以下、本発明の一実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態のインクジェットプリンタ1は、記録用紙Pが載置されるプラテン2と、このプラテン2と平行な走査方向に往復移動可能なキャリッジ3と、キャリッジ3に搭載されたインクジェットヘッド4と、記録用紙Pを走査方向と直交する搬送方向に搬送する搬送機構5と、走査方向に関してプラテン2の一方側(図1中右側)に配置されており、インクジェットヘッド4のインク吐出性能の回復・維持に関する各種メンテナンス作業を行うメンテナンスユニット6と、プリンタ全体の動作を司る制御部9などを有している。
プラテン2の上面には、図示しない給紙機構から供給された記録用紙Pが載置される。プラテン2の上方には、図1の左右方向(走査方向)に平行に延びる2本のガイドレール11a、11bが設けられ、キャリッジ3は、プラテン2と対向する領域において2本のガイドレール11a、11bに沿って走査方向に往復移動可能に構成されている。2本のガイドレール11a、11bは、プラテン2から走査方向の一方側(図1中右側)に離れた位置まで延在しており、キャリッジ3は、プラテン2上の記録用紙Pと対向する画像記録領域から、プラテン2の一側方に配置されたメンテナンスユニット6と対向するメンテナンス領域まで移動可能に構成されている。
キャリッジ3には、2つのプーリ12、13間に巻き掛けられた無端ベルト14が連結されている。そして、キャリッジ駆動モータ15によって無端ベルト14が走行駆動されたときに、キャリッジ3は、無端ベルト14の走行にともなって走査方向に移動する。すなわち、キャリッジ3、2つのプーリ12、13、無端ベルト14、及びキャリッジ駆動モータ15によって、キャリッジ3に搭載されたインクジェットヘッド4を主走査方向に往復移動させるためのヘッド移動機構7が構成される。
搬送機構5は、搬送方向にプラテン2を挟むように配置された2つの搬送ローラ17a、17bを有し、これら2つの搬送ローラ17a、17bによって、プラテン2に載置された記録用紙Pを搬送方向下流側(図1の前方)に搬送する。
インクジェットヘッド4は、その下面がプラテン2の上面と平行となるようにキャリッジ3の下部に取り付けられている。インクジェットヘッド4の下面は、複数の吐出口16が開口する吐出面4a(図3参照)となっている。そして、この吐出面4aの複数の吐出口16から、プラテン2に載置された記録用紙Pに対してインクを吐出する。
ここで、図2、3をさらに参照しつつ、インクジェットヘッド4の具体的な構成について説明する。図2、3に示すように、インクジェットヘッド4は、複数の吐出口16及び複数の吐出口16にそれぞれ連通する複数の圧力室34が形成された流路ユニット30と、流路ユニット30の上面に配置された圧電アクチュエータ31とを有している。
図3に示すように、流路ユニット30は4枚のプレートが積層された構造を有し、この流路ユニット30の下面(吐出面4a)には複数の吐出口16が設けられている。図2に示すように、これら複数の吐出口16は搬送方向に沿って配列され、走査方向に並ぶ4列の吐出口列33を構成している。
4列の吐出口列33(33bk、33y、33c、33m)にそれぞれ属する吐出口16(16bk、16y、16c、16m)からは、顔料インクであるブラックインクと、染料インクである3色のカラーインク(イエロー、シアン、マゼンタ)との、合計4色のインクがそれぞれ吐出される。
また、流路ユニット30の下面(吐出面4a)において、ブラックの吐出口列33bkと、カラー(イエロー)の吐出口列33yとの間には、空いた領域37が存在している。この領域37は、後述するキャップ20の第1キャップ部20aと第2キャップ部20bとを仕切る仕切部23b(図4参照)が当接する領域になっている。
また、流路ユニット30には、4列の吐出口列33に対応して、複数の圧力室34も4列に配列されている。さらに、流路ユニット30には、それぞれ搬送方向に延在し、4列の圧力室列にブラック、イエロー、シアン、マゼンタの4色のインクを供給する4本のマニホールド35と、複数の吐出口16が配置された領域よりも搬送方向上流側に配置され、流路ユニット30の上面(吐出面4aと反対側の面)に開口した4つのインク供給口36とが形成されている。4本のマニホールド35は、4つのインク供給口36にそれぞれ接続されている。
