図1(a)は、本発明の一実施形態に係る液体吐出ヘッド2を含む記録装置であるカラーインクジェットプリンタ1(以下で単にプリンタと言うことがある)の概略の側面図であり、図1(b)は、概略の平面図である。プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pをガイドローラ82Aから搬送ローラ82Bへと搬送することにより、印刷用紙Pを液体吐出ヘッド2に対して相対的に移動させる。制御部88は、画像や文字のデータに基づいて、液体吐出ヘッド2を制御して、記録媒体Pに向けて液体を吐出させ、印刷用紙Pに液滴を着弾させて、印刷用紙Pに印刷などの記録を行なう。
本実施形態では、液体吐出ヘッド2はプリンタ1に対して固定されており、プリンタ1はいわゆるラインプリンタとなっている。本発明の記録装置の他の実施形態としては、液体吐出ヘッド2を、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に往復させるなどして移動させる動作と、印刷用紙Pの搬送を交互に行なう、いわゆるシリアルプリンタが挙げられる。
プリンタ1には、印刷用紙Pとほぼ平行となるように平板状のヘッド搭載フレーム70(以下で単にフレームと言うことがある)が固定されている。フレーム70には図示しない20個の孔が設けられており、20個の液体吐出ヘッド2がそれぞれの孔の部分に搭載されていて、液体吐出ヘッド2の、液体を吐出する部位が印刷用紙Pに面するようになっている。液体吐出ヘッド2と印刷用紙Pとの間の距離は、例えば0.5〜20mm程度とされる。5つの液体吐出ヘッド2は、1つのヘッド群72を構成しており、プリンタ1は、4つのヘッド群72を有している。
液体吐出ヘッド2は、図1(a)の手前から奥へ向かう方向、図1(b)の上下方向に細長い長尺形状を有している。この長い方向を長手方向と呼ぶことがある。1つのヘッド群72内において、3つの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に沿って並んでおり、他の2つの液体吐出ヘッド2は搬送方向に沿ってずれた位置で、3つの液体吐出ヘッド2の間にそれぞれ一つずつ並んでいる。液体吐出ヘッド2は、各液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲が、印刷用紙Pの幅方向に(印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向に)繋がるように、あるいは端が重複するように配置されており、印刷用紙Pの幅方向に隙間のない印刷が可能になっている。
4つのヘッド群72は、記録用紙Pの搬送方向に沿って配置されている。各液体吐出ヘッド2には、図示しない液体タンクから液体、例えば、インクが供給される。1つのヘッド群72に属する液体吐出ヘッド2には、同じ色のインクが供給されるようになっており、4つのヘッド群72で4色のインクが印刷できる。各ヘッド群72から吐出されるインクの色は、例えば、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。このようなインクを、制御部88で制御して印刷すれば、カラー画像が印刷できる。
プリンタ1に搭載されている液体吐出ヘッド2の個数は、単色で、1つの液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲を印刷するのなら1つでもよい。ヘッド群72に含まれる液体吐出ヘッド2の個数や、ヘッド群72の個数は、印刷する対象や印刷条件により適宜変更できる。例えば、さらに多色の印刷をするためにヘッド群72の個数を増やしてもよい。また、同色で印刷するヘッド群72を複数配置して、搬送方向に交互に印刷すれば、同じ性能の液体吐出ヘッド2を使用しても搬送速度を速くできる。これにより、時間当たりの印刷面積を大きくすることができる。また、同色で印刷するヘッド群72を複数準備して、搬送方向と交差する方向にずらして配置して、印刷用紙Pの幅方向の解像度を高くしてもよい。
さらに、色の付いたインクを印刷する以外に、印刷用紙Pの表面処理をするために、コーティング剤などの液体を印刷してもよい。
プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pに印刷を行なう。印刷用紙Pは、給紙ローラ80Aに巻き取られた状態になっており、2つのガイドローラ82Aの間を通った後、フレーム70に搭載されている液体吐出ヘッド2の下側を通り、その後2つの搬送ローラ82Bの間を通り、最終的に回収ローラ80Bに回収される。印刷する際には、搬送ローラ82Bを回転させることで印刷用紙Pは、一定速度で搬送され、液体吐出ヘッド2によって印刷される。回収ローラ80Bは、搬送ローラ82Bから送り出された印刷用紙Pを巻き取る。搬送速度は、例えば、50m/分とされる。各ローラは、制御部88によって制御されてもよいし、人によって手動で操作されてもよい。
記録媒体は、印刷用紙P以外に、ロール状の布などでもよい。また、プリンタ1は、印刷用紙Pを直接搬送する代わりに、搬送ベルトを直接搬送して、記録媒体を搬送ベルトに置いて搬送してもよい。そのようにすれば、枚葉紙や裁断された布、木材、タイルなどを記録媒体にできる。さらに、液体吐出ヘッド2から導電性の粒子を含む液体を吐出するようにして、電子機器の配線パターンなどを印刷してもよい。またさらに、液体吐出ヘッド2から反応容器などに向けて所定量の液体の化学薬剤や化学薬剤を含んだ液体を吐出させて、反応させるなどして、化学薬品を作製してもよい。
また、プリンタ1に、位置センサ、速度センサ、温度センサなどを取り付けて、制御部88が、各センサからの情報から分かるプリンタ1各部の状態に応じて、プリンタ1の各部を制御してもよい。例えば、液体吐出ヘッド2の温度や液体タンクの液体の温度、液体タンクの液体が液体吐出ヘッド2に加えている圧力などが、吐出される液体の吐出量や吐出速度などの吐出特性に影響を与えている場合などに、それらの情報に応じて、液体を吐出させる駆動信号を変えるようにしてもよい。
次に、本発明の一実施形態に係る液体吐出ヘッド2について説明する。図2(a)は、図1に示された液体吐出ヘッド2の要部であるヘッド本体2aを示す平面図である。図2(b)は、ヘッド本体2aから第2流路部材6を除いた状態の平面図である。図3および図4は、図2(b)の拡大平面図である。図5(a)は、図4のV−V線に沿った縦断面図である。図5(b)は、第1共通流路20に沿ったヘッド本体2aの縦断面図である。図6(a)は、圧電アクチュエータ基板40と、配線基板60との接続部分の部分縦断面図である。
各図は、図面を分かり易くするために次のように描いている。図2〜4では、他のものの下方にあって破線で描くべき流路などを実線で描いている。図2(a)では、第1流路部材4内の流路は省略し、圧電アクチュエータ基板40についても、その外形と個別電極本体44aの配置のみを示している。
