例えば熱可塑性樹脂フィルムを溶融押出法で製造する際、一般に冷却・加熱・延伸などほとんどの工程において、成形用ロール(以下、単に「ロール」と略す)が用いられている。
しかしながら、溶融押出法による熱可塑性樹脂フィルムの製膜においては、溶融温度が300℃近くの高温になるので、熱分解や加水分解などの分解が起こることが多く、分解時に生じたオリゴマーなどの低分子有機物がフィルム表面から飛散する。キャスティングドラム(溶融押出直後の冷却ドラム)に接していない面では、該オリゴマーなどの低分子化合物の大部分は空気中飛散するが、ドラム面に接したフィルム面では、該ドラムと溶融シートとの密着度が弱い場合は、該ドラム面にオリゴマーが飛散・転写して該キャスティングドラムを汚染したり、あるいは、該ドラムと溶融シートの密着度が強い場合は、該ドラム面と溶融シート間に空気層が介在しないので、該オリゴマーなどの低分子化合物は殆ど飛散出来ないので、このドラム面側のフィルム表面には該低分子化合物を沢山含んでいる。このフィルム面が後工程の加熱されたロールに接触した場合、該低分子化合物がロールの表面に移行したり、さらにフィルム内部に含有されていた該低分子化合物がフィルムの昇温と共にブリードアウトするので、加熱ロール表面に上記低分子化合物が転写したり、粘着したりしてロール表面に付着する。これらのロール表面に付着した有機物等が経時で大きく突起状に成長し、この突起が加熱されるフィルム表面にスクラッチ傷等を付けて問題となるばかりか、さらに該付着物がフィルム表面に転写移行して、その付着物がフィルム表面で異物欠点となったり、さらに他のロールとの間でスクラッチ擦り傷の原因になったりする。そこで今まではこのように汚れたロールを清掃するために、一旦製膜を止めてロール表面を拭き取ることにより付着物の除去を行ってきた。しかし、この作業は効率が悪く、生産性の大幅な低減につながっていた。
この問題を解消するため、インラインでロール清浄する方法としては色々と提案されている。例えば、特許文献1や特許文献2には拭き取り布をロールに接触させて拭き取る方法や、特許文献3には洗浄液をつけて拭き取る方法などが開示されている。しかしこれらの方法では、フィルム表面の有機付着物を多少とも低減させることはできるが、完全に除くことができず、さらに一旦拭き取った有機物が再度ロール表面上に落下する問題もあり、ロール表面上に蓄積する汚れ防止に対して十分とは言えなかった。
また、特許文献4や特許文献5、特許文献6、特許文献8には、低圧(水銀)UV(UV:紫外線)ランプによる紫外線照射によってロール表面の付着物を非接触で化学分解して洗浄する方法が開示されている。しかしこの方法は、オゾン発生領域である220nm以下の波長185nmと、254nmなどの波長を含んだ低圧水銀ランプによる紫外線の照射によって、紫外線による光分解作用と、波長185nmの紫外線によって発生するオゾンによる酸化作用とで、ロール表面の付着有機物を非接触で除去する方法である。すなわち、185nm以下の紫外線でオゾンを発生させ、そのオゾンの酸化力で有機物を分解させ、また、波長254nmの紫外線は、オゾン(O3)を分解して活性酸素(O)を生じさせ、オゾンの酸化作用を強化するとされている方法であり、オゾンの発生とそのオゾンの酸化作用の強化を必須の構成とする方法である。特に特許文献5には、オゾンガスを発生させることで有機物分解能力を上げていることが明記されており、具体的は、172nm波長のエキシマランプで照射強度5mW/cm2と比較的弱い強度で紫外線を照射しているが、この波長ではオゾンガスが多く発生するので、オゾンの酸化分解能力による有機物分解能力が高くなっている。もちろん該特許文献では、オゾン発生を必須としており、オゾンガスを除外していないことは明確である。
この様に、220nm以下の短波長の紫外線を活用する紫外線発生ランプによる方法には、下記のような重大な欠点があるため、生産機のロール表面のクリーン化には現実的には使用が困難であった。すなわち、オゾンガスは人体に有害であるため、オゾンの排気を完全に行うことが必要となるが、その排気装置は大がかりなものになり、さらにオゾンの拡散を防ぐためのランプ周辺に内部を負圧にした囲いが必要になる。一方、オゾン活用を有効利用するには、高速で回転するロールの表面にオゾンを効率良く送らなければならないが、オゾンをロール表面に効率的に送るためには、ランプとロール表面間の距離は2〜10mm程度まで接近する必要があり、そのようにすると、しばしば起こるフィルム破れなどのトラブルが生じた場合の該ランプ装置の退避、損傷防止や事故対処が難しくなる。しかし、どの様に工夫しても、上記のように囲いの中が負圧であるため、ロール表面の有機物を分解するに必要なオゾンを効率よく供給するのが困難であるばかりか、オゾンを発生する紫外線ランプの使用は、オゾン自体が被処理ロール表面を腐食・変色など変化させてしまうことが多いという重大な欠点も伴うこととなっていた。そのため、特にロール材質が、ステンレス、クロムメッキ、炭化タングスデン(結合剤にCo含有)などのロール表面に対しては、この様なオゾンを発生する低圧紫外線照射を生産機のロール表面クリーン化に用いることはできないと言う致命的な欠点があった。さらに、220nm以下の波長域の紫外線、特に波長185nmの紫外線は、ほとんど酸素に吸収されてオゾンの発生に消耗されるため、ロール表面の有機物分解にはほとんど寄与しない。また、220nmを超える波長、特に254nm近傍の波長の紫外線は有機物の光分解効果は優れているが、オゾンの発生を前提としている方法では、これらの波長の紫外線は発生されているオゾンに吸収されオゾンを分解して原子状酸素にするために消費される。したがって、従来のオゾンを活用することを前提とした紫外線ランプの照射においては、紫外線による有機物の光分解効果は不十分なものにとどまっている。
さらに特許文献7には、オゾンを発生させない波長域の高圧水銀ランプを用いて有機物を分解する方法も提案されている。しかし、このランプは有機物の光分解に寄与しない長波長側の紫外線のほうが多く含まれており、有機物の光分解効果の高い波長の紫外線の発生率は低いために、該高圧水銀ランプの出力を大きくする必要があった。この特許文献7に記載の高圧水銀ランプにより長波長側の紫外線をより強く照射する方法のように、有機物の分解能力が低いにも拘らず、このランプをロールのクリーニングに使用しても、フィルム生産中のインラインでオリゴマーなどの有機物を完全除去はできず、ロールのクリーン化には不十分であるばかりか、波長の長い紫外線を照射することでロール表面温度が上昇するため、ロール表面温度を一定にコントロールすることが難しくなるばかりか、フィルムがロール表面に粘着してフィルム表面欠点になったりするので、被処理ロール表面に何らかの冷却装置の設置が必要となるという問題点もあった。さらに、この強度の高い紫外線は目に有害なので、この紫外線を完全に遮断することが必要になるが、完全に紫外線の外漏れを防ぐことは通常極めて困難である。さらにまた、ランプの寿命が短く、しかも該ランプの価格も高いので、ランニングコストが高くなるという欠点も有している。
