以下、添付図面に従って本発明に係るダイシング装置及びダイシング方法の好ましい実施の形態について説明する。
図1は、ダイシング装置の外観を示す斜視図である。図1に示すように、ダイシング装置10は、複数のワークWが収納されたカセットを外部装置との間で受渡すロードポート12と、吸着部14を有しワークWを装置各部に搬送する搬送手段16と、ワークWの表面を撮像する撮像手段18と、加工部20と、加工後のワークWを洗浄し、乾燥させるスピンナ22、及び装置各部の動作を制御するコントローラ24等とから構成されている。
加工部20には、2本対向して配置され、先端にブレード26が取り付けられた高周波モータ内臓型のエアーベアリング式スピンドル28が設けられており、所定の回転速度で高速回転するとともに、互いに独立して図のY方向のインデックス送りとZ方向の切り込み送りとがなされる。また、ワークWを吸着載置するワークテーブル30がZ方向の軸心を中心に回転可能に構成されているとともに、Xテーブル32の移動によって図のX方向に研削送りされるように構成されている。
ワークテーブル30は、負圧を利用してワークWを真空吸着するポーラスチャック(多孔質体)を備えて構成される。ワークテーブル30に載置されたワークWは、ポーラスチャック(不図示)に真空吸着された状態で保持固定される。これにより、平板状試料であるワークWは、ポーラスチャックにより平面矯正された状態で全面一様に吸着される。このため、ダイシング加工時にワークWに対してせん断応力が作用しても、ワークWに位置ずれが生じることがない。
こうした、ワーク全体を真空吸着するワーク保持方式は、ブレードがワークに対して絶えず一定の切込み深さを与えることにつながる。
例えば、ワークが平板状に矯正されないような試料である場合などでは、ワーク表面の基準面を定義することが難しく、そのため、その基準面からどの程度のブレードの切込み深さを設定するかが難しくなる。ワークに対する一定のブレードの切込み深さが設定できない場合、一つの切れ刃が絶えず安定した切込みを与える臨界切込み深さも設定できなくなり、安定した延性モードダイシングは難しい。
ワークが平板状に矯正されておればワーク表面の基準面を定義でき、基準面からのブレード切込み深さを設定することができるため、一つの切れ刃あたりの臨界切込み深さが設定でき、安定した延性モードダイシングが可能となる。
なお、真空吸着ではなくても、硬質基板上に全面接着する形であっても構わない。全面強固に接着された面を基準として、薄い基板であっても表面を規定することができれば、安定した延性モードダイシングは可能となる。
図2は、ダイシングブレードの正面図である。図3は、図2のA−A断面を示す側断面図である。
図2及び図3に示すように、本実施形態のダイシングブレード(以下、単に「ブレード」という。)26はリング型のブレードであり、その中央部にはダイシング装置10のスピンドル28に装着するための装着孔38が穿設されている。
なお、ブレード26は、焼結ダイヤモンドで構成され、円盤状かリング状であって、同心円状の構成であれば、温度分布は軸対称となる。同一素材で軸対称の温度分布であれば、半径方向においてポアソン比に伴うせん断応力は作用することはない。そのため、外周端部は理想的な円形を保ち、また、外周端は同一面上を維持することになるため、回転によってワークに一直線上に作用する。
ブレード26は、ダイヤモンド砥粒を焼結して形成されたダイヤモンド焼結体(PCD)によって円盤状に一体的に構成される。このダイヤモンド焼結体はダイヤモンド砥粒の含有量(ダイヤモンド含有量)が80%以上であり、各ダイヤモンド砥粒は焼結助剤(例えばコバルト等)により互いに結合されている。
ブレード26の外周部は、ワークWに対して切込みされる部分であり、その内側部分よりも薄刃状に形成された切刃部40が設けられている。この切刃部40には、ダイヤモンド焼結体の表面に形成された微小な凹みからなる切れ刃(微小切刃)がブレード外周端部(外周縁部)26aの周方向に沿って微小ピッチ(例えば10μm)で連続的に形成されている。
本実施形態において、切刃部40の厚さ(刃厚)は少なくともワークWの厚さより薄く構成される。例えば100μmのワークWに対して切断加工を行う場合には、切刃部40の厚さは50μm以下が好ましく、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは10μm以下に構成される。
切刃部40の断面形状としては、外側(先端側)に向って厚みが徐々に薄くなるテーパ状に形成されていてもよいし、均一な厚みを有するストレート状に形成されていてもよい。
図4Aから4Cは、切刃部40の構成例を示した拡大断面図である。なお、図4Aから4Cは、図3のB部を拡大した部分に相当する。
図4Aに示した切刃部40Aは、片側の側面部のみがテーパ状に斜めに加工された片側テーパタイプ(片Vタイプ)のものである。この切刃部40Aは、例えば、最も薄く形成される外周端部の厚みT1が10μm、片側の側面部がテーパ状に加工された部分のテーパ角θ1は20度となっている。なお、ブレード26の内側部分(後述する環状部36を除く)の厚みは1mmである(図4B及び4Cにおいても同様である。)。
図4Bに示した切刃部40Bは、両側の側面部がテーパ状に斜めに加工された両側テーパタイプ(両Vタイプ)のものである。この切刃部40Bは、例えば、最も薄く形成される外周端部の厚みT2が10μmであり、両側の側面部がテーパ状に加工された部分のテーパ角θ2は15度となっている。
図4Cに示した切刃部40Cは、両側の側面部がストレート状に平行に加工されたストレートタイプ(平行タイプ)のものである。この切刃部40Cは、例えば、最も薄くストレート状に加工された先端部の厚みT3が50μmとなっている。なお、ストレート状の先端部の内側部分(中央側部分)は片側の側面部がテーパ状に加工されており、そのテーパ角θ3は20度となっている。
図5は、ダイヤモンド焼結体の表面付近の様子を模式的に示した概略図である。図5に示すように、焼結助剤86によりダイヤモンド焼結体80は高密度にダイヤモンド砥粒(ダイヤモンド粒子)82同士が相互に結合した状態となっている。このダイヤモンド焼結体80の表面には微小な凹み(凹部)からなる切れ刃(微小切刃)84が形成される。この凹み84は、ダイヤモンド焼結体80を機械的に加工することによってコバルトなどの焼結助剤86が選択的に摩耗することによって形成されるものである。ダイヤモンド焼結体80は砥粒密度が高いため、焼結助剤86が摩耗したところに形成される凹みは微小なポケット状になり、電鋳ブレードのように鋭利なダイヤモンド砥粒の突き出しはない(図21参照)。このため、ダイヤモンド焼結体80の表面に形成される凹みは、ワークWを切断加工する際に生じる切り屑を搬送するポケットとして機能するとともに、ワークWに対して切り込みを与える切れ刃84として機能する。これにより、切り屑の排出性が向上するとともに、ワークWに対するブレード26の切り込み深さを高精度に制御することが可能となる。
ここで、本実施形態のブレード26について更に詳しく説明する。
本実施形態のブレード26は、図5に示したように、焼結助剤86を用いてダイヤモンド砥粒82を焼結して形成されたダイヤモンド焼結体80により一体的に構成される。このため、ダイヤモンド焼結体80の隙間にはごくわずかに焼結助剤86が存在するが、焼結助剤はダイヤモンド砥粒自体の中にも拡散しており、実際はダイヤモンド同士が強固に結合する形態となる。この焼結助剤86はコバルトやニッケル等が使用され、ダイヤモンドと比較すると硬度的に低い。そのため、ダイヤモンド同士が結合するとはいえ、焼結助剤がリッチな部分は単結晶ダイヤモンドと比較すると少し強度的に弱くなる。こうした部分がワークWを加工する際に摩耗して目減りし、ダイヤモンド焼結体80の表面(基準平面)に対して適度な凹みとなる。また、ダイヤモンド焼結体80を摩耗処理加工することで、ダイヤモンド焼結体80の表面には焼結助剤が除去された凹みが形成される。また、GC(グリーンカーボランダム)の目立て用砥石で目立てを行うか、場合によっては硬い脆性材料である超硬合金を切断することで、焼結助剤のほかに一部のダイヤモンドが欠落して、ダイヤモンド焼結体の外周部に適度な粗さが形成される。この外周部の粗さを、ダイヤモンド粒径よりも大きくすることで、一つの切れ刃内で微小なダイヤモンド砥粒の欠落が起こり、切れ刃の摩滅が起こりにくくなる。
ダイヤモンド焼結体80の表面に形成された凹みは延性モードでの加工にとって有利に作用する。すなわち、この凹みは、前述したように、ワークWを切断加工する際に生じる切り屑を排出するためのポケットとして機能するとともに、ワークWに対して切り込みを与える切れ刃84として機能する。このため、ワークWへの切り込み量は自ずと所定範囲に制限され、致命的な切り込みを与えることはない。
また、本実施形態のブレード26によれば、ダイヤモンド焼結体80で一体的に構成されるので、ダイヤモンド焼結体80の表面に形成される凹みの数やピッチ、その幅についても恣意的に調整することが可能となる。
すなわち、本実施形態のブレード26を構成するダイヤモンド焼結体80は焼結助剤86を用いてダイヤモンド砥粒82が相互に結合されたものである。このため、相互に結合しているダイヤモンド砥粒82の間には焼結助剤86があり粒界が存在する。この粒界部分が凹みに相当するため、ダイヤモンド砥粒82の粒径(平均粒子径)を設定することで、自ずと凹みのピッチ、個数が定まることになる。また、軟質金属を使用した焼結助剤86を使用することで選択的な凹み加工ができるようになり、焼結助剤86を選択的に摩耗させることも可能となる。また、その粗さについても、ブレード26を回転させながら、摩耗処理やドレッシング処理を設定することにより、その粗さを調整することが可能となる。すなわち、ダイヤモンド砥粒82の粒径の選択に伴って形成される粒界のピッチによって、ダイヤモンド焼結体80の表面に形成される凹みからなる切れ刃84のピッチや幅、深さ、個数を調整することが可能となる。こうした切れ刃84のピッチや幅、深さ、個数は延性モードの加工を行う上で重要な役割を果たす。
このように本実施形態によれば、ダイヤモンド砥粒82の粒径の選択と摩耗処理、ドレッシング処理という制御性の良いパラメータを適宜調整することによって、精度よく結晶の粒界に沿って所望の切れ刃84の間隔を達成できる。また、ブレード26の外周部には、ダイヤモンド焼結体80の表面に形成された凹みからなる切れ刃84が周方向に沿って一直線状に並べることが可能となる。
ここで、比較として、ダイヤモンド砥粒を焼結したホイールに関し、類似するものとしてスクライビングに使用されるホイールがあるが、スクライビングホイールとの混同を避けるため、あえて違いに触れておく。
スクライビングに使用されるホイールは、例えば、特開2012-030992号公報などに示される。上記文献には、焼結ダイヤモンドで形成され、円環状の刃が外周部に刃先を有したホイールが開示されている。スクライビングと本発明のダイシングは、両者とも材料を分断する技術で同じ部類にあると捉えられがちだが、その加工原理や、その加工原理に伴って具体構成は全く異なる。
まず、上記文献と本発明との決定的な違いとして、上記文献のスクライビングとは、上記文献段落[0020]に記載されるように、脆性材料で形成された基板の表面にスクライビングライン(縦割れ)を入れる装置であり、スクライビングにより垂直方向に伸びる垂直クラックが発生する(上記文献段落[0022]参照)。このクラックを利用して割断する。
それに対して、本発明は、クラックやチッピングを発生させずに材料をせん断的に除去する加工方法として原理が全く異なる。具体的には、ブレード自体が高速回転し、ワーク面に対してほとんど水平方向に作用してワークを除去していくため、ワークの垂直方向へは応力はかからない。また、その切込み深さは材料の変形域内にとどめ、クラックが発生しない切込み深さで加工するため、結果として加工後はクラックのない面が得られる。以上から、加工原理が全く異なる。
以上の加工原理の違いに照らして、ブレードの仕様における具体的な違いを以下に列挙する。
・(刃先頂角の点)
スクライビングは、材料内部にクラックを発生させるだけであるため、材料内にほとんど入り込まない。刃先の稜線のみを作用させるため、刃先角は鈍角(上記文献段落[0070]参照)であることが普通である。鋭角ましてや20度以下とすることは、捩りによる欠損などを考慮すると到底考えられない。
それに対して、ダイシングは材料内部に入り込んで入り込んだ部分を除去していくため、刃先はストレートか、せいぜい刃の頂角は、ブレード進行方向におけるダイシング抵抗による座屈を考慮した程度にV字である程度である。最大でも頂角は20度以下である。
また、20度以上の頂角とすると、切断後の断面が斜めになってしまって断面積が増大するほか、加工のメカニズム的にも、ブレード先端が切り進める要素よりも、ブレードの側面で研削する体積が増えることになる。その結果、加工の効率性が低下し、時として加工が進行しない。ダイシングの場合、ブレード外周に切れ刃を形成し、先端の切れ刃で効率よく切り進めていく一方で、ブレード側面はワークとの潤滑性を向上させて、研削する量を低下させながら鏡面化することが求められる。ブレードの側面で研削する量が多くなると、側面での研削量が必然的に多くなり、切断後の断面が鏡面化できなくなる。よって、ダイシングではストレート形状が最も望ましいが、最低でもブレードが座屈しない程度に極小さくV字であるのがよく、せいぜい20度以下である。
・(材料組成の点)
スクライビングは、ホイールがワークに当接させられた状態(食い込んだ状態)で進行方向が変化すると捩りの応力によって刃先が欠損することがある。そのため、同じダイヤモンドの焼結体であったとしてもダイヤモンドの重量%を65%〜75%としている。その結果、耐摩耗性、耐衝撃性だけでなく耐捩り強度特性を向上させている。ダイヤモンドの重量%を75%以上とすると、ホイールの硬度自体は上昇するが、耐捩り強度が低下する。よって比較的ダイヤモンド含有量は少なく設定される。
それに対して、ダイシングはブレードが高速回転して材料を一定量除去しながら直線的に進む。そのため、捩りの応力はかからない。その代わり、ダイヤモンド含有量が少ない場合、切り込んだ際に、みかけの硬度が低下してしまうため、ワークからの反力や、ブレードの切れ刃が切込む時間内にワークが弾性回復してしまい、所定の切込み深さを維持できない場合がある。そのため、ダイシングの場合、ブレードの硬度はワークの硬度と比べて、跳ね返りが起こらず所定の切込みのまま切り進めることができるよう、十分大きい。延性モードで材料の変形域内で、加工時の切れ刃作用時間内における弾性回復を許さず加工を進行させる上では、単結晶ダイヤモンド(ヌープ硬度で10000程度)と同等の表面硬度が必要となり、ヌープ硬度で約8000程度は必要となる。結果としてダイヤモンド含有量は80%以上は必要となる。ただし、ダイヤモンド含有量が98%以上になると、焼結助剤の割合が極端に減るためダイヤモンド同士の結合力が弱くなり、ブレードそのものの靭性が低下して脆くて欠けやすくなる。よって、ダイヤモンド含有量は80%以上が必要であり、実用的な点を加味すると、98%以下とする方が望ましい。
以上から、スクライビングホイールに使用されるPCDと本発明のダイシングブレードに使用するPCDは、材料としては同種であったとしても、その加工原理が全く異なるため、求められるPCDの組成、具体的にはダイヤモンド含有量は全く異なるものとなる。
・(ホイール構造と基準面の点)
さらにホイールの構造が異なる。スクライビングホイールはホルダを有しており、ホルダはスクライビングホイールを回転自在に保持する要素である。ホルダは、主としてピンと支持枠体を有するので、ピンの部分(軸の部分)は回転しない。ホイールの内径部が軸受になり、軸であるピンの部分と、相対的に擦れることによって回転し、材料表面に垂直方向のスクライビングライン(縦割れ)を形成する。
それに対して、本発明に係るブレードは、回転するスピンドルにブレードは同軸で取り付ける。スピンドルとブレードは一体的に高速回転させる。ブレードはスピンドル軸に対して垂直に取り付ける必要があり、回転による振れをなくする必要がある。
そのため、ブレードには基準平面が存在する。ブレードに存在する基準面は、スピンドルに予め垂直に取り付けたフランジの基準端面と当接させて固定する。これにより、ブレードのスピンドル回転軸に対する垂直度が確保される。この垂直度が確保されて初めて、ブレードが回転することによって外周部に形成される切れ刃がワークに対して一直線状に作用することになる。
また、スクライビングの場合の基準面は、円板ブレードの軸と平行な円筒面で、ブレードを垂直に押圧することを前提にして規定している。しかしながら、本発明に係るブレードにおけるブレードの基準面は、先に述べたように、スピンドルのフランジに対向するブレードの側部端面(円板面)である。ブレードの基準面を、ブレードの側面(円板面)とすることで、ブレードはブレード中心に対してバランスが取れた状態で精度よく回転する。従って、ブレード先端に形成された切れ刃は、ブレードが高速回転していても、ブレード中心を基準にして一定半径位置で定義される所定の高さ位置で精度よく切れ刃が作用し、所定高さのワークに対しても垂直な応力を与えることなく、ワーク面に対して水平に切れ刃が作用して除去していくだけである。そのため、ワークが脆性材料であっても、ワーク面に対して垂直応力によってクラックを及ぼすことは一切ない。
・(加工原理の点)
この垂直方向にクラックを与えて加工するか、それとも一切クラックを発生させることなく加工するかが、スクライビングと本発明に係るダイシングとの決定的に異なる原理の違いである。
・(外周刃の溝の役割)
また、スクライビングは表面だけにスクライバーの垂直応力によって押圧してスクライビングラインをつける。スクライビングの場合の外周刃の溝の役割は、ホイールの刃先の突起部が脆性材料基板に当接しつつ(食い込みつつ)、材料に垂直なクラックを発生させるためのものである(上記文献段落[0114]参照)。すなわち、溝以外の部分が、材料に食い込んで垂直クラックを及ぼす程度のスクライビングラインをつけることができるような溝である。よって、溝というよりも、溝と溝の間の山部分が材料にどのように食い込むかが重要になる。
