JP5375616B2 - スルホン酸フェニル化合物、それを用いた非水電解液及びリチウム電池 - Google Patents
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Description
リチウム二次電池は、主にリチウムを吸蔵及び放出可能な材料を含む正極と負極、及びリチウム塩と非水溶媒からなる非水電解液から構成され、非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類が使用されている。
また、負極としては、金属リチウム、リチウムを吸蔵及び放出可能な金属化合物や炭素材料が知られており、特にリチウムを吸蔵及び放出することが可能なコークス、人造黒鉛、天然黒鉛等の炭素材料を用いたリチウム二次電池が広く実用化されている。
また、金属リチウムやその合金、スズ、ケイ素等の金属単体やその金属酸化物を負極材料として用いたリチウム二次電池は、初期の電池容量は高いもののサイクル中に微粉化が進むため、炭素材料の負極に比べて非水溶媒の還元分解が加速的に起こり、電池容量やサイクル特性のような電池性能が大きく低下することが知られている。さらに、これらの負極材料の微粉化や非水溶媒の分解物が蓄積すると、負極へのリチウムの吸蔵及び放出がスムーズにできなくなり、特に低温下でのサイクル特性が低下しやすくなる。
以上のように、負極上や正極上で非水電解液が分解するときの分解物やガスにより、リチウムイオンの移動を阻害したり、電池が膨れたりすることで電池性能を低下させていた。そのような状況にも関わらず、リチウム二次電池が搭載されている電子機器の多機能化は益々進み、電力消費量が増大する方向にある。そのため、リチウム二次電池の高容量化は益々進んでおり、電極密度を高めたり、電池内の無駄な空間容積を減らす等、電池内の非水電解液の占める体積が小さくなっている。従って、少しの非水電解液の分解でも、低温での電池の性能が低下しやすい状況にある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液において、ベンゼン環に1〜4個のフッ素原子が含まれ、酸素原子が直接ベンゼン環に結合するスルホン酸エステル基を有するスルホン酸フェニル化合物を非水電解液に添加することで、低温サイクル特性を改善できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記の(1)〜(3)を提供するものである。
本発明のスルホン酸フェニル化合物は、下記一般式(I)で表される新規化合物である。
一般式(I)におけるR1である、炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基等が挙げられる。水素原子のうち少なくとも1つがハロゲン原子で置換された炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基としては、前記のアルキル基が有する水素原子のうち少なくとも1つがハロゲン原子で置換された置換基が挙げられ、その具体例として、トリフルオロメチル基、2、2、2−トリフルオロエチル基が挙げられる。
一般式(I)におけるR1である、炭素数6〜9のアリール基としては、フェニル基、トシル基、メシチル等が挙げられる。
一般式(I)におけるR1としては、非水電解液に使用した場合の低温サイクル特性の改善効果の観点から、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、フェニル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
また、R1がエチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基等の場合は、上記と同様に対応するスルホン酸フェニル化合物が好適に挙げられる。
一般式(I)で表されるスルホン酸フェニル化合物、特にアルカンスルホン酸フルオロフェニル化合物は、フルオロフェノール化合物を溶媒中又は無溶媒で、塩基の存在下、アルカンスルホニルハライド又はアルカンスルホン酸無水物とエステル化反応させることにより合成することができるが、この方法に限定されるものではない。
フルオロフェノール化合物としては、2,3−ジフルオロフェノール、2,4−ジフルオロフェノール、2,5−ジフルオロフェノール、2,6−ジフルオロフェノール、3,4−ジフルオロフェノール、3,5−ジフルオロフェノール、2,3,4−トリフルオロフェノール、2,3,5−トリフルオロフェノール、2,3,6−トリフルオロフェノール、2,4,5−トリフルオロフェノール、2,4,6−トリフルオロフェノール、3,4,5−トリフルオロフェノール、2,3,5,6−テトラフルオロフェノール等が挙げられる。
アルカンスルホニルハライドとしては、メタンスルホニルクロリド、エタンスルホニルクロリド、トリフルオロメタンスルホニルクロリド、メタンスルホニルブロミド、エタンスルホニルブロミド、トリフルオロメタンスルホニルブロミド等が挙げられる。
