本発明は、冷却プールに貯蔵されている核燃料の崩壊熱を大気などに放散させて核燃料を冷却するためのシステムに関するものである。
この種の装置の一例が特開平11−183695号公報に記載されている。その装置は、海面に浮かぶ構造体の内部に、使用済み核燃料を冷却水に浸漬して収容している本体を保持し、その本体の外壁面を海水によって冷却するように構成されている。その本体は区画壁によって上下に二分されており、上側の区画に使用済み核燃料の搬入室が形成され、下側の区画に冷却水を貯留するプールが形成されている。使用済み核燃料は収納管に収容されており、その収納管の上端部が前記区画壁に固定され、下端部が前記プール内の冷却水に浸漬されている。使用済み核燃料の熱によって温められた冷却水は、海水との間接的な熱交換により冷却される。そのため、特開平11−183695号公報に記載されている発明によれば、使用済み核燃料を海上で冷却しながら保管することができる、とされている。
貯蔵されている核燃料から発する熱をヒートパイプによって外部に輸送して核燃料を冷却する装置が、特開昭54−156998号公報や特開2012−230079号公報にも記載されている。これらの公報に記載された装置では、いずれも、核燃料が浸漬されている貯蔵槽水もしくは燃料プール水の内部にヒートパイプの下端部が浸漬され、かつそのヒートパイプの上端部が、貯蔵槽もしくは燃料プールに隣接して設けられている煙突もしくはダクトの内部に配置されている。したがって、核燃料によって貯蔵槽水もしくは燃料プール水が加熱され、その熱がヒートパイプを介して煙突もしくはダクトの内部に運ばれて大気中に放散させられる。
また、特開2007−256230号公報には、使用済み核燃料が発する熱を発電に使用するように構成された装置が記載されている。その装置では、核燃料容器内に収容した使用済み核燃料を崩壊熱によって溶融させ、その核燃料容器を取り囲むように供給された冷却水を崩壊熱によって蒸発させ、その蒸気でタービンを駆動するように構成されている。また、核燃料容器の内部の熱をヒートパイプによって冷却水蒸気に伝達するように構成されている。
なお、プール内の水によって太陽熱を蓄えるように構成された装置が知られており、その一例が国際公開第2002/073099号に記載されている。この国際公開第2002/073099号に記載されたプールは、ソーラーポンドと称され、プールにおける水面側に塩分濃度が低い上層を形成し、底部側に塩分濃度が高い下層を形成し、その下層に太陽熱を蓄えるように構成されている。
核燃料の冷却に使用される冷却水はその温度が上昇して体積が増大すると、その密度が小さくなるのでプールの上方に移動する。一方、温度が低い冷却水は体積が小さくその密度が大きいためプールの底部側に移動する。したがって、特開平11−183695号公報あるいは特開昭54−156998号公報や特開2012−230079号公報に記載された装置においては、対流によって冷却水の水面側の温度がそれより下側の部分より高くなりやすく、そのために水面での蒸発が促進されて、プールの水位が低下し、貯蔵されている核燃料が大気中に露出してしまう可能性がある。特に、特開平11−183695号公報に記載された構成では、使用済み核燃料はプールの底部に沈められていないので、プールの底部に沈められている場合と比較して、その周囲の冷却水との温度差が小さい。そのため、冷却水による使用済み核燃料の冷却効率が低下してしまう。
なお、特開2007−256230号公報に記載された装置は、使用済み核燃料を貯蔵するのではなく、核反応を継続させるように構成された装置であり、運搬や廃棄などに備えて核燃料を貯蔵するための装置には適用することができない。同様に、国際公開第2002/073099号に記載されたソーラーポンドは、蓄熱を行うための装置であるから、不可避的に発熱する使用済み核燃料の冷却に直ちには適用することができない。
本発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、プールに保管される核燃料を効果的に冷却できかつ蒸発によるプールの水溶液面の低下を抑制できる冷却システムを提供することを目的とするものである。
本発明は、上記の目的を達成するために、プール内の水溶液の底部に沈めて保管されている核燃料を冷却する貯蔵核燃料の冷却システムにおいて、前記プールの内部に、密度の小さい前記水溶液によって液面側に形成された上層と、前記上層の水溶液より密度が大きい前記水溶液によって前記プールの底部側に形成された下層と、密度が前記上層の水溶液の密度と前記下層の水溶液の密度との中間の密度の前記水溶液によって前記上層と前記下層との間に形成された中間層とが設けられ、作動流体の潜熱として熱輸送を行うヒートパイプの下端部が前記下層の前記水溶液と熱授受する箇所に配置されるとともに、前記ヒートパイプの上端部が大気中に露出され、前記核燃料は、前記下層中に浸漬されていることを特徴とするものである。
