JP6213935B1 - 微細遊離炭素分散型の超硬合金と被覆超硬合金の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
超硬合金は粉末を原料とし粉末冶金法で製造される。従って焼結後の超硬合金に巣が残存するリスクがあり、その巣の大きさを小さく、数を少なくすることが常に求められる。巣があると強度や硬度等が低下し超硬合金としての性能が劣化するからである。
巣とは、超硬合金の組織内部に現れる微細な孔、空隙のことで、「Pore(ポア)」とも呼ばれ材料欠陥の一つである。巣の状態は「有孔度」として、超硬工具協会規格CIS006C−2007「超硬質合金の有孔度分類標準」に規定されている。この規定では巣のタイプをA型,B型,C型の3種類に分類し巣の大きさや数の程度により4段階(等級)に区分し標準となる巣の程度を100―200倍の顕微鏡写真で示している。
CIS006Cによると、A型の巣の大きさは10μm以下と規定されている。また、その原因は微量なガスや不純物が起因と考えられている(非特許文献4,p.176)。
B型の巣の大きさは10μm以上25μm以下と規定されている。またその原因はCо粉や、潤滑剤の未粉砕等でA形よりやや大きい不純物が原因と考えられている(非特許文献4,p.176)。
C型の巣は、その原因が遊離炭素の存在によるとされ、その大きさは通常25μm以上であるとされている(非特許文献4,p.176)。
遊離炭素の巣は100倍の顕微鏡で観察すると小さい点状の巣が樹枝状に集まって一つの巣となっている。非特許文献1のp.66の図1.71に500倍の高倍率で観察した写真がありその樹枝状の形状がさらによくわかる。
遊離炭素に起因する巣についてはCIS規格006Cの付表4のC型とされている。4段階の一番少ない巣に適用されるC型002においても、巣の大きさは、大きいもので約70μmある。このように大きな巣が生ずると強度低下のみならず鏡面使用の用途では鏡面不具合となる。このため不良廃却損や手直し費用が発生する、或は納期遅延がおこる。
もし遊離炭素の巣が発生しても大きさを小さくできれば強度、硬度も低下しなくなり又鏡面の品質も向上し、このような損失を回避できる。
本願発明者は、従来達成していなかった遊離炭素の巣の最大径を20μm以下とする超硬合金および超硬合金の製造方法を鋭意研究し、実現するに至った。
最近はダイヤモンド工具、ダイヤモンド被覆工具の進歩で超硬合金の切削加工が可能になってきた。金型等の耐磨工具では加工費節減や納期短縮を目的に超硬合金の切削加工による加工の効率化技術の開発が活発化している。したがって加工効率の良い超硬合金の必要性が高まっている。
また超硬合金の主要用途である刃先交換型切削チップでは、切削性能が良く、同時に寸法精度の高い焼結肌のまま使用できるチップが求められている。
特許文献4は炭素量が多く、液相状態で固体炭素が存在する超硬合金に関するもので、遊離炭素に換算すると0.15〜0.17%以上に相当する領域のものである。一方本発明は液相状態で固体炭素が存在しない、即ち、より遊離炭素の少ない領域の超硬合金に関するものである(図1参照)。
また特許文献4の請求項1には含有遊離炭素の量は断面積で1.1%から8%としている。一方本発明は遊離炭素が重量で0.15%以下としている。遊離炭素はWC/Co主体の超硬合金に比し比重が小さいから体積%にすると約0.6%程度となり、本発明は特許文献4の範囲外の領域に関するものである。
特許文献5は超硬合金を2重構造とし内部と外周部の遊離炭素の量を異なることを特徴としているもので遊離炭素の大きさを小さくするものではない。
特許文献6は用途を限定した微少径の放電電極に関する特別の超硬合金に関するものである。超硬合金の材質評価法も性能評価法もこの用途独特の限定されたものである。
特許文献7はCVD被覆超硬合金の品質改善をしようとするために、超硬合金を2重構造とし外部に遊離炭素を含む層を形成するもので、遊離炭素の大きさを制御するものではない。
超硬合金の生産過程において、炭素の調整が不適正で焼結後遊離炭素を含有すると、強度が低下(非特許文献1 p.95 図1.115)し、また鏡面仕上げ面に遊離炭素による巣が観察され、綺麗な鏡面が得られない等の問題が発生している。