図3に示すように、圧電アクチュエータ31は、複数の圧力室34を覆う振動板40と、この振動板40の上面に配置された圧電層41と、圧電層41の上面に複数の圧力室34に対応して配置された複数の個別電極42とを有している。圧電層41の上面に位置する複数の個別電極42は、圧電アクチュエータ31を駆動するドライバIC47とそれぞれ接続されており、ドライバIC47から複数の個別電極42に対して所定の駆動電圧が独立して印加されるようになっている。また、圧電層41の下面に位置する振動板40は金属材料で形成されており、圧電層41を挟んで複数の個別電極42と対向する共通電極の役割を果たす。なお、この振動板40はドライバIC47のグランド配線に接続されて常にグランド電位に保持される。
圧電アクチュエータ31は、ドライバIC47から、ある個別電極42と共通電極としての振動板40の間に所定の駆動電圧が印加されたときに、両者の間に挟まれた圧電層41の圧電変形(圧電歪)によって圧力室34の体積変化を生じさせ、圧力室34内のインクに圧力を付与する。このとき、この圧力室34に連通する吐出口16からインクが吐出される。
そして、インクジェットプリンタ1は、プラテン2上に載置された記録用紙Pに対して、キャリッジ3とともに走査方向(図1の左右方向)に往復移動するインクジェットヘッド4からインクを吐出させるとともに、2つの搬送ローラ17a、17bによって記録用紙Pを搬送方向下流側に搬送することにより、記録用紙Pに所望の画像や文字などを印刷する。
次に、メンテナンスユニット6について説明する。図1に示すように、メンテナンスユニット6は、プラテン2に対して走査方向一方側(図1中右側)に離れた位置に配置されている。メンテナンスユニット6は、インクジェットヘッド4の吐出面4aと当接することで吐出面4aと対向する空間を外部空間から封止するキャップ20と、キャップ20に接続された吸引ポンプ19と、吐出面4aに付着したインクを拭き取るワイパ18などを有している。なお、キャップ20は、後述するキャップ移動機構8により、吐出面4aを封止する封止位置(第1位置)と、吐出面4aから完全に離隔した離隔位置(第2位置)との間で移動される。
キャップ20が吐出面4aを封止する封止位置にあるときに吸引ポンプ19を駆動することで、流路ユニット30内のインクを吐出口16から排出する吸引パージが行われる。また、吸引パージが行われた後、キャップ20が封止位置から移動した後に吸引ポンプ19を駆動することで、吸引パージによりキャップ20内に排出されたインクがキャップ20外に排出される。
また、キャップ20は、上記吸引パージを行う際以外にも、インクジェットヘッド4を使用しない状態(インクを吐出しない状態)においても用いられる。このように、インクジェットヘッド4が使用されないときには、キャップ20が吐出面4aを封止することで吐出口16を保護するとともに吐出口16内のインクの乾燥を抑制する。
ワイパ18は、キャップ20よりもプラテン2側の位置に立設されており、図示しない昇降機構によって昇降可能に構成されている。吸引パージ後に、このワイパ18の先端が吐出面4aに接触した状態でキャリッジ3が走査方向に移動することによって、ワイパ18は吐出面4aに対して相対的に移動し、吐出面4aに付着したインクを拭き取る。
ここで、図4、5をさらに参照しつつ、キャップ20について説明する。図4、5においては、キャップ20により吐出面4aが封止されたインクジェットヘッド4を二点鎖線で示している。図4、5に示すように、キャップ20は、平面視で略四角形状を有しており、キャップ本体21とキャップチップ25、26とで構成されている。
キャップ本体21、ゴムなどの弾性材料からなり、底壁部22と、この底壁部22に立設されており、底壁部22の外周部に位置する環状部23a及び環状部23aで囲まれた内側空間において搬送方向に延在する仕切部23bからなるリップ23と、搬送方向両端のリップ23の外側の側面から突出する突起24a、24bとを有している。これら底壁部22、リップ23及び突起24a、24bは一体成型されている。
キャップ20には、リップ23の環状部23aの一部(図4において仕切部23bの左側部分)と仕切部23bとからなる環状のリップ23を備える第1キャップ部20aと、リップ23の環状部23aの一部(図4において仕切部23bの右側部分)と仕切部23bとからなる環状のリップ23を備える第2キャップ部20bとが設けられている。
