以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、コアと、これを被覆する3層以上のカバー層とを有する多層構造体である。
本発明におけるコアは、通常使用されるゴム基材を主体としたゴム組成物により加硫成形されたゴム製コアを用いることができる。具体的には、基材ゴム、充填材、有機過酸化物、老化防止剤、α、β−不飽和カルボン酸を必須成分としたゴム組成物の加硫成形物を構成要素とするものである。
ここで、上記コアは、ゴム組成物にて形成したものが好ましい。ゴム組成物の基材ゴムとしては、ポリブタジエンを使用したものが好ましい。このポリブタジエンとしては、シス構造を少なくとも40%以上有する1,4−シスポリブタジエンが好適に挙げられる。また、この基材ゴム中には、所望により該ポリブタジエンに天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴムなどを適宜配合することができる。ゴム成分を多くすることにより、ゴルフボールの反発性を向上させることができる。
また、上記ゴム組成物には、架橋剤として、メタクリル酸亜鉛、アクリル酸亜鉛等のα、β−不飽和カルボン酸を配合し得るが、特にアクリル酸亜鉛を好適に使用し得る。これら不飽和カルボン酸の配合量は、上記基材ゴム100質量部に対し、10質量部以上、特に20質量部以上、上限として50質量部以下、特に39質量部以下とすることが好ましい。
上記ゴム組成物中には、加硫剤が配合されているが、加硫剤としては、有機過酸化物及び/又は硫黄が好ましく用いられる。有機過酸化物としては、市販品を挙げることができ、例えばパーヘキサ3M(日本油脂社製)、パークミルD(日本油脂社製)、Luperco 231XL,Luperco 101XL(共にアトケム社製)等が挙げられ、単独又は2種以上を混合して用いることができる。その配合量は、基材ゴム100質量部に対し、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.4質量部以上、特に0.6質量部以上、上限として、好ましくは2.0質量部以下、より好ましくは1.5質量部以下、更に好ましくは1.2質量部以下、特に好ましくは0.9質量部以下とすることができる。
更に、老化防止剤を配合することができる。例えば、市販品としてはノクラックNS−6、同NS−30、同SP−N(大内新興化学工業(株)製)、ヨシノックス425(吉富製薬(株)製)等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
充填剤としては、特に制限はなく、酸化亜鉛、硫酸バリウム及び炭酸カルシウム等を配合することができる。
上記成分を配合して得られるコア組成物は、通常の混練機、例えばバンバリーミキサーやロール等を用いて混練し、コア用金型に圧縮又は射出成形し、成形体を架橋剤及び共架橋剤が作用するのに十分な温度、例えば架橋剤としてジクミルパーオキサイドを用い、共架橋剤としてアクリル酸亜鉛を用いた場合には、通常約130〜170℃、特に150〜160℃で10〜40分、特に12〜20分の条件にて適宜加熱硬化して所定の硬度分布になるようにコアを製造する。
上記ゴム組成物は、公知の方法で加硫・硬化させてコアを製造することができるが、その直径は、好ましくは32.3mm以上、更に好ましくは32.5mm以上であり、上限として、好ましくは35.5mm以下、更に好ましくは35.0mm以下とする。
コアに対して、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)を負荷したときまでの変形量は3.2mmを超えることが必要され、好ましくは3.3mm以上、より好ましくは3.4mm以上であり、上限として、好ましくは5.2mm以下、より好ましくは4.6mm以下、さらに好ましくは4.2mm以下である。上記の値よりコアが軟らかいと、コアの反発性が乏しくなる。逆に、上記の値よりコアが硬いと、ボールの打感が悪くなる場合がある。
また、上記コアについては複数層に仕上げることができる。コアを複数層とすることにより、ドライバー打撃時のスピンを低減させることができ、更なる飛距離増大を図ることができる。また、打撃時のスピン特性及びフィーリング特性を改良することができる。この場合、コアは、内層コア(内芯球)及び外層コアを具備するものであり、内層コア及び外層コアの詳細については下記のとおりである。
内層コアの直径としては、15mm以上、好ましくは20mm以上、より好ましくは22mm以上、更に好ましくは24mm以上、上限として、36mm以下、好ましくは33mm以下、より好ましくは30mm以下、更に好ましくは28mm以下である。
更に、内層コアの中心硬度としては、ショアD硬度で、21以上、好ましくは23以上、より好ましくは24以上、更に好ましくは26以上、上限として、46以下、好ましくは45以下、より好ましくは44以下、更に好ましくは43以下である。
内層コア表面の硬度としては、ショアD硬度で、33以上、好ましくは35以上、より好ましくは37以上、更に好ましくは39以上、上限として、54以下、好ましくは53以下、より好ましくは52以下、更に好ましくは51以下である。
更に、内層コアの表面硬度から中心硬度を引いた値としてはショアD硬度で5以上であり、好ましくは6以上、より好ましくは7以上、上限として好ましくは21以下、より好ましくは19以下である。
一方、外層コアの厚さとしては、好ましくは1.5mm以上、より好ましくは2mm以上、更に好ましくは2.5mm以上、上限として、好ましくは10mm以下、より好ましくは9mm以下、更に好ましくは8mm以下である。
内層コアと外層コアが接する境界から1mm外側における外層コアの断面硬度としては、ショアD硬度で、41以上、好ましくは43以上、より好ましくは45以上であり、上限としては、63以下、好ましくは62以下、より好ましくは61以下である。
外層コアの表面硬度としては、ショアD硬度で50以上、好ましくは52以上、より好ましくは54以上、更に好ましくは56以上であり、上限としては、66以下、好ましくは65以下である。
外層コアの表面硬度から内層コアの中心硬度を引いた値としては、ショアD硬度で、好ましくは15以上、より好ましくは18以上、更に好ましくは20以上であり、上限としては、好ましくは40以下、より好ましくは35以下、更に好ましくは30以下である。このように硬度が調整されることにより、上記材料の選択と相俟って軟らかい打感と良好な反発性を兼ね備えたソリッドゴルフボールを確実に得ることができる。
上記の内層コア及び/又は外層コアについては、例えば、共架橋剤、有機過酸化物、不活性充填剤、有機硫黄化合物等を含有するゴム組成物を用いて形成することができる。該ゴム組成物の基材ゴムとしては、ポリブタジエンを用いることが好ましい。
2層コアの場合の外層コアは、圧縮成形または、射出成形により製造することができる。また、ハーフカップ作成用の金型に未加硫ゴム組成物を入れ、100〜160℃,1〜10分で半加硫状態にし、次いで、その半加硫ハーフカップを2枚合わせて、内層コア(内芯球)上に被せ、再度、金型内で100〜200℃で5〜20分加圧成形して、内層コア及び外層コアを一体化させた複数層コアを製造することができる。
なお、上記複数層コアの全体の「直径」及び「初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)を負荷したときまでの変形量」については、上述したコアの直径及び変形量と同じ説明であるので省略する。
本発明では、コアを被覆するカバー層が少なくとも3層に存在する。即ち、そのカバー層は、図1に示されたボール構造を有し、コア1を直接包囲する最内カバー層2と、ボール表面側に位置する最外カバー層4と、それらの間に位置する1層以上の中間カバー層3とからなるボールである。なお、最外カバー層4の外表面には、通常、多数のディンプルDが形成される。
次に、上記カバー層の材料について、最内カバー層、最外カバー層、中間カバー層の順に下記に詳述する。
最内カバー層の材料
本発明では、最内カバー層が下記成分(a)〜(d)、
(a)オレフィン−不飽和カルボン酸ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステルランダム共重合体と
(d)オレフィン−不飽和カルボン酸ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステルランダム共重合体の金属イオン中和物との(a)(d)のいずれか一方又は両方 100質量部、
(b)分子量が228以上の脂肪酸又はその誘導体 5〜150質量部、
(c)上記(a)及び/又は(d)成分、および(b)成分中の酸基を中和することができる塩基性無機金属化合物 0.1〜10質量部
を必須成分として配合する樹脂組成物にて形成されたものである。
上記(a)〜(d)成分について以下に説明する。
(a)成分としては、オレフィン−不飽和カルボン酸ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステルランダム共重合体であり、(d)成分としては、オレフィン−不飽和カルボン酸ランダム共重合体及び/又はオレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステルランダム共重合体の金属イオン中和物であり、これらのいずれかを単独で又は上記(a)成分と(d)成分とを併用配合するものである。
