この発明の基本的思想.
実施の形態の詳細な説明に入る前に、この発明の基本的思想について説明する。もちろん、この基本的思想も本発明に含まれる。
図1は脱調の検出を示すグラフである。上段のグラフは電動機の速度(例えば機械角としての回転角速度)ω及びその指令値たる速度指令ω*を採り、下段のグラフは電動機の電圧指令[vδγ *]の絶対値|[vδγ *]|を採り、いずれも横軸には時間を採る。
記号[]はベクトル量を表し、電動機に同期して回転するδ−γ回転座標系を採用した場合のベクトルを表す(以下同様)。つまり上述の電圧指令[vδγ *]は、電動機に印加される電圧の指令値を、δ−γ回転座標系において表現する。
例えば、「一次磁束制御」として知られている電動機の制御方法では、電動機における空隙磁束と同相にδ軸を設定し、これよりも電動機の制御によって回転させたい方向(以下、単に「回転方向」と称す)に位相を90度進めてγ軸を設定する。但し、本願では必ずしも空隙磁束と同相にδ軸を設定する必要はない。
ここで電動機とは、同期電動機であって界磁磁束が発生するものを指す。界磁磁束は例えば電動機が永久磁石を有している場合には当該永久磁石によって発生するし、電動機が界磁巻線を有している場合には当該界磁巻線に電流が流れることによって発生する。
時刻t0以前では、速度指令ω*、速度ωは0となっており、電動機を駆動する装置、例えばインバータが停止している。なお、速度指令ω*、速度ωの正負の符号については、電動機の機械的負荷が正転している場合に、これら全てを正と定義する。
時刻t0以降ではインバータが動作している状況が示されている。まず時刻t0から時刻t1までの期間では絶対値|[vδγ *]|は正であるが、電動機に回転磁界を発生させない電圧が電動機に印加される。具体的には、電動機に対して直流電流が流れるように電圧指令[vδγ *]が設定される。回転磁界を発生させないように、速度指令ω*は0を維持しており、従って速度ωも0を維持している。
この期間は直流励磁と通称される処理が行われる期間である(以下、「直流励磁期間」と仮称)。直流励磁期間においては、電動機の回転位置が決定される。このため、直流励磁の処理が行われる期間においてはいわゆる位置決めが行われることになる。
その後、時刻t1以降では電動機に回転磁界を発生させる電圧が、電動機に印加される。具体的には、電動機に対して交流電流が流れるように電圧指令[vδγ *]が設定される。
特に時刻t1から時刻t2までの期間においては速度指令ω*が漸増し、時刻t2以降は速度指令ω*が一定値を採る。例えばこの一定値は、電動機に対して所望する回転速度に設定される。時刻t1から時刻t2の期間は、電動機の回転速度を当該所望の回転速度まで、漸増させる期間である(以下「増速期間」と仮称)。また時刻t2以降の期間は電動機の回転速度を当該所望の回転速度に維持する期間である(以下「定速期間」と仮称)。つまり時刻t1以降の期間ではいわゆる速度制御が行われる。直流励磁期間も含め、電動機の制御には、例えばホールセンサ、エンコーダ、レゾルバなどの位置検出器を用いない、いわゆる位置センサレス制御が採用できる。
かかる速度制御を行うべく増速期間において絶対値|[vδγ *]|は漸増する。また定速期間においては絶対値|[vδγ *]|は、その初期において一旦は減少するものの、その後は一定となる。
