(実施形態1)
本実施形態の赤外線検出装置1は、図1に示すように、焦電素子2と、焦電素子2の出力に基づいて検知対象を検知する処理回路10とを備えている。
処理回路10は、変換回路3と、増幅回路4とを含む集積回路100を有している。変換回路3は、焦電素子2から出力される電流信号を電圧信号に変換する。増幅回路4は、変換回路3から出力される電圧信号を増幅する。
ここで、集積回路100には、温度計測部8と、制御部9とが設けられている。温度計測部8は、集積回路100の周囲の温度を計測する。制御部9は、温度計測部8の計測値に応じて処理回路10の感度を変化させるように構成されている。
この構成によれば、変換回路3および増幅回路4は、集積回路(IC:Integrated Circuit)100に含まれているため、赤外線検出装置1の回路部分をワンチップ化することができる。しかも、集積回路100には、集積回路100の周囲の温度を計測する温度計測部8と、温度計測部8の計測値に応じて処理回路10の感度を変化させる制御部9とが設けられている。したがって、赤外線検出装置1は、集積回路100にとくに外付け部品を付加することなく、処理回路10の感度を集積回路100の温度に応じて変化させることができる。
その結果、赤外線検出装置1は、たとえば集積回路100の温度が高くなるほど処理回路10の感度を高めることにより、夏場など、気温が高く人体と背景との温度差が小さくなる環境においても、十分な感度で検知対象(人体)を検知することできる。よって、この赤外線検出装置1は、気温が変化しても感度が低下しにくい、という利点がある。
以下、本実施形態の赤外線検出装置1について詳しく説明する。ただし、以下に説明する赤外線検出装置1は、本発明の一例に過ぎず、本発明は、下記実施形態に限定されることはなく、この実施形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
本実施形態においては、赤外線検出装置1が、検知エリア内の人(検知対象)の存否を検知する人体検知に用いられる場合を例とする。赤外線検出装置1は、焦電素子2が受光する赤外線量の変化に基づいて検知エリア内の人の存否を判定し、その判定結果を外部装置(外部回路)へ出力するように構成されている。ただし、赤外線検出装置1は、人体検知に限らず、たとえばガス検知等の他の用途で用いられてもよい。
本実施形態の赤外線検出装置1は、図1に示すように、上述した焦電素子2、変換回路3、増幅回路4、温度計測部8、および制御部9に加えて、AD変換回路5およびデジタル回路6をさらに備えている。ここで、AD変換回路5およびデジタル回路6は、たとえばメモリおよびプロセッサを有するマイコン(マイクロコンピュータ)を主構成とし、プロセッサがメモリに記憶されているプログラムを実行することにより実現される。マイコンをAD変換回路5およびデジタル回路6として機能させるプログラムは、たとえば予めメモリに書き込まれていてもよいし、記録媒体に記憶されて、あるいは電気通信回線を介して提供されてもよい。
AD変換回路5およびデジタル回路6は、処理回路10における集積回路100に含まれている。つまり、本実施形態においては、処理回路10は、変換回路3と、増幅回路4と、AD変換回路5と、デジタル回路6と、温度計測部8と、制御部9とを含む集積回路100を備えている。この処理回路10は、焦電素子2の出力に基づいて検知対象を検知する機能を有している。
焦電素子2は、検知エリアから赤外線を受光し、受光した赤外線量の変化に応じて電流信号を出力する。焦電素子2から出力された電流信号は、電流電圧変換(I−V変換)を行う変換回路3に入力される。
変換回路3は、図2に示すように、(第1の)演算増幅器31と、コンデンサ32とを有している。
