JP5725434B2 - コンクリート部材の劣化探知方法 - Google Patents

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Description

本発明は、コンクリート部材の劣化探知方法に関し、特に、床版コンクリートの繰り返し荷重による疲労劣化の探知に好適に用いることができるコンクリート部材の劣化探知方法に関するものである。
橋梁等に用いられている床版コンクリートは、交通量の増加や車両の大型化等により疲労劣化が進み、塩害や中性化、凍害、アルカリ骨材反応等を要因とする耐久性の低下が重なると早期の段階から劣化が進行し、また、一旦劣化が進行し始めると大きな損傷欠陥等が発生する。従って、劣化の兆候若しくは進行をできるだけ早い段階で探知する必要がある。床版コンクリート等のコンクリート部材の劣化兆候若しくは進行を探知するための検査方法としては、簡便でコストのかからない目視点検や打音点検が一般的に行なわれている。この目視点検は、コンクリート表面のひび割れ、錆汁の発生等による変色、剥離や欠損や浮きなどの観測である。打音点検は、ハンマーでコンクリート部材の表面を軽打して表面の劣化状況を見たり音を聞いて内部空洞を発見したりするものである。この他、非破壊検査方法として、超音波法、或いは赤外線センサを用いた温度分布測定法等も提案されている。
例えば、特許文献1には、超音波からなる信号波を床版コンクリートへ向けて発信させ、この床版コンクリート内部を伝達した信号波を受信装置により受信し、その受信装置による受信信号の波形に基づいて制御装置で床版コンクリートの劣化程度を判断する技術が開示されている。
また、特許文献2には、床版部を検査する際に、床版部の上部に敷設される舗装体(アスファルト)の熱を利用して、赤外線センサにより床版部表面の温度分布を測定し、この測定した温度分布に基づいて床版部の空洞等の欠陥を探知する技術が開示されている。
一方、コンクリート構造物から採取したコアや削孔粉を用いた手法も提案されている。
例えば、特許文献3には、採取したコアの促進膨張試験における膨張率と水酸化アルカリ濃度の測定を併用したアルカリシリカ反応による劣化進行の予測方法が開示されている。また、特許文献4には、削孔粉を試料とした吸光光度法による全塩分量の測定方法が開示されている。
更に、細孔径分布変化による劣化評価方法も知られている。
例えば、特許文献5には、セメント水和物の溶解挙動と溶解成分の移流拡散の関係から、セメント水和物の変質と細孔径分布変化を評価して行なうセメント系材料の劣化評価方法が開示されている。
特開平6−148147号公報 特開2003−247964号公報 特開2001−99833号公報 特開2005−37146号公報 特開2003−14731号公報
しかしながら、先ず上記目視点検や打音点検の場合には、簡便でコストのかからない方法ではあるが、ひび割れや錆汁などの変状が確認できる状態、つまり劣化がある程度顕在化した後でなければ劣化や異常が確認し難いと共に、その劣化進行等の判断には熟練を要するという課題があった。また、上述した従来の超音波法等の非破壊検査方法では、その検査作業が大掛かりなものとなり、コストが増大すると共に検査(準備、測定、解析等)に多くの時間を費やしてしまうという課題があった。
また、従来の採取したコアについて試験・分析を行うにしても、例えば、塩害の場合は塩分分析(化学分析)が、アルカリ骨材反応の場合には岩種判定試験やアルカリ量試験や残存膨張量試験等が行われるが、概して、これらの試験を行うには直径100mm、高さ200〜400mm程度の試料用コアを採取することが必要である。また、細孔径分布変化による劣化評価方法も、セメント水和物の変質等の他項目と合わせて評価するものであり、手間がかかる。更に、上記の検査方法は、中・長期的な劣化挙動を捉えることはできるが、早期段階での劣化兆候や進行は捉え難いものであった。
