本発明者らは、固体高分子形燃料電池の連続発電試験において、長期耐久性に優れる固体高分子形燃料電池を見出すべく、鋭意検討を重ねた。
本発明者らは、芳香族炭化水素系電解質からなる固体高分子電解質膜と固体高分子電解質膜の両面に配置された電極触媒層とを接合して一体化した固体高分子電解質膜/電極接合体と、電極触媒層に接するように固体高分子電解質膜/電極接合体の両面に設けられたガス拡散層とを備える固体高分子形燃料電池において、電極触媒層、ガス拡散層、及び固体高分子電解質膜は、この記載の順に面積が大きくなり、電極触媒層は、全面が固体高分子電解質膜に接合されており、ガス拡散層は、電極触媒層の全面を覆うように、かつ、垂直方向からの投影像の周縁が固体高分子電解質膜の面内に含まれるように設けられた固体高分子形燃料電池の長期連続発電試験を行った。この結果、本固体高分子形燃料電池において、電解質膜は、電極触媒層と接触していなく、さらに、ガス拡散層とも接触していない部分で劣化していることがわかった。すなわち、本固体高分子電解質膜において、電極触媒層やガス拡散層が接触していない部分の電解質膜の劣化を抑えれば、燃料電池用電解質膜の劣化が押さえられ、寿命が長くなるという知見を得た。
本発明は、芳香族炭化水素系電解質からなる固体高分子電解質膜と固体高分子電解質膜の両面に配置された電極触媒層とを接合して一体化した固体高分子電解質膜/電極接合体と、電極触媒層に接するように固体高分子電解質膜/電極接合体の両面に設けられたガス拡散層とを備える固体高分子形燃料電池において、電極触媒層、ガス拡散層、及び固体高分子電解質膜は、この記載の順に面積が大きくなり、電極触媒層は、全面が固体高分子電解質膜に接合されており、ガス拡散層は、電極触媒層の全面を覆うように、かつ、垂直方向からの投影像の周縁が固体高分子電解質膜の面内に含まれるように設けられ、固体高分子電解質膜は、少なくとも電極触媒層が接合されている部分を含む中央部と、固体高分子電解質膜の周縁から少なくともガス拡散層の投影像の周縁位置までの範囲である周辺部とを有し、周辺部の高分子材料のイオン交換容量が、中央部の高分子材料のイオン交換容量より小さいことを特徴とする固体高分子形燃料電池により、長寿命化を達成する。
また、周辺部の高分子材料の数平均分子量が、中央部の高分子材料の数平均分子量より大きいことを特徴とする固体高分子形燃料電池により、長寿命化を達成する。
または、周辺部の高分子材料の耐酸化性が、中央部の高分子材料の耐酸化性より優れることを特徴とする固体高分子形燃料電池により、長寿命化を達成する。
以下、本発明による固体高分子形燃料電池の実施形態について、詳細に説明する。
本発明による固体高分子形燃料電池は、基本的には、芳香族炭化水素系電解質からなる固体高分子電解質膜と固体高分子電解質膜の両面に配置された電極触媒層とを接合して一体化した固体高分子電解質膜/電極接合体と、電極触媒層に接するように固体高分子電解質膜/電極接合体の両面に設けられたガス拡散層とを備える固体高分子形燃料電池において、電極触媒層、ガス拡散層、及び固体高分子電解質膜は、この記載の順に面積が大きくなり、電極触媒層は、全面が固体高分子電解質膜に接合されており、ガス拡散層は、電極触媒層の全面を覆うように、かつ、垂直方向からの投影像の周縁が固体高分子電解質膜の面内に含まれるように設けられ、固体高分子電解質膜は、少なくとも電極触媒層が接合されている部分を含む中央部と、固体高分子電解質膜の周縁から少なくともガス拡散層の投影像の周縁位置までの範囲である周辺部とを有し、周辺部の高分子材料のイオン交換容量が、中央部の高分子材料のイオン交換容量より小さいことを特徴とするものであり、以下の実施例に限定されるものではない。
本発明におけるイオン交換容量とは、ポリマーの単位重量あたりのイオン交換基数であり、値が大きいほどイオン交換基の導入度が大きいことを示す。イオン交換容量は、1H−NMRスペクトロスコピー、元素分析、特公平1−52866号公報に記載の酸塩基滴定、非水酸塩基滴定(規定液はカリウムメトキシドのベンゼン・メタノール溶液)等により測定が可能である。
本発明による固体高分子形燃料電池において、固体高分子電解質膜の中央部のイオン交換容量は、好ましくは0.3meq/g以上かつ5.0meq/g以下である。イオン交換容量が0.3meq/gより小さいと、燃料電池発電時に電解質膜の抵抗が大きくなるため出力が低下し、5.0meq/gを超えると、機械的特性が低下することがあり、どちらの場合も好ましくない。従って、優れた機械特性を有する電解質膜を得るためと、固体高分子形燃料電池の高出力化のためには、イオン交換容量が0.3meq/g以上で5.0meq/g以下であるのが好ましい。
