JP6064409B2 - 耐炎化繊維束の製造方法および炭素繊維束の製造方法 - Google Patents

耐炎化繊維束の製造方法および炭素繊維束の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、耐炎化繊維束および炭素繊維束、ならびにそれらの製造方法に関し、さらに詳しくは、ストランド強度で代表される引張強度の高い炭素繊維束の製造に用いられる耐炎化繊維束およびその製造方法、ならびに当該耐炎化繊維束を用いて得られる高引張強度の炭素繊維束およびその製造方法に関する。
炭素繊維は比強度、比弾性率に優れていることから、航空・宇宙産業をはじめ、釣竿、テニスラケットなどのスポーツ用途、風力発電のブレードや自動車など一般産業用途と幅広い分野で使用されている。
ポリアクリロニトリル系炭素繊維束の製造方法は、一般にポリアクリロニトリル系繊維束を酸化性気体雰囲気下で200〜300℃で加熱して耐炎化繊維束を得て、次いで不活性ガス雰囲気下1200℃以上で加熱して得られる。ポリアクリロニトリル系繊維束は通常1000〜80000本の単糸からなるが、耐炎化工程での単糸同士の融着を防止するため、ポリアクリロニトリル系繊維束にシリコーン系油剤を付与する方法が広く知られている。シリコーン系油剤は耐熱性に優れ、単糸同士の融着の防止に効果的を発揮する一方、シリコーン系油剤は加熱されると酸化されて粉塵になり、単糸に傷を付けるなどの悪影響を及ぼすというデメリットがある。
耐炎化炉において、ファンにより循環流路を循環する酸化性気体、代表的には空気は、循環ダクト内に設けられたヒーターおよびその制御機構により炉内温度が一定になるよう制御されており、ポリアクリロニトリル系繊維束は炉内を多段のローラーで折り返されながら所定の温度で加熱処理される。
ポリアクリロニトリル系繊維束の耐炎化処理において熱風循環を繰返すうちに、熱風には、ストランド由来のケバや粉末等の異物が蓄積し、耐炎化繊維束を汚染するようになることが知られている (特許文献1)。
この課題や、生産開始直後の操業・品質を安定させる手段として、特許文献1、2には耐炎化炉内を循環する酸化雰囲気をフィルタに通すことにより、異物や粉塵を除去して、炭素繊維束の引張強度を安定化させる方法が開示されている。しかしながら、異物や粉塵をフィルタで除去しても、工業的に許容できる生産性を保ちながら、完全に粉塵を除去することは困難であり、また、そのような状態の元で加熱気体に存在する異物や粉塵の数と、耐炎化の条件の関係や、好ましい耐炎化繊維束の状態については、検討されていなかった。
また、特許文献3では、長期にわたって耐炎化工程を稼動させ続けることは困難であり、頻繁に稼動を停止して、炉内清掃を行う必要があることを課題としてあげ、その課題を解決するために、耐炎化繊維束に付着した微粒子を、界面活性剤を含有する液体中で超音波洗浄などを用いて除去する方法などが開示されている。しかしながら、特許文献3に記載された方法では、超音波処理工程において、微粒子が表面に新しく欠陥を生じる可能性がある上、界面活性剤の完全な除去は困難であるため、微量でも糸に残留した残渣は、後の炭素化工程で1200℃以上に加熱されたときに、異物による不均一な反応を生じ、クリーン化の効果が限定的であった。また、この方法は、耐炎化処理が終わった糸に付着している微粒子を除去する方法であるため、原理的に耐炎化炉内で微粒子によってすでに傷を生じている場合は引張強度の低下を防ぐことはできず、効果は限定的であるといえる。
上述の汚染は、熱風循環炉である耐炎化炉内では、シリコーン系油剤が揮発しヒーターなどで加熱・酸化されることで粉塵へと変化したり、周辺外気から、砂等の微粒子が混入したり、耐炎化炉および周辺装置の内面に錆を生じるなどによって金属元素を含む微粒子が侵入したり、さらには、シリコーン系油剤やポリアクリロニトリル系繊維束そのものから発生するタール成分が固化したものなどが連続生産により炉内に溜まったりすることによって、長期の生産に伴い耐炎化炉内には多くの粉塵等の微粒子が堆積することによるものであることが知られている。これらの粉塵等の微粒子は、酸化性気体からなる熱風とともに炉内を循環し、耐炎化繊維束に付着して繊維の毛羽立ちや単糸切れなどを引き起こすほか、毛羽などには至らないものの単糸に物理的な傷を与えて炭素繊維束の引張強度の低下などを招いたり、金属元素を含む微粒子が糸に付着して、耐炎化工程以降で、炭素などとの化学反応による欠陥を引き起こしたりする原因となる。これらの微粒子は、耐炎化工程およびそれ以降で反応するか、脱落して消失したり、その後の表面処理・水洗工程で洗い流されたりする場合があり、炭素繊維束では検出できない可能性があるが、中間物である耐炎化繊維束にはこれらの微粒子が付着したままであるか、脱落していても既に傷を生じており、品質低下の原因となる微粒子や傷が観察可能である。また、半月〜1年の長期間生産を続ければ、炉内に蓄積される粉塵等の微粒子の量は増大するため、糸に付着する微粒子や傷などの欠陥の数は増え、上記の微粒子や異物による品質問題はさらに顕著になる。
毛羽立ち・糸切れや炭素繊維束の品質の低下が一定レベル以上に悪化するのを防ぐには、耐炎化糸束における単糸に付着する粉塵等の微粒子の数と生じる傷などの数を減らすことが重要であり、できるだけ長期に生産ラインを停機せず安定した操業状態と、その耐炎糸束を炭化したときの品質を安定化させる技術が要望されている。
