以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明のインプリント方法は、モールドの凹凸構造領域を有する面とインプリント用の基板との間に、被転写物である被転写材料を介在させて、凹凸構造パターンを有する被転写材料層を形成する被転写材料層形成工程と、被転写材料層形成工程におけるインプリント用の基板とモールドとの間隙距離を広げるように引き剥がし力を作用させて被転写材料層からモールドを引き離す剥離工程と、を有し、構成される。本発明における被転写材料層を構成する被転写材料としては、例えば上述した光硬化性樹脂のほか、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂があるが、こうした樹脂以外にも無機物であっても構わない。
例えば石英、ソーダライムガラス、金属イオン含有ガラス等のガラスなどは、加熱することにより流動性を有することが可能な材料であり、被転写材料として用いることができる。更に無機物と有機物との混合物を用いることも可能である。例えばシルセスキオキサンを主成分とした材料は、含有する材料により熱硬化性材料あるいは光硬化性樹脂とみなすことが出来る。シルセスキオキサンはSi−O−Si骨格を有するため、無機物に分類することができる。また流動性を持たせることが出来、しかも熱により硬化させることが可能であるため、上述した熱硬化性樹脂とほぼ同等の方法で使用することが可能である。一方でオキセタニル基やアクリル基などの光重合性基を有することで、光による硬化性を持つことが可能であり、この場合には光硬化性樹脂として利用することも可能である。
以下、本発明の説明では、被転写材料の好適な一例として樹脂材料を例示して説明するが、これに限定されるものではない。
以下、本発明のインプリント方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。
〔インプリント方法〕
本発明のインプリント方法は、モールドの凹凸構造領域を有する面とインプリント用の基板との間に、被転写物である樹脂材料を介在させて、凹凸構造パターンを有する樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、この樹脂層形成工程におけるインプリント用の基板とモールドとの間隙距離を広げるように引き剥がし力を作用させて樹脂層からモールドを引き離す剥離工程と、を有し、引き剥がし力は、少なくとも2種類以上の異なる弾性の部分、または少なくとも2以上の異なる剛性の部分を介して、モールドと樹脂層とが接触している領域に不均一に伝えられるように構成される。
このような本発明のインプリント方法としては、例えば、以下に示されるような好適な種々の実施形態が存在する。ただし、これらはあくまで一例を示しているのであって、例示された実施形態に限定されるものではない。
<第1の実施形態についての説明>
まず、最初に図1(a)〜(c)、および図2(d)〜(e)を参照しつつ、本発明のインプリント方法の第1の実施形態について説明する。
インプリント方法として、例えば、光インプリント方法や熱インプリント方法が知られているが、ここでは光インプリント方法を一例として取り挙げて説明する。
光インプリント方法では、例えば、図1(a)に示されるように、インプリント用の基板7の表面7aに被転写物として光硬化性の樹脂材料5が供給・配設される。樹脂材料5を供給する手段としては、ディスペンサやインクジェット等を挙げることができる。また、図示の例では、樹脂材料5の液滴が複数個示されているが、樹脂材料5の液滴の数、滴下位置は適宜設定することができる。あるいはスピンコート等により、基板7の表面7aに光硬化性の樹脂材料5を一様な膜として形成してもよい。
インプリント用の基板7は、例えば、石英やソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス等のガラス、シリコン、窒化ガリウム等の半導体、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂基板、金属基板、あるいは、これらの材料の任意の組み合わせからなる複合材料基板であってよい。また、基板7は必ずしも平坦である必要はなく、予め構造を有していてもよい。例えば、半導体やディスプレイ等に用いられる微細配線や、フォトニック結晶構造、光導波路、ホログラフィのような光学的構造等の所望のパターン構造物が形成されたものであってもよい。ただし転写の際、それら構造が転写の阻害とならないよう、モールド1の形状、モールド1が有する凹凸構造とは緩衝しないよう配置するか、または例えばパターン構造体の凹部に材料を充填して平坦化するなど転写方法を考慮することが好ましい。
本発明においては、図1(a)に示されるように、インプリント用の基板7に対向するようにモールド1が配置、準備される。モールド1の面1aは、転写すべき構造である凹部2を有する凹凸構造領域A1と、転写すべき凹凸構造が形成されていない非凹凸構造領域A2から構成されている。なお図では転写すべき構造が、非凹凸構造領域A2に対して凹状となっているが、転写すべき構造は凸状であっても良いし、凹凸の両方を含んでいても良い。
このようなモールド1の面1aとは反対側の面1b(背面1bと称す場合もある)の周縁には、図示のごとく、2種類の異なる弾性の弾性部材11,15が設けられており、これによりインプリント用モールド複合体が構成されている。
このような弾性部材11,15として使用される好適な部材としては、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)やナイロン、ポリカーボネート、テフロンなどの樹脂成形物、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、チタン等の金属が挙げられる。またこれらの材料を用い、バネ状の構造物を作製し用いても良い。
弾性とは、材料が受けた引張り、曲げ、圧縮、せん断などの応力により材料に生じたひずみの度合いを表すものであり、弾性率は加わる応力により異なる定義を用いて導かれる値である。図1や図2に示される第1の実施の形態においては、後述の説明からも分かるように、特にモールドと樹脂との接触面に対して垂直方向の応力、すなわち引張り応力に対する弾性率の設定が最も重要なファクターとなる。更にこの弾性率には、物体の体積歪みを示すポアソン比を考慮することが厳密には好ましい。しかし剥離の方法により歪みの加わり方は変化するため、ポアソン比を考慮した値を常に適用することは困難である。よって以下では簡単なモデルを考えると、概ね同様の傾向を示す弾性率であるヤング率を基準として説明を行なう。
