JP6422156B2 - 吸着除去フィルター及び吸着除去方法 - Google Patents
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本発明者は、更に試行錯誤を続け、フラーレンは球状なので、π活性面が小さく、電荷を有する置換基を安定に保持することができないのではないかと考え、フラーレンより合成され、一般に、直径が数nmで長さ数百μmの柱状の物質であるフラーレンナノウィスカーを用いれば、π活性面が長く、かつ、広いので、電荷を有する置換基を安定に保持でき、電荷を有する置換基を有する芳香族炭化水素や多環式芳香族炭化水素でも吸着可能であるのではないかと考察するに至った。
そこで、フラーレンナノウィスカーを吸着除去剤として疎水性の有害有機物の吸着除去の実験を行い、フラーレンナノウィスカーがベンゼン、アニリン及び安息香酸を非常に良く吸着し、有害有機物を容易に除去できることを見出して、本発明を完成した。
本発明は、以下の構成を有する。
(2) 前記フラーレンナノウィスカーが、長さ4.23μm以上10.39μm以下であり、径0.363μm以上0.669μm以下であることを特徴とする(1)に記載の吸着除去フィルター。
(4) 芳香族炭化水素および多環式芳香族炭化水素を吸着除去する方法であって、吸着除去目的物たる芳香族炭化水素や多環式芳香族炭化水素が溶解された水溶液を、(1)〜(3)のいずれかに記載の吸着除去フィルターに通過させる工程を有することを特徴とする吸着除去方法。
(6) 前記攪拌工程の後に、撹拌した水溶液を、遠心分離及びフィルター分離処理して、前記水溶液からフラーレンナノウィスカー粉末を分離する工程と、を有することを特徴とする(5)に記載の吸着除去方法。
(吸着除去フィルター)
まず、本発明の実施形態である吸着除去フィルターについて説明する。
図1は、本発明の実施形態である吸着除去フィルターの一例を示す模式図であって、平面図(a)及び(a)のA−A’線における断面図(b)である。
図1(a)に示すように、本発明の実施形態である吸着除去フィルター1は、平面視略円形状とされている。しかし、これに限られるものではない。
吸着除去膜11は、支持フィルター21の一面に形成されている。
吸着除去膜11の膜厚tは100nm以上とされている。100nm未満では、十分吸着除去できない。
吸着除去膜11は、フラーレンナノウィスカー31が凝集されてなる。
フラーレンナノウィスカー31の隙間31cを介して、一面側から他面側に水を通過させることができる。
図3は、フラーレンナノウィスカーの一例を示す斜視図である。
また、図4は、フラーレンナノウィスカーの一例を示す側面図である。
フラーレンナノウィスカー31は、六方晶形状の繊維状の物質である。フラーレン32が凝集されて合成された柱状の物質である。最初は、チタン酸ジルコン酸鉛のコロイド内にフラーレンを入れて製造された。フラーレンナノウィスカーは、C60の分子結晶の二倍以上のヤング率を持ち、曲げて変形できる。
フラーレンナノウィスカー31は液・液界面折出法で合成する。
まず、C60飽和トルエン溶液にイソプロピルアルコールを加える。
次に、21℃以下で所定時間、保存する。これにより、底に綿状成長物が形成される。この形成時に光を遮断すると綿状成長物(C60ナノウィスカー)が成長しないこと、C60ナノウィスカーの成長速度は光の波長に依存することに留意する。
フラーレン32は、炭素原子が閉じ、分子内には大きな隙間があるカゴ状の分子である。フラーレンにはサッカーボール状のC60(カーボン60)とラグビーボール状のC70(カーボン70)などがある。フラーレン分子は炭素の二重結合と一重結合とでできている。C60は、表面に活性面を有し、高体積弾性率、低摩擦係数、超伝導発現、高い電子受容性、水素化物の形成、光・電子線照射、高温・高圧作用によるポリマー化、様々な誘導体形成、抗菌作用(活性酸素発生)などの特性を示す。
