以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
(第1の実施形態)
イントロデューサー組立体10は、体腔内へのアクセスルートを確保するためのデバイスである。なお、以下の説明において、デバイスの手元操作部側を「基端側」、体腔内へ挿通される側を「先端側」と称す。
図1は、本発明の実施形態に係るイントロデューサー組立体10を、包装フィルム40内にパッケージ化した状態を示す平面図、図2は、イントロデューサー組立体10のイントロデューサー用シース20、およびダイレーター30を分解して示す平面図である。
図1および図2を参照して、イントロデューサー組立体10は、概説すると、イントロデューサー用シース20と、ダイレーター30とを有している。本実施形態にあっては、イントロデューサー用シース20とダイレーター30とを予め一体化させ、包装フィルム40内にパッケージ化してある。イントロデューサー用シース20は、シースチューブ21と、シースチューブ21の基端側に取り付けられるシースハブ22と、シースハブ22の基端側に取り付けられた止血弁23とを備えている。ダイレーター30は、ダイレーターチューブ31と、ダイレーターチューブ31の基端側に取り付けられるダイレーターハブ32を備えている。以下、イントロデューサー組立体10について詳述する。
イントロデューサー用シース20は、体腔内へ留置されて、その内部に、例えばカテーテル、ガイドワイヤ、塞栓物等の長尺体を挿通して、体腔内へ導入するためのものである。
シースチューブ21は、経皮的に体腔内へ導入される。
シースチューブ21の構成材料としては、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、またはこれら二種以上の混合物など)、ポリオレフィンエラストマー、ポリオレフィンの架橋体、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、フッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミドなどの高分子材料またはこれらの混合物などを用いることができる。エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)を好適に用いることができる。
シースハブ22には、シースチューブ21の内部と連通するサイドポート24が形成されている。サイドポート24には、例えばポリ塩化ビニル製の可撓性を有するチューブ25の一端が液密に接続されている。チューブ25の他端は、例えば三方活栓26が装着されている。この三方活栓26のポートからチューブ25を介してイントロデューサー用シース20内に、例えば生理食塩水のような液体を注入する。
シースハブ22の構成材料としては、特に限定されないが、硬質樹脂のような硬質材料が好適である。硬質樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン等が挙げられる。
止血弁23は、略楕円形の膜状(円盤状)をなす弾性部材から構成され、シースハブ22に対して液密に固定されている。
止血弁23の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、弾性部材であるシリコーンゴム、ラテックスゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム等が挙げられる。
ダイレーター30は、イントロデューサー用シース20を血管内に挿入するときに、シースチューブ21の折れを防いだり、皮膚の穿孔を拡径したりするために用いられる。
ダイレーターチューブ31は、シースチューブ21内に挿通される。図1に示すように、ダイレーターチューブ31の先端33が、シースチューブ21の先端から突出した状態となる。
ダイレーターチューブ31の構成材料としては、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、またはこれら二種以上の混合物など)、ポリオレフィンエラストマー、ポリオレフィンの架橋体、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、フッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミドなどの高分子材料またはこれらの混合物などを用いることができる。