ここで、上記(a)成分中のオレフィンは、通常炭素数2以上、上限として8以下、特に6以下のものが好ましく、具体的には、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等が挙げられ、特にエチレンであることが好ましい。
また、不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができ、特にアクリル酸、メタクリル酸であることが好ましい。
更に、不飽和カルボン酸エステルとしては、上述した不飽和カルボン酸の低級アルキルエステルが好適で、具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等を挙げることができ、特にアクリル酸ブチル(n−アクリル酸ブチル、i−アクリル酸ブチル)であることが好ましい。
(a)成分のランダム共重合体は、上記成分を公知の方法に従ってランダム共重合させることにより得ることができる。ここで、ランダム共重合体中に含まれる不飽和カルボン酸の含量(酸含量)は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは6質量%以上、更に好ましくは8質量%以上、上限としては、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下であることが推奨される。酸含量が少ないと反発性が低下する可能性があり、多いと加工性が低下する可能性がある。
(d)成分のランダム共重合体の中和物は、上記ランダム共重合体中の酸基を部分的に金属イオンで中和することによって得ることができる。ここで、酸基を中和する金属イオンとしては、例えば、Na+、K+、Li+、Zn++、Cu++、Mg++、Ca++、Co++、Ni++、Pb++等が挙げられるが、好ましくはNa+、Li+、Zn++、Mg++等が好適に用いられ、更に好ましくはZn++であることが推奨される。これら金属イオンのランダム共重合体の中和度は特に限定されるものではない。このような中和物は公知の方法で得ることができ、例えば、上記ランダム共重合体に対して、上記金属イオンのギ酸塩、酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、酸化物、水酸化物及びアルコキシド等の化合物を使用して導入することができる。
(a)成分のランダム共重合体としては、例えば、ニュクレルAN4311、同AN4318、同1560(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)等が、また(d)成分のランダム共重合体の中和物としては、例えば、ハイミラン1554、同1557、同1601、同1605、同1706、同1855、同1856、同AM7316(いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)、サーリン6320、同7930、同8120(いずれもデュポン社製)等が挙げられ、特に、亜鉛中和型アイオノマー樹脂(ハイミランAM7316等)を好適に使用できる。
上記最内カバー層の材料のベース樹脂として、上記(a)成分のランダム共重合体及び/又は上記(d)成分の中和物を単独で又は両成分を併用配合して使用することができるが、両成分を併用配合する場合の配合比は特に制限されるものではない。
なお、上記(a)(d)成分のうち、オレフィン−不飽和カルボン酸ランダム共重合体(2元ランダム共重合体)及び/又はその金属塩の樹脂材料の硬度は、ショアDで58以上であり、オレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステルランダム共重合体(3元ランダム共重合体)及び/又はその金属塩の樹脂材料の硬度は、ショアDで55以下であることが好ましい。上記2元ランダム共重合体及び/又はその金属塩の樹脂材料の硬度の上限値としては、好ましくは70以下、より好ましくは68以下である。また、上記3元ランダム共重合体及び/又はその金属塩の樹脂材料の硬度の下限値としては、好ましくは20以上、より好ましくは25以上である。
(b)成分は、分子量228以上の脂肪酸又はその脂肪酸誘導体であり、樹脂組成物の流動性向上に寄与する成分で、上記(a)成分の熱可塑性樹脂と比較して分子量が極めて小さく、混合物の溶融粘度の著しい低下に寄与するものである。また、本発明の脂肪酸(誘導体)は、分子量が228以上で高含量の酸基(誘導体)を含むため、添加による反発性の損失が少ないものである。
上記(b)成分の脂肪酸又はその誘導体の分子量は、228以上、好ましくは256以上、より好ましくは280以上、更に好ましくは300以上、上限としては1500以下、好ましくは1000以下、より好ましくは600以下、更に好ましくは500以下であることが必要である。分子量が少なすぎる場合は耐熱性が改良できず、多すぎる場合は流動性が改善できない。
上記(b)成分の脂肪酸又はその脂肪酸誘導体としては、例えば、アルキル基中に二重結合又は三重結合を含む不飽和脂肪酸(誘導体)やアルキル基中の結合が単結合のみで構成される飽和脂肪酸(誘導体)を同様に好適に使用できるが、いずれの場合も1分子中の炭素数が、好ましくは18以上、より好ましくは20以上、更に好ましくは22以上、特に好ましくは24以上、上限として、好ましくは80以下、より好ましくは60以下、更に好ましくは40以下、特に好ましくは30以下であることが推奨される。炭素数が少なすぎると、耐熱性の改善が達成できない上、酸基の含有量が多すぎて、ベース樹脂に含まれる酸基との相互作用により流動性の改善の効果が少なくなってしまう場合がある。一方、炭素数が多すぎる場合には、分子量が大きくなるために、流動性改質の効果が顕著に表れない場合がある。
(b)成分の脂肪酸として、具体的には、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、リグノセリン酸などが挙げられ、特に、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸を好適に用いることができる。
また、脂肪酸誘導体は、脂肪酸の酸基に含まれるプロトンを置換したものが挙げられ、このような脂肪酸誘導体としては、金属イオンにより置換した金属せっけんが例示できる。金属せっけんに用いられる金属イオンとしては、例えば、Li+、Ca++、Mg++、Zn++、Mn++、Al+++、Ni++、Fe++、Fe+++、Cu++、Sn++、Pb++、Co++が挙げられ、特にCa++、Mg++、Zn++が好ましい。
(b)成分の脂肪酸誘導体として、具体的には、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12−ヒドロキシステアリン酸亜鉛、アラキジン酸マグネシウム、アラキジン酸カルシウム、アラキジン酸亜鉛、ベヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸亜鉛、リグノセリン酸マグネシウム、リグノセリン酸カルシウム、リグノセリン酸亜鉛等が挙げられ、特にステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、アラキジン酸マグネシウム、アラキジン酸カルシウム、アラキジン酸亜鉛、ベヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸亜鉛、リグノセリン酸マグネシウム、リグノセリン酸カルシウム、リグノセリン酸亜鉛を好適に使用することができる。
なお、上述した(a)成分及び/又は(d)成分、及び(b)成分の使用に際し、公知の金属せっけん変性アイオノマー(米国特許第5312857号明細書,米国特許第5306760号明細書,国際公開第98/46671号パンフレット等)を使用することもできる。
(c)成分として、上記(a)成分及び/又は(d)成分、及び(b)成分中の酸基を中和することができる塩基性無機充填剤を配合する。もし、(a)成分及び/又は(d)成分、及び(b)成分のみ、特に金属変性アイオノマー樹脂のみ(例えば、上記特許公報に記載された金属せっけん変性アイオノマー樹脂のみ)を加熱混合すると、下記に示すように金属せっけんとアイオノマーに含まれる未中和の酸基との交換反応により脂肪酸が発生する。この発生した脂肪酸は熱的安定性が低く、成形時に容易に気化するため、成形不良の原因となるばかりでなく、発生した脂肪酸が成形物の表面に付着した場合、塗膜密着性が著しく低下する原因になる。
このような問題を解決すべく、(c)成分として、上記(a)成分及び/又は(d)成分と(b)成分中に含まれる酸基を中和する塩基性無機金属化合物を必須成分として配合する。(c)成分の配合で、上記(a)成分及び/又は(d)成分と(b)成分中の酸基が中和され、これら各成分配合による相乗効果により、樹脂組成物の熱安定性が高まると同時に、良好な成形性が付与され、ゴルフボール用材料としての反発性が向上するという優れた特性が付与されるものである。
(c)成分は、上記(a)成分及び/又は(d)成分、及び(b)成分中の酸基を中和することができる塩基性無機金属化合物であり、好ましくは一酸化物であることが推奨され、アイオノマー樹脂との反応性が高く、反応副生成物に有機物を含まないため、熱安定性を損なうことなく、樹脂組成物の中和度を上げることができる。
ここで、塩基性無機金属化合物に使われる金属イオンとしては、例えば、Li+、Na+、K+、Ca++、Mg++、Zn++、Al+++、Ni+、Fe++、Fe+++、Cu++、Mn++、Sn++、Pb++、Co++等が挙げられ、無機金属化合物としては、これら金属イオンを含む塩基性無機充填剤、具体的には、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム等が挙げられるが、上述したように一酸化物が好適で、特に、アイオノマー樹脂との反応性の高い酸化マグネシウムを好適に使用できる。