また、アルカンスルホン酸無水物としては、メタンスルホン酸無水物、エタンスルホン酸無水物、トリフルオロメタンスルホン酸無水物等が挙げられる。
アルカンスルホニルハライド又はアルカンスルホン酸無水物の使用量は、フルオロフェノール化合物1モルに対し、0.9〜10モルが好ましく、より好ましくは1〜3モルであり、最も好ましくは1〜1.5モルである。
前記溶媒の使用量はフルオロフェノール化合物1質量部に対して、好ましくは0〜30質量部、より好ましくは1〜15質量部である。
無機塩基としては、水酸化カリウム、炭酸カリウム、水素化カリウム、金属カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水素化ナトリウム、金属ナトリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、水素化カルシウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、水素化リチウム、金属リチウム等が挙げられる。
有機塩基としては、直鎖又は分枝した脂肪族3級アミン、単又は多置換されたピロール、ピロリドン、イミダゾール、イミダゾリジノン、ピリジン、ピリミジン、キノリン、N,N−ジアルキルカルボキシアミドが挙げられ、特にトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等のトリアルキルアミン、ピリジン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルアミノピリジン、1,3−ジメチルイミダゾリジノンがより好ましい。
前記塩基は、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
前記塩基の使用量は、フルオロフェノール化合物1モルに対して好ましくは0.8〜5モル、より好ましくは1〜3モルであり、特に1〜1.5モルであると副生物が抑さえられ好ましい。
反応時間は前記反応温度やスケールによるが、反応時間が短すぎると未反応物が残り、逆に反応時間が長すぎると生成物の分解や副反応の恐れが生じるため、好ましくは0.1〜12時間であり、より好ましくは0.2〜6時間である。反応圧力は0.1〜10気圧の範囲であり、好ましくは0.5〜5気圧である。
本発明の非水電解液は、非水溶媒に電解質が溶解されている非水電解液であって、下記一般式(II)で表されるスルホン酸フェニル化合物が非水電解液に対して0.01〜10質量%含有されていることを特徴とする。
一般式(II)におけるR2である、炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基等が挙げられる。水素原子のうち少なくとも1つがハロゲン原子で置換された炭素数1〜6の直鎖又は分枝のアルキル基としては、前記のアルキル基が有する水素原子のうち少なくとも1つがハロゲン原子で置換された置換基が挙げられ、その具体例として、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基が挙げられる。
一般式(II)におけるR2である、炭素数6〜9のアリール基としては、フェニル基、トシル基、メシチル基等が挙げられる。
一般式(II)におけるR2としては、低温サイクル特性の改善効果の観点から、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、フェニル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
また、R2がエチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−ヘキシル基の場合は、上記と同様に対応するスルホン酸フェニル化合物が好適に挙げられる。
ベンゼン環上のフッ素原子が2個の場合に、低温サイクル特性の改善効果は最も高くなる。ベンゼン環上のフッ素原子の数が更に増えると、ベンゼン環の重合が進むため、負極上の被膜が硬くなり、低温サイクル特性の改善効果が弱まる。従って、フッ素の数は4個以下が好ましい。即ち、一般式(II)におけるベンゼン環上のフッ素原子の数は2個の場合が最も好ましく、次に1個の場合が好ましく、その次に好ましいのは3個の場合である。
低温サイクル特性の改善効果は、フッ素原子の位置にも依存し、オルト位及びパラ位にフッ素原子を有する場合に低温サイクル特性が良好となるので好ましく、とりわけパラ位にフッ素原子を有することが好ましい。
例えば、ベンゼン環に硫黄原子が直接結合したベンゼンスルホン酸エステルや、ベンゼン環に炭素原子が直接結合したベンゼンスルホン酸エステルの場合には低温サイクル特性を改善する効果がなかった。この理由は必ずしも明確ではないが、ベンゼン環に酸素が直接結合したスルホン酸フェニル化合物を有することで、電極上にベンゼン環に酸素原子を有する被膜を形成できるため、リチウムイオンの移動をスムーズにする効果が発現されたと考えられる。
本発明の非水電解液に使用される非水溶媒としては、環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、鎖状エステル類、エーテル類、アミド類、リン酸エステル類、スルホン類、ラクトン類、ニトリル類、及び本発明のスルホン酸フェニル化合物以外のS=O結合含有化合物等が挙げられる。
