JP5765567B2 - ダイカスト用金型部品 - Google Patents
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Description
変形を起こした際に、同変形に追従して柔軟に変形することで下層からの剥離が生じ難いとされている。
耐熱鋼によって形成された金型部品本体の鋳造面が溶射被膜によって被覆されており、
前記溶射被膜が前記鋳造面に形成する合金溶射被膜層と、前記合金溶射被膜層の上に形成されるセラミック溶射被膜層とを有するダイカスト用金型部品であって、
前記金型部品本体は、外型の一部からキャビティ内に突出し、溶湯と接触する鋳抜きピンであり、
前記合金溶射被膜層は、前記金型部品本体と前記セラミック溶射被膜層の中間の熱膨張係数を有し、
前記セラミック溶射被膜層は、少なくとも60Wt%の非中空ZrO 2 を含み、
前記溶射被膜が、単層の前記合金溶射被膜層で被覆された、前記鋳抜きピンの先端領域の軸心上の部位と、
前記鋳抜きピンの側面に設けられ、前記合金溶射被膜層よりも前記セラミック溶射被膜層が厚い一般領域と、
前記軸心上の部位と前記一般領域との間に設けられ、前記軸心上の部位から前記一般領域に向けて前記合金溶射被膜層の厚さが減少し、且つ、前記セラミック溶射被膜層の厚さが増大する遷移領域とを備える点にある。
すなわち、酸化物の生成自由エネルギーを縦軸にとり、温度を横軸にとった生成自由エネルギー・温度・酸素分圧図(エリンガム図)において、非特許文献1、2に記された技術で主に用いるCr、Ti等の酸化物は、いずれもAl2O3よりも上方に位置する不安定な酸化物である。そのため、鋳造時にアルミニウム溶湯によって還元され易く、アルミニウム溶湯との酸化・還元反応によりアルミニウムの地金が金型に焼付くものと推測される。他方、特許文献1に記された技術で主に用いるIVA、VA、VIA族の金属にはAl2O3よりも安定な酸化物を作るZrが含まれるが、成膜法がイオンプレーティングであり、しかも、その金属層の表層部にしか酸化物が生成されていないため、その効果が十分に奏されないと思われる。
尚、特許文献2に記された技術では、合金成分からなる下層及びセラミック材料からなる上層の成膜法として溶射が用いられているが、セラミック材料として中空のZrO2を
用いているためか、また、本願が目的とする使用法とは鋳造条件などが異なるためか、耐剥離性が未だ不十分であるという実験結果が得られた。
エリンガム図)においてAl2O3よりも十分下方に位置する安定な酸化物であるため、そのような酸化還元反応が生じ難く、焼付きも生じ難いと考えられる。
また、本発明によるダイカスト用金型部品では、溶射材料として非中空状のZrO2を
用いているため100μmを超える厚い比較的高靭性の被膜が形成されており、溶湯成分などが被膜の接合部に容易に到達せず、熱衝撃などによる剥離も生じ難いためと考えられる。
被膜中におけるZrO2の比率については種々の実験の結果、60Wt%以上という値
が本発明の効果を有効にするために必要な下限値と考える。
本発明の他の特徴構成は、前記溶射被膜は、前記軸心上の部位、前記一般領域、及び前記遷移領域において厚みが等しい点にある。
本構成であれば、さらに安定した長期に亘る耐焼付き性が得られる。これは、Y2O3、MgOまたはCaOなどもZrO2と同様にAl2O3よりも安定した酸化物であると同時
に、Y2O3、MgOまたはCaOなどを適量添加することで、高温でのZrO2の結晶変
態を抑制したいわゆる安定化ジルコニアが生成されるため、溶射直後の放冷時や長期に亘る鋳造で受ける熱履歴に対しても安定した機械的構造が保持されるためと考えられる。
(第1実施形態)
図1(a)は本発明に係るダイカスト用金型部品を適用したダイカストマシン1を模式的に示す。ダイカストマシン1は、固定型2と、固定型2に型締めされてキャビティVを形成する可動型3とを有する。固定型2の下部には、溶湯供給ポート4とプランジャースリーブ5が配設されており、プランジャースリーブ5の周壁の一部に溶湯供給口(不図示)が形成されている。プランジャースリーブ5内には、溶湯をキャビティVに押出すピストン状のプランジャーロッド6が摺動自在に配設されている。
図1(b)は、第1実施形態に基づいて形成された鋳抜きピン8の進入部8cの一部であり、特に先端領域8fを含む領域の断面の特徴を拡大して示す模式図である。進入部8cを含め、ピン本体8bの母材10はSKD61などの一般的な熱間ダイス鋼(耐熱鋼の一例)で構成されている。
被膜9は、Ni−Cr−Co−Al−Y合金で構成された合金被膜層11と、合金被膜層11の上に重ねて形成されたZr−Si−Oを主な成分とするセラミック被膜層12とを有する。