そこで本発明の課題は、上述した従来技術における種々の問題点に鑑み、熱可塑性樹脂シート状物の製造中にインラインでロール上の有機物などの付着物をオゾンレスの大気中で実質的にオゾンを発生させないオゾンレス低圧UV光のみを照射することで、ロールに非接触でオリゴマーなどの分解効率がよく、しかもオゾン排気装置やロール冷却装置などの付属部品が不要で、しかもUVランプの設置場所や取扱い性にも優れ、照射するロール材質に限定はなく、ランニングコストも安くオリゴマーなどを除去できる方法を提供することにあり、さらに得られたシート状物の表面にロール付着物に起因する欠点のない、高品質な熱可塑性樹脂シート状物を優れた生産性をもって製造することを可能とする熱可塑性樹脂シート状物の製造方法を提供することにある。
本発明者らは前述した問題点に鑑み、鋭意検討した結果、本発明に到達したものである。上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、
(1)熱可塑性樹脂シート状物の製造に用いられるロールの表面にオゾンレスの大気中でUVランプからの紫外線を照射してロール表面の付着物を除去する方法であって、前記UVランプとして、低圧UVランプであり、かつ、照射光から220nm以下の波長の紫外線を消失させてオゾンを発生させない特定波長の紫外線を照射するオゾンレス低圧UVランプを用いることを特徴とする、ロール表面の付着物除去方法である。ここで、オゾンレスの大気中で上記オゾンレス低圧UVランプからの紫外線がロールの表面に照射されるが、上記オゾンレス低圧UVランプから照射される特定波長の紫外線から、220nm以下の波長の紫外線が実質的に消失されていればよく、実質的にとは、基本的にと言うことで、オゾンガスを発生させる220nm以下の波長の紫外線が、好ましいオゾンレスの状態を形成できるようにランプからの照射光から意図的に消失されていればよい。また、上記オゾンレス低圧UVランプから照射される特定波長の紫外線には、波長220nm以下以外の長波長の光が多少とも含まれていてもよい。なお、上記熱可塑性樹脂シート状物とは、未延伸、一軸延伸、二軸延伸の熱可塑性樹脂フィルムをはじめ、より厚い熱可塑性樹脂シートまで含む概念である。
(2)前記特定波長の紫外線が、220nmを超え310nm以下の範囲内の、中でも220nmを超え308nm以下の範囲内の波長の紫外線を含んでいる、(1)に記載のロール表面の付着物除去方法。波長が220nmを超える紫外線は、基本的にオゾンガスを発生させないが、あまり長波長の紫外線は、有機物の光分解に寄与しないばかりか、ランプの出力を大きくする必要が生じたり、ロール表面温度の望ましくない上昇を招いたりする別の問題が発生するので、長波長側の上限を適切に抑えておくことが好ましい。このような好ましい範囲内の波長の紫外線を照射可能なオゾンレス低圧UVランプとしては、次に述べるようなオゾンレス低圧水銀ランプが最適であるが、エキシマランプを用いることも可能である。上記308nmは、オゾンレス低圧UVランプとしてエキシマランプを用いた場合の波長を示している。
(3)前記特定波長の紫外線が、実質的に254nmの波長の紫外線のみを含んでいる、(2)に記載のロール表面の付着物除去方法。すなわち、低圧UVランプとして低圧水銀ランプを用いる場合、照射光の強度のピークは波長185nmと254nmに現れるが、これを本発明におけるオゾンレス低圧UVランプとして用いるオゾンレス低圧水銀ランプとするために、照射光から波長185nmの紫外線を消失させ、実質的に254nmの波長の紫外線のみを含んでいる特定波長の紫外線とすることを意図したものである。波長185nmの紫外線の消失によって、確実にオゾンの発生を規制でき、254nmの波長の紫外線のみとすることにより、オゾンレスの状態にて(つまり、オゾンレスの大気中で)有機物等からなるロール付着物の除去にとって最も有効な紫外線照射の条件を生成できることになる。このようなオゾンレス低圧水銀ランプを、本発明における最も有効なオゾンレス低圧UVランプとして用いることができる。
(4)前記オゾンレス低圧UVランプの管に、220nm以下の波長の紫外線の透過を規制可能に調製された石英ガラスを用いる、(1)〜(3)のいずれかに記載のロール表面の付着物除去方法。220nm以下の波長の紫外線の透過を規制可能に調製された石英ガラスとしては、例えば、特殊な酸化金属をドープした石英ガラスや、溶融石英ガラスに重金属等を加えた石英ガラスが挙げられる。オゾンレス低圧UVランプの管にこのような調製された石英ガラスを用いることで、オゾンを発生させる220nm以下の波長の紫外線の透過を防止でき、ロール表面近傍でのオゾンの発生を回避できる。この状態で、上述の220nmを超え308nm以下の範囲内の波長の紫外線、好ましくは上記254nmの波長の紫外線を照射することにより、オゾンレスの状態で(つまり、オゾンレスの大気中で)効率よくロール付着物を除去できる。
(5)前記オゾンレス低圧UVランプからの照射光を、回転される前記ロールの面長方向(ロールの幅方向とも言う。)に沿って延びるように集光させる、(1)〜(4)のいずれかに記載のロール表面の付着物除去方法。すなわち、回転されるロールの表面から付着物を効率よくかつ効果的に除去するために、ロール幅方向に対して直線状に延びる領域に所定の紫外線を集光させて照射するのである。オゾンレス低圧UVランプの管形状としては、ロール幅方向に対して長く延びる直線形状のものであってもよく、U字管やV字管のような折り返し形状に形成することも可能である。照射強度や照射領域を考慮して適切に設定すればよい。
(6)前記ロールの表面に照射する254nmの波長の紫外線の強度を、15mW/cm2以上に制御する、(1)〜(5)のいずれかに記載のロール表面の付着物除去方法。ロールの表面に照射する特定波長の紫外線の強度は、目標とするロール表面の付着物除去性能が得られるように適宜制御されればよいが、上述の254nmの波長の紫外線を基準に取ると、その強度を15mW/cm2以上に制御することが好ましく、より好ましくは20mW/cm2以上である。
(7)前記オゾンレス低圧UVランプの紫外線照射部を、回転される前記ロールの面長方向に沿って往復動(トラバース)させる、(1)〜(6)のいずれかに記載のロール表面の付着物除去方法。このようにすれば、比較的小型のオゾンレス低圧UVランプで比較的長尺のロールの付着物除去が可能になる。
(8)前記ロールの表面の材質が、少なくともステンレスを含む金属、硬質クロムメッキ、セラミック溶射膜、炭化タングステン系超硬合金の溶射膜からなる群から選ばれた材質からなる、(1)〜(7)のいずれかに記載のロール表面の付着物除去方法。本発明方法の対象となるロールの表面材質は特に限定されず、対象材質としては、ステンレス(SUS)を含むあらゆる金属をはじめ、硬質クロムやニッケルなどのメッキ表面、あるいはアルミナ、チタニア、ジルコニアなどのセラミック溶射膜(例えば、プラズマ溶射膜)、あるいは炭化タングステン系超合金の溶射膜などが挙げられる。いずれの表面材質に対しても、オゾンレスの状態で優れた付着物除去性能が得られる。
