JP5862935B2 - アークスタート制御方法 - Google Patents
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Description
時刻t1において、ロボットによって溶接トーチ4が溶接開始位置に到達して停止し、同図(A)に示すように、ロボット制御装置RCから溶接開始信号Stが出力(Highレベル)されると、同図(B)に示すように、送給速度設定信号Frはスローダウン送給速度となり、溶接ワイヤ1は遅いスローダウン送給速度Wiで送給される。同時に、同図(C)に示すように、溶接電源PSは出力を開始し、溶接電圧Vwは無負荷電圧となる。この期間中は、溶接トーチ4は停止しているので、同図(F)に示すようにチップ・母材間距離Ltは一定値である。他方、同図(G)に示すように、ワイヤ先端・母材間距離Lwはスローダウン送給によって次第に短くなる。
時刻t2において、同図(H2)に示すように、ワイヤ先端が母材2に短絡すると、同図(C)に示すように溶接電圧Vwは直ちに低い電圧値となる。この電圧値が、予め定めた短絡判定電圧値Vfs以下になると、短絡/アーク判別信号SaがHighレベル(短絡)になる。これに応動して、同図(B)に示すように、送給速度設定信号Frはゼロになり、送給は停止する。同時に、同図(E)に示すように、20〜80A程度の小電流値の短絡電流Itが通電する。さらに、同時に、溶接トーチ4が母材2から引き離される方向への移動(後退移動)を開始し、同図(F)に示すように、チップ・母材間距離Ltが徐々に長くなる。
時刻t3において、同図(H3)に示すように、溶接トーチ4の後退移動によってワイヤ先端と母材2との間に隙間ができると初期アーク3aが発生し、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは数十Vのアーク電圧Vaになり、同図(D)に示すように、短絡/アーク判別信号SaはLowレベル(アーク)に変化する。これに応動して、同図(E)に示すように、溶接電流Iwは上記の短絡電流Itと同程度の値の初期アーク電流Isが通電する。この初期アーク電流Isは電流値を一定値にするために定電流制御されることが多い。同図(F)に示すように、溶接トーチ4の後退移動は所定位置に到達する時刻t4まで継続する。同図(H4)に示すように、この期間中初期アーク3aのまま維持されて、同図(G)に示すように、アーク長La(=Lw)は後退移動距離に対応する距離だけ徐々に長くなる。この期間は100〜500msec程度である。
時刻t4において、同図(F)に示すように、溶接トーチ4の後退移動が所定位置に到達すると、同図(B)に示すように、送給速度設定信号Frは定常送給速度Wsとなり、溶接ワイヤ1の定常送給が開始される。同時に、同図(E)に示すように、定常送給に対応した定常溶接電流Icの通電が開始する。溶接トーチは溶接線に沿って移動を開始する。すなわち、時刻t4以降は、通常の消耗電極アーク溶接のアークスタート制御と同様になる。このときのアーク長Laは、同図(G)に示すように、定常アーク長へ収束し、同図(H5)に示すように、初期アーク3aから定常アーク3bへと移行する。
1)直前の溶接の影響により、ワイヤ先端が絶縁物質の皮膜で覆われている。
2)溶接開始位置が直前の溶接箇所と接近しており、母材2上に絶縁物質の皮膜(スラグ)が存在している。
3)母材2が絶縁物質に覆われている。
上記のような場合、ワイヤ先端が母材2に接触した後に、その押し付け力によって絶縁物が徐々に破壊されるのに伴って接触抵抗が軽減されていくため、溶接電圧Vwは、徐々に減少していくことになる。
時刻t1’において、同図(H2)に示すように、ワイヤ先端が母材2に接触すると、付着した絶縁物が徐々に破壊されて接触抵抗が軽減されていくので、溶接電圧Vwもまた、徐々に低下していく。この場合、同図(B)のように溶接ワイヤ1はスローダウン送給速度Wiで前進送給され続けられるために、同図(H3)に示すように、ワイヤ先端が母材2に強く押し付けられる。同図では、強く押し付けられる様子を撓んだワイヤで表現しているが、実際は撓みに加えて、溶接トーチ4内の送給経路内に強く押し込まれることになる。
(2)時刻t2〜t3の短絡期間
時刻t2において、ワイヤ先端を覆っている絶縁物質の皮膜や母材2上の絶縁物の皮膜が溶接ワイヤ1の押し付け力によって破壊されると、電気的な接触が得られることにより、短絡/アーク判別信号SaがHighレベル(短絡)となる。この後、図4の場合と同様に溶接トーチ4の後退移動を開始する。ちなみに、この時刻t1’〜 t2の期間は、1秒間にも及ぶ場合があることが実験等により分かっている。また、溶接ワイヤ1は時刻t1’で即座に短絡/アーク判別信号SaがHighレベル(短絡)に変化する場合に比べ、溶接ワイヤ1は押し付けられるために、送給経路上に撓んで押し込められた状態で存在することになる。この押し込み長さは、大凡、スローダウン送給速度Wi×(t2−t1’)で計算される値となる。
