JP6172003B2 - 飛行時間型質量分析装置 - Google Patents

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Description

本発明は飛行時間型質量分析装置に関し、さらに詳しくは、サンプルプレート上に付着された多数の試料に対する測定を実行するマトリクス支援レーザ脱離イオン化飛行時間型質量分析装置(以下「MALDI−TOFMS」と称す)に好適な飛行時間型質量分析装置に関する。
MALDI−TOFMSでは、一般に、平板状であるサンプルプレート上に付着されている試料に対してパルス的にレーザ光を照射し、該試料に含まれる化合物由来のイオンを発生させる。そして、発生した各種イオンに一定の加速エネルギを付与して飛行空間に導入し、それらイオンが一定距離である飛行空間を飛行して検出器に到達するまでの飛行時間をそれぞれ計測する。各イオンの飛行時間はそのイオンの質量電荷比m/zと所定の関係を有する。そこで、この関係を利用して、計測された飛行時間を質量電荷比に換算し、例えば質量電荷比とイオン強度との関係を示すマススペクトルを作成する。多くの場合、試料から生成されたイオンを加速する際に、試料へのレーザ光照射時点から所定の遅延時間が経過した時点でパルス的に加速電圧を印加する、遅延引出し法が用いられる(非特許文献1など参照)。
上述した一般的なMALDI−TOFMSでは、サンプルプレート上の試料表面がイオンの飛行開始地点となる。そのため、例えば周囲温度の変化の影響やサンプルプレートの厚さの不均一性など、様々な要因によってサンプルプレート表面の高さが変わると、飛行距離が微妙に変化してそれが質量電荷比の誤差に繋がる。そこで、目的化合物由来のイオンの質量電荷比を正確に求めるために、理論的な(つまりは正確な)質量電荷比が既知である標準物質を1又は複数含む標準試料(キャリブラントと呼ばれる)を測定した結果に基づいて、目的試料を測定した結果を校正する、キャリブレーションと呼ばれる処理が一般に行われる(特許文献1など参照)。
1枚のサンプルプレートの厚さの不均一性や湾曲(そり)などがある場合、1枚のサンプルプレートの面内でも、その位置によって飛行距離は異なる。このため、サンプルプレート上には、測定対象である目的試料をスポッティングするサンプルウェルのほかに、標準試料をスポッティングするキャリブラントウェルが複数設けられ、或る目的試料の測定結果のキャリブレーションは、該目的試料が形成されているサンプルウェルに最も近いキャリブラントウェルに形成されている標準試料を測定した結果を利用して行われる。こうしたキャリブレーションによって、目的試料を測定して得られた試料成分に対する質量電荷比値は真値に近い値に修正される。
ところで、MALDI−TOFMSでは、サンプルプレートに厚さの不均一性や湾曲などがあった場合に、そのプレート面内の位置によって飛行距離が異なるのみならず、試料表面と試料から生成したイオンを引き出して加速するための電極(引出し電極や加速電極)との間の距離が変化する。そのため、それら電極により形成される加速電場の影響もプレート面内の位置によって異なる。したがって、サンプルプレート上のウェルの位置によって、試料表面からイオンを引き出して加速するための制御パラメータの最適値、例えば遅延引出しの際に印加されるパルス電圧などの最適値が相違する。このことは、或るサンプルウェルにおいて最適化した制御パラメータが、同一サンプルプレート上の別のサンプルウェルでは必ずしも最適値とはならないことを意味する。
一例として、1枚のサンプルプレート上の異なるキャリブラントウェル(ウェル番号#17と#8)に付着されたペプチド混合物のマススペクトルの実測結果を図18に示す。実測したペプチド混合物に含まれるペプチドは図17に示した6種類である。いずれのキャリブラントウェルに対しても測定の際の遅延引出しパルス電圧は同一(-1300[V])である。図18(a)で分かるように、キャリブラントウェル#17では、ACTH1-17やACTH18-39などのペプチドの同位体ピークも十分に分離されており、高い質量分解能が達成されている。これは、このときの遅延引出しパルス電圧が最適又はそれに近いためであると推測できる。これに対し、図18(b)に示すように、キャリブラントウェル#8では、質量分解能が低いためにACTH1-17やACTH18-39などのペプチドの同位体ピークの分離は悪化している。これは、遅延引出しパルス電圧が適切でないためであると推測できる。
こうしたことから、高い質量分解能のデータを取得するためには、1枚のサンプルプレート内でもウェル毎に最適な制御パラメータを設定する必要があることが分かる。また、図2に示すように、サンプルプレートホルダ5にサンプルプレート7を挿入してMALDI−TOFMSのステージ上にセットする場合でも、サンプルプレート7の保持状態はサンプルプレート7毎に異なる。そのため、サンプルプレート毎にそれぞれ各ウェルについての最適な制御パラメータを見つけ出す必要がある。制御パラメータの最適値を探索する際には、制御パラメータを徐々に変化させつつ質量分析を繰り返してその結果を比較する必要があるため、多数のウェル毎にそれぞれ制御パラメータの最適値を探索するのは非常に煩雑で面倒である。また、こうした作業は分析のスループットを低下させる一因となる。
特開2005−292093号公報 特開2009−52994号公報
田中耕一、ほか2名、「遅延引き出し法の基礎」、日本質量分析学会誌、2009年、Vol. 57、No.1、pp.31-36
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、1枚のサンプルプレート上或いは複数のサンプルプレート上の多数の試料を測定する際の制御パラメータの設定に関する作業の手間を軽減しながら、試料毎に最適又はそれに近い制御パラメータでの質量分析を行うことで高い質量分解能を実現することができる飛行時間型質量分析装置を提供することにある。