本発明による固体高分子形燃料電池に用いられる高分子材料としては、スルホン化エンジニアプラスチック系電解質、炭化水素系電解質、またはエンジニアプラスチック系用重合体が挙げられ、これらには置換基がついてもよい。スルホン化エンジニアプラスチック系電解質の例としては、スルホン化ポリケトン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリフェニレンが挙げられる。炭化水素系電解質の例としては、スルホアルキル化ポリケトン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリフェニレン、スルホアルキル化エンジニアプラスチック系電解質が挙げられる。エンジニアプラスチック系用重合体の例としては、ポリエーテルケトン系共重合体、ポリエーテルエーテルケトン系共重合体、ポリエーテルスルホン系共重合体、ポリイミド系共重合体、ポリベンゾイミダゾール系共重合体、ポリキノリン系共重合体が挙げられる。
また、芳香族炭化水素系電解質からなる固体高分子電解質膜と固体高分子電解質膜の両面に配置された電極触媒層とを接合して一体化した固体高分子電解質膜/電極接合体と、電極触媒層に接するように固体高分子電解質膜/電極接合体の両面に設けられたガス拡散層とを備える固体高分子形燃料電池において、電極触媒層、ガス拡散層、及び固体高分子電解質膜は、この記載の順に面積が大きくなり、電極触媒層は、全面が固体高分子電解質膜に接合されており、ガス拡散層は、電極触媒層の全面を覆うように、かつ、垂直方向からの投影像の周縁が固体高分子電解質膜の面内に含まれるように設けられ、固体高分子電解質膜は、少なくとも電極触媒層が接合されている部分を含む中央部と、固体高分子電解質膜の周縁から少なくともガス拡散層の投影像の周縁位置までの範囲である周辺部とを有し、周辺部の高分子材料の数平均分子量が、中央部の高分子材料の数平均分子量より大きければ、この固体高分子形燃料電池は、本発明の範囲内である。
本発明による固体高分子形燃料電池に用いられる高分子材料の数平均分子量は、GPC法によるポリスチレン換算の数平均分子量で表して10000〜250000g/molである。好ましくは、20000〜220000g/molであり、さらに好ましくは、25000〜200000g/molである。数平均分子量が10000g/molより小さいと電解質膜の強度が低下し、200000g/molを超えると出力性能が低下することがあり、どちらの場合も好ましくない。
また、芳香族炭化水素系電解質からなる固体高分子電解質膜と固体高分子電解質膜の両面に配置された電極触媒層とを接合して一体化した固体高分子電解質膜/電極接合体と、電極触媒層に接するように固体高分子電解質膜/電極接合体の両面に設けられたガス拡散層とを備える固体高分子形燃料電池において、電極触媒層、ガス拡散層、及び固体高分子電解質膜は、この記載の順に面積が大きくなり、電極触媒層は、全面が固体高分子電解質膜に接合されており、ガス拡散層は、電極触媒層の全面を覆うように、かつ、垂直方向からの投影像の周縁が固体高分子電解質膜の面内に含まれるように設けられ、固体高分子電解質膜は、少なくとも電極触媒層が接合されている部分を含む中央部と、固体高分子電解質膜の周縁から少なくともガス拡散層の投影像の周縁位置までの範囲である周辺部とを有し、周辺部の高分子材料の耐酸化性が、中央部の高分子材料の耐酸化性より優れていれば、この固体高分子形燃料電池は、本発明の範囲内である。
高分子の耐酸化性は、非特許文献1に記載のFenton試験により評価が可能である。Fenton試験において、耐酸化性が優れる材料は重量減少率が低くなる。
非特許文献1:高須芳雄、吉武優、石原達己編、「燃料電池の解析手法」、化学同人。
本発明による固体高分子形燃料電池に用いられる高分子材料は、燃料電池では高分子膜状態で使用される。高分子膜の製造方法としては、例えば、溶液状態より製膜する溶液キャスト法、溶融プレス法、及び溶融押し出し法がある。この中でも溶液キャスト法が好ましく、例えば、高分子溶液を基材上に流延塗布した後、溶媒を除去して製膜する。
この製膜方法に用いる溶媒は、高分子材料を溶解した後に除去できるものであれば、特に制限はなく、例えば、非プロトン性極性溶媒、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルコール、テトラヒドロフランが挙げられる。非プロトン性極性溶媒の例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドが挙げられる。アルキレングリコールモノアルキルエーテルの例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルが挙げられる。アルコールの例としては、iso−プロピルアルコール、t−ブチルアルコールが挙げられる。
本発明による固体高分子形燃料電池に用いられる高分子電解質膜を製造する際には、通常の高分子に使用される可塑剤、酸化防止剤、過酸化水素分解剤、金属捕捉材、界面活性剤、安定剤、離型剤等の添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内で使用できる。