特に、第1実施形態では、合金被膜層11は進入部8cの母材10の全面を被覆しており、セラミック被膜層12は合金被膜層11の外面の一部、すなわち先端領域8fを除く部位の全面を被覆している。
先端領域8fは、厚さが110〜150μmの比較的厚い合金被膜層11の単層によって被覆されている。
一般領域8dと先端領域8fを互いに接続する環状の境界は、先端領域8fから一般領域8dに向かって次第に厚さが減少する合金被膜層11と、先端領域8fから一般領域8dに向かって次第に厚さが増大するセラミック被膜層12とからなる傾斜構造の二重層によって被覆された遷移領域8eとなっている。
また、セラミック被膜層12の少なくとも表層部にはBN微粒子が配置されている。
ここで、BN微粒子を分散した溶液とは、六方晶窒化ホウ素の微粉末を有機溶剤などに分散させた市販のものである。
図3は、合金被膜層11及びセラミック被膜層12の溶射に用いられるプラズマ溶射装置20を模式的に示す。プラズマ溶射装置20は、ノズル状の貫通孔を備えた陽極部材14、陽極部材14の内側に離間配置されたコーン状の陰極部材15、陽極部材14と陰極部材15の間に形成された環状空間にArなどの作動ガスを送り込むガス流路16、冷却水を循環させる流路17a,17b、ノズルから吐出されるプラズマジェットに溶射材料を供給する粉体供給管18などを備える。
より具体的には、以下のような要領で実施することができる。
先ず、事前に加熱された母材10の表面に合金粉末を溶射しながら、次第に回転中の鋳抜きピン8を下方に移動させることで、一般領域8dから遷移領域8eの薄い合金被膜層11を形成する。
遷移領域8eでは、後述する図4の電子顕微鏡写真に見られるように、一般領域8dの上端から先端領域8fに近付くに連れてセラミック被膜層12の厚さが次第に減少するように溶射することで、最終的に得られる各溶射被膜の厚さが、一般領域8dと遷移領域8eと先端領域8fの間で均等になるようにする。
図4は、上記の方法で遷移領域8eを含む箇所で母材10の表面に得られた被膜9(BN塗布済み、鋳造前)の断面を観察した電子顕微鏡写真を示す。
また、図5は一般領域8dの断面を観察した電子顕微鏡写真を、図6は先端領域8fの断面を観察した電子顕微鏡写真を示す。
査した結果、ZrO2が主成分となりZrSiO4が少量成分として存在していることが確認された。
セラミック被膜層12を形成するための溶射材料としては、ジルコニア(ZrO2)と
シリカ(SiO2)の混合粉末(重量%比で約65:35)を用いた。ジルコニア(Zr
O2)はCaOを約31%含む部分安定化ジルコニアを用いた。
代わりに金属Siを(ZrO2:Si≒65:16)の比率で用いた混合粉末で代用する
ことも可能である。この場合、金属Siは溶射被膜内での含有量として1.0〜20Wt%の範囲で有効である。
また、セラミック被膜層12を形成するための溶射材料として、ジルコニア(ZrO2
)とシリカ(SiO2)の混合粉末の代わりにジルコン(ZrSiO4)の粉末で代用することも可能であり、この場合は熱プラズマ温度を下方調整するとよい。
図7(a)は、図1と同様のダイカストマシン1と共に本発明の第2実施形態に係る鋳抜きピン8(ダイカスト用金型部品の一例)を模式的に示すものである。
図7(b)は鋳抜きピン8の進入部8cに形成されている被膜9の一部を拡大して示す模式図である。
第1実施形態による被膜9の一般領域8dと同様に、被膜9は、Ni−Cr−Co−Al−Y合金で構成された合金被膜層11と、合金被膜層11の上に重ねて形成されたZr−Si−Oを主な成分とするセラミック被膜層12とを有し、セラミック被膜層12の少なくとも表層部にはBN微粒子が配置されている。
iからなるセラミック被膜層12は約100〜250μmの厚さで先端領域8fを含めて合金被膜層11の全面を被覆している。
セラミック被膜層12の断面に見られる特有のパターンや、被膜9のX線回折で調査した結果、ZrO2が主成分となりZrSiO4が少量成分として存在している点は第1実施形態と同様である。
第2実施形態による被膜9に対して変形を加えた第3実施形態として、合金被膜層11とセラミック被膜層12の間に、本熱膨張係数を始めとする種々の物性値が中間的な中間溶射被膜層を設けることが可能である。
具体的には、第2実施形態における合金被膜層11の形成工程の次に、合金溶射材料とセラミック溶射材料との混合物を合金被膜層11の全体に溶射する中間工程を設けることで中間溶射被膜層(不図示)を形成し、引き続き、セラミック被膜層12の形成工程を行えばよい。
表中の付着量、耐焼付き性及び耐剥離性は、進入部8cの表面に種々の方法で成膜した鋳抜きピン8を500トンのアルミニウム・ダイカストマシンに設置し、合金品種:ADC12、溶湯温度:650℃という共通条件の下で45ショットの鋳造試験を行った後の、進入部8cの状態に基づく評価である。
