以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、重複する説明を省略する。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る接地構造が用いられる電気設備の構成例を示す平面図である。図1に示す例は、複線区間における直流電気鉄道の電車線に電力を供給する変電所の最も簡易な設備構成例であり、この例について以下に説明する。
図1に示すように、フェンスに囲まれた変電所の敷地1には、多くの場合に、電気設備が設置される建屋2が設けられている。この例においては、建屋2の配電盤室内に、直流遮断器21、配電盤22、伝送装置23、及び、低圧電源装置24等が設置されている。建屋2の基礎部分にはピット(溝)2aが形成されており、ピット2aにおいては、接地線が防護管内に施設されると共に、接地線を分岐させるために接地端子箱25が設置されている。接地線の一部は、建屋2の床面下(コンクリート等)に、防護管内に施設された状態で埋設されている。
建屋2の屋外にも、電気設備が設置されている場合がある。この例においては、建屋2の屋外に、受電用断路器31、受電用遮断器32、計量器用変成器(VCT:Voltage and Current Transformer)33、支持具34、及び、受電用避雷器R1〜R3を有する受電設備と、整流器用変圧器41と、整流器42と、直流断路器43と、制御用変圧器44と、ラジエータ45と、直流用避雷器T1〜T4とが設置されている。
受電設備は、電力会社等から3相交流電圧を受電する電路に電気的に接続されている。整流器用変圧器41は、受電設備から供給される3相交流電圧を比較的低い2次側3相交流電圧に変換する。整流器42は、整流器用変圧器41から供給される3相交流電圧を直流に変換する。直流断路器43は、整流器42から供給される直流を電車線側と区分する。制御用変圧器44は、一次側が整流器用変圧器41の二次側あるいは受電設備等に接続されて、変電所の制御電源を供給する。ラジエータ45は、整流器用変圧器41を冷却する。直流用避雷器T1〜T4は、電車線から侵入する雷撃から変電所内を保護する。
図1、及び、後述する図12においては、図面が複雑になるのを避けるために、直流主回路の内で、整流器42の正極側出力端子から直流断路器43を介して直流遮断器21に至る電路、及び、整流器42の負極側出力端子から直流断路器43を介して走行レール等の帰線設備に至る電路が省略されている。さらに、制御用変圧器44の一次側電路、及び、低圧回路及び通信線も省略されている。
また、雷撃侵入や地絡故障が発生した際に、構内の人や電気設備等を過電圧から守ると共に、外部への過電圧又は異常電流の流出を防ぐために、複数の電気設備の接地端子と大地とを電気的に接続してそれらの電気設備に大地電位を与える接地構造が設けられている。さらに、変電所構内への直撃雷から人や電気設備等を防護するために、架空地線GWが必要に応じて施設されている(図面が複雑になるのを避けるために、支持物のみを図示する)。架空地線GWも、接地構造に電気的に接続される。本実施形態において、架空地線GWは、図示した4つの支持物を支点として、変電所内の全ての電線路よりも上方に格子状に架設されている。
図1に示す例において、接地構造は、建屋2の屋外の地中において格子状に配設された複数の絶縁電線51及び複数の裸電線52と、建屋2の床面下に配設された絶縁電線59と、少なくとも1つの接地極60と、複数の電気設備の接地端子を複数の絶縁電線51及び複数の裸電線52に電気的に接続する複数の配線61〜63とを備えている。
絶縁電線51は、銅(Cu)又はアルミニウム(Al)等の金属の心線導体の表面がビニール等の絶縁体で被覆された電線である。例えば、絶縁電線51として、断面積60mm2の銅の撚り線の表面がビニールで被覆されたIV(Indoor PVC)電線が用いられる。絶縁電線51は、複数の格子点において、圧縮加工等により電気的な接続が行われる。例えば、図1においてX軸方向に配設された絶縁電線51とY軸方向に配設された絶縁電線51とは、それらの交点(格子点)において互いに電気的に接続されている。
裸電線52は、表面が絶縁体で被覆されていない銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、又は、ステンレス等の金属の導電線である。例えば、裸電線52として、断面積60mm2の銅の撚り線が用いられる。裸電線52は、複数の絶縁電線51の複数の格子点において、圧縮加工等により電気的に接続されている。図1に示す例においては、裸電線52が、複数の絶縁電線51の全ての格子点に電気的に接続されている。