第1キャップ部20a及び第2キャップ部20bは、いずれも平面視で略四角形状を有する。第1キャップ部20aは、1列の吐出口列33bkを構成する複数のブラック吐出口16bkを覆う大きさを有する。第2キャップ部20bは、3列のカラーの吐出口列33y、33c、33mを構成する複数のカラー吐出口16cl(16y、16c、16m)を覆う大きさを有する。キャップ20が吐出面4aを封止するとき、第1キャップ部20aは吐出面4aにおいてブラック吐出口16bkが形成された領域と対向する空間を封止し、第2キャップ部20bはカラー吐出口16clが形成された領域と対向する空間を封止する。
キャップ本体21の底壁部22における第1キャップ部20aに対応する部分と、第2キャップ部20bに対応する部分とには、吸引口28がそれぞれ1つずつ形成されている。2つの吸引口28は、いずれもキャップ20が吐出面4aを封止するときに搬送方向の最も上流側の吐出口16と対向する部分よりも搬送方向に関して上流側、すなわち、リップ23の搬送方向下流側の部分よりも搬送方向上流側の部分に近い位置に配置されている。これら2つの吸引口28は、それぞれチューブ50を介して吸引ポンプ19(図1参照)と接続されている。
キャップチップ25、26は、それぞれ平面視で第1キャップ部20aと第2キャップ部20bとの外形に合わせた略四角形状を有しており、第1キャップ部20a及び第2キャップ部20b内にそれぞれ収容されている。キャップチップ25、26は、合成樹脂などからなり、吸引パージ時にリップ23が減圧により内側に撓むのを抑制するためのものである。キャップチップ25、26の上面には、上方に突出した突起25a、26aが縁部の全周に亘って形成されており、下面には下方に突出した突起25b、26bが縁部の全周に亘って形成されている。
図5に示すように、下方に突出した突起25b、26bによって、キャップチップ25、26の下方に空間が形成されている。すなわち、キャップチップ25、26は、第1キャップ部20aと第2キャップ部20bとにおいて、リップ23で囲まれた領域をそれぞれ上下に仕切っている。このキャップチップ25、26の下方の空間は、キャップ本体21の底壁部22に形成された吸引口28に繋がっており、吸引ポンプ19によりキャップ20内に排出されたインクをキャップ20外に排出する際にインクが流れる吸引流路29として機能する。
図4に示すように、キャップチップ25、26の四隅、及びキャップチップ26の搬送方向下流側の端部の2か所には切欠27が形成されており、この切欠27に形成されたリップ23の内側面とキャップチップ25、26とのすき間により、キャップチップ25、26の上方の空間と下方の空間とはインクが流通可能となっている。よって、吸引パージによってキャップ20内に排出されたインクは、キャップチップ25、26の上方から下方に流れ、キャップチップ25、26の下方に形成された吸引流路29を通って吸引口28からキャップ20外に排出される。
キャップチップ26の上面には、このキャップチップ26が収容される第2キャップ部20bの環状のリップ23内において走査方向の全幅に亘って延在する壁26cが形成されている。図5(b)に示すように、壁26cの高さ位置は、リップ23の高さ位置よりも低い。また、後で詳述するように、キャップ20は吐出面4aから離隔した離隔位置にあるときに、図6に示すように搬送方向下流側に傾斜する。壁26cの先端は、図6に示すようにキャップ20が傾斜し、後述する最大傾斜状態であるときにリップ23の搬送方向下流側の端部における先端を通る水平な仮想平面(図中二点破線で示す)よりも上方に位置している。
ここで、図7、8を参照しつつ、キャップ20を移動させるキャップ移動機構8の構成について説明する。図7、8に示すように、キャップ20は、固定配置されたベース体51の上に一対の平行リンク54を介して昇降可能に連結された昇降台52に取り付けられている。なお、ワイパ18もこの昇降台52に取り付けられている。キャップ20は、上下動のみ可能となるように昇降台52のガイド部52aに支持されていると共に、第1バネ55により上向きに付勢されている。昇降台52とベース体51とは、昇降台52を画像記録領域側(図7中左側)に付勢する第2バネ56にて連結されている。ベース体51には、昇降台52の下動限界及び左方移動限界を規定するためのストッパ体51aが設けられている。また、昇降台52には、キャリッジ3が画像記録領域からメンテナンス領域に移動したときに当接する当接部52bが設けられている。
