電力変換回路のリアクトルは、一般に平面視が略環状のリアクトルコアにコイルが形成された姿勢でハウジング(もしくはケース)内に収容されている。このリアクトルコアは複数の電磁鋼板の積層体もしくは圧粉磁心からなる分割コアから構成されており、各分割コア間にはたとえば非磁性素材のギャップ板が介装され、ギャップ板とコアが接着剤にて接着固定されたリアクトルコアなどが存在する。
このハウジングの底面下方には放熱板(ヒートシンク)が設けてあり、あるいはハウジングの底面自体がヒートシンクとなっており、さらにその下方には冷却水やエアを還流させる冷却器が設けられており、コイルに電流が印加された際の発熱を該コイルまたはリアクトルコアからこの放熱板を介し、冷却器を介してクーリングしながら外部へ逃がす構造が一般的である。
ここで、ハウジングと該ハウジング内に収容されたリアクトルコアの間には封止樹脂体がモールド成形されており、コイルまたはリアクトルコアからの熱はこの封止樹脂体を介して放熱板に伝熱される。なお、リアクトルコアに設けられたコイルと放熱板との間に隙間が形成され、この隙間に上記封止樹脂体が介在してなる、いわゆるフロート構造のリアクトルも存在し、たとえば特許文献1にその一例が開示されている。
上記するフロート構造のリアクトルにおいては、コイルまたはリアクトルコアとハウジングとの間に放熱性に優れた封止樹脂体を介在させることでリアクトルの放熱性能は向上する。さらに、リアクトルコアとハウジングの底面が当接しておらず、封止樹脂体を介して間接的に接続されていることから、リアクトル駆動時の振動はハウジングに直接作用せず、リアクトル全体の振動が低減されるとともにこれに起因して騒音低減効果をも奏することができる。
しかし特許文献1で開示されるリアクトルの構成からも明らかなように、リアクトルコアをハウジングの底面からフロートさせることはできても、リアクトルコアは依然としてハウジングのいずれかの箇所にて直接的に固定されることを余儀なくされている。このことを図6を参照してより具体的に説明する。
同図には、従来のフロート構造のリアクトルを示している。このリアクトルRTは、ハウジングHの内部下方に突状の支持固定部H’を具備し、コイルCが形成されたリアクトルコアRに固定されたステイFがこの支持固定部H’にボルトBを介して固定され、ハウジングH内に封止樹脂体Sが形成されてその全体が構成されている。図示するリアクトル構成において、リアクトルコアRに固定されたステイFがハウジングHに直接的に支持固定されていることから、リアクトル駆動時の振動は、リアクトルコアRからステイFおよび支持固定部H’を経てハウジングHに伝播され易い(X1方向)。
したがって、フロート構造を採用しているにも関わらず、実際には、大幅な振動低減効果および騒音低減効果は得られ難いのである。
そこで、本発明者等は、ハウジングと、このハウジング内に配設された絶縁性を有する放熱性シートと、コイルを具備するリアクトルコアであって放熱性シート上にコイルが配設されたリアクトルコアと、ハウジングとリアクトルコアの間を閉塞する封止樹脂体とからなるリアクトルの発案に至っている。このリアクトルは従来構造のリアクトルのようにハウジングの支持固定部に対してリアクトルコアに装着されたステイを固定して内部を封止樹脂体で閉塞する構造を廃し、図7aで示すように、ハウジングHの底面H1の内側に絶縁性を有する放熱性シートPが配され、この上にコイルCを具備するリアクトルコアRが載置され、ハウジングH(側面H2と底面H1からなる)内に封止樹脂体Sが形成されることにより、放熱性シートP上に載置されたリアクトルコアRが封止樹脂体Sを介してハウジングHに固定された構造のリアクトルRT’となっている。リアクトルコアRが振動吸収性のある放熱性シートP上に載置されたことで、リアクトル駆動時の振動源であるリアクトルコアRからの振動を振動吸収性のある放熱性シートPで吸収することができ、ハウジングHへの振動伝播の効果的な抑制とこれに起因する騒音抑制を図ることができる。さらに、この放熱性シートPを介して発熱源であるコイルCからの熱を効果的にハウジングHの底面H1に放熱することができる(X2方向)。
