。
最終発酵:38℃、湿度85%、60分間
焼成:210℃、8分間
製パン評価は、8人のパネラーによって、実施例1と同様に、製パン時の生地状態、保存一日後の外観、内相、食感及び甘みを含む風味の評価と見た目のパンのボリュームにより行った。また、保存後のパンの老化の評価として、ポリエチレン袋中で20℃で2日間保存したパンについて硬さの評価を行った。硬さの評価は直径5mmの円形プランジャーを1mm/sのスピードで3つのバターロールの上部の山の部分に突き刺した時の最大応力によって行った。全てのデータは平均の結果で示した。
図3の結果から、本実施例のバターロールのようなリッチな配合のパンにおいても、製パン実施例6−7の生地の製パン性は、比較例に比べ非常に良好な結果を示し、生地の分割、成形時の状態、食感及び風味の評価は非常に高く、従来法の比較例5以上の結果を示した。また、保存2日後のパンの硬さの評価においても、比較例のパンに比べ本発明のパンは明らかに柔らかく、従来法の比較例5のパンと比べても明らかにソフトであった。特に製パン実施例6については非常に柔らかく、甘みを含む風味に優れ比較例に対して明らかに良好な結果が得られた。
以上の結果から、本実施例の糖化生地を用いた製パン法により、バターロールのようなリッチな配合のパンにおいても、従来法によるパンと同等かそれ以上の品質のパンが製造できることが明らかになった。また、本実施例のパンは、保存中の老化が非常に遅く、焼成後のソフトな食感が長時間維持されることが判った。
(実施例4)
直捏法湯種製パン法によって国産小麦粉を用いて山型食パンを製造するために、以下の製パン実験を行った。
図4に記載の製パン配合にて、各原料を配合した。より具体的には、砂糖(比較例7のみ)、食塩、ショートニング、イースト、L−アスコルビン酸及び水に加えて、製パン実施例8では国産小麦粉ブレンド粉1(後述)、糖化生地8(後述)及び湯種生地1(後述)を配合し、製パン実施例9では国産小麦粉ブレンド粉2(後述)、糖化生地9(後述)及び湯種生地2(後述)を配合し、比較例7及び比較例8では小麦粉(市販外麦強力粉)及び湯種生地3(後述)を配合した。
砂糖の配合について、比較例7では一般的な配合量であり、製パン実施例8−9及び比較例8では砂糖不使用である。
製パン実施例8−9に用いた糖化生地8−9について説明する。なお、以下の通り調製した糖化生地については、85℃で10分間加熱することで酵素を失活させた後、冷蔵庫で一晩保存後、製パンに使用した。
糖化生地8の調製方法を説明する。きたほなみ粉100重量部、水300重量部、α−アミラーゼ0.5重量部(商品名:ビオザイムA(天野エンザイム社製)、酵素活性:小麦粉当たり200000mU/g)、グルコアミラーゼ2重量部(商品名:スミチーム(新日本化学工業社製)、酵素活性:小麦粉当たり40000mU/g)を攪拌機を用いて均一に混合し、プラスチック製の容器に入れ、加温して70℃±1℃とした。この状態で水分蒸発が起こらないように容器を十分密閉し、40分間保持することで糖化生地8を調製した。調製後の糖化生地8の糖化度は954であった。
糖化生地9の調製方法を説明する。キタノカオリ粉100重量部、水400重量部をプラスチック製の容器に入れ、加温して75℃±1℃とした。この状態で水分蒸発が起こらないように容器を十分密閉し、20分間保持した。その後、常温まで冷却した後、水50重量部、α−アミラーゼ0.25重量部(商品名:ビオザイムA(天野エンザイム社製)、酵素活性:小麦粉当たり100000mU/g)、グルコアミラーゼ1重量部(商品名:スミチーム(新日本化学工業社製)、酵素活性:小麦粉当たり20000mU/g)、プルラナーゼ0.01重量部(商品名:プルラナーゼ「アマノ」3(天野エンザイム社製)、酵素活性:小麦粉当たり300mU/g)を加え攪拌機を用いて均一に混合し、再度密閉後、高圧処理装置(実施例3と同様)にて10Mpa、60℃、10分間保持して糖化生地9を調製した。調製後の糖化生地9の糖化度は1030であった。
