(発明の詳細な説明)
(定義)
用語「ニューロピリン」、「NRP」または「Nrp」は、交換可能に使用され、そして、Rossignol et al.(2000)Genomics 70:211−222に記載されるように、ニューロピリン−1(NRP1、Nrp1)、ニューロピリン−2(NRP2、Nrp2)、ならびにこれらのアイソフォームおよび改変体をまとめて称する。ニューロピリンは120〜130kDaの非チロシンキナーゼレセプターである。複数のNRP−1およびNRP−2スプライス改変体および可溶性アイソフォームが存在する。ニューロピリンの基本構造は、5つのドメインから構成される:3つの細胞外ドメイン(a1a2、b1b2およびc)、1つの膜貫通ドメインおよび1つの細胞質ドメイン。a1a2ドメインは、補体成分C1rおよびC1s(CUB)と相同であり、一般に、2つのジスルフィド架橋を形成する4つのシステイン残基を含む。b1b2ドメインは、第VおよびVIII凝固因子と相同である。cドメインの中央部分は、メプリン(meprin)、A5およびレセプターチロシンホスファターゼμタンパク質に対するその相同性に起因して、MAMと称される。a1a2ドメインおよびb1b2ドメインは、リガンドへの結合を担っているのに対し、cドメインは、ホモ二量体化もしくはヘテロ二量体化に重要である。Gu et al.(2002)J.Biol.Chem.277:18069−76;HeおよびTessier−Lavigne(1997)Cell 90:739−51。
「ニューロピリンにより媒介される生物学的活性」とは一般に、ニューロピリン−1および/またはニューロピリン−2が実質的な役割を担う生理学的もしくは病理学的な事象をいう。このような活動の非限定的な例は、胚の神経系発生もしくはニューロン再生中の軸索誘導、血管新生(脈管モデリングを含む)、腫瘍形成および腫瘍転移である。
「ニューロピリン−2により媒介される生物学的活性」または「Nrp2により媒介される生物学的活性」とは、本明細書中で使用される場合、一般に、Nrp2が実質的な役割(例えば、VEGFレセプター活性化の増強、そして特に、リンパ性内皮細胞(EC)の遊走を調節する能力、成体のリンパ管新生(特に、腫瘍性のリンパ管新生および腫瘍転移)における役割)を担う生理学的もしくは病理学的な事象をいう。
用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、そして、具体的には、モノクローナル抗体(全長のモノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異的抗体(例えば、二重特異的抗体)、そして、所望の生物学的活性を示す限りは、抗体のフラグメントに及ぶ。
用語「モノクローナル抗体」は、本明細書中で使用される場合、実質的に均質な抗体の集団から得られた抗体をいい、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、少量存在し得る可能性のある天然に存在する変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原性部位に対して指向される。さらに、代表的には異なる決定基(エピトープ)に対して指向される異なる抗体を含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して指向される。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均質な抗体の集団から得られた抗体の特性を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするものとしては解釈されない。例えば、本発明にしたがって使用されるモノクローナル抗体は、Kohler et al.(1975)Nature 256:495によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製されても、組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照のこと)によって作製されてもよい。「モノクローナル抗体」はまた、例えば、Clackson et al.(1991)Nature 352:624−628およびMarks et al.(1991)J.Mol.Biol.222:581−597に記載される技術を用いて、ファージ抗体ライブラリーから単離され得る。
本明細書におけるモノクローナル抗体は、具体的には、重鎖および/または軽鎖の一部が特定の種から誘導された抗体または特定の抗体分類もしくは下位分類に属する抗体における対応配列と同一であるかまたは相同である一方で、鎖の残りの部分は、別の種から誘導された抗体または別の抗体分類もしくは下位分類に属する抗体における対応配列と同一であるかまたは相同である、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、ならびに、所望の生物学的活性を示す限りは、このような抗体のフラグメントを含む(米国特許第4,816,567号;およびMorrison et al.(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851−6855)。
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリン由来の配列を最小限しか含まないキメラ抗体である。多くの部分について、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域が、マウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類のような非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域からの残基で置き換えられた、所望の特異性、親和性および効力を有するヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの場合、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒトの残基で置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見い出されない残基を含み得る。これらの改変は、抗体の性能をさらに改良するためになされる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、代表的には2つの可変ドメインの実質的に全体を含み、ここで、超可変ループの全体または実質的に全体が、非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、そして、FR領域の全体もしくは実質的に全体がヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体はまた必要に応じて、免疫グロブリン定常領域(Fc)(代表的にはヒト免疫グロブリンのもの)の少なくとも一部を含む。さらなる詳細については、Jones et al.(1986)Nature 321:522−525;Riechmann et al.(1988)Nature 332:323−329;およびPresta(1992)Curr.Op.Struct.Biol.2:593−596を参照のこと。
「種依存性抗体」とは、第二の哺乳動物種由来の抗原のホモログに対する結合親和性よりも強い、第一の哺乳動物種由来の抗原に対する結合親和性を有するものである。通常、種依存性抗体は、ヒト抗原に対して「特異的に結合する」(すなわち、約1×10−7M以下、好ましくは約1×10−8M以下、最も好ましくは約1×10−9M以下の結合親和性(Kd)値を有する)が、第二の非ヒト哺乳動物種由来の抗原のホモログに対して結合親和性を有し、この結合親和性は、ヒト抗原に対する結合親和性よりも、少なくとも約50倍、または少なくとも約500倍、または少なくとも約1000倍弱い。種依存性抗体は、上に規定したような種々の型の抗体のいずれかであり得るが、好ましくは、ヒト化抗体またはヒト抗体である。
本明細書中で使用される場合、「抗体変異体」または「抗体改変体」とは、種依存性抗体の1以上のアミノ酸残基が改変された、種依存性抗体のアミノ酸配列改変体をいう。このような変異体は必ず、種依存性抗体に対して100%未満の配列の同一性もしくは類似性を有する。好ましい実施形態では、抗体変異体は、種依存性抗体の重鎖もしくは軽鎖の可変ドメインのいずれかのアミノ酸配列に対して少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列の同一性もしくは類似性を有するアミノ酸配列を有する。この配列に関する同一性もしくは類似性は、本明細書において、必要な場合、配列をアラインメントしてギャップを導入して、最大の%配列同一性を達成した後の、候補配列中の、種依存性抗体残基と同一(すなわち、同じ残基)または類似(すなわち、共通の側鎖特性に基づいて同じ群からのアミノ酸残基、以下を参照のこと)のアミノ酸残基の割合として定義される。N末端、C末端、または、可変ドメインの外側の抗体配列への内部伸長、欠失もしくは挿入は、配列の同一性もしくは類似性に影響を及ぼすものと考えられない。
「単離された」抗体は、同定され、そして、その自然な環境の成分から分離および/または回収された抗体である。その自然な環境の汚染成分は、抗体の診断的使用もしくは治療的使用を干渉する物質であり、酵素、ホルモンおよび他のタンパク質性もしくは非タンパク質性の溶質が挙げられ得る。好ましい実施形態では、抗体は、(1)Lowry法によって決定したときに95重量%超、最も好ましくは99重量%超の抗体まで、(2)スピニングカップシークェネーターを用いて、N末端もしくは内部のアミノ酸配列のうち少なくとも15残基を得るに十分な程度まで、または(3)クーマシーブルー染色もしくは好ましくは銀染色を用いる、還元もしくは非還元条件下でのSDS−PAGEによって均質となるまで精製される。単離された抗体は、抗体の自然な環境の少なくとも1つの成分が存在していないので、組換え細胞内の限局された場所にある抗体を含む。しかしながら、通常、単離された抗体は、少なくとも1つの精製工程によって調製される。
本明細書中で使用される場合、「抗体の可変ドメイン」とは、相補性決定領域(CDR;すなわち、CDR1、CDR2およびCDR3)およびフレームワーク領域(FR)のアミノ酸配列を含む抗体分子の軽鎖および重鎖の部分をいう。VHは、重鎖の可変ドメインを指す。VLは、軽鎖の可変ドメインを指す。本発明において使用される方法によれば、CDRおよびFRに割り当てられるアミノ酸部分は、Kabat(Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health,Bethesda,Md.,1987および1991))に従って定義され得る。抗体または抗原結合フラグメントのアミノ酸番号付けもまた、Kabatの方法に従う。
本明細書中で使用される場合、用語「相補性決定領域(CDR;すなわち、CDR1、CDR2およびCDR3)」は、その存在が抗原への結合に必須である抗体可変ドメインのアミノ酸残基をいう。各可変ドメインは、代表的にCDR1、CDR2およびCDR3として同定される3つのCDR領域を有する。各相補性決定領域は、Kabatによって定義されるような「相補性決定領域」由来のアミノ酸残基(すなわち、軽鎖可変ドメイン内の残基24〜34付近(L1)、残基50〜56付近(L2)および残基89〜97付近(L3)、ならびに、重鎖可変ドメイン内の残基31〜35付近(H1)、残基50〜65付近(H2)および残基95〜102付近(H3);Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991))および/または「超可変ループ」由来の残基(すなわち、軽鎖可変ドメイン内の残基26〜32付近(L1)、残基50〜52付近(L2)および残基91〜96付近(L3)、ならびに重鎖可変ドメイン内の残基26〜32付近(H1)、残基53〜55付近(H2)および残基96〜101付近(H3);ChothiaおよびLesk(1987)J.Mol.Biol.196:901−917)を含み得る。いくつかの例では、相補性決定領域は、Kabatに従って定義されるCDR領域と超可変ループの両方からのアミノ酸を含み得る。例えば、抗体4D5の重鎖のCDRH1は、アミノ酸26〜35を含む。
「フレームワーク領域」(本明細書中では以下FR)は、CDR残基以外の可変ドメイン残基である。各可変ドメインは代表的には、FR1、FR2、FR3およびFR4として同定される4つのFRを有する。CDRがKabatに従って定義される場合、軽鎖のFR残基は、残基1〜23付近(LCFR1)、残基35〜49付近(LCFR2)、残基57〜88付近(LCFR3)および残基98〜107付近(LCFR4)に位置し、そして、重鎖のFR残基は、重鎖残基内の残基1〜30付近(HCFR1)、残基36〜49付近(HCFR2)、残基66〜94付近(HCFR3)および残基103〜113付近(HCFR4)に位置する。CDRが超可変ループからのアミノ酸残基を含む場合、軽鎖FR残基は、軽鎖内の残基1〜25付近(LCFR1)、残基33〜49付近(LCFR2)、残基53〜90付近(LCFR3)および残基97〜107付近(LCFR4)に位置し、そして、重鎖のFR残基は、重鎖残基内の残基1〜25付近(HCFR1)、残基33〜52付近(HCFR2)、残基56〜95付近(HCFR3)および残基102〜113付近(HCFR4)に位置する。いくつかの例では、CDRがKabatに従って定義されるCDRと超可変ループの両方からのアミノ酸を含む場合、FR残基はそれに従って調整される。例えば、CDRH1がアミノ酸H26〜H35を含む場合、重鎖のFR1残基は1〜25位にあり、FR2残基は36〜49位にある。
本明細書中で使用される場合、「コドンセット」とは、所望の改変体アミノ酸をコードするために使用される異なるヌクレオチドのトリプレット配列のセットをいう。オリゴヌクレオチドのセットは、例えば、固相合成によって合成され得、コドンセットによって提供されるヌクレオチドトリプレットの全ての可能な組み合わせを表し、かつ、所望のアミノ酸グループをコードする配列を含む。コドンの呼称の標準的な形態は、IUBコードのものであり、これは、当該分野で公知であり、かつ本明細書中に記載される。コドンセットは、代表的に、3つの斜体の大文字で表される(例えば、
など)。したがって、「ランダムでないコドンセット」とは、本明細書中で使用される場合、本明細書中に記載されるアミノ酸選択のための基準を部分的、好ましくは完全に満たす選択されたアミノ酸をコードするコドンセットをいう。特定の位置に選択されたヌクレオチドの「縮重」を持つオリゴヌクレオチドの合成は当該分野で周知であり、例えば、TRIMアプローチ(Knappek et al.(1999)J.Mol.Biol.296:57−86);Garrard & Henner(1993)Gene 128:103)がある。このような特定のコドンセットを持つオリゴヌクレオチドのセットは、市販の核酸合成装置(例えば、Applied Biosystems,Foster City,CAから入手可能)を用いて合成され得るか、または、市販品を入手し得る(例えば、Life Technologies,Rockville,MDから)。したがって、特定のコドンセットを持つ合成されたオリゴヌクレオチドのセットは代表的に、異なる配列を持つ複数のオリゴヌクレオチドを含み、その違いは、全体的な配列におけるコドンセットによって確立される。オリゴヌクレオチドは、本発明に従って使用される場合、可変ドメインの核酸鋳型に対するハイブリダイゼーションを可能にする配列を有し、そしてまた、例えば、クローニングの目的のために有用な制限酵素部位を含み得るが、必ずしも含んでいるわけではない。
「Fvフラグメント」は、完全な抗原の認識および結合部位を含む抗体フラグメントである。この領域は、密接に関連した(これは、自然な状態では(例えば、scFVでは)共有結合であり得る)1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインとの二量体から構成される。この構成では、各可変ドメインの3つのCDRが相互作用して、VH−VL二量体の表面上に抗原結合部位を規定する。まとめると、6つのCDRまたはそのサブセットが、抗体に対する結合特異性を抗原に与える。しかし、単一の可変ドメイン(または、抗原に対して特異的な3つのCDRのみを有するFvの半分)でも、抗原を認識し、抗原に結合する能力を有するが、通常は、その親和性は全結合部位より低いものである。
「Fab」フラグメントは、軽鎖の可変ドメインおよび定常ドメイン、ならびに、重鎖の可変ドメインおよび第一定常ドメイン(CH1)を含む。F(ab’)2抗体フラグメントは、一般に、間にあるヒンジ領域のシステインによって、そのカルボキシ末端付近で共有結合された一対のFabフラグメントを含む。抗体フラグメントの他の化学カップリングもまた当該分野で公知である。
「単鎖Fv」または「scFv」抗体フラグメントは、抗体のVHドメインおよびVLドメインを含み、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖中に存在する。一般に、FvポリペプチドはさらにVHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーを含み、それにより、scFvが抗原結合のための所望の構造を形成することが可能となる。scFvの概説については、Pluckthun、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,Vol 113,Rosenburg and Moore eds.Springer−Verlag,New York,pp.269−315(1994)を参照のこと。
用語「二価抗体(diabody)」とは、2つの抗原結合部位を持つ小さな抗体フラグメントをいい、これらのフラグメントは、同じポリペプチド鎖内に、軽鎖可変ドメイン(VL)に接続された重鎖可変ドメイン(VH)を含む(VHおよびVL)。同じ鎖上の2つのドメイン間での対形成を可能にするには短か過ぎるリンカーを用いることで、これらのドメインは、別の鎖の相補的なドメインと対形成して、2つの抗原結合部位を生成せざるを得ない。二価抗体は、例えば、EP 404,097;WO 93/11161;およびHollinger et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−6448においてより完全に記載される。
表現「線形抗体」とは、Zapata et al.(1995 Protein Eng,8(10):1057−1062)に記載される抗体をいう。簡単に述べると、これらの抗体は、相補的な軽鎖ポリペプチドと一緒になって一対の抗原結合領域を形成する、一対の直列式に並んだFdセグメント(VH−CH1−VH−CH1)を含む。線形抗体は、二重特異的または単特異的であり得る。
本明細書中で使用される場合、「ライブラリー」は、複数の抗体もしくは抗体フラグメントの配列(例えば、本発明のポリペプチド)、または、これらの配列をコードする核酸をいい、これらの配列は、本発明の方法に従ってこれらの配列に導入された改変体アミノ酸の組み合わせが異なる。
「ファージディスプレイ」は、改変体ポリペプチドが、ファージ(例えば、糸状ファージ、粒子)の表面上の被膜タンパク質の少なくとも一部に融合タンパク質としてディスプレイされる技術である。ファージディスプレイの有用性は、ランダム化されたタンパク質改変体の大規模なライブラリーが迅速かつ効率的に高い親和性で標的抗原に結合する配列について区分けされ得るという事実にある。ファージ上のペプチドおよびタンパク質ライブラリーのディスプレイは、特異的な結合特性を持つものについて、数百万のポリペプチドをスクリーニングするために使用される。多価ファージディスプレイ法は、糸状ファージの遺伝子IIIまたは遺伝子VIIIのいずれかへの融合を介して、小さくかつランダムなペプチドと小さなタンパク質をディスプレイするために使用される。WellsおよびLowman(1992)Curr.Opin.Struct.Biol.3:355−362、この文献において引用される参考文献。多価ファージディスプレイでは、タンパク質またはペプチドのライブラリーは、遺伝子IIIまたはその一部に融合され、そして、野生型の遺伝子IIIタンパク質の存在下では低いレベルで発現され、その結果、ファージ粒子は、1コピーの融合タンパク質をディスプレイするか、または、融合タンパク質をディスプレイしない。アビディティ効果は、多価のファージと比較して低下しており、その結果、区分けは、固有のリガンド親和性に基づいて行われ、そして、DNAの取り扱いを単純にするファージミドベクターが使用される。LowmanおよびWells(1991)Methods:A companion to Methods in Enzymology 3:205−0216。
「ファージミド」は、細菌の複製起点(例えば、Co1E1)と、1コピーのバクテリオファージ固有の領域とを有するプラスミドベクターである。ファージミドは、糸状バクテリオファージおよびラムダ状バクテリオファージを含むあらゆる既知のバクテリオファージ上で使用され得る。プラスミドはまた、一般に、抗生物質耐性についての選択マーカーを含む。これらのベクター内にクローニングされたDNAのセグメントは、プラスミドとして増加させられ得る。これらのベクターを有する細胞に、ファージ粒子の生成に必須の全遺伝子が提供されると、プラスミドの複製様式は、プラスミドDNAの1本鎖のコピーを生成し、そして、ファージ粒子をパッケージングする、ローリングサークル複製へと変化する。ファージミドは、感染性または非感染性のファージ粒子を形成し得る。この用語は、異種ポリペプチド遺伝子に連結されたファージの被膜タンパク質遺伝子またはそのフラグメントを、異種ポリペプチドがファージ粒子の表面上にディスプレイされるような遺伝子融合物として含むファージミドを包含する。
用語「ファージベクター」は、異種遺伝子を含み、かつ複製が可能な二本鎖の複製可能な形態を意味する。ファージベクターは、ファージの複製とファージ粒子の形成を可能にするファージの複製起点を有する。ファージは、好ましくは、M13ファージ、f1ファージ、fdファージ、Pf3ファージもしくはこれらの誘導体のような糸状バクテリオファージ、または、λ、21、φ80、φ81、82、424、434など、もしくはこれらの誘導体のようなラムダ状ファージである。