ダイレーターハブ32は、シースハブ22に対して着脱自在に保持されている。
ダイレーターハブ32の構成材料としては、特に限定されないが、硬質樹脂のような硬質材料が好適である。硬質樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン等が挙げられる。
図3は、第1の実施形態のイントロデューサー用シース20を示す断面図、図4Aは、図3に一点鎖線によって囲まれる符号4Aを付した部分を拡大して示す断面図である。
図3を参照して、第1の実施形態のイントロデューサー用シース20は、概説すれば、カテーテルなどの長尺体を挿通自在な中空部21aを備えるシースチューブ21(管状部材に相当する)から形成され、シース先端部50(先端部に相当する)とシース本体部60(本体部に相当する)とを備えている。シース先端部50は、先細りとなるテーパー部51と、軸線とほぼ平行に伸びるストレート部52とを有している。
イントロデューサー用シース20は、シース先端部50の内径φaが先端側に向かって漸次小さく形成されている。イントロデューサー用シース20はさらに、シース先端部50の内表面50aにシースチューブ21の摩擦係数よりも低い摩擦係数を有する疎水性被覆71を備えている。図示例では、シース先端部50の内表面50aおよびシース本体部60の内表面60aの全長にわたって疎水性被覆71を備えている。
シース先端部50の外表面50bにさらに疎水性被覆72を備えている。疎水性被覆72については後述する。
イントロデューサー用シース20は、シース本体部60の外表面60bに親水性の潤滑性被覆73を備えている。イントロデューサー用シース20はさらに、シース先端部50の外表面50bに親水性の潤滑性被覆73の乾燥時における摩擦係数よりも低い摩擦係数を有する疎水性被覆72を備えている。
ここで、「乾燥」とは、親水性の潤滑性被覆73が湿潤しておらず、十分な潤滑性を発揮することができない状態を広く意味している。したがって、温度や湿度によって「乾燥」の程度を特定する必要はない。
イントロデューサー用シース20の大きさは、カテーテルのサイズが6Frの場合において、シース先端部50の長さが3mm〜4mm、最先端の内径φaが1.98mm〜2.13mm、シース本体部60の内径φbが2.22mmである。イントロデューサー用シース20の大きさが上記の寸法に限定されないことはいうまでもない。
疎水性被覆71、72は、疎水性材料をコーティングすることにより形成されている。疎水性材料としては、例えば、反応硬化性シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や、フッ化エチレンプロピレン(FEP)等が挙げられる。
親水性の潤滑性被覆73は、親水性材料をコーティングすることによって形成されている。親水性材料としては、例えば、アクリルアミド系高分子物質(例えば、ポリアクリルアミド、ポリグリシジルメタクリレート−ジメチルアクリルアミド(PGMA−DMAA)のブロック共重合体)、セルロース系高分子物質、ポリエチレンオキサイド系高分子物質、無水マレイン酸系高分子物質(例えば、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体のような無水マレイン酸共重合体)、水溶性ナイロン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
シース先端部50における外表面50bの疎水性被覆72は、少なくとも、シース先端部50のテーパー部51を覆うように備える必要がある。シース先端部50のテーパー部51は、挿入時に一番抵抗がかかる部位である。このため、疎水性被覆72を備えていないテーパー部51が外表面50bに露出すると、挿入抵抗の低減が阻害されてしまうからである。シース先端部50のストレート部52のうち疎水性被覆72を備える範囲は、イントロデューサー用シース20の有効長の1/2未満が望ましい。イントロデューサー用シース20を挿入するときの抵抗低減効果と、抜き去るときの抵抗低減効果とのバランスを考慮したものである。