吸着除去したい芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼンのような、電荷のない芳香族炭化水素だけでなく、アニリンのような、ベンゼン環にアミノ基が1つ結合し、水中で+電荷を有する置換基を備える芳香族炭化水素や、安息香酸のような、ベンゼン環にカルボキシル基が1つ結合し、水中で−電荷を有する置換基を備える芳香族炭化水素を挙げることができる。
また、ベンゼン環が多数反応した高分子である多環式芳香族炭化水素であってもよい。
図5は、フラーレンナノウィスカーの吸着機構の一例を示す説明図である。
フラーレンナノウィスカーにベンゼンが近づくと、π活性面同士が連結し、吸着される。
水中で+電荷を帯びたアニリンや、−電荷を帯びた安息香酸が近づいた場合も、複数のフラーレンが連結し、π活性面を長く、かつ、広く形成するので、安定して吸着保持できる。
フラーレンにベンゼンが近づくと、π活性面同士が連結し、吸着される。
一方、水中で+電荷を帯びたアニリンや、−電荷を帯びた安息香酸が近づいた場合は、電荷を帯びた置換基が結合を不安定化し、安定して吸着保持できない。
本発明の実施形態である芳香族炭化水素や多環式芳香族炭化水素の吸着除去方法は、吸着除去フィルター1を用いて、吸着除去目的物たる芳香族炭化水素や多環式芳香族炭化水素が溶解された水溶液を通過させる工程と、を有する。吸着除去フィルター1内のフラーレンナノウィスカー31の隙間を水が通過するときに、フラーレンナノウィスカー31の表面に芳香族炭化水素や多環式芳香族炭化水素が吸着する。これにより、フィルターを通過させた水に溶解された芳香族炭化水素や多環式芳香族炭化水素の量を少なくすることができる。
本発明の実施形態である芳香族炭化水素や多環式芳香族炭化水素の吸着除去方法は、吸着除去目的物たる芳香族炭化水素や多環式芳香族炭化水素が溶解された水溶液に、フラーレンナノウィスカー粉末を分散させる工程と、室温±10℃の温度範囲内で、2時間以上攪拌する工程と、を有する。攪拌時、フラーレンナノウィスカー31の表面に芳香族炭化水素や多環式芳香族炭化水素が吸着する。これにより、フィルターを通過させた水に溶解された芳香族炭化水素や多環式芳香族炭化水素の量を少なくすることができる。
<水溶液(ベンゼン水溶液)の調整>
まず、ベンゼン(benzene:Bz)100mlと脱イオン水(超純水)100mlを三角フラスコに注ぎ、密封した。
次に、12時間攪拌した。
次に、一晩静置した。
ベンゼンと分離して得られた、ベンゼンを溶解した水溶液を第1の水溶液とした。
第2の水溶液(初期溶液)における被吸着物質の吸着前の濃度を、全有機炭素計(total organic carbon analyzer)で測定した。全有機炭素計は、水溶液中の有機物の濃度を測定する装置である。
まず、非特許文献3に記載の方法で、フラーレンナノウィスカー(C60 fullerene nanowhisker:FNW)を合成した。
次に、顕微鏡観察を行い、フラーレンナノウィスカーの直径や長さを調べた。
次に、ほぼ同じ長さと直径のフラーレンナノウィスカーを採取した。
次に、第2の被水溶液(初期溶液)6cm3を試料ビン(密封容器:ストッパー付きガラスボトル)内に注入し、FNWを20mg添加した。
次に、所定時間(2時間又は3時間)、攪拌した。
次に、0.2μmフィルター(ディスポーザブル・フィルター)で濾過した。
第2の水溶液(初期溶液)における被吸着物質の吸着後の濃度を、全有機炭素計で測定した。
式(1)に従い、ベンゼンの吸着量Aを算出した。ここで、Vは容積であり、C0は吸着前の溶液の濃度であり、Cは吸着後の溶液の濃度であり、Wは吸着剤の重さである。
平衡濃度は、吸着処理が平衡に達したときの溶液の濃度であり、吸着等温線は、一定の温度下で平衡濃度の変化による吸着量を示したグラフである。
平衡濃度を1mmol・dm−3〜9mmol・dm−3とした他は実施例1−1と同様にして、それぞれベンゼンの吸着実験を行った。
FNWの代わりに、市販のフラーレン(C60:Fl)を用い、平衡濃度を1mmol・dm−3とした他は実施例1−1と同様にして、ベンゼンの吸着実験を行った。
平衡濃度を1.1mmol・dm−3〜9.1mmol・dm−3とした他は比較例1−1と同様にして、ベンゼンの吸着実験を行った。