特開2006−57222号公報 特開2008−95221号公報 特開2006−200078号公報
本発明の課題は、耐炎化繊維束および炭素繊維束の製造において、熱処理炉内の微粒子の濃度や熱処理炉中の繊維束の幅、風量などを特定の範囲に制御することで、単糸に生じる傷や単糸表面に付着する粉塵などの微粒子の少ない耐炎化繊維束を製造し、炭素繊維束の生産開始初期から長期間にわたって、安定した操業性で、品質的に安定した連続生産を可能にすることである。
かかる課題を解決するための本発明は、以下の構成からなる。
(1)粒径0.3μm以上の微粒子の濃度が300〜2500個/リットルである酸化性気体を、アミノ変性シリコーンを含むシリコーン系油剤が付与された単糸繊度0.4〜1.6dtex、フィラメント数1000〜80000本のポリアクリロニトリル系繊維束の走行方向と垂直に循環させる熱処理炉で、該ポリアクリロニトリル系繊維束を200〜300℃で加熱処理をするに際し、
[D×(W×V×L)]/[(S/60)×10] (式1)
の値が5〜40である条件下で加熱処理することを特徴とする耐炎化繊維束の製造方法。
但し、(式1)において、
D:前記熱処理炉内に存在する粒径0.3μm以上の微粒子の濃度[個/リットル]
W:以下に定義される繊維束の幅[cm/ストランド]
V:繊維束を通過する循環熱風の風速[m/秒]
L:繊維束が通過する炉長をL[m]
S:繊維束の炉内通過速度[m/分]である。
(2)熱処理炉内を循環する酸化性気体に含まれる粒径0.3μm以上の微粒子の濃度を、集塵装置を用いて300〜600個/リットルに保つ、(1)に記載の耐炎化繊維束の製造方法。
(3)(1)または(2)に記載の耐炎化繊維束の製造方法で耐炎化繊維束を得た後、不活性雰囲気下、1200℃以上で加熱処理することを特徴とする炭素繊維束の製造方法。
(4)(1)または(2)に記載の耐炎化繊維束の製造方法で単糸繊度が1.0dtex以下の耐炎化繊維束を得た後、不活性雰囲気下、1300℃以上で加熱処理することを特徴とする炭素繊維束の製造方法
(5)粒径0.3μm以上の微粒子の個数が300〜2500個/リットルである酸化性気体を、アミノ変性シリコーンを含むシリコーン系油剤が付与されたポリアクリロニトリル系繊維束の走行方向と垂直に循環させる熱処理炉で、該ポリアクリロニトリル系繊維束を200〜300℃で加熱処理をするに際し、
[D×(W×V×L)]/[(S/60)×10] (式1)
の値が5〜40である条件下で加熱処理することによって、単糸直径が6〜13μm、以下に定義される繊維束の糸幅が1糸条あたり0.5〜1.0cm、密度が1.34〜1.40g/cmの耐炎化繊維束を得る方法であって、該耐炎化繊維束は、以下に定義される単糸表面に観察されるSi、C、Na、Mg、Al、K、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Znのいずれかを主成分とし、かつ粒径が0.3μm以上である微粒子の個数と、以下に定義される0.3μm以上の単糸表面の傷の個数の合計が観察面積0.1mmあたり15個以下であることを特徴とする耐炎化繊維束の製造方法。
但し、(式1)において、
D:前記熱処理炉内に存在する粒径0.3μm以上の微粒子の濃度[個/リットル]
W:以下に定義される繊維束の幅[cm/ストランド]
V:繊維束を通過する循環熱風の風速[m/秒]
L:繊維束が通過する炉長をL[m]
S:繊維束の炉内通過速度[m/分]である。
(6)前記耐炎化繊維束の単糸の算術平均表面粗さRaが1〜20nm、単糸繊度が0.4〜1.7dtexである(5)に記載の耐炎化繊維束の製造方法。
(7)(5)または(6)に記載の耐炎化繊維束の製造方法で耐炎化繊維束を得た後、不活性雰囲気下、1200℃以上で加熱処理する炭素繊維束の製造方法であって、該炭素繊維束は、耐炎化炉を清掃せずに連続生産する全期間において引張強度が4.7GPa以上、引張弾性率が200GPa以上であることを特徴とする炭素繊維束の製造方法。
(8)(5)または(6)に記載の耐炎化繊維束の製造方法で単糸繊度が1.0dtex以下の耐炎化繊維束を得た後、不活性雰囲気下、1300℃以上で加熱処理する炭素繊維束の製造方法であって、該炭素繊維束は、耐炎化炉を清掃せずに連続生産する全期間において引張強度が5.5GPa以上、引張弾性率が280GPa以上であることを特徴とする炭素繊維束の製造方法。
本発明は、熱処理炉内の微粒子の濃度や耐炎化繊維束の糸幅、風量などを特定の範囲に制御することで、熱処理炉内に存在する粉塵等の微粒子が耐炎化繊維束に付着するのを一定の割合以下に防止することができ、さらに、生産開始から終了までの微粒子付着物と傷の数などの品質に影響する要因を一定の範囲に保つことが可能となり、長期間に安定した耐炎化繊維束の連続生産が可能となる。
また、本発明で得られる耐炎化繊維束を不活性雰囲気下で熱処理して得られる炭素繊維束は、長期間の生産を行っても安定的に高い引張強度を得ることが出来る。
本発明において原料として用いられるポリアクリロニトリル系繊維束は、アクリル系重合体として、アクリルニトリルの単独重合体あるいは共重合体を、有機または無機溶媒を用いて紡糸することで得られる。