シース先端部50の内表面50aおよび外表面50bの疎水性被覆71、72を反応硬化性シリコーンから形成する場合には、疎水性被覆71、72自体が硬くなり、シース先端部50が硬くなることによって、シース先端部50のめくれを抑制することができる。
イントロデューサー用シース20は次のようにして製造される。
まず、イントロデューサー用シース20のシース本体部60の外表面60bにのみ親水性の潤滑性被覆73を形成する。シースチューブ21に芯金を挿通し、親水性材料をコーティングして、親水性の潤滑性被覆73を形成する。親水性材料としては、例えば、ポリグリシジルメタクリレート−ジメチルアクリルアミド(PGMA−DMAA)等を使用する。シースチューブ21の材料としては、例えば、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等を使用する。
次いで、シース先端部50の形状付け加工を行う。この加工では、シース先端部50のテーパー形状に合致した内面形状を有する凹所が形成された金型を使用する。金型は、高周波電源によって加熱されている。シースチューブ21の先端を金型の凹所に押し込む。すると、凹所の内面形状がシースチューブ21の先端に転写され、シース先端部50に、外表面50bが先細りとなるテーパー部51が形成される。
次いで、シース先端部50の内表面50aおよびシース本体部60の内表面60aの全長にわたって疎水性被覆71を形成する。イントロデューサー用シース20の内表面50a、60aに疎水性材料をコーティングして、疎水性被覆71を形成する。さらに、シース先端部50の外表面50bにも疎水性被覆72を形成する。シース先端部50に疎水性材料をディッピングして、疎水性被覆72を形成する。疎水性材料としては、例えば、反応硬化性シリコーン等を使用する。この疎水性材料には、親水性の潤滑性被覆73の乾燥時における摩擦係数よりも低い摩擦係数を有する材料を使用する。上記の例では、ETFEの乾燥時における摩擦係数よりも低い摩擦係数を有する反応硬化性シリコーンを、疎水性材料として使用する。
以上の工程を経て、図3に示されるイントロデューサー用シース20を形成する。
第1の実施形態のイントロデューサー用シース20は、最先端の内径φaがカテーテルなどの長尺体の外径よりも小さく形成されているが、シース先端部50の内表面50aには、シースチューブ21の素材(例えば、ETFE)の摩擦係数よりも低い摩擦係数を有する疎水性被覆71(反応硬化性シリコーンからなる被覆)を備えている。このため、シース先端部50の内表面50aとカテーテルなどの長尺体との摺動抵抗を低下させて、カテーテルなどの摺動性の向上を図ることができる。
ここで、シース先端部50の内表面50aに親水性の潤滑性被覆を形成する場合には、シースチューブ21の素材を活性化させる処理が必要となり、シース先端部50の形状付け加工を行う前に親水性の潤滑性被覆を形成しなければならない。このため、金型を使用してシース先端部50の形状付け加工を行うときの熱が過剰に作用し、親水性被覆が剥がれたり、分解したり、劣化したりする。このため、シース先端部50の内表面50aとカテーテルなどの長尺体との摺動抵抗が実質的に低下せず、カテーテルなどの摺動性の向上を図ることができない。
これに対して、シース先端部50の内表面50aに疎水性被覆71を形成する場合には、シース先端部50の形状付け加工を行った後に、疎水性材料をコーティングして形成することができ、疎水性被覆71の剥がれ、分解、劣化などが生じない。したがって、上述したように、シース先端部50の内表面50aとカテーテルなどの長尺体との摺動抵抗を低下させて、カテーテルなどの摺動性の向上を図ることができる。
イントロデューサー用シース20はさらに、挿入時に一番抵抗がかかるシース先端部50の外表面50bに、親水性の潤滑性被覆73の乾燥時における摩擦係数よりも低い摩擦係数を有する疎水性被覆72を備えている。乾燥下では親水性被覆は滑り性が悪いが、シース先端部50の外表面50bに疎水性被覆72を備えることによって、皮膚から血管内へと挿入するときに、イントロデューサー用シース20の挿入抵抗を小さくすることができる。血管内挿入後にイントロデューサー用シース20を抜き去るときには、親水性の潤滑性被覆73が血液によって湿潤して潤滑性を生じているので、滑らかに抜き去ることができる。