上述したように(a)成分、(d)成分、(b)成分及び(c)成分を配合してなり、熱安定性、成形性、反発性の向上が図れるものであるが、これら成分の配合量は(a)成分及び/又は(d)成分(以下、ベース樹脂という)100質量部に対し、(b)成分の配合量を5質量部以上、上限として150質量部以下、好ましくは100質量部以下、更に好ましくは80質量部以下、(c)成分の配合量を0.1質量部以上、上限としては10質量部以下、好ましくは5質量部以下にする必要がある。(b)成分の配合量が少ない場合、溶融粘度が低くなり加工性が低下し、多いと耐久性が低下する。また、(c)成分の配合量が少ない場合、熱安定性、反発性の向上が見られず、多い場合、過剰の塩基性無機金属化合物により組成物の耐熱性がかえって低下する。
上記樹脂組成物は、上述した材料をそのまま使用しても、さらに他の材料を適宜配合してもよいが、いずれにしても、樹脂組成物としてのメルトインデックス(JIS−K6760(試験温度190℃、試験荷重21N(2.16kgf)にて測定))を1.0dg/min以上、好ましくは1.5dg/min以上、更に好ましくは2.0dg/min以上にする必要があり、上限としては20dg/min以下、好ましくは15dg/min以下であることが推奨される。樹脂組成物のメルトインデックスが少ないと加工性が著しく低下してしまう。
上記樹脂組成物は、赤外吸収測定において通常検出される1690〜1710cm-1のカルボニル伸縮振動に帰属する吸収ピークの吸光度に対する、1530〜1630cm-1のカルボキシラート伸縮振動に帰属する吸収ピークにおける相対吸光度(カルボキシラート伸縮振動に帰属する吸収ピークの吸光度/カルボニル伸縮振動に帰属する吸収ピークの吸光度)として特定されたものであることが好ましい。
ここで、カルボキシラート伸縮振動はプロトンを解離したカルボキシル基(金属イオンにより中和されたカルボキシル基)を、カルボニル伸縮振動は未解離のカルボキシル基の振動をそれぞれ示すが、それぞれのピークの強度比は中和度に依存する。一般的に用いられる中和度が約50モル%のアイオノマー樹脂の場合、それぞれのピークの吸光度比は約1:1である。
上記樹脂組成物は、材料としての熱安定性、成形性、反発性を改良するために、カルボキシラート伸縮振動に帰属するピークの吸光度が、カルボニル伸縮振動によるピークの吸光度の少なくとも1.5倍以上であることが推奨され、好ましくは2倍以上であり、更に好ましくはカルボニル伸縮振動に帰属するピークが存在しないものであることが推奨される。
また、上記の樹脂組成物は、熱安定性を熱質量測定により測定することができるが、樹脂組成物は、熱質量測定において、25℃における質量を基準とした250℃における減量率が、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下であることが推奨される。
なお、樹脂組成物自体の比重は、特に制限されるものではないが、好ましくは0.9以上、上限として、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.3以下、更に好ましくは1.1以下であることが推奨される。
上記の樹脂組成物は、上述した(a)成分及び/又は(d)成分、(b)成分及び(c)成分が加熱混合され、メルトインデックスが適正化されるものであるが、樹脂組成物中の酸基の70モル%以上、好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上が中和されていることが推奨され、高中和化により上述したベース樹脂と脂肪酸(誘導体)のみを使用した場合に問題となる交換反応をより確実に抑制し、脂肪酸の発生を防ぐことができ、熱的な安定性が著しく増大し、成形性が良好で、従来のアイオノマー樹脂と比較して反発性の著しく増大した材料になり得る。
ここで、上記樹脂組成物の中和化は、高中和度と流動性をより確実に両立するために、上記樹脂組成物の酸基が遷移金属イオンと、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属イオンとで中和されていることが推奨され、遷移金属イオンがアルカリ(土類)金属イオンと比較してイオン凝集力が弱いため、樹脂組成物中の酸基の一部を中和し、流動性の著しい改良を図ることができる。
この場合、遷移金属イオンと、アルカリ(土類)金属イオンのモル比は適宜調整されるが、好ましくは10:90〜90:10、特に20:80〜80:20であることが好ましい。遷移金属イオンのモル比が少ないと、流動性を改善する効果が十分に得られない可能性があり、モル比が高いと、反発性が低下する可能性がある。
ここで、上記金属イオンとして、具体的には、遷移金属イオンとしては、亜鉛イオン等、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンとしては、ナトリウムイオン、リチウムイオン、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンから選ばれる少なくとも1種のイオン等が挙げられる。
なお、酸基が遷移金属イオンとアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンとで中和された樹脂組成物を得る方法は、特に制限されるものではなく、例えば、遷移金属イオン(亜鉛イオン)により中和する方法の具体的な例として、脂肪酸に亜鉛せっけんを用いる方法、(d)成分として亜鉛中和物をベース樹脂(例えば、亜鉛中和型アイオノマー樹脂)に含める方法、(c)成分の塩基性無機金属化合物に亜鉛酸化物を用いる方法などが挙げられる。
上述したように、最内カバー層を得るには、上記樹脂組成物を必須成分とすればよく、必要に応じて種々の添加剤を調整することにより得ることができ、例えば、上記樹脂組成物に、更に、顔料、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などを加えることができる。また、打撃時のフィーリングを改善するために上記必須成分に加え、種々の非アイオノマー熱可塑性エラストマーを配合することができ、このような非アイオノマー熱可塑性エラストマーとして、例えば、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー等が挙げられ、特にオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマーの使用が好ましい。
最内カバー層には、更に、
(e)熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ブロック共重合体および、熱可塑性ウレタンの群から選ばれる熱可塑性エラストマーと、
(f)アイオノマー樹脂と反応性と有する官能基により変性された末端ブロックを含み両末端ブロックが異なるコモノマーから形成される熱可塑性ブロック共重合体と、
(g)アイオノマーと反応しない無機充填材
を添加することが好ましい。
(e)成分の説明
(e)成分の一つである熱可塑性ポリエステルエラストマーは、結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体からなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメントからなるソフトセグメントを主たる構成成分とする。
高融点結晶性重合体としては、好ましくはテレフタル酸及び/又はジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレートなどであるが、この他に、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、あるいはこれらのエステル形成性誘導体などのジカルボン酸成分と、分子量300以下のジオール、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシ−p−ターフェニル、4,4’−ジヒドロキシ−p−クオーターフェニルなどの芳香族ジオールなどから誘導されるポリエステル、あるいはこれらのジカルボン酸成分及びジオール成分を2種以上併用した共重合ポリエステルなどを挙げることができる。また、上記成分に更に3官能以上の多官能カルボン酸成分、多官能オキシ酸成分及び多官能ヒドロキシ成分などを5モル%以下の範囲で共重合させたものを配合することも可能である。
低融点重合体は、脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメントである。
ここで、脂肪族ポリエーテルとして、具体的には、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランとの共重合体などが挙げられる。また、脂肪族ポリエステルとして、具体的には、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが挙げられる。上記の重合体の中では、得られるポリエステルブロック共重合体の弾性特性から、特に、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが好ましく、特にポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールであることが好ましい。
