しかしながら、従来のスパッタリングターゲットでは、表面凹凸の異常放電を効果的に低減するために、ターゲット表面の凹凸に関連する算術平均粗さRa等を所定の範囲となるようにスパッタリングターゲットを製造しても、ハードアークを十分に低減することはできなかった。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、異常放電、特にハードアークが生じにくいスパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
前記の課題を解決するため、本発明のスパッタリングターゲットは、Lab表色系における明度Lが27を超え51以下であるスパッタ面を有する。
本発明のスパッタリングターゲットによれば、成膜速度を向上させるためにターゲットに高電圧を印加しても、異常放電を防ぎながらスパッタリングを行うことができる。
また、一実施形態のスパッタリングターゲットでは、スパッタ面の500nmの波長における正反射率は、3.0%以下である。
前記実施形態のスパッタリングターゲットは、スパッタリングのきっかけになる凸部を適度に残すことができ、高電圧を印加した際や、スパッタリング初期段階において、安定してスパッタリングを行うことができる。
また、一実施形態のスパッタリングターゲットでは、スパッタ面の1000nmの波長における正反射率は、5.0%以下である
前記実施形態のスパッタリングターゲットは、スパッタリングのきっかけになる凸部を適度に残すことができ、高電圧を印加した際や、スパッタリング初期段階において、安定してスパッタリングを行うことができる。
また、一実施形態のスパッタリングターゲットにおいて、スパッタ面は、研磨面である。
前記実施形態のスパッタリングターゲットは、スパッタ面を研磨加工によって得られた研磨面とすることができるため、簡易に製造することができる。
また、一実施形態のスパッタリングターゲットにおいて、ターゲット材は純AlまたはAl合金から成る。
異常放電の発生により、ターゲット表面から溶融したターゲット材が飛び出し、数μmの大きさの粒子が基板上に付着する「スプラッシュ」は、低融点の金属において発生しやすい。そのため、純AlまたはAl合金等の比較的融点の低い材料からスパッタリングターゲットを形成する際には、スプラッシュの発生が懸念されていたが、本発明によれば、ターゲット材が純AlまたはAl合金を用いたスパッタリングターゲットにおいて、スプラッシュの発生を効果的に低減することができる。
本発明によれば、異常放電が生じにくいスパッタリングターゲットが提供される。
本発明者は、上記課題に鑑み、スパッタリングターゲットにおける異常放電の発生に寄与する、表面凹凸以外のパラメータを模索したところ、スパッタリングターゲットの表面におけるLab表色系の明度Lと、異常放電の発生との間には相間があることを新たに見出した。そしてさらに、異常放電が発生しにくいスパッタリングターゲットの表面におけるLab表色系の明度Lの範囲を模索したところ、明度Lが27を超え51以下の範囲にあるとき、ハードアークの発生が低減されることを見出した。
本発明において、明度Lを上記の値に設定することによって異常放電が発生しにくいスパッタリングターゲットが得られる理由は詳細には不明であるが、表面粗さでは表されないスパッタ面の微細な凹凸の有無、凹凸形状等が影響しているものと考えられる。スパッタリングターゲットのスパッタ面における明度Lを51以下とすることにより、スパッタ面の凹凸、特に凸部に起因する異常放電の発生を抑制することが可能となると考えられる。また、スパッタリングターゲットのスパッタ面における明度Lが27を超えることで、スパッタ面に微細な凹凸が残ることにより、スパッタリング開始時の放電安定性を維持することが可能となると考えられる。
以下、本発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態のスパッタリングターゲットの上方から見た斜視図である。図2Aおよび図2Bは、スパッタリングターゲットの製造方法を説明する説明図である。