本発明で使用されるポリアクリロニトリル系繊維束の製造方法には特に制限がないが、湿式紡糸または乾湿式紡糸が好ましく用いられ、その後、延伸、水洗、油剤付与、乾燥緻密化,必要あれば後延伸などの工程を経て得ることができる。
本発明で使用されるポリアクリロニトリル系繊維束は、耐炎化して耐炎化繊維束を得た際に、単糸の算術平均表面粗さがRaで表して1〜20nmとなることが好ましい。より好ましい耐炎化繊維束の単糸の算術平均表面粗さRaの範囲は2〜15nmである。算術平均表面粗さRaを1nm以上とすることによって、過度の集束性を押さえ単糸同士の接着を防ぐことが可能となる。また20nm以下とすることによって、長期間運転しても糸条が開繊して毛羽立ちし、極端な場合は引張強度が低下することを防ぐことができる。
これらの耐炎化繊維束は、原料として用いられるポリアクリロニトリル系繊維束を製糸する際に、そのポリマー重合度、溶媒濃度、共重合組成を決定した後、口金から凝固浴にポリマーを吐出する際、凝固の実質ドラフト、すなわちポリマーが凝固する際に繊維軸方向に掛かる張力が小さくなる条件を選定した後、通常の延伸、乾燥条件の中から選定して、単糸の算術平均表面粗さが1nm以上、20nm以下のアクリル繊維束を製造し、耐炎化することによって好適に達成される。なお、この耐炎化繊維束を構成する単糸の算術平均表面粗さによって、得られる炭素繊維束の表面粗さも決定されることが一般的である。実質ドラフトを小さくする条件は、乾湿式紡糸によるか、湿式紡糸による場合は,凝固浴からの引取速度と、口金から吐出される重合体の線速度との比、すなわち計算ドラフトを1.0以下好ましくは0.8以下にして達成が可能である。
本発明で使用されるポリアクリロニトリル系繊維束は、単糸繊度が0.4〜1.6dtexであって、フィラメント数が1000〜80000であることが必要である。また、これを用いて得られる耐炎化繊維束の単糸直径が6〜13μmであることが好ましく、単糸の数は12000〜50000本であることが好ましい。
本発明で使用されるポリアクリロニトリル系繊維束に付与されるシリコーン系油剤には、少なくともその一部にアミノ変性シリコーンを含む必要がある。ポリアクリロニトリル系繊維束に付与するシリコーン系油剤の付着量は、好ましくは0.05〜3質量%、より好ましくは0.3〜1.5質量%である。かかるシリコーン系油剤には、さらに界面活性剤、熱安定剤などが加えられていてもよい。また、シリコーン系油剤の種類としては、ジメチルシロキサンならびにそれらを官能基で変性したものが好ましく用いられ、必須成分としてアミノ基で変性したアミノ変性ジメチルシロキサンを含むほか、ポリエチレンオキシド変性ジメチルシロキサンや、エポキシ変性ジメチルシロキサンと混合して用い、熱安定性を増加したものがより好ましい。
シリコーン系油剤は、予め105℃・5時間乾燥した油剤成分を、熱天秤分析によって空気中で、昇温速度10℃/分で240℃まで昇温し、240℃で1時間保持し、雰囲気を窒素に切り替えて10℃/分で昇温して、到達温度450℃・30秒保持した時点での質量保持率が20%以上の安定性を有するものを用いることが、耐炎化での微粒子発生を抑えることが出来るので好ましく、50%以上の安定性を有するものであることがより好ましい。
このようにして得られたポリアクリロニトリル系繊維束を、200〜300℃の所定の温度で熱処理することで耐炎化処理を行う。熱処理炉としては、熱風循環式の横型耐炎化炉が好ましく用いられ、かかる横型耐炎化炉の内側もしくは外側の両端には横方向に糸折り返し用のローラーが多段に設置されている。本発明では、かかる熱処理炉を水平に横断した繊維束が、折り返し用のローラーにより進行方向を逆に変えて、耐炎化炉内の横断を繰り返し、熱風を繊維束の流れと垂直方向に循環させて加熱させることで、ポリアクリロニトリル系繊維束が耐炎化処理される。
このとき、耐炎化繊維束の単糸直径は、炭素繊維束を製造したときに十分な引張強度を発現するために、耐炎化繊維束の単糸繊度は0.4〜1.7dtexであることが好ましく、単糸直径は6〜13μmとすることがより好ましい。また、耐炎化繊維束の密度は1.34〜1.40g/cmであることが好ましい。
耐炎化のための熱処理炉内では、シリコーン系油剤が加熱・酸化されて生成される粉塵などの微粒子や熱処理炉の周辺外気や装置からの金属元素を含む微粒子や粉塵などの微粒子に加えて、シリコーン系油剤やポリアクリロニトリル系繊維束そのものから発生する、タール成分などに由来する粉塵などの微粒子が、炭素繊維束の連続生産により炉内に溜まり、これが品質低下の原因となる。