接地極60は、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、又は、ステンレス等の金属の棒、板、又は、鋼材(代表的には杭)で構成される。導電性コンクリート等の接地抵抗低減材が、接地極60あるいは裸電線52の周囲に充填される場合もある。接地極60は、建屋2の屋外の地中に埋設されて、圧縮加工等により、複数の絶縁電線51又は複数の裸電線52に電気的に接続されている。
設備によっては、建屋2の構造物そのものを接地極60として利用する場合もある。この場合の接地極は、鉄及びコンクリートで構成される。この場合においても、導電性コンクリート等の接地抵抗低減材が補助的に用いられることもある。
配線61は、電気機器(変圧器、整流器)、開閉器(断路器、遮断器)、及び、配電盤等の電気設備の接地端子Gを、複数の絶縁電線51に電気的に接続している。配線62は、避雷器の接地端子Gを、複数の裸電線52に電気的に接続している。配線63は、架空地線GWを、複数の裸電線52に電気的に接続している。それらの接続部は、圧縮加工とボルト締め等により施工される。
雷撃の大半は、配線62及び配線63から接地構造中に侵入すると考えられる。従って、直下の高周波インピーダンスを低減させる目的から、配線62及び配線63は、サージインピーダンスの低い裸電線52に直接接続することが望ましい。一方、配線61は、等電位化された接地電位を確保することが重要であり、絶縁電線51に直接接続することが望ましい。
建屋2の屋内で過大な電位差が発生すると、建屋2内に設置された電気設備、特に、弱電機器(配電盤22、伝送装置23、低圧電源装置24等)に障害を与えるおそれがあるので、建屋2の床面下に接地線として複数の絶縁電線59を設けることにより、建屋2内の等電位化が行われる。絶縁電線59は、接地端子箱25の端子に、圧縮加工とボルト締め等により電気的に接続されている。さらに、絶縁電線59及び接地端子箱25は、建屋2外の絶縁電線51又は裸電線52に電気的に接続され、変電所全体の等電位化が行われる。
建屋2に設置される直流遮断器21、配電盤22、伝送装置23、及び、低圧電源装置24等の接地端子Gは、複数の配線(絶縁電線)61を介して絶縁電線51又は接地端子箱25の端子に電気的に接続される。接地端子箱25の各端子に対するそれぞれの接地線の接続は、例えば、圧縮加工とボルト締めによって行われる。
配線61〜63は、地上に露出する部分を含むので、人体防護(接触電圧及び歩幅電圧の低減)、並びに、防水(地中の接地構造への雨水等の侵入防止)の観点から、絶縁電線であることが望ましい。また、技術基準(電気設備に関する技術基準、鉄道に関する技術上の基準等)の規定に従い、必要な箇所には絶縁防護管が設置される。
図2は、図1に示す受電用避雷器の構成例を示す一部断面側面図である。図2には、電力会社等から供給される3相交流電圧を受電する受電設備に設けられる3つの受電用避雷器R1〜R3の内の1つの構成例が示されている。図2に示す受電用避雷器は、主回路側端子35と、接地端子36と、避雷器本体37とを含んでいる。なお、避雷器は、アレスター(LA:lightning arrester)とも呼ばれている。
主回路側端子35は、碍子(ブッシング)によって接地端子36から絶縁されている。主回路側端子35には、電力会社等から受電用断路器31等を介して交流電圧を受電する配線70と、整流器用変圧器41に交流電圧を供給する配線71とが電気的に接続される。酸化亜鉛(ZnO)等で作成された避雷器本体37は、電圧制限効果を有しており、雷撃等によって主回路側端子35と接地端子36との間に所定値(動作開始電圧)以上の過電圧が印加されると、導通状態となってバイパス電流を流すことにより、主回路側端子35と接地端子36との間の電圧を所定値(制限電圧)以下に制限する。それにより、変圧器や遮断器等の碍子等における絶縁破壊を防止することができる。
再び図1を参照すると、整流器用変圧器41及び整流器42は、受電設備から配線71を介して供給される交流電圧を電車の走行に適した直流電圧に変換する。整流器42の正極側出力端子は、直流断路器43を介して直流遮断器21に接続され、最終的に電気鉄道の電車線に接続される。また、整流器42の負極側出力端子は、直流断路器43を介して電気鉄道の走行レール等の帰線設備に接続される。これらの電路は、一般に主回路と呼ばれている。直流遮断器21と電車線との間には、電車線用の直流用避雷器T1〜T4が接続されている。なお、直流用避雷器T1〜T4の構成及び動作は、受電用避雷器R1〜R3の構成及び動作と同様である。
主回路の配線は、碍子等で支持された裸電線あるいは絶縁電線、又は、ケーブル等で構成される。避雷器の動作開始電圧及び制限電圧は、主回路及び各電気設備の絶縁性能を超えないように設定される。この基本原則は、一般に絶縁協調と呼ばれるものである。
