JP6149646B2 - 水銀汚染土壌からの水銀溶出低減方法およびそれに用いる水銀溶出低減材の製造方法 - Google Patents
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Description
特に、ドロマイトは、栃木県葛生地方など日本国内でも大量に産出する鉱物であるため、比較的安価に入手することができ、該ドロマイトを低温で焼成した軽焼ドロマイトは、溶出低減材としても注目され、例えば特開2006−289306号公報(特許文献1)には、フッ素および(または)重金属を含有する廃棄物からのフッ素および重金属の溶出を抑制する方法であって、固化剤としての水硬性物質と、安定化剤としての焼成ドロマイトの粉末とからなる安定化処理剤を添加し、水を加えて混練することにより反応させ、凝結固化させることからなる溶出抑制方法が開示されている。
上記特許文献2及び特許文献3に記載の溶出低減材は、汚染土壌中から重金属が溶出することを抑制するものではあるが、水銀を必ず第二溶出量基準以下にまで溶出量を低減させるための溶出低減材であることは記載されていない。
したがって、水銀に汚染された土壌から第二溶出量基準以下にまで水銀の溶出量を低減させることができる、溶出低減材が期待されている。
本発明の請求項4記載の水銀溶出低減方法は、請求項1〜3いずれかの項記載の溶出低減材において、前記水溶性硫酸塩が硫酸第一鉄であることを特徴とする。
また、「CaOを実質的に含まない」とは、前記軽焼生成物の、X線回析法(XRD)による同定結果およびX線光電子分光法(XPS)によって検出されるO1sに対応するスペクトルにおいて、CaOのピークを示さないことをいう。
また、前記鉱物中のCaCO3が脱炭酸されたCaOを実質的に含まない軽焼生成物を用いることによって、より水銀の溶出抑制作用を発揮させることができる。
本発明の水銀溶出低減材は、炭酸マグネシウム(MgCO3)と炭酸カルシウム(CaCO3)とを主成分として含む鉱物が軽焼されてなり、軽焼により当該鉱物中のMgCO3が脱炭酸されることで生成されるMgCxOy(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO3と、CaCO3とを含む軽焼生成物及び水溶性硫酸塩を、質量比で8:2〜9:1で含む、水銀溶出低減材である。
かかる鉱物の具体例としては、ドロマイト等を挙げることができる。
なお、天然に産出するドロマイトは、一般に、CaO/MgOで表わされる複塩のモル比が0.70〜1.63の範囲であり、CaCO3をCaO換算で概ね9〜40質量%、MgCO3をMgO換算で概ね10〜38質量%含有するものである。
かかる軽焼の際の温度条件としては、640〜990℃の範囲とし、好ましくは690〜890℃とし、さらに好ましくは760〜850℃とする。
また、軽焼時間は温度条件によっても変動するが、通常、10〜60分である。
焼成雰囲気等の上記以外の他の焼成条件や、焼成に用いる焼成装置については、従来公知の焼成条件および焼成装置を採用することができる。
すなわち、前記軽焼を行なうことにより、前記鉱物中の炭酸マグネシウム(MgCO3)の一部をそのまま残存させると同時に、炭酸マグネシウムの一部を脱炭酸してMgCxOyとし、さらに前記鉱物中の炭酸カルシウム(CaCO3)は実質的には脱炭酸させないことによって、前記MgCxOyと、炭酸マグネシウム(MgCO3)と、炭酸カルシウム(CaCO3)とを含む軽焼生成物を得ることができる。
上記鉱物を、高温長時間焼成して完全な焼成物とした場合、前記鉱物中に含まれる炭酸マグネシウム(MgCO3)がすべて脱炭酸されると同時に、炭酸カルシウム(CaCO3)も脱炭酸されてしまい、前記のような3つの成分を実質的に含む軽焼生成物を得ることができない。
前記鉱物中の炭酸マグネシウム(MgCO3)の一部はそのまま残存させると同時に、炭酸マグネシウムの一部を脱炭酸してMgCxOyとし、さらに前記鉱物中の炭酸カルシウム(CaCO3)は実質的には脱炭酸させない状態で軽焼を停止することによって、残存するMgCO3および生成されるMgCxOyは非晶質化するものと考えられる。
これにより、該軽焼物を溶出低減材に用いた場合に、水銀溶出低減効果を向上させることができる。