熱処理炉を循環する熱風には空気などの酸化性気体が用いられる。酸化性気体に存在する上記粉塵などの微粒子は少ないほうが良いが、かかる微粒子は上記の理由により酸化性気体中に絶えず発生、堆積するため、その濃度をゼロにすることは工業的には困難である。一方、熱処理炉内に供給する外気を取り入れる時に濾過することや、装置に使用する金属部分の材質をステンレスなどのさびにくい材質とすることのほか、シリコーン系油剤の使用量を所望の物性が発現する範囲で低く抑えたり、耐熱性が良好なアミノ変性シリコーンを含有するシリコーン系油剤を使用して耐炎化処理でのシリコーン系油剤の分解を抑制したりすることなどにより、上記微粒子濃度を2500個/リットル以下に保つことによって、得られる炭素繊維束の引張強度レベルを高い水準に保つことができる。微粒子濃度をできる限り小さくするためには、循環する酸化性気体の大部分を集塵処理することで可能となるが、熱処理炉内で安定した酸化性気体の風量を確保し繊維束の反応を安全に制御するためには、バイパスで一部エアのみ集塵処理することが望ましく、設備ないし運転コストと安全性との兼ね合いを考慮した上で設計すると良い。かかる観点から、熱処理炉内を循環する酸化性気体に含まれる粒径0.3μm以上の微粒子の濃度を300個/リットル以上であると良い。また、粉塵が繊維束に付着するのを防止するためには、かかる粒径0.3μm以上の微粒子の濃度を、600個/リットル以下に保つことが好ましい。本発明は、耐炎化に使用する酸化性気体に含まれる粒径0.3μm以上の微粒子の濃度を300〜2500個/リットルの範囲、好ましくは300〜600個/リットルの範囲とし、かかる範囲で炭素繊維束の連続生産をせんとするものである。
さらに本発明者らは、耐炎化繊維束に付着した粉塵等の微粒子に着目し、耐炎化繊維束に付着している微粒子の個数とその元素成分に関する詳細な分析を行った結果、シリコーン系油剤由来の微粒子だけでなく、外気由来の粉塵やタール固化物由来の粉塵等の微粒子も炭素繊維束の品質低下に寄与していることを明らかにしたのである。より詳細には、高引張強度の炭素繊維束を得るのに好適な耐炎化繊維束、およびその耐炎化繊維束を用いた炭素繊維束の製造に際し、これら微粒子のうち、粒径が0.3μm以上のもので特定の金属元素が主成分であれば炭素繊維束の品質に悪影響を及ぼすものであることを見出し、これらの微粒子の付着をも防止することで高引張強度の炭素繊維束を安定して製造できることを見出したのである。
また、耐炎化繊維束には、微粒子が付着していない場所に傷が形成されていることが観察されることがあるが、これは、微粒子が耐炎化繊維束に付着し、それが原因で耐炎化繊維束の単糸に傷を生じさせた後に微粒子が脱落したものと考えられ、耐炎化繊維束に付着している微粒子と同様の炭素繊維束の引張強度の低下をもたらしていると推定される。
このような検討結果から、本発明では、熱処理炉内の微粒子濃度D(個/リットル)、被処理物である繊維束の幅をW(cm/ストランド)、熱処理炉内の繊維束を循環熱風が通過する風速をV(m/s)、繊維束が熱処理炉内を通過する総長さをL(m)、繊維束が熱処理炉内を通過する速度をS(m/s)とするとき、
[D×(W×V×L)]/[(S/60)×10] (式1)
が5〜40である条件で加熱(耐炎化)処理する必要がある。
ここで、(式1)における各記号は以下のとおりに定義される。
D:前記熱処理炉内に存在する粒径0.3μm以上の微粒子の濃度[個/リットル]であり、熱処理炉内でサンプリングした値である。
W:繊維束の幅[cm/ストランド]であり、具体的には、被処理糸条の断面を楕円形状に近似し、該糸条を耐炎化時の張力と同じ張力で平板上に静置したときの糸幅を楕円の長径で表した値であって、熱処理炉中で直交する加熱媒体流に接触する繊維束の幅方向の距離である。
V:繊維束を通過する循環熱風の風速[m/秒]であり、供給される熱風の風量を熱処理炉の風向と垂直の断面積で除した値である。
L:繊維束が通過する熱処理炉の炉長[m]であり、熱処理炉全体にある繊維束の総長さである。
S:繊維束の熱処理炉内の通過速度[m/分]であり、炉内通過の入速度と出速度の平均値である。
なお、熱処理炉が2炉以上に分割されている場合、おのおのの炉で式(1)を計算して,それらの和をとった値が5〜40である必要がある。
(式1)の値を40以下にすることで、耐炎化繊維束が熱処理炉内で粉塵等の微粒子に曝される量が少なくなることから、耐炎化繊維束に付着する粉塵等の微粒子の個数や、耐炎化繊維束の単糸表面の傷の個数が減少し、高いレベルで引張強度が安定する炭素繊維束を長期間連続的に生産することが可能となる耐炎化繊維束を得ることができる。
一方、(式1)の値を5以上にすることで、熱処理炉内の熱風風速Vが小さくなりすぎたり、繊維束の糸幅が小さくなりすぎたりして反応熱の除熱作用が失われ、繊維束の温度が無秩序に上昇することによる物性低下、また甚だしい場合の温度が高くなりすぎることによる糸切れを防ぐことができる。また、繊維束の通過速度が大きすぎる場合には、熱処理炉中の繊維束の滞留時間が小さくなるため、耐炎化に必要な熱量供給を確保するために耐炎化温度を高く設定することになる。(式1)の値を5以上にすることで、このような理由による耐炎化繊維束やそれを焼成して得られる炭素繊維束の物性低下や、糸切れ発生を防ぐことができる。(式1)の値はより好ましくは5〜35である。