上記課題を解決するために成された本発明は、サンプルプレート上に用意された試料からイオンを生成するイオン源と、該イオン源で生成されたイオンに対して一定のエネルギを付与して加速する加速部と、加速されたイオンを飛行させ、その飛行中にイオンを質量電荷比に応じて分離する飛行時間型質量分離部と、その分離されたイオンを検出する検出部と、を具備する飛行時間型質量分析装置において、
a)所定の測定条件の下でサンプルプレート上に用意された標準試料に対する質量分析を実施して得られた所定成分に対する質量電荷比値と同測定条件の下で当該装置による質量分析が可能である基準位置に用意された標準試料に対する質量分析を実施して得られた所定成分に対する基準質量電荷比値との差と、サンプルプレートからイオンを引き出すとともに加速する電圧又はサンプルプレートから引き出されたイオンを加速する電圧である加速条件の質量分解能に関する最適値と、の対応関係を示す情報を記憶しておく参照情報記憶部と、
b)測定対象である目的試料が付着された目的サンプルプレートについて、該目的サンプルプレート上で目的試料と異なる位置に用意された標準試料に対する質量分析を実施するとともに、そのときの前記基準位置に用意された標準試料に対する質量分析を実施するべく各部を制御する予備測定制御部と、
c)前記予備測定制御部による制御の下で得られた、前記目的サンプルプレート上の標準試料と前記基準位置にある標準試料とに対する所定成分の質量電荷比値の差を求め、前記参照情報記憶部に格納されている情報を参照して、その質量電荷比値差に対応する加速条件の最適値を取得する最適条件決定部と、
d)前記目的サンプルプレート上に用意されている目的試料に対する質量分析の際の加速条件を、前記最適条件決定部により得られた加速条件の最適値に基づいて決める目的試料測定制御部と、
を備えることを特徴としている。
本発明に係る飛行時間型質量分析装置において、試料(目的試料、標準試料)中の成分をイオン化するイオン化法は、サンプルプレート上に用意された試料中の成分をイオン化する手法であれば特に限定されないが、代表的なイオン化法は上述したMALDIである。そのほか、マトリクスを用いないレーザ脱離イオン化法(LDI)、表面支援レーザ脱離イオン化法(SALDI)、二次イオン質量分析法(SIMS)、脱離エレクトロスプレイイオン化法(DESI)、エレクトロスプレイ支援/レーザ脱離イオン化法(ELDI)などでもよい。
飛行時間型質量分析装置による測定で得られるイオンの質量電荷比値はそのイオンの飛行時間を反映しており、飛行速度が同一であれば、飛行時間は飛行距離に依存する。そのため、サンプルプレート上の異なる位置に用意された同種の試料(例えば同種の標準試料)を同じ測定条件の下で測定すれば、同じ試料成分由来のイオンの質量電荷比値の相違からそのサンプルプレート上の各位置の相対的な高低差についての情報を得ることができる。そこで、本発明に係る飛行時間型質量分析装置では、サンプルプレートを保持するサンプルプレートホルダなどのプレート保持部上の所定位置やサンプルプレートホルダが載置されるステージ上に該サンプルプレートホルダとは別に設けられた専用の設置台などの基準位置にも標準試料を付着させ、これを表面高さの基準点とする。プレート保持部は機械的な加工精度が高いうえに反りなども生じにくく、サンプルプレートが異なってもプレート保持部の上面高さは常に一定であるとみなせるため、基準点として利用することができる。そして、基準位置に用意された標準試料中の所定成分の質量電荷比値と、サンプルプレート上の標準試料中の所定成分の質量電荷比値との差を取得し、この質量電荷比値差と、加速条件の最適値と、の対応関係を示す情報を求めて、これを参照情報記憶部に格納しておく。
なお、ここでいう加速条件の最適値又は加速条件の質量分解能に関する最適値とは、質量分解能が最良又はそれに近い状態となる加速条件である。また、加速条件とは、遅延引出しを行う飛行時間型質量分析装置では、例えば遅延引出しの際にイオンを加速するためにパルス的に引出し電極等に印加されるパルス電圧の値である。
この標準試料中の所定成分に対する質量電荷比値差が同じであれば、表面高さの差も同じである筈である。そのため、サンプルプレート上のいずれの位置においても、或いはたとえ異なるサンプルプレートであっても、上記質量電荷比値差が同じであれば、加速条件の最適値は同じでよい。そこで、目的サンプルプレートを保持するプレート保持部が本装置にセットされたならば、予備測定制御部は各部を制御することにより、その目的サンプルプレート上で目的試料と異なる位置に用意された標準試料に対する質量分析を実施するとともに、基準位置に用意された標準試料に対する質量分析を実施する。そして、最適条件決定部は、その目的サンプルプレート上の標準試料と基準位置に用意された標準試料とに対する所定成分の質量電荷比値の差を計算し、参照情報記憶部に格納されている情報を参照して、その質量電荷比値差に対応する加速条件の最適値を取得する。
さらに目的試料測定制御部は、目的サンプルプレート上に用意されている目的試料に対する質量分析の際の前記加速部における加速条件を、上記最適条件決定部により得られた加速条件の最適値に基づいて決定する。これにより、目的サンプルプレート上に用意されている目的試料について、個別に加速条件の最適値を調べることなく、その目的試料の表面高さに応じた加速条件の最適値を自動的に設定して測定を実行することができる。
極端に反ったものなどを除き、一般的なサンプルプレートでは、該プレート面上で標準試料の位置を中心とした一定の二次元範囲内でプレート表面高さの差が実質的にない(つまりは許容可能な範囲である)とみなすことができる。
そこで、本発明に係る飛行時間型質量分析装置では、上記サンプルプレートは、目的試料を付着させるための複数のサンプルウェルと、該サンプルプレート上で一定の二次元範囲内の複数のサンプルウェルを含むように区画された区画毎に、その中心に配置された標準試料を付着させるためのキャリブラントウェルと、を有し、
上記最適条件決定部は、上記目的サンプルプレート上のキャリブラントウェル毎に加速条件の最適値を求め、