酸化防止剤としては、例えば、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、燐系酸化防止剤が挙げられる。アミン系酸化防止剤の例としては、フェノール−α−ナフチルアミン、フェノール−β−ナフチルアミン、ジフェニルアミン、p−ヒドロキシジフェニルアミン、フェノチアジンが挙げられる。フェノール系酸化防止剤の例としては、2,6−ジ(t−ブチル)−p−クレゾール、2,6−ジ(t−ブチル)−p−フェノール、2,4−ジメチル−6−(t−ブチル)−フェノール、p−ヒドロキシフェニルシクロヘキサン、ジ−p−ヒドロキシフェニルシクロヘキサン、スチレン化フェノール、1,1′−メチレンビス(4−ヒドロキシ−3,5−t−ブチルフェノール)が挙げられる。硫黄系酸化防止剤の例としては、ドデシルメルカプタン、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ジラウリルサルフィッド、メルカプトベンゾイミダゾールが挙げられる。燐系酸化防止剤の例としては、トリノリルフェニルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリトリチオホスファイトが挙げられる。
過酸化水素分解剤は、過酸化物を分解する触媒作用を有するものであれば、特に限定されない。例えば、前記の酸化防止剤のほかに、金属、金属酸化物、金属リン酸塩、金属フッ化物、大環状金属錯体等が挙げられる。これらから選ばれる一種を単独で用いるか、または二種以上を併用すればよい。なかでも、金属としては、Ru、Ag等が、金属酸化物としては、RuO、WO3、CeO2、Fe3O4等が、金属リン酸塩としてはCePO4、CrPO4、AlPO4、FePO4等が、金属フッ化物としては、CeF3、FeF3等が、大環状金属錯体としては、Fe−ポルフィリン、Co−ポルフィリン、ヘム、カタラーゼ等が好適である。特に、過酸化物の分解性能が高いという理由から、RuO2やCePO4を用いるとよい。
金属捕捉剤は、Fe2+やCu2+イオン等の金属イオンと反応して錯体を作り、金属イオンを不活性化し、金属イオンの持つ劣化促進作用を抑制するものであれば、特に制限は無い。このような金属捕捉剤として、例えば、テノイルトリフルオロアセトン、ジエチルチオカルバミン酸ナトリウム(DDTC)や1,5−ジフェニル−3−チオカルバゾン、さらには1,4,7,10,13−ペンタオキシシクロペンタデカンや1,4,7,10,113,16−ヘキサオキシシクロペンタデカン等のクラウンエーテル、4,7,13,16−テトラオキサ−1,10−ジアザシクロオクタデカンや4,7,13,16,21,24−ヘキサオキシ−1,10−ジアザシクロヘキサコサン等のクリプタンド、またさらにはテトラフェニルポルフィリン等のポルフィリン系の材料を用いても構わない。
また、高分子電解質膜を製造する際に、各種材料の混合量は、実施例に記載した量に限定されるものではない。これらの材料のうち、特にフェノール系酸化防止剤と燐系酸化防止剤の併用系は、少量で効果があり、燃料電池の諸特性に悪影響を及ぼす程度が少ないので好ましい。これらの酸化防止剤、過酸化水素分解剤、金属捕捉材は、電解質膜と電極に加えても、または電解質膜と電極の間に配しても良い。特に、カソード電極、またはカソード電極と電解質膜の間に配すると、少量で効果があり、燃料電池の諸特性に悪影響を及ぼす程度が少ないので好ましい。
本発明による固体高分子形燃料電池に用いられる高分子電解質膜の厚さは、特に制限はないが、10〜300μmが好ましく、特に15〜200μmがより好ましい。実用に耐える膜の強度を得るには10μmより厚い方が好ましく、膜抵抗の低減つまり発電性能向上のためには200μmより薄い方が好ましい。
溶液キャスト法の場合、膜厚は、溶液濃度または基板上への塗布厚により制御できる。溶融状態より製膜する場合、膜厚は、溶融プレス法または溶融押し出し法等で得た所定厚さのフィルムを、所定の倍率に延伸することで制御できる。
上記高分子電解質膜を架橋した電解質膜についても、本発明の範囲内である。電解質膜の架橋については、フェノール系の架橋材を用いた架橋や、親水性セグメントのスルホン酸基とベンゼン環の水素との脱水縮合反応により架橋させる方法等がある。上記の高分子電解質膜を、水、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、エタノール、メタノール、またはこれらの混合物に80℃で24hr浸漬し、その後の重量減少が10%以下であれば、この高分子電解質膜は、本発明の範囲内である。
電極触媒層は、本発明の高分子電解質膜と触媒を担持させたカーボン粉末とを、プロトンを伝導する高分子電解質を用いて接着させて作製する。高分子電解質としては、従来のフッ素系高分子電解質や炭化水素系電解質を使用できる。このような炭化水素系電解質としては、例えば、スルホン化エンジニアプラスチック系電解質、スルホアルキル化エンジニアプラスチック系電解質、炭化水素系電解質、上記のプロトン伝導性付与基と耐酸化性付与基を導入した炭化水素系高分子が挙げられる。スルホン化エンジニアプラスチック系電解質の例としては、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)、スルホン化ポリスルフィッド、スルホン化ポリフェニレンが挙げられる。スルホアルキル化エンジニアプラスチック系電解質の例としては、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィッド、スルホアルキル化ポリフェニレン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホンが挙げられる。炭化水素系電解質の例としては、スルホアルキルエーテル化ポリフェニレンが挙げられる。