図には示していないが、変電所内の電気設備自身の動作電源(制御電源)は、制御用変圧器44並びに建屋2内の低圧電源装置24から供給される低圧(交流200V/100V、直流100V等)である。変電所内の電気設備が停電時においても制御電源を喪失しないように、蓄電池による無停電電源となっていることが一般的である。これらの制御電源は、分電盤(図示せず)等を介して、受電用断路器31、受電用遮断器32、整流器42、直流断路器43、直流遮断器21、配電盤22、及び、伝送装置23等、動作電源を必要とする電気設備に低圧絶縁電線を介して供給される。また、図示しないその他の低圧電源として、消防設備、電話等の通信設備、及び、照明や空調あるいは作業用コンセント等への供給回路が設置されている。
変電所内の電気設備を直接制御するものは、建屋2内の配電盤22である。配電盤22は、上記の制御電源で動作し、各種の開閉器(受電用断路器31、受電用遮断器32、直流断路器43、及び、直流遮断器21)に制御信号を伝送する。また、配電盤22は、電線路の電圧・電流、及び、電気機器の状態を常に監視し、故障(短絡・地絡・機器故障等)を検知することにより、必要な遮断器を開放制御して故障を除去するという役割も有しており、変電所保護の要となる。本機能は、配電盤22に設置された保護継電器により実現される。以上のために、各電気設備から配電盤22には、情報伝達を行う図示しない配線(低圧絶縁電線等で構成され、一般に制御線と呼ばれる)が設置されている。
以上説明した通り、変電所内には、主回路、制御電源、及び、制御線等の多種多様の電線路が施設されており、変電所内の設置構造中で電位差が発生すると、それらの電線路を介して過電圧が伝搬したり、あるいは、異常電流(正常な経路ではない経路に流れる電流)が流れるので、人や電気設備に害を与える恐れがある。等電位化が必要な理由がここにある。
<本発明の原理>
次に、本発明の原理について詳しく説明する。以下の図3〜図6に示す結果を得るためのシミュレーションにおいて、絶縁電線の心線導体及び裸電線の断面積は60mm2であり、絶縁電線及び裸電線は、標準大地の深さ1mの地中に埋設されているものとした。
図3は、絶縁電線の直列インピーダンス及び並列アドミタンスの周波数特性の一例を示す図であり、図4は、裸電線の直列インピーダンス及び並列アドミタンスの周波数特性の一例を示す図である。図3及び図4において、横軸は、周波数(Hz)を表している。また、図3(a)及び図4(a)において、縦軸は、単位長さ当りの直列インピーダンス(Ω/km)を表しており、図3(b)及び図4(b)において、縦軸は、単位長さ当りの並列アドミタンス(S/km)を表している。
図3(a)において、実線は、単位長さ当りの絶縁電線の直列インピーダンスの抵抗成分(実数成分)Rを示しており、破線は、単位長さ当りの絶縁電線の直列インピーダンスのリアクタンス成分(虚数成分)Xを示している。また、図4(a)において、実線は、単位長さ当りの裸電線の直列インピーダンスの抵抗成分Rを示しており、破線は、単位長さ当りの裸電線の直列インピーダンスのリアクタンス成分Xを示している。
絶縁電線及び裸電線の直列インピーダンスは、電線の断面積と形状とによって概ね決定される。直列インピーダンスの抵抗成分R及びリアクタンス成分Xは、周波数によって変化するが、絶縁電線と裸電線との間で殆ど違いはない。
図3(b)において、実線は、単位長さ当りの絶縁電線の並列アドミタンスのコンダクタンス成分(実数成分)Gを示しており、破線は、単位長さ当りの絶縁電線の並列アドミタンスのサセプタンス成分(虚数成分)Bを示している。また、図4(b)において、実線は、単位長さ当りの裸電線の並列アドミタンスのコンダクタンス成分Gを示しており、破線は、単位長さ当りの裸電線の並列アドミタンスのサセプタンス成分Bを示している。
絶縁電線の並列アドミタンスのコンダクタンス成分Gは、絶縁電線と大地との間に漏れ抵抗があるということではなく、大地の周波数依存効果等による見かけ上のコンダクタンスが現れたことによる。絶縁電線の並列アドミタンスは、対地静電容量によって概ね決定され、裸電線の並列アドミタンスは、対地コンダクタンスによって概ね決定される。裸電線の並列アドミタンスの周波数依存性は絶縁電線よりも小さく、広い周波数帯域に亘って裸電線の方が絶縁電線よりも大きな並列アドミタンスを有していることが分かる。
図5は、絶縁電線の特性インピーダンス(サージインピーダンス)及び伝搬関数の周波数特性の一例を示す図であり、図6は、裸電線の特性インピーダンス及び伝搬関数の周波数特性の一例を示す図である。図5及び図6において、横軸は、周波数(Hz)を表している。また、図5(a)及び図6(a)において、縦軸は、特性インピーダンスの絶対値(Ω)及び偏角(度)を表しており、図5(b)及び図6(b)において、縦軸は、伝搬関数の絶対値及び偏角(度)を表している。
