以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照しながら説明する。なお、本明細書中で使用する拡大断面図や拡大平面図は、カラーディスプレイの最小単位である画素を構成するRGB副画素を示している。また、理解を助けるために拡大断面図の横方向(基板面方向)に比較して縦方向(基板面に対して垂直方向)の倍率を拡大している。以下、デバイスの代表的な例として有機EL素子が形成される典型的な構造のデバイス基板10を説明し、次いで、本発明のパターニング方法に用いられるドナー基板30を説明し、次いで、そのパターニング方法を実現する転写プロセスを中心にして、デバイスの製造方法を説明する。
(1)デバイス基板10
図1は、有機EL素子が形成されたデバイス基板10の典型的な構造の例を示す拡大断面図である。デバイス基板10は、ガラス板等の支持体11上にTFT12(取出電極込み)や平坦化層13などで構成されるアクティブマトリクス回路が構成されている。それらの上には、有機EL素子を構成する第一電極15/正孔輸送層16/発光層17/電子輸送層18/第二電極19が形成されている。この図1の例では、発光層17は、RGBの3種類の発光層17R、17G、17Bからなり、それらは横方向に区画されてなる。第一電極15の端部には、電極端における短絡発生を防止し、発光領域を規定する絶縁層14が形成される。有機EL素子の素子構成はこの例に限定されるものではなく、例えば、第一電極15と第二電極19との間に正孔輸送機能と電子輸送機能とを合わせもつ発光層17が一層だけ形成されていてもよく、正孔輸送層16は正孔注入層と正孔輸送層との、電子輸送層18は電子輸送層と電子注入層との複数層の積層構造であってもよく、発光層17が電子輸送機能をもつ場合には電子輸送層18が省略されてもよい。また、第一電極15/電子輸送層18/発光層17/正孔輸送層16/第二電極19の順に積層されていてもよい。また、これらの層はいずれも単層であっても複数層であってもよい。なお、図示されていないが、第二電極19の形成後に、公知技術あるいは後述の本実施形態の転写プロセスを用いて、保護層の形成やカラーフィルターの形成、封止などが行われてもよい。
発光層17は単層でも複数層でもよく、各層の発光材料は単一材料でも複数材料の混合物であってもよい。発光効率、色純度、耐久性の観点から、発光層17はホスト材料とドーパント材料との混合物の単層構造であることが好ましい。
発光層17の発光材料としては、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体、ピレン誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム(Alq3)などのキノリノール錯体やベンゾチアゾリルフェノール亜鉛錯体などの各種金属錯体、ビススチリルアントラセン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、カルバゾール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、ルブレン、キナクリドン誘導体、フェノキサゾン誘導体、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、クリセン誘導体、ピロメテン誘導体、リン光材料と呼ばれるイリジウム錯体系材料などの低分子材料や、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体などの高分子材料を例示することができる。特に、発光性能に優れ、本実施形態に好適な材料としては、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体、ピレン誘導体、クリセン誘導体、ピロメテン誘導体、各種リン光材料を例示できる。
正孔輸送層16は単層でも複数層でもよく、各層は単一材料でも複数材料の混合物であってもよい。正孔注入層と呼ばれる層も正孔輸送層16に含まれる。正孔輸送性(低駆動電圧)や耐久性の観点から、正孔輸送層16には正孔輸送性を助長するアクセプタ材料が混合されていてもよい。
正孔輸送層16の正孔輸送材料としては、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジナフチル−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(NPD)やN,N’−ビフェニル−N,N’−ビフェニル−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−ジフェニル−N,N’−(N−フェニルカルバゾリル)−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミンなどに代表される芳香族アミン類、N−イソプロピルカルバゾール、ピラゾリン誘導体、スチルベン系化合物、ヒドラゾン系化合物、オキサジアゾール誘導体やフタロシアニン誘導体に代表される複素環化合物などの低分子材料や、これら低分子化合物を側鎖に有するポリカーボネートやスチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリシランなどの高分子材料を例示できる。アクセプタ材料としては、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、ヘキサアザトリフェニレン(HAT)やそのシアノ基誘導体(HAT−CN6)などの電子受容性低分子材料を例示することができる。また、第一電極15表面に薄く形成される酸化モリブデンや酸化ケイ素などの金属酸化物も正孔輸送材料やアクセプタ材料として例示できる。
電子輸送層18は単層でも複数層でもよく、各層は単一材料でも複数材料の混合物であってもよい。正孔阻止層や電子注入層と呼ばれる層も電子輸送層18に含まれる。電子輸送性(低駆動電圧)や耐久性の観点から、電子輸送層18には電子輸送性を助長するドナー材料が混合されていてもよい。電子注入層と呼ばれる層は、このドナー材料として論じられることも多い。電子輸送層18を成膜する転写材料は単一材料からなっても複数材料の混合物からなってもよい。
電子輸送層18の電子輸送材料としては、Alq3や8−キノリノラートリチウム(Liq)などのキノリノール錯体、ナフタレン、アントラセンなどの縮合多環芳香族誘導体、4,4’−ビス(ジフェニルエテニル)ビフェニルに代表されるスチリル系芳香環誘導体、アントラキノンやジフェノキノンなどのキノン誘導体、リンオキサイド誘導体、ベンゾキノリノール錯体、ヒドロキシアゾール錯体、アゾメチン錯体、トロポロン金属錯体およびフラボノール金属錯体などの各種金属錯体、電子受容性窒素を含むヘテロアリール環構造を有する化合物などの低分子材料や、これら低分子化合物を側鎖に有する高分子材料を例示できる。
ドナー材料としては、リチウムやセシウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属、それらのキノリノール錯体などの各種金属錯体、フッ化リチウムや酸化セシウムなどのそれらの酸化物やフッ化物、テトラチアフバレン(TTF)などの電子供与性低分子材料を例示することができる。電子輸送材料やドナー材料は発光層17との組み合わせによる性能変化が起こりやすい材料の1つである。
第一電極15および第二電極19は、発光層17からの発光を取り出すために少なくとも一方が透明であることが好ましい。第一電極15から光を取り出すボトムエミッションの場合には第一電極15が、第二電極19から光を取り出すトップエミッションの場合には第二電極19が透明である。透明電極材料およびもう一方の電極には、例えば、特開平11−214154号公報記載の如く、従来公知の材料を用いることができる。