耐剥離性は、鋳造試験後に進入部8cの先端領域8fにおいて被膜の剥離が観察された場合は不良(×)、同先端領域8fにおいて被膜の剥離が観察されなかった場合は良(○)とした。
表中に記された「−」は該当する試験を実施していないことを示す。
Ni−Cr−Co−Al−Y合金で構成され、一般領域8dでは薄く先端領域8fでは厚い合金被膜層11を意味する。「ZSO*」はZr−Si−Oを主な成分とし、先端領域
8fを除く領域で合金被膜層11を被覆したセラミック被膜層12を意味し、「P*溶射」はプラズマ溶射を意味する。
実施例1−4及び比較例7−10に記された(BN)は、プラズマ溶射して得られた被膜に、BN微粒子を分散させた溶剤を塗布し、200℃の加熱処理をしたことを意味する。
図9の比較表において45ショット後における地金の付着量を見ると、比較例1〜8の公知の技術による被膜を備えた鋳抜きピン8では、PVDによって成膜されたCrNが5%に留まっている以外は、いずれも10%を超える地金の付着が確認され、耐焼付き性が不良という結果が示されている。
他方、本発明に基づく実施例1〜4すなわちプラズマ溶射によって成膜された非中空ZrO2を含む被膜(Zr−Si−O+BN、Zr−Y−O+BN)を備えた鋳抜きピン8
では、いずれも0.1%以下という顕著に優れた耐焼付き性が認められた。
尚、Zr源として中空ZrO2を適用した比較例9、10による鋳抜きピン8は、プラ
ズマ溶射によって成膜された実施例2、3と類似の構成であるにも関わらず、良好な耐焼付き性が認められなかった。
図9の表中に記された曲げ試験は、耐剥離性及び靭性の高さを示す指標と考えられるが、実施例1による被膜は、この曲げ試験でも他の実施例や比較例に比べて圧倒的に優れた結果を示している。
試験対象とした被膜の中で、耐焼付性と耐剥離性の2つの点で共に優れていたのは本発明の実施形態1に基づく実施例1の被膜のみであることがわかる。
但し、本発明の実施形態2に基づく実施例2、4の被膜や本発明の実施形態3に基づく実施例3の被膜では、耐剥離性が不十分であったが、良好な耐焼付性を確認することができた。
〈1〉(Zr−Ca−O)+BN系や(Zr−Mg−O)+BN系でも、上記の(Zr−Si−O+BN)と同様に優れた耐焼付き性及び耐剥離性が認められる。この場合も、CaOやMgOはAlなどとの耐反応性の他に高温時におけるZrO2の挙動を部分的に安
定化させる効果を兼ね備えている。CaO、Y2O3またはMgOは、溶射被膜内での含有量として5.0〜15Wt%の範囲で有効である。
8c 進入部(ダイカスト用金型部品)
8d 一般領域
8e 遷移領域
8f 先端領域
9 被膜
10 母材(ダイカスト用金型部品)
11 合金被膜層(Ni−Cr−Al−Co−Y系合金被膜)
12 セラミック被膜層(Zr−Si−O系セラミック被膜)
Claims (5)
- 耐熱鋼によって形成された金型部品本体の鋳造面が溶射被膜によって被覆されており、
前記溶射被膜が前記鋳造面に形成する合金溶射被膜層と、前記合金溶射被膜層の上に形成されるセラミック溶射被膜層とを有するダイカスト用金型部品であって、
前記金型部品本体は、外型の一部からキャビティ内に突出し、溶湯と接触する鋳抜きピンであり、
前記合金溶射被膜層は、前記金型部品本体と前記セラミック溶射被膜層の中間の熱膨張係数を有し、
前記セラミック溶射被膜層は、少なくとも60Wt%の非中空ZrO 2 を含み、
前記溶射被膜が、単層の前記合金溶射被膜層で被覆された、前記鋳抜きピンの先端領域の軸心上の部位と、
前記鋳抜きピンの側面に設けられ、前記合金溶射被膜層よりも前記セラミック溶射被膜層が厚い一般領域と、
前記軸心上の部位と前記一般領域との間に設けられ、前記軸心上の部位から前記一般領域に向けて前記合金溶射被膜層の厚さが減少し、且つ、前記セラミック溶射被膜層の厚さが増大する遷移領域とを備えるダイカスト用金型部品。 - 前記溶射被膜は、前記軸心上の部位、前記一般領域、及び前記遷移領域において厚みが等しい請求項1に記載のダイカスト用金型部品。
- 前記合金溶射被膜層と前記セラミック溶射被膜層の間に、合金溶射材料とセラミック溶射材料との混合物を溶射した中間溶射被膜層が設けられている請求項1又は2に記載のダイカスト用金型部品。
- 前記セラミック溶射被膜層は、1.0〜20Wt%のSiを含み、更に、Y2O3、MgO及びCaOの少なくとも一つを5〜15Wt%含む請求項1から3のいずれか一項に記載のダイカスト用金型部品。
- 前記溶射被膜の少なくとも表層部にBN粒子が配置されている請求項1から4のいずれか一項に記載のダイカスト用金型部品。
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