上記目的試料測定制御部は、上記目的サンプルプレートの任意のサンプルウェルに用意されている目的試料に対する質量分析を行う際に、上記最適条件決定部により、該サンプルプレート上でそのサンプルウェルが含まれる区画に配置されているキャリブラントウェルに対して得られた加速条件の最適値を、そのサンプルウェル上の目的試料に対する加速条件の最適値として決定する構成とすることができる。
これにより、サンプルプレート上の各サンプルウェルについては加速条件の最適値を探索するための測定を行うことなく、同サンプルプレート上のキャリブラントウェルについて得られた加速条件の最適値を用いて、全サンプルウェルに対する加速条件の最適値を簡便に設定することができる。
また本発明に係る飛行時間型質量分析装置において、好ましくは、上記参照情報記憶部に格納する情報を作成するために、
e)サンプルプレート上の異なる位置に用意された複数の標準試料に対して、それぞれ、上記加速部の加速条件を変化させつつ質量分析を実施し、その質量分析結果に基づいて、標準試料毎に加速条件の最適値を求める最適加速条件探索部と、
f)サンプルプレート上の異なる位置に用意された複数の標準試料に対して、それぞれ、上記加速部の加速条件を一定として質量分析を実施するとともに、同一加速条件の下で上記基準位置に用意された標準試料に対する質量分析を実施し、それら質量分析結果からサンプルプレート上の標準試料毎に基準質量電荷比値との質量電荷比値差を求める質量電荷比値差調査部と、
g)上記最適加速条件探索部により得られた標準試料毎の加速条件の最適値と上記質量電荷比値差調査部により得られた標準試料毎の質量電荷比値差とから、その対応関係を示す情報を求める参照情報作成部と、
を備えるようにするとよい。
この構成によれば、加速条件の最適値と質量電荷比値差との対応関係を示す情報、つまり上記参照情報記憶部に格納される情報を、適宜、そのときの装置状態などを反映した最新の情報に更新することができる。それにより、装置の分解及び再組立てなどによって飛行距離が微妙に変化したような場合でも、最新の参照情報に基づいて、加速のための制御パラメータを適切に定めることができる。
なお、加速条件の最適値と質量電荷比値差との対応関係を示す情報を精度良く求めるには、サンプルプレートの表面高さの変化ができるだけ反映されるような位置に、複数の標準試料が用意されていることが望ましい。即ち、サンプルプレート上で片寄らず、全体に満遍なく分散して複数の標準試料が用意されているようにするとよい。上述した、複数のサンプルウェル毎に区画された、各区画の中心にキャリブラントウェルが配置されているサンプルプレートでは、キャリブラントウェルはサンプルプレート全体に満遍なく分散して配置されているから、それらキャリブラントにそれぞれ標準試料を付着させて、それぞれ質量分析を行うようにすればよい。
本発明に係る飛行時間型質量分析装置によれば、1枚のサンプルプレート上に用意した多数の目的試料、或いは複数のサンプルプレート上にそれぞれ用意した多数の目的試料を測定する際に、サンプルプレートの反りや厚さの不均一性があった場合でも、目的試料毎に最適な又はそれに近い加速条件を簡便に設定することができる。それにより、各目的試料を高い質量分解能で以て測定することができる。また、最適な加速条件を探索するため面倒な測定作業を目的試料毎に行う必要がなくなるので、分析者の手間を軽減することができ、分析を効率化してスループットを向上させることができる。
本発明の一実施例であるMALDI−TOFMSの要部の構成図。 本実施例のMALDI−TOFMSで使用されるサンプルプレートホルダにサンプルプレートを装着した状態の外観斜視図。 サンプルプレートの一部平面図。 サンプルプレートNo.1上のキャリブラントウェルに用意されたペプチド混合物に対するGlufib質量電荷比値差と遅延引出しパルス電圧最適値の実測結果を示す図。 図4に示したGlufib質量電荷比値差の実測結果から算出したサンプルプレートNo.1の表面の湾曲イメージを示す図。 図4に示したGlufib質量電荷比値差と遅延引出しパルス電圧最適値との関係を示す図。 サンプルプレートNo.2上のキャリブラントウェルに用意されたペプチド混合物に対するGlufib質量電荷比値差と遅延引出しパルス電圧最適値の実測結果を示す図。 図7に示したGlufib質量電荷比値差の実測結果から算出したサンプルプレートNo.2の表面の湾曲イメージを示す図。 図7に示したGlufib質量電荷比値差と遅延引出しパルス電圧最適値との関係を示す図。 サンプルプレートNo.3上のキャリブラントウェルに用意されたペプチド混合物に対するGlufib質量電荷比値差と遅延引出しパルス電圧最適値の実測結果を示す図。 図10に示したGlufib質量電荷比値差の実測結果から算出したサンプルプレートNo.3の表面の湾曲イメージを示す図。 図10に示したGlufib質量電荷比値差と遅延引出しパルス電圧最適値との関係を示す図。 サンプルプレートNo.1〜No.3上の全てのキャリブラントウェルに用意されたペプチド混合物に対するGlufib質量電荷比値差と遅延引出しパルス電圧最適値との関係を示す図。 本実施例のMALDI−TOFMSにおいて質量電荷比値差-最適電圧(遅延引出しパルス電圧最適値)情報を取得する際の手順を示すフローチャート。 本実施例のMALDI−TOFMSにおいてキャリブラントウェル毎の最適電圧を探索する際の手順を示すフローチャート。 他の実施例のMALDI−TOFMSにおけるステージ付近の概略構成図。 実測に使用したペプチド混合物に含まれるペプチドとその理論質量を示す図。 1枚のサンプルプレート上の異なるキャリブラントウェルに用意されたペプチド混合物に対する実測により得られたマススペクトルを示す図。
以下、本発明の一実施例であるMALDI−TOFMSについて、添付図面を参照して説明する。図1は本実施例のMALDI−TOFMSの要部の構成図、図2は本実施例のMALDI−TOFMSで使用されるサンプルプレートホルダにサンプルプレートを装着した状態の外観斜視図、図3はサンプルプレートの一部平面図である。