図1に示すように、本発明の一実施形態のスパッタリングターゲット1は、ターゲット材2と、ターゲット材2の下面に接合されたバッキングプレート6とを有する。ターゲット材2は、長尺の板状に形成されている。スパッタ面3は、短辺と長辺で規定される上面から構成され、スパッタ面3のLab表色系における明度Lは27を超え51以下である。本願発明における明度Lは、スパッタ面3の複数の任意の点における明度Lの平均値であってもよく、任意の一点における明度Lの値であってもよいが、特に、スパッタ面3全面における明度Lの最小値が27を超え、最大値が51以下であることが好ましく、より好ましくは28以上、50以下、さらに好ましくは32以上、48以下、特に好ましくは35以上、46以下である。ここで、本願発明における明度Lは、ハンター表色系における明度Lであり、例えばZ−300A(日本電色工業株式会社製)等の色差計で測定される明度を示している。
ターゲット材2の形状および寸法に特に制限はなく、種々の用途に適切な任意の形状および寸法を有するターゲット材2を用いることができる。図1に示されるように、ターゲット材2が長方形のスパッタ面3を有する板状に形成される場合、長方形のスパッタ面3の長辺方向の長さと、短辺方向の長さとは、同一であっても、異なっていてもよい。
ターゲット材2が長方形のスパッタ面3を有する板状に形成される場合、バッキングプレート6は、ターゲット材2と同様に、長方形の上面を有する板状に形成される。このとき、バッキングプレート6の短辺および長辺の長さは特に限定されず、それぞれターゲット材2の短辺および長辺よりも長くてもよい。また、図1に示されるターゲット材2とバッキングプレート6の短辺のように、バッキングプレート6の短辺および長辺の長さはそれぞれ、ターゲット材2の短辺および長辺と同じ長さであってもよい。また、バッキングプレート6の短辺および長辺の長さはそれぞれ、ターゲット材2の短辺および長辺の長さよりもやや短くてもよい。
なお、スパッタリングターゲット1は、円形のスパッタ面3を有する円板状に形成されていてもよい。このとき、ターゲット材2は円板状に形成される。ターゲット材2を円板状に形成する場合、ターゲット材2の形状および寸法に特に制限はなく、種々の用途に適切な任意の形状および寸法を有するターゲット材2を用いることができる。また、ターゲット材2を円板状に形成する場合、バッキングプレート6は、ターゲット材2の上面よりも大きいかまたは同じ、もしくはやや小さい直径を有する円形の上面を有する円板状に形成され得る。
また、他の実施形態では、スパッタリングターゲットは円筒形である。円筒形のスパッタリングターゲットは、円筒形のターゲット材と、そのターゲット材の内部に挿入される円筒形のバッキングチューブから構成されるか、もしくは、円筒形のターゲット材と、その両端に取り付けられるフランジあるいはキャップ材もしくはアダプター材から構成される。円筒形のターゲットの場合、円筒の外周部がスパッタ面となる。
また、他の実施形態では、スパッタリングターゲットは、バッキングプレートに該当する部分とターゲット材に該当する部分とが同一の材料から一体に形成された、一体型である。一体型のスパッタリングターゲットにおいて、バッキングプレートとターゲット材とは同一の材料から一体に形成されるために、ボンディング工程を行う必要がなく、製造工程を簡易化することができる。
ターゲット材2の材料は特に限定されず、例えばAl、Cu、Cr、Fe、Ta、Ti、Zr、W、Mo、Nb、Ag、Co、Ru、Pt、Pd、Niおよびこれら金属を含む合金等を使用することができる。特に、アルミニウム(純度99.99%(4N)以上、好ましくは純度99.999%(5N)以上の純Al)、アルミニウム合金(添加元素としてSi、Cu、Nd、Mg、Fe、Ti、Mo、Ta、Nb、W、Ni、Co等が挙げられ、好ましくはSi、Cuを添加元素として含む。また、添加元素を除く母材のAl純度は、99.99%以上であり、好ましくは99.999%以上である。)、または銅(純度99.99%(4N)以上)を、ターゲット材2を形成する材料として好ましく使用することができる。