それに対して、ダイシングの場合は、外周端部に設けられる凹部は、切れ刃の役割を果たす。凹部と凹部の間の部分は、外周の輪郭を形成し、その間に設けられる切れ刃がワーク表面に対してクラックを及ぼさない程度の臨界切込み深さとするように設定される。よって、ダイシングの場合は切れ刃を形成する必要がある。
また、スクライビングの場合の溝深さは、スクライビングラインをつけるための食い込み量を与える程度に溝深さを形成するが、ダイシングの場合は、ワーク内に入り込んで、一つ一つの切れ刃でワークを研削除去していかなければならない。そのため、ブレード先端は完全にワーク内に入り込みつつ、ブレードの振れは許されず、材料の奥深くまでワーク面に対して垂直に切れ刃を作用させなければならない。
本発明に係るブレードの場合は、外周端部に一定間隔の凹部の切れ刃を有する。その切れ刃間隔は後に示すとおり、一つの切れ刃が与える臨界切込み深さが、クラックを及ぼさない程度であればよい。そのためには、切れ刃間隔を適正に保つ必要がある。
また、スクライビングホイールは、スクライビングホールが脆性材料と当接したままスクライビングホイールの刃先の向きが90度変更させられ、これをキャスター効果と呼ぶ。
ダイシングブレードでは、刃は材料内に入り込んでいるため、刃先の向きを90度変更することはできない。例えば、ストレート形状や頂角が20度以下のダイシングブレードで当接させながら刃先を変更させれば刃は折れてしまう。
なお、軟質金属からなる焼結助剤86を用いて焼結されたダイヤモンド焼結体80の場合、その表面に凹みを形成する方法としては摩耗処理やドレッシング処理などが最も適しているが、これに限らない。例えば、コバルトやニッケルのような焼結助剤が用いられる場合、酸系のエッチングにより化学的に部分溶解することで、ダイヤモンド焼結体80の表面に凹みを形成することも可能である。
これに対して、従来の電鋳ブレードでは、ダイヤモンド砥粒自体が切れ刃の役割を果たすが、その切れ刃のピッチや幅などを調整するためには、初期にダイヤモンド砥粒を分散させる分散度合いに頼らざるを得ないため技術的に困難である。すなわち、ダイヤモンド砥粒の分散という曖昧さを多く含み、実質的には制御することができない。また、ダイヤモンド砥粒の分散が不十分で凝集している部分が存在したり、分散しすぎて疎らな部分があったりしても、これを恣意的に調整することは困難である。このように従来の電鋳ブレードでは、切れ刃の配列を制御することは不可能である。
また、従来の電鋳ブレードにおいて、ミクロンオーダのダイヤモンド砥粒を一つ一つ人為的に配列することは現状の技術にはなく、効率よく切れ刃を一直線状に整列させて配列することはほとんど不可能である。また、切れ刃の密な部分と疎な部分が混在し切れ刃の配列を実質的に制御できない従来の電鋳ブレードでは、ワークWに対する切り込み量を制御することは困難であり、原理的に延性モードの加工を行うことはできない。
本実施形態のブレード26において、ダイヤモンド焼結体に含有されるダイヤモンド砥粒の平均粒子径は25μm以下(より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下)であることが好ましい。
本発明者が行った実験結果によれば、ダイヤモンド砥粒の平均粒子径が50μmの場合、ウェーハ材料がSiCでは0.1mmの切り込み量でダイシングした場合にクラックが生じた。おそらくダイヤモンドが脱落したことが要因である。50μm以上のダイヤモンド平均粒子径で焼結した場合、ダイヤモンド粒子同士が密着する面積が小さくなり、局所的な面積で大きい粒子同士を結合させることになる。そのため、材料の組成的な点で耐衝撃性に非常に弱くなり欠けやすいという欠点を持つ。局所的な衝撃で50μm以上の単位でダイヤモンドが脱落してしまうと、その脱落をきっかけに非常に大きい切れ刃が形成される。その場合、孤立した切れ刃として所定の臨界切込み深さ以上の切込み深さを与えることになり、結果的にチッピングやクラックを発生させてしまうことが確率的に極めて高くなる。また、50μm程度のダイヤモンドが脱落すると、残された部分の切れ刃が大きくなることのみならず、その脱落したダイヤモンド砥粒そのものが、ワークとブレードの間に絡まって、さらにクラックを及ぼすこともある。25μm以下の微粒子であればそうしたクラックが定常的に起こる結果は得られていない。
図6は、ダイヤモンド砥粒の平均粒子径が50μmのブレードにより溝入れ加工を行った場合のワーク表面の様子を示し、クラックが発生している事例を示す。
また、ダイヤモンド砥粒の平均粒子径を50μm、25μm、10μm、5μm、1μm、0.5μm の各々としたブレードにより溝入れ加工を行った場合のクラック又はチッピングの発生率を評価した結果を表2に示す。評価結果は、A、B、C、Dの順にクラック又はチッピングの発生率が高くなることを示す。その他の条件については以下の通りである。
・ 標準評価条件:SiC基板(4H)(六方晶)
・ スピンドル回転数:20000rpm
・ 送り速度:1mm/s
・ 切込み深さ:100μm
・ 評価指針:10μm以上のチッピングがあるかないかで評価。(理想的には完全にチッピングがないこと。)
また、サファイアでは0.2μmの切込みでクラックが生じた。石英、シリコンでも同様な切り込みでクラックが発生した。
さらに、ダイヤモンド砥粒の平均粒子径が50μmの場合、ブレードの刃厚(ブレード外周端部の厚み)を50μm以下にすることも難しく、ブレード26を製作する際にブレード26の外周部で刃欠けが多い。また、100μm(0.1mm)の刃厚でブレードを製作しようとしても、大きな空隙がある部分もあり、さらに、少しの衝撃で割れてしまうこともあり、現実的にブレードを安定して製作することは困難であった。
一方、ダイヤモンド砥粒の平均粒子径が25μm、5μm、1μm、0.5μmの場合には、SiC、サファイア、石英、及びシリコンの各脆性材料でも、平均粒子径が50μmの場合と同様の切り込みを行ってもクラックは発生しなかった。すなわち、これらの脆性材料では、ダイヤモンド砥粒の平均粒子径が50μmではサブミクロンオーダの切り込みでクラックが発生し、それ以上の平均粒子径のダイヤモンド砥粒が用いられる場合には、必然的に切り込みが大きくなり、致命的なクラックを招くことになる。これに対し、平均粒子径が25μm以下(より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下)のダイヤモンド砥粒が用いられる場合には、切り込みを小さく抑えることができ、高精度な切り込み深さの制御が可能となる。
なお、本実験の一般的な加工条件としては、ブレード外径50.8mm、ウェーハサイズ2インチ、切り込み10μm溝入れ、スピンドル回転数20,000rpm、テーブル送り速度5mm/sであ
る。
このように構成されるブレード26の製造方法としては、タングステンカーバイドを主成分とする基台の上にダイヤモンド微粉末を置いて型に入れる。次いで、この型の中に焼結助剤としてコバルト等の溶媒金属(焼結助剤)を添加する。次いで、5GPa以上の高圧、且つ、1300℃以上の高温雰囲気下で焼成・焼結する。これにより、ダイヤモンド砥粒同士が直接相互に結合し、非常に強固なダイヤモンドのインゴットが形成される。このようにして、例えば、直径60mmサイズで焼結ダイヤモンド層(ダイヤモンド焼結体)が0.5mm、タングステンカーバイド層が3mmの円柱インゴットを得ることができる。タングステンカーバイド上に形成されたダイヤモンド焼結体としては、住友電工ハードメタル社製DA200等がある。ダイヤモンド焼結体だけを取り出し、ブレード基材を所定形状に外周摩耗処理ないしはドレッシング処理加工を施すことにより、本実施形態のブレード26を得ることができる。なお、円柱インゴットのダイヤモンド表面(切刃部40を除く)は、回転時を振れをなくすための基準面形成としてスカイフ研磨(scaif、研磨用円盤)を行うことにより、表面粗さ(算術平均粗さRa)0.1μm程度の鏡面に加工しておくことが好ましい。
ここで、上記製造方法における摩耗処理・ドレッシング処理は、次のような条件とすることができる。
摩耗処理としては、次の条件などがある。
・ ブレード回転数:10000rpm
・ 送り速度:5mm/s
・ ワーク加工対象:石英ガラス(ガラス材料)
・ 加工処理時間:30分間
・ 上記処理により、わずかに1〜2μm程度のコバルト焼結助剤が除去されて凹みが形成された。さらに、非常に薄いエッチング液(弱酸系)を薄く塗って純水供給なしにドライ環境で処理することでさらに凹みが深くなった。
ドレッシング処理(摩耗処理)として次の条件であってもよい。
・ ブレード回転数:10000rpm
・ 送り速度:5mm/s
・ ワーク加工対象:GC600ドレッシング砥石(70mm□)
(GC600とは、炭化ケイ素質研削材の粒度600番手(#600)を意味する。粒度は日本工業規格(JIS:Japan Industrial Standards)R6001に基づく)
・ 加工処理時間:15分間
・ この処理でもわずかにコバルト焼結助剤が除去されて凹みが形成された。
なお、ブレード外周部のうち、ブレード外周端部とブレード側面部は、粗さを変えた方が望ましい。具体的には、ブレード外周端部は切れ刃に相当し、摩耗処理によって結晶粒界に沿って切れ刃間隔を調整することになる。特にブレード外周端部は、ワーク材料に切り込みを入れつつ、ある程度は大きく加工除去していくことから、少し粗く加工する。
一方、ブレード側面部は、積極的に除去加工をするわけではなく、ワーク材料の溝側面部との接触時に溝側面部を削り出す程度に粗くなっていればよい。また、ブレード側面部に突起があると、溝側面部に割れを誘発してしまうので、突起部を形成することなく加工する一方で、溝側面部との接触面積を低下して、少しでも摩擦による熱の発生を軽減する必要がある。そのため、側面部は細かく粗す方が望ましい。
従来の電鋳ブレードなどでは、砥粒を鍍金にて固めて製作するため、面全体が同じような砥粒分布となり、その結果、ブレード外周端とブレード側面との砥粒のつき方の形態を大きく分けることができなかった。すなわち、ワークを切り進めるためのブレード外周端部と、ワークと擦れながら微小に削る程度とする側面部とで、明らかに粗さの状況を変化させることはできなかった。
本発明に係るブレードの場合は、ほとんどがダイヤモンドで構成され、その状態から成形加工することができる。例えば、本発明に係るブレードの場合、側面部を荒らすためには、ダイヤモンドラッピングなどを行っても構わない。微小なダイヤモンド(粒径1μm〜150μm)で表面を荒らすことにより、例えばRaが0.1μm〜20μm程度の粗さを形成することが可能となる。
一方、ブレード外周部は、ブレード側面部と異なり、ワークを加工しながら切り進めていく必要があるため、側面部と異なり切れ刃としての粗さをつけた方がよい。こうした粗さは、例えば、パルスレーザなどで外周部に形成することができる。
パルスレーザで切れ刃を形成する場合は、次に示す条件などが好適に使用される。
レーザ発振気器:米国IPG社製ファイバーレーザ:YLR−150−1500−QCW
送りテーブル:JK702
波長:1060nm
出力:250W
パルス幅:0.2msec
焦点位置0.1mm
ブレード回転数2.8rpm
ガス:高純度窒素ガス0.1L/min
穴径50μm
ブレード材料:住友電工製DA150(ダイヤモンド粒径5μm)
外径50.8mm
このようなパルス式ファイバレーザによって、図23に示すように、0.1mmピッチでブレード外周端上に直径0.05mmの一定間隔で連続した半円状のシャープな切れ刃を形成することができる。こうした切れ刃形成ではダイヤモンド粒径は5μmの大きさであるが、一つの切れ刃自体は50μm切れ刃とすることができる。またこれを等間隔に形成すれば、回転数を高速にすることによって、見かけの間隔が小さくなり、延性モードのダイシングを可能とする。(例:スピンドル回転数10000rpm以上の場合など)
ファイバーレーザでは一つの切れ刃の大きさは5μm程度の大きさから大きいものでは1mmまで、様々な孔径で切れ刃の大きさを形成することができるが、通常はレーザのビーム径から、5μmから200μm程度までをあけることが可能である。
電鋳法など、鍍金でダイヤモンドを固めた材料で切り欠きを形成するのではなく、焼結ダイヤモンドの材料で構成し、その円盤にした外周端に微小な切り欠きを連続して構成することで、一つ一つの切り欠きが切れ刃として作用する。
特開2005-129741号公報は、電鋳法で製造したブレードにおいて、外周部に切り欠きを形成する方法が記載されるが、この場合の切り欠きは、切り屑の排出機能や目詰まりを防ぐ機能として切り欠きが設けられており、切れ刃として設けていない。電鋳法で製造された場合、切り欠きのエッジ部分に必ずしもダイヤモンドが存在するものでもなく、結合材と共に存在するので、結合材が加工と共に摩耗していくことから、材料として切れ刃として作用するものではない。
それに対して、ブレードがダイヤモンド焼結体から構成される場合、外周部に空けた切れ刃の先端はそのまま切れ刃として作用する。また、切れ刃の大きさ50μmと比べてダイヤモンド砥粒径は5μmと小さいため、一つの切れ刃の中で、一つのダイヤモンド砥粒が欠け落ちることで切れ刃内で小さく自生することも可能となる。従来の電鋳法における砥石は、ダイヤモンド砥粒がそのまま切れ刃として作用するため、切れ刃の大きさと自生単位は同じ大きさであるが、本発明の場合、恣意的な切れ刃を形成することで、切れ刃の大きさとその中でダイヤモンドが自生する単位を変えることができ、その結果、長い間切れ味を確保することができる。
さらに、ブレードの側面部の粗さに対して、ブレードの外周端部の粗さを大きくすることで、ブレード外周端で切り進めながらもブレード側面は細かい粗い面でワークを削りながら鏡面化することができる。従来は電鋳法によるブレードでは、外周端部の粗さと側面部の粗さを独立して変化させることが難しく、実質できなかったが、本発明のように焼結ダイヤモンドを使用することで恣意的に外周端部に等間隔の切れ刃を形成するとともに、ブレード側面は細かく荒らした面とすることが可能となる。それにより外周の切れ味を確保して効率よく切り進めながらも、ワーク側面では全く独立して鏡面仕上げ加工を独立して行うことが可能となる。
なお、ブレード外周のみに高硬度のダイヤモンドチップを一つ一つ埋め込む構成(例えば特開平7-276137号公報など)は、切れ刃は等間隔で形成されるかもしれないが、一体の円盤状のPCDで形成されていないため、先述の通り、熱伝導の点、形状的な平面度や平面の連続性の点、加工による衝撃を吸収することなく局所的に効果的なせん断力をワークに与える点、さらには延性モードで加工を行う点などで、本発明に係るブレードとは全く異なることは明白である。
こうした切れ刃の間隔や側面部の表面の粗さは、加工対象材料に応じて適宜調整するものである。
図7は、ブレード26がスピンドル28に取り付けられた状態を示した断面図である。図7に示すように、スピンドル28は、不図示のモータ(高周波モータ)を内蔵したスピンドル本体44と、スピンドル本体44で回動可能に軸支され、その先端部がスピンドル本体44から突出した状態に配設されたスピンドル軸46とから主に構成される。
ハブフランジ48は、スピンドル軸46とブレード26との間に介装される部材であり、テーパ状に形成された取付孔48aが設けられるとともに、円筒状の突起部48bが設けられる。このハブフランジ48には、ブレード26のスピンドル軸46(回転軸)に対する垂直度を決定するための基準面となるフランジ面48cが設けられている。このフランジ面48cには、後述するようにブレード26のブレード基準面36aが当接される。
ブレード26には、片側の端面に切刃部40よりも内側部分に厚肉に形成された環状部(当接領域)36が設けられている(図2及び図3参照)。この環状部36には、ハブフランジ48のフランジ面48cが当接するブレード基準面36aが形成されている。ブレード基準面36aは、環状部36が形成される端面において他の位置よりも高い位置に設けられていることが好ましく、これにより平面度を出しやすくなっている。また、ブレード基準面36aを構成する環状部36の厚みは、ブレード外周部に設けられる切刃部40と比べて十分に厚くする必要がある。
ブレード外周部は、切断時に材料表面において脆性破壊を起こさないため切断幅も細くする必要があり、その厚みとしては50μm以下としなくてはならない。
しかしながら、そのブレード外周部の厚みのままでブレード基準面部分を含めて、すべてを50μm以下の厚みで製作する場合、ブレードの平面を出す過程で加工した際の加工歪が大きな問題になる。特に、ブレード全面を50μm程度の厚みで製作すると、ブレード両側面同士の歪のバランスで一方の側にブレードが反ることになる。ブレードが少しでも反っている場合、外周端部は非常に薄いので、非常に小さい応力で元々反っている側にブレードが座屈変形してしまい、結果的に使用できない。
このため、ブレード基準面を形成する部分は、ブレードの面に加工歪が残っていたとしても、その歪で反りが発生するほどの厚みであってはならない。直径にして50mm程度の円板で加工歪による反りが発生しない程度のブレードの基準面部分の厚みは、最低でも0.25mm以上、好ましくは0.5mm以上ある方がよい。この程度のブレード基準面部分の厚みがないと、ブレード基準面として平面を維持できない。平面が維持できなければブレード外周端部を一直線状にワークに作用させることが困難になる。
以上のことから、本実施形態のブレード26では次の条件を満たすことが必要となる。
すなわち、ブレード基準面36aは、ブレード26の両側面の加工歪のバランスが崩れていたとしても平面を維持しなくてはいけないことから、最低でも基準面部の厚みは0.3mm以上は必要である。
一方、ブレード外周端部は、材料にクラックを誘発させないためにも極微小領域で加工しなくてはいけない。そのためには、ブレード外周部に設けられる切刃部40の厚みは50μm以下とする必要がある。
つまり、例えば直径50mmのブレード全体で見ると、平面度維持のためすべてを一体で製作する必要があり、ブレード内周部は平面度維持のため分厚くしなくてはならない一方で、ブレード外周部は薄くしなくてはならない。
なお、平面度を出す方法としては、スカイフ研磨などによる鏡面加工を使用することができる。
