JP6099147B2 - フグ毒の検査方法 - Google Patents
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これらの課題を解決するために、(特許文献1)には、「複数個体のフグから取出した複数のフグ肝臓を、その繊維質を細切した後に撹拌混合により均一化し、その撹拌混合物から一部を抽出し、抽出したフグの肝臓の混合物を20℃〜60℃の温度範囲で油層と水層とに分離させ、分離後の水層から検体を一部抽出し、抽出した水層の検体についてテトロドトキシンの毒性検査を行う」フグ肝臓の毒性検査法が開示されている。
(1)(特許文献1)に開示の技術は、フグ肝臓を細切した後、撹拌混合するので、細切されたフグ肝臓を原料とする加工食品としてしか利用できず食品としての価値が大幅に低下するという課題を有していた。
また、同様に、フグ肝臓そのものを食べることができず、細切されているため、外観が落ち、見た目を楽しむことができないという課題を有していた。
(2)無毒化したフグを養殖することができるが、可食部として定められていないフグ肝臓は、適切な検査方法が無く、食品として提供するには、個体全体を細片化し均一にして検査を行う必要があり、フグ肝臓の刺身等、フグ肝臓の本来の食感を味わうことができないという課題を有していた。
(3)また、(特許文献1)は食品にする為に、乳化剤、増粘剤などの食品添加剤を使用しなければならないという課題を有していた。
(4)20℃〜60℃の温室に30分放置して油分と水分に分離させているので、衛生的な管理が必要であるという課題を有していた。
本発明の請求項1に記載のフグ毒の検査方法は、フグ肝臓の滑らかな面を表側、消化管との隣接面を裏側、肝門脈との結合部を上部として、フグ肝臓の表右側下部中央寄りの特定部のテトロドトキシンを測定し、フグの可食の可否を判別する構成を有している。
この構成により、以下のような作用、効果を有する。
(1)フグ肝臓の表右側下部中央寄りの特定部のTTXの濃度を測定することで、検査で使用する部位以外は貴重な食品として有効利用できる。これにより、これまで、廃棄されていたトラフグの肝臓を栄養価の優れた食品として利用することができる。
(2)乳化剤や、増粘剤などの食品添加物を使用する必要がないので、フグ肝臓そのものを提供することができる。
(3)また、特定部のTTXを測定するだけで、フグ肝臓の他の部位を検査する必要が無く作業性に優れる。
(4)特定部のTTXの濃度を測定することで、安全性に優れたフグ肝臓を食品として提供することができる。
(5)フグ肝臓を取り扱う時に、20℃〜60℃の温度で行うといった特定の温度条件が無く、常温(作業場の温度)で作業できるので作業性に優れる。また、特定部のみを測定するので作業が短時間で済み作業性に優れる。
(6)特定部のみを取り除き、その他の全部位に接触しないでよいため、特定部以外のフグ肝臓の衛生的な取り扱いが可能で、酸化の恐れや劣化の恐れ、菌の繁殖の恐れが無く安全性に優れる。
また、フグ肝臓から特定部を切り出す為に、10部位に必ず分割する必要は無く、左右に2分割と全長方向に3〜7分割としても良い。この場合も同様に表右側下部中央寄りに該当する部分のみを切り出し検査することで同様に安全性に優れる。全長方向の分割数が3より少なくなるにつれ、検査に使用しない食品となるフグ肝臓の部分が少なくなる傾向にあり、好ましくない。全長方向の分割数が7より多くなるにつれ、該当部位から分析・保存用に切り出す量が充分に得られなくなる傾向にあるので好ましくない。
この構成により、請求項1の作用、効果に加え、以下のような作用、効果を有する。
(1)一群のフグのフグ肝臓の特定部を混合して検査することができるので、個体ごとに測定するよりも、一つにまとめた混合物を一個の試料としてテトロドトキシンの測定を行うことで測定回数を少なくすることができ作業効率に優れる。
(2)分析や分析の前処理操作で用いる試薬や使い捨ての器具の量を削減できるので省資源性に優れる。また、分析数が少ないので、分析カラムなどの機材や設備の長寿命性に優れる。