なお、図1では増速期間において絶対値|[vδγ *]|はその初期において一旦は減少する状況が例示されている。これは増速期間の初期から最大トルク制御を行う場合を示している。例えば増速期間の初期において強め磁束制御を行ってもよい。その場合には、図示されたような絶対値|[vδγ *]|が一時的に減少する現象は生じない。
正常な動作では速度ωは速度指令ω*に追従し、ω=ω*となる(グラフg1参照)。しかし、電動機が脱調していると、速度ωは速度指令ω*に追従することなく非常に低い速度ωa(例えば速度0)を採る(グラフg2参照)。
速度制御を行っている際に電動機が脱調していると速度ωが小さいので、いわゆる電動機の逆起電力が小さくなり、電動機が正常な動作を行っている場合と比較して絶対値|[vδγ *]|は小さく設定されることになる。例えば電動機が脱調している場合および電動機が正常な場合の絶対値|[vδγ *]|の振る舞いを、それぞれグラフg3,g4で示した。
そこで、直流励磁期間が経過した後の増速期間あるいは定速期間の絶対値|[vδγ *]|を、閾値|[vth]|と比較することにより、脱調を検出することができる。なお、電圧指令[vδγ *]と(ベクトルとしての)閾値(以下「閾値ベクトル」と仮称)[vth]とを、δ軸、γ軸毎に比較してもよい。また、δ軸とγ軸のいずれか一方のみを比較しても良い。例えば空隙磁束と同相にδ軸を設定した場合には、空隙磁束による逆起電力が生ずるγ軸のみを比較しても良い。
しかしながら電圧指令[vδγ *]は、電動機が有する電機子巻線の抵抗成分や、パワーモジュールにおいて採用されるインバータの動作、具体的にはそのスイッチング(特にいわゆるデッドタイムと称される非導通期間や、インバータを構成するスイッチング素子のオン抵抗並びにそのスイッチング時間(例えばオン時間やオフ時間))の影響を受ける。換言すればこれらの抵抗成分、スイッチングのバラツキは、電圧指令[vδγ *]のバラツキを招来する。よって閾値ベクトル[vth]を当該バラツキに依存して適切に設定すれば、電動機が脱調しているか否かの判定が、当該バラツキの影響を受けにくくなる。
以下、本発明において、閾値ベクトル[vth]を当該バラツキを考慮して適切に設定することができることを説明する。
δ−γ軸回転座標系における電動機の電圧方程式は、δ軸及びγ軸の速度ω1、微分演算子p、電動機に印加される電圧[vδ vγ]t(以下[vδγ]とも表記する:括弧の後の上付の“t”は行列の転置を示す。特に断らない限り、記号[]内で先に示された要素はδ軸成分を、後に示された要素はγ軸成分を、それぞれ表す)、電動機に(より詳細には電動機が有する電機子巻線に)流れる電流[iδ iγ]t(以下[iδγ]とも表記する)、空隙磁束[λδ λγ]t(以下[λδγ]とも表記する)、電動機の界磁磁束の絶対値(以下「界磁磁束量」と仮称)Λ0、電機子巻線の抵抗成分R、電動機のインダクタンスのd軸成分(以下「d軸インダクタンス」と仮称)Ld及びq軸成分(以下「q軸インダクタンス」と仮称)Lq、d軸に対するδ軸の位相角φを導入して次式(1)で示される。但し、d軸を界磁磁束と同相に設定し、q軸はd軸に対して、回転方向に向かって位相が90度進む。また[I],[J],[C]及びそれらの要素を囲む記号[]は行列を示す。
なお、空隙磁束[λδγ]は一次磁束とも称され、界磁磁束と、電流[iδγ]によって発生する電機子反作用の磁束との合成である。
