上で述べたとおり、ランタノイド元素やアクチノイド元素等の希土類元素の分離・回収には、現在産業的に利用されている多段抽出法では大量の溶媒や脱離剤が必要となり、かつ大量の廃棄溶液も発生するため、処理コスト及び環境コストの大きな増大を生じている。
また、カラム法のような固液抽出法では、固体表面を用いるために反応活性になる固体の原子サイトが制限され、吸着材の単位体積当たりの吸着量が少なく、希薄な溶液からの抽出しか行えなかった。たとえば比表面積が1000cm2/gというゼオライトやメソポーラスシリカ等の表面に数nmオーダーの間隔で吸着官能基を配置できたとしても、1gの吸着材に対して数ミリモル程度の元素を吸着させるのが限界である。さらにキレート樹脂などの高分子材料を使用した場合には立体障害も起きるためにその効率はさらに低下する。
このために、一度に処理できる溶液中の目的元素のイオン量は数ppm台と限られ、そのために単位元素量当たりの溶媒量が莫大なものになる。また、固液抽出においては、抽出物からの脱離のための逆抽出工程が必要となるが、その際の酸・アルカリ反応は逆方向であるため溶媒自体が相互に反応し変質するために、その溶媒の必要量はさらに倍加する。この問題を解決しなければ、固液抽出法が溶媒抽出法に代替して廃液量の問題を解決することはできない。さらに、イオン交換樹脂などで用いられている吸着材は、複数の希土類元素を吸着し、その吸着速度の違いで分離するため一つのカラムから複数の希土類元素を分離して取り出すという煩雑な作業を伴っていた。
そこで、これらの課題を解決するために多くの技術開発が行なわれている。たとえば、ランタノイド元素及びアクチノイド元素について金属錯体化を行わせる技術が検討されている。金属錯体は有機分子を構成する元素と金属元素との間に複数の配位結合が起きることにより安定な構造を形成するものである。ランタノイド元素及びアクチノイド元素はイオン半径についても、錯体金属を形成することができれば、それらの配位結合に対して内殻の4f電子が影響を及ぼすため、多様でかつ溶液のpHなどに影響を受けやすい特性の異なった金属錯体を形成できる可能性がある。しかし、現時点においては有効な分離、抽出方法は見出されていない。
なお、仮にランタノイド元素及びアクチノイド元素の金属錯体を形成して分離する方法が発見されたとしても、溶液中に分散した錯体形成は、溶媒抽出法と同様に分離操作のために大量の廃液を発生させる。そのため、選択的に形成された金属錯体を固相として分離する技術が必要になる。数パーセントから数十パーセントの高濃度の溶液を対象にする場合は錯体の電気化学的性質を活かした凝集や析出で濾過可能な状態にもっていくこともできるが、ランタノイド元素やアクチノイド元素の場合には数パーセント以下の希薄な状態からの分離となるために、形成された金属錯体を溶液中から固体状態に凝縮させることは難しかった。
そこで、本発明は、目的金属(特に、ランタノイド元素又はアクチノイド元素)を含み種々の金属が溶解された金属溶解溶液から、容易にまた効率的に目的金属を分離、抽出できる方法及び手段を提供することを目的とする。さらに、本発明は、廃棄溶液の量を減らし、処理コスト及び環境コストの小さい分離、抽出方法及び手段を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明の希土類元素の抽出方法は、希土類元素を含む酸性溶液にフッ素イオンを添加してフッ化希土類として固体化させ、固体化させたフッ化希土類を液相から分離することを特徴とする。
さらに、上記抽出方法において、前記フッ化希土類として固体化させる際に、さらに酸性溶液にpH調整剤を添加することが好ましい。
さらに、上記抽出方法において、前記固体化させたフッ化希土類を溶解させた被抽出溶液に、希土類元素の中から選ばれた目的金属と吸着できる吸着材を接触させ、前記溶液中の目的金属を前記吸着材に吸着させる吸着工程と、前記吸着工程を経て、目的金属を吸着した吸着材を逆抽出液に接触させ、前記吸着材に吸着した目的金属を逆抽出液に移動させる目的金属分離工程とを含むことが好ましい。
さらに、上記抽出方法において、前記目的金属分離工程において目的金属イオンを逆抽出液に移動させた吸着材を再び前記吸着工程において溶液に接触させることが好ましい。
さらに、上記抽出方法において、前記逆抽出液に対し、複数回の目的金属分離工程を繰り返すことにより、逆抽出液中の目的金属濃度を高めることが好ましく、また、前記被抽出溶液に対し、複数回の吸着工程を繰り返すことも好ましい。
さらに、上記抽出方法において、前記吸着工程を経た後の被抽出溶液に対し、希土類元素の中から選ばれた他の目的金属と吸着できる第2の吸着材を接触させ、前記溶液中の他の目的金属を前記第2の吸着材に吸着させる吸着工程と、前記他の目的金属を吸着した第2の吸着材を他の逆抽出液に接触させ、前記第2の吸着材に吸着した他の目的金属を前記他の逆抽出液に移動させる目的金属分離工程とを含むことが好ましい。
さらに、上記抽出方法において、前記吸着材または前記第2の吸着材は目的金属に対して選択分光特性を有する有機化合物であり、前記吸着工程において、呈色反応及び/又は分光特性をモニタリングしながら前記目的金属を前記吸着材または前記第2の吸着材に吸着させることが好ましい。