このような有機EL素子は、一般的に第二電極19が共通電極として形成されるアクティブマトリクス型に限定されるものではなく、例えば、第一電極15と第二電極19とが互いに交差するストライプ状電極からなる単純マトリクス型や、予め定められた情報を表示するように表示部がパターニングされるセグメント型であってもよい。これらの用途としては、テレビ、パソコン、モニター、時計、温度計、オーディオ機器、自動車用表示パネルなどを例示することができる。
(2)ドナー基板30
次に、デバイス基板10にデバイスを転写により形成するドナー基板30を説明する。図2及び図3は、ドナー基板30を用いてデバイス基板10に転写膜27を形成する方法の例を示す拡大断面図と拡大平面図である。ドナー基板30は、支持体31と、支持体31上に形成された光熱変換層33と、光熱変換層33に積層して形成された区画パターン34と、区画パターン34により区画され、転写材料からなる転写材料層37と、を備えてなる。本発明において転写材料層は2種類以上の転写材料からなるが、これらの図2及び図3の例では、ドナー基板30の転写材料層37は横方向に区画されたRGBの3種類の発光材料の転写材料層37R、37G、37Bからなり、デバイス基板10のRGBの3種類の発光層17R、17G、17Bが転写膜27となっている。37R、37G、37Bはそれぞれ1種類の材料で構成されていてもよいし、2種類以上の材料の混合物(例えばホスト材料とドーパント材料)からなってもよい。なお、図3は、図2における光照射の様子をドナー基板30の支持体31側から見た図である。全面に形成された光熱変換層33があるために、支持体31側から区画パターン34や転写材料37R、37G、37Bは実際には見えないが、光照射との位置関係を説明するために点線にて図示した。照射される光は矩形をしており、転写材料層37R、37G、37Bを跨ぐようにして照射され、かつ、転写材料層37R、37G、37Bの並びに対して垂直方向にスキャンされる。照射される光は相対的にスキャンされればよく、光自体を移動させても、ドナー基板30とデバイス基板20とのセットを移動させても、その両方でもよい。以下、支持体31、光熱変換層33、転写材料層37、区画パターン34の順に説明する。
ドナー基板30の支持体31は、光の吸収率が小さいものであって、その上に光熱変換層33、区画パターン34、転写材料層37を安定に形成できる材料であれば特に限定されない。条件によっては樹脂材料のフィルムを使用することが可能である。樹脂材料としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリアミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリエポキシ、ポリプロピレン、ポリオレフィン、アラミド樹脂、シリコーン樹脂などを例示できる。
化学的・熱的安定性、寸法安定性、機械的強度、透明性の面で、好ましい支持体31としてガラス板を挙げることができる。ソーダライムガラス、無アルカリガラス、含鉛ガラス、ホウ珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、低膨張ガラス、石英ガラスなどから条件に応じて選択することができる。後述するように転写プロセスを真空中で実施する場合には、支持体31からのガス放出が少ないことが要求されるので、この点からもガラス板は特に好ましい。
デバイス基板10とドナー基板30を対向させて転写材料を転写させる際に、温度変化による熱膨張の違いによりパターニング精度が悪化するのを防ぐためには、デバイス基板10とドナー基板30の支持体11、31相互の熱膨張率の差は10ppm/℃以下であることが好ましく、またこれらの支持体11、31が同一材料からなることが更に好ましい。なお、両者の厚さの違いは特に限定されない。
光熱変換層33が高温に加熱されても、支持体31自体の温度上昇(熱膨張)を許容範囲内に収める必要があるので、支持体31の熱容量は光熱変換層33のそれより十分大きいことが好ましい。従って、支持体31の厚さは光熱変換層33の厚さの10倍以上であることが好ましい。許容範囲は転写領域の大きさやパターニングの要求精度などに依存するために一概には示せないが、例えば、光熱変換層33が室温から300℃上昇し、支持体31の温度上昇を1/100の3℃以下に抑制したい場合には、支持体31の厚さは光熱変換層33の厚さの100倍以上であることが好ましく、支持体31の温度上昇を1/300の1℃以下に抑制したい場合には、支持体31の厚さは光熱変換層33の厚さの300倍以上であることが更に好ましい。このようにすることで、大型化しても熱膨張による寸法変位量が少なく、高精度な微細パターニングに寄与する。
次に、ドナー基板30の光熱変換層33を説明する。光熱変換層33は、効率よく光を吸収して熱を発生し、発生した熱に対して安定である材料・構成であれば特に限定されない。カーボンブラックや黒鉛、チタンブラック、有機顔料、金属粒子などを樹脂に分散させた薄膜を利用することができる。後述のように光熱変換層33が300℃程度に加熱されることがあるので、光熱変換層33は耐熱性に優れた無機薄膜からなることが好ましく、光吸収や成膜性の面で、金属材料の薄膜からなることが特に好ましい。金属材料としては、タングステン、タンタル、モリブデン、チタン、クロム、金、銀、銅、白金、鉄、亜鉛、アルミニウム、コバルト、ニッケル、マグネシウム、バナジウム、ジルコニウム、シリコン、カーボンなどの単体や合金、あるいはそれらを積層したものを使用できる。
光熱変換層33の支持体31側には必要に応じて反射防止層を形成することができる。さらに、支持体31の光入射側の表面にも反射防止層を形成してもよい。これらの反射防止層は屈折率差を利用した光学干渉薄膜が好適に使用され、シリコン、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタンなどの単体や混合薄膜、それらの積層薄膜を使用できる。
光熱変換層33の転写材料層37側には必要に応じて転写補助層39を形成することができる。転写補助層39の機能の一例は、加熱された光熱変換層33の触媒効果により転写材料が劣化することを防止する機能であり、タングステンやタンタル、モリブデン、シリコンや酸化物・窒化物など不活性な無機薄膜を使用することができる。転写補助層39の機能の別の一例は、転写材料層37を後述の塗布法により成膜した場合の表面改質機能であり、例示した不活性な無機薄膜の粗表面薄膜や金属酸化物の多孔質膜などを使用することができる。転写補助層39の機能の別の一例は、転写材料層37の加熱均一化であり、例えば、図4(a)に示すように、比較的厚い転写材料層37を均一に加熱するために、熱伝導性に優れた金属などの材料によりスパイク状の(もしくは多孔質状の)構造をもつ転写補助層39を形成し、その間隙に転写材料層37を担持するように配置することができる。この機能を有する転写補助層39は、図4(b)に示すように、光熱変換層33と一体化してもよい。
光熱変換層33は転写材料層37の転写材料の昇華に十分な熱を与える必要があるので、光熱変換層33の熱容量は転写材料層37のそれより大きいことが好ましい。従って、光熱変換層33の厚さは転写材料層37より厚いことが好ましく、転写材料層37の厚さの5倍以上であることが更に好ましい。数値としては0.02〜2μmが好ましく、さらに0.1〜1μmが更に好ましい。光熱変換層33は光の90%以上、更に95%以上を吸収することが好ましいので、これらの条件を満たすように光熱変換層33の厚さを設計することが好ましい。転写補助層39は光熱変換層33にて発生した熱を効率よく転写材料層37に伝える妨げにならないように、要求される機能を満たす範囲内で薄くなるように設計することが好ましい。