さて、直流励磁期間においては回転磁界は発生せず、空隙磁束[λδγ]は変動しないので、その微分は0である。また電動機が回転しないので速度ωも0である。よって、式(1)から、電圧[vδγ]は抵抗成分Rと電流[iδγ]のみで決定されることが判る。よって直流励磁期間においては、速度ωの影響はもとより、電動機において空隙磁束[λδγ]に影響を与える機器定数たる界磁磁束量Λ0、d軸インダクタンスLd及びq軸インダクタンスLqの影響を受けない。つまり電動機の逆起電力の影響を受けない。
よって直流励磁期間において電動機に印加される電圧についての誤差は、抵抗成分R、電流[iδγ]、及びインバータのスイッチングに依存することとなる。一般的に、抵抗成分R及びインバータのスイッチングのばらつきに由来する誤差に比べ、電流[iδγ]のばらつきに由来する誤差は小さい。また直流励磁期間においては、抵抗成分Rに由来する誤差は、インバータのスイッチングに由来する誤差に比べて小さい。
よって増速期間、定速期間における電圧指令[vδγ *]のバラツキは、直流励磁期間において電動機に印加される電圧についての誤差で見積もることができる。そこでまず電圧誤差[Δvδγ]を次式(2)で計算する。
ここで直流励磁期間(即ちω=0)において誤差を見積もるための時点(以下「誤差測定時」と仮称)の電圧指令[vδγ *]、電圧[vδγ]を、それぞれ第1電圧指令[vδγ0 *]、第1電圧[vδγ0]として表した。
さて、速度指令ω*、若しくは速度ωの推定値(例えばω1/n、nは電動機の極数)が直流励磁期間の後で脱調の有無を判定する判定時(図1では時刻t3として例示)において値ω2(>0)を採るとする。この判定時の電圧[vδγ]の推定値たる第1推定値[vδγ1]は、抵抗成分Rやスイッチングのバラツキを無視すれば、式(1)に則って次式(3)で表される。
なお、判定時に電動機に流れる電流[iδγ1]、空隙磁束の指令値[λδγ *]=[λδ * λγ *]tを導入した。いわゆる一次磁束制御が採用されるときにはλγ *=0が採用される。但し、この発明は一次磁束制御が採用される場合に限らず適用できる。即ちλγ *=0とする必要はない。
また、制御系では抵抗成分Rは実測されないので、機器定数として設定された設定値Rcでこれを代用する。
さて、電圧指令[vδγ *]の増速期間、定速期間における電圧指令[vδγ *]のバラツキは速度ωに拘わらず電圧誤差[Δvδγ]で見積もられるのであるから、これを考慮した電圧[vδγ]の推定値として次式(4)で求められる第2推定値[vδγ2]を求める。
かかる第2推定値[vδγ2]を電圧指令[vδγ *]が採用するときは、脱調無く電圧指令[vδγ *]と電圧[vδγ]とが一致する理想的な場合である。そこで、脱調の判定にはマージンを持たせる必要がある。よって閾値ベクトル[vth]は、第2推定値[vδγ2]よりも小さく、零ベクトル[0]=[0 0]tよりも大きく設定することになる。具体的には0より大きく1未満の係数mを用いて、閾値ベクトル[vth]は次式(5)で設定される。
以上のようにして得られた閾値ベクトル[vth]と、電圧指令[vδγ *]とを比較することにより、脱調の有無の判定は、電機子巻線の抵抗成分や、インバータのスイッチングの影響を受けにくくなる。
例えば、定速期間という電圧指令[vδγ *]がほぼ一定となる状態で脱調の有無を判断してもよい。この場合には式(3),(4),(5)に鑑み、ω2=ω*として第1推定値[vδγ1]、引いては第2推定値[vδγ2]、閾値ベクトル[vth]が(係数mを固定する限り)一定となる。
第1の実施の形態.
