以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
〈冷媒回路の全体構成〉
図1に示すように、本実施形態の冷凍装置(100)は、冷凍サイクルを行う冷媒回路(110)に、容量可変のシングルスクリュー圧縮機(1)(以下、単にスクリュー圧縮機と言う)が設けられたものである。
この冷媒回路(110)は、スクリュー圧縮機(1)、凝縮器(111)、第1膨張弁(112)、気液分離器(113)、第2膨張弁(114)、及び蒸発器(115)が設けられた閉回路で構成されている。具体的には、スクリュー圧縮機(1)の吐出側が凝縮器(111)のガス側端に接続され、凝縮器(111)の液側端が第1膨張弁(112)を介して気液分離器(113)の冷媒流入口に接続されている。気液分離器(113)の冷媒流出口は第2膨張弁(114)を介して蒸発器(115)の液側端に接続され、蒸発器(115)のガス側端がスクリュー圧縮機(1)の吸入側に接続されている。
気液分離器(113)は液インジェクション機構(120)を介してスクリュー圧縮機(1)に接続されている。気液分離器(113)には液インジェクションポート(121)が設けられている。この液インジェクションポート(121)は、電磁弁(122)が設けられた液インジェクション管(123)が接続され、この液インジェクション管(123)はスクリュー圧縮機(1)が有する圧縮機構(20)に対して中間圧位置に接続されている。また、液インジェクション管(123)には、流量調整弁(124)が設けられた液インジェクション分岐管(125)が電磁弁(122)の下流側に接続されている。液インジェクション分岐管(125)は冷媒回路(110)の吸入配管(116)に接続されている。
また、冷媒回路(110)の一部を図2に示しているように、この冷凍装置(100)の冷媒回路(110)には、蒸発器の出口側の冷媒圧力を検出する吸入圧力センサ(141)と、圧縮室(23)の吸入直前の冷媒温度を検出する吸入温度センサ(142)とが設けられている。また、吸入配管(116)には、蒸発器の出口側の冷媒温度を検出する温度センサ(143)が設けられている。
〈スクリュー圧縮機の全体構成〉
図1に示すように、このスクリュー圧縮機(1)では、圧縮機構(20)とそれを駆動する電動機(15)とが1つのケーシング(10)に収容されている。このスクリュー圧縮機(1)は、半密閉型に構成されている。
ケーシング(10)は、横長の円筒状に形成されている。ケーシング(10)の内部空間は、ケーシング(10)の一端側に位置する低圧空間(S1)と、ケーシング(10)の他端側に位置する高圧空間(S2)とに仕切られている。ケーシング(10)には、低圧空間(S1)に連通する吸入管接続部(11)と、高圧空間(S2)に連通する吐出管接続部(12)とが設けられている。冷媒回路(110)の蒸発器(115)から流れてきた低圧ガス冷媒(即ち、低圧流体)は、吸入管接続部(11)を通って低圧空間(S1)へ流入する。また、圧縮機構(20)から高圧空間(S2)へ吐出された圧縮後の高圧ガス冷媒は、吐出管接続部(12)を通って冷媒回路(110)の凝縮器(111)へ供給される。
ケーシング(10)内では、低圧空間(S1)に電動機(15)が配置され、低圧空間(S1)と高圧空間(S2)の間に圧縮機構(20)が配置されている。圧縮機構(20)の駆動軸(21)は、電動機(15)に連結されている。スクリュー圧縮機(1)の電動機(15)は商用電源(図示せず)に接続されている。電動機(15)は、商用電源から交流を供給されて一定の回転速度で回転する。
また、ケーシング(10)内では、高圧空間(S2)に油分離器(16)が配置されている。油分離器(16)は、圧縮機構(20)から吐出された冷媒から冷凍機油を分離する。高圧空間(S2)における油分離器(16)の下方には、潤滑油である冷凍機油を貯留するための油貯留室(17)が形成されている。油分離器(16)において冷媒から分離された冷凍機油は、下方へ流れ落ちて油貯留室(17)に蓄えられる。