バッキングプレート6にはターゲット材2の硬度よりも大きい硬度を有する金属が使用されることが好ましく、例えばCu、Cr、Al、Ti、W、Mo、Ta、Nb、Fe、Co、Niおよびこれら金属を含む合金等を使用することができる。特に、銅(無酸素銅)、クロム銅合金、アルミニウム合金等を、バッキングプレート6を形成する材料として好ましく使用することができる。
純AlまたはAl合金の様な低融点の金属の場合、異常放電が発生すると、ターゲット表面から溶融した金属成分が飛び出し、数μmの大きさの粒子が基板上に付着する「スプラッシュ」と呼ばれる現象が発生しやすい。しかし、本発明によれば、純AlまたはAl合金のような低融点の金属をターゲット材に用いた場合であっても、異常放電やハードアークを効率的に低減することができる。
スパッタリング時において、ターゲット材2のスパッタ面3に、スパッタリングによりイオン化した不活性ガスが衝突する。イオン化した不活性ガスが衝突されたスパッタ面3からは、ターゲット材2中に含まれるターゲット原子が叩き出される。その叩き出された原子は、スパッタ面3に対向して配置される基板上に堆積され、この基板上に薄膜が形成される。この薄膜の成膜速度を向上させるためには、通常、ターゲットに高電圧を印加する必要があるが、本願発明においてスパッタ面3の明度Lが27を超え51以下であることにより、高電圧が印加されることによる異常放電、特にハードアークの発生を低減することができるため、製品歩留まりを改善することができる。さらに、本願発明のスパッタリングターゲットの製造において制御すべきパラメータは明度Lのみであるので、製造および良品検査が容易である。
また、本願発明のスパッタリングターゲットのスパッタ面の500nmの波長における正反射率は、3.0%以下であることが好ましい。スパッタ面の500nmの波長における正反射率が、3.0%以下であることにより、スパッタリングターゲットの製造工程において仕上げ加工を研磨加工によって行うことができるため、簡易に製造することができる。また、500nmの波長における正反射率を、3.0%以下とすることで、スパッタリングのきっかけになる凸部を適度に残すことができ、高電圧を印加した際や、スパッタリング初期段階において、安定してスパッタリングを行うことができる。
また、本願発明のスパッタリングターゲットのスパッタ面の1000nmの波長における正反射率は、5.0%以下であることが好ましい。スパッタ面の1000nmの波長における正反射率が、5.0%以下であることにより、スパッタリングターゲットの製造工程において仕上げ加工を研磨加工によって行うことができるため、簡易に製造することができる。また、1000nmの波長における正反射率を、5.0%以下とすることで、スパッタリングのきっかけになる凸部を適度に残すことができ、高電圧を印加した際や、スパッタリング初期段階において、安定してスパッタリングを行うことができる。
また、本願発明のスパッタリングターゲットのスパッタ面の算術平均粗さRaは、0μmより大きく2.0μm以下、好ましくは0.05μm以上1.0μm以下、より好ましくは0.08μm以上0.5μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上0.4μm以下である。スパッタ面の算術平均粗さRaがこの範囲であると、高電圧が印加されることによる異常放電、特にハードアーク発生リスクをより低減でき、また、スパッタリング初期段階において、安定してスパッタリングを行うことができる。ここで、前記算術平均粗さRaは、JIS B0601(2001)に規定の方法で測定することができる。
また、本願発明のスパッタリングターゲットのスパッタ面の最大高さRzは、0μmより大きく10.0μm以下、好ましくは0.25μm以上8.0μm以下、より好ましくは0.5μm以上5.0μm以下、さらに好ましくは1.0μm以上3.0μm以下である。スパッタ面の最大高さRzがこの範囲であると、高電圧が印加されることによる異常放電、特にハードアーク発生リスクをより低減でき、また、スパッタリング初期段階において、安定してスパッタリングを行うことができる。ここで、前記最大高さRzは、JIS B0601(2001)に規定の方法で測定することができる。