本明細書中で使用される場合、「溶媒アクセス可能な位置」とは、抗体もしくは抗原結合フラグメントの構造、構造の集合体および/もしくは立体構造(modeled structure)に基づいて、溶媒アクセスおよび/もしくは分子(例えば、抗体特異的な抗原)との接触に潜在的に利用可能であるとして決定された、供給源となる抗体もしくは抗原結合フラグメントの重鎖および軽鎖の可変領域内のアミノ酸残基の位置をいう。これらの位置は代表的には、CDR内およびタンパク質の外側に見い出される。抗体もしくは抗原結合フラグメントの溶媒アクセス可能な位置は、本明細書において定義される場合、当該分野で公知の多数のアルゴリズムのいずれかを用いて決定され得る。好ましくは、溶媒アクセス可能な位置は、抗体の3次元モデルからの座標を用いて、好ましくは、InsightIIプログラム(Accelrys,San Diego,CA)のようなコンピュータプログラムを用いて決定される。溶媒アクセス可能な位置はまた、当該分野で公知のアルゴリズムを用いても決定され得る(例えば、LeeおよびRichards(1971)J.Mol.Biol.55,379ならびにConnolly(1983)J.Appl.Cryst.16,548)。溶媒アクセス可能な位置の決定は、タンパク質モデリングおよび抗体から得られた3次元構造情報に適したソフトウェアを用いて行われ得る。これらの目的のために利用され得るソフトウェアとしては、SYBYL Biopolymer Moduleソフトウェア(Tripos Associates)が挙げられる。一般に、そして、好ましくは、アルゴリズム(プログラム)がサイズパラメータのユーザによる入力を必要とする場合、計算に使用されるプローブの「サイズ」は、半径約1.4Å以下に設定される。さらに、パーソナルコンピュータのためのソフトウェエアを用いた溶媒アクセス可能な領域と面積の決定方法は、Pacios(1994)Comput.Chem.18(4):377−386によって記載されている。
「血管新生因子(factor or agent)」は、血管の発生を刺激する、例えば、血管新生、内皮細胞増殖、血管の安定性および/または脈管形成などを促進する増殖因子である。例えば、血管新生因子としては以下が挙げられるがこれらに限定されない:例えば、VEGFおよびVEGFファミリーのメンバー、PlGF、PDGFファミリー、線維芽細胞増殖因子ファミリー(FGFs)、TIEリガンド(アンギオポエチン)、エフリン、Del−1、線維芽細胞増殖因子:酸性(aFGF)および塩基性(bFGF)、フォリスタチン、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、肝細胞増殖因子(HGF)/分散因子(scatter factor)(SF)、インターロイキン−8(IL−8)、レプチン、ミドカイン(Midkine)、ニューロピリン、胎盤成長因子、血小板由来内皮細胞増殖因子(PD−ECGF)、血小板由来増殖因子、特に、PDGF−BBまたはPDGFR−β、プリオトロフィン(Pleiotrophin)(PTN)、プログラヌリン(Progranulin)、プロリファリン(Proliferin)、トランスフォーミング増殖因子−α(TGF−α)、トランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)など。また、成長ホルモン、インシュリン様成長因子−I(IGF−I)、VIGF、上皮増殖因子(EGF)、CTGFおよびそのファミリーのメンバー、ならびに、TGF−αおよびTGF−βのような創傷治癒を加速する因子も挙げられる。例えば、KlagsbrunおよびD’Amore(1991)Annu.Rev.Physiol.53:217−39;StreitおよびDetmar(2003)Oncogene 22:3172−3179;Ferrara & Alitalo(1999)Nature Medicine 5(12):1359−1364;Tonini et al.(2003)Oncogene 22:6549−6556(例えば、公知の血管新生因子を列挙する表1);ならびにSato(2003)Int.J.Clin.Oncol.8:200−206を参照のこと。
「抗血管新生因子」または「血管新生インヒビター」とは、血管新生、脈管形成または所望でない脈管透過性を直接的もしくは間接的のいずれかで阻害する、低分子量物質、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、単離されたタンパク質、組換えタンパク質、抗体またはこれらの結合体もしくは融合タンパク質をいう。抗血管新生因子が、血管新生因子またはそのレセプターに結合し、その血管新生活性をブロックする因子を含むことが理解されるはずである。例えば、抗血管新生因子は、上で定義したような血管新生因子に対する抗体もしくは他のアンタゴニスト、例えば、VEGF−AもしくはVEGF−Aレセプター(例えば、KDRレセプターもしくはFlt−1レセプター)に対する抗体、GleevecTM(Imatinib Mesylate)のような抗PDGFRインヒビターである。抗血管新生因子はまた、ネイティブな血管新生インヒビター(例えば、アンギオスタチン、エンドスタチンなど)も含む。例えば、KlagsbrunおよびD’Amore(1991)Annu.Rev.Physiol.53:217−39;StreitおよびDetmar(2003)Oncogene 22:3172−3179(例えば、悪性黒色腫における抗血管新生治療を列挙する表3);Ferrara & Alitalo(1999)Nature Medicine 5(12):1359−1364;Tonini et al.(2003)Oncogene 22:6549−6556(例えば、公知の血管新生因子を列挙する表2);ならびにSato(2003)Int.J.Clin.Oncol.8:200−206(例えば、臨床治験において使用される抗血管新生因子を列挙する表1)を参照のこと。
用語「VEGF」または「VEGF−A」は、本明細書中で使用される場合、その天然に存在する対立遺伝子形態およびプロセシングされた形態とまとめて、Leung et al.(1989)Science 246:1306およびHouck et al.(1991)Mol.Endocrin,5:1806に記載されるような、165アミノ酸のヒト血管内皮細胞増殖因子と関連の121アミノ酸、189アミノ酸および206アミノ酸のヒト血管内皮細胞増殖因子をいう。用語「VEGF」はまた、マウス、ラットもしくは霊長類のような非ヒト種由来のVEGFをいう。ときおり、特定の種由来のVEGFは、ヒトVEGFについてはhVEGF、マウスVEGFについてはmVEGFなどのような用語によって示される。用語「VEGF」はまた、165アミノ酸のヒト血管内皮増殖因子のアミノ酸8〜109または1〜109を含むポリペプチドの短縮型形態をいうためにも使用される。任意のこのような形態のVEGFに対する参照は、本願において、例えば、「VEGF(8−109)」、「VEGF(1−109)」または「VEGF165」によって同定され得る。「短縮型」のネイティブなVEGFについてのアミノ酸位置は、ネイティブなVEGF配列において示されるとおりに番号付けされる。例えば、短縮型のネイティブなVEGFにおけるアミノ酸位置17(メチオニン)はまた、ネイティブなVEGFにおいても位置17(メチオニン)である。短縮型のネイティブなVEGFは、ネイティブなVEGFに匹敵するKDRおよびFlt−1レセプターに対する結合親和性を有する。
「抗VEGF抗体」は、十分な親和性および特異性でVEGFに結合する抗体である。好ましくは、本発明の抗VEGF抗体は、VEGF活性が関与する疾患もしくは状態を標的とし、これらと干渉する際の治療剤として使用され得る。抗VEGF抗体は通常、VEGF−BまたはVEGF−Cのような他のVEGFホモログにも、PIGF、PDGFもしくはbFGFのような他の増殖因子にも結合しない。好ましい抗VEGF抗体は、ハイブリドーマATCC HB 10709によって産生されるモノクローナル抗VEGF抗体A4.6.1と同じエピトープに結合するモノクローナル抗体である。より好ましくは、抗VEGF抗体は、Presta et al.(1997)Cancer Res.57:4593−4599に従って作製された組換えヒト化抗VEGFモノクローナル抗体であり、ベバシツマブ(BV;AvastinTM)として知られる抗体が挙げられるがこれに限定されない。
「rhuMab VEGF」または「Avastin(登録商標)」としても知られる抗VEGF抗体「ベバシツマブ(BV)」は、Presta et al.(1997)Cancer Res.57:4593−4599に従って作製された組換えヒト化抗VEGFモノクローナル抗体である。この抗体は、変異を有するヒトIgG1フレームワーク領域と、ヒトVEGFのそのレセプターへの結合をブロックするマウス抗hVEGFモノクローナル抗体A4.6.1由来の抗原結合相補性決定領域とを含む。フレームワーク領域の大部分を含む、ベバシツマブのアミノ酸配列のおよそ93%は、ヒトIgG1由来であり、配列の約7%がマウス抗体A4.6.1由来である。ベバシツマブは、約149,000ダルトンの分子量を有し、グリコシル化されている。
用語「VEGFC」および「VEGF−C」は交換可能に使用され、そして、Joukov et al.,EMBO J 15,290−98(1996)およびEMBO J 15,1751(1996)によって最初に書かれた、419アミノ酸のヒトポリペプチド(SwissProt:VEGFC_HUMAN P49767)およびその非ヒト哺乳動物オルソログをいう。
用語「Nrp2アンタゴニスト」は、リンパ管内皮細胞(EC)遊走または成体リンパ管新生(特に、腫瘍性のリンパ管新生)および腫瘍転移を調整するNrp2の能力を中和、ブロック、抑制、阻害、低減もしくは干渉し得る分子をいうために本明細書において使用される。
「VEGFアンタゴニスト」は、VEGF活性(1以上のVEGFレセプターへのその結合が挙げられるがこれに限定されない)を中和、ブロック、抑制、阻害、低減もしくは干渉し得る分子をいう。VEGFアンタゴニストとしては、抗VEGF抗体およびその抗原結合フラグメント、VEGFに対して特異的に結合し、それによって、その1以上のレセプターへの結合を封鎖するレセプター分子および誘導体、抗VEGFレセプター抗体およびVEGFレセプターアンタゴニスト(例えば、VEGFRチロシンキナーゼの低分子インヒビター)が挙げられるがこれらに限定されない。用語「VEGFアンタゴニスト」は、本明細書中で使用される場合、特に、ニューロピリン−1および/またはニューロピリン−2(Nrp−1および/またはNrp−2)に結合し、そして、VEGF活性を中和、ブロック、抑制、阻害、低減もしくは干渉し得る分子(抗体、抗体フラグメント、他の結合ポリペプチド、ペプチドおよび非ペプチド低分子を含む)を含み、これらとしては、抗Nrp1抗体および抗Nrp2抗体、ならびに、VEGF活性を中和、ブロック、抑制、阻害、低減もしくは干渉し得るという条件で、Nrp1およびNrp2と交差反応する抗体が挙げられるがこれらに限定されない。したがって、用語「VEGF活性」は、具体的には、ニューロピリンにより媒介されるVEGFの生物学的活性(本明細書において上に定義されたようなもの)を含む。
「セマフォリンアンタゴニスト」は、セマフォリン活性(1以上のセマフォリンレセプターへのその結合が挙げられるがこれに限定されない)を中和、ブロック、抑制、阻害、低減もしくは干渉し得る分子をいう。セマフォリンアンタゴニストとしては、抗セマフォリン抗体およびその抗原結合フラグメント、セマフォリンに対して特異的に結合し、それによって、その1以上のレセプターへの結合を封鎖するレセプター分子および誘導体、抗セマフォリンレセプター抗体およびセマフォリンレセプターアンタゴニスト(例えば、セマフォリンの低分子インヒビター)が挙げられるがこれらに限定されない。用語「セマフォリンアンタゴニスト」は、本明細書中で使用される場合、特に、ニューロピリン−1および/またはニューロピリン−2(Nrp−1および/またはNrp−2)に結合し、そして、セマフォリン活性を中和、ブロック、抑制、阻害、低減もしくは干渉し得る分子(抗体、抗体フラグメント、他の結合ポリペプチド、ペプチドおよび非ペプチド低分子を含む)を含み、これらとしては、抗Nrp1抗体および抗Nrp2抗体、ならびに、セマフォリン活性を中和、ブロック、抑制、阻害、低減もしくは干渉し得るという条件で、Nrp1およびNrp2と交差反応する抗体が挙げられるがこれらに限定されない。したがって、用語「セマフォリン活性」は、具体的には、ニューロピリンにより媒介されるクラス3セマフォリンの生物学的活性(本明細書において上に定義されたようなもの)を含む。このような生物学的活性としては、例えば、胚の神経系発生およびニューロン再生中の神経成長抑制作用が挙げられる。
「処置」は、治療的な処置と、予防的な(prophylactic or preventative)手段の両方をいう。処置を必要とする個体としては、既に障害を有する個体、ならびに、障害が予防されるであろう個体が挙げられる。
「障害」は、処置から利益を享受するあらゆる状態をいう。例えば、異常な血管新生(過剰、不適切もしくは制御できない血管新生)もしくは血管透過性に苦しんでいるか、または、これらに対する予防を必要とする哺乳動物。これには、哺乳動物を当該の障害に罹りやすくする病理学的状態を含む、慢性および急性の障害もしくは疾患が含まれる。本明細書において処置されるべき障害の非限定的な例としては、悪性および良性の腫瘍;非白血病性かつリンパ球性の悪性腫瘍;ならびに、特に、腫瘍(癌)の転移が挙げられる。
用語「癌」および「癌性」とは、代表的には制御できない細胞増殖によって特徴付けられる哺乳動物における生理学的状態をいうか、または記載する。癌の例としては、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫および白血病が挙げられるがこれらに限定されない。このような癌のより具体的な例としては、扁平上皮癌、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌および肺の扁平癌腫を含む)、腹膜癌、肝細胞癌、胃癌(gastric or stomach cancer)(消化管癌を含む)、膵臓癌、神経膠芽細胞腫、頚部癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、ヘパトーム、乳癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌腫もしくは子宮癌腫、唾液腺癌、腎臓癌(kidney or renal cancer)、肝臓癌、前立腺癌、外陰部の癌、甲状腺癌、肝性癌腫および種々の型の頭頚部癌、ならびにB細胞リンパ腫(軽度悪性/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL);小リンパ球性(SL)NHL;中等度悪性/濾胞性NHL;中等度悪性びまん性NHL;高度悪性免疫芽球性NHL;高度悪性リンパ芽球性NHL;高度悪性小型非切れ込み核細胞性NHL;巨大腫瘤病変NHL;マントル細胞リンパ腫;AIDS関連リンパ腫;およびヴァルデンストレームマクログロブリン血症を含む);慢性リンパ球性白血病(CLL);急性リンパ芽球性白血病(ALL);毛様細胞性白血病;慢性骨髄芽球性白血病;および移植後リンパ球増殖性障害(PTLD)、ならびに母斑症に伴う腹部脈管増殖、浮腫(例えば、脳腫瘍に伴うもの)およびメイグス症候群が挙げられる。
用語「抗新生物形成組成物」とは、少なくとも1つの活性な治療剤(例えば、「抗癌剤」)を含む、癌の処置において有用な組成物をいう。治療剤(抗癌剤)の例としては、例えば、化学療法剤、増殖阻害剤、細胞傷害剤、放射線治療において使用される薬剤、抗血管新生剤、アポトーシス性因子(apoptotic agent)、抗チューブリン因子、および、癌を処置するための他の因子、例えば、抗HER2抗体、抗CD20抗体、上皮増殖因子レセプター(EGFR)アンタゴニスト(例えば、チロシンキナーゼインヒビター)、HER1/EGFRインヒビター(例えば、エルロチニブ(erlotinib)(TarcevaTM))、血小板由来増殖因子インヒビター(例えば、GleevecTM(メシル酸イマチニブ))、COX−2インヒビター(例えば、セレコキシブ)、インターフェロン、サイトカイン、以下の標的:ErbB2、ErbB3、ErbB4、PDGFR−beta、BlyS、APRIL、BCMAまたはVEGFレセプター、TRAIL/Apo2のうち1以上に結合するアンタゴニスト(例えば、中和抗体)、ならびに、他の生物活性因子、有機化学因子などが挙げられるがこれらに限定されない。これらの組み合わせもまた、本発明に包含される。
用語「細胞傷害剤」は、本明細書中で使用される場合、細胞の機能を阻害もしくは妨害し、そして/または、細胞の破壊を引き起こす物質をいう。この用語は、放射性同位体(例えば、I131、I125、Y90およびRe186)、化学療法剤、および、細菌、真菌、植物もしくは動物起源の酵素により活性となる毒素のような毒素またはそのフラグメントを包含することが意図される。
「化学療法剤」は、癌の処置に有用な化合物である。化学療法剤の例としては、癌の処置に有用な化合物が挙げられる。化学療法剤の例としては、以下が挙げられる:アルキル化剤(例えば、チオテパおよびCYTOXAN(登録商標)シクロホスファミド);スルホン酸アルキル(例えば、ブスルファン、イムプロスルファンおよびピポスルファン);アジリジン(aziridine)(例えば、ベンゾドパ(benzodopa)、カルボコン(carboquone)、メツレドパ(meturedopa)およびウレドパ(uredopa);エチレンイミンおよびメチラメラミン(methylamelamine)(アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスホラミドおよびトリメチロロメラミンを含む);アセトゲニン(acetogenin)(特に、ブラタシン(bullatacin)およびブラタシノン(bullatacinone));カムプトテシン(合成アナログであるトポテカンを含む);ブリオスタチン(bryostatin);カリスタチン(callystatin);CC−1065(そのアドゼレシン(adozelesin)、カルゼレシン(carzelesin)およびビゼレシン(bizelesin)という合成アナログを含む);クリプトフィシン(cryptophycin)(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン(dolastatin);デュオカルマイシン(duocarmycin)(合成アナログであるKW−2189およびCB1−TM1を含む);エリューセロビン(eleutherobin);パンクラチスタチン(pancratistatin);サルコジクチン(sarcodictyin);スポンギスタチン(spongistatin);ナイトロジェンマスタード(例えば、クロラムブシル、クロルナファジン(chlornaphazine)、クロロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベムビシン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード);ニトロソ尿素類(nitrosurea)(例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン(fotemustine)、ロムスチン、ニムスチンおよびラニムスチン(ranimnustine));抗生物質(例えば、エンジイン(enediyne)抗生物質(例えば、カリケアミシン(calicheamicin)、特に、カリケアミシンγ1IおよびカリケアミシンωI1(例えば、Agnew(1994)Chem Intl.Ed.Engl.33:183−186を参照のこと));ジネミシン(dynemicin)(ジネミシンAを含む);ビスホスホネート(例えば、クロドロネート(clodronate));エスペラミシン(esperamicin);ならびに、ネオカルジノスタチンクロモフォア(neocarzinostatin chromophore)および関連の色素タンパク質エンジイン抗生物質クロモフォア)、アクラシノマイシン(aclacinomysin)、アクチノマイシン、オースラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン(carminomycin)、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン(chromomycinis)、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(detorubicin)、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ADRIAMYCIN(登録商標)ドキソルビシン(モルホリノ−ドキソルビシン、シアノモルホリノ−ドキソルビシン、2−ピロリノ−ドキソルビシンおよびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン(esorubicin)、イダルビシン、マルセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシン(例えば、マイトマイシンC)、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン(olivomycins)、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、ケラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾトシン(streptozocin)、ツベルシジン(tubercidin)、ウベニメクス(ubenimex)、ジノスタチン(zinostatin)、ゾルビシン(zorubicin);代謝拮抗物質(例えば、メトトレキサートおよび5−フルオロウラシル(5−FU);葉酸アナログ(例えば、デノプテリン(denopterin)、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサート;プリンアナログ(例えば、フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン(thiamiprine)、チオグアニン);ピリミジンアナログ(例えば、アンシタビン(ancitabine)、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール(carmofur)、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン(doxifluridine)、エノシタビン(enocitabine)、フロクスウリジン);アンドロゲン(例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール(epitiostanol)、メピチオスタン(mepitiostane)、テストラクトン);抗アドレナリン作動薬(例えば、アミノグルテチミド、ミトーテン、トリロスタン);葉酸補充物質(replenisher)(例えば、フロリン酸(frolinic