排水中に含まれる硝酸性窒素の処理方法としては、微生物の脱窒能を利用した生物学的処理方法や、イオン交換法、逆浸透法、電気透析法等の物理化学的処理方法、電気分解を利用した電気化学的処理方法等がある。
生物学的処理方法は、ランニングコストが安価で最も普及している方法であるが、反応速度が小さいため、大量の排水を処理するためには大型の処理装置を必要とする。また、この生物学的処理方法は、約1g/L以上の高濃度の硝酸性窒素を含有する排水に適用することは難しく、排水中の硝酸性窒素濃度の変化等の処理装置に対する負荷の変動によって処理性能が不安定になり易い。
物理化学的処理方法は、処理装置が小型化でき、確実な処理が期待できる方法である。しかしながら、この方法は水中の窒素を分離・濃縮する方法であるため、最終的に窒素が濃縮された液の処理が別途必要となり、根本的に窒素を処理していることにならない。
電気分解を利用した電気化学的処理方法は、窒素成分を根本的に処理する方法であり、装置の大きさに対して処理能力が比較的大きく、高濃度の窒素を含有する排水に対して適用可能で、窒素濃度の変化等の処理装置に対する負荷の変動に対して安定な処理が期待される。
しかしながら、従来の電気化学的窒素除去方法のうち、特に硝酸態、亜硝酸態等の酸化態窒素の処理方法に関しては、硝酸態、亜硝酸態窒素の還元を行う陰極の耐久性(耐食性)と、陽極と陰極を区画する隔膜等を必要とすることに課題があった。
例えば、特許文献1には、陰極材質として周期律表の1B族又は2B族を含む導電体、若しくは、同族を導電体に被覆したものを用いることが提案されている。具体的には、亜鉛、銅、銀、亜鉛と銅の合金である真鍮、銅とニッケル、銅とアルミニウムの合金等が例示されており、それらは酸化態窒素の還元特性が高いことが示されている。
ただし、特に真鍮に関しては、還元特性が向上する機構として、イオン化傾向の大きい亜鉛が犠牲電極として作用すると説明されている。したがって、真鍮を陰極として用いる場合には、電極を構成している亜鉛の溶解を前提としていることになり、電極の耐久性としては問題がある。
また、特許文献2には、陰極に銅を含む合金を用いる場合には、毒性の観点から銅の溶解が課題であるとの指摘がなされており、そこで銅系合金に代わり周期律表の8族を含む導電体、若しくは、同族を導電体に被覆したものを用いることが提案されている。具体的には、鉄が例示されており、還元特性としては真鍮と同様であると説明されている。
しかしながら、後述の比較例で説明するように、鉄を陰極として用いた場合、鉄の溶解が著しい。毒性の観点からは鉄が溶解しても大きな問題とはならないかもしれないが、電極の耐久性としては問題があるのみならず、溶解した鉄を別途処理する工程が必要となる。
また、上述の特許文献2、並びに特許文献3には、陽極と陰極の間を陽イオン交換膜で区画することが提案されている。また、上述の特許文献1には、陽極と陰極の間に、酸素気泡の通過を阻止して陽極側が流水の影響を受けない構造にするとともにイオンの通過は許容する遮蔽部材を配置することが提案されている。
これらの技術の説明によれば、陽極と陰極の間を区画することによって、陰極で硝酸イオンが還元され亜硝酸イオンが生成しても、それが陽極で酸化され再び硝酸イオンが生じることを防止し、高い電流効率での硝酸イオンの還元を実現する、というものである。
さらに、陰極側では、陽極で発生した次亜塩素酸イオンが再び塩化物イオンに還元される反応が起こり、酸化態窒素還元反応の効率が低下することが推測されるので、陽極と陰極の間を区画することによって、陰極側での還元効率の低下を防止する意図もあると考えられる。
しかしながら、被処理水中には酸化態窒素以外にも様々な成分が含まれていることが想定され、硬度成分や懸濁物質が含まれていることも少なくない。したがって、陽極と陰極の間を区画した場合には、区画に用いたイオン交換膜や遮蔽部材において、硬度成分や懸濁物質による詰まりが発生し問題となることは容易に推測される。
このような隔膜を用いた電解の例として、苛性ソーダの製造が挙げられる。苛性ソーダの電解製造では、隔膜であるイオン交換膜の詰まりを防止するために、電解に供する原水中の硬度成分濃度を極めて低い濃度に厳密に管理するようにしている。しかしながら、このような管理を一般的な水処理に適用することは極めて困難である。
また、陽極と陰極の間を区画すると、陰極で生成したアンモニアと、陽極で生成した次亜塩素酸はその場で反応することはない。このことから、例えば上述した特許文献3に記載の技術では、電解を行い陰極でアンモニアを生成させた後、陰極室の液を陽極室へ送液してアンモニアと次亜塩素酸の反応をさせるという複数の工程が必要となり、操作が複雑になるという問題がある。