平板状であって金属等の導電体からなるサンプルプレート7は、サンプルプレートホルダ5に装着された状態でステージ4上に載置される。ステージ4は、図示しないモータ等を含むステージ駆動部10により図1中のX−Yの2軸方向に移動可能である。サンプルプレート7の上面には、マトリクスを用いて調製された多数の目的試料9及び標準試料8が付着されている。測定実行時には、この多数の目的試料9(又は標準試料8)のうちの一つに対し、レーザ照射部1から出射して集光レンズ2、反射鏡3を経たパルス状のレーザ光が照射され、それにより、その試料9又は8に含まれる化合物がイオン化される。レーザ光の照射位置は固定されており、ステージ駆動部10によりステージ4をそれぞれ適宜移動させることで、サンプルプレート7上の任意の位置の試料9又は8に対してレーザ光を照射し測定を行うことができる。
ステージ4の上方には、レーザ光が照射されることで試料9又は8から発生したイオンをその発生位置の近傍から上方に引き出すとともに加速する電場を形成する引出し電極11と、引き出されたイオンにさらに加速エネルギを付与するための電場を形成する加速電極12と、が配設されている。加速電圧発生部13は、これら電極11、12と、ステージ4、サンプルプレートホルダ5を介してサンプルプレート7へとそれぞれ所定の電圧を印加する。加速エネルギを付与されて図1中のZ軸方向に飛行を開始したイオンは、フライトチューブ14内に形成された無電場、無磁場の飛行空間15中を飛行して検出器16に到達する。飛行空間15中では質量電荷比が小さいイオンほど大きな飛行速度を有するため、ほぼ同時に飛行を開始した各種のイオンの中で、質量電荷比が小さなイオンから順に検出器16に到達する。
なお、本実施例のTOFMSはイオンを直線的に飛行させるリニアTOFMSであるが、イオンの飛行軌道を反転させるリフレクトロンを備えたリフレクトロンTOFMS、或いは、イオンを周回軌道に沿って繰り返し飛行させるマルチターンTOFMSなどでもよいことは当然である。
検出器16は入射したイオンの量に応じた検出信号を出力し、この検出信号はアナログ-デジタル変換器(ADC)17によりデジタルデータに変換されてデータ処理部20に入力される。データ処理部20は、m/z差-最適電圧対応情報作成部21、m/z差-最適電圧対応情報記憶部22、キャリブラントウェル対応最適電圧決定部23などの特徴的な機能ブロックを含む。操作部40及び表示部50が接続された制御部30は測定動作を制御するとともにユーザインターフェイスを担うものであり、m/z差-最適電圧対応情報取得制御部31、最適電圧決定制御部32、キャリブラントウェル対応最適電圧記憶部33などの特徴的な機能ブロックを含む。
データ処理部20や制御部30の少なくとも一部の機能は、パーソナルコンピュータにインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアがそのコンピュータ上で動作することにより具現化され、その場合、操作部40はキーボードやマウス等のポインティングデバイスであり、表示部50はディスプレイモニタである。
図3に示すように、本実施例で使用されるサンプルプレート7の上面には、試料を滴下する位置を示す目印となる多数のウェルが形成されている。ウェルは窪み(凹部)である場合もあるが、単なる目印の刻印である場合もある。図3に示した例では、格子の交点位置に、測定対象である目的試料(図1中の目的試料9)を付着させるための多数のサンプルウェル7bが配置される。また、隣接する4×4=16個のサンプルウェル7bの中間位置に、キャリブラントが含まれる標準試料(図1中の標準試料8)を付着させるためのキャリブラントウェル7aが配置されている。即ち、図3中に点線で示す、16個のサンプルウェル7b毎に、1個のキャリブラントウェル7aが設けられている(例えば特許文献2など参照)。この点線で囲まれた二次元範囲が本発明における一つの区画に相当する。サンプルプレート7上に形成されているキャリブラントウェル7aにはそれぞれ、1から始まる連続番号であるウェル番号が付されているが、ここでは、この番号を#1、#2、…で示す。
図2に示すように、ステンレス等の導電体からなるサンプルプレートホルダ5は、側方(図2では前方)からサンプルプレート7を挿入するための凹部を有している。サンプルプレートホルダ5は高い寸法精度で以て加工されており、その上面の高さは予め定められた許容誤差内に収まっている。また、サンプルプレートホルダ5の上面には、キャリブラントが含まれる標準試料を付着させる位置を示すためのキャリブラントウェル5aが設けられている。
サンプルプレート7は厚さが不均一性であったり、反りを有していたりすることがよくある。そうした場合、サンプルプレート7が図2に示したようにサンプルプレートホルダ5に装着された状態であっても、そのサンプルプレート7の上面の高さhはX−Y面内の位置によって、つまりはサンプルウェル7bやキャリブラントウェル7aの位置によって相違する。試料9又は8から生成されたイオンの飛行開始点は該試料9又は8の表面付近であるため、上述したようにサンプルプレート7の上面の高さhがウェル7a、7bの位置によって相違すると、試料表面の高さもウェル7a、7bの位置によって異なり、それにより飛行距離が異なることになる。また、試料表面の高さがウェル7a、7bの位置によって異なると、試料表面から引出し電極11や加速電極12までの距離が相違するため、加速電場の影響が異なる。
上述した飛行距離の相違は主として質量精度の低下に繋がるが、質量電荷比値自体は標準試料に対する測定結果を利用したキャリブレーション(質量校正)により補正可能である。一方、加速電場の影響の相違は質量精度を低下させるのみならず質量分解能や感度の低下にも繋がるが、質量分解能の低下等は上記キャリブレーションでは補正されない。そのため、高い質量分解能を達成するには、各サンプルウェル7bに設けられた目的試料9毎に、加速電場が最適になるように制御パラメータ(この場合には、引出し電極11に印加される遅延引出しパルス電圧)を調整する必要がある。本実施例のMALDI−TOFMSでは、この制御パラメータの設定を簡便に行うことができる。