光熱変換層33は転写材料層37が存在する部分に形成されていれば、その平面形状は特に限定されず、上記において例示したようにドナー基板30全面に形成されていても、例えば、区画パターン34の下部で不連続となるようにパターニングされていてもよい。区画パターン34が光熱変換層33との密着性に乏しい場合には、このようにして支持体31との密着性を利用することで密着性を改善することができる。光熱変換層33がパターニングされる場合には、区画パターン34と同種の形状となる必要はなく、区画パターン34が格子状で、光熱変換層33はストライプ状であってもよい。光熱変換層33は光吸収率が大きいことから、光熱変換層33を利用して転写領域内外の適切な位置にドナー基板30の位置マークを形成することが好ましい。
光熱変換層33や転写補助層39の形成方法としては、スピンコートやスリットコート、真空蒸着、EB蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなど、材料に応じて公知技術を利用できる。パターニングする場合には公知のフォトリソ法やレーザーアブレーションなどを利用できる。
次に、ドナー基板30の転写材料層37を説明する。転写材料層37の転写材料は、有機材料、金属を含む無機材料いずれでも、加熱された際に、昇華(アブレーション昇華を含む)して、ドナー基板からデバイス基板10へと転写されればよい。また、転写材料が薄膜形成の前駆体であり、転写前あるいは転写中に熱や光によって薄膜形成材料に変換されて転写膜27が形成されてもよい。なお、この転写材料は、有機EL素子は勿論、それをはじめとし、有機TFTや光電変換素子、各種センサーなどのデバイスを構成する薄膜を形成することができる。
転写は後述のように蒸着モードが好ましく、1回の光照射によって転写膜27の全膜厚を転写しても、複数回の光照射によって転写膜27の膜厚を複数回に分割して転写してもよい。また、剥離モードやアブレーションモードを利用することで、例えば、デバイス基板10に転写膜27として電子輸送層18/発光層17を形成する場合、ドナー基板30上に電子輸送層18/発光層17の積層構造を形成しておき、その積層状態を維持した状態でデバイス基板10に転写することで、発光層17/電子輸送層18の転写膜27を1回でパターニングすることもできる。
転写材料層37の厚さは、それらの機能や転写回数により一概に示すことは難しい。例えば、フッ化リチウムなどのドナー材料(電子注入材料)の1回転写分の転写材料層37は、典型的な厚さは1nm以下である。また、電極材料の転写材料層37の膜厚は100nm以上になる場合もある。発光層17の形成の場合は、1回転写分の転写材料層37の厚さは10〜100nmであるのが好ましく、20〜50nmであるのがさらに好ましい。
転写材料層37の形成方法は特に限定されず、真空蒸着やスパッタリングなどのドライプロセスを利用することもできるが、大型化に対応が容易な方法として、少なくとも転写材料と溶媒からなる溶液を区画パターン34内に塗布し溶媒を乾燥させた後に転写する塗布法を用いることが好ましい。塗布法の具体的な方法としては、インクジェット、ノズル塗布、電界重合や電着、オフセットやフレキソ、平版、凸版、グラビア、スクリーンなどの各種印刷などを例示できる。特に、各区画パターン34内に定量の転写材料の転写材料層37を正確に形成することが重要であり、この観点から、インクジェットを特に好ましい方法として例示できる。
区画パターン34がないと、塗液から形成される転写材料層37同士は互いに接することになり、その境界は一様ではなく、少なからず混合層が形成される。これを防ぐために、互いに接しないように隙間を空けて形成した場合には、境界領域の膜厚を中央と同一にすることが困難である。いずれの場合も、この境界領域はデバイスの性能低下を招くために転写することができないので、ドナー基板30上の転写材料層37のパターンよりも幅の狭い領域を選択的に転写する必要がある。従って、実際に使用可能な転写材料層37の幅が狭くなり、有機ELディスプレイを作製した際には、開口率の小さな(非発光領域の面積が大きな)画素となってしまう。また、境界領域を除いて転写しなければならない都合上、一括転写ができないので、転写材料層37の転写材料の種類が異なれば、それらを(例えば、転写材料層37R、37G、37Bを)順次にレーザー照射して、それぞれ独立に転写する必要があり、高強度レーザー照射の高精度位置合わせが必要となる。このような問題は、区画パターン34と塗液から形成された転写材料層37を有するドナー基板30を用いて後述のように一括転写することにより解決可能である。
転写材料と溶媒とからなる溶液を塗布法に適用する場合には、一般的には界面活性剤や分散剤などを添加することで溶液の粘度や表面張力、分散性などを調整してインク化することが多い。しかしながら、ドナー基板30では、それらの添加物が転写材料に残留物として存在すると、転写時にも転写膜27内に取り込まれて、デバイス性能に悪影響を及ぼすことが懸念される。従って、乾燥後の転写材料の純度が95%以上、さらに98%以上となるように溶液を調製することが好ましい。
溶媒としては、水、アルコール、炭化水素、芳香族化合物、複素環化合物、エステル、エーテル、ケトンなど公知の材料を使用することができる。ドナー基板30において好適に使用されるインクジェット法では、100℃以上、さらに150℃以上の比較的高沸点の溶媒が使用されること、さらに、転写材料の溶解性に優れていることから、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、γ−ブチルラクトン(γBL)、シクロヘキサノン、安息香酸エチル、テトラヒドロナフタレン(THN)などを好適な溶媒として例示できる。
転写材料が溶解性と転写耐性、転写後のデバイス性能を全て満たす場合には、転写材料の原型を溶媒に溶解させることが好ましい。転写材料が溶解性に乏しい場合には、転写材料に、アルキル基などの溶媒に対する可溶性基を導入することで、可溶性を改良することができる。デバイス性能面で優れる転写材料の原型に可溶性基を導入した場合には、性能が低下することがある。その場合には、例えば転写時の熱において、この可溶性基を脱離させて原型材料をデバイス基板10に堆積させることもできる。
可溶性基を導入した転写材料を転写する際に、ガスの発生や転写膜27への脱離物の混入を防止するためには、転写材料が塗布時に溶媒に対する可溶性基をもち、塗布後に熱または光によって可溶性基を変換または脱離させた後に、転写材料を転写することが好ましい。例えば、ベンゼン環を有する材料を例に挙げると、式(1)に示すように、可溶性基としてアセチル基をもつ材料に光を照射してメチル基に変換することができる。また、式(2)および式(3)に示すように、可溶性基としてエチレン基やジケト基などの分子内架橋構造を導入し、そこからエチレンや一酸化炭素を脱離するプロセスによって原型材料に復帰させることもできる。可溶性基の変換または脱離は乾燥前の溶液状態でも、乾燥後の固体状態でもよいが、プロセス安定性を考慮すると、乾燥後の固体状態で実施することが好ましい。転写材料の原型分子は非極性的であることが多いために、固体状態にて可溶性基を脱離する際に脱離物を転写材料内に残留させないためには、脱離物の分子量は小さく極性的(非極性的な原型分子に対して反発的)であることが好ましい。また、転写材料内に吸着されている酸素や水を脱離物と一緒に除去するためには、脱離物がこれらの分子と反応しやすいことが好ましい。これらの観点からは一酸化炭素を脱離するプロセスで可溶化基を変換または脱離することが特に好ましい。