液体吐出ヘッド2には、さらに、配線基板60が含まれる。また、ヘッド本体2aには、これら以外に、金属製の筐体や、ドライバICなどを含んでいてもよい。また、ヘッド本体2aは、第1流路部材4と、第1流路部材4に液体を供給する第2流路部材6と、加圧部である変位素子50が作り込まれている圧電アクチュエータ基板40とを含んでいる。配線基板60は、圧電アクチュエータ基板40に電気的に接続され、駆動信号を圧電アクチュエータ基板40に伝える。ヘッド本体2aは、一方方向に長い平板形状を有しており、その方向を長手方向と言うことがある。また、第2流路部材6は、支持部材の役割を果たしており、ヘッド本体2aは、第2流路部材6の長手方向の両端部のそれぞれでフレーム70に固定される。
ヘッド本体2aを構成する第1流路部材4は、平板状の形状を有しており、その厚さは0.5〜2mm程度である。第1流路部材4の第1の主面である加圧室面4−1には、加圧室10が平面方向に多数並んで配置されている。第1流路部材4の第2の主面であり、加圧室面4−1の反対側の面である吐出孔面4−2には、液体が吐出される吐出孔8が平面方向に多数並んで配置されている。吐出孔8は、それぞれ加圧室10と繋がっている。以下において、加圧室面4−1は、吐出孔面4−2に対して、上方に位置しているものとして説明をする。
第1流路部材4には、複数の第1共通流路20および複数の第2共通流路24が、第1方向に沿って伸びるように配置されている。また、第1共通流路20と第2共通流路24とは、第1方向と交差する方向である第2方向に交互に並んでいる。なお、第2方向は、ヘッド本体2aの長手方向と同じ方向である。
第1共通流路20の両側に沿って加圧室10が並んでおり、片側1列ずつ、合計2列の加圧室列11Aを構成している。第1共通流路20とその両側に並んでいる加圧室10とは、第1個別流路12を介して繋がっている。
第2共通流路24の両側に沿って加圧室10が並んでおり、片側1列ずつ、合計2列の加圧室列11Aを構成している。第2共通流路24とその両側に並んでいる加圧室10とは、第2個別流路14を介して繋がっている。なお、以下で、第1共通流路20と第2共通流路24とを合わせて、共通流路と言うことがある。
別の表現をすれば、加圧室10は仮想線上に並んで配置されており、仮想線の一方の側に沿って第1共通流路20が伸びており、仮想線の他方の側に沿って第2共通流路24が伸びている。本実施形態では、加圧室10が並んでいる仮想線は直線状であるが、曲線状や折れ線状であってもよい。
以上のような構成により、第1流路部材4においては、第2共通流路24に供給された液体は、第2共通流路24に沿って並んでいる加圧室10に流れ込み、一部の液体は吐出孔8から吐出され、他の一部の液体は、加圧室10に対して第2共通流路24と反対側に位置している第1共通流路20に流れ込み、第1流路部材4の外に排出される。
第1共通流路20の両側に第2共通流路24が配置されており、第2共通流路24の両側に第1共通流路20が配置されていることにより、1つの加圧室列11Aに対して、1つの第1共通流路20および1つの第2共通流路24が繋がっており、別の加圧室列11Aに対して、別の第1共通流路20および別の第2共通流路24が繋がっている場合と比較して、第1共通流路20および第2共通流路24の数を約半分にできるので好ましい。第1共通流路20および第2共通流路24の数が少なくて済む分、加圧室10の数を増やして高解像度化したり、第1共通流路20や第2共通流路24を太くして、吐出孔8からの吐出特性の差を小さくしたり、ヘッド本体2aの平面方向の大きさを小さくすることができる。
第1共通流路20に繋がっている第1個別流路12の第1共通流路20側の部分に加わる圧力は、圧力損失の影響で、第1共通流路20に第1個別流路12が繋がっている位置(主に第1方向における位置)により変わる。第2共通流路24に繋がっている第2個別流路14側の部分に加わる圧力は、圧力損失の影響で、第2共通流路24に第2個別流路14が繋がっている位置(主に第1方向における位置)により変わる。第1共通流路20の外部への開口20aを第1方向の一方の端部に配置し、第2共通流路24の外部への開口24aを第1方向の他方の端部に配置すれば、各第1個別流路12および各第2個別流路14の配置による圧力の差が打ち消されるように作用し、各吐出孔8に加わる圧力の差を小さくできる。なお、第1共通流路20の開口20a、および第2共通流路24の開口24aはともに、加圧室面4−1に開口している。
加圧室10は、加圧室面4−1に面して配置されており、変位素子50からの圧力を受ける加圧室本体10aと、加圧室本体10aの下から吐出孔面4−2に開口している吐出孔8に繋がる部分流路であるディセンダ10bとを含んだ中空の領域である。加圧室本体10aは、直円柱形状であり、平面形状は円形状である。平面形状が円形状であることにより変位素子50が同じ力で変形させた場合の変位量、および変位により生じる加圧室10の体積変化を大きくできる。ディセンダ10bは、直径が加圧室本体10aより小さい、直円柱形状であり、断面形状は円形状である。また、ディセンダ10bは、加圧室面4−1から見たときに、加圧室本体10a内に納まっている。
複数ある加圧室10は、加圧室面4−1において、千鳥状に配置されている。複数ある加圧室10は、第1方向に沿った複数の加圧室列11Aを構成している。各加圧室列11Aでは、加圧室10が、ほぼ等間隔で配置されている。隣り合っている加圧室列11Aに属する加圧室10は、第1方向に前記間隔の約半分ずれて配置されている。別の表現をすれば、ある加圧室列11Aに属する加圧室10は、その隣に位置する加圧室列11Aに属する、連続する2つの加圧室10に対して、第1方向のほぼ中央に位置している。
これにより、1つ置きの加圧室列11Aに属している加圧室10は、第2方向に沿って配置されることになり、加圧室行11Bを構成している。
本実施形態では、第1共通流路20は51本、第2共通流路24は50本であり、加圧室列11Aは100列である。なお、ここでは、後述のダミー加圧室10Dのみで構成されているダミー加圧室列11Dは、上述の加圧室列11Aの数に含めていない。また、直接的に繋がっているのがダミー加圧室10Dだけである第2共通流路24は、上述の第2共通流路24の数に含めていない。また、各加圧室列11Aには16個の加圧室10が含まれている。ただし、第2方向の端に位置する加圧室列11Aには、8個の加圧室10および8個のダミー加圧室10Dが含まれている。上述のように、加圧室10は千鳥状に配置されているため、加圧室行11Bの行数は、32行である。
複数ある加圧室10は、吐出孔面4−2において、第1方向および第2方向に沿った格子状に配置されている。複数ある吐出孔8は、第1方向に沿った複数の吐出孔列9Aを構成している。吐出孔列9Aと加圧室列11Aとは、ほぼ同じ位置に配置されている。
加圧室10の面積重心と、加圧室10と繋がっている吐出孔8とは第1方向にずらされて配置されている。1つの加圧室列11A内では、ずらされる方向は同じ方向であり、隣り合う加圧室列11Aでは、ずらされる方向は逆方向になっている。これにより、2行の加圧室行11Bに属する加圧室10から繋がっている吐出孔8は、第2方向に沿って配置された1行の吐出孔行9Bを構成している。
したがって、本実施形態では、吐出孔列9Aは100列であり、吐出孔行9Bは16行である。