このような低融点重合体セグメントの数平均分子量としては、共重合された状態において300〜6000程度であることが好ましい。
上記の熱可塑性ポリエステルエラストマーは、高融点結晶性重合体成分と低融点重合体成分との合計共重合量を100質量%とした場合、低融点重合体成分を、通常15質量%以上、特に50質量%以上、上限として90質量%以下配合したものであることが好ましい。低融点重合体成分の配合割合が上記範囲より多すぎると、射出成形に適した十分な溶融特性が得られず、溶融ブレンドが困難となり、均一に混合することが困難になる場合があり、少なすぎると、十分な柔軟性・反発性が得られない場合がある。
上記の熱可塑性ポリエステルエラストマーは、上記高融点結晶性重合体成分と低融点重合体成分とを主構成成分とする共重合体であり、製造方法に制限はなく、公知の方法で製造することができる。例えば、下記(i)〜(v)の方法などを挙げることができ、いずれの方法をも好適に採用することができる。
(i)ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコール、及び低融点重合体セグメント成分を、触媒の存在下、エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法。
(ii)ジカルボン酸と過剰量のグリコール及び低融点重合体セグメント成分を、触媒の存在下、エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法。
(iii)予め高融点結晶性セグメントを作っておき、これに低融点セグメント成分を添加してエステル交換反応によりランダム化せしめる方法。
(iv)高融点結晶性セグメントと低融点重合体セグメントを鎖連結剤でつなぐ方法。
(v)ポリ(ε−カプロラクトン)を低融点重合体セグメントに用いる場合は、高融点結晶性セグメントにε−カプロラクトンモノマーを付加反応させる方法。
上記の熱可塑性ポリエステルエラストマーは、ASTM D−2240に従って測定した硬度(ショアD硬度)が、好ましくは10以上、より好ましくは20以上、上限として、好ましくは50以下、より好ましくは40以下であることが推奨される。
また、上記の熱可塑性ポリエステルエラストマーのBS規格903に従って測定した反発弾性率は、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、上限として、好ましくは90%以下の高反発弾性率を示すものである。この反発弾性率が少なすぎると、樹脂組成物の成形物自体の反発性が小さくなり、該成形物を具備したゴルフボールの飛び性能が低下する場合がある。
更に、上記の熱可塑性ポリエステルエラストマーは、JIS K−7106に従って測定した曲げ剛性率が、好ましくは5MPa以上、より好ましくは10MPa以上、更に好ましくは15MPa以上、上限として、好ましくは250MPa以下、より好ましくは200MPa以下、更に好ましくは150MPa以下と比較的低いものであることが好ましい。曲げ剛性率が高すぎると、本発明の樹脂組成物の成形物の剛性が高すぎて、該成形物を具備したゴルフボールの打感・耐久性が悪くなる場合がある。
次に、上記(e)成分の一つである熱可塑性ブロック共重合体としては、ハードセグメントとしてポリエチレン結晶ブロック(C)及び/又はポリスチレン結晶ブロック(S)とからなり、ソフトセグメントとしてポリブタジエンからなるブロック(B)、ポリイソプレンからなるブロック(I)、エチレンとブチレンとの比較的ランダムな共重合構造(EB)からなるブロック、エチレンとプロピレンとの比較的ランダムな共重合構造(EP)からなるブロックが例示されるが、好ましくはエチレンとブチレンとの比較的ランダムな共重合構造(EB)からなるブロック、エチレンとプロピレンとの比較的ランダムな共重合構造(EP)からなるブロック、より好ましくはエチレンとブチレンとの比較的ランダムな共重合構造(EB)からなるもの好適に用いられる。
上記の熱可塑性ブロック共重合体は、S−EB−S、S−B−S、S−I−S、S−EB、S−EB−S−EB、S−EP−S、S−EB−C、S−B−C、S−I−C、S−EP−C、C−EB−C、C−B−C、C−I−C、C−EB、C−EB−C−EB、C−EP−C等が例示されるが、反発性の面からハードセグメントにポリエチレン結晶ブロック(C)を含めることが好ましく、S−EP−C、より好ましくはC−EB−Cが用いられる。
熱可塑性ブロック共重合体がC−EB−Cタイプ又はS−EB−Cタイプのブロックコポリマーである場合、ブタジエン、又はスチレン−ブタジエン共重合体を水素添加することにより得ることができる。
ここで、水素添加に用いるポリブタジエンやスチレン−ブタジエン共重合体としては、そのブタジエン構造中の結合様式として特に1,4−結合が95質量%以上の1,4−重合部をブロック的に持ち、ブタジエン構造全量中の1,4−結合が50質量%以上、より好ましくは80質量%以上であるポリブタジエンが好適に用いられる。
この場合、水素添加物における水素添加量(ポリブタジエンやスチレン−ブタジエン共重合体中の二重結合の飽和結合への転化率)は60〜100%であることが好ましく、より好ましくは90〜100%である。水素添加量が少なすぎると、アイオノマー樹脂等とのブレンド工程でゲル化等の劣化が生じたり、ゴルフボールを形成した際に、カバーの耐候性、打撃耐久性に問題が生じたりする場合がある。
熱可塑性ブロック共重合体において、ハードセグメントの含量としては10〜50質量%が好ましい。ハードセグメント量が多すぎると、柔軟性に欠けて本発明の目的を有効に達成し得ない場合があり、ハードセグメント量が少なすぎると、ブレンド物の成形性に問題が生じる場合がある。
熱可塑性ブロック共重合体の数平均分子量は3万〜80万であることが好ましい。熱可塑性ブロック共重合体の230℃におけるメルトインデックスは0.5〜15g/10min、より好ましくは1〜7g/10minであることが好ましい。上記範囲を外れると、射出成形時にウェルド、ひけ、ショート等の問題が生じるおそれがある。
上記(e)成分の一つである熱可塑性ポリウレタンエラストマーの構造は、特に、ソフトセグメントを構成する高分子ポリオール化合物と、ハードセグメントを構成する単分子鎖延長剤と、ジイソシアネートとから構成されていることが好ましい。
高分子ポリオール化合物としては、特に制限されるものではないが、ポリエステル系ポリオール、ポリオール系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、コポリエステル系ポリオール、及びポリカーボネート系ポリオール等が採用され、上記ポリエステル系ポリオールとしては、ポリカプロラクトングリコール、ポリ(エチレン−1,4−アジペート)グリコール、ポリ(ブチレン−1,4−アジペート)グリコール系等、コポリエステル系ポリオールとしては、ポリ(ジエチレングリコールアジペート)グリコール等、ポリカーボネート系ポリオールとしては、(ヘキサンジオール−1,6−カーボネート)グリコール等、ポリエーテル系ポリオールとしては、ポリオキシテトラメチレングリコール等が挙げられる。
これら高分子ポリオール化合物の数平均分子量は約600〜5000、好ましくは1000〜3000である。
ジイソシアネートとしては、カバーの脂肪族又は芳香族ジイソイアネートが好適に用いられる。具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4(2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)、リジンジイソシアネート(LDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)などが挙げられるが、特に、他の樹脂とブレンドする際の相溶性の点から、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましく用いられる。
単分子鎖延長剤としては、特に制限されないが、通常の多価アルコール、アミン類を用いることができ、具体的には、1,4−ブチレングリコール、1,2−エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジシクロヘキシルメチルメタンジアミン(水添MDI)、イソホロンジアミン(IPDA)などが挙げられる。
上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、そのJIS A硬度が好ましくは70以上、より好ましくは80以上、更に好ましくは90以上、特に好ましくは95以上であり、上限として、好ましくは100以下、より好ましくは99以下、更に好ましくは98以下である。JIS A硬度が70未満では、ドライバーによる打撃時にスピン量が過剰に増加して飛距離が低下する場合がある。なお、上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーの比重は、特に制限されないが、本発明の目的を達成し得る範囲で適宜調整することができるが、好ましくは1.0〜1.3、より好ましくは1.1〜1.25である。
このような熱可塑性ポリウレタンエラストマーとしては、市販品を用いることができ、例えば、商品名:パンデックス−TR3080、同T7298、同EX7895、同T7890、同T8198(ディーアイシーバイエルポリマー社製)などが挙げられる。
(f)成分の説明
次に、(f)成分である、アイオノマー樹脂と反応性を有する官能基により変性された末端ブロックを含み両末端ブロックが異なるコモノマーから形成される熱可塑性ブロック共重合体について以下に説明する。