次に、図1に示される平板形のスパッタリングターゲット1の製造方法について詳細に説明する。はじめに、図2Aに示すように、ターゲット材2と、該ターゲット材2を固定するバッキングプレート6とを準備する。ターゲット材2には、溶解鋳造法、スプレイフォーミング法、粉末冶金法等で作製された金属塊を圧延法、鍛造法、押出法等で板状に成形したものを用いることができる。また、ターゲット材2はスパッタ面となる面が平滑であることが好ましく、フライス、旋盤等での機械加工や研削盤での研削加工を施しておくことが好ましい。
次に、ターゲット材2を、バッキングプレート6に固定する。具体的には、ターゲット材2と、バッキングプレート6とを接合するボンディングを行う。ボンディングの温度は、ボンディング方法や使用するターゲット材2およびバッキングプレート6を構成する材料の種類に依存して様々であり得るが、例えば純Al(純度99.999%)でできたターゲット材2と、無酸素銅(純度99.99%)でできたバッキングプレート6とを、インジウム、錫またはそれらを含む合金からなるハンダ材にてボンディング(ハンダ接合)する場合には、150℃以上300℃以下の温度で実施されることが好ましい。ボンディング方法として、ホットプレスや熱間等方圧加圧法を利用した拡散接合方法を利用することもできる。また、ターゲット材2が円板状の場合には、ターゲット材2を配置するためのリング部から主に構成された支持部材を用いてもよい。前記支持部材は、スパッタリング装置への固定を可能とするためのフランジ部を有することが好ましい。ターゲット材2はTIG溶接(Tungsten Inert Gas welding)やEB溶接(Electron Beam welding)にて前記リング状の支持部材に取り付けることができる。
ここで、ターゲット材2とバッキングプレート6とを同一の材料から一体に形成することもできる。一体型のスパッタリングターゲットは、溶解鋳造法、スプレイフォーミング法、粉末冶金法等で作製された金属塊を圧延法、鍛造法、押出法等で板状に成形したものを、機械加工により、バッキングプレートに該当する部分とターゲット材に該当する部分とを有する形状に成形することにより得られる。一体型のスパッタリングターゲットの、ターゲット材に該当する部分のスパッタ面となる面は平滑であることが好ましく、フライス、旋盤等での機械加工や研削盤での研削加工を施しておくことが好ましい。一体型のスパッタリングターゲットにおいて、上述したボンディング工程は不要である。
次に、図2Bに示すように、ターゲット材2のスパッタ面3に対して研磨を行う。この研磨は、互いに番手の異なる複数の研磨材を用いて、小さい番手から大きい番手に順に多段で行われてもよい。具体的には、2段の研磨を行う場合、1段目の研磨において、ターゲット材2の長辺方向(矢印Aの方向)に沿って研磨材4を研磨しながら移動させる。また、2段目の研磨において、1段目の研磨材4の番手よりも大きな番手を有する研磨材を用いて、1段目と同様に研磨を行う。なお、3段以上の研磨を行う場合、前段の研磨材の番手よりも後段の研磨材の番手を大きくして研磨を行う。長辺方向に沿って研磨する際、研磨材4を上下動、左右動させてもよいし、回転動させてもよい。また、研磨の方向は、長辺方向に限定されず、その他の方向で研磨を行なってもよい。