図2は上記の考え方に基づいて、本実施の形態にかかる電動機制御装置1の構成及びその周辺装置を示すブロック図である。
電動機3は三相の電動機であり、不図示の電機子と、界磁たる回転子を備える。技術的な常識として、電機子は電機子巻線を有し、回転子は電機子と相対的に回転する。界磁は例えば界磁磁束を発生させる磁石を備える場合について説明される。
電圧供給源2は例えば電圧制御型インバータ及びその制御部を備え、入力する直流電圧vdcを、三相の電圧指令[vx *]=[vu * vv * vw *]tに基づいて三相電圧vu,vv,vwへ変換する。よって電圧供給源2はインバータ電源として把握される。
三相電圧vu,vv,vwは電動機3に印加される。これにより、電動機3には三相電流[ix]=[iu iv iw]tが流れる。但し、電圧指令[vx *]や三相電流[ix]が有する成分は、例えばU相成分、V相成分、W相成分の順に記載されている。
電動機制御装置1は、電動機3に対し、速度ωを制御する装置である。
電動機制御装置1は、座標変換部101,104と、電圧指令計算部102と、減算器105と、積分器106と、ハイパスフィルタ107と、定数倍部108と、判定部109とを備えている。
座標変換部101は、三相電流[ix]を、δ−γ回転座標系における電流[iδγ]に変換する。座標変換部104は、δ−γ回転座標系における電圧指令[vδγ *]を電圧指令[vx *]に変換する。これらの変換には電動機3についての固定座標系(例えばUVW固定座標系)に対するδ−γ回転座標系の回転角θが用いられる。これらの変換は周知の技術で実現されるので、ここではその詳細を省略する。
なお、電圧指令[vx *]や三相電流[ix]は、三相のUVW固定座標系の他、いわゆるαβ固定座標系(例えばα軸はU相と同相に設定される)や他の回転座標系で表されていてもよい。座標変換部101,104はこれらの座標系に対応した変換を行う。電圧指令[vx *]について採用される座標系は、電圧供給源2がどのような座標系に基づいて動作するかによって決定される。電圧供給源2と座標変換部104とは纏めて、電圧指令[vδγ *]に基づいて電動機3に電圧vu,vv,vwを印加する電動機駆動部と把握することができる。
積分器106は速度ω1に基づいて回転角θを計算する。速度ω1は、減算器105の出力として得られる。例えば一次磁束制御を行っていれば、電流[iδγ]のγ軸成分iγをハイパスフィルタ107で直流分を除去し、さらに定数倍部108で所定ゲインKm倍した値が、減算器105によって速度指令ω*のn倍の値n・ω*から差し引かれて、速度ω1が得られる。電動機3が正常に動作し、かつ空隙磁束[λδγ]が適切に制御されれば、ω1=n・ω*となる(速度ω及び速度指令ω*は機械角における量であり、速度ω1は電気角における量であるため)。値n・ω*は乗算器110においてnと速度指令ω*との乗算で求められる。
電圧指令計算部102は電圧指令[vδγ *]の他、「基本的思想」で述べた閾値ベクトル[vth]を出力する。判定部109は電圧指令[vδγ *]と閾値ベクトル[vth]とを比較し、電動機に異常が、例えば脱調が発生しているか否かを示す判定信号Zを出力する。
図3は電圧指令計算部102の構成を示すブロック図である。電圧指令計算部102は、電圧誤差計算部1021、電圧誤差記憶部1023、電圧指令生成部1024、加算器1025、電圧指令出力制限部1026、乗算器1027、電圧指令生成部1028を備える。
電圧誤差計算部1021は電流[iδγ]、電圧指令[vδγ *]を入力し、誤差ベクトル[y]を出力する。誤差ベクトル[y]は電圧指令[vδγ *]から電圧[vδγ]を減じたベクトルであり、ω1=0のときに式(2)の右辺に相当する。
通常、抵抗成分Rのバラツキは、インバータのスイッチングによる電圧のバラツキよりも、電圧誤差に与える影響が小さい。よって抵抗成分Rとして設定値Rcを用いて、電圧[vδγ]を、電流[iδγ]と設定値Rcとの積として推定することができる。
従って電圧誤差計算部1021においては次式の計算が行われ、誤差ベクトル[y]が得られる。
図4は電圧誤差計算部1021の構成を例示するブロック図である。電圧誤差計算部1021は乗算部1021Aと減算部1021Bとを備える。乗算部1021Aには設定値Rcが記憶されており、これと電流[iδγ]との積を計算して電圧[vδγ]を求める。減算部1021Bは電圧[vδγ]を電圧指令[vδγ *]から減じて誤差ベクトル[y]を求める。