第1の実施の形態においては、弾性部材11の弾性率をE11、弾性部材15の弾性率をE15とした場合、E11>E15となるように構成されている。従って、引張り応力による伸びは、弾性部材15の方が弾性部材11よりも大きい。この場合、2種の弾性部材の弾性率の差E15−E11の値は、後述する剥離工程における樹脂とモールドとの引き剥がし力等を勘案しながら、適宜設定するようにすればよいが、加わる応力が図1(c)などに示したように引張応力である場合、弾性率の差E15−E11の値は0.1GPa以上とするのが好ましい。特に、先に挙げた材料の組み合わせの範囲においてE15−E11の値は0.1〜100GPa程度とするのがよい。この範囲において、特に、モールドおよび樹脂にはせん断応力が加わり難くなり、モールドおよび樹脂の破損が起こりにくく、かつモールドと樹脂との剥離が極めてスムースに行なわれる傾向が生じる。
また、このような数値の範囲の中で、さらに適切な弾性率を選択するためには、特に転写される凹凸構造のパターンのアスペクト比を考慮することが望ましい。転写される凹凸構造のパターンのアスペクト比が大きい場合、剥離の際に大きな傾斜が加わるということは、転写される凹凸構造のパターンへモーメントが加わる傾向が生じ、パターンの破損、倒れの原因となり得る。そのため、転写される凹凸構造のパターンのアスペクト比が大きい場合、弾性率の差は上記の数値範囲の中で小さいことが好ましい。
第1の実施の形態においては、モールド1の背面1bと、弾性部材11の図面における下面11a、および弾性部材15の図面における下面15aとは、吸着または接合されて少なくとも見かけ上は一体化されている。そして、弾性部材11の図面における上面11b、および弾性部材15の図面における上面15bに、それぞれ、図示しないモールド保持部等を介して、モールド1を上昇させたり、降下させる力が付与されるようになっている。
なお、モールド1を降下させるに際しては、弾性部材11および弾性部材15を介してではなく、直接、モールド1の背面1bに降下させる力を付与するようにしてもよい。
モールド1の材質は適宜選択することができるが、樹脂材料5が光硬化性である場合には、樹脂材料5を硬化させるための照射光が透過可能な透明基材を用いて形成され、例えば、石英ガラス、珪酸系ガラス、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、アクリルガラス等のガラスや、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂等、あるいは、これらの任意の積層材を用いることができる。モールド1の厚みは凹凸構造の形状、基材の強度、取り扱い適性等を考慮して設定することができ、例えば、300μm〜10mm程度の範囲で適宜設定することができる。また、モールド1は、凹凸構造領域A1全体が非凹凸構造領域A2に対して凸構造となっている、いわゆるメサ構造としてもよい。メサ構造の段差の数も1段に限らず、複数段としてもよい。
次いで、モールド1を降下させる力(モールドを樹脂材料に対して加圧する力を含む)が付与されて、図1(b)に示されるように、配設された樹脂材料5に所望の凹凸構造を有するモールド1の面1aを接触させ、必要に応じて圧力を加える(いわゆるモールドの押し込み工程)。
モールド1を降下させるに際して、モールド1の凹凸構造の中に樹脂材料5を充填させるためにモールド1を樹脂材料5に強く押し当てる場合には、弾性部材11、15を介してではなく、直接、モールド1の背面1bに、降下とともに押圧力を付与することが望ましい。つまり、モールドを樹脂材料に対して加圧させる際に、その動作を行なう力は弾性部材11、15に作用しないようにすることが望ましい。弾性部材11、15が変形して力を吸収してしまい、所定の力がモールド1および基板7に伝わらないことに加え、モールド1や基板7が変形してしまうおそれが生じるからである。
この一方で、モールド1を降下させるに際して、樹脂材料5のモールドへの濡れ広がり性をうまく利用できて、押圧というよりは、単に接触させる程度の状態とするので足りるのであれば、上述したごとく弾性部材11の背面11b、および弾性部材15の背面15bに、それぞれ、モールド1を降下させる力を付与することで足りる。すなわち、加圧される力が十分に小さくて、モールド1および基板7が変形するおそれが無い(転写結果に悪影響を及ぼさない)場合にこのような対応が可能となるのである。
上記の工程を経て、樹脂材料5は凹凸構造を有する樹脂層となり、当該樹脂層に対して紫外線照射が行なわれることによって、樹脂材料5が硬化される(樹脂硬化工程)。この時点で、本発明の樹脂層形成工程が完了することとなる。
しかる後、図1(c)に示されるように2種類の異なる弾性の弾性部材11,15に対して引き剥がし力F(双方のFは同じ力)が付与される。すなわち、インプリント用の基板7とモールド1との間隙距離を広げるように引き剥がし力を作用させて樹脂層5´からモールド1を引き離す剥離工程が行なわれる。
この際、引き剥がし力Fは、2種類の異なる弾性の弾性部材11,15を介して、モールド1と樹脂層5´とが接触している領域に伝達される。本発明においては、2種類の異なる弾性の弾性部材11,15が介在されているので、モールド1と樹脂層5´とが接触している領域に伝達される引き剥がし力は、不均一に伝えられる。
すなわち、図2(d)に示されるように、ヤング率の小さい弾性部材15は伸びが大きく、ヤング率の大きい弾性部材11は伸びが小さいために、同じ大きさの引き剥がし力Fであっても、当該力が、効率的に伝達されるのは、ヤング率の大きい弾性部材11側であり、モールド1と樹脂層5´とが接触している領域のうち、図示のごとく弾性部材11が位置している側の最外周から徐々にモールドと樹脂層との剥離が行われる。このようにして剥離のきっかけが容易にできるために、剥離に必要な応力を低減させることができる。また、弾性部材を介して剥離が行なわれるので、不必要な箇所に伝達される応力や剥離開始に作用される急激な剥離応力は、弾性部材に吸収させることができる。また剥離開始の箇所を特定することが出来るため、剥離方向を常に一様にすることが可能である。
しかる後、最終的に図2(e)に示されるように、樹脂層5′からモールド1を引き離すことにより、モールド1が有する凹凸構造が反転した凹凸構造が形成された樹脂層5′がインプリント用の基板7に転写される。なお、引き剥がし力Fを同じとするのは、装置構成を簡便にするために、剥離駆動装置を共通化させることを前提として考えているからである。よって必要があれば引き剥がし力を加える駆動装置を別途有していても構わない。
