JP6047037B2 - 鋼板形状に優れた高強度冷延鋼板の製造方法 - Google Patents
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Ms=561−474×[C]−33×[Mn]−17×[Ni]−17×[Cr]−21×[Mo]・・・(1)
(a)Cu:1%以下(0%を含まない)および/またはNi:1%以下(0%を含まない)、
(b)Cr:1%以下(0%を含まない)および/またはMo:1%以下(0%を含まない)、
等の元素を含有してもよい。
Ms=561−474×[C]−33×[Mn]−17×[Ni]−17×[Cr]−21×[Mo]・・・(1)
焼鈍工程では、上記成分組成を満足する鋼材をオーステナイト単相域で15〜600秒間均熱して焼鈍を行う。
Ac3(℃)=910−203×[C]1/2+44.7×[Si]−30×[Mn]−11×[Cr]+31.5×[Mo]−20×[Cu]−15.2×[Ni]+400×[Ti]+104×[V]+700×[P]+400×[Al]・・・(a)
一次冷却工程では、焼鈍後、上記焼鈍温度から、650〜800℃の温度域における一次冷却停止温度まで平均冷却速度10℃/秒以下(0℃/秒を含まない)で徐冷する。平均冷却速度10℃/秒以下で徐冷することによって、鋼材内における温度ムラを低減し、鋼板内における温度分布を均一にできる。その結果、後述する三次冷却工程ではマルテンサイト変態による変態歪を均一に導入させることができる。よって、上記特許文献1のように、新たな保持設備を設けなくても、鋼板形状に優れた高強度冷延鋼板を製造できる。
二次冷却工程では、上記一次冷却停止温度から、上記式(1)で算出されるMs点の温度以上、500℃以下の温度域における二次冷却停止温度まで平均冷却速度20〜100℃/秒で冷却する。この二次冷却によって、一次冷却工程で生成したフェライトが成長するのを抑制し、オーステナイトを過冷状態のまま、マルテンサイト変態を起こさせる温度域(Ms点の温度以上、500℃以下の温度域)まで冷却でき、金属組織を適切に制御できる。
三次冷却工程では、上記二次冷却停止温度から室温(27℃)まで平均冷却速度100℃/秒超で急冷する。この温度域を急冷することによって、過冷却状態のオーステナイトをマルテンサイトに変態させることができる。このとき本発明では、上記一次冷却工程で鋼材内の温度ムラを低減し、鋼材内の温度分布を均一にしているため、マルテンサイト変態に伴う変態歪を鋼材内に均一に導入できる。その結果、鋼材の材質が均一となるため、反りが発生し難く、鋼板形状が良好となる。また、マルテンサイトが生成することによって、鋼板の強度を高めることができる。平均冷却速度は、マルテンサイト組織が得られる速度であればよく、好ましくは150℃/秒以上、より好ましくは200℃/秒以上とする。なお、三次冷却工程における平均冷却速度の上限は特に限定されるものではない。
過時効処理工程では、上記三次冷却工程において室温まで冷却した後、150〜300℃の温度域に加熱し、30〜1500秒間保持して過時効処理(低温焼戻し処理)を行う。この温度域で所定時間保持することによって、マルテンサイトを焼戻し、固溶Cが多く、熱的に不安定な焼入れままの鋼材を安定化させることができる。即ち、固溶Cが多量に存在すると熱的に不安定なため、室温で長時間保管している間に固溶Cが炭化物を形成して析出することで鋼板形状が変化したり、鋼板の機械的特性が変化する原因となる。従って本発明では過時効処理を必ず行う必要がある。
本発明の製造方法によれば、過時効処理した後、鋼材の形状修正を目的とする調質圧延を行う必要はないが、鋼材の表面粗度を調整したり、鋼材の材質を調整するために、必要に応じて調質圧延を行っても勿論構わない。
本発明の高強度冷延鋼板は、下記に示す範囲でC、Si、Mn、P、S、Ti、Al、B、およびNを含有するものである。
Cは、鋼板の高強度化に必要不可欠な元素であり、C量が0.1%未満では、鋼板の強度確保と延性との両立が困難となる。従ってC量は0.1%以上、好ましくは0.115%以上、より好ましくは0.120%以上とする。しかしC量が0.20%を超えて過剰になると、引張強度が高くなり過ぎるため、鋼板形状を改善できない。また、引張強度が高くなり過ぎるため、伸びが低下する。また、C量が過剰になると溶接部や熱影響部が著しく硬化し、溶接性が劣化する。従ってC量は0.20%以下、好ましくは0.18%以下、より好ましくは0.17%以下とする。