一方、特許文献4には、無隔膜電解槽を用いた硝酸性窒素処理方法が提案されている。しかしながら、この特許文献4には、陰極にアルミニウム又はそれを主成分とする合金を用い、目的とは逆の反応(陽極での窒素化合物の酸化反応と陰極での次亜塩素酸の還元反応)で浪費される電気量を、陰極材料の溶解によって見かけ上補填する、と説明されている。この方法では、目的とは逆の反応を抑制ないし防止する手段が講じられている訳ではなく、上述した特許文献1に記載の技術同様に、陰極材料の溶解が前提とされた方法であって、陰極の耐久性として課題があるのみならず、溶解したアルミニウムを別途処理する必要が生じる。
また、特許文献4においては、陰極として用いているアルミニウムは、被処理水に浸漬しているだけではほとんど溶解せず、電圧を印加した場合に急激に溶解するようになる、との説明がある。この理由についての説明は記載されていないが、陰極として通電したときには、通常よりもより腐食環境になると推測される。
電解反応において、金属の電解採取等の例があるように、一般的には陰極側が腐食環境になるとは想定されない。しかしながら、上述した特許文献1〜4の全てにおいて、陰極材料の溶解が説明又は例示されていることから、酸化態窒素の電気化学的分解反応において使用する陰極は、厳しい腐食環境に置かれていると推測される。
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、以下の順序で詳細に説明する。
1.本発明の概要
2.陰極について
3.被処理水中の酸化態窒素の除去方法
4.実施例
≪1.本発明の概要≫
本発明による酸化態窒素の処理方法は、塩化物イオンを含む被処理水中の酸化態窒素成分を電気化学的に還元処理して除去する方法である。この電気化学的な還元処理による除去方法は、陽極及び陰極を有する電解槽に被処理水を導入し、その電極に電圧を印加して通電することによって、陽極では塩化物イオンを酸化して次亜塩素酸を生成させ、陰極では酸化態窒素を還元してアンモニアを生成させるものであり、発生した次亜塩素酸とアンモニアとを反応させることによって酸化態窒素を窒素ガスとして除去する。
この電気分解により酸化態窒素を除去する方法において、本発明では、酸化態窒素に対して還元性能を有する合金を導電体(導電性基材)の表面にアモルファス状態でコーティングした陰極を用いて電気分解することを特徴としている。
このように、本発明に係る酸化態窒素の除去方法では、アモルファス状態の合金をコーティングして陰極として使用することが重要であり、この方法によれば、陰極を構成する導電体表面にコーティングさせた合金成分が、電気分解に伴って溶液中に溶出することを防止することができ、酸化態窒素の還元性能を維持しながら、高い耐久性(耐腐食性、耐摩耗性)でもって、効果的にかつ効率的な酸化態窒素の除去処理を行うことができる。
以下では、本発明に係る酸化態窒素の除去方法についての具体的な実施形態について(「本実施の形態」という。)、さらに詳細に説明する。
≪2.陰極について≫
先ず、本実施の形態に係る酸化態窒素の除去方法についての説明に先立ち、この電気分解による酸化態窒素の還元分解処理に用いられる電気分解用電極について説明する。
本実施の形態に係る酸化態窒素の除去方法に用いられる電気分解用電極は、その導電体の表面に合金をアモルファス状態でコーティングしてなることを特徴としている。より具体的に、この電極は、塩化物イオンを含む被処理水中の酸化態窒素成分を電気分解するために陰極として用いられ、酸化態窒素に対して還元性能を有する合金をアモルファス状態でコーティングしてなる。
ここで、酸化態窒素の還元用として用いられる電極に要求される性能としては、その処理対象となる酸化態窒素を効果的に還元することができる還元性能を有すること、耐久性(耐食性)が優れていること、さらに経済性に優れていることである。
酸化態窒素に対して還元性能を有する成分としては、周期律表の8族、1B族、2B族の金属及びその合金等が挙げられる。
従来、上述したような被処理水中の酸化態窒素の電気分解による除去処理においては、単に、その酸化態窒素に対して還元性能を有する金属及びその合金、又はそれらの金属及び合金を導電体に被覆した電極が用いられていた。しかしながら、このような従来の電極では、電圧を印加して通電されると、その印加した電気が触媒となって急激に溶解されるようになる。したがって、これまでの電極では、被処理水の電気分解に伴って、所定の時間が経過すると陰極が腐食してその金属成分が溶液中に溶出してしまうため、還元能が低下して十分に酸化態窒素を還元することができなくなることもあった。また、陰極の溶解によってその陰極を継続的に使用することができなくなり、このことは、例えば処理すべき酸化態窒素の含有量が多い被処理水に対しては、酸化態窒素が十分に低濃度になるまで処理することはできず、完全に処理するには新たな陰極に交換することを余議なくされていた。