(9)前記ロールの表面温度が熱可塑性樹脂シート状物を形成する樹脂のガラス転移点温度よりも20℃低い温度以上に加熱されている、(1)〜(8)のいずれかに記載のロール表面の付着物除去方法。ロールの表面温度が低すぎると、紫外線による有機物分解速度が遅くなりすぎるので、上記のような温度以上に加熱されていることが好ましい。より好ましい具体的な温度は、熱可塑性樹脂シート状物を形成する樹脂の種類によって変化するが、これについての例示は後述する。
(10)ロール表面の付着物が、熱可塑性樹脂のモノマー、オリゴマ−、トリマー、ダイマー、環状化合物などの低分子量物、分解物、熱可塑性樹脂からのブリードアウト物、あるいは熱可塑性樹脂への添加物である、(1)〜(9)のいずれかに記載のロール表面の付着物除去方法。本発明に係る方法では、あらゆる付着有機物の除去が可能であるが、熱可塑性樹脂シート状物の製造に用いられるロールの表面の付着物除去を対象としているので、特に上記のような付着物の除去を行うこととなる。
(11)ロール表面の付着物に、テレフタル酸、ビスヒドロキシエチルテレフタル酸、モノヒドロキシエチルテレフタル酸、環状化合物のうち、少なくとも一種が含まれている、(10)に記載のロール表面の付着物除去方法。すなわち、上記(10)に記載のロール表面に付着した低分子量物としては、テレフタル酸、ビスヒドロキシエチルテレフタル酸、モノヒドロキシエチルテレフタル酸、環状化合物のうち、少なくとも一種が含まれているものを例示できる。
(12)前記熱可塑性樹脂シート状物が、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、アクリル、ポリカーボネートのいずれかよりなる、(1)〜(11)のいずれかに記載のロール表面の付着物除去方法。本発明においては、熱可塑性樹脂シート状物の材質については特に限定されないが、代表的にはこれらを例示できる。
本発明は、
(13)(1)〜(12)のいずれかに記載の方法により表面の付着物が除去されたロールを用いることを特徴とする、熱可塑性樹脂シート状物の製造方法、についても提供する。
上記熱可塑性樹脂シート状物の製造方法における熱可塑性樹脂シート状物の種類は特に限定されず、未延伸のもの、一軸延伸されたものも含まれるが、特に(14)熱可塑性樹脂を溶融押出後に二軸延伸する、(13)に記載の熱可塑性樹脂シート状物の製造方法の場合はロール温度がガラス転移温度よりも20℃程度高いので、本発明のオリゴマーの除去方法として好適なものである。
以上説明したように、本発明に係るロール表面の付着物除去方法によれば、オゾンレスの状態を現出させオゾンによる不具合を発生させることなく、付着物除去に有効な紫外線を効率よく照射でき、目標とするロール表面の付着物除去をインラインであっても効果的に行うことができる。また、オゾンガスが発生しないので大掛かりなオゾンガス排気装置を必要とせず、低圧UVランプを使用するため使用電力も低くて済み、さらに寿命も長く、ランニングコストも低くて済む。
このロール表面の付着物除去方法を用いた本発明に係る熱可塑性樹脂シート状物の製造方法によれば、インラインで安定して優れたロール表面の付着物除去性能が得られることとなり、ロール付着物に起因する表面欠点のない高品質な熱可塑性樹脂シート状物を高い生産性をもって製造することが可能になる。
以下に、本発明に係るロール表面の付着物除去方法および熱可塑性樹脂シート状物の製造方法について詳細に説明する。なお、以下の説明においては、熱可塑性樹脂シート状物が熱可塑性樹脂フィルムである場合を例にとって説明する。
本発明に係るロール表面の付着物除去方法では、有機物で汚染されたロールに、オゾンレスの大気中で、実質的にオゾンを発生させない特定の波長を持つオゾンレス低圧UV線を照射したときに非常に有効であり、その効果は熱可塑性樹脂フィルムの生産中に汚染されたロール表面を、オゾンにより人体や被処理ロール面に悪影響を与えずに、付着有機物を効率よく分解ガス化して除去でき、かつ取扱い性に優れ、しかもランニングコストの安いロール表面上の有機物除去方法を提供するものである。なお、人体に有害な被害を与えないほどの0.05ppm以下のオゾン発生なら通常許容されるが、この程度であってもオゾン発生は好ましくはないので、本発明で言うオゾンレスとは、オゾン発生が皆無の状態を目指している。
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂フィルムの製造に用いられるロールの表面に、オゾンレスの大気中で、実質的に220nm以下の波長を含まない特定波長のオゾンレス低圧UVランプからの紫外線を照射することとし、さらに好ましくは、上記特定波長の紫外線が実質的に220nmを超え308nm以下の波長を含む特定の紫外線を照射することを特徴とするロール表面の付着物除去方法に関するものである。
用いるオゾンレス低圧UVランプから照射される紫外線については、220nm以下の低波長の紫外線を実質的に消失させて上記の如く実質的に220nmを超え308nm以下の波長を含む特定の紫外線を照射するが、このオソンが発生させる185nmなどの低波長光を出射される照射光から消失させるには、例えば、ランプ管を溶融石英ガラスに重金属をまぜた石英ガラスから構成し、上記低波長の紫外線を吸収させる手法が好適であり、それによって、実質的に254nmの波長の紫外線のみ照射するオゾンレス低圧UV線ランプとすることが可能になる。
紫外線源としては、水銀等の発光材料が封入された水銀ランプを用いることができ、水銀蒸気の放電発光を用いたもので点燈時の蒸気圧によって、低圧、高圧及び超高圧の水銀ランプなどに分けられる。この中で主として185nmと254nmの波長の紫外線を放射する低圧水銀ランプに、上記の如くオゾンを発生させる185nm以下の波長の紫外線を吸収する溶融石英ガラスに重金属を混ぜた材質を用いたランプ管でオゾンレス低圧UVランプ(つまり、オゾンレス低圧水銀ランプ)を構成し、そこからオゾンを発生させない特定波長の紫外線を照射するのが、好ましい。