Siは、フェライトの固溶強化に作用する元素であり、フェライトの硬度を確保すると共に、鋼板の伸びを高めるために作用する元素である。従ってSiは、0.2%以上、好ましくは0.3%以上、より好ましくは0.4%以上とする。しかしSiを過剰に含有すると、赤スケール等の発生により表面性状の劣化や、めっき付着性の劣化やめっき密着性の劣化を引き起こす。従ってSi量は2%以下、好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.4%以下とする。
Mnは、鋼板の強化に作用する元素である。また、硬質相である焼戻しマルテンサイトの生成量を確保するために必要な元素である。従ってMn量は1.0%以上、好ましくは1.3%以上、より好ましくは1.50%以上、更に好ましくは1.7%以上とする。しかしMn量が3%を超えて過剰に含有すると、鋳造性を劣化させるなど生産性を低下させる。従ってMn量は3%以下、好ましくは2.7%以下、より好ましくは2.5%以下とする。
Pは、鋼板を強化し、伸びを高めるために作用する元素であるが、過剰に含有すると、粒界偏析により脆化を引き起こし、衝撃特性を劣化させる。従ってP量は、0.05%以下、好ましくは0.03%以下、より好ましくは0.01%以下とする。
Sは、不可避的に含有する元素であり、MnSなどの硫化物系介在物を形成して耐衝撃性を劣化させたり、溶接部のメタルフローに沿った割れの原因となるので、極力低減させる必要がある。そこで製造コストを考慮し、本発明では、0.01%以下、好ましくは0.007%以下、より好ましくは0.005%以下とする。
Tiは、微細な炭化物や窒化物を形成することによって、結晶粒の微細化と粒成長抑制効果とを発揮させる元素である。また、Tiの微細な炭化物や窒化物は、鋼板内部の拡散性水素をトラップするトラップサイトとして作用し、鋼板の水素脆性感受性を低下させる。また、Tiの微細な炭化物や窒化物は、生成錆を緻密化し、耐食性を向上させるのに作用する。従ってTiは、0.001%以上、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.03%以上とする。しかしTiを過剰に含有すると、炭化物が粗大化し、強度が低下する。従ってTi量は0.2%以下、好ましくは0.15%以下、より好ましくは0.1%以下とする。
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、本発明では、0.01%以上含有させる必要がある。好ましくは0.02%以上、より好ましくは、0.03%以上である。しかしAlを過剰に含有すると、鋼板中にアルミナ等の介在物が多く生成し、鋼板の加工性が劣化する。従ってAl量は0.1%以下、好ましくは0.09%以下、より好ましくは0.08%以下とする。
Bは、オーステナイト粒界からのフェライトの生成、成長を抑制する作用を有している元素であり、鋼板形状を改善するために必要かつ重要な元素である。従ってB量は0.0002%以上、好ましくは0.0005%以上、より好ましくは0.0010%以上とする。しかしBを過剰に含有して0.01%を超えると、加工性が劣化する。従ってB量は0.01%以下、好ましくは0.007%以下、より好ましくは0.005%以下とする。
Nは、不可避的に含有する元素であり、過剰に含有すると窒化物を形成して加工性を劣化させる元素である。特に、鋼板中のBと結合してBN析出物を形成すると、オーステナイト粒界からのフェライト生成抑制作用が充分に発揮されないため、鋼板形状を改善できない。また、BN析出物を形成すると、Bによる焼入れ性向上作用が阻害される。従ってNは0.01%以下、好ましくは0.008%以下、より好ましくは0.006%以下とする。