上記(f)成分のベースとなる熱可塑性ブロック共重合体としては、H1−S1、H1−S1−H1−S1、H1−(S1−H1)n−S1、H1−S1−H2、(H1、H2:ハードセグメント/S1:ソフトセグメント)タイプ等のブロック共重合体が例示される。特に、H1−S1タイプのジブロック共重合体、又はH1−S1−H2タイプのトリブロック共重合体を用いることが好ましく、より好ましくは、H1−S1−H2タイプのトリブロック共重合体である。この場合、その他のブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体を用いた場合と比較して著しく相溶性を改良することができる。
(f)成分に用いられるハードセグメントとしてオレフィン結晶ブロック、ビニル芳香族化合物、ポリエステルブロック、ポリアミドブロック等が例示されるが、特にオレフィン結晶ブロック、ビニル芳香族化合物ブロック、ポリエステルブロックを用いた場合、より好ましくはオレフィン結晶ブロック、ビニル芳香族化合物を用いた場合、効果的に相溶性が改良される。オレフィン結晶ブロックとしては、エチレン結晶ブロック(C)、プロピレン結晶ブロック等が例示され、エチレン結晶ブロックを用いることが特に好ましい。ビニル芳香族化合物ブロックとしてはスチレンブロック(S)、ポリエステルブロックとしてはポリテトラメチレンテレフタレートブロック(PBT)、ポリアミドブロックとしてはナイロンブロックが好適に用いられる。
ソフトセグメントとしてはポリブタジエンからなるブロック(B)、ポリイソプレンからなるブロック(I)、エチレンとブチレンとの比較的ランダムな共重合構造(EB)からなるブロック、エチレンとプロピレンとの比較的ランダムな共重合構造(EP)からなるブロックが例示されるが、好ましくはエチレンとブチレンとの比較的ランダムな共重合構造(EB)からなるブロック、エチレンとプロピレンとの比較的ランダムな共重合構造(EP)からなるブロック、より好ましくはエチレンとブチレンとの比較的ランダムな共重合構造(EB)からなるブロックが用いられる。
上述のように(f)成分で用いられる熱可塑性ブロック共重合体は、両末端ブロックが異なるコモノマーにより形成されたブロックからなり、S−EB−C、S−B−C、S−I−C、S−EB、S−EB−S−EB、S−EP−C、PBT−S−EB、PBT−SEBC等が例示されるが、アイオノマー樹脂と熱可塑性エラストマーの相溶性をより効果的に改良するために好ましくはS−EB−C、PBT−S−EBより好ましくはS−EB−Cが用いられる。
熱可塑性ブロック共重合体がS−EB−Cタイプのブロックコポリマーである場合、スチレン−ブタジエン共重合体を水素添加することにより得ることができる。
ここで、水素添加に用いるポリブタジエンやスチレン−ブタジエン共重合体としては、そのブタジエン構造中の結合様式として特に1,4−結合が95質量%以上の1,4−重合部をブロック的に持ち、ブタジエン構造全量中の1,4−結合が50質量%以上、より好ましくは80質量%以上であるポリブタジエンが好適に用いられる。
スチレン−ブタジエン共重合体の水素添加物における水素添加量(ポリブタジエンやスチレン−ブタジエン共重合体中の二重結合の飽和結合への転化率)は、下限値として、好ましくは60%以上、より好ましくは90%以上、上限としては、100%であることが好ましい。水素添加量が少なすぎると、アイオノマー樹脂等とのブレンド工程でゲル化等の劣化が生じたり、ゴルフボールを形成した際に、カバーの耐候性、打撃耐久性に問題が生じたりする場合がある。
上記オレフィン結晶ブロックを有するブロックコポリマーにおいて、ハードセグメントの含量としては10〜50質量%が好ましい。ハードセグメント量が多すぎると、柔軟性に欠けて本発明の目的を有効に達成し得ない場合があり、ハードセグメント量が少なすぎると、ブレンド物の成形性に問題が生じる場合がある。
このオレフィン結晶ブロックを有するブロックコポリマーの数平均分子量は3万〜80万であることが好ましい。
本発明においては、熱可塑性ブロック共重合体の末端ブロックのみが官能基により変性されている。この場合、中間ブロックのみが変性されている場合、中間ブロックと末端ブロックが変性されている場合と比較して、またはランダム共重合体のように分子全体に亘って変性されている場合と比較して、極めて効果的に相溶性を改良することができる。
末端ブロックを変性する方法としては、好ましくは分子末端のみを変性する方法が用いられる。この場合、必要以上の官能基がアイオノマー樹脂と反応して、混合物の粘度を上昇させることなく、さらにはブロック共重合体の分子末端がアイオノマー樹脂と結合することにより極めて効果的に相溶性を改良することができる。
アイオノマー樹脂と反応性を有する官能基としては、反応性が高すぎる場合、粘度低下をもたらし、反応性が低すぎる場合には相溶性改良の効果が減少することから、中程度の反応性を有するものが好ましい。このような官能基として、好ましい順に、アミノ基、酸無水物基、エポキシ基が用いられ、特にアミノ基が好ましい。
熱可塑性ブロック共重合体の230℃におけるメルトインデックスは0.5〜15g/10min、より好ましくは1〜7g/10minであることが好ましい。上記範囲を外れると、射出成形時にウェルド、ひけ、ショート等の問題が生じるおそれがある。
なお、ベース樹脂(a)(d)/(e)/(f)の配合比は、50〜80/50〜20/4〜20(質量比)である。上記配合比の中で、(a)ベース樹脂の範囲については、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは70%以上であり、上限値として好ましくは75%以下である。(e)成分の範囲については、好ましくは23%以上、より好ましくは25%以上であり、上限値として好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下である。(f)成分の範囲については、好ましくは5%以上であり、上限値として好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは7%以下である。上記範囲を逸脱すると、反発性を得ることができなくなり、また相溶性が悪くなり、層状剥離が生じる可能性がある。
(g)成分の説明
さらに、アイオノマー樹脂と反応しない無機充填剤をベースポリマー100質量部に対して10〜30質量部添加することができる。
この場合、カバー組成物の耐久性を効果的に改良するために、上記の無機充填剤の平均粒子径は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。
上記カバー組成物の比重を調整するために、上記の無機充填材の比重は好ましくは2以上、より好ましくは4以上、好ましくは7以下、より好ましくは5以下である。
上記の「アイオノマー樹脂と反応性しない」とは、アイオノマー樹脂と無機充填材とを溶融混合した場合、発泡、大きな粘度上昇が生じないことにより確認される。例えば、代表的なアイオノマー樹脂である商品名「ハイミラン1605」に本発明で用いられる程度の量の無機充填材を添加し200℃で5分間混合した場合、発泡が生じず、混合後のMI値が1以上であれば、反応性がないと言える。
このような無機充填材としては、硫酸バリウム、二酸化チタン、ハードクレイ等が例示されるが特に硫酸バリウムが好ましく、粒径の安定性から沈降性硫酸バリウムを用いることが好ましい。
最外カバー層の材料
最外カバー層の材料としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などを使用することができるものである。具体的には、熱可塑性ポリウレタン又は熱硬化性ポリウレタン等のウレタン樹脂、アイオノマー樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等の公知の材料にて形成できるが、特に熱可塑性ポリウレタンを主材として形成したものであることが好ましく、これにより耐擦過傷性に優れ、フライヤー時のスピン安定性にも優れたゴルフボールを与えることができる。
この場合、熱可塑性ポリウレタンとしては、ポリウレタンを主成分とする熱可塑性エラストマーであれば特に限定されるものではないが、ソフトセグメントを構成する高分子ポリオール化合物と、ハードセグメントを構成する鎖延長剤及びジイソシアネートとから構成されていることが好ましい。
高分子ポリオール化合物としては、従来から熱可塑性ポリウレタン材料に関する技術において使用されるものはいずれも使用でき、特に制限されるものではないが、例えばポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、コポリエステル系ポリオール、及びポリカーボネート系ポリオール等が好適に用いられる。中でも反発弾性率や低温特性に優れる熱可塑性ポリウレタンを作製する観点から、ポリエーテル系ポリオールが、また、耐熱性及び広範な分子設計が可能なポリエステル系ポリオールが好適に用いられる。
ジイソシアネートとしては、従来から熱可塑性ポリウレタン材料に関する技術において使用されるものはいずれも使用でき、特に制限されるものではないが、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、キシリレンジイシシアネート、ナフチレン1,5−ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイシシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、2,2,4(2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。但し、イソシアネート種によっては射出成型中の架橋反応をコントロールすることが困難なものがある。上記ジイソシアネートとしては、本発明では、後述するイソシアネート混合物との相溶性の観点から、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましく用いられる。