演算増幅器31の反転入力端子(−入力端子)は、焦電素子2に電気的に接続されている。演算増幅器31の非反転入力端子(+入力端子)は、基準電圧を発生する基準電源33に電気的に接続されている。コンデンサ32は、演算増幅器31の出力端子と反転入力端子との間に電気的に接続されており、交流帰還用の容量素子として機能する。
このように構成される容量型の変換回路3は、焦電素子2からの電流信号を、コンデンサ32のインピーダンスを用いて電圧信号に変換し、演算増幅器31の出力端子から出力する。演算増幅器31の出力端子から出力される電圧は、基準電源33が発生する基準電圧からコンデンサ32の両端電圧を差し引いた値となる。そのため、変換回路3の出力は、基準電圧を動作点として、焦電素子2が赤外線を受光したことによる電流信号の変化に応じて動作点から変化する電圧信号となる。このように構成される変換回路3は、SN比が比較的高いという利点がある。
なお、以下では説明を簡単にするために、上記動作点(基準電圧)にあるときの変換回路3の出力をゼロとして説明する。つまり、変換回路3の出力は、演算増幅器31の出力端子から出力される電圧の動作点からの変化量を意味する。
また、図2の例では、変換回路3は、(第2の)演算増幅器34と、コンデンサ35と、2個の抵抗36,37と、クランプ回路38とからなるフィードバック回路をさらに有している。
演算増幅器34は、反転入力端子(−入力端子)が抵抗36を介して基準電源33に電気的に接続され、且つ出力端子と反転入力端子との間にコンデンサ35が電気的に接続されることにより、積分回路を構成する。さらに、演算増幅器34の非反転入力端子(+入力端子)は演算増幅器31の出力端子に接続され、演算増幅器34の出力端子は抵抗37を介して演算増幅器31の反転入力端子に接続されている。
また、クランプ回路38は、演算増幅器34の出力端子と演算増幅器31の反転入力端子との間において、抵抗37と電気的に並列に接続されている。クランプ回路38は、ここでは互いに逆並列に接続された一対のダイオード381,382で構成されている。つまり、ダイオード381およびダイオード382は、抵抗37の両端間において、互いに逆向きとなるように並列に接続されている。ここでは、ダイオード381のアノードは演算増幅器34の出力端子に接続され、ダイオード382のアノードは演算増幅器31の反転入力端子に接続されている。
これにより、変換回路3は、フィードバック回路により所定周波数以下の不要な低周波成分(以下、「不要成分」という)を低減させた電圧信号を出力することになる。言い換えれば、変換回路3はハイパスフィルタを有している。不要成分は、焦電素子2から出力される電流信号に対して、たとえば赤外線検出装置1の周囲温度の変化などに起因して検知対象(人体)とは無関係に生じる低周波の揺らぎ成分である。
さらに、変換回路3は、たとえば所定値を超える不要成分が入力されて、抵抗37の両端電圧がダイオード381あるいはダイオード382の順方向電圧を超えた場合には、抵抗37の両端間がクランプ回路38により短絡される。そのため、変換回路3は、所定値を超える不要成分が入力された場合でも、不要成分を低減させた電圧信号を出力することが可能である。
増幅回路4は、(第3の)演算増幅器41と、帰還用の容量素子(以下、「帰還コンデンサ」という)42と、リミッタ回路43と、抵抗44と、入力コンデンサ45とを有している。
演算増幅器41の反転入力端子(−入力端子)は、入力コンデンサ45を介して演算増幅器31の出力端子に電気的に接続されている。帰還コンデンサ42は、演算増幅器41の出力端子と反転入力端子との間に電気的に接続されている。さらに演算増幅器41の非反転入力端子(+入力端子)は基準電源33と電気的に接続されている。つまり、演算増幅器41の非反転入力端子は、変換回路3における演算増幅器31の非反転入力端子と共通の基準電源33に接続される。
