JP6110587B2 - 腹膜癒着防止用医薬組成物 - Google Patents
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Description
前者の例として、生体吸収性の膜を手術部位に貼付することにより術後癒着が約半数に減少したことが報告されている(非特許文献2:Becker JM et al., J Am Coll Surg. 183:297-306, 1996)。しかし、術後の癒着は未だ十分に抑制されてはいない。また、膜を貼付する方法は、予め癒着が予測される場所に貼付するため、予測以外の部位、及び貼付部位以外の癒着を抑制することはできず、一旦組織に付着するとはがすのが困難であり、かつ破れやすいことや、腸管内腔側には貼付しにくいなどの短所がある。
(1) グアニリルシクラーゼA受容体(GC-A)を活性化する物質又は薬学的に許容されるその塩を有効成分として含有する、腹膜癒着抑制用医薬組成物。
(2) グアニリルシクラーゼA受容体(GC-A)を活性化する物質が、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)又は脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)である、上記(1)に記載の組成物。
(3) 心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)又は脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が、ヒト由来である、上記(2)に記載の組成物。
(4) 腹膜に局所投与するための、上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の組成物。
(5) ブドウ糖液、電解質液若しくは腹膜透析液により腹膜に局所投与するため、又は、シート状若しくは噴霧状の材質を用いて腹膜に局所投与するための、上記(4)に記載の組成物。
(6) 手術による操作を加えた部位又は腹膜透析液の接触する部位に局所投与するための、上記(5)に記載の組成物。
(7) 全身投与するための、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の組成物。
(8) 血中に投与するための、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の組成物。
(9) 皮下投与するための、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の組成物。
(10) 心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)又は脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を有効成分として1日あたり0.1μg/kg〜100mg/kg投与するための、上記(2)又は(3)に記載の組成物。
(11) グアニリルシクラーゼA受容体(GC-A)を活性化する物質又は薬学的に許容されるその塩を個体に投与することを含む、腹膜癒着を抑制する方法。
(12) グアニリルシクラーゼA受容体(GC-A)を活性化する物質が、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)又は脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)である、上記(11)に記載の方法。
(13) 心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)又は脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が、ヒト由来である、上記(12)に記載の方法。
(14) 腹膜に局所投与することを含む、上記(11)〜(13)のいずれか一項に記載の方法。
(15) ブドウ糖液、電解質液若しくは腹膜透析液により腹膜に局所投与すること又はシート状若しくは噴霧状の材質を用いて腹膜に局所投与することを含む、上記(14)に記載の方法。
(16) 手術による操作を加えた部位又は腹膜透析液の接触する部位に局所投与することを含む、上記(15)に記載の方法。
(17) 全身投与することを含む、上記(11)〜(13)のいずれか1項に記載の方法。(18) 血中に投与することを含む、上記(11)〜(13)のいずれか1項に記載の方法。
