JP5906994B2 - アルミニウム合金部材の面ろう付け方法 - Google Patents
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Description
このような線接触を基本とするろう付け技術においては、ろう付け加熱中の酸化を抑制するため、大気中または不活性ガス雰囲気中においてフラックスを使用してろう付けすることが一般的に行なわれている。
これによると、クラッド材を使用しないろう付け法に従い、ろうの流動性が良好で優れたフィレットを形成でき、強度にも優れたろう付け用アルミニウム材が提供される。
例えば特許文献2には、Cu:23〜37質量%,Si:4〜10質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成と10〜100μmの平均粒径を有する粉末状アルミニウム合金ろう材と、固形分として11質量%以上のCsFを含むフッ化物系フラックスとを分散媒に懸濁させたアルミニウム合金ろう材スラリーを、ろう付けされるアルミニウム合金鋳物又は他方の被ろう付け部材のろう付け部表面に塗布した後、アルミニウム合金ろう材スラリーが塗布されたろう付け部に他方の被ろう付け部材を組み付け、その組み付け体を加熱することを特徴とするアルミニウム合金鋳物のろう付け方法が提唱されている。
この方法によると、濡れ性及び耐食性に強いろう材を使用して、炉内ろう付けでも健全な接合部が得られるアルミニウム合金鋳物の低温ろう付け方法が提供される。
例えば引用文献3には、質量%で、Mgを0.1〜5.0%、Siを3〜13%含有するAl−Si系ろう材が最表面に位置するアルミニウムクラッド材を用いて、減圧を伴わない非酸化性雰囲気で、前記Al−Si系ろう材とろう付け対象部材とを接触密着させて加熱し、前記芯材と前記ろう付け対象部材とを接合する方法が提示されている。
この方法によると、フラックスや真空設備を必要とせずに大気圧下でのフラックスレスろう付けが可能になり、ろう材以外の被ろう付け構成部材へMgを添加した場合にもろう付け阻害要因とはならないとのことである。
そこで、本発明者等は、従来技術に比べ低コストで品質の安定した面ろう付け法について鋭意検討を重ねる過程で、特許文献4に示されるような単層ブレージングシートによって2つのアルミニウム合金部材同士を不活性ガス雰囲気下において無フラックスで面ろう付けする技術を提案した。
本発明は、このような課題を解決するために案出されたものであり、単層ブレージングシートによって2つのアルミニウム合金部材同士を面ろう付けするとともに、さらにろう付け面の周縁に健全なフィレットを形成できる面ろう付け法を提供することを目的とするものである。
また、前記ろう付け面の周縁から0.5〜35mmの範囲で離間した領域にフラックスを塗布することが好ましい。
さらに、前記フラックスの塗布量は、2〜40g/m2とすることが好ましい。
2層又は3層以上のクラッド材からなるブレージングシートを用いるのではなく、単層のブレージングシートを用いているため、全体として低コスト化が図れる。また、単層ブレージングシートとアルミニウム合金部材とのろう付け面にフラックスを塗布せずに、2つのアルミニウム合金部材間に面圧を付加してろう付けしているため、両アルミニウム合金部材間に発生しやすい空隙欠陥等を抑制することができ、結果として品質の安定した面ろう付けが行える。さらに、平面視で面積の大きい一方のアルミニウム合金部材の表面であって、ろう付け面の周縁から離間した領域にフラックスを塗布しているため、ろう付け面の周縁に健全なフィレットを形成することができる。
また、従来の無フラックス面ろう付け法では、2層又は3層以上のクラッド材をブレージングシートとして用いているためにコスト高となっている。さらに、従来の無フラックス面ろう付け法では、無フラックスであるがゆえに溶融したろう材がアルミニウム合金部材同士の間から流れ出してしまい、ろう付け面の周縁に健全なフィレットが形成されにくいといった問題があった。
そこで、本発明者等は、ろう材の表面及びアルミニウム合金部材のろう付け面にフラックスを塗布することなしに、従来技術に比べ低コストで品質が安定し、ろう付け面の周縁に健全なフィレットを形成できる面ろう付け法について鋭意検討を重ねる過程で、本発明に到達した。
以下にその詳細を説明する。