上記の構成によれば、核燃料から発した熱は、前記下層を形成している高密度の水溶液に熱を奪われて冷却される。また、高密度の水溶液は、ヒートパイプの下端部に熱を伝達して温度の上昇が抑制される。ヒートパイプは、下端部の温度が高くなることにより前記作動流体が蒸発し、その蒸気が、大気中に露出させられている上端部側に流動し、大気によって冷却されている上端部で放熱して凝縮する。すなわち、下層の水溶液の熱をヒートパイプによって大気中に放出するので、核燃料が冷却される。下層の水溶液は、核燃料によって加熱されて温度が高くなるから、その水溶液の対流が生じる。しかしながら、下層ないし上層の水溶液の密度が上述のように異なっていてそれぞれの層の水溶液の拡散係数が相違しているので、下層の水溶液の対流は下層の内部にとどまる。すなわち前記プール内の対流は二重拡散対流となる。その結果、核燃料から発した熱は前記下層に集中し、その下層からヒートパイプによって大気中に熱が放散させられるから、核燃料を効率よく冷却することができる。また、水面温度の上昇を抑制して水面からの水溶液の蒸発を抑制することができる。そのため、プールの冷却液量もしくは液面高さを維持することが容易になる。また本発明では、ヒートパイプによって水溶液の熱を熱輸送して大気中に放散するため、電力の供給が断たれた場合であっても、核燃料の発する熱による水溶液の温度上昇を抑え、核燃料を継続して十分に冷却することができる。
本発明では、前記下層の水溶液は、塩を水に溶解させかつ塩分濃度が高い塩水とし、前記中間層の水溶液は、塩を水に溶解させかつ塩分濃度が前記下層の塩水より低濃度の塩水とし、前記上層の水溶液は、塩を水に溶解させかつ塩分濃度が前記中間層の塩水より低濃度の塩水もしくは塩分を含まない水とすることができる。
このような構成であれば、核燃料を保管するプール内に上記の上層および中間層ならびに下層を容易に形成することができる。
さらに、本発明では、前記下層の前記水溶液は、前記核燃料が発する熱によって温度が上昇した状態での密度が、前記中間層における前記密度の小さい水溶液の密度より大きい冷却液であってよい。
このような構成であれば、上述した上層および中間層ならびに下層を安定的に形成しておくことができる。
本発明では、前記ヒートパイプの下端部は、前記プールにおける前記下層中に浸漬された状態で前記プールの内部に配置されていてよい。
このような構成であれば、ヒートパイプの下端部と水溶液とが直接接触するので、両者の間の熱抵抗を低減して、核燃料の冷却効率を向上させることができる。
また、本発明では、前記ヒートパイプの下端部は、前記プールを構成している躯体の内部に埋設されていてもよい。
このような構成では、ヒートパイプが水溶液に接触しないうえに、放射線による被曝量が少なくなるので、ヒートパイプの耐久性の向上の点で有利である。
本発明に係る冷却システムの一例を模式的に示す図である。
その冷却システムにおけるプールでの塩分濃度の分布を模式的に示す図である。
塩化ナトリウム水溶液を満たし、かつ底部に発熱体を配置したプールにおける深さ方向での塩水の密度の分布を測定した結果を示すグラフである。
そのプールにおける深さ方向での温度の分布を測定した結果を示すグラフである。
本発明に係る冷却システムの他の例を模式的に示す図である。
つぎに本発明を具体的に説明する。図1は、本発明に係る貯蔵核燃料の冷却システムの一例を示しており、格納部1の内部にプール2が設けられている。格納部1は、通常時は閉鎖されて外部から遮断された密閉構造の建屋あるいは密閉室である。そのプール2はその躯体2aが例えばコンクリートによって形成されており、図示しないラックに収容した核燃料3の全体を十分に浸漬できる量の冷却液4を貯留している。その核燃料3は、使用済みのものであってよく、あるいは使用開始前のものであってもよく、プール2はその核燃料3を底部に沈めて保管するように構成されている。図1に示す例では、その核燃料3の周囲(したがってプール2の底部)にヒートパイプ5の一端部(下端部)5aが配置され、かつ他端部(上端部)5bが格納部1の外部(すなわち大気中)に配置されている。その他端部5bには、放熱面積を広くするために、多数のフィン6が取り付けられている。したがって、図1に示す例では、核燃料3の熱を、ヒートパイプ5を介して大気中に放散するように構成されている。