図8の黒丸が、(式1)により求めた吸着量に基づく、フラーレンナノウィスカーによるベンゼンの吸着除去についての吸着等温線である。フラーレンナノウィスカーは非常に多くのベンゼンを吸着した。
また、図8の白四角は、フラーレンを用いたベンゼンの吸着除去の吸着等温線である。フラーレンナノウィスカーとほぼ同じ程度の吸着量を示した。
つまり、F1とFNWでBz吸着特性に違いは見られなかった。これは、フラーレンとフラーレンナノウィスカーの比表面積がほぼ同じ値であるためと考えられる。
まず、超純水を用いて、10mmol・dm−3のアニリン(aniline:An)溶液を調製した。
まず、非特許文献3に記載の方法で、FNWを合成した。
次に、第3の水溶液(初期溶液)を試料ビン(密封容器)内に注入し、FNWを20mg添加した。
次に、所定時間、攪拌した。
次に、0.2μmフィルターで濾過した。
これにより、アニリンの吸着量を算出した。
平衡濃度を1.5mmol・dm−3〜11mmol・dm−3とした他は実施例2−1と同様にして、それぞれアニリンの吸着実験を行った。
FNWの代わりに、市販のフラーレン(C60:Fl)を用い、平衡濃度を1mmol・dm−3とした他は実施例1−1と同様にして、アニリンの吸着実験を行った。
平衡濃度を2.3mmol・dm−3〜12mmol・dm−3とした他は比較例2−1と同様にして、アニリンの吸着実験を行った。
F1とFNWでAn吸着特性に違いは見られた。
FNWは、Anをよく吸着したが、F1はほとんど吸着しなかった。
<被水溶液(安息香酸水溶液)の調整>
まず、超純水を用いて、10mmol・dm−3の安息香酸溶液を調製した。
まず、非特許文献3に記載の方法で、FNWを合成した。
次に、第4の水溶液(初期溶液)を試料ビン(密封容器)内に注入し、FNWを20mg添加した。
次に、所定時間、攪拌した。
次に、0.2μmフィルターで濾過した。
これにより、安息香酸の吸着量を算出した。
平衡濃度を2mmol・dm−3〜9mmol・dm−3とした他は実施例3−1と同様にして、それぞれ安息香酸の吸着実験を行った。
FNWの代わりに、市販のフラーレン(C60:Fl)を用い、平衡濃度を1mmol・dm−3とした他は実施例3−1と同様にして、安息香酸の吸着実験を行った。
平衡濃度を2mmol・dm−3〜9.5mmol・dm−3とした他は比較例3−1と同様にして、安息香酸の吸着実験を行った。
F1とFNWで安息香酸の吸着特性に違いは見られた。
FNWは、安息香酸をよく吸着したが、F1はほとんど吸着しなかった。
FNWの代わりに、メソポア材(FSM−16)を用い、平衡濃度を0.1mmol・dm−3とした他は実施例1−1の同様にして、安息香酸の吸着実験を行った。
FSM−16は、珪酸塩多孔体に一種でカネマイトという粘土鉱物(層状ケイ酸塩)と界面活性剤から合成される材料であり、直径数nmのメソ孔がある。カネマイトに界面活性剤をインターカレーションしたのちに、550℃で焼成して、直径4nmのメソポア孔を形成して合成したものである。
平衡濃度を0.2mmol・dm−3〜1.5mmol・dm−3とした他は比較例4−1と同様にして、それぞれ安息香酸の吸着実験を行った。
FNWの代わりに、メソポア材(FSM−16)を用い、平衡濃度を0.1mmol・dm−3とした他は実施例3−1と同様にして、ベンゼンの吸着実験を行った。
平衡濃度を0.2mmol・dm−3〜1.5mmol・dm−3とした他は比較例5−1と同様にして、それぞれ安息香酸の吸着実験を行った。
図11の白丸は、比表面積の大きいFSM−16を用いたベンゼンの吸着例である。F1とFNWに対して、メソポワ剤FSM−16のBz吸着特性は非常に低かった。
メソポワ剤FSM−16の安息香酸の吸着特性も非常に低かった。
FNWの代わりに、市販のパイロフィライトを用い、平衡濃度を3mmol・dm−3とした他は実施例12−1と同様にして、アニリンの吸着実験を行った。
パイロフィライトは、粘土鉱物の一種である。
平衡濃度を3.3mmol・dm−3〜14.5mmol・dm−3とした他は比較例6−1と同様にして、それぞれアニリンの吸着実験を行った。