要するに、増幅回路4は、容量型の電圧増幅回路を構成しており、その電圧増幅率は、入力コンデンサ45の容量値「C1」、および帰還コンデンサ42の容量値「C2」を用いて「C1/C2」で表される。したがって、増幅回路4は、変換回路3から入力される電圧信号をC1/C2倍に増幅して演算増幅器41の出力端子から出力する。このように構成される増幅回路4は、演算増幅器と抵抗とを組み合わせて構成される電圧増幅回路に比較して、低消費電力である。演算増幅器41の出力端子は、AD変換回路5に電気的に接続されている。
抵抗44は、演算増幅器41の出力端子と反転入力端子との間において、帰還コンデンサ42と電気的に並列に接続されている。つまり、増幅回路4は、演算増幅器41の入力端(反転入力端子)と出力端(出力端子)との間において、帰還コンデンサ42およびリミッタ回路43と電気的に並列に接続される抵抗44を有している。この抵抗44は、増幅回路4の動作を安定化させるために設けられている。すなわち、容量型の増幅回路4は、低消費電力である反面、低周波成分に対しては帰還コンデンサ42および入力コンデンサ45が高インピーダンスとなるため、抵抗44がなければ不安定な動作となる可能性がある。そこで、本実施形態の赤外線検出装置1は、抵抗44を設けて増幅回路4に時定数を持たせることにより、増幅回路4の動作を安定化させている。
本実施形態においては、赤外線検出装置1は、変換回路3および増幅回路4を構成する素子を1個のIC(集積回路)に集積化することにより、変換回路3および増幅回路4、さらにはAD変換回路5およびデジタル回路6をワンチップ化している。そのため、増幅回路4の帰還コンデンサ42および入力コンデンサ45としては比較的小容量のコンデンサが用いられ、たとえば帰還コンデンサ42の容量値が1pF程度、入力コンデンサ45の容量値が10pF程度に設定される。そこで、増幅回路4にある程度の時定数を持たせるために、比較的高抵抗(たとえば数十TΩ)の抵抗44が用いられる。抵抗44は、ここではノンドープポリシリコンを用いて構成されている。
ノンドープで高抵抗の抵抗44は、一般的に温度係数(温度特性)が大きく、温度変化に対する抵抗値の変化が比較的大きい。したがって、抵抗44が負の温度係数を持つ場合には、抵抗44の周囲温度が低くなると、抵抗44の抵抗値が高くなるため、増幅回路4は低周波成分に対する利得が上がることになる。そのため、リミッタ回路43がなければ、赤外線検出装置1は、起動時や周囲温度の低下時などにおいて、増幅回路4の利得が過大になり、増幅回路4の後段回路(たとえばAD変換回路5)が飽和状態となる可能性がある。
そこで、本実施形態の赤外線検出装置1は、演算増幅器41の反転入力端子と出力端子との間において、帰還コンデンサ42と電気的に並列に接続されたリミッタ回路43を有している。本実施形態では、リミッタ回路43は互いに逆並列に接続された一対のダイオード431,432で構成されている。つまり、(第1の)ダイオード431および(第2の)ダイオード432は、帰還コンデンサ42の両端間において、互いに逆向きとなるように並列に接続されている。ここでは、ダイオード431のアノードは演算増幅器41の反転入力端子に接続され、ダイオード432のアノードは演算増幅器41の出力端子に接続されている。
このような構成により、増幅回路4は、帰還コンデンサ42の両端電圧がダイオード431あるいはダイオード432の順方向電圧を超えた場合、帰還コンデンサ42の両端間がリミッタ回路43により短絡される。つまり、リミッタ回路43は、帰還コンデンサ42の両端電圧が所定の閾値電圧を超えると、帰還コンデンサ42の両端間を電気的に短絡するように機能する。ここでは、閾値電圧は、ダイオード431あるいはダイオード432の順方向電圧によって規定され、一例として0.5Vである。そして、増幅回路4は、リミッタ回路43が作動した状態、つまり帰還コンデンサ42の両端間が短絡された状態では、電圧増幅率が低くなり、その出力が低下する。