環状カーボネート類としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、4−フルオロ−1、3−ジオキソラン−2
−オン(FEC)、トランス又はシス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(以下、両者を総称して「DFEC」という)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)等が挙げられる。これらの中でも、環状カーボネートとして、FEC、VC、VECを含むとサイクル特性が向上し、PCを含むと低温サイクル特性が向上するので好ましい。なお、一般的には、FEC、DFEC、VC、VECを含むと、低温サイクル特性が低下する場合があるが、本発明のスルホン化合物を含む非水電解液は、低温サイクル特性を向上させることができる。
これらの溶媒は1種類で使用してもよく、また2種類以上を組み合わせて使用した場合は、低温サイクル特性が更に向上するので好ましい。これらの環状カーボネートの好適な組合せとしては、ECとPC、ECとVC、PCとVC、FECとVC、FECとEC、FECとPC、DFECとEC、DFECとPC、DFECとVC、DFECとVEC等が挙げられる。前記の組合せのうち、より好適な組合せとしては、ECとVC、FECとPC、DFECとPCが挙げられる。
環状カーボネートの含有量は、特に制限されないが、非水溶媒の総容量に対して、10〜40容量%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が10容量%未満であると非水電解液の伝導度が低下し、また、40容量%を超えると粘度が上昇し、低温サイクル特性が低下する傾向があるので上記範囲であることが好ましい。
鎖状カーボネートの含有量は特に制限されないが、非水溶媒の総容量に対して、60〜90容量%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が60容量%未満であると非水電解液の粘度が上昇し、また、90容量%を超えると非水電解液の電気伝導度が低下し、低温サイクル特性が低下する傾向があるので上記範囲であることが好ましい。
アミド類としては、ジメチルホルムアミド等が挙げられ、リン酸エステル類としては、リン酸トリメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル等が挙げられ、スルホン類としては、スルホラン等が挙げられ、ラクトン類としては、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、α−アンゲリカラクトン等が挙げられ、ニトリル類としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、アジポニトリル等が挙げられる。
S=O結合含有化合物は、一般的には低温サイクル特性を低下させる場合があるが、本発明のスルホン酸フェニル化合物と併用すると、低温サイクル特性が向上するので好ましい。本発明のスルホン酸フェニル化合物以外のS=O結合含有化合物の含有量は、非水電解液の質量に対して10質量%を超えると低温サイクル特性が低下する場合があり、また0.01質量%に満たないと低温サイクル特性を改善する効果が十分に得られない場合がある。したがって、該S=O結合含有化合物の含有量は、非水電解液の質量に対して0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましい。また、その上限は10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましい。
これらの中でも、少なくとも環状カーボネート類と鎖状カーボネート類を組合せた非水溶媒を用いると、低温サイクル特性を向上するために好ましい。このときの環状カーボネート類と鎖状カーボネート類の割合は、特に制限されないが、環状カーボネート類:鎖状カーボネート類(容量比)が10:90〜40:60が好ましく、15:85〜35:65がより好ましく、20:80〜30:70が特に好ましい。
本発明の非水電解液に使用される電解質塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4等のLi塩、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiCF3SO3、LiC(SO2CF3)3、LiPF4(CF3)2、LiPF3(C2F5)3、LiPF3(CF3)3、LiPF3(iso−C3F7)3、LiPF5(iso−C3F7)等の鎖状のアルキル基を含有するリチウム塩や、(CF2)2(SO2)2NLi、(CF2)3(SO2)2NLi等の環状のアルキレン鎖を含有するリチウム塩、ビス[オキサレート−O,O’]ホウ酸リチウムやジフルオロ[オキサレート−O,O’]ホウ酸リチウム等のオキサレート錯体をアニオンとするリチウム塩が挙げられる。これらの中でも、特に好ましい電解質塩は、LiPF6、LiBF4、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2であり、最も好ましい電解質塩はLiPF6、LiBF4及びLiN(SO2CF3)2である。これらの電解質塩は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