本発明は、上述した背景技術が有する課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、検査対象とするコンクリート部材より採取したコンクリートコアを簡便な手法を用いて解析することにより、劣化の早期段階から劣化の兆候若しくは進行を探知することができるコンクリート部材の劣化探知方法を提供することにある。
本発明者等は、採取したコンクリートコアから容易に測定試料が得られ、従来の測定装置を用いて簡便に測定が行なえ、マイクロクラック等の早期段階での劣化と結びつきが強いと見られるセメント硬化体の細孔径分布に着目し、鋭意研究を重ねた結果、該細孔径分布の測定で判明する毛細管空隙の容積、或いはインクボトル空隙の容積等が、コンクリート部材の劣化の進行具合により変化することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔〕のコンクリート部材の劣化探知方法とした。
〔1〕 水銀圧入法による細孔径分布の測定に基づくコンクリート部材の劣化探知方法であって、検査対象とするコンクリート部材より採取したコアから得られる測定試料につき、細孔径分布の測定を行うことで全空隙の容積と直径0.05〜2.2μmの毛細管空隙の容積とを求め、前記全空隙の容積に対する前記毛細管空隙の容積の割合を他の測定試料のものと比較することにより、前記検査対象とするコンクリート部材の劣化兆候若しくは進行を探知することを特徴とする、コンクリート部材の劣化探知方法。
〔2〕 水銀圧入法による細孔径分布の測定に基づくコンクリート部材の劣化探知方法であって、検査対象とするコンクリート部材より採取したコアから得られる測定試料につき、細孔径分布の測定を行うことで全空隙の容積、直径0.05〜2.2μmの毛細管空隙の容積、及びインクボトル空隙の容積をそれぞれ求め、前記全空隙の容積に対する前記毛細管空隙の容積の割合、及び前記インクボトル空隙の容積をそれぞれ他の測定試料のものと比較することにより、前記検査対象とするコンクリート部材の劣化兆候若しくは進行を探知することを特徴とする、コンクリート部材の劣化探知方法。
〔3〕 前記コンクリート部材が床版コンクリートであり、前記劣化は繰り返し荷重による疲労劣化を含むものであることを特徴とする、前記〔1〕、〔2〕のいずれかに記載のコンクリート部材の劣化探知方法。
〔4〕 前記他の測定試料が、検査対象とするコンクリート部材において健全と見られる部分、或いは健全と見られる時期に採取したコアから得られる測定試料であることを特徴とする、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のコンクリート部材の劣化探知方法。
なお、上記本発明のコンクリート部材としては、上記床版コンクリートの他、鉄道構造物に用いられるコンクリート床版やスラブ桁、海洋構造物では波力を受ける防波堤等が挙げられる。また、劣化の態様は特には限定されないが、繰り返し荷重による疲労劣化等の物理的要因による劣化の探知に、本発明は好適に用いられる。
上記した本発明に係るコンクリート部材の劣化探知方法によれば、従来から行なわれている水銀圧入法による細孔径分布の測定のみを利用してコンクリート部材の劣化兆候若しくは進行を探知するものであるため、大掛かりな装置や特殊な装置を必要とせず、簡便にコンクリート部材の劣化を探知することができる。また、測定試料が少量で済むので、採取するコアが小径コアでよく、検査の対象とするコンクリート部材への負荷が軽減できる。更に、毛細管空隙やインクボトル空隙の容積変化を捉えることで、劣化の比較的早い段階で、劣化の兆候若しくは進行を探知することができる。