溶接トーチ4の後退移動によってワイヤ先端と母材2との間に隙間ができると、同図(H4)に示すように初期アーク3aが発生するはずである。しかしながら、溶接トーチ4を後退移動させる距離には制限を設けているために、制限距離まで溶接トーチ4を後退移動させても、溶接ワイヤ1の送給経路上に押し込まれた溶接ワイヤ1が、溶接トーチ4の後退移動に併せて徐々に出てくる。このため、溶接ワイヤ1と母材2が離れず、初期アーク3aが発生しないことがある。
溶接ワイヤまたは母材に絶縁物が付着した状態で前記溶接ワイヤを前記母材へ近づく方向に前進移動し、前記溶接ワイヤおよび前記母材間の電圧検出値と所定の短絡判定電圧値とに基づいて前記溶接ワイヤが前記母材と接触したか否かを判定し、接触したと判定した後に前記溶接ワイヤを前記母材から引き離す方向に後退移動してアークを発生させるアークスタート制御方法において、
前記前進移動中に前記溶接ワイヤが前記母材と物理的に接触し、接触後は前記溶接ワイヤが前記母材に押し付けられて前記絶縁物が徐々に破壊されることにより発生する前記電圧検出値の低下開始を検出し、この検出後に前記短絡判定電圧値を所定の増加成分だけ徐々に増加させつつ前記電圧検出値と前記短絡判定電圧値との比較を行い、前記電圧検出値が前記短絡判定電圧値以下になったときに前記溶接ワイヤが前記母材と接触したと判定することを特徴とするアークスタート制御方法である。
溶接ワイヤを母材へ近づく方向に前進移動し、前記溶接ワイヤおよび前記母材間の電圧検出値と所定の短絡判定電圧値とに基づいて前記溶接ワイヤが前記母材と接触したか否かを判定し、接触したと判定した後に前記溶接ワイヤを前記母材から引き離す方向に後退移動してアークを発生させるアークスタート制御方法において、
前記短絡判定電圧値を溶接箇所毎に予め定めておき、
前記前進移動中に前記電圧検出値の低下開始を検出し、所定間隔毎に前記電圧検出値と前記短絡判定電圧値との比較を行い、前記電圧検出値が前記短絡判定電圧値以下になったときに接触したと判定することを特徴とするアークスタート制御方法である。
溶接ワイヤまたは母材に絶縁物が付着した状態で前記溶接ワイヤを前記母材へ近づく方向に前進移動し、前記溶接ワイヤおよび前記母材間の電圧検出値と所定の短絡判定電圧値とに基づいて前記溶接ワイヤが前記母材と接触したか否かを判定し、接触したと判定した後に前記溶接ワイヤを前記母材から引き離す方向に後退移動してアークを発生させるアークスタート制御方法において、
前記短絡判定電圧値を溶接箇所毎に予め定めておき、
前記前進移動中に前記溶接ワイヤが前記母材と物理的に接触し、接触後は前記溶接ワイヤが前記母材に押し付けられて前記絶縁物が徐々に破壊されることにより発生する前記電圧検出値の低下開始を検出し、所定間隔毎に前記電圧検出値と前記短絡判定電圧値との比較を行い、前記電圧検出値が前記短絡判定電圧値以下になったときに前記溶接ワイヤが前記母材と接触したと判定することを特徴とするアークスタート制御方法である。
図1は、本発明の実施の形態1に係るリトラクトアークスタート制御時のタイミングチャートである。同図(A)は溶接開始信号Stの、同図(B)は送給速度設定信号Frの、同図(C)は溶接電圧Vwの、同図(D)は短絡/アーク判別信号Saの、同図(E)は溶接電流Iwの、同図(F)はチップ・母材間距離Ltの、同図(G)はワイヤ先端・母材間距離Lw(=アーク長La)の時間変化をそれぞれ示している。使用する溶接装置については上述した図3の構成と同一である。また、同図は上述した図5と対応しており、時刻t1’までと、時刻t3以降の動作は同一なので説明は省略する。以下、時刻t1’〜t3の制御について説明する。
時刻t1’において、ワイヤ先端が母材2に物理的に接触すると、溶接電圧Vwが低下を開始する。この溶接電圧Vwの低下開始を検出し、検出と同時に、短絡判定電圧値Vfsを一定の増加成分により徐々に増加させる演算を行う。この間、同図(B)のように溶接ワイヤ1はスローダウン送給速度Wiで前進送給され続けられる。溶接電圧Vwは、付着した絶縁物が徐々に破壊されて接触抵抗が軽減されることに伴って低下を続ける。また、この期間の間は、低下を続ける溶接電圧Vwと一定の増加成分で増加させる短絡判定電圧値Vfsとを所定周期毎に比較演算する。
時刻t2は、低下を続ける溶接電圧Vwが短絡判定電圧値Vfsに等しくなる時刻である。この時刻t2において、接触したと判定し、短絡/アーク判別信号SaをHighレベル(短絡)に設定する。これに応動して、上述した図4と同様に、送給速度設定信号Frはゼロになり、送給は停止する。同時に、20〜80A程度の小電流値の短絡電流Itが通電する。さらに、同時に、溶接トーチ4が母材2から引き離される方向への移動(後退移動)を開始し、チップ・母材間距離Ltが徐々に長くなる。なお、短絡判定電圧値Vfsの増加演算は、時刻t2で終了する。時刻t3以降の動作は、上述した図4と同様である。