acid));アセグラトン(aceglatone);アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸(aminolevulinic acid);エニルウラシル(eniluracil);アムサクリン(amsacrine);ベストラブシル(bestrabucil);ビザントレン(bisantrene);エダトラキセート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルシン(demecolcine);ジアジコン(diaziquone);エルフォルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium acetate);エポシロン(epothilone);エトグルシド(etoglucid);硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン(lentinan);ロニダイニン(lonidainine);メイタンシノイド(maytansinoid)(例えば、メイタンシン(maytansine)およびアンサミトシン(ansamitocin));ミトグアゾン(mitoguazone);ミトザントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトレリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン(pirarubicin);ロソザントロン(losoxantrone);ポドフィリン酸(podophyllinic acid);2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標)多糖類複合体(JHS Natural Products,Eugene,OR);ラゾキサン(razoxane);リゾキシン(rhizoxin);シゾフィラン(sizofiran);スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸(tenuazonic acid);トリアジコン(triaziquone);2,2’,2”−トリクロロトリエチルアミン;トリコセシン(特に、T−2毒素、ベラクリン(verracurin)A、ロリジン(roridin)Aおよびアングイジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール(mitobronitol);ミトラクトール(mitolactol);ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara−C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド(taxoid)(例えば、TAXOL(登録商標)パクリタキセル(Bristol−Myers Squibb Oncology,Princeton,N.J.)、ABRAXANETMパクリタキセルのクレモフォアフリーなアルブミン加工されたナノ粒子処方物(American Pharmaceutical Partners,Schaumberg,Illinois)およびTAXOTERE(登録商標)ドキセタキセル(doxetaxel)(Rhone−Poulenc Rorer,Antony,France));クロラムブシル(chloranbucil);GEMZAR(登録商標)ゲムシタビン;6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;白金アナログ(例えば、シスプラチンおよびカルボプラチン);ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP−16);イホスファミド(ifosfamide);ミトザントロン;ビンクリスチン;NAVELBINE(登録商標)ビノレルビン(vinorelbine);ノボアントロン(novantrone);テニポシド(teniposide);エダトレキセート(edatrexate);ダウノマイシン;アミノプレリン;キセロダ(xeloda);イバンドロネート(ibandronate);イリノテカン(Camptosar、CPT−11)(5−FUおよびロイコボリンとイリノテカンによる処置レジメンを含む);トポイソメラーゼインヒビターRFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド(例えば、レチノイン酸);カペシタビン(capecitabine);コンブレタスタチン(combretastatin);ロイコボリン(LV);オキサリプラチン(oxaliplatin)(オキサリプラチン処置レジメン(FOLFOX)を含む);細胞増殖を低下させるPKC−α、Raf、H−Ras、EGFRのインヒビター(例えば、エルロチニブ(TarcevaTM))およびVEGF−Aのインヒビター、ならびに、上記のいずれかの薬学的に受容可能な塩、酸もしくは誘導体。
また、この定義には、以下も含まれる:抗エストロゲン類および選択的エストロゲンレセプター調節因子(SERM)のような腫瘍に対するホルモンの作用を調節もしくは阻害するように作用する抗ホルモン因子(例えば、タモキシフェン(NOLVADEX(登録商標)タモキシフェンを含む)、ラロキシフェン、ドロロキシフェン、4−ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン(keoxifene)、LY117018、オナプリストン(onapristone)およびFARESTONトレミフェンを含む);副腎におけるエストロゲン産生を調節する酵素であるアロマターゼを阻害するアロマターゼインヒビター(例えば、4(5)−イミダゾール、アミノグルテチミド、MEGASE(登録商標)酢酸メゲストロール、AROMASIN(登録商標)エキセメスタン(exemestane)、フォルメスタニー(formestanie)、ファドロゾール、RIVISOR(登録商標)ボロゾール(vorozole)、FEMARA(登録商標)ロトロゾール(letrozole)およびARIMIDEX(登録商標)アナストロゾール(anastrozole)など);および抗アンドロゲン類(例えば、フルタミド、ビカルタミド(bicalutamide)、ロイプロリドおよびゴセレリン);ならびに、トロキサシタビン(troxacitabine)(1,3−ジオキソランヌクレオシドシトシナナログ);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に、異常な細胞増殖に関与するシグナル伝達経路内の遺伝子(例えば、PKC−α、RafおよびH−Ras)の発現を阻害するもの;VEGF発現インヒビター(例えば、ANGIOZYME(登録商標)リボザイム)およびHER2発現インヒビターのようなリボザイム;遺伝子治療ワクチンのようなワクチン(例えば、ALLOVECTIN(登録商標)ワクチン、LEUVECTIN(登録商標)ワクチンおよびVAXID(登録商標)ワクチン);PROLEUKIN(登録商標)rIL−2;LURTOTECAN(登録商標)トポイソメラーゼ1インヒビター;ABARELIX(登録商標)rmRH;ビノレルビンおよびエスペラミシン(Esperamicin)(米国特許第4,675,187号を参照のこと)、ならびに、上記のいずれかの薬学的に受容可能な塩、酸もしくは誘導体。
用語「プロドラッグ」は本願で使用される場合、腫瘍細胞に対する細胞傷害性が親薬物に比して低く、かつ、酵素的により活性な親形態へと活性化もしくは変換され得る、薬学的に活性な物質の前駆体もしくは誘導体形態をいう。例えば、Wilman(1986)「Prodrugs in Cancer Chemotherapy」Biochemical Society Transactions,14,pp.375−382,615th Meeting BelfastおよびStella et al.(1985)「Prodrugs:A Chemical Approach to Targeted Drug Delivery」,Directed Drug Delivery,Borchardt et al,(ed.),pp.247−267,Humana Pressを参照のこと。本発明のプロドラッグとしては、ホスフェート含有プロドラッグ、チオリンホスフェート含有プロドラッグ、スルフェート含有プロドラッグ、ペプチド含有プロドラッグ、D−アミノ酸修飾プロドラッグ、グリコシル化プロドラッグ、β−ラクタム含有プロドラッグ、必要に応じて置換されたフェノキシアタミド含有プロドラッグもしくは必要に応じて置換されたフェニルアセタミド含有プロドラッグ、5−フルオロシトシンおよびより活性な細胞傷害性のない薬物へと変換され得る他の5−フルオロウリジンプロドラッグが挙げられるがこれらに限定されない。本発明において使用するためのプロドラッグ形態へと誘導体化され得る細胞傷害性薬物の例としては、上述される化学療法剤が挙げられるがこれらに限定されない。
「低分子」とは、本明細書において、約500ダルトン未満の分子量を有するものと定義される。
「単離された」核酸分子は、抗体核酸の自然に存在する供給源において通常付随する少なくとも1つの汚染性核酸から同定および分離された核酸分子である。単離された核酸分子は、自然に見い出される形態もしくは状態以外のものである。したがって、単離された核酸分子は、自然に存在する細胞内に存在する核酸分子とは区別される。しかしながら、単離された核酸分子は、例えば、核酸分子が自然に存在する細胞の染色体位置とは異なる染色体位置にある場合、通常抗体を発現する細胞中に含まれる核酸分子を包含する。
表現「コントロール配列」は、特定の宿主生物における作動可能に連結されたコード配列の発現に必須のDNA配列をいう。原核生物に適したコントロール配列としては、例えば、プロモーター、必要に応じて、オペレーター配列およびリボソーム結合部位が挙げられる。真核生物細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーを利用することが公知である。
核酸は、別の核酸配列と機能的な関係で配置される場合、「作動可能に連結される」。例えば、プレ配列(presequence)または分泌リーダーについてのDNAは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合、ポリペプチドについてのDNAに作動可能に連結される;プロモーターまたはエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に作動可能に連結される;または、リボソーム結合部位は、翻訳を促進するように位置決めされる場合、コード配列に作動可能に連結される。一般に、「作動可能に連結される」とは、連結されるDNA配列が連続しており、そして、分泌リーダーの場合には、連続しており、かつ、読み取り相(reading phase)内にあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは連続している必要はない。連結は、簡便な制限部位におけるライゲーションによって達成される。このような部位が存在しない場合、慣習にしたがって合成のオリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが使用される。
本明細書中で使用される場合、表現「細胞」、「細胞株」および「細胞培養物」は交換可能に使用され、そして、全てのこのような呼称は子孫を含む。従って、語句「形質転換体」および「形質転換細胞」は、初代の被験体細胞と、転移の数に関係なく、そこから誘導した培養物とを包含する。また、全ての子孫は、計画的な変異もしくは故意でない変異に起因して、DNA内容が正確に同一でない場合があることも理解される。元の形質転換細胞においてスクリーニングされたものと同じ機能または生物学的活性を有する変異子孫が含まれる。別の呼称が意図される場合は、文脈から明らかである。
(発明を実施するための形態)
一局面では、本発明は、Nrp2機能のブロックが腫瘍転移を阻害することを示す実験データに基づく。
転移の多段階プロセスにおける重要な事象は、腫瘍細胞が原発性の腫瘍塊から離れて出て行くことを伴う。固形腫瘍については、リンパ系がしばしば、外れた細胞のための経路を提供する。VEGFは、多くの腫瘍モデルにおけるリンパ管新生および転移の重要な調節因子であることが知られ、そして、VEGF軸索の阻害は、転移の発生を阻害するための有望な戦略と考えられる。本発明以前は、VEGFCの補レセプターであるNrp2は、おそらくは成体Nrp2変異マウスにおいてリンパ系の欠陥がないことに起因して、腫瘍転移阻害のための標的とはみなされない。
以下の実施例に示される、本発明の根底にある研究は、非常に部分的にVEGFR3シグナル伝達を調節することによる、腫瘍のリンパ管新生および転移におけるNrp2の重要な役割を支持する。さらに、実施例に示されるデータは、腫瘍内の機能的リンパ管の存在を実証し、そして、抗Nrp2Bでの処置がこれらの機能的リンパ管の減少をもたらすことを示している。
(Nrp2は、部分的にVEGFレセプター活性化とは別の機構を介して、選択的なVEGFC機能を調節した)
細胞の遊走および増殖の誘導は、今日までに記載されているVEGFCの中心的な細胞機能のうちの2つである(Joukov et al.,Embo J 16,3898−3911(1997))。したがって、抗Nrp2BでNrp2をブロックすると、LECの遊走はブロックしたが、増殖はブロックしなかった(図2、3)という本発明の知見は驚くべきものであった。この選択性は、Nrp2 siRNAノックダウン実験によって最近報告されているが、これは実験技術の限界によるものであった(Favier et al.,Blood 108,1243−1250(2006))。本明細書中に示されるデータは、Nrp2の機能的な選択性はまたインビボでも認められ、抗Nrp2B処理がVEGFC駆動性のリンパ管新生の低下をもたらしたが、血管透過性の低下はもたらさなかったことを示す(図2、3)。これらの観察は、抗Nrp2Bでの阻害が、単純にVEGFCシグナル伝達を中断させることによって機能するのではないことを示唆する。しかしながら、Nrp2のブロッキングが実際にVEGFレセプターリン酸化における限られた低下をもたらすということが決定され(図3)、これは、Nrp2の役割の1つがVEGFレセプター機能の増強であるという機構を支持している。このことは、異なるVEGFC誘導性の生理学的事象が異なるレベルのVEGFレセプター活性化を必要とし得るという可能性を高めた。したがって、レセプター活性の低下は、遊走に影響を与えるには十分であるが、増殖または血管透過性に影響を与えるには十分ではない場合がある。
これを調べるため、VEGFレセプターリン酸化のVEGFC用量応答を、LEC遊走の用量応答と比較した(図3)。抗Nrp2B処理で見られるものと同等なレセプターリン酸化レベルをもたらすVEGFCの用量は、遊走を低下も阻害もしなかった。このことは、レセプター活性の低下のみでは抗Nrp2Bの作用をブロックする機能の説明とならないことを示した。
したがって、Nrp2をブロックすることで選択的に遊走に影響を及ぼし得るような他の機構(例えば、接着もしくは移動の調節)を検討した。抗Nrp2B処理は、VEGF165(図2)、HGF(図3)またはFGF−2により誘導されるLECにより媒介される接着もしくは遊走に対し何の影響もなく、抗Nrp2B処理は一般に、運動性を断つことによって遊走に影響を及ぼしているのではなかったことが示された。さらに、Nrp2の別のリガンドであるsema3Fは、LECまたはECの遊走を調節し、化学嫌性物質(chemorepellant)として作用し得ることが提唱されている(Bielenberg et al.,J Clin Invest 114,1260−1271(2004);Favier et al.,Blood 108,1243−1250(2006))。しかしながら、抗Nrp2B抗体は、sema3FのNrp2への結合(図1)も、応答性ニューロンに対するsema3Fの機能的影響(追加図4)も、阻害も助長もしなかった。したがって、抗Nrp2BによるVEGFC誘導性の遊走の低下は、sema3F機能の調節によっては説明できないようである。
Nrp2/VEGFレセプター複合体の形成に対する抗Nrp2Bの作用もまた評価されている。Nrp1とは対照的に、Nrp2は、リガンドの非存在下で、VEGFR2およびVEGFR3と複合体を形成する(Favier et al.,2006,上掲;Karpanen et al.,Faseb J 20,1462−1472(2006))。重要なことに、抗Nrp2Bは、これらの複合体の形成を強力に阻害する。この観察は、Nrp2がVEGFレセプター機能のほんの増強だけ以上に重要であるという事実に加えて、Nrp2が遊走を特異的に調節するというさらなる機能を提供し、そして、VEGFレセプター複合体にさらなる機構を移す可能性がある。
(Nrp2は成体のリンパ管新生の調節において重要な役割を果たす)
Nrp2 KOマウスの解析は、Nrp2が発生段階のリンパ管新生の調節因子であり、この調節はおそらくはそのVEGFC補レセプターとしての役割を介するものであることを実証している(Yuan et al.,2002,上掲)。しかしながら、これらの変異体マウスは生後機能的なリンパ管を形成し、欠陥がリンパ管成長の阻害ではなく遅延を示すのか、または、別の分子メディエーターによる機能の補償が存在しているかのいずれかであることを示している。したがって、成熟なリンパ管の維持および成体でのリンパ管新生におけるNrp2の役割は不明なままである。発現解析(図4)は、リンパ管の維持におけるNrp2の役割を支持しない。興味深いことに、Nrp2は、腫瘍内および腫瘍に隣接するLN内に存在するリンパ管において強く発現されており、Nrp2がリンパ管の活性化もしくは成長において役割を担い得ることが示唆される。インビトロでの観察は、抗Nrp2BがこれらのプロセスにおけるNrp2の役割の評価において有効なツールであることを実証している。したがって、抗Nrp2Bを、角膜マイクロポケットアッセイを用いてインビボで試験した(図2)。抗Nrp2Bは、驚くべきことに、VEGFR3 ECDと同等に、VEGFC誘導性のリンパ管新生を効率的にブロックした。興味深いことに、抗Nrp2Bは、インビボでも選択的な阻害機能を示し、VEGFC誘導性の欠陥透過性に影響を及ぼさなかった。このことは、Nrp2がリンパ管新生に重要なプロセスである遊走を特異的に調節するというインビトロでの観察と合致しているが、血管透過性においては役割は担っていないようである。最後に、これらの抗Nrp2B処置された正常な成体動物は腸のリンパ管に対して何ら変化を示さず、Nrp2が成熟なリンパ管の維持において役割を担っていないことが確認された。
(Nrp2阻害は、−−おそらくは腫瘍細胞がリンパ管経路を介して中心的な腫瘍塊から離れることを阻害することによって、腫瘍内の機能的リンパ管の減少および転移の減少をもたらす)
最も頻繁にはVEGFR3 ECDの使用によるVEGFC軸索の阻害は、転移を減少させるためのより一般に利用される戦略の一つである(Chen et al.,2005.上掲;He et al.,2002,上掲;Krishnan et al.,2003,上掲;Lin et al.,2005,上掲)。VEGFCは、リンパ管新生を開始し、それによって、LECと接触する表面積を増大させることによって、LECの接着特性もしくはサイトカイン発現を調節することによって、または、血管透過性を増大させることによって、転移を促進する可能性があり得る(AlitaloおよびCarmeliet,Cancer Cell 1,219−227(2002))。抗Nrp2Bは、VEGFC誘導性の成体におけるリンパ管新生の阻害を含む選択的なVEGFCにより媒介される機能を調節するので、次に、転移に対するNrp2のブロックの影響が検討された。混乱させる変数を最小限にし、そして、転移に対する抗Nrp2Bの役割を明白に評価するために、我々は、Nrp2のブロックが原発性腫瘍の成長に影響を及ぼさないモデルを選択し、さらに、研究において、同じ時点で全ての動物から摘出した(WithersおよびLee,Semin Radiat Oncol 16,111−119(2006))。
66c14腫瘍モデルならびにC6腫瘍モデルの両方において、抗Nrp2B処置は、目視による転移性肺小結節の有意な減少をもたらした(図5、6)。これは、より高感度の定量的マイクロ−CTによって確認された(Li et al.,Technol Cancer Res Treat 5,147−155(2006))。抗Nrp2B処置とVEGFR3 ECD処置との比較は、VEGFR3処置での原発性腫瘍サイズの減少に起因して、66c14腫瘍においては可能ではなかった。しかしながら、この解析は、その成長がVEGFR3 ECD処置によって影響を受けなかったことから、C6腫瘍において行われた。角膜マイクロポケットアッセイを用いると、抗Nrp2B処置は、VEGFR3 ECDと比較したとき、転移の同等なブロックをもたらした。