加圧室本体10aの面積重心と、加圧室本体10aから繋がっている吐出孔8とは、ほぼ第1方向に位置がずれている。ディセンダ10bは、加圧室本体10aに対して、吐出孔8の方向にずれた位置に配置されている。加圧室本体10aの側壁と、ディセンダ10bの側壁とは接するように配置されており、これにより加圧室本体10a内での液体の滞留を起き難くすることができる。
吐出孔8は、ディセンダ10bの中央部に配置されている。ここで中央部とは、ディセンダ10bの面積重心を中心とする、ディセンダ10bの直径の半分の円内の領域のことである。
第1個別流路12と加圧室本体10aとの接続部は、加圧室本体10aの面積重心に対して、ディセンダ10bとは反対側に配置されている。これにより、ディセンダ10bから流れ込んだ液体は、加圧室本体10a全体に広がった後、第1個別流路12に向かうように流れるため、加圧室本体10a内に液体の滞留が生じ難い。
第2個別流路14は、ディセンダ10bの吐出孔面4−2側の面から、平面方向に引き出されて第2共通流路24と繋がっている。引き出される方向は、加圧室本体10aに対して、ディセンダ10bがずらされる方向と同じである。
第1方向と第2方向とが成す角度は直角からずれている。このため、第1方向に沿って配置されている吐出孔列9Aに属する吐出孔8同士は、その直角からのずれた角度の分、第2方向にずれて配置される。そして、吐出孔列9Aが第2方向に並んで配置されるので、異なる吐出孔列9Aに属する吐出孔8は、その分、第2方向にずれて配置される。これらが合わさって、第1流路部材4の吐出孔8は、第2方向に一定間隔で並んで配置されており、これにより、吐出した液体により形成される画素で所定の範囲を埋めるように印刷ができる。
1つの吐出孔列9Aに属する吐出孔8の配置は、第1方向に沿って完全に一直線上に配置すれば、上述のように所定範囲を埋め尽くすように印刷が可能である。ただし、そのように配置した場合に、プリンタ1に液体吐出ヘッド2を設置する際に生じる第2方向に直交する方向と搬送方向とのずれが、印刷精度に与える影響が大きくなる。そのため、上述の一直線上の吐出孔8の配置から、隣り合う吐出孔列9Aの間で、吐出孔8を入れ替えて配置するのが好ましい。
本実施形態では、吐出孔8の配置は次のようになっている。図3において、吐出孔8を第2方向と直交する方向に投影すると、仮想直線Rの範囲に32個の吐出孔8が投影され、仮想直線R内で各吐出孔8は360dpiの間隔に並ぶ。これにより、仮想直線Rに直交する方向に印刷用紙Pを搬送して印刷すれば、360dpiの解像度で印刷できる。仮想直線R内に投影される吐出孔8は、1列の吐出孔列9Aに属する吐出孔8すべて(16個)と、その吐出孔列9Aの両隣に位置する2つの吐出孔列9Aに属する吐出孔8の半分(8個)ずつである。このような構成にするために、各吐出孔行9Bでは、吐出孔8は、22.5dpiの間隔で並んでいる。これは、360/16=22.5であるからである。
第1共通流路20および第2共通流路24は、吐出孔8が直線状に並んでいる範囲では、直線になっており、直線がずれる吐出孔8の間で平行にずれている。第1共通流路20および第2共通流路24において、このずれる箇所が少ないので、流路抵抗が小さくなっている。また、この平行にずれる部分は、加圧室10と重ならない位置に配置されているので、加圧室10毎に吐出特性の変動を小さくできる。
第2方向の両方の端の1列(すなわち合わせて2列)の加圧室列11Aには、通常の加圧室10とダミー加圧室10Dとが含まれている(そのため、この加圧室列11Aをダミー加圧室列11Dと言うことがある)。また、ダミー加圧室列11Dのさらに外側には、ダミー加圧室10Dのみが並んでいる1列(すなわち、両端で合わせて2列)のダミー加圧室列11Dが配置されている。第2方向の両方の端に1本ずつ(すなわち合わせて2本)ある流路は、通常の第1共通流路24と同じ形状をしているが、直接的には加圧室10とは繋がっておらず、ダミー加圧室10Dとしか繋がっていない。
第2流路部材6は、第1流路部材4の加圧室面4−1に接合されており、第2共通流路24に液体を供給する第2統合流路26と、第1共通流路20の液体を回収する第1統合流路22とを有している。第2流路部材6の厚さは、第1流路部材4よりも厚く、5〜30mm程度である。
第2流路部材6は、第1流路部材4の加圧室面4−1の圧電アクチュエータ基板40が接続されていない領域で接合されている。より具体的には、圧電アクチュエータ基板40を囲むように接合されている。このようにすることで、圧電アクチュエータ基板40に、吐出した液体の一部がミストとなって付着するのを抑制できる。また、第1流路部材4を外周で固定することになるので、第1流路部材4が変位素子50の駆動に伴って振動して、共振などが生じることを抑制できる。
また、第2流路部材6の中央部で、貫通孔6cが上下に貫通している。貫通孔6cは、圧電アクチュエータ基板40を駆動する駆動信号を伝達するFPC(Flexible Printed Circuit)などの配線基板60が通される。なお、貫通孔6cの第1流路部材4側は、短手方向の幅が広くなっている拡幅部6caとなっており、圧電アクチュエータ基板40から短手方向の両側に伸びる配線基板60は、拡幅部6caで曲げられて上方に向かい、貫通孔6を抜ける。なお、拡幅部6caに広がる部分の凸部は、配線基板60を傷つけるおそれがあるので、R形状にしておくのが好ましい。
第1統合流路22を、第1流路部材4とは別の、第1流路部材4より厚い第2流路部材6に配置することで、第1統合流路22の断面積を大きくすることができ、それにより第1統合流路22と第1共通流路20とが繋がっている位置の差による圧力損失の差を小さくできる。第1統合流路22の流路抵抗は、第1共通流路20の1/100以下にするのが好ましい。ここで、第1統合流路22の流路抵抗とは、より正確には第1統合流路22のうちで、第1共通流路20と繋がっている範囲の流路抵抗のことである。
第2統合流路26を、第1流路部材4とは別の、第1流路部材4より厚い第2流路部材6に配置することで、第2統合流路26の断面積を大きくすることができ、それにより第2統合流路26と第2共通流路24とが繋がっている位置の差による圧力損失の差を小さくできる。第2統合流路26の流路抵抗は、第2共通流路24の1/100以下にするのが好ましい。ここで、第2統合流路26の流路抵抗とは、より正確には第2統合流路26のうちで、第1統合流路22と繋がっている範囲の流路抵抗のことである。
第1統合流路22を第2流路部材6の短手方向の一方の端に配置し、第2統合流路26を第2流路部材6の短手方向の他方の端に配置し、それぞれの流路を第1流路部材4側に向かわせて、それぞれ第1共通流路20および第2共通流路24と繋げる構造にする。このような構造にすることで、第1統合流路22および第2統合流路26の断面積を大きくして、流路抵抗を小さくすることができる。また、このような構造にすることで、第1流路部材4は、外周が第2流路部材6で固定されるので剛性を高くできる。さらに、このような構造にすることで、配線基板60の通る貫通孔6cを設けることができる。