インクボトル空隙を説明するため細孔の模式図である。 水銀圧入法による細孔径分布測定において加圧過程、減圧過程を繰り返したときの積算細孔容積曲線の一例を示した図である。 試験に用いたコンクリート供試体の斜視図である。 試験に用いたコンクリート供試体の配筋状態を示した図である。 小径コアの採取位置と輪荷重回数を示した図である。 小径コアの測定箇所を示した図である。 試験結果の一例として試料No.20(輪荷重回数10万回、上部コア)の細孔径分布測定結果を示した図である。 全空隙の容積の変化を示した図である。 各細孔径の容積割合の変化を示した図であり、(a)が上部コア、(b)が下部コアの測定結果をそれぞれ示したものである。 インクボトル空隙の容積の変化を示した図である。 インクボトル空隙の容積の変化を示した図である。 学校法人日本大学工学部のデータであって、ひび割れ密度の変化を示した図である。 インクボトル空隙の容積の変化を示した図である。 下部コアについての2加圧目の細孔径分布測定結果から求めた各細孔径の容積割合の変化を示した図である。
本発明は、水銀圧入法による細孔径分布の測定結果に基づいて、コンクリート部材の劣化兆候若しくは進行を探知するものであり、以下に、コンクリート部材の輪荷重走行疲労による劣化の探知試験に基づき、本発明の一例を具体的に説明する。
なお、水銀圧入法は、Washburnにより考案され、RitterとDrakeによりポロシメータとして装置的に完成されたものとされており、硬化後のコンクリート等の細孔径分布を測定する一手法である。この測定に際しては、破砕或いは切断した測定試料は吸着水がなくなるまで乾燥した後、測定に用いられるが、その測定試料の大きさは、試験機器の制約等から最大で1cm3程度に限定されている。そのため、検査対象のコンクリート部材から大きなコアを採取する必要がなく、その検査に際して該コンクリート部材へのダメージを少なく抑えることができる。かかる観点から、採取するコアの直径は、5〜50mmの小径コアで十分である。
水銀圧入法においては、細孔は円筒形と仮定される。水銀は硬化セメントペーストとの接触角が約130°と大きく、固体を濡らさないので圧力を加えない限り細孔内には浸入しない。しかし、外部から圧力Pを加えると、次のWashburn式で得られる直径dより大きな細孔には水銀が浸入していく。

d=−4γcosθ/P ・・・式(1)

ここで、d:細孔径(直径)
γ:水銀の表面張力
θ:水銀と試料との接触角(130°を用いる場合が多い)
P:圧入圧

そのため、測定試料を水銀に浸し、水銀への圧力を増していくと、次第に小さな細孔へと水銀が浸入していく。水銀圧入法において直接測定するのは、この水銀の浸入量と圧力の関係であり、上記Washburn式により細孔径と細孔容積の関係に換算することができ、細孔径分布を測定することができる。
水銀圧入法による測定は、自動化された試験装置(ポロシメータ)を用いて行われることがほとんどであり、水銀の表面張力、接触角や機器を制御するいくつかの項目を設定することで同等の結果が得られる。コンクリート中の空隙はその大きさに応じて、気泡、毛細管空隙、ゲル空隙に分けられるが、一般的には0.01〜5μmの直径のものを毛細管空隙といい、この毛細管空隙よりも大きいものを気泡、小さいものをゲル空隙と呼んでいる。水銀圧入法によれば、これらの種々の空隙を含む直径0.003〜400μm程度の範囲の細孔径分布を測定することができる。
また、水銀圧入法においては、細孔径の算出にあたって上記したように細孔形状を円筒形と仮定しているが、コンクリート中の空隙はその成因等から種々の不定形な形状のものである。水銀圧入法による細孔径分布の測定においては、この細孔の形状について次のように考えられている。
図1は体積が同一で入口細孔経が異なる空隙を示したもので、〔A〕はインクボトル空隙と呼ばれている。この場合は、加圧過程ではd1に相当する圧入圧P1になるまで水銀は細孔に入らないが、P1を超えると細孔は水銀で満たされ、d1に相当する細孔容積はV1+V2として測定される。それに対して〔B〕は、圧入圧P2ではV2が測定され、圧入圧PlでVlが測定される。反対に減圧過程においては、〔A〕の場合はPlより圧入圧が小さくなるとVlの水銀は押し出されるが、圧入圧がP2より小さくなった場合でもV2の水銀はVlの部分の細孔に阻まれ押し出されることはない。その結果として、圧入圧が大気圧となった時点でもV2の水銀は試料中に残存する。