次に、本実施例のMALDI−TOFMSにおける制御パラメータの設定方法の原理を、実測結果を参照しつつ説明する。
上述したように、サンプルプレート7の表面高さが異なると最適な制御パラメータが異なるということは、逆に、サンプルプレート7の表面高さが同じであれば同じ制御パラメータを適用することができることを意味している。当然のことながら、TOFMSでの測定により得られるイオンの質量電荷比値はそのイオンの飛行時間を反映している。したがって、サンプルプレート7の各ウェル7a、7bに設けられた同種の試料を同一の測定条件(制御パラメータ)の下で測定すれば、該試料由来のイオンの質量電荷比値の相違から各ウェル7a、7bの相対的な高低差の情報を得ることができる。また、常に一定の高さである基準点が定まれば、1枚のサンプルプレート内だけでなく、異なるサンプルプレート間のウェルの相対的な高低差の情報も得られる。上述したようにサンプルプレートホルダ5の上面の高さの精度は高く、使用するサンプルプレートが入れ替えられてもサンプルプレートホルダ5の上面高さは常に一定である。そこで、ここでは、サンプルプレートホルダ5のキャリブラントウェル5a上に付着される標準試料6を表面高さの基準点として用いた。
本願発明者は、基準点として定めたサンプルプレートホルダ5上の標準試料6中の所定成分に対する質量電荷比とサンプルプレート7の各キャリブラントウェル7a上の標準試料8中の所定成分に対する質量電荷比との質量電荷比値差と、引出し電極11に印加される遅延引出しパルス電圧の最適値と、の関係を実測により調べた。
この実測の条件は以下の通りである。
(1)質量分析装置:MALDIデジタルイオントラップ飛行時間型質量分析計(島津製作所製)、リニアモード(ポジティブイオンモード)による測定。
(2)サンプルプレート:ステンレス製384ウェルプレート(2mm厚)。
(3)サンプル:ペプチド混合物(図17に示す6種のペプチドを含有)。
(4)マトリクス:α-Cyano-4-hydroxycinnamic acid(CHCA)。
(5)サンプル調製方法:ペプチド混合物とCHCAマトリクスとの混合溶液をサンプルプレート7上のキャリブラントウェル7a及びサンプルプレートホルダ5上のキャリブラントウェル5aにそれぞれ滴下して乾固することで調製。
サンプルプレートホルダ5上に形成した上記サンプル、及びサンプルプレート7の24個のキャリブラントウェル7aにそれぞれ形成した上記サンプルに対して測定を行い、その測定結果から、含有ペプチドの一つであるGlufibの質量電荷比値を求めた。そして、サンプルプレートホルダ5上のサンプルに対して得られたGlufib質量電比値を基準として、その基準値とサンプルプレート7の各キャリブラントウェル7a上のサンプルに対して得られたGlufib質量電荷比値との質量電荷比値差を計算した。また、これとは別に、各キャリブラントウェル5a、7a上のサンプルに対し、制御パラメータの一つである遅延引出しパルス電圧の最適値を調べた。今回の評価では、遅延引出しパルス電圧のみを変化させ(つまり、それ以外の測定条件は一定として)、ペプチド混合物に含まれる各ペプチドイオンにおける同位体ピークが最も適切に分離できる電圧を、遅延引出しパルス電圧の最適値とした。例えば、図18(a)に示した例では、同位体ピークが十分に分離されているので、このときの遅延引出しパルス電圧は最適値であるといえる。
図4は、サンプルプレートNo.1上のキャリブラントウェル7aに用意されたペプチド混合物に対するGlufib質量電荷比値差と遅延引出しパルス電圧最適値の実測結果を示す図である。また、図5は、図4に示したGlufib質量電荷比値差の実測結果から算出したサンプルプレートNo.1の表面の湾曲イメージを示す図である。図6は、図4に示したGlufib質量電荷比値差と遅延引出しパルス電圧最適値との関係を示す図である。図6から、質量電荷比値差と遅延引出しパルス電圧最適値とは高い相関を有している(決定係数R2=0.983)ことが分かる。
別の2枚のサンプルプレート(No.2及びNo.3)についても同様のデータを取得した。その結果を、図7〜図12に示す。図7はサンプルプレートNo.2上のキャリブラントウェル7aに用意されたペプチド混合物に対するGlufib質量電荷比値差と遅延引出しパルス電圧最適値の実測結果を示す図、図8は図7に示したGlufib質量電荷比値差の実測結果から算出したサンプルプレートNo.2の表面の湾曲イメージを示す図、図9は図7に示したGlufib質量電荷比値差と遅延引出しパルス電圧最適値との関係を示す図である。図10はサンプルプレートNo.3上のキャリブラントウェル7aに用意されたペプチド混合物に対するGlufib質量電荷比値差と遅延引出しパルス電圧最適値の実測結果を示す図、図11は図10に示したGlufib質量電荷比値差の実測結果から算出したサンプルプレートNo.3の表面の湾曲イメージを示す図、図12は図10に示したGlufib質量電荷比値差と遅延引出しパルス電圧最適値との関係を示す図である。これら2枚のサンプルプレートにおいても、サンプルプレートホルダ5上のサンプルを基準とした質量電荷比値差と遅延引出しパルス電圧最適値との間に高い相関があることが確認できる。
さらにまた、サンプルプレートNo.1、No.2及びNo.3について求めた、質量電荷比値差と遅延引出しパルス電圧最適値と関係を示すデータを一括してプロットしたのが図13である。図5、図8、図11に示したように各サンプルプレートの表面の湾曲状態は相違するものの、質量電荷比値差と遅延引出しパルス電圧最適値との相関はサンプルプレート間でも高い(決定係数R2=0.9702)ことが、図13から分かる。これは、例えば或る1枚のサンプルプレートにおいて取得した標準試料における質量電荷比値差と遅延引出しパルス電圧最適値との相関関係を、湾曲状態が異なる他のサンプルプレートにも適用可能であることを意味している。