アノード電極やカソード電極に用いられるアノード触媒やカソード触媒としては、燃料の酸化反応及び酸素の還元反応を促進する金属であればいずれのものでもよく、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム、チタン、またはこれらの合金が挙げられる。このような金属の中で、特に白金(Pt)が多くの場合に用いられる。触媒となる金属の粒径は、通常は1〜30nmである。これらの触媒は、カーボン等の担体に付着させると使用量が少なくなり、コスト的に有利である。触媒の担持量は、電極が成形された状態で0.01〜20mg/cm2が好ましい。
膜電極接合体(固体高分子電解質膜/電極接合体、MEA)に使用される電極は、触媒金属の微粒子を担持した導電材により構成されるものであり、必要に応じて撥水剤や結着剤(バインダ)が含まれていてもよい。また、触媒を担持していない導電材と必要に応じて含まれる撥水剤や結着剤とからなる層を、触媒層の外側に形成してもよい。触媒金属を担持させる導電材としては、電子導伝性物質であればいずれのものでもよく、例えば各種金属や炭素材料等が挙げられる。炭素材料としては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ等の繊維状炭素、活性炭、または黒鉛を用いることができ、これらは単独で、または混合して使用することができる。
撥水剤としては、例えばフッ素化カーボンが使用される。
バインダ(結着剤)としては、電解質膜と同系統の炭化水素電解質の溶液を用いることが接着性の観点から好ましいが、他の各種樹脂を用いても差し支えない。また、撥水性を有する含フッ素樹脂、例えばポリテトラフロロエチレン、テトラフロロエチレン−パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフロロエチレン−ヘキサフロロプロピレン共重合体を加えてもよい。
燃料電池として製造する際の高分子電解質膜と電極とを接合する方法についても、特に制限はなく、公知の方法を適用することが可能である。膜電極接合体の製作方法の例としては、導電材(例えばカーボン)に担持させたPt触媒紛とポリテトラフロロエチレン懸濁液とを混ぜ、カーボンペーパーに塗布、熱処理して触媒層を形成し、バインダとして高分子電解質膜と同一の高分子電解質溶液またはフッ素系電解質を触媒層に塗布し、高分子電解質膜とホットプレスで一体化する方法がある。この他、高分子電解質と同一の高分子電解質溶液を予めPt触媒紛にコーテイングする方法、触媒ペーストを、印刷法、スプレー法、またはインクジェット法で高分子電解質膜に塗布する方法、高分子電解質膜に電極を無電解鍍金する方法、高分子電解質膜に白金族の金属錯イオンを吸着させた後、還元する方法等がある。このうち、触媒ペーストをインクジェット法で高分子電解質膜に塗布する方法は、触媒のロスが少なく優れている。
本発明においては、上記の高分子材料を電解質膜に用いて、各種形態の燃料電池を提供できる。例えば、電解質膜の主面の片面が酸素極、他の片面が水素極で挟持されている高分子電解質膜/電極接合体と、酸素極側及び水素極側にそれぞれ別個に各電極と密着して設けられているガス拡散シートと、各ガス拡散シートの外側表面にそれぞれ酸素極及び水素極へのガス供給通路を有する導電性セパレータとを備える固体高分子形燃料電池単セルを形成することができる。
また、ケース内に、上記の燃料電池本体と、この燃料電池本体に供給する水素を貯蔵する水素ボンベとを有するポータブル電源を提供できる。
さらに、水素を含むアノードガスを改質する改質器と、このアノードガスと酸素を含むカソードガスとから発電する燃料電池と、改質器を出た高温のアノードガスと改質器に供給する低温の燃料ガスとの間で熱を交換する熱交換器とを備える燃料電池発電装置を提供できる。
また、電解質膜の主面の片面が酸素極、他の片面がメタノール極で挟持されている高分子電解質膜/電極接合体と、酸素極側及びメタノール極側にそれぞれ別個に各電極と密着して設けられているガス拡散シートと、各ガス拡散シートの外側表面にそれぞれ酸素極及びメタノール極へのガス及び液体供給通路を有する導電性セパレータとを備える直接メタノール形燃料電池単セルを形成することができる。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の趣旨とするところは、ここに開示した実施例のみに限定されるものではない。
(1)高分子電解質膜(固体高分子電解質膜)1の作製
図1(a)、図1(b)に示す高分子電解質膜1を作製した。図1(a)は、高分子電解質膜1の断面図であり、図1(b)は、高分子電解質膜1の正面図である。高分子電解質膜1は、中央部に電解質A25が配置され、周辺部に電解質B24が配置される。