また、上記の実施形態では、2種類の異なる弾性の弾性部材11,15を用いた場合について説明してきたが、3種類以上の異なる弾性の弾性部材を用いても良い。例えば、モールドと樹脂との接触部分が円状であるとき、異なる弾性部材を弾性の順にモールドの周縁に円を描くように配置する例を考える。この状態で、同一時に同じ引き剥がしの力を加えると、ヤング率が最も大きい箇所から剥離が開始される。その後はヤング率が大きい方から小さい方へ向かって、つまり接触面の最外周においては、外周形状に沿って剥離が進むことになる。このようにすると、接触面積を徐々に減らすことが可能であり、しかも最も剥離に力を必要とする接触部分の最外周に沿って剥離が伝播するため、効率よく剥離を行なうことが可能となる。
<第2の実施形態についての説明>
次いで、図3(a)〜(c)、および図4(d)〜(e)を参照しつつ、本発明のインプリント方法の第2の実施形態について説明する。なお、前述の第1の実施形態の図面との関係において、同一符号は同一部材、同一位置等を示している。
第2の実施形態は、図3(a)に示されるように、2種類の異なる弾性の弾性部材11,15の上面11b、15bに、モールド接合体20が吸着または固着して設けられ、当該モールド接合体20の中心位置に、モールド保持部を介して引き剥がし力F(図3(c)参照)が付与されるようになっている点で、第1の実施形態と異なる。
以下、第2の実施形態における一連の動作を図面を参照しつつ、簡単に説明する。
図3(a)に示されるように、インプリント用の基板7に対向するようにモールド1等が配置、準備される。
次いで、モールド1が降下させられ、図1(b)に示されるように、配設された樹脂材料5に所望の凹凸構造を有するモールド1の面1aが押し当てられる(いわゆるモールドの押し込み工程)。第2の実施形態においては、モールド1を含む一体化物の構造上、必ず、弾性部材11、15を介してモールド1を降下させる力が付与される。従って、モールド1を降下させるに際して、樹脂材料5のモールドへの濡れ広がり性をうまく利用して、押圧というよりは、単に接触させる程度の状態が達成できるように、モールド1を降下させる力が付与される。つまり樹脂材料5を一様な厚みとしたいのであれば、加圧される力が十分に小さくて、モールド1、基板7および弾性部材11、15が変形するおそれが無い程度の押圧力の付与とすることが望ましい。
上記の工程を経て、樹脂材料5は凹凸構造を有する樹脂層となり、当該樹脂層に対して紫外線照射が行なわれることによって、樹脂材料5が硬化される(樹脂硬化工程)。この時点で、本発明でいう樹脂層形成工程が完了することとなる。
しかる後、図3(c)に示されるようにモールド接合体20の中央部に引き剥がし力Fが付与されることによって、2種類の異なる弾性の弾性部材11,15に対して引き剥がし力が伝達付与される。
すなわち、インプリント用の基板7とモールド1との間隙距離を広げるように引き剥がし力を作用させて樹脂層5´からモールド1を引き離す剥離工程が行なわれる。この際、引き剥がし力Fは、2種類の異なる弾性の弾性部材11,15を介して、モールド1と樹脂層5´とが接触している領域に伝達される。前記実施形態1の場合と同様に、弾性部材11の弾性率をE11、弾性部材15の弾性率をE15とした場合、E11>E15となるように構成されている。図3や図4に示される第2の実施の形態においては、第1の実施の形態と同様にヤング率の設定が重要なファクターとなる。ただしモールド接合体20に力を加えているため、仮にモールド接合体20が力により変形を起す場合には、せん断応力が生じる可能性がある。この応力が無視できない場合には、弾性部材のせん断弾性率、すなわち剛性率もまたファクターのひとつとなる。本発明においては、2種類の異なる弾性の弾性部材11,15が介在されているので、モールドと樹脂層とが接触している領域に伝達される引き剥がし力は、不均一に伝えられる。
すなわち、図4(d)に示されるように、弾性の小さい弾性部材15は伸びが大きく、弾性の大きい弾性部材11は伸びが小さいために、同じ大きさの引き剥がし力であっても、当該力が、効率的に伝達されるのは、弾性の大きい弾性部材11側であり、モールド1と樹脂層5´とが接触している領域のうち、図示のごとく弾性部材11が位置している側の最外周から徐々にモールドと樹脂層との剥離が行われる。このようにして剥離のきっかけが容易にできるために、剥離に必要な応力を低減させることができる。また、弾性部材を介して剥離が行なわれるので、不必要な箇所に伝達される応力や剥離開始に作用される急激な剥離応力は、弾性部材に吸収させることができる。また剥離開始の箇所を特定することが出来るため、剥離方向を常に一様にすることが可能である。
しかる後、最終的に図4(e)に示されるように、樹脂層5′からモールド1を引き離すことにより、モールド1が有する凹凸構造が反転した凹凸構造が形成された樹脂層5′がインプリント用の基板7に転写される。
また、上記の実施形態では、2種類の異なる弾性の弾性部材11,15を用いた場合について説明してきたが、3種類以上の異なる弾性の弾性部材を用いても良い。例えば、モールドと樹脂との接触部分が円状であるとき、異なる弾性部材を弾性の順にモールドの周縁に円を描くように配置する例を考える。この状態で、同一時に同じ引き剥がしの力を加えると、ヤング率が最も大きい箇所から剥離が開始される。その後はヤング率が大きい方から小さい方へ向かって、つまり接触面の最外周においては、外周形状に沿って剥離が進むことになる。このようにすると、接触面積を徐々に減らすことが可能であり、しかも最も剥離に力を必要とする接触部分の最外周に沿って剥離が伝播するため、効率よく剥離を行なうことが可能となる。
<第3の実施形態についての説明>
次いで、図5(a)〜(c)、および図6(d)〜(e)を参照しつつ、本発明のインプリント方法の第3の実施形態について説明する。なお、前述の第1の実施形態の図面との関係において、同一符号は同一部材、同一位置等を示している。
第3の実施形態は、図5(a)に示されるように、モールド1の背面1bに、モールド1の外枠形状よりも大きいモールド接合体21が固着して設けられ、モールド接合体21の両サイドの突出した下端部21aに、2種類の異なる弾性の弾性部材12,16が下から支持するように係止された状態で配置され、モールド1を実質的に保持している。そして、当該弾性部材12,16を介して引き剥がし力Fが伝達される(図5(c)参照)点で、第1の実施形態と異なる。
また、第3の実施形態においては、いわゆるモールドの押し込み工程の際に、モールド接合体21の背面21bからモールドの押し込み力を付加するように構成してもよい。2種類の異なる弾性の弾性部材12,16は、モールド1を上昇させつつ引き剥がし力を付与(図5(c)参照)させたり、降下させたりする際のモールド接合体21の周縁下端部21aを係止して保持する、いわゆるツメのような機能を果たしている。従って、当該構成は既存の装置をわずかに改良するだけで、簡単に発明の要部を適用させることができる。