上記実測結果から、或る1枚のサンプルプレートを用いて、サンプルプレートホルダ上とサンプルプレートのウェル上の同一試料に対する質量電荷比値差と遅延引出しパルス電圧最適値との相関情報を取得しておきさえすれば、その相関情報を利用して、任意のサンプルプレートの任意のウェル上の同一試料に対する質量電荷比値から、そのウェルの高さを反映した遅延引出しパルス電圧最適値を推定可能であることが分かる。本発明に係るTOFMSは、こうした原理を利用して、サンプルプレート毎、及びウェル毎に遅延引出しパルス電圧最適値を探索するための測定を行うことなく、各ウェルの高さに対応した遅延引出しパルス電圧の最適値を自動的に設定して質量分析を実行できるようにしている。それにより、遅延引出しパルス電圧最適値を探索するための測定に伴う煩雑な作業を省くことができる。
本実施例のMALDI−TOFMSは、上記のような原理に基づく遅延引出しパルス電圧最適値の設定を行うための機能を有する。以下、具体的に説明する。
任意のサンプルプレート上のウェルに対する遅延引出しパルス電圧最適値を決定するためには、予め、図6、図9、図12、図13等に示されている、特定の試料成分についての質量電荷比値差と遅延引出パルス電圧最適値との相関関係を調べ、あとで利用可能な形式でこの相関関係を示す情報を記憶しておく必要がある。図14はそのための作業の手順を示すフローチャートである。
まず、分析者は、各キャリブラントウェル7a上に標準試料8を用意したサンプルプレート7をサンプルプレートホルダ5に装着し、これをステージ4上にセットして所定の操作を操作部40で行う。この操作に応じて制御部30のm/z差-最適電圧対応情報取得制御部31は、キャリブラントウェル7a毎に遅延引出パルス電圧最適値(以下、適宜、単に最適電圧という)を探索するための測定を実行するように各部を制御する(ステップS1)。
具体的には、任意のキャリブラントウェル7a上の標準試料8が測定位置に来るようにステージ駆動部10を制御するとともに、引出し電極11等にパルス的に印加する加速電圧の値を所定範囲で所定ステップ幅で変化させるように加速電圧発生部13を制御しつつ、測定を繰り返す。データ処理部20においてm/z差-最適電圧対応情報作成部21は、一つの標準試料8に対する各測定により得られたデータに基づきそれぞれマススペクトルを作成し、所定成分に対応するピークの分解能を計算し、その分解能が最良となる電圧値を最適電圧として求める。このような測定と処理とを各キャリブラントウェル7a上の標準試料8に対してそれぞれ実施することにより、各キャリブラントウェル7aに対応する最適電圧をそれぞれ求める。また、サンプルプレート7上の標準試料8だけでなく、サンプルプレートホルダ5のキャリブラントウェル5a上に用意された標準試料6に対しても同様の測定及び処理を実行し、最適電圧を求める。
次に、引出し電極11等にパルス的に印加する加速電圧をサンプルプレートホルダ5上の標準試料6に対して得られた最適電圧に固定し、その条件の下でサンプルプレート7の各キャリブラントウェル7a上の標準試料8に対する測定、及びサンプルプレートホルダ5上の標準試料6に対する測定を行い、所定成分に対する質量電荷比値をそれぞれ求める。ただし、遅延引出しパルス電圧を含めて同じ測定条件の下で測定を行った結果を上記ステップS1において記憶しておけば、新たな測定の全部又は一部を省略することができる。そして、サンプルプレートホルダ5上の標準試料6に対する測定で得られた所定成分の質量電荷比値を基準とし、各キャリブラントウェル7a上の標準試料8に対する測定で得られた所定成分の質量電荷比値との差(質量電荷比値差)を計算する(ステップS2)。
そして、m/z差-最適電圧対応情報作成部21は、サンプルプレート7のキャリブラントウェル7a毎に、ステップS1で得られた最適電圧とステップS2で得られた質量電荷比値差とを対応付け、質量電荷比値差と最適電圧との対応関係を示す情報、例えば上述した相関の決定係数R2を求める。そして、その情報をm/z差-最適電圧対応情報記憶部22に格納する(ステップS3)。
なお、m/z差-最適電圧対応情報を算出するには、必ずしも1枚のサンプルプレート7上の全てのキャリブラントウェル7a上に設けられた標準試料8に対する測定結果が必要というわけではない。これは、図6等の結果から明らかであり、1枚のサンプルプレート7上に形成されている多数のキャリブラントウェル7aのうちの一部を間引いて測定しても構わない。また逆に、1枚のサンプルプレートだけではなく複数のサンプルプレートのキャリブラントウェル上の標準試料に対する測定結果を用いることで、上述したようなm/z差-最適電圧対応情報を求めるようにしてもよい。一般に、キャリブラントウェルの数が多いほど、つまりは相関関係の情報取得に利用する元のデータが多いほど、m/z差-最適電圧対応情報の正確性は一層高まる。
続いて、測定対象であるサンプルプレート7のサンプルウェル7b上に付着された目的試料9に対する測定を行う際の特徴的な動作を、図15に示すフローチャートに従って説明する。なお、このとき、サンプルプレート7のキャリブラントウェル7aには、標準試料を付着させておく。
分析者は、測定対象であるサンプルプレート7をサンプルプレートホルダ5に装着し、ステージ4上の所定位置にセットし、所定の操作を操作部40で行う。この操作を受けて、制御部30の最適電圧決定制御部32は、サンプルプレート7の全てのキャリブラントウェル7a上の標準試料8に対する最適電圧を探索する測定を実施するように各部を制御する。
具体的にはまず、最適電圧決定制御部32はステージ駆動部10を制御し、サンプルプレートホルダ5のキャリブラントウェル5a上に形成された標準試料6が測定位置に来るようにステージ4を移動させる。そして、レーザ照射部1を駆動し、標準試料6に対してレーザ光を照射して測定を実施する(ステップS11)。なお、このとき、引出し電極11等に印加する遅延引出しパルス電圧は、サンプルプレートホルダ5のキャリブラントウェル5aに対して求められた最適電圧に設定される。データ処理部20のキャリブラントウェル対応最適電圧決定部23は、このときの測定により得られたマススペクトルに基づき、標準試料中の所定成分の質量電荷比値を取得する。いま、この質量電荷比値をMstとする(ステップS12)。