このように、第1の実施形態のイントロデューサー用シース20によれば、シース先端部50の内径φaを先端側に向かって漸次小さく形成する場合においてもカテーテルなどの長尺体の摺動性の向上を図ることができる。しかも、本実施形態のイントロデューサー用シース20によれば、使用当初の乾燥下においても挿入抵抗の低減を図ることができる。
図4Aに、シース先端部50の外表面50bにおける疎水性被覆72と、シース本体部60の外表面60bにおける親水性の潤滑性被覆73とが重なり合う構造が示されている。
図4Aに示すように、シース先端部50とシース本体部60との境界部分においては、親水性の潤滑性被覆73の上に、疎水性被覆72が覆いかぶさっている構造にすることが望ましい。イントロデューサー用シース20を皮膚から血管内へと挿入するときに、境界部分において親水性の潤滑性被覆73の端面に突っかかることがないからである。このような構造にすることによって、イントロデューサー用シース20を滑らかに挿入することができ、親水性の潤滑性被覆73の剥れをも抑制することができる。
図4Bに、イントロデューサー用シース20が血管内に挿入された後の親水性の潤滑性被覆73および疎水性被覆72の状態が示されている。
図4Bに示すように、親水性の潤滑性被覆73は、血液を吸収して膨潤し、疎水性被覆72の外径とほぼ同等かそれ以上となっている。このことより、イントロデューサー用シース20を血管から引き抜くときに、疎水性被覆72の基端部が親水性の潤滑性被覆73の先端部に重なる重なり部が、段差とならない。よって、イントロデューサー用シース20表面の血管および皮膚に対する抵抗が過剰とならず、両被覆72および73によってイントロデューサー用シース20をスムーズに引き抜くことができる。
実験によれば、シース先端部50における内表面50aの摺動抵抗は、反応硬化性シリコーンから形成した疎水性被覆71を備えることによって、疎水性被覆71を施さない場合に比べて約80%も低下した。さらに、シース先端部50における外表面50bの刺通抵抗は、反応硬化性シリコーンから形成した疎水性被覆72を備えることによって、親水性の潤滑性被覆73を施した場合に比べて約30%低下した。このように、シース先端部50における内表面50aの摺動抵抗の低減、およびシース先端部50における外表面50bの刺通抵抗の低減に関して、ともに高い効果が得られることを実験によって確認した。
(第1の実施形態の改変例)
図5は、第1の実施形態の改変例のイントロデューサー用シースを示す断面図である。
第1の実施形態の改変例は、上述した第1の実施形態に対して、イントロデューサー用シース120の製造手順を改変したものである。
第1の実施形態の改変例に係る製造手順においては、まず、イントロデューサー用シース120のシース本体部60の外表面60bのみならず、シース先端部50の外表面50bにも親水性の潤滑性被覆73を形成する。シースチューブ21に芯金を挿通し、親水性材料をディッピングして、イントロデューサー用シース120の外表面50b、60bの全体に親水性の潤滑性被覆73を形成する。
次いで、シース先端部50の形状付け加工を行う。金型を使用してシース先端部50の形状付け加工を行うときに作用する熱によって、シース先端部50の外表面50bにおける親水性の潤滑性被覆73は消滅したり、被覆自体は残存するものの潤滑性を失活したりしている。第1の実施形態の改変例は、後者の、被覆自体は残存するものの潤滑性を失活している状態を示している。図5に示すように、シース先端部50の外周面50bには、潤滑性を失活した被覆73aが残存している。
次いで、シース先端部50の内表面50aおよびシース本体部60の内表面60aの全長にわたって疎水性被覆71を形成する。イントロデューサー用シース20の内表面50a、60aに疎水性材料をコーティングして、疎水性被覆71を形成する。さらに、シース先端部50の潤滑性を失活した被覆73a上にも疎水性被覆72を形成する。シース先端部50に疎水性材料をディッピングして、疎水性被覆72を形成する。
以上の工程を経て、図5に示されるイントロデューサー用シース120を形成する。第1の実施形態の改変例においては、潤滑性を失活した被覆73a上に疎水性被覆72を形成することから、被覆73aに残存する官能基と疎水性被覆とが結合している。このため、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)製シースに疎水性被覆を直接覆うよりも固定性を向上させることができる。