LiPF6:LiBF4又はLiN(SO2CF3)2又はLiN(SO2C2F5)2 (モル比)が70:30よりもLiPF6の割合が低い場合、及び99:1よりもLiPF6の割合が高い場合には低温サイクル特性が低下する場合がある。したがって、LiPF6:LiBF4 又はLiN(SO2CF3)2又はLiN(SO2C2F5)2 (モル比)は、70:30〜99:1の範囲が好ましく、80:20〜98:2の範囲がより好ましい。上記組合せで使用することにより、低温サイクル特性を更に向上させる効果がある。
これら全電解質塩が溶解されて使用される濃度は、前記の非水溶媒に対して、通常0.3M以上が好ましく、0.5M以上がより好ましく、0.7M以上が更に好ましい。またその上限は、2.5M以下が好ましく、2.0M以下がより好ましく、1.5M以下が更に好ましい。
本発明の非水電解液には、芳香族化合物を含有させることにより、過充電時の電池の安全性を確保することができる。かかる芳香族化合物の好適例としては、シクロヘキシルベンゼン、フルオロシクロヘキシルベンゼン化合物(1−フルオロ−2−シクロヘキシルベンゼン、1−フルオロ−3−シクロヘキシルベンゼン、1−フルオロ−4−シクロヘキシルベンゼン)、tert−ブチルベンゼン、tert−アミルベンゼン、1−フルオロ−4−tert−ブチルベンゼン、1、3−ジ−tert−ブチルベンゼン、ビフェニル、ターフェニル(o−、m−、p−体)、ジフェニルエーテル、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン(o−、m−、p−体)、2、4−ジフルオロアニソール、ターフェニルの部分水素化物(1、2−ジシクロヘキシルベンゼン、2−フェニルビシクロヘキシル、1、2−ジフェニルシクロヘキサン、o−シクロヘキシルビフェニル)等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明の非水電解液は、例えば、前記の非水溶媒を混合し、これに前記の電解質塩及び該非水電解液の質量に対して前記一般式(II)の化合物を0.01〜10質量%溶解することにより得ることができる。
この際、用いる非水溶媒、及び非水電解液に加える化合物は、生産性を著しく低下させない範囲内で、予め精製して、不純物が極力少ないものを用いることが好ましい。
本発明の非水電解液には、例えば、空気や二酸化炭素を含ませることにより、更に電解液の分解によるガス発生の抑制や、長期サイクル特性や充電保存特性等の電池特性を向上させることができる。
本発明においては、高温における充放電特性向上の観点から、非水電解液中に二酸化炭素を溶解させた電解液を用いることが特に好ましい。二酸化炭素の溶解量は、非水電解液の質量に対して0.001質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、非水電解液に二酸化炭素を飽和するまで溶解させることが最も好ましい。
本発明のリチウム電池は、リチウム一次電池及びリチウム二次電池を総称するものであって、正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている前記非水電解液からなり、該非水電解液中に前記一般式(II)で表されるスルホン酸フェニル化合物が非水電解液の質量に対して0.01〜10質量%含有されていることを特徴とする。
本発明のリチウム電池においては、非水電解液以外の正極、負極等の構成部材は特に制限なく使用できる。
例えば、リチウム二次電池用正極活物質としては、コバルト、マンガン、ニッケルを含有するリチウムとの複合金属酸化物が使用される。これらの正極活物質は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
このような複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2、LiCo1-xNixO2(0.01<x<1)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、LiNi1/2Mn3/2O4、LiCo0.98Mg0.02O2等が挙げられる。また、LiCoO2とLiMn2O4、LiCoO2とLiNiO2、LiMn2O4とLiNiO2のように併用してもよい。