第3の実施形態における、弾性部材12,16として使用される好適な部材としては、例えば、PDMSやナイロン、ポリカーボネート、テフロンなどの樹脂成形物、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、チタン等の金属等が挙げられる。
弾性とは、材料が受けた引張り、曲げ、圧縮、せん断などの応力を材料に生じたひずみで除した値である。図5や図6に示される第3の実施の形態においては、後述の説明からも分かるように、特に曲げ応力に基づく弾性率の設定が重要なファクターとなる。また剥離に必要な力を加える箇所と、力が作用する箇所には距離が存在するため、弾性部材の形状も重要なファクターとなる。つまり剛性を考慮することが好ましい。よって厳密には、せん断応力を示す剛性率を考慮することが好ましい。しかし剛性率は計測が困難であるため、一般には曲げ弾性率を採用するのがよい。また曲げ弾性率は試験片の形状により値が異なるため一様に定義づけることはできないものの、ヤング率と相関性がある事も知られている。よって簡単のため、以下の説明では、弾性率の目安としてヤング率を基に設計を行なったものとしている。
第3の実施の形態においては、弾性率と構造が互いに作用するために、少なくともこれらを用いた関係式(W12E12/L12)>α(W16E16/L16)を満たすことが望まれる。このとき弾性部材12の弾性率をE12、弾性部材16の弾性率をE16とし、剥離に必要な応力を加える箇所からモールドを保持する箇所までの距離をそれぞれL12、L16、厚みをW12、W16としている。また係数αは弾性部材12にかかる力F12と、弾性部材16にかかる力F16の比F12/F16である。つまり、剥離開始の際に各弾性部材に対して均一に応力が加わった場合は1をとる。また同一の構造を有している場合、E12>E16となるように構成される。逆に弾性率が等しい場合には、(W12/L12)>(W16/L16)を満たすことが望まれる。またここで示した関係は、弾性部材の厚みが一様であることを前提とする。厚みが一様ではない場合、最も薄い箇所に応力が集中し、弾性部材が変形、破損する恐れが生じ得る。よって、例えばモールドと樹脂との接合強度が強く剥離に至らない状態となった際、弾性部材が変形することでモールドの破損を防止するということを目的とする場合以外では、そのような構造(厚み不均一)をとらないことが好ましい。
曲げ応力による撓み量は、弾性部材16の方が弾性部材12よりも大きい。この場合、2種の弾性部材の弾性率、および構造との関係式の差(W12E12/L12)−(W16E16/L16)の値は、後述する剥離工程における樹脂とモールドとの引き剥がし力等を勘案しながら、適宜設定するようにすればよい。ただしモールドの自重により撓みが発生してしまい、保持が困難であることは好ましくないため、(W16E16/L16)は事実上、下限を有する。
以下、第3の実施形態における一連の動作を図面を参照しつつ、簡単に説明する。
図5(a)に示されるように、インプリント用の基板7に対向するようにモールド1等が配置、準備される。
次いで、弾性部材12,16を介してモールド1が降下される。この降下運動の場合、弾性部材12,16は、モールド接合体21を係止して支えている。
このような状態を維持したまま、図5(b)に示されるように、配設された樹脂材料5に所望の凹凸構造を有するモールド1の面1aが押し当てられる(いわゆるモールドの押し込み工程)。この際、モールド接合体21の背面21bからモールドの押し込み力を付加するように構成してもよい。
押し込み力を付加してモールドを樹脂材料に対して加圧させる場合、その加圧力は弾性部材12、16に作用しないようにすることが望ましが、加圧力が十分に小さく、モールド1やインプリント用の基板7に変形が生じないなど、弾性部材12、16にかかる力が目的とする転写結果に影響を及ぼさない程度であれば作用させてもよい。弾性部材11、15が変形して力を吸収してしまい、所定の力がモールド1およびインプリント用の基板7に伝わらなくなり、モールド1やインプリント用の基板7が変形してしまうという不都合が生じないからである。
この一方で、モールド1を降下させて樹脂材料5との接触を行なう際、樹脂材料5とモールド1とが接触を開始する点を制御するために、意図的にモールド1または基板7を曲げるための加圧力をモールド1または基板7に作用させることは好ましい態様といえる。
例えば、意図的にモールド1を曲げるために加圧力をモールド1の裏側にかけた場合、弾性部材12、16は異なる撓み量を持つ。このとき、樹脂材料とモールドとが接触を開始する点は図5(a)に示されるモールド1の一方端であるP2の点となる。そして、順次、図面の左側に移行して他方端のP1の点に至る。このようにして意図的に、樹脂材料とモールドとをモールドの一方端から他方端に順次接触させていくことにより、例えば、モールド1の凹部への樹脂材料の充填を円滑にすることができる。
上記の工程を経て、樹脂材料5は凹凸構造を有する樹脂層となり、当該樹脂層に対して紫外線照射が行なわれることによって、樹脂材料5が硬化される(樹脂硬化工程)。この時点で、本発明でいう樹脂層形成工程が完了することとなる。
しかる後、図5(c)に示されるように引き剥がし力F(同じ力)が、それぞれ、2種類の異なる弾性の弾性部材12,16に対して付与される。これによって、インプリント用の基板7とモールド1との間隙距離を広げるように引き剥がし力を作用させて樹脂層5´からモールド1を引き離す剥離工程が行なわれる。
この際、引き剥がし力Fは、2種類の異なる弾性の弾性部材12,16を介して、モールドと樹脂層とが接触している領域に伝達される。本実施形態の場合、前述したように弾性部材12の弾性率をE12、弾性部材16の弾性率をE16とした場合、E12>E16となるように構成されている。本発明においては、2種類の異なる弾性の弾性部材12,16が介在されているので、モールド1と樹脂層5´とが接触している領域に伝達される引き剥がし力は、不均一に伝えられる。
すなわち、図6(d)に示されるように、弾性の小さい弾性部材16は撓み量が大きく、弾性の大きい弾性部材12は撓み量が小さいために、同じ大きさの引き剥がし力であっても、当該力が、効率的に伝達されるのは、弾性の大きい弾性部材12側であり、モールド1と樹脂層5´とが接触している領域のうち、図示のごとく弾性部材12が位置している側の最外周から徐々にモールドと樹脂層との剥離が行われる。このようにして剥離のきっかけが容易にできるために、剥離に必要な応力を低減させることができる。また、弾性部材を介して剥離が行なわれるので、不必要な箇所に伝達される応力や剥離開始に作用される急激な剥離応力は、弾性部材に吸収させることができる。また剥離開始の箇所を特定することが出来るため、剥離方向を常に一様にすることができる。
しかる後、最終的に図6(e)に示されるように、樹脂層5´からモールド1を引き離すことにより、モールド1が有する凹凸構造が反転した凹凸構造が形成された樹脂層5′がインプリント用の基板7に転写される。