ブレード26の取付方法としては、まず、ハブフランジ48の取付孔48aにテーパ状に形成されたスピンドル軸46を嵌合させた状態で、不図示の固定手段によってハブフランジ48をスピンドル軸46に位置決め固定する。次いで、ハブフランジ48の突起部48bにブレード26の装着孔38を嵌合させた状態で、ブレードナット52を突起部48bの先端に形成されたネジ部にねじ込むことにより、ブレード26をハブフランジ48に位置決め固定する。
このようにブレード26がハブフランジ48を介してスピンドル軸46に取り付けられたとき、ブレード26のスピンドル軸46に対する垂直度はハブフランジ48のフランジ面48cの平面度とブレード26のブレード基準面36aの平面度及びその両者を重ね合わせる取り付け精度で決定される。このため、ハブフランジ48のフランジ面(回転軸に対して垂直な面)48cと、このフランジ面48cに接触するブレード26のブレード基準面36aは、例えば鏡面加工によって平坦化され、スピンドル軸46に対する垂直度が高精度になるように形成されていることが好ましい。これにより、ハブフランジ48を介してブレード26をスピンドル軸46に装着する際、フランジ面48cとブレード基準面36aを接触させた状態で位置決め固定することにより、ブレード26をスピンドル軸46に対して高精度に垂直にすることができる。
また、ブレード26の中心位置の精度は、ブレード26の装着孔38とハブフランジ48の突起部48bとの嵌め合い精度で決定されることから、装着孔38の内周面及び突起部48bの外周面の加工精度を高めることで、これらの同軸度を確保することができ、良好な取付精度を実現することができる。
その結果、ブレード単体精度に加えて、高精度なスピンドル軸46に対する取付精度も確保することで高精度な切断加工が実現できる。
すなわち、延性モードで加工するためには、ブレード26の切刃部40の厚みを薄く構成するだけでなく、その切刃部40をブレード26の回転軸(スピンドル軸46)に対して垂直な方向に略一直線上に作用させることができるように高精度な取り付けが必要となるが、その要求精度を十分に満たすことができる。
本実施形態では、ブレード26を軸支するハブフランジ48及びスピンドル軸46はステンレス(例えばSUS304、SUS304は日本工業規格(JIS: Japan Industrial Standards)に基づくステンレス鋼、以下、本発明におけるステンレス鋼は日本工業規格に基づく)等の金属材料で構成されている。一方、ブレード26は、上述のとおり、ダイヤモンド焼結体80により一体的に構成されている。すなわち、ブレード基準面36aは金属基準面で支えられる構成となっている。このような構成によれば、切断加工によってブレード外周部の切刃部40が熱をもち、或いは、スピンドル軸46側に熱があったとしても、まずはブレード26の内部に均一に熱が伝わる。すなわち、ブレード26は熱伝導率の非常に高いダイヤモンド焼結体80で構成されるのに対し、ブレード26を軸支するハブフランジ48及びスピンドル軸46はダイヤモンド焼結体80と比較すると格段に熱伝導率が低いステンレスで構成される。このため、これらに生じた熱は、ブレード26に沿って周方向に伝わり、ブレード26の周方向にすぐに均一化され、放射状の温度分布となる。ダイヤモンド部分だけが熱がすぐに伝わり、ステンレスのスピンドル軸46やハブフランジ48には断面積などの点で、熱が伝わりにくく接触部も少ないため、結果的にダイヤモンド部分がさらに熱の均一化が促進され、その均一な状態で、熱的平衡が確保されるようになる。
また、ブレード外周部において、熱膨張を阻害する部材もなく、またバイメタル効果もないため、ブレード26の外周部は真円度及び平面度を良好に保つことができる。その結果、ブレード外周端部に設けられる切れ刃84はワークWに対して一直線上に作用するようになる。
なお、本実施形態では、ブレード26がハブフランジ48を介してスピンドル軸46に装着される構成を示したが、ブレード26がスピンドル軸46に直接装着される構成としてもよく、同様の効果を得ることができる。
次に、本実施形態のブレード26を用いたダイシング方法について説明する。このダイシング方法は、シリコン、サファイア、SiC(シリコンカーバイド)、ガラスなどの脆性材料に対してクラックやチッピングなどの脆性破壊を伴うことなく塑性変形させながら安定して精度良く切断加工を行うことができる方法である。
まず、ロードポート12に載置されたカセットからワークWが取り出され、搬送手段16によりワークテーブル30上に載置される。ワークテーブル30上に載置されたワークWは、撮像手段18により表面が撮像され、ワークW上のダイシングされるラインの位置とブレード26との位置が、不図示のX,Y、θの各移動軸によりワークテーブル30を調整して合わせられる。位置合わせが終了し、ダイシングが開始されると、スピンドル28が回転を始め、ブレード26がワークWを切断するないしは溝入れする量だけスピンドル28が所定の高さまでZ方向へ下がりブレード26が高速に回転する。この状態でワークWは、ブレード位置に対してワークテーブル30とともに不図示の移動軸によって、図1に示すX方向へ加工送りされるとともに、所定の高さまで下げられたスピンドル先端につけられたブレード26でダイシングが行われる。
このとき、ブレード26のワークWに対する切り込み深さ(切り込み量)が設定される。外周に多数の切れ刃を要するブレード26を高速回転させることで、1つの切れ刃(微小切刃)84が臨界切り込み深さ(Dc値)以下になるように設定されなければならない。この臨界切り込み深さは、脆性材料の脆性破壊を起こすことなく、塑性変形による延性モードでの切断加工が可能な最大切り込み深さである。
ここで、ワーク材料とクラックを及ぼさない一つの刃あたりの臨界切り込み深さとの関係を表3に示す。
表3から分かるように、例えばワーク材料がシリコンの場合には、その臨界切り込み深さは0.15μmであることから、ブレード26のワークWに対する切り込み深さは0.15μm以下に設定される。仮に切り込み深さが0.15μmを超える場合にはワーク材料へのクラック発生は避けられない。
また、表3に示したワーク材料の中ではシリコンの臨界切り込み深さ(0.15μm)が最
も小さく、他の材料と比べて割れやすいことが分かる。このことから、大抵の材料では、0.15μm以下の切り込み深さであれば、原理上クラックを発生することなく材料の変形範
囲で加工を進行させることのできる延性モード加工が可能となる。
また、ブレード26のワークWに対する周速度(ブレード周速度)は、ブレード26のワークWに対する相対送り速度(加工送り速度)に比べて十分に大きく設定される。例えば、ブレード26の回転数20,000rpm、ブレード26の外径50.8mmの時、ブレード26の回転速度53.17m/sに対し、ブレード26の相対送り速度は10mm/sに設定される。
なお、ブレード26の切り込み深さや回転速度、ブレード26のワークWに対する相対送り速度の制御は、図1に示したコントローラ24によって行われる。
このような延性モードでのダイシング加工は、切断ラインの溝深さが最終切り込み深さとなるまで、1回あたりの切り込み深さが臨界切り込み深さ以下に設定された状態で繰り返し行われる。
そして、ワークWに対する1つの切断ラインに沿うダイシング加工が終了すると、ブレード26は、次に加工する隣の切断ラインにインデックス送りされて位置決めされ、前記と同様の加工手順により、当該切断ラインに沿うダイシング加工が実施される。
そして、前記ダイシング加工が繰り返されることにより、所定数の切断ラインに沿うダイシング加工が全て終了すると、ワークテーブル30とともにワークWを90度回転させて、前記と同様の加工手順により、前述した切断ラインと直交する方向の切断ラインに沿ってダイシング加工が行われる。
このようにして、全ての切断ラインに沿うダイシング加工が全て完了すると、ワークWは多数のチップに切断分割される。
ここで、本発明の効果を検証するために、上記ダイシング加工方法において、本実施形態のブレード26と従来の電鋳ブレードとを用いてワークに対して溝入れ加工を行った結果について説明する。
[比較実験1](シリコンウェーハ)
本実施形態のブレード26としては、両側テーパタイプ(両Vタイプ)のものを使用した。一方、従来の電鋳ブレードとしては、ブレード厚みが50μm(#600)を使用した。その他の条件については以下のとおりである。
・装置:ブレードダイシング装置AD20T(東京精密製)
・ブレード回転数:20000rpm
・ワーク送り速度(加工送り速度):10mm/s
・切り込み深さ:30μm
・ワーク:シリコンウェーハ(厚み780μm)
比較実験1の結果を図8A及び8Bに示す。なお、図8A及び8Bは、溝入れ加工後のワーク表面の様子を示したものである。
図8Aに示すように、本実施形態のブレード26を用いた場合には、ワークに対してクラックが発生させることなく切断溝を形成することができた。
一方、図8Bに示すように、従来の電鋳ブレードを用いた場合には、ワーク表面に微小なクラックが発生した。また、切断溝の底面にもクラックが生じていた。
このように本実施形態のブレード26を用いた場合には、従来の電鋳ブレードを用いた場合に比べて、クラックを発生させることなく、延性モードで安定して精度良い切断加工を行うことができることを確認した。
[比較実験2](サファイアウェーハ)
次に、比較実験1と同様のブレードを用いて、以下の条件で比較実験を行った。
・装置:ブレードダイシング装置AD20T(東京精密製)
・ブレード回転数:20000rpm
・ワーク送り速度(加工送り速度):10mm/s
・切り込み深さ:50μm
・ワーク:サファイアウェーハ(厚み200μm)
比較実験2の結果を図9A及び9Bに示す。なお、図9A及び9Bは、溝入れ加工後のワーク表面の様子を示したものであり、図9Aは本実施形態のブレード26を用いた場合、図9Bは従来の電鋳ブレードを用いた場合である。
図9A及び9Bから明らかないように、ワークをサファイアウェーハに変更した場合においても、シリコンウェーハを対象とした比較実験1と同様の結果が得られることを確認した。
[比較実験3](SiCウェーハ)
次に、ストレート形状のブレードを用いて、以下の条件で比較実験を行った。ブレード厚みは、20μm、50μm、70μm厚で行った。
・装置:ブレードダイシング装置AD20T(東京精密製)
・ブレード回転数:20000rpm
・ワーク送り速度(加工送り速度):2mm/s
・切り込み深さ:200μm
・ワーク:4H-SiCウェーハ Si面(厚み330μm)
図10Aから10Cは本実施形態のブレード26による溝入れ加工後のワーク表面の様子を示したものであり、図10Aは、ブレード厚みが20μmの場合、図10Bは、ブレード厚みが50μmの場合、図10Cは、ブレード厚みが70μmの場合を示す。
ブレード厚みは50μm以下とすることが理想的ではあるが、SiCの場合70μ刃厚では、小さいクラックはあるが、顕著なクラックはなかった。
[比較実験4](超硬合金)
次に、先と同様にストレート形状のブレードを用いて、以下の条件で比較実験を行った。ブレード厚みは、20μm厚で行った。
・装置:ブレードダイシング装置AD20T(東京精密製、AD20Tは装置の型番)
・ブレード回転数:10000rpm
・ワーク送り速度(加工送り速度):1mm/s
・切り込み深さ:40μm
・ワーク:超硬WC(WC:タングステンカーバイド)
図11A及び11Bは、本実施形態のブレード26による溝入れ加工後のワーク表面(図11A)及び断面(図11B)を示している。同図のように、超硬WCのような硬質材料でも理想的な延性モード加工を行うことができることを示している。
[比較実験5](ポリカーボネード)
次に、先と同様にストレート形状のブレードを用いて、以下の条件で比較実験を行った。ブレード厚みは、50μm厚で行った。
・装置:ブレードダイシング装置AD20T(東京精密製)
・ブレード回転数:20000rpm
・ワーク送り速度(加工送り速度):1mm/s
・切り込み深さ:500μm(フルカット)
・ワーク:ポリカーボネード
図12A及び12Bは、それぞれ、本実施形態のブレード26による溝入れ加工後のワーク表面、及びワーク断面を示している。図12Aに示すように、ワーク表面から見るとシャープな切断ラインが観察される。図12Bに示すように、従来の電鋳ブレードと比較しても鏡面の切断面を得たことが分かる。
[比較実験6](CFRP:carbon-fiber-reinforced plastic)
次に、先と同様にストレート形状のブレードを用いて、以下の条件で比較実験を行った。ブレード厚みは、50μm厚で行った。
・装置:ブレードダイシング装置AD20T(東京精密製)
・ブレード回転数:20000rpm
・ワーク送り速度(加工送り速度):1mm/s
・切り込み深さ:500μm(フルカット)
・ワーク:CFRP
比較実験6の結果を図13A及び13Bに示す。なお、図13A及び13Bは、溝入れ加工後のワーク断面の様子を示したものであり、図13Aは本実施形態のブレード26を用いた場合、図13Bは従来の電鋳ブレードを用いた場合である。
従来の電鋳ブレードと比較すると、電鋳ブレードは一つ一つの繊維を引きちぎるため、繊維のきれいな断面を観察できないが、本発明に係るブレードでは一つ一つの繊維が絡まって引きちぎれることなくシャープな繊維端面持つ切断面を得ることができる。
この結果は、本発明に係るブレードの場合、連続した切れ刃が形成され、それぞれの凹み部分が切れ刃になると共にダイヤモンド同士が結合している。そのため、電鋳ブレードでは切れ刃が繊維一本を切断するのに軟らかい結合材で衝撃を吸収してしまい、鋭利に切れ刃が作用しないが、本発明に係るブレードは、ダイヤモンドのせん断応力によって、瞬時の衝撃を吸収することなく鋭利に刃先が作用するためである。
次に、ブレード26のワークWに対する切り込み深さを臨界切り込み深さ(Dc値)以下として延性モード加工での切断加工が行われる場合であっても実用的なダイシング加工が可能である理由について説明する。
例えば、外径50mmのブレード26を用いてシリコンウェーハからなるワークWを切断加工する場合を考える。なお、ブレード外周端部には結晶粒界に沿った切れ刃(微小切刃)が約10μmピッチで周方向に沿って設けられているものとする。この場合、ブレードの外周長は157mm(157000μm)であることから、約15700個の切れ刃が外周部に形成されていることになる。
まず、1つの切れ刃がワークWにクラックを与えない程度の切り込みとして、0.15μmの切り込みを入れたものとし、その切り込みにより一度の除去量が0.02μm(20nm)であるとする。なお、通常、SiCやSi、サファイア、SiO2などクラックが発生しない臨界切り込み深さはサブミクロンオーダ(例えば約0.15μm)である。そうすると、ブレード外周端部には15700個の切れ刃が存在するため、ブレード一回転あたり原理的には0.314mm(314μm)ほど、加工を進めることができる。ダイシングのスピンドルとして10,000rpmとすると、1秒当たり166回転する。よって、1秒当たりのブレード外周端部での切断除去排除距離は52.124mmとなる。例えば、ブレードの送り速度を20mm/sとした場合、ワーク材料内を押しながら進む速度よりも、ワーク材料をせん断方向に加工して除去する速度の方が速い。すなわち、ワーク材料を切断する上では、ワーク材料の破壊が起きない程度に微小切り込みを入れて、ワーク材料をブレードの進行方向とは直交する水平方向に加工して払いのけ、その払いのけ除去された部分を、ブレードが進行していく形態となる。そのため、クラックが発生する程度の0.1μm以上の切り込みが入る余地がないため脆性破壊を起こすことなく、塑性変形に基づく延性モード加工領域での切断加工が可能となる。すなわち、高速にブレードを回転させながらブレード回転によるブレード外周端部(先端部)の加工対象材料に対する周速度を、ブレードの加工対象材料に対する送り速度に比べて大きくとることで、延性モードでの加工を行うことが可能となる。
なお、実際的には、多少のブレードの偏芯も考慮し少し余裕を持たせて実施し、φ50.8mmのブレード径では、20,000rpmで回転させながら、10mm/s程度の送り速度で加工すれば、材料のクラックは発生しない。
次に、本実施形態のブレード26を用いて延性モードでの加工を実現するために各種検討した結果について説明する。
[ブレードの切刃部の断面形状について]
本実施形態において、ブレード26の外周部に設けられる切刃部40の断面形状は、図4Aから4Cに示した断面形状のうち、図4Bに示した両側テーパタイプ(両Vタイプ)のものが好ましく用いられる。
図14は、両側テーパタイプの切刃部40を有するブレード26を用いてダイシング加工が行われるときの様子を模式的に示した説明図である。まず、ブレード26の切刃部40の任意の位置に設けられる先端部40aは、図14中の(A)部から(C)部に示すように、ワークWの表面部から最深部(最下点)まで徐々に移動しながらワークWの研削を行う。その後、図14中の(C)部から(D)部に示すように、切刃部40の先端部40aはワークWの最深部から表面部に向かって徐々に移動する。このとき、研削溝の側面とブレード26の側面との間には隙間Sが形成される。
すなわち、ブレード26の切刃部40がワークWの表面から内側に切り込んでいる領域において、ブレード回転方向上流側ではワークWの研削が行われる切断部60となる一方で、その下流側ではブレード側面(切刃部40の側面)と溝側面との間に隙間Sが形成され、ワークWの研削は行われず、上流側の切断部60で研削された切り屑が溝内に排出される排出部62となる。
一般にバリやチッピングは、ブレードを材料から抜く際、溝側面と擦れて生じる。このため、例えば図15に示すように、両側の側面部がストレート状に平行に加工されたストレートタイプのブレード90が用いられる場合、ブレード先端部(切刃部)がワークW内部に侵入から外側に抜け出すまでブレード側面は絶えず切断溝の側面と接触する。このため、両側テーパタイプのブレード26に比べて、ブレード先端部がワークW内部から抜けるときに切断溝の側面とブレード側面が擦れやすく、その結果、バリやチッピングを引き起こす要因となる(図15中の(D)部、(E)参照)。また、ダイヤモンド砥粒を埋め込んだ電鋳ブレードが用いられる場合、ブレード側面から突き出ている砥粒が溝側面を引きかき、溝側面のバリやチッピングの発生を助長しやすくなる。