図2は、本発明の実施の形態2に係るリトラクトアークスタート制御時のタイミングチャートである。実施の形態1との相違は、短絡電流Itを一気に通電することによる溶着を防止するために、短絡判定電圧値Vfsに上限値Vfeを設けると共に、この上限値以下であれば短絡電流Itをスロープ状に増加させる点である。以下、実施の形態1との相違部分について説明する。
時刻t1’において、ワイヤ先端が母材2に物理的に接触すると、溶接電圧Vwが低下を開始する。この溶接電圧Vwの低下開始を検出し、検出と同時に、短絡判定電圧値Vfsを一定の増加成分により徐々に増加させる。目標値は予め定めた上限値Vfeである。この上限値Vfeは、10V以下が望ましい。それ以上は接触抵抗値が大きいため、短絡電流Itをスロープ状に増加させても溶着を回避することが困難になる。
時刻t2は、実施の形態1と同様に、低下を続ける溶接電圧Vwが短絡判定電圧値Vfsに等しくなる時刻であるから、接触したと判定し、短絡/アーク判別信号SaをHighレベル(短絡)に設定する。これに応動して、短絡電流Itの通電制御を開始する。このとき、短絡電流Itをスロープ状に増加させ、時刻t2’のタイミングで短絡電流Itの目標値に到達させるようにする。スロープ時間(t2〜t2’の時間)は、溶着が発生しない程度の値を実験により予め求めておき、設定しておくとよい。また、時刻t3において、短絡判定電圧値Vfsは、初期設定値に戻す。
2 母材
3 アーク
3a 初期アーク
3b 定常アーク
4 溶接トーチ
4a 給電チップ
Fc 送給制御信号
Fr 送給速度設定信号
Ic 定常溶接電流
Is 初期アーク電流
It 短絡電流
Iw 溶接電流
Iy 溶着解除電流
La アーク長
Lt チップ・母材間距離
Lw ワイヤ先端・母材間距離
Mc 動作制御信号
PS 溶接電源
RC ロボット制御装置
RM ロボット本体
Sa 短絡/アーク判別信号
St 溶接開始信号
Td 教示データ
TP ティーチペンダント
Va アーク電圧
Vfe 上限値
Vfs 短絡判定電圧値
Vr 溶接電圧設定信号
Vw 溶接電圧
Wi スローダウン送給速度
WM ワイヤ送給モータ
Ws 定常送給速度
Claims (6)
- 溶接ワイヤまたは母材に絶縁物が付着した状態で前記溶接ワイヤを前記母材へ近づく方向に前進移動し、前記溶接ワイヤおよび前記母材間の電圧検出値と所定の短絡判定電圧値とに基づいて前記溶接ワイヤが前記母材と接触したか否かを判定し、接触したと判定した後に前記溶接ワイヤを前記母材から引き離す方向に後退移動してアークを発生させるアークスタート制御方法において、
前記前進移動中に前記溶接ワイヤが前記母材と物理的に接触し、接触後は前記溶接ワイヤが前記母材に押し付けられて前記絶縁物が徐々に破壊されることにより発生する前記電圧検出値の低下開始を検出し、この検出後に前記短絡判定電圧値を所定の増加成分だけ徐々に増加させつつ前記電圧検出値と前記短絡判定電圧値との比較を行い、前記電圧検出値が前記短絡判定電圧値以下になったときに前記溶接ワイヤが前記母材と接触したと判定することを特徴とするアークスタート制御方法。 - 前記増加成分は、0.1〜0.5V/msecであることを特徴とする請求項1記載のアークスタート制御方法。
- 前記短絡判定電圧値の上限値は、10V以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のアークスタート制御方法。
- 前記短絡判定電圧値の初期設定値は0Vであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアークスタート制御方法。
- 前記初期設定値、前記増加成分のどちらか一方または両方は、可変であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアークスタート制御方法。
- 溶接ワイヤまたは母材に絶縁物が付着した状態で前記溶接ワイヤを前記母材へ近づく方向に前進移動し、前記溶接ワイヤおよび前記母材間の電圧検出値と所定の短絡判定電圧値とに基づいて前記溶接ワイヤが前記母材と接触したか否かを判定し、接触したと判定した後に前記溶接ワイヤを前記母材から引き離す方向に後退移動してアークを発生させるアークスタート制御方法において、
前記短絡判定電圧値を溶接箇所毎に予め定めておき、
前記前進移動中に前記溶接ワイヤが前記母材と物理的に接触し、接触後は前記溶接ワイヤが前記母材に押し付けられて前記絶縁物が徐々に破壊されることにより発生する前記電圧検出値の低下開始を検出し、所定間隔毎に前記電圧検出値と前記短絡判定電圧値との比較を行い、前記電圧検出値が前記短絡判定電圧値以下になったときに前記溶接ワイヤが前記母材と接触したと判定することを特徴とするアークスタート制御方法。
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