これに対し、酸化態窒素に対して還元性能を有する合金をアモルファス状態で導電体表面にコーティングした電極(以下、「アモルファス電極」ともいう。)を陰極として用いることによって、耐食性、耐摩耗性を極めて効果的に向上させることができる。すなわち、その陰極に電流が通電されても、陰極の溶解を防止して、金属成分が溶液中に溶出することを防止することができる。また、電流が通電されるとともに過度に腐食される環境下で用いられた場合であっても、その溶解を効果的に防止することができる。これにより、酸化態窒素に対する高い還元性能と優れた耐久性(耐食性、耐摩耗性)を併せ持つ電極となり、酸化態窒素の還元能が低下することを防止してその性能を維持し、また酸化態窒素の含有量が多い被処理水に対しても頻繁に陰極を交換することなく、極めて効率的な処理を行うことができる。
導電体の表面にアモルファス状態でコーティングさせる合金成分としては、酸化態窒素に対して還元性能を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、第1成分として周期表の8族、1B族、2B族の金属元素を主成分として含む合金が挙げられる。具体的には、鉄(Fe)を主成分として含む鉄系合金、ニッケル(Ni)を主成分として含むニッケル系合金等が挙げられる。
より具体的に、鉄系合金としては、例えば、鉄−クロム系合金、鉄−ネオジム(Ne)系合金、鉄−ケイ素(Si)系合金、鉄−ニッケル系合金、鉄−テルル(Te)系合金等が挙げられる。また、ニッケル系合金とは、ニッケル−クロム系合金、ニッケル−モリブデン(Mo)系合金、ニッケル−タングステン(W)系合金等が挙げられる。このように第2成分として、周期表の8族、1B族の他に、4A族、5A族、6A族等の金属元素を含む合金が挙げられる。その中でも、アモルファス製造技術や当該成分の価格等の経済性を考慮すると、鉄又はニッケルをベースとした合金を用いることが好ましく、特に、鉄−クロム系合金、ニッケル−クロム系合金を用いることがより好ましい。
なお、本明細書における「系合金」とは、提示した金属元素を主成分として少なくとも含む合金であることを意味するものであって、それら金属元素のみからなる2元系合金であることのみを意味するものではない。すなわち、例えば鉄−クロム系合金の場合、第1成分としての鉄と第2成分としてのクロムとを少なくとも有する合金であり、残部にその他の1又は複数の金属元素を有する合金であってもよい。
具体的に、鉄−クロム系合金としては、例えば、鉄−クロム合金、鉄−クロム−リン(P)−炭素(C)合金、鉄−クロム−ニッケル−タンタル(Ta)合金等が挙げられる。また、鉄−ネオジム系合金としては、例えば、鉄−ネオジム合金、鉄−ネオジム−ホウ素(B)合金等が挙げられる。また、鉄−ニッケル系合金としては、例えば、鉄−ニッケル合金、鉄−ニッケル−クロム合金、鉄−ニッケル−ホウ素−クロム合金、鉄−ニッケル−アルミニウム合金等が挙げられる。このように第3成分以降の元素として、周期表の4A族、5A族、6A族の他に、3B族、4B族、5B族等の金属元素を含む合金が挙げられる。
本発明に係る酸化態窒素の除去方法は、上述したような合金をアモルファス状態として導電体にコーティングした陰極を用いて電気分解することを特徴とするものであって、その合金の組成は特に限定されるものではない。なお、合金の組成の一例を挙げれば、鉄−クロム系合金としては、例えばFe80−a−bCraMobPcC20−c(at%)で表される組成式において、10≦a≦40at%、0≦b≦7at%、5≦c≦15at%を満たすような合金を用いることができる。また、ニッケル−クロム系合金としては、例えばNi80−d−eCrdPeB20−e(at%)で表される組成式において、10≦d≦20at%、0≦e≦20at%を満たすような合金を用いることができる。
また、電気分解用電極について、本実施の形態では被処理水中の酸化態窒素を電解除去するための陰極として用いる態様について具体的に説明したが、これに限られるものではない。すなわち、導電体の表面にアモルファス状態でコーティングする合金の種類を、処理等すべき対象に応じて適宜設定することで、広く電気分解用の電極として用いることができる。
なお、合金のアモルファス化方法としては、合金をアモルファス化できるものであれば特に限定されるものではなく、周知の方法を用いることができる。