原発性腫瘍の組織学的解析は、我々が主として腫瘍細胞に影響を及ぼしていなかったことを示した。したがって、我々は、腫瘍細胞に対して利用可能であった2つの潜在的な転移経路である、血管とリンパ管とを評価した(図7)。抗Nrp2Bでの処置は、血管の構造または密度に影響を及ぼさなかった。インビトロおよびインビボでの角膜マイクロポケットデータに基づくと、Nrp2のブロックは、腫瘍リンパ管の減少をもたらすはずであると仮定された。抗Nrp2B処置は、リンパ管の密度を劇的に減少させ、この場合もまた、VEGFR3 ECD処置と同じ程度までであった。しかしながらこれらの2つの処置は、結果として生じるリンパ管の形態が異なった。VEGFR3 ECD処置は、不健康に見えるリンパ球が並んだ希薄なリンパ管ネットワークの形成をもたらした。他方で、抗Nrp2B処置は、分離した健康に見えるリンパ球の短い管およびポケットの発生をもたらした。これらの差は、さらに、Nrp2が単にVEGFレセプター活性化を増大させるように機能するだけでなく、また、VEGFC生物学を媒介する独特の機能をもたらすようなモデルを支持する。これらの結果はまた、試験した実験パラダイムについて、抗Nrp2Bがリンパ管新生を阻害するように機能することを実証する(図7)。しかしながら、抗Nrp2Bがまた、腫瘍内のより確立されたリンパ管を崩壊させることは除外され得ない。
我々はまた、腫瘍内リンパ管が機能的であり、それゆえ、転移を容易にする能力があるかどうかを決定しようと試みた。リンパ管造影法を用いて、まばらな機能的腫瘍内リンパ管を同定した(図8)。使用した技術は、機能的な腫瘍内リンパ管の割合を決定するためには十分に分析的ではなかった。しかしながら、これらは、全リンパ管集団の小さな部分を表すようである(Padera et al.,Mol Imaging 1,9−15(2002))。(抗Nrp2Bに対して異なる感受性を有し得る)機能的血管を残しつつ全リンパ管密度を低下させることが可能だったので、我々は、機能的リンパ管の形成に対するNrp2のブロックの作用を評価した。抗Nrp2Bは、機能的な脈管の形成を低下させ、それにより、より直接的に腫瘍リンパ管に対する作用を観察された転移の減少と結び付けた。
最後に、機能的なリンパ管を減少させる結果を確認するために、SLNへの転移に対する抗Nrp2Bの作用を評価した。SLNは、リンパ管を介して腫瘍から出た後に腫瘍細胞が遭遇する最初の組織である。したがって、これは、遠位の器官への転移における最も早い段階のうちの一つを表す(StrackeおよびLiotta,In Vivo 6,309−316(1992))。予測されたように、抗Nrp2B処置は、SLN微小転移の発生の遅延をもたらし、これは、より少ない細胞が原発性腫瘍塊から流出したという概念と一致していた。これは、VEGFCがリンパ管の過形成と、癌細胞のリンパ節への送達の増大とを誘導することによって転移を増加させるという証拠と一致している(Hoshida et al.,Cancer Research 66,8065−8075(2006))。したがって、この証拠の重要性は、Nrp2のブロックが機能的な腫瘍リンパ管の減少をもたらし、それによって、腫瘍細胞が原発性腫瘍塊から出ることで転移プロセスを開始することを防止する機構を示している。
(転移の標的としてのNrp2)
多数の臨床病理学研究が、VEGFCおよびVEGFR3の発現が多数のヒト癌におけるリンパ節転移および遠位への転移と相関していることが報告されている(Stacker et al.,Nat Rev Cancer,2002,上掲;Stacker et al.,Faseb J,2002,上掲およびHe et al.,2004,上掲において包括的に概説されている)。しかしながら、Nrp2の発現とその転移との関係性に関しては限られた情報しかない。実際、結び付けは、特に膵臓癌(Cohen et al.,Biochem Biophys Res Commun 284,395−403(2001);Fukahi et al.,Clin Cancer Res 10,581−590(2004))および肺癌(Kawakami et al.,Cancer 95,2196−2201(2002);Lantuejoul et al.,J Pathol 200,336−347(2003))における、Nrp2の発現と悪性との間でしかなされていない。同様に、Nrp2は、膵臓だけでなく、結腸腺癌、頭頚部扁平細胞癌腫、黒色腫、乳頭状甲状腺癌種および胸部の浸潤性管腺癌においてもまた、そのそれぞれのコントロール組織と比してより高いレベルで発現されることが見い出された(図9)。より重要なことには、これらの腫瘍を転移性の群と非転移性の群とに分けると、Nrp2の発現は、これらの腫瘍型の多くで、転移性の群において統計的により高いことが認められた。興味深いことに、これらの腫瘍型では全て腫瘍内リンパ管新生が確認され、そしてこれはさらに、リンパ節転移と相関していた(Achen et al.,2006,上掲;AchenおよびStacker,Int J Cancer 119,1755−1760(2006))。このことは、考察される実験上の知見が種々の腫瘍型を有するヒト患者へと拡張することが期待されることを示している。
まとめると、本明細書中で考察され、以下の実施例に示されるデータは、Nrp2がVEGFC駆動性の細胞遊走の調節において役割を担うことを示し、そして、Nrp2が、VEGFレセプター活性化の増強、およびVEGFレセプターのシグナル伝達とは無関係の機構を含む多数の機構を介して作用し得る証拠を提供する。さらに、抗Nrp2Bを用いたNrp2機能のブロッキングは、成体マウスにおけるVEGFC誘導性のリンパ管新生の劇的な減少をもたらす。この処置はまた、おそらくは、機能的なリンパ管の発生の減少を介して、転移の減少をもたらす。これらのデータは、多数のヒト腫瘍におけるNrp2発現の解析と共に、Nrp2が転移を調節するための有効な標的であることを示唆している。
(抗Nrp2抗体の産生)
本明細書における発明は、抗NRP2抗体の産生および使用を包含する。抗体を作製するための例示的な方法は、以下の節により詳細に記載される。
抗NRP2抗体は、哺乳動物種由来のNRP2抗原を用いて選択される。好ましくは、抗原はヒトNRP2(hNRP2)である。しかしながら、マウスNRP2(mNRP2)のような他の種由来のNRP2もまた標的抗原として使用され得る。種々の哺乳動物種由来のNRP2抗原は、自然に存在する供給源から単離され得る。他の実施形態では、抗原は、組換えにより産生されるか、または、当該分野で公知の他の合成法を用いて作製される。
選択される抗体は通常、NRP2抗原に対する十分強い結合親和性を有する。例えば、抗体は、約5nM以下、好ましくは約2nM以下、より好ましくは約500pM以下のKd値でhNRP2と結合し得る。抗体親和性は、表面プラスモン共鳴ベースのアッセイ(例えば、実施例に記載されるようなBIAcoreアッセイ;酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA);および競合アッセイ(例えば、RIA))によって決定され得る。
また、抗体は、例えば、その治療薬としての有効性を評価するために、他の生物学的活性のアッセイに供され得る。このようなアッセイは、当該分野で公知であり、標的抗原および抗体の意図される用途に依存する。例としては、HUVEC阻害アッセイ(以下の実施例に記載されるようなもの);腫瘍細胞成長阻害アッセイ(例えば、WO 89/06692に記載されるようなもの);抗体依存性細胞傷害性(ADCC)および補体媒介性細胞傷害性(CDC)アッセイ(米国特許第5,500,362号);およびアゴニスト活性もしくは造血アッセイ(WO 95/27062を参照のこと)が挙げられる。
関心のある抗原上の特定のエピトープに結合する抗体についてスクリーニングするために、Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Ed Harlow and David Lane(1988)に記載されるもののような慣用的な交差ブロッキングアッセイが行われ得る。あるいは、抗体が関心のあるエピトープに結合するかどうかを決定するために、例えば、Champe et al.(1995)J.Biol.Chem.270:1388−1394に記載されるようなエピトープマッピングが行われ得る。
(合成抗体ファージライブラリーからの抗NRP2抗体の作製)
好ましい実施形態では、抗NRP2抗体は、独特のファージディスプレイアプローチを用いて選択される。このアプローチは、単一のフレームワークテンプレートに基づいた合成抗体ファージライブラリーの作製、可変ドメイン内の十分な多様性の設計、多様化された可変ドメインを有するポリペプチドのディスプレイ、標的NRP抗原に対して高い親和性を持つ候補抗体の選択、および選択した抗体の単離を伴う。
ファージディスプレイ法の詳細は、例えば、2003年12月11日に公開されたWO03/102157に見い出され得る。
一局面では、抗体ライブラリーは、抗体可変ドメインの少なくとも1つのCDRにおける溶媒アクセス可能な位置および/または高度に多様な位置を変異させることによって作製され得る。いくつかもしくは全てのCDRが、本明細書中に提供される方法を用いて変異され得る。いくつかの実施形態では、CDRH1とCDRH2とCDRH3における位置を変異させて単一のライブラリーを形成させるか、または、CDRL3とCDRH3における位置を変異させて単一のライブラリーを形成させるか、または、CDRL3とCDRH1、CDRH2とCDRH3における位置を変異させて単一のライブラリーを形成させることによって、多様な抗体ライブラリーを作製することが好ましくあり得る。
例えば、CDRH1、CDRH2およびCDRH3の溶媒アクセス可能な位置および/または高度に多様な位置に変異を有する抗体の可変ドメインのライブラリーが作製され得る。CDRL1、CDRL2およびCDRL3内に変異を有する別のライブラリーが作製され得る。これらのライブラリーはまた、所望の親和性の結合剤(binder)を生成するよう、互いに組み合わせて使用され得る。例えば、標的抗原への結合のための重鎖ライブラリーの1回以上のラウンドの後に、結合剤の親和性を増大させるためのさらなるラウンドの選択のために、重鎖結合剤の集団に、軽鎖ライブラリーが補充され得る。
好ましくは、ライブラリーは、重鎖配列の可変領域のCDRH3領域において、元のアミノ酸を改変体アミノ酸で置換することによって作製される。得られたライブラリーは、複数の抗体配列を含み得、ここで、配列の多様性は、主として重鎖配列のCDRH3にある。
一局面では、ライブラリーは、ヒト化抗体4D5配列の状況において、または、ヒト化抗体4D5配列のフレームワークアミノ酸の配列の状況において作製される。好ましくは、ライブラリーは、重鎖の少なくとも残基95〜100aの、DVKコドンセットによってコードされるアミノ酸での置換によって作製され、ここで、DVKコドンセットは、これらの位置の全てについての改変体アミノ酸のセットをコードするために使用される。これらの置換を作製するために有用なオリゴヌクレオチドセットの例は、配列(DVK)7を含む。いくつかの実施形態では、ライブラリーは、残基95〜100aの、DVKコドンセットおよびNNKコドンセットの両方によってコードされるアミノ酸での置換によって作製される。これらの置換を作製するために有用なオリゴヌクレオチドセットの例は、配列(DVK)6(NNK)を含む。別の実施形態では、ライブラリーは、少なくとも残基95〜100aの、DVKコドンセットおよびNNKコドンセットの両方によってコードされるアミノ酸での置換によって作製される。これらの置換を作製するために有用なオリゴヌクレオチドセットの例は、配列(DVK)5(NNK)を含む。これらの置換を作製するために有用なオリゴヌクレオチドセットの別の例は、配列(NNK)6を含む。適切なオリゴヌクレオチド配列の他の例は、本明細書中に記載される基準に従って、当業者によって決定され得る。
別の実施形態では、高親和性の結合剤を単離するため、そして、種々のエピトープに対する結合剤を単離するために、異なるCDRH3設計が利用される。このライブラリーにおいて作製されるCDRH3の長さの範囲は、11〜13アミノ酸であるが、これとは異なる長さもまた作製され得る。H3の多様性は、NNK、DVKおよびNVKコドンセットを用いることにより、ならびに、Nおよび/またはC末端におけるより限定された多様性を用いることにより拡大され得る。
多様性はまた、CDRH1およびCDRH2にも作製され得る。CDR−H1およびH2の多様性の設計は、以前の設計よりも自然な多様性により密接にマッチする多様性に焦点を当てた修飾を用いて、記載されてきたような自然に存在する抗体レパートリーを模倣するようなターゲティング戦略に従う。
CDRH3における多様性について、複数のライブラリーが異なる長さのH3を用いて別個に構築され得、次いで、標的抗原に対する結合剤を選択するために組み合され得る。複数のライブラリーがプールされ、そして、以前に記載され、かつ本明細書において以下に記載されるような、固体支持体選択および溶液選別法(solution sorting method)を用いて選別され得る。複数の選別戦略が用いられ得る。例えば、1つのバリエーションは、固体上に結合した標的上での選別と、その後の、融合ポリペプチド上に存在し得るタグ(例えば、抗gDタグ)についての選別と、その後の、固体上に結合した標的上での別の選別を伴う。あるいは、ライブラリーは、最初に固体表面に結合した標的上で選別され得、次いで、減少する濃度の標的抗原による液相結合を用いて溶出された結合剤が選別される。異なる選別法の組み合わせを利用することで、高度に発現された配列のみが選択されることを最小限にし、そして、多数の異なる高親和性クローンの選択を提供することになる。
標的NRP2抗原に対する高親和性結合剤が、ライブラリーから単離され得る。H1/H2領域における限られた多様性は、縮重を約104〜105倍低下させ、そして、より多くのH3の多様性がより高親和性の結合剤を提供することを可能にする。(例えば、DVKまたはNVTを利用して)CDRH3内に異なる型の多様性を持つライブラリーを利用することで、標的抗原の異なるエピトープに結合し得る結合剤の単離が提供される。
上記のようなプールされたライブラリーから単離された結合剤から、親和性が、軽鎖に限られた多様性を提供することによりさらに改善され得ることが発見された。軽鎖の多様性は、この実施形態では、以下のように作製される:CDRL1において:アミノ酸位置28は、RDTによってコードされる;アミノ酸位置29は、RKTによってコードされる;アミノ酸位置30は、RVWによってコードされる;アミノ酸位置31は、ANWによってコードされる;アミノ酸位置32は、THTによってコードされる;必要に応じて、アミノ酸位置33は、CTGによってコードされる;CDRL2において:アミノ酸位置50は、KBGによってコードされる;アミノ酸位置53は、AVCによってコードされる;そして必要に応じて、アミノ酸位置55は、GMAによってコードされる;CDRL3において:アミノ酸位置91は、TMTもしくはSRTまたはこの両方によってコードされる;アミノ酸位置92は、DMCによってコードされる;アミノ酸位置93は、RVTによってコードされる;アミノ酸位置94は、NHTによってコードされる;そして、アミノ酸位置96は、TWTもしくはYKGまたはこの両方によってコードされる。
別の実施得形態では、CDRH1、CDRH2およびCDRH3領域に多様性を有するライブラリーが作製される。この実施形態では、CDRH3における多様性は、種々の長さのH3領域を用い、そして、主としてコドンセットXYZとNNKもしくはNNSとを用いて作製される。ライブラリーは個々のオリゴヌクレオチドを用いて形成され、そして、プールされ得るか、または、ライブラリーのサブセットを形成するためにオリゴヌクレオチドがプールされ得る。この実施形態のライブラリーは、固体に結合した標的に対して選別され得る。複数の選別から単離されたクローンは、ELISAアッセイを用いて特異性および親和性についてスクリーニングされ得る。特異性については、クローンは、所望の標的抗原ならびに他の非標的抗原に対してスクリーニングされ得る。標的NRP1抗原に対するこれらの結合剤は、その後、溶液結合競合ELISAアッセイまたはスポット競合アッセイにおいて親和性についてスクリーニングされ得る。高親和性の結合剤は、上述のようにして調製されたXYZコドンセットを利用してライブラリーから単離され得る。これらの結合剤は、細胞培養物において高い収率で抗体または抗原結合フラグメントとして容易に産生され得る。
いくつかの実施形態では、CDRH3領域の長さにより大きな多様性を持つライブラリーを作製することが望ましくあり得る。例えば、約7〜19アミノ酸の範囲のCDRH3領域を持つライブラリーを作製することが望ましくあり得る。
これらの実施形態のライブラリーから単離された高親和性の結合剤は、細菌および真核生物細胞培養物において高い収率で容易に産生される。ベクターは、gDタグ、ウイルス被膜タンパク質成分の配列のような配列を容易に除去し、そして/また、定常領域配列中に追加して、高い収率での全長抗体もしくは抗原結合フラグメントの産生を提供するように設計され得る。
CDRH3に変異を持つライブラリーは、他のCDRの改変体バージョン(例えば、CDRL1、CDRL2、CDRL3、CDRH1および/またはCDRH2)を含むライブラリーと組み合され得る。したがって、例えば、一実施形態では、CDRH3ライブラリーは、所定のコドンセットを用いてヒト化4D5抗体配列の状況において作製された位置28、29、30、31および/または32に改変体アミノ酸を持つCDRL3ライブラリーと組み合わされる。別の実施形態では、CDRH3への変異を持つライブラリーは、改変体CDRH1および/またはCDRH2重鎖可変ドメインを含むライブラリーと組み合され得る。一実施形態では、CDRH1ライブラリーは、位置28、30、31、32および33に改変体アミノ酸を持つヒト化抗体4D5配列を用いて作製される。CDRH2ライブラリーは、所定のコドンセットを用いて、位置50、52、53、54、56および58に改変体アミノ酸を持つヒト化抗体4D5の配列を用いて作製され得る。
(抗NRP2抗体変異体)
ファージライブラリーから作製された抗NRP2抗体はさらに、親抗体を上回る改善された物理的特性、化学的特性および/または生物学的特性を持つ抗体変異体を作製するように改変され得る。使用されるアッセイが生物学的活性アッセイである場合、抗体変異体は好ましくは、選択したアッセイにおける親抗体の生物学的活性よりも、少なくとも約10倍良好、好ましくは少なくとも約20倍良好、より好ましくは少なくとも約50倍良好、そしてときおり、少なくとも約100倍もしくは200倍良好なそのアッセイにおける生物学的活性を有する。例えば、抗NRP1抗体変異体は好ましくは、親抗NRP抗体の結合親和性よりも、少なくとも約10倍強力、好ましくは少なくとも約20倍強力、より好ましくは少なくとも約50倍強力、そしてときおり、少なくとも約100倍もしくは200倍強力なNRPに対する結合親和性を有する。
抗体変異体を作製するために、1以上のアミノ酸変更(例えば、置換)が親抗体の1以上の超可変領域に導入される。あるいは、もしくは加えて、フレームワーク領域の残基の1以上の変更(例えば、置換)が、親抗体に導入され得、この場合、これにより、第二の哺乳動物種に由来する抗原に対する抗体変異体の結合親和性における改善がもたらされる。改変するためのフレームワーク領域の残基の例としては、抗原に対して直接的に非共有結合するもの(Amit et al.(1986)Science 233:747−753);CDRの立体配座と相互作用/影響するもの(Chothia et al.(1987)J.Mol.Biol.196:901−917);および/または、VL−VH界面に関与するもの(EP 239 400B1)が挙げられる。特定の実施形態では、1以上のこのようなフレームワーク領域の残基の改変は、第二の哺乳動物種に由来する抗原に対する抗体の結合親和性の増強をもたらす。例えば、本発明のこの実施形態では、約1〜約5のフレームワーク残基が変更され得る。ときおり、これは、超可変領域の残基がいずれも変更されていない場合でも、前臨床治験における使用に適した抗体変異体をもたらすのに十分であり得る。しかしながら、通常は、抗体変異体は、さらなる超可変領域の変更を含む。
変更される超可変領域の残基はランダムに変更され得、これは特に、親抗体の最初の結合親和性がこのようにランダムに産生された抗体変異体が容易にスクリーニングされ得るようなものである場合になされる。
このような抗体変異体を作製するための1つの有用な手順は、「アラニン走査変異誘発」(CunninghamおよびWells(1989)Science 244:1081−1085)と呼ばれる。ここでは、第二の哺乳動物種に由来する抗原とのアミノ酸の相互作用に影響を与えるために、1以上の超可変領域の残基がアラニンまたはポリアラニン残基で置き換えられる。置換に対して機能的な感受性を示すこれらの超可変領域の残基は、次いで、置換の部位にさらなる変異もしくは他の変異を導入することによって改良される。このように、アミノ酸配列のバリエーションを導入するための部位は予め決定されているものの、変異の性質事態は予め決定されている必要はない。この方法で生成されたala変異は、本明細書中に記載されるようなその生物学的活性についてスクリーニングされる。
通常は、「好ましい置換」との見出しで以下に示されるもののような保存的置換から出発する。このような置換が生物学的活性(例えば、結合活性)の変化をもたらす場合、以下の表において「例示的な置換」と称され、また、アミノ酸の分類を参照して以下にさらに記載されるような、より本質的な変化が導入され、そして、生成物がスクリーニングされる。
好ましい置換:
抗体の生物学的特性においてなおより本質的な改変は、(a)置換の領域におけるポリペプチドバックボーンの構造(例えば、シートまたはヘリックスの立体配座)、(b)標的部位における分子の電荷もしくは疎水性、または(c)側鎖の嵩高さ、を維持することに対するその影響が大いに異なる置換を選択することによって達成される。天然に存在する残基は、共通する側鎖の特性に基づいていくつかの群に分けられる:
(1)疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;
(2)中性疎水性:cys、ser、thr、asn、gln;
(3)酸性:asp、glu;
(4)塩基性:his、lys、arg;
(5)鎖の方位に影響を及ぼす残基:gly、pro;そして