湯種生地1−3について説明する。なお、以下の通り調製した湯種生地については、低温保存(冷蔵庫で一晩保存)後、製パンに使用した。
湯種生地1の調製方法を説明する。加熱可能な容器に攪拌機を入れ、ゆめちから粉ときたほなみ粉のブレンド粉(7:3)100重量部を入れ、次に、温水300重量部を添加し、攪拌機を用いて均一に混合しながら昇温し、80℃±1℃とした。この状態で水分蒸発が起こらないように容器を十分密閉し、15分間保持して湯種生地1を調製した。
湯種生地2の調製方法を説明する。ゆめちから粉とキタノカオリ粉のブレンド粉(7:3)を用いた以外は湯種生地1と同条件で調製した。
湯種生地3の調製方法を説明する。市販強力粉100重量部をミキサーボールに入れ、98℃の熱水100重量部をミキサーで混捏しながら徐々に添加し、3分間混捏して調製した。
製パン実施例8−9各々のミキサーボールに糖化生地を含む各原料を入れて、小型ピンミキサーを用いて捏上温度27℃にて、高速で最適時間ミキシング(ミキシング時のピンミキサーの電力量の変化を指標に電力量ピークを少し過ぎるまで高速でミキシング)を行い、最終生地を得た。また、比較例7−8についても同様にミキシングを行い、ミキシング生地を得た。
前述の製パン実施例8−9の最終生地及び比較例7−8のミキシング生地について、以下の条件で発酵、焼成して、製パン実施例8−9及び比較例7−8の山型食パンを得た。
フロアタイム:30℃、45分間
分割、丸め:生地量100gずつ手分割し、手丸目を行った。
ベンチタイム:30℃、20分間
成形:モルダーにて成形し、パン型に入れた。
最終発酵:38℃、湿度85%、60分間
焼成:180℃、25分間
製パン評価は、実施例1と同様に行った。図4の結果から、糖化生地を使用した湯種製パン法で製造された製パン実施例8−9(特に、製パン実施例9)の製パン性は、比較例の生地に比べ非常に良好であり、比較例8の通常の湯種製パン法の生地に比べても明らかに良好な結果を示した。また、生地の分割、成形時の状態、パンの外観、食感及び甘みを含む風味の評価は非常に高く、明らかに大きな比容積を示し、比較例8以上の結果を示した。また、保存後の老化の評価においても、比較例に比べ本実施例のパンは明らかに柔らかく、比較例8の通常の湯種製パン法のパンと比べても明らかに良好な結果であった。特に、総合的に製パン実施例9のパンは、比較例8の従来法の湯種製パン法のパンより明らかに良好な特性を示した。また、製パン実施例8−9では砂糖不使用にもかかわらず、砂糖を使用した比較例7よりも、甘みを含む風味が優れていた。
以上の結果から、本実施例の糖化生地を用いた湯種製パン法に、やや低アミロースの澱粉を含有する国産小麦粉を用いることで、湯種製パン法のパンより飛躍的良好な品質のパンが製造できることが明らかになった。また、本発明のパンは、生地の糖化処理、多量の水を用いた湯種生地の添加、やや低アミロースの澱粉を含有する国産小麦粉の使用の相乗効果により、比較例に比べて明らかに生地の製パン性、パンの品質の向上が見られるだけでなく、得られたパンが非常にソフトで、保存経時のパンの老化が遅くなることが明らかになり、焼成後のソフトなパンの食感が非常に長い時間維持されることが判った。現在、日本国内ではパン適性の高い優れたパン用小麦品種が続々と育成され、それらの普及も着実に進んでおり、国内のパン用小麦の生産量も近年急激に増加している。これらの育成品種のほとんどが、Wx−B1タンパク質を欠失しているアミロース含量がやや低い澱粉を含有する小麦品種である。本実施例の結果は、これらの品種の小麦粉を用いて本実施例の技術で湯種パンを製造した場合、これらの品種の良い特性が引き出され、従来の湯種法によるパンより遙かに優れたパンが製造できることを示しており、今後増産される国内のパン用小麦の需要拡大に、本実施例の技術が多大な貢献をすることが期待できる。