さらに、上記抽出方法において、前記吸着材または前記第2の吸着材は目的金属に対して選択分光特性を有する有機化合物であり、前記吸着工程において、呈色反応及び/又は分光特性をモニタリングしながら前記目的金属を前記吸着材または前記第2の吸着材に吸着させることが好ましい。
さらに、上記抽出方法において、前記吸着工程又は前記目的金属分離工程の後、前記吸着材を脱液処理することが好ましく、特に、前記吸着工程又は前記目的金属分離工程において、径を変更可能でかつ遠心力に耐えるバスケット内に前記吸着材を配置し、前記バスケットの径を広げた状態で前記被抽出溶液又は前記逆抽出液と前記吸着材を接触させ、その後、前記バスケットの径を縮めて前記吸着材を脱液処理することが好ましい。
本発明の希土類元素の抽出方法では、希土類元素を含む酸性溶液にフッ素イオンを添加して固液分離するだけで、フッ化希土類として希土類元素を固体化させて分離することができるので、極めて簡易な手段で希土類元素を他の類の金属元素等から分離することができる。さらに、酸性溶液にpH調整剤を添加することにより、酸性溶液中におけるフッ化希土類の析出率を高めることができるので、より効率的な抽出反応を実現できる。
上記抽出方法においては、希土類元素を他の類の金属元素等から分離することは可能であるが、さらに固体化させたフッ化希土類を溶解させた被抽出溶液に、希土類元素の中から選ばれた目的金属と吸着できる吸着材を接触させ、溶液中の目的金属を吸着材に吸着させる吸着工程と、吸着工程を経て、目的金属を吸着した吸着材を逆抽出液に接触させ、吸着材に吸着した目的金属を逆抽出液に移動させる目的金属分離工程とを含むことにより、複数の希土類元素から目的金属(希土類元素の中の特定の元素)を分離することが可能となる。
さらに、目的金属分離工程において吸着材に吸着した目的金属イオンを逆抽出液に移動させた吸着材を再び吸着工程において溶液に接触させたり、逆抽出液に対し、複数回の目的金属分離工程を繰り返すことにより、逆抽出液中の目的金属濃度を高めたり、または被抽出溶液に対し、複数回の吸着工程を繰り返したりすることにより、廃液を減らすことができ、また希土類元素が従来に比べて比較的高濃度に溶解した被抽出溶液からも、目的金属を分離することが可能となる。
さらに、上記抽出方法において、吸着材は目的金属に対して選択分光特性を有する有機化合物であり、呈色反応及び/又は分光特性をモニタリングしながら吸着工程又は目的金属分離工程を行うことにより、目的金属イオンの吸着脱離に対して着色もくしは脱色するため、呈色反応及び/又は分光特性から、被抽出溶液又は逆抽出液中の目的金属の濃度や、吸着量を検出して、各工程の終点管理、溶液や吸着材の追加又は入れ替え、若しくは各種反応条件の変更等の操作を行うことが可能である。
さらに、吸着材は、表面積を広くするためナノレベルの構造物(多孔質や突起等)を備えたものが用いられることが好ましく、その孔や間隙にその前の処理液を多く残存させる場合が多い。この残存液は抽出に対する逆抽出、逆抽出後の抽出のようにひきつづく工程においては酸・アルカリ挙動が逆転するため相互の中和反応に次工程の溶液が消費される。吸着工程又は目的金属分離工程の後、吸着材を遠心力によって脱液処理することは残存液を少なくすることができるので好ましい。さらに、吸着工程又は目的金属分離工程において、径を変更可能でかつ遠心力に耐えるバスケット内に吸着材を配置し、バスケットの径を広げた状態で被抽出溶液又は逆抽出液と吸着材を接触させ、その後、バスケットの径を縮めて吸着材を脱液処理することで、連続的に脱液処理を実行することができ、効率的な抽出を行うことができる。
最初に、本発明の希土類元素の抽出方法を概略的に説明する。本発明の希土類元素の抽出方法は、図1のフローチャートに示すように、希土類元素を含む原料を酸で溶解させることで得られた希土類元素を含む酸性溶液(S11)に、フッ素イオンを添加してフッ化希土類として固体化(S12)させ、フッ化希土類の析出率を高めるために必要に応じてpH調整剤を添加(S13)し、固体化させたフッ化希土類を液相から分離(S14)し、希土類元素を含む酸性溶液からフッ化希土類として希土類元素を抽出することができる。フッ化希土類は、必要に応じて適宜の形態として取り出すことができる(S15)。例えば、そのままフッ化希土類として取り出してもよいし、フッ化希土類を溶解して、フッ素を取り除くことで希土類イオンとして取り出してもよいし、その他の化合物として希土類を取り出してもよい。かかる希土類元素の抽出方法によれば、希土類元素を含む原料、特に希土類元素が少量であり、他の金属が大半の原料(例えば都市鉱石)であっても、簡単に希土類元素を分離することができる。また、