(6)芳香族:trp、tyr、phe。
非保存的置換は、これらの分類のうちの1つのメンバーを別の分類のものと交換することを含意する。
別の実施形態では、改変のために選択される部位は、ファージディスプレイ(上記を参照のこと)を用いて親和性成熟される。
アミノ酸配列変異をコードする核酸分子は、当該分野で公知の種々の方法によって調製される。これらの方法としては、オリゴヌクレオチド媒介性(または部位指向性)突然変異誘発、PCR突然変異誘発、および、親抗体の前以って調製された変異もしくは非変異バージョンのカセット突然変異誘発が挙げられるがこれらに限定されない。好ましい変異作製法は、部位指向性突然変異誘発(例えば、Kunkel(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488を参照のこと)である。
特定の実施形態では、抗体変異体は、単一の超可変領域残基のみが置換されている。他の実施形態では、親抗体の超可変領域の2以上の残基が置換されている(例えば、約2〜約10の超可変領域置換)。
通常、改善された生物学的特性を持つ抗体変異体は、親抗体の重鎖もしくは軽鎖のいずれかの可変ドメインのアミノ酸配列に対して、少なくとも75%の、より好ましくは少なくとも80%の、より好ましくは少なくとも85%の、より好ましくは少なくとも90%の、そして最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性もしくは類似性を有するアミノ酸配列を有する。この配列に関する同一性もしくは類似性は、本明細書において、必要な場合、配列をアラインメントしてギャップを導入して、最大の%配列同一性を達成した後の、候補配列中の、親抗体残基と同一(すなわち、同じ残基)または類似(すなわち、共通の側鎖特性に基づいて同じ群からのアミノ酸残基、上記を参照のこと)のアミノ酸残基の割合として定義される。N末端、C末端、または、可変ドメインの外側の抗体配列への内部伸長、欠失もしくは挿入は、配列の同一性もしくは類似性に影響を及ぼすものと考えられない。
抗体変異体を生成した後、その分子の生物学的活性が親抗体と比して決定される。上述のように、これは、抗体の結合親和性および/または他の生物学的活性の決定を包含し得る。本発明の好ましい実施形態では、抗体変異体のパネルが調製され、そして、NRP1のような抗原またはそのフラグメントに対する結合親和性についてスクリーニングされる。この最初のスクリーニングから選択された1以上の抗体変異体は、必要に応じて、増強された結合親和性を持つその抗体変異体が例えば前臨床研究に実際に有用であることを確認するために、1以上のさらなる生物学的活性のアッセイに供される。
こうして選択された抗体変異体は、しばしば抗体の意図される用途に依存して、さらなる改変に供され得る。このような改変は、以下に詳述されるもののような、アミノ酸配列のさらなる変更、異種ポリペプチドへの融合、および/または、共有結合性の改変(covalent modification)を包含し得る。アミノ酸配列の変更に関して、例示的な改変は上で詳述される。例えば、抗体変異体の適切な立体配座の維持に関与していない任意のシステイン残基はまた、分子の酸化的安定性を高め、そして、異常な架橋を防ぐために、一般にセリンで置換され得る。逆に、その安定性を高めるためにシステイン結合が追加され得る(特に、抗体がFvフラグメントのような抗体フラグメントである場合)。別の型のアミノ酸変異体は、変更されたグリコシル化パターンを有する。これは、抗体において見い出される1以上の炭化水素部分を欠失させ、そして/または、抗体中には存在しない1以上のグリコシル化部位を付加させることによって達成され得る。抗体のグリコシル化は、代表的には、N連結またはO連結のいずれかである。N連結とは、アスパラギン残基の側鎖への炭化水素部分の結合をいう。トリペプチド配列であるアスパラギン−X−セリンおよびアスパラギン−X−スレオニン(ここで、Xは、プロリンを除く任意のアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖への炭化水素部分の酵素的結合のための認識配列である。したがって、ポリペプチド中のこれらのトリペプチド配列のいずれかの存在は、潜在的なグリコシル化部位を生じる。O連結グリコシル化とは、糖N−アセチルガラクトサミン、ガラクトースもしくはキシロースのうちの1つの、ヒドロキシアミノ酸(最も一般には、セリンまたはスレオニン)への結合をいうが、5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリジンもまた使用され得る。(N連結グリコシル化部位について)抗体へのグリコシル化部位の付加は、1以上の上記トリペプチド配列を含むようにアミノ酸配列を変更することによって簡便に達成される。(O連結グリコシル化部位について)変更はまた、元の抗体の配列に対して、1以上のセリンもしくはスレオニン残基を付加もしくは置換することによってなされ得る。
(ベクター、宿主細胞および組換え法)
本発明の抗Nrp2抗体は、容易に入手可能な技術および物質を用いて、組換え的に生成され得る。
抗NRP2抗体の組換え生成のために、これをコードする核酸は、単離され、さらなるクローニング(DNAの増幅)または発現のために、複製可能なベクターへと挿入される。抗体をコードするDNAは、簡便な手順を用いて(例えば、抗体の重鎖および軽鎖をコードするDNAに特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって)、容易に単離もしくは合成される。多くのベクターが利用可能である。ベクターの成分は一般に、以下のうちの1以上を含むがこれらに限定されない:シグナル配列、複製起点、1以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーターおよび転写終結配列。
(i)シグナル配列成分
本発明の抗体は、直接的に組換えによって生成され得るだけでなく、異種ポリペプチド(好ましくは、成熟なタンパク質もしくはポリペプチドのN末端に特異的な切断部位を持つシグナル配列もしくは他のポリペプチド)と融合ポリペプチドとしても生成され得る。選択される異種シグナル配列は、好ましくは、宿主細胞よって認識およびプロセシングされる(すなわち、シグナルペプチダーゼによって切断される)ものである。ネイティブな抗体シグナル配列を認識もプロセシングもしない原核生物宿主細胞については、シグナル配列は、例えば、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、lppまたは熱安定性エンテロトキシンIIリーダーの群から選択される原核生物のシグナル配列で置き換えられる。酵母分泌物については、ネイティブなシグナル配列は、例えば、酵母インバーターゼリーダー、α因子リーダー(SaccharomycesおよびKluyveromycesのα因子リーダーを含む)、もしくは、酸性ホスファターゼリーダー、C.albicansのグルコアミラーゼリーダー、または、WO 90/13646に記載されるシグナルによって置き換えられ得る。哺乳動物細胞での発現では、哺乳動物シグナル配列ならびにウイルス分泌リーダー(例えば、単純疱疹ウイルスgDシグナル)が利用可能である。
このような前駆体領域についてのDNAは、抗体をコードするDNAに対して読み枠フレームで連結される。
(ii)複製起点成分
発現ベクターおよびクローニングベクターは共に、1以上の選択した宿主細胞におけるベクターの複製を可能にする核酸配列を含む。一般に、クローニングベクターにおいては、この配列は、宿主の染色体DNAとは独立したベクターの複製を可能にするものであり、複製起点または自律複製配列が挙げられる。このような配列は、種々の細菌、酵母およびウイルスについて周知である。プラスミドpBR322由来の複製起点は、多くのグラム陰性細菌に適しており、2μプラスミドの起点は酵母に適しており、そして、種々のウイルス起点(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSVまたはBPV)は、哺乳動物細胞におけるクローニングベクターに有用である。一般に、複製起点成分は、哺乳動物発現ベクターには必要とされない(代表的に、SV40起点は初期プロモーターを含んでいるという理由だけで使用され得る)。
(iii)選択遺伝子成分
発現ベクターおよびクローニングベクターは、選択マーカーとも呼ばれる選択遺伝子を含み得る。代表的な選択遺伝子は、(a)抗生物質もしくは他の毒素(例えば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキサートもしくはテトラサイクリン)に対する耐性を与えるか、(b)栄養要求性欠陥を補完するか、または(c)複合培地からは利用可能でない重要な栄養分(例えば、Bacilliについて、D−アラニンラセマーゼをコードする遺伝子)を供給するタンパク質をコードする。
選択スキームの一例は、宿主細胞の増殖を停止するために薬物を利用する。異種遺伝子で首尾よく形質転換された細胞は、薬物耐性を与えるタンパク質を生成し、したがって、選択レジメンを生き残る。このような優勢選択の例は、薬物ネオマイシン、ミコフェノール酸およびハイグロマイシンを使用する。
哺乳動物細胞についての適切な選択マーカーの別の例は、抗体の核酸の取得能力のある細胞を同定することを可能にするもの(例えば、DHFR、チミジンキナーゼ、メタロチオネイン−Iおよび−II(好ましくは霊長類のメタロチオネイン遺伝子)、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼなど)である。
例えば、DHFR選択遺伝子で形質転換された細胞は、まず、DHFRの競合アンタゴニストであるメトトレキサート(Mtx)を含む培養培地中で全ての形質転換体を培養することによって同定される。野生型DHFRが用いられる場合、適切な宿主細胞は、DHFR活性が欠損しているチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株である。
あるいは、抗体、抗体をコードするDNA配列、野生型DHFRタンパク質および別の選択マーカー(例えば、アミノグリコシド3’−ホスホトランスフェラーゼ(APH))で形質転換もしくは同時形質転換された宿主細胞(特に、内因性のDHFRを含む野生型宿主)は、アミノグリコシド系抗生物質(例えば、カナマイシン、ネオマイシンまたはG418)のような選択マーカーについての選択因子を含む培地中で細胞を成長させることによって選択され得る。米国特許第4,965,199号を参照のこと。
酵母において使用するための適切な選択遺伝子は、酵母プラスミドYRp7中に存在するtrp1遺伝子である(Stinchcomb et al.(1979)Nature 282:39)。trp1遺伝子は、トリプトファン中で増殖する能力を欠く酵母の変異株、例えば、ATCC番号44076またはPEP4−1についての選択マーカーを提供する。Jones(1977)Genetics 85:12。酵母宿主細胞ゲノムにおけるtrp1病巣の存在は、次に、トリプトファンの非存在下で成長させることによる形質転換体を検出するための効率的な環境を提供する。同様に、Leu2欠損酵母株(ATCC 20,622または38,626)は、Leu2遺伝子を有する公知のプラスミドによって補完される。
さらに、1.6μm環状プラスミドpKD1由来のベクターが、Kluyveromyces酵母の形質転換に使用され得る。あるいは、K.lactisについて、組換えウシキモシンの大規模産生のための発現系が報告された。Van den Berg(1990)Bio/Technology 8:135。Kluyveromycesの産業株による成熟な組換えヒト血清アルブミンの分泌に適したマルチコピー発現ベクターもまた開示されている。Fleer et al.(1991)Bio/Technology 9:968−975。
(iv)プロモーター成分
発現ベクターおよびクローニングベクターは通常、宿主生物によって認識され、そして抗体の核酸に作動可能に連結されたプロモーターを含む。原核生物宿主と共に使用するのに適したプロモーターとしては、phoAプロモーター、β−ラクタマーゼおよびラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系およびtacプロモーターのようなハイブリッドプロモーターが挙げられる。しかしながら、他の公知の細菌性プロモーターも適している。細菌系において使用するためのプロモーターはまた、抗体をコードするDNAに対して作動可能に連結されたShine−Dalgarno(S.D.)配列を含む。
真核生物についてのプロモーター配列は公知である。実質的に全ての真核生物遺伝子が、転写が開始される部位から約25〜30塩基上流に位置するATリッチな領域を有する。多くの遺伝子の転写開始部位から70〜80塩基上流に見られる別の配列は、CNCAAT領域であり、ここで、Nはあらゆるヌクレオチドであり得る。多くの真核生物遺伝子の3’末端には、AATAAA配列があり、これは、コード配列の3’末端にポリAテイルを付加するためのシグナルであり得る。これらの配列は全て、真核生物発現ベクター内に適切に挿入される。
酵母宿主と共に使用するための適切なプロモーター配列の例としては、3−ホスホグリセリン酸キナーゼまたは他の解糖系酵素(例えば、エノラーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホ−フルクトキナーゼ、グルコース−6−リン酸イソメラーゼ、3−ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼおよびグルコキナーゼ)についてのプロモーターが挙げられる。
成長条件によって制御される転写のさらなる利点を有する誘導性プロモーターである他の酵母プロモーターは、アルコールデヒドロゲナーゼ2、イソシトクロムC、酸性ホスファターゼ、窒素代謝に関連する分解性酵素、メタロチオネイン、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、マルトースとガラクトースの利用を担う酵素についてのプロモーター領域である。酵母での発現において使用するために適したベクターおよびプロモーターは、EP 73,657においてさらに記載される。酵母エンハンサーもまた、酵母プロモーターと共に有益に使用される。
哺乳動物宿主細胞におけるベクターからの抗体の転写は、例えば、ウイルス(例えば、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(例えば、アデノウイルス2)、ウシパピローマウイルス、鳥類肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、そして、最も好ましくは、シミアンウイルス40(SV40))のゲノムから得たプロモーターによって、異種の哺乳動物プロモーター(例えば、アクチンプロモーターまたは免疫グロブリンプロモーター)から、ヒートショックプロモーターから制御されるが、ただし、このようなプロモーターは、宿主細胞系と適合性であるものとする。
SV40ウイルスの初期および後期のプロモーターは、SV40ウイルスの複製起点もまた含むSV40制限フラグメントとして簡便に入手される。ヒトサイトメガロウイルスの最初期プロモーターは、HindIII E制限フラグメントとして簡便に入手される。ベクターとしてウシパピローマウイルスを用いる哺乳動物宿主においてDNAを発現させるための系が、米国特許第4,419,446号に開示される。この系の改変が、米国特許第4,601,978号に記載される。単純疱疹ウイルス由来のチミジンキナーゼプロモーターの制御下でのマウス細胞におけるヒトβ−インターフェロンcDNAの発現に関しては、Reyes et al.(1982)Nature 297:598−601もまた参照のこと。あるいは、ラウス肉腫ウイルス長末端反復がプロモーターとして使用され得る。
(v)エンハンサーエレメント成分
本発明の抗体をコードするDNAの高等真核生物による転写は、しばしば、ベクターにエンハンサー配列を挿入することによって増大される。哺乳動物遺伝子(グロブリン、エラスターゼ、アルブミン、α−フェトプロテインおよびインシュリン)に由来する多くのエンハンサー配列が現在公知である。しかしながら、代表的には、真核生物細胞であるウイルスに由来するエンハンサーを使用する。例としては、複製起点の後期側(bp100〜270)にあるSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターのエンハンサー、複製起点の後期側にあるポリオーマのエンハンサーおよびアデノウイルスのエンハンサーが挙げられる。真核生物プロモーターの活性化のための増強エレメントに関しては、Yaniv(1982)Nature 297:17−18もまた参照のこと。エンハンサーは、抗体をコードする配列に対して5’または3’の位置で、ベクターに接合され得るが、好ましくは、プロモーターの5’側の部位に位置する。
(vi)転写終結成分
真核生物宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒト、または、他の多細胞生物由来の有核細胞)において使用される発現ベクターはまた、転写の終結およびmRNAの安定化に必要な配列を含む。このような配列は、一般に、真核生物またはウイルスのDNAまたはcDNAの5’(ときおり3’)の非翻訳領域から入手可能である。これらの領域は、抗体をコードするmRNAの非翻訳部分に、ポリアデニル化されたフラグメントとして転写されたヌクレオチドセグメントを含む。1つの有用な転写終結成分は、ウシ成長ホルモンポリアデニル化領域である。WO94/11026およびこの文献に開示される発現ベクターを参照のこと。
(vii)宿主細胞の選択および形質転換
本明細書中のベクターにおいてDNAをクローニングまたは発現させるために適切な宿主細胞は、上述した、原核生物、酵母またはより高級な真核生物の細胞である。この手順のために適した原核生物としては、以下が挙げられる:グラム陰性生物もしくはグラム陽性生物のような真正細菌(例えば、Enterobacteriaceae(例えば、Escherichia、例えば、E.coli)、Enterobacter、Erwinia、Klebsiella、Proteus、Salmonella(例えば、Salmonella typhimurium)、Serratia(例えば、Serratia marcescans)およびShigella、ならびにBacilli(例えば、B.subtilisおよびB.licheniformis(例えば、1989年4月12日に公開されたDD 266,710に開示されるB.licheniformis 41P))、Pseudomonas(例えば、P.aeruginosa)ならびにStreptomyces。1つの好ましいE.coliクローニング宿主は、E.coli 294(ATCC 31,446)であるが、E.coli B、E.coli X1776(ATCC 31,537)およびE.coli W3110(ATCC 27,325)のような他の株も適切である。これらの例は、限定的なものではなく、例示的なものである。
原核生物に加え、糸状菌または酵母のような真核生物微生物が、抗体をコードするベクターについての適切なクローニングもしくは発現の宿主である。Saccharomyces cerevisiaeまたは一般的なパン酵母は、低級の真核生物宿主微生物の中で最も一般的に使用されるものである。しかしながら、以下のような多数の他の属、種および系統が市販されており、本明細書において有用である:Schizosaccharomyces pombe;例えば、K.lactis、K.fragilis(ATCC 12,424)、K.bulgaricus(ATCC 16,045)、K.wickeramii(ATCC 24,178)、K.waltii(ATCC 56,500)、K.drosophilarum(ATCC 36,906)、K.thermotoleransおよびK.marxianus;yarrowia(EP 402,226);Pichia pastoris(EP 183,070)のようなKluyveromyces宿主;Candida;Trichoderma reesia(EP 244,234);Neurospora crassa;Schwanniomyces occidentalisのようなSchwanniomyces;例えば、Neurospora、Penicillium、Tolypocladiumのような糸状菌、ならびに、A.nidulansおよびA.nigerのようなAspergillus宿主。
グリコシル化された抗体の発現に適した宿主細胞は、多細胞生物由来のものである。無脊椎細胞の例としては、植物細胞および昆虫細胞が挙げられる。多数のバキュロウイルス株および改変体、ならびに、Spodoptera frugiperda(イモムシ)、Aedes aegypti(蚊)、Aedes albopictus(蚊)、Drosophila melanogaster(ミバエ)およびBombyx moriのような宿主由来の対応する許容性の昆虫宿主細胞が同定されている。トランスフェクションのための種々のウイルス株が公的に入手可能であり(例えば、Autographa californica NPVのL−1改変体およびBombyx mori NPVのBm−5株)、そして、このようなウイルスは、特にSpodoptera frugiperda細胞のトランスフェクションのために、本発明に従って本明細書中のウイルスとして使用され得る。綿、トウモロコシ、ジャガイモ、大豆、ペチュニア、トマトおよびタバコの植物細胞培養物もまた宿主として利用され得る。