次に、最適電圧決定制御部32は、1枚のサンプルプレート7上の多数のキャリブラントウェル7aを順番に一つずつ指定するための変数nを1にセットする(ステップS13)。そして、ウェル番号が#n(つまり初めてステップS14を実行する際には#1)であるキャリブラントウェル7aが測定位置に来るようにステージ駆動部10を通してステージ4を移動させる。そのあと、レーザ照射部1を駆動してレーザ光をキャリブラントウェル7a上の標準試料8に照射し、それにより生成されたイオンを測定する(ステップS14)。このとき、引出し電極11等に印加する遅延引出しパルス電圧は、上記ステップS11における測定時と同一である。
データ処理部20においてキャリブラントウェル対応最適電圧決定部23は、このときの測定により得られたマススペクトルに基づき、標準試料中の所定成分の質量電荷比値を取得する。いま、この質量電荷比値をMpとする(ステップS15)。そして、質量電荷比値Mpと基準である質量電荷比値Mstとの質量電荷比値差ΔMを計算し(ステップS16)、m/z差-最適電圧対応情報記憶部22に格納されている情報を参照して、ウェル番号が#nであるキャリブラントウェル7aにおける質量電荷比値差ΔMに対応する最適電圧を決定する(ステップS17)。
一つの標準試料8に対する測定結果に基づいて最適電圧が決定されたならば、最適電圧決定制御部32は、変数nがそのサンプルプレート7のキャリブラントウェル7aの総数であるか否かを判定する(ステップS18)。そして、変数nがキャリブラントウェル総数に達していなければ、変数nの値をインクリメントして(ステップS19)ステップS14へと戻る。そのあと、ステップS14では、最適電圧決定制御部32が、次のウェル番号を持つキャリブラントウェル7aが測定位置に来るようにステージ駆動部10を通してステージ4を移動させ、そのキャリブラントウェル7a上の標準試料8に対する測定を実行する。そして、上述したようにステップS15、S16、S17と進み、m/z差-最適電圧対応情報記憶部22に格納されている情報を参照して、その標準試料8に対する測定結果に基づき最適電圧を決定する。
上記ステップS14〜S19の測定及び処理をサンプルプレート7上のキャリブラントウェル7aの総数だけ繰り返すことにより、測定対象であるサンプルプレート7の全てのキャリブラントウェル7a上に形成された標準試料8に対する最適電圧を決定する。そして、ステップS18においてYesと判定されたならば、全てのキャリブラントウェル7a上の標準試料8に対して求められた最適電圧を、ウェル番号に対応付けて、制御部30のキャリブラントウェル対応最適電圧記憶部33に格納する(ステップS20)。
以上の処理が終了すると、次いで最適電圧決定制御部32は、測定対象であるサンプルプレート7の各サンプルウェル7bについて、そのサンプルウェル7bに対応付けられている(基本的にはサンプルプレート面上で最も直近に位置する)キャリブラントウェル7aの最適電圧をキャリブラントウェル対応最適電圧記憶部33から取得する。これは、サンプルプレートが極端に湾曲していない限り、各サンプルウェル7b上の試料の表面高さとそのサンプルウェル7bに最も近い位置にあるキャリブラントウェル7a上の試料の表面高さとは同一であるとみなせる程度に高さの差が小さいからである。
この例では、上述したように、また図3に示したように、隣接する4×4=16個のサンプルウェル7bの中央に1個のキャリブラントウェル7aが配置されている。そこで、例えば図3において、X方向アドレスがA〜D、Y方向アドレスが1〜4である16個のサンプルウェル7bについては、ウェル番号が#1であるキャリブラントウェル7aの最適電圧をキャリブラントウェル対応最適電圧記憶部33から取得する。そして、サンプルウェル7b毎に、こうして得られた最適電圧がそのサンプルウェル7b上の目的試料9を測定する際の遅延引出しパルス電圧として制御パラメータの一つに自動的に設定され、各サンプルウェル7b上の目的試料9に対する測定が実施される。
このようにして、測定対象であるサンプルプレート7のサンプルウェル7b上の目的試料9については、何ら最適電圧を探索するための測定が実行されることなく、その試料表面の高さに応じた最適電圧が自動的に設定される。
また、測定対象であるサンプルプレートが入れ替えられたときには、サンプルプレートホルダ5に新しく装着されたサンプルプレート7のキャリブラントウェル7a上の標準試料8に対する測定だけが実施され、その測定によって求まった各標準試料8における質量電荷比値差から最適電圧が導出される。そして、その新しいサンプルプレート7のサンプルウェル7b上の目的試料9については、新たに導出されたキャリブラントウェル7a毎の最適電圧に基づいて最適電圧が決められる。
したがって、多数の目的試料についてそれぞれ最適電圧を探索する必要はなくなり、分析者による測定の手間は軽減される。また、そうした事前の制御パラメータ設定のための測定の回数が大幅に減るために、分析のスループットが向上する。
なお、上記実施例は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜に変更、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
例えば上記実施例では、サンプルプレートホルダ5のキャリブラントウェル5a上に付着される標準試料6を表面高さの基準点として用いていたが、別の位置に用意された標準試料を基準点とすることもできる。図16は本発明の他の実施例のMALDI−TOFMSにおけるステージ付近の概略構成図である。この例では、ステージ4上に基準点設定専用の試料設置台60を設け、その試料設置台60上に標準試料6を用意している。当然のことながら、ステージ4をX−Yの2軸方向に適宜に移動させることで試料設置台60上の標準試料6に対する質量分析を実施することが可能であるから、試料設置台60上の標準試料6を表面高さの基準点として用いることができる。