図7(a)に示すように、キャリッジ3が昇降台52の当接部52bと当接していないときには、第2バネ56の付勢力により、昇降台52はストッパ体51aと当接する待機位置に位置している。このとき、昇降台52に取り付けられたキャップ20のリップ23の先端の高さ位置は、キャリッジ3に取り付けられたヘッド4の吐出面4aの高さ位置よりも低い。すなわち、キャップ20は吐出面4aから完全に離隔した離隔位置にある。キャリッジ3が画像記録領域側からメンテナンス領域側に向かう方向である走査方向の一方側(図7中右側)に移動して昇降台52の当接部52bと当接し、さらに走査方向の一方側に移動すると、図7(b)に示すように、平行リンク54が回転するのに伴って昇降台52が第2バネ56の付勢力に抗して待機位置から右上方に移動する。このとき、キャップ20のリップ23の先端の全てが吐出面4aに当接し、吐出面4aを封止する封止位置となる。
また、図8に示すように、昇降台52のガイド部52aには、キャップ20の搬送方向両端部の側面から突出する突起24a、24bが挿通される開口57、58が形成されている。開口57、58はいずれも上下方向に延びており、搬送方向上流側(図8中右側)の突起24aが挿通される開口57の上端を画定する上端壁面57aは、搬送方向下流側(図8中左側)の突起24bが挿通される開口58の上端を画定する上端壁面58aよりも上方に位置している。
図8(a)に示すように、キャップ20のリップ23の先端の全てが吐出面4aに当接し、吐出面4aを封止する封止位置にキャップ20がいるときは、昇降台52は、上端壁面57a、58aがいずれもキャップ20の突起24a、24bと当接しない位置にある。そして、キャリッジ3がメンテナンス領域から画像記録領域に向か方向である走査方向の他方側へ移動することで昇降台52が走査方向の他方側に移動しつつ下方に移動すると、搬送方向下流側の上端壁面58aがキャップ20の突起24bに当接する。これにより、図8(b)に示すように、キャップ20の搬送方向下流側の突起24bが下方に押し下げられ、リップ23の搬送方向下流側の部分が吐出面4aから離隔する。すなわち、このときキャップ20は吐出面4aを封止する封止位置から、吐出面4aと部分的に当接する部分当接位置(第3位置)となり、キャップ20により封止されていた吐出面4aと対向する空間が開放される。なお、リップ23の搬送方向上流側の部分は吐出面4aと当接したままであり、リップ23の搬送方向下流側の部分は搬送方向上流側の部分よりも下方に位置する。すなわち、キャップ20は搬送方向下流側に傾いた状態となる。
その後、さらにキャリッジ3が画像記録領域に向かう走査方向の他方側へ移動することで昇降台52が下方に移動すると、キャップ20の傾斜角度が次第に大きくなる。そして、搬送方向上流側の上端壁面57aもキャップ20の突起24aに当接するようになると、図8(c)に示すように、キャップ20の搬送方向両端の突起24a、24bが同時に押し下げられ、リップ23の全体が吐出面4aから離隔する離隔位置となる。なお、キャップ20の搬送方向両端の突起24a、24bの両方がそれぞれ上端壁面57a、58aと当接するとき、キャップ20は傾きが最も大きくなる最大傾斜状態となる。
このように、キャップ移動機構8は、ヘッド移動機構7によるキャリッジ3の走査方向への移動動作に連動して、封止位置から、吐出面4aと部分的に当接する部分当接位置を経て、吐出面4aを完全に離隔する離隔位置までキャップ20を移動させる。
制御部9は、演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory:不揮発性RAMを含む)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit )等を含む。ROMは、CPUが実行するプログラム、各種固定データ等を記憶している。RAMは、プログラム実行時に必要なデータ(記録データ等)を一時的に記憶する。ASICは、ドライバIC47(図3参照)を制御するヘッド制御回路、搬送ローラ17a、17bを駆動する図示しない駆動モータを制御する搬送制御回路、キャリッジ駆動モータ15を制御するヘッド移動制御回路、吸引ポンプ19を制御する吸引制御回路等を含んでいる。また、ASICは、入出力I/F(Interface)を介して、PC(Personal Computer)等の外部装置とデータ通信可能に接続されている。