これに対して、両側テーパタイプの切刃部40を有するブレード26によれば、上記のようにブレード26がワークWから抜ける際にはブレード側面と溝側面との間に隙間Sが生じているため、バリやチッピングが生じることがない。また、切り屑の排出に伴って、研削時に生じる熱を切り屑とともに排出することができる。これにより、ブレード26の反りを防ぐことが可能となる。
すなわち、ブレード26の切刃部40がワークW内に切込んで最下点に向うまでワークWを切込み、その後、ブレード26がワークWの最下点を通過して、ブレード26がワークWから抜き出る過程でブレード側面と溝側面との間に隙間Sが形成された状態でブレード26がワークWから抜け出るため、チッピングなどの発生を効果的に抑えることが可能となる。
さらに、上記のような切断加工を行うことによって、ブレード側面と溝側面との接触に伴う摩擦によって生じる熱の発生を極力抑えることにも寄与する。その結果、熱の上昇による切断抵抗の増大などを抑えて、切断屑のブレード26への溶着を防止することができる。また、ブレード26をワークWから抜き出す過程で隙間Sを作りつつ、切断屑を溝内に置き去りにしていくことによって、切断屑に熱を持たせ、熱を排出する効果もある。こうした切断屑は後の洗浄で洗い流すことができる。さらに、ブレード26の発熱やワークWの発熱を抑えることが可能となるので、ブレード26やワークWに多量の水を供給しなくても、これらの発熱を防ぐことが可能となり、ドライな環境で加工することが可能となる。
[ダイヤモンド砥粒の粒径と含有量の関係について]
本実施形態において、延性モードで加工するためにはブレード26の周方向における砥粒配列について考慮する必要がある。その理由としては以下のとおりである。
まず、仮に0.15μmの切り込みを入れるためには、その切り込みを入れるための切れ刃(微小切刃)の大きさとしては、1桁程度の大きい砥粒径や切れ刃間隔である方が望ましい。3桁以上大きい切れ刃間隔となる場合、切れ刃間隔のばらつきも考慮すると、微小な切り込みを入れることは難しい。
一般的に、平板状試料に対して、略等間隔に切れ刃が設定されたブレードを平行移動させて加工する際の最大切込み深さを幾何学的に計算する。以下図16を基にすると、ハッチングした部分を一刃あたりの切り屑部分とすれば、ブレード中心Oと切り屑上の一点Aとを結ぶ線によって決まるACなる長さが一刃あたりの最大切込み深さgmaxとなる。
なお、Dはブレード直径、Zはブレード切れ刃数、Nはブレードの毎分回転数、VSはブレードの円周速度(πDN)、VWはワークの送り速度、SZはブレード一刃あたりの送り量、aは切込み深さとする。
そこで、
とおき、切込み深さgmaxはブレード直径Dに比べて十分小さいとすれば、
したがって、
ここで、ブレードの刃数Zの代わりに、切れ刃間隔λを使用して、Z=πD/λとして、式(1)に代入すると、一刃あたりの最大切込み深さが求まる。
ここで、πDNは明らかにブレード周速度VSに等しい。すなわち、ブレードによる平板加工において、切れ刃間隔λと一刃あたりの最大切り込み深さの関係は次式で与えられる。
但し、gmax:単位切れ刃あたりの切り込み深さ、λ:切れ刃間隔、Vω:ワーク送り速度、Vs:ブレード速度、a:ブレード切り込み深さ、D:ブレード径とする。
これからも、単位切れ刃あたりの切込み深さを一定以下にするためには、切れ刃の間隔が重要になることが分かる。また、ブレードの回転速度も重要になる。
このgmaxの式に示した関係によれば、Vω:40mm/s、Vs:26166mm/s、a:1mm、D:50mm、λ:25μmとしても、0.027μm程度の切り込み量だけとなり、0.1μm以下の切り込み量となる。この範囲であれば、臨界切り込み深さ以下であるから、延性モード加工の範囲である。
延性モード加工を行うためには、必ず上記の条件を満たさなければならない。
さらには、実用的な条件として、2インチ径のブレード(直径50mm)を10000rpmで回転させて加工する条件で、ワーク厚みが0.5mm、ワークの送り速度を10mm/sとし、ブレード外周部分の切れ刃間隔を1mmピッチで形成したとする(Vω:10mm/s、Vs:157×104mm/s、a:0.5mm、D:50mm、λ:1mm)。
その条件であっても、上の式に代入すると、一つの刃が切込む臨界切込み深さは0.08μmとなり、依然0.1μm以下の切込み深さとなる。よって、ブレードが偏芯せず理想的にすべての切れ刃がワークの除去加工に作用するとした場合、臨界的にはブレード外周部に形成できる切れ刃間隔は1mm以下までであれば、致命的なクラックを生じる過剰な切込みを与えることなく、加工を進行させることが可能となる。
なお、SiCでは、クラックを生じさせない臨界切込み深さは0.1μm程度である。他のサファイア、ガラス、シリコンなどにおいては、同クラックを及ぼさない臨界切込み深さは、0.2〜0.5μm程度であるため、臨界切込み深さを0.1μm以下と設定しておれば、ほとんどの脆性材料はクラックを及ぼすことなく、材料の塑性変形域内で加工を行うことができる。
よって、ブレード周囲につける切れ刃間隔は1mm以下である方が望ましい。
一方、ブレード周囲の切れ刃間隔は1μm以上である方がよい。仮に、平均的な切れ刃間隔が1μm以下の場合、すなわちサブミクロンオーダの切れ刃間隔を有する場合、臨界切込み深さ量と材料除去の深さ単位がほぼ同程度になってくる。すなわち、両者ともサブミクロンオーダとなるが、このような条件では実際に一つの切れ刃が期待する除去量に達することは難しく、逆に目詰まりモードによって加工速度は急激に低下する。
こうした状況下では、一つの切れ刃の臨界切込み深さは別として一つの切れ刃が除去できる深さ自体に無理があると考えられる。
なお、上記の考えは、ワークを切断する断面積が一定である場合に成り立つ。すなわち、試料は略平板状試料において、ブレードを高速回転させて、ブレードを、平板状ワークに対して一定の切込み深さに設定し、ワークをスライドさせながら切断加工するブレードに関する内容において合致する。
また、上記の式は、一つの切れ刃が与える臨界切込み深さは、切れ刃間隔によることも重要なことである。一つの切れ刃が切り込む量は、次の切れ刃との間隔に影響し、ある部分で切れ刃間隔が大きい部分があると、所望の臨界切込み深さより深く切込みクラックを及ぼす可能性を示している。よって、切れ刃間隔は重要な要素であり、安定した切れ刃間隔を得るために、その切れ刃間隔を材料組成から自然に設定されるように、単結晶ダイヤモンドを焼結したPCD材料が好適に使用されるのである。
但し、ダイヤモンド砥粒の粒径(平均粒子径)が大きくても、その隙間が密に敷き詰められており、実質的な砥粒間隔がその粒径よりも小さいオーダであれば、さらに砥粒の切り込みを抑制し、制御することが可能となる。実際には、理想的な粒径として1μmから5μm程度のダイヤモンド砥粒が望ましい。
なお、粒径が必ずしも切れ刃間隔になるとは限らない。正確にツルーイングされている場合は、切れ刃の間隔は粒径に相当するかもしれないが、通常切り出してドレッシングされた状態では、切れ刃間隔は砥粒径よりも大きくなる。
すなわち、粒界で厳密に規定されれば、一つの砥粒の両脇に存在する隙間が、切れ刃に相当すると解釈されるが、実際はいくつかの砥粒が固まりで抜け落ちて、自然に一定周期の切れ刃を形成するようになる。これは、ブレードを平均的に荒らすことで切れ刃ピッチを形成することができる。
図17A及び17Bには、ブレード外周端を粗さ計で測定した結果を示す。さらに図18A及び18Bには、表面状態の写真を示す。焼結体であるため、基本的には表面に見える部分はすべて砥粒であるダイヤモンドで構成される。
また、表面の凹凸はダイヤモンド粒界から形成されており、自然な略等間隔の凹凸形状が構成される。この一つ一つの凹部が材料に切込むための切れ刃として作用する。この切れ刃ピッチは、図から明らかなように、4mmレンジで260個、263個の山数があるため、約15μmピッチの切れ刃間隔となっていることが分かる。なお、本材料は、住友電工ハードメタル社製のDA200で構成されており、構成されるダイヤモンド粒子の粒径は公称1μmである。このように、粒径は小さくても、切れ刃間隔はそれよりも大きく形成されており、図から分かるように略等間隔に形成されている。
こうした等間隔な切れ刃は、単結晶の微粒子を焼結させて作られたダイヤモンド焼結体によって、ブレードそのものを形成していることによるものである。
このように、ブレード先端部分は、ワークを切り進めるために大きく凹凸をつけるようにしているが、それに対して、ブレード先端部分に比べてブレード側面部分はワーク切断後の端面を鏡面になるように研削する。そのため、ブレード先端部は切り進めるために粗く成形しており、ブレード側面部はそれに対して細かく成形している。
なお、従来の電鋳ブレードでは、通常ダイヤモンド砥粒の間隔は、その粒径と比べて格段に大きい。これは、まばらに振りまいたダイヤモンド砥粒を単にメッキしているためであり、メッキする時点で全く異なる。
これに対して、本実施形態のブレード26では、ダイヤモンド焼結体は焼結助剤が焼結によりダイヤモンド内に溶融してダイヤモンド同士が強固に結合するため、非常に硬質かつ高強度に構成される。また、ダイヤモンド焼結体は電鋳ブレードと比較して相対的にダイヤモンド含有量が多く(例えば、特開昭61-104045号公報を参照)、電鋳ブレードと比較すると相対的に強度が大きい。
また、ブレード材料内部の多くがダイヤモンドで占められているために、ダイヤモンド体積よりも、それ以外の部分(焼結助剤含む)の方を小さくすることが可能となり、ダイヤモンド焼結体の場合では、仮に粒径が大きくてもダイヤモンド砥粒の隙間を実質的にミクロンオーダにすることが可能になる。
また、ダイヤモンド砥粒の間の凹み部分が本発明では極めて重要な役割を果たす。ダイヤモンド砥粒は非常に硬質であるが、焼結助剤として入れたコバルトは一部はダイヤモンド内に浸透するが、一部はダイヤモンド砥粒間に残っている。この部分はダイヤモンドと比べると硬度的に少し柔らかいので、切断加工において摩耗しやすく少し凹む形になる。すなわち、ダイヤモンド同士に挟まれた部分があって、その間の凹みを微小な切れ刃にすることで、過剰な切り込みを与えることなく、安定した切り込みを得ようとしているものである。また、微小な切れ刃は、ダイヤモンド同士に挟まれた凹みのみならず、ダイヤモンド粒子自体が欠落してできた凹み部分も切れ刃として作用させることもある。この切れ刃間隔は、先の式に示した一つの刃あたりの臨界切込み深さを超えない程度の間隔に設定
しておけばよい。
例えば、25μm粒径のダイヤモンド砥粒を焼結で固める場合を考える。ここでは分かりやすくするために、ダイヤモンド砥粒は25μm四方の立方体であるものと仮定する。ダイヤモンド砥粒同士を結合するために、25μmの外側で両側1μmの部分を別の粒子と結合するための結合部分として利用するものとする。すると、27μm四方の立方体となる。その場合に、ダイヤモンド砥粒部分が占める体積%は78.6%程度になる。よって、80%以上程度のダイヤモンド含有量があれば、たとえ、25μm粒径のダイヤモンド砥粒であっても、そのダイヤモンド砥粒間の隙間、すなわち粒子間隔は実質せいぜい1〜2μm程度となり、その凹み部分が切り込みを与えるための切れ刃(微小切刃)となる。また、2μm程度の粒子間隔であれば、その粒子間隔においてそのピッチの粒子がワーク材料に押し込まれたとしても、そのワーク材料の変位はダイヤモンド砥粒の間隔と比べて1桁以上小さくなる。すなわち、0.15μmかそれ以下となる。また、25μmピッチで切れ刃(微小切刃)が形成されているとして、50mmのブレード径の場合、全周約157mmあたり6280個の切れ刃が形成さ
れている。仮にブレードを20000rpmで回転させるとして、1秒当たりに切れ刃は、2093333個作用させることができる。
この1つの切れ刃が0.15μm以下の切り込みを入れて、仮にその1/5である0.03μmほど、1秒あたりに除去するとする。そうすれば、2093333個の微小切刃であれば1秒当たり、62799μmほど除去可能となり、理論上、一秒当たり6cm程度切り進めることが可能となる。
こうした点からも、理論上、25μm粒径のダイヤモンド砥粒であっても、80%以上のダイヤモンド含有量を有しておれば、ダイヤモンド砥粒同士が結合している隙間の部分は1〜2μm程度となり、その結果、過剰な切り込み量を与えることなく、安定した切り込み量として0.15μmとすることが可能となる。
また、ダイヤモンド砥粒の粒径が25μmではなく、それ以下であっても、ダイヤモンド含有量を80%以上とすれば切り込みや材料除去量の点において、臨界切り込み深さを越えることがないため問題はなく、クラックを発生することなく延性モードでの加工を行うことが可能となる。
以上のように、ダイヤモンド焼結体の場合、ダイヤモンド砥粒(ダイヤモンド粒子)間が密に詰まっているため、ダイヤモンド含有量が非常に高く、個々のダイヤモンド砥粒がそのダイヤモンド砥粒のサイズの切れ刃として作用する。
また、ダイヤモンド砥粒の粒径と比較して、ダイヤモンド砥粒間の距離が格段に小さくなり、切り込み量として正確に制御することが可能となる。その結果、切り込み深さが所定の当初目論んだ切り込み深さ以上に大きくなることはなく、加工中絶えず安定した切り込み深さを保証する。その結果、ミス無く、延性モードの切断加工を行うことが可能となる。
なお、25μm程度の大きい粒径では、ダイヤモンド砥粒の含有率をさらに多くすることができ、通常市販されているものであれば93%程度の含有率(ダイヤモンド含有量)のものがある。そうであれば、なおさら、焼結助剤の割合が減少し、すなわち、ダイヤモンド砥粒同士の隙間は、実際微小になる。
ただし、25μm以上の大きい粒径のダイヤモンドを使用する場合、先に述べたように切れ刃間隔としては、延性モード加工を行う上で十分なのであるが、一方でブレードの刃厚を50μm以下とする場合には、そうした大きい砥粒では製作することはできない。
なぜならば、例えば、40μmの刃厚で製作する場合は、少なくともブレード断面に二つ以上のダイヤモンド砥粒を擁していないとならないが、理論上二つ入らず、1.6個となる
からである。
[ワーク材料の変形を考慮したブレードの刃厚について]
延性モードの加工を安定して行うためには、前述したように、深さ方向においては切り込みを0.15μm程度以下にする必要がある。この切り込みを安定的に行うためには、切り込み幅から考慮されるワーク材料の厚み方向変位(縦方向変位)も考慮しなくてはならない。
すなわち、広い範囲でブレード面(ブレード26の回転軸に垂直な面)に平行な方向に切り込みを入れて除去する場合、それに伴うワーク材料の変形は縦方向(切り込み深さ方向)にも広がる。すなわち、ワーク材料のポアソン比を考慮して、ある程度有限の切り込み幅とする必要がある。なぜなら、極端に切り込み幅を大きくすると、ポアソン比の影響による材料変形で縦方向にもその変形余波が及んでしまう。これにより、所定の設定した臨界切り込み深さ以上の切り込み量が入ってしまい、結果的にワークWの割れを誘起することがあるためである。
ここで、ポアソン比の影響を考慮した場合に安定的に切り込みを与えることができるブレードの刃厚(ブレード幅)について検討する。表4は、脆性材料のヤング率とポアソン比との関係を示したものである。
ここでは、1つの切れ刃がワーク材料に切り込むものとする。また、細いストレートなブレード先端は、特段恣意的に鋭利化するものではなく通常に加工すると、断面形状は略半円形になるものとする。
そうした場合、例えば0.15μmの切り込みを直方体状のもので与えるとすれば、略1μm程度の幅で平行に切り込みを与えると、ポアソン比によれば、付随的に縦方向に単純に0.17μm程度変位することになり、これは実際の切り込み量近くになる。実際は、ポアソン比の影響は縦変位のみならず、水平方向にも及ぶため、概算で1μm程度の幅であれば切り込み量として与えることができる。
しかし、図19に示すように、略半円状のブレード先端(ブレード外周端部)をワーク材料に対して0.15μm切り込む場合は、その幅として平行に一様に変位させているわけで
はないので、外周の立ち上がりを考慮すると、約5μmの円弧状の幅であればポアソン比の影響を受けずに切り込むことが可能となる。すなわち、Rsinθ=2.5となり、R(1-cosθ)=0.15となる。
これを逆算すると、先端部分のブレード半径は約25μm程度となり、上記5μm幅の切り込みを与える頂角は12度程度になる。
よって、材料に切り込むブレードの幅としては、約50μm以内には抑えておく必要がある。それ以上となると、各点平面的に同時に材料に作用することになり、時として微小なクラックを誘発することにつながる。
なお、それ以上の曲率、すなわち、30μm程度のブレード厚みであれば、基本的に上記の状態よりも局所的に切れ刃が作用するため、基本的に切れ刃の横幅が切り込み深さに影響を及ぼすことはなく安定的に切り込むことができる。
なお、ブレードの幅については、延性モードの加工を行う上での観点もあるが、ブレード単体の座屈強度とも大きく関係する。
上記ブレードの幅は、ワーク厚みからも制限を受ける。
ここで、ブレードの幅とワーク厚みの関係を示す。
ワークは、一般的にはダイシングテープに支えられている。ダイシングテープは弾性体であるため、ワークのような硬い材料とは異なり、少しの応力で多少なりとも縦方向(Z方向)に変位しやすい。ここで、ワークをブレードで切断する際には、ワーク内の切断される部分の断面形状、図20Aに示される斜線部分が重要になる。
ブレード厚み(ブレード接触領域)lがワーク厚みhよりも大きいl>hの場合、図20Bに示すようにブレードが接する部分(加工除去される部分)は横長の長方形になる。こうした除去対象の断面部分が横長の長方形になる場合においては、上部から分布荷重が作用すると、撓みによって弓なりに曲がる状態が発生し、その撓みの最大変位は以下となる。(実際は板の撓みではあるが、単純に梁の問題と考え分布荷重が作用と仮定)
断面が奥行きbで高さhの長方形梁の場合、
であるため、上式は以下となる。
最大撓みは、梁の中央部分で、ワーク厚みhの3乗に反比例し、ブレード接触領域lの4乗に比例する。