すなわち、前記軽焼生成物を、XPSによる成分分析を行うと、MgCO3およびMgCxOyのピークが検出されるが、同時にXRDによる同定を行うと、MgCO3およびMgCxOyは検出されない。これは、XRDでは結晶質のものしか検出できないため、前記軽焼生成物中に含まれるMgCO3およびMgCxOyは非晶質化しているものと推定される。
すなわち、前記のようなピークを示す前記軽焼生成物であれば、優れた溶出抑制作用を発揮させうる状態で前記MgCxOy、MgCO3、CaCO3の各成分が含有されている軽焼生成物である。
前記鉱物を軽焼した場合には、前記鉱物中のMgCO3の一部が脱炭酸するが、CaCO3を実質的には脱炭酸する温度での焼成ではないため、前記軽焼生成物中には、実質的にCaOは含まれていない。
前記軽焼による質量減少率をこのような数値範囲内とすることにより、炭酸マグネシウム等からの脱炭酸反応を適切に生じさせ、前記前記鉱物中の炭酸マグネシウムの一部を残存させると同時に、炭酸マグネシウムの一部を脱炭酸してMgCxOyとし、かかる脱炭酸によって生じる前記MgCxOyと、炭酸マグネシウム(MgCO3)と、炭酸カルシウム(CaCO3)とを含む軽焼生成物を適切に生成させることができるものと考えられる。
前記水溶性硫酸塩としては、例えば、硫酸第一鉄、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムナトリウム等を挙げることができ、中でも、硫酸第一鉄を用いることが好ましい。
このような配合割合とすることで、水銀の溶出を抑制することが可能となり、特に、長期間にわたって、安定して水銀溶出低減効果が継続して得られ、第二溶出基準以下とすることが可能となる。
栃木県葛生地方産出のドロマイト(住友大阪セメント株式会社唐沢鉱業所産)を、800℃の電気炉で0分(加熱処理しない:比較例1)、10分間加熱したもの(以下、比較例2)、30分間加熱したもの(以下、実施例1)及び120分間加熱したもの(比較例3)を準備した。
なお、市販のMgO(泉工業株式会社製、商品名:酸化マグネシウム(純度19.99%):比較例4)も準備した。
上記実施例1、比較例1、比較例3及び比較例4の各材料を、X線光電子分光装置:Sigma Probe(VGサイエンティフィック社製)を用いて分析した。
測定条件は以下の通りである。
《測定条件》
X線源: AlKa線(1486.6eV)
検出角度:約45°
ビーム径:100W/400μm
パスエネルギー(ワイドスキャン):100eV、Ar(30),C(20),O(30),Mg(10),Ca(10)、(カッコ内は積算回数)
パスエネルギー(元素ナロースキャン):20eV
測定元素:Ar,C,O,Mg,Ca
Ar+イオンスパッタ速度:約2nm/min(Ta2O5膜に換算)
測定は各試料とも300秒、Arイオンでスパッタによるエッチング処理後に測定した。
図1および表1に示すように、実施例1の軽焼生成物からは、MgCO3およびCaCO3のピークの間の領域に2種類のMgCxOyのピークが現れている。
すなわち、実施例1の軽焼生成物は、ドロマイト中のMgCO3の一部が脱炭酸されたMgCxOyを含み、且つ、MgCO3およびCaCO3も含むことを示している。
一方、CaOの位置にはピークが見られないことから、実施例1の軽焼生成物では、ドロマイト中の成分であるCaCO3が脱炭酸されたCaOを含んでいないことを示している。
図3に示す比較例3は、MgCxOyのピークを示しており、MgCO3のピークは示していない。
これは、ドロマイト中のMgCO3のほとんどが脱炭酸されてMgCxOyとなったためと考えられる。さらに、「ドロマイト(120分)」はCaOのピークも示しており、これはCaCO3の一部が脱炭酸されていると考えられる。
図4に示す比較例4はMgOのピークを示している。
実施例1及び比較例3では、この比較例4で示されるピークの位置にはピークが表れていない。すなわち、実施例1及び比較例3では、軽焼または焼成によって生成されるMgCxOyはMgOとは異なる化合物であることがわかる。
測定条件は以下の通りである。
《測定条件》
手法:粉末X線回折、スピンなし
管球:Cu
出力設定:45kV,40mA
2θ:5〜90 °
ステップサイズ:0.05°2Th.