CuおよびNiは、鋼板の強度を高める作用を有する元素である。こうした作用を有効に発揮させるには、Cuは0.05%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.08%以上、更に好ましくは0.1%以上とする。Niは、0.05%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.08%以上、更に好ましくは0.1%以上とする。しかしCu量が1%を超えると熱間圧延時に表面疵を発生し易くなるなど製造性が悪くなったり、鋼板の加工性が悪くなることがある。従ってCu量は1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.9%以下、更に好ましくは0.8%以下とする。また、Ni量が1%を超えると鋼板の加工性が悪くなることがある。従ってNi量は1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.9%以下、更に好ましくは0.8%以下とする。なお、Cuを単独で含有させると、熱間での脆化を引き起こす懸念があるため、Niと併用することが推奨される。Niは高価な元素であるため、鋼板の強化が必要な場合のみ添加することが推奨される。
CrとMoは、鋼板の強度を高めるのに作用する元素である。また、CrとMoは、強度と延性のバランスを劣化させる炭化物の生成を抑制する作用も有している。特にMoは、溶接熱影響部の軟化防止にも作用する。こうした作用を有効に発揮させるには、Crは0.005%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.05%以上、更に好ましくは0.1%以上とする。Moは0.005%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.01%以上、更に好ましくは0.05%以上とする。しかし過剰に含有すると、鋼板の延性を劣化させる。従ってCrは1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.8%以下、更に好ましくは0.5%以下とする。Moは1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.8%以下、更に好ましくは0.5%以下とする。CrとMoは、夫々単独で、或いは併用して含有させればよい。CrとMoを併用する場合の合計量は、例えば、1.5%以下とすることが好ましく、より好ましくは1%以下とする。
本発明の高強度冷延鋼板は、焼戻しマルテンサイト、残留オーステナイト(以下、残留γと表記することがある。)、フェライト、およびベイナイトを有しており、金属組織全体に対する比率は、下記の通りである。
焼戻しマルテンサイトとは、水焼入れによるマルテンサイト変態完了後に昇温して焼戻しすることにより生成する焼戻された組織を意味する。上記焼戻しマルテンサイトは、鋼板形状を改善し、特性を安定化するために必要な組織である。また、焼戻しマルテンサイトは、硬質相であり、鋼板の高強度化に寄与する。従って上記焼戻しマルテンサイトは、金属組織全体に対して65面積%以上、好ましくは75面積%以上、更に好ましくは85面積%以上、特に好ましくは90.0面積%以上、最も好ましくは100面積%である。
残留γは、成形加工時に変態して硬質なマルテンサイトとなり、鋼板の伸びフランジ性を低下させる。従って残留γはできるだけ低減することが好ましく、5面積%までであれば許容できる。好ましくは3面積%以下であり、より好ましくは2.5面積%以下、最も好ましくは0面積%である。
鋼板形状を改善するには、フェライトをできるだけ低減し、焼戻しマルテンサイトの生成量を増大させる必要がある。また、フェライトが過剰に生成すると、硬質相である焼戻しベイナイトの生成量を確保できず、鋼板の強度が低下する。従ってフェライトは20面積%以下とする必要があり、好ましくは15面積%以下、より好ましくは13.0面積%以下であり、最も好ましくは0面積%である。
ベイナイトは、上記焼戻しマルテンサイトと同様、鋼板の高強度化に寄与する硬質相である。しかしベイナイトが生成する温度域によってその特性は大きく変化し、材質のバラツキを生じさせることがある。従ってベイナイトはできるだけ低減することが推奨され、10面積%までであれば許容できる。好ましくは5面積%以下、より好ましくは3.0面積%以下、最も好ましくは0面積%である。