図3,図4に示すように、圧縮機構(20)は、ケーシング(10)内に形成された円筒壁(30)と、該円筒壁(30)の中に配置された1つのスクリューロータ(40)と、該スクリューロータ(40)に噛み合う2つのゲートロータ(50)とを備えている。円筒壁(30)は、後述する軸受ホルダ(35)と共に、シリンダ部を構成している。スクリューロータ(40)には駆動軸(21)が挿通し、スクリューロータ(40)と駆動軸(21)は、キー(22)によって連結されている。駆動軸(21)はスクリューロータ(40)と同軸上に配置されている。スクリューロータ(40)は、該スクリューロータ(40)の吸入側に配置された電動機(15)によりケーシング(10)内で回転駆動される。
円筒壁(30)の高圧空間(S2)側の端部には、軸受ホルダ(35)が挿入されている。軸受ホルダ(35)は、概ね円筒状に形成されている。軸受ホルダ(35)の外径は、円筒壁(30)の内周面(即ち、スクリューロータ(40)の外周面と摺接する面)の直径と実質的に等しくなっている。軸受ホルダ(35)の外周面のうち後述するスライドバルブ(70)と摺接する部分は、摺接面であるガイド面(37)となっている。軸受ホルダ(35)の内側には、玉軸受(36)が設けられている。玉軸受(36)には駆動軸(21)の先端部が挿通しており、この玉軸受(36)が駆動軸(21)を回転自在に支持している。
図5に示すように、スクリューロータ(40)は、概ね円柱状に形成された金属製の部材である。スクリューロータ(40)は、円筒壁(30)に回転可能に嵌合しており、その外周面が円筒壁(30)の内周面と油膜を介して摺接する。スクリューロータ(40)の外周部には、スクリューロータ(40)の一端から他端へ向かって螺旋状に延びる螺旋溝(41)が複数(本実施形態では、6本)形成されている。
スクリューロータ(40)の各螺旋溝(41)は、図5における手前側の端部が始端となり、同図における奥側の端部が終端となっている。また、スクリューロータ(40)は、同図における手前側の端部(吸入側の端部)がテーパー状に形成されている。図5に示すスクリューロータ(40)では、テーパー面状に形成されたその手前側の端面に螺旋溝(41)の始端が開口する一方、その奥側の端面に螺旋溝(41)の終端は開口していない。
各ゲートロータ(50)は、樹脂製の部材である。各ゲートロータ(50)には、長方形板状に形成された複数(本実施形態では、11枚)のゲート(51)が放射状に設けられている。各ゲートロータ(50)は、円筒壁(30)の外側に、スクリューロータ(40)の回転軸に対して軸対称となるように配置されている。各ゲートロータ(50)の軸心は、スクリューロータ(40)の軸心と直交している。各ゲートロータ(50)は、ゲート(51)が円筒壁(30)の一部を貫通してスクリューロータ(40)の螺旋溝(41)に噛み合うように配置されている。
ゲートロータ(50)は、金属製のロータ支持部材(55)に取り付けられている(図5を参照)。ロータ支持部材(55)は、基部(56)とアーム部(57)と軸部(58)とを備えている。基部(56)は、やや肉厚の円板状に形成されている。アーム部(57)は、ゲートロータ(50)のゲート(51)と同数だけ設けられており、基部(56)の外周面から外側へ向かって放射状に延びている。軸部(58)は、棒状に形成されて基部(56)に立設されている。軸部(58)の中心軸は、基部(56)の中心軸と一致している。ゲートロータ(50)は、基部(56)及びアーム部(57)における軸部(58)とは反対側の面に取り付けられている。各アーム部(57)は、ゲート(51)の背面に当接している。
ゲートロータ(50)が取り付けられたロータ支持部材(55)は、円筒壁(30)に隣接してケーシング(10)内に区画形成されたゲートロータ室(90)に収容されている(図4を参照)。図4におけるスクリューロータ(40)の右側に配置されたロータ支持部材(55)は、ゲートロータ(50)が下端側となる向きで設置されている。一方、同図におけるスクリューロータ(40)の左側に配置されたロータ支持部材(55)は、ゲートロータ(50)が上端側となる向きで設置されている。各ロータ支持部材(55)の軸部(58)は、ゲートロータ室(90)内の軸受ハウジング(91)に玉軸受(92,93)を介して回転自在に支持されている。なお、各ゲートロータ室(90)は、低圧空間(S1)に連通している。