ベンゼン環を有する材料としては、ベンゼン自体の他に、縮合多環化合物が挙げられる。縮合多環化合物としては、ナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ピレン、ペリレンなどの縮合多環炭化水素化合物の他、縮合多環複素化合物が挙げられる。もちろん、これらは置換されていても無置換であっても良い。これらの化合物の有する1または2以上のベンゼン環に対し、前記変換や脱離を行うことができる。
デバイス基板10の転写膜27として発光層17を形成し、ホスト材料とドーパント材料との混合物の単層構造とする場合は、発光層17を成膜するための転写材料はホスト材料とドーパント材料との混合物であることが好ましい。塗布法を用いる場合には、区画パターン34内に転写材料層37を配置する際に、ホスト材料とドーパント材料との混合溶液を塗布、乾燥させて転写材料層37を形成することができる。ホスト材料とドーパント材料との溶液を別に塗布してもよい。転写材料層37を形成した段階でホスト材料とドーパント材料とが均一に混合されていなくても、転写時に両者が均一に混合されればよい。また、転写時にホスト材料とドーパント材料との昇華温度の違いを利用して、デバイス基板10の発光層17中のドーパント材料の濃度を膜厚方向に変化させることもできる。
次に、ドナー基板30の区画パターン34を説明する。区画パターン34は、転写材料層37を境界を規定し、光熱変換層33で発生した熱に対して安定である材料・構成であれば特に限定されない。無機物では酸化ケイ素や窒化ケイ素をはじめとする酸化物・窒化物、ガラス、セラミックスなどを、有機物ではポリビニル、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリスチレン、アクリル、ノボラック、シリコーンなどの樹脂を例として挙げることができる。プラズマテレビにおける隔壁をガラスペースト法により製造する公知技術を使用することもできる。区画パターン34の熱導電性は特に限定されないが、区画パターン34を介して対向するデバイス基板10に熱が拡散するのを防ぐ観点から、有機物のように熱伝導率が小さい方が好ましく、さらに、パターニング特性と耐熱性の面でも優れた材料としては、ポリイミドとポリベンゾオキサゾールを好ましい材料として例示できる。
区画パターン34の成膜方法は特に限定されず、無機物を用いる場合には真空蒸着、EB蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、CVD、レーザーアブレーションなどの公知技術を、有機物を用いる場合には、スピンコート、スリットコート、ディップコートなどの公知技術を利用できる。
区画パターン34のパターニング方法は特に限定されず、公知のフォトリソグラフィ法が利用できる。フォトレジストを使用したエッチング(あるいはリフトオフ)法によって区画パターン34をパターニングしてもよいし、例示した上記樹脂材料に感光性を付加させた材料を用いて、区画パターン34を直接露光、現像することでパターニングすることもできる。さらに、区画パターン34の材料を全面形成してそれに型を押しつけるスタンプ法やインプリント法、樹脂材料を直接パターニング形成するインクジェット法やノズルジェット法、各種印刷法などを利用することもできる。このように、区画パターン34はフォトリソグラフィ法などにより高精度に微細パターニングすることができるために、区画された転写材料層37の互いのパターンの隙間を最小にすることができる。これは、より開口率を高めて耐久性に優れた有機ELディスプレイを作製できるという効果につながる。
区画パターン34の形状としては、既に例示した格子状(マトリクス状)構造に限定されるのではなく、例えば、転写材料層37が3種類の転写材料層37R、37G、37Bからなる場合には、区画パターン34の平面形状がy方向に伸びるストライプであってもよい。
区画パターン34の断面形状は、昇華した転写材料がデバイス基板10に均一に堆積することを容易にするために、順テーパー形状であることが好ましい。図2で例示したように、デバイス基板10の上に絶縁層14のようなパターンが存在する場合には区画パターン34の幅(特に上部の幅)よりも絶縁層14の幅(特に上部の幅)の方が広いことが好ましい。また、位置合わせの際には、区画パターン34の上部の幅の中に絶縁層14の上部の幅が収まるように配置することが好ましい。この場合には、区画パターン34が薄くても、絶縁層14を厚くすることで、ドナー基板30とデバイス基板10とを所望の間隙に保持することができる。区画パターン34の典型的な幅は5〜50μm、ピッチは25〜300μmであるが、用途に応じて最適な値に設計すればよく、特に限定はされない。
区画パターン34内に転写材料層37を配置する際に、塗布法を用いる場合には、溶液が他の区画へ混入したり、区画パターン34の上面に乗りあげたりすることを防ぐために、区画パターン34上面に撥液処理(表面エネルギー制御)を施すことができる。撥液処理としては、区画パターン34を形成する樹脂材料へフッ素系材料などの撥液性材料を混合したり、さらに撥液性材料の高濃度領域を表面あるいは上面へ選択形成することができる。区画パターン34を表面エネルギーの異なる材料の多層構造とすることもでき、また、区画パターン34形成後に光照射やフッ素系材料含有ガスによるプラズマ処理やUVオゾン処理を施すことで、表面エネルギー状態を制御するなど、公知技術を利用することができる。
区画パターン34の厚さは、転写材料層37の平均膜厚よりも厚くするのが好ましい。そうすると、多少のバラツキが有っても転写材料層37はデバイス基板10に直接接することがない。区画パターン34をデバイス基板10に対向させることで、光熱変換層33や転写材料層37とデバイス基板10との間隙を一定値に保つことが容易になり、また、昇華した転写材料が他の区画へ侵入する可能性を低減できる。また、区画パターン34が厚いと、熱容量が大きくなり、熱伝導も小さくなる。そのため、区画パターン34のうち転写材料層37よりも突出した部分の温度はさほど上昇しないため、デバイス基板10に形成済みの下地層は、光熱変換層33から区画パターン34を通じて高温に熱されることが防止される。熱容量が大きい分だけ温度上昇は小さくなるので、区画パターン34からの脱ガスの影響を受けることもほとんどない。その結果、デバイス基板10のデバイス性能が悪化することがない。例えば、正孔輸送層16を全面蒸着により成膜する場合には、図2に示すように、絶縁層14の上部にも正孔輸送層16が形成され、区画パターン34は正孔輸送層16と接することになる。区画パターン34の温度上昇が小さいので、正孔輸送層16を加熱、昇華させてしまって正孔輸送材料が混入してしまうことが防止される。正孔輸送層16をインクジェット方式により成膜する場合には、絶縁層14の上部には正孔輸送層16は形成されず、区画パターン34は絶縁層14と接することになる。この場合でも、絶縁層14を介してデバイス基板10が加熱されることが防止される。