2つのアルミニウム合金部材のうち、一方のアルミニウム合金部材がアルミニウム合金板であってもよいし、両方ともアルミニウム合金板であっても構わない。例えばアルミニウム合金製の部品同士が連結できるように係合部を設けて、当該係合部に単層ブレージングシートを挟み込める部位を設けるようにしてもよい。要するに本発明において、被接合材はアルミニウム合金板に限定されず、少なくとも一部にろう付け可能な平滑面を有するアルミニウム合金製のものであれば何であってもよい。
被接合材であるアルミニウム合金部材の固相線温度が610℃に満たないものである場合、ろう付け加熱中に、アルミニウム合金部材の一部が溶解し、付加している圧力のためにアルミニウム合金部材そのものが変形してしまう可能性がある。
より好ましいアルミニウム合金部材の固相線温度は615℃以上である。さらに好ましいアルミニウム合金部材の固相線温度は620℃以上である。
そこで、まず、ろう材及びそれを薄板としたブレージングシートについて説明する。
ろう材として、Si:3.0〜12質量%、Mg:0.1〜0.35質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる成分組成を有する合金を用いる。
Siは、その含有量によって単層ブレージングシートの液相線の温度を下げるとともに、面ろう付け中の濡れ性を改善するための元素である。ろう材に含まれるSi量が、3.0質量%未満であると、単層ブレージングシートの液相線の温度が高くなりすぎて、所定のろう付け温度に到達しても単層ブレージングシートの溶解が不十分となり、十分なろう付け強度が得られない可能性がある。ろう材に含まれるSi量が、12質量%を超えると、鋳造中に鋳塊中央部に初晶Siが析出(晶出)する可能性が高くなり、仮に健全な熱延板が得られたとしてもミクロ的に均質な組織の単層ブレージングシートを得ることが困難となる。
したがって、ろう材のSi含有量は、3.0〜12質量%の範囲とする。より好ましいSi含有量は、4.0〜12質量%の範囲である。さらに好ましいSi含有量は、5.0〜12質量%の範囲である。
Mgは、自らが酸化されることにより、還元剤として作用するため、ろう付け加熱によるアルミニウム合金板と単層ブレージングシートのろう材との界面におけるアルミニウムの酸化を抑制し、面ろう付け中の濡れ性を改善するための元素であると考えられる。
ろう材に含まれるMg量が0.1質量%未満であると、ろう付け温度などにもよるが、その効果が不十分となり、十分なろう付け強度が得られない可能性がある。ろう材に含まれるMg量が0.35質量%を超えると、ろう付け加熱中に、ろう付け面の周縁にまで拡散した溶融フラックスが溶融ろう材に接触し、ろう材に含まれるMgと反応することで、フラックスの機能が損なわれて、健全なフィレットが形成されない。
したがって、ろう材のMg含有量は、0.1〜0.35質量%の範囲とする。より好ましいMg含有量は、0.1〜0.32質量%の範囲である。さらに好ましいMg含有量は、0.1〜0.3質量%の範囲である。
本発明では、上記ろう材を薄板とし、単層ブレージングシートとして用いる。その厚みは、健全な面ろう付けを達成できる厚みであればよい。厚みが15μm未満であると、十分なろう付け強度が得られない可能性がある。厚みが200μmを超えると、接合面から染み出すろう材の量が多くなりすぎて、コスト高となる。
したがって、ろう材からなる単層ブレージングシートの厚みの範囲は、15〜200μmとする。より好ましい厚みの範囲は、15〜150μmである。さらに好ましい厚みの範囲は、20〜100μmである。
例えば、100μm厚さのろう材からなる単層ブレージングシートであれば、以下のように製造する。
原料となるインゴット、スクラップ等を配合し、溶解炉に投入して、所定のろう材組成からなるアルミニウム溶湯を溶製する。溶解炉は、バーナーの火炎によって直接原料を加熱溶解するバーナー炉が一般的である。アルミニウム溶湯が所定の温度、例えば、800℃に達した後、適量の除滓用フラックスを投入して、攪拌棒により溶湯の攪拌を行い、全ての原料を溶解する。その後、成分調整のため、追加の原料、例えばMg等を投入し、30〜60分程度の鎮静を行った後、表面に浮遊するメタル滓を除去する。アルミニウム溶湯が所定の温度、例えば、740℃にまで冷却された後、出湯口から樋に出湯し、必要に応じて、インライン回転脱ガス装置、CFFフィルター等を通し鋳造を開始する。なお、溶解炉と保持炉が併設されている場合には、溶解炉で溶製された溶湯を保持炉に移湯した後、保持炉でさらに鎮静等を行ってから鋳造を開始する。