また、低圧水銀ランプの代わりに実質的にオゾンを発生させない220nm以上の特定波長の紫外線を出力可能なエキシマランプを用いることもできる。エキシマとは励起状態原子と基底状態原子の二量体のことであり、ランプ管内に放電プラズマなどの高エネルギーを発生させることにより、放電管内の原子をエキシマ状態にすることができる。このエキシマ状態から基底状態に戻るときに、エキシマ発光と呼ばれる現象により、強紫外線光が発生する。エキシマランプでは特定の単波長の光を効率よく取り出すことが可能である。波長220nm以上の紫外線は、Xe、Ar、Krなどの希ガスとハロゲンガスの混合ガスを放電用ガスとする希ガスハロゲンエキシマランプから得られることが知られているが、希ガスハロゲンエキシマランプの放電用ガスには、希ガス以外に金属との反応性の高いF,Cl,Brなどのハロゲンガスが含まれているので、シングル誘電体方式の電極は使えない。低い印加電圧で駆動可能ではあるが、シングル誘電体方式のエキシマランプの内部電極は放電空間に置かれているため、励起されたハロゲンと電極が反応してハロゲンガスが消耗する。現在、実用化されている希ガスハロゲンエキシマランプは、内面全面に金属電極をコートしたガラス管を誘電体として活用し、金属電極と放電用ガスが直接接触しない構造、いわゆる二重円筒型のダブル誘電体方式電極を使っている。このダブル誘電体方式ランプはランプの長尺・大型化が難しく、かつ高コストである。また,発光(駆動)させるには電極間に高周波、高電圧(数Hz〜数MHz,数kV)の印加が必要で、大型、高出力になるほど、インラインで使用するための電源設計上の負担が大きくなる。Xe(172nm)、Ar(162nm)、Kr(146nm)などの希ガスだけを使用する希ガスエキシマランプは、高出力では内部金属電極の水冷が必要だが、シングル誘電体方式の電極が使えるので、大型ランプの製作も比較的容易で、低い印加電圧で駆動可能である。そして、単波長172nmのXeエキシマランプの内側と表面にUV発光蛍光体を塗布して、実質波長範囲238〜310nmのオゾンレスUVを作ることが可能なエキシマ蛍光ランプも実用化されている。しかし、単波長のみを効率良く発光するエキシマランプによる蛍光体発光であるが、このエキシマ蛍光ランプの発光スペクトルは、波長が238〜310nmの範囲全部に広くひろがっている。オリゴマーの分解速度を速めるには、できるだけ、オリゴマー分解反応効率の高い短い波長側の紫外線だけを照射する方が良いが、エキシマ蛍光ランプの紫外線には、まだ長波長側の紫外線量が多く含まれている。これらの長波長側紫外線は、オリゴマー分解反応に直接的に有効である短波長紫外線の吸収を阻害し、同時に分解反応以外の副反応を引き起こし、その後の分解残渣を多くする可能性がある。そのほか、反応性の低い希ガスではあっても放電空間内の金属電極は希ガスイオンの衝突によって損傷し、放電管内面も希ガスイオンの衝突で生成したスパッタ金属の付着で曇ってきて紫外線透過率も低下してくるので、放電空間内に金属電極が存在するシングル誘電体方式の希ガスエキシマランプは、ダブル誘電体方式に比べて寿命はかなり短い。したがって、本発明の実施には、前述の如く、照射光から220nm以下の波長の紫外線を実質的に消失させ、有機物の分解に有効な波長254nmのみを発光する低圧水銀ランプ、すなわちオゾンレス低圧水銀ランプを用いることがより好ましい。
従来の紫外線照射の場合、照射ランプ管形状が、ロール幅方向(ロール面長方向)に対して長い直線形状の紫外線ランプであり、比較的広範囲にわたって均一に照射することはできるが、その照射強度は、一様にして低くなる場合があり、製膜速度の増加や、熱可塑性樹脂の種類によっては、ロール表面を汚染している有機付着物の分解速度が析出速度に追いつかず、経時によって汚れが付着してくるようになる場合がある。このようなことから、紫外線光を集光することにより、例えば、有機付着物の分解ガス化に寄与する254nm波長の紫外線の照射強度を15mW/cm2以上に制御して、有機付着物を除去する方法が好ましい。その集光方法は特に限定されないが、例えば紫外線ランプの囲いに集光用の反射鏡を設置して集光させる方法が装置的に簡便である。このようにして集光された紫外線光はエネルギーが高くなり、飛躍的に分解速度を向上させることが可能になる。
また、オゾンレス低圧UVランプ管形状が、U字管やV字管などの折り返しランプ形状であってもよい。この場合は集光しなくても照射面積が増大して照射時間が長くなり、照射強度が15mW/cm2程度と多少低くても有機物の分解を促進することができる。
オゾンレス低圧UV照射部を、ロール幅方向に対してトラバース(往復動)させると、ランプ管長が短くてもロール全面をクリーン化することが可能になる。トラバース速度としては特に限定はしないが、10〜50mm/min程度で走行させるのが良い。トラバースさせることで、短いランプを用いることができ、ロール有効幅一杯の長いランプを用いるよりも、ランプ交換費用なども安価に抑えられるメリットがある。
熱可塑性樹脂フィルムに用いられるロールとしては、キャスティングロール、渡りロール、カレンダーロール、冷却ロール、予熱ロール、延伸ロールやニップロールなどが挙げられる。これらロールの表面材質としては、ステンレス(SUS)、セラミックのプラズマ溶射膜、クロムやニッケルなどのメッキ、炭化タングステン系超合金の溶射膜、サンドブラスト加工したものなどを一般的に用いることができる。逆にシリコンゴム、あるいは有機樹脂コーティング加工されたロールの場合、紫外線がロール表面上の有機物だけでなく、ロール表面材質まで分解作用を及ぼすため、本発明の適用は好ましくない。
ロールの表面温度としては、熱可塑性樹脂のガラス転移温度より20℃低い温度以上に加熱されていることが好ましいが、必ずしもこれに限定されない。被処理ロール表面温度がフィルムのガラス転移温度Tgよりかなり低いと(低すぎると)紫外線による有機物の分解速度が遅くなるので好ましくはない。ロール表面温度は使用する高分子のガラス転移温度近傍から少し高い温度の方が有機物の分解速度は速くなるので好ましく、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムの製膜の場合、そのガラス転移温度が70℃なので、50℃から95℃程度が好ましい。
オゾンレス低圧UVランプ表面とフィルムまでの距離としては大きい方が取扱い性に優れるので好ましく、30mmから100mm程度が好ましい。このような距離で、充分な分解速度が得られるのは低圧水銀ランプの場合であり、エキシマ―レーザー照射や、高圧水銀ランプからの照射では充分な有機物分解速度が得られない。このオゾンレス低圧UVを照射する時は、フィルムがロールに接している間に(フィルム製造中にインラインで)行えば、フィルムを生産しつつ、ロールのクリーン化ができるが、もちろんフィルムの生産を止めた後でも紫外線を照射することができる。
本発明における有機付着物とは、熱可塑性樹脂に由来するもので、工程ロールに付着した有機化合物とは、例えば、熱可塑性樹脂の低分子量物、分解物、ブリードアウト物、あるいは添加物などである。さらに空気中に含まれる昇華物や油脂、塵芥などもこれに含まれる。この中でも主体となる低分子量物は、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂の場合、テレフタル酸、ビスヒドロキシエチルテレフタル酸、モノヒドロキシエチルテレフタル酸などのモノマー類及びダイマー、トリマー、環状3量体などのオリゴマー類が対象となる。オレフィン樹脂の場合は、帯電防止剤や、安定剤などの低分子添加剤が主である。