超硬合金の遊離炭素の発生の程度は、超硬工具協会規格CIS006C−2007「超硬質合金の有孔度分類標準」の付図4の標準写真(非特許文献2)により等級分類され、その程度によりC02〜C08まである。一般的に生産されている超硬合金に遊離炭素が生じた場合、付図4のようになり、遊離炭素(巣)が一番少なく小さいC002から一番多いC008まである。付図4のこれら写真から遊離炭素の大きさを判断するとC002の遊離炭素による巣の最大径は約70μmある。C006では最大径は100μm以上である。遊離炭素の付図4の写真にあるごとく遊離炭素の巣の形は小さい点がいくつか樹枝状に集まり一つの巣になっておりこの集合体の大きさを巣の大きさとして測定した。
そしてこのような遊離炭素は破壊の起点となり強度を低下させる。また鏡面に仕上げると遊離炭素が一種の巣として観察されきれいな鏡面にならない。上述の理由により一般的には遊離炭素が生じた超硬合金は品質の問題で検査不良品となり、手直しや再製作を要し、最終的には歩留低下や納期遅延をきたすこととなる。
よって、本発明においては超硬合金中の遊離炭素を微細に分散させることで、超硬合金中の巣の最大径を20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下とし、強度の低下を抑制し、かつ鏡面仕上げ面においても綺麗な鏡面を得ることが可能な超硬合金および超硬合金の製造方法を提供することで、歩留低下や納期遅延を改善することができる。
CVD法による被覆超硬合金が今日普及しているが、超硬合金に接する被膜はTiC,TiCN,TiNが一般的である。これらTi化合物は超硬合金内の炭素を吸収し被膜と超硬合金の境界に脱炭相のη相を生じやすい。η相は被覆超硬合金の強度を低下させる(非特許文献5および特許文献7)。しかし遊離炭素を含んだ超硬合金は余剰に炭素が含有されているため、η相の発生を抑制できることがわかっている(非特許文献3)。
よって、本発明において遊離炭素を含有したしかも強度低下のない超硬合金をCVD被覆超硬合金用の母材として提供することで、η相の発生を抑制した被覆超硬合金を提供することが可能となる。
遊離炭素存在下では結合相(Co相)のfccの格子定数は約3.550Åで一定である(非特許文献1 p99及び同頁の図1.115)。タングステン(W)のCо中への固溶量を増加させ格子定数を高くすると耐熱性が向上し切削性能が向上することが期待される。しかし遊離炭素存在下で格子定数を増大させえたとの報告はない。
本発明では液相状態から急冷することで格子定数を3.560Å以上のものを作製することが可能となった。切削性能は遊離炭素のない超硬合金に対し同等以上であった。この超硬合金を母材とした被覆超硬合金においても切削性能は向上していた。
後述する遊離炭素を分散した超硬合金は寸法精度の向上も実現できる。本発明は切削性能もよく寸法精度の高い刃先交換型切削チップの提供をも可能にするものである。
超硬合金は切削工具、各種金型、ダイス等の耐磨工具、土木・鉱山工具等広範囲に利用されており、各種用途に応じた性能改善が日夜すすめられている。
一方超硬合金は非常に硬く加工し難い難削材として知られ、その加工には、放電加工及びダイヤモンド砥石による研削研磨加工が主として用いられている。最近は切削工具も進歩し焼結ダイヤモンドを使用した工具やダイヤモンド被覆工具が進歩して一部超硬合金の切削加工が可能になり超硬合金の加工効率の向上が期待されている。しかし超硬合金のような難削材の加工は工具寿命が短く加工時間も長くなる。
本発明の超硬合金は遊離炭素を含有しているので融点が低いという性質をもつ。遊離炭素を含有させると融点が下がることはわかっており(非特許文献1 p.96)、遊離炭素を含有した合金の融点は1298℃、低炭素側の融点は1357℃となっている。
このように本発明の超硬合金は、遊離炭素を含有しない超硬合金と比較して融点が低いため、被切削加工性が良いことが推測される。被切削加工性はWCの粒度やCо量等の超硬合金の他の特性に大いに支配されるが同じ組成では本発明は被切削加工性の良い超硬合金を提供することができる。
また遊離炭素を含有した超硬合金は、融点も下がることに加え電気抵抗も低いことがわかっており(非特許文献1 p.63)、非特許文献1によると、Cоを10%使用した超硬合金において低炭素側の比抵抗は約23μΩcmで、遊離炭素を含有した超硬合金の比抵抗は17.8μΩcmとなっている。よって放電加工性の改善を期待することができる。
超硬合金は混合粉をプレスしそのプレス体を焼結し作られるがプレス体から焼結体になるときに体積で約50%(寸法で約20%)収縮する。収縮率を推定しプレス体を作り目的の寸法の焼結体をつくる。プレス体の重量、体積を同じくすると焼結体の体積は同じにすることができるが寸法が変わる。焼結体の体積を同じにしても、収縮は相似形にならず、ユガミが起こり寸法のバラツキが生ずるからである。また複数個同じものを作成しても個体間の差が生ずる。