制御部9は、キャリッジ駆動モータ15の駆動を制御して、インクジェットヘッド4を走査方向に移動させるようにヘッド移動機構7を制御することで、キャップ20を封止位置から部分当接位置を経て離隔位置まで移動させるようにキャップ移動機構8を制御する。
ここで、メンテナンス作業が行われる際の、メンテナンスユニット6の動作について説明する。まず、メンテナンス動作を行う際には、制御部9の制御によりキャリッジ3が画像記録領域からメンテナンス領域に向かって走査方向一方側へ移動される。図7(a)に示すように、左方の画像記録領域から右方に移動するキャリッジ3が昇降台52の当接部52bと当接するまでは、昇降台52はストッパ体51aと当接する待機位置に位置している。このとき、キャップ20は吐出面4aと接触しない離隔位置である。そして、キャリッジ3が当接部52bと当接し、さらに走査方向の一方側に向かって移動することで、昇降台52が待機位置から走査方向の一方側に移動しつつ上方に移動して、図7(b)、図8(a)に示すように、キャップ20が吐出面4aを封止する封止位置となる。
キャップ20が封止位置にあるときに、制御部9の制御により吸引ポンプ19が駆動され、インクジェットヘッド4内のインクが吐出口16からキャップ20内に排出される吸引パージが行われる。吸引パージ終了後、制御部9の制御により、キャリッジ3が走査方向他方側の画像記録領域側へ移動される。それに伴って昇降台52が走査方向の他方側に移動しつつ下方に移動し、キャップ20の搬送方向下流側の突起24bが昇降台52に設けられた開口58の上端を画定する上端壁面58aによって押し下げられることで、図8(b)に示すように、リップ23の搬送方向上流側の部分は吐出面4aと当接しており、下流側の部分が吐出面4aから離隔した状態となる。これにより、キャップ20は部分当接位置となる。このとき、キャップ20の搬送方向上流側の部分と吐出面4aとの間にインクブリッジが形成される。
キャップ20が封止位置から部分当接位置となると、制御部9の制御により吸引ポンプ19が駆動され、キャップ20内のインクの排出が開始される。上述のように、インクをキャップ20外に排出するための吸引口28は、リップ23の搬送方向上流側の部分に近い位置に設けられており、インクブリッジが形成される位置に近いので、スムーズにインクを吸引することができる。
続いて、制御部9の制御により、キャップ20内のインクの排出動作が継続されつつ、キャリッジ3が走査方向の他方側である画像形成領域側へさらに移動される。それに伴って昇降台52が走査方向の他方側に移動しつつさらに下方に移動し、キャップ20の搬送方向上流側の突起24aも昇降台52に設けられた開口57の上端を画定する上端壁面57aと当接する。これにより、搬送方向両端の突起24a、24bが同時に押し下げられ、図8(c)に示すように、リップ23の搬送方向上流側の部分が吐出面4aから離隔する。すなわち、キャップ20は、リップ23の全体が吐出面4aから離隔した離隔位置となる。
その後、制御部9の制御により、キャリッジ3が走査方向の他方側である画像形成領域側へ移動され、それに伴って昇降台52が走査方向の他方側に移動して待機位置に到達する。待機位置に到達した昇降台52は、ストッパ体51aと当接して停止する。このとき、制御部9の制御による吸引ポンプ19の駆動が停止される。また、図示しない昇降機構によりワイパ18が上方に移動され、ワイパ18の先端が吐出面4aに接触した状態とされる。そして、キャリッジ3が走査方向の他方側である画像形成領域側へさらに移動することで、昇降台52に取り付けられたワイパ18がキャリッジ3に取り付けられたインクジェットヘッド4の吐出面4aと相対的に移動し、ワイパ18により吐出面4aに付着したインクが払拭される。