電圧誤差記憶部1023は信号ENが活性化しているときの誤差ベクトル[y]の値を記憶する。ここで信号ENを、誤差測定時、つまり直流励磁期間のある時点でのみ活性化させることにより、電圧誤差記憶部1023は誤差ベクトル[y]を電圧誤差[Δvδγ]として記憶することになる。かかる信号ENの生成についてはこの発明には直接には拘わらないので、詳細な説明を省略する。
電圧指令生成部1024は電流[iδγ]、空隙磁束の指令値[λδγ *]、推定速度ω1を入力し、式(3)に則って求められる第1推定値[vδγ1]を出力する。
加算器1025は電圧誤差[Δvδγ]と第1推定値[vδγ1]を入力し、式(4)に則って求められる第2推定値[vδγ2を出力する。つまり加算器1025は第1推定値に対して誤差を導入して第2推定値を求める誤差導入部として機能する。
乗算器1027は第2推定値[vδγ2]に対して係数mを乗算し、式(5)に則って求められる閾値ベクトル[vth *]を出力する。
電圧指令生成部1028は電流[iδγ]と設定値Rcとd軸インダクタンスLd及びq軸インダクタンスを用い、公知の方法で位相φを求め、式(1)に基づいて電圧指令[vδγ *]を求める。但し位相φの推定には例えば制御タイミングが一つ前の時点での電圧指令を採用してもよい。
判定部109は、閾値ベクトル[vth]と電圧指令[vδγ *]との比較、あるいは閾値ベクトル[vth]の絶対値|[vth]|と電圧指令[vδγ *]の絶対値|[vδγ *]|との比較を行って、判定信号Zを出力する。
電圧指令出力制限部1026は判定信号Zと電圧指令[vδγ *]とを入力する。判定信号Zが脱調を示すとき以外は、電圧指令出力制限部1026は電圧指令[vδγ *]をそのまま出力する。判定信号Zが脱調を示すときには、電圧指令出力制限部1026は電圧指令[vδγ *]に代えて停止指令Sを出力し、電圧供給源2の動作を停止する。これにより脱調の状態のままで電動機3を駆動することが回避できる。
第2の実施の形態.
第2の実施の形態では誤差ベクトル[y]の他の態様を説明する。
電圧誤差[Δvδγ]は電流[iδγ]と同相、若しくは逆相となる。よって電流[iδγ]の絶対値(大きさ)|[iδγ]|で電流[iδγ]を除すことにより、電流[iδγ]と同相の単位ベクトルが得られること、直流励磁期間は電圧指令[vδγ *]と電流[iδγ]が同相となることに鑑みて、式(2)から式(7)が導かれる。但し誤差測定時における電流[iδγ]を値[iδγ0]で表し、判定時における電流[iδγ]を値[iδγ1]で表した。
図5は、式(7)に則って誤差ベクトル[y]を求める、電圧誤差計算部1021の構成を例示するブロック図である。
電圧誤差計算部1021は、絶対値取得部1021a,1021d、乗算器1021b,1021f、除算器1021e、減算器1021cを備える。
絶対値取得部1021aは電流[iδγ]を入力し、その大きさたる絶対値|[iδγ]|を出力する。乗算器1021bは設定値Rcと絶対値|[iδγ]|とを入力し、両者の積を出力する。
絶対値取得部1021dは電圧指令[vδγ *]を入力し、その大きさたる絶対値|[vδγ *]|を出力する。
減算器1021cは乗算器1021bから得られた積を絶対値|[vδγ *]|から減じて電圧誤差の大きさ(以下「電圧誤差量」と仮称)Δv’δγを得る。
除算器1021eは電圧誤差量Δv’δγを被除数とし、絶対値|[vδγ *]|を除数とする商を得る。
乗算器1021fは、当該商と電流[iδγ]との積を採って誤差ベクトル[y]を出力する。
このように構成された電圧誤差計算部1021を用いて得られた誤差ベクトル[y]は、誤差測定時において、式(7)に則った電圧誤差[Δvδγ]と一致することは明白である。
よって本実施の形態においても、電圧誤差[Δvδγ]を用いて第1の実施の形態と同様に脱調の有無を判定することができる。
なお、電流[iδγ]の誤差測定時における値[iδγ0]と、判定時における値[iδγ1]とは異なり得る。本実施の形態では式(7)で示されるように、電圧誤差[Δvδγ]の位相として、判定時における値[iδγ1]の位相と同相(電圧誤差量Δv’δγ が正のとき)または逆相(電圧誤差量Δv’δγ が負のとき)を採用する。これは換言すれば、電圧誤差[Δvδγ]は、位相が不定であって電圧誤差量Δv’δγ の大きさをもつ電圧誤差を、判定時における値[iδγ1]の位相で補正すると把握することができる。
このような補正により、判定時において電動機に流れる電流の位相を考慮した電圧誤差[Δvδγ]、引いては閾値ベクトル[vth]を得ることができ、第1の実施の形態よりも本実施の形態の方が適切に脱調の有無を判定することができる。
第3の実施の形態.