しかしながら、図7aのb部を拡大した図7bからも明らかなように、コイルCを構成する導線C’が断面円形であることから、放熱性シートPと接触する端部は円弧状を呈しており、そのために放熱性シートPとコイルCを構成する導線C’間には隙間Gが少なからず生じてしまい、実際には導線C’と放熱性シートPが接触している面積は極めて少なくなっている。放熱性シートPと導線C’間に隙間Gが生じていることにより、コイルCから放熱性シートPを介して放熱される際の放熱性能が低下してしまい、コイルCから放熱性シートPへ直接的に放熱する構成とすることによって期待される初期の放熱性能が満足できていないという、あらたな課題が本発明者等によって特定されている。
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、リアクトル駆動時にリアクトルコアからハウジングに振動が伝播され難く、もしくは従来構造のリアクトルに比してハウジングに伝播される振動を大幅に低減することができ、もって振動に起因する騒音も大幅に低減しながら、放熱性にも優れたリアクトルを提供することを目的とする。
前記目的を達成すべく本発明によるリアクトルは、ハウジングと、該ハウジング内に配設された絶縁性を有する放熱性シートと、コイルを具備するリアクトルコアであって該放熱性シート上にコイルが配設されたリアクトルコアと、ハウジングとリアクトルコアの間を閉塞する封止樹脂体とからなり、前記放熱性シートのコイルが直接載置される表面には、コイルを構成する隣接した導線間の隙間に対応した位置に第1の凹溝が設けてあり、該隙間と該第1の凹溝からなる空間を封止樹脂体が閉塞しているものである。
本発明のリアクトルは、従来構造のリアクトルのようにハウジングの支持固定部に対してリアクトルコアに装着されたステイを固定して内部を封止樹脂体で閉塞する構造を廃し、ハウジングの底面の内側に絶縁性を有する放熱性シートが配され、この上にコイルを具備するリアクトルコアが載置され、ハウジング内に封止樹脂体が形成されることにより、放熱性シート上に載置されたリアクトルコアが封止樹脂体を介してハウジングに固定された構造を呈するものである。リアクトルコアが振動吸収性のある放熱性シート上に載置されたことで、リアクトル駆動時の振動源であるリアクトルコアからの振動を振動吸収性のある放熱性シートで吸収することができ、ハウジングへの振動伝播の効果的な抑制とこれに起因する騒音抑制を図ることができる。さらに、この放熱性シートを介して発熱源であるコイルからの熱を効果的にハウジングの底面に放熱することができる。
さらに、放熱性シートのコイルが直接載置される表面には、コイルを構成する隣接した導線間の隙間(コイルのターン数に応じて隣接導線間の隙間は増加し、ターン数が20の場合にはたとえば19箇所の隙間が存在し、そのそれぞれの隙間)に対応した位置に第1の凹溝が設けてあり、当該表面にコイルが載置された際(場合によっては放熱性シートに対してコイルが押圧された姿勢で載置される)に、各隣接導線間の隙間と各隙間に対応する凹溝によって空間が画成される。この空間は、従来の放熱性シートのように凹溝が存在せず、隣接する導線間の隙間のみの場合に比して相対的に大きくなっている。
このように隣接導線間の隙間に対して放熱性シートの凹溝を連続させて大きな空間を形成することにより、封止樹脂体を形成する際にケース内にポッティングされた樹脂材を空間内に流れ込み易くすることができ、空間内に流れ込んだ樹脂材が硬化することによって空間が封止樹脂体で閉塞され、コイルと放熱性シートの間の隙間が封止樹脂体で完全に解消されたリアクトルを形成できる。なお、たとえばコイルのターン数が50の場合であって、形成される隣接導線間の隙間が49箇所ある場合に、この49箇所すべてに対応する放熱性シート位置に凹溝が設けられる形態のほかに、一つ飛ばしの25箇所に凹溝が設けられる実施の形態などであってもよく、どの程度の基数の凹溝を放熱性シートに設けておくのがよいかは、所望する放熱性能の観点から設定されるものである。
放熱性シートと封止樹脂体はともに放熱性を有する樹脂材から形成されるものであるが、この樹脂材としては、耐熱性に優れ、熱伝導性が良く、弾力性のある樹脂材である、シリコーン樹脂やウレタン樹脂などが好適である。