以上のように、本実施形態のインクジェットプリンタ1では、インクジェットヘッド4の吐出面4aのカラー吐出口16clが形成された領域と対向する空間を封止する第2キャップ部20bは、環状のリップ23内において走査方向に延在し、リップ23よりも高さが低く、且つ、その先端が、キャップ20が最大傾斜状態にあるときにリップ23の搬送方向下流側の端部における先端を通る水平な仮想平面よりも上方に位置する壁26cを有している。そして、制御部9は、封止位置に位置するキャップ20を離隔位置に移動させるようにキャップ移動機構8を制御し、キャップ移動機構8によりキャップ20の封止位置から離隔位置に向かう移動が開始された後に、キャップ20内のインクをキャップ20に形成された吸引口28からキャップ20外に排出させるように吸引ポンプ19を制御する。
したがって、キャップ20が離隔位置にあり傾いているとき、キャップ20内において壁26cよりも搬送方向上流側にあるインクは壁26cによりせき止められる。よって、キャップ20の傾きにより搬送方向下流側に集まるインクの量を少なくし、キャップ20の搬送方向下流側の部分からインクがこぼれるのを抑制できる。
また、本実施形態のインクジェットプリンタ1では、キャップ移動機構8は、ヘッド移動機構7によるキャリッジ3の走査方向への移動動作に連動してキャップ20を封止位置と離隔位置との間で移動させるように構成されている。そして、制御部9は、インクジェットヘッド4を走査方向に移動させるようにヘッド移動機構7を制御するとともに、このようにヘッド移動機構7を制御することで、封止位置に位置するキャップ20を離隔位置に移動させるようにキャップ移動機構8を制御する。このように、走査方向へのキャリッジ3の移動に連動してキャップ20を封止位置から離隔位置に移動させる場合には、キャップ20は走査方向に移動しつつ封止位置から離隔位置に移動するので、キャップ20内でインクが動き、傾いたキャップ20からインクがこぼれやすくなる。よって、キャップ20内に壁26cを設けインクをこぼれにくくすることができる本発明を適用するのが効果的である。
さらに、本実施形態のインクジェットプリンタ1では、キャップ移動機構8は、ヘッド移動機構7によるキャリッジ3の走査方向への移動動作に連動して、キャップ20を封止位置から部分当接位置を経て離隔位置に移動させるように構成される。また、制御部9は、キャップ20が部分位置に移動した後であって離隔位置となるまでの間に、吸引ポンプ19によりキャップ20内のインクがキャップ20外に排出されるように、キャップ移動機構8及び吸引ポンプ19を制御する。このように、走査方向へのキャリッジ3の移動に連動してキャップ20を封止位置から部分当接位置を経て離隔位置に移動させる場合には、キャップ20は走査方向に移動しつつ部分当接位置から離隔位置に移動するので、キャップ20内でインクが動き、キャップ20からインクがこぼれやすくなるが、このとき同時にキャップ20内のインクの排出が行われるので、インクがこぼれるのを抑制できる。
加えて、本実施形態のインクジェットプリンタ1では、吸引ポンプ19によりキャップ20内のインクをキャップ20外に排出するための吸引口28は、リップ23の搬送方向下流側の部分よりも上流側の部分に近い位置に設けられている。キャップ20が封止位置から移動し、リップ23の搬送方向下流側の部分が上流側の部分よりも下方に位置するように傾いたとき、キャップ20の搬送方向上流側の部分とインクジェットヘッド4の吐出面4aとの間にインクのブリッジが形成される。したがって、上述の構成によると、リップ23の搬送方向下流側の部分よりも上流側の部分に近い位置、すなわちインクのブリッジに近い位置に吸引口28を設けることで、ススムーズにキャップ20内のインクを吸引してキャップ20外に排出することができる。
さらに、本実施形態のインクジェットプリンタ1では、キャップ20の第2キャップ部20bは、リップ23で囲まれた領域をインクが流通可能な状態で上下に仕切るキャップチップ26を有しており、壁26cがキャップチップ26の上面に形成されていると共に、キャップチップ26の下方には吸引口28に繋がる吸引流路29が形成されている。したがって、キャップ20内に排出されたインクは、キャップチップ26の上方から下方に移動し、キャップチップ26の下方に形成された吸引流路29を介して吸引口28に到達する。よって、1つの吸引口28で第2キャップ部20b内のインクを吸引することができる。