本実施の形態では抵抗成分Rの推定値R^を用いて電圧誤差量Δv’δγを求める。本実施の形態では誤差測定時は、直流励磁期間中の異なる一対の時点たる第1時点及び第2時点において設定される。よって直流励磁期間における電圧指令として第1時点及び第2時点において第1電圧指令[vδγ01 *]、第2電圧指令[vδγ02 *]が設定される。但し第1電圧指令[vδγ01 *]、第2電圧指令[vδγ02 *]は大きさが異なる。第1時点及び第2時点において電流[iδγ]はそれぞれ第1電流[iδγ01]、第2電流[iδγ02]を採る。第1時点においても第2時点においても電圧誤差[Δvδγ]は維持されるので、次式(8)が成立する。
但し、[vδγ01 *]=[vδ01 * vγ01 *]t,[vδγ02 *]=[vδ02 * vγ02 *]t,[iδγ01]=[iδ01 iγ01]t,[iδγ02]=[iδ02 iγ02]tである。また直流励磁期間においては抵抗成分Rの温度変化は非常に小さいと考えられるので、第1時点と第2時点での抵抗成分Rは等しいと考える。
第2の実施の形態で述べたように、電圧誤差[Δvδγ]は電流[iδγ]と同相、若しくは逆相となる。よって式(8)から次式(9)が導かれ、推定値R^及び電圧誤差量Δv’δγが求められる。
つまり推定値R^は、第1電流[iδγ01]の大きさから第2電流[iδγ02]の大きさを差し引いた値で、第1電圧指令[vδγ01 *]の大きさから第2電圧指令[vδγ02 *]の大きさを差し引いた値を除した値である。また電圧誤差量Δv’δγ は、第1電圧指令[vδγ01 *]の大きさから、推定値R^と第1電流[iδγ01]の大きさとの積R^・|[iδγ01]|として求められる電圧を引いた値である。
このようにして求められた電圧誤差量Δv’δγを用いて、第2の実施の形態と同様にして、電圧誤差[Δvδγ]は次式(10)で与えられる。
図6は、式(8),(9),(10)に則って誤差ベクトル[y]を求める、電圧誤差計算部1021の構成を例示するブロック図である。
電圧誤差計算部1021は、電流記憶部1021g、電圧指令記憶部1021h、絶対値取得部1021a,1021i、乗算器1021f、除算器1021e、抵抗成分計算部1021j、電圧誤差量計算部1021kを備える。
絶対値取得部1021a、除算器1021e、乗算器1021fの処理は第2の実施の形態におけるこれらの処理と同じである。但し電圧誤差量Δv’δγの求め方は式(9)に則る。
電流記憶部1021g、電圧指令記憶部1021hには、いずれも信号EN1,EN2が入力する。信号EN1,EN2はそれぞれ第1時点、第2時点で活性化する。信号EN1,EN2の活性化に応答し、電流記憶部1021gは第1時点及び第2時点のそれぞれにおける電流[iδγ]の値(これはそれぞれ第1電流[iδγ01]、第2電流[iδγ02]に相当する)を記憶する。電圧指令記憶部1021hは第1時点及び第2時点のそれぞれにおける電圧指令[vδγ *]の値(これはそれぞれ第1電圧指令[vδγ01 *]、第2電圧指令[vδγ02 *]に相当する)を記憶する。
絶対値取得部1021iは、第1電流[iδγ01]、第2電流iδγ02]、第1電圧指令[vδγ01 *]、第2電圧指令vδγ02 *]を入力し、それぞれの絶対値|[iδγ01]|,|[iδγ02]|,|[vδγ01 *]|,|[vδγ02 *]|を出力する。
抵抗成分計算部1021jは絶対値|[iδγ01]|,|[iδγ02]|,|[vδγ01 *]|,|[vδγ02 *]|を用いて、式(9)に従って抵抗成分Rの推定値R^を計算する。
電圧誤差量計算部1021kは推定値R^と値|[iδγ01]|,|[vδγ01 *]|とを用いて、式(9)に従って電圧誤差量Δv’δγを求める。
本実施の形態では電圧誤差量Δv’δγの計算における抵抗成分Rとして、設定値Rcではなく、実際に採用される第1電圧指令[vδγ01 *]、第2電圧指令[vδγ02 *]、第1電流[iδγ01]、第2電流[iδγ02]に基づいて推定される推定値R^を用いるので、第1の実施の形態や第2の実施の形態よりも抵抗成分Rのバラツキを考慮した閾値ベクトル[vth]を得ることができる。よって、より適切に脱調の有無を判定することができる。
第4の実施の形態.