スキャンステップ時間:0.5s
スキャン種類:連続
前記XRD回析の結果、比較例1(加熱処理していないドロマイト)及び比較例2からはCaMg(CO3)2が、実施例1(軽焼生成物)からはCaCO3及びCaMg(CO3)2が、比較例3(120分焼成ドロマイト)からはCaCO3およびCaOが、比較例4(市販酸化マグネシウム)からはMgOのみが同定された。
実施例1のXPSスペクトルにおいてはMgCO3およびMgCxOyのピークを示しているにもかかわらず、XRD同定ではこれらのマグネシウム化合物は検出されなかったことから、実施例1に含まれるMgCO3およびMgCxOyはXRDで検出されない非晶質化したものであると推定される。
焼成(加熱)前のドロマイト(比較例1)に対する実施例1、比較例2及び比較例3のものの質量減少率を下記表2に示す。
また、焼成時間が長い比較例3では、質量減少が大きく、これはドロマイト中のMgCO3のほとんどが脱炭酸されてMgCxOyとなったことを表す。
前記実施例1、比較例2(10分焼成ドロマイト)及び比較例3(120分焼成ドロマイト)の各材料と硫酸第一鉄一水塩(堺化学工業社製)とを質量比9:1で混合した実施例2及び比較例4乃至5の溶出低減材を調製した。
各実施例2、比較例4乃至5の溶出低減材を、それぞれ水銀を0.5mg/lで含む標準溶液100mlに1gの割合で添加し、4時間撹拌混合した後、ろ過した。ろ過後のろ液中の水銀濃度を、還元気化原子吸光法 開放送気方式 水銀分析装置(平沼産業社製、装置名「HG−150」を用いて測定した。
得られた水銀濃度測定値の結果より、下記の算出式(1)を用いて水銀吸着除去率を求めた。
吸着除去率[%]=(初期濃度−ろ液中濃度)÷ 初期濃度 × 100・・・(1)
その結果を下記表3に示す。
次に上記実施例1(軽焼生成物)と前記硫酸第一鉄一水和物の混合比を10:0〜6:4の間で変化させた実施例2乃至3、比較例6乃至8について、前記と同様の水銀溶出低減試験を行い、水銀の溶出低減効果を評価した。その結果を表4及び図6に示す。
以下の手順にて模擬水銀汚染土を調製するとともに、前記実施例2の溶出低減材を用いて、水銀溶出低減効果を評価した。
水銀実汚染土に、さらに水銀分析用標準原液(関東化学社製、1000ppm水銀標準液,製品番号25828−1B)を添加し、高濃度水銀汚染土(環境省告示46号試験での溶出量:0.009ppm)を作製した。上記実施例2の溶出低減材を用い、該高濃度水銀汚染土に対し、粉体で17.8〜89.0kg/m3割合で添加し、撹拌混合した。
次いで、高濃度水銀汚染土に前記実施例2の溶出低減材をそれぞれ混合した後、材齢1日経過後に、環境庁告示46号に準じて水銀溶出試験を実施して、溶出液中の水銀濃度について測定した。その結果を下記表5に示す。
Claims (5)
- 炭酸マグネシウム(MgCO3)と炭酸カルシウム(CaCO3)とを主成分として含む鉱物が軽焼されてなり、軽焼により当該鉱物中のMgCO3が脱炭酸されることで生成されるMgCxOy(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO3と、CaCO3とを含む軽焼生成物及び水溶性硫酸塩を、質量比で8:2〜9:1で含む溶出低減材を水銀溶出低減材として使用することを特徴とする、水銀溶出低減方法。
- 請求項1記載の水銀溶出低減方法において、軽焼生成物は、X線光電子分光法(XPS)によって検出されるO1sに対応するスペクトルにおける前記MgCxOyのピークが、MgCO3およびCaCO3の各ピークの中間領域に位置することを特徴とする、水銀溶出低減方法。
- 請求項1又は2記載の水銀溶出低減方法において、軽焼生成物には、酸化カルシウム(CaO)を実質的に含まないことを特徴とする、水銀溶出低減方法。
- 請求項1〜3いずれかの項記載の水銀溶出低減方法において、水溶性硫酸塩が硫酸第一鉄であることを特徴とする、水銀溶出低減方法。
- 水銀溶出低減材として使用する溶出低減材であって、
該溶出低減材は、炭酸マグネシウム(MgCO3)と炭酸カルシウム(CaCO3)とを主成分として含む鉱物を640〜990℃で軽焼して、当該鉱物中のMgCO3が脱炭酸されることで生成されるMgCxOy(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO3と、CaCO3とを含む軽焼生成物を調製し、該軽焼生成物と水溶性硫酸塩とを、質量比で8:2〜9:1で混合して得ることを特徴とする、水銀溶出低減材の製造方法。
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