光熱変換層33/転写材料層37は瞬間的に500℃に達すことがある。一方で、デバイス基板10の温度上昇は100℃以下に抑えるのが好ましい。一概に数値を規定することは難しいが、区画パターン34の下部のうち転写材料と同じ膜厚部分が瞬間的に転写材料と同じ500℃に加熱され、その後の温度緩和で区画パターン34の上部が100℃に達するのが上限であると考えると、区画パターン34の厚さは転写材料の厚さに比べて、500℃/100℃=5倍以上であることが好ましい。
デバイス基板10の温度上昇を抑えるためには、区画パターン34の熱伝導率は1.0W/mK以下であることが好ましく、区画パターン34の体積比熱(=密度×比熱)は1.0J/cm3K以上であることが好ましい。
(3)デバイスの製造方法
次に、ドナー基板30を用いた転写プロセスを中心にして、有機EL素子を代表とするデバイスの製造方法を説明する。
カラーディスプレイでは少なくとも発光層17がパターニングされる必要があり、発光層17は本実施形態の転写プロセスを用いて好適にパターニングされる薄膜である。また、発光層17のうち発光層17R、17Gのみを本実施形態の転写プロセスを用いてパターニングして、その上に発光層17BとR、Gの電子輸送層18を兼ねる層を全面形成することもできる。正孔輸送層16、電子輸送層18、第二電極19などの少なくとも一層をパターニングする必要がある場合には、本実施形態の転写プロセスを用いてパターニングしてもよい。特に、電子輸送材料やドナー材料は発光層17との組み合わせによる性能変化が起こりやすい材料の1つであるので、電子輸送層18は本実施形態の転写プロセスを用いてパターニングされるのが好ましい。また、絶縁層14や第一電極15、TFTなどは公知のフォトリソ法によりパターニングされることが多いが、本実施形態の転写プロセスを用いてパターニングしてもよい。
本実施形態の転写プロセスの適用時、デバイス基板10に形成済みの下地層はパターニングする薄膜によって異なってくる。例えば、発光層17をパターニングする場合は、第一電極15や正孔輸送層16が形成済みの下地層となる。絶縁層14のような構造物は、必須ではないが、第一電極15のエッジ部分を保護し、また、デバイス基板10とドナー基板30とを対向させる際に、ドナー基板30の区画パターン34がデバイス基板10に形成済みの下地層に接触し、傷つけることを防止する観点から、デバイス基板10にあらかじめ形成されているのが好ましい。絶縁層14の形成には、ドナー基板30の区画パターン34として例示した材料や成膜方法、パターニング方法を利用することができる。絶縁層14の形状や厚さ、幅、ピッチについても、ドナー基板30の区画パターン34で例示した形状や数値を例示することができる。
図2に示すように、ドナー基板30の区画パターン34と、デバイス基板10の絶縁層14との位置を合わせた状態で、両基板10、30は対向するように配置される。このとき、ドナー基板30とデバイス基板10とを真空中で対向させ、転写空間をそのまま真空に保持した状態で大気中に取り出すことができる。例えば、ドナー基板の区画パターン34および/またはデバイス基板10の絶縁層を利用して、これらに囲まれた領域を真空に保持することができる。この場合には、ドナー基板30および/またはデバイス基板10の周辺部に真空シール機能を設けてもよい。デバイス基板10の下地層、例えば正孔輸送層16が真空プロセスで形成し、発光層17を転写によりパターニングし、電子輸送層18も真空プロセスで形成する場合は、ドナー基板30とデバイス基板10とを真空中で対向させ、真空中で転写を実行することが好ましい。この場合に、ドナー基板30とデバイス基板10とを真空中で高精度に位置合わせし、対向状態を維持する方法には、例えば、液晶ディスプレイの製造プロセスにおいて使用されている、液晶材料の真空滴下・貼り合わせ工程などの公知技術を利用することができる。また、金属などの良導体で形成した光熱変換層33を利用することで、ドナー基板30を静電方式により容易に保持することもできる。
転写雰囲気は大気圧でも減圧下でもよい。また、第一電極15および第二電極19などの転写の際に、転写材料と酸素等の活性ガスを反応させるなどの反応性転写を実施することもできる。ただし、転写材料の劣化の抑制のためには、窒素ガスなどの不活性ガス中、あるいは真空下であることが好ましい。不活性ガス中ならば、圧力を適度に制御することで、転写時に膜厚ムラの均一化を促進することが可能である。真空下であるならば、転写膜27への不純物混入の低減、昇華温度の低温化を特に促進することが可能である。また、転写雰囲気によらず、転写時にドナー基板30を放熱あるいは冷却することもできる。
転写は、ドナー基板30の支持体31側からレーザーに代表される光を照射して光熱変換層33に吸収させ、そこで発生する熱により転写材料層37を加熱・昇華させ、デバイス基板10に転写膜27を堆積させる。図2では、転写材料層37の転写材料が加熱されて昇華し、デバイス基板10の支持体11に転写膜27として堆積している課程を模式的に示している。この時点で光照射を止めて、別の光照射により転写材料層37の残りを転写してもよいし、このまま光照射を継続して、転写材料層37の全てを転写することもできる。
材料へのダメージを低減する観点からは、転写材料層37の転写材料が1〜100単位の分子(原子)にほぐれた状態で昇華(蒸発)し、転写される蒸着モードを使用する方が好ましい。蒸着モードでは、塗布法によって形成した場合の転写材料層37に膜厚ムラが発生しても、転写時に転写材料が分子(原子)レベルにほぐれた状態で昇華した後にデバイス基板10に堆積するために、転写膜27の膜厚ムラが軽減される方向にある。なお、塗布法により形成した薄膜を有機EL素子の機能層として直接利用する従来法の問題の1つは膜厚ムラであった。従って、例えば、塗布時には転写材料が顔料のように分子集合体からなる粒子であり、たとえ転写材料層37がドナー基板30上において連続膜ではなくても、それを転写時に分子レベルにほぐして昇華させ、堆積させることで、デバイス基板10上においては膜厚均一性にすぐれた転写膜27を得ることができる。
ドナー基板全体を覆う光を照射できればすべての転写材料を一括転写できるが、装置上それができない場合は所定の大きさの光によるスキャン照射あるいはステップ照射を行うことができる。本発明は、そのような照射を行う場合において、2種類以上の転写材料のうち特定の転写材料の位置で光をオーバーラップさせるように光熱変換層に支持体側から光を照射する点に特徴を有する。
スキャン照射の場合、所定の大きさの光を照射して1つのスキャンが終わると、次に未照射部分に光を照射してスキャンする。こうしたスキャンにより全転写領域を最終的に照射する。図5は、(a)特定の転写材料層37(この例では37G)を光照射の境界位置として1つのスキャンを終了し、(b)その境界位置で光をオーバーラップさせるように次の未照射部分に光を照射してスキャンする本発明の好適な例を示す断面図である。
比較的弱い強度の光を低速でスキャンして光照射した場合、低速であればあるほど、横方向への熱拡散によって境界位置に幅の広いなだらかな温度勾配が生じる。例えば、図6に示したように、(a)1つのスキャンと、(b)次のスキャンとの光の境界位置を転写材料層37Bと37Rに挟まれた区画パターン34にすると、区画パターン34の幅が狭いために、区画パターン34上でオーバーラップさせるかどうかにかかわらず、光の強度や区画パターン34の幅の条件によっては、隣の転写材料層37Bもしくは37Rの一部が昇華することがある。このとき、例えば、転写材料層37Bもしくは37Rがホスト材料とドーパント材料のように転写材料を2種類以上の材料の混合物であると、ホスト材料とドーパント材料は昇華温度が異なるので、昇華温度の低い材料が多く昇華して実際の転写によるパターニングの前にデバイス基板10に付着し、次の転写によるパターニングでは残りの材料の混合比が高くなって、転写膜17Bもしくは17Rのうち光の境界位置に近い部分にムラが形成される。このような転写膜17は、発光効率や色度が低下するなどデバイス特性に影響する。