そこで、次にフラックスの塗布形態について説明する。
なお、本明細書中におけるろう付け面とは、ろう付け加熱前の組み付けの状態で、単層ブレージングシートの表面のうち、他方のアルミニウム合金部材と接触している面、或いは一方のアルミニウム合金部材の表面のうち、平面視で他方のアルミニウム合金部材と重複する面、のことを意味する。
平面視で面積の大きい一方のアルミニウム合金部材の表面であって、前記ろう付け面の周縁から離間した領域にフラックスを塗布し、
このような領域にフラックスを塗布しておけば、ろう付け加熱の際、塗布されたフラックスは溶融し、平面視で面積の大きい一方のアルミニウム合金部材の表面を拡散して、他方のアルミニウム合金部材の周縁(ろう付け面の周縁)にまで到達する。このようにして、ろう付け面の周縁に到達した溶融フラックスは、そのままその周縁に滞留し、ろう付け面に浸透することなく、溶融ろう材とアルミニウム合金部材との濡れ性を改善して、ろう付け面の周縁に健全なフィレットを形成させる。
フラックスの塗布精度等も考慮すると、好ましい前記フラックス塗布位置は、0.5〜35mmの範囲である。より好ましいフラックス塗布位置は、0.5〜30mmの範囲である。さらに好ましいフラックス塗布位置は、1.0〜30mmの範囲である。
前述のようにAl−Si−Mg系合金のろう材からなる単層ブレージングシートを十分に溶解して、アルミニウム合金部材同士の界面を濡らして面ろう付けするためには、少なくとも保持温度580℃以上で所定時間保持することが必要である。
このため、ろう付け加熱中であっても、アルミニウム合金部材のろう付け面の表面或いは単層ブレージングシートのろう材面の酸化を抑制するために、不活性ガス雰囲気下で面ろう付けを行う必要がある。
もちろん、ろう付け加熱中、ろう付け温度保持中及び冷却中は、加熱装置内を不活性ガス雰囲気で充満しておくことが好ましい。しかしながら、電磁誘導加熱のように急速加熱する場合には所定の保持温度に到達する前に、不活性ガスを噴射して加熱装置内の大気を不活性ガスに置換してもよい。
本発明に係る面ろう付け方法において、所定の組成のAl−Si−Mg系合金のろう材からなる単層ブレージングシートを溶解して、ろう材とアルミニウム合金部材とを面接触させた状態で、ろう付け加熱を行うが、この際接合面に対して1.0gf/mm2以上(0.01MPa以上)の面圧を付加しながら、所定のろう付け温度で保持する必要がある。もちろん、ろう付け加熱時には面圧を付加せずに、所定の保持温度に到達してから、接合面に対して1.0gf/mm2以上の面圧を付加して面ろう付けを行ってもよい。
面圧が1.0gf/mm2未満の場合、十分なろう付け強度を得ることができない。もちろん、面ろう付け後のろう付け強度を十分に確保するためには接合面に対して付加する面圧は高い方が好ましい。したがって、より好ましい面圧は5.0gf/mm2以上(0.05MPa以上)である。さらに好ましい面圧は10gf/mm2以上(0.1MPa以上)である。
本発明に係る面ろう付け方法において、所定の組成の単層ブレージングシート(ろう材)を溶解して、アルミニウム合金部材同士の界面を濡らして、確実に面ろう付けを行い、十分なろう付け強度を確保するためには、少なくともろう付け温度580℃以上である必要がある。
ろう付け温度が580℃未満である場合には、ろう材の溶解が不十分となり、十分なろう付け強度が得られない。もちろん、保持温度が高い方がより十分なろう付け強度が得られる。したがって、より好ましい保持温度は、585℃以上とする。さらに好ましい保持温度は、590℃以上である。
ろう付け温度における保持時間は、2分以上であることが好ましい。ろう付け温度にもよるが、保持時間が2分未満であると、接合面における温度の不均一によって、十分なろう付け強度が得られない。より好ましい保持時間は、5分以上である。