圧縮機構(20)では、円筒壁(30)の内周面と、スクリューロータ(40)の螺旋溝(41)と、ゲートロータ(50)のゲート(51)とによって囲まれた空間が圧縮室(23)になる。スクリューロータ(40)の螺旋溝(41)は、吸入側端部において低圧空間(S1)に開放しており、この開放部分が圧縮機構(20)の吸入口(24)になっている。
スクリュー圧縮機(1)には、容量調節用のスライドバルブ(70)が設けられている。このスライドバルブ(70)は、スライドバルブ収納部(31)内に設けられている。スライドバルブ収納部(31)は、円筒壁(30)がその周方向の2カ所において径方向外側に膨出した部分であって、吐出側の端部(図3における右端部)から吸入側の端部(同図における左端部)へ向かって延びる概ね半円筒形状に形成されている。スライドバルブ(70)は、円筒壁(30)の軸心方向にスライド可能に構成されており、スライドバルブ収納部(31)へ挿入された状態でスクリューロータ(40)の周側面と対面する。スライドバルブ(70)の詳細な構造は後述するが、図3の吐出側への移動端が全開側の移動端、吸入側への移動端が全閉側の移動端になっている。
ケーシング(10)内には、円筒壁(30)の外側に連通路(32)が形成されている。連通路(32)は、各スライドバルブ収納部(31)に対応して1つずつ形成されている。連通路(32)は、円筒壁(30)の軸方向へ延びる通路であって、その一端が低圧空間(S1)に開口し、その他端がスライドバルブ収納部(31)の吸入側の端部に開口している。円筒壁(30)のうち連通路(32)の他端(図3における右端)に隣接する部分は、スライドバルブ(70)の先端面(P2)が当接するシート部(13)を構成している。また、シート部(13)では、スライドバルブ(70)の先端面(P2)と向かい合う面がシート面(P1)を構成している。
スライドバルブ(70)が高圧空間(S2)寄り(図1における駆動軸(21)の軸方向を左右方向とした場合の右側寄り)へスライドすると、スライドバルブ収納部(31)の端面(P1)とスライドバルブ(70)の端面(P2)との間に軸方向隙間が形成される。この軸方向隙間は、圧縮室(23)から低圧空間(S1)へ冷媒を戻すためのバイパス通路(33)を、連通路(32)と共に構成している。つまり、バイパス通路(33)は、圧縮室(23)の吸入側である低圧空間(S1)に一端が連通し、圧縮室(23)の圧縮途中位置である円筒壁(30)の内周面に他端が開口可能となっている。スライドバルブ(70)を移動させてバイパス通路(33)の開度を変更すると、圧縮機構(20)の容量が変化する。また、スライドバルブ(70)には、圧縮室(23)と高圧空間(S2)とを連通させるための吐出口(25)が形成されている。
上記スクリュー圧縮機(1)には、スライドバルブ(70)をスライド駆動してバイパス通路(33)の開度を調整するためのスライドバルブ駆動機構(アンロード機構)(80)が設けられている。このスライドバルブ駆動機構(80)は、軸受ホルダ(35)に固定されたシリンダ(81)と、該シリンダ(81)内に装填されたピストン(82)と、該ピストン(82)のピストンロッド(83)に連結されたアーム(84)と、該アーム(84)とスライドバルブ(70)とを連結する連結ロッド(85)と、アーム(84)を図1の右方向(アーム(84)をケーシング(10)から引き離す方向)に付勢するスプリング(86)とを備えている。