また、アモルファス状態とした合金をコーティングさせる導電体としては、特に限定されるものではなく、例えばチタンや炭素、白金等を挙げることができる。
≪3.被処理水中の酸化態窒素の除去方法≫
次に、本実施の形態に係る酸化態窒素の除去方法について説明する。
<3−1.電解処理装置について>
図1は、本実施の形態に係る酸化態窒素の除去方法に用いられる電解処理装置の一例の概要を示す構成図である。図1に示すように、電解処理装置10は、酸化態窒素を含有する被処理水を収容して電気分解を行う電解槽11と、被処理水を取り込んで調整する調整槽12と、電解槽11と調整槽12との間において被処理水を循環させる循環配管13とから構成されている。
電解槽11は、陽極11a及び陰極11bを1対とする1組以上から構成されている。図2は、この電解槽11の概略図((A)正面図、(B)側面図)である。図2に示すように、電解槽11内には、酸化態窒素を含有する被処理水20が収容され、被処理水20中に少なくとも一部が浸漬するように、例えば薄板状の陽極11aと陰極11bとが配置されている。また、その各電極11a,11bには、直流電源装置14が接続されおり、直流電源装置14から印加された直流電流を陽極11aと陰極11bに通電することによって、電解槽11内において被処理水20中の酸化態窒素を電解除去する。
また、この電解槽11は、陽極11aと陰極11bとの間を隔膜等を用いて区画させた隔膜電解槽であっても、陽極11aと陰極11bとの間を隔膜で区画しない無隔膜電解槽であってもよく、どちらの電解槽であっても効果的に適用することができる。
ここで、隔膜電解槽の場合、陽極11aと陰極11bとが区画されていることから、陽極11aで生成した次亜塩素酸が陰極11bに到達することがないため、酸化力の強い次亜塩素酸によって陰極11bにおける酸化態窒素の還元反応を阻害することがない。
一方、無隔膜電解槽の場合、陽極11aで生成した次亜塩素酸と陰極11bで生成したアンモニアとがその電解槽11内で直接反応するようになり、別途他の反応槽内で反応させて処理する必要がなくなり、効率的な処理ができる。また、陽極11aと陰極11bとの間を隔膜で区画しないことから、被処理水20中に含まれる硬度成分が隔膜に目詰まりするといった問題が発生せず、原水管理等の負荷がない。
本実施の形態に係る酸化態窒素の除去方法は、どちらの電解槽を用いた場合であっても好適に利用することができ、陰極11bからの金属成分の溶出がなく、還元効率の低下を防止して効果的に酸化態窒素を除去することができる。なお、図1及び図2に一例として示す構成図は、電解槽11として無隔膜電解槽を用いた場合の構成図であり、これに基づいて以下説明する。
陽極11aとしては、一般的に用いられている不溶性電極を用いることができる。陽極11aでは、塩化物イオンから次亜塩素酸を生成させるために、不溶性電極の中でも塩素発生効率が高い電極を採用することが望ましい。塩素発生効率が高いということは、陽極で塩化物イオンから次亜塩素酸イオンへの酸化反応が他の反応に優先して起こることを意味している。これは、陰極11bで還元された酸化態窒素が、再び酸化されることを防止することにつながる。
一方、陰極11bとしては、上述のように、被処理水中の酸化態窒素を電気分解により除去するために用いられる陰極であって、導電体の表面に、酸化態窒素に対して還元性能を有する合金をアモルファス状態でコーティングしてなるアモルファス電極を用いる。本実施の形態においては、陰極として上述のようなアモルファス電極を用いることにより、直流電源装置14から直流電流が通電されても、その陰極11bを構成する金属成分が溶液中に溶出することなく、還元性能を維持して電解処理を行うことができる。また、陽極11aにて生成した次亜塩素酸が陰極11b付近に存在して腐食環境が高まっても、陰極を構成する金属成分が溶液中に溶出することなく、高い耐久性で以って電解処理を行うことができる。
調整槽12は、電解槽11にて電解処理を施す被処理水20を、循環配管13を介して定期的に取り込んで、その被処理水20のpH調整や余剰次亜塩素酸の分解処理等を行う。調整槽12にて調整された被処理水20は、再び循環配管13を介して電解槽11に循環される。
調整槽12には、電解槽11から取り込まれた被処理水20のpHを測定するpH測定装置や、電解槽11の陽極11aにて発生した次亜塩素酸濃度を測定する次亜塩素酸濃度測定装置等からなる測定部15が設けられている。また、調整槽12には、その測定部15にて測定した被処理水20のpHや次亜塩素酸濃度に基づいて、pH調整剤供給部16や次亜塩素酸スカベンジャー供給部17からの各薬剤の供給を制御する制御部18が設けられている。