FNWの代わりに、市販のモンモリロナイトを用い、平衡濃度を1mmol・dm−3とした他は実施例2−1と同様にして、アニリンの吸着実験を行った。
モンモリロナイトは、粘土鉱物の一種である。
平衡濃度を1.5mmol・dm−3〜17mmol・dm−3とした他は比較例7−1と同様にして、それぞれアニリンの吸着実験を行った。
FNWの代わりに、市販のパイロフィライトを用い、平衡濃度を1.3mmol・dm−3とした他は実施例3−1と同様にして、安息香酸の吸着実験を行った。
平衡濃度を1.5mmol・dm−3〜11mmol・dm−3とした他は比較例8−1と同様にして、それぞれ安息香酸の吸着実験を行った。
FNWに対して、パイオフィライトのAn吸着特性は非常に低く、F1よりも低かった。
FNWに対して、モンモリライトのAn吸着特性はF1と同程度に低かった。
パイロフィライトの安息香酸の吸着特性も非常に低かった。
フラーレンナノウィスカーに関して:
ベンゼン:傾き、0.0588 R2=0.69867
アニリン:傾き、0.0217 R2=0.37868
安息香酸:傾き、0.0184 R2=0.82183
フラーレンン関して:
ベンゼン:傾き、0.0578 R2=0.89459
アニリン:傾き、0.0047 R2=0.23429
安息香酸:傾き、0.0064 R2=0.42942
FSM−16に関して:
ベンゼン:傾き、0.0159 R2=論文に記載なし
安息香酸:傾き、0.00918 R2=論文に記載なし
モンモリロナイトに関して:
アニリン:傾き、0.0069 R2=0.70238
パイロフィライトに関して:
アニリン:傾き、0.0020 R2=0.532307
安息香酸:傾き、0.0019 R2=0.36524
(吸着除去フィルターの作製)
図13は、吸着除去フィルターの作製工程を示す説明図である。
まず、膜厚0.1mm、孔径0.65μmの支持フィルターを用意した。
次に、吸引ろ過装置にセットした注入容器に支持フィルターをセットした。
次に、注入容器にフラーレンナノウィスカー(0.0222g)を均一に分散した水溶液を注入した。
次に、超純水を注入してから、吸引ろ過装置を起動し、脱気して、前記超純水をろ過した。これにより、フラーレンナノウィスカー膜を均一の厚さ約0.02mmにした。
次に、フラーレンナノウィスカー膜を十分乾燥した。
以上により、吸着除去フィルターを作製した。
図15は、吸着除去フィルターの吸着試験を示す説明図である。
ベンゼン水溶液を吸引ろ過した。
ろ過後の水溶液濃度と、ろ過前の水溶液の濃度を比較した。
9.854mmol・dm−3のベンゼン水溶液をこのフィルターに通した水溶液の濃度は4.934mmol・dm−3であった。これにより、ベンゼンの吸着量は2.216mmol/gであった。
Claims (4)
- 支持フィルターと、前記支持フィルターの一面に形成された吸着除去膜と、を有し、
前記吸着除去膜がフラーレンナノウィスカーからなり、膜厚が100nm以上であり、
前記フラーレンナノウィスカーが、長さ4.23μm以上10.39μm以下であり、径0.363μm以上0.669μm以下であることを特徴とする吸着除去フィルター。 - 芳香族炭化水素あるいは多環式芳香族炭化水素を吸着除去する方法であって、
吸着除去目的物たる芳香族炭化水素や多環式芳香族炭化水素が溶解された水溶液を、請求項1に記載の吸着除去フィルターに通過させる工程を有することを特徴とする吸着除去方法。 - 芳香族炭化水素あるいは多環式芳香族炭化水素を吸着除去する方法であって、
吸着除去目的物たる芳香族炭化水素や多環式芳香族炭化水素が溶解された水溶液にフラーレンナノウィスカー粉末を分散させる工程と、
室温±10℃の温度範囲内で、2時間以上攪拌する工程と
を有することを特徴とする吸着除去方法。 - 前記攪拌工程の後に、撹拌した水溶液を、遠心分離及びフィルター分離処理して、前記水溶液からフラーレンナノウィスカー粉末を分離する工程と、を有することを特徴とする請求項3に記載の吸着除去方法。
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