たとえばシリコーン樹脂に関してさらに説明するに、このシリコーン樹脂(シリコーンポリマー)は、ケイ素と酸素が交互に結合してポリマーが形成されたシロキサン結合構造を主骨格としたものであるが、加硫剤等の添加剤の有無や種類によって、シート状のものやペースト状のもの、液状のものが存在しており、封止樹脂体を形成するシリコーンとしてはペースト状および液状のシリコーンが使用できる。また、シリコーンポリマー自体の熱伝導率は0.16W/mKと小さいものの、これにシリカやアルミナ、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化マグネシウム等の熱伝導性フィラーが混合されることで、この混合量(混合割合)に応じて高い放熱性を有するシリコーンとなる。
ここで、封止樹脂体に比して放熱性シートが高い放熱性を有していてもよい。たとえば、封止樹脂体成形用のシリコーンとして、そのハウジング内における流動成形性を保証する観点からもフィラー含有率の相対的に低いペースト状および液状のシリコーンを使用し、その一方で放熱性シートにはフィラー含有率の相対的に高いシート状のシリコーンを適用することができる。
この実施の形態では、リアクトルコアに装着されたコイルを放熱性シート上に位置決めすることで、コイルから放熱性の高い放熱性シートを介してハウジングの底面へ向かう主たる放熱ルートが形成され(一方で、封止樹脂体を介してハウジングの側面へ放熱される従たる放熱ルートもある)、より一層放熱性に優れたリアクトルとなる。
上記するリアクトルコアは、たとえば磁性を有する2つのU型コア、またはこれに加えてさらにI型コアがたとえばギャップ板を介して接着剤にて接合されて形成されるものである。このU型コアやI型コアは、珪素鋼板を積層してなる積層体から形成してもよく、軟磁性金属粉末または軟磁性金属酸化物粉末が樹脂バインダーで被覆された磁性粉末を加圧成形してなる圧粉磁心から形成してもよい。
また、ハウジングはアルミニウムやその合金などから成形することができ、その下方(下面)には、このハウジングと別体に成形された、または一体に成形された放熱性台座が設けられていてもよく、ハウジングが側面と別体の放熱性台座からなる場合は、この放熱性台座上に放熱性シートが配設されることになる。なお、この放熱性台座のさらに下方に、ラジエータ等からのクーリング水やクーリングエアが循環する冷却器が設けられている形態であってもよい。
上記するリアクトルの製造方法の一実施の形態として、ハウジングの底面の内側に絶縁性を有する放熱性シートを配し、放熱性シートの表面に形成されている複数の凹溝に対してコイルを構成する隣接導線間の各隙間が位置決めされるようにしてコイルを具備するリアクトルコアを放熱性シート上に配し、ハウジングとリアクトルコアの間に封止樹脂材を充填することで、充填された封止樹脂材の一部を隣接導線間の隙間と凹溝から画成された空間内に流れ込ませ、ハウジングとリアクトルの間と前記空間内の双方に封止樹脂体を形成してリアクトルを製造することができる。
本発明のリアクトルの製造に際しては、ハウジングの支持固定部にリアクトルコアに装着されたステイが取り付けられた構成でないことから、ハウジングにステイを支持する支持固定部を設ける必要もなく、ハウジングはシンプルな箱形状であってよく、その製造コストも安価となる。また、リアクトルコアにはステイを装着する必要もないし、このステイとハウジングの支持固定部をボルト等で緊結する必要もないことから、ステイの製作やリアクトルコアへの装着が不要となり、ハウジングの支持固定部とステイをボルト固定する工程も不要となる。
さらに、放熱性シートに接着性は不要であり、ハウジングの底面の適所に放熱性シートを配設し、この上にコイルを具備するリアクトルコアの該コイルを位置決めした状態で封止樹脂材をハウジング内に流し込むだけでよいことから、その製造効率は極めて高い。尤も、接着性のある放熱性シートを適用した場合は、その表面にコイルを載置することでコイルと放熱性シートの密着性が増し、界面抵抗の低減にともなってより一層放熱性能の高いリアクトルとなる。
さらに、本発明によるリアクトルの他の実施の形態において、前記放熱性シートのコイルが直接載置される表面には、前記第1の凹溝のほかに導線の端部が嵌り込む第2の凹溝が設けてあり、この第2の凹溝に導線の端部が嵌まり込んだ姿勢で、導線間の隙間と第1の凹溝からなる空間を封止樹脂体が閉塞しているものである。