(19) 皮下投与することを含む、上記(11)〜(13)のいずれか1項に記載の方法。
(20) 心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)又は脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を有効成分として1日あたり0.1μg/kg〜100mg/kg投与する、上記(12)または(13)に記載の方法。
(21) グアニリルシクラーゼA受容体(GC-A)を活性化する物質又は薬学的に許容されるその塩の、腹膜癒着抑制用医薬組成物の製造のための使用。
(22) グアニリルシクラーゼA受容体(GC-A)を活性化する物質が、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)又は脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)である、上記(21)に記載の使用。
(23) 心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)又は脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が、ヒト由来である、上記(22)に記載の使用。
(24) 腹膜に局所投与するための、上記(21)〜(23)のいずれか一項に記載の使用。
(25) 前記医薬組成物が、ブドウ糖液、電解質液若しくは腹膜透析液により腹膜に局所投与される、又は、シート状若しくは噴霧状の材質を用いて腹膜に局所投与される、上記(24)に記載の使用。
(26) 手術による操作を加えた部位又は腹膜透析液の接触する部位に局所投与される、上記(25)に記載の使用。
(27) 前記医薬組成物が全身投与される、上記(21)〜(23)のいずれか1項に記載の使用。(28) 前記医薬組成物が血中に投与される、上記(21)〜(23)のいずれか1項に記載の使用。
(29) 前記医薬組成物が皮下投与される、上記(21)〜(23)のいずれか1項に記載の使用。
(30) 前記医薬組成物が、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)又は脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を1日あたり0.1μg/kg〜100mg/kg投与するための組成物である、上記(22)または(23)に記載の使用。
本発明の有効成分は、点滴などの皮下投与などにより全身性に投与することで簡便に適用することができる。また、腹腔内投与でも有効であることから、全身性の血圧低下の副作用を起こすことなく、腹膜癒着を抑制することが期待される。ANPまたはBNPのようなペプチド性化合物を有効成分とする場合、コンドロイチン硫酸ナトリウムのような高分子物質と異なり、粘性が低いため、容易に腹腔内の広範な部位や腸管内腔側にも適用できる。
本実施例においては、定量的PCR法および免疫組織化学法を以下の手順によりおこなった。
<定量的PCR法>
本発明において、RNA発現の解析は以下の工程により実施した。マウスの壁側腹膜を含む前腹直筋を約30mgの重量となるように切離し、2mlチューブに入れすばやく液体窒素中で凍結した。凍結したサンプルはRNeasy Fibrous Tissue Mini Kit (QIAGEN、Valencia, CA, USA)を用いて、製造者のプロトコールに従って、全RNAを抽出した。全RNAの濃度は吸光度計を用いて測定し、全RNA 1μgをHigh Capacity cDNA Reverse Transcription Kit (Applied Biosystems)を用いて、製造者のプロトコールに従って、相補的DNAを作製した。5 ngの相補的DNAを用いて、製造者のプロトコールに従って、Real-time PCR7300およびStepOnePlusシステムを用いて定量的PCRを行った。下記のフォワードプライマー(F)およびリバースプライマー(R)、ならびに蛍光色素(FAM)およびクエンチャー(TAMRA)を有するプローブ(P)を用いた。GAPDHのプライマー、プローブセットはTaqMan Rodent GAPDH Control Reagents (Applied Biosystems)を用いた。
マウスinterleukin-1β(IL-1β)遺伝子
F(SEQ ID NO: 8):5’-TAACCTGCTGGTGTGTGACGTT-3’