しかしながら、最大の関心は脊椎動物細胞にあり、そして、培養(組織培養)における脊椎動物細胞の増殖は慣用的な手順となってきている。有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS−7、ATCC CRL 1651);ヒト胚性腎臓株(293細胞、または、懸濁培養において成長させるためにサブクローニングされた293細胞,Graham et al.(1977)J.Gen Virol.36:59);新生仔ハムスター腎細胞(BHK、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/−DHFR(CHO、Urlaub et al.(1980)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather(1980)Biol.Reprod.23:243−251);サル腎細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎細胞(VERO−76、ATCC CRL−1587);ヒト頚部癌腫細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット(buffalo rat)肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065);マウス胸部腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Mather et al.(1982)Annals N.Y.Acad.Sci.383:44−68);MRC 5細胞;FS4細胞;およびヒトヘパトーム株(Hep G2)である。
宿主細胞は、抗体生成のために上述のような発現ベクターもしくはクローニングベクターで形質転換され、そして、プロモーター、プロモーターを誘導するか、形質転換体を選択するか、または、所望の配列をコードする遺伝子を増幅させるために適切なように改変された簡便な栄養培地中で培養される。
(viii)宿主細胞の培養
本発明の抗体を生成するために使用される宿主細胞は、種々の培地中で培養され得る。宿主細胞の培養には、Ham’s F10(Sigma)、基礎培地(Minimal Essential Medium)((MEM),(Sigma))、RPMI−1640(Sigma)およびダルベッコの改変イーグル培地((DMEM),Sigma)のような市販の培地が適している。さらに、Ham et al.(1979)Meth.Enz.58:44、Barnes et al.(1980)Anal.Biochem.102:255、米国特許第4,767,704号;同第4,657,866号;同第4,927,762号;同第4,560,655号;もしくは同第5,122,469号;WO 90/03430;WO 87/00195;または米国再発行特許第30,985号に記載される培地のいずれかが、宿主細胞の培養培地として使用され得る。これらの培地はいずれも、必要に応じて、ホルモンおよび/もしくは他の成長因子(例えば、インシュリン、トランスフェリンまたは上皮増殖因子)、塩(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウムおよびリン酸)、緩衝剤(例えば、HEPES)、ヌクレオチド(例えば、アデノシンおよびチミジン)、抗生物質(例えば、GENTAMYCINTM薬物)、微量元素(通常はμM範囲の最終濃度で存在する無機化合物として定義される)およびグルコースまたは等価なエネルギー源を補充され得る。当業者に公知の任意の他の必要な補充物もまた適切な濃度で含められ得る。温度、pHなどのような培養条件は、発現のために選択された宿主細胞と共に以前から使用されているものであり、そして、当業者にとり明らかである。
(ix)抗体の精製
組換え技術を用いる場合、抗体は、ペリプラズム空間において細胞内で生成され得るか、または、培地中に直接分泌され得る。抗体が細胞内で生成される場合、第一の工程として、宿主細胞または溶解されたフラグメントのいずれかの粒子状破片が、例えば、遠心分離または限外濾過によって除去される。Carter et al.(1992)Bio/Technology 10:163−167は、E.coliのペリプラズム空間に分泌される抗体を単離するための手順を記載している。簡単に述べると、酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTAおよびフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)の存在下で約30分かけて細胞のペーストを解凍させる。細胞破片は遠心分離により除去され得る。抗体が培地中に分泌される場合、一般に、このような発現系からの上清は、まず、市販のタンパク質濃縮フィルター(例えば、AmiconまたはMillipore Pellicon製の限外濾過ユニット)を用いて濃縮される。タンパク質分解を阻害するため、PMSFのようなプロテアーゼインヒビターが上記工程のいずれかにおいて含められ得、そして、外来の汚染物の成長を防止するため、抗生物質が含められ得る。
細胞から調製された抗体組成物は、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析およびアフィニティクロマトグラフィーを用いて精製され得るが、アフィニティクロマトグラフィーが好ましい精製技術である。アフィニティリガンドとしてのプロテインAの適切さは、抗体中に存在するあらゆる免疫グロブリンFcドメインの種およびアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2またはγ4重鎖に基づく抗体を精製するために使用され得る(Lindmark et al.(1983)J.Immunol.Meth.62:1−13)。プロテインGは、全てのマウスアイソタイプとヒトγ3について推奨される(Guss et al.(1986)EMBO J.5:15671575)。アフィニティリガンドが結合されるマトリクスは、最も頻繁にはアガロースであるが、他のマトリクスも利用可能である。制御されたポアを持つガラスまたはポリ(スチレンジビニル)ベンゼンのような機械的に安定なマトリクスは、アガロースを用いた場合に達成され得るよりも速い流速とより短い処理時間とを可能にする。抗体がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABXTM樹脂(J.T.Baker,Phillipsburg,NJ)が精製に有用である。イオン交換カラム上での分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカ上でのクロマトグラフィー、ヘパリンSEPHAROSETM上でのクロマトグラフィー、陰イオンもしくは陽イオン交換樹脂(例えば、ポリアスパラギン酸カラム)上でのクロマトグラフィー、等電点電気泳動、SDS−PAGEおよび硫酸アンモニウム沈降のようなタンパク質精製のための他の技術もまた、回収される抗体に依存して利用可能である。
任意の予備的な精製工程に続いて、目的の抗体と汚染物とを含む混合物は、約2.5〜4.5の間のpHの溶出緩衝液を用いて、好ましくは、低塩濃度(例えば、約0〜0.25Mの塩)で行われる、低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーに供され得る。
(薬学的処方物)
抗体の治療用処方物は、凍結乾燥された処方物もしくは水溶液の形態で、所望の程度の純度を持つ抗体を、任意の生理学的に受容可能なキャリア、賦形剤もしくは安定化剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences,第16版,Osol,A.Ed.(1980))と混合することによって、保存のために調製される。受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、用いられる投与量および濃度においてレシピエントに対して無毒であり、そして、以下のようなものが挙げられる:緩衝剤(例えば、リン酸、クエン酸および他の有機酸);抗酸化物質(アスコルビン酸およびメチオニンを含む);保存剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルアルコールもしくはベンジルアルコール;アルキルパラベン類(例えば、メチルパラベンまたはプロピルパラベン);カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノールおよびm−クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリジン);単糖類、二糖類および他の糖質(グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む);キレート化剤(例えば、EDTA);糖類(例えば、スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);金属錯体(例えば、Zn−タンパク質錯体);および/または非イオン性界面活性剤(例えば、TWEENTM、PLURONICSTMまたはポリエチレングリコール(PEG))。
本明細書中の処方物はまた、処置される特定の適応症に必要とされる1以上の活性な化合物、好ましくは、互いに有害に影響しない相補的な活性を持つ化合物を含み得る。例えば、免疫抑制剤、抗癌剤、抗血管新生因子、抗新生物形成因子、細胞傷害剤および/または化学療法剤をさらに提供することが望ましくあり得る。このような分子は、意図される目的に有効な量で適切に組み合わされて存在する。
活性成分はまた、例えば、コアセルベーション技術によって、もしくは界面重合によって調製されたマイクロカプセル中に被包され得る(例えば、それぞれ、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)または高分子エマルジョン中の、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン−マイクロカプセルおよびポリ−(メチルメタクリレート)マイクロカプセル)。このような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,第16版,Osol,A.Ed.(1980)に開示される。
インビボ投与のために使用される処方物は、滅菌状態でなければならない。これは、滅菌濾過膜を通した濾過によって容易に達成される。
持続放出調製物が調製され得る。持続放出調製物の適切な例としては、抗体を含有する固形の疎水性ポリマーの半透性マトリクスが挙げられ、このマトリクスは、成形物品(例えば、フィルムまたはマイクロカプセル)の形態である。持続放出マトリクスの例としては、以下が挙げられる:ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L−グルタミン酸とγエチル−L−グルタメートとのコポリマー、非分解性エチレン−酢酸ビニル、分解性の乳酸−グリコール酸コポリマー(例えば、LUPRON DEPOTTM(乳酸−グリコール酸コポリマーおよび酢酸ロイプロリドから構成される注射用のマイクロスフェア))、およびポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸)。エチレン−酢酸ビニルおよび乳酸−グリコール酸のようなポリマーは、100日を超えて分子を放出することが可能であるが、特定のヒドロゲルは、より短い期間にわたってタンパク質を放出する。被包された抗体が長時間にわたり体内に留まる場合、これらは、37℃における湿気に対する曝露の結果として変性または凝集し得、生物学的活性の喪失と、免疫原性の変化の可能性とを生じる。関与する機構に依存して、安定化のための合理的な戦略が案出され得る。例えば、凝集機構がチオ−ジスルフィド交換を介した分子間S−S結合の形成であることが見い出される場合、安定化は、スルフヒドリル残基を改変し、酸性溶液から凍結乾燥させ、水分含量を制御し、適切な添加物を用い、そして、特定のポリマーマトリクス組成を開発することによって達成され得る。
(治療用途)
本発明の抗体は、哺乳動物を処置するために使用され得ることが企図される。例えば、一実施形態では、抗体は、臨床データを得る目的のために非ヒト哺乳動物に投与される。処置される例示的な非ヒト哺乳動物としては、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、げっ歯類、および、臨床研究が行われる他の哺乳動物が挙げられる。このような哺乳動物は、抗体で処置されるべき疾患についての確立された動物モデルであり得るか、または、関心のある抗体の毒性を研究するために使用され得る。これらに実施形態の各々において、用量増大研究が哺乳動物において行われ得る。例えば、抗体が抗NRP2抗体である場合、抗体は、固形腫瘍モデルにおける宿主のげっ歯類に対して投与され得る。
さらに、または代替として、抗体は、ヒト(例えば、その抗体の投与から利益を享受し得る疾患または障害を罹患する患者)を処置するために使用される。
本発明は、腫瘍性のリンパ管新生の予防および処置、腫瘍転移の予防および処置、ならびに、栄養分を供給して腫瘍成長を支援するために必要とされる腫瘍血管の発生を阻害することをねらいとした新規癌処置戦略である抗血管新生癌治療を包含する。本発明は、具体的には、原発性部位における腫瘍の悪性成長を阻害すること、ならびに、二次的な部位における腫瘍の転移の予防および/または処置し、したがって、他の治療による腫瘍の攻撃を可能にすることを包含する。本明細書において処置(予防を含む)される癌の例としては、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫および白血病が挙げられるがこれらに限定されない。このような癌のより具体的な例としては、以下が挙げられる:扁平上皮癌、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌および肺の扁平癌腫を含む)、腹膜癌、肝細胞癌、胃癌(gastric or stomach cancer)(消化管癌を含む)、膵臓癌、神経膠芽細胞腫、頚部癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、ヘパトーム、乳癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌腫もしくは子宮癌腫、唾液腺癌、腎臓癌(kidney or renal cancer)、肝臓癌、前立腺癌、外陰部の癌、甲状腺癌、肝性癌腫および種々の型の頭頚部癌、ならびにB細胞リンパ腫(軽度悪性/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL);小リンパ球性(SL)NHL;中等度悪性/濾胞性NHL;中等度悪性びまん性NHL;高度悪性免疫芽球性NHL;高度悪性リンパ芽球性NHL;高度悪性小型非切れ込み核細胞性NHL;巨大腫瘤病変NHL;マントル細胞リンパ腫;AIDS関連リンパ腫;およびヴァルデンストレームマクログロブリン血症を含む);慢性リンパ球性白血病(CLL);急性リンパ芽球性白血病(ALL);毛様細胞性白血病;慢性骨髄芽球性白血病;および移植後リンパ球増殖性障害(PTLD)、ならびに母斑症に伴う腹部脈管増殖、浮腫(例えば、脳腫瘍に伴う浮腫)、およびメイグス症候群。より具体的には、本発明の抗体による処置になじみやすい癌としては、乳癌、結腸直腸癌、直腸癌、非小細胞肺癌、非ホジキンリンパ腫(NHL)、腎細胞癌、前立腺癌、肝臓癌、膵臓癌、軟部組織肉腫、カポジ肉腫、類癌腫、頭頚部癌、黒色腫、卵巣癌、中皮腫、および多発性骨髄腫が挙げられる。
腫瘍のような種々の疾患を処置するために使用される場合、本発明の抗体は、同じかもしくは同様の疾患に適した他の治療剤と組み合され得ることが企図される。癌を処置するために使用される場合、本発明の抗体は、従来の癌治療(例えば、外科手術、放射線療法、化学療法またはこれらの組み合わせ)と組み合わせて使用され得る。
特定の局面では、本発明の抗体と組み合わせた癌治療に有用な他の治療剤としては、他の抗血管新生因子が挙げられる。多くの抗血管新生因子が同定されており、そして、CarmelietおよびJain(2000)によって列挙されたものを含め、当該分野において公知である。
一局面では、本発明の抗体は、抗VEGF抗体、VEGF改変体、可溶性VEGFレセプターフラグメント、VEGFもしくはVEGFRをブロッキングし得るアプタマー、抗VEGFR中和抗体、VEFRチロシンキナーゼのインヒビターおよびこれらの任意の組み合わせのようなVEGFアンタゴニストもしくはVEGFレセプターアンタゴニストと組み合わせて使用される。あるいは、もしくは加えて、2以上の抗NRP1抗体が患者に対して同時に投与され得る。より好ましい実施形態では、本発明の抗NRP1A抗体または抗NRPB抗体は、相加もしくは相乗作用を生じるよう抗VEGF抗体と組み合わせて使用される。好ましい抗VEGF抗体としては、抗VEGF抗体A4.6.1のような同じエピトープに結合するものが挙げられる。より好ましくは、抗VEGF抗体は、ベバシツマブまたはラニビツマブ(ranibizumab)である。
いくつかの局面では、本発明の抗体と組み合わせた腫瘍治療に有用な他の治療剤としては、腫瘍の成長に関与する他の因子(例えば、EGFR、ErbB2(Her2としても公知)、ErbB3、ErbB4またはTNF)のアンタゴニストが挙げられる。好ましくは、本発明の抗NRP1抗体は、VEGFレセプター、FGFレセプター0、EGFレセプターおよびPDGFレセプターのような1以上のチロシンキナーゼレセプターを標的とする、低分子レセプターチロシンキナーゼインヒビター(RTKI)と組み合わせて使用され得る。多くの治療用低分子RTIKIが当該分野で公知であり、以下が挙げられるがこれらに限定されない:バタラニブ(vatalanib)(PTK787)、エルロチニブ(erlotinib)(TARCEVA(登録商標))、OSI−7904、ZD6474(ZACTIMA(登録商標))、ZD6126(ANG453)、ZD1839、スニチニブ(sunitinib)(SUTENT(登録商標))、セマキサニブ(semaxanib)(SU5416)、AMG706、AG013736、イマチニブ(GLEEVEC(登録商標))、MLN−518、CEP−701、PKC−412、ラパチニブ(Lapatinib)(GSK572016)、VELCADE(登録商標)、AZD2171、ソラフェニブ(sorafenib)(NEXAVAR(登録商標))、XL880およびCHIR−265。
本発明の抗Nrp抗体は、単独または第二の治療因子(例えば、抗VEGF抗体)との組み合わせのいずれでも、さらに、1以上の化学療法剤と組み合わせて使用され得る。種々の化学療法剤が本発明の組み合わせ治療法において使用され得る。企図される化学療法剤の例示的かつ非限定的なリストは、本明細書における「定義」のもとに提供される。抗Nrp抗体が第二の治療因子と同時に投与される場合、第二の治療因子が最初に投与され、その後に抗Nrp抗体が投与され得る。しかしながら、抗Nrp抗体の同時投与または抗Nrp抗体を先に投与することもまた企図される。第二の治療因子についての適切な投薬量は、以前から使用されてきたものであり、そして、この因子および抗Nrp抗体の組み合わせ作用(相乗作用)に起因して減じられ得る。
疾患の予防または処置について、抗体の適切な投薬量は、処置される疾患の型、疾患の重篤度および経過、抗体が予防目的で投与されるか、治療目的で投与されるか、以前の治療、患者の臨床上の病歴および抗体に対する応答性、ならびに、主治医の裁量に依存する。抗体は、一度に、または、一連の処置の間中、適切に投与される。
疾患の型および重篤度に依存して、例えば、1以上の別々の投与によるものであれ、連続注入によるものであれ、約1μg/kg〜50mg/kg(例えば、0.1〜20mg/kg)の抗体が患者への投与のための最初の候補投薬量である。代表的な一日の投薬量は、上述のような要因に依存して、約1μg/kg〜約100mg/kg以上の範囲であり得る。状態に依存した数日以上にわたる反復投与については、処置は、疾患症状の所望される抑制が生じるまで持続される。しかしながら、他の投薬レジメンが有用であり得る。好ましい局面では、本発明の抗体は、2〜3週間毎に、約5mg/kg〜約15mg/kgの範囲の用量で投与される。より好ましくは、このような投薬レジメンは、転移性の結腸直腸癌を処置するための最良の治療として、化学療法レジメンと組み合わせて使用される。いくつかの局面では、化学療法レジメンは、伝統的な高用量での断続的な投与を伴う。いくつかの他の局面では、化学療法剤は、計画された中断(「規則正しい化学療法」)を伴うことなく、より少量かつ高頻度の用量を用いて投与される。本発明の治療の進捗は、簡便な技術およびアッセイによって容易にモニタリングされる。
抗体組成物は、GMP(優良医療規範:good medical practice)と矛盾しない様式で処方、投薬および投与される。この文脈において考慮すべき要因としては、処置される特定の障害、処置される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、因子の送達部位、投与方法、投与計画、および医療専門家に公知の他の要因が挙げられる。投与されるべき抗体の「治療有効量」は、このような考慮点によって支配される、疾患もしくは障害を予防、緩和もしくは処置するために必要な最低の量である。抗体は、必ずしもそうある必要はないが、必要に応じて、問題となっている障害を予防もしくは処置するために現在使用されている1以上の因子と共に処方される。このような他の因子の有効量は、処方物中に存在する抗体の量、障害もしくは処置の型、および上述のような他の要因に依存する。これらは一般に、本明細書において先に使用してきたものと同じ投薬量および投与経路で、または、本明細書において先に用いてきた投薬量の約1〜99%の量で使用される。一般に、疾患もしくは障害の軽減もしくは処置は、疾患もしくは障害に伴う1以上の症状もしくは医学上の問題を減じることを包含する。癌の場合、薬物の治療有効量は、以下のうちの1つまたは組み合わせを達成し得る:癌細胞数の減少;腫瘍サイズの縮小;末梢器官への癌細胞浸潤の阻害(すなわち、ある程度までの減少および/または停止);腫瘍転移の阻害;ある程度までの腫瘍成長の阻害;および/または、癌に伴う1以上の症状のある程度までの緩和。薬物が既存の癌細胞の成長を防止し、そして/または、殺傷し得る限り、薬物は細胞増殖抑制性および/または細胞傷害性であり得る。いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、被験体または哺乳動物における疾患または障害の発症または再発を防止するために使用され得る。
以下の実施例は、単に本発明の実施を例示するために意図されるものであり、限定するものとして提供されるものではない。本明細書中で援用される全ての特許および科学文献の開示は、明示的にその全体が参考として援用される。