第2流路部材6は、第2流路部材のプレート6aと6bとが積層されて構成されている。プレート6bの上面には、第1統合流路22のうち第2方向に伸びている流路抵抗の低い部分である第1統合流路本体22aとなる溝と、第2統合流路26のうち第2方向に伸びている流路抵抗の低い部分である第2統合流路本体26aとなる溝が配置されている。
第1統合流路本体22aとなる溝から、下方(第1流路部材4の方向)に向かって複数の第1接続流路22bが伸びており、加圧室面4−1上に開口している第1共通流路の開口20aに繋がっている。各第1接続流路22bの間は仕切り6baで区切られている(つまり、第1接続流路22bの第1共通流路20側は分岐している)。これにより、第2流路部材6と第1流路部材4との接続の剛性を高くできる。さらに、第2方向において、仕切り6baの長さは、第1接続流路22bの長さより長くなっていることで、第2流路部材6と第1流路部材4との接続の剛性をより高くできる。
第2統合流路本体26aとなる溝から、下方(第1流路部材4の方向)に向かって複数の第2接続流路26bが伸びており、加圧室面4−1上に開口している第2共通流路の開口24aに繋がっている。各第2接続流路26bの間は仕切り6bbで区切られている(つまり、第2接続流路26bの第2共通流路24側は分岐している)。これにより、第2流路部材6と第1流路部材4との接続の剛性を高くできる。さらに、第2方向において、仕切り6bbの長さは、第2接続流路26bの長さより長くなっていることで、第2流路部材6と第1流路部材4との接続の剛性をより高くできる。
プレート6aには、第1統合流路22の第2方向の一方の端には、開口22cが設けられている。プレート6aには、第2統合流路26の第2方向の他方の端には、開口26cが設けられている。液体は、第2統合流路26の開口26cから供給され、第1統合流路22の開口22cから回収されるが、これに限らず供給と回収を逆にしてもよい。
第1統合流路22および第2統合流路26には、ダンパを設けて、液体の吐出量の変動に対して液体の供給、あるいは排出が安定するようにしてもよい。また、第1統合流路22および第2統合流路26内に、フィルタを設けることにより、異物や気泡が、第1流路部材4に入り込み難くしてもよい。
第1流路部材4の上面である加圧室面4−1には、変位素子50を含む圧電アクチュエータ基板40が接合されており、各変位素子50が加圧室10上に位置するように配置されている。圧電アクチュエータ基板40は、加圧室10によって形成された加圧室群とほぼ同一の形状の領域を占有している。また、各加圧室10の開口は、流路部材4の加圧室面4−1に圧電アクチュエータ基板40が接合されることで閉塞される。圧電アクチュエータ基板40は、ヘッド本体2aと同じ方向に長い長方形状である。また、圧電アクチュエータ基板40には、各変位素子50に信号を供給するための配線基板60が接続されている。第2流路部材6には、中央で、上下に貫通している貫通孔6cがあり、配線基板60は貫通孔6cを通って制御部88と電気的に繋がれる。配線基板60は、圧電アクチュエータ基板40の一方の長辺の端から他方の長辺の端に向かうように短手方向に伸びる形状にし、配線基板60に配置される配線60bが短手方向に沿って伸び、長手方向に並ぶようにすれば、配線60b同士の間隔を大きくできるので、好ましい。
圧電アクチュエータ基板40の上面における各加圧室10に対向する位置には個別電極44がそれぞれ配置されている。
流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。流路部材4の加圧室面4−1側から順に、プレート4aからプレート4jまでの10枚のプレートが積層されている。これらのプレートには多数の孔や溝が形成されている。孔や溝は、例えば、各プレートを金属で作製し、エッチングで形成できる。各プレートの厚さは10〜300μm程度であることにより、形成する孔の形成精度を高くできる。プレート4e〜hは、同じ形状のプレートであり、それらは1枚のプレートで構成してもよいが、孔を精度よく形成するため、4枚のプレートで構成している。各プレートは、これらの孔が互いに連通して第1共通流路20などの流路を構成するように、位置合わせして積層されている。
平板状の流路部材4の加圧室面4−1には、加圧室本体10aが開口しており、圧電アクチュエータ基板40が接合されている。また、加圧室面4−1には、第2共通流路24に液体を供給する開口24a、および第1共通流路20から液体を回収する開口20aが開口している。流路部材4の、加圧室面4−1と反対側の面である吐出孔面4−2には吐出孔8が開口している。なお、加圧室面4−1にさらにプレートを積層して、加圧室本体10aの開口を塞ぎ、その上に圧電アクチュエータ基板40を接合してもよい。そのようにすれば、吐出する液体が圧電アクチュエータ基板40に接する可能性を低減することができ、信頼性をより高くできる。
液体を吐出する構造としては、加圧室10と吐出孔8とがある。加圧室10は、変位素子50に面している加圧室本体10aと、加圧室本体10aより断面積が小さいディセンダ10bから成っている。加圧室本体10aは、プレート4aに形成されており、ディセンダ10bは、プレート4b〜iに形成された孔が重ねられ、さらにノズルプレート4jで(吐出孔8以外の部分を)塞がれて成っている。
加圧室本体10aには、第1個別流路12が繋がっており、第1個別流路12は、第1共通流路20に繋がっている。第1個別流路12は、プレート4bを貫通する円形状の孔と、プレート4cにおいて平面方向に伸びている貫通溝と、プレート4dを貫通する円形状の孔とを含んでいる。第1共通流路20はプレート4e〜hに形成された孔が重ねられ、さらに上側をプレート4dで、下側をプレート4iで塞がれて成っている。
ディセンダ10bには、第2個別流路14が繋がっており、第2個別流路14は、第2共通流路24に繋がっている。第2個別流路14は、プレート4iにおいて平面方向に伸びている貫通溝である。第2共通流路24はプレート4e〜hに形成された孔が重ねられ、さらに上側をプレート4dで、下側をプレート4iで塞がれて成っている。
液体の流れについて、まとめると、第2統合流路26に供給された液体は、第2共通流路24および第2個別流路14を順に通って加圧室10に入り、一部の液体は吐出孔8から吐出される。吐出されなかった液体は、第1個別流路12を通って、第1共通流路20に入った後、第1統合流路22に入り、ヘッド本体2の外部に排出される。
圧電アクチュエータ基板40は、圧電体である2枚の圧電セラミック層40a、40bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層40a、40bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。すなわち、圧電アクチュエータ基板40の圧電セラミック層40aの上面から圧電セラミック層40bの下面までの厚さは40μm程度である。圧電セラミック層40aと圧電セラミック層40bの厚さの比は、3:7〜7:3、好ましく4:6〜6:4にされる。圧電セラミック層40a、40bのいずれの層も複数の加圧室10を跨ぐように延在している。これらの圧電セラミック層40a、40bは、例えば、強誘電性を有する、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系、NaNbO3系、BaTiO3系、(BiNa)NbO3系、BiNaNb5O15系などのセラミックス材料からなる。