調整槽12では、循環配管13を介して電解槽11からの被処理水20を取り込むと、測定部15にて被処理水20のpHや次亜塩素酸濃度を測定し、その測定結果を制御部16に送信する。制御部16では、受信した測定結果に基づいて、所定のpH範囲並びに所定の次亜塩素酸濃度以下となるように、pH調整剤供給部17や次亜塩素酸スカベンジャー供給部18を制御して、pH調整剤や次亜塩素酸スカベンジャーを供給する。
被処理水20のpHについて、pHが低くなると電解槽11内の陽極11aにて生成した次亜塩素酸から塩素ガスが発生し、一方でpHが高くなるとアンモニアが揮発する。アンモニアと次亜塩素酸が反応するときに硝酸イオンを生成し易くなる等の問題があることから、電解処理中は被処理水20のpHを、概ね4.0〜10.0、好ましくは5.0〜9.0に維持することが好ましい。したがって、調整槽12では、被処理水のpHを上述の範囲に維持するようにpH調整剤を添加する制御を行うことが好ましい。
循環配管13は、主として、電解槽11から取り出される被処理水20を調整槽12に移送する配管13aと、調整槽12にて調整された被処理水20を電解槽11に戻し入れる配管13bとからなっている。循環配管13では、例えば被処理水20を循環ポンプ19によって循環させる。
また、循環配管13においても、被処理水20のpHや次亜塩素酸濃度を測定する測定部を設けるようにしてもよい。調整槽12内に設ける測定部15と同様に、循環配管13内に測定部を設けることによって、電解槽11からの被処理水20のpHや次亜塩素酸濃度を、被処理水20が循環配管13内を通過している間に測定し、その測定結果に基づいて、被処理水20を流入させた調整槽12内にてpHや次亜塩素酸濃度を調整するようにしてもよい。なお、このような測定部を、調整槽12に設けずに循環配管13にのみ設けて、上述したような制御を行うようにしてもよい。
≪3−2.電解処理反応について≫
次に、上述した電解処理装置10における電解槽11にて生じる被処理水の電解処理反応について具体的に説明する。
電解槽11において各電極11a,11bへの通電が開始されると、陽極11aでは、下記反応式1のように、塩化物イオンから次亜塩素酸イオンへの酸化が行われる。一方で、陰極11bでは、下記反応式2のように、硝酸態窒素からアンモニア(アンモニア態窒素)への還元が行われる。なお、下記反応式1及び反応式2は、同じ電気量あたりの反応当量を比較するため、48電子モルあたりの反応当量で表記する。
[反応式1]
24Cl− + 24H2O → 24ClO− + 48H+ + 48e
[反応式2]
6NO3 − + 48e + 42H2O → 6NH4 + + 60OH−
図1に示すように、陽極11aと陰極11bとを区画しない無隔膜電解槽にて電気分解を行った場合、陽極11aにて生成した次亜塩素酸と陰極11bにおける酸化態窒素の還元反応で生成したアンモニアは、電解槽11中で均一に混合されて下記反応式3に従ってその場で反応し、窒素ガスとなって除去されて脱窒素反応が完結する。なお、隔膜電解槽を用いた場合であっても、それぞれの電極11a,11bが設けられた各区画内での生成成分を、別の反応槽内にて混合させることによって窒素ガスを発生させることができる。
[反応式3]
6NH4 + + 9ClO− → 3N2 + 9Cl− + 9H2O + 6H+
そして、以上で述べた電極反応から脱窒素反応までの総括反応式は、下記反応式4の通りとなる。
[反応式4]
6NO3 − + 15Cl− + 3H2O → 3N2 + 15ClO− + 6OH−
上記反応式4に示す通り、陽極11aで生成した次亜塩素酸は、陰極11bで生成したアンモニア態窒素の脱窒素反応に消費される分よりも過剰となるため、電解液中で余剰となる。そして、陽極11aと陰極11bの間が区画されていない無隔膜電解槽では、そのままでは余剰の次亜塩素酸が陰極11bの近傍にも存在することになる。
ここで、酸化態窒素の除去方法において、従来のように酸化態窒素に対して還元性能を有する、例えば鉄等の金属及びその合金からなる電極、又はその金属及び合金を導電体に被覆した電極を用いた場合には、上述のように電極に電流が通電されることによって、その金属成分が処理液中に溶出する。このとき、上記反応式4に示すように、生成した余剰の次亜塩素酸が陰極近傍に存在するようになると、その陰極は次亜塩素酸により過度に腐食される環境となり、通電による劣化とともに次亜塩素酸による腐食が進行することになる。これによって、被処理水中への金属成分の溶出がさらに進行し、処理効率を著しく低下させる。