放熱性シートの表面にコイルを形成する隣接導線間の隙間とともに封止樹脂体用の空間を形成する第1の凹溝のほかに、コイルを構成する各導線の端部が嵌り込む別途の第2の凹溝が設けてあることで、各導線の端部を対応する第2の凹溝に嵌め込みながら放熱性シート表面にリアクトルコア周りのコイルを容易に位置決めすることが可能となる。
そして、本実施の形態では、リアクトルコア周りのコイルが放熱性シートの表面に精緻に位置決めされることで、隣接導線間の隙間とこれに対応する第1の凹溝とから画成される空間も所望寸法に形成することができ、該空間への封止樹脂材の良好な流れ込みを保証することができる。
上記する本発明のリアクトルは既述のごとく放熱性能に優れ、かつ振動および騒音低減効果に優れ、しかもその製造コストも安価なものであることより、車室内環境の一層の快適性とコスト低減を課題とする近時のハイブリッド車や電気自動車に好適である。
以上の説明から理解できるように、本発明のリアクトルによれば、放熱性シートにリアクトルコア周りのコイルを支持する構成とし、かつ、コイルを形成する隣接導線間の隙間に対応する凹溝(第1の凹溝)をこの放熱性シートに設け、該隙間と凹溝によって大きな空間を形成してこの空間にも封止樹脂材を良好に流れ込ませて封止樹脂体を形成し、空間が封止樹脂体で閉塞されていることにより、高い放熱性と振動および騒音低減性能の全てに優れたリアクトルとなる。
以下、図面を参照して本発明のリアクトルとその製造方法の実施の形態を説明する。図1は本発明のリアクトルの縦断面図であり、図2は図1のII−II矢視図であり、図3は図1のIII部を拡大した図であって、図3aは隣接導線間の隙間と放熱性シートの一実施の形態の凹溝によって空間が形成された状態を説明した図であり、図3bはこの空間に封止樹脂材が流れ込んで硬化し、空間が封止樹脂体にて閉塞している状態を説明した図である。
図示するリアクトル10は、平面視が略環状のリアクトルコア1の2箇所の直線部に形成されたコイル2,2が、枠状の側面41と放熱性台座42からなるハウジング4の該放熱性台座42上に配設された放熱性シート3上に載置され、リアクトルコア1とハウジング4の間に封止樹脂体5が形成されてその全体が構成されている。
リアクトルコア1は、2つのU型コアの端部同士をギャップ板を介して、あるいはギャップ板を介すことなく直接的に接着剤で固着して全体が円環状に形成された形態、もしくは、2つのU型コアとI型コアをギャップ板を介して接着剤にて固着して全体が円環状に形成された形態などからなる。なお、不図示の絶縁ボビンもしくは絶縁紙を介して、リアクトルコア1の周囲にコイル2が形成されている。
このU型コアやI型コアは、磁性粉末を加圧成形してなる圧粉磁心から形成されており、ギャップ板を使用する場合はこれがセラミックスから成形されている。この磁性粉末としては、鉄、鉄−シリコン系合金、鉄−窒素系合金、鉄−ニッケル系合金、鉄−炭素系合金、鉄−ホウ素系合金、鉄−コバルト系合金、鉄−リン系合金、鉄−ニッケル−コバルト系合金および鉄−アルミニウム−シリコン系合金などを用いることができる。また、ギャップ板は、例えばアルミナ(Al2O3)やジルコニア(ZrO2)などのセラミックスで成形することができる。なお、ギャップ板なしの構造にてリアクトルコアの電磁気特性、すなわちインダクタンスを保証できる場合には、コア間のギャップ板の介在は不要となる。
枠状の側面41や底面42はいずれも、絶縁性のアルミニウムやその合金などから形成されている。
底面42上に配設されてコイル2を直接支持する放熱性シート3は、シリコーンポリマー内にシリカやアルミナ、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化マグネシウム等の熱伝導性フィラーが混合されてなる高放熱性のシリコーンシートであり、所望する放熱性能に応じて添加されるフィラー量が調整されている。また、このシリコーン素材の放熱性シートは可撓性にも優れており、リアクトル駆動時のリアクトルコアの振動をこの放熱性シートで効果的に吸収することができる。