図2に水銀圧入法による細孔径分布測定において加圧過程、大気圧までの減圧過程を繰り返したときの積算細孔容積曲線の一例を示す。図においてCurve1は最初の加圧過程を、Curve2はその後の減圧過程を、Curve3はその後の加圧過程を示している。その後に減圧、加圧過程を繰り返した場合はそれぞれCurve2、Curve3を示すとされ、この結果はインクボトル空隙の存在を示すものと解釈されている。
本発明者等は、上記水銀圧入法による細孔径分布の測定を行うことで判明する全空隙の容積、特定径の細孔の容積、更にはインクボトル空隙の容積等が、コンクリート部材の輪荷重走行による疲労劣化の進行具合によってどのように変化するかを種々の試験により検証し、次の知見を得たことにより本発明に至った。
(1) 全空隙の容積は、輪荷重走行疲労に対して変化が見られない。
(2) 毛細管空隙の容積は、輪荷重回数の増加にしたがって減少する。
(3) インクボトル空隙の容積は、輪荷重回数の増加にしたがって減少する。
上記知見に基づき、本発明の第1は、検査対象とするコンクリート部材より採取したコアから得られる測定試料につき、水銀圧入法による細孔径分布の測定を行うことで全空隙の容積と毛細管空隙の容積とを求め、前記全空隙の容積に対する前記毛細管空隙の容積の割合を他の測定試料のものと比較することにより、検査対象とするコンクリート部材の劣化兆候若しくは進行を探知することとした。ここで、毛細管空隙は、前述の通り、一般的には直径0.01〜5μmの範囲の細孔を言うが、本発明では、細孔径分布の測定は該範囲のすべてを含むより広い範囲で行うが、劣化を探知する際は、必ずしも前記範囲のすべてを毛細管空隙の容積として用いる必要はなく、変化が敏感に探知できる特定の範囲を用いても良い。
より具体的には、検査対象とする例えば床版コンクリートより採取したコアから得られる最大で1cm3程度の小さな測定試料につき、従来通り水銀圧入法による細孔径分布の測定を行い、その後、該細孔径分布の測定結果から直径0.003〜400μmの全空隙の容積と直径0.05〜2.2μmの領域の毛細管空隙の容積を求め、前記全空隙の容積に対する前記毛細管空隙の容積の割合を基準とする他の測定試料の全空隙の容積に対する毛細管空隙の容積の割合と比較し、検査対象の測定試料における毛細管空隙の該割合が基準とする他の測定試料における毛細管空隙の該割合よりも少ない場合には、該検査対象のコンクリート部材は基準とする他の測定試料のものに比して劣化が進行していると判断することとした。
なお、上記において毛細管空隙を直径0.05〜2.2μmの領域に限定したのは、モルタルやコンクリートのようにセメントペーストと骨材との複合構造の場合、骨材周辺部の遷移帯の空隙構造が強度的に最弱部となると言われており、毛細管空隙の中で前記遷移帯の空隙に相当するのは概ね0.05〜2μmの領域であり、この範囲に着目することが変化を敏感に探知できると考えたためである。また、全空隙の容積に対する毛細管空隙の容積の割合で比較するとしたのは、コンクリートの配合等の違いによる密度の影響を排除するためである。
ここで、上記第1の本発明において、上記基準とする他の測定試料を、検査対象とするコンクリート部材において健全と見られる部分、或いは健全と見られる時期に採取したコアから得られる測定試料とすること、より具体的には、例えば検査対象のコンクリート部材を橋梁等に用いられている床版コンクリートとした場合、検査対象とする測定試料を得るコアとしては輪荷重走行による疲労劣化が激しいと思われる床版コンクリートの中央付近下面側より採取したコアとし、基準とする他の測定試料を得るコアとしては輪荷重がかからない床版コンクリートの側縁部上面側より採取したコア、或いは該床版コンクリートの構築時から供用される前に採取したコアから得られる測定試料とすることは、精度良くかつ客観的にコンクリート部材の劣化を判断する上で好ましい。