さらに、かかるフッ化希土類又は別の形で取り出した希土類元素を溶解させて、希土類元素の中から選ばれた分離の目的となる特定の元素(以下「目的金属」という)を比較的高濃度で含む金属溶解溶液を準備し、それを被抽出溶液として目的金属を抽出してもよい。本明細書において目的金属とは、金属溶解溶液から分離の対象となる金属であり、イオン状態のものも含む。例えば、図2に示すように、目的金属イオンと吸着できる吸着材を準備(S21)し、被抽出溶液として図1の抽出方法によって得られたフッ化希土類又は別の形で取り出した希土類元素を溶解させて金属溶解溶液を準備(S22)し、被抽出溶液に吸着材を接触させて、金属溶解溶液中の目的金属イオンを吸着材に吸着させる吸着工程(S23)と、かかる吸着材を逆抽出液に接触させ、吸着材に吸着した目的金属イオンを逆抽出液に移動させる分離工程(S25)とを含む希土類元素の抽出方法に利用することができる。分離工程(S25)によって得られた逆抽出液から適宜の方法で目的金属を取り出すことができる(S26)。なお、図2の抽出方法は、図1の抽出方法を前処理として実施した被抽出溶液を使用することが好ましいが、前処理していない金属溶解溶液(例えば図1のS1における酸性溶液)を使用してもよい。
また、廃液を削減し、高濃度の金属溶解溶液を利用可能とするために、被抽出溶液および/又は逆抽出液を繰り返し使用することが好ましい。さらに、分離工程を経た吸着材を回収(S27)し、吸着材を循環して利用することが好ましい。被抽出液および/又は逆抽出液の繰り返し使用と吸着材の循環とは、何れか一方だけでもよいが、両方を併用することがより好ましい。被抽出溶液に吸着材を繰り返し接触させることにより、一回の吸着量は微量であろうと繰り返し回数を重ねることで処理量を増やすことができ、高濃度の金属溶解溶液を利用可能とすることができる。そして、繰り返し接触させる吸着材として、逆抽出の後に洗浄して再び抽出時の吸着材として用いることにより、抽出システムの全体としてみれば、吸着材の一回の処理能力をはるかに超えたイオン濃度を持つ被抽出溶液を使用することができ、イオン濃度あたりの液量を削減することができる。また、逆抽出液についても、目的金属が吸着した吸着材を繰り返し接触させることにより、一回の分離工程による目的金属の濃度増加は微量であろうと繰り返し回数を重ねることで処理量を増やすことができ、高濃度の目的金属を含有する逆抽出液を得ることができる。
希土類元素に対して選択分光特性を有する有機化合物を吸着材とした場合は、図2の吸着工程(S23)や分離工程(S25)において、呈色反応及び/又は分光特性をモニタリングすることにより、その吸光度それ自体や吸光度の変化率などから被抽出溶液や逆抽出液中における目的金属の濃度や、吸着材の吸着量を把握することができる。この結果、半連続的または連続的に抽出処理を行うことができ、効率的に希土類元素を分離することができる。例えば、モニタリングの結果、反応槽内における被抽出溶液中に存在する目的金属がほぼ取り出されたら、反応槽内の被抽出溶液を排出し、新たな高濃度の目的金属を含む被抽出溶液に充填したり、反応槽内における被抽出溶液中に存在する目的金属が所定の濃度以下となった場合に、高濃度の目的金属を含む被抽出溶液を反応槽内に追加したりすることができる。また、被抽出溶液中に存在する目的金属の濃度変化(吸光度変化)が少なくなったら、吸着材による目的金属の吸着がほぼ終了したことを把握できるので、接触させていた吸着材を取り出し、新たな吸着材を接触させてもよい。
また、吸着工程(S23)又は目的金属分離工程(S25)の後、吸着材を脱液処理(S24、S28することが好ましい。さらに、脱液処理としては遠心力を利用したものが簡易かつ低コストであるので好ましい。例えば、径を変更可能でかつ遠心力に耐えるバスケット内に吸着材を配置し、バスケットを反応槽内の被抽出溶液または逆抽出液中に浸漬し、吸着工程又は目的金属分離工程においてはバスケットの径を広げた状態で被抽出溶液または逆抽出液と吸着材とを接触させ、各工程を終了後、バスケットごと溶液から取り出して、バスケットの径を縮めて回転させることにより、遠心力によって吸着材を脱液処理することができる。なお、吸着工程又は目的金属分離工程における広げたバスケットの径は、反応槽の内壁と接触しない大きさとする。
次に、図1及び図2の各ステップについて詳細に説明する。上記のとおり、図1は、希土類元素を含む原料から希土類元素を分離するものであり、図2は、複数の希土類元素の中から目的の希土類元素(目的金属)を分離するものである。
図1のステップ11は、希土類元素を含む原料を酸で溶解させることで得られた希土類元素を含む酸性溶液を準備する工程である。希土類元素を含む原料としては、希土類元素が含まれていれば特に限定されず、例えば、希土類元素を含む天然鉱石、都市鉱石、またはこれらの鉱石を粗精製、加工したものを使用することができる。都市鉱石とは、希土類元素を使用した製品全般であり、本発明は、かかる製品の廃棄物から再び希土類元素を回収するために利用することが可能である。都市鉱石となる製品としては、例えば、磁石(モータ、アクチュエータ、バイブレータ等に使用されることが多い)、蛍光体(テレビ、蛍光灯、LED等に使用されることが多い)、光記憶媒体または光磁気記憶媒体の記録層、自動車用排気ガス浄化触媒等が挙げられ、これらの部品はパソコン、テレビ、携帯電話等にも利用されている。かかる都市鉱石は、希土類元素を含んではいるが、その大半は鉄、銅、コバルト、ニッケル等の希土類元素以外の物質から構成されており、希土類元素は微量である。原料を溶解させる酸としては、原料に含まれる希土類元素を完全に溶解できる強酸が好ましく、例えば、過塩素酸、臭化水素、塩化水素、硫酸、硝酸またはこれらの混合液が挙げられる。なお、原料を完全に溶解できなかったとしても、不溶物が希土類元素以外であれば、むしろ酸性溶液中の不純物(希土類元素以外の元素)を低減できるので好ましい。