図3に示すスライドバルブ駆動機構(80)では、ピストン(82)の左側空間(ピストン(82)のスクリューロータ(40)側の空間)の内圧が、ピストン(82)の右側空間(ピストン(82)のアーム(84)側の空間)の内圧と同じ圧力になっていて、左側空間の内圧が右側空間の内圧よりも高くなるとピストン(82)が図の右方向へ移動する。そして、スライドバルブ駆動機構(80)は、ピストン(82)の右側空間の内圧(即ち、右側空間内のガス圧)を調節することによって、スライドバルブ(70)の位置を調整するように構成されている。
スクリュー圧縮機(1)の運転中において、スライドバルブ(70)では、その軸方向の端面の一方に圧縮機構(20)の吸入圧が、他方に圧縮機構(20)の吐出圧がそれぞれ作用する。このため、スクリュー圧縮機(1)の運転中において、スライドバルブ(70)には、常にスライドバルブ(70)を低圧空間(S1)側へ押す方向の力が作用する。従って、スライドバルブ駆動機構(80)におけるピストン(82)の左側空間及び右側空間の内圧を変更すると、スライドバルブ(70)を高圧空間(S2)側へ引き戻す方向の力の大きさが変化し、その結果、スライドバルブ(70)の位置が変化する。
〈スライドバルブの構成〉
スライドバルブ(70)について、図6,図7を参照しながら詳細に説明する。
スライドバルブ(70)は、弁体部(71)と、ガイド部(75)と、連結部(77)とによって構成されている。このスライドバルブ(70)において、弁体部(71)とガイド部(75)と連結部(77)とは、1つの金属製の部材で構成されている。つまり、弁体部(71)とガイド部(75)と連結部(77)とは、一体に形成されている。
弁体部(71)は、図4にも示すように、中実の円柱の一部を削ぎ落としたような形状となっており、削ぎ落とされた部分(前面側の部分:ケーシングの径方向内側に位置する部分)がスクリューロータ(40)を向く姿勢でケーシング(10)内に設置されている。弁体部(71)において、スクリューロータ(40)と向かい合う摺接面(72)は、その曲率半径が円筒壁(30)の内周面の曲率半径と等しい円弧面となっており、弁体部(71)の軸方向へ延びている。この弁体部(71)の摺接面(72)は、スクリューロータ(40)と摺接すると共に、螺旋溝(41)によって形成された圧縮室(23)に臨んでいる。
弁体部(71)では、一方の端面(図7における左端面)が、弁体部(71)の軸方向と直交する平坦面となっている。この端面は、スライドバルブ(70)のスライド方向における先端面(P2)となっている。また、弁体部(71)では、他方の端面(同図における右端面)が、弁体部(71)の軸方向に対して傾斜した傾斜面となっている。この傾斜面となった弁体部(71)の他端面の傾きは、スクリューロータ(40)の螺旋溝(41)の傾きと同じである。
ガイド部(75)は、断面がT字形の柱状に形成されている。このガイド部(75)において、T字形の横棒に対応する側面(即ち、図6において手前側を向いている側面)は、その曲率半径が円筒壁(30)の内周面の曲率半径と等しい円弧面となっており、軸受ホルダ(35)の外周面と摺接する摺接面(76)を構成している。つまり、この摺接面(76)は、軸受ホルダ(35)のガイド面(37)と摺接している。スライドバルブ(70)において、ガイド部(75)は、その摺接面(76)が弁体部(71)の摺接面(72)と同じ側を向く姿勢で、弁体部(71)の傾斜面となった端面から間隔をおいて配置されている。
連結部(77)は、比較的短い柱状に形成され、弁体部(71)とガイド部(75)を連結している。この連結部(77)は、弁体部(71)の摺接面(72)やガイド部(75)の摺接面(76)とは反対側にオフセットした位置に設けられている。そして、スライドバルブ(70)では、弁体部(71)とガイド部(75)の間の空間とガイド部(75)の背面側(即ち、摺接面(76)とは反対側)の空間とが吐出ガスの通路を形成し、弁体部(71)の摺接面(72)とガイド部(75)の摺接面(76)との間が吐出口(25)となっている。
この冷凍装置(100)には、図1に示すようにコントローラ(130)が設けられている。コントローラ(130)は、スクリュー圧縮機(1)の運転容量や第1,第2膨張弁(112,114)の開度を調整して冷媒回路(110)の動作を制御するとともに、液インジェクション機構(120)の動作を制御するように構成されている。