本発明では、(式1)の値を5〜40に制御する方法としては、下記する方法で測定された粒径0.3μm以上の微粒子の濃度を300〜2500個/リットルとした循環熱風を用いて耐炎化を実施するに際して、繊維束の糸幅、繊維束の炉内通過速度、繊維束の炉内の滞留時間を制御して、上記の値の範囲とすることによって達成できる。具体的には、繊維束の糸幅は、原料として用いられるポリアクリロニトリル系繊維束の、フィラメント数、算術平均表面粗さRaであらわされる単糸表面の平滑度、集束性、耐炎化における、櫛ガイドの形状や、溝付きローラーの形状、張力、糸速、熱処理炉の炉長などを設定することで達成される。好ましい耐炎化繊維束を構成する単糸の算術平均表面粗さRaは1〜20nmであって、上記のとおりに定義される繊維束の好ましい糸幅は0.5〜1.0cm/ストランドである。この糸幅を基礎として、炉長、糸速、滞留時間を決定して(式1)の値を所望の値に設定することができる。好ましい繊維束の炉内通過速度は3〜15m/分、好ましい炉内の滞留時間は25〜120分、より好ましくは40〜80分である。
このようにして得られる耐炎化繊維束は、その単糸表面を観察したときに、Si、C、Na、Mg、Al、K、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Znのいずれかを主成分とする微粒子の個数と、下記する0.3μm以上の単糸表面の傷の個数の合計が観察面積0.1mmあたり15個以下であって、品質が良好な炭素繊維束を得ることができる。これ以外の元素については、その個数が少ないことが望ましいが、炭素繊維束の品質低下にはほとんど影響を及ぼさないので、本発明ではその個数は問わない。
ここで、耐炎化繊維束の単糸に付着した微粒子と傷の個数及び微粒子の元素成分分析は、下記方法で測定したものである。
耐炎化繊維束を、走査型電子顕微鏡を用い3000倍の倍率で単糸表面を観察し(1視野は42μm×32μm)、粒径0.3μm以上の粒子の個数と、0.3μm以上の傷の個数をカウントし、0.1mmあたりの数値を測定する。ここで粒子の粒径とは、粒子を楕円形と近似したときの短径の長さであらわし、傷の大きさも傷を楕円状に近似したときの短径の長さで現す。次に0.3μm以上の粒子について、エネルギー分散型X線分析装置を用いてその元素成分を分析する。なお、1つの粒子が複数の元素から成る場合は、その原子個数濃度が最も高い元素をその主成分とし、Si、C、Na、Mg、Al、K、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Znが主成分であれば微粒子1個とカウントする。
このとき、耐炎化繊維束に付着している微粒子は、直接機械的な作用によって耐炎化繊維束が炭化処理されるときに欠陥を生じる可能性があるだけでなく、上記元素が炭素繊維束の製造過程で耐炎化繊維束を構成する元素と反応して欠陥を生じる可能性があり、また、耐炎化で生じた傷については,それ自体が欠陥であるだけでなく、炭素化の過程で欠陥が成長する可能性があるので、微粒子の個数と傷の個数が炭素繊維束の引張強度に与える影響が大きい。
本発明では、(式1)の値を5〜40に制御することで、耐炎化繊維束が粉塵等の微粒子に曝される機会を問題ない程度に減少させることができる。よって、耐炎化繊維束に付着する微粒子の個数と傷の個数を観察面積0.1mmあたり15個以下に減少させることができ、品質の低下や糸切れ等を起こさず、高いレベルで引張強度が安定する炭素繊維束を長期間連続的に生産することが可能となる。
このようにして得られた耐炎化繊維束を、窒素などの不活性雰囲気下で、最高温度を1200℃以上で焼成し炭素化することによって、耐炎化炉を清掃せずに連続生産する全期間において炭素繊維束の引張強度が4.7GPa以上、引張弾性率が200GPa以上で、引張強度の経時変化の小さい炭素繊維束を製造することができる。 ここで、耐炎化炉を清掃せずに連続生産する全期間というのは、以下のとおりに定義される。すなわち、通常炭素繊維束の製造工程では、アクリル系繊維束が一定の長さに巻かれたパッケージの状態であるか、一定の長さがキャンなどに収納された状態で供給し、一定量が処理されると、一旦設備を停止するか、あるいは停止せずに糸端をつないで、炭素繊維束が連続生産される。そして、品種等の条件によって異なるが、0.5ヶ月〜1年生産を行い、設備を停止して清掃を行ってから,再度生産を開始する。上記の清掃と清掃の間に生産する期間のことを、耐炎化炉を清掃せずに連続生産する全期間とする。すなわち、本発明において、アクリル系繊維束のパッケージまたはキャンの切り替え時間は、清掃を実施しない場合は連続生産期間に含めることとする。
また、上記耐炎化繊維束であって、単糸繊度が1.0dtex以下の耐炎化繊維束を焼成の最高温度を1300℃以上とし、生産開始直後、並びに連続生産後の炭素繊維束の引張強度が5.5GPa以上、引張弾性率280GPa以上の炭素繊維束とすることもより好ましい。さらに耐炎化繊維束の単糸の算術平均表面粗さRaを20nm以下、さらに好ましくは15nm以下とすることで、炭素繊維束の引張強度、引張弾性率をさらに向上させることができ、好ましい。
これらの炭素繊維束は、さらに、マトリックスとの接着性を向上するため、電解処理を行うことも好ましく、得られる炭素繊維束に集束性を付与するため、サイジング処理をして、サイジング剤を付与することもさらに好ましい。
このようにして得られる耐炎化繊維束は、炭素繊維束に転換(焼成)した際のストランド強度に代表される引張強度など品質の経時変化が小さい、安定的な長期間の連続生産が可能となる。