要するに、リミッタ回路43は、増幅回路4の利得が大きくなって帰還コンデンサ42の両端電圧(抵抗44の両端電圧)が閾値電圧を超えると、帰還コンデンサ42(抵抗44)の両端間を電気的に短絡して増幅回路4の利得を下げる。これにより、本実施形態に係る赤外線検出装置1は、たとえば低温時にリミッタ回路43が作動することにより、増幅回路4の利得が過大となることを防止でき、増幅回路4の後段回路(たとえばAD変換回路5)が飽和しにくくなる。したがって、赤外線検出装置1は、消費電力を極力小さく抑えつつ、増幅回路4の出力が飽和しにくい、という利点がある。
AD変換回路5は、増幅回路4から入力されるアナログ値(電圧値)をデジタル値に変換(AD変換)してデジタル回路6に出力するAD変換器である。本実施形態では、一例としてAD変換回路5には、逐次比較方式のAD変換器が用いられている。ここで、逐次比較方式のAD変換器は、コンデンサを用いた電荷再分配型、ラダー抵抗を用いたラダー抵抗型、あるいはこれらの組み合わせであってもよい。これにより、AD変換回路5は、簡単な回路構成で高い分解能を実現できる。ただし、AD変換回路5は、逐次比較方式に限らず、その他の方式のAD変換器が用いられてもよい。たとえばΔΣ(デルタシグマ)方式のAD変換器がAD変換回路5に用いられていれば、比較的小型で且つ高精度のAD変換回路5を実現することができる。
一般的に、AD変換器は、AD変換可能な(つまりAD変換特性が保証される)入力電圧範囲(入力レンジ)がフルスケールとして個々に決められている。そのため、AD変換回路5においても、フルスケール内のアナログ値についてのみデジタル値に変換可能であって、フルスケールの上限値を超えるアナログ値については当該上限値に相当するデジタル値に変換される。つまり、AD変換回路5は、このフルスケール外の振幅を持つ信号が入力されると、出力が飽和することになる。
このAD変換回路5は、所定の時間間隔(サンプリング周期)で設定されるサンプリングタイミングで増幅回路4の出力値を量子化してデジタル値に変換する。本実施形態では、AD変換回路5は、一例として10msのサンプリング周期で設定されるサンプリングタイミングでAD変換を行うこととする。なお、人体検知においては検知対象は1Hz付近であるので、サンプリング周期は、1sよりも十分に短い周期(たとえば0.1s以下)に設定されることが好ましい。
デジタル回路6は、AD変換回路5から入力されるデジタル信号に基づいて、検知エリア内の人体の存否を判定する。具体的には、デジタル回路6は、AD変換回路5の出力値(増幅回路4の出力に相当するデジタル値)と、予め定められている閾値とを比較することにより検知エリア内の人体の存否を判定する判定部61を有している。判定部61は、AD変換回路5の出力値の絶対値が閾値を超えている期間には、検知エリア内に人がいると判定してHレベルの検知信号を出力し、閾値以下であれば検知エリア内に人はいないと判定して検知信号をLレベルとする。
また、デジタル回路6は、人体検知時に焦電素子2が発生する電流信号の周波数帯域(ここでは0.1Hz〜10Hz程度と仮定する)を通過帯域とするデジタルバンドパスフィルタ(以下、バンドパスフィルタを「BPF」という)62を有している。
ここで、アナログBPFを用いる場合で、0.1Hz〜10Hz程度の信号を通過させるためには、回路定数の比較的大きなコンデンサ等の素子が必要になる。このような素子はIC(集積回路)に外付けされることになるので、この構成では赤外線検出装置1の回路部分をワンチップ化することができない。これに対して、本実施形態の赤外線検出装置1は、上述のようにデジタルBPF62を用いたことにより、外付け部品が不要となり回路部分をワンチップ化することができるという利点がある。