研磨に用いる研磨材は特に限定されず、例えば紙や繊維基材に砥粒を塗布した研磨材を使用することができる。特に、スコッチブライト(スリーエムジャパン株式会社製)やケンマロン(三共理化学株式会社製)などのナイロン等の合成繊維の不織布に砥粒を含浸させた研磨材を用いることが好ましい。不織布等の、気孔率が高く弾性のある基材の研磨材を用いることで、研磨材より脱離した砥粒による傷の発生が防止でき、また研磨面に対して馴染みやすく、研磨のばらつきを抑制しやすい。また、砥粒についても特に制限はなく、ターゲット材の材質に対して十分な研磨力、硬さを有する砥粒を選択すればよく、ターゲット材がAlやCuの場合には、例えばSiCやアルミナを使用することができる。なお、本発明においては、研磨材の砥粒の粒度分布と番手(粒度)の相関はJIS R 6001に準じる。研磨は、吸引や排気およびエアーブローにより研磨屑や脱離した砥粒を除きながら行われることが好ましい。これにより、研磨屑、脱離した砥粒を研磨面に残存させることなくターゲット材2を研磨することができるので、深い傷や研磨面の荒れ発生をより防止し、スパッタ面3の明度Lの均一性をより向上させることができる。吸引による研磨屑や脱離した砥粒の除去は、集塵機中や集塵機付近での実施や集塵機構付の研磨機の使用により行うことができる。
なお、研磨は、手作業のほか、研磨材を取り付けた研磨機を用いて行うことができる。
研磨機としては好ましくはオービタルサンダが使用されるが、これに限定されず、ミニアングルサンダ、ディスクグラインダ、ベルトサンダ等の任意の研磨機を使用することもできる。
次に、研磨後の表面の洗浄を行う。表面の洗浄は、エアーブローと、アルコールでの拭き上げにより行われることが好ましい。拭き上げに用いる溶剤は特に限定されず、例えばエタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、ヘキサン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、酢酸エチルなどの有機溶剤や、市販されている洗浄剤等を用いることができる。これにより、図1に示されるスパッタリングターゲット1を製造することができる。
なお、本発明の製造方法は、上述した工程の他に任意の工程を含んでいてもよい。例えばボンディング工程と研磨工程との間に超音波探傷検査(UT検査)工程やバッキングプレート6の研磨工程などを含んでいてもよい。
前記製造方法によれば、ターゲット材2のスパッタ面3の研磨に用いられる研磨材の番手が大きい番手に進むにつれ、ターゲット材2の表面の明度が下がる。また、スパッタ面3全体で明度のばらつきが小さく、異常放電が生じにくいスパッタリングターゲット1が得られる。
上述されるように、本願発明のスパッタリングターゲットは、算術平均粗さRaと、最大高さRzと、ピーク高さの間隔Lとを所定の範囲に調整するように製造し、仕上げ加工後にそれらを測定する必要がある引用文献1と比較して、非常に簡易に製造することができる。
スパッタリングターゲット1の評価は、スパッタ面3の複数の任意の点における表面の明度Lと正反射率とを、色差計と分光光度計とを用いてそれぞれ測定し、測定された複数の明度Lおよび正反射率の平均値および標準偏差を算出することにより行われる。本明細書において標準偏差は、不偏分散u
2の平方根である不偏標準偏差σ
n−1をいい、以下の式
で表される。
上記では図1に示される平板形のスパッタリングターゲットの製造方法について説明したが、円筒形のスパッタリングターゲットについても同様の方法で、スパッタリングにおいて異常放電を生じにくいスパッタリングターゲットを製造することができる。本発明の一実施形態である円筒形のスパッタリングターゲットの製造方法について以下に説明する。
金属から構成される円筒形のターゲット材を準備する。円筒形のターゲット材は、溶解鋳造法、スプレイフォーミング法、粉末冶金法等で作製された金属塊から押出法等により成形することができる。ターゲット材はスパッタ面となる外周面に歪みがないことが好ましく、旋盤での機械加工や研削盤での研削加工を施しておくことが好ましい。バッキングチューブを用いるスパッタリングターゲットの場合、ターゲット材を、バッキングチューブにボンディングする。ボンディングの温度は、ボンディング方法、使用するターゲット材およびバッキングチューブを構成する材料の種類に依存して様々であり得るが、例えば高純度Al(純度99.99〜99.999%)でできたターゲット材と、SUS304でできたバッキングチューブとをインジウム、錫またはそれらを含む合金からなる接合材にてボンディング(ハンダ接合)する場合には、150℃以上、300℃以下の温度で実施されることが好ましい。