また、上記の実施形態では、2種類の異なる弾性の弾性部材12,16を用いた場合について説明してきたが、3種類以上の異なる弾性の弾性部材を用いても良い。例えば、例えば、モールドと樹脂との接触部分が円状であるとき、異なる弾性部材を弾性率の順にモールドの周縁に円を描くように配置する例を考える。この状態で、同一時に同じ引き剥がしの力を加えると、ヤング率が最も大きい箇所から剥離が開始される。その後はヤング率が大きい方から小さい方へ向かって、つまり接触面の最外周においては、外周形状に沿って剥離が進むことになる。このようにすると、接触面積を徐々に減らすことが可能であり、しかも最も剥離に力を必要とする接触部分の最外周に沿って剥離が伝播するため、効率よく剥離を行なうことが可能となる。
<第4の実施形態についての説明>
次いで、図7(a)〜(c)、および図8(d)〜(e)を参照しつつ、本発明のインプリント方法の第4の実施形態について説明する。なお、前述の第1の実施形態の図面との関係において、同一符号は同一部材、同一位置等を示している。
第4の実施形態は、図7(a)に示されるように、モールド1の背面1bに、モールド1の外枠形状よりも大きい形状異方部材30が吸着または固着して設けられており、これによりインプリント用モールド複合体が構成されている。図7(a)に示される形状異方部材30は、図示のごとく略楔形状であり、図面の右方端における高さh5は、図面の左方端の高さh1よりも低くなっている。形状異方部材30の紙面の奥域の長さWは同じである。
本発明における形状異方部材30は、弾性体の同一部材から構成されており、剛性を形状の異方性により変化させた部材であって、2つの異なる剛性の部位31、35を有している。例えば、図面における2つの異なる剛性の部位31、35に同じ力を付与した場合、部位35の方が部位31よりも曲がり易く、撓み量が大きい。剛性は曲げやねじりの力に対する変形のしづらさの度合いを示すものである。なお、剛性とは逆の変形のしやすさの度合いは柔性と呼ばれる。
2つの異なる剛性の部位31、35は、図示のごとくモールド1の両サイドから突出したエリアG1、G5が対象となる。このエリア内を異なる剛性の部位として選定し、引き剥がし力の作用点とすることによって、後述するように形状異方部材30の撓みを利用することができる。突出したエリアG1、G5の双方のすべての位置に本発明の効果を発現できるように引き剥がし力を作用させることが可能であるとした場合、エリアG1、G5の双方の作用点における形状異方部材30の断面積およびアスペクト比はエリアG1、G5の双方で異なるように構成されている。
そして、形状異方部材30の2つの異なる剛性の部位31、35を介して引き剥がし力を作用(図7(c)参照)させる点で、第1の実施形態と異なる。第4の実施形態においては、いわゆるモールドの押し込み工程の際に、形状異方部材30の撓みを生じない背面30aからモールドの押し込み力を付加するように構成してもよい。
第4の実施形態における、形状異方部材30として使用される好適な部材としては、例えば、PDMSやナイロン、ポリカーボネート、テフロンなどの樹脂成形物、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、チタン等の金属が挙げられる。
図7や図8に示される第4の実施の形態においては、後述の説明からも分かるように、形状異方部材30の引き剥がし力が作用する部分の曲げ剛性の設定が重要なファクターとなる。
第4の実施の形態においては、部位31における剛性をδ31、部位35における剛性をδ35とした場合、δ31>δ35となるように構成されている。従って、曲げ応力による撓み量は、部位35の方が部位31よりも大きい。この場合、2つの部位31,35の剛性の差の値は、後述する剥離工程における樹脂とモールドとの引き剥がし力等を勘案しながら、適宜設定するようにすればよい。
以下、第4の実施形態における一連の動作を図面を参照しつつ、簡単に説明する。
図7(a)に示されるように、インプリント用の基板7に対向するようにモールド1等が配置、準備される。
次いで、2つの異なる剛性の部位31、35を介してモールド1が降下される。
このような状態を維持したまま、図7(b)に示されるように、配設された樹脂材料5に所望の凹凸構造を有するモールド1の面1aが押し当てられる(いわゆるモールドの押し込み工程)。この際、前述したように形状異方部材30の撓みを生じない背面30aからモールドの押し込み力を付加するように構成してもよい。
押し込み力を付加してモールドを樹脂材料に対して加圧させる場合、その加圧力は2つの異なる剛性の部位31、35に作用しないようにすることが望ましが、加圧力が十分に小さく、モールド1やインプリント用の基板7に変形が生じないなど、剛性の部位31,35にかかる力が目的とする転写結果に影響を及ぼさない程度であれば作用させてもよい。剛性の部位31、35が変形して力を吸収してしまい、所定の力がモールド1およびインプリント用の基板7に伝わらなくなり、モールド1やインプリント用の基板7が変形してしまうという不都合が生じないからである。
上記の工程を経て、樹脂材料5は凹凸構造を有する樹脂層となり、当該樹脂層に対して紫外線照射が行なわれることによって、樹脂材料5が硬化される(樹脂硬化工程)。この時点で、本発明でいう樹脂層形成工程が完了することとなる。
しかる後、図7(c)に示されるように2つの異なる剛性の部位31、35に引き剥がし力F(双方のFは同じ力)が付与される。これによって、インプリント用の基板7とモールド1との間隙距離を広げるように引き剥がし力を作用させて樹脂層5´からモールド1を引き離す剥離工程が行なわれる。
この際、引き剥がし力Fは、2つの異なる剛性の部位31、35を介して、モールド1と樹脂層5´とが接触している領域に伝達される。本実施形態の場合、前述したように部位31における剛性率をδ31、部位35における剛性率をδ35とした場合、δ31>δ35となるように構成されている。剛性率は計測により得ることが難しいが、第3の実施形態でも述べたように、部位31と部位35の断面形状、すなわちアスペクト比から類推することが可能である。ここで部位31と部位35は同じ材料の異なる部分であるに過ぎないのだから、材料が一様であると仮定するならば弾性率は考慮しなくて良い。
本発明においては、2つの異なる剛性の部位31、35が介在されているので、モールドと樹脂層とが接触している領域に伝達される引き剥がし力は、不均一に伝えられる。すなわち、図8(d)に示されるように、剛性の小さい部位35は撓み量が大きく、剛性の大きい部位31は撓み量が小さいために、同じ大きさの引き剥がし力Fであっても、当該力が、効率的に伝達されるのは、剛性の大きい部位31側であり、モールド1と樹脂層5´とが接触している領域のうち、図示のごとく部位31が位置している側の最外周から徐々にモールドと樹脂層との剥離が行われる。