本発明において示される熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリフェニルスルフィド、およびそれらの混合体、変性体などから選ばれた樹脂が代表的なものであり、特にポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂が対象樹脂として好ましいものである。
ここでいうポリエステルとは、分子主鎖中にエステル結合を有する高分子化合物であり、通常、ジオールとジカルボン酸とからの重縮合反応により合成されることが多いが、ヒドロキシ安息香酸で代表されるようなヒドロキシカルボン酸のように自己縮合するような化合物を利用してもよい。ジオール化合物の代表的なものとしては、HO(CH2 )nOHで表されるエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキセングリコール、さらにジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物等で代表されるエーテル含有ジオールなどであり、それらの単独または混合体などである。
ジカルボン酸化合物の代表的なものとしては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸、及びそれらの混合体などである。
本発明において用いるポリエステルフィルムがポリエチレンエチレンテレフタレートの場合には、従来公知の製造方法によって製造することができる。すなわち、テレフタル酸とエチレングリコール及び必要により共重合成分を直接反応させて水を留去しエステル化した後、減圧下に重縮合を行う直接エステル化法、または、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコール及び必要により共重合成分を反応させてメチルアルコールを留去しエステル交換させた後、減圧下に重縮合を行うエステル交換法等により製造することができる。更に極限粘度を増大させ、環状3量体やアセトアルデヒド含量等を低下させるために固相重合を行ってもよい。前記溶融重縮合反応は、回分式反応装置で行ってもよいしまた連続式反応装置で行ってもよい。これらいずれの方式においても、溶融重縮合反応は1段階で行ってもよいし、また多段階に分けて行ってもよい。固相重合反応も、溶融重縮合反応と同様、回分式装置や連続式装置で行うことができる。溶融重縮合と固相重合は連続で行ってもよいし、分割して行ってもよい。
代表的なポリエステル樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)およびこれらの共重合体、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリ乳酸(PLA)などを挙げることができ、中でもポリエチレンテレフタレート(PET)とポリエチレンナフタレート(PEN)とポリ乳酸(PLA)およびこれらの共重合体が好ましく、特にポリエチレンテレフタレートおよびその共重合体が、安価であるため、非常に多岐にわたる用途で用いられ、本発明による効果が高い。また、これらの樹脂はホモ樹脂であってもよく、共重合体またはブレンドであってもよい。
これらの高分子化合物の繰り返し単位は、好ましくは80以上、より好ましくは120以上であるのがよい。
また、本発明において、ポリアミド樹脂とは、主鎖中にアミド結合を有する高分子化合物であり、代表的なものとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン46、ナイロン12、ナイロン7、ポリメタキシリレンアジパミドmXD6、ポリヘキサメチレンテレフタラミド/イソフタラミド6T/6I、9Tナイロン、およびそれらの関連共重合体、混合体などから選ばれたポリアミド化合物などが挙げられる。中でも、本発明の場合、ナイロン6およびその共重合体、ポリメタキシリレンアジパミドmXD6およびその共重合体が好ましいポリアミドである。さらに、これらのポリアミドに柔軟ナイロンや、結晶化し難いナイロン化合物を添加しておくと、キャストでの結晶化防止や、得られた品質の低温柔軟性などを付与できるので好ましい。
また、ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、メチルペンテンポリマー(PMP)、環状シクロオレフィン(COP/COC)、エチレンビニルアルコール(EVOH)、酢酸ビニルポリマー(EVA)、およびそれらの各種共重合体などを用いることができる。
これらの本発明において用いる熱可塑性樹脂には必要に応じて着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、核剤、離型剤などを本発明の目的を損わない範囲で添加することができる。
次に、本発明における熱可塑性樹脂フィルムの製造方法について、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに適用した例として、より具体的に示す。
原料としてポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂または必要に応じて他の化合物を添加ブレンドした原料、例えば、液晶ポリマーや他のポリエステル樹脂、さらに酸化珪素、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、マイカ、タルク、カオリンなどの無機化合物、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレン、エチレンビスステアリルアミド、イオン性高分子化合物、アイオノマー等の有機化合物等を添加した原料、一旦溶融させた回収原料などを混合した原料などを準備し、そのまま二軸ベント押出機に投入したり、これを乾燥・脱水した後、溶融押出機に供給し、分子量、例えば固有粘度[η]を極力低下させないように窒素気流下、あるいは真空下で可能な限り低温で溶融押出する。
次に、溶融体中の異物を除去するために、溶融樹脂を適宜な濾過フィルター、例えば、金属繊維状焼結(FSS)、パウダー状焼結金属(PSS)、多孔性セラミック、サンド、金網等で濾過しながら押出しする。かくして溶融されたポリエステル樹脂を成型用の口金から押出し成形するのである。
なお、口金から溶融フィルムを押出すときのドラフト比(=口金リップ間隔/押出されたシート厚み)は、好ましくは3以上、より好ましくは5〜10の範囲とすることにより、厚みむらの小さい、平面性の良いフィルムが得られやすい。かくして溶融されたポリエステル樹脂を押出し、該溶融フィルムに5〜15kv程度に負極に帯電印加したワイヤー電極あるいはブレード電極で該溶融樹脂フィルムを冷却媒体である鏡面クロムメッキをした中心線平均表面粗さRa0.005μm程度の超鏡面キャスティングドラムに密着させて急冷する。