鎖延長剤としては、従来から熱可塑性ポリウレタン材料に関する技術において使用されるものはいずれも使用でき、特に制限されないが、例えば通常の多価アルコール、アミン類を用いることができ、具体的には、例えば1,4−ブチレングリコール、1,2−エチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、ジシクロヘキシルメチルメタンジアミン(水添MDI)、イソホロンジアミン(IPDA)等が挙げられる。これら鎖延長剤の数平均分子量としては通常20以上、上限として通常15,000以下である。
上記熱可塑性ポリウレタンの比重については、特に制限はなく、本発明の目的を達成し得る範囲で適宣調整することができるが、下限として、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.1以上であり、上限として、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.25以下である。
熱可塑性ポリウレタンとしては、市販品を用いることができ、例えば、パンデックスT8290、同T8295、同T8260等(ディーアイシーバイエルポリマー(株)製)や、レザミン2593、同2597等(大日精化工業(株)製)が挙げられる。
この場合、上記カバー層を形成する樹脂分を上記熱可塑性ポリウレタンにて構成してもよいが、分子中に一部架橋構造を有するタイプのポリウレタンが好ましく、特に次の2種のポリウレタン(第1のポリウレタン,第2のポリウレタン)から選ばれる少なくとも1種を採用することが更に耐擦過傷性を向上させるために好ましい。
第1のポリウレタン
上記熱可塑性ポリウレタン(A)とイソシアネート混合物(B)とからなる熱可塑性ポリウレタン組成物を使用すること。
上記(B)イソシアネート混合物としては、(b−1)一分子中に官能基として二つ以上のイソシアネート基を持つ化合物を、(b−2)実質的にイソシアネートと反応を生じることのない熱可塑性樹脂中に分散させたものであることが好ましい。ここで、(b−1)一分子中に官能基として二つ以上のイソシアネート基を持つ化合物としては、従来のポリウレタンに関する技術において使用されているイソシアネート化合物を使用でき、例えば芳香族イソシアネート化合物、芳香族イソシアネート化合物の水素添加物、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート等が挙げられ具体的には前記したようなイシシアネート化合物があげられる。但し、反応性、作業安全性の面から、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好適に用いられる。
また、上記(b−2)実質的にイソシアネートと反応を生じることのない熱可塑性樹脂としては、吸水性が低く、熱可塑性ポリウレタン材料との相溶性に優れた樹脂が好ましい。このような樹脂として、例えばポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(ポリエーテル・エステルブロック共重合体、ポリエステル・エステルブロック共重合体等)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
反発弾性や強度の観点から、中でもポリエステル系熱可塑性エラストマーが特に好ましい。ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステルを主成分とする熱可塑性エラストマーであれば特に限定されるものではないが、結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメントと、脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメントとを主たる構成成分とする、ポリエステルベースのブロック共重合体が好適に用いられる。更に、3官能以上の多カルボン酸成分、多官能オキシ成分及び多官能ヒドロキシ成分等を5モル%以下の範囲で共重合することも可能である。脂肪族ポリエーテル単位及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント成分において、脂肪族ポリエーテルとしては、例えばポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランとの共重合体等が挙げられる。また、脂肪族ポリエステルとしては、例えばポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート等が挙げられる。本発明で好適に用いられるポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、例えば”ハイトレル”シリーズ(東レ・デュポン(株)製)、”プリマロイ”シリーズ(三菱化学(株)製)等が挙げられる。
(B)イソシアネート混合物を製造する際の、上記(b−2)成分と(b−1)成分の配合比としては、好ましくは、(b−1)/(b−2)=100/5〜100/100(質量比)、特に100/10〜100/40(質量比)であることが好ましい。(b−2)成分に対する(b−1)成分の配合量が少なすぎると、(A)熱可塑性ポリウレタンとの架橋反応に充分な添加量を得るためには、より多くの(B)イソシアネート混合物を添加しなくてはならず、(b−2)成分の影響が大きく作用することでカバー材料である熱可塑性ポリウレタン組成物の物性が不充分となる場合があり、(b−1)成分の配合量が多すぎると、(b−1)成分が混練中にすべり現象を起こし、カバー材料である熱可塑性ポリウレタン組成物の調製が困難となる場合がある。
(B)イソシアネート混合物は、例えば(b−2)成分に(b−1)成分を配合し、これらを温度130〜250℃のミキシングロール又はバンバリーミキサーで充分に混練して、ペレット化又は冷却後粉砕することにより得ることができる。
上記(B)イソシアネート混合物としては、市販品を用いることができ、例えば大日精化工業(株)製クロスネートEM30等が好ましく用いられる。なお、上記(B)成分の配合量としては、上記(A)成分100質量部に対して、通常1質量部以上、好ましくは5質量部以上、更に好ましくは10質量部以上、上限として通常100質量部以下、好ましくは50質量部以下、更に好ましくは30質量部以下である。配合量が少なすぎると充分な架橋反応が得られず、物性の向上が認められない場合があり、配合量が多すぎると経時、熱、紫外線による変色が大きくなる場合や、反発の低下等の問題が生じるおそれがある。
第2のポリウレタン
カバー層のうち少なくとも1層が、(A)熱可塑性ポリウレタン及び(B)ポリイソシアネート化合物を主成分とする樹脂配合物の成形物にて形成されるものであり、上記樹脂配合物中には、少なくとも一部に、一分子中の全てのイソシアネート基が未反応状態で残存してなるポリイソシアネート化合物が存在するものである。このような熱可塑性ポリウレタンからなるゴルフボールは、反発性、スピン性能、耐擦過傷性に優れたものとなる。
上記カバー層は、熱可塑性ポリウレタンを主体としたものであり、(A)熱可塑性ポリウレタン及び(B)ポリイソシアネート化合物を主成分とする樹脂配合物から形成される。
本発明の効果を十分有効に発揮させるためには、必要十分量の未反応のイソシアネート基がカバー樹脂材料中に存在すればよく、具体的には、上記の(A)成分と(B)成分とを合わせた合計質量が、カバー層全体の質量の60%以上であることが推奨されるものであり、より好ましくは、70%以上である。上記(A)成分及び(B)成分については以下に詳述する。
上記(A)熱可塑性ポリウレタンについて述べると、その熱可塑性ポリウレタンの構造は、長鎖ポリオールである高分子ポリオール(ポリメリックグリコール)からなるソフトセグメントと、鎖延長剤およびポリイソシアネート化合物からなるハードセグメントとを含む。ここで、原料となる長鎖ポリオールとしては、従来から熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものはいずれも使用でき、特に制限されるものではないが、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、共役ジエン重合体系ポリオール、ひまし油系ポリオール、シリコーン系ポリオール、ビニル重合体系ポリオールなどを挙げることができる。これらの長鎖ポリオールは1種類のものを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのうちでも、反発弾性率が高く低温特性に優れた熱可塑性ポリウレタンを合成できる点で、ポリエーテルポリオールが好ましい。
上記のポリエーテルポリオールとしては、例えば、環状エーテルを開環重合して得られるポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)などを挙げることができる。ポリエーテルポリオールとしては1種類のものを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのうちでも、ポリ(テトラメチレングリコール)および/またはポリ(メチルテトラメチレングリコール)が好ましい。