ユガミの大きな要因の一つが焼結体内部の炭素量のわずかなバラツキである。この炭素のバラツキは種々の要因で起こるが、例えばプレス体の表面からの水分の吸収、や焼結炉内の雰囲気の影響等である。低炭素側の融点は1357℃で、高炭素側(遊離炭素が存在する側)の融点は1298℃であり、焼結のために昇温していくと融点の低い高炭素側が早く収縮を開始し、融点の高い低炭素側が遅れて収縮する。このようにして焼結体のユガミが生ずる。プレス体内の炭素量が部分的に変動しても遊離炭素が存在する限り融点は変わらず、従って収縮は均等に起こる。よって遊離炭素を微細に分散した超硬合金は寸法精度の高い焼結体となる。
刃先交換型切削チップはチップ上面に複雑な形状を金型で作成する場合が多いが、焼結後は研削加工することは工業的には困難である。又チップの側面を研削することによって高精度のチップを作成することも行われているが、加工費がかかり、最近は側面の全部または一部を研削加工せず焼結肌(焼結したままの表面)で使用する方向にあり、焼結体の寸法精度向上が必要である。
本発明はこのような寸法精度を高い刃先交換型切削チップを提供するものである。また複数個のチップを一つに回転体に取り付け使用する転削工具ではチップの寸法精度のバラツキはさらに重要である。この用途ではPVD被覆刃先交換型切削チップが多用されている。PVD被覆しても高精度は維持され変化しない。旋削用途ではCVD被覆刃先交換型切削チップが多用されるがCVD被覆しても高寸法精度は維持される。
寸法精度を向上したい要求は刃先交換型切削チップに限ったことではなく他の用途でも多い。第四の目的で記載した通り、金型等の加工品は焼結品から放電加工や切削加工、研削/研磨加工で完成金型等に加工されるがユガミ等で寸法精度が悪いと加工取り代が多くなり加工時間が長く、切削工具や研削砥石等の工具の損耗も多く費用がかかっている。ユガミが少なくなれば加工時間も短くなり、また工具の損耗も少なくなり、加工費が節減できる。
例えば低摩擦係数の超硬合金の提供である。超硬合金中に遊離炭素が存在すると良好な鏡面が得られず、現在実用化はされていない。しかし、遊離炭素を超硬合金中に微小に分散することによって、鏡面が得られるので遊離炭素の潤滑性を生かし潤滑性を改善した超硬合金の提供が可能になる。その他の用途開発も今後期待される。
また、本発明の目的は、超硬合金中に遊離炭素を含有していることによる利点を活用できる好性能な超硬合金を提供することであり、具体的には遊離炭素を含有した超硬合金をCVD被覆超硬合金用の母体として提供することでη相の発生を抑制したCVD法被覆超硬合金を提供すること、切削性能もよく寸法精度の高い刃先交換型切削チップや寸法精度の高い焼結品を提供すること、および被加工性が良い超硬合金とそれらの加工品を提供することである。
本発明は、微細に分散された遊離炭素を含有した炭化タングステン(WC)とコバルト(Cо)からなる超硬合金において、含有する遊離炭素の量が0.02%以上0.15%以下であって、遊離炭素に起因する巣の最大径が20μm以下であることを特徴とする。
またさらに好ましくは、本発明の超硬合金は遊離炭素に起因する巣の最大径が15μm以下であることを特徴とする。
よりさらに好ましくは、本発明の超硬合金は遊離炭素に起因する巣の最大径が10μm以下であることを特徴とする。
図1(非特許文献1、p.96 図1.112(b))によると遊離炭素が約0.15%〜0.17%以上では液相出現時(約1298℃以上とされている)においても遊離炭素が固体として存在し、冷却し液相が固体化した時もその遊離炭素は存在し続ける。この領域は遊離炭素が過大で超硬合金としては一般に使用されていない。0.01%以上0.15%以下では液相出現時には、炭素はすべて液体中に溶けており、固体化するときに遊離炭素が液相から析出してくる。本発明はこの遊離炭素の大きさを微細化することを目的としたものである。詳しくは<遊離炭素を微細化する方法>でも述べる。
また遊離炭素を0.01%以上とせず、0.02%以上としたのは0.01%以下では遊離炭素に起因する巣の数、大きさともに減少し、遊離炭素に起因する欠点も顕在化しないことが多々あるからである。