(3)また、分析や分析の前処理で用いる試薬等の量も減るので廃液が減り、省資源性と環境性に優れる。
(4)加熱からの前処理の作業時間と分析時間とを短縮することができるので省作業性に優れ、迅速に結果を得ることができフグ肝臓の鮮度が優れる。
また、このとき、安全性を考慮してTTX濃度の測定結果に安全率をかけた数値が10/N(MU/g)以下となる様にしても良い。また、本願発明者らは鋭意研究を進め特定部とフグ肝臓のその他の部位の毒性分布を分析し、本発明の特定部を測定する場合、生の肝臓では安全率は、平均毒力を評価するのであれば1.6倍、部分的な毒力まで問題とするのであれば2.4倍の値とすることで、より安全性に優れることがわかっている。
トロ箱は、魚産物を入れる箱であれば良く、特に限定するものではない。トロ箱単位でフグの採取からフグ毒の検査までを一貫して管理し、同じトロ箱にいれた全てのフグのフグ肝臓の特定部を切り出し、混合した混合物のテトロドトキシンを測定し、TTX濃度が基準値よりも高ければ、そのトロ箱のフグ肝臓は全て廃棄し、TTX濃度が基準値よりも低い場合、外観検査等の次の検査を行う。このように、トロ箱毎に管理することで作業性に優れると共に、フグ毒の検査が終わるまで同じトロ箱であったものを一緒に保管し管理することで、個別に扱うよりも取扱が容易で取り違い等が起こることが無く安全性に優れる等の利点がある。
この構成により、請求項1で得られる作用、効果に加え、以下のような作用、効果を有するフグ肝臓食品がえられる。
(1)フグ肝臓の表右側下部中央寄りの特定部のTTXの濃度を測定することで、検査で使用する部位以外は刺身等の貴重な食品として有効利用できる。これにより、これまで、廃棄されていたトラフグの肝臓を栄養価の優れた食品として提供することができるとともに、従来は産業廃棄物として処理されていたフグ肝臓を有効利用し、対環境性、省資源性に優れる。
(2)特定部のTTXの濃度を測定することで、迅速に安全性に優れたフグ肝臓食品を提供することができる。
(3)また、特定部のTTXの濃度を測定するだけで、肝臓の他の部位を検査する必要が無く作業性に優れる。
(4)特定部のみを取り除き、その他の部位に接触しないでよいため、特定部以外の食品となるフグ肝臓の衛生的な取り扱いが可能で、酸化の恐れや劣化の恐れ、菌の繁殖の恐れが無く安全性に優れる。
この構成により、請求項2で得られる作用、効果に加え、以下のような作用、効果を有するフグ肝臓食品がえられる。
(1)フグ肝臓の表右側下部中央寄りの特定部のTTXの濃度を測定することで、検査で使用する部位以外は貴重な食品として有効利用できる。これにより、これまで、廃棄されていたトラフグの肝臓を栄養価の優れた食品として提供することができる。
(2)特定部のTTXの濃度を測定することで、安全性に優れたフグ肝臓食品を提供することができる。
(3)また、特定部のTTXの濃度を測定するだけで、肝臓の他の部位を検査する必要が無く作業性に優れる。
(4)特定部のみを取り除き、その他の全部位に接触しないでよいため、特定部以外の食品となるフグ肝臓の衛生的な取り扱いが可能で、酸化の恐れや劣化の恐れ、菌の繁殖の恐れが無く安全性に優れる。
(5)一群のフグのフグ肝臓の特定部を混合して検査することができるので、一つ一つ別々に測定するよりも、テトロドトキシンの測定を行うことで測定回数が少なく作業効率に優れる。
(6)分析や分析の前処理操作で用いる試薬や使い捨ての器具の量を削減できるので省資源性に優れる。また、分析カラムなどの機材の寿命が延びるので、設備の長寿命性に優れる。
(7)加熱からの前処理の作業時間と分析時間が短縮することができるので省作業性に優れ、迅速に結果を得ることができるので衛生面及び、フグ肝臓の鮮度が優れる。
(8)更に、分析や分析の前処理で用いる試薬等の量が減るので廃液が減り、省資源性と環境性に優れる。
(実施の形態)
図1は実施の形態のフグ肝臓のTTXの測定位置を示すフグ肝臓の表側からの模式図であり、図2は実施の形態におけるフグ毒の検査方法のフロー図である。