特に、(l/h)3において、l/hが1を境にして、l/hが1より小さくなれば撓みは格段に小さくなり、逆にl/hが1より大きくなれば撓みは格段に大きくなる。これより、ブレード厚み(ブレード接触領域)lとワーク厚みhの相対的な厚みの形状で撓みが発生する場合と、発生しない場合が分かれる。
このブレード接触領域がワーク厚みよりも大きい場合(l>h)、ワークは接触領域内で撓みが発生するが、ワークが撓む場合、断続的に面内で上下に撓みによるワークの振れの振動が発生し、所定の切込みを達成できなくなる。結果的にワークの縦方向の振動でブレードから致命的な切込みが与えられ、ワーク表面に割れが発生する。
よって、特に本発明のPCDブレードによる加工では、クラックフリーの加工を行うため、所定の切込み深さを安定して忠実に守る必要がある。そのためには、切れ刃間隔制御による切込み深さを設定する他にも、ワークそのものの加工時おける縦振動を抑えることで、所定の切込みを精度よく確保しなればならない。
そのためにも、ブレード厚みは、図20Cに示すように対象ワークの厚みよりも薄くしなければならない。
例えば、ワーク厚みが50μm以下の場合は、ブレードの幅(厚み)は当然50μm以下にする必要がある。
この場合には、ワークは接触領域内で撓むことはない。一方、接触領域内で屈曲ないしは圧縮させる応力が働くが、ワークは横方向には密な連続体でポアソン比により変形が拘束される。そのため、局所的にはワークから反力としてブレードから与えられた応力に作用し、結果的に、割れを発生することなく所定切込みでの加工が可能となる。
[従来のブレードとの比較]
特許文献1にあるような電鋳ブレードの場合、ダイヤモンドを分散させ、その上からメッキを行うため、ダイヤモンドはまばらに存在し、しかもそれらは突き出した構成となる。その結果、突き出した部分は、当然のように過剰な切り込みを与えてしまうこともあり、脆性破壊を誘発する。なお、溝の底部や側面部も連続している部分は、ワーク材料も互いに密に構成されているため、すぐさまクラックは入りにくいが、ブレードが抜ける部分が最もクラックや割れが入りやすい。それは、ブレードが抜ける際に、バリがでることと同じであり、ワーク材料は連続ではなく支えがないからである。
また、特許文献2のブレードの場合は、CVD法で成膜されているために、突出したクラックはない。ただし、ブレード端部の切れ刃の配列、ブレード側面部の平面状態やうねりなど、制御することは不可能である。
特に、ブレード側面部に限れば、成膜時の膜厚むらはそのままブレードの厚みむらに相当する。また、成膜の表面そのものは無垢な面であるため、材料側面と完全に接触して摩擦熱を誘発することや、微妙なうねりがあり、そのうねりで材料を叩き割ることもある。
それに対して、本実施形態のブレード26では、軟質金属の焼結助剤を用いて焼結されたダイヤモンド焼結体で一体的に構成されるため、ブレード外周端部とブレード側面部を摩耗処理で成形することが可能となる。特にブレード外周端部は切れ刃となるため、前述のように、所定の切れ刃とするためにさらに摩耗処理条件を変更することも可能である。一方、ブレード側面部の役割としては、切り屑を排除することがまず第一にあるが、ワーク側面との接触を加味すると、ある程度の接触しつつも、過度に接触せず、安定してワーク側面を微小に削る程度に荒らされていることが望ましい。
このようにブレードの外周端部と、ブレード側面部をそれぞれその状態に応じて所望の表面状態を設計し、そのような表面に製作できることについていずれの引用文献の技術も不可能である。
なお、スクライビングで使用されるブレードの場合、以下のような理由から延性モードでの加工には適さない。
すなわち、スクライビングでは、ブレード自体を回転させるわけではないので、等間隔に揃った微小な切れ刃自体が必要になるものではない。また、たとえ、切れ刃があったとしても、ミクロンオーダの結晶粒界に沿った微小切刃でなく、大きい切れ刃とする場合、高速回転のダイシングでは材料にクラックを与えてしまい到底使用することはできない。
また、結晶粒界に沿った微小な切れ刃をもつブレードをスクライビングで使用しても、その微小な切れ刃はスクライビングのクラックを与える切れ刃として機能するものではない。
また、スクライビングは、ブレードを鉛直方向に押圧する。そのため、ブレード内を通す軸に垂直下方向に応力を与え、ブレードを軸に対して滑るように構成する。軸とブレードを固定して使用するものではないため、軸に対するブレードのクリアランスは低く、また、ブレード自体が高速回転しないので、ブレードの片側面に基準面を設ける必要もない。
また、50μm以下、とりわけ30μm以下の細い刃先のスクライビング用のブレードを製作しても、ブレードは薄い軸受けで受け、またブレードの片側面に広い面で受ける基準面が存在しないため、ワークに対する精度良い真直度を確保できない。その結果、細い刃先のブレードは座屈変形してしまうことになり使用できない。
[ブレードの強度について]
次に、ブレード材料の強度(弾性率)とワーク材料の強度(弾性率)の関係について述べる。
ブレードがワークに一定量切り込んでそのまま切り進めるためには、ブレード材料はワーク材料に対して大きい強度が必要となる。仮に、単純にブレード材料がワーク材料に対して軟らかい材料、すなわちヤング率の小さい材料で構成されていた場合、極細いブレード先端部分をワーク表面に作用させ、ブレードを進めようとしても、ワーク材料が高弾性率の部材であればワーク表面を微小に変形させることができず、それを無理に変形させようとすると、ブレード自体が座屈変形する。そのため、結果的に加工が進行しない。ここで、両端支持の長柱の座屈荷重Pは次式で与えられる。
なお、E:ヤング率、I:断面二次モーメント、l:長柱の長さ(ブレード径に対応)とする。
仮に、ワーク材料より低い弾性率を有するブレードの場合、ブレードの座屈変形を抑えながら加工を進展させるのであれば、座屈変形しない程度の断面二次モーメントが必要となり、具体的にはブレード厚みを分厚くせざるを得ない。しかし、特に脆性材料を加工する場合でブレード厚みがワーク厚みより厚い場合、ワーク材料表面を変形させ押し割ってしまう。よって、ブレード厚みはワーク厚みよりも薄くしなくてはならない。
そうすれば、結果的には、ブレード材料はワーク材料よりも高弾性率のものを使用しなくてはならないことになる。
こうした関係は、従来の電鋳ブレードと本実施形態のブレード26との差に相当する。すなわち、電鋳ブレードは、ニッケル等の結合材で結合しており素材的にはニッケルベースとなる。ニッケルのヤング率は219GPaであるが、例えばSiCは450GPaである。ニッケルに電着されているダイヤモンド砥粒自体は970GPaであるが、それらは個別に独立に存在するため、結果的にニッケルのヤング率に支配される。そうすれば、原理上、ワーク材料が高弾性であるため、付随的にブレード厚みを増して対応しなくてはならない。その結果、電鋳ブレードの厚みを太くして接触面積を大きくすることを余儀なくされ、クラックや割れを誘発することになる。
これに対して、本実施形態のブレード26の場合、ダイヤモンド焼結体のヤング率はダイヤモンド同士が結合しているため、700〜800GPa相当である。これは、ほとんどダイヤモンドのヤング率に匹敵する。
ここで、ブレード26の弾性率がワークWの弾性率に比べて大きい場合、ブレード26は切り込みを与えた際に、ブレード26ではなくワークW側の表面が変形することになる。ワークW側が変形したまま、そのまま切り込みを入れて加工除去していくことが可能となる。しかも、その過程でブレード26が座屈変形することはない。よって、非常に鋭利なブレード26であっても、座屈することなく加工を進めることが可能となる。
表5に各材料のヤング率を示す。表4から明らかなように、ダイヤモンド焼結体(PCD)は、サファイアやSiCなどの大抵の材料と比較しても格段にヤング率が高い。このため、ワーク材料厚みより細いブレードであっても加工することが可能となる。
次に、ワーク材料とブレード材料の硬度の関係を述べるが、高度の関係も先の弾性率と同様である。
ブレード材料の硬度がワーク材料の硬度に比べて低い場合、例えば電鋳ブレードの場合は、ダイヤモンドを軟質の銅やニッケルが支えている。表面のダイヤモンド砥粒は非常に硬度が高いが、その下でダイヤモンド砥粒を支えているニッケルの硬度は、ダイヤモンドと比較すると極めて低い。よって、ダイヤモンド砥粒に衝撃が与えられると、その下のニッケルが衝撃を吸収することになる。結果的に、電鋳ブレードの場合はニッケルの硬度が支配的になるため、結果、硬質のダイヤモンド砥粒がワーク材料に衝突し、ワークに切り込みを与えようとしても、結合材がその衝撃を吸収するため、結果的に所定の切り込みを与えることが難しい。よって、加工を進行させるためには、ある一定以上のブレード回転数をダイヤモンドに衝撃的に与えないことには加工が進まない。また、この際にニッケルに一瞬衝撃が吸収され、その反力がダイヤモンド砥粒にのって大きな力でワーク材料を押圧するため、ワーク材料を脆性破壊させてしまう。
それに対して、本実施形態のブレード26の場合、ダイヤモンド焼結体はダイヤモンド単結晶に匹敵する硬度を有し、サファイア、SiCなどの硬脆性材料と比較しても格段に高い硬度である。その結果、ダイヤモンド焼結体の表面に形成される凹部からなる切れ刃(微小切刃)がワーク材料に作用しても、その衝撃はそのまま微小な切れ刃部分に局所的に作用し、鋭利な先端部分と相まって、極微小部分を精度よく除去加工することが可能となる。
以上説明したように、本実施形態によれば、ダイヤモンド砥粒82の含有量が80%以上からなるダイヤモンド焼結体80によって円盤状に一体的に構成され、このブレード26の外周部にはダイヤモンド焼結体80の表面に形成された凹部からなる切れ刃(微小切刃)が周方向に沿って連続的に配列された切刃部40が設けられる。このため、従来の電鋳ブレードに比べて、ワークWに対するブレード26の切り込み深さ(切り込み量)を高精度に制御することが可能となる。これにより、過剰な切り込みが与えられることなく、ワークWに一定の切り込み深さを与えながら、ワークWをブレード26に対して相対的に移動させることができる。その結果、脆性材料から構成されるワークWに対しても、ブレード26の切り込み深さをワークの臨界切り込み深さ以下に設定した状態で切り込みを行うことが可能となり、クラックや割れを発生させることなく、延性モードで安定して精度良く切断加工を行うことができる。
また、ダイヤモンド焼結体80の表面に形成された凹部は、ワークWを加工する際に生じる切り屑を搬送するポケットとして機能する。これにより、切り屑の排出性が向上するとともに、加工時に生じる熱を切り屑とともに排出することが可能となる。また、ダイヤモンド焼結体80は熱伝導率が高いので、切断加工時に発生する熱がブレード26に蓄積されることがなく、切断抵抗の上昇やブレード26の反りを防ぐ効果もある。
また、本実施形態のブレード26を用いたダイシング加工では、ブレード26の回転方向はダウンカット方向であることが好ましい。すなわち、ワークWに対して切り込みを与えながら、ワークWをブレード26に対して相対的に移動させる際、図14に示したように、ブレード26の切れ刃がワーク表面に切り入るような回転方向にブレード26を回転させながらダイシング加工を行う態様が好ましい。
また、本実施形態のブレード26を用いたダイシング加工では、ブレード26によってワークWに一定の切り込み深さを与えながら、ワークWをブレード26に対して相対的に移動させる際、ブレード26に微粒子を与えながら行う態様が好ましい。
ここで、上記態様が好ましい理由について、以下に詳しく説明する。
本実施形態のようにダイヤモンド焼結体で構成された円盤状のブレードの場合、ダイヤモンド粒子の間である粒界部分に凹みができる。その凹み部分が切れ刃として作用する。または、自然に形成された粗さによる凹凸で切れ刃が形成され、特に凹部分に切れ刃が形成される。
ブレードの外周部分の作用は、主として切れ刃が作用してワークに切れ刃を切り込んでさらに切り進めながら、切り屑を除去していかなければならない。
一方、ブレード側面はワークを切り進めるというよりは、既にブレード先端部で切り進められた側面をブレードの側面で削りながら馴らすことが重要になる。そのためには、ブレード側面は切れ刃が積極的に作用するというよりも、ワーク側面とブレード側面とが食いつくことなく、スムーズに潤滑しながら、ワーク側面を削る必要がある。
このブレード側面においてワーク側面とブレード側面とを食いつくことなくスムーズに潤滑させる方法として、ダイシングブレードに微粒子を作用させることが効果的な方法である。
特に、ブレード先端部が除去したばかりの溝部分は、ワーク側面も新しい側面が出たばかりであり、ワーク材料によっては、非常に活性な面が現れる。活性な面は、他の材料と相互作用しやすく特にブレード材料であるダイヤモンド焼結体とくっつくこともある。こうしたことを防ぐためには、ブレード先端が除去した直後におけるブレード側面部とワーク材料との間の潤滑を考慮する必要がある。
そこで、焼結ダイヤモンドで構成されたブレード側面に微粒子を作用させることがブレードとワークの間の潤滑効果を向上させる効果として大きい役割を果たす。
焼結ダイヤモンドで構成されたブレードの側面に、微粒子を作用させる場合、焼結ダイヤモンドは先にも述べたように、粒界部分や自然な粗さで構成された凹凸表面において、凹みの部分を多く有している。その凹み部分に微粒子が取り込まれる。ブレード側面がワークに擦られながら加工する際に、そのダイヤモンド焼結体で形成された凹み部分に溜まった微粒子が、飛び出してきてブレード側面とワーク側面の間を連続的に転動する。この連続的な微粒子の転動を「ベアリング効果」とよぶが、ブレードとワーク表面との食い付きを防止して、ブレードとワークの間の潤滑効果を形成する。
また、この潤滑効果は、単純にブレードとワーク間の食い付きを防止する潤滑効果だけにとどまらない。微粒子のベアリング効果は、転動する微粒子はワークの側面を研磨する作用も持ち合わせる。
微粒子が転動することによって、微粒子がワーク側面に擦れることによって、ワーク側面の研磨を行い、その結果、ワーク側面は単純に固定砥粒で研削したような研削条痕を残すことなく、きれいな鏡面を形成することができる。
こうした潤滑効果は、回転に沿った形でブレード両側面に溝が形成されている場合、微粒子が転動しやすくなり、すなわちベアリング効果が現れる。例えば、ブレード半径方向の断面において、ブレードがワークに入り込む部分の断面部分において側面表面を細かいV字の溝を切り込んでおくとよい。すると、微粒子がV溝の間に入り込み、ブレードの回転に伴って、V溝に沿って転動する。その結果、ワーク材料とブレードの間で微粒子がV字溝に沿って転動しベアリング効果が現れる。転動効果が現れると、微粒子は固定砥粒とは異なってある程度個々の微粒子が方向を変えてランダムに作用するため、一方向の研削条痕が残ることはなく、ワーク材料側面は研磨効果が発揮される。結果的に研削条痕を除去した鏡面を得ることが可能となる。
このような微粒子を利用しながら加工する方式として、例えば微粒子を予め焼成するなどして固めておいて、その固めた微粒子で形成したブレードの表面から微粒子がこぼれ落ちながら、こぼれ落ちた微粒子がブレード側面で転動して鏡面加工するブレードを想起するかもしれない。
しかし、こうした転動させる微粒子をあらかじめブレード表面に焼成したブレードでは、加工が進行すると共に、ブレードは微粒子が脱落する分、徐々に細くなっていく。すなわち、安定した一定の溝幅を形成することはできない。また、安定して絶えず連続して微粒子を供給し続けることも難しくなる。
また、微粒子を連続的に作用させるためには、ブレード側面が連続的に摩耗しながら、微粒子を供給することを意味するが、このようなブレードでは微粒子を蓄えておく凹み部分を安定して構成することは難しく、また凹み部分を硬度が高いダイヤモンドで形成することもできない。また、ブレード部材そのものも剛性の高い恣意的な凹凸を形成したブレードを供給することはできない。
さらに、こうした剥がれやすい材料では、下地を支えるブレード自体の硬度が確保できないため、微粒子が転動しながらも、ワークに一定の切込みを与えることが難しくなる。
一方、従来のニッケルなどの結合材で固めた電鋳ブレードではこうした潤滑効果は得られない。なぜなら、電鋳ブレードでは結合材の表面に対してところどころダイヤモンドが突き出した形態をしている。すなわち、平面上にところどころ突起物があるような表面形態をしている。
ダイヤモンドが突き出した状態で存在するため、基準平面を形成する結合材が除去されていくと、砥粒の臨界切込み深さを制御できなくなる。よって致命的なクラックをワーク側面に及ぼしてしまう。上記態様のように微粒子を流入させるにしても、一部場合によっては凹みがなくてもワーク側面は鏡面化するかもしれないが、ブレード側面に微粒子を作用させて研磨効果を発現させるにしても、一方で固定砥粒の突き出したダイヤモンドが研削する状況の場合、依然ワーク側面部分は研削条痕が残るとともに、突き出しによる潜在的なクラックが入り込む。転動しながら鏡面化させる微粒子の効果は、こうした一方でクラックを及ぼしながら脆性破壊を伴う加工現象と併用すると意味を成さなくなってしまう。
また、ブレード表面を見た場合、平面の中に突出したダイヤモンドが散らばっている状態にある。すなわち、微粒子がブレード側面に蓄える凹みの部分が存在しない。
仮に、ダイヤモンドが抜け落ちた部分、すなわちニッケルなどの結合材の間に微粒子が蓄えられたとしても、ニッケルなどの金属材料によって形成された凹み部分では、微粒子に使用される材料と比べ硬度が低い。凹み部分から微粒子が抜け出したとしても、ニッケルなどの金属材料で周囲が形成された凹み部分は、凹み部分が切れ刃としての作用を持たないばかりか、微粒子が抜け出した部分は、逆にそのニッケルなどの軟質金属のブレード側が摩耗するだけで、一方ワークを研磨除去する効果はほとんどない。その結果、ブレード自体が徐々に削ぎとられていくだけで、ワークを研磨する効果を期待できない。
ブレードの結合材が微粒子によって摩耗する場合、ブレード厚みが微粒子による結合材に対する研磨除去作用によって加工途中からも変化することを意味する。例えば溝加工などにおいて、溝幅を厳密に制御された場合においては、ブレードがみるみるうちに摩耗する過程では、到底使用できるものではなく、加工するブレードとして意味を成さないものとなる。