付図4の写真を見ると遊離炭素の巣の形は小さい点がいくつか樹枝状に集まり一つの巣になっておりこの集合体の大きさを巣の大きさとして測定した。そしてこのような巣(遊離炭素)は破壊の起点となり強度を低下させる(非特許文献1、p.99 図1.115)。また鏡面に仕上げると遊離炭素が一種の巣として観察されるためきれいな鏡面にならない。遊離炭素の巣の大きさ(最大径)を20μm以下に小さく分散させると巣が肉眼で殆ど見えなくなる。従って鏡面の不具合が改善もしくは解消し、強度も改善し遊離炭素を含有しないものに近づく、或はほぼ同等になる。
本願発明者は、超硬合金生成用の混合粉を焼結し、液相存在状態から冷却速度30℃/分,50℃/分,70℃/分のごとく急速冷却することで、従来達成していなかった遊離炭素の巣の最大径を20μm以下,15μm以下,10μm以下とする超硬合金および超硬合金の製造方法を発明した。
本発明によれば、炭化クロムまたは窒化クロムを添加した超硬合金においても遊離炭素を微細分散させると、強度や硬度を遊離炭素のない超硬合金とほぼ同じにすることが可能である。
クロム(Cr)を固溶させると超硬合金の圧縮強度、耐熱強度および疲労強度が向上するとされている(特許文献1)。しかしコバルト(Co)の量に対し2%以下では効果がなくまた18%以上では炭化クロムの結晶が析出し超硬合金の強度を低下させる危険がある。従って2〜18%を適正範囲としている。
本発明によれば、炭化タングステン(WC)の一部を周期律表4,5,6族元素の遷移金属の炭化物(ただし、Wを除く)、窒化物、炭窒化物、Wと前記遷移金属の炭化物、窒化物、炭窒化物との複炭化物、複炭窒化物のうちいずれか1つまたはこれらの組み合わせで置き換えた超硬合金においても遊離炭素を微細に分散させ強度、硬度を遊離炭素の巣がないものとほぼ同等にすることができる。
ここで脱β層とは、β相がない層であり、Co含有量がやや多くなり硬度がやや低くなるが強度や靭性に優れている層である。
本発明の超硬合金は、CVD被覆用の母材として利用されるが、本発明によれば、β相を含有する超硬合金にTiN,TiCN等の窒素化合物を添加し、脱β層を形成することで、被覆膜の脆性を補強することが可能となり、CVD被覆用の母材として好適に利用することができる。
脱β層は被覆膜の脆性を補強することが目的であるため、1μm以下では効果が不十分であり、また30μm以上では、本発明の超硬合金を工具刃先に使用した場合に工具刃先の高温硬度不足で工具性能が低下する。
本発明によれば、結合相(Co相)のfccの格子定数が3.560Å以上とすることで切削性能を向上した超硬合金及び被覆超硬合金を提供することができる。
格子定数が高い超硬合金は耐熱性が高く、疲労強度が改善され切削性能が向上するとされている。また、耐摩工具でも性能向上があるとされている(特許文献1、特許文献2)。遊離炭素を含有した超硬合金の格子定数は最低となり、約3.550Åである(非特許文献1、P99及び同頁の図1.115)。
遊離炭素を微細分散するために、超硬合金を製造する製造工程において、超硬合金生成用の混合粉を焼結後液相存在状態から急冷するが、固相になっても800℃まで引き続き急冷し続ける。この急冷効果で、遊離炭素存在状態でもタングステン(W)のCo相中への固溶が進み格子定数が大きくなることが分かった。抗折力や硬度は大きな差はなかったが、切削試験をすると性能向上していた。耐磨用等の切削用途以外でも性能差があると考えられる。
本願発明者は、超硬合金に遊離炭素が含まれていても超硬合金中に遊離炭素を微細分散することで、従来達成し得なかった格子定数が3.560Å以上の遊離炭素を含んだ超硬合金を発明するに至った。
この超硬合金を母材にした被覆超硬合金も格子定数の効果は継続し切削性能は向上していた。後述するごとく遊離炭素分散型超硬合金は寸法精度も高くなる。本発明は遊離炭素を微細分散させ、寸法精度が高く、結合相(Co相)のfccの格子定数が3.560Å以上である超硬合金或は被覆超硬合金及びこれらからなる刃先交換型切削チップを提供することを特徴としている。
CVD法による被覆超硬合金が普及しているが、超硬合金に接する被膜はTiC,TiCN,TiNが一般的である。これらTi化合物は超硬合金内の炭素を吸収し被膜と超硬合金の境界に脱炭層のη相を生じやすい。η相は被覆超硬合金の強度を低下させる(非特許文献5、特許文献7)。しかし遊離炭素を含んだ超硬合金は余剰に炭素が含有されておりη相の発生を抑制できる(非特許文献3、特許文献7)。
本発明の超硬合金を被覆超硬合金の母材として利用することで、境界部のη相が少ない強度の向上した被覆超硬合金を提供することを特徴としている。
また本発明の超硬合金または被覆超硬合金を使用し加工することで工具、金型、部品等の加工品として使用される。