さらに、次亜塩素酸が陰極近傍に存在することにより、陰極から溶出した鉄等の金属成分とその次亜塩素酸とが反応し、例えば塩化鉄等の沈殿物を形成し易くなる。このようにして沈殿物が電解槽11内にて形成され、堆積していくと、各電極における反応効率を著しく低下させるとともに、頻繁に沈殿物を除去する作業が必要となって処理効率が低下する。
これに対して、本実施の形態においては、導電体の表面に酸化態窒素に対して還元性能を有する合金をアモルファス状態でコーティングしてなる陰極11bを用いているので、電流を通電させてもその金属成分の溶出を防止することができ、さらに電解槽11内で生じた余剰次亜塩素酸が陰極近傍に存在しても、次亜塩素酸による腐食を効果的に防ぐことができる。
そして、このように通電に基づく劣化と次亜塩素酸に基づく腐食による金属成分の溶出を防止できることにより、陰極近傍に存在する次亜塩素酸との沈殿物形成も抑制することができ、高い処理効率で以って酸化態窒素を含有する被処理水を処理することができる。
また、本実施の形態においては、電解反応によって陽極11aにて発生する余剰の次亜塩素酸を捕捉して分解する余剰次亜塩素酸スカベンジャーを、被処理水中において所定濃度以上となるように維持しながら電解処理を行うことがより好ましい。
上述のように、陽極11aと陰極11bの間が区画されていない無隔膜電解槽の場合では、還元反応を行う陰極11b近傍に次亜塩素酸が存在するようになる。次亜塩素酸は強い酸化作用を有することから、陰極11b近傍に存在することによって、陰極11bでの酸化態窒素に対する還元反応が阻害されてしまう可能性がある。
このことから、本実施の形態においては、余剰の次亜塩素酸による陰極11bにおける還元反応への阻害を防止するために、電解反応で余剰となる次亜塩素酸を消費する余剰次亜塩素酸スカベンジャーを所定濃度以上となるように電解槽11内に存在させるようにすることが好ましい。これにより、余剰の次亜塩素酸が陰極11b近傍に到達する前に、余剰次亜塩素酸スカベンジャーによって次亜塩素酸を分解することができ、陽極11aと陰極11bとの間を隔膜で区画せずとも、酸化態窒素に対する高い還元効率を維持することができる。
余剰次亜塩素酸スカベンジャーとしては、次亜塩素酸と迅速に反応する化合物であればそれ以上の限定をするものではなく、例えばアンモニアやアンモニウム塩、亜硫酸塩等を用いることができる。その中でも、次亜塩素酸との反応性や経済性等を考慮すると、アンモニア又はアンモニウム塩を用いることが好ましい。
ここで、被処理水20中に添加する余剰次亜塩素酸スカベンジャーは、その種類によって電解中のpHの変動が異なる。このことから、添加する余剰次亜塩素酸スカベンジャーの種類に応じて、被処理水20のpHを調整するpH調整剤の種類についても適宜変更することによって、効果的に被処理水20のpH制御を行うことが好ましい。
例えば、次亜塩素酸スカベンジャーとしてアンモニウム塩を用いた場合、次亜塩素酸とアンモニアが下記反応式5に従って反応し、総括反応が下記反応式6のようになる。下記反応式6から分かるように、余剰次亜塩素酸スカベンジャーとしてアンモニウム塩を用いた場合には、電解処理によってpHが低下する方向に変動するので、pH調整剤としてはアルカリ、好ましくは苛性ソーダを用いることが好ましい。
[反応式5]
10NH4 + + 15ClO− → 5N2 + 15Cl− + 15H2O + 10H+
[反応式6]
6NO3 − + 10NH4 + → 8N2 + 18H2O + 4H+
一方、余剰次亜塩素酸スカベンジャーとして亜硫酸塩を用いた場合、次亜塩素酸と亜硫酸が下記反応式7に従って反応し、総括反応が下記反応式8のようになる。下記反応式8から分かるように、余剰次亜塩素酸スカベンジャーとして亜硫酸塩を用いる場合には、電解処理によってpHが上昇する方向に変動するので、pH調整剤としては酸、好ましくは塩酸又は硫酸を用いる。
[反応式7]
15SO3 2− + 15ClO− → 15Cl− + 15SO4 2−
[反応式8]
6NO3 − + 15SO3 2− + 3H2O
→ 3N2 + 15SO4 2− + 6OH−
余剰次亜塩素酸スカベンジャーは、電解処理開始前に被処理水20中に予め所定量を添加してもよいし、電解処理中において電解処理装置10の調整槽12に設けられた測定部15にて被処理水20中の酸化態窒素や次亜塩素酸の濃度を測定し、その結果に基づいて添加してもよい。なお、後述するように、余剰次亜塩素酸スカベンジャー濃度は、電極11a,11bに印加する直流電流の通電量に応じて所定の濃度以上となるように維持されていればよい。