(第2の実施形態)
図6は、第2の実施形態のイントロデューサー用シース220を示す断面図である。
図6を参照して、第2の実施形態のイントロデューサー用シース220は、シース本体部60の内表面60aに親水性の潤滑性被覆74を備えている点で、シース本体部60の内表面60aに疎水性被覆71を備えている第1の実施形態のイントロデューサー用シース20と相違している。
第2の実施形態のイントロデューサー用シース220は、第1の実施形態と同様に、シース先端部50の内径φaが先端側に向かって漸次小さく形成されている。シース先端部50の内表面50aに、シースチューブ21の摩擦係数よりも低い摩擦係数を有する疎水性被覆75を備えている。また、イントロデューサー用シース220は、第1の実施形態と同様に、シース本体部60の外表面60bに親水性の潤滑性被覆73を備え、シース先端部50の外表面50bに親水性の潤滑性被覆73の乾燥時における摩擦係数よりも低い摩擦係数を有する疎水性被覆72を備えている。
イントロデューサー用シース220の大きさ、疎水性材料、および親水性材料については第1の実施形態のものと同様である。
イントロデューサー用シース220は次のようにして製造される。
まず、イントロデューサー用シース220の内表面50a、60aおよび外表面50b、60bにプラズマ処理を施し、シースチューブ21の素材表層を活性化させる処理を行う。
次いで、イントロデューサー用シース220の内表面50a、60aおよび外表面50b、60bに親水性の潤滑性被覆73、74を形成する。シースチューブ21の内表面50a、60aおよび外表面50b、60bに親水性材料をディッピングして、親水性の潤滑性被覆73を形成する。親水性材料としては、例えば、ポリグリシジルメタクリレート−ジメチルアクリルアミド(PGMA−DMAA)等を使用する。シースチューブ21の材料としては、例えば、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等を使用する。
次いで、シース先端部50の形状付け加工を行う。この加工では、シース先端部50のテーパー形状に合致した内面形状を有する凹所が形成された金型を使用する。金型は、高周波電源によって加熱されている。シースチューブ21の先端を金型の凹所に押し込む。すると、凹所の内面形状がシースチューブ21の先端に転写され、シース先端部50に、外表面50bが先細りとなるテーパー部51が形成される。先の工程において親水性材料をディッピングしたときに、シース先端部50の内表面50aおよび外表面50bには、親水性の潤滑性被覆が形成されている。ただし、金型を使用してシース先端部50の形状付け加工を行うときに作用する熱によって、シース先端部50の内表面50aおよび外表面50bにおける親水性の潤滑性被覆は消滅したり、被覆自体は残存するものの潤滑性を失活したりしている。なお、第2の実施形態は、前者の、親水性の潤滑性被覆が消滅した状態を示している。
次いで、シース先端部50の内表面50aおよび外表面50bに疎水性被覆75、72を形成する。疎水性被覆75、72は、消滅した親水性の潤滑性被覆の部分に形成される。シース先端部50に疎水性材料をディッピングして、疎水性被覆75、72を形成する。疎水性材料としては、例えば、反応硬化性シリコーン等を使用する。この疎水性材料には、親水性の潤滑性被覆73の乾燥時における摩擦係数よりも低い摩擦係数を有する材料を使用する。上記の例では、ETFEの乾燥時における摩擦係数よりも低い摩擦係数を有する反応硬化性シリコーンを、疎水性材料として使用する。
以上の工程を経て、図6に示されるイントロデューサー用シース220を形成する。
第2の実施形態のイントロデューサー用シース220は、第1の実施形態と同様に、最先端の内径φaがカテーテルなどの長尺体の外径よりも小さく形成されているが、シース先端部50の内表面50aには、シースチューブ21の素材(例えば、ETFE)の摩擦係数よりも低い摩擦係数を有する疎水性被覆75(反応硬化性シリコーンからなる被覆)を備えている。このため、シース先端部50の内表面50aとカテーテルなどの長尺体との摺動抵抗を低下させて、カテーテルなどの摺動性の向上を図ることができる。