なお、これらの熱可塑性樹脂シートを溶融押出するときには、上記の如く溶融樹脂シートに静電荷を印加しながら冷却密着固化させてシート製造することが、結晶化抑制や厚み均質化の点、さらには急冷キャスティングドラム面の汚れ防止などの点で好ましい。
続いて、このフィルムを酸化クロムなどのセラミックロール(表面粗さRa0.3μm)に接触させながら該高分子のガラス転移温度Tg以上、冷結晶化温度Tcc以下に加熱して1.5〜7.0倍程度に、一段あるいは多段階で縦方向(フィルムの長手方向)に延伸し、必要なら該縦延伸フィルム上に水系塗液をコーティングさせても良く、これを幅方向延伸のためにテンター式幅方向延伸機に導き、縦延伸フィルムの幅方向両端をクリップで把持し、加熱熱風によってコーティングの水分を90℃程度で蒸発させ、その後、該フィルムを該高分子のガラス転移温度Tg以上に加熱し、両端クリップ幅を広げることでフィルムを横方向(フィルムの幅方向)へ1.1〜8.0倍延伸する逐次二軸延伸方式で二軸方向に延伸する。さらに長手方向に強度の強いフィルムにするために、長手方向に再度ロールに接触させて延伸してもよい。この二軸延伸は縦と横方向の延伸を同時に行う同時二軸延伸方式であってもよい。この場合にも、同時二軸延伸機の前に加熱されたロールがある場合には、ロールが汚染されることが多い。また、必要に応じて延伸されたフィルムを熱風あるいは、ロールによってフィルムを樹脂の融点以下の温度に加熱して熱処理してもよい。この時、熱寸法安定性を出すために縦や横方向にリラックス処理を施してもよい。
上記方法によって製膜することにより、縦延伸ロール上に有機付着物が堆積し、経時によりフィルムに欠点を残す可能性が生じることになるが、このようにロール上の有機物を、本発明の主な特徴である、特定波長のオゾンレス低圧UV照射により、有機物を分解ガス化して除去させ、ロール表面をクリーンに保つことができる。
フィルムを縦延伸する際には、加熱が進むにつれ熱可塑性樹脂の結晶化度が向上し、樹脂中に分散していた有機物がブリードアウトされやすくなり、フィルム表面に存在する有機物の量が非常に多くなることから、フィルムが接触する縦延伸ロールには有機物が付着しやすく、汚れやすい。従って、本発明の方法は、縦延伸ロールもしくは再縦延伸ロールに用いることにより非常に効果的である。また、本発明は有機物除去効果が高いため、キャスティング速度の増加により、有機付着物の転写量が増加したとしても、ロールを清浄な状態に保つことができる。
前述した本発明に係るロール表面の付着物除去方法を用いた本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法により、表面欠点のない高品質な熱可塑性樹脂フィルムを生産性よく製造することができる。
かくして得られた熱可塑性樹脂フィルムは、表面欠点を問題とする光学用、磁気記録媒体用、電気絶縁用、コンデンサー用、その他一般工業用などに広く利用できる。
(物性および特性の測定法)
次に本発明で使用した物性および特性の測定法について以下に述べる。
(1)ポリエステル樹脂の固有粘度[η]
25℃で、o−クロロフェノールを溶媒として次式より求めた。
[η]= lm[ηsp/c]
比粘度ηspは、相対粘度ηrから1を引いたものである。cは、濃度である。単位は
dl/gで表わす。
(2)ポリエステルの熱特性
セイコー電子工業(現在セイコーインスツル社)製DSC RDC220型を用い、ポリエステルを5mg秤量し、窒素ガス雰囲気下20℃/分の速度で昇温して300℃になった時点でクエンチし、再度20℃/分の速度で300℃まで昇温しながらベースラインがシフトする温度をガラス転移点(Tg)、冷結晶化発熱ピーク温度(Tcc)、吸熱ピーク温度を融点(Tm)として測定した。300℃に到達した後、さらに20℃/分の速度で降温させ、溶融結晶化発熱ピーク温度(Tmc)を測定した。
(3)紫外線照射強度の測定
浜松ホトニクス社製UV−METER C6080−02を用い、波長254nmの照射強度を測定した。
(4)ロール汚れ除去速度
ロール上のオリゴマー汚れは、製膜開始前に縦延伸ロールを十分に清掃し、製膜開始から72時間後の汚れ状態をそれぞれ目視で観察し、製膜前と変わらずきれいなものを「◎」、汚れがほとんど見られないものを「○」、ごく薄く汚れ(白く濁った程度)が確認できるが使用を続けて問題ないものを「△」、汚れがかなり厚く付着し、掃除または交換が必要なものを「×」と評価した。
(5)ロールのダメージ
紫外線照射前後で表面状態を観察し、着色、腐食、表面荒れなどの表面変化のないものを〇、ダメージの有るものを×とした。
(6)ロールの昇温
フィルムの製膜に相応しい温度に設定されている温度より、紫外線照射により2℃以上上昇する場合を×とし、そのような温度上昇のない場合を「○」とした。
以下に、実施例および比較例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
熱可塑性樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)(固有粘度[η]=0.61、ガラス転移温度Tgは70℃、冷結晶化温度Tccは128℃、融点Tmは265℃、溶融結晶化発熱ピーク温度Tmcは215℃、添加剤として平均粒径0.25μmの酸化珪素粒子を0.1wt%含有)を用いた。該PET樹脂の含水率が20ppm以下になるように乾燥した後、押出機に供給して280℃で溶融して3t/hの吐出量で押出し、10μmカットの金属繊維燒結フィルターを通過させて濾過し、口金に導入して溶融フィルムを吐出し、この溶融フィルムに0.06mm径のワイヤー状の電極から負の静電荷を印加させながら冷却ロール上に密着させ冷却、固化させた。該押出フィルムをクロムメッキロールを用いて予熱温度72℃で予備加熱し、その後セラミックロールにてさらに加熱して、長手方向延伸機で延伸温度95℃で3.5倍延伸した後、ガラス転移温度Tg以下に冷却した。続いて該長手方向延伸フィルムの幅方向両端をクリップで把持しながらテンターに導き、延伸温度90℃に加熱された熱風雰囲気中で幅方向に3.8倍延伸後、225℃で熱固定して、厚さ25μmのフィルムを製膜した。
縦延伸予熱ロールのうち、最初にフィルムのキャスティングドラム面に接したロールの表面にオリゴマーなどの汚れが経時と共に付着してくるので、そのロールのクリーン化のためにオゾンレス低圧UVランプの主波長を254nmのみにし、該紫外線強度を20mW/cm2にしてロール表面に照射した。オゾンレス低圧UVランプにはロール幅方向の長さが160mmのストレート管を用いた。このランプをロールの幅方向に均一に照射するために、ロールの幅方向にトラバース(移動速度20m/min)し、縦延伸予熱ロールに連続的に照射した。オゾンレス低圧UVランプに使用した電力は110Wで、ランプ寿命は約6000時間であった。このときの結果を表1に示す。