具体的には、吸入圧力センサ(141)の検出値と吸入温度センサ(142)の検出値とがコントローラ(130)に入力され、吸入圧力センサ(141)で検出された吸入圧力の相当飽和温度と吸入温度センサ(142)で検出された実際の吸入温度とから、吸入冷媒の過熱度が求められる。そして、求められた吸入冷媒の過熱度が予め設定された値(例えば50℃)まで上昇すると、上記アンロード機構(80)により、スライドバルブ(70)の全開側への移動量が最大移動量よりも小さな移動量に制限される。つまり、図9に示すスライドバルブの全閉側(吸入側)の移動端と図10に示すスライドバルブの全開側(吐出側)の移動端の間の位置が、吐出側の移動端となるように移動量が制限される。スライドバルブ(70)の移動量を制限すると、圧縮室(23)で途中まで圧縮されることにより温度の上昇した冷媒が圧縮室(23)の吸入側へ戻る量が少なくなるので、吸入冷媒の過熱度を抑えることが可能になる。
また、上記コントローラ(130)は、液インジェクション機構(120)の動作も制御するように構成されている。具体的には、吸入冷媒の過熱度が予め設定した値(例えば50℃)まで上昇してスライドバルブ(70)の移動量が制限される状態で、なおかつ運転容量が目標値より大きい場合には、上記液インジェクション機構(120)により、圧縮室(23)の吸入側に液冷媒を注入する液インジェクション動作が行われる。つまり、電磁弁(122)が開かれて圧縮機構(20)に中間圧力の冷媒が注入されるとともに、流量調整弁により流量調整された低圧の冷媒が圧縮室(23)の吸入側に注入される。
圧縮室の吸入側への液インジェクションが行われると、吸入配管(116)から圧縮機構(20)へ吸入される冷媒流量が少なくなる。そのため、スクリュー圧縮機(1)の見かけ上の運転容量が少なくなる。
また、圧縮室(23)の吸入側に液冷媒を注入すると吸入冷媒の過熱度が下がるので、スライドバルブ(70)のスライド量を大きくする(全開側への移動量の制限を小さくする)ことができる。スライドバルブ(70)の移動量を大きくすることで圧縮室(23)の吸入側に戻る中間圧のバイパスガス冷媒の量が増えると、さらに液インジェクション量が調整され、スクリュー圧縮機(1)の運転容量と吸入冷媒の過熱度とがバランスするように制御される。
なお、本実施形態では、図1,図2に示すように、上記液インジェクション機構(120)により、スクリューロータ(40)の吸入側でかつ電動機(15)の上流側に液冷媒が注入され、電動機(15)が液冷媒により冷却される。
また、上記コントローラ(130)により、上記液インジェクション機構(120)は、吸入冷媒の過熱度が予め設定した値まで上昇してスライドバルブ(70)の移動量が制限される状態で、吐出冷媒温度が目標値(例えば120℃)よりも高い場合には液インジェクション動作を行うように制御される。液インジェクション量は、吐出冷媒温度に基づいて流量調整弁(124)の開度を制御することにより調整される。このように液インジェクション量を調整することにより、吐出冷媒の温度が制御される。
−スクリュー圧縮機の運転動作−
スクリュー圧縮機(1)の全体的な運転動作について、図8を参照しながら説明する。
スクリュー圧縮機(1)において電動機(15)を起動すると、駆動軸(21)が回転するのに伴ってスクリューロータ(40)が回転する。このスクリューロータ(40)の回転に伴ってゲートロータ(50)も回転し、圧縮機構(20)が吸入行程、圧縮行程および吐出行程を繰り返す。ここでは、図8においてドットを付した圧縮室(23)に着目して説明する。
図8(A)において、ドットを付した圧縮室(23)は、低圧空間(S1)に連通している。また、この圧縮室(23)が形成されている螺旋溝(41)は、同図の下側に位置するゲートロータ(50)のゲート(51)と噛み合わされている。スクリューロータ(40)が回転すると、このゲート(51)が螺旋溝(41)の終端へ向かって相対的に移動し、それに伴って圧縮室(23)の容積が拡大する。その結果、低圧空間(S1)の低圧ガス冷媒が吸入口(24)を通じて圧縮室(23)へ吸い込まれる。