本発明によれば寸法精度を向上した超硬合金、被覆超硬合金の製造が可能である。本発明は寸法精度向上により研削加工を省略ないしは削減した刃先交換型切削チップの提供を可能にすることを特徴としている。
また本発明の超硬合金は、寸法精度が高いため加工取り代が少なく、加工性もよいため加工費を安価にできる。従って本発明の超硬合金を使用し、より安価な加工費で工具、金型、部品等の超硬合金加工品、被覆超硬合金の加工品を提供することを特徴とする。
また本発明の超硬合金の製造方法は、前記急冷する工程および再加熱し急冷する工程の冷却速度を30℃/分以上とすることを特徴とする。
ここで、「液相出現温度以上の温度から急冷する工程」とは、液相出現温度以上から急速に超硬合金を冷却する工程のことであり、実施例の焼結条件「急冷」、「強急冷」、「強強急冷」も含まれる。
また、「再加熱し急冷する工程」とは、焼結された超硬合金を再び液相出現温度以上にまで加熱し、急速に冷却する工程のことであり、実施例の焼結条件「再加熱急冷」および「再加熱強急冷」も含まれる。
遊離炭素が存在するように配合した混合粉をプレスし焼結した。その際遊離炭素を微細に分散させるために液相存在状態から急冷した。液相存在状態から800℃までの冷却速度は通常10℃/分程度であるが、この場合は超硬工具協会規格CIS006C−2007「超硬質合金の有孔度分類標準」のC型の巣が超硬合金中に存在した。
同じ混合粉を使って焼結し、液相存在状態から冷却速度20℃/分、30℃/分で冷却したところ、20℃/分で冷却したほうが10℃/分で冷却するよりも超硬合金中に径が20μm以上の巣が少なくなったが、残存した。30℃/分で冷却すると、径が20μm以上の巣はなかった。
よって、冷却速度は30℃/分以上とした。また冷却速度を速くすると巣の径は小さくなる。試行実験では冷却速度が50℃/分程度の場合は径が15μm以上の巣はなくなり、冷却速度が70℃/分以上場合は径が10μm以上の巣はなくなった。
本発明によれば、超硬合金生成用の混合粉を液相出現温度以上の焼結温度で焼結後、急冷もしくは再加熱して急冷すること、およびその冷却速度を大きくすることによって、超硬合金中に巣を分散させ、かつ巣の径を小さくすることが可能となる。
また本発明によれば、遊離炭素を含有した超硬合金をCVD被覆超硬合金用の母体として提供することで、η相の発生を抑制し、かつ強度が安定した被覆超硬合金を提供することが可能となる。
そして本発明によれば、遊離炭素を超硬合金中に微小に分散することにより、遊離炭素による欠点を排除したうえで、寸法精度の高い研削加工を省略ないしは削減した刃先交換型切削チップの提供ができる。
さらに本発明によれば、超硬合金中に遊離炭素を微細に分散させることで、遊離炭素の欠点を排除したうえで、寸法精度が高く加工取り代の少ない超硬合金が提供可能になる、加えて被切削加工性および放電加工性がよいために加工費の安い超硬合金及びその加工品を提供できる。
超硬合金の遊離炭素の発生の程度は超硬工具協会の品質規格のCIS006Cの付図4のC02―C08により判定される。通常生産されている超硬合金で遊離炭素が生ずるとこの付図4のようになる。遊離炭素が一番少なく小さいC002から一番多いC008まであるが、遊離炭素の一番少ないC002においても最大径は約70μmである。遊離炭素の付図4の写真を見ると遊離炭素の巣の形は小さい点がいくつか樹枝状に集まり一つの巣になっておりこの集合体の大きさを巣の大きさとして測定した。遊離炭素の巣は一般に25μm以上である(非特許文献4 p283−284)、とされている。
本発明では遊離炭素の巣の大きさの測定はCIS006Cに記載の方法により検査試料を研磨し同じくCIS006付図4と同じく100倍の顕微鏡で観察し測定した。又同付図と同じ大きさの視野(約0.07X0.1mm)を2視野連続して20μm以上の遊離炭素に起因する巣がない場合、或いは任意に10視野を観察し7視野に20μm以上の遊離炭素に起因する巣がない場合を、遊離炭素起因の巣の最大径が20μm以下の超硬合金であるとした。遊離炭素起因の巣の最大径15μm、10μm以下の超硬合金も同様の測定法とした。
図1は、WC−Co擬二元系垂直断面図(鈴木寿 (1986) 『超硬合金と焼結硬質材料』 丸善、p.96 図1.112(b)転載)である。
超硬合金の遊離炭素の析出には2種類の型がある。図1によると、
(1)超硬合金の炭素量がWC換算値で6.3%以上では液相出現時にはWC+液体(L)+炭素(C)になる。このままの組成で冷却され固体になるとWC+γ+Cになる。