ステップ12は、酸性溶液にフッ素イオンを添加する工程である。フッ素イオンとしては、例えば酸性溶液にフッ素化合物であるフッ化水素酸を添加すればよい。酸性溶液にフッ素イオンが添加されると、フッ素と希土類元素イオンとが優先的に結合し、フッ化希土類として析出する。フッ素と希土類元素イオンとの反応は、希土類元素の種類には影響されず、複数種類の希土類元素が混在していた場合は、複数種類のフッ化希土類が析出する。ただし、酸性溶液(原料)中の希土類元素が一種類であれば、図1の抽出方法によって希土類元素を取りだすことができる。
ステップ13は、フッ化希土類の析出率を高めるために、必要に応じて実施される工程であり、酸性溶液中にpH調整剤を添加する工程である。酸性溶液は強酸性であるが、pHを大きくすることにより、フッ化希土類の析出率を高めることができる。pH調整剤としては、酸性溶液のpHを調整することができれば、特に限定されるものではない。例えば、pH調整剤として、pHを大きくする場合はアンモニア、水酸化ナトリウム等のように適当な塩基を使用することができ、pHを小さくする場合は硝酸、塩酸等の適当な酸を使用することができる。
ステップ14は、酸性溶液からフッ化希土類を分離する工程である。フッ化希土類は固体であるから、ろ紙等によるろ過や遠心分離機等の適当な固液分離法によって液相である酸性溶液から固液であるフッ化希土類を分離することができる。分離後の酸性溶液は、そのまま廃液処理してもよいが、酸性溶液中の含有希土類元素が枯渇するまで繰り返し使用してもよいし、さらに酸性溶液中の希土類元素以外の金属元素等の資源を回収する処理を行ってもよい。
ステップ15は、希土類元素を必要な状態で取り出す工程である。例えば、フッ化希土類としてそのまま利用するのであれば、分離したフッ化希土類を洗浄すれば足りるが、希土類元素単体や他の化合物、溶液として利用するのであれば、洗浄後、適当な処理を施してフッ素を除去したり、溶解させたりすればよい。こうして、都市鉱石のように、大半が希土類元素以外の物質から構成されており希土類元素が微量な原料から、簡単に希土類元素を分離することができ、高濃度の希土類元素を含む溶液を得ることができる。また、酸性溶液中に複数種類の希土類元素が含有される場合、図1の分離方法では、複数種類の希土類元素を全体として酸性溶液から分離することは可能であるが、特定の種類の希土類元素を分離するには図2のような更なる分離工程を必要とする。
図2のステップ21は、吸着材を準備する工程である。吸着材は、回収しようとする目的金属を選択的又は優先的にしかも多量に吸着できるものが好ましい。吸着材は、目的金属を分離する点においては分離剤として機能し、また都市鉱石等から金属溶解溶液を経て目的金属を回収する点においては回収剤として機能する。また、吸着材は、吸着工程と目的金属分離工程とを繰り返し使用できることが好ましい。このため、吸着材は、目的金属を吸着または分離するものの被抽出溶液や逆抽出液に対して安定であることが望まれる。吸着材としては、被抽出溶液との接触面積を広くして吸着効率を高めるため、ナノレベルの構造物(多孔質や突起等)を備えた表面積の広いものを使用してもよい。例えば、ゼオライトやメソポーラスシリカ等を吸着官能基で修飾したものを用いることが好ましい。さらに、吸着材が、希土類元素に対して選択分光特性を有する場合は、上述した通り、吸着工程(S23)や分離工程(S25)において、呈色反応及び/又は分光特性をモニタリングすることにより、その吸光度それ自体や吸光度の変化率などから被抽出溶液や逆抽出液中における目的金属の濃度や、吸着材の吸着量を把握することができる。
吸着材は、一種類の希土類元素のみを選択的に吸着することが好ましいが、複数種類の希土類元素を吸着したり、希土類元素とそれ以外の金属とを吸着したりする複数種類の吸着物質を有するものであってもよい。複数種類の吸着物質を有する場合は、目的金属の吸着率が高くなる条件に環境(pH値、溶液濃度や溶液温度等)を調整したり、被抽出溶液中の目的金属以外の吸着物質(以下「妨害物質」という)を取り除いたり、逆抽出液中の妨害物質を他の手段で取り除いたりすればよい。