R(SEQ ID NO: 9):5’-GACAGCACGAGGCTTTTTTGT-3’
P(SEQ ID NO:10):5’-FAM-AGACAACTGCACTACAGGCTCCGAGATGA-TAMRA-3’
マウスtumor necrosis factor-α (TNF-α)遺伝子
F(SEQ ID NO:11):5’-AAGGCTGCCCCGACTACG-3’
R(SEQ ID NO:12):5’-AGGTTGACTTTCTCCTGGTATGAG-3’
P(SEQ ID NO:13):5’-FAM-CTCCTCACCCACACCGTCAGCCGA-TAMRA-3’
マウスplasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)遺伝子
F(SEQ ID NO:14):5’-AAGGTCAGGATCGAGGTAAACG-3’
R(SEQ ID NO:15):5’-GCCGAACCACAAAGAGAAAGG-3’
P(SEQ ID NO:16):5’-FAM-AGCGGCACAGTGGCGTCTTCCTCC-TAMRA-3’
マウスtissue plasminogen activator (tPA)遺伝子
F(SEQ ID NO:17):5’-CTGACTGGACAGAGTGTGAGC-3’
R(SEQ ID NO:18):5’-GACGTGAGCCTCCTTCAGC-3’
P(SEQ ID NO:19):5’-FAM-CGGCAAGCATGAGGCATCGTCTCC-TAMRA-3’
マウスtransforming growth factor-β1 (TGF-β1)遺伝子
F(SEQ ID NO:20):5’-GACGTCACTGGAGTTGTACGG-3’
R(SEQ ID NO:21):5’-GCTGAATCGAAAGCCCTGT-3’
P(SEQ ID NO:22):5’-FAM-AGTGGCTGAACCAAGGAGACGGAA-TAMRA-3’
マウスfibronectin遺伝子
F(SEQ ID NO:23):5’-ATCATTTCATGCCAACCAGTT-3'
R(SEQ ID NO:24):5'-TCGCACTGGTAGAAGTTCCA-3'
P(SEQ ID NO:25):5'-FAM-CCGACGAAGAGCCCTTACAGTTCCA-TAMRA-3'
<免疫組織化学法>
本発明において、免疫組織化学法は以下の工程により実施した。マウスの壁側腹膜を含む前腹直筋を1 mm厚に薄切し4度の4%パラフォルムアルデヒド溶液で24時間固定し、パラフィン包埋を行った。4μm厚のパラフィン切片をスーパーフロストスライドガラス(松浪硝子工業株式会社、大阪、日本)上に貼付し、脱パラフィン化した後、1.5% H2O2溶液で15分処理した。抗原賦活化として、マイクロウェーブ処理を5分3回行い、PBSにて洗浄した後、10%正常ヤギ血清を30分反応させ、ウサギ抗ヒトCD3抗体(DAKO社、東京、日本)を1:100の希釈倍率で反応させた。PBSで洗浄した後、ペルオキシダーゼ-ヤギ抗ウサギ抗体(Jackson ImmunoResearch社)を1:100の希釈倍率で反応させた後、3,3’-diaminobenzidine tetrahydrochloride (DAKO)にて発色させた。ヘマトキシリン染色を行い、封入した。
1.腹膜癒着モデルの作製と薬物の投与
実験には、平均体重23.68gの27匹のC57BL/6Jマウス(日本クレア、東京、日本)を用いた。85%の0.01Mリン酸緩衝バッファー(PBS)と15%のエタノール(ナカライテスク、京都、日本)の混合液に、5%ヒビテン液(5%グルコン酸クロルヘキシジン:大日本住友製薬株式会社、大阪、日本)を50倍希釈となるように添加し、0.1%ヒビテン溶液を作製した。
0.1%ヒビテン溶液0.3mlを27Gy針と1mlの注射筒を用いて週に3回、4週間、合計12回腹腔内投与することにより、腹膜癒着を惹起した(Ishii Y et al., Nephrol Dial Transplant. 16:1262-1266, 2001)。10匹は投与開始と同時にヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(human ANP:アスビオファーマ株式会社、東京、日本)を持続腹腔内投与した。