また、シース先端部50の内表面50aおよび外表面50bに疎水性被覆75、72を形成する場合には、シース先端部50の形状付け加工を行った後に、疎水性材料をディッピングして形成することができ、疎水性被覆75、72の剥がれ、分解、劣化などが生じない。したがって、上述したように、シース先端部50の内表面50aとカテーテルなどの長尺体との摺動抵抗を低下させて、カテーテルなどの摺動性の向上を図ることができる。
イントロデューサー用シース220はさらに、シース先端部50の外表面50bに親水性の潤滑性被覆73の乾燥時における摩擦係数よりも低い摩擦係数を有する疎水性被覆72を備えている。乾燥下では親水性被覆は滑り性が悪いが、シース先端部50の外表面50bに疎水性被覆72を備えることによって、皮膚から血管内へと挿入するときに、イントロデューサー用シース220の挿入抵抗を小さくすることができる。血管内挿入後にイントロデューサー用シース220を抜き去るときには、親水性被覆が血液によって湿潤して潤滑性を生じているので、滑らかに抜き去ることができる。
このように、第2の実施形態のイントロデューサー用シース220によれば、シース先端部50の内径φaを先端側に向かって漸次小さく形成する場合においてもカテーテルなどの長尺体の摺動性の向上を図ることができ、しかも、使用当初の乾燥下においても挿入抵抗の低減を図ることができる。
第1の実施形態と同様に、シース先端部50とシース本体部60との境界部分においては、親水性の潤滑性被覆73の上に、疎水性被覆72が覆いかぶさっている構造にすることが望ましい。イントロデューサー用シース220を滑らかに挿入することができ、親水性の潤滑性被覆73の剥れをも抑制することができるからである。
(第3の実施形態)
図7は、第3の実施形態のイントロデューサー組立体10におけるイントロデューサー用シース20およびダイレーター30を示す断面図である。
イントロデューサー組立体10は、第1の実施形態のイントロデューサー用シース20に、長尺体としてのダイレーター30を挿通し、シース先端部50からダイレーター30の先端33を突出させてある。このイントロデューサー組立体10にあっては、シース先端部50の内表面50aの少なくとも一部と、ダイレーター30の外表面30bの一部とが疎水性被覆71を介して付着させてある。図において、符号Aの部分でシース先端部50とダイレーター30とが付着している。
シース先端部50とダイレーター30とを付着させることによって、イントロデューサー用シース20を皮膚から血管内へと挿入するときに、シース先端部50のめくれを抑制して、イントロデューサー用シース20を滑らかに挿入することができる。
シース先端部50の内表面50aと、ダイレーター30の外表面30bとを付着させる部位は限定されるものではないが、シース先端部50のめくれを抑制する観点から、できるだけ先端寄りの位置において付着させることが好ましい。
疎水性被覆71は、反応硬化性の被覆材料、例えば反応硬化性シリコーンから形成することができる。この場合において、疎水性被覆71は、イントロデューサー用シース20にダイレーター30を挿通した状態において被覆材料を反応硬化させることによって形成することが望ましい。このようなイントロデューサー組立体10によれば、疎水性被覆71の形成と、この疎水性被覆71を介してのシース先端部50の内表面50aとダイレーター30の外表面30bとの付着とを、同時に行うことができ、製造工程の簡素化を図ることができるからである。
さらに、シース先端部50の内表面50aおよび外表面50bの疎水性被覆71、72を反応硬化性シリコーンから形成することによって、疎水性被覆71、72自体が硬くなり、シース先端部50が硬くなることによっても、シース先端部50のめくれを一層抑制することができる。
イントロデューサー組立体10において、イントロデューサー用シース20とダイレーター30とが付着する力は、イントロデューサー用シース20からダイレーター30を引き抜くときに付着部位に作用する力よりも小さいことが望ましい。
ダイレーター30を引き抜く動作に連動して付着部位を破断可能な形態とすることによって、今までと同じような感覚のままでイントロデューサー組立体10を取り扱うことができ、術者に違和感を与えることがないからである。
イントロデューサー組立体10は、ガス滅菌時の熱によって被覆材料を反応硬化させることによって、イントロデューサー用シース20とダイレーター30とを付着させることができる。