ステップ22は、少なくとも目的金属を溶解した溶液(金属溶解溶液)を準備する工程である。この金属溶解溶液は、たとえば図1の分離工程で得られたフッ化希土類又は希土類元素を酸性溶液に溶解させたり、溶解させた上で不要な物質(例えばフッ素、固形分等)を除去させたりすることで準備することができる。なお、図1の分離工程を経ずに、直接携帯電話やパソコンなどから得られた都市鉱石を溶解させて金属溶解溶液を得ることもできる。金属溶解溶液には、目的金属以外の希土類元素、さらに他の金属イオンと混在していても基本的には問題ない。例外的に一部の金属イオンが目的金属と同時に又は優先して吸着材に吸着することにより目的金属の選択分離を妨害する場合もあるが、その妨害物質が希土類元素でない限り、従来から既知の化学処理による沈殿分離などで金属溶解溶液から妨害物質を事前に取り除いておけば問題はない。つまり、金属溶解溶液を準備する工程(S22)には、妨害物質を金属溶解溶液から除去する工程を加えてもよい。なお、都市鉱石だけではなく、天然の希土類元素含有鉱石を溶解させて金属溶解溶液を準備してもよい。
また、金属溶解溶液を吸着材が選択分離特性を示す環境に調整することが好ましい。その一つとしては、金属溶解溶液の前処理として、金属溶解溶液中のpH調整や化学処理等を行い目的金属以外の金属を析出沈殿させ除去しておくなどの方法によって、金属溶解溶液中の目的金属以外の金属をあらかじめ少なくしておくことが好ましい。また、吸着材の中には、金属溶解溶液のpH値、溶液濃度や溶液温度等によって、妨害物質に対する目的金属イオンの選択性や吸着率が変化するものもあり、金属溶解溶液のpH値、溶液濃度や溶液温度等を調節すれば、効率的に目的金属を吸着させることができる。また高pH溶液の場合には、目的金属イオンが水酸化物として沈殿損失する場合もあるので、シュウ酸等の溶液中において錯体形成分子を添加し、高pH領域における目的金属の沈殿を防止しても良い。このように、調整段階において金属錯体形成能を促進する添加分子(pH調整剤、沈殿防止剤等)を加えて、目的金属の分離反応の促進に資することは好ましい。なお、環境調整は必須のものではない。元素、純度や条件に応じて、必要な範囲で調整すれば足りる。妨害物質が存在する金属溶解溶液から、純度の高い元素を一度の抽出−逆抽出の工程で得るためには、金属溶解溶液の環境を厳密に調整しなければならない場合がある。しかし、ある程度の不純物の混在が許容される場合や、他の手法による妨害物質や不純物の分離が可能な場合等には、厳密な条件調整を行わずに、吸着材に目的金属が吸着される範囲の環境調整で吸着工程を行ってもよい。妨害物質と目的金属である希土類元素との分離が容易であれば、環境を厳密に調整するよりも、金属溶解溶液や逆抽出した後の逆抽出液から妨害物質を分離する方が効率的な場合もある。また、妨害物質を含む逆抽出液に対し、さらに他の吸着材を担持した多孔質構造体による抽出工程や多段抽出法を実施してもよい。多段抽出法を実施する場合であっても、吸着材によって目的金属濃度の高い逆抽出液を出発とするため、大幅に時間も、コストも、廃棄溶液も減らすことができる。
ステップ23は、金属溶解溶液中に吸着材を浸漬等して金属溶解溶液と吸着材と接触させる吸着工程である。この接触により、吸着材に金属イオンが吸着される。吸着材は、一定の条件(pH値、温度、濃度等)下で目的金属を選択的に又は優先的に吸着するので、その条件下の金属溶解溶液中に吸着材を浸漬すれば、目的金属だけを吸着した吸着材を得ることができる。たとえば、目的金属イオンを最も良く吸着するpH値に調整された金属溶解溶液に吸着材を接触(浸漬を含む)させ、吸着材に目的金属を選択的に大量に吸着することができる。しかし、条件などの多少の変動により、目的金属の他に、目的金属以外の金属が吸着された吸着材が得られる可能性もある。この段階は、目的金属(イオン)を吸着材に吸着する工程であるから、目的金属(イオン)吸着工程と呼ぶことができる。
調整された金属溶解溶液に吸着材を接触させ、目的金属である希土類元素を吸着材の官能基に吸着させる吸着工程において、接触の方法はたとえば、浸漬によるもの、カラム通過によるもの、粒子状の吸着・分離・回収材の混合攪拌によるもの、膜透過によるもの等がある。なお接触の有効性を選択分光効果による呈色反応や分光測定で確認しながら連続もしくは不連続的に接触させるモニタリング法と組み合わせて効果的かつ効率的な接触を行なわせることも可能である。
図3は、呈色反応を示す吸着材における希土類元素イオン濃度をパラメータにとった分光スペクトルの測定結果の一つである。図3の350nm〜650nmの波長を有する分光スペクトルにおいて、一番下に示す曲線は希土類元素イオンを含有していない溶液(0ppb)についての分光曲線であり、一番上に示す曲線は希土類元素イオンを2000ppb(2ppm)含有した溶液についての分光曲線である。溶液中の希土類元素イオンの濃度が増えるに従い吸光度が増加し、溶液中の染料が増加していることが確認できる。呈色反応を示さない吸着材の同様の実験では、分光スペクトルの濃度依存性を示さなかったことから、吸光度の変化(染料濃度の変化)は希土類元素イオンの吸着量に相関していることが分かる。図5から分かるように、分光特性を測定しながら目的金属を吸着させると、どの程度吸着材に目的金属が吸着したかや、おおよその濃度も知ることが可能である。