また、フランジやキャップ材を取り付けるスパッタリングターゲットの場合、キャップやフランジをターゲット材の両端にTIG溶接(Tungsten Inert Gas welding)やEB溶接(Electron Beam welding)にて取り付ける。
研磨工程、研磨後の表面の洗浄工程、他の任意の工程については、平板形のターゲットの場合と同様に実施することができる。研磨工程においては、紙や繊維基材に砥粒を塗布した研磨材を使用し、板状のターゲットの場合と同様に手作業や、研磨機を使用して実施することができる。この研磨は、互いに番手の異なる複数の研磨材を用いて、小さい番手から大きい番手に順に多段で行われてもよい。具体的には、ターゲット材2の軸方向に沿って研磨材を研磨しながら移動させる。このとき、ターゲット材を回転させながら研磨材を移動させても良いし、ターゲット材を固定した状態で研磨材を移動させても良い。また、研磨を行なう際、ターゲット材の軸方向は水平になっていても良く、地面に対して垂直になっていても良い。更に、研磨しやすい角度で傾いていても良い。また、2段目の研磨において、1段目の研磨材の番手よりも大きな番手を有する研磨材を用いて、1段目と同様に研磨を行う。なお、3段以上の研磨を行う場合、前段の研磨材の番手よりも後段の研磨材の番手を大きくして研磨を行う。軸方向に沿って研磨する際、研磨材を上下動、左右動させてもよいし、回転動させてもよい。研磨の方向は、軸方向に限定されず、その他の方向で研磨を行なっても良い。
上述した工程によって製造された円筒形スパッタリングターゲットの表面粗さの評価は、平板形のターゲットの場合と同様に、複数の任意の点における表面の明度Lと正反射率とを、色差計と分光光度計とを用いてそれぞれ測定し、測定された複数の明度Lおよび正反射率の平均値および標準偏差を算出することにより行われる。ターゲット材のスパッタ面の研磨に用いられる研磨材の番手が大きい番手に進むにつれ、ターゲット材2の表面の明度が下がり、また、スパッタ面3全体で明度のばらつきが小さな異常放電(特にハードアーク)が生じにくいスパッタリングターゲット1が得られる。
(実施例1〜3、比較例1〜3)
直径が2インチの円形のスパッタ面を有し、厚みが3mmであるターゲット材2と、無酸素銅(純度:99.99%)から構成されるバッキングプレート6とを200℃でボンディングして、スパッタリングターゲット1を形成した。ターゲット材2としては、ビッカース硬度が16であるアルミニウム(純度:99.999%)から形成され、スパッタ面に旋盤加工が施されたターゲット材2を用いた。
次に、ターゲット材2のスパッタ面3の仕上げ加工として、互いに番手の異なる複数の研磨材を用いて、小さい番手から大きい番手に順に多段の研磨を行った。研磨は110mm×180mmサイズの各種番手(粒度)のケンマロン(三共理化学株式会社製)を装着したオービタルサンダ(SV12SG、日立工機株式会社製)を用いて行い、ターゲット材2のスパッタ面3に、揺動する研磨材を動かしながら押し当てることで行った。この時、研磨は集塵機の中で行うことにより研磨屑を取り除きながら行った。研磨後、ターゲット材2のスパッタ面3をエアーブローし、エタノール拭きを行うことにより仕上げ加工を実施した。実施例1〜3および比較例1〜3において多段の研磨で使用した研磨材の番手と研磨に要した時間とを以下の表1に示した。例えば実施例1では、番手が#400の研磨材で20秒間研磨を行った後、#800の研磨材で20秒間研磨を行い、最後に#1200の研磨材で20秒間研磨を行った。また、比較例2では、研磨を行わず、代わりに旋盤を用いてスパッタ面を形成し、他の実施例および比較例と同様に仕上げ加工を実施した。
次に、仕上げ加工を行った実施例1〜3および比較例1〜3のターゲットのスパッタ面の評価を、以下の手順で行った。