一般に、単位長さ当りの伝送路の直列インピーダンスの抵抗成分R及びリアクタンス成分X、及び、並列アドミタンスのコンダクタンス成分G及びサセプタンス成分Bを用いると、伝送路の特性インピーダンスZ0は、次式で表される。
Z0={(R+jX)/(G+jB)}1/2
ここで、jは、虚数単位である。
また、伝搬関数exp(−γλ)において、伝搬定数γは、次式で表される。
γ={(R+jX)・(G+jB)}1/2
ここで、伝搬関数exp(−γλ)の絶対値は、伝送路における電圧及び電流の伝達率を表している。図5(b)及び図6(b)においては、一例として、電線の長さλを10mとしたが、電線の特性は、定性的には長さλの影響を受けない。
図5(a)において、実線は、絶縁電線の特性インピーダンスの絶対値|Z0|を示しており、破線は、絶縁電線の特性インピーダンスの偏角arg(Z0)を示している。絶縁電線の場合には、10Hz以下の低周波において特性インピーダンスの絶対値が大きく上昇するが、高周波においては10MHzまで特性インピーダンスの絶対値が略一定(100Ω以下)である。従って、10Hz以下を除くと、特性インピーダンスの周波数依存性は比較的小さく、100Ω弱程度の大きさである。
図6(a)において、実線は、裸電線の特性インピーダンスの絶対値|Z0|を示しており、破線は、裸電線の特性インピーダンスの偏角arg(Z0)を示している。裸電線の場合には、10kHz以上の高周波において特性インピーダンスの絶対値が上昇するが、50Hz以下の低周波においては特性インピーダンスの絶対値が1Ω以下である。従って、特性インピーダンスの周波数依存性は比較的大きい。しかしながら、1MHzにおいても大きさとしては40Ω程度であり、絶縁電線よりは小さな値である。
このように、直流から1MHz程度の周波数領域においては、絶縁電線と比較して、裸電線の特性インピーダンス(サージインピーダンス)は低くなる特性がある。
図5(b)において、実線は、絶縁電線の伝搬関数の絶対値|exp(−γλ)|を示しており、破線は、絶縁電線の伝搬関数の偏角arg(exp(−γλ))を示している。絶縁電線の場合には、100kHz以上の高周波において伝搬関数の絶対値が急激に低下して、10MHzにおいて約0.1となる。伝搬関数の偏角も、100kHz以上の周波数において急激に(遅れ方向に)回転する。また、伝搬定数γの虚数部から求められる伝搬速度は、真空中の光速度と略同じレベルのオーダーである。
図6(b)において、実線は、裸電線の伝搬関数の絶対値|exp(−γλ)|を示しており、破線は、裸電線の伝搬関数の偏角arg(exp(−γλ))を示している。裸電線の場合には、1kHz以上の高周波において伝搬関数の絶対値が徐々に低下して、10MHzにおいて約0.01となる。伝搬関数の偏角も1kHz程度以上から徐々に(遅れ方向に)回転する。また、伝搬速度は相当に遅く、真空中の光速度と比較して1桁以上遅い。
このように、絶縁電線の場合には、100kHz以上の周波数において減衰と遅延が無視できず、裸電線の場合には、1kHz以上の周波数において減衰と遅延が無視できない。これらの中間の周波数領域(丁度、雷サージの周波数帯域と一致する周波数領域)である1kHz〜1MHzにおいては、絶縁電線の方が裸電線よりも伝達率が良く遅延も少ない。一方で、10MHzにおいては、両者共に減衰と遅延が無視できない領域となり、両者の伝達率は略同等である。
以上説明した絶縁電線及び裸電線の特性から、絶縁電線及び裸電線における雷撃時の電位分布が導かれる。それらは、実験的にも確認されているものである。
図7は、絶縁電線における雷撃時の電位分布を模式的に示す図である。絶縁電線は、裸電線と比較して、高周波において、高い特性インピーダンス(サージインピーダンス)と、高い伝達率と、速い伝搬速度とを有する。従って、絶縁電線51に電気的に接続された接続点P1に雷撃が加えられた場合に、絶縁電線51が等電位化されて電位差は小さい(連接接地に相当)が、全体の電位上昇が大きくなる(高抵抗接地に相当)。その結果、変電所の敷地外に被害を及ぼすおそれがある。
図8は、裸電線における雷撃時の電位分布を模式的に示す図である。裸電線は、絶縁電線と比較して、高周波において、低い特性インピーダンス(サージインピーダンス)と、低い伝達率と、遅い伝搬速度とを有する。従って、裸電線52に電気的に接続された接続点P2に雷撃が加えられた場合に、電位上昇は抑制される(低抵抗接地に相当)が、裸電線52における電位差が大きくなる(独立接地に相当)。その結果、この電位差によって変電所内の電気機器等の被害が発生するおそれがある。