(2)炭素量がWC換算で6.13%以上6.3%以下では液相出現時はWC+液体(L)となるが、このままの組成で冷却するとWC+γ+Cとなる。WCの理論炭素量は6.13%であるから、遊離炭素に換算すると0.01〜0.17%になる。
ここで、γとは結晶構造fccのCоを主成分とした結合相(通常Cо相といっている)のことである。本発明は(2)の場合にのみ適用される。(1)の場合は液相時の炭素がそのまま固相出現時にも残存し、過大な遊離炭素が存在することになり、通常この領域は超硬合金として使用されない。但し特許文献4は、(1)の領域に関するもので特殊な用途に開発されたものである。
(2)の場合は液相から融点以下の固相に転換するときに液相から遊離炭素(C形の巣)が析出してくる。この析出する遊離炭素の大きさを小さく分散させることにより本発明の超硬合金を実現できる。具体的には遊離炭素の析出を小さく分散させるには液相から急冷することである。
理屈上は速いほど遊離炭素は微細化する。しかし冷却速度が速すぎると製品によっては内部応力が残存したり、炉の劣化も起こりうる。従って実情にあわせた限界がある。
また遊離炭素の大きさは超硬合金に存在する遊離炭素の量に影響されるのみならず組成や焼結体の形状・大きさ等にも影響される。
よって、予め冷却速度は実情に合わせ最適冷却速度を選択することが望ましい。設備的にはガス急冷技術が進化し100℃/分は十分可能で1000℃/分、10000℃/分の実施例も報告されている(特許文献2,3)。通常遊離炭素はCIS006Cに基づき100倍で検鏡するとC形の巣になるが、微細に分散させるとA形のように見えることもある。従って遊離炭素起因であることを確かめるには、段落0003でも述べたが併行し数百倍以上の高倍率で観察し確認する方法もある。また実施例の表2,4,6,7,8,9にあるように化学分析(遊離炭素%)で確認することもできる。
焼結、再加熱には通常真空炉が使われる。また最近はこれら真空炉に不活性ガスによる強制冷却を実施できる装置が装着されているものが多い。生産用にはこの種の真空炉を用いるのが便利である。ガス量を増やしたり、またガス圧を上げれば冷却速度を上げることが可能であり冷却速度は実情に合わせ制御可能である。大きい炉で大量に超硬合金(製品)が装入されている場合はガス量、ガス圧を増やし、装入量が少なく製品形も小さい場合にはガス量、ガス圧も小さくてよい。不活性ガスはArでもN2ガスでも可能である。N2はArより冷却効果がやや大きく、工業的にはコスト面でも有利である。
WC−Cо系材質の実施例を以下に述べる。
焼結前の混合粉は、市販の原料を用いて、(表1)の組成で配合しアルコールによる一般的な方法で湿式ボールミル混合し乾燥し作成した。Cr3C2添加があるものをA、ないものをBとした。 A2,B2は、A1,B1より炭素配合量を0.14%多くし、B4,B5は、B1より炭素配合量をそれぞれ0.10%,0.18%多くした。
ここで、焼結条件の「徐冷」とは、真空焼結で1380℃、1時間保持後冷却し、1350℃から800℃まで10℃/分で冷却(徐冷)した工程のことである。
また焼結条件の「急冷」とは、真空焼結で1380℃、1時間保持後冷却し、1350℃から800℃まで不活性ガスを導入し30℃/分で冷却(急冷)した工程のことで、「強急冷」とは、1350℃から800℃まで不活性ガスを導入し50℃/分で冷却(強急冷)した工程のことである。
焼結条件で「再加熱急冷」とは、焼結されたものを真空炉にて1340℃で15分再加熱し、冷却時は1340℃から800℃まで不活性ガスを導入し30℃/分で冷却(急冷)した工程のことで、「再加熱強急冷」とは、焼結されたものを真空炉にて1340℃で15分再加熱し、冷却時は1340℃から800℃までを50℃/分で冷却(強急冷)した工程のことである。
ここで、(表2)の巣の最大径(μm)の測定法は前述の<遊離炭素起因の巣の大きさの定義とその測定法>に準じたものである。
さらに具体的に説明するA21,B21については焼結後鏡面に研磨し100倍で検鏡したところ双方ともCIS006Cによる判定はC04程度であった。即ち遊離炭素の巣の大きいものは80−100μm、小さいものは25μm程度のものが混在して認められた。
また、A22,B22は、A21,B21(焼結品)を同じ真空炉で再加熱、1340℃で15分保持し冷却し、1340℃から800℃までを冷却速度30℃/分で冷却(急冷)した。これら超硬合金の巣の状況を他の試料と同じくCIS006Cに準じた方法で研磨をし、100倍で検鏡した。