特開2002−110174号公報の実施例14に記載の方法にて、イオン交換容量1.3meq/g、数平均分子量Mn8×104g/molのスルホメチル化ポリエーテルスルホンを作製し、これを電解質A25とした。また、同じ方法にて、イオン交換容量0.9meq/g、数平均分子量Mn8×104g/molのスルホメチル化ポリエーテルスルホンを作製し、これを電解質B24とした。
電解質A25と電解質B24とを、15重量%の濃度になるようにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)にそれぞれ溶解し、電解質A25の溶液と電解質B24の溶液を作製した。特開2005−216667号公報に記載のポリオレフィン多孔質膜23に対し、電解質B24が配置されるべき周辺部をPTFEフィルムでマスキングして、電解質A25の溶液を含侵させ、加熱乾燥させた。次に、電解質A25が含侵した中央部をPEFEフィルムでマスキングして、電解質B24の溶液を含侵させた。その後、加熱乾燥、次いで硫酸及び水に浸漬、乾燥して、図1(a)、図1(b)に示す膜厚40μmの高分子電解質膜1を作製した。
数平均分子量測定に用いたGPC(Gel Permeation Chromatography:ゲル浸透クロマトグラフィー)の測定条件は、以下のとおりである。
GPC装置:東ソー株式会社製HLC−8220GPC
カラム:東ソー株式会社製 TSKgel SuperAWM−H×2本
溶離液:N−メチル−2−ピロリドン(NMP、10mmol/L臭化リチウム添加)。
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
図1(c)、図1(d)に示す膜電極接合体(MEA)31を作製した。図1(c)は、MEA31の断面図であり、図1(d)は、MEA31の正面図である。MEA31は、図1(a)、図1(b)に示した高分子電解質膜1に、カソード電極13とアノード電極12とを配置したものである。図1(d)は、アノード電極12が配置されている面が見えている正面図である。
炭素担体上に白金微粒子を70wt%分散担持した触媒粉末と、5wt%のポリパーフルオロスルホン酸とを、1−プロパノール、2−プロパノール、及び水で構成された混合溶媒に混合してスラリーを調整した。このスラリーを、触媒重量が0.4g/cm2になるように高分子電解質膜1の上にスプレー塗布し、厚さ約20μm、幅30mm、長さ30mmのカソード電極13及びアノード電極12を作製した。高分子電解質膜1の片面にカソード電極13を、もう一面にアノード電極12を配置し、120℃、13MPaでホットプレスした。
これにより、図1(c)、図1(d)に示したような、高分子電解質膜1とこれを挟持するアノード電極12とカソード電極13とを有するMEA31を作製した。
アノード電極12とカソード電極13は、図1(c)、図1(d)に示すように、高分子電解質膜1の電解質A25よりも面積が小さく、全面が電解質A25に接合されている。すなわち、アノード電極12とカソード電極13は、高分子電解質膜1の中央部である電解質A25の面内に含まれるように配置される。
(3)固体高分子形燃料電池(PEFC)の作製と発電性能
図1(e)、図1(f)は、作製したMEAと、その両面に配置されたガス拡散層であるアノード拡散層とカソード拡散層とを示す図である。図1(e)は断面図であり、図1(f)は正面図である。
MEAは、図1(c)、図1(d)に示したMEA31と同一である。アノード電極12の外側にアノード拡散層14を配置し、アノード電極12の面と密着させた。同様に、カソード電極13の外側にカソード拡散層15を配置し、カソード電極13の面と密着させた。図1(f)は、アノード拡散層14が配置されている面が見えている正面図である。
アノード拡散層14とカソード拡散層15は、それぞれアノード電極12とカソード電極13よりも面積が大きく、電解質A25、電解質B24、及びポリオレフィン多孔質膜23から構成される高分子電解質膜1よりも面積が小さい。アノード拡散層14とカソード拡散層15は、図1(e)、図1(f)に示すように、それぞれアノード電極12とカソード電極13の全面を覆うように配置される。さらに、アノード拡散層14とカソード拡散層15は、層の垂直方向からの投影像の周縁40が高分子電解質膜1の面内に含まれるように配置される。
さらに、アノード拡散層14とカソード拡散層15は、層の垂直方向からの投影像の周縁40がともに高分子電解質膜1の周辺部である電解質B24の面内に含まれるように配置される。すなわち、電解質B24が存在する高分子電解質膜1の周辺部は、高分子電解質膜1の周縁41から、アノード拡散層14とカソード拡散層15の垂直方向からの投影像の周縁40を少なくとも含む位置までの範囲である。そして、電解質A25が存在する高分子電解質膜1の中央部は、高分子電解質膜1の周辺部以外の範囲であり、アノード電極12とカソード電極13が接合されている部分を含む。