なお、この放熱性シート3は、放熱性台座42やコイル2に貼り付け自在な接着性を有するものであってもよく、放熱性シート3を放熱性台座42やコイル2の表面に貼り付けることで封止樹脂材をポッティングする際に放熱性シート3やコイル2がずれるのを解消することができ、さらには、コイル2と放熱性シート3の界面や放熱性シート3と底面42の界面での界面抵抗を小さくでき、もってより一層放熱性能を向上させることができる。
一方、封止樹脂体5を形成する封止樹脂材は、ウレタン樹脂やシリコーン樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂などのうちのいずれか一種を使用でき、放熱性をより一層向上させるために、これらの樹脂材に対して、シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化マグネシウムなどのうちのいずれか一種または複数のフィラーを含有したものが使用できる。この樹脂材へのフィラー含有に際しては、ハウジング内における封止樹脂材の充填良好性と材料コストの観点から、たとえばフィラー含有量を放熱性シートよりも少なくし、放熱性シート3に比して放熱性能の低い樹脂素材を適用するのがよい。
同図からも明らかなように、リアクトル10を構成するリアクトルコア1とハウジング4はステイやそれを支持する支持固定部がボルト等で固定された構造となっておらず、可撓性に富む放熱性シート3上に載置された構成となっていることから、振動源であるリアクトルコア1からの振動が放熱性シート3に吸収され、ハウジング4への伝播は効果的に抑制される。また、封止樹脂体5もシリコーン素材の樹脂材から形成し、特に常温で低硬度のシリコーン樹脂から形成することで、封止樹脂体5を介してハウジング4の側面41に振動が伝播されるのを抑制することができる。
また、高い放熱性能を有する放熱性シート3上にコイル2が直接載置されていることから、この放熱性シート3を介してコイル2で生じた熱を放熱性台座42へ効果的に導くことができる(図1の矢印Yの流れ)。
放熱性シート3のコイル2が直接載置される表面には、図3aで示すように、コイル2を構成する隣接した導線2’、2’間の隙間GAに対応した位置に第1の凹溝3aが設けてあり、当該表面にコイル2が載置された際に、各隣接導線2’、2’間の隙間GAと各隙間GAに対応する第1の凹溝3aによって空間Kが画成される。この空間Kは、従来の放熱性シートのように図示のごとき凹溝3aが存在せず、隣接する導線間の隙間のみの場合に比して相対的に大きな寸法となっている。
このように隣接導線2’、2’間の隙間GAに対して放熱性シート3の第1の凹溝3aを連続させて大きな空間Kを形成することにより、封止樹脂体5を形成する際にハウジング4内にポッティングされた封止樹脂材をこの空間K内に流れ込み易くすることができる。そして空間K内に流れ込んだ封止樹脂材が硬化することにより、図3bで示すように、空間Kが封止樹脂体5’で閉塞され、コイル2と放熱性シート3の間に生じていた隙間(図3aの隙間GA)が封止樹脂体5’で完全に閉塞されたリアクトル10が形成される。
ここで、第1の凹溝3aの寸法は、隣接導線2’、2’間の隙間GAの大きさや使用される封止樹脂材の粘性などに応じて、形成される空間Kに封止樹脂材が所望に流れ込み易い適宜の寸法に調整されている。
なお、図示例は、形成される隣接導線2’、2’間の隙間GAのすべてに対応する放熱性シート位置に第1の凹溝3aが設けられる形態であるが、図示例以外にも、隣接導線2’、2’間の隙間GAを一つ飛ばしで、もしくは二つ飛ばしで第1の凹溝3aが放熱性シート3に設けられる実施の形態などであってもよい。すなわち、第1の凹溝3aの基数やその形成態様は、所望する放熱性能を満足できるという観点から設定されるものである。
いずれにしても、図3bで示すように、コイル2と放熱性シート3の間に生じていた隙間が封止樹脂体5’で閉塞され、もって高い放熱性を有するものとなり、リアクトル駆動時における良好な振動低減性および騒音低減性に加えて、放熱性にも優れたリアクトル10となる。
図4は、図3に対応する図であって放熱性シートの他の実施の形態を適用した場合の図であり、図4aは空間が形成された状態を説明した図であり、図4bはこの空間に封止樹脂材が流れ込んで硬化し、空間が封止樹脂体にて閉塞している状態を説明した図である。