例えば、地中に埋設される接地構造において裸電線52のみが用いられる場合に、図1に示す受電設備に雷サージが侵入して受電用避雷器R1が動作すると、受電用避雷器R1の近傍において局所的に裸電線52の電位が上昇する。従って、受電用避雷器R1によって保護される範囲が受電用避雷器R1の近傍に限られ、受電用遮断器32に対しては受電用避雷器R1の効果が十分に発揮されない。
一方で、接地構造において絶縁電線51のみが用いられる場合に、図1に示す受電設備に雷サージが侵入して受電用避雷器R1が動作すると、変電所内の接地構造全体が等電位化されるため、受電用避雷器R1によって保護される範囲は広範囲となる。しかしながら、接地構造全体の電位上昇は裸電線52を用いた場合よりも大きく、変電所敷地外の人や電気設備に害を与えるおそれがある。
また、架空地線GWに雷撃を受けた場合には、接地構造全体が等電位化されていること、及び、特性インピーダンス(サージインピーダンス)が高いことが災いとなり、避雷器が逆向きに動作(接地端子側から主回路端子側に導通)し、電力会社等の受電用送電線側や電車線側に雷サージを伝搬させてしまう現象(逆流雷として一般的に知られる現象)を引き起こし易くなる。
これらに対し、理想とする電位分布は、接地構造全体に亘って低い電位で等電位化されたものである。そこで、絶縁電線51と裸電線52とを並列的に接続することにより、両者の長所を有する理想に近い電位分布が得られる。
本実施形態においては、図1に示すように、建屋2の屋外の地中において格子状に配設された複数の絶縁電線51と複数の裸電線52とが並列的に接続されている。高周波において、絶縁電線51のサージインピーダンスは高いが、伝達率は高く伝搬速度も速い。一方、裸電線52の伝達率は低く伝搬速度も遅いが、サージインピーダンスは低い。従って、絶縁電線51と裸電線52とを並列的に接続することにより、雷撃等による高周波成分を含むサージが侵入した際に、変電所構内の電位差を小さくする(等電位化する)と共に、構内全体の電位上昇を抑制することができる。それにより、変電所の耐雷性が向上すると共に、変電所の敷地外に及ぼす被害を低減することができる。
さらに、図1に示すように、複数の絶縁電線51又は複数の裸電線52が、少なくとも1つの電気設備が設置された建屋2の屋外の地中において建屋2の周囲を一周する部分を含むようにすることが望ましい。それにより、建屋2の内部と周囲とをより強固に等電位化することができると共に、建屋2の構造物と上記の接地構造とで電磁遮蔽(又は、静電遮蔽)を構成できるため、建屋2内の電気設備(特に、弱電機器である配電盤22、伝送装置23等)の耐雷性をさらに向上することができる。
<第1の具体例>
図9は、本発明の一実施形態に係る接地構造の第1の具体例を示す斜視図である。第1の具体例においては、複数の絶縁電線51が、地中において第1の深さ範囲内の第1層に格子状に配設されている。また、複数の裸電線52が、地中において第1の深さ範囲よりも深い第2の深さ範囲内の第2層に格子状に配設されている。それぞれの埋設深さは、地質、他の構造物、又は、周囲の電気設備等の現地の状況に応じて個々に検討する必要があるが、例えば、第1の深さ範囲は、地表から測定して750mm〜2000mm程度の範囲であり、第2の深さ範囲は、地表から測定して1000mm〜3000mm程度の範囲である。ただし、地表からの深さの下限値750mmは、技術基準(電気設備に関する技術基準)により規定されている。
本願において、格子とは、周期的に並んだ区切りによって表される図形を意味し、単位格子も含む概念である。また、格子点とは、異なる2方向の区切りが交わる点をいう。図9には、単位格子の形状が長方形である場合が示されているが、単位格子の形状は、これに限らず、正方形、三角形、又は、他の多角形でも良いし、曲線に沿って規定されても良いし、円状や楕円状であっても良い。変電所内の構造物や埋設管又は用地の形状等の都合により、単位格子の一部に欠損部(例えば、四角形の格子の一辺を接続しない場合)があっても良い。また、複数の絶縁電線51によって形成される格子の形状と、複数の裸電線52によって形成される格子の形状とは、同じでも良いし、異なっていても良い。
複数の絶縁電線51は、各格子点において電気的に接続されている。複数の裸電線52は、複数の絶縁電線51の複数の格子点に電気的に接続される。絶縁電線51と裸電線52との電気的接続は、必ずしも全ての格子点で行わなくても良い。図9においては、複数の裸電線52が、複数の絶縁電線51の全ての格子点に電気的に接続されている。また、接続ノードの一例として、絶縁電線51の接続ノードN11及びN12と、裸電線52の接続ノードN21及びN22とが示されている。