図1中、1はフグ肝臓、2は肝門脈との結合部である。フグの肝臓の部位としては、フグ肝臓の滑らかな面を表側、消化管との隣接面を裏側、肝門との結合部を上部として表側から見て左側を(L)、右側を(R)、さらに上下の全長を略均等に5区分にし、左側上部から順に(L1)、(L2)・・・(L5)、右側の上部から順に(R1)、(R2)・・・(R5)と10部位とした。尚、本発明におけるフグ肝臓の区分方法はこれに限定されるものではない。
(1)フグ肝臓の表右側下部中央寄りの特定部のTTXの濃度を測定することで、検査で使用する部位以外は貴重な食品として細切等していないフグ肝臓そのものを有効利用できるフグ毒の検査方法を提供することができる。これにより、これまで、廃棄されていたトラフグの肝臓を栄養価の優れた食品として提供することができる。
(2)フグ肝臓そのものを食品とすることができるフグ毒の検査方法を提供することができる。
(3)また、特定部のTTXを測定するだけで、肝臓の他の部位を検査する必要が無く迅速性や作業性に優れたフグ毒の検査方法を提供することができる。
(4)フグ肝臓を取り扱う時に、20℃〜60℃の温室で行うといった特定の温度条件が無く、常温で作業できるので作業性に優れる。また、特定部のみを取り去るので作業が短時間で済み作業性に優れると共に、鮮度に優れたフグ肝臓を食品とすることができるフグ毒の検査方法を提供することができる。
(5)特定部のTTXの濃度を測定することで、安全性に優れたフグ肝臓を食品として提供することができる。
(6)特定部のみを取り除き、その他の部位に接触しないでよいため、特定部以外の食品となるフグ肝臓の衛生的な取り扱いが可能で、酸化の恐れや劣化の恐れ、菌の繁殖の恐れが無く安全性に優れたフグ毒の検査方法を提供することができる。
<毒の分布確認>
フグ肝臓は、生肝臓も凍結肝臓も同様に滑らかな面を表側、消化管との隣接面を裏側、肝門脈との結合部を上部として左右に2分割し、さらに上下の全長を略均等に5分割して10部位(L1〜5及びR1〜5)に分けた。食品衛生検査指針理化学編フグ毒検査法に準じ、各部位をホモジナイズ後、通常は2倍量、試料の量が少ない場合は3〜5倍量の0.1%酢酸を加えて加熱抽出した。遠心分離後の上清を試験液とし、必要に応じて適宜希釈のうえ、ddY系雄マウス(体重19〜21g)の腹腔内に投与し、マウスの致死時間から1g当たりの毒力を算出した。TTXの1マウス単位(MU)は、体重20gのマウスを30分間で死亡させる毒力と定義されており、TTX220(ng)に相当する。
生および凍結フグ肝臓各1個体につき、毒性試験で調製した試験液を0.45(μm)のメンブランフィルターでろ過後、TTXを対象とするLC−MS分析(ZsprayTM MD 2000を搭載したAlliance 2690システム:Waters社製)を行った。測定はφ2.0×250(mm)のカラム(Mightysil RP−18GP)を用い、移動層には30(mmol/L)ヘプタフルオロ酪酸を含む1(mmol/L)酢酸アンモニウム緩衝液(pH5.0)を使用し、流速を0.2(ml/min)とした。デソルベーション温度350℃、ソースブロック温度120℃、コーン電圧50Vに設定し、イオン化法はESIポジティブモードで分析し、MassLynxTMオペレーションシステムにて解析した。外部標準には和光純薬製のTTX標準品を用いた。
生肝臓58個体のうち、16個体は10部位全てがマウス毒性を示し、4個体は一部の部位で毒性が認められ、22個体は全てが毒性未検出であった。また残り16個体については、1部位のみの毒性検査に基づき無毒と見なした。このうち全部位にマウス毒性が認められた生肝臓(n=16)につき、(表1)に各TTXの濃度を示す。また、各生肝臓を識別するため各個体番号1〜16を(表1)に示す。尚、後に示す相対毒性によって、フグ肝臓の各部位の毒性の分布を明らかにした為、一部の部位でしか毒性がみとめられなかった4個体と、全部分の毒性が検出できなかった22個体については、その値が測定下限以下であり、明確ではないため、計算には用いなかった。