上記構成の赤外線検出装置1では、焦電素子2からの出力は、変換回路3にて電圧信号に変換された後、増幅回路4で増幅され、AD変換回路5に入力される。つまり、AD変換回路5に入力される電圧信号は、焦電素子2の出力(電流信号)を変換回路3で電圧信号に変換後さらに増幅回路4で増幅した信号である。AD変換回路5は、入力された電圧信号をデジタル値に変換し、デジタル回路6へ出力する。デジタル回路6は、入力されたデジタル値に基づいて検知エリア内の人体の存否を判断し、判断結果を第1の出力端子71から外部装置(外部回路)に出力する。
また、デジタル回路6は、AD変換回路5の出力値に応じたデジタル信号を、第2の出力端子72からシリアル出力することもできるように構成されている。具体的には、デジタル回路6は、スタートビット、メインフィルタ出力、検知信号状態、動作モード判定結果、ストップビットからなる信号形式を採用する。メインフィルタ出力は、デジタルBPF62を通すことにより増幅回路4の出力から少なくとも不要成分が除かれた信号の瞬時値を表す。デジタル回路6は、1回の通信でたとえば16ビットのデジタル信号を、送信クロック(たとえば20kHz)に同期してシリアル通信にて出力する。これにより、デジタル回路6は、クロックと各種のデータとを重畳させて1本の信号線で伝送可能となるので、端子数を少なくでき赤外線検出装置1の小型化につながるという利点がある。
なお、デジタル回路6は、AD変換回路5の出力値を、そのままデジタル信号としてシリアル出力する構成であってもよい。つまり、デジタル回路6は、AD変換回路5の出力するデジタル信号を、デジタルBPF62を通すことなくシリアル出力してもよい。また、処理回路10がAD変換回路5およびデジタル回路6を備える構成は必須の構成ではなく、BPFや判定部はアナログ回路で構成されていてもよい。
ところで、処理回路10の集積回路100には、上述したように温度計測部8と制御部9とが設けられている。温度計測部8は、集積回路100の周囲温度を計測するように構成され、制御部9は、温度計測部8の計測値に応じて処理回路10の感度を変化させるように構成されている。つまり、温度計測部8および制御部9は、変換回路3および増幅回路4と共に集積化(ワンチップ化)されており、集積回路100の温度に合わせて処理回路10の感度を調節する機能を有している。
さらに詳しく説明すると、温度計測部8は、集積回路100の周囲温度に応じて電気的特性値が変化することにより、集積回路100の周囲温度に応じた電気信号(計測値)を出力するように構成されている。
本実施形態では、温度計測部8は、温度に応じて抵抗値が変化するような温度特性を持つ抵抗を用いることにより、集積回路100の周囲温度に応じた電気信号を出力する。具体的には、温度計測部8は、図2に示すように、計測用抵抗81と、定電流源82と、計測部83と、補償部84とを有している。計測用抵抗81は、定電流源82と電気的に接続され、定電流源82は、計測用抵抗81に一定電流を流すように構成されている。なお、計測用抵抗81に流れる電流は、赤外線検出装置1全体の消費電流に比べると無視できる程度の大きさの微小電流である。
計測部83は、計測用抵抗81の両端電圧を計測し、計測用抵抗81の両端電圧に応じた大きさの電気信号(計測値)を制御部9へと出力する。計測用抵抗81の抵抗値は、計測用抵抗81の温度、つまり集積回路100の周囲温度に応じて変化するので、一定電流が流れる状態での計測用抵抗81の両端電圧は、集積回路100の周囲温度に応じて変化することになる。したがって、計測部83の出力する電気信号は、集積回路100の温度に応じた大きさの信号となる。
ここで、本実施形態の赤外線検出装置1においては、温度計測部8は、たとえば温度変化に伴い抵抗値が大きく変化するノンドープポリシリコン抵抗を用いて構成されている。つまり、計測用抵抗81は、集積回路100に形成されたノンドープポリシリコン抵抗にて構成されている。ここでは、計測用抵抗81の抵抗値は常温(25度程度)で100MΩを超えるような比較的高抵抗に設定されている。