実施例2
実施例1と同様の条件で製膜した。ただし、このとき照射強度は50mW/cm2 になるように調節した。得られた結果を表1に示す。
実施例3
実施例1と同様の条件で製膜した。ただし、このときの照射強度は180mW/cm2 になるように調節した。得られた結果を表1に示す。
実施例4
実施例1で用いたオゾンレス低圧UVランプをチャンバーで囲い、同チャンバーの四方に設置された集光鏡の角度と、ロールと紫外線ランプの距離を調節して、照射強度120mW/cm2 になるように紫外線を集光した。得られた結果を表1に示す。集光鏡による集光で照射強度を調整可能なことを確認した。但し同時に、とくに集光しなくても、照射強度を好ましい範囲に調整できれば、目標とするロール表面の付着物除去効果が得られることも確認した。
実施例5
長さ1010mmの長い1本のオゾンレス低圧UVランプをU字型に6回折り曲げて、1本のランプ長さを約160mmにして、ロールに照射するランプを見掛け上6本有るようにしたランプでロールに照射した。得られた結果を表1に示す。ランプの形状を変えても同様の優れたロール表面の付着物除去効果が得られることを確認した。
実施例6
実施例1と同様の条件で製膜した。ただし、このとき照射強度は10mW/cm2 になるように調節した。得られた結果を表1に示す。照射強度を低下させたことによりロール表面の付着物除去効果が若干低下したので、照射強度としては15mW/cm2 程度以上が望ましいことが判った。
比較例1
実施例1で用いたオゾンレス低圧UVランプを、254nmの波長の紫外線とともに、オゾンが発生する185nmの波長の紫外線を照射する通常の低圧水銀ランプに代え、実施例1と同様の条件で紫外線を照射して製膜した。ランプからの紫外線によりオゾンが発生したので、被処理ロールのクロムメッキ処理ロールに黒い斑点が出たり、一部腐食のような欠点が見つかったりして、該予熱ロールにダメージが発生しており、フィルムに傷が発生したので、継続して生産はできなかった。さらに、このオゾンガスは人体にも悪影響を与えるので、強制的にランプ周りの空気を排出させたが、完璧な排出は難しく、オゾン臭がしていた。このテストの結果を表1に示した。
比較例2
実施例1で用いたオゾンレス低圧UVランプの電源を切った以外は実施例1と同じようにしてフィルムを製膜したが、予熱ロールに経時でオリゴマーが付着して得られたフィルム表面にスクラッチ傷や、異物が付着していた。
比較例3
実施例1で用いたオゾンレス低圧UVランプを高圧水銀ランプに代えて1kW(使用電力1000W)の照射を行った他は、実施例1と全く同じようにして製膜したところ、ロールのクリーン化が遅いばかり、ロール表面温度が経時と共に上昇して行き、フィルムが部分的にロールに粘着しフィルム表面欠点となった。さらに、このランプで用いる電力も、実施例1の110Wに比べ1000Wと大きく、またランプ寿命も実施例1の約6000時間に比べ約1000時間と短く、しかもランプ価格も高く、ランニングコストが高く付くと言う欠点もあった。
この結果、とくに実施例1〜5では(実施例6でも実用上問題がない程度に)、ロール汚れがなく、且つロール上でのフィルムの滑りや、フィルム表面の擦り傷、掻き傷などは皆無であった。長時間の製膜に対しても問題となるロール汚れは認められなかった。かくして得られたフィルムは、ロール汚れや表面欠点が全く無い平面性の優れたフィルムであった。
それに対し、比較例1〜3では、製膜から24時間後ですでにロール表面にわずかに付着物の発生が認められ、72時間後はロール上でフィルム滑りや傷転写などが発生した。この時得られた二軸延伸フィルム表面には異物の付着のみならず、擦り傷・掻き傷などの表面欠点が多く存在した。
すなわち、前述の特許文献5のように、たとえ低圧水銀ランプを使用しても、主要波長を120nm−380nmとし220nm以下の波長の紫外線が存在する場合には、比較例1の結果と同様に、オゾンが発生する問題が解消されない。一方、前述の特許文献7のように、310nm−390nmの紫外光の照射強度を大きくすると、比較例3の結果と同様に、ロール昇温が発生してシート状物の粘着等の問題が発生し、かつ、高圧水銀ランプを使用することにより設備費の増加、紫外線漏れ対策の困難性を伴う。本発明では、これらの問題を発生させることなく、目標とするオゾンレスの状態にて、所望のロール汚れの除去が可能になる。
さらに、本発明による効果をより明確に確認するために、以下に説明するオゾンレス低圧UVランプを用いたPETオリゴマー汚れの除去効果確認試験を実施した。
[オゾンレス低圧UVランプを用いたPETオリゴマー汚れの除去効果確認試験]
1.試験の概要
310nm以下の波長の紫外線はPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムに対する透過率はゼロである。これらの紫外線はPETに100%吸収される。PETのオリゴマーは、PETとほぼ同じ組成比のベンゼン核とカルボニル基からなる類似の分子構造のモノマーで構成されていることが判っている。したがって、PETのオリゴマーも310nm以下の波長の紫外線を効率良く吸収すると思われる。試験に用いたオゾンレス低圧UVランプから発生する紫外線は、実質的に、さらに短波長の254nmの波長の紫外線のみであることから、PETオリゴマーに対して極めて吸収されやすく、PETオリゴマーの分解力が高いことが推測される。これを確認するために、オゾンレスの大気中で、このオゾンレス低圧UV照射によるPETオリゴマーの分解除去実験を行った。画像処理ソフト“ImageJ”を使用して、デジタルカメラ写真から試料表面のオリゴマー残量をGray Valueとして測定する方法で、オゾンレス低圧UVランプのオリゴマー除去能力を調べた。
2.オリゴマーの種類
A:TD(横)延伸ライン部:
図1に概略構成を示すPET二軸延伸フィルム製造ラインのTD(横)延伸ライン3部分からオリゴマーを採取(概略組成は図に示すようにテレフタル酸(TPA):20%、モノ−2−ヒドロキシエチルテレフタル酸(MHT):30%、環状化合物(環化と略して表記)、特に環状3量体:10%、残りはそれ以外の物質である。)
B:MD(縦)延伸ライン部(図1に符号2で表示):
採取が難しいため、市販試薬テレフタル酸を代用し、TPA:70%、環状化合物(環化)、特に環状3量体:30%に調製して使用
C:キャスティング装置部:
A−PET(非晶[Amorphous]−PET)シート製造ラインの冷却ロール1(キャスティングロール)[図1]上部のTダイス4周辺からオリゴマーを採集(TPA:20%、MHT:15%、BHT(ビス−2−ヒドロキシエチルテレフタル酸):5%、環状化合物(環化)、特に環状3量体:7%、残りはそれ以外の物質である。)
3.ロールを想定した試料の表面処理の種類
AT:黒灰色アルミナチタニヤ(Al2O3/40%TiO2)プラズマ溶射膜