スクリューロータ(40)が更に回転すると、図8(B)の状態となる。同図において、ドットを付した圧縮室(23)は、閉じきり状態となっている。つまり、この圧縮室(23)が形成されている螺旋溝(41)は、同図の上側に位置するゲートロータ(50)のゲート(51)と噛み合わされ、このゲート(51)によって低圧空間(S1)から仕切られている。そして、スクリューロータ(40)の回転に伴ってゲート(51)が螺旋溝(41)の終端へ向かって移動すると、圧縮室(23)の容積が次第に縮小する。その結果、圧縮室(23)内のガス冷媒が圧縮される。
スクリューロータ(40)が更に回転すると、図8(C)の状態となる。同図において、ドットを付した圧縮室(23)は、吐出口(25)を介して高圧空間(S2)と連通した状態となっている。そして、スクリューロータ(40)の回転に伴ってゲート(51)が螺旋溝(41)の終端へ向かって移動すると、圧縮された冷媒ガスが圧縮室(23)から高圧空間(S2)へ押し出されてゆく。
次に、スライドバルブ(70)を用いた圧縮機構(20)の容量制御について、図2,図9,図10を参照しながら説明する。なお、圧縮機構(20)の容量とは、“単位時間当たりに蒸発器を通過し、吸入管接続部(11)から圧縮機(1)に吸入される冷媒の量”を意味する。この圧縮機構(20)の容量は、スクリュー圧縮機(1)の運転容量と同義である。
スライドバルブ(70)が図2の左側へ最も押し込まれた状態では、図9に示すようにスライドバルブ(70)が全閉側(吸入側)の移動端に位置する。そして、スライドバルブ(70)の先端面(P2)がシート部(13)のシート面(P1)に押し付けられ、圧縮機構(20)の容量が最大となる。つまり、この状態では、バイパス通路(33)がスライドバルブ(70)の弁体部(71)によって完全に塞がれ、低圧空間(S1)から圧縮室(23)へ吸入された冷媒ガスの全てが高圧空間(S2)へ吐出される。したがって、この状態では、スクリュー圧縮機(1)の運転容量が最大となる。
一方、スライドバルブ(70)が図2の右側へ退き、スライドバルブ(70)の先端面(P2)がシート面(P1)から離れると、円筒壁(30)の内周面にバイパス通路(33)が開口する。この状態において、低圧空間(S1)から圧縮室(23)へ吸入された冷媒ガスは、その一部が圧縮行程途中の圧縮室(23)からバイパス通路(33)を通って低圧空間(S1)へ戻り、残りが最後まで圧縮されて高圧空間(S2)へ吐出される。
そして、スライドバルブ(70)の先端面(P2)とスライドバルブ収納部(31)のシート面(P1)との間隔が広がると(つまり、円筒壁(30)の内周面におけるバイパス通路(33)の開口面積が拡大すると)、それにつれてバイパス通路(33)を通って低圧空間(S1)へ戻る冷媒の量が増大し、高圧空間(S2)へ吐出される冷媒の量が減少する。また、スライドバルブ(70)の先端面(P2)とスライドバルブ収納部(31)のシート面(P1)との間隔が広がるほど、吸入配管(116)から圧縮機(1)に吸入される冷媒の流量が少なくなり、圧縮機構(20)の容量が小さくなる。
スライドバルブ(70)が図10に示す全開側(吐出側)の移動端に位置すると、スライドバルブ(70)の先端面(P2)と円筒壁(30)のシート面(P1)との距離が最大になる。つまり、この状態では、円筒壁(30)の内周面におけるバイパス通路(33)の開口面積が最大となり、圧縮室(23)からバイパス通路(33)を通って低圧空間(S1)へ戻されるバイパスガス冷媒の流量が最大となる。したがって、この状態では、圧縮機構(20)から高圧空間(S2)へ吐出される冷媒の流量が最少となる。また、バイパスガス冷媒の流量が最大になると、吸入配管(116)から圧縮機(1)に吸入される冷媒の流量が最小になり、スクリュー圧縮機(1)の運転容量が最小となる。