これに対し、図5に示した例では、特定の転写材料の転写材料層37を転写材料層37Gとし、転写材料層37Gの位置で光をオーバーラップさせている。そうすると、比較的弱い強度の光を低速でスキャンすることにより光照射した場合、転写材料層37(例えば、37G)の幅は区画パターン34の幅よりも大きいので、横方向への熱拡散によって隣の転写材料層37(例えば、37Rもしくは37B)の一部が昇華されることが防止される。また、オーバーラップすることにより、なだらかな温度勾配の部分を完全に昇華させるようにしている。オーバーラップの度合いは温度勾配の幅に依存し、例えば、温度勾配の幅と同じ程度にする。
本発明では、2種類以上の転写材料層37のうち特定の転写材料層の位置で光をオーバーラップさせることが重要である。上記のように、光の境界位置では不可避的に温度勾配が生じて、その影響は転写材料層37の種類によって少しずつ異なる。ランダムな位置で光をオーバーラップさせると、異なるムラの状態をもつ転写膜17が2種類以上生じることになるので、それらを同時に抑制することが難しくなる。一方、温度勾配の影響が特定の転写膜に限定されれば、ムラが発生しにくい転写材料層を選択し、さらにそのムラを最小限にする光照射条件を選択することができるので、影響を最小限に抑制することが可能になる。
特定の転写材料層の選択方法は特に限定されない。最終的に得られるデバイスにおいてムラが最小化されるように、転写材料層37の中で転写温度が最低(または最高)のものや、熱分解温度が最高(または最低)のもの、あるいは膜厚が最も薄い(または最も厚い)ものなど、目的に応じて選択すればよい。
2種類以上の異なる転写材料がそれぞれ、ホスト材料とドーパント材料のような2種類以上の材料の混合物からなる場合は、該2種類以上の材料の昇華温度の差が最も小さい組み合わせの転写材料の転写材料層37(例えば、37G)の位置で光をオーバーラップさせることが好ましい。有機EL素子では特にホスト材料とドーパント材料との組成比が発光性能に大きく影響することが知られているので、これにより、オーバーラップ位置における温度勾配の影響で転写膜17の組成比が変化する割合を最も小さくして、転写膜17に生じるムラを抑制できるからである。
また、2種類以上の異なる転写材料の中に1種類の材料からなる転写材料が含まれている場合は、該1種類の材料からなる転写材料の転写材料層37の位置で光をオーバーラップさせることが好ましい。この場合、この転写材料層では組成比の変化を考慮しなくてもよいので、オーバーラップ位置における温度勾配の影響が極めて小さくなるからである。
一方、有機EL素子には、図7に示すようにR発光層17RとG発光層17Gのみがパターニングされ、パターニングされたB発光層が存在しない構成も考えられる。電子輸送層18がB発光層を兼ねることや、B発光層より発光エネルギーの低いR発光層17RやG発光層17Gと電子輸送層18との間にB発光層を全面形成しておくことが可能だからである。そのような有機EL素子を製造する際には、初めから転写材料37Bが形成されておらず、37Rと37Gのみが形成されたドナー基板を用いることもできる。
具体的には、区画パターンにより区画された領域の一部に転写材料が形成されていない領域が存在するドナー基板を用い、その転写材料が形成されていない位置で光をオーバーラップさせるように光熱変換層に支持体側から光を照射して2種類以上の転写材料を一括して転写することが、本発明の別の特徴である。例えば、図8に示すように、37Rと37Gのみが形成され、本来37Bが形成されるべき場所がスペースとなっているドナー基板を用いる場合には、37Bに対応する位置で光をオーバーラップさせるように光熱変換層に支持体側から光を照射することが好ましい。また、図9に示すように、37Rと37Gのみが形成され、本来37Bが形成されるべき場所が区画パターンで満たされているドナー基板を用いる場合には、その満たされた区画パターン上で光をオーバーラップさせるように光熱変換層に支持体側から光を照射することが好ましい。
ディスプレイ用途でよく見られるように、転写材料層37R、37G、37Bの組がその並びのx方向にk回、その垂直のy方向にl回繰り返し形成されている場合は、例えば、37R、37G、37Bの幅と、その間に存在する区画パターンの3つ分の幅と、オーバーラップ分の幅をすべて足し合わせた幅の光を照射すれば、常に特定の転写材料層37(例えば、37G)の位置で光をオーバーラップさせることができる。この場合、y方向へのスキャン終了後にx方向へレーザー照射位置または基板を移動させるときの移動量が毎回同じになるため、操作上好ましい。
また、m組(mは2以上k未満の整数)の転写材料層37R、37G、37Bに光を同時照射しながら、y方向に光をスキャンすることで、転写時間を1/m程度に短縮することができる。m>k/2の場合には、図10に示すように、ドナー基板30の転写領域38の全幅の半分以上を覆うような光をオーバーラップ照射することで、2回のスキャンで全転写材料層37を転写することができる。あるいは、図11に示すように、光の幅方向では互いにオーバーラップするが、スキャン方向には段違いの位置関係にある2つの照射光を同時にスキャンすることで、上記2回のスキャンと同様に前転写材料層37を転写することもできる。
スキャン速度や光強度は一定である必要はなく、例えば、転写材料層37R、37G、37Bの各昇華温度に最適な条件になるように、スキャン速度や光強度をスキャン中に変調することもできる。
スキャン速度は特に限定されないが、0.01〜2m/sの範囲が一般的に使用される。本実施形態では、光照射のエネルギー密度が比較的小さい条件で、より低速でスキャンすることで、転写材料層37へのダメージを低減することを目的の1つとしているので、この観点からは、スキャン速度は0.6m/s以下、さらに0.3m/s以下であることが好ましい。
照射光の光源としては、容易に高強度が得られ、照射光の形状制御に優れるレーザーを好ましい光源として例示できるが、赤外線ランプ、タングステンランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、フラッシュランプなどの光源を利用することもできる。レーザーでは、半導体レーザー、ファイバーレーザー、YAGレーザー、アルゴンレーザー、窒素レーザー、エキシマレーザーなど公知のレーザーが利用できる。短時間に高強度の光が照射される間欠発振モード(パルス)レーザーより、連続発信モード(CW)レーザーの方が転写材料層37へのダメージを低減できるので、好ましい。
照射光の波長は、照射雰囲気とドナー基板の支持体31における吸収が小さく、かつ、光熱変換層33において効率よく吸収されれば特に限定されない。従って、可視光領域だけでなく紫外光から赤外光まで利用できる。ドナー基板の好適な支持体31の材料を考慮すると、好ましい波長領域として、300nm〜5μmを、更に好ましい波長領域として、380nm〜2μmを例示することができる。