A22の巣の最大径は15μm以下、B22の巣の最大径は20μm以下であった。抗折力や硬度の測定も行った。A23、B24は上述のものと同じ条件で混合粉を真空焼結した後30℃/分で冷却(急冷)したものである。B4,B5の混合粉末についても同じく真空焼結した後冷却したものである。(表2)に焼結条件と結果を示した。
B52は巣がやや多く最大径20−25μmの巣が10視野中2視野に1個あった。B23はB21を1340℃まで再加熱し800℃まで50℃/分で強急冷したもので、巣はB22より改善し、巣の大きさが小さく全て10μm以下であった。B42もすべて巣の大きさが10μm以下であった。
このように、通常、超硬合金が巣の要因となる遊離炭素を含んでいる場合、一般的な焼結条件・冷却方法(徐冷)によって冷却すると、生成された超硬合金は、遊離炭素を含んでいない超硬合金と比較して、抗折力や硬度が小さくなってしまうが、焼結後に急冷あるいは強急冷するか、焼結後に徐冷し、その後再加熱急冷もしくは再加熱強急冷することによって、超硬合金が遊離炭素を含んでいたとしても、超硬合金の遊離炭素の巣が分散され、結果として遊離炭素を含んでいない超硬合金と同等レベルの抗折力や硬度をもつ超硬合金を生成することが可能となる。
切削工具用材質の実施例を以下に述べる。
焼結前の混合粉は、市販の原料を用いて、(表3)の組成で配合しアルコールによる一般的な方法で湿式ボールミルし乾燥し作成した。これら混合粉はすべて、プレス用の潤滑剤を加え1tоn/cm2の圧力でプレスした。C11,C21は、真空焼結で1400℃、1時間保持後冷却し、1380℃から800℃まで10℃/分で冷却(徐冷)した(焼結条件の「徐冷」に相当)。
一方、C23は、真空焼結で1400℃、1時間保持後冷却し、1380℃から800℃までを不活性ガスを導入し50℃/分で冷却(強急冷)した(焼結条件の「強急冷」に相当)。
そして、C22はC21を再加熱急冷した。焼結条件の「再加熱急冷」とは、真空炉で1380℃、30分保持し、30℃/分で冷却した工程のことである。C22は20μm以上の巣はなかった。また、C23の巣の大きさは、10μm以下であった。結果を(表4)に示す。
CVD用母材に多用される表面に脱β層を有する超硬合金の実施例を以下に述べる。
一方、F2は、真空焼結で1400℃、1時間保持後冷却し、1380℃から800℃までを不活性ガスを導入し30℃/分で冷却(急冷)した(焼結条件の「急冷」に相当)。結果を(表6)に示す。E1,F1,F2はいずれの試料も表面に10−20μmの脱β層が生じた。遊離炭素が微細に分散しても脱β層を作成できる。これら試料は焼結表面に脱β層があり、抗折力は測定しなかった。
刃先交換型切削チップの寸法精度の実験を行った。
実施例2の(表3)のC1,C2の混合粉を用い、プレス用の潤滑剤を加えて刃先交換型切削チップの型番SNMA432を複数個、プレス圧 1tоn/cm2でプレスし、焼結し、寸法精度を測定した。(表7)の結果を得た。焼結条件は、G11はC11と同じであり、G21はC21と同じであり、G22はC22と同じであり、G23はC23と同じである。
(表7)中の「チップ内寸法差」とは、一個のSNMA432(正方形)の4辺をマイクロメータで測定した場合のその最大値と最小値の差である。
(表7)中の「10個の最大最小差」とは、10個のSNMA432の4辺を測定し、その最大値から最小値をひいたものである。
G11,G22,G23にTiC2μm+TiN3μmをPVDの1種であるイオンプレーテイングで被覆して同様の測定をした。PVD被覆したG22,G23、PVD被覆したG11のチップ内寸法差、10個の最大最小差とも被覆前とほとんど同じであり、被覆したG22,G23は被覆したG11より寸法バラツキ小さかった。
更にG11,G22,G23にCVD法でTiCを7μm被覆し、同様の寸法測定をして比較した。やはり寸法バラツキは被覆前とほとんど同じで、被覆したG22,G23はG11より寸法バラツキは小さかった。
円筒形の超硬合金焼結体を作製し寸法精度を比較検討した。
実施例1のB1,B2,B4の混合粉にプレス用の潤滑剤を加え使用し、プレスは1tоn/cm2で行い、外形50D、内径20d、高さ50(単位mm)の焼結体を複数個作成し寸法精度を比較した。結果は(表8)に示す。
超硬合金加工品を作製する際の加工効率を比較した。
(実施例5)のH11とH24を被削材として外周旋削を行った。切削工具は多結晶ダイヤモンド焼結体の型番TNGA432を用いた。切削条件は、切削速度(v)=15m/分、送り速度(f)=0.1mm/rev、切込み深さ(d)=0.1mmとした。