所定の各種インゴットを計量、配合して、離型材を塗布した#30坩堝に9kgずつ(計5試料)の原材料を装入装填した。これら坩堝を電気炉内に挿入して、760℃で溶解して滓を除去し、その後、溶湯温度を740℃に保持した。次に小型回転脱ガス装置によって、溶湯に流量1Nl/分で窒素ガスを10分間吹き込み、脱ガス処理を行った。その後30分間の鎮静を行なって溶湯表面に浮上した滓を攪拌棒にて除去し、さらにスプーンで成分分析用鋳型にディスクサンプルを採取した。
次いで、治具を用いて順次坩堝を電気炉内から取り出し、200℃に予熱しておいた5個の金型(70mm×70mm×15mm)にアルミニウム溶湯を鋳込んだ。各ろう材試料のディスクサンプルは、発光分光分析によって、組成分析を行なった。その結果を表1に示す。
この後、熱間圧延板に冷間圧延を施して、1.2mm厚さの冷延板とし、軟化させるために390℃×2時間の1次中間焼鈍を施した。さらに冷間圧延を施して、0.3mm厚さの冷延板とし、軟化させるため390℃×2時間の2次中間焼鈍を施した。さらに冷間圧延を施して、0.06mm(60μm)の最終冷間圧延板とした。この最終冷間圧延板を所定の大きさ(26mm×26mm)に切断して、複数枚の単層ブレージングシートとした。
図1に示すように、AA1050合金製のブロックA(40mm×40mm×4mm)における40mm×40mmの面上中央に、シール(27mm×27mm)を貼り付けて、質量を測定した。さらにフッ化物フラックスと水の混合液をスプレーにて、40mm×40mmの面上に所定の量を塗布して、200℃で乾燥させた後、質量を測定した。フラックス塗布前/塗布後における質量差を塗布面積(1.6×103mm2)で除して、フラックス塗布量(g/m2)を算出した。さらにシールを剥がして、フラックスの塗布されていない領域(27mm×27mm)の面上中央に単層ブレージングシート(25mm×25mm×60μm)を載置し、さらに上記単層ブレージングシート(25mm×25mm)の面上中央にAA1050合金製のブロックB(25mm×25mm×3mm)における25mm×25mmの面を重ねた。
図3に示すように、ろう付け後のブロックABにおいて、○印の6箇所について、断面ミクロ組織観察を行って、フィレット形成率を測定した。ここにおけるフィレット形成率とは、ろう付け後のブロックAB内で健全なフィレットが形成されていた箇所の数を、全観察箇所の6で割った値のことである。健全なフィレットが形成されている否かの判定は、図4に示すようにフィレット部の「のど厚」を測定することによって行った。のど厚が150μm以上のフィレットが観察された箇所は、健全なフィレットが形成されたと判定した。のど厚が150μm未満のフィレットが観察された箇所、あるいはフィレットが全く観察されなかった箇所は、健全なフィレットが形成されなかったとして判定した。図5、図6に、それぞれ「のど厚」が150μm以上のフィレットの断面金属組織、「のど厚」が150μm未満のフィレットの断面金属組織の例を示す。
Claims (4)
- Al−Si−Mg系合金のろう材からなる単層ブレージングシートを用いて固相線温度が610℃以上であるアルミニウム合金部材同士を面ろう付けする際、前記単層ブレージングシートと前記アルミニウム合金部材とのろう付け面にフラックスを塗布せずに、平面視で面積の大きい方のアルミニウム合金部材の表面であって、前記ろう付け面の周縁から離間した領域にフラックスを塗布し、前記単層ブレージングシートをアルミニウム合金部材同士の間に挟みこみ面接触させた状態で、不活性ガス雰囲気下、所定のろう付け温度に保持しつつ、面圧を付加しながらアルミニウム合金部材同士をろう付けすることを特徴とするアルミニウム合金部材の面ろう付け方法。
- 前記Al−Si−Mg系合金のろう材として、Si:3.0〜12質量%、Mg:0.1〜0.35質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる成分組成を有する合金を用いる請求項1に記載のアルミニウム合金部材の面ろう付け方法。
- 前記ろう付け面の周縁からの離間距離を0.5〜35mmの範囲とする請求項1または2に記載のアルミニウム合金部材の面ろう付け方法。
- 前記フラックスの塗布量を2〜40g/m2とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム合金部材の面ろう付け方法。
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