焼戻しマルテンサイト、フェライト、およびベイナイトの組織分率については、上記焼戻し処理を施した試験片の圧延方向に対して平行な断面を露出させ、鏡面研磨した後、ナイタールによる腐食を施し、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡を用いて板厚に対して1/4位置における金属組織を観察し、写真撮影し、画像解析を行って算出した。各組織の割合は、画像解析装置を用いて撮影した写真を2値化することにより求めた。
過時効処理を施した試験片の圧延方向に対して垂直な方向が長手方向となるように、JIS 5号引張試験片を切り出し、JIS Z2241に基づいて、0.2%耐力(YS)、引張強度(TS)、および破断伸び(EL)を測定した。また、YSとTSに基づいて降伏比(YR)を算出した。結果を下記表3に示す。本発明では、YSが900MPa以上の場合を合格、900MPa未満の場合を不合格とし、TSが980MPa以上の場合を合格、980MPa未満の場合を不合格とし、ELが8.5%以上の場合を合格、8.5%未満の場合を不合格と判定した。本発明では、YSとTSの両方が合格と判定された場合を「高強度」と評価し、ELが合格と判定された場合を「加工性に優れる」と評価した。
鋼板形状は、試験片の大きさを変更した点以外は上記特許文献2の図1と同様にして測定した反り高さに基づいて評価した。反り高さは、焼戻し処理を施した試験片を反りが上になるように定盤上に設置し、触針が測定物上を移動する接触式変位計を用いて測定した。具体的には、幅方向の中心位置および幅方向の両端から25mm離れた位置において鋼板の形状を連続的に測定し、定盤面からの高さの最大値を反り高さとして測定した。測定は、試験片(厚み1.4mm×幅150mm×長さ250mm)の長さ方向の全体に亘って測定した。測定結果を下記表3に示す。本発明では、反り高さが3mm以下で高い平坦度を有している場合を合格、反り高さが3mmを超え、平坦度が低い場合を不合格と判定した。本発明では、反り高さが合格と判定されたものを「鋼板形状に優れる」と評価した。
Claims (3)
- C :0.1〜0.20%(質量%の意味。以下、成分について同じ。)、
Si:0.2〜2%、
Mn:1.0〜3%、
P :0.05%以下(0%を含まない)、
S :0.01%以下(0%を含まない)、
Ti:0.001〜0.2%、
Al:0.01〜0.1%、
B :0.0002〜0.01%、および
N :0.01%以下(0%を含まない)を満足し、
残部が鉄および不可避不純物からなり、
金属組織全体に対する比率は、
焼戻しマルテンサイトは82.8面積%以上、
残留オーステナイトは5面積%以下(0面積%を含む)、
フェライトは20面積%以下(0面積%を含む)、
ベイナイトは10面積%以下(0面積%を含む)を満足する高強度冷延鋼板の製造方法であって、
前記成分組成を満足する鋼材をオーステナイト単相域で15〜600秒間加熱して焼鈍する焼鈍工程と、
焼鈍後、650〜800℃の温度域における一次冷却停止温度まで平均冷却速度10℃/秒以下(0℃/秒を含まない)で徐冷する一次冷却工程と、
前記一次冷却停止温度から下記式(1)で算出されるMs点の温度以上、500℃以下の温度域における二次冷却停止温度まで平均冷却速度20〜60℃/秒で冷却する二次冷却工程と、
前記二次冷却停止温度から室温まで平均冷却速度100℃/秒超で急冷する三次冷却工程と、
150〜300℃の温度域に加熱し、30〜1500秒間保持する過時効処理工程
とをこの順で含むことを特徴とする鋼板形状に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
Ms=561−474×[C]−33×[Mn]−17×[Ni]−17×[Cr]−21×[Mo]・・・(1)
[式(1)において、[ ]は、各元素の含有量(質量%)を意味している。] - 前記鋼材は、更に他の元素として、
Cu:1%以下(0%を含まない)および/または
Ni:1%以下(0%を含まない)を含有する請求項1に記載の製造方法。 - 前記鋼材は、更に他の元素として、
Cr:1%以下(0%を含まない)および/または
Mo:1%以下(0%を含まない)を含有する請求項1または2に記載の製造方法。
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