外周の焼結肌を除去する時間は当然ではあるがユガミが多く取り代の大きいH11はユガミの少ないH24の1.5倍の時間が必要であった。
更にH11とH24の被切削性を比較するため、焼結肌を除去したのち、工具を新しいものに交換して同条件で20分切削をして両者の工具の摩耗の進行状況を比較した。
H11の切削による工具摩耗(逃げ面摩耗)は0.11mm、H24の場合は0.08mmであった。これはH24がH11より被切削性が良いことを示している。即ち本発明の超硬合金は焼結品の寸法精度が良くなることのみならず優れた被切削性も持っている。よって加工費の安い超硬合金加工品を提供できることが確かめられた。
結合相(Cо相)のfccの格子定数と切削性能の関係を調査した。
(実施例2)のC1の粉末を用いて、1ton/cm2でSNMA432をプレスし、真空焼結を1400℃で1時間保持後、冷却温度70℃/minで急冷(強強急冷)した。試料番号をG24とした。(実施例4)も混合粉末は(実施例2)と同じであり、試料は(実施例4)のG11,G21,G22,G23と、上記G24を使用し、格子定数と切削性能を比較した。格子定数の測定にはCuをターゲットとしたX線回折を用いた。
さらにG11,G21〜G24にTiC2μm+TiN3μmをPVD被覆し切削試験を行った。G11,G21〜G24を用いた被覆超硬合金の切削条件(旋削)は、被削材:SK5、v=100m/min、f=0.5mm/rev、d=2mm、t=3min、試験後の刃の塑性変形(刃先すくい面のダレ)量を比較した。(表9)に結果を示した。
従来の形で遊離炭素を含有したG21はG11より性能は劣っていた。ところが格子定数が高く遊離炭素を微細に分散した超硬合金、被覆超硬合金はともにG21より優れていることは勿論であるが、遊離炭素を含まないG11よりも優れていることがわかる。
Claims (4)
- 高温での液相存在時にその液相に固体炭素を含有しない範囲の炭素量を含有する炭化タングステン(WC)とコバルト(Cо)からなり、遊離炭素を微細に分散した超硬合金であって、
前記遊離炭素に起因する巣の最大径が20μm以下である超硬合金を超硬合金Aとし、
前記遊離炭素に起因する巣の最大径が15μm以下である超硬合金を超硬合金Bとし、
前記遊離炭素に起因する巣の最大径が10μm以下である超硬合金を超硬合金Cとし、
前記超硬合金A,BまたはCにおいて、前記遊離炭素の量を0.02%以上0.15%以下含有した超硬合金を超硬合金Dとし、
前記超硬合金A,B,CまたはDにおいて、コバルト(Cо)の量の2〜18%の炭化クロムまたは窒化クロムが添加された超硬合金を超硬合金Eとし、
前記超硬合金A、B,C,DまたはEにおいて、超硬合金の結合相(Co相)のfccの格子定数が3.560Å以上である超硬合金を超硬合金Fとし、
前記超硬合金A,B,C,D,E,Fのいずれかの超硬合金を製造するに際し、超硬合金生成用の混合粉を液相出現温度以上の焼結温度で焼結後、液相出現温度以上の温度から急冷する工程、または液相出現以上の温度まで再加熱し急冷する工程を有することを特徴とする超硬合金の製造方法。 - 前記超硬合金A,B,C,D,EまたはFにおいて、炭化タングステン(WC)の一部を周期律表4,5,6族元素の遷移金属の炭化物(ただし、Wを除く)、窒化物、炭窒化物、Wと前記遷移金属の炭化物、窒化物、炭窒化物との複炭化物、複炭窒化物のうちいずれか1つまたはこれらの組み合わせで置き換えた超硬合金を超硬合金Gとし、
前記超硬合金Gにおいて、前記超硬合金の表面に脱β層が形成されており、前記脱β層の厚みが1〜30μmである超硬合金を超硬合金Hとし、
前記超硬合金GまたはHを製造するに際し、超硬合金生成用の混合粉を液相出現温度以上の焼結温度で焼結後、液相出現温度以上の温度から急冷する工程、または液相出現以上の温度まで再加熱し急冷する工程を有することを特徴とする請求項1記載の超硬合金の製造方法。 - 前記急冷する工程および再加熱し急冷する工程において、液相出現温度から800℃までの冷却速度を30℃/分以上とすることを特徴とする請求項1または2記載の超硬合金の製造方法。
- 被覆超硬合金を製造するに際し、請求項1から3のいずれか一項記載の超硬合金の製造方法にて製造された超硬合金を母材として使用することを特徴とする被覆超硬合金の製造方法。
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