具体的には、human ANP 8.4mgを5%ブドウ糖液1mlに溶解し、浸透圧ミニポンプ(2004モデル、ALZET Osmotic Pumps Inc., Cupertino, CA, USA)に充填し、ポンプを腹腔内に留置することにより、1.5・g/kg/min(0.25・l/hr)の濃度で28日間持続腹腔内投与した(ヒビテン−ANPマウス群)。10匹は対照群として、0.1%ヒビテン溶液0.3mlを週に3回、4週間、合計12回腹腔内投与し、5%ブドウ糖液のみを浸透圧ミニポンプ2004モデルにて投与した(ヒビテン−ブドウ糖マウス群)。他の7匹は正常コントロールとして、0.3 mLのPBSを週3回、4週間、合計12回腹腔内投与し、浸透圧ミニポンプで5%ブドウ糖液を投与した(PBS−ブドウ糖マウス群)。血漿hANP濃度は、アプロチニン含有EDTA採血により血漿を分離し、発光酵素免疫測定法(CLEIA:chemiluminesent enzyme immunoassay)を用いて測定した。評価は、株式会社エスアールエルにておこなった。
0.1%ヒビテン液もしくはPBS投与28日後に、腹膜の癒着および臓器間の癒着をスコア化
して評価した。スコア化は、非特許文献4の記載にしたがい、以下の基準によりおこなった。
0:全く癒着を認めない
1:1カ所の薄い癒着
2:2カ所以上の薄い癒着
3:部分的な厚い癒着
4:2カ所以上の厚い癒着
5:非常に厚い癒着
<実験結果>
本実施例において、ヒビテン−ANPマウス群の血漿中hANP濃度は78.5±26.6 pg/mlで、内因性レベルの数倍程度に上昇した一方、対照のヒビテン−ブドウ糖マウス群とPBS−ブドウ糖マウス群では、血漿hANP濃度はアッセイの感度以下(10 pg/ml以下)であった。図1から明らかなように、ヒビテン−ブドウ糖液マウス群(癒着スコア:3.4±0.40)は、PBS―ブドウ糖液マウス群(癒着スコア:0.0±0.00)に比して、腹膜の癒着が高度であった。また、ヒビテン−ANPマウス群(癒着スコア:1.6±0.68)は、ヒビテン−ブドウ糖液マウス群に比して、癒着の軽減が認められた。
さらに、各群の腹膜組織標本を用いて、炎症性サイトカインであるinterleukin-1β(IL-1β)遺伝子、tumor necrosis factor-α(TNF-α)遺伝子のmRNA発現をglyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)遺伝子を内因性コントロールとしてリアルタイムPCR法にて検討した(Applied Biosystems、東京、日本)。図2に示すように、ヒビテン−ブドウ糖液マウス群のIL-1β遺伝子/GAPDH遺伝子発現比は、PBS−ブドウ糖液群に比して10.0倍に亢進しており、ヒビテン−ANPマウス群では、その発現亢進が74%抑制された。また、TNF-α遺伝子/GAPDH遺伝子発現比は、ヒビテン−ブドウ糖マウス群においてPBS―ブドウ糖マウス群に比して25.0倍発現亢進を認め、ヒビテン−ANP投与群でその発現亢進が70%抑制された。
次に、T細胞の腹膜組織への浸潤をCD3免疫染色法により検討した。明らかな血管内の細胞を除いた腹膜中皮下組織におけるCD3陽性細胞数と全細胞数を計測し、CD3陽性細胞率を計算した。図4に示すように、PBS−ブドウ糖マウス群においては、CD3陽性細胞を認めなかった。CD3陽性細胞率は、ヒビテン−ブドウ糖液マウス群(5.0±0.51%)に対し、ヒビテン−ANPマウス群(3.5±0.4%)では有意にCD3陽性細胞浸潤が抑制された。この結果によりANP投与はヒビテン刺激による腹膜癒着において、CD3陽性細胞であるT細胞の浸潤を抑制したことを示唆している。
Serum amyloid component P(SAP)プロモーターを用いて肝臓でマウス脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を過剰発現するマウス(BNPトランスジェニックマウス:非特許文献7に基づいて作製)と野生型マウスとの間でのヒビテンによる腹膜癒着に及ぼす差について検討した。BNPはANPと同様にグアニリルシクラーゼAに結合し、cGMPを介して生理活性を発揮する。BNPトランスジェニックマウスは野生型マウスに比べて、BNPの血中濃度が136.7倍に上昇しているとの報告がある(Chusho H et al., Endocrinology 141:3807-3813, 2000)。