さらに、アノード拡散層14の外側にアノード側セパレータを、カソード拡散層15の外側にカソード側セパレータを設け、それぞれアノード拡散層14及びカソード拡散層15と密着させて、図2に示す固体高分子形燃料電池を作製した。
図2は、本発明による固体高分子形燃料電池の内部構造を示す分解斜視図である。本発明による固体高分子形燃料電池は、高分子電解質膜1(固体高分子電解質膜)11、アノード電極12、カソード電極13、アノード拡散層14、カソード拡散層15、アノード側セパレータ17、及びカソード側セパレータ18から構成される。これらの構成要素を密着させて、固体高分子形燃料電池の単セルを形成する。また、101は燃料流路、102は空気流路である。
図2に示すように、アノード側セパレータ17の燃料流路101に水素19を流し、カソード側セパレータ18の空気流路102に空気22を流す。水素19は、燃料流路101を通過する過程において電子を奪われる(酸化される)とともに、プロトン(H+)として高分子電解質膜1(11)の内部を拡散し、空気流路102を通過する空気22に含まれる酸素と反応して水21となる。水21と反応残存物(水素及び水蒸気)20は、ともに単セル外へ排出される。また、空気22は、水蒸気を含む空気30となって、単セル外へ排出される。
図2に示した小型の単セルを用いて発電試験を行い、上記のMEA31を用いた固体高分子形燃料電池の発電性能を測定した。
この測定においては、単セルを恒温槽に設置し、アノード側セパレータ17及びカソード側セパレータ18内に設置した熱電対(図示していない)の温度が70℃になるように恒温槽の温度を制御した。
アノード電極12及びカソード電極13は、単セルの外部に設置した加湿器を用いて加湿し、加湿器出口付近の露点が70℃になるように加湿器の温度を70〜73℃の間で制御した。負荷電流密度を250mA/cm2とし、水素利用率が70%、空気利用率が40%で発電した。その結果、上記の単セルは、0.74V以上の出力を示し、500時間以上安定して発電可能であることがわかった。
(1)高分子電解質膜(固体高分子電解質膜)2の作製
図3(a)、図3(b)に示す高分子電解質膜2を作製した。図3(a)は、高分子電解質膜2の断面図であり、図3(b)は、高分子電解質膜2の正面図である。高分子電解質膜2は、実施例1の高分子電解質膜1において、電解質B24が電解質C26に置き換わったものである。すなわち、高分子電解質膜2は、中央部に電解質A25が配置され、周辺部に電解質C26が配置される。
特開2002−110174号公報の実施例14に記載の方法にて、イオン交換容量1.3meq/g、数平均分子量Mn10×104g/molのスルホメチル化ポリエーテルスルホンを作製し、これを電解質C26とした。また、実施例1に述べた電解質A25を作製した。
電解質A25と電解質C26とを、15重量%の濃度になるようにNMPにそれぞれ溶解し、電解質A25の溶液と電解質C26の溶液を作製した。特開2005−216667号公報に記載のポリオレフィン多孔質膜23に対し、電解質C26が配置されるべき周辺部をマスキングして、電解質A25の溶液を含侵させた。次に、電解質A25が含侵した中央部をマスキングして、電解質C26の溶液を含侵させた。その後、加熱乾燥、次いで硫酸及び水に浸漬、乾燥して、図3(a)、図3(b)に示す膜厚40μmの高分子電解質膜2を作製した。
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
図3(c)、図3(d)に示す膜電極接合体(MEA)32を作製した。図3(c)は、MEA32の断面図であり、図3(d)は、MEA31の正面図である。MEA32は、図3(a)、図3(b)に示した高分子電解質膜2に、カソード電極13とアノード電極12とを配置したものである。図3(d)は、アノード電極12が配置されている面が見えている正面図である。
炭素担体上に白金微粒子を70wt%分散担持した触媒粉末と、5wt%のポリパーフルオロスルホン酸とを、1−プロパノール、2−プロパノール、及び水で構成された混合溶媒に混合してスラリーを調整した。このスラリーを、触媒重量が0.4g/cm2になるように高分子電解質膜2の上にスプレー塗布し、厚さ約20μm、幅30mm、長さ30mmのカソード電極13及びアノード電極12を作製した。高分子電解質膜2の片面にカソード電極13を、もう一面にアノード電極12を配置し、120℃、13MPaでホットプレスした。
これにより、図3(c)、図3(d)に示したような、高分子電解質膜2とこれを挟持するアノード電極12とカソード電極13とを有するMEA32を作製した。
高分子電解質膜2に対するアノード電極12とカソード電極13の大きさと位置関係は、実施例1の場合と同様である。すなわち、アノード電極12とカソード電極13は、図3(c)、図3(d)に示すように、高分子電解質膜2の電解質A25よりも面積が小さく、全面が電解質A25に接合されている。すなわち、アノード電極12とカソード電極13は、高分子電解質膜2の中央部である電解質A25の面内に含まれるように配置される。
(3)固体高分子形燃料電池(PEFC)の作製と発電性能