また、上記実施例では、試料から生成されたイオンを該試料表面から引き出して加速するための遅延引出しパルス電圧を試料毎に最適化するようにしていたが、遅延引出し法によるイオン加速を行うTOFMSに限定されるものではない。また、非特許文献1に記載されているように、一般的な遅延引出し法では、引出し電極に印加されている直流電圧をパルス的に下げることによりイオンを加速するが、サンプルプレートへの印加電圧や加速電極への印加電圧を変化させることでイオンを加速する場合でも、上記説明と同様の方法でそれら電圧の最適値を決めることができる。
また、本発明はMALDI−TOFMSに限るものではなく、サンプルプレートを利用したイオン化法で生成したイオンを質量分析するTOFMS全般に適用可能である。具体的には、LDI、SALDI、SIMS、DESI、ELDIなどのイオン化法を用いたTOFMSにも適用可能であることは明らかである。
1…レーザ照射部
2…集光レンズ
3…反射鏡
4…ステージ
5…サンプルプレートホルダ
5a、7a…キャリブラントウェル
6、8…標準試料
7…サンプルプレート
7b…サンプルウェル
9…目的試料
10…ステージ駆動部
11…引出し電極
12…加速電極
13…加速電圧発生部
14…フライトチューブ
15…飛行空間
16…検出器
17…アナログ-デジタル変換器(ADC)
20…データ処理部
21…m/z差-最適電圧対応情報作成部
22…m/z差-最適電圧対応情報記憶部
23…キャリブラントウェル対応最適電圧決定部
30…制御部
31…m/z差-最適電圧対応情報取得制御部
32…最適電圧決定制御部
33…キャリブラント対応最適電圧記憶部
40…操作部
50…表示部
60…試料設置台

Claims (3)

  1. プレート保持部により保持されるサンプルプレート上に用意された試料からイオンを生成するイオン源と、該イオン源で生成されたイオンに対して一定のエネルギを付与して加速する加速部と、加速されたイオンを飛行させ、その飛行中にイオンを質量電荷比に応じて分離する飛行時間型質量分離部と、その分離されたイオンを検出する検出部と、を具備する飛行時間型質量分析装置において、
    a)所定の測定条件の下でサンプルプレート上に用意された標準試料に対する質量分析を実施して得られた所定成分に対する質量電荷比値と同測定条件の下で当該装置による質量分析が可能である基準位置に用意された標準試料に対する質量分析を実施して得られた所定成分に対する基準質量電荷比値との差と、サンプルプレートからイオンを引き出すとともに加速する電圧又はサンプルプレートから引き出されたイオンを加速する電圧である加速条件の質量分解能に関する最適値と、の対応関係を示す情報を記憶しておく参照情報記憶部と、
    b)測定対象である目的試料が付着された目的サンプルプレートについて、該目的サンプルプレート上で目的試料と異なる位置に用意された標準試料に対する質量分析を実施するとともに、そのときの前記基準位置に用意された標準試料に対する質量分析を実施するべく各部を制御する予備測定制御部と、
    c)前記予備測定制御部による制御の下で得られた、前記目的サンプルプレート上の標準試料と前記基準位置にある標準試料とに対する所定成分の質量電荷比値の差を求め、前記参照情報記憶部に格納されている情報を参照して、その質量電荷比値差に対応する加速条件の最適値を取得する最適条件決定部と、
    d)前記目的サンプルプレート上に用意されている目的試料に対する質量分析の際の加速条件を、前記最適条件決定部により得られた加速条件の最適値に基づいて決める目的試料測定制御部と、
    を備えることを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
  2. 請求項1に記載の飛行時間型質量分析装置であって、
    前記サンプルプレートは、目的試料を付着させるための複数のサンプルウェルと、該サンプルプレート上で一定の二次元範囲内の複数のサンプルウェルを含むように区画された区画毎に、その中心に配置された標準試料を付着させるためのキャリブラントウェルと、を有し、
    前記最適条件決定部は、前記目的サンプルプレート上のキャリブラントウェル毎に加速条件の最適値を求め、
    前記目的試料測定制御部は、前記目的サンプルプレートの任意のサンプルウェルに用意されている目的試料に対する質量分析を行う際に、前記最適条件決定部により、該サンプルプレート上でそのサンプルウェルが含まれる区画に配置されているキャリブラントウェルに対して得られた加速条件の最適値を、そのサンプルウェル上の目的試料に対する加速条件の最適値として決定することを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
  3. 請求項1又は2に記載の飛行時間型質量分析装置であって、
    前記参照情報記憶部に格納する情報を作成するために、
    e)サンプルプレート上の異なる位置に用意された複数の標準試料に対して、それぞれ、前記加速部の加速条件を変化させつつ質量分析を実施し、その質量分析結果に基づいて、標準試料毎に加速条件の最適値を求める最適加速条件探索部と、
    f)サンプルプレート上の異なる位置に用意された複数の標準試料に対して、それぞれ、前記加速部の加速条件を一定として質量分析を実施するとともに、同一加速条件の下で前記基準位置に用意された標準試料に対する質量分析を実施し、それら質量分析結果からサンプルプレート上の標準試料毎に基準質量電荷比値との質量電荷比値差を求める質量電荷比値差調査部と、
    g)前記最適加速条件探索部により得られた標準試料毎の加速条件の最適値と前記質量電荷比値差調査部により得られた標準試料毎の質量電荷比値差とから、その対応関係を示す情報を求める参照情報作成部と、
    を備えることを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
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