また、上記知見に基づき、本発明の第2は、検査対象とするコンクリート部材より採取したコアから得られる測定試料につき、細孔径分布の測定を行うことでインクボトル空隙の容積を求め、該インクボトル空隙の容積を他の測定試料のものと比較することにより、検査対象とするコンクリート部材の劣化兆候若しくは進行を探知することとした。
より具体的には、検査対象とする例えば床版コンクリートより採取したコアから得られる最大で1cm3程度の小さな測定試料につき、水銀圧入法による細孔径分布の測定を2回行うことでインクボトル空隙の容積を求め、該インクボトル空隙の容積を基準とする他の測定試料のインクボトル空隙の容積と比較し、検査対象のインクボトル空隙の容積が基準とする他の測定試料のインクボトル空隙の容積よりも少ない場合には、該検査対象のコンクリート部材は基準とする他の測定試料のものに比して劣化が進行していると判断することとした。
なお、本発明でいうインクボトル空隙とは、先に図1及び図2に基づき説明し、図7に具体的に示すように、1気圧に対応する細孔直径12.3μm未満での残存空隙をいう。
ここで、上記第2の本発明において、上記基準とする他の測定試料を、検査対象とするコンクリート部材において健全と見られる部分、或いは健全と見られる時期に採取したコアから得られる測定試料とすることは、上記と同様の理由により好ましい。
更に、上記知見に基づき、本発明の第3は、検査対象とするコンクリート部材より採取したコアから得られる測定試料につき、水銀圧入法による細孔径分布の測定を行うことで全空隙の容積と毛細管空隙の容積、及びインクボトル空隙の容積をそれぞれ求め、前記全空隙の容積に対する前記毛細管空隙の容積の割合、及びインクボトル空隙の容積をそれぞれ他の測定試料のものと比較することにより、検査対象とするコンクリート部材の劣化兆候若しくは進行を探知する、すなわち、上記本発明の第1及び第2の両者で検査対象とするコンクリート部材の劣化兆候若しくは進行を探知することとした。
より具体的には、上記と同様、検査対象の測定試料と基準とする他の測定試料について、全空隙の容積に対する前記毛細管空隙の容積の割合とインクボトル空隙の容積をそれぞれ比較し、検査対象の測定試料における毛細管空隙の該割合が基準とする他の測定試料における毛細管空隙の該割合より少なく、且つ、検査対象の測定試料におけるインクボトル空隙の容積が基準とする他の測定試料におけるインクボトル空隙の容積より少ない場合には、該検査対象のコンクリート部材は基準とする他の測定試料のものに比して劣化が進行していると判断することとした。
ここで、上記第3の本発明において、上記基準とする他の測定試料を、検査対象とするコンクリート部材において健全と見られる部分、或いは健全と見られる時期に採取したコアから得られる測定試料とすることは、やはり上記と同様の理由により好ましい。また、上記の通り、上記本発明の第1及び第2の両者で探知することにより、より精度の高い探知ができる。
上記の通り、本発明では特定領域の毛細管空隙とインクボトル空隙に着目したが、これ以外の領域でも、劣化兆候や進行を探知することもできる。例えば、上記に加え、ゲル空隙(直径0.003〜0.008μm)の細孔容積が減少し、直径1〜7μmの細孔容積が増える傾向にあれば、劣化しつつある可能性が高い。
試験例
以下、上記した本発明を見出した試験例につき説明するが、本発明は、何ら下記の試験例によって限定されるものではない。
1.試験概要
コンクリート供試体の輪荷重走行による疲労試験において、コンクリート供試体から採取した小径コアを用いた細孔径分布測定を実施し、疲労の進展に伴うコンクリートの変状をモニタリングすることを目的とした。
2.実施内容