圧電アクチュエータ基板40は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極42およびAu系などの金属材料からなる個別電極44を有している。共通電極42の厚さは2μm程度であり、個別電極44の厚さは、1μm程度である。
個別電極44は、圧電アクチュエータ基板40の上面における各加圧室10に対向する位置に、それぞれ配置されている。個別電極44は、平面形状が加圧室本体10aより一回り小さく、加圧室本体10aとほぼ相似な形状を有している個別電極本体44aと、個別電極本体44aから引き出されている引出電極44bとを含んでいる。
引出電極44bの一端の、加圧室10と対向する領域外に引き出された部分には、接続電極46が形成されている。接続電極46は、例えばAg−Pd系の導体であり、2〜20μm程度の厚さで形成されている。なお、接続電極46は、設けなくても構わない。接続電極46の上には、凸形状のバンプ48が設けられている。バンプ48は、例えば、高さ5〜200μm程度であり、導電粒子を含んだ樹脂である。個別電極44と配線基板60の端子電極60cとは、バンプ48を介して、電気的に接続されている。圧電アクチュエータ基板40と配線基板60とは、バンプ48の周囲に配置された接合樹脂62で互いに接合されている。これらについては、後で詳述する。
また、圧電アクチュエータ基板40の上面には、共通電極用表面電極(不図示)が形成されている。共通電極用表面電極と共通電極42とは、圧電セラミック層40aに配置された、図示しない貫通導体を通じて、電気的に接続されている。
詳細は後述するが、個別電極44には、制御部88から配線基板60を通じて駆動信号が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。
共通電極42は、圧電セラミック層40aと圧電セラミック層40bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極42は、圧電アクチュエータ基板40に対向する領域内のすべての加圧室10を覆うように延在している。共通電極42は、圧電セラミック層40a上に個別電極44からなる電極群を避ける位置に形成されている共通電極用表面電極(不図示)に、圧電セラミック層40aを貫通して形成された貫通導体を介して繋がっている。また、共通電極42は、共通電極用表面電を介して接地され、グランド電位に保持されている。共通電極用表面電極は、個別電極44と同様に、制御部88と直接あるいは間接的に接続されている。
圧電セラミック層40aの個別電極44と共通電極42とに挟まれている部分は、厚さ方向に分極されており、個別電極44に電圧を印加すると変位する、ユニモルフ構造の変位素子50となっている。より具体的には、個別電極44を共通電極42と異なる電位にして圧電セラミック層40aに対してその分極方向に電界を印加したとき、この電界が印加された部分が、圧電効果により歪む活性部として働く。この構成において、電界と分極とが同方向となるように、制御部88により個別電極44を共通電極42に対して正または負の所定電位にすると、圧電セラミック層40aの電極に挟まれた部分(活性部)が、面方向に収縮する。一方、非活性層の圧電セラミック層40bは電界の影響を受けないため、自発的には縮むことがなく活性部の変形を規制しようとする。この結果、圧電セラミック層40aと圧電セラミック層40bとの間で分極方向への歪みに差が生じて、圧電セラミック層40bは加圧室10側へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。
続いて、液体の吐出動作について、説明する。制御部88からの制御でドライバICなどを介して、個別電極44に供給される駆動信号により、変位素子50が駆動(変位)させられる。本実施形態では、様々な駆動信号で液体を吐出させることができるが、ここでは、いわゆる引き打ち駆動方法について説明する。
あらかじめ個別電極44を共通電極42より高い電位(以下、高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極44を共通電極42と一旦同じ電位(以下、低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極44が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層40a、40bが元の(平らな)形状に戻り(始め)、加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。これにより、加圧室10内の液体に負圧が与えられる。そうすると、加圧室10内の液体が固有振動周期で振動し始める。具体的には、最初、加圧室10の体積が増加し始め、負圧は徐々に小さくなっていく。次いで加圧室10の体積は最大になり、圧力はほぼゼロとなる。次いで加圧室10の体積は減少し始め、圧力は高くなっていく。その後、圧力がほぼ最大になるタイミングで、個別電極44を高電位にする。そうすると最初に加えた振動と、次に加えた振動とが重なり、より大きい圧力が液体に加わる。この圧力がディセンダ内を伝搬し、吐出孔8から液体を吐出させる。
つまり、高電位を基準として、一定期間低電位とするパルスの駆動信号を個別電極44に供給することで、液滴を吐出できる。このパルス幅は、加圧室10の液体の固有振動周期の半分の時間であるAL(Acoustic Length)とすると、原理的には、液体の吐出速度および吐出量を最大にできる。加圧室10の液体の固有振動周期は、液体の物性、加圧室10の形状の影響が大きいが、それ以外に、圧電アクチュエータ基板40の物性や、加圧室10に繋がっている流路の特性からの影響も受ける。
本実施形態では、圧電アクチュエータ基板40と、配線基板60とは、バンプ48を介して電気的に接続されているとともに、バンプ48の周囲に配置された接合樹脂62で接合されている。
電気的接続は、圧電アクチュエータ基板40上の個別電極44の一部である引出電極44bと、配線基板60上の端子電極60cとの間、および圧電アクチュエータ基板40上の共通電極用表面電極と、配線基板60上の端子電極60cとの間で行なわれる。
図7(a)および(b)に示すように、配線基板60は、樹脂フィルムなどで構成された基材60aの上に、Cuなどで構成された、配線60bおよび端子電極60cが形成されており、配線60b同士がショートしたり、他のものと電気的に接触し難いように、基材60aの配線60bおよび端子電極60cが形成された側の一部にはカバー樹脂60dが設けられている。
端子電極60cは、例えば直径100〜500μm程度の円形状などにされるが、形状はどのようなものでも構わない。配線60bは、通常、端子電極60cの大きさよりも幅が狭くなっている。カバー樹脂60dは、配線60bのほぼ全体を覆うように形成されているが、端子電極60cの部分では、端子電極60cの少なくとも一部が露出するように、形成されている。また、配線60bの、端子電極60cと反対側の端なども、最終的に制御部88と電気的に接続できるようにカバー樹脂60dは形成されていない。