電圧誤差[Δvδγ]、引いては電圧誤差量Δv’δγは、第2の実施の形態で述べたように、インバータのスイッチングによる影響が大きい。そして当該スイッチングによる影響はインバータに入力する直流電圧vdcに依存する。抵抗成分Rのバラツキを無視すれば、電圧誤差量Δv’δγは直流電圧vdcに比例して大きくなる。
よって電圧誤差量Δv’δγは、直流電圧vdcに基づいて補正することが望ましい。具体的には、直流電圧vdcが誤差測定時において値vdc0を採り、判定時には値vdc1を採ると表現して、次式(11)で補正後の電圧誤差量Δv”δγを求める。
この場合、式(10)と同様にして、次式(12)で電圧誤差[Δvδγ]を採用する。
このような補正は、電圧比vdc1/vdc0を乗算する処理として把握される。よってかかる補正は第1乃至第3の実施の形態のいずれにおいても適用可能であり、例えば誤差ベクトル[y]に対して、電圧比vdc1/vdc0を乗算する処理を行えばよい。
あるいは第2の実施の形態に即して言えば、減算器1021cから除算器1021eを経由して乗算器1021fに至る経路における値に対して、電圧比vdc1/vdc0を乗算する処理を行えばよい。
あるいは第3の実施の形態に即して言えば、絶対値取得部1021aから乗算器1021fに至る経路、あるいは抵抗成分計算部1021jから乗算器1021fに至る経路における値に対して、電圧比vdc1/vdc0を乗算する処理を行えばよい。
本実施の形態では直流電圧vdcの変動を考慮した閾値ベクトル[vth]を得ることができる。よって、第1の実施の形態、第2の実施の形態、第3の実施の形態よりも適切に脱調の有無を判定することができる。
第5の実施の形態.
第4の実施の形態で説明されたように、電圧誤差量Δv’δγは直流電圧vdcに比例して大きくなる。よって、比例係数kを導入して電圧誤差量Δv’δγは次式(13)で表すことができる。
電圧誤差[Δvδγ]は電流[iδγ]と同相、若しくは逆相となるので、抵抗成分Rの変動を無視して次式(14)が連立して成立する。
よって式(14)を繰り返し計算し、抵抗成分R及び係数kの少なくともいずれか一方の変動がそれぞれ所望の範囲内に収まったときの係数kを用いて式(14)から電圧誤差量Δv’δγを求めることができる。
このようにして得られた電圧誤差量Δv’δγを、第2の実施の形態や第3の実施の形態と同様にして用い、脱調の有無を判定することができる。しかも第4の実施の形態と同様に、直流電圧vdcの変動を考慮した閾値ベクトル[vth]を得ることができるので、第1の実施の形態、第2の実施の形態、第3の実施の形態よりも適切に脱調の有無を判定することができる。
上記の種々の実施の形態は、互いの機能を損なわない限り、適宜に組み合わせることができる。
上記のブロック図は模式的であり、各部はハードウェアで構成することもできるし、ソフトウェアによって機能が実現されるマイクロコンピュータ(記憶装置を含む)で構成してもよい。各部で実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。