なお、吸着工程(S23)において、吸着材が妨害物質も吸着した場合、目的金属以外の金属だけを遊離(分離)できる溶液中に吸着材を浸漬して、目的金属以外の金属を除去してほぼ目的金属だけを吸着した吸着材とする目的外金属分離工程を設けることが好ましい。或いは、pH値や温度や溶液濃度などの条件調整により目的金属以外の金属を除去してほぼ目的金属だけを吸着した吸着材にできる場合もある。なお、吸着工程(S23)において目的金属以外の金属の吸着が非常に少ない場合や、妨害物質が目的金属の用途に影響しない場合や、目的金属分離工程(S25)において目的金属だけを遊離できる方法がある場合には、目的外金属分離工程は設けなくてもよい。
たとえば、溶液の条件によって吸着する元素が異なる複数の条件が存在する場合、金属溶解溶液や逆抽出液の条件を変更して複数回の吸着−分離工程を繰り返すことで、所望の複数の元素を得ることもできる。例えば、複数の元素(目的金属A及び目的金属B)を吸着する第1の条件の金属溶解溶液に吸着材を浸漬させて、目的金属A及び目的金属Bを吸着させて、第1の逆抽出液に目的金属A及び目的金属Bを分離した後、逆抽出液を単独の元素(目的金属A)しか吸着しない第2の条件にして再び吸着材を浸漬させて、吸着材に目的金属Aを吸着させて、第2の逆抽出液に目的金属Aを分離すれば、金属溶解溶液から第1の逆抽出液に目的金属Bを分離し、第2の逆抽出液に目的金属Aを分離することが可能である。又は、第2の条件の金属溶解溶液に吸着材を浸漬させて第1の逆抽出液に金属溶解溶液中の目的金属Aを全て分離した後、金属溶解溶液を第1の条件にして、吸着材を浸漬させると、既に金属溶解溶液中の目的金属Aは全て分離されているので目的金属Bのみが吸着し、第2の逆抽出液に目的金属Bを分離することができる。
ステップ24は、必要に応じて設けられる吸着材の脱液処理である。ステップ23の吸着工程において金属溶解溶液が付着した状態の吸着材を、その後のステップ25の目的金属分離工程において逆抽出液と接触させると、金属溶解溶液が逆抽出液に混合されてしまい、金属溶解溶液中の目的金属以外の元素が逆抽出液に混入してしまう。この点については、吸着材を充分に洗浄すれば回避可能であるが、洗浄処理を簡易化し、洗浄廃液を低減させるために脱液処理を行うことが好ましい。さらに、同じ金属溶解溶液に対し繰り返し吸着工程を行う場合、吸着材に付着した金属溶解溶液を脱液処理により回収することで、金属溶解溶液の液量の減少を抑えることが可能である。
脱液処理としては、吸着液に付着した金属溶解溶液を分離可能であれば特に制限されるものではないが、金属溶解溶液の回収を目的とする場合は金属溶解溶液をそのまま回収可能な物理的な手段によって脱液することが好ましい。特に、遠心力を利用したものが簡易かつ低コストであるので好ましい。例えば、径を変更可能でかつ遠心力に耐えるバスケット内に吸着材を配置し、バスケットを反応槽内の被抽出溶液または逆抽出液中に浸漬し、吸着工程又は目的金属分離工程においてはバスケットの径を広げた状態で被抽出溶液または逆抽出液と吸着材とを接触させ、各工程を終了後、バスケットごと溶液から取り出して、バスケットの径を縮めて回転させることにより、遠心力によって吸着材を脱液処理することができる。なお、吸着工程又は目的金属分離工程における広げたバスケットの径は、反応槽の内壁と接触しない大きさとする。
ステップ25は、目的金属を吸着した吸着材を逆抽出液に接触させて、吸着材に吸着した目的金属を逆抽出液に分離する目的金属分離工程である。逆抽出液は、目的金属を溶解可能な溶液であり、pH値や温度や溶液濃度などの条件調整により目的金属だけを遊離(分離)できる場合もある。吸着工程において吸着材に目的金属を吸着させることを目的金属の抽出と捉えた場合に、この工程は吸着材から目的金属を遊離(分離)するので逆抽出工程と捉えることもできる。目的金属だけを遊離(分離)できる場合は、金属溶解溶液からの抽出−逆抽出工程を繰り返すことにより、金属溶解溶液中の目的金属を逆抽出液に分離及び濃縮することが可能である。逆抽出液への接触も吸着工程における金属溶解溶液との接触と同様に、浸漬によるもの、カラム通過によるもの、粒子状の吸着・分離・回収材の混合攪拌によるもの、膜透過によるもの等を適宜採用できる。この目的金属分離工程においても、吸着工程と同様に、分光特性を測定することにより逆抽出の進行をモニタリングすることもできる。逆抽出は官能基の錯体形成の化学雰囲気を離脱性のものに変えることによって行なうことができる。たとえば、pH調整が代表的なものであるが、NO3 -イオン、SO4 2-イオンなどの存在でその反応を促進しても良い。なお、目的金属分離工程の前に吸着材は洗浄処理されていることが好ましい。
ステップ26は、目的金属を必要な状態で取り出す工程である。例えば、逆抽出液中に目的金属以外の元素が混在していた場合には、それらを分離する処理を施したり、必要に応じて目的金属を逆抽出液から析出させたりする。例えば、逆抽出液を蒸発させて、酸化希土類の形で取り出すこともできる。
図4は、本発明の希土類元素の分離方法を実施する設備の概略ブロック図の一例である。設備は、酸性溶液タンク、固液分離装置、金属溶解溶液タンク、処理槽、逆抽出液タンク、洗浄液タンク及び回収装置を含んでおり、各タンク及び槽には、それぞれ薬液供給手段と排液手段とが備えられている。また、各タンクに及び槽には、必要に応じて、攪拌手段や温度調整手段が備えられており、さらに液量検知手段、温度検出手段、pH検出手段、分光光度計等の各種センサを設けることが好ましい。