(実施例1 抗Nrp2B抗体の作製および特徴付け)
抗Nrp2Bを、先に記載されたように、ヒト合成抗体ファージライブラリーから単離した(Lee et al.,J Mol Biol 340,1073−1093 (2004))。簡単に述べると、重鎖相補性決定領域(CDR)内の溶媒に曝露される位置に合成的に多様性を導入することによって、単一のヒトフレームワークに対してファージディスプレイ合成抗体ライブラリーを構築した。ライブラリーの性能を高めるために、一価および二価の抗原結合フラグメント(Fab)ライブラリーを構築し、そして、アミノ酸組成およびCDRの長さを変化させることによって、多様なCDR−H3の多様性を探究した。次に、このライブラリーを、CDR−H3の長さの多様性を増やし、そして、天然に存在するCDR−H3配列のアミノ酸組成を模倣するように合わせたコドンを用いることによって拡大した。完全に合成のCDRが単一の足場上にディスプレイされるこれらのライブラリーを用いて、高親和性の抗体を生成した。単一の鋳型を用いた合成抗体ライブラリーの作製のための戦略および方法のさらなる詳細については、例えば、2003年12月11日に公開されたWO03/102157(この全開示は明示的に本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。
抗Nrpクローンについての選択手順は、当該分野で公知の固体により支持された選別(solid−supported sorting)および溶液−結合による選別(solution−binding sorting)の種々の組み合わせから構成された。固体により支持された選別では、抗体ファージライブラリーは、5μg/mlの濃度で、NUNC 96ウェルMaxisorp免疫プレート上にコーティングした標的抗原を用いてパニングした。溶液−結合による選別法では、ファージライブラリーを、減少する溶液中のビオチン化抗原の濃度と共にインキュベートし、次いで、96ウェルMaxisorpプレート上にコーティングしたノイトラビジン(neutravidin)(2〜5μg/ml)により捕捉させた。減少する濃度は、よりしっかりとした結合剤を探し出すためのパニングにおいてより高いストリンジェンシーを可能にした。
固体により支持された選別と溶液−結合による選別とを組み合わせた結果、VHライブラリーからの1つのクローン(YW68.4)と、VHVLライブラリーからの別のクローン(YW126.20)を、NRP−2結合剤として同定した。結合親和性アッセイ(例えば、BIAcore)およびブロッキングアッセイ(例えば、セマフォリン誘導性成長円錐崩壊アッセイおよびHUVECアッセイ)を含む一連のインビトロアッセイを行って、選択した新規抗NRP抗体の特性および活性を調べた。
ナイーブなクローンのCDRを加工して、その親和性および安定性を高め、抗Nrp2抗体YW68.4.2およびYW68.4.2.36を作製した。mNrp2(a1a2b1b2)−His、hNrp2(a1a2b1b2)−Fc融合タンパク質を発現したCHO細胞と、hNrp2(b1b2)を発現した昆虫細胞を、抗体のスクリーニングおよび特徴付けに使用した。抗Nrp2Bファージ抗体(最初にYW68.4.2.36と命名)のVL領域およびVH領域を、それぞれ、哺乳動物発現ベクター中にクローニングした。抗Nrp2BヒトIgG1またはmIgG2aを哺乳動物CHO細胞中で発現させ、そして、プロテインAアフィニティカラムで精製した。
抗Nrp2B抗体YW68.4.2およびYW68.4.2.36のアミノ酸配列は図10に示される。抗Nrp2A抗体YW126.20のアミノ酸配列は図11に示される。抗Nrp2A抗体YW126.20の軽鎖可変ドメインと、ヒトκ1配列とのアラインメントが図12に示される。抗Nrp2A抗体YW126.20の重鎖可変ドメインと、ヒトIII(hum III)配列とのアラインメントが図13に示される。
以下の実施例では、抗Nrp2B抗体YW68.4.2.36(以後、<<抗Nrp2B>>と称する)を用いた。この抗体は、Nrp2の第V/VII凝固因子(b1−b2)ドメイン(図1A)に対して標的化されたものである。なぜなら、これらのドメインは、ニューロピリンへのVEGFC結合に必要とされるからである(Karpanen et al.,Faseb J 20,1462−1472(2006))。さらに、この抗体は、マウスおよびヒトのNrp2に対して同様の親和性で結合するが、Nrp1には結合しない(図1B)。抗Nrp2Bは、もっぱらb1−b2ドメインに結合し、セマフォリン結合を主として担うヒトNrp2のCUB(a1−a2)ドメインには結合しないことが確認されている(Chen et al.,Neuron 21,1283−1290(1998);Giger et al.,Neuron 21,1079−1092(1998))。
抗Nrp2B IgG1抗体の結合親和性を決定するために、BIAcoreTM−3000機器を用いた表面プラズモン共鳴(SRP)測定を用いた。まず、抗Nrp2BヒトIgGをウサギ抗ヒトIgGでコーティングしたCM5バイオセンサーチップで捕捉させ、約200の応答単位(RU)を達成した。動力学測定については、マウスまたはヒトのNrp2(a1a2b1b2)(0.5nM〜250nM)の2倍段階希釈を、30μl/分の流速で、25℃にて、PBT緩衝液(PBS+0.05%(v/v)Tween 20)中で別々に注入した。単純な1対1対応のLangmuir結合モデル(BIAcore Evaluation Softwareバージョン3.2)を用いて、結合速度(kon)および解離速度(koff)を算出した。比koff/konとして平衡解離定数(KD)を算出した。
表面プラズモン共鳴測定により推定したところ、抗Nrp2Bは、4.9nMのKdでマウスNrpに、そして、5.3nMのKdでヒトNrp2に結合する。
ELISA形式および細胞ベースの結合アッセイの両方においてNrp2に対するVEGFCの結合をブロックする抗Nrp2Bの能力を検討した。
ELISAベースの結合特異性試験では、PBST(PBT緩衝液+0.5%(w/v)BSA)中の抗Nrp2B IgGの3倍段階希釈物(0.002nM〜500nM)を、1μg/mlの抗原でコーティングした96ウェルMaxisorpプレートと共に少なくとも1時間インキュベートし、そして、このプレートをPBTで洗浄した。結合した抗体を、PBST緩衝液中1:2500希釈した抗ヒト抗体HRP結合体で検出し、TMB基質で約5分間発色させ、1M H3PO4でクエンチし、そして、450nmにおいて分光側光器で読み取った。
VEGF結合からのNrp2のブロッキングを評価するために、抗Nrp2B IgGの3倍段階希釈物をまず、PBST緩衝液中、NRP2−Fc(5μg/ml)でコーティングした96ウェルMaxisorpプレートと共に少なくとも2時間インキュベートし、その後、ビオチン化したVEGF165またはVEGFC(全長)を15分間加えた。ストレプトアビジン−HRP結合体によって、Nrp2に結合したビオチン化VEGFの量を検出した。
細胞への結合を評価するため、先に記載されたように、LECに対するビオチン化したVEGF165またはVEGFCの結合を行い(Jia et al.,J Biol Chem 281,13493−13502(2006))、そして、ストレプトアビジン−アルカリホスファターゼ結合体によって結合を検出した。Sema3Fの結合を、先に記載されたようにして行った(Chen et al.,1998,上掲)。
抗Nrp2Bは、Nrp2(図1C)、そして、全長Nrp2でトランスフェクトしたHEK−293細胞に対するVEGFCの結合を強くブロックした。Nrp2はまた、おそらく同じドメインを利用してVEGFにも結合し得る(Gluzman−Poltorak et al.,J Biol Chem 275,29922(2000))ので、Nrp2に対するVEGF165の結合をブロックする抗Nrp2Bの能力もまた検討した。抗Nrp2Bはまた、同様のIC50(0.1nM)にて、Nrp2に対するVEGF165の結合を強くブロックする(図1D)。しかしながら、抗Nrp2BはNrp2を強力に発現する(追加図1)LECに対するSema3Fの結合をブロックできなかった(図1E)。これらの結果は、a1−a2ドメインがセマフォリン結合を主として担い、そして、b1−b2ドメインがVEGF結合を主として担う(図1A)という先の観察と一致している。
(実施例2 抗Nrp2Bはインビトロで選択的なVEGFCにより媒介される機能をブロックする)
(材料および方法)
(細胞培養)
HMVEC−dLyAd − ヒト皮膚微小リンパ管内皮細胞(LEC)およびHUVECはCambrexから購入し、そして、EGM−2培地(Cambrex)中で培養した。C6 LacZ細胞はATCCから購入した。66C14は、親切にFred R Miller博士からご提供いただいた。腫瘍細胞は、10% FBSを補充したDMEM(Gibco)中で培養した。全ての細胞を、5% CO2、湿度95%のインキュベーターにおいて37℃に維持した。
(細胞増殖アッセイ)
96ウェルの黒−透明底プレート(VWR)を、37℃にて2時間、5μg/mlのフィブロネクチン(Invitrogen)でコーティングした。LECを回収し、アッセイ培地(0.1% BSA、EGM−2)中に3000細胞/100μlで再懸濁させ、ウェルに加えた。細胞を37℃にて16時間インキュベートした。BrdU標識溶液(Cell Proliferation ELISAキット;Roche)を加え、そして、細胞を37℃にてさらに24時間インキュベートした。BrdUの取り込みを、化学発光免疫アッセイによって決定した(各条件につき6ウェル)。
(結果)
VEGFCにより媒介される遊走および増殖に対するNrp2の役割を検討した。これらは、VEGFCによって誘導される重要な細胞の活動である(Joukov et al.,Embo J 16,3898−3911(1997))。LECは、以前に、VEGFCに対して高度に応答性であることが示されている(Makinen et al.,Embo J 20,4762−4773(2001);Veikkola et al.,Faseb 17,2006−2013(2003);Whitehurst et al.,Lymphat Res Biol 4,119−142(2006))。トランスウェルシステム(transwell system)を用い、ヒトLECを上部チャンバに導入する一方で、VEGFCを底部チャンバに加え、遊走を促進した。その後、底部に遊走したLECを固定し、染色し(図2A)、そして、定量した(図2B)。VEGFR3の最初の3つの(リガンド結合)Igドメインを含むVEGFR3細胞外ドメインタンパク質(ECD)を、この実験および続く実験におけるVEGFCにより駆動される遊走のブロックについてのポジティブコントロールとして用いた(Makinen et al.,Nat Med 7,199−205(2001))。Nrp2の機能がLECの遊走に必要とされたかどうかを決定するために、VEGFCを加える直前に、上部チャンバ内の細胞に抗Nrp2B mAbを加えた。抗Nrp2Bは、VEGFCにより媒介されるLECの遊走を有意に低下させ得た(図2A、2B;p=0.004)。阻害レベルは、VEGFCにより媒介されるLECの遊走を完全に阻害したVEGFR3 ECDで見られたものよりも少なかった(図2A、2B;コントロールに対してp<0.001;抗Nrp2Bに対してp=0.002)。別のVEGFC応答性原発性細胞株であるHUVECを用いた場合も同様の結果が得られた。
抗Nrp2BはまたNrp2に対するVEGF165の結合もブロックするので、VEGF165により媒介される遊走の調節におけるNrp2の役割を評価した。VEGF165は、以前に記載されたように、LECにおける遊走を強く誘導した(Hirakawa et al.,Am J Pathol 162,575−586(203);Hong et al.,Faseb J 18,1111−1113(2004);Makinen et al.,Embo J 20,4762−4773(2001);Veikkola et al.,Faseb J 17,2006−2013(2003))。交差種反応性の抗VEGF抗体(B20.4.1)をVEGFにより駆動される遊走のブロックについてのポジティブコントロールとして用いた(Liang et al.,J Biol Chem 281,951−961(2006))。興味深いことに、抗Nrp2Bは、VEGF165により媒介される遊走に対して何ら影響を有さなかった(図2C)。これはおそらく、Nrp1の存在に起因するものである(追加図1)。抗Nrp1 mAbである抗Nrp1B(Pan et al.,Cancer Cell 11,53−67(2007))を利用したNrp1機能のブロッキングは、VEGFにより媒介される遊走を劇的に低下させ、この仮説を裏づけた(追加図2)。抗Nrp1Bおよび抗Nrp2Bの両方を加えても、抗Nrp1B単独で見られた阻害と比較して任意のさらなる阻害を生じず(追加図2)、Nrp2がVEGF165により媒介される遊走において役割を担っていないことが示された。
次に、VEGFCにより誘導されるLEC増殖に対する抗Nrp2Bの効果を調べた。顕著なことに、抗Nrp2Bは、LEC増殖に対して効果がなかったのに対し、VEGFR3 ECDは強いブロックを提供した(追加図3)。これは、Nrp2 siRNAがVEGFCにより誘導される内皮細胞の増殖を阻害できなかったという以前の報告と一致している(Favier et al.,Blood 108,1243−1250(2006))。したがって、Nrp2は、VEGFCにより駆動される遊走には重要であるが、増殖には重要でないようである。
その後、抗Nrp2Bがセマフォリン機能を調節する能力について検討した。本発明者らは、海馬のニューロン成長円錐崩壊アッセイを用いた。このアッセイは、Nrp2がアクチンリッチな構造のSema3Fにより媒介される収縮に必要とされることを以前に実証したものである(Pozas et al.,2001)。抗Nrp2Bの添加は、セマフォリンにより誘導される崩壊に対して何ら効果がなかったが、組換えNrp2 A1A2ドメインまたはNrp2 ECDのいずれかの添加は、この崩壊を完全に阻害した(追加図4)。この結果は、抗Nrp2Bがセマフォリン結合領域に結合せず、そして、Nrp2へのSema3Fの結合と干渉しないという本発明者らによる以前の観察と一致している。したがって、抗Nrp2Bは、Nrp2機能の特定の局面をブロックするように機能し、VEGFCにより媒介される細胞応答は阻害するが、VEGFまたはSema3Fにより媒介される細胞応答は阻害しない。
(実施例3 抗Nrp2BはインビボでVEGFCにより媒介されるリンパ管形成をブロックする)
(材料および方法)
(マウス角膜マイクロポケットアッセイ)
先に記載されたように、成体CD−1マウス(Charles−River)に麻酔をかけ、微小切開によって、上皮内に角膜の中心から1mmの場所に2×3mmのポケットを作製した(Polverini et al.,Methods Enzymol 198,440−450(1991))。リンパ管形成活性について試験する因子を不活性なヒドロン(hydron)ペレット(2×2mm)内に固定した。続いて、このペレットをポケットの底に埋め込んだ。動物を、2週間にわたって週2回、コントロール抗体(10mg/kg)、抗Nrp2B(10mg/kg)またはVEGFR3 ECD(25mg/kg)のIP処置を施した。続いて、動物を屠殺し、角膜を切開した。抗LYVE−1抗体(R&D Systems 1:500)を用いたホールマウントIHCによってリンパ管を可視化した。角膜を撮像し、そして、縁から生じているLYVE−1陽性のリンパ管を定量した。
(マウスの皮膚血管透過性アッセイ)
成体C57BL6J雌性マウスの背部および側腹部を悌毛し、4つの処置領域に区分した。続いて、これらに、150μl 0.5%のエバンスブルー溶液をi.v.注射した。エバンスブルー溶液の注射から1時間後に、抗体(0.5mg/ml)を含むかまたは含まない、BSAまたはhVEGF(7.5μg/ml)を含有する20μlのPBSを、4つのゾーンのうちの1つに無作為に皮内注射した。1時間後、動物を屠殺し、皮膚を切開し、そして画像化した。各注射ゾーンについての皮膚サンプルを切り出し、そして、55℃にて48時間ホルムアミド溶液中でインキュベートして、青色の色素を抽出下。続いて、600nmにてこの溶液の吸光度を分光光度計で測定した。
(結果)
インビトロでNrp2をブロッキングすることによって、LEC遊走の有意な低下が観察されたので、次に、Nrp2がインビボにおけるVEGFC機能の調節に必要とされるかどうかを検討した。本発明者らは、2つの十分に特徴付けられたVEGFCにより媒介されるインビボ活性−−リンパ管新生および血管透過性について検討した(Cao et al.,Circ Res 94,664−670(2004);Joukov et al.,J Biol Chem 273,6599−6602(1998);Kubo et al.,Proc Natl Acad Sci USA 99,8868−8873(2002);Saaristo et al.,Faseb J 16,1041−1049(2002))。リンパ管新生について検討するために、マウス角膜マイクロポケットアッセイ(Kubo et al.,2002,上掲)を利用した。このアッセイでは、VEGFCのペレットを成体マウスの血管のない角膜に導入した。14日間にわたり、VEGFCに応答して、リンパ管の密集した叢が縁から角膜内へと成長した(図2E;VEGFC処置で12,000ピクセル2であったのに対し、コントロールでは2284ピクセル2)。これらの脈管を、LYVE−1免疫組織化学(IHC)で標識し、その後定量した(図2D)。VEGFR3 ECDの全身投与は、このVEGFCにより誘導されるリンパ管新生をほぼ完全にブロックした(2671ピクセル2;p<0.001)。抗Nrp2Bはまた、角膜のリンパ管形成応答も効率的にブロックした(3281ピクセル2;p<0.001)。このブロックは、VEGFR3 ECDを用いて観察されたブロックの程度と同様であった(図2E、2D;p=0.67)。
血管透過性を評価するために、Milesアッセイ(Brkovic and Sirois,J Cell Biochem 100,727−37(2007);Eriksson et al.,Circulation 107,532−1538(2003))を用いた。このアッセイは、血管透過性を誘導するためにVEGFCの皮内注射を、そして、皮膚の脈管における透過性を検出および定量するためにトレーサとしてエバンスブルーの脈管内注射を用いる(追加図3)。顕著なことに、VEGFR3 ECD処置で観察されたブロックとは対照的に、抗Nrp2Bでの処置は、VEGFCにより誘導された透過性に対して効果がなかった(p=0.038)。これらの結果は、本発明者らによるインビトロでの観察と一致して、Nrp2がインビボでもVEGFCにより媒介される選択的な機能に重要であるようであることを実証する。
(実施例4 抗Nrp2Bは、Nrp2/VEGFレセプター複合体の形成を阻害することによってVEGFC機能を調節する)
(材料および方法)
(細胞遊走アッセイ)
改変したBoydenチャンバを8μMポアサイズのFalcon 24−マルチウェルインサートシステム(BD Biosciences)と共に用いて遊走アッセイを行った。プレートを、37℃にて2時間、5μg/mlのフィブロネクチン(Invitrogen)でコーティングした。100μlのアッセイ培地(0.1% GSA、EGM−2)中の細胞を、抗体有り/無しで底部チャンバに加えた。化学遊走物質を500μlアッセイ培地中、底部チャンバに加え、そして、細胞を37℃にて16時間インキュベートした。上部メンブレン上の細胞をスポンジスワブで除き、そして、底部表面上の細胞を70%エタノール中で固定し、Sytoxグリーン(Molecular Probes)で染色した。ウェルの全底部表面から像を撮り、そして、遊走した細胞の数をカウントした。(各条件につき6ウェル)。
(FACS解析)
コンフルエントなLECを、コントロールまたは抗Nrp2B抗体(10μg/ml)と共に、37℃にて5分間、2時間または20時間インキュベートした。細胞を、酵素を含まない細胞分離バッファー(Gibco)を用いて回収し、そして、5%正常マウス血清、2%正常ラット血清および10% 10μg/mlヒトIgGを含有するFACSバッファー(PBS、2% FBS、2mM EDTA、0.1%アジ化ナトリウム)中1:100のビオチニル化抗体と共にインキュベートした。FluoReporterミニ−ビオチン−xxタンパク質標識キット(Molecular Probes)を用いて抗体をビオチン化した。次いで、細胞をFACSバッファーで洗浄し、そして、ストレプトアビジン−PE(BD Biosciences)で染色した。データはFacsCaliburシステム(BD Biosciences)を用いて解析した。
(細胞接着アッセイ)
サブコンフルエントなLECをコントロールまたは抗Nrp2B抗体(10μg/ml)と共に、100μlのMedium 199中、37℃にて30分間プレインキュベートし、次いで、1μg/mlのフィブロネクチン(Roche)でコーティングしたNUNC maxisorp平底96ウェルプレート(eBioscience)中に1ウェルあたり10,000細胞でプレーティングした。プレートを140gで1分間遠心分離して、基質との細胞の接触を同調させ、37℃にて30分間インキュベートした。次いで、プレートをPBSで3回洗浄し、そして−80℃にて凍結させた。細胞密度をCyQuantキット(Molecular Probes)を用いて決定した。
(VEGFレセプターシグナル伝達アッセイ)