図3(e)、図3(f)は、作製したMEAと、その両面に配置されたガス拡散層(アノード拡散層とカソード拡散層)を示す図である。図3(e)は断面図であり、図3(f)は正面図である。
MEAは、図3(c)、図3(d)に示したMEA32と同一である。実施例1と同様にして、MEA32の両面にアノード拡散層14とカソード拡散層15とを配置した。
さらに、実施例1と同様にしてアノード側セパレータとカソード側セパレータとを設け、図2に示したのと同様の固体高分子形燃料電池を作製した。この固体高分子形燃料電池の単セルを用いて発電試験を行い、上記のMEA32を用いた固体高分子形燃料電池の発電性能を測定した。測定方法は、実施例1と同様である。
その結果、上記の単セルは0.74V以上の出力を示し、400時間以上安定して発電可能であることがわかった。
(1)高分子電解質膜(固体高分子電解質膜)3の作製
図4(a)、図4(b)に示す高分子電解質膜3を作製した。図4(a)は、高分子電解質膜3の断面図であり、図4(b)は、高分子電解質膜3の正面図である。高分子電解質膜3は、実施例1の高分子電解質膜1において、電解質B24が電解質D27に置き換わったものである。すなわち、高分子電解質膜3は、中央部に電解質A25が配置され、周辺部に電解質D27が配置される。
Polymer、44(2003)、5729−5736に記載の方法にて、イオン交換容量1.3meq/g、数平均分子量Mn8×104g/molのポリエーテルスルホンを作製し、これを電解質D27とした。また、実施例1に述べた電解質A25を作製した。
電解質A25と電解質D27とを、15重量%の濃度になるようにNMPにそれぞれ溶解し、電解質A25の溶液と電解質D27の溶液を作製した。特開2005−216667号公報に記載のポリオレフィン多孔質膜23に対し、電解質D27が配置されるべき周辺部をマスキングして、電解質A25の溶液を含侵させた。次に、電解質A25が含侵した中央部をマスキングして、電解質D27の溶液を含侵させた。その後、加熱乾燥、次いで硫酸及び水に浸漬、乾燥して、図4(a)、図4(b)に示す膜厚40μmの高分子電解質膜3を作製した。
電解質Aと電解質Dについて、非特許文献1に記載のFenton試験により、耐酸化性の評価をした。耐酸化性試験条件は、温度80℃、時間90min、3ppm Fe2+、3% H2O2とした。耐酸化性試験後の重量減少率は、電解質Aが80%であったのに対し、電解質Dは99%であった。耐酸化性に優れる材料は重量減少率が低いので、電解質Dの方が耐酸化性に優れることがわかる。
非特許文献1:高須芳雄、吉武優、石原達己編、「燃料電池の解析手法」、化学同人。
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
図4(c)、図4(d)に示す膜電極接合体(MEA)33を作製した。図4(c)は、MEA33の断面図であり、図4(d)は、MEA33の正面図である。MEA33は、図4(a)、図4(b)に示した高分子電解質膜3に、カソード電極13とアノード電極12とを配置したものである。図4(d)は、アノード電極12が配置されている面が見えている正面図である。
炭素担体上に白金微粒子を70wt%分散担持した触媒粉末と、5wt%のポリパーフルオロスルホン酸とを、1−プロパノール、2−プロパノール、及び水で構成された混合溶媒に混合してスラリーを調整した。このスラリーを、触媒重量が0.4g/cm2になるように高分子電解質膜3の上にスプレー塗布し、厚さ約20μm、幅30mm、長さ30mmのカソード電極13及びアノード電極12を作製した。高分子電解質膜3の片面にカソード電極13を、もう一面にアノード電極12を配置し、120℃、13MPaでホットプレスした。
これにより、図4(c)、図4(d)に示したような、高分子電解質膜3とこれを挟持するアノード電極12とカソード電極13とを有するMEA33を作製した。
高分子電解質膜3に対するアノード電極12とカソード電極13の大きさと位置関係は、実施例1の場合と同様である。すなわち、アノード電極12とカソード電極13は、図4(c)、図4(d)に示すように、高分子電解質膜3の電解質A25よりも面積が小さく、全面が電解質A25に接合されている。すなわち、アノード電極12とカソード電極13は、高分子電解質膜3の中央部である電解質A25の面内に含まれるように配置される。
(3)固体高分子形燃料電池(PEFC)の作製と発電性能
図4(e)、図4(f)は、作製したMEAと、その両面に配置されたガス拡散層(アノード拡散層とカソード拡散層)を示す図である。図4(e)は断面図であり、図4(f)は正面図である。
MEAは、図4(c)、図4(d)に示したMEA33と同一である。実施例1と同様にして、MEA33の両面にアノード拡散層14とカソード拡散層15とを配置した。
さらに、実施例1と同様にしてアノード側セパレータとカソード側セパレータとを設け、図2に示したのと同様の固体高分子形燃料電池を作製した。この固体高分子形燃料電池の単セルを用いて発電試験を行い、上記のMEA33を用いた固体高分子形燃料電池の発電性能を測定した。測定方法は、実施例1と同様である。