生肝臓の最高平均毒力は709(MU/g)で、食品衛生上の強毒(100〜999(MU/g))が10個体(17.2%)、弱毒(10〜99(MU/g))が5個体(8.6%)、無毒(10(MU/g)未満)が43個体(74.1%)であり、トラフグの有毒肝臓出現頻度は33.3%とされており、今回の生肝臓の調査結果はこれと概ね合致している。凍結肝臓では13個体中9個体は全部位にマウス毒性が認められ、残り4個体は全部位が毒性未検出であった。このうち、強毒が7個体(53.8%)、弱毒が2個体(15.4%)、無毒が4個体(30.8%)で、有毒個体出現頻度は生肝臓より高い結果となったが、凍結肝臓については、重量の大きいものを優先的に選択したため、有毒個体出現頻度が高くなったものと考えられる。これは、天然トラフグでは、高齢個体の大型肝臓になるほど毒性が高いためである。また、全部位にマウス毒性が認められた凍結肝臓(n=9)の各TTX濃度は(表2)に示した。また各凍結肝臓を識別する為、各個体番号1〜9を(表2)に示す。
図1及び(表1)、(表3)より、生肝臓の個体別に10分割して毒性分布を調べたところ、極端に高い、もしくは極端に低い毒性を示す部位は認められなかった。しかしながら、個体別に平均毒力を1として各部位の相対毒力の部位ごとの平均を比較したところ、概ね中央部の毒性が高く、両端の毒性が低い傾向がみられる。各部位の相対毒力につき、左右と上下の2要因に分けて二元配置分散分析により解析したところ、有意水準5%で要因間の交互作用は認められなかった。そこで要因ごとに評価したところ、左右では右の方の相対毒力が高く、上下では中央に近い下側の(R4)の部位の毒力が他の部位よりも高かった。このことから、(R4)の部位、すなわち肝臓の表右側下側中央寄りの部位が有意に高い毒性を示すことがわかった。
(表2)、(表3)より、有毒凍結肝臓についても、同様に各部位の相対毒力を求め比較したところ、生肝臓と同様の傾向が見られたが、二元配置分散分析による解析では、左右、上下のいずれの要因にも有意差が認められず、要因間の相互作用も検出されなかった。フグでは、凍結、解凍に伴い毒が他の組織へ移行することがある。凍結肝臓ではサンプル数が少なかったのに加え、凍結、解凍に伴い肝臓内の毒性分布の偏りが若干均一化した可能性も考えられる。
Kolmogorov−Smirnov検定により当該相対毒力の正規性を調べたところ、生肝臓、凍結肝臓ともに正規分布に従うと判定された。これを前提とすると、相対毒力がAv+7σの値(生肝臓2.33、凍結肝臓2.84)を超える確率は一千億分の一未満であり、事実上0と見なすことができる。一方、R4の毒力に対する肝臓1個体の平均毒力の相対値を求めたところ、当該相対値は正規分布に従い、生肝臓では、Av±σ=0.91±0.09、Av+7σ=1.56、凍結肝臓では、Av±σ=0.91±0.22、Av+7σ=2.44となった。従って、生肝臓では、(R4)の毒力が10(MU/g)未満であった場合、当該個体の平均毒力が15.6(MU/g)を、部位別毒力が23.3(MU/g)を超える確率は、事実上0とみなせることになる。従って、食用化を想定した検査の場合、これらを考慮した基準(例えば、平均毒力を評価するのであれば(R4)の毒力の1.6倍、部分的な毒力まで問題とする場合は2.4倍の値が10(MU/g)を超えないようにするなど)を設けることにより安全性に優れたフグ肝臓を食品として提供することができることがわかった。
従って、フグの安全確保のため、フグ肝臓の毒性評価に際しては、表右側下部中央寄りの特定部を用いて毒性試験若しくは毒の定量をすることが望ましいことが明らかになった。
2 肝門脈との結合部
Claims (2)
- フグ肝臓の滑らかな面を表側、消化管との隣接面を裏側、肝門脈との結合部を上部として、フグ肝臓の表右側下部中央寄りの特定部のテトロドトキシンを測定し、フグの可食の可否を判別することを特徴とするフグ毒の検査方法。
- 一群のフグからフグ肝臓の前記特定部を切り出し、切り出された一群の前記特定部を混合して一つにまとめた混合物のテトロドトキシンを測定し、前記一群のフグの可食の可否を判別することを特徴とする請求項1に記載のフグ毒の検査方法。
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