このようにして剥離のきっかけが容易にできるために、剥離に必要な応力を低減させることができる。
しかる後、最終的に図8(e)に示されるように、樹脂層5´からモールド1を引き離すことにより、モールド1が有する凹凸構造が反転した凹凸構造が形成された樹脂層5′がインプリント用の基板7に転写される。
また、上記の実施形態では、2つの異なる剛性の部位31、35を用いた場合について説明してきたが、3つ以上の異なる剛性の部位を用いても良い。例えば、モールドと樹脂との接触部分が円状であるとき、モールドの周縁に対して、厚みが徐々に薄くなるようにして、円を描くように配置する例を考える。この状態で、同一時に同じ引き剥がしの力を加えると、厚みが最も厚い箇所から剥離が開始される。その後は厚い方から薄い方へ向かって、つまり接触面の最外周においては、外周形状に沿って剥離が進むことになる。このようにすると、接触面積を徐々に減らすことが可能であり、しかも最も剥離に力を必要とする接触部分の最外周に沿って剥離が伝播するため、効率よく剥離を行なうことが可能となる。
<第5の実施形態についての説明>
次いで、図9(a)〜(c)、および図10(d)〜(e)を参照しつつ、本発明のインプリント方法の第5の実施形態について説明する。なお、前述の第1の実施形態の図面との関係において、同一符号は同一部材、同一位置等を示している。
第5の実施形態は、図9(a)に示されるように、モールド1の背面1bに、モールド1の外枠形状よりも大きい形状異方部材40が吸着または固着して設けられており、これによりインプリント用モールド複合体が構成されている。図9(a)に示される形状異方部材40は、図示のごとく高さhは同じであるが、奥域の長さが図面の左方端から右方端に行くにつれて徐々に小さくなるように構成されている。すなわち、図面の右方端における奥域幅W5は、図面の左方端における奥域幅W1よりも小さくなっている。
本発明における形状異方部材40は、弾性体の同一部材から構成されており、剛性を形状の異方性により変化させた部材であって、2つの異なる剛性の部位41、45を有している。例えば、図面における2つの異なる剛性の部位41、45に同じ力を付与した場合、部位45の方が部位41よりも曲がり易く、撓み量が大きい。
2つの異なる剛性の部位41、45は、図示のごとくモールド1の両サイドから突出したエリアG1、G5が対象となる。このエリア内を異なる剛性の部位として選定し、引き剥がし力の作用点とすることによって、後述するように形状異方部材40の撓みを利用することができる。突出したエリアG1、G5の双方のすべての位置に本発明の効果を発現できるように引き剥がし力を作用させることが可能であるとした場合、エリアG1、G5の双方の作用点における形状異方部材40の断面積およびアスペクト比はエリアG1、G5の双方で異なるように構成されている。
そして、2つの異なる剛性の部位41、45を介して引き剥がし力を作用させる(図9(c)参照)ように構成されている点で、第1の実施形態と異なる。また、第5の実施形態においては、いわゆるモールドの押し込み工程の際に、形状異方部材40の撓みを生じない背面40aからモールドの押し込み力を付加するように構成してもよい。
第5の実施形態における、形状異方部材40として使用される好適な部材としては、例えば、PDMSやナイロン、ポリカーボネート、テフロンなどの樹脂成形物、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、チタン等の金属が挙げられる。
図9や図10に示される第5の実施の形態においては、後述の説明からも分かるように、形状異方部材40の引き剥がし力が作用する部分の曲げ剛性の設定が重要なファクターとなる。
第5の実施の形態においては、部位41における剛性をδ41、部位45における剛性をδ45とした場合、δ41>δ45となるように構成されている。従って、曲げ応力による撓み量は、部位45の方が部位41よりも大きい。この場合、2つの部位41,45の剛性の差の値は、後述する剥離工程における樹脂とモールドとの引き剥がし力等を勘案しながら、適宜設定するようにすればよい。
以下、第5の実施形態における一連の動作を図面を参照しつつ、簡単に説明する。
図9(a)に示されるように、インプリント用の基板7に対向するようにモールド1等が配置、準備される。
次いで、例えば、2つの異なる剛性の部位41、45を介してモールド1が降下される。
このような状態を維持したまま、図9(b)に示されるように、配設された樹脂材料5に所望の凹凸構造を有するモールド1の面1aが押し当てられる(いわゆるモールドの押し込み工程)。この際、前述したように形状異方部材40の撓みを生じない背面40aからモールドの押し込み力を付加するように構成してもよい。
押し込み力を付加してモールドを樹脂材料に対して加圧させる場合、その加圧力は2つの異なる剛性の部位41、45に作用しないようにすることが望ましいが、加圧力が十分に小さく、モールド1やインプリント用の基板7に変形が生じないなど、剛性の部位41,45にかかる力が目的とする転写結果に影響を及ぼさない程度であれば作用させてもよい。剛性の部位41、45が変形して力を吸収してしまい、所定の力がモールド1およびインプリント用の基板7に伝わらなくなり、モールド1やインプリント用の基板7が変形してしまうという不都合が生じないからである。
上記の工程を経て、樹脂材料5は凹凸構造を有する樹脂層となり、当該樹脂層に対して紫外線照射が行なわれることによって、樹脂材料5が硬化される(樹脂硬化工程)。この時点で、本発明でいう樹脂層形成工程が完了することとなる。
しかる後、図9(c)に示されるように2つの異なる剛性の部位41、45に引き剥がし力F(双方のFは同じ力)が付与される。これによって、インプリント用の基板7とモールド1との間隙距離を広げるように引き剥がし力を作用させて樹脂層5´からモールド1を引き離す剥離工程が行なわれる。
この際、引き剥がし力Fは、2つの異なる剛性の部位41、45を介して、モールド1と樹脂層5´とが接触している領域に伝達される。本実施形態の場合、前述したように部位41における剛性をδ41、部位45における剛性をδ45とした場合、δ41>δ45となるように構成されている。本発明においては、2つの異なる剛性の部位41、45が介在されているので、モールドと樹脂層とが接触している領域に伝達される引き剥がし力は、不均一に伝えられる。すなわち、図10(d)に示されるように、剛性の小さい部位45は撓み量が大きく、剛性の大きい部位41は撓み量が小さいために、同じ大きさの引き剥がし力Fであっても、当該力が、効率的に伝達されるのは、剛性の大きい部位41側であり、モールド1と樹脂層5´とが接触している領域のうち、図示のごとく部位41が位置している側の最外周から徐々にモールドと樹脂層との剥離が行われる。