これらの長鎖ポリオールの数平均分子量としては1,500〜5,000の範囲内であることが好ましい。かかる数平均分子量を有する長鎖ポリオールを使用することにより、上記した反発性や生産性などの種々の特性に優れた熱可塑性ポリウレタン組成物からなるゴルフボールを確実に得ることができる。長鎖ポリオールの数平均分子量は、1,700〜4,000の範囲内であることがより好ましく、1,900〜3,000の範囲内であることがさらに好ましい。
なお、上記の長鎖ポリオールの数平均分子量とは、JIS K−1557に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である。
鎖延長剤としては、従来の熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、例えば、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量400以下の低分子化合物であることが好ましい。鎖延長剤としては、1,4−ブチレングリコール、1,2−エチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。鎖延長剤としては、これらのうちでも、炭素数2〜12の脂肪族ジオールが好ましく、1,4−ブチレングリコールがより好ましい。
ポリイソシアネート化合物としては、従来の熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限はない。具体的には、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−(又は)2,6−トルエンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5−ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートからなる群から選択された1種又は2種以上を用いることができる。ただし、イソシアネート種によっては射出成形中の架橋反応をコントロールすることが困難なものがある。本発明においては生産時の安定性と発現される物性とのバランスとの観点から、芳香族ジイソシアネートである4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが最も好ましい。
上記(A)成分の熱可塑性ポリウレタンとして最も好ましいものは、長鎖ポリオールとしてポリエーテルポリオール、鎖延長剤として脂肪族ジオール、ポリイソシアネート化合物として芳香族ジイソシアネートを用いて合成される熱可塑性ポリウレタンであって、上記ポリエーテルポリオールが数平均分子量1,900以上のポリテトラメチレングリコール、上記鎖延長剤が1,4−ブチレングリコール、上記芳香族ジイソシアネートが4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのものであるが、特にこれらに限られるものではない。
また、上記ポリウレタン形成反応における活性水素原子:イソシアネート基の配合比は、上記した反発性、スピン性能、耐擦過傷性および生産性などの種々の特性がより優れた熱可塑性ポリウレタン組成物からなるゴルフボールを得ることができるよう、好ましい範囲にて調整することができる。具体的には、上記の長鎖ポリオール、ポリイソシアネート化合物および鎖延長剤とを反応させて熱可塑性ポリウレタンを製造するに当たり、長鎖ポリオールと鎖延長剤とが有する活性水素原子1モルに対して、ポリイソシアネート化合物に含まれるイソシアネート基が0.95〜1.05モルとなる割合で各成分を使用することが好ましい。
上記(A)成分の熱可塑性ポリウレタンの製造方法は特に限定されず、長鎖ポリオール、鎖延長剤およびポリイソシアネート化合物を使用して、公知のウレタン化反応を利用して、プレポリマー法、ワンショット法のいずれで製造してもよい。そのうちでも、実質的に溶剤の不存在下に溶融重合することが好ましく、特に多軸スクリュー型押出機を用いて連続溶融重合により製造することが好ましい。
具体的な(A)成分の熱可塑性ポリウレタンとし、市販品を用いることもでき、例えば、パンデックスT8295,同T8290,同T8260(いずれもディーアイシーバイエルポリマー社製)などが挙げられる。
次に、上記(B)成分として用いられるポリイソシアネート化合物については、単一な樹脂配合物中において少なくとも一部が、一分子中の全てのイソシアネート基が未反応状態で残存していることが必要である。即ち、単一な樹脂配合物中に一分子中のすべてのイソシアネート基が完全にフリーな状態であるポリイソシアネート化合物が存在すればよく、このようなポリイソシアネート化合物と、一分子中の一部がフリーな状態のポリイソシアネート化合物とが併存していてもよい。
このポリイソシアネート化合物としては、特に制限はないが、各種のイソシアネートを採用することができ、具体的には、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−(又は)2,6−トルエンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5−ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートからなる群から選択された1種又は2種以上を用いることができる。上記のイソシアネートの群のうち、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネートを採用することが、(A)成分の熱可塑性ポリウレタンとの反応に伴う粘度上昇等による成形性への影響と、得られるゴルフボールカバー材料の物性とのバランスとの観点から好適である。
本発明において、必須成分ではないが、上記(A)及び(B)成分に、(C)成分として、上記熱可塑性ポリウレタン以外の熱可塑性エラストマーを配合することができる。この(C)成分を上記樹脂配合物に配合することにより、樹脂配合物の更なる流動性の向上や反発性、耐擦過傷性等、ゴルフボールカバー材として要求される諸物性を高めることができる。
上記(C)成分として、上記熱可塑性ポリウレタン以外の熱可塑性エラストマーとして、具体的には、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、アイオノマー樹脂、スチレンブロックエラストマー、水添スチレンブタジエンゴム、スチレン−エチレン・ブチレン−エチレンブロック共重合体又はその変性物、エチレン−エチレン・ブチレン−エチレンブロック共重合体又はその変性物、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体又はその変性物、ABS樹脂、ポリアセタール、ポリエチレン及びナイロン樹脂から選ばれ、その1種又は2種以上を用いることができる。特に、生産性を良好に維持しつつ、イソシアネート基との反応により、反発性や耐擦過傷性が向上することなどの理由から、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー及びポリアセタールを採用することが好適である。
上記(A)、(B)及び(C)成分の組成比については、特に制限はないが、本発明の効果を十分に有効に発揮させるためには、質量比で(A):(B):(C)=100:2〜50:0〜50であることが好ましく、さらに好ましくは、(A):(B):(C)=100:2〜30:8〜50(質量比)とすることである。
本発明では、(A)成分と(B)成分、更に加えて(C)成分を混合して樹脂配合物を作成するが、その際、ポリイソシアネート化合物のうち、少なくとも一部に、全てのイソシアネート基が未反応状態で残存するポリイソシアネート化合物が存在するような条件を選択する必要がある。例えば、窒素ガス等の不活性ガスや真空状態で混合すること等の処置を講ずる必要がある。この樹脂配合物は、その後に金型に配置されたコア周囲に射出成形されることになるが、その取り扱いを円滑かつ容易に行う理由から、長さ1〜10mm、直径0.5〜5mmのペレット状に形成することが好ましい。この樹脂ペレット中には、未反応状態のイソシアネート基が残存しており、コアに射出成形している間やその後のアニーリング等の後処理により、未反応イソシアネート基は(A)成分や(C)成分と反応して架橋物を形成する。
上記カバー層を成形する方法としては、例えば、射出成形機に上述の樹脂配合物を供給し、コアの周囲に溶融した樹脂配合物を射出することによりカバー層を成形することができる。この場合、成形温度としては熱可塑性ポリウレタン等の種類によって異なるが、好ましくは150〜250℃の範囲である。
なお、射出成形を行なう場合、樹脂供給部から金型内に至る樹脂経路の一部又は全ての個所において、窒素等の不活性ガス又は低露点ドライエア等の低温度ガスによるパージまたは真空処理等により低湿度環境下で成形を行なうことが望ましいが、これに限定されるものではない。また、樹脂搬送時の圧送媒体としても、低露点ドライエアまたは窒素ガス等の低湿度ガスが好ましいが、これらに限定されるものではない。上記の低湿度環境下で成形を行なうことにより、樹脂が金型内部に充填される前のイソシアネート基の反応の進行を抑制し、ある程度イソシアネート基が未反応状態の形態のポリイソシアネートを樹脂成形物に含めることにより、不要な粘度上昇等の変動要因を減少させ、また、実質的な架橋効率を向上させることができる。