コンフルエントなHUVECを、コントロールまたは抗Nrp2B抗体の存在下もしくは非存在下、200ng/mlのVEGFCで10分間刺激した。細胞を溶解させ、そして、VEGFレセプターのシグナル伝達における役割を担うことが知られる多くのメディエーターについてアッセイした。総VEGFR2およびホスホ−VEGFR2のELISAアッセイ(DuoSet IC ELISAキット,R&D)を用いてVEGFR2の活性化を評価した。以前に記載されたように、VEGFR3−293細胞株と共にキナーゼレセプター活性化アッセイ(KIRA)を用いてVEGFR3の活性化を評価した(Sadick et al.,J Pharm Biomed Anal 19,883−891(1999))。簡単に述べると、全長Flagをタグ化されたヒトhVEGFR3を発現する安定な293細胞株を、刺激後のレセプターリン酸化についてアッセイした。5×104細胞を一晩栄養枯渇状態にし(DMEM+0.1% BSA)、次いで、40ng/ml VEGFA(Genentech South San Francisco,CA)または200ng/ml VEGFC(Genentech South San Francisco,CA)で8分間刺激した。細胞を1%トリトンおよびオルトバナジン酸ナトリウムを含有するPBS中で溶解させた。ELISAプレートを捕捉Flag抗体(Sigma St Louis,MO)でコーティングした。このプレートを一晩コーティングし(PBS+1μg/mlの抗体)、そして1時間ブロッキングした(PBS+0.5% BSA)。3回の洗浄の後(PBS+0.05% Tween 20)、溶解物を2時間加え、3回洗浄し、その後、リン酸検出抗体4G10(Upstate Lake Placed,NY)を2時間加えた。検出は、HRP抗体(Amersham Piscataway,NJ)およびTMB基質を用いて行った。プレートを450nmにて読み取った。BioSource製のサンドイッチELISAキットを用いて総AKT、ホスホ−AKT、総Erk1/2、ホスホ−Erk1/2、総Src、ホスホ−Src、総p38 MAPKおよびホスホ−p38 MAPKを評価した。
(結果)
抗Nrp2BがVEGFCの作用を妨害するという知見は、抗Nrp2BがNrp2へのVEGFCの結合をブロックするという事実と一致した。さらに、抗Nrp2Bがインビトロおよびインビボの両方で選択的な機能のみをブロックするという事実は、大いに予想外であった。LECの遊走およびリンパ管新生の中断は観察されたものの、LECの増殖または血管透過性は観察されなかったことの1つの可能性のある説明は、抗Nrp2Bが、一般に、おそらくはLECの細胞外マトリクスへの接着を途絶させることによって、遊走を阻害し得るというものである。これを検討するため、多数のLECマイトジェンにより誘導される遊走に対する抗Nrp2Bの作用を評価した。抗Nrp2BはVEGF(図2C)、HGF(図3B)またはFGFにより誘導された遊走に対しいかなる作用も有さなかった。したがって、抗Nrp2Bは一般にLECの遊走を途絶さえなかった。さらに、抗Nrp2Bは、2つの細胞外マトリクス基質であるフィブロネクチンまたはコラーゲンに対するLECの接着に対してもいかなる作用も有さなかった。
第二の可能性は、抗Nrp2BmAbがNrp2の内在化を引き起こし得るというものである(Jaramillo et al.,Exp Cell Res 312,2778−2790(2006))。Nrp2はリガンドの非存在下でさえVEGFR3と複合体を形成するので(Favier et al.,2006,上掲;KarkkainenおよびAlitalo,Semin Cell Dev Biol 13,9−18(2002))、これは、VEGFCにより媒介される特定の機能に影響を及ぼす、VEGFR3の選択的な同時内在化をもたらし得る。この可能性はさらに、VEGFCにより駆動される血管透過性がVEGFR2によって媒介されるがVEGFR3によっては媒介されないという知見によっても確認された(Joukov et al.,1998,上掲)。この可能性を検討するため、LECを抗Nrp2Bと共に37℃にて5分間、2時間または20時間インキュベートし、次いで、Nrp2、VEGFR2およびVEGFR3に対する抗体を用いたFACS解析を行って、細胞表面上のレセプターレベルを決定した。処理間に差は見られず、抗Nrp2BはNrp2、VEGFR2またはVEGFR3の有意な内在化を引き起こさなかったことが示唆された(図3A)。
Nrp2はVEGFレセプターシグナル伝達を増大させるものと提唱されているので(Favier et al.,2006,上掲)、次に、VEGFCの刺激により、レセプターの二量体化および自己リン酸化をもたらす、VEGFR2およびVEGFR3の活性化に対する抗Nrp2Bの作用を検討した。先のインビトロおよびインビボでのデータと一致して、VEGFR3 ECDは、VEGFCにより媒介されるVEGFR2(図3C;p<0.001)およびVEGFR3のリン酸化を完全にブロックした。抗Nrp2B処理は、VEGFR2(図3C;p<0.001)およびVEGFR3の活性化の低減をもたらしたが、その程度はVEGFR3 ECD処理よりも有意に低いものであった(p<0.001)。この観察は、抗Nrp2Bの選択的な阻害活性が、遊走と増殖のためのVEGFレセプター活性化の示差的な要件の結果であり得、遊走は、増殖よりも高いレベルのレセプター活性化を必要とするという可能性を提起した。この可能性を検討するため、VEGFC刺激に対するVEGFR2リン酸化の用量応答を評価した(図3C)。抗Nrp2B処理によって引き起こされるVEGFR2リン酸化の低減が、175ng/mlまたは150ng/mlのVEGFCでの刺激によって得られたVEGFR2リン酸化と同等であったことが一貫して観察された。次に、VEGFC刺激に対する遊走の用量応答解析を行った(図3D)。175ng/mlまたは150ng/mlのVEGFCで刺激されたLECは、200ng/mlのVEGFCで刺激された細胞と同等に遊走したことが注目される。実際、遊走における有意な低減は、VEGFCレベルが50ng/mlに減少するまでは観察されなかった。したがって、本発明者らは、抗Nrp2Bにより誘導されるVEGFR2リン酸化の低減は、それ自体では、遊走を低減させるには不十分であったと結論付けた。
本発明者らはさらに、VEGFレセプターにより媒介される下流のシグナル伝達事象に対する抗Nrp2Bの作用を評価した。抗Nrp2Bでの処理または175ng/mlまたは150ng/mlのVEGFCでの刺激は、Nrp1の場合に観察されたもの(Pan et al.,2007)と同様に、Erk1/2、Aktまたはp38 MAPK(それぞれ、VEGFR2により媒介される増殖、透過性および運動性を調節する)の活性化を有意には低減しなかった。このことは、Nrp2がVEGFレセプターの活性化または下流のシグナル伝達の増強以外の機構によってLECの遊走およびリンパ管新生を調節し得ることを示した。
最後に、本発明者らは、Nrp2/VEGFレセプター複合体形成に対する抗Nrp2Bの作用を検討した。先に報告されたように、Nrp2は、VEGFCの存在下もしくは非存在下で、VEGFR2およびVEGFR3により同時に免疫沈降され得る(Favier et al.,2006上掲;Karpanen et al.,2006,上掲)(図3E)。この相互作用は、抗Nrp2Bによって劇的に低減された(図3E)。この結果は、Nrp2/VEGFレセプター複合体が、VEGFCにより媒介される特定の機能にとって重要であることを示唆する。さらに、Nrp2の役割は、もっぱらリガンド刺激に応答したVEGFレセプターのシグナル伝達を増強するものではない。
(実施例5 Nrp2は腫瘍関連のリンパ管において発現される)
(材料および方法)
(免疫組織化学)
18μmの組織切片を切断し、そして、ガラススライド上にマウントした。切片を一次抗体(抗Nrp2B(その発現が十分に特徴付けられたE12.5マウスの脊髄において行った1:500のコントロール染色)、抗LYVE−1(R&D、1:200)、抗PECAM−1(Benton Dickinson、1:500)、抗PROX−1(Chemicon、1:1000)またはKi67(Neovision、1:100))と共に4℃にて一晩インキュベートした。次いで、サンプルを、Alexa 488またはAlexa 568二次抗体(1:200;Molecular Probes)を用いて室温にて4時間染色した。二次抗体のみの染色をコントロールとして用いた。市販のキット(Roche)を用いてTUNNEL染色を行った。Zeiss Axiophot蛍光顕微鏡を用いて撮像した。各群6つの腫瘍の各々からの6つの像から血管およびリンパ管の領域を決定し、ImageJによって平均ピクセル数について評価した。
(結果)
Nrp2が成体のリンパ管生物学において役割を担うかどうかを決定するために、成体のリンパ管におけるNrp2の発現を評価した。脈管系では、Nrp2の発現は、これまでに、静脈およびリンパ管において記載されている(Herzog et al.,Mech Dev 109,115−119(2001);Moyon et al.,Development 128,3359−3370(2001);Yuan et al.,Development 129,4797−4806(2002))。上述のように、培養中のLECはNrp2を強く発現する(追加図1)。しかしながら、本発明者らは、正常な成体マウスの結腸LYVE−1陽性リンパ管におけるIHCによってNrp2を検出することができなかった(図4A;ポジティブコントロールの染色については追加図4を参照のこと)。結腸は、かなり型にはまった様式のリンパ管の豊かな叢を有するので、結腸を評価した。本発明者らはまた、正常な成体マウスからのリンパ節(図4B)および皮膚のリンパ管におけるIHCによってもNrp2の発現を検出することができなかった。これらの結果は、Nrp2インサイチュハイブリダイゼーション(ISH)によって確認された。対照的に、同所移植もしくは異所移植した腫瘍に隣接するリンパ節におけるLYVE−1+リンパ管において、強いNrp2の発現が観察された(図4C)。これは、同所移植されたマウス乳腺癌株66c14(AslaksonおよびMiller,Cancer Res 52,1399−1405(1992))および異所移植されたラット神経膠芽細胞腫株C6(データ示さず)を含む多数の腫瘍株で観察された。Nrp2はまた、66c14、C6およびPC3(ヒト前立腺癌腫株)を含む多数の腫瘍株について、腫瘍周囲および腫瘍内のリンパ節においても観察された(図4D)。この発現は、腫瘍型の一部におけるISHによって確認された。
(実施例6 抗Nrp2Bは複数の腫瘍モデルにおける肺転移を低減する)
(材料および方法)
全ての動物研究は、NIHによって出版されたGuide for the Care and Use of Laboratory Animals(NIH Publication 85−23,1985改訂)に従った。Institutional Animal Care and Use Committee(IACUC)は全ての動物実験プロトコールを承認した。
(腫瘍モデル)
66c14については、トリプシン処理により細胞を回収し、洗浄し、10μlのPBS中2×105細胞の濃度でPBS中に再懸濁させた。75mg/kgのケタミンおよび7.5mg/kgのキシラジンを用いてマウスに麻酔をかけ、そして、右前肢の下部に切開を設けた。10μl PBS中の2×105細胞を6〜8週齢の雌性balb−Cマウスの露出された第4乳房脂肪体に直接注射した。C6については、100μl PBS中の2×106腫瘍細胞を6〜8週齢の雌性balb−Cヌードマウスの右側腹部に皮下注射した。両方の研究セットについて、腫瘍成長を週3回モニタリングした。腫瘍が80〜120mm3の平均サイズに達すると、マウスをほぼ同一な群平均腫瘍サイズを与えるように選別し、処置を開始した。これを、各研究についての1日目とみなした。動物を、研究終了まで、コントロール抗体(10mg/kg)、抗Nrp2B(10mg/kg)またはVEGFR3 ECD(25mg/kg)で週2回IPにより処置した。全ての研究は3回繰り返し、再現性を確保した。
研究の終了時に、動物に麻酔をかけ、4%PFAで灌流した。腫瘍を摘出し、凍結保護処理し、そして、OCT(Tissue−Tek)中で凍結させた。10mlのPBS、その後4% PFAでの右心室灌流により肺を膨張させ、マイクロ−CT解析の前に、転移性病巣の視覚によるカウントを行った。
耳内へのC6腫瘍細胞の異所移植によりSLN転移を評価した。簡単に述べると、動物のコホートを、腫瘍細胞移植の1日前、そして、その後週2回、コントロール抗体(10mg/kg)または抗Nrp2B(10mg/kg)で予備処置した。1×105のC6 lacZ細胞を70匹の雌性balb/cヌードマウスの耳内に皮下注射した。マウスを3日目、6日目、9日目、13日目および15日目に屠殺し、皮内リンパ管造影法によってセンチネルリンパ節を同定し、その後切開して摘出した。リンパ節をホモジェナイズし、そして、溶解物をβ−ガラクトシダーゼ活性についてアッセイした(Pierce)。
以下のようにして、コントロールおよび腫瘍担持マウスに対して皮内リンパ管造影法を行った。1% 20nmポリスチレン蛍光マイクロビーズ(Molecular Probes)を含有する2μlのエバンスブルー色素(3重量%)を、腫瘍の先端に皮内注射した。動物を2時間回復させ、次いで屠殺した。腫瘍周辺組織を含めないよう注意して腫瘍を切開して摘出した。これらに対して、固定して次いで組織化学的に解析するか、または、ホルムアミド中でインキュベートしてエバンスブルーを抽出し、分光光度計によるOD600測定を用いて定量するかのいずれかを行った。
(肺のマイクロ−CT解析)
肺を10% NBF中に24時間含浸させ、その後、ヨウ素ベースのX線コンピュータ断層撮影用造影剤であるIsovue370(Bracco Diagnostics Inc,Princeton,NJ)をPBSで希釈した20%溶液中に24時間含浸させた。次いで、肺を20mlの大豆油(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)を含む気管カニューレ中に含浸させ、そして、0.25ml/分の速度で灌流させた。大豆油を用いて過剰な造影剤を除き、そして、造影のためのバックグラウンド媒体を提供した。
マウスの肺を、VivaCT(SCANCO Medical,Basserdorf,Switzerland)X線マイクロコンピュータ断層撮影(マイクロ−CT)システムを用いてエキソビボで造影した。従来の平面X線に似た矢状スカウト像を得て、一連のマイクロ−CT断像の軸位取得の開始点と終了点を規定した。肺の全範囲を提供するよう軸位像の位置および数を選択した。肺をバックグラウンド媒体として大豆油中に含浸させた。45kVのエネルギーレベル、160μAの電流および450ミリ秒の集積時間でX線管を操作することによりマイクロ−CT像を生成した。軸位像は、21μmの等方性解像度にて得た。熟練した読み手による目視の工程を含む半自動画像解析アルゴリズムにより肺腫瘍の推定値(数および容積)を得た。肺腫瘍は、正常な肺の多孔性のメッシュ様構造に対して、非常にコントラストが強い充実塊として見える。これは、肺に含まれる充実構造(気管支および肺胞壁、腫瘍、気管、縦隔(medial steinum))によるヨウ素造影剤の吸収に起因するものである。過剰の造影剤は油による灌流工程によって満たされた空間から清浄した。潜在的な腫瘍塊を、一連の画像処理工程により抽出した。画像解析ソフトウェアは、社内で開発した。このソフトウェアは、C++で書かれ、そして、Analyze(AnalyzeDirect Inc.,Lenexa,KS,USA)画像解析ソフトウェア機能ライブラリーを採用した。このアルゴリズムは、あらゆる潜在的な腫瘍塊を抽出するために、強度閾値、形態的フィルタリングおよび領域拡張を用いた。強度閾値(1480 Hounsfield Units)は、アルゴリズムの開発に用いられた5つの任意の肺のヒストグラム解析によって決定し、そして、腫瘍のボクセル(voxel)を含め、あらゆるバックグラウンド信号を除外するように最適な閾値を選択した。形態的(侵食、拡張)および領域拡張演算を適用して、ボクセルの非常にコントラストが強い領域を連結し、そして、気管支および肺胞の薄壁に見られるのと同様の密度のあらゆるボクセルを除いた。領域拡張工程は、2300の連結されたボクセル(0.0231mm3より大きい)の最低容積が対象(塊)として認められることを要する。同定された対象を次に、Analyze 3D視覚化ソフトウェアを用いて熟練した読み手により評価した。個々の対象を、対象の外観および肺におけるその位置に基づいて、潜在的な腫瘍として容認または否認した。対象は、肺の外側(例えば、縦隔、外来組織片)にある場合、または、血の詰まった血管に似ている場合、退けた。各肺について、腫瘍カウント、個々の腫瘍容積および総腫瘍容積を決定した。この解析技術は、十分に確立された腫瘍転移モデルで確認した。4T1乳腺癌腫瘍細胞の同所移植を受けた11匹の動物を、このマイクロ−CT技術によって肺転移について評価し、その後、一連の肺の組織学的解析を行った。肺腫瘍容積の推定値は、腫瘍サイズの組織学的推定値(ピクセル数;追加図5)と高度に相関していた(r=0.9、p=0.0002)。
(結果)
転移阻害のための1つの主要なアプローチは、VEGFC軸索の阻害によるものである(Chen et al.,Cancer Res 65,9004−9011(2005);He et al.,J Natl Cancer Inst 94,819−825(2002);Krishnan et al.,Cancer Res 63,713−722(2003);Lin et al.,Cancer Res 65,6901−6909(2005))。Nrp2機能のブロッキングがまた、転移の発生を調節し得るかどうかを決定するため、肺転移の形成に対する抗Nrp2B処置の作用を2つの異なる腫瘍モデル66c14乳癌モデルおよびC6神経膠芽細胞腫モデルにおいて検討した。66c14は、Balb/cマウスの自然発生した乳癌由来のマウス乳腺癌株である(Aslakson and Miller,Cancer Res 52,1399−1405(1992))。これらの細胞は、VEGFCを発現し、リンパ系を介して肺に対して転移する(Aslakson and Miller,1992,上掲)。Balb/cマウスにおけるこれらの細胞の同所移植は、再現性のある腫瘍の発生と肺の転移とをもたらした。抗Nrp2B処置は、腫瘍の初期段階の成長速度に対して影響を及ぼさなかった(図5A)。VEGFR3 ECDは初期段階の腫瘍成長速度を劇的に低下させたので、あらゆるさらなる転移の解析から除外した。両方の処置アームからの同様のサイズの腫瘍を持つ動物のコホート(各群につきN=6)を、同時に屠殺し、そして、肺を切開して摘出して、転移性小結節の解析を容易にするために膨張させた。抗Nrp2Bは、コントロールのIgG処置動物(図5B、C)と比較して、平均3.5から0.8への、1肺あたりの目視により検出された転移性小結節の平均数の劇的な減少を引き起こした(P=0.03)。この結果を確認し、そして、目視による検査になじまなかった肺実質組織内の転移に本発明者らの評価を拡張させるため、本発明者らは、検死後に肺のマイクロ−CT解析(Li et al.,Technol Cancer Res Treat 5,147−155(2006))を行った。この解析は、抗Nrp2B処置した動物が、コントロール処置動物(図5D〜F)と比較したときに、肺転移数の減少を有したことを確認した。しかし、マイクロ−CT解析は両方の群における転移性小結節の大きな絶対数をもたらす目視による解析よりも感受性であった。マイクロ−CTはまた、肺内の総転移性負荷を決定することを可能にした。抗Nrp2B処置はまた、コントロール処置(1.78cm3)と比較して、総転移容積の減少(0.74cm3)をもたらした。さらに、この解析は、コントロール処置動物および抗Nrp2B処置動物の両方における肺の表面上には、膨大な数の病巣が存在していることを確認した。したがって、抗Nrp2Bは、表面から肺実質組織へと小結節を移動させるによって転移の減少を引き起こさなかった。
実施例4に記載したように行ったFACS解析は、Nrp2は、66c14腫瘍細胞上で発現していたが、VEGFR2もVEGFR3も発現していなかったことを示した。これにより、抗Nrp2Bでの処置が転移に直接的に影響を及ぼす腫瘍細胞の挙動に影響していた可能性が提起された。これは、抗Nrp2B処置では原発性腫瘍の成長に対する作用の欠如を与える見込みはなかった。さらに、抗Nrp2Bは、インビトロでの腫瘍細胞増殖、アポトーシスまたは遊走に対して何ら作用を有さなかった。しかしながら、転移の減少が腫瘍細胞に対する抗Nrp2Bの作用に起因するものであったという可能性を検討するため、本発明者らはまた、C6ラット神経膠芽細胞腫モデルにおける抗Nrp2Bの作用を評価した。これらの細胞は、その表面上に認識できる程度までのNrp2を発現しておらず(図6E)、VEGFCを発現しており、そして、リンパ系を介して肺へと転移するものと考えられる(BernsteinおよびWoodard,1995)。さらに、これらは、β−ガラクトシダーゼを発現するように加工されており、このβ−ガラクトシダーゼは、腫瘍細胞の検出を容易にするためのマーカーとして使用され得る。
ヌードマウスにおけるこれらの細胞の皮下移植は、一貫した腫瘍の発生と肺転移とをもたらした。抗Nrp2B処置は、これらの腫瘍の初期段階の成長速度に影響を及ぼさなかった(図6A)。さらに、VEGFR3 ECDは、この腫瘍モデルにおいて初期段階の成長速度を劇的に低下させなかった。これにより、VEGFR3 ECDおよび抗Nrp2の抗転移作用の比較が可能となった。再度、全処置アームからの同じサイズの腫瘍を持つ動物のコホート(N=10)を屠殺し、そして、肺を切開して摘出し、転移性小結節についての解析を容易にするため膨張させた。抗Nrp2BおよびVEGFR3 ECDの両方での処置は、肺あたりの目視により検出された転移性小結節の平均数の減少を引き起こした(図6B、C)。抗Nrp2Bで認められた減少は、VEGFR3 ECDで見られたものと匹敵していた。肺のマイクロ−CT解析は、これらの知見を確認し(図6D)、そして、全ての処置アームにおける肺の表面上には、膨大な数の転移が局在化していたことを確認した。小結節は、両方の腫瘍モデルにおいて、組織学的に転移性病巣であることが確認された(図5Hおよび6G)。さらに、全身の検死からは、いずれの腫瘍モデルにおいても、他の器官の表面上での小結節が示されなかった。
上述の記載において、本発明は特定の実施形態に関して例示されているが、本発明はこのように限定されるものではない。実際、本明細書中に示され、記載されるものに加え、本発明の種々の改変が、上述の記載から当業者には明らかであり、そして、添付の特許請求の範囲に包含される。
本明細書を通じて引用される全ての参考文献およびこれらにおいて引用される参考文献は、その全体が本明細書によって明示的に参考として援用される。