ヒートパイプ5の基本的な構成は、従来知られている通りであり、その構成を簡単に説明すると、ヒートパイプ5は空気などの非凝縮性の気体を脱気したコンテナの内部に、目的とする温度範囲で蒸発および凝縮する作動流体が封入されて構成されている。そのコンテナは、要は、気密性のある中空の容器であり、例えばパイプが使用される。このコンテナは、その内部と外部との間で熱を伝達する必要があるので、熱伝導性を有する素材で構成されていることが好ましく、例えば銅管やステンレス管を使用することが好ましい。なお、コンテナの内部に、作動流体の流路となり、また毛管現象を生じるウイックや溝を設けてもよい。作動流体は加熱されて蒸発し、かつ放熱して凝縮することにより、潜熱の形で熱を輸送する流体であり、その一例を挙げると、水やアルコール、代替フロンなどが使用される。したがって、上述した構成のヒートパイプ5では、コンテナの一部に熱を加え、かつ他の一部を冷却すると、作動流体が加熱されて蒸発し、その蒸気が温度および圧力の低い箇所に向けて流動し、その後、放熱して凝縮する。図1に示す例では、ヒートパイプ5の一端部5aが作動流体が蒸発する蒸発部となっており、他端部5bが作動流体蒸気が放熱して凝縮する凝縮部となっている。
ここで説明している冷却システムでは、冷却液4として予め定めた濃度に調整した塩水(水溶液)が使用されている。プール2の底部側すなわち下層に密度の高い塩水の層を形成し、液面as側すなわち上層に密度の低い塩水(もしくは塩分を含まない水)の層を形成している。以下の説明では、前者を下層LCZと記し、後者を上層UCZと記す。そして、これらの層の間に中間層NCZが形成されており、この中間層NCZは、上層UCZの塩水の密度と下層LCZの塩水の密度との中間の密度の塩水からなる層であって、上層UCZと下層LCZとの間で塩分濃度の勾配が生じるように構成されている。なお、上記の塩としては、例えば塩化ナトリウムおよび塩化マグネシウムならびに塩化カルシウムなどを使用することができる。したがって、これらの上層UCZおよび中間層NCZならびに下層LCZは、拡散係数の互いに異なる冷却液4によって形成されている。
図2に、上記のプール2での塩分濃度の分布の一例を示してあり、例えば下層LCZにおける塩分濃度は15wt%から30wt%の範囲であり、この下層LCZに使用済み核燃料3が浸漬される。上層UCZにおける塩分濃度は5wt%から10wt%の範囲であり、下層LCZを形成している塩水の塩分濃度よりも低い。この上層UCZの高さあるいは幅は、下層LCZにおける高さあるいは幅よりも低くなっている。
上記の下層LCZにおける塩水は、その温度が上昇した状態での密度が、中間層NCZにおける塩水の密度よりも高くなるように調整されている。図2に示すプール2においては、上層UCZと下層LCZとにおいては対流が生じる。一方で、中間層NCZにおいては対流が生じない。つまり、本発明では、プール2内に二重拡散対流が生じるように構成されており、プール2の全体に亘る対流が生じないようになっている。このような密度もしくは塩分濃度が異なる層構造は、従来知られているソーラーポンドと同様にして構成すればよい。具体的には、先ず、下層LCZを形成する高密度(高濃度)の冷却液4を、核燃料3を完全に沈めることができる程度の深さまでプール2内に注入する。その冷却液4の対流もしくは擾乱がある程度収まった後に、中間層NCZを形成する前述したいわゆる中密度(中濃度)の冷却液4を、下層LCZの冷却液4の上側に注入する。その場合、既に注入してある下層LCZの冷却液4を過度に攪拌したり、あるいはその冷却液4に混ざり込まないように、中密度(中濃度)の冷却液4を静かに注入する。そして、その中密度(中濃度)の冷却液4の対流もしくは擾乱がある程度収まった後に、上層UCZを形成する前述したいわゆる低密度(低濃度)の冷却液4もしくは水を、中間層NCZの冷却液4の上側に注入する。その場合、既に注入してある中間層NCZの冷却液4を過度に攪拌したり、あるいはその冷却液4に混ざり込まないように、低密度(低濃度)の冷却液4もしくは水を静かに注入する。このように冷却液4をプール2に注入する過程および注入完了後においてプール2やその内部の冷却液4に機械的な振動や攪拌力などの外力を加えずに放置することにより、上述した下層LCZおよび中間層NCZならび上層UCZをプール2内に形成することができる。なお、各層にそれぞれに応じた密度もしくは濃度の冷却液4を適宜供給してもよい。