図3は、横軸を温度、縦軸を抵抗値としてノンドープポリシリコン抵抗の温度特性を表している。ノンドープポリシリコン抵抗からなる計測用抵抗81は、図3に示すように、温度が高くなるほど抵抗値が小さくなる負の温度特性を有している。なお、計測用抵抗81が負の温度特性を有することは必須の構成ではなく、計測用抵抗81は正の温度特性を有していてもよい。
一般的に、ノンドープポリシリコン抵抗は、個体間での抵抗値のばらつきが大きいが、温度特性については個体間でのばらつきが比較的小さい。そのため、ノンドープポリシリコン抵抗は、測定精度が要求されるセンサとしての利用には不向きであるが、本実施形態の赤外線検出装置1のように、感度の調節に用いられる程度の大雑把な温度の測定には使用可能である。要するに、本実施形態の赤外線検出装置1は、検知対象(人体)の存否を判断する際の感度を決定するために、温度計測部8の計測値を用いているだけであるから、計測用抵抗81の個体間での抵抗値のばらつきについては、ある程度許容される。
補償部84は、計測用抵抗81の抵抗値のばらつきなどにかかわらず、集積回路100の周囲温度と計測部83の出力する電気信号(計測値)との相対的な関係が略一定となるように、温度計測部8の温度特性を補償する機能を有している。補償部84は、たとえば赤外線検出装置1の工場出荷時、計測部83にて計測用抵抗81の両端電圧に掛けられる係数を調節することにより、温度計測部8の温度特性を補償する。
制御部9は、上述したように構成される温度計測部8の計測値(計測部83の出力)に応じて、処理回路10の感度を変化させるように構成されている。本実施形態では、処理回路10は、上述したように増幅回路4で増幅後の電圧信号と、閾値とを比較することにより、検知エリア内の検知対象(人体)の存否を判定する判定部61を備えている。そこで、制御部9は、判定部61を含むデジタル回路6に電気的に接続され、温度計測部8の計測値に応じて、判定部61で用いる閾値を変化させることにより、処理回路10の感度を変化させるように構成されている。
本実施形態においては、制御部9は、集積回路100の周囲温度が高くなるほど、処理回路10の感度を上げるように構成されている。具体的には、制御部9は、計測用抵抗81の両端電圧が低く(集積回路100の周囲温度が高く)なると、判定部61で用いる閾値を小さくするように構成されている。ここでは、制御部9は、予め設定された複数段階の閾値(第1の閾値、第2の閾値、…)の中から一つの閾値を選択して判定部61に適用し、計測用抵抗81の両端電圧が低くなるにつれて、小さな閾値へと切り替えるように構成されている。つまり、制御部9は、集積回路100の周囲温度が高くなると、たとえば図4に示すように閾値を第1の閾値Vth1,−Vth1から第2の閾値Vth2,−Vth2に下げることにより、処理回路10の感度を上げる。図4は、横軸を時間軸として、検知エリア内に検知対象(人体)が侵入したときに判定部61に入力される電圧信号を表している。
すなわち、人体と背景との温度差が十分にある環境においては、判定部61は、増幅回路4で増幅後の電圧信号X1を、第1の閾値Vth1,−Vth1と比較する。この状態で、電圧信号X1の絶対値が第1の閾値Vth1,−Vth1を超えると、判定部61は、検知エリア内の検知対象(人体)が存在すると判定する。
一方、夏場など、気温が高く人体と背景との温度差が小さくなる環境においては、判定部61は閾値を第2の閾値Vth2,−Vth2に下げ、増幅回路4で増幅後の電圧信号と比較する。この状態では、増幅回路4で増幅後の電圧信号X2の振幅は、上述の電圧信号X1の振幅より小さくなるため、第1の閾値Vth1,−Vth1のままでは電圧信号X2の絶対値が閾値を超えないことになる。閾値が第2の閾値Vth2,−Vth2になれば、電圧信号X2の絶対値は閾値を超えやすくなるため、処理回路10の感度は向上することになる。
なお、図4の例では、判定部61の閾値は、第1の閾値と第2の閾値との2段階で変化しているが、この例に限らず、制御部9は、判定部61の閾値を3段階以上変化させてもよい。