健全なコンクリート供試体を用いて輪荷重載荷試験を行い、輪荷重回数の進捗に合わせて適宜小径コア(φ25mm)を採取し、該コアから得られる測定試料につき水銀圧入法による細孔径分布を測定し、コンクリート供試体の疲労劣化の定量化を試みた。
小径コアを採取したタイミングは、初期値(輪荷重回数0回)から輪荷重回数1万回、10万回、20万回、上載荷荷重を増加して21万回、25万回、30万回、及び31.5万回の合計8回実施した。
2.1 輪荷重載荷拭験
2.1.1 コンクリート供試体
輪荷重載荷試験に用いたコンクリート供試体の概要を、図3、図4に示す。コンクリート供試体の寸法は、長辺3000mm、短辺2000mm、版厚160mmである。引張側の主鉄筋にはSD296A,D16を160mm間隔で、配力鉄筋にはSD295A,D13を125mm間隔でそれぞれ用いた。打設したコンクリートの圧縮強度は、床版と同一環境下に静置したφ10×20cmのテストピースで管理し、材齢28日で34.1N/mm2であった。試験を開始したコンクリート供試体の材齢は、2か月経過のものであった。
2.1.2 載荷条件
輪荷重試験は、油圧ジャッキを取り付けた車輪の下方において、コンクリート供試体を載せた台車を前後に1m往復運動させる機構を備えた輪荷重試験装置を用いて行なった。輪荷重は98kNから開始し、20万回以降は約30kN荷重を増加して疲労試験を促進した。コンクリート供試体の支持条件は、走行方向の2辺(3000mm)を単純支持、他の2辺(2000mm)を弾性支持とした。弾性支持は、幅150mm×高さ150mm×厚さ8mmのI型鋼を用いた。
2.2 小経コアの採取位置
図5に採取した小径コアの位置と輪荷重回数を示す。小径コアの採取は、乾式コンクリートコアカッタを用いて実施した。軸方向と横方向との鉄筋に囲まれた領域およそ110×130mmを1区画とみなし、中心から概ね左右対称に採取位置を定めた。
3.試験方法
3.1 小径コアの採取
小径コアは、乾式のコンクリートコアドリル(日本HILTI(株)製)と、コアビット(外径32mm、内径26mm)とを用いて、コンクリート供試体の上面側(輪荷重載荷側)から下面側へ全断面(約160mm長)を採取した。コアを採取したコア孔は直ちに補修用モルタルで充填した。補修用モルタルの配合は、材齢1日で36N/mm2程度発現するよう設計した。測定試料の採取に小径コアを用いることによって、鉄筋を切断することなくコアを採取でき、コンクリート供試体へのダメージを低く抑えることができた。
3.2 試料調製
採取したコアは、図6に示すように断面方向に2分割(半割り)し、圧縮側・引張側にそれぞれ配置された主鉄筋位置近傍での変状に着目して、中立軸より上面側、下面側の各中心部分約40mmを測定区間とした。
3.3 細孔径分布測定
測定試料はダイヤモンドカッタで5mm角の大きさに調製し、粗骨材部分はできるだけ取り除いた。アセトンに1時間程度浸漬し、試料内部の水分を除去した後、真空乾燥を3日間実施し、水蒸気圧5×10-4mmHg下でD−Dryに7日間静置して測定試料とした。
測定には水銀圧入式ポロシメータ(Micromeritics 社製、Auto PoreIV 9520)を用い、量り取った測定試料約2gに水銀を圧入し、細孔量を測定した。なお、水銀の圧入は、一度加圧した後大気圧まで減圧し、その後また加圧する2回加圧を行なった。また、細孔径と細孔容積の関係は、水銀の表面張力、試料との接触角等を下記のものとしたWashburn式である式(1)により算出した。

d=−4γcosθ/P ・・・・・・・式(1)

d:細孔径(直径)
γ:水銀の表面張力0.484N/m
θ:水銀と試料との接触角130°(cosθ=−0.643)
P:圧入圧MPa

なお、本発明では、例えば、輪荷重回数n回目で検査を行なう場合、検査対象の測定試料はn回目の小径コアから得られるものであり、基準となる他の測定試料(比較試料)は、輪荷重回数(0〜n−1)目までの小径コアから得られる測定試料の一つ以上、或いは、管理用供試体から得られる測定試料であるが、この試験例では輪荷重回数による変化を見ているので前者に該当する。この他、前述の通り、基準となる測定試料は、劣化因子の影響を受け難い位置から採取した健全と見られるものであってもよい。