このようにして剥離のきっかけが容易にできるために、剥離に必要な応力を低減させることができる。
しかる後、最終的に図10(e)に示されるように、樹脂層5´からモールド1を引き離すことにより、モールド1が有する凹凸構造が反転した凹凸構造が形成された樹脂層5′がインプリント用の基板7に転写される。
また、上記の実施形態では、2つの異なる剛性の部位41、45を用いた場合について説明してきたが、3つ以上の異なる剛性の部位を用いても良い。例えば、モールドと樹脂との接触部分が円状であるとき、モールドの周縁に対して、複数個の、幅が異なる接触部分を、徐々に幅が薄くなるようにして、円を描くように配置する例を考える。この状態で、同一時に同じ引き剥がしの力を加えると、幅が最も厚い箇所から剥離が開始される。その後は厚い方から薄い方へ向かって、つまり接触面の最外周においては、外周形状に沿って剥離が進むことになる。このようにすると、接触面積を徐々に減らすことが可能であり、しかも最も剥離に力を必要とする接触部分の最外周に沿って剥離が伝播するため、効率よく剥離を行なうことが可能となる。
なお、上記の各実施形態においては、少なくとも、2種以上の異なる弾性の部分、あるいは、少なくとも2以上の異なる剛性の部分を備える形状異方部材を、モールド1側に設けた例を挙げて説明したが、これに限定されることなく、インプリント用の基板7側に設けるようにしてもよい。また、モールド側およびインプリント用の基板7側の双方に設けるようにしてもよい。
〔インプリント装置についての説明〕
次いで、上述してきた本発明のインプリント方法を実施するためのインプリント装置について説明する。
本発明のインプリント装置の好適な一例が図11に示される。図11に示される装置の実施形態は、上記の図5および図6に基づいて説明したインプリント方法を実施する場合を主として想定したものである。
図11に示されるように、本発明のインプリント装置100は、モールド1の保持を補助させるためにモールド1よりも外方に突出して設けられるモールド接合体21と、インプリント用の基板7を保持するための基板保持部120と、インプリント用の基板7とモールド1との相対的な間隙を広げるように作用し、剥離動作を行なうための剥離駆動部130と、剥離動作の際に、モールド1またはインプリント用の基板7に伝達される引き剥がし力の伝達に差をつけるためのモールド1側に備えられた2種類の異なる弾性の部材12,16を有している。
2種類の異なる弾性の部材12,16は、引き剥がしの際の引き剥がし力の伝達に差をつけるための部分であって、この実施形態ではいわゆるモールド保持部を兼ねている。なお、部材12,16はインプリント用の基板側に設けることもできる。また、上述したように2種類の異なる弾性の部材12,16に代えて、同一部材からなり、少なくとも2以上の異なる剛性の部位を備えるように、剛性を形状の異方性により変化させた形状異方部材が適用できるように装置構成を変えることもできる。
本発明のインプリント装置100において、剥離駆動部130には応力制御ユニット140と応力計測器150が接続され、これらは、データ処理ユニット200に接続されている。剥離駆動部130は、剥離動作を行うための装置であって、例えば、必要に応じてアクチュエータやバネ等のモールド保持部を介して、2種類の異なる弾性の部材12,16に連結されている。応力計測器150は、剥離時に剥離駆動部130に加わる力を計測するためのものであり、応力制御ユニット140は、剥離の際に加える力を制御するためのものである。
データ処理ユニット200は、樹脂層5´からモールド1を剥離させる状態を制御するための演算、命令を主として行なうユニットである。
データ処理ユニット100は、本実施形態の場合、応力計測器150などからのデータや入力装置310からの情報を受け取るための入力部201と、剥離駆動部130に作用する力の状態を検証するための検証部202と、剥離駆動部130に加えられるべき応力を算出するための計算部203と、上記の各作業に誤りが無いか確認するための判定部204と、剥離駆動部に対して命令を出したり、あるいは、外部出力に情報を出したりする出力部205と、入力データや得られたデータを蓄積するための内部記憶部206とを有している。
このようなデータ処理ユニット200には、入力装置310、出力装置320、外部記憶装置330等が外部接続されている。入力装置310は、例えば、外部からデータ処理ユニットに対してデータや命令を入力するための装置である。出力装置320は、例えば、データ処理ユニットからの情報を出力するための装置である。外部記憶装置330は、内部記憶装置と同様に、入力データや得られたデータを蓄積するための外付けの装置である。
なお、図11には好適なインプリント装置の一態様が示されているのであって、これに限定されることなく、種々の変形態様が可能である。
例えば、剥離駆動部130および弾性部材12,16は、モールド側に設けられているが、インプリント用の基板7側に設けてもよい。また、両方にあってもよい。
また、例えば、図3に示されるような態様となるが、モールドおよび基板の保持部は、剥離駆動部や弾性部材と一体であってもよい。
例えば、剥離駆動部130と弾性部材12,16は、モールド1側または基板7側のいずれか一方にのみ存在するようにしても良いし、モールド1側に剥離駆動部、基板7側に弾性部材というように、別々としてもよい。
また、本発明のインプリント装置は、図示していない樹脂材料供給機構を有している。この供給機構は、例えば、図1(a)に示されるようにインプリント用の基板7の上に樹脂材料5を供給するものである。樹脂材料供給機構の一例としてインクジェット装置が挙げられる。また、適宜、樹脂材料を硬化させるための、光硬化手段や熱硬化手段が設けられる。また、図面にはモールドと基板を樹脂層を介して接触させる機構を描いていないが、これは剥離の機構と別個に設けても良いし、剥離の機構と一体化させてもよい。
変形態様の好適な一例が図12に示される。図12は、剥離の駆動系をインプリント用の基板7側に設置したインプリント装置101の一例であり、前記図11と同一符号は同一部材を示している。図12において、符号135は弾性部材12,16と一体化されたモールド保持部である。インプリント用の基板7を保持するための基板保持部120には、基板7側を剥離動作させるための剥離駆動部190が備えられ、この剥離駆動部190に応力制御ユニット140と応力計測器150が接続され、これらは、データ処理ユニット200に接続されている。そして、モールドと樹脂層5´の剥離には、インプリント用の基板7側に設置された剥離駆動部190が実質的に駆動する。