また、本実施形態においては、処理回路10は、変換回路3と、増幅回路4と、AD変換回路5と、デジタル回路6と、温度計測部8と、制御部9とを1個の集積回路100に集積化することにより、処理回路10をワンチップ化している。ただし、処理回路10がワンチップであることは必須の構成ではなく、適宜、外付け部品が付加されていてもよい。
以上説明した本実施形態の赤外線検出装置1によれば、処理回路10は、変換回路3および増幅回路4が集積回路100にて実現されており、且つ集積回路100には、温度計測部8と制御部9とが設けられている。温度計測部8は、集積回路100の周囲温度を計測し、制御部9は、温度計測部8の計測値に応じて処理回路10の感度を変化させる。
すなわち、変換回路3および増幅回路4は集積回路100に含まれているため、赤外線検出装置1の回路部分をワンチップ化することができる。しかも、集積回路100には温度計測部8と制御部9とが設けられているから、赤外線検出装置1は、集積回路100にとくに外付け部品を付加することなく、処理回路10の感度を集積回路100の温度に応じて変化させることができる。
したがって、赤外線検出装置1は、たとえば集積回路100の温度が高くなるほど処理回路10の感度を高めることにより、夏場など、気温が高く人体と背景との温度差が小さくなる環境においても、十分な感度で検知対象(人体)を検知することできる。よって、この赤外線検出装置1は、気温が変化しても感度が低下しにくい、という利点がある。
また、温度計測部8は、本実施形態のように、ノンドープポリシリコン抵抗を用いて構成されていることが好ましい。この構成によれば、赤外線検出装置1は、外付け部品を用いることなく集積回路100のみで、集積回路100の周囲温度を計測する機能を実現できるので、全体としての小型化を図ることができる。なお、温度計測部8は、ノンドープポリシリコン抵抗を用いて構成されていることは必須ではなく、適宜の構成を採用可能である。
また、本実施形態のように、処理回路10は、増幅回路4で増幅後の電圧信号と閾値とを比較することにより、検知エリア内の検知対象の存否を判定する判定部61を有し、制御部9は、温度計測部8の計測値に応じて閾値を変化させる構成であることが好ましい。この構成によれば、制御部9は、温度計測部8の計測値に応じて、判定部61で用いる閾値を変化させることにより、処理回路10の感度を変化させることができる。したがって、赤外線検出装置1は、比較的簡単な構成で、集積回路100の温度に応じて処理回路10の感度を変化させることができる。
(実施形態2)
本実施形態の赤外線検出装置1は、図5に示すように、制御部9は、温度計測部8の計測値に応じて処理回路10の利得を変化させるように構成されている点で、実施形態1の赤外線検出装置1と相違する。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
すなわち、実施形態1では、制御部9は、判定部61で用いる閾値を変化させることにより処理回路10の感度を変化させる構成であったのに対し、本実施形態では、制御部9は、変換回路3等の利得を変化させることにより処理回路10の感度を変化させる。制御部9は、処理回路(図5の例では増幅回路4)10に電気的に接続され、温度計測部8の計測値に応じて、利得を変化させることにより、処理回路10の感度を変化させるように構成されている。
本実施形態においては、制御部9は、集積回路100の周囲温度が高くなるほど、処理回路10の感度を上げるように構成されている。具体的には、制御部9は、計測用抵抗81の両端電圧が低く(集積回路100の周囲温度が高く)なると、増幅回路4の利得を大きくするように構成されている。ここでは、制御部9は、予め設定された複数段階の利得の中から一つの利得を選択して増幅回路4に適用し、計測用抵抗81の両端電圧が低くなるにつれて、大きな利得へと切り替えるように構成されている。つまり、増幅回路4は、たとえば図6に示すように、周波数帯域ごとに決まった利得を持つような周波数特性を有しており、制御部9は、集積回路100の周囲温度が高くなると、この周波数特性を切り替えるように動作する。図6は横軸を周波数、縦軸を利得(変換インピーダンス)として、増幅回路4の周波数特性の一例を表している。