4. 試験結果
図7に、試験結果の一例として試料No.20(輪荷重回数10万回、上部コア)の細孔径分布測定結果を示す。この測定結果については、図中に示した範囲のものが『全空隙』、『インクボトル空隙』のそれぞれの『容積』となる。
4.1 全空隙の容積の変化
各測定試料についての細孔径分布測定結果からそれぞれ『全空隙の容積』を求め、横軸に輪荷重回数、縦軸に全空隙の容積をとり、求めた値をプロットしたものを図8に示す。
図8に示すように、全空隙の容積は、輪荷重回数に伴う顕著な変化は見られなかった。これから、全空隙の容積だけでは、疲労劣化の兆候若しくは進行を探知することは難しいことが分かった。
4.2 各細孔径の容積割合の変化
各測定試料についての細孔径分布測定結果からそれぞれ細孔径の範囲を『0.003〜0.008μm』,『0.008〜0.05μm』,『0.05〜0.1μm』,『0.1〜1μm』,『1〜30μm』そして『0.05〜2.2μm』に分け、『各細孔径範囲の容積』を求め、求めた各細孔径の容積の前記全空隙の容積に対する割合をそれぞれ算出し、横軸に輪荷重回数、縦軸に前記全空隙容積に対する各細孔径容積の割合をとり、算出した値をプロットしたものを図9(a),(b)に示す。なお、(a)は図6に示す小径コアの上部、(b)は図6に示す小径コアの下部の測定結果である。また、0.003〜0.008μmはゲル空隙、1〜30μmは毛細管空隙の一部と気泡(粗空隙)の一部、これ以外の各範囲は毛細管空隙の一部である。このような各範囲に分けたのは、目視では劣化が検知できないゲル空隙から毛細管空隙、およびそれ以上の粗大な空隙領域への連続的な変化に着目するためである。0.008〜0.05μmはゲル空隙から毛細管空隙への変化に着目した。0.05〜2.2μmの領域は前述の遷移帯空隙と呼ばれ、硬化体の強度に影響を及ぼす可能性が高いとされている領域であるため、領域を細分化し、詳細に変化を観察したからである。
図9に示すように、毛細管空隙の内、直径0.05〜2.2μmの領域における下部コアにおいて、輪荷重回数の増加に従って前記割合に減少傾向が見られた。なお、前記コアを採取したコンクリート供試体の下部を目視観察していたところ、輪荷重回数1000回位からひび割れが観察され、その数は輪荷重回数の増加に伴って増加していたことから、明らかに該コンクリート供試体は輪荷重回数の増加に伴って疲労劣化が進行していた。従って、本例では、上記範囲の毛細管空隙の容積割合の変化が、疲労劣化の兆候と進行を示す指標になり得るものと判断した。なお、本例では、毛細管空隙の他の範囲では細孔径容積の割合に変化が見られなかったので劣化の指標にはしなかったが、変化が探知できれば、そちらの範囲を用いても良い。
4.3 インクボトル空隙の容積の変化
各測定試料についての細孔径分布測定結果からそれぞれ『インクボトル空隙の容積』を求め、横軸に輪荷重回数、縦軸にインクボトル空隙の容積をとり、求めた値をプロットしたものを図10に示す。また、横軸に等価繰り返し回数(21万回以降は、載荷荷重を98kNから127.4kNに増量して疲労試験を促進したため、その影響を等価に換算した回数。換算式は、N=(P/98)12.76 ×nとした。)、縦軸にインクボトル空隙容積変化率(輪荷重回数0回での上部と下部の平均を100とした場合の各インクボトル空隙容積の割合)とし、算出した値をプロットしたものを図11に示す。
図10及び図11に示すように、下部コアにおいて、輪荷重回数の増加に従ってインクボトル空隙の容積に減少傾向が見られた。従って、上記と同様の理由で、このインクボトル空隙容積の変化も、疲労劣化の兆候と進行を示す指標になり得るものと判断した。