圧電アクチュエータ基板40と、配線基板60との接合は、バンプ48の周囲に配置されている接合樹脂62が、圧電アクチュエータ基板40の主面(圧電セラミック層40a、個別電極40および接続電極46のうちの少なくとも1つ以上)と、配線基板60の主面(基材60a、配線60bおよびカバー樹脂60dのうちの少なくとも1つ以上)とを接合することで成される。また、接合樹脂62は、加圧室10の上部の圧電アクチュエータ基板40には接合しておらず、変位素子50の変位を抑制し難くなっている。
このような接合は、次のような方法で製造できる。第1工程として圧電アクチュエータ基板40および配線基板60を準備する。なお、圧電アクチュエータ基板40と配線基板60とのどちらを先に準備してもよい。圧電アクチュエータ基板40の接続電極46の上には、Ag粒子などの導電性粒子を含んだ導電性樹脂を凸形状に塗布する。この導電性樹脂の樹脂成分は、例えば、エポキシ樹脂であり、加熱硬化させることにより、凸形状のバンプ48となり、接続電極46に接合された状態となる。バンプ48の高さは、10〜500μm程度にされる。
続いて、配線基板60を準備する。配線基板60の端子電極60cの周囲に未硬化の樹脂62を塗布する。樹脂62は、例えば、エポキシ樹脂である。樹脂62が塗布される範囲の平面形状は、例えば、端子電極60cを中心とした円環状にされる。塗布される範囲は、外周が円形状であるとともに、端子電極60cの中央部を含むように樹脂62が塗布されていない、外周と同心円状の中央非塗布部62aが設けられる(図7(b)参照)。上位概念化すれば、樹脂62は、端子電極60cの中央部には塗布されておらず、端子電極60cの中央部を囲むように、連続的な状態、もしくは断続的な状態で塗布される。断続的な状態とは、樹脂が塗布された塗布部と塗布されていない非塗布部とが交互に配置された状態のことである。そして、塗布部と非塗布部は、端子電極60cの中央部を囲むように、環状に配置されている。また、樹脂62が、端子電極60cの中央部を囲む環状の配置は、円形状以外に、楕円形状や、四角形状などの多角形状であってもよい。
端子電極60cの外周部には、樹脂62は、塗布されていてもよく、塗布されていなくてもよい。なお、端子電極60cの中央部とは、最終的にバンプ48と接続される部分であり、基本的には、端子電極60cの面積重心を含む領域である。また、樹脂62の塗布は、外周部でカバー樹脂60dと重なるように行なってもよい。そのようにすれば、配線60bのショートなどを起き難くできる。
塗布された樹脂62は、濡れ広がることがあったとしても、粘度がある程度高いことで、端子電極60cの中央部までは濡れ広がらない。これは、後述の第2工程の接合において、樹脂62の粘度が低くなることがあった場合でも同様である。
樹脂62は、中央非塗布部62aが端子電極60よりも広い範囲となるように塗布するのが好ましい。つまり、端子電極60cの上には、樹脂62が塗布されないようにする。端子電極60cは、厚さが、例えば5〜20μm程度あるため、樹脂62が端子電極60cよりも外側に塗布されていれば、端子電極60cの縁が基材60aよりも高くなっていることにより、樹脂62が、端子電極60cの中央部まで濡れ広がることを抑制できる。
樹脂62を円環状に塗布すると、端子電極60cから繋がっている配線60bの一部の上にも、樹脂62が塗布される。配線60bの厚さは、基本的には端子電極60cと同じ厚さにされるため、配線60bの上に塗布された樹脂62は、比較的、端子電極60cの中央部にまでに濡れ広がり易い。そのため、樹脂62は、配線60bには塗布しないのが好ましい。
第2工程では、上述のように準備した圧電アクチュエータ基板40と配線基板60とを接合する。まず、圧電アクチュエータ基板40のバンプ48が形成された面と、配線基板60の、端子電極60cが形成されて、樹脂62が塗布された面とが向かい合わせにされる。続いて、バンプ48と、樹脂62の中央非塗布部62aとの位置が合わせられて、圧電アクチュエータ基板40と配線基板60とが重ねられる(図7(a)参照)。この時点では、バンプ48は、樹脂62とは接触しておらず、中央非塗布部62aにおいて端子電極60cと接触している。ここで、バンプ48と端子電極60cとの間に樹脂62が介在しないので、これらを良好に電気的に接続できる。
さらに圧電アクチュエータ基板40と配線基板60とが押し付けられると、バンプ48、あるいは基材60aが変形して、樹脂62は、圧電アクチュエータ基板40の主面(圧電セラミック層40a、個別電極40および接続電極46のうちの少なくとも1つ以上)、もしくはバンプ48の外周部と接触する。その後の状態は、樹脂62の粘度などにより多少の差異はあるが、樹脂62は、圧力により変形させられたり、表面張力により流動することで、圧電セラミック層40a、接続電極44およびバンプ48の外周部に広がる。続いて、樹脂62は、加熱硬化させられる。この際、樹脂62は、一旦低粘度化するので、前述の圧電セラミック層40a、接続電極44およびバンプ48の外周部への広がりが少なかったとしても、この段階で広がる。その結果、接合樹脂62は、内側はバンプ48を覆う円形状となり、外周は、それとほぼ同心円の円形状となる。その後、樹脂62は、硬化して接合樹脂62となる。これによりバンプ48と端子電極60cとは、外側から接合樹脂62により抑え込まれるような状態で電気的接合が続くようになる。この際、バンプ48に未硬化の樹脂成分が残っていれば接合に寄与できる。
なお、樹脂62は、圧電アクチュエータ基板40の主面、もしくはバンプ48の外周部との接触は、バンプ48と端子電極60cとの接触の後でも起きるようにしてもよい。そのような場合、樹脂62が、バンプ48の中央部にまで広がってくる前に、バンプ48と端子電極60cとが接触するようにする。そのようにすれば、バンプ48と端子電極60cとの接続領域には、実質的に樹脂62が存在しないようにできる。ただし、上述したように、バンプ48と端子電極60cとを先に接触させるようにした方が、樹脂62が接続領域により入り込み難くできる。
このように接合することで、バンプ48の外周は、接合樹脂62に覆われていても、バンプ48と端子電極60cとの接続領域には、実質的に接合樹脂62が存在しない状態で接合ができる。ここで、実質的に接合樹脂62が存在しないとは、バンプ48と端子電極60cとの接続領域の中央部において、接合樹脂62の存在割合が平均で20面積%以下、さらに10面積%以下、特に5面積%以下であることを言う。なお、接続領域の中央部とは、接続領域の面積重心を中心とした、接続領域の面積の半分の円形の領域である。