図示する実施の形態は、放熱性シート3のコイル2が直接載置される表面に、第1の凹溝3aのほかに導線2’の端部が嵌り込む第2の凹溝3bが設けてあり、この第2の凹溝3bに導線2’の端部が嵌まり込んだ姿勢で、導線2’、2’間の隙間GAと第1の凹溝3aからなる空間Kを封止樹脂体5’が閉塞しているものである。
放熱性シート3の表面において、コイル2を形成する隣接導線2’、2’間の隙間GAとともに封止樹脂体5’用の空間Kを形成する第1の凹溝3aのほかに、コイル2を構成する各導線2’の端部が嵌り込む別途の第2の凹溝3bが設けてあることで、各導線2’の端部を対応する第2の凹溝3bに嵌め込みながら放熱性シート3の表面にリアクトルコア1の周りのコイル2を容易に位置決めすることが可能となる。このようにコイル2が放熱性シート3の表面に精緻に位置決めされることで、隣接導線2’、2’間の隙間GAとこれに対応する第1の凹溝3aとから画成される空間Kを精緻に所望する寸法で形成することができ、この空間Kへの封止樹脂材の良好な流れ込みを保証することができる。
[リアクトルのコイル温度とコイル−放熱性シート間の熱抵抗を測定した実験とその結果]
本発明者等は、以下の表1で示す仕様で実施例1,2と比較例1,2,3の5種類のリアクトルを試作し、それらのコイル温度とコイル−放熱性シート間の熱抵抗を測定する実験をおこなった。ここで、実施例1,2は、特性の異なる放熱性シートを使用したものであってともに第1の凹溝が形成されているものであり、比較例1は図6で示す従来の放熱性シートのないリアクトルであり、比較例2,3は図7で示す第1の凹溝を具備しない放熱性シートを備え、かつ双方は実施例1,2と同様に特性の異なる放熱性シートを使用してなるリアクトルである。以下の表1には実施例および比較例の仕様に加えてその下欄に実験結果を示している。
ここで、本実験におけるリアクトルの製造条件のうち、封止樹脂体形成用の封止樹脂材には2液タイプ(A/B)を使用し、ハウジング内に注型(ポッティング)する前段でA液とB液を混合し、脱泡をおこなっている。なお、真空下で注型する場合はその後の脱泡は不要であるが、常圧下で注型する場合は注型後の脱泡が再度必要となる。注型後、120℃で1時間放置して封止樹脂材を硬化させて封止樹脂体を形成した。
また、熱抵抗測定方法としては、図5aで示すように、常圧下で図中のQ点に第1の凹溝のある放熱性シートもしくは凹溝のない放熱性シートのそれぞれが樹脂接着されたサンプルを載置し、ポイントTC1を加熱した後に各ポイントの測定温度結果からコイル−放熱性シート間の熱抵抗を求めた。なお、図5aには、各測定ポイントのQ点からの距離を示している。
さらに、コイル温度は、図5bで示すようにコイルの側方位置で測定したものであり、リアクトルの初期温度を65℃とし、通電後のコイル飽和温度を測定している。
表1下欄の実験結果より、コイル温度に関しては、放熱性シートを具備しない比較例1に対して実施例1,2はその6〜7割程度にまでコイル温度が低下していることが実証されている。さらに、放熱性シートの凹溝の有無のみが相違する実施例1と比較例2、実施例2と比較例3をそれぞれ比較すると、ともに実施例は比較例の8割程度にまでコイル温度が低下している。これは、放熱性シートが凹溝を有し、この凹溝と隣接導線間で形成された空間内に封止樹脂体が形成されて該空間が閉塞され、放熱性が向上したことによるものである。
一方、コイル−放熱性シート間の熱抵抗に関しては、同様に対応する実施例1と比較例2、実施例2と比較例3を比較するに、ともに実施例は比較例の5割程度にまで熱抵抗が低下している。これは、放熱性シートが凹溝を有し、この凹溝と隣接導線間で形成された空間内に封止樹脂体が形成されて該空間が閉塞されることで、コイルと放熱性シート間の密着性が高まり、界面抵抗が低下したものである。
このように、コイルを構成する隣接導線間の隙間に対応する放熱性シート位置に凹溝を設け、この凹溝と隣接導線間の隙間で空間を形成して封止樹脂材を流れ込み易くすることにより、隙間を封止樹脂体で閉塞し、コイル−放熱性シート間の熱抵抗を低減して放熱性を向上させ、もってコイル温度上昇を効果的に抑制することのできるリアクトルが形成される。
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。