一方、図12のグラフは学校法人日本大学工学部が本試験と同一の輪荷重試験装置を用いて行なった試験において、ひび割れ密度と等価繰り返し回数の関係を示したグラフである。なお、ひび割れ密度とは、目視で観察可能な,ひび割れ幅が約0.1mm以上のひび割れの単位面積当たりの総延長である。この図12から、健全供試体において、疲労限界(ひび割れ密度15mm/m2)に達するのは100万〜500万回の間であることが示されている。
図11に示したインクボトル空隙容積の変化を示した図(下部コア)において、上記疲労限界に達する100万〜500万回の輪荷重回数部分を囲ったものを図13に示す。
この図13から、ひび割れ密度から推定される疲労限界を、『インクボトル空隙容積変化率が、疲労を受けていない健全部より10〜20%低減したときには、疲労限界に到達している。』と言うように、インクボトル空隙容積の変化から推定できること、また、インクボトル空隙容積の変化から、疲労限界に達していない劣化の比較的早い段階で、劣化の兆候若しくは進行を探知できることが分かった。
4.4 2加圧目の各細孔径の容積割合の変化
下部コアの各測定試料についての2加圧目の細孔径分布測定結果からそれぞれ細孔径の範囲を『0.003〜0.008μm』,『0.008〜0.05μm』,『0.05〜0.1μm』,『0.1〜1μm』,『1〜7μm』そして『0.05〜2.2μm』に分け、『各細孔径範囲の容積』をそれぞれ求め、求めた各細孔径の容積の2加圧目の全空隙容積に対する割合をそれぞれ算出し、横軸に輪荷重回数、縦軸に各細孔径の容積割合をとり、算出した値をプロットしたものを図14に示す。なお、0.003〜0.008μmはゲル空隙、1〜7μmは毛細管空隙の一部と気泡(粗空隙)の一部、これ以外の各範囲は毛細管空隙の一部である。
この図14から、ゲル空隙(細孔直径0.003〜0.008μmの領域)において、輪荷重回数の増加に従って細孔容積割合に減少傾向が見られ、毛細管空隙から気泡領域(細孔直径1〜7μmの領域)において、輪荷重回数の増加に従って該割合に増加傾向が見られた。これも疲労劣化の兆候と進行を示す指標になり得るものと見られる。

Claims (4)

  1. 水銀圧入法による細孔径分布の測定に基づくコンクリート部材の劣化探知方法であって、検査対象とするコンクリート部材より採取したコアから得られる測定試料につき、細孔径分布の測定を行うことで全空隙の容積と直径0.05〜2.2μmの毛細管空隙の容積とを求め、前記全空隙の容積に対する前記毛細管空隙の容積の割合を他の測定試料のものと比較することにより、前記検査対象とするコンクリート部材の劣化兆候若しくは進行を探知することを特徴とする、コンクリート部材の劣化探知方法。
  2. 水銀圧入法による細孔径分布の測定に基づくコンクリート部材の劣化探知方法であって、検査対象とするコンクリート部材より採取したコアから得られる測定試料につき、細孔径分布の測定を行うことで全空隙の容積、直径0.05〜2.2μmの毛細管空隙の容積、及びインクボトル空隙の容積をそれぞれ求め、前記全空隙の容積に対する前記毛細管空隙の容積の割合、及び前記インクボトル空隙の容積をそれぞれ他の測定試料のものと比較することにより、前記検査対象とするコンクリート部材の劣化兆候若しくは進行を探知することを特徴とする、コンクリート部材の劣化探知方法。
  3. 前記コンクリート部材が床版コンクリートであり、前記劣化は繰り返し荷重による疲労劣化を含むものであることを特徴とする、請求項1、2のいずれかに記載のコンクリート部材の劣化探知方法。
  4. 前記他の測定試料が、検査対象とするコンクリート部材において健全と見られる部分、或いは健全と見られる時期に採取したコアから得られる測定試料であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のコンクリート部材の劣化探知方法。
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