これは、例えば、次のようにして評価できる。圧電アクチュエータ基板40と配線基板60とを剥がして、バンプ48と圧電アクチュエータ基板40との界面部分を観察する。界面において、バンプ48と圧電アクチュエータ基板40とが接合していた部分を内包する領域を画定する。接合していた部分の外周は不定形で凹凸のある形状である場合もあるが、外周に凹部ができないような最小の面積の領域を画定して、それを接続領域とする。そして、接続領域の面積重心を中心とした、接続領域の面積の半分の円形の領域において、界面部分を観察し、樹脂62の面積を測定して、割合を算出すればよい。なお、バンプ48と圧電アクチュエータ基板40とが接合していた部分とは、それらが直接接続している部分を意味しており、接合樹脂62を介して接合していた部分は含まない。ただし、上述のように確定した接続領域の外周部等には、接合樹脂62を介して接合していた部分も含まれる。
バンプ48が、導電性粒子と樹脂とを含んでいる場合、接合前のバンプ48の表面は、微視的に見た場合、導電性粒子、あるいは樹脂に覆われた導電性粒子の細かい突起が存在する場合ある。そのようなバンプ48を上述のように接合すると、バンプ48の細かい突起の周囲が、端子電極60cに達するまで押さえ付けられず、微小な隙間が空いた状態になることがある。そのような場合、接合の際に低粘度化した接合樹脂62が、毛細管現象により、バンプ48と端子電極60cとの界面の隙間に入り込んでくることがあるが、そのような場合でも、接合樹脂62の割合は上述の範囲内となる。また、そのような場合、接合樹脂62は、界面に薄く存在することになる。
特許文献1のような、端子電極60cの上に接合樹脂62を塗布し、バンプ48によって接合樹脂62を突き破って接続させる製造方法では、接続領域の中央部の面積の1/3〜1/2の部分において接合樹脂62が介在した状態となって接合される。このため、個別電極44から配線60bまでの導体抵抗は、接続領域の中央部に接合樹脂62が実質的に存在しない場合と比較すると、1割倍程度大きくなる。また、この場合、接合樹脂62、バンプ48と端子電極60cとの界面において、厚く存在することになる。
また、上述のように、加熱して接合を行なう場合、接合樹脂62は高温で硬化し、その後、常温に戻される。その場合、接合樹脂62の熱膨張係数が、バンプ48の熱膨張係数よりも大きいのが好ましい。そのようにすれば、降温過程において、バンプ48よりも接合樹脂62の方の収縮量が大きくなるため、接合樹脂62がより収縮する分、端子電極60cとバンプ48とが押し付けられ、電気的接合および機械的接合が強固になる。
続いて、本発明の他の実施形態について説明する。図6(b)、(c)、図8(a)〜(f)、図9(a)〜(f)は、本発明の他の実施形態における、圧電アクチュエータ基板40と配線基板60とが接合されている部分を示す図である。基本的な構成は、上述の形態と同じであり、差異の少ない部分については、同じ符号を付けて説明を省略する。
図6(b)は、バンプ48周囲の部分縦断面図である。図6(b)の形態では、バンプ48の外周は、図示されていない部分も含めて接合樹脂162から離間しており、バンプ48と接合樹脂162との間には、空隙Sが存在する。このような形態は、未硬化の樹脂162の塗布を、図6(a)を作製した場合よりも、中央非塗布部の大きさを大きくし、樹脂162の外周も大きくすることで作製できる。バンプ48と接合樹脂162とが離れていることにより、バンプ48と端子電極60cとの接合部に、接合樹脂162が入り込む可能性をより低くできる。
図6(c)は、バンプ48周囲の部分縦断面図である。図6(c)の形態では、接合樹脂262の量は、図6(a)および(b)よりも少なく、バンプ48の下側、すなわち接続電極46側にちょうど達する程度になっている。なお、接合樹脂262は、接続電極46に達していなく、バンプ48の一部だけを覆うようにしてもよい。このような形態は、図6(a)を作製した場合よりも、中央非塗布部の大きさを小さくし、樹脂262の外周も小さくするように、未硬化の樹脂262を塗布することで作製できる。樹脂262は、前述の第2工程において、バンプ48の外周に接触することになる。
接合樹脂62、162、262の断面形状は、それぞれの図において、高さ方向の中央が凹んでいる鼓状になっている。これは、硬化の際に高温になった際に、一旦低粘度化するため、表面張力で濡れ広がった状態で硬化したことを示している。塗布後の樹脂の粘度、あるいは、高温での粘度低下を小さくすれば、断面形状を、高さ方向の中央が凸となっている太鼓状にすることもできる。
図8(a)、(c)、(e)は、未硬化の樹脂362、462、562が塗布された配線基板60の部分平面図である。図8(b)、(d)、(f)は、図8(a)、(c)、(e)に示した配線基板60を、圧電アクチュエータ基板40と接合した後の配線基板60を示す図である。図8(b)、(d)、(f)において、圧電アクチュエータ基板40は描いていない。
これらの図で、引出電極44bは、端子電極60cとバンプ48を介して電気的に接続されるものの配置を示している。D1方向は、バンプ48から、バンプ4と繋がっている個別電極本体44aに向かう方向を示している。本実施形態では、引出電極44bは、個別電極本体44aの中央から放射状の方向に直線状に伸びるように形成されているため、D1方向と、バンプ48が配置されている部分の引出電極44bから引出電極44bの伸びる方向とが一致している。一般的には、それらの方向は一致するとは限らない。そのような場合、D1方向は、引出電極44bの伸びる方向ではなく、端子電極60cと電気的に繋がっている個別電極本体44aの中で、端子電極60cに最も近い部位の方向である。
また、図8(b)、(d)、(f)において、接合樹脂362、462、562は、配線基板60と接合している部位の範囲を示している。圧電アクチュエータ基板40側で接合している接合樹脂362、462、562の形状は、図8(a)、(c)、(e)と略同じ形状か、それらと相似形状で、少し小さい、もしくは少し大きい形状となっている。
図8(a)では、端子電極60cに繋がっている配線60bは、端子電極60cからD2方向に伸びている。樹脂362が、配線60b上に塗布されたり、濡れ広がった結果、配線60bの縁に達した場合、樹脂362は、配線60bの伸びる方向に濡れ広がり易い。これは、配線60bの縁に沿って、樹脂362が濡れ広がり易いからである。配線60bの伸びる方向D2と、バンプ48に対する個別電極本体44aの方向D1とは、異なっているのが好ましい。そのようにすれば、樹脂362が配線60bに沿って濡れ広がっても、変位素子50にまで達して、変位素子50の変位を抑制する可能性をより低くできる。D1とD2との成す角度は、30度以上であるのが好ましく、さらに60度以上、特に90度以上異なるのが好ましい。
図8(a)では、樹脂362は、端子電極60cの周囲を囲むように、樹脂362が塗布された塗布部と、樹脂362が塗布されていない非塗布部とが交互になるように塗布されている。図では、樹脂362は、非塗布部により3等分に分割されているが、分割の個数や、それぞれの比率は適宜変更できる。