照射光の形状は上記で例示した矩形に限定されるものではない。線状、楕円形、正方形、多角形など転写条件に応じて最適な形状を選択できる。複数の光源から重ね合わせにより照射光を形成してもよいし、逆に、単一の光源から複数の照射光に分割することもできる。図12に示すように、スキャン方向の幅が階段状の光をスキャンすることで転写材料層37R、37G、37Bへの各照射時間(加熱時間)を調整し、転写材料層37R、37G、37Bの各昇華温度に最適化した一括転写を実施することができる。照射光の強度ムラに対応して光のスキャン方向の幅を変調して、照射エネルギー(強度×照射時間)を一定にすることもできる。また、図13に示すように、矩形の光を斜めに照射する配置でy方向にスキャンしてもよい。照射光の形状(幅)が固定されている場合に、光学系の大きな変更を必要とせずに、多様なピッチを有する転写に対応することができる。
以上は光をスキャン照射する場合について説明してきたが、図14に示すように、ドナー基板30の転写領域38を部分的に覆う光を照射し、次に未照射の部分をオーバーラップ照射するステップ照射を使用してもよい。この場合も、照射光の位置を特定の転写材料の位置でオーバーラップさせるので、光照射の位置合わせを軽減できる。
照射光の強度や転写材料の加熱温度の好ましい範囲を一概に例示するのは難しい。これらは、照射光の均一性、照射時間(スキャン速度)、ドナー基板の支持体31や光熱変換層33の材質や厚さ、反射率、区画パターン34の材質や形状、転写材料層37の材質や厚さなど様々な条件に左右されるからである。光熱変換層33に吸収されるエネルギー密度の典型値としては0.01〜10J/cm2の範囲が、転写材料層37の加熱温度は220〜400℃の範囲が目安となる。
図15は、光を一定時間照射した際の、転写材料層37(あるいは光熱変換層33)の温度変化を示す概念図である。様々な条件によるので一概には言えないが、図15(a)のように、照射強度(パワー密度)が一定の条件では温度が徐々に上昇し、目標(昇華温度)に達した後も上昇する傾向にある。この条件でも転写材料層37の厚さや耐熱性、照射時間によっては問題なく転写を実施できる。一方、転写材料層37へのダメージをより低減する好ましい照射方法として、図15(b)に示すように、温度が目標付近で一定となり、かつ、その期間が長くなるように、強度に分布をもたせた照射光を用いて、ある点における照射強度を時間的に変化させる例が挙げられる。転写材料層37へのダメージを低減できることは、同時に区画パターン34へのダメージも低減できることを意味するので、例えば、区画パターン34を感光性有機材料を利用して形成した場合でも、区画パターン34が劣化せず、ドナー基板の再利用回数を増大できる。
図16は、照射光の成形方法を示す斜視図である。図16(a)に示すように、光学マスク41によって円形の光束から矩形の照射光を切り出すことができる。光学マスク41の他にナイフエッジや光学干渉パターンなどを利用してもよい。図16(b)、(c)に示すように、レンズ42やミラー43により、光源44からの光を集光あるいは拡張することで照射光を成形することができる。また、上記の光学マスク41、レンズ42、ミラー43などを適宜組み合わせることで、任意の形状の照射光に成形することができるし、例えば、矩形照射光の長軸方向は均一な照射強度を有し、短軸方向にはガウシアン分布を有するように設計することも可能である。
図16(d)は、図15(b)に示した照射強度の時間依存性を実現する一例を示す。ドナー基板30の面に対して照射光をレンズ42を介して斜めに集光する。破線で示した仮想焦点面45の手前側がドナー基板30の光熱変換層33(図示せず)に略一致するように配置すると、手前側はレンズ42の焦点距離と一致するオンフォーカス条件になるため照射密度が最大となり、奥側は焦点距離から外れるオフフォーカス条件になるため、光がぼけることで照射密度が低減する。このような配置で照射光を奥から手前に向けてスキャンすると、図15(b)に概念的に示した照射強度の時間依存性を得ることができる。
このように、ドナー基板30上の転写材料層37と同時に区画パターン34に光を照射することにより、大型であっても高精度な微細パターニングが可能になる。ドナー基板30上に転写材料以外の異物である区画パターン34を形成することは、区画パターン34自体が剥離して転写されたり、区画パターン34から転写材料に不純物が混入する恐れがあるために、本来は好ましくなく、まして、ドナー基板30上に光熱変換層33を設置して光を吸収させ、発生した熱により転写材料を転写させる蒸着転写法のように、転写材料が比較的高温に加熱される方式において、異物である区画パターン34を積極的に加熱するように光を照射することは、デバイスの性能を悪化させる可能性が高いものとして、前例がなかった。しかし、本実施形態では、光熱変換層33が設置されたドナー基板上において、あえて転写材料層37と同時に区画パターン34を加熱するように光を照射することにより、高精度な微細パターニングを可能としたものである。すなわち、このような照射方法によれば、区画パターン34と転写材料層37の境界における温度低下が抑制されるので、境界に存在する転写材料をも十分に加熱して転写することができる。従って、転写薄膜の膜厚分布は従来より均一化されるので、デバイス性能への悪影響を防止できる。
更には、用いる光の強度を小さくすることができるので、転写材料層37と区画パターン34が同時に加熱されるように光を当てた場合であっても、転写材料層37や区画パターン34の劣化、区画パターン34の剥離や区画パターン34からの脱ガスなどに起因するデバイス性能への悪影響、を最小限に抑制できる。光の強度を小さくして2種類以上の異なる転写材料を一括転写するときは、特定の転写材料の転写材料層(例えば37B)の位置で光をオーバーラップさせるように光熱変換層33に照射することで、転写膜27における発光効率の色度の低下のようなデバイス性能の悪化を防止することができる。
以上、本発明の実施形態に係るパターニング方法及びそれを用いたデバイスの製造方法について説明した。次に、本発明の実施形態に関係する実施例を説明する。本発明は、上述の実施形態及び次の実施例に記載したものに限られることなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でのさまざまな設計変更が可能である。
実施例1
ドナー基板30を以下のとおり作製した。支持体31として38×46mmで厚さ0.7mmの無アルカリガラス基板を用い、洗浄/UVオゾン処理後に、光熱変換層33として厚さ0.4μmのタンタル膜をスパッタリング法により全面形成した。次に、光熱変換層33を上記と同様のUVオゾン処理した後に、上にポジ型ポリイミド系感光性コーティング剤(東レ株式会社製、DL−1000)をスピンコート塗布し、プリベーキング、UV露光した後に、現像液(東京応化製、NMD3)により露光部を溶解・除去した。このようにパターニングしたポリイミド前駆体膜をホットプレートで350℃、10分間ベーキングして、ポリイミド系の区画パターン34を形成した。この区画パターン34の高さは2μmで、断面は順テーパー形状であった。区画パターン34内部には幅80μm、長さ280μmの光熱変換層33を露出する開口部が、それぞれ100、300μmのピッチで配置されていた。この基板上の各区画に、インクジェット法で、Alq3(蒸着速度0.1nm/s時の昇華温度280℃)を1wt%およびジアザインダセン誘導体(蒸着速度0.005nm/s時の昇華温度275℃)を0.05wt%含むNMP溶液からなる赤色溶液(R)、Alq3を1wt%およびジアザインダセン誘導体(蒸着速度0.005nm/s時の昇華温度250℃)を0.05wt%含むNMP溶液からなる緑色溶液(G)、ナフチルアントラセン誘導体(蒸着速度0.1nm/s時の昇華温度212℃)を1wt%およびピレン誘導体(蒸着速度0.005nm/s時の昇華温度270℃)を0.05wt%含むテトラヒドロナフタレン溶液からなる青色溶液(B)をRGBの繰り返しで塗布し、180℃で20分間乾燥させた。これにより、転写材料層37を形成し、RGB3区画を一つの単位として、横方向に20単位×縦方向に20単位からなるRGBパターンを形成した。これらのパターンを顕微鏡で観察した結果、RGBの混色、区画パターン34への乗り上げ等は認められず、各区画に塗布されていた。区画内のR、G、Bの平均厚さはそれぞれ40、30、25nmであった。