なお、上記反応式は、反応式1及び反応式2に示した電解反応が電流効率100%で進行した場合の反応当量関係を表記したものである。電解処理においては、被処理水20中の共存物質の影響等もあり、現実の電解処理で電流効率が100%になるとは限らず、上述したpHの動きや余剰次亜塩素酸スカベンジャーの必要量は上記反応式で記載された量とは異なってくる。したがって、電解処理においては、被処理水20のpHや硝酸性窒素等の重要な水質項目を常時又は間欠的に監視しながら処理を進めることが好ましい。
具体的に、余剰次亜塩素酸スカベンジャー濃度が高いほど、次亜塩素酸との反応速度が大きくなるので、酸化態窒素の還元反応を促進する効果が高い。したがって、必要な反応速度を維持できるだけの余剰次亜塩素酸スカベンジャー濃度を維持しながら電解を継続することが好ましい。また、必要とされる余剰次亜塩素酸スカベンジャー濃度は、陽極11aでの次亜塩素酸の生成速度にも依存する。そのため、生成速度が大きいほど、維持すべき余剰次亜塩素酸スカベンジャー濃度も高くすることを要する。この点、陽極11aでの次亜塩素酸の生成速度は、電極11a,11bに印加する直流電流の通電量に比例することから、通電量に応じて余剰次亜塩素酸スカベンジャー濃度を維持して電解処理を行うことが好ましい。
以上のように、本実施の形態に係る酸化態窒素の除去方法においては、酸化態窒素に対する還元性能を有する合金をアモルファス状態でコーティングした陰極(アモルファス電極)を用いて電気分解を行うようにしている。このことから、電流が通電されても、電極を構成する合金成分が溶液中に溶出することを防止することができ、酸化態窒素の還元性能を維持しつつ、高い耐久性でもって、効果的にかつ効率的な酸化態窒素の除去処理を行うことができる。
また、本実施の形態に係る酸化態窒素の除去方法は、陽極と陰極とを隔膜で区画した隔膜電解槽であっても、隔膜で区画しない無隔膜電解槽であっても好適に用いることができる。したがって、例えば無隔膜電解槽を用いた場合のように、電流の通電による溶解触媒作用とともに、次亜塩素酸によってより一層に腐食される環境下であっても、その陰極を構成する金属成分が溶液中に溶出することを防止することができる。
≪4.実施例≫
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記のいずれかの実施例に本発明の範囲が限定されるものではない。
<酸化態窒素の電解処理能と陰極の耐食性についての検討>
[実施例1]
実施例1では、図1に示す電解処理装置10(電解槽11は図2と同様)を用いて酸化態窒素の電解処理を行った。
電解槽11において、陽極11aとしては市販のソーダ電解用不溶性電極を用い、陰極11bとしてはチタン板の表面に鉄−クロム系合金(Fe45Cr35P13C7(at%))をアモルファス状態でコーティングした電極(アモルファス電極)を用いた。そして、この電解槽11に硝酸性窒素濃度5000mg/Lの被処理水を収容し、直流電源装置14から陽極11aと陰極11bの間に直流電流を流し、酸化態窒素を含有する被処理水に対して5時間の電解処理を行った。陽極11a及び陰極11bの通電部分の面積を共に0.01m2とし、通電する電流量を12Aとして試験を実施した。
なお、電解槽11内に収容した硝酸性窒素濃度5000mg/Lの被処理水に対し、余剰次亜塩素酸スカベンジャーとして塩化アンモニウムを添加後のアンモニア態窒素濃度として12000mg/L添加した溶液600mlを電解処理装置10内の調整槽12に投入して余剰次亜塩素酸を分解しながら電解処理を行った。また、電解中においては電解反応によって被処理水のpHが変動するため、その変動に対応するためpH調整用薬剤である苛性ソーダを調整槽12に逐次添加して、被処理水のpHを調製した。
[実施例2]
実施例2では、陰極としてニッケル−クロム系合金(Ni65Cr15P16B4(at%))をアモルファス状態でコーティングした電極(アモルファス電極)を用いたこと以外は、実施例1と同様の試験を実施した。
[比較例1]
比較例1では、陰極としてFe板(炭素鋼板)を用いたこと以外は、実施例1と同様の試験を実施した。
[比較例2]
比較例2では、陰極としてNi板を用いたこと以外は、実施例1と同様の試験を実施した。
[比較例3]
比較例3では、陰極としてステンレス(SUS304)板を用いたこと以外は、実施例1と同様の試験を実施した。
下記表1に、上述した実施例1〜2、並びに比較例1〜3における試験結果を示す。また、図3及び図4に、それぞれ、実施例1及び実施例2の電解処理における電解時間に対する硝酸性窒素濃度の推移を示す。なお、電解処理後の硝酸性窒素濃度の分析は、イオンクロマトグラフ法を用いて行った。また、溶液中に溶出した金属成分(Fe、Ni、Cr)の分析は、溶出して形成された沈殿物を溶解した上でICP分光分析法又はICP質量分析法を用いて行った。