それに対して、本実施形態のようにダイヤモンド焼結体で構成されたブレードの場合、まず、前提としてダイヤモンドの焼結体で構成されていることである。また、そのダイヤモンドの含有量も80%以上あることが望ましい。
そのダイヤモンド焼結体で構成されているブレードに対し、微粒子は焼結体の凹部に溜まり、そこからワークと擦れることによって微粒子が外へ出された状態で転動する。凹部の周囲がダイヤモンドで構成されるため、まさにダイヤモンドで構成された凹部の縁の部分で微粒子が作用しワークの研磨を行う。
凹みの部分は、焼結助剤の割合が比較的高いため、摩擦によって選択的に除去されて凹みを形成しているが、凹みではない部分は逆にダイヤモンドリッチであり、ワーク材料よりも通常硬度は高くなる。よって、凹み部分から出た微粒子は凹みの縁の部分で高硬度のダイヤモンドに支えられ、その高硬度のダイヤモンドで構成される縁で微粒子が転動して作用する。その結果、ワーク側に研磨する圧力が加わって、効率的にワークを研磨する。
このように、効率的な微粒子の保持と、その微粒子が硬質ダイヤモンド上で転動する効果を両立させることが可能となる。
(微粒子の供給方法)
微粒子の供給方法としては、上記のような作用効果が得られるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、以下に示す方法(第1〜第3例)を好ましく採用することができる。
<第1例>
微粒子の供給方法の一例(第1例)として、ブレードそのものに毛細管構造体で液体に含ませた微粒子をブレードに塗り込む方法がある。
使用する微粒子としては、WAホワイトアルミナ砥粒、GCグリーンカーボランダム砥粒、ダイヤモンド砥粒:などの微粒子が好適に使用される。粒径は、0.01μmから10μm程度の様々な粒径の微粒子を使用してよい。粒径や使用する微粒子の材料は、ワーク材料やその目的に応じて適宜最適化すればよい。例えば、PC基板や銅基板のカット側面の研削条痕の除去を目的としたカッティングの場合は、粒径として1μm程度のWAが適している。
また、これらの微粒子をそのまま粉体として使用する場合、細かい微粒子であれば高速回転するブレードの風圧で吹き飛ばされてしまう。よって、微粒子を液体に懸濁して使用するのがよい。懸濁する溶媒としては、最も簡易的な液体としては水があげられるが、ブレード表面に微粒子を効率よく付着させるためにはエタノールやIPAなどに懸濁したものでもかまわない。また、ラッピングオイルなど潤滑油を使用しても構わない。微粒子を懸濁するための溶媒は、ワークの特性などによって適宜最適化するとよい。ラッピングオイルなどを使用したとしても、ブレードのみに供給され、ワークへは直接供給されない。
ブレードに供給された微粒子を含む液体は、ワークの切断面だけに作用し、ワーク表面に作用しない。したがって、ワークからしてみれば、潤滑効果で熱の発生を防ぐと共に、ワーク表面に特段の液体を供給するものでもない。そのため、従来ウェット環境では、表面のチップを濡らしてしまい、素子をだめにしてしまうワークに対しても、あたかもドライ加工のごとく加工することができる。
液体を作用させる場所は、ワークにブレードが切り込む直前に入れるのが望ましい。ブレードは高速回転しており、一部はその遠心力で吹き飛ばされてしまうため、ブレードがワークに入り込む直前であるのが望ましい。
なお、ブレードに塗布するものが、微粒子を含まない液体である場合であれば、全く意味を成すものでもない。微粒子を含まない液体を塗る場合、基本的に切断したワーク側面を研磨するという能力は作用しない。よって、微粒子を含まない液体は塗布するにしても意味をなすものではない。
また、微粒子を含まない液体は粘性が低く、微粒子を含ませることで微粒子と液体と間の界面張力が作用して結合力が高まり、その結果として全体的に粘性を高めることが可能となる。粘性を高めることができれば、ブレードに塗布した場合でも、ブレードの遠心力で微粒子を含む液体が吹き飛ばされることはなく、効率的にブレード側面ないしは先端にも微粒子を含む液体を塗布することが可能である。
例えば、微粒子を含むスラリーを供給しながら、加工する方法があるが、時として、ワーク内の切断する場所以外の他の箇所を濡らしてしまうため、厳密にワークをドライな状態で加工する場合は適用できるものではない。
また、ワークに沿わせて液状のスラリーを供給する場合、ワークにスラリーが固着するのではなく、ワークに沿って流れる程度に粘性が低い必要がある。しかし、そうした場合、高速回転で回転するブレードにスラリーが接すると、スラリーが吹き飛ばされてしまう問題がある。特に、ダイヤモンド焼結体で構成されるブレードでは凹み部分が非常に小さくそうした部分のポケットに、効果的に微粒子を取り込む際において、ブレードの風圧や遠心力が支配的で、微粒子がブレード上に滞在しにくい場合もある。
これに対し、本例における微粒子の供給方法では、微粒子を液体に懸濁し、その懸濁液をブレード側面に塗布する。塗布する方法としては、刷毛のような毛細管構造体を利用して、液体の毛細管の原理で固体から回転するブレード固体に液体を塗り込みならが供給し、液体に含まれる微粒子成分を残して、ブレードに微粒子を作用させる方法が考えられる。
通常に微粒子をブレードに作用させようとしても、高速回転するブレード側面に、固体微粒子を塗布して付着させることは非常に難しい。
そこで、液体を利用し、液体に微粒子を溶かし込んで懸濁液の状態とし、その状態で微粒子をブレード表面に作用させるのが効率的でよい方法である。
まず、液体に微粒子を溶かし込むことで粘性が上昇して表面張力が大きくなり、ジェル状にすることができる。微粒子の間に液体が入り込み表面張力を増すことが可能となる。
このように微粒子を液体に溶かし込むことで、液体だけをブレードに塗布する場合とは異なり、粘性を持った表面張力が高い液体としてブレード表面に確実に作用させることが可能となる。
このブレード表面に微粒子を含む液体を塗布する方式としては、例えば、図24及び図25に示す微粒子の供給機構を好ましく採用することができる。同図に示すように、ブレード26は、スピンドル28(図1参照)側に固定されたフランジカバー100によって包囲されており、このフランジカバー100の部分に取り付けられた液体供給手段としての液体供給管102と、液体供給管102から微粒子を含む液体の供給を受け、この供給を受けた微粒子を含む液体を毛細管現象によりブレード26の両側面側に移送させる毛細管構造部材104とを備えた供給機構106が配設されている。
毛細管構造部材104としては、刷毛状部材、筆状部材もしくは発泡体部材のいずれかが用いられている。即ち、空隙に小さい空間が連続的に存在する構造部材が用いられている。毛細管構造部材104は、図25に示すように、液体供給管102の下端部とブレード26の周側面との間でやや撓んで、その先端がブレード26の回転方向に沿うように両サイドからブレード26の両周側面に接触している。毛細管構造部材104は、微粒子を含む液体をブレード26の周側面に均一に塗り入れるため、所要幅に形成されている。
また、図25に示すように、液体供給管102の下端部には、毛細管構造部材104の先端部をブレード26の周側面にガイドする剛性材製のガイド部材108が設けられている。毛細管構造部材104としての刷毛状部材、筆状部材等の構成材としては、例えば、ポリエステル素材の線材や綿繊維などの軟らかい線状部材も好適に使用できる。軟らかい線状部材などを使用すれば、高速で回転するブレード26側面に接触したとしてもブレード26側面を過度に損傷させることはない。
そして、このような軟らかい線状部材を使用した毛細管構造部材104であっても、毛細管構造部材104の先端部を剛性材製のガイド部材108でブレード26の周側面にガイドすることにより、毛細管構造部材104内の隙間に存在する液体の重力等の影響を受けることなく、軟らかい線状部材からなる毛細管構造部材104の先端部をブレード26に接触させるようにガイドすることができて高速回転するブレード26の周側面に微粒子を含む液体を確実に供給することが可能となる。
このように本例における微粒子の供給方法によれば、微粒子を含んだ液体をブレード側面に塗りつけることが可能となる。これによって、ブレードに液体を作用させる塗布対象の毛細管構造体自体をブレードに触れさせ、液体と固体の間に働く界面張力を利用して、液体内に含まれる微粒子をワーク側面部分に運び入れることができる。
高速回転しているブレードに対して、液体を吹き付ける方式では、液体がブレード上で吹き飛んでしまい、その結果効率的にブレードに微粒子を作用させることはできないが、ブレードに液体を、界面張力を利用して塗りつけることで、効率よくブレード側面に沿って微粒子を供給することが可能となる。
微粒子を含む液体をブレードに塗り込むと、液体はブレード表面の凹み部分に液体の界面張力によって付着する。ブレードは立て回転で高速回転しているため、ブレードに付着した液体の一部は乾燥し、微粒子による研磨による発熱を気化熱によって奪い去ることができる。これにより、研磨しても過剰に発熱することなく研磨を行うことができる。
ブレードに塗布するだけでその他、ワークに水をかけるなどの冷却をすることがない。場合によっては、ブレードに少量の液体を作用させるのみで、ワークに対してはドライで加工することが可能となる。
その結果、微粒子の転動による物理的な研磨加工をより効率的に進めることが可能となる。
また、微粒子が凹み部分から抜け出る際に、下のダイヤモンド粒子で形成された凹みのエッジ部分とワークの間に微粒子が挟まれ転動していくため、ワークに転動する微粒子の切込みが確実に与えられながらワークを確実に研磨することができる。
<第2例>
微粒子の供給方法の他の例(第2例)として、ワーク上でブレードが進行していく部分にあらかじめジェル状の微粒子を塗布しておく方法がある。
この方法では、ブレードが進行する部分にあらかじめ少量の水に高濃度の微粒子を懸濁し、それをブレードが進行する部分に細い線状に付着させておく。付着させる方法としては、注射器のようなもので押し出して付着させても構わない。
<第3例>
微粒子の供給方法の更に他の例(第3例)として、粒子が塗布された薄いシートをワーク上に貼り付け、その薄いシートごとカットしていくことで、自然にシート上の微粒子を巻き込みながらワークとブレードの間に微粒子を作用させていく方法がある。
この方法では、薄いシート状にあらかじめ高密度の微粒子を塗布しておく。切断ないしは溝加工する基板上に貼り付ける。
基板上の所定の部分を加工する際に、表面に貼り付けられた薄いシートとともに加工することになるが、その薄いシートを加工しながら基板を加工することで、薄いシートに塗布している微粒子をブレード表面に付着させながら、自然にブレード表面に微粒子を供給し、そのブレード表面に付着した微粒子を巻き込みながら基板を加工することが可能となる。
(ブレード加工装置)
本実施形態のブレード26は、上述したように、ワークWを延性モードで加工するためにダイヤモンド砥粒を焼結して形成されたダイヤモンド焼結体(PCD)、すなわち多結晶ダイヤモンドによって構成されるものであるが、脆性材料から構成されるワークに対しても、クラックや割れを発生させることなく、延性モードで安定して精度良く切断加工を行うためには、多結晶ダイヤモンドの表面(外周端部)には周方向に沿って連続した切れ刃が形成されている必要がある。そのため、後述するブレード加工装置を用いて、常時、または定期的もしくは不定期にブレード26に対する加工を行うことが望ましい。
以下、本発明に係るブレード加工装置の具体的な構成例(第1〜第4実施形態)について説明する。
<第1実施形態>
図26は、第1実施形態に係るブレード加工装置の構成例を示した概略図である。図26に示すように、第1実施形態に係るブレード加工装置200Aは、ブレード26に対して加工を行うブレード加工部202を備えている。このブレード加工部202は、切れ刃生成手段の一例であり、ブレード26を構成する多結晶ダイヤモンド26aの表面(外周端部)の結晶粒界部分を放電加工により選択的に除去することにより、多結晶ダイヤモンド26aの表面に切れ刃を生成する。
具体的な構成としては、ブレード加工部202は、多結晶ダイヤモンド26aに対向して配置された加工電極204と、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間に電圧を印加して放電を発生させる電源部206(電圧印加手段)と、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間に加工液を噴射して供給するノズル208(加工液供給手段)と、ブレード加工部202の各部を制御する制御部(不図示)とを備えている。
加工液としては、抵抗率が高い不導電性に近い液体が好ましく用いられ、例えば超純水が好適である。放電加工を行う場合には、被加工物である多結晶ダイヤモンド26aも不導体に近い状態であり、一部の導電性がある結晶粒界部分(焼結助剤)に大きな電界集中が発生する。その結果、電界集中効果もあいまって、放電加工により選択的に多結晶ダイヤモンド26aの結晶粒界部分の溶融が起こり、切れ刃の形成に寄与する。特に加工液として超純水を用いた場合には、油を用いた場合に比べて加工速度が高く、電極消耗率が低
く、比較的高効率に多結晶ダイヤモンド26aを放電加工することができる。
ここで、加工液として放電油を使用した場合、一部が熱分解性カーボンに変わって、多結晶ダイヤモンドをさらに脱離しやすくなり、結晶粒界のみならず、ダイヤモンド砥粒自体も大きく飛ばしてしまう。本発明の目的は、略等間隔の切れ刃を形成して延性モード加工を効率よく行うことであるが、時としてダイヤモンド砥粒自体が大きく脱離し、等間隔の切れ刃の形成を阻害したり、かえって多結晶ダイヤモンドが平坦になってしまって、切れ刃が形成されないこともある。
さらに、放電油を使用した場合においては、特に、半導体のワークや電子部品用のワーク材料にとってはコンタミネーションとなり、材料の特性を変化させてしまう。特に、放電油などの有機成分は、半導体材料や電子部品材料の加工においては、表面に付着してもなかなかとることができず、また、有機成分やカーボンが内部に浸透して、材料特性を変えてしまうことになる。
よって、ワーク表面の清浄性を考慮する上では、放電油をそのまま使用することはできず、本発明において多結晶ダイヤモンドに対する切れ刃再生を目的とする放電加工においては適用に際し、大きな阻害要因となる。
加工電極204は、多結晶ダイヤモンド26aに隙間をあけて対向して配置される。加工電極204は、帯状電極や円板状電極またはワイヤ電極などで構成される。例えば、加工電極204がワイヤ電極で構成される態様の場合には、ワイヤ供給部(不図示)からワイヤ電極を繰り出し、そのワイヤ電極をワイヤ回収部で巻き取るようにしており、その間を移動するワイヤ電極を被加工物である多結晶ダイヤモンド26aに対向させて放電加工を行う。なお、加工電極204の形状については、多結晶ダイヤモンド26aとの間に放電を発生させることできるものであれば特に限定されるものでない。
また、加工電極204は、金属電極か、あるいは加工液に溶出して金属イオンとなる電極材料(例えばカーボンなど)で構成されることが好ましい。上述したように加工液としては非導電性の液体が用いられるが、より電界集中による局部的な放電加工を助長するためには、加工電極204の電極材料を相手側の不導体(本例では多結晶ダイヤモンド)に付着させる必要がある。電極材料を付着させるには、イオン化することが望ましく、イオン化することで加工液内に微量に溶け込み、相手側の多結晶ダイヤモンドに付着するようになる。その後に、電界集中効果による放電により選択的な浸食効果が生まれる。
多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間隔、すなわち放電ギャップ(極間距離)としては、安定して放電を発生させるためには数μm〜数十μmが必要である。このような放電ギャップを維持することにより、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間に電圧を印加したときに絶縁破壊が発生する。
この放電ギャップを適正な状態で維持するために、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間の相対的な距離を変化させる放電ギャップ調整手段を備える態様が好ましい。放電ギャップ調整手段は、加工電極204を移動させる電極移動手段を有しており、この電極移動手段によって多結晶ダイヤモンド26aに対する加工電極204の位置を変化させることにより放電ギャップを調整する。電極移動手段としては、例えば、圧電素子、リニアモータ、モータ等の駆動装置により構成される。なお、加工電極204に代えて、多結晶ダイヤモンド26aを移動させてもよいし、あるいは加工電極204と多結晶ダイヤモンド26aの両方を移動させてもよい。
放電ギャップ調整手段を備えた態様によれば、放電ギャップを適正な状態で維持するこ
とができ、安定した放電加工を行うことが可能となる。また、放電加工に伴って加工電極204の摩耗(消耗)が進むこともあるが、加工電極204の摩耗の度合いに合わせて放電ギャップを調整することができるので、放電加工の加工精度を向上させることが可能となる。また、加工電極204の交換回数を減らすことができるとともに、加工電極204の交換に伴って発生する作業やコストを減らすことができ、作業効率を高めることができる。
また、放電ギャップ調整手段を備えた態様において、放電ギャップを検出する放電ギャップ検出手段を備えた態様がより好ましい。この場合、放電ギャップ調整手段は、放電ギャップ検出手段により検出された放電ギャップに基づき、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間の相対的な距離を変化させることにより放電ギャップが予め定められた設定値となるように調整する。これにより、放電加工に伴い発生する加工電極204の摩耗(消耗)の度合いに合わせて放電ギャップを自動的に調整することができるので、加工精度を高めることができ、放電加工の安定化を図ることが可能となる。