樹脂362の非塗布部一つは、D1方向を含んでいる。このようにすることで、図8(b)に示すように、D1方向における接合樹脂362の外周までの距離は、他の方向、例えばD3方向の外周までの距離より短くなっている。図8(b)では、接合樹脂362は、製造工程における流動により、樹脂362が塗布されていないD1方向にも接合樹脂362が存在する状態になっているが、樹脂362の塗布パターンや粘度などを調整して、D1方向に、樹脂362が存在しないようにしてもよい。このようにすることで、接合樹脂362が変位素子50に達して、変位素子50の変位を抑制することを起き難くできる。逆に言えば、そのようにすれば、バンプ48と変位素子50とをより近接して配置することが可能になり、液体吐出ヘッド2を小型化することで印刷精度を向上させたり、同じサイズで高精細化したりすることができる。
D3方向は任意の方向であり、すなわち、D1方向よりも接合樹脂362の外周までの距離が大きい部位が任意の位置にあればよい。D1方向の接合樹脂362の外周までの距離は、接合樹脂362の外周までの距離の平均よりも小さいことが、より好ましい。D1方向に接合樹脂362が存在しないのがさらに好ましい。
図8(c)では、樹脂462は、端子電極60cの周囲を、約2/3周(240度)の範囲で連続的に囲んで塗布されている。塗布されていない非塗布部は、約1/3周(120度)の範囲はD1方向と一致させられている。接合後の図8(d)では、接合樹脂462が存在しない方向の範囲は、製造工程における流動により狭くなっているが、接合樹脂462は、D1方向に存在せず、接合樹脂462が変位素子50に達して、変位素子50の変位を抑制することが起き難くできる。
図8(e)では、樹脂562は、端子電極60cの周囲を囲むように断続的に塗布されている。樹脂562は、4カ所の塗布部に分けて塗布されており、端子電極60cを中心に、各塗布部は72度ずつずらして配置されているが、D1方向には塗布部はない。別の表現をすれば、樹脂562は、端子電極60cを中心とする正五角形の4つの頂点を中心とする塗布部に塗布されており、残る1つの頂点の位置には、樹脂562は塗布されていない。各塗布部は、バンプ48の一部を覆うが、互いに独立した状態で接合され、図8(f)に示す状態となる。接合樹脂562は、D1方向に存在せず、接合樹脂462が変位素子50に達して、変位素子50の変位を抑制することが起き難くできる。
また、図8(a)、(c)、(e)のように、樹脂362、462、562の塗布を、端子電極60cを、全周を連続的に囲まないような形状にすることで、塗布状態がばらついても端子電極60cの中央部が樹脂362、462、562に覆われて、端子電極60cとバンプ48との接合部に接合樹脂362、462、562が介在することが起き難くできる。中央非塗布部となるべき位置を、樹脂が覆った状態にならないためには、樹脂は断続的に塗布するのが好ましい。この場合、分離されて塗布された1つの連続部分の角度は、端子電極60中央部から見て90度以下にするのが好ましい。
さらに、端子電極60cの周囲に、端子電極60cと電気的に接続されていない他の個別電極本体44aが存在する場合、他の個別電極本体44aの方向にも接合樹脂26が存在しない、もしく厚さが薄くなるようにするのが好ましい。
図9(a)、(c)、(e)は、未硬化の樹脂662、762、862が塗布された配線基板60の部分平面図である。図9(b)、(d)、(f)は、図9(a)、(c)、(e)に示した配線基板60を、圧電アクチュエータ基板40と接合した後の配線基板60を示す図である。図9(b)、(d)、(f)において、圧電アクチュエータ基板40は描いていない。
図9(a)の樹脂662は、端子電極60cを囲むように、中央に矩形状の中央非塗布部を有する矩形状に塗布されている。また、樹脂662は、配線60bの上には塗布されていない。樹脂662が、配線60bの上に塗布されていないことから、接合工程において樹脂662の粘度が低くなっても、樹脂662は、端子電極60cの中央部に到達し難くできる。
図9(b)の樹脂762は、端子電極60cを断続的に囲むように、中央に矩形状の中央非塗布部を有する矩形状に塗布されている。また、樹脂762は、配線60bの上には塗布されておらず、引出電極44bと重なる領域にも塗布されていない。樹脂762が、配線60bの上に塗布されていないことから、接合工程において樹脂762の粘度が低くなっても、樹脂762は、端子電極60cの中央部に到達し難くできる。また、樹脂762は、引出電極44bと重なる領域に塗布されていないことから、樹脂762が濡れ広がっても、変位素子50にまで達して、変位素子50の変位を抑制する可能性をより低くできる。
図9(e)の樹脂862は、図8(e)の樹脂562と同じ形状に塗布されている。図8(e)との違いは、配線860bが、等角度に配置された樹脂862の間に位置するように、端子電極90cから配線860bが伸びる方向が変えられていることである。このようにすることで、接合後の接合樹脂862の配置を平均化して、偏った応力が加わり難くすることができる。さらに、樹脂862が濡れ広がっても、変位素子50にまで達して、変位素子50の変位を抑制する可能性をより低くできる。またさらに、樹脂862が、配線60bに塗布されていないことから、接合工程において樹脂862の粘度が低くなっても、樹脂862は、端子電極60cの中央部に到達し難くできる。
以上のような液体吐出ヘッド2は、例えば、以下のようにして作製する。ロールコータ法、スリットコーター法などの一般的なテープ成形法により、圧電セラミック粉末と有機組成物からなるテープの成形を行ない、焼成後に圧電セラミック層40a、40bとなるグリーンシートを作製する。
圧電セラミック層40aとなるグリーンシートには貫通孔を、レーザや打ち抜きで形成する。圧電セラミック層40bとなるグリーンシートに、共通電極42となるAd−Pdペーストを印刷する。
次いで、各グリーンシートを積層して、積層体を作製し、加圧密着を行なう。加圧密着後の積層体を高濃度酸素雰囲気下で焼成する。その後、Auペーストを用いて焼成体表面に個別電極44を印刷して、焼成する。さらに、Ag−Pdペーストを用いて、接続電極46と共通電極用表面電極とを印刷して、焼成することにより、圧電アクチュエータ基板40を作製する。なお、共通電極用表面電極として印刷したAg−Pdペーストの一部は貫通孔に流れ込み、共通電極42と繋がる貫通導体となる。
第1流路部材4を、圧延法等により得られたプレート4a〜jを、接着剤層を介して積層して作製する。積層するプレート4a〜jには、液体加圧室10や吐出孔8を含む各種流路となる孔あるいは溝を、エッチングにより所定の形状に加工しておく。
プレート4a〜jは、Fe―Cr系、Fe−Ni系、WC−TiC系の群から選ばれる少なくとも1種の金属によって形成されていることが望ましく、特に液体としてインクを使用する場合にはインクに対する耐食性の優れた材質からなることが望ましため、Fe−Cr系がより好ましい。
第2流路部材40も、第1流路部材4と同様にプレートを積層して作製する。
続いて、上述の第1および2工程を行ない。圧電アクチュエータ基板40と配線基板60とが整合されたアセンブリを作製する。さらに、第1流路部材4にアセンブリの圧電アクチュエータ基板40を接着積層し、第1流路部材4に第2流路部材40を積層することでヘッド本体2aが作製できる。その後、個別電極44と共通電極42との間に電圧を加え、これらの間に挟まれている部位の圧電セラミック層40abを分極する。さらに、必要に応じて筐体などを取り付けてことで、液体吐出ヘッド2を得ることができる。