デバイス基板10は以下のとおり作製した。ITO透明導電膜を140nm堆積させた、厚さ0.7mmの無アルカリガラス基板(ジオマテック株式会社製、スパッタリング成膜品)を38×46mmに切断し、フォトリソ法によりITOを所望の形状にエッチングした。次に、ドナー基板30と同様にパターニングされたポリイミド前駆体膜を、300℃、10分間ベーキングして、ポリイミド系の絶縁層14を形成した。この絶縁層14の高さは1.8μmで、断面は順テーパー形状であった。絶縁層14のパターン内部には幅70μm、長さ270μmのITOを露出する開口部が、それぞれ100、300μmのピッチで配置されていた。この基板10をUVオゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が3×10−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、正孔輸送層16として、銅フタロシアニン(CuPc)を20nm、NPDを40nm、発光領域全面に蒸着により積層した。
次に、ドナー基板30の区画パターン34とデバイス基板10の絶縁層14との位置を合わせて対向させ、3×10−4Pa以下の真空中で保持した後に、大気中に取り出した。絶縁層14と区画パターン34とで区画される転写空間は真空に保持されていた。この状態で、ドナー基板30のガラス基板側から中心波長940nm、幅350μm×50μmのレーザー(光源:半導体レーザー)を、RGBの転写材料のうちのR転写材料の位置でオーバーラップさせる配置で照射し、RGBの転写材料を、デバイス基板10の下地層である正孔輸送層16上に転写した。レーザー強度は60W/mm2、スキャン速度は50mm/sであり、発光領域全面が転写されるように繰り返し照射を実施した。
RGBの転写後のデバイス基板10を、再び真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が3×10−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、電子輸送層18として下記に示すE−1を25nm、発光領域全面に蒸着した。次に、ドナー材料(電子注入層)としてフッ化リチウムを0.5nm、さらに、第二電極としてアルミニウムを100nm蒸着して5mm角の発光領域をもつ有機EL素子を作製した。本素子に5Vの電圧をかけて点灯した結果、均一な発光が認められ、従来の蒸着法で形成した素子と遜色ない発光効率を有することが確認できた。
比較例1
RGBの転写材料のうちのB転写材料の位置でオーバーラップさせる配置でレーザーを照射したこと以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。転写時の温度勾配が大きいオーバーラップ領域において、ホスト材料であるナフチルアントラセン誘導体とドーパント材料であるピレン誘導体の混合比に大きなムラが生じたために、実施例1と比較してB発光画素の発光均一性や発光効率、色度が低下した。
実施例2
RGBの転写材料のうちのG転写材料をAlq3のみを1wt%含むNMP溶液からなる緑色溶液(G)から形成し、G転写材料の位置でオーバーラップさせる配置でレーザーを照射したこと以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。本素子に5Vの電圧をかけて点灯した結果、均一な発光が認められ、従来の蒸着法で形成した素子と遜色ない発光効率を有することが確認できた。
比較例2
B転写材料の位置でオーバーラップさせる配置でレーザーを照射したこと以外は、実施例2と同様にして有機EL素子を作製した。転写時の温度勾配が大きいオーバーラップ領域において、ホスト材料であるナフチルアントラセン誘導体とドーパント材料であるピレン誘導体の混合比に大きなムラが生じたために、実施例2と比較してB発光画素の発光均一性や発光効率、色度が低下した。
実施例3
実施例1と同様にして、図9に示すように、転写材料37Rと37Gのみが形成され、本来37Bが形成されるべき場所が区画パターンで満たされたドナー基板30を作製した。区画パターン34の高さは7μm、その基本幅は20μm、本来37Bが形成されるべき場所の幅が120μmであり、その内部には幅80μm、長さ280μmの光熱変換層33を露出する開口部が、幅方向に基本ピッチ100μm(ただし本来37Rが形成されるべき部分は100μm飛ばす)で512個、長さ方向にピッチ300μmで200個配置した。各区画には、ピレン系赤色ホスト材料RH−1とピロメテン系赤色ドーパント材料RD−1とをTHNにそれぞれ1wt%、0.05wt%溶解させたR溶液と、ピレン系緑色ホスト材料GH−1とクマリン系緑色ドーパント材料(C545T)とをTHNにそれぞれ1wt%、0.05wt%溶解させたG溶液を、インクジェット法により塗布し、真空中で120℃で乾燥させることで、区画パターンの幅方向に、赤色ホスト材料と赤色ドーパント材料との混合膜からなる平均膜厚40nmのR転写材料37Rと、緑色ホスト材料と緑色ドーパント材料との混合膜からなる平均膜厚30nmのG転写材料37Gとを繰り返し形成した。
実施例1と同様にしてデバイス基板を作製した。ITOはピッチ100μmで716本のストライプ形状にパターニングされており、ITOを露出する絶縁層14の開口部は幅70μm、長さ250μmで、幅方向にピッチ100μmで716個、長さ方向にピッチ300μmで200個配置されていた。ITOストライプ電極の長手方向を絶縁層14の長さ方向に一致させた。実施例1と同様に、この基板の発光領域全面に正孔輸送層16として、アミン系化合物を50nm、NPDを10nmを蒸着した。
次に、実施例1と同様にして、転写材料37Rと37Gを、デバイス基板10の正孔輸送層16上にレーザー転写した。この際に、図9に示すように、本来37Bが形成されるべき場所に満たされた区画パターン34上でレーザーをオーバーラップさせた。レーザー強度は148W/mm2、スキャン速度は0.6m/sであり、発光領域全面が転写されるように24回照射を実施した。
その後、実施例1と同様にして、青色発光層を兼ねる電子輸送層18を発光領域全面に蒸着し、さらにドナー材料(電子注入層)と第二電極を蒸着することで、有機EL素子を作製した。このとき、第二電極のアルミニウムはマスク蒸着により、ピッチ300μmで200本のストライプ形状にパターニングし、ストライプ電極の長手方向を絶縁層14の幅方向に一致させた。従って、作製した有機EL素子は、ITOストライプからなる第一電極と、アルミニウムストライプからなる第二電極とが互いに直交する単純マトリクス型ディスプレイの構造をもち、両電極の交点に、R、G、Bの副画素から構成される画素が256×200配置されている。各副画素からは、それぞれ均一なR、G、B発光が確認された。
比較例3
G転写材料の位置でオーバーラップさせる配置でレーザーを照射したこと以外は、実施例3と同様にして有機EL素子を作製した。転写時の温度勾配が大きいオーバーラップ領域において、ホスト材料であるピレン誘導体とドーパント材料であるクマリン誘導体との混合比にムラが生じたために、実施例3と比較してG発光画素の発光均一性や発光効率、色度が低下した。