次に、より具体的な実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
表面の大きさが40×40mm、裏面の大きさが46.4×46.4、厚み6.35mmの台形状の石英ガラスを用いてモールドを作製した。表面に形成されている凹凸構造領域A1の大きさは25mm×25mmの正方形であり、A1に含まれる具体的な凹凸構造のパターンは、深さ100nm、ライン/スペースが100nm/100nmとした。
インプリント用の基板として、厚み0.6mmのシリコン基板を準備した。
上記のインプリント用の基板の表面に光硬化性の樹脂材料PAK−01−500(東洋合成工業製)をスピン塗布した。このときの膜厚は、ナノインプリントを実施せずにUVを照射した別のサンプルにて計測したところ、約600nmであった。
上記のように樹脂材料を供給したインプリント用の基板に、凹凸構造のパターンを備えるモールドを接触し、モールド側から300Nの力で90秒間加圧した。
この状態で、インプリント装置の照明光学系から平行光(ピーク波長が365nmの紫外線)をモールド側に100mJ/cm2の条件で照射した。これにより、光硬化性の樹脂材料を硬化させて樹脂層とした(凹凸構造パターンを有する樹脂層を形成する樹脂層形成工程)。
次いで、下記の要領で、樹脂層からモールドを引き離す剥離工程を実施した。
本発明の剥離手法を行なうために、図11に示されるような装置を用いて上述した第1の実施形態に基づく樹脂層5´とモールドとの剥離工程を実施した。
弾性部材11,15としては、互いにヤング率が異なるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、MCナイロンとを用いた。このとき弾性部材11の弾性率E11=392MPa、弾性部材15の弾性率E15=3432MPaである。
なお、各弾性部材の弾性率は、曲げ試験によって求めた。計測手順をより具体的に述べる。幅W、厚さd(mm)である板状試料を用意して両端を支持する。このとき支持部間の距離はL(mm)である。中央部に荷重P(N)をかけたときに生じたたわみがh(mm)を検出する。これらの結果を得ることにより、下式(1)により弾性率E(MPa)を求めることが出来る。このとき求めた弾性率は、既に述べているようにヤング率のことである。
E=(1/4)・(L3 /Wd3 )(P/h) …(1)
また弾性部材11、15は幅10mmのL字状の構造を有しており、L字部がモールド裏面のコーナーと一致するように、また弾性部材11と15とはモールドの対角線に対して線対称となるよう配置されている。モールドと弾性部材とは、弾性部材に設けられた穴を介して真空吸着により取り付けられ、これによりモールド複合体を構成した。
このような本発明の方法に基づく引き剥がし力(上方の力)を付与して引き剥がし操作を行なったところ、弾性部材15にて保持した側の、モールド表面の頂点部分から剥離が起こり、最終的に全ての面を剥離することが出来た。このときに計測された剥離時の応力は33Nであった。次に弾性部材を同一材料で作製した場合、すなわちポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、あるいはMCナイロンで作製した場合にも同様の試験を実施した。その結果、計測された剥離時の応力はそれぞれ83N、96Nであった。つまり、剥離の開始点における応力を極めて小さくすることができることがわかった。また弾性部材11,15を使用せずに上方に引き剥がす単純な従来の操作と比較して、剥離の開始点における応力は、少なくとも本実施例であると、少なくとも約2/5までに低減されることが確認された。
[実施例2]
実施例1とは異なり、本発明の剥離手法を行なうために、図11に示されるような装置を用いて上述した第3の実施形態に基づく樹脂層5´とモールドとの剥離工程を実施した。
このとき更に、モールドの形状も実施例1と異なり、モールドは凸状である。表面の大きさは30×30mmであり、凹凸構造領域A1を有する面は、表面で段差3mmだけ突出した形状となっており、25×25mmである。厚みは6.35mm、裏面の大きさは30×30mmである。表面に形成されている凹凸構造領域A1の大きさは20mm×20mmの正方形であり、A1に含まれる具体的な凹凸構造のパターンは、深さ100nm、ライン/スペースが100nm/100nmとした。装置構成および光硬化性の樹脂層などは、実施例1と同様である。
弾性部材12,16としては、互いにヤング率が異なるアルミニウムと、MCナイロンを用いた。弾性部材12の弾性率E12=70300MPa、弾性部材16の弾性率E16=3432MPa。弾性率の測定手法は上述したとおりである。
また弾性部材12、16はL字状の構造を有しており、L字部がモールドの段差部分のコーナーと一致するように、また弾性部材12と16とはモールドの対角線に対して線対称となるよう配置されている。
このような本発明の方法に基づく引き剥がし力(上方の力)を付与して引き剥がし操作を行なったところ、弾性部材12にて保持した側の、モールド表面の頂点部分から剥離が起こり、最終的に全ての面を剥離することが出来た。このときに計測された剥離時の応力は26Nであった。次に弾性部材を同一材料で作製した場合、すなわちMCナイロン、あるいはアルミニウムで作製した場合にも同様の試験を実施した。その結果、計測された剥離時の応力はそれぞれ44N、63Nであった。つまり、剥離の開始点における応力を極めて小さくすることがでることがわかった。また弾性部材11,15を使用せずに上方に引き剥がす単純な従来の操作と比較して、剥離の開始点における応力は、少なくとも本実施例であると、少なくとも約1/2までに低減されることが確認された。
本発明のインプリント方法は、モールドの凹凸構造領域を有する面とインプリント用の基板との間に、被転写物である被転写材料を介在させて、凹凸構造パターンを有する被転写材料層を形成する被転写材料層形成工程と、被転写材料層形成工程におけるインプリント用の基板とモールドとの間隙距離を広げるように引き剥がし力を作用させて被転写材料層からモールドを引き離す剥離工程と、を有し、引き剥がし力は、少なくとも2種類以上の異なる弾性の部分、または少なくとも2種類以上の異なる剛性の部分を介して、モールドと被転写材料層とが接触している領域に不均一に伝えられるように構成されているので、より小さな剥離力で樹脂層からモールドを引き離すことが可能となり、被転写物である樹脂がモールドに付着するという不都合の発生を回避することができる。また、インプリント用の基板の厚みや樹脂層の厚み等にバラつきが有る場合、剥離を単純に距離で制御するような単なる機械制御に基づく剥離では、剥離にかかる応力のバラつきを緩衝させることはできないが、本発明のごとく弾性体を介して剥離する場合には、弾性体が剥離にかかる応力を緩衝させることができる。