これらの中では、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2のような満充電状態における正極の充電電位がLi基準で4.3V以上で使用可能なリチウム複合金属酸化物が好ましく、LiCo1-xMxO2(但し、MはSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、Cuから表される少なくとも1種類以上の元素、0.001≦x≦0.05)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、LiNi1/2Mn3/2O4のような4.4V以上で使用可能なリチウム複合酸化物がより好ましい。
更に、正極活物質として、リチウム含有オリビン型リン酸塩を用いることもできる。その具体例としては、LiFePO4、LiCoPO4、LiNiPO4、LiMnPO4等が挙げられる。
これらのリチウム含有オリビン型リン酸塩の一部は他元素で置換してもよく、鉄、コバルト、ニッケル、マンガンの一部をCo、Mn、Ni、Mg、Al、B、Ti、V、Nb、Cu、Zn、Mo、Ca、Sr、W及びZr等から選ばれる1種以上の元素で置換したり、又はこれらの他元素を含有する化合物や炭素材料で被覆することもできる。これらの中では、LiFePO4又はLiMnPO4が好ましい。
また、リチウム含有オリビン型リン酸塩は、例えば前記の正極活物質と混合して用いることもできる。
正極の集電体を除く部分の密度は、通常は1.5g/cm3以上であり、電池の容量をさらに高めるため、好ましくは2g/cm3以上であり、より好ましくは、3g/cm3以上であり、特に好ましくは、3.6g/cm3以上である。
これらの中では、リチウムイオンの吸蔵及び放出能力において、人造黒鉛や天然黒鉛等の高結晶性の炭素材料を使用することが好ましく、格子面(002)の面間隔(d002)が0.340nm(ナノメータ)以下、特に0.335〜0.337nmである黒鉛型結晶構造を有する炭素材料を使用することが特に好ましい。また、高結晶性の炭素材料は低結晶性の炭素材料によって被膜されていると、低温サイクル特性が良好となるので好ましい。高結晶性の炭素材料を使用すると、充電時において非水電解液と反応しやすく、低温サイクル特性が低下する傾向があるが、本発明に係るリチウム二次電池では非水電解液との反応を抑制することができる。
負極は、上記の正極の作製と同様な導電剤、結着剤、高沸点溶剤を用いて混練して負極合剤とした後、この負極合剤を集電体の銅箔等に塗布して、乾燥、加圧成型した後、50℃〜250℃程度の温度で2時間程度真空下で加熱処理することにより作製することができる。
また、リチウム一次電池用負極活物質としては、リチウム金属又はリチウム合金が使用される。
リチウム二次電池の構造には特に限定はなく、単層又は複層のセパレータを有するコイン型電池、円筒型電池、角型電池、ラミネート式電池等を適用できる。
本発明におけるリチウム二次電池は、充電終止電圧が4.2V以上、特に4.3V以上の場合にも長期間にわたり優れたサイクル特性を有しており、さらに4.4Vにおいてもサイクル特性は良好である。放電終止電圧は、2.5V以上、更に2.8V以上とすることができる。電流値については特に限定されないが、通常0.1〜3Cの範囲で使用される。また、本発明におけるリチウム二次電池は、−40〜100℃、好ましくは0〜80℃で充放電することができる。
合成例1〔2,4−ジフルオロフェニルメタンスルホネートの合成〕
2,4−ジフルオロフェノール10.00g(0.077mol)、トルエン100mLL、トリエチルアミン8.17g(0.081mol)を25℃にて混合し、氷浴にて反応液温度を20℃以下に制御しつつメタンスルホニルクロリド9.24g(0.081mol)を15分かけて滴下し、25℃で1時間攪拌して反応を行った。反応液に水を加えて有機層を分離後、有機層を飽和重曹水で2回、水で1回洗浄し、無水MgSO4で乾燥後、減圧蒸留(98℃/3Torr)によりメタンスルホン酸2,4−ジフルオロフェノール15.1gを得た(収率94%)。
得られたメタンスルホン酸2,4−ジフルオロフェノールについて、1H−NMR、13C−NMR(日本電子株式会社製、型式:AL300使用)、及び質量分析(株式会社日立製作所製、型式:M80B使用)の測定を行い、その構造を確認した。結果を以下に示す。
(1)1H−NMR(300MHz,CDCl3):δ=7.4-7.3(m, 1 H), 7.1-6.9(m, 2 H), 3.22(s, 3 H)
(2)13C−NMR(75MHz,CDCl3):δ=161.0(dxd, JC-F =10.6x250.4 Hz), 154.5(dxd, JC-F = 12.5x253.5 Hz), 133.0(dxd, JC-F = 4.4x12.5 Hz), 126.0(d, JC-F = 9.34 Hz), 112.0(dxd, JC-F = 3.7x23.7 Hz), 105.7(dxd, JC-F = 21.8x26.8 Hz), 38.1
(3)質量分析: MS(EI) m/z(%) = 208(31) [M+], 130(100), 129(94), 101(82), 79(16), 51(10)
(1)非水電解液の調製
EC:MEC:DMC=30:35:35(容量比)に調製した非水溶媒に、LiPF6を1Mになるように溶解し、更に2,4−ジフルオロフェニルメタンスルホネートを非水電解液に対して0.1質量%(実施例1)、1質量%(実施例2)、5質量%(実施例3)、10質量%(実施例4)を加えて非水電解液を調製した。