放電ギャップ検出手段としては、例えば、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との極間に発生する極間電圧を検出する極間電圧検出手段により構成される態様がある。この場合、放電ギャップ調整手段は、放電ギャップ検出手段(極間電圧検出手段)により検出された極間電圧に基づき、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間の相対的な距離を変化させる。なお、放電ギャップ検出手段は、上記態様に限らず、例えば、光学的、磁気的、電気的な各種方式を採用することができる。
また、本実施形態のブレード加工装置200Aでは、ブレード26を回転させながら放電加工が行われるため、加工電極204の摩耗が進んで加工電極204の一部が局所的に偏磨耗する場合がある。この場合、上述したように、放電ギャップ調整手段及び放電ギャップ検出手段を用いて放電ギャップを自動的に調節する態様が好適であるが、この態様に代えて、あるいは加えて、以下のような態様も好ましく採用することができる。
すなわち、加工電極204が偏磨耗した場合には、放電加工を中断して、ブレード26を回転させつつ加工電極204に対して相対的に移動させながら、ブレード26を加工電極204の表面に接触させることにより、加工電極204の表面を加工する。これにより、加工電極204の表面を補正して、加工電極204の偏磨耗を解消することができる。この態様によれば、放電加工に伴って磨耗した加工電極204の再生を行うことができるので、加工電極204の交換回数を減らすことができることができるとともに、加工電極204の交換に伴って発生する作業やコストを減らすことができ、作業効率を高めることができる。
電源部206は、一方の電極端子が多結晶ダイヤモンド26aに接続され、他方の電極端子が加工電極204に接続され、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間にパルス電圧を印加する。放電加工時の極性としては、多結晶ダイヤモンド26a側が陽極、加工電極204側が陰極となる態様が好適である。なお、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間に印加するパルス電圧のパルス幅、パルス間隔、電圧等の条件は、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間に放電を発生させるように電極材料、電極間距離、加工液の種類や供給量などに応じて適宜設定される。
また、電源部206は、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間の極性が交互に反転する両極性パルス電圧または交流電圧を印加する態様が好ましい。この態様によれば、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間の極性を交互に反転させつつ多結晶ダイヤモンド26aの表面の結晶粒界部分を放電加工することにより、多結晶ダイヤモンド26aへの電極材料の付着と脱離が繰り返され、効率的かつ局部的な放電加工が可
能となる。
以上のように構成されたブレード加工装置200Aでは、ワークWの加工前後あるいは加工中に所定の位置(放電加工位置)にブレード26を移動させた後、ブレード26を回転駆動させながら、ブレード26を構成する多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間に加工液を供給しつつ、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間にパルス電圧を印加して放電を発生させる。これにより、多結晶ダイヤモンド26aの表面(外周端部)の結晶粒界部分に電界集中を起こして浸食作用を起こし、その浸食部分が切れ刃として作用する。その結果、多結晶ダイヤモンド26aの表面に周方向に沿って連続した切れ刃を生成することができる。その後、ワークWに対する加工を行う場合には、ブレード26を元の位置(ワーク加工位置)に移動させて、ブレード26を回転駆動させてワークWの加工を行う。
なお、本実施形態では、一例として、ワークWの加工前後あるいは加工中にオフラインで放電加工を行う態様を示したが、これに限らず、ブレード26でワークWを加工しながらインプロセスで放電加工を行う態様も好ましく採用することができる。この態様によれば、多結晶ダイヤモンドの表面には常に新しい切れ刃が生成された状態でワークWに対する加工が行われるので、加工効率及び加工精度の向上を図ることができる。
次に、ブレード加工装置200Aによる切れ刃形成のメカニズムについて説明する。
まず、本発明に関連がある公知例としては、例えば特許第4451155号に開示されているような合成ダイヤモンドに放電加工を施す技術がある。
しかしながら、上記公知例における放電加工は、本発明の目的とする放電加工とは全く異なる。すなわち、この公知例では、CVD法により形成された導電性ダイヤモンドを使用している。CVD法で形成されたダイヤモンドの場合、結晶成長の度合いによって結晶粒界の位置がそれぞれ決定され、結晶粒界の大きさや間隔を恣意的に調整できるものではない、CVD法の条件や下地膜の状態によっても、結晶性は大きく変化してしまう。こうした結晶粒界が一意に設定できない場合、本発明の目的とする切れ刃生成には合致しない。
一方、本発明の場合、多結晶ダイヤモンドの表面に切れ刃の形成目的として放電加工を使用する。また、その切れ刃は、それぞれの切れ刃が一定の切り込み深さを設定するために一定間隔に存在する結晶粒界部分を切れ刃として使用する。多結晶ダイヤモンドではダイヤモンド砥粒は空間内に密に敷き詰められる。例えば、ダイヤモンド焼結体である多結晶ダイヤモンドの中に占めるダイヤモンド砥粒の含有率は通常80vol%以上であることが望ましい。また、ダイヤモンド砥粒同士が結合するためには、最低でも70vol%以上のダイヤモンド砥粒の含有率が必要となる。
このようにダイヤモンド砥粒を敷き詰めた形態にしておけば、そのダイヤモンド砥粒間に形成される結晶粒界は自動的に等間隔に形成される。この等間隔に形成された結晶粒界が切れ刃部分に相当し、結晶粒(ダイヤモンド砥粒)ごとに等間隔の切れ刃が形成される。等間隔の切れ刃は、一つの切れ刃が切込む切り込み深さが自動的にある範囲内に設定されるため、安定して所定の切込みが確保され、ワークに対して致命的なクラックを及ぼすような切込みにはならない。
多結晶ダイヤモンドの結晶粒界部分を切れ刃として使用するためには、結晶粒界部分を結晶粒部分(ダイヤモンド砥粒)と比較して相対的に深く浸食させることが重要になる。結晶粒の粒内部分は、単結晶であるが、結晶粒界部分は一部が結晶化していても不連続であるため、強度的に劣り、選択的に侵食されやすい部分ではある。その結晶粒界部分に電界集中を起こすことで選択的に侵食させ、結晶粒界を切れ刃とした連続切れ刃集合体として使用する。
連続切れ刃集合体を形成するためには、ダイヤモンド砥粒を高温高圧化で焼結し、焼成したダイヤモンド焼結体、すなわち多結晶ダイヤモンドが重要となる。その結果、結晶粒界部分が選択的に放電加工で除去されて、結晶粒界に沿った浸食作用によって、連続切れ刃集合体が形成される。
また、一定の切れ刃間隔を形成するための連続切れ刃集合体とするためには、切れ刃自体が連続して存在することが必要となる。そのためには、切れ刃は閉ループである必要がある。閉ループではなく途中で途切れてしまう場合、途切れた後にくる切れ刃が致命的な切り込みを与えることになる。閉ループの切れ刃を形成し、その上でその切れ刃を自転させると、無限に一定間隔の切れ刃が作用することになり、それぞれの切れ刃が絶えず、一定切込み範囲内で加工を行うことが可能となる。
なお、一定間隔の切れ刃が、結果的に一つの切れ刃が臨界切り込み深さ以下になるメカニズムは既に説明したとおりであり、ここでは説明を省略する。
ここで、CVD法で形成された導電性ダイヤモンドであって、ダイヤモンドにドーパントを使用する場合、結晶粒界部分だけに電界集中を起こしにくく、結晶粒界に基づく切れ刃形成が進みにくい問題がある。これは一概にドーパントを含むことが、すべて適さないわけではないが、相対的に結晶粒界部分を結晶粒部分と明瞭に区分けして放電加工を行うためには、ダイヤモンド砥粒自体は誘電体とし、結晶粒界部分に多少の導電性が残っていることは、結晶粒界部分が選択的に侵食することに寄与し、切れ刃形成に望ましい。
以上から、連続切れ刃集合体を形成するためにブレードに求められる要件を以下に列挙する。ただし、望ましい部分については必須要件ではない。
・ダイヤモンド焼結体(焼結ダイヤモンド)、すなわち多結晶ダイヤモンドは、ダイヤモンド砥粒を高密度に敷き詰めた焼結体で構成されるのが望ましい。最低でも体積中に砥粒が占める部分は70vol%以上が必要である。
・多結晶ダイヤモンドの焼結助剤としては、導電性焼結助剤であるほうが望ましい。
・導電性焼結助剤を使用すると、特に濃度が高い結晶粒界部分に電界集中が起こって選択的に消耗し、浸食作用による切れ刃形成に寄与する。
・多結晶ダイヤモンドはドーパントなどをあまり含まない方がよい。ドーパントは、結晶粒界と結晶粒部分の境界をあいまいにするケースがある。
・ブレードの外周端部に形成される切れ刃は閉ループである必要がある。円盤状ブレードの場合、ブレードが回転することで絶えず、一定間隔の切れ刃が作用し、安定して一定範囲内の切り込み深さで加工が進行する。
・ブレードは円盤状で一体的な構成であることが望ましい。一定間隔の切れ刃を形成する上でも、その母材の一様性が重要であり、母材は外周一周にわたって一体物であることが望ましい。
以上説明したように、第1実施形態に係るブレード加工装置200Aによれば、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間に加工液を供給しつつ、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間に電圧を印加して放電を発生させることにより、多結晶ダイヤモンド26aの表面の結晶粒界部分(導電性助剤)に電界が集中して選択的に除去されるので、多結晶ダイヤモンド26aの表面に連続した切れ刃を生成することができる。したがって、脆性材料から構成されるワークに対しても、クラックや割れを発生させることなく、延性モードで安定して精度良く切断加工を行うことが可能となる。
なお、ブレード26を構成する多結晶ダイヤモンド26aは、導電性の焼結助剤(例えばニッケルやコバルトなど)を用いてダイヤモンド砥粒を焼結したものに限らず、例えば、導電性の焼結助剤を含まない多結晶ダイヤモンドによって構成されるブレードに対してもブレード加工装置200Aを適用することが可能である。この場合でも、導電性の焼結助剤を含む多結晶ダイヤモンド26aに適用した場合と同様に、多結晶ダイヤモンドの表面の結晶粒界部分に電界集中を起こして浸食作用を起こすので、多結晶ダイヤモンドの表面に切れ刃を形成することが可能である。
<第2実施形態>
図27は、第2実施形態に係るブレード加工装置の構成例を示した概略図である。なお、図27では、先に示した図と共通する構成には同一の符号を付している。
図27に示すように、第2実施形態に係るブレード加工装置200Bは、加工液を貯留する加工槽210を備えている。加工槽210の内部には電極保持部212が設けられており、電極保持部212の上面に対向電極204が保持される。対向電極204の保持方法としては特に限定されるものではないが、例えば、真空吸着または機械的手段などを利用して電極保持部212の上面に対向電極204が保持される。
ブレード26は、上述したようにハブフランジ48を介してスピンドル28のスピンドル軸46に取り付けられている(図7参照)。スピンドル軸46の外周面には、ブレード側とスピンドル本体側との間を絶縁する絶縁層212が設けられている。
スピンドル軸46の外周面(絶縁層212よりもブレード側)には給電ブラシ214が接触し、給電ブラシ214は図示しない電源部の陽極端子に接続されている。一方、加工電極204の側面には給電端子216が接触し、給電端子216は図示しない電源部の陰極端子に接続されている。したがって、スピンドル軸46に装着されたブレード26を構成する多結晶ダイヤモンド26aは給電ブラシ214を介して陽極に設定されるとともに、加工電極204は給電端子216を介して陰極に設定される。なお、上述した第1実施形態と同様に、電源部は、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間の極性が交互に反転する両極性パルス電圧または交流電圧を印加する態様が好ましい。
また、ブレード加工装置200Bは、ブレード26を構成する多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間隔(放電ギャップ)を制御するサーボ機構218(放電ギャップ調整手段)を備えている。サーボ機構218は、ブレード26に対して加工電極204を相対的に移動させることにより、ブレード加工時に所望の放電加工が行われるように放電ギャップを制御する。ブレード26に対して加工電極204を相対的に移動させる方法としては、例えば、加工槽210の位置を変えずに加工槽210内で加工電極204のみを移動さてもよいし、加工槽210を移動させて加工槽210を共に加工電極204を一体的に移動させるようにしてもよい。また、加工電極204や加工槽210の位置を変えずに、ブレード26を移動させるようにしてもよい。また、ブレード26と加工電極204をそれぞれ移動させるようにしてもよい。
また、ブレード加工装置200Bは、加工槽210内に加工液を供給するノズル204を備えている。ノズル204は、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間の加工部分の近傍位置で開口しており、放電加工中は当該加工部分に加工液を局所的に供給する。これにより、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間の加工部分に加工液の流れをつくることができるので、放電加工により生じた不純物の影響を受けることなく放電加工を行うことが可能となる。
第2実施形態に係るブレード加工装置200Bによれば、ブレード26を回転させながら、ブレード26の先端部分(外周端部)を加工槽210に貯留された加工液に浸した状態で放電加工が行われるので、安定した環境下で効率的にブレード26に切れ刃を生成することができる。
<第3実施形態>
図28は、第3実施形態に係るブレード加工装置の構成例を示した概略図である。なお、図28では、先に示した図と共通する構成には同一の符号を付している。
図28に示すように、第3実施形態に係るブレード加工装置200Cは、ダイシング装置としての機能が組み込まれたものであり、ワークWを加工するワーク加工部302と、ブレード26を加工するブレード加工部304とを備えている。
ワーク加工部302は、図1に示したダイシング装置10の加工部20と基本的に同一の構成を有している。すなわち、スピンドル28の先端にブレード26が装着されており、ブレード26がワークWに対して相対的に移動することによってワークWを加工する。ブレード26はワークWに対して所定の切込みを設定した後に、スライドさせることで加工を行う。ブレード26の回転数と、ブレード26の相対的な送り速度を適正に選択することによって、一つの切れ刃が所定の切り込み深さ以上に設定されないようになり、延性モード加工を行う。
ブレード加工部304は、ワーク加工部302に隣接した位置に配置されている。ブレード26は、スピンドル28の先端に装着された状態で、図示しないスピンドル移動機構によりワーク加工部302とブレード加工部304との間を移動可能に構成される。なお、図28では、好ましい態様として、ワークWに対するブレード26の相対移動方向(図の左方向)に沿って上流側から順にワーク加工部302とブレード加工部304とが並設される構成を示したが、これに限らず、例えば、ブレード26の回転軸に平行な方向にワーク加工部302とブレード加工部304とが並設されていてもよい。
ブレード加工部304は、第1実施形態に係るブレード加工装置200Aと基本的に同一の構成を有しており、加工電極204と、電源部206と、ノズル208とを備えている。
加工電極204は、ブレード加工部304にブレード26が移動した状態において、ブレード26を構成する多結晶ダイヤモンド26aに対向して配置される。なお、加工電極204は、L字状の連結部材312を介してワークテーブル支持部材314に連結されており、ワークテーブル30と一体的に移動可能に構成されている。
電源部206は、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間にパルス電圧を印加して放電を発生させる。図28では、一例として、電源部206が直流電源により構成され、多結晶ダイヤモンド26a側が陽極、加工電極204側が陰極となる態様を示したが、上述した第1実施形態と同様に、例えば、電源部206が交流電源により構成され、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間の極性を交互に反転させる態様も好適である。
ノズル208は、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間に加工液を噴射して供給するものであり、上述した第1実施形態と同様に、加工液として超純水を用いる態様が好適である。
第3実施形態に係るブレード加工装置200Cによれば、ブレード26をワーク加工部302からブレード加工部304に移動させた後、ブレード加工部304において、ブレード26を回転駆動させながら、ブレード26を構成する多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間に加工液を供給しつつ、多結晶ダイヤモンド26aと加工電極204との間にパルス電圧を印加して放電を発生させる。これにより、ブレード26の表面(外周端部)の結晶粒界部分に切れ刃の形成を行い、密に敷き詰められたダイヤモンド砥粒ごとに略等間隔の切れ刃の生成・再生を行う。
<第4実施形態>