例えば、裸電線52の接続ノードN21は、裸電線又は絶縁電線等で構成される中継配線50によって、絶縁電線51の接続ノードN11に接続されている。また、裸電線52の接続ノードN22も、中継配線50によって、絶縁電線51の接続ノードN12に接続されている。電線又は配線の接続は、例えば、圧縮金物を用いた圧縮加工等によって行われる。
<第2の具体例>
図10は、本発明の一実施形態に係る接地構造の第2の具体例を示す斜視図である。第2の具体例においては、複数の裸電線52が、地中において第1の深さ範囲内の第1層に配設されている。また、複数の絶縁電線51が、地中において第1の深さ範囲よりも深い第2の深さ範囲内の第2層に配設されている。その他の点に関しては、第2の具体例は、第1の具体例と同様である。
第2の具体例においても、複数の絶縁電線51は、各格子点において電気的に接続されている。複数の裸電線52は、複数の絶縁電線51の複数の格子点に電気的に接続される。絶縁電線51と裸電線52との電気的接続は、必ずしも全ての格子点で行わなくても良い。図10においては、複数の裸電線52が、複数の絶縁電線51の全ての格子点に電気的に接続されている。
接地構造の第1又は第2の具体例によれば、複数の絶縁電線51と複数の裸電線52とが深さ方向に分離されて別々の層に配設されるので、複数の絶縁電線51によって形成される格子の形状と複数の裸電線52によって形成される格子の形状とを略同一にすることができる。さらに、3層以上に電線を配設して多層化することにより、複数の電気設備の接地端子間のインピーダンスを低減することが可能である。
<第3の具体例>
接地構造の第3の具体例においては、複数の絶縁電線51及び複数の裸電線52が、建屋2の屋外の地中において略同一の深さに配設されている(図1参照)。その他の点に関しては、第3の具体例は、第1の具体例と同様である。接地構造の第3の具体例によれば、図9又は図10に示されているような中継配線50を省略あるいは短縮して、絶縁電線51と裸電線52とを直接あるいは短距離で電気的に接続することができる。
<第4の具体例>
図11は、本発明の一実施形態に係る接地構造の第4の具体例を示す斜視図である。第4の具体例においては、複数の絶縁電線53が、建屋2の屋外の地中において第1の深さ範囲内の第1層に配設されている。また、複数の裸電線54が、建屋2の屋外の地中において第1の深さ範囲よりも深い第2の深さ範囲内の第2層に配設されている。
さらに、複数の絶縁電線51が、建屋2の屋外の地中において第2の深さ範囲よりも深い第3の深さ範囲内の第3層に配設されている。また、複数の裸電線52が、建屋2の屋外の地中において第3の深さ範囲よりも深い第4の深さ範囲内の第4層に配設されている。図11においては、深さ方向において第2層と第3層との間の距離(層間距離)が比較的大きく示されているが、第1層〜第4層の内の隣り合う2層の層間距離は、例えば、200mm程度に設定されても良い。
複数の絶縁電線53は、各格子点において電気的に接続されている。複数の裸電線54、複数の絶縁電線51、及び、複数の裸電線52は、複数の絶縁電線53の複数の格子点に電気的に接続される。図11においては、複数の裸電線54、複数の絶縁電線51、及び、複数の裸電線52が、複数の絶縁電線53の全ての格子点に電気的に接続されている。また、接続ノードの一例として、絶縁電線53の接続ノードN33と、裸電線54の接続ノードN43と、絶縁電線51の接続ノードN13と、裸電線52の接続ノードN23とが示されている。
例えば、接続ノードN23は、中継配線55によって、接続ノードN13に接続されている。また、接続ノードN13は、中継配線56によって、接続ノードN43に接続されている。さらに、接続ノードN43は、中継配線57によって、接続ノードN33に接続されている。中継配線55〜57は、裸電線又は絶縁電線等で構成される。第1の具体例と同様に、それらの接続ノードは必ずしも全ての格子点に設けなくても良い。特に、図11に示すように、第2層と第3層とが離れている場合には、第2層と第3層との接続箇所が、建屋、埋設構造物、又は、埋設管等の制約から限定されるので、例えば、接地極60が接続された格子点のみに接続ノードを設けても良い。その他の点に関しては、第4の具体例は、第1の具体例と同様である。
第4の具体例は、例えば、地下変電所等のように接地構造そのものが必然的に多層化される場合や、あるいは、大地が多層構造であって浅い地層よりも深い地層の導電率が良好である場合(例えば、表層部が礫層で、その下に粘土層がある場合)等への適用を想定したものである。後者の場合には、第1層及び第2層は、等電位化と高周波におけるサージインピーダンスの低減を目的として、地表面近くに配設される。また、第3層及び第4層は、低周波における接地抵抗の低減を目的として、上記の深い地層中に配設される。この場合には、第3層(絶縁電線51)の効果が小さいので、第3層を省略しても良い。