すなわち、夏場など、気温が高く人体と背景との温度差が小さくなる環境においては、制御部9は、たとえば全周波数帯域に亘って利得を上げることにより、判定部61にて閾値と比較される電圧信号を、閾値に対して相対的に大きくする。これにより、電圧信号の絶対値は閾値を超えやすくなるため、処理回路10の感度は向上することになる。あるいは、制御部9は、夏場など、気温が高く人体と背景との温度差が小さくなる環境において、検知対象(人体)とは無関係に生じる低周波の揺らぎ成分を抑えるために、低周波成分に対する利得を下げる構成であってもよい。
一方、冬場など、気温が低く人体と背景との温度差が大きくなる環境においては、制御部9は、たとえば全周波数帯域に亘って利得を下げることにより、判定部61にて閾値と比較される電圧信号を、閾値に対して相対的に小さくする。
以上説明した本実施形態の構成によれば、制御部9は、温度計測部8の計測値に応じて、処理回路10の利得を変化させることにより、処理回路10の感度を変化させることができる。したがって、赤外線検出装置1は、比較的簡単な構成で、集積回路100の温度に応じて処理回路10の感度を変化させることができる。しかも、制御部9は、本実施形態のように、処理回路10の周波数特性を変化させることによって、きめ細かな感度調節が可能となる、という利点がある。
その他の構成および機能は実施形態1と同様である。
(実施形態3)
本実施形態の赤外線検出装置1は、制御部9が、処理回路10が稼働モードにある場合にのみ、処理回路10の感度を変化させるように構成されている点で、実施形態1の赤外線検出装置1と相違する。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
本実施形態においては、処理回路10は、検知対象の検知を行う稼働モードと、検知対象の検知を行わない休止モードとが、焦電素子2の出力に基づいて切り替わるように構成されている。つまり、制御部9は、処理回路10が休止モードにある場合には、処理回路10の感度を変化させず、処理回路10が稼働モードにある場合にのみ、処理回路10の感度を変化させる。
ここでは、処理回路10は、判定部61において人体の存否を判定するために用いられる閾値とは別に、該閾値よりも小さな起動閾値が予め設定され、増幅回路4の出力する電圧信号が起動閾値を超えてから一定時間に亘って、稼働モードで動作する。要するに、処理回路10は、休止モードでは、増幅回路4の出力する電圧信号と起動閾値とを比較し、電圧信号の絶対値が起動閾値を超えた時点から一定時間に亘っては、稼働モードで動作することになる。
そして、制御部9は、増幅回路4の出力する電圧信号が起動閾値を超えてから一定時間、つまり処理回路10が稼働モードで動作する期間にのみ、温度計測部8の計測値に応じて処理回路10の感度を変化させるように構成されている。
以上説明した本実施形態の赤外線検出装置1によれば、制御部9による処理回路10の感度の調節は、処理回路10が実際に検知対象の検知を行う稼働モードでのみ行われるので、休止モードでは、処理回路10の感度を調節する制御部9の機能は無効になる。したがって、赤外線検出装置1は、制御部9および温度計測部8による消費電力を極力抑えることができる。
その他の構成および機能は実施形態1と同様である。また、本実施形態の構成は、実施形態2で説明した構成(制御部9が、温度計測部8の計測値に応じて処理回路10の利得を変化させる構成)と組み合わせて適用することも可能である。