図29は、第4実施形態に係るブレード加工装置の構成例を示した概略図である。なお、図29では、先に示した図と共通する構成については同一の符号を付している。
図29に示すように、第4実施形態に係るブレード加工装置200Dは、上述した第3実施形態と同様に、ダイシング装置としての機能が組み込まれたものであり、特に本実施形態においてはワーク加工部302とブレード加工部304とが一体化された構成を有している。
具体的な構成としては、ブレード加工装置200Dは、ブレード26を包囲するブレードカバー(フランジカバー)316を備えている。ブレードカバー316はスピンドル28側に固定されており、ワークWに対してブレード26が移動するとき、フランジカバー316はブレード26と一体となって移動する。
ブレードカバー316の内側(ブレード対向面)には、ブレード26に対して隙間をあけて対向配置された加工電極204が取り付けられている。
また、ブレードカバー316の内側には、ブレード26と加工電極204との間に加工液を供給するノズル208が設けられている。
第4実施形態に係るブレード加工装置200Dによれば、ワークWを加工する際にワークWに対してブレード26が移動するとき、ブレードカバー316の内部に取り付けられた加工電極204はブレード26と一定の間隔(放電ギャップ)を保った状態でブレード26と一体となって移動する。これにより、ワークWを加工しながらブレード26を構成する多結晶ダイヤモンド26aの表面(外周端部)の放電加工を行うことができる。すなわち、ブレード先端部の切れ刃形成とワークWの加工とを同時に行うことが可能となり、効率的な加工を行うことができる。
ここで、上述した説明と一部重複する部分もあるが、第3実施形態に係るブレード加工装置200Cや第4実施形態に係るブレード加工装置200Dの特徴的な構成を以下に列挙する。
(単極性と両極性)
第3実施形態に係るブレード加工装置200Cと第4実施形態に係るブレード加工装置200Dはいずれも、加工対象となるブレード側を陽極としてブレード表面からの溶出や放電を助長する態様を一例として採用したが、単極性のパルス電圧を印加する態様に限らず、両極性パルス電圧や交流電圧を印加する態様も好適である。このような態様によれば、ブレード面に金属イオンを付着させる工程と脱離する工程とが交互に進み、効率的に多結晶ダイヤモンドの表面の結晶粒界部分の放電による切れ刃形成、ないしは一部電解溶出による切れ刃形成が行われる。特に、結晶粒界部分に電界集中が起こることから、結晶粒界部分が他と比べて選択的に付着が進行し、それともに、選択的に脱離が起こる。
(絶縁構成)
また、ブレードのスピンドルへの取り付け構成として、ブレードは、スピンドルに対して絶縁されていることが望ましい。スピンドルとブレードを絶縁する方法としては、いくつか考えられるが、たとえば、ブレードを同軸砥石で成形し、その軸部分の途中をセラミックスで構成し、軸内で絶縁する方法がある。
また、別の方法として、ブレードを固定するためのフランジとブレード面とを絶縁する方法もある。これはたとえば、ブレードを支える端面をアルマイト処理して、導通をなくしてしまう方法などである。なお、ブレードへの給電方法は、単純なブラシを軸に接触させるなどして構わない。
(同一スピンドルの効果)
ワーク加工する部分と、ブレード加工(切れ刃生成・切れ刃再生)する部分とは、ブレードが同一スピンドルに取り付けられた状態でそれぞれ行うのが望ましい。第3実施形態に係るブレード加工装置200Cや第4実施形態に係るブレード加工装置200Dはいずれも同一のスピンドル28に取り付けられた状態で行われる。仮に、一のスピンドルにブレードを装着した状態でブレード加工を行った後、別のスピンドルに装着してワークを加工する場合、必ずといっていいほど、取り付け誤差が存在する。取り付け誤差として、たとえば、同軸度がずれた場合は、ブレード先端の切れ刃は設定した切れ刃間隔でワークに作用しない。軸ずれ量に応じて、片あたりしてしまうため、原理的にすべての等間隔の切れ刃が安定して作用する延性モード加工にはならない。断続的な切れ刃の作用により、ワーク表面にクラックが生じてしまう。また、振れの問題も少なからず存在する。特に、細いブレードの場合、ブレード先端を一直線上に作用させることが一定間隔の切れ刃を作用させる上で重要になるが、ブレードにある程度の振れがある場合、一直線上に作用せずに微小に蛇行するようになるため、原理的に一定間隔の切れ刃が絶えず作用することではなくなり、結果的に延性モード加工が進行しなくなる。第3実施形態に係るブレード加工装置200Cや第4実施形態に係るブレード加工装置200Dでブレード加工を行う場合、ブレードを回転させながら、対向電極に作用させて放電加工を行うため、仮に、最初に同軸度や振れがあったとしても、切れ刃形成の過程で微小に修正され、同軸精度、振れ精度ともに向上する。そのため、取り付け誤差の問題は存在しない。
(一定切込みによるスライドの効果)
第3実施形態に係るブレード加工装置200Cや第4実施形態に係るブレード加工装置200Dにおいては、ワークはブレードに対して一定深さの切込みを与え、その切込みを維持するようにスライドさせながら加工することが望ましい。先に示した数式にもあるとおり、一つの切れ刃が安定して、所定の切り込み量以上にならないように設定することが可能となり、延性モード加工が可能となる。
(環境、コンタミネーションの効果)
さらに、先ほどの同一スピンドルでブレード先端部の加工を行う場合、ワーク加工部分とブレード加工部分は比較的近い位置に設定することが望ましい。
近年、Siなどの半導体材料やSiC、GaN、硬質ガラスなどの電子部品材料を加工する場合、ワーク材料として使用される材料は、コンタミネーションを嫌う傾向にある。すなわち、汚染物質が存在すると、それがワーク表面に付着して材料内部に浸透したりしてワーク材料のもつ特性そのものを台無しにしてしまうからである。
工作機械では切削油などを使用するが、半導体や電子部品材料では、切削油などの使用はコンタミネーション(汚染)の点で使用されない。
放電油なども、切削油と同様に、コンタミネーションの点で使用に支障をきたすことが多い。半導体や電子部品材料の加工では、通常加工に純水を使用する。純水であれば、コンタミネーションの点でワークに悪影響を及ぼすことはない。
(鋭利な切れ刃形成における放電油の影響)
放電加工において放電油は熱分解性カーボンを発生する。この熱分解性カーボンがワーク表面に付着するとワーク表面が完全にカーボンで汚染されてしまう。また、熱分解性カーボンの付着とともに、放電加工の熱でダイヤモンド表面のグラファイト化を促進する。その結果、結晶粒界ではなく、砥粒自体を侵食することになり、鋭利な切れ刃を形成することができなくなる場合がある。
(加工液として純水を使うことの効果)
加工液(放電液)として、純水を使用することが望ましい。純水は不導体液であり、さらに加工対象となるブレードも多結晶ダイヤモンドであり不導体に近い材料である。このような構成では、特に結晶粒界部分にきわめて大きい電界集中が起こり、浸食作用によって切れ刃部分だけが選択的に加工されるようになる。それによって、ダイヤモンド砥粒に沿った等間隔な切れ刃形成が可能となる。
(流水を使うことの効果)
また、加工液としては、持続的な不導体液としての効果を発揮するためには、流水で行うことが望ましい。これは、放電環境として、絶えず安定した絶縁状態を保たせる必要があるためである。また、一度使用した液体を再度使用しないためには、ワンパスとし、たとえば少し傾けた電極に沿って傾斜で流すようにすることが望ましい。
(電極として金属電極を使うことの効果)
また、加工液として純水を使用し、その上で流水として環境の安定化を図る一方、対向電極としては金属製の電極であることが望ましい。通常、純水で加工する場合、不導体ならば純水部分は電気を通すことはないが、これは一部金属電極を使用することで局所的に電気を通すことが起こりうる。すなわち、電極材料の一部が純水内に溶け込んで、電気的なパスを形成し、その結果、電極材料の一部がワーク材料表面に極微量だが付着する。次に、その付着した電極材料がそのままブレード表面に付着し、それを放電加工で除去する。特に電極材料が付着するようにするには、電極材料は金属であることが必要であり、また、純水中を金属イオンが移動して、対向するブレード面に付着する。その付着した結果は、ワーク表面の分析結果からも明らかとなっている。
なお、上述した各実施形態では、多結晶ダイヤモンド26aの表面の結晶粒界部分を放電加工により除去するものであるが、これに限らず、電解加工により除去するものであってもよい。電解加工を行うブレード加工部の構成については、放電加工を行うブレード加工部202(図26参照)の構成と基本的には同様であり、ここでは詳細な説明を省略する。
次に、電解加工のメカニズムについて、従来の電鋳ブレード(電鋳法による金属の結合材を使用したブレード)に適用した場合(比較例)と、ダイヤモンド砥粒を焼結した多結晶ダイヤモンドに適用した場合(本発明)とを対比しながら詳しく説明する。
(従来の電鋳ブレードに適用した場合)
従来の電鋳ブレードに対して電解加工を行った場合、従来の電鋳ブレードにおいて金属の結合材が使用されるため、図30に示すように電界集中はなく、電鋳ブレードの表面の酸化が同時に進み、全体的に電解溶出がまばらに進む。また、多結晶ダイヤモンドにより構成されるブレードとは違って、電鋳ブレードには粒界などは存在せず、単に結合材の後退が進み、次のダイヤモンド砥粒が出てくる。
このメカニズムをさらに詳しく説明すると、電鋳ブレードではダイヤモンド砥粒よりも金属の結合材部分が占める割合が多く、溶出する際も結合材部分がリッチな所から緩やかに溶け出す。また、ダイヤモンド砥粒は不導体(誘電体)であるため、ダイヤモンド砥粒の付近には電流が流れない。したがって、ダイヤモンド砥粒の付近は結合材が残ってダイヤモンド砥粒の先端を覆う。一方、ダイヤモンド砥粒同士の間隔が広いところは、結合材である金属成分がリッチであるため、この部分が緩やかに溶出する。その結果、ダイヤモンド砥粒付近が盛り上がってダイヤモンド砥粒のエッジを覆う一方、ダイヤモンド砥粒間は大きく凹む形で弓なりに溶出する。結果として、鋭利な切れ刃は生じにくい。
また、このような金属材料(結合材)が表面にある場合、表面に電界集中が起こらないばかりか、逆に電解液が電気分解されることがある。電解液が電気分解されると電鋳ブレードの表面を酸化膜が覆ってしまうようになるため、電解溶出がまばらになり、一様に電解溶出しない。さらに、溶出過程で鋭利なエッジ形成ができないばかりか、エッジ形成される頃には、ダイヤモンド砥粒の下地が剥がれ落ち、ダイヤモンド砥粒自体がすぐ脱落する。
(ダイヤモンド砥粒を焼結した多結晶ダイヤモンドに適用した場合)
ダイヤモンド砥粒を焼結した多結晶ダイヤモンドの表面はダイヤモンドリッチであるため、焼結助剤部分に電界集中が起こる。多結晶ダイヤモンドは金属めっきされた砥石などとは異なり、ダイヤモンド砥粒同士が結合しあっているが、結合しているダイヤモンド砥粒においても、焼結助剤がリッチな部分とそうでない部分が存在する。
電界溶出で多結晶ダイヤモンドを電解加工する場合、図31に示すように、特に焼結助剤がリッチな部分に電界が集中する。たとえば、焼結助剤としてCo(コバルト)やNi(ニッケル)などを使用すると、ダイヤモンド砥粒の中において、微小な焼結助剤のCoやNiの濃度が高い部分に電界集中が起こり、その部分が選択的に溶出する。その結果、結晶粒界に沿った浸透作用・浸食作用が顕著になる。その浸透・浸食作用は、鋭利な切れ刃形成に寄与する。すなわち、浸透・浸食作用が発生すると、深い裂け目のような形態で結晶粒界を際立たせて、鋭利な切れ刃が形成される。溶出は結晶粒界部分から選択的に起こる。ダイヤモンド砥粒間は、極めて近いため、粒界間を浸食するように深く作用する。この浸食作用が、新たな切れ刃形成に大きく寄与する。
ダイヤモンド砥粒の脱落を早めることなく、浸食作用によりたえず鋭利なエッジを形成する。また、多結晶ダイヤモンドの表面の摩滅したダイヤモンド砥粒は、結晶粒界への侵食により脱落していく。なお、ダイヤモンド砥粒の脱落後、その隣接する部分もダイヤモンド砥粒であるため、依然ダイヤモンド砥粒の間隔は略均一な状態となる。こうした一定間隔の切れ刃形成は、延性モード加工を行う上で不可欠になる。
また、多結晶ダイヤモンドを電解加工する場合、放電加工する場合と同様に、多結晶ダイヤモンドと加工電極との間の極性を交互に反転させる電圧を印加する態様(すなわち、交番電場を印加する態様)が好ましい。ダイヤモンド砥粒は誘電体ないしは不導体であるため、電界溶出といってもなかなか溶出は進行しない。そのとき、多結晶ダイヤモンドと加工電極との間の極性を交互に反転させる電圧を印加することにより、多結晶ダイヤモンド側が陽極になったときは、多結晶ダイヤモンドの表面から電解溶出により焼結助剤の溶出が進む一方で、多結晶ダイヤモンド側が陰極になったときには、金属イオンなどの導電性イオンが多結晶ダイヤモンドの表面に付着する。このように付着と溶出を繰り返すことで、誘電体である多結晶ダイヤモンドの表面であっても電解加工の進行を可能とする。
ただし、電解加工においても、ダイヤモンド焼結助剤の焼結助剤がリッチな粒界部分と粒界部分ではないダイヤモンド砥粒部分との溶出量の差があまりない加工の場合、本発明の目的には合致しない。本発明の目的は、多結晶ダイヤモンドで製作されたブレードにおいて、鋭利な切れ刃を生成ないしは再生することであるので、電解加工において、焼結助剤がリッチな粒界部分は大きく浸食される一方で、粒界以外の部分(ダイヤモンド砥粒部分)はあまり溶出が進行しない方が望ましい。
ここで、多結晶ダイヤモンド内でも焼結助剤が比較的多く存在する粒界部分は、特に電界が集中する。そのため、多結晶ダイヤモンドの表面が陰極になった場合において、導電性イオンが付着する部分も、焼結助剤が存在する粒界部分に電界が集中して焼結助剤付近に導電性イオンが付着する。導電性イオンの付着と溶出が、焼結助剤が比較的多く存在する粒界部分で繰り返されるようになり、焼結助剤が多く存在する粒界部分の選択的な浸食をさらに助長する。
なお、加工液としても様々な電解液を使用することが可能であり、従来は放電オイルを使用することで熱分解性カーボンが表面に付着し、それが陽極に変わった時に脱離することでダイヤモンド表面が加工されていた。一方、本発明者等の更なる検討によると、電解液としてカーボンを含む放電オイルでなくても、脱イオン水や純水などでも多結晶ダイヤモンドの表面を加工できることが明らかになってきた。
例えば加工液として脱イオン水が用いられる場合、加工液中に少量のイオンは存在するので、特に多結晶ダイヤモンドの金属の焼結助剤付近にできる電界集中が、少量のイオンとともにさらに顕著になり、局所的な浸食効果に大きく寄与する。その結果、ダイヤモンド砥粒部分ではなく粒界部分のみが顕著に浸食し溶出加工されることになる。特に、交番電場を印加する態様と組み合わせることで好適に浸食させることが可能となる。
また、本発明者等の更なる検討では、加工液として超純水を用いる場合でも、多結晶ダイヤモンドの表面の焼結助剤を選択的に電界溶出できることを見出した。本来は、多結晶ダイヤモンドと加工電極との間に介在させる加工液として超純水を使用した場合、超純水は導電性がないために、多結晶ダイヤモンド焼結体の表面において電界溶出が起きるはずはない。
しかし、多結晶ダイヤモンドの表面に対向する加工電極として金属電極を使用し、また、上述した交番電場を印加する態様と組み合わせることで多結晶ダイヤモンドの電界溶出が可能となった。このときのメカニズムとして定かではないが、交番電場を使用することで一旦電極材料の金属が金属イオンとなって溶出し、対向する多結晶ダイヤモンドの表面に付着し、さらに、その付着した部分が溶出して加工されるというメカニズムが明らかになってきた。
このとき、溶け出した金属イオンはきわめて微量である他、対向する多結晶ダイヤモンドも誘電体であるため、多結晶ダイヤモンドの中でも焼結助剤の濃度が高い極浅いエリアだけに電界が集中する。その結果、対向する加工電極から溶け出した金属イオンは、自身で加工液(超純水)内に選択的な電気的なパスを形成し、焼結助剤付近にのみに付着するようになる。次に、焼結助剤付近にのみ付着した金属イオンが焼結助剤とともに溶け出して、さらに顕著に多結晶ダイヤモンドの結晶粒界部分、すなわち焼結助剤が多く存在する部分が選択的に溶出する。
このように、電界集中を起こしながら、多結晶ダイヤモンドの表面の結晶粒界部分、すなわち焼結助剤付近だけを選択的に溶出させる場合、導電率のきわめて低い超純水を加工液として使用し、その加工液内に電気的なパスを作るためには、多結晶ダイヤモンドに対向する加工電極は、加工液の中に溶け出して金属イオンとなる電極材料で構成されることが望ましい。なお、本実施形態では、一例として、加工電極の電極材料として銅タングステン合金(Cu−W)を用いたが、これに限らず、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)などの他、溶出して金属イオンとなる電極材料であれば好適に用いることができる。
また、こうした電極材料を溶出させて、多結晶ダイヤモンドの表面の焼結助剤部分に選択的に付着させ、溶出させるには、上述した交番電場を印加する態様と組み合わせることが望ましい。加工液として電気を通しにくい電解液を使用し、多結晶ダイヤモンドに電界集中を起こしながら、付着と脱離を繰り返させると、理想的な浸食作用が起こり、その結果、理想的な切れ刃を形成することができる。
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。以下、変形例について説明する。
(変形例1)
上述した各実施形態では、多結晶ダイヤモンド26aで構成されるブレード26に対して電気加工(放電加工または電解加工)を行う場合について説明したが、これに限らず、同様な構成を有する工具(例えば、砥石など)に対しても、ブレード加工装置と同様な構成を有する加工装置により電気加工(放電加工または電解加工)を行うことも可能であり、上述した各実施形態と同様な作用効果を得ることができる。
(変形例2)
上述した各実施形態では、ブレード加工装置の水平方向に延びる主軸(スピンドル28)に対してブレード26が装着された例について説明したが、これに限らず、カップ型砥石のように主軸が垂直になっている場合でも適用可能である。