その結果、上記の単セルは0.74V以上の出力を示し、600時間以上安定して発電可能であることがわかった。
(比較例)
(1)高分子電解質膜(固体高分子電解質膜)4の作製
図5(a)、図5(b)に示す高分子電解質膜4を作製した。図5(a)は、高分子電解質膜4の断面図であり、図5(b)は、高分子電解質膜4の正面図である。高分子電解質膜4を構成する電解質は、電解質A25の1種類だけである。
実施例1に述べた電解質A25を作製した。電解質A25を15重量%の濃度になるようにNMPに溶解し、電解質A25の溶液を作製した。特開2005−216667号公報に記載のポリオレフィン多孔質膜23に対し、電解質A25の溶液を含侵させた。その後、加熱乾燥、次いで硫酸及び水に浸漬、乾燥して、図5(a)、図5(b)に示す膜厚40μmの高分子電解質膜4を作製した。
(2)膜電極接合体(MEA)の作製
図5(c)、図5(d)に示す膜電極接合体(MEA)34を作製した。図5(c)は、MEA34の断面図であり、図5(d)は、MEA34の正面図である。MEA34は、図5(a)、図5(b)に示した高分子電解質膜4に、カソード電極13とアノード電極12とを配置したものである。図5(d)は、アノード電極12が配置されている面が見えている正面図である。
炭素担体上に白金微粒子を70wt%分散担持した触媒粉末と、5wt%のポリパーフルオロスルホン酸とを、1−プロパノール、2−プロパノール、及び水で構成された混合溶媒に混合してスラリーを調整した。このスラリーを、触媒重量が0.4g/cm2になるように高分子電解質膜4の上にスプレー塗布し、厚さ約20μm、幅30mm、長さ30mmのカソード電極13及びアノード12電極を作製した。高分子電解質膜4の片面にカソード電極13を、もう一面にアノード電極12を配置し、120℃、13MPaでホットプレスした。
これにより、図5(c)、図5(d)に示したような、高分子電解質膜4とこれを挟持するアノード電極12とカソード電極13とを有するMEA34を作製した。
高分子電解質膜4に対するアノード電極12とカソード電極13の大きさと位置関係は、実施例1の場合と同様である。すなわち、アノード電極12とカソード電極13は、図5(c)、図5(d)に示すように、高分子電解質膜4の電解質A25よりも面積が小さく、全面が電解質A25に接合されている。すなわち、アノード電極12とカソード電極13は、高分子電解質膜4の中央部である電解質A25の面内に含まれるように配置される。
(3)固体高分子形燃料電池(PEFC)の作製と発電性能
図5(e)、図5(f)は、作製したMEAと、その両面に配置されたガス拡散層(アノード拡散層とカソード拡散層)を示す図である。図5(e)は断面図であり、図5(f)は正面図である。
MEAは、図5(c)、図5(d)に示したMEA34と同一である。実施例1と同様にして、MEA34の両面にアノード拡散層14とカソード拡散層15とを配置した。
さらに、実施例1と同様にしてアノード側セパレータとカソード側セパレータとを設け、図2に示したのと同様の固体高分子形燃料電池を作製した。この固体高分子形燃料電池の単セルを用いて発電試験を行い、上記のMEA34を用いた固体高分子形燃料電池の発電性能を測定した。測定方法は、実施例1と同様である。
その結果、上記の単セルは0.74V以上の出力を示したが、300時間で発電性能が低下した。
以上の通り、実施例1〜3と比較例における固体高分子形燃料電池は、0.74V以上の電圧が得られ、燃料電池の実用化条件を満たす高出力特性を持つことがわかった。また、比較例に対し、実施例1〜3における固体高分子形燃料電池は、長寿命であることがわかった。以上の結果から、本発明による固体高分子形燃料電池は、高出力であり、比較例のものよりも耐久性に優れている(長寿命である)ことがわかる。
本発明による固体高分子形燃料電池に用いる高分子電解質膜は、優れた機械特性や耐酸化性を有する高分子材料を用いて作製されているので、高分子電解質膜および膜電極接合体(MEA)も長寿命であることがわかる。
また、以上の実施例では、ポリオレフィン多孔質膜23に電解質の溶液を含侵させて高分子電解質膜を作製したが、ポリオレフィン多孔質膜23を用いずに、電解質だけで高分子電解質膜を構成してもよい。図6に、電解質だけで高分子電解質膜を構成した場合の高分子電解質膜の断面図を示す。図6は、実施例1の高分子電解質膜1に対応する高分子電解質膜を、電解質A25と電解質B24のみで構成した場合の図である。
高分子電解質膜がこのような構成であっても、実施例1〜3で述べたようにして固体高分子形燃料電池を作製すれば、実施例1〜3で述べたのと同様な効果が得られる。
また、以上の実施例では、高分子電解質膜は2種類の電解質により構成されていたが、3種類以上の高分子電解質により構成してもよい。例えば、実施例1の場合では、電解質Bが配置された周辺部を複数の部分に分割し、それぞれの部分を異なる高分子電解質により構成する。また、電解質Aが配置された中央部を複数の部分に分割し、それぞれの部分を異なる高分子電解質により構成してもよい。