塩化ナトリウムを水に溶解させた塩水を上述したように層分離させたプールにおける密度分布および温度分布の例を図3および図4に示す。ここに示す例は、深さが2.0m、直径が8.0mのプールにほぼ満杯まで塩水を注入し、その底部に発熱体として太陽熱集熱器を配置して深さ方向における塩水の密度分布および温度分布を測定したものである。図3は密度分布を示し、線D1は図3に示す四例のうち発熱量(太陽光線強度)が少ない場合、線D2は発熱量(太陽光線強度)が中程度の場合、線D3および線D4は発熱量(太陽光線強度)が多い場合の密度分布をそれぞれ示す。また、図4は温度分布を示し、線T1は図3における線D1で示す密度分布を測定した際の温度分布を示し、以下同様に線T2は図3の線D2に対応する温度分布、線T3は図3の線D3に対応する温度分布、線T4は図3の線D4に対応する温度分布をそれぞれ示す。なお、これらの密度分布および温度分布は、プールの底部に設けた発熱体の発熱量(すなわち太陽光線の強度)の相違が明確になるようにするために、3ヶ月ないし4ヶ月の期間を空けて測定した。これら図3および図4に示す測定結果から明らかなように、プールの底部側での発熱による温度上昇あるいはそれに伴う対流を密度(塩分濃度)の高いいわゆる下層にとどめることができる。また、温度の上昇する領域を下層にとどめることができる。
上記のようにして形成された下層LCZに浸漬されている核燃料3は崩壊熱を発するので、その熱によって下層LCZの冷却液4が温められて、その冷却液4の対流が生じる。その結果、下層LCZは高温高塩分濃度の冷却液層となり、その上に低温低塩分濃度の冷却液層が形成された状態になるので、下層LCZでの冷却液4の対流は、下層LCZすなわちプール2の底部にとどまる。その結果、核燃料3で発した熱は下層LCZに集中する。そして、プール2の底部側には、ヒートパイプ5の下端部である蒸発部5aが冷却液4との間で熱授受するように配置されているから、下層LCZにおける冷却液4の熱すなわち核燃料の崩壊熱がヒートパイプ5に伝達され、そのヒートパイプ5を介して大気中に放散させられる。その場合、核燃料3から発生した熱が、ヒートパイプ5の下端部5aが配置されている下層LCZに集中しており、またヒートパイプ5の下端部が冷却液4中に直接浸漬されているので、冷却液4とヒートパイプ5との間の熱抵抗が小さくなり、またヒートパイプ5に対する熱伝達の効率が良好になり、ひいてはヒートパイプ5を介した核燃料3の冷却効率が良好になる。一方、上層UCZにおいては、下層LCZでの冷却液4の対流が及ばないことに加えて、中間層NCZにおける冷却液4を介した熱伝達が少ないために、その温度が低くなっている。そのため、液面asからの冷却液の蒸発が抑制されている。
図5に、本発明に係る冷却システムの他の例を示してあり、ここに示す例は、プール2を構成している躯体2a内であってその底部側に、ヒートパイプ5の下端部5aを配置した例である。なお、図5で符号7はクレーンを示し、核燃料3をこのクレーン7によってプール2内に出し入れするように構成されている。
この図5に示す例においても、プール2の底部側に形成された下層LCZに核燃料3の熱が集中するため、図1に示す例と同様に、ヒートパイプ5による吸熱を効率良く行うことができる。また、ヒートパイプ5の下端部5aをプール2の躯体2a内に配置しているため、プール2内に核燃料3を配置するための広いスペースを確保することができる。また、ヒートパイプ5は冷却液4に直接接触しないうえに、放射線の被曝が少なくなるから、ヒートパイプ5の耐久性を向上させることができる。そして、上層UCZの温度は、図1に示す例と同様に低くなっているため、水面asからの冷却液4の蒸発が抑制されている。
以上説明したように、本発明に係る貯蔵核燃料の冷却システムによれば、プール2の底部に核燃料3を沈めて保管する場合において、プール2内に二重拡散対流を生じさせてその底部に熱を集中させることができ、かつ、その底部側にヒートパイプ5の蒸発部5aを配置している。そのため、ヒートパイプ5による吸熱および熱輸送を効率良く行って核燃料3の冷却効率を向上させることができる。またこれにより、液面asにおける冷却液4の温度上昇を抑制できるので、冷却液4の蒸発を抑制してプール2の液面の低下を抑制できる。つまり本発明によれば、核燃料3を冷却液中に保管する場合にプール2の液面高さを維持することが容易になる。なお、上述したように、ヒートパイプ5を使用して冷却液を冷却するので、不測の事態が生じて電力の供給が断たれた場合であっても、ヒートパイプ5を介した放熱を係属して核燃料3を冷却できる。それに伴い、冷却液4の蒸発を防止してプール2内の液面の低下や核燃料3の液面asからの露出、さらには核燃料3の被覆の溶融などを防止もしくは抑制することができる。
2…プール、 2a…躯体、 3…核燃料、 4…冷却液、 5…ヒートパイプ、 5a…蒸発部、 5b…凝縮部、 UCZ…上層、 LCZ…下層。