〔リチウムイオン二次電池の作製〕
LiCo0.98Mg0.02O2(正極活物質);93質量%、アセチレンブラック(導電剤);3質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);4質量%を1−メチル2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上の両面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに裁断し、帯状の正極シートを作製した。正極の集電体を除く部分の密度は3.6g/cm3であった。
また、低結晶性の炭素で被覆した人造黒鉛(d002=0.335nm、負極活物質)95質量%を、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤)5質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔(集電体)上の両面に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに裁断し、帯状の負極シートを作製した。負極の集電体を除く部分の密度は1.7g/cm3であった。
得られた正極シート、微孔性ポリエチレンフィルム製セパレータ、負極シート及びセパレータの順に積層し、これを渦巻き状に巻回した。この巻回体を負極端子を兼ねるニッケルメッキを施した鉄製の円筒型電池缶に収納した。更に、非水電解液を注入し、正極端子を有する電池蓋をガスケットを介してかしめて、18650型円筒電池を作製した。なお正極端子は正極シートとアルミニウムのリードタブを用いて、負極缶は負極シートとニッケルのリードタブを用いて予め電池内部で接続した。
(2)低温サイクル特性の評価
上記のとおり作製した電池を用いて、25℃の恒温槽中、1Cの定電流で4.2V(充電終止電圧)まで充電した後、4.2Vの定電圧で2.5時間充電し、次に1Cの定電流で、放電電圧3.0V(放電終止電圧)まで放電した。次に0℃の恒温槽中、1Cの定電流で4.2Vまで充電した後、4.2Vの定電圧で2.5時間充電し、次に1Cの定電流で、放電電圧3.0Vまで放電した。これを50サイクルに達するまで繰り返した。
以下の式により、0℃における50サイクル後の放電容量維持率を求めた。結果を表1に示す。
0℃における50サイクル後の放電容量維持率(%)=(0℃における50サイクル目の放電容量/0℃における1サイクル目の放電容量)×100
EC:MEC:DMC=30:35:35(容量比)に調製した非水溶媒に、LiPF6を1Mになるように溶解し、更に非水電解液中に対して2,4−ジフルオロフェニルメタンスルホネートを添加する代わりに、2−フルオロフェニルメタンスルホネート(実施例5)、3−フルオロフェニルメタンスルホネート(実施例6)、4−フルオロフェニルメタンスルホネート(実施例7)、3,4―ジフルオロフェニルメタンスルホネート(実施例8)、3,5―ジフルオロフェニルメタンスルホネート(実施例9)、2,3,4−トリフルオロフェニルメタンスルホネート(実施例10)、3,4,5−トリフルオロフェニルメタンスルホネート(実施例11)、2,3,5,6−テトラフルオロフェニルメタンスルホネート(実施例12)をそれぞれ1質量%加えて非水電解液を調製したことの他は実施例1と同様に円筒電池を作製し、電池評価を行った。結果を表1に示す。
EC:MEC:DMC=30:35:35(容量比)に調製した非水溶媒に、LiPF6を1Mになるように溶解し、更に非水電解液に対して2,4−ジフルオロフェニルメタンスルホネートを1質量%、1,3−プロパンスルトンを2質量%加えて非水電解液を調製したことの他は実施例1と同様に円筒電池を作製し、電池評価を行った。結果を表1に示す。
EC:MEC:DMC=30:35:35(容量比)に調製した非水溶媒に、LiPF6を1Mになるように溶解し、更に非水電解液に対して2,4−ジフルオロフェニルメタンスルホネートを1質量%、エチレンサルファイトを0.5質量%加えて非水電解液を調製したことの他は実施例1と同様に円筒電池を作製し、電池評価を行った。結果を表1に示す。
EC:VC:MEC:DEC=28:2:35:35(容量比)に調製した非水溶媒に、LiPF6を0.95M、LiN(SO2CF3)2を0.05Mになるように溶解し、更に非水電解液に対して2,4−ジフルオロフェニルメタンスルホネートを1質量%、ジビニルスルホンを0.5質量%加えて非水電解液を調製したことの他は実施例1と同様に円筒電池を作製し、電池評価を行った。結果を表1に示す。
FEC:PC:DMC:DEC=20:10:35:35(容量比)に調製した非水溶媒に、LiPF6を0.95M、LiBF4を0.05Mになるように溶解し、更に2,4−ジフルオロフェニルメタンスルホネートを非水電解液に対して1質量%加えて非水電解液を調製したことの他は実施例1と同様に円筒電池を作製し、電池評価を行った。結果を表1に示す。