表1、並びに図3及び図4に示されるように、Fe−Cr系合金のアモルファス電極を用いた実施例1、Ni−Cr系合金のアモルファス電極を用いた実施例2では、電解によって酸化態窒素が効果的に分解され、最終的に硝酸性窒素濃度が100mg/L未満になったことが確認された。
また、実施例1の試験後溶液の鉄濃度を分析したところ0.5mg/L未満であり、陰極コーティング層を形成する他の合金成分であるクロム濃度についても0.5mg/L未満であった。また、実施例2においても、その試験後溶液のニッケル濃度を分析したところ0.5mg/L未満であり、陰極コーティング層を形成する他の合金成分であるクロムについても0.5mg/L未満であった。このように、実施例1、実施例2では、陰極からの金属成分の溶出は殆どなく、電極の耐食性が高いことが示された。
一方で、Fe(炭素鋼)を用いた比較例1、Ni板を用いた比較例2では、5時間の電解処理の最終的な硝酸性窒素濃度が500〜1000mg/Lの割合で残留してしまい、十分に酸化態窒素を還元して除去することができなかった。また、ステンレス板を用いた比較例3についても、最終的な硝酸性窒素濃度が1000〜1500mg/Lもの割合で残留してしまい、十分に酸化態窒素を還元して除去することができなかった。
さらに、これらの比較例1〜3では、その試験後溶液に含まれる金属成分を分析したところ、比較例1では陰極として用いたFeが1800〜2400mg/Lも含まれており、陰極から多量に溶出してしまったことが分かる。同様に、比較例2においても、その試験後溶液中に陰極として用いたNiが1500〜2000mg/Lも含まれており、陰極から多量に溶出してしまったことが分かる。これら比較例1及び2では、次に同一の試験を行う場合には、新たな陰極を用いて行わなければならなくなった。
また同様に、ステンレス板(SUS304)を用いた比較例3においても、その試験後溶液中に陰極として用いたステンレス板に由来するFeが1500〜2000mg/L、Niが150〜200mg/L、Crが300〜400mg/Lも含まれており、陰極から多量に溶出してしまったことが分かる。この比較例3においても、次に同一の試験を行う場合には、新たな陰極を用いて行わなければならなくなった。このように、ステンレス板のような合金であっても、アモルファス状態としていない場合には、電気分解に伴って合金成分が溶出してしまい、効果的かつ効率的な酸化態窒素の除去処理を行うことができないことが分かった。
<高濃度に酸化態窒素を含む被処理水に対する酸化態窒素還元能及び耐食性について>
[実施例3]
次に、実施例3として、電解槽11に硝酸性窒素濃度20000mg/Lの被処理水を収容し、電解処理時間を20時間として電解処理を行った。なお、その他の条件は実施例1と同様にし、鉄−クロム系合金をアモルファス状態でコーティングした陰極を用いた。
図5に電解処理の結果を示す。図5に示されるように、処理時間の経過に伴って酸化態窒素が効果的に分解されていき、最終的に硝酸性窒素濃度が100mg/L未満になったことが確認された。また、試験後溶液の鉄濃度を分析したところ0.5mg/L未満であり、陰極コーティング層を形成する他の合金成分であるクロム濃度についても0.5mg/L未満であった。
このように、酸化態窒素を高濃度に含有する被処理水に対しても、陰極が溶解して金属成分が溶出することなく、効果的にその酸化態窒素を還元除去することができることが分かった。
<溶解要因について>
[参照例1]
次に、参照例1として、陰極にFe(炭素鋼板)を用い、通電せずに上記比較例1の通電時間と同じ時間だけ同じ被処理水に浸漬させた。
試験終了後、溶液中の鉄濃度を分析したところ1mg/Lであり、上記比較例1と比較して、陰極を構成する鉄は殆ど溶出していないことが確認された。このことから、上記比較例1〜3における陰極構成成分の金属の溶出(陰極の溶解)は、陰極への通電によって生じることが分かった。
そして、この結果を踏まえると、このような通電によって生じる腐食環境においても、実施例1及び実施例2のようにアモルファス電極を陰極として用いることによって、高い耐食性を有し、陰極を構成する金属成分を溶出させることなく高い処理能を維持しつつ酸化態窒素を処理できることが分かる。
<貴金属電極を用いた酸化態窒素還元能及び耐食性について>
[参照例2]
次に、参照例2として、陰極にプラチナ(Pt)を用い、上記実施例1と同様の試験を実施した。
図6に電解処理の結果を示す。電解処理終了後の溶液にはプラチナの溶出は殆どなく高い耐食性を示したものの、図5に示されるように、5時間の電解処理の最終的な硝酸性窒素濃度が約2000mg/Lも残留してしまい、十分に酸化態窒素を還元して除去することができなかった。