<第2の実施形態>
図12は、本発明の第2の実施形態に係る接地構造が用いられる電気設備の構成例を示す平面図である。第2の実施形態においては、複数の絶縁電線で構成される格子構造及び複数の裸電線で構成される格子構造の各々が複数の部分に分割され、それらの間が裸電線で電気的に接続される。その他の点に関しては、第2の実施形態は、第1の実施形態と同様である。
このように格子構造を複数の領域(図12においては、第1の領域1a及び第2の領域1bを示す)に分割すると、雷サージ等の高周波領域では、各領域内の絶縁電線及び裸電線で構成される格子構造においては等電位化がなされるが、他の領域の格子構造との間では等電位化されない接地構造となる。このため、例えば、受電設備側から侵入した雷サージが電車線側まで伝搬することを抑制できる。
格子構造の分割は、例えば、主回路の絶縁箇所となる変圧器の一次側と二次側との間で行う方法がある。図12に示す例においては、整流器用変圧器41及び制御用変圧器44の一次側の電気設備(受電設備)が設置される第2の領域1bと、二次側の電気設備(直流主回路及び低圧の制御電源)が設置される第1の領域1aとに、格子構造が分割されている。
この例のように、直流電気鉄道用の変電所においては、配電盤22や伝送装置23等の弱電機器と直流遮断器21とが同一の建屋2内に設置される場合が多く、直流主回路と低圧の制御電源との間で格子構造の分割を行うことが難しいが、両者の離隔が十分可能である場合には、これらの間でも格子構造を分割して、変電所全体を3つの領域に分割しても良い。
図12に示すように、変電所の敷地1内の第1の領域1aには、少なくとも1つの電気設備が設置されている。この例においては、第1の領域1aに、直流主回路と低圧の制御電源の側に属する電気設備の接地端子Gが電気的に接続される。電気設備が設置される建屋2も、第1の領域1aに設けられている。建屋2の配電盤室内には、直流遮断器21、配電盤22、伝送装置23、及び、低圧電源装置24等が設置されている。建屋2の基礎部分にはピット(溝)2aが形成されており、ピット2aにおいては、接地線が防護管内に施設されると共に、接地線を分岐させるために接地端子箱25が設置されている。さらに、第1の領域1aには、整流器42と、直流断路器43と、直流用避雷器T1〜T4とが設置されている。
変電所の敷地1内の第2の領域1bにも、少なくとも1つの電気設備が設置されている。この例においては、第2の領域1bに、受電設備側に属する電気設備の接地端子Gが電気的に接続される。第2の領域1bには、受電用断路器31、受電用遮断器32、計量器用変成器(VCT)33、支持具34、及び、受電用避雷器R1〜R3を有する受電設備と、整流器用変圧器41と、制御用変圧器44とが設置されている。
第1の実施形態と同様に、第2の実施形態においても、複数の電気設備の接地端子に対する接地構造が設けられている。同様に、架空地線GWが必要に応じて施設され、接地構造に電気的に接続される。
領域を分割する基準となる変圧器(整流器用変圧器41及び制御用変圧器44)自身の接地端子Gを、第1の領域1a及び第2の領域1bの内のいずれの接地構造に接続するかについては、個々の設備に応じて熟慮が必要である。一般論としては、変圧器の低圧側(通常は二次側)に設置される保安器の制限電圧よりも、高圧側(通常は一次側)に設置される保安器の制限電圧の方が高いことから、より高い過電圧が高圧側のブッシングに印加されることになる。即ち、変圧器は、高圧側からの雷サージによって破壊される可能性が高い。従って、変圧器自身の接地端子は、高圧側の避雷器と等電位化することが望ましい。本実施形態においては、変圧器自身の接地端子を、最も主回路電圧が高い受電設備側の第2の領域1bに接続する構成としている。
架空地線GWは、これと近接した金属物(電気設備等)と等電位化することが望ましい。架空地線GWが周囲と等電位化されていないと仮定すると、架空地線GWへの雷撃時には、架空地線GWの電位のみが局所的に上昇する形となり、近接した金属物や人との間に大きな電位差が生じる。この電位差により、架空地線GWに近接した金属物(図12に示す例においては、例えば、受電用断路器31等)や人との間で放電が起こる、いわゆる側撃雷と呼ばれる現象が懸念される。そのため、図12に示す例においては、架空地線GWの保護対象である受電設備が配置されている第2の領域1bにおける接地構造に架空地線GWを接続することが望ましい。