なお、圧縮室(23)から高圧空間(S2)へ吐出される冷媒は、先ずスライドバルブ(70)に形成された吐出口(25)へ流入する。その後、この冷媒は、スライドバルブ(70)のガイド部(75)の背面側に形成された通路を通って高圧空間(S2)へ流入する。
本実施形態では、吸入冷媒の過熱度が予め設定された値(例えば50℃)まで上昇すると、上記アンロード機構(80)により、スライドバルブ(70)の全開側への移動量が最大移動量よりも小さな移動量に制限され、スライドバルブ(70)の最大移動量が図9に示す全閉側(吸入側)の移動端と図10に示す全開側(吐出側)の移動端の間の位置(仮想線を参照)までに制限される。スライドバルブ(70)の移動量をこのように制限すると、圧縮室(23)で途中まで圧縮されて温度の上昇した冷媒が圧縮室(23)の吸入側へ戻る量が少なくなるので、吸入冷媒の過熱度が抑えられる。
また、吸入冷媒の過熱度が予め設定した値まで上昇してスライドバルブ(70)の移動量が制限される状態で、なおかつ運転容量が目標値より大きい場合には、上記液インジェクション機構(120)により、圧縮室(23)の吸入側に液冷媒を注入する液インジェクション動作が行われる。圧縮室の吸入側への液インジェクションが行われると、吸入配管(116)から圧縮機構(20)へ吸入される冷媒流量が少なくなる。そのため、スクリュー圧縮機(1)の見かけ上の運転容量が少なくなる。
圧縮室(23)の吸入側に液冷媒を注入すると吸入冷媒の過熱度が下がるので、スライドバルブ(70)のスライド量を大きくする(全開側への移動量の制限を小さくする)ことができる状態になる。スライドバルブ(70)の移動量を大きくすることで圧縮室(23)の吸入側に戻る中間圧の冷媒量が増えると、さらに液インジェクション量が調整されて、スクリュー圧縮機(1)の運転容量と吸入冷媒の過熱度とがバランスするように制御される。
また、吸入冷媒の過熱度が予め設定した値まで上昇してスライドバルブ(70)の移動量が制限される状態で、なおかつ吐出冷媒温度が目標値(例えば120℃)よりも高い場合には、流量調整弁(124)の開度を制御することにより液インジェクション動作が行われる。このようにして吸入冷媒の温度を下げることにより、吐出冷媒の温度が上昇しすぎるのを抑えることができる。
−実施形態の効果−
本実施形態によれば、吸入冷媒の過熱度が予め設定された値(例えば50℃)まで上昇すると、スライドバルブ(70)の移動量を制限することにより吸入冷媒の過熱度の上昇を抑えるようにしているので、圧縮機構の動作中にスクリューロータがケーシングに接触したり、スクリューロータが焼き付いて停止したりするのを抑制できる。
また、スライドバルブ(70)の移動量を制限した状態で運転容量が目標値より大きい場合には、さらに液インジェクション動作を行うことにより、過熱度の上昇を抑えつつ運転容量を小さくすることが可能になる。
また、スライドバルブ(70)の移動量を制限した状態で吐出温度が目標値よりも高くなっている場合にも液インジェクションを行うことにより、冷媒の吐出温度が上昇しすぎるのも防止できる。
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
例えば、上記実施形態では、吸入冷媒の過熱度が予め設定した値まで上昇すると、スライドバルブ(70)の全開側への移動量を最大移動量よりも小さな移動量に制限するとともに、スライドバルブ(70)の移動量が制限される状態で運転容量が目標値より大きい場合には液インジェクション動作を行うようにしているが、液インジェクション動作は必ずしも行わなくてもよい。その場合でも、スクリューロータの焼き付きなどの不具合を防止することは可能である。
また、上記実施形態では、液インジェクション機構(120)を、スクリューロータ(40)の吸入側でかつ電動機(15)の上流側に液冷媒を導入するように構成しているが、スクリューロータ(40)と電動機(15)の間に液冷媒を導入するようにしてもよい。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。