EC:MEC:DMC=30:35:35(容量比)に調製した非水溶媒に、LiPF6を1Mになるように溶解し、更に2,4−ジフルオロフェニルメタンスルホネートを非水電解液に加えなかった他は実施例1と同様に円筒電池を作製し、電池評価を行った。結果を表1に示す。
EC:MEC:DMC=30:35:35(容量比)に調製した非水溶媒に、LiPF6を1Mになるように溶解し、更に非水電解液に対して2,4−ジフルオロフェニルメタンスルホネートを添加する代わりに、フェニルメタンスルホネート(比較例2)、2,4−ジフルオロベンゼンスルホン酸メチル(比較例3)、2,4−ジフルオロ安息香酸メチル(比較例4)をそれぞれ1質量%加えて非水電解液を調製したことの他は実施例1と同様に円筒電池を作製し、電池評価を行った。結果を表1に示す。
また、図1に、ベンゼン環上のフッ素原子の数と低温サイクル特性の関係を示す。フッ素原子の数が1個又は2個の場合、特に低温サイクル特性が良好であり、フッ素原子が数がそれ以上に増えると、徐々に低温サイクル特性が低下する傾向がみられる。従って、ベンゼン環のフッ素原子の数は1〜4個までが好ましい。
実施例2で用いた正極活物質に変えて、LiFePO4(正極活物質)を用いて、正極シートを作製した。LiFePO4;90質量%、アセチレンブラック(導電剤);5質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);5質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストをアルミニウム箔(集電体)上に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに裁断し、帯状の正極シートを作製したこと、充電終止電圧を3.6V、放電終止電圧を2.0Vとしたことの他は、実施例2と同様に円筒電池を作製し、電池評価を行った。結果を表2に示す。
比較例5
非水電解液に2,4−ジフルオロフェニルメタンスルホネートを非水電解液に加えなかった他は実施例17と同様に円筒電池を作製し、電池評価を行った。結果を表2に示す。
実施例1で用いた負極活物質に変えて、Si(負極活物質)を用いて、負極シートを作製した。Si;80質量%、アセチレンブラック(導電剤);15質量%を混合し、予めポリフッ化ビニリデン(結着剤);5質量%を1−メチル−2−ピロリドンに溶解させておいた溶液に加えて混合し、負極合剤ペーストを調製した。この負極合剤ペーストを銅箔(集電体)上に塗布し、乾燥、加圧処理して所定の大きさに裁断し、帯状の負極シートを作製したことの他は、実施例2と同様に円筒電池を作製し、電池評価を行った。結果を表2に示す。
比較例6
非水電解液に2,4−ジフルオロフェニルメタンスルホネートを非水電解液に加えなかった他は実施例18と同様に円筒電池を作製し、電池評価を行った。結果を表2に示す。
更に、本発明の非水電解液は、リチウム一次電池の低温放電特性を改善する効果も有する。
Claims (8)
- 非水溶媒が、環状カーボネート及び鎖状カーボネートを含む、請求項2に記載の非水電解液。
- 環状カーボネートが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、トランス又はシス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、ビニレンカーボネート、及びビニルエチレンカーボネートから選ばれる1種以上である、請求項3に記載の非水電解液。
- 鎖状カーボネートが、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、及びエチルプロピルカーボネートから選ばれる1種以上の非対称鎖状カーボネートである、請求項3又は4に記載の非水電解液。
- 電解質塩が、LiPF 6 、LiBF 4 、LiN(SO 2 CF 3 ) 2 、及びLiN(SO 2 C 2 F 5 ) 2 から選ばれる1種以上である、請求項2〜5のいずれかに記載の非水電解液。
- 一般式(II)で表されるスルホン酸フェニル化合物が、2−フルオロフェニルメタンスルホネート、3−フルオロフェニルメタンスルホネート、4−フルオロフェニルメタンスルホネート、2、3−ジフルオロフェニルメタンスルホネート、2、4−ジフルオロフェニルメタンスルホネート、2、5−ジフルオロフェニルメタンスルホネート、2、6−ジフルオロフェニルメタンスルホネート、3、4−ジフルオロフェニルメタンスルホネート、及び3、5−ジフルオロフェニルメタンスルホネートから選ばれる1種以上である、請求項2〜6のいずれかに記載の非水電解液。
- 正極、負極及び非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液を含むリチウム電池であって、該非水電解液中に請求項2に記載の一般式(II)で表されるスルホン酸フェニル化合物が非水電解液の質量に対して0.01〜10質量%含有されていることを特徴とするリチウム電池。
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