酸性溶液タンクは、強酸にも耐えられる材質から構成され、希土類元素を含む原料を溶解させた酸性溶液を準備する槽である。酸性溶液タンク内の酸性溶液には、薬液添加手段によってpH調整剤やフッ素化合物が添加される。固液分離装置は、酸性溶液にフッ素化合物を添加することにより析出したフッ化希土類を液体から分離する手段である。固液分離装置としては、ろ過分離、膜分離方式のものを採用することができる。さらに、固液分離装置の後段にフッ化希土類を洗浄し、乾燥させる洗浄乾燥装置を設けてもよい。
金属溶解溶液タンクは、希土類元素が溶解した金属溶解溶液を保持する槽である。特に金属溶解溶液タンクには、金属溶解溶液の条件を適切に調整するために、温度検出手段、pH検出手段、分光光度計等の各種センサを設け、薬液添加手段によって金属溶解溶液にpH調整剤、沈殿防止剤等を添加できるように構成されていることが好ましい。また、フッ化希土類のフッ素は溶液を塩基性とする事でフッ化ナトリウム等となり除去できる。この作業は、金属溶解溶液タンクの前処理として前処理槽において行ってもよいし、金属溶解溶液タンクにおいて行ってもよい。なお、金属溶解溶液の条件調整は、続く処理槽において行ってもよい。
処理槽は、供給する溶液を適宜切り替えることにより、吸着処理、脱液洗浄処理及び目的金属分離処理を行う槽である。処理槽には、金属溶解溶液タンクからの金属溶解溶液、逆抽出液タンクからの逆抽出液及び洗浄液タンクからの洗浄液がそれぞれ供給可能に連結されている。また、廃液量を抑え、資源を有効に使用し、反応効率を向上させるために、処理槽の排出系から排出される処理後の金属溶解溶液(希土類元素の濃度が低下している)、逆抽出液(希土類元素の濃度が増加している)及び洗浄液をそれぞれのタンクに還流させる複数の排出系を有している。かかる循環系を有していることによって、金属溶解溶液中に含まれる目的金属のほぼ全量を吸着材に吸着させることができ、資源を有効活用でき、廃液を減らすことができる。また、逆抽出液中に多量の目的金属を含有させることができ、その後の目的金属の回収を容易にし、廃液を少なくすることができる。また、金属溶解溶液タンク、逆抽出液タンク及び洗浄液タンクは、それぞれ処理後の金属溶解溶液、逆抽出液及び洗浄液を溜める循環用タンクを有していてもよい。さらに、薬液添加手段によって金属溶解溶液や逆抽出液にpH調整剤、沈殿防止剤等を添加してもよい。なお、いうまでもないが、それぞれのタンクを連結する配管については、流路を遮断するバルブや流路を確保するためのポンプなどが適宜設けられている。
また、処理槽は、内部に吸着材を内包するバスケットが配置される。バスケットには回転軸と駆動制御部が取り付けられており、駆動制御部によってバスケットを所望の回転数に制御する。バスケットの径は可変であることが好ましく、手動で径を変更するものであっても、駆動制御部によって自動で径を変更可能なものであってもよい。バスケットは、図4に示すように、脱液処理時においては径が短くなり、遠心力による吸着材の脱液効果を高め、吸着時又は逆抽出時においては径を長くして、吸着材と溶液との接触を容易にし、反応効率を高めることが好ましい。
逆抽出液タンクは、希土類元素を吸着した吸着材から目的金属を逆抽出するための逆抽出液を貯蔵又は保持しておく槽である。特に逆抽出液タンクには、逆抽出液のpH値や温度や溶液濃度などの条件を適切に調整するために、温度検出手段、pH検出手段、分光光度計等の各種センサを設け、薬液添加手段によってpH調整剤、沈殿防止剤等を添加できるように構成されていることが好ましい。なお、これらの逆抽出液の条件調整は、処理槽において行ってもよい。
洗浄液タンクは、洗浄液を貯蔵又は保持しておく槽である。洗浄液としては、典型的には水を使用することができる。また、洗浄液としては、吸着材と反応したり、目的金属を吸着材から分離させたりしなければ特に制限されるものではない。回収装置は、目的金属を回収するものであり、逆抽出後の妨害物質の分離等の後処理を行う装置も含んでいる。回収方法としては特に制限されるものではなく、蒸発による酸化物の状態での回収等を適宜使用することができる。
図5は、本発明の希土類元素の分離方法を実施する設備の概略ブロック図の他の一例である。図4の設備では、一つの処理槽において、供給する溶液を適宜切り替えることにより、吸着処理、脱液洗浄処理及び目的金属分離処理を行うバッチ方式であったが、図5の設備においては、吸着処理、吸着処理後の洗浄処理、目的金属分離処理及び目的金属分離処理後の洗浄処理のそれぞれに吸着槽、洗浄槽、分離槽及び洗浄槽を設け、吸着材を内包したバスケットが各槽の間を移動する半バッチ方式とすることもできる。図5においては、吸着槽及び分離槽をバスケット高さの約2倍以上の縦長のカラムとして、金属溶解溶液及び逆抽出液を半分程度満たした状態(図5中の一点鎖線以下の斜線部)で、径を長くしたバスケットを各溶液に浸漬させて吸着処理及び分離処理を行い、その後、バスケットの径を短くして溶液から引き上げた状態で、回転させることで吸着槽及び分離槽内において、溶液を排出することなく遠心脱液を可能な構成(図5の脱液処理状態)としている。さらに、図5の設備には、図示しないバスケット搬送手段を有している。バスケット搬送手段は、駆動制御部とバスケットを取り外して、バスケットのみを搬送する態様でもよいし、駆動制御部を取り付けた状態でバスケットを搬送してもよい。なお、吸着槽及び分離槽と洗浄槽との間に別途脱液槽を設けてもよい。