以下に本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。なお、各特性の評価方法・測定方法は下記に記載の方法によった。
<耐炎化繊維束に付着した微粒子と傷の個数及び微粒子の元素成分分析>
耐炎化繊維束を約3cmの長さに切り出し、カーボンテープを用いて動かないように電子顕微鏡用サンプル台に固定した。この際、糸条は薄く均一に拡げ、サンプル台が観察されないように、また、なるべく単糸の重なりがないように固定した。イオンスパッタ(例えば、日立ハイテクノロジーズ社製E−1030)を用いて白金パラジウム合金により30秒間蒸着を行った後、走査型電子顕微鏡(SEM;例えば、日立ハイテクノロジーズ社製S4800)で加速電圧5.0kV、3000倍の倍率で単糸表面を観察し(1視野は42μm×32μm)、粒径0.3μm以上の微粒子の個数と、0.3μm以上の傷の個数をカウントした。ここで粒子の粒径とは、粒子を楕円形と近似したときの短径の長さであらわし、傷の大きさも傷を楕円状に近似したときの短径の長さで現した。それぞれの粒子について、エネルギー分散型X線分析装置(EDX;例えば、堀場製作所製 EMAX Super Xerophy)を用いてその元素成分を分析した。なお、1つの粒子が複数の元素から成る場合は、その原子個数濃度が最も高い元素をその主成分とし、Si、C、Na、Mg、Al、K、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Znが主成分であれば粉塵1個とカウントした。
以上の観察を観察点数1000点にわたり繰り返し行い、観察された粉塵の個数を観察総面積で割り、0.1mmあたりの微粒子個数に換算した。
<ストランド引張強度、引張弾性率>
JIS R 7601(1986)の「樹脂含浸ストランド試験法」に従い測定した。
<微粒子濃度の測定>
微粒子濃度Dは、光散乱式パーティクルカウンタ(例えば、RION社 KC−01E)を用いて測定した。すなわち、試料空気流量0.5リットル/分で34秒の間エアを吸引し、0.1立方フィート(0.283リットル)に含まれる0.3以上0.5μm未満、0.5以上1.0μm未満、1.0以上2.0μm未満、2.0以上5.0μm未満、5.0μm以上の5段階粒子数を同時に計測し、その値をそれぞれD0.3、D0.5、D1.0、D2.0、D5.0(個/0.283リットル)とするとき、以下の換算式によって各粒子の濃度を5.0μmの粒子数に換算した値を使用した。5.0μmの粒子数への換算式=[{D0.3/(5/0.3)}+{D0.5/(5/0.5)}+{D1.0/(5/1.0)}+{D2.0/(5/2.0)}+D5.0]/0.283(個/リットル)
<算術平均表面粗さの測定>
単糸の算術平均表面粗さ(Ra)は次のようにして測定した。測定試料は、長さ数mm 程度にカットした耐炎化繊維束を使用した。銀ペーストを用いて基板(シリコーンウエハ)上に固定し、原子間力顕微鏡(AFM)によって各単糸の中央部において、3次元表面形状の像を得た。原子間力顕微鏡としてはDigital Instuments社製 NanoScopeIIIaにおいてDimension3000ステージシステムを使用した。観測条件は下記条件とした。
・走査モード: タッピングモード
・探針: シリコーンカンチレバー
・走査範囲: 0.6 μm×0.6μm
・走査速度: 0.3Hz
・ピクセル数: 512×512
・測定環境: 室温、大気中
各試料について、単糸1本から1箇所ずつ観察して得られた像について、繊維断面の丸みを3次曲面で近似し、得られた像全体を対象として、算術平均表面粗さ(Ra)を算出した。単糸5本について、算術平均表面粗さ(Ra)を求め平均した。
<シリコーン系油剤の耐熱性測定>
油剤乳化物、あるいは自己乳化性の場合は油剤溶液約1gを105℃で5時間乾燥し、試料15〜20mgを熱天秤装置(TG−DTA)装置にて、下記温度プロフィルで処理した。
空気中で常温から240℃まで、昇温速度10℃/分、その後240℃で1時間保持し、加熱媒体を窒素に切り替えた後10℃/分で昇温し、450℃で30秒保持したときの、常温からの質量保持率を耐熱性の指標とした。加熱媒体の流量は30リットル/分である。これらは、耐炎化と炭化前半の熱履歴をモデル化したものである。
(実施例1〜6、比較例1〜3)
アクリロニトリル99.5モル%とイタコン酸0.5モル%が共重合してなる共重合体を、ジメチルスルホキシドを溶媒とする溶液重合法により製造し、アクリル系共重合体の含有率が22質量%である紡糸原液を得た。この紡糸原液を、40 ℃で、孔数4,000の紡糸口金を用いて一旦空気中に吐出し、約4mmの空間を通過させた後、10℃にコントロールした35% ジメチルスルホキシドの水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸法により凝固させた。この際の計算ドラフトは1.3に設定した。得られた凝固糸を、水洗、延伸、油剤付与した後、乾燥させ、スチーム延伸することで、製糸全延伸倍率を15倍とし、単糸繊度1.1dtex、単糸本数12,000本のポリアクリロニトリル系繊維束を得た。
用いた油剤は、アミノ変性されたジメチルシロキサン油剤成分を、ノニオン系界面活性剤を用いて、水分散系としたものと、ジメチルポリシロキサンをポリエチレングリコールで変性して水溶性にした油剤を純分で等量混合したものを用い、その耐熱性は53%であった。