Ra:0.08μm以下の研磨仕上げ面
HCr 0.2S:ハードクロムめっき、表面粗度0.2S以下の鏡面研磨面
HCr As Plating:ハードクロムめっき、めっき後のままの磨き無し表面
WCNiCr:タングステンカーバイド系(WC/20%Ni/7%Cr)高速フレーム溶射(HVOF)膜、Ra:0.08μm以下の研磨仕上げ面
4.UV照射によるオリゴマー分解残量の測定方法
オリゴマーの付着量はわずかであるため、重量減量は天秤の測定誤差範囲となり重量減ではオリゴマー分解量は判断できない。オリゴマー塗布膜表面は基材よりGray Value(白色度)が高いので、目視だとオリゴマーの残留状態は容易に判断できるが、定量的な表現ができない。そこで、画像処理ソフト“ImageJ”で試験片のデジタルカメラ写真をグレイに変換後に、オリゴマー付着部のピクセル単位のGray Valueを測定し、オリゴマー汚れの残留量の指標とした。
基材表面が、オリゴマーで完全に覆れているときはGray Valueは図2に示す標準グレースケールにて160〜170となる。また、基材表面と同じGray Valueのときはオリゴマーは完全に除去されていることを示している。一部のオリゴマーが分解除去されて基材表面が露出し始めるとGray Valueは下がりはじめ、オリゴマーと基材表面のGray Valueの中間の値を示すようになる。したがって、基材表面と同じGray Valueになるまでは、Gray Valueが高いほどオリゴマー残留が多いことを示している。
測定対象試料の測定枠で囲まれた領域全体または、測定線上のGray Value(Pixel単位)の平均値を測定データとした。Gray Value(黒=0→灰色254steps→白=256)の測定により、残留量の定量的表現が可能である。このオリゴマー残留量の測定方法は、目視による判断を半定量化した方法であるが再現性が良い。
5.試験条件
(1)PETオリゴマー塗布液:オリゴマー0.8gを100ccエタノールに添加し、攪拌混合。
試薬TPA の塗布液:試薬TPA(テレフタル酸)1gを100ccN,Nジメチルホルムアミドに溶解。この溶解液をさらにトルエンと1:1 混合。
(2)オリゴマーの塗布:塗布液を浸みこませた二つ折り15W×50Lウエスで1〜2回塗り。
(3)試験片のセットと照射距離:シリコンラバーヒーター上に設置、照射距離65mm。
(4)試験片の温度調整:試験片の表面に温調用熱電対をセット。
(5)ブロアーを作動させた状態で試験を行なった。
(6)規定時間ごとに、オリゴマーの分解状況をデジタルカメラで撮影。
6.試験装置
図3(A)に示す照射試験機10を用いた。図3(A)に示すように、ガイドレール11とラボジャッキ・ハンドル12により位置、高さが調整可能なステージ13上に試験片14をセットし、ダクト口15から排気しながら、端子台16、ランプ端子台17を介して給電されるオゾンレス低圧UVランプ18からの特定波長の紫外線を、反射板19による反射も利用しつつ、試験片14に照射した。図3(B)に示すように、この試験用オゾンレス低圧UVランプ装置20としては、実質発光長φ16×1100L(mm)のオゾンレス低圧UVランプ18を5回折り曲げて160×160(mm)の面状ヒーターに加工したものを用いた。
オゾンレス低圧UVランプのガラス管材質:オゾンレス石英ガラス(オゾンを生成する危険性がある220nm以下の波長の紫外線を遮断可能で、同時に254nmの波長の吸収は少ないように重金属等を添加した溶融石英ガラス)
ランプ電力:110W
UV照度:15mW/cm2(照射距離60〜65mm)
ランプ冷却:ブロアーによる強制空冷
使用したオゾンレス石英ガラスの紫外線透過特性を、図4に、波長(Wavelength:nm)と透過率(transmittance:%)との関係図として、普通溶融石英ガラスと合成石英ガラスと比較して示した。また、使用したオゾンレス低圧UVランプのスペクトルを、波長(Wavelength:nm)と相対強度(%)との関係図として図5に示した。
A.二軸延伸ラインのPETオリゴマーへのオゾンレスUVの照射試験
下記の条件で試験した。試験結果を表2および図6に示す。さらに、Gray Value測定のためにデジタルカメラで撮影した映像の代表例を図7、図8に示す。
オリゴマーの種類:A
基材(試験片):(1)HCr 0.2S
(2)WCNiCr
(3)AT
(4)HCr As Plating
基材温度:71〜75℃
Gray Value の測定枠形状:10×10mm
次に、基材(試験片)の温度のオリゴマー除去性能への影響を、下記条件の試験により調べた。
オリゴマーの種類:A
基材 :HCr As Plating
UV照射距離 :65mm
Gray Value の測定枠形状:10×10mm
測定値は測定枠内部の平均値とした。結果を表3および図9に示す。
B.試薬テレフタル酸(TPA)の塗布膜へのオゾンレスUV照射試験
下記の条件で試験した。試験結果を図10および図11に示す。
オリゴマーの種類 :B
基材(試験片):HCr As Plating
UV照射距離 :65mm
基材温度 :71〜75℃
Gray Value の測定枠形状:30mm×50mm
測定値は、測定枠の基準線に平行で、30mm幅の線に沿った値の平均値とした。
C.A−PETシートオリゴマーへのオゾンレスUV照射試験
下記の条件で試験した。試験結果を図12〜図14および表4に示す。
オリゴマーの種類:C(A−PETシートオリゴマー)
基材(試験片):HCr 0.2S
基材温度 :30〜35℃
Gray Value の測定枠形状:25mm×37mm
測定値は、測定枠の基準線に平行で、25mm幅の線に沿った値の平均値とした。
図12に示すように、25mm×37mmの測定枠において、UV未照射部、2時間照射部、3時間照射部、5時間照射部、7時間照射部にマスキングを移動させて区分し、それぞれの区分位置のオリゴマー残量をGray Valueにて測定したところ、図13に示す結果が得られた。それぞれの区分位置におけるオリゴマー残量の代表値を図13のグラフから読み取ってまとめると、表4に示すようになり、それをグラフにすると、図14に示すようになる。
上述の一連の試験結果からも分かるように、本発明により、オゾンレスの大気中で、オゾンレス低圧UVランプを用いてオゾンを発生させない特定波長の紫外線のみを照射することによって、優れたオリゴマー除去性能が得られることが確認できた。
すなわち、本発明は、オゾンレスの大気中で、オゾンレス低圧UVランプを用いてオゾンを発生させない特定波長の紫外線のみを照射することにより、オゾン発生に伴う問題を生じることなく、例えば上記のようにPETのオリゴマー等の低分子量化合物の付着物を、残存しないように或いは残存したとしてもその残存量を極力小さく抑えるように分解ガス化して、実際に効率よく除去することが可能な方法であり、その本発明による除去効果が、上述の一連の試験によって実証された。