図12に示す例において、接地構造は、第1群の絶縁電線51a及び第1群の裸電線52aと、第2群の絶縁電線51b及び第2群の裸電線52bと、裸電線52cと、絶縁電線59と、複数の接地極60と、複数の配線61〜63とを備えている。絶縁電線51a及び51bの構造及び特性は、図1等に示す絶縁電線51の構造と同様であり、裸電線52a及び52bの構造は、図1等に示す裸電線52の構造及び特性と同様である。
変電所の敷地1内の第1の領域1aにおいて、配線61は、第1の領域1aに設置された直流遮断器21及び配電盤22等の電気設備の接地端子Gを、第1群の絶縁電線51aに電気的に接続している。配線62は、第1の領域1aに設置された直流用避雷器T1〜T4の接地端子Gを、第1群の裸電線52aに電気的に接続している。配線63は、第1の領域1aに架空地線GWが設置される場合に、架空地線GWを、第1群の裸電線52aに電気的に接続する。それらの接続部は、圧縮加工等により施工される。
また、変電所の敷地1内の第2の領域1bにおいて、配線61は、第2の領域1bに設置された受電用断路器31、受電用遮断器32等の電気設備の接地端子Gを、第2群の絶縁電線51bに電気的に接続している。配線62は、第2の領域1bに設置された受電用避雷器R1〜R3の接地端子Gを、第2群の裸電線52bに電気的に接続している。配線63は、第2の領域1bに設置された架空地線GWを、第2群の裸電線52bに電気的に接続している。それらの接続部は、圧縮加工等により施工される。
第1の領域1aの地中においては、第1群の絶縁電線51aが格子状に配設されていると共に、第1群の裸電線52aが格子状に配設されている。第1群の絶縁電線51aは、各格子点において電気的に接続されている。第1群の裸電線52aは、第1群の絶縁電線51aの複数の格子点に電気的に接続される。図12に示す例においては、第1群の裸電線52aが、第1群の絶縁電線51aの全ての格子点に電気的に接続されている。
また、第1の領域1aから離れた第2の領域1bの地中においては、第2群の絶縁電線51bが格子状に配設されていると共に、第2群の裸電線52bが格子状に配設されている。第2群の絶縁電線51bは、各格子点において電気的に接続されている。第2群の裸電線52bは、第2群の絶縁電線51bの複数の格子点に電気的に接続される。図12に示す例においては、第2群の裸電線52bが、第2群の絶縁電線51bの全ての格子点に電気的に接続されている。
高周波において、絶縁電線51a及び51bのサージインピーダンスは高いが、伝達率は高く伝搬速度も速い。一方、裸電線52a及び52bの伝達率は低く伝搬速度も遅いが、サージインピーダンスは低い。従って、第1の領域1aにおいて絶縁電線51aと裸電線52aとを並列的に接続すると共に、第2の領域1bにおいて絶縁電線51bと裸電線52bとを並列的に接続することにより、雷撃等による高周波成分を含むサージが侵入した際に、領域内の電位差を小さくする(等電位化する)と共に、領域内全体の電位上昇を抑制することができる。それにより、領域内の電気設備の耐雷性が向上すると共に、領域外へのサージの伝搬を低減することができる。
さらに、建屋2の屋外の地中において、第1群の絶縁電線51a及び第1群の裸電線52aと第2群の絶縁電線51b及び第2群の裸電線52bとを電気的に接続する裸電線52cが配設されている。低周波において、裸電線52cの伝達率は高く、サージインピーダンスは低い。一方、高周波において、裸電線52cの伝達率は低く伝搬速度も遅いが、サージインピーダンスは低い。
従って、低周波において、第1の領域1aの接地構造と第2の領域1bの接地構造との間のインピーダンスを低く保ちながら、高周波において、第1の領域1aの接地構造と第2の領域1bの接地構造との間でサージの伝搬を抑制することができる。例えば、雷撃等による高周波成分を含むサージが受電設備に加えられた場合に、過電圧が電車線に伝搬することが抑制される。あるいは、雷撃等による高周波成分を含むサージが電車線に加えられた場合に、過電圧が受電設備に伝搬することが抑制される。
一方で、直流や商用周波数等の低周波領域においては、接地構造全体が等電位化されるため、地絡故障時等のように変電所全体における接地線の連接が必須となる状況においては、従前の接地構造と同等の機能を確保することができる。
以上の実施形態においては、本発明を直流電気鉄道用の変電所の接地構造に適用する場合について説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではなく、開閉所(き電区分所等)、交流電気鉄道用の変電所、あるいは、変電所や駅等の施設の配電設備(配電所)等においても、接地及び雷対策についての基本的な考え方は同様である。このように、当該技術分野において通常の知識を有する者によって、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。