次いで、炉内温度220〜270℃の横型熱風循環式の耐炎化炉において、表1に示す条件で耐炎化処理を行い、連続生産を行った後、不活性化ガス雰囲気下熱処理して得られた炭素繊維束のストランド特性を測定した。また、耐炎化繊維束の単糸表面に付着した粉塵と傷の個数を電子顕微鏡で測定した。結果を表1に示す。このとき耐炎化繊維束の単糸の算術平均表面粗さ(Ra)を測定すると、5.0nmであった。得られた耐炎化繊維束を最高炭化温度1350℃で炭化し、電解表面処理後サイジングを施して、炭素繊維束を製造した。
実施例1、2については、[D×(W×V×L)]/[(S/60)×10]が5〜40の値を満たし、連続生産後もなお炭素繊維束の引張強度は高く、引き続き生産が継続できる状態であった。また、耐炎化繊維束に付着した粉塵と傷の個数も15個以下であり、良好であった。
実施例3、4については、バグフィルタによって耐炎化炉内の粉塵を集塵し微粒子濃度Dを下げることで、[D×(W×V×L)]/[(S/60)×10]の値は、5〜40の範囲内で、比較例1、2対比大幅に小さくなり、連続生産後の炭素繊維束の引張強度はさらに高く、さらに生産が継続できる良好な状態であった。
実施例5については、炉内を通過させる糸道を変更し炉内を通過する炉長を250mとしたところ、[D×(W×V×L)]/[(S/60)×10]の値は5〜40を満たし、連続生産後もなお炭素繊維束の引張強度は高く、引き続き生産が継続できる状態であった。
実施例6については、糸速を上げることで[D×(W×V×L)]/[(S/60)×10]の値を5〜40となるようにした。糸速が上がると耐炎化炉内滞留時間が短くなり、耐炎化反応が不十分となるおそれがあるため、循環熱風の温度を上げ、十分な耐炎化反応が進行するよう留意し実施した。結果、連続性産後の炭素繊維束の引張強度は5.1GPaと良好であった。
比較例1、2はいずれも[D×(W×V×L)]/[(S/60)×10]の値が40を超えた条件での生産であったが、耐炎化繊維束に付着していた粉塵と傷の個数は46から49個と多く、実施例と同期間連続生産した後の炭素繊維束の引張強度は低かったため、生産を停止して炉内清掃をする必要がある状態であった。
これらの例における炭素繊維束の引張弾性率は230〜235GPaの範囲であった。
また、比較例3では、[D×(W×V×L)]/[(S/60)×10]の値が5未満となるよう、炉内風速を下げることで粒子の付着・傷の発生をさらに防止しようとしたが、糸の除熱が不十分で炉内温度が上昇し、糸切れが多発したため、テストを中止した。
(実施例7、8、比較例4)
以下に記載した以外は実施例1と同様の方法で、油剤をアミノ変性シリコーンとエポキシ変性シリコーンの混合シリコーン分散系の等量混合物を用いて、単糸繊度0.7dtex、単糸本数24,000本のポリアクリロニトリル系繊維束を得たのち、耐炎化反応や炭素繊維束の評価を上記と同様の方法で行った。この混合油剤の耐熱性は、83%であった。このとき耐炎化繊維束の単糸の算術平均表面粗さ(Ra)を測定すると、6.0nmであった。
実施例7では、[D×(W×V×L)]/[(S/60)×10]の値を5以上40以下になるような条件に調整して耐炎化繊維束を作製した。
これらの耐炎化繊維束を最高温度1420℃で炭化後、電解表面処理、サイジング処理して炭素繊維束を製造した。実施例7では、生産開始直後の炭素繊維束の引張強度は6.4GPa、連続生産後の炭素繊維束の引張強度は5.7GPaであり、引張強度の低下は0.7GPaと良好であり、引き続き生産を継続できる状態であった。また、実施例8では、さらに[D×(W×V×L)]/[(S/60)×10]の値を下げるような条件をとり、他は実施例7と同じで生産したところ、炭素繊維束の引張強度の低下は0.5GPaとさらに良好であった。一方で、[D×(W×V×L)]/[(S/60)×10]の値が49と、40を超えた比較例4では、生産開始直後の炭素繊維束の引張強度は6.2GPa、炭素繊維束の連続生産後の引張強度は5.3GPaであり、引張強度の低下は0.9GPaと大きく、耐炎化繊維束の単糸表面に多くの粉塵付着や傷が見られた。
これらの例における炭素繊維束の引張弾性率は293〜296GPaの範囲であった。
(実施例9、比較例5)
アクリロニトリル99.5モル%とイタコン酸0.5モル%が共重合してなる共重合体を、ジメチルスルホキシドを溶媒とする溶液重合法により製造し、アクリル系共重合体の含有率が22質量%である紡糸原液を得た。この紡糸原液を、60 ℃で、孔数4,000の紡糸口金を用いて60℃にコントロールした50%ジメチルスルホキシドの水溶液からなる凝固浴に導入する湿式紡糸法により凝固させた。この際の計算ドラフトは、0.7に設定した。得られた凝固糸を、水洗、延伸、シリコーン系油剤付与した後、乾燥させ、スチーム延伸することで、製糸全延伸倍率を15倍とし、単糸繊度0.7dtex、単糸本数12000本のポリアクリロニトリル系繊維束を得た。
用いたシリコーン系油剤は、アミノ変性されたジメチルシロキサン成分を、非シリコーン系界面活性剤を用いて水分散系としたものを用い、その耐熱性は24%であった。