平均体重27.2gの16匹のBNPトランスジェニックマウスに0.1%ヒビテン溶液0.3mlを週3回、4週間腹腔内投与し、腹膜癒着を惹起した(ヒビテン−BNP-Tgマウス群)。対照としては、平均体重27.8gの17匹の同腹の野生型マウスに0.1%ヒビテン溶液を同量投与した(ヒビテン−野生型マウス群)。正常コントロールとして、平均体重27.5gの7匹のBNP−Tgマウス(PBS−BNP-Tg マウス群)と平均体重26.9gの7匹の同腹の野生型マウス(PBS−野生型マウス群)にPBS 0.3mlを週3回4週間腹腔内投与した。
<実験結果>
図5に示すように、ヒビテン−野生型マウス群(癒着スコア:3.6±0.16)では、PBS―野生型マウス群(癒着スコア:0.0±0.00)に比して腹膜の癒着が高度であった。一方、ヒビテン−BNP-Tgマウス群(癒着スコア:2.3±0.13)は、ヒビテン−野生型マウス群に比して癒着の軽減が認められた。
IL-1β、TNF-α、PAI-1、tPA、GAPDH遺伝子のmRNA発現をリアルタイムPCR法で検討した。図6に示すように、IL-1β/GAPDH遺伝子発現比は、ヒビテン−野生型マウス群ではPBS−野生型マウス群に比して5.9倍に発現が亢進しており、ヒビテン−BNP-Tgマウス群では発現が65%抑制された。同様に、TNF-α/GAPDH遺伝子発現比は、ヒビテン−野生型マウス群ではPBS−野生型マウス群に比して8.2倍に発現が亢進しており、ヒビテン−BNP-Tgマウス群では50%抑制されていた。
また、図7に示すように、PAI-1/GAPDH遺伝子発現比とtPA/GAPDH遺伝子発現比は、野生型マウス群、BNP-Tgマウス群ともヒビテン投与群で発現が亢進したが(それぞれ6.7±2.2倍、3.3±0.92倍)、ヒビテン-野生型マウス群とヒビテンーBNP-Tgマウス群で差を認めなかった。この結果は、PAI-1, tPA遺伝子発現以外の腹膜癒着に関連する因子がヒビテン−BNP-Tgマウスにおいて存在する可能性を示している。
次に、T細胞の腹膜への浸潤をCD3免疫染色法で検討した。明らかな血管内の細胞を除
いた腹膜中皮下組織におけるCD3陽性細胞数と全細胞数を計測し、CD3陽性細胞率を計算した。図8に示すように、PBS投与マウスにおいては、野生型群、BNP-Tgマウス群の両者において、CD3陽性細胞を認めなかった。CD3陽性細胞率は、ヒビテン−野生型マウス群においては、7.9±1.4%であるのに対し、ヒビテン−BNP-Tgマウス群では、3.4±1.1%であり、有意にCD3陽性細胞浸潤が抑制された。この結果により血中BNPの慢性過剰状態はヒビテン刺激による腹膜癒着において、CD3陽性細胞であるT細胞の浸潤を抑制し、癒着を抑制した可能性が示唆された。
ANPおよびBNPの受容体であるグアニリルシクラーゼAの遺伝子を欠損させたマウス(GC-Aノックアウトマウス:Lopez MJ, et al. Nature 378:65-68, 1995に基づいて作製)と野生型マウスにおけるヒビテンによる腹膜癒着に及ぼす差について検討した。GC-AノックアウトマウスではANPおよびBNPのGC-Aを介する生理活性が欠損している。
平均体重28.0gの9匹のGC-Aノックアウトマウスに0.1%ヒビテン溶液0.3mlを週3回4週間投与し、腹膜癒着を惹起した(ヒビテン−GC-A−KOマウス群)。対照としては平均体重27.6gの8匹の同腹の野生型マウスにヒビテンを同量投与した(ヒビテン野生型マウス群)。癒着非惹起群として、平均体重28.2gの5匹のGC-A−KOマウス(PBS-GC-A−KOマウス群)と平均体重28.6gの6匹の同腹の野生型マウス(PBS-野生型マウス群)にPBS 0.3mlを週3回4週間腹腔内投与した。
<実験結果>
図9に示すように、ヒビテン−野生型マウス群(癒着スコア:2.8±0.20)は、PBS―野生型マウス群(癒着スコア:0.0±0.00)に比して腹膜の癒着が高度であった。一方、ヒビテン−GC-A―KOマウス群(癒着スコア:3.8±0.40)では、ヒビテン−野生型マウス群に比して癒着の増悪が認められた。
IL-1β、TNF-α、tPA、PAI-1、GAPDH遺伝子のmRNA発現をリアルタイムPCR法で検討した。図10に示すように、IL-1β/GAPDH遺伝子発現比は、ヒビテン−GC-A−KOマウス群(10.1±3.2)ではヒビテン−野生型マウス群(5.1±2.1)に比べて上昇した。TNF-α/GAPDH遺伝子比も同様に、ヒビテン−GC-A−KOマウス群(35.3±9.1)ではヒビテン−野生型マウス群(13.8±4.5)に比して増加した。
また、図11に示すように、PAI-1/GAPDH遺伝子とtPA/GAPDH遺伝子は、いずれもヒビテン投与群で発現が亢進していたが、ヒビテン−野生型マウス群とヒビテン−GC-A−KOマウス群で差を認めなかった。