なお、コア周囲に射出成形する前の樹脂配合物中における未反応状態のポリイソシアネート化合物の存在を確認する手法としては、該ポリイソシアネート化合物のみを選択的に溶解させる適当な溶媒により抽出し、確認する手法等考えられるが、簡便な方法としては不活性雰囲気下での示差熱熱重量同時測定(TG−DTA測定)により確認する手法が挙げられる。例えば、本発明で用いられる樹脂配合物(カバー材料)を窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minにて加熱していくと、約150℃程度から緩やかなジフェニルメタンジイソシアネートの重量減少を確認することができる。一方、熱可塑性ポリウレタン材料とイソシアネート混合物との反応を完全に行った樹脂サンプルでは約150℃からの重量減少は確認されず、230〜240℃程度からの重量減少を確認することができる。
上記のように樹脂配合物を成形した後、アニーリングを行って架橋反応を更に進行させ、ゴルフボールカバーとしての特性を更に改良することも可能である。アニーリングとは、一定環境下で一定期間熟成させることをいう。
更に、本発明におけるカバー材料には、上記樹脂分に加えて、必要に応じて種々の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、例えば顔料、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、離型剤、可塑剤、無機充填剤(酸化亜鉛、硫酸バリウム、二酸化チタン、タングステン等)等を挙げることができる。
これら添加剤を配合する場合、その配合量は本発明の目的を損なわない範囲で任意に選択されるが、本発明の必須成分である熱可塑性ポリウレタン100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、上限として通常10質量部以下、より好ましくは5質量部以下になるように配合することが好ましい。
本発明における熱可塑性ポリウレタンを用いたカバーの成型は、例えば射出成型機によりコアを被覆した中間層の周囲にカバーを成型することができる。成型温度は通常150〜250℃の範囲で行われる。
中間カバー層の材料
中間層カバーの材料としては、特に制限はなく、具体的には、熱可塑性又は熱硬化性のポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、アイオノマー樹脂、高中和アイオノマー樹脂、ポリオレフィン系エラストマー又はこれらの混合物等を挙げることができる。これらは、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。好ましくは、アイオノマー樹脂、高中和アイオノマー樹脂を用いることができる。中間カバー層の少なくとも一つが、上述した(a)〜(d)を必須成分として配合する樹脂組成物にて形成されたものであることが望ましい。
次に、各カバー層の硬度について下記に述べる。
最内カバー層のショアD硬度について、下限として、好ましくは38以上、より好ましくは42以上、更に好ましくは44以上であり、上限として、好ましくは55以下、より好ましくは53以下、更に好ましくは51以下である。最内カバー層は最も硬いカバー層よりも軟らかく、そのショアD硬度の差が、好ましくは2より大きい、より好ましくは5より大きい、更に好ましくは7より大きいことである。そのショアD硬度の差が2より小さいと、コアの特定荷重のたわみ量との兼ね合いにもよるが、ボールの特定荷重のたわみ量が高くなってしまい、打感が悪くなる。上限としては、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、更に好ましくは10以下である。
最外カバー層の硬度として、下限としては、好ましくは40以上、より好ましくは44以上、更に好ましくは46以上であり、上限としては、好ましくは57以下、より好ましくは55以下、更に好ましくは53以下である。最外カバー層は最も硬いカバー層よりも軟らかく、そのショアD硬度の差は、好ましくは1より大きい、より好ましくは2より大きいことである。そのショアD硬度の差が1より小さいと、ボールの外側が硬くなり、コントロール性能に乏しくなる場合がある。上限としては、好ましくは18以下、より好ましくは15以下、さらに好ましくは12以下である。
中間カバー層は最も硬いカバー層である。その硬度は、上限として、ショアD硬度で58以下、好ましくは57以下、より好ましくは56以下であり、下限として好ましくは45以上、より好ましくは48以上、更に好ましくは51以上である。ショアD硬度が58より硬いと打感が悪くなる。アプローチスピン量が減りコントロール性能に乏しくなる。ショアDが45より軟らかくなると反発性に乏しくなる場合がある。
本発明において、カバー層の総厚み(最内、中間及び最外の厚さの合計)について、下限としては、3.5mm以上、好ましくは4.5mm以上、更に好ましくは5mm以上である。また、その層厚みの上限として、好ましくは8mm以下、より好ましくは7mm以下、更に好ましくは6mm以下である。8mmより厚くなると、打感が悪くなる場合があり、3.5mmより薄いとドライバーショット時のスピン量が過多となり、ボールが吹け上がり過ぎになり、風に弱い弾道になる場合がある。
最内カバー層の厚みについて、下限として、1.6mm以上、好ましくは1.7mm以上、より好ましくは2.2mm以上、更に好ましくは2.5mm以上、最も好ましくは2.6mm以上であり、上限として、3.2mm以下、好ましくは3.1mm以下、より好ましくは3.0mm以下である。3.2mmより厚いと打感が悪くなる場合があり、1.6mmより薄いとドライバーショット時のスピン量が過多となり、ボールが吹け上がり過ぎになり、風に弱い弾道になる場合がある。
中間カバー層の厚さについては、下限として、好ましくは0.8mm以上、より好ましくは0.9mm以上であり、上限として、好ましくは1.7mm以下、より好ましくは1.5mm以下、さらに好ましくは1.3mm以下である。
また、最外カバー層の厚さについては、特に制限はないが、下限として、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.4mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上であり、上限として、好ましくは1.5mm以下、より好ましくは1.3mm以下、さらに好ましくは0.8mm以下、より好ましくは0.7mm以下である。この最外カバー層が上記範囲よりも厚すぎると、特にドライバーなどのフルショット時にスピンが増えすぎて飛びにくくなる。逆に、上記最外カバー層が上記範囲よりも薄すぎると、ショートゲームの打感が悪くなり、また、フライヤー時のスピン安定性、耐久性、特に耐擦過傷性に劣るおそれがある。
比重差
コアと最内カバー層の比重差は、好ましくは、0.1より小さい、より好ましくは、0.09より小さい、更に好ましくは0.08より小さいことである。コアの比重と最内カバーの比重の差が上記より大きい場合、コアの中心位置とボールの中心位置がずれると、ボールの転がりや、スピン挙動が安定しなくなる。また、このようなボール設計は大量生産用には不向きである。
コア中心硬度と最内カバー層との硬度差
本発明では、コア中心硬度(A)と最内カバー層(B)とのショアD硬度差を適正化することが必要であり、A>B−10とすることである。
好ましくは、A>B−8
更に好ましくは、A>B−6
となるように、硬度設計することである。A≦B−10となると打撃耐久性が悪くなる。
ディンプル
上記カバーの表面には多数のディンプルが形成されるが、この場合、ディンプル数は、好ましくは250個以上、より好ましくは300個以上、更に好ましくは350個以上であり、上限値としては、好ましくは430個以下、より好ましくは410個以下、更に好ましくは390個以下である。この範囲において揚力を受けやすく、特にドライバーでの飛距離を増大させることができる。ディンプルは、直径及び/又は深さが互いに異なる4種以上であることが好ましく、より好ましくは5種類以上、更に好ましくは6種類以上であり、上限値として、20種類以下であることが好ましく、より好ましくは15種類以下、更に好ましくは12種類以下として形成することが表面占有率を上げやすい点から推奨される。また、ディンプルは、平面円形状に形成することが好ましく、その平均直径は、3.0mm以上であることが好ましく、より好ましくは3.3mm以上、更に好ましくは3.5mm以上であり、上限値としては、好ましくは4.7mm以下、より好ましくは4.4mm以下、更に好ましくは4.0mm以下である。また、ディンプルの平均深さは、適正な弾道を得る点から、0.140mm以上であることが好ましく、より好ましくは0.145mm以上、更に好ましくは0.150mm以上であり、上限値としては、0.185mm以下、より好ましくは0.180mm以下、更に好ましくは0.174mm以下である。なお、なお、平均直径とは、全ディンプルの直径の平均値であり、平均深さとは、全ディンプルの深さの平均値である。ディンプルの直径の測定は、ディンプル部分が陸部(ディンプル非形成部分)と接する位置、即ち、ディンプル部分最高点間の直径(差渡し)である。多くの場合、ゴルフボールは、塗装が施されているが、このようなボールにおいては塗料被覆状態でのディンプル直径である。また、ディンプル深さの測定は、上記ディンプルの陸部接合位置を結んで仮想平面を描いた時、その中心位置とディンプルの底(最も深い位置)までの垂直距離である。