[実施例1] 原材料としてハードディスクドライブ(HDD)に使用されるネオジム磁石8.57gをHCl20mL、HNO
320mLの王水で溶解し、それを200mLに希釈した後、20mLを分取して酸性溶液を準備した。表1はICP発光分光分析により求めた原材料における組成比を示す。表1に示す通り、酸性溶液には、約230mgの希土類元素(Nd及びDy)が含まれる。
図6は、その溶液に対しフッ化水素酸(HF)を1mL及び3mL添加したものと、更にpH調整剤(アンモニア)によってpHを2〜3にしたものとの固体化した希土類元素の固体化率を測定したものである。pH調整剤を添加したものは少ないフッ化水素酸量でほぼ固体化し、溶液から分離した。この時、溶液は酸性であるため鉄、銅、ニッケルなど量的に多い他の金属成分は溶液中にとどまったままであり、希土類だけが優先的なフッ化物として固体化される。固体化に用いるフッ化水素酸量を減らす事は廃液処理費用の低減化となる。
このフッ化希土類をろ過によって固液分離し、強酸(例えば硝酸、塩酸またはこれらの混合溶液)に再溶解させて金属溶解溶液の原液を得た。図7は、固体化したフッ化希土類を再溶解させた時の溶液のpHの影響を示すものであり、pH調整剤として強酸(例えば硝酸、塩酸またはこれらの混合溶液)や塩基(アンモニア、水酸化ナトリウム等)を添加することによってpH1、2及び3とした時の50μgのフッ化ネオジム及びフッ化ジスプロシウムの固体化率である。図7から、pHを1以下とすることで、固体化したフッ化希土類をほぼ溶解させることができることが分かる。金属溶解溶液に前処理として、キレート剤を添加して希土類元素イオンの安定化処理を行った。かかる前処理後の金属溶解溶液に対し、pH調整剤によって適当な条件(本実施例ではpH11)に調整し、フッ素をフッ化ナトリウム等として除去し、吸着材を金属溶解溶液に浸漬させることにより、特定の希土類元素を吸着材に吸着させた。吸着工程後の吸着材は、洗浄後、逆抽出液としての硝酸に浸漬され、吸着材に吸着した希土類元素を硝酸中に分離した。なお、本実施例においてはpHを高くしたので、キレート剤によって希土類元素イオンの安定化処理を行ったが、適当なpHが低い場合は、希土類元素イオンは安定であるからキレート剤の添加は不要である。
かかる実施例1において、吸着材は、一回の吸着工程によって金属溶解溶液中の約10ppmの希土類元素イオンを吸着することができた。この吸着性能からすると、一回の吸着処理によって金属溶解溶液中の希土類元素を全て吸着させるためには、金属溶解溶液中の希土類元素イオン濃度を10ppmと低濃度にせざるを得ず、希土類元素1kg当たりに必要となる金属溶解溶液は約100kLという膨大な量が必要とされる。そして、この約100kLの溶液は、処理後に廃液として処理されることになる。しかし、本実施例においては、金属溶解溶液の循環使用と吸着材の循環使用とによって、1%という高濃度の希土類元素を含有した金属溶解溶液を用いて吸着処理することができた。この結果、本実施例において必要とされる金属溶解溶液は、希土類元素1kg当たり約1kL程度まで軽減することができ、廃液量を劇的に低減させることができる。
[実施例2] 本実施例においては、1mg/L(1ppm)の目的金属イオン(Lnx
3+)とともに4ppmのFe
3+、Pd
2+を含む溶液(A)、1mg/L(1ppm)の目的金属イオン(Lnx
3+)とともに10ppmの3種類のランタノイドイオン(Ln1
3+、Ln2
3+、Ln3
3+)を含む溶液(B)を金属溶解溶液として準備し、吸着材による各種元素の濃度変化を実験した。表2は、処理前の金属溶解溶液、処理後の金属溶解溶液及び逆抽出液における目的金属イオン(Lnx
3+)の濃度及び共存イオンの濃度を示すものである。表2から明らかなように、溶液(A)及び(B)の何れにおいても、吸着材によって金属溶解溶液中の目的金属イオンを逆抽出液に分離することができた。
本発明は都市鉱石に含まれる希少金属を効率よく安価に取り出す材料及びその方法を提供するものであるが、上記の説明からも分かるように、都市鉱石ばかりではなく、各種金属を含む通常の鉱石からの金属の抽出・吸着・逆抽出にも適用できるし、金属が溶け込んだ溶液からの金属の抽出・吸着・逆抽出にも適用できる。また、上述した以外の金属(希少金属やそれ以外も含む)に対しても、当該金属を選択的に吸着可能なキレート化合物のような吸着材をナノ構造体に担持すれば、それを用いて目的金属を抽出・吸着・逆抽出して、金属を回収できることは明白である。なお、明細書のある部分に記載し説明した内容を記載しなかった他の部分においても矛盾なく適用できることに関しては、当該他の部分に当該内容を適用できることも言うまでもない。