次に、T細胞の腹膜への浸潤をCD3免疫染色を用いて検討した。図12に示すように、PBS投与マウスにおいては、野生型マウス群、BNP-Tgマウス群の両者において、CD3陽性細胞を認めなかった。CD3陽性細胞率は、ヒビテン−野生型マウス群では1.3±0.068%であるのに対し、ヒビテン−GC-A-KOマウス群では3.6±1.2 %であり、有意にCD3陽性細胞浸潤が増加していた。この結果によりナトリウム利尿ペプチドANPとBNPの受容体であるGC-A−KOマウス群ではGC-Aの欠損はヒビテン刺激による腹膜癒着において、CD3陽性細胞であるT細胞の浸潤を増強している可能性が示唆された。
ANPの皮下投与による癒着軽減効果について検討した。平均体重23.5gの7匹の野生型マウスに、浸透圧ミニポンプを用いてヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(human ANP)を持続皮下投与(1.5 μg/kg/min)し、その1日後より0.1%ヒビテン溶液0.3mlを週3回4週間(合計11回)投与し、腹膜癒着を惹起した(ヒビテン−ANP SC群)。対照としては平均体重23.5gの7匹の野生型マウスに、5%ブドウ糖液を含有した浸透圧ミニポンプを皮下に埋没し、ヒビテンを同量投与した(ヒビテン−ブドウ糖 SC群)。癒着非惹起群として、平均体重23.7gの5匹の野生型マウスに5%ブドウ糖液を含有した浸透圧ミニポンプを皮下に埋没し、PBS 0.3mlを週3回4週間腹腔内投与した。
<実験結果>
ANP皮下投与マウスの平均血漿ANP濃度は17.2 ± 10.6 pg/mlであった。ANP非投与群では、感度以下(5pg/ml以下)であった。
図13に示すように、ヒビテン−ブドウ糖 SC群(癒着スコア:2.1 ±0.14)は、PBS―ブドウ糖 SC群(癒着スコア:0.0 ± 0.00)に比して腹膜の癒着が高度であった。一方、ヒビテン−ANP SC群(癒着スコア:1.3 ±0.19)では、ヒビテン−ブドウ糖 SC群に比して癒着の軽減が認められた。
IL-1β、TNF-α、tPA、PAI-1、GAPDH遺伝子のmRNA発現をリアルタイムPCR法で検討した。図14に示すように、IL-1β/GAPDH遺伝子発現比は、ヒビテン−ANP SC群(10.3±4,3)ではヒビテン−ブドウ糖 SC群(25.3±2.5)に比べて低下した。TNF-α/GAPDH遺伝子比も同様に、ヒビテン−ANP SC群(13.1±3.1)ではヒビテン−ANP SC群(28.6±4.1)に比して低下した。
また、図15に示すように、PAI-1/GAPDH遺伝子とtPA/GAPDH遺伝子は、いずれもヒビテン投与群で発現が亢進していたが、ヒビテン−ブドウ糖SC群とヒビテン−ANP SC群で差を認めなかった。
次に、T細胞の腹膜への浸潤をCD3免疫染色を用いて検討した。図16に示すように、PBS―ブドウ糖 SCマウスにおいては、CD3陽性細胞を認めなかった。CD3陽性細胞率は、ヒビテン−ブドウ糖 SC群では34.7±4.1%であるのに対し、ヒビテン−ANP SCでは19.9±4.1 %であり、有意にCD3陽性細胞浸潤が減少していた。この結果によりナトリウム利尿ペプチドANPの皮下投与はヒビテン刺激による腹膜癒着において、CD3陽性細胞であるT細胞の浸潤を抑制している可能性が示唆された。
Claims (7)
- 線維化に起因しない腹膜癒着を抑制するための医薬組成物であって、
心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、又は薬学的に許容されるその塩を有効成分として含有する、上記組成物。 - 心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)又は脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が、ヒト由来である、請求項1に記載の組成物。
- 腹膜に局所投与するための、請求項1又は2に記載の組成物。
- ブドウ糖液、電解質液若しくは腹膜透析液により腹膜に局所投与するため、又は、シート状若しくは噴霧状の材質を用いて腹膜に局所投与するための、請求項3に記載の組成物。
- 全身投与するための、請求項1又は2に記載の組成物。
- 血中に投与するための、請求項1又は2に記載の組成物。
- 皮下投与するための、請求項1又は2に記載の組成物。
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