また、本実施形態のインクジェットプリンタ1では、壁26cは、第2キャップ部20bのリップ23で囲まれた領域の走査方向の全幅に亘って延在している。したがって、キャップ20が封止位置から移動して傾いた状態となったとき、壁26cによって壁26cよりも搬送方向上流側にあるインクを確実にせき止めることができる。
さらに、本実施形態のインクジェットプリンタ1では、制御部9は、封止位置に位置するキャップ20を離隔位置に移動させるようにキャップ移動機構8を制御する前に、封止位置に位置するキャップ20内にインクジェットヘッド4内のインクを排出させるとともにこの排出を終了させるように、吸引ポンプ19を制御する。したがって、吸引ポンプ19によって、キャップ20内のインクのキャップ20外への排出に加えて、インクジェットヘッド4内のインクのキャップ20内への排出を行うことができる。
以上、本発明の好適な一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて、様々な設計変更を行うことが可能なものである。
上述の実施形態では、キャップ移動機構8は、ヘッド移動機構7によるキャリッジ3の走査方向への移動動作に連動して、キャップ20を封止位置から部分当接位置を経て離隔位置まで移動させるように構成されているが、キャップ移動機構8の構成はこれに限定されるものではない。すなわち、例えば、キャップ移動機構8は、ヘッド移動機構7の無端ベルト14と連結可能に構成されており、無端ベルト14の走行に連動してキャップ20を移動させるようになっていてもよい。また、キャップ移動機構8によるキャップ20の移動は、ヘッド移動機構7の動作と連動したものでなくてもよい。さらに、キャップ移動機構8は、少なくともキャップ20を封止位置と部分当接位置との間で移動させるものであればよい。
また、上述の実施形態では、制御部9が、キャップ20が部分当接位置に移動した後であって離隔位置となるまでの間に、吸引ポンプ19によりキャップ20内のインクがキャップ20外に排出されるように、キャップ移動機構8及び吸引ポンプ19を制御する場合について説明した。しかしながら、インクの排出タイミングはこれに限定されるものではなく、キャップ移動機構8によりキャップ20の封止位置から離隔位置に向かう移動が開始された後であればいつでもよい。
さらに、上述の実施形態では、吸引ポンプ19によりキャップ20内のインクをキャップ20外に排出するための吸引口28は、リップ23の搬送方向下流側の部分よりも上流側の部分に近い位置に設けられている場合について説明したが、吸引口28は、リップ23の搬送方向上流側の部分よりも下流側の部分に近い位置に設けられていてもよい。
また、上述の実施形態では、キャップ20がキャップ本体21とキャップチップ25、26とで構成されている場合について説明したが、キャップ20は単一の部材で構成されていてもよい。このとき、第2キャップ部20bには、環状のリップ23で囲まれた領域であって壁26cによって仕切られた2つの領域毎に吸引口28が形成されていることが好ましい。
さらに、上述の実施形態では、キャップチップ25、26は、切欠27によりその上方の空間と下方の空間とがインク流通可能な状態となっている場合について説明したが、これには限定されない。すなわち、例えば図9(a)、(b)に示すキャップ120のように、キャップチップ125、126に上下に貫通する貫通孔127を形成し、貫通孔127によりキャップチップ125、126の上方の空間と下方の空間とがインク流通可能な状態としてもよい。このとき、図9(b)に示すように、キャップチップ126には、壁126cによって仕切られた2つの領域(図中右側の領域及び左側の領域)にそれぞれ貫通孔127を形成する。これにより、キャップチップ126の上方の領域であって壁126cによって仕切られた2つの領域のインクを、確実にキャップチップ126の下方に領域に形成された吸引流路29に流通させることができる。
さらに、上述の実施形態では、キャップ20内のインクのキャップ20外への排出と、インクジェットヘッド4内のインクをキャップ20内に排出する吸引パージとが、同一の吸引ポンプ19によって行われる場合について説明したが、これには限定されない。すなわち例えば、吸引パージは、圧電アクチュエータ31により圧力室34内のインクに圧力を付与し、圧力室34に連通する吐出口16からインクを吐出することで行われてもよい。