このようなイントロデューサー組立体10によれば、疎水性被覆71の形成と、この疎水性被覆71を介してのイントロデューサー用シース20とダイレーター30との付着とを、包装した状態で、EOG滅菌時に同時に行うことができ、製造工程の簡素化を図ることができるからである。
(第4の実施形態)
図8は、第4の実施形態のイントロデューサー用シース320を示す断面図である。
上述したイントロデューサー用シース20、120、220は、シース先端部50の内径φaを先端側に向かって漸次小さく形成し、シース先端部50の内表面50aに、シースチューブ21の摩擦係数よりも低い摩擦係数を有する疎水性被覆71を形成している。疎水性被覆71を備えることによって内表面50aの摺動抵抗を低下させることができるので、カテーテルなどに対する接触面積が増えても摺動抵抗の低減を図ることが可能となる。
そこで、第4の実施形態のイントロデューサー用シース320にあっては、シース先端部50の内径を、縮径せずに、均一な寸法に形成してある。この点で、第4の実施形態は、第1〜第3の実施形態と相違している。
さらに詳しくは、図8に示すように、第4の実施形態のイントロデューサー用シース320は、カテーテルなどの長尺体を挿通自在な中空部321aを備えるシースチューブ321(管状部材に相当する)から形成されている。イントロデューサー用シース320は、シース先端部50(先端部に相当する)と、シース本体部60(本体部に相当する)とを備えている。シース先端部50は、先細りとなるテーパー部51と、軸線とほぼ平行に伸びるストレート部52とを有している。
イントロデューサー用シース320は、シース先端部50の内径が、縮径されず、内径φaに均一に形成されている。シース本体部60の内径も、内径φaに均一に形成されている。イントロデューサー用シース320はさらに、シース先端部50の内表面50aにシースチューブ321の摩擦係数よりも低い摩擦係数を有する疎水性被覆71を備えている。この第4の実施形態では、シース先端部50の内表面50aおよびシース本体部60の内表面60aの全長にわたって疎水性被覆71を備えている。
シース本体部60の外表面60bに親水性の潤滑性被覆73を備える点、シース先端部50の外表面50bに親水性の潤滑性被覆73の乾燥時における摩擦係数よりも低い摩擦係数を有する疎水性被覆72を備える点、シースチューブ321の構成材料の点、疎水性被覆71、72の構成材料の点、および潤滑性被覆73の構成材料の点については、第1の実施形態において説明したものと同様である。イントロデューサー用シース320の製造手順については、シース先端部50の形状付け加工を行うときにシースチューブ321の内径が縮径されないようにストレート形状の芯金をシースチューブ321に挿通している点を除いて、第1の実施形態において説明したものと同様である。
第4の実施形態のイントロデューサー用シース320によれば、シースチューブ321の内径を均一に形成する場合においてもカテーテルなどの長尺体の摺動性の向上を図ることができる。しかも、イントロデューサー用シース320によれば、使用当初の乾燥下においても挿入抵抗の低減を図ることができる。
以上、本発明のイントロデューサー用シース20、120、220、320、およびイントロデューサー組立体10を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、シース先端部50における内表面50aの摺動抵抗の低減を主として図る場合には、シース先端部50の内径φaを先端側に向かって漸次小さく形成し、シース先端部50の内表面50aのみに、シースチューブ21の摩擦係数よりも低い摩擦係数を有する疎水性被覆71のみを形成すればよい。
また、シース先端部50における外表面50bの刺通抵抗の低減を主として図る場合には、シース本体部60の外表面60bに親水性の潤滑性被覆73を備え、シース先端部50の外表面50bに親水性の潤滑性被覆73の乾燥時における摩擦係数よりも低い摩擦係数を有する疎水性被覆72を形成すればよい。この場合には、シース先端部50における内表面50aの疎水性被覆は必須のものではない。
本出願は、2011年6月15日に出願された日本特許出願番号2011−133601号に基づいており、それらの開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。