始めに、色差計(Z-300A、日本電色工業株式会社製)を用いて、反射法にて以下条件でスパッタ面3の色差測定を行い、明度Lを求めた。測定は、スパッタ面3上の任意の測定点3点に対して、各測定点を円心とする直径10mm程度の円の範囲内で行った。
さらに、3つの測定点に対応する3つの明度Lの平均値と標準偏差とを算出した。
<分析条件>
測定径:10mm
分光感度:2°視野
光源:C光源
色差式:L=10(Y)1/2
なお、実施例1〜3および比較例1〜3のスパッタ面3の評価は、据え付け型の色差計を用いたが、明度Lを測定するためのスパッタ面3の測定には、携帯型の色差計または反射率計を用いることもできる。これらを使用することで、研磨後のスパッタ面の色差や反射率を、スパッタリングターゲットを据え付け型の色差計まで移動させることなく、その場で測定することができる。また、例えば長辺方向の長さ1000mm〜3500mm、短辺方向の長さ180mm〜1900mmであるような、大きいサイズのターゲット材であっても、測定することができる。
次に、分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、U-4100型)を用いて、正反射率を測定した。詳細には、U−4100型分光光度計用5度正反射付属装置を用いて、試料に対して入射角5度の入射光を照射し、反射角5度に反射された光の入射光に対する反射率を測定した。測定は、スパッタ面3上の任意の測定点3点に対して、各測定点を円心とする直径20mm程度の円の範囲内で行った。さらに、3つの測定点に対応する3つの反射率の平均値と標準偏差とを算出した。
さらに、株式会社ミツトヨ製の小型表面粗さ計サーフテストSJ−301を使用して、JIS B0601 2001に基づいて、ターゲット材のスパッタ面の算術平均粗さRaおよび最大高さRzを測定した。測定は、スパッタ面3上の任意の測定点3点に対して行った。さらに、3つの測定点に対応する3つの測定値の平均値と標準偏差とを算出した。
実施例1〜3および比較例1〜3のターゲットのスパッタ面において測定された明度L、反射率、算術平均粗さRaおよび最大高さRzから算出された平均値および標準偏差を表2に示した。
表1より、スパッタ面の500nm、1000nmの波長における正反射率は、互いに番手の異なる複数の研磨材を用いて、小さい番手から大きい番手に順に多段で仕上げ加工を研磨加工により行った場合に、それぞれ3.0%以下、5.0%以下となることがわかった。
続いて、実施例1および比較例1のターゲットを、スパッタ装置(E−200S、キヤノンアネルバ株式会社製)に取り付けてスパッタリングを行い、アークモニター(μArcMonitor(MAM Genesis)、株式会社ランドマークテクノロジー製)にてハードアークおよびマイクロアーク回数を測定した。スパッタリングに関して、スパッタ電力は200Wであり、アルゴンガス圧力は0.2Paであり、スパッタ時間は3分間であった。スパッタリングの際に、電圧が500Vを下回る時間が5μs以上となった回数をハードアーク回数として測定し、電圧が500Vを下回る時間が5μs未満となった回数をマイクロアーク回数として測定した。実施例2〜3および比較例2〜3のターゲットは、アルゴンガス圧力を1.0Paとしたこと以外は、実施例1、比較例1と同じ条件にてスパッタリングを行い、ハードアークおよびマイクロアーク回数の測定を行なった。なお、スパッタリングには、スパッタ面の評価を行った実施例1〜3および比較例1〜3のターゲットと同一の研磨条件で作成した別のターゲットを使用した。
上記スパッタリングにおいて測定されたハードアークおよびマイクロアークの回数を表3に示した。なお、表3には、実施例1〜3および比較例1〜3のターゲットのスパッタ面において測定された、表2に記載される明度Lを併記した。
表1に示すように、明度Lの範囲が27を超え、かつ51以下であるスパッタリングターゲットでは、ハードアークおよびマイクロアークが生じなかった。
上記実施例については、平板形ターゲット材について説明したが、ターゲット材が円筒形である場合であっても、スパッタ面の明度Lの範囲が27を越え51以下であれば、同様の結果を得ることができる。