このようにして得られたポリアクリロニトリル系繊維束を、炉内温度220〜270℃の横型熱風循環式耐炎化炉において、表1に示す条件で耐炎化処理を行い、連続生産を行った後、不活性化ガス雰囲気下熱処理して得られた炭素繊維束のストランド引張強度を測定した。また、耐炎化繊維束の単糸表面に付着した粉塵と傷の個数を電子顕微鏡で測定した。結果を表1に示す。このとき耐炎化繊維束を構成する単糸の算術平均表面粗さ(Ra)を測定すると、23.0nmであった。
実施例9では、糸幅、風速を比較的低く設定し、糸が通過するローラーのいくつかをパスする糸道を作成することで糸が通過する炉長を変更し、[D×(W×V×L)]/[(S/60)×10]の値が5〜40になるような条件にて生産を行ったところ、生産開始直後の炭素繊維束の引張強度が高く、さらに引張強度の低下の幅も小さかった。一方、糸速、風速を比較的高く設定し、[D×(W×V×L)]/[(S/60)×10]の値が40よりも大きい比較例5では特に連続生産を行った後の炭素繊維束の引張強度の低下が大きくなった。
なお、これらの例では、炭素繊維束の引張弾性率は294GPaであった。
Figure 0006064409

Claims (8)

  1. 粒径0.3μm以上の微粒子の濃度が300〜2500個/リットルである酸化性気体を、アミノ変性シリコーンを含むシリコーン系油剤が付与された単糸繊度0.4〜1.6dtex、フィラメント数1000〜80000本のポリアクリロニトリル系繊維束の走行方向と垂直に循環させる熱処理炉で、該ポリアクリロニトリル系繊維束を200〜300℃で加熱処理をするに際し、
    [D×(W×V×L)]/[(S/60)×10] (式1)
    の値が5〜40である条件下で加熱処理することを特徴とする耐炎化繊維束の製造方法。
    但し、(式1)において、
    D:前記熱処理炉内に存在する粒径0.3μm以上の微粒子の濃度[個/リットル]
    W:明細書中に定義される繊維束の幅[cm/ストランド]
    V:繊維束を通過する循環熱風の風速[m/秒]
    L:繊維束が通過する炉長をL[m]
    S:繊維束の炉内通過速度[m/分]
  2. 熱処理炉内を循環する酸化性気体に含まれる粒径0.3μm以上の微粒子の濃度を、集塵装置を用いて300〜600個/リットルに保つ、請求項1に記載の耐炎化繊維束の製造方法。
  3. 請求項1または2に記載の耐炎化繊維束の製造方法で耐炎化繊維束を得た後、不活性雰囲気下、1200℃以上で加熱処理することを特徴とする炭素繊維束の製造方法。
  4. 請求項1または2に記載の耐炎化繊維束の製造方法で単糸繊度が1.0dtex以下の耐炎化繊維束を得た後、不活性雰囲気下、1300℃以上で加熱処理することを特徴とする炭素繊維束の製造方法。
  5. 粒径0.3μm以上の微粒子の個数が300〜2500個/リットルである酸化性気体を、アミノ変性シリコーンを含むシリコーン系油剤が付与されたポリアクリロニトリル系繊維束の走行方向と垂直に循環させる熱処理炉で、該ポリアクリロニトリル系繊維束を200〜300℃で加熱処理をするに際し、
    [D×(W×V×L)]/[(S/60)×10] (式1)
    の値が5〜40である条件下で加熱処理することによって、単糸直径が6〜13μm、明細書中に定義される繊維束の糸幅が1糸条あたり0.5〜1.0cm、密度が1.34〜1.40g/cmの耐炎化繊維束を得る方法であって、該耐炎化繊維束は、明細書中に定義される単糸表面に観察されるSi、C、Na、Mg、Al、K、Ca、Mn、Fe、Co、Ni、Znのいずれかを主成分とし、かつ粒径が0.3μm以上である微粒子の個数と、明細書中に定義される0.3μm以上の単糸表面の傷の個数の合計が観察面積0.1mmあたり15個以下であることを特徴とする耐炎化繊維束の製造方法。
    但し、(式1)において、
    D:前記熱処理炉内に存在する粒径0.3μm以上の微粒子の濃度[個/リットル]
    W:明細書中に定義される繊維束の幅[cm/ストランド]
    V:繊維束を通過する循環熱風の風速[m/秒]
    L:繊維束が通過する炉長をL[m]
    S:繊維束の炉内通過速度[m/分]
  6. 前記耐炎化繊維束の単糸の算術平均表面粗さRaが1〜20nm、単糸繊度が0.4〜1.7dtexである、請求項に記載の耐炎化繊維束の製造方法。
  7. 請求項またはに記載の耐炎化繊維束の製造方法で耐炎化繊維束を得た後、不活性雰囲気下、1200℃以上で加熱処理する炭素繊維束の製造方法であって、該炭素繊維束は、耐炎化炉を清掃せずに連続生産する全期間において引張強度が4.7GPa以上、引張弾性率が200GPa以上であることを特徴とする炭素繊維束の製造方法。
  8. 請求項またはに記載の耐炎化繊維束の製造方法で単糸繊度が1.0dtex以下の耐炎化繊維束を得た後、不活性雰囲気下、1300℃以上で加熱処理する炭素繊維束の製造方法であって、該炭素繊維束は、耐炎化炉を清掃せずに連続生産する全期間において引張強度が5.5GPa以上、引張弾性率が280GPa以上であることを特徴とする炭素繊維束の製造方法。
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