以下に、本発明の実施形態に係る光学素子、及び、それを備える光学装置の構成例を、図面を参照しながら以下の順で説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。
1.第1の実施形態:光学素子の基本構成例
2.第2の実施形態:光学素子の別の構成例
3.第3の実施形態:本発明の光学素子を備える記録再生装置の構成例
4.第4の実施形態:本発明の光学素子を備える光検出器の構成例
<1.第1の実施形態>
まず、本発明の第1の実施形態に係る光学素子の構成例を具体的に説明する前に、例えば特許文献1等で提案されているような構成の光学素子において、本発明者が見出した問題点について説明する。
図1(a)〜(c)に、例えば特許文献1等で提案されている光学素子の概略構成を示す。図1(a)は、光学素子150の下面図であり、図1(b)は、図1(a)中のA−A断面図である。また、図1(c)は、光学素子150の円形開口部156付近の拡大図である。なお、図1(a)及び(b)には、説明を簡略化するため、後述する導電性膜152の凹凸パターン155が形成されている領域のみを示す。
例えば特許文献1等で提案されているような光学素子150は、図1(a)及び(b)に示すように、主に、基体151と、その一方の表面に形成された導電性膜152とで構成される。導電性膜152の中央には、入射光100(伝播光)のスポット径より小さな径を有する円形開口部156が形成される。また、導電性膜152の基体151側の表面には、円形開口部156の端部を基準(基点)にした所定周期の凹凸パターン155が形成される。
凹凸パターン155は、リング状の凸部153と、リング状の凹部154とで構成され、凸部153及び凹部154は、円形開口部156の中心に対して同心円状に交互に配置される。なお、本明細書では、導電性膜に形成された凹凸パターンにおいて、入射光の入射側から見て凸状となる導電性膜の部分を凸部といい、入射光の入射側から見て凹状となる導電性膜の部分を凹部という。
図1に示す光学素子150では、入射光100が基体151を介して導電性膜152に入射されると、円形開口部156の径と同程度のスポット径を有する光が円形開口部156から射出される。この際、導電性膜152の凹凸パターン155において生じる表面プラズモンエンハンス効果により、円形開口部156の透過光量が増大する(透過効率が向上する)。なお、図1に示す例では、入射光100は直線偏光の光であり、その偏光方向101は、導電性膜152の面内の所定方向、具体的には、図1(a)〜(c)のx方向とする。
このような構成の光学素子150に対して、本発明者が種々の検証実験を行ったところ、円形開口部156の径を入射光100の波長の例えば1/10以下(数十nm程度)にすると、円形開口部156を透過する光量が急激に低下(減衰)することが分かった。すなわち、図1に示す光学素子150では、数十nm程度の微小スポット径を有する高強度の光を射出することが困難であることが分かった。なお、この現象の詳細については、後述の比較例1で説明する。
上述の円形開口部156における透過光量の急激な低下の原因としては、円形開口部156の径を小さくしたことだけでなく、円形開口部156を画成する端部での表面プラズモンの伝搬損失が増加したことが考えられる。この原因をより具体的に説明すると、図1(b)に示すように所定方向に偏光した入射光100を入射した場合、表面プラズモンは入射光100の偏光方向101と直交する導電性膜152の壁面で発生し、偏光方向101と略平行となる金属壁面では発生しない。それゆえ、入射光100の偏光方向101と略平行となる円形開口部156の金属壁部分156a(図1(c)中の破線で囲まれた部分)は、表面プラズモンエンハンス効果に寄与せず、むしろ表面プラズモンの伝搬の妨げになるものと考えられる。したがって、所定方向に偏光した入射光100を入射した場合、円形開口部156が小さくなると、偏光方向101と略平行となる円形開口部156の端部での表面プラズモンの伝搬損失が増加し、円形開口部156での透過光量が急激に低下するものと考えられる。
上述のような透過光量の低下を抑制するためには、入射光100のパワーを増大する必要がある。しかしながら、例えば、図1に示す光学素子150を記録再生装置等に適用して入射光100のパワーを増大すると、次のような問題が生じる。この場合、記録媒体を記録可能な状態に温度にするための入射光量が大きくなるので、消費電力の増大や、導電性フィルムの温度上昇による信頼性の悪化といった問題が生じる。そこで、本実施形態では、上述のような問題を解決し、例えば数十nm程度の微小スポット径を有する光をより高強度で射出することのできる光学素子の一構成例を説明する。
[光学素子の構成]
図2(a)及び(b)に、本実施形態の光学素子の概略構成を示す。図2(a)は、本実施形態の光学素子の概略下面図であり、図2(b)は、図2(a)中のB−B断面図である。なお、図2(a)及び(b)には、説明を簡略化するため、後述する導電性膜2の凹凸パターン5が形成されている領域のみを示す。
光学素子10は、主に、基体1と、その一方の表面の一部に形成された導電性膜2(第1導電性膜)とで構成される。なお、本実施形態の光学素子10では、光源(不図示)からの入射光100は、基体1を介して導電性膜2に照射される。
基体1は、板状の光透過性部材で形成される。基体1の形成材料としては、使用する入射光100の波長帯域において光透過性を有する材料であれば任意の材料を用いることができる。特に、入射光100の波長帯域において透過率が約70%以上の材料を用いることが好ましい。
具体的には、基体1の形成材料として、例えば、ZnO、Al2O3、SiO2、TiO2、CrO2、CeO2等の酸化物絶縁体、SiN等の窒化物絶縁体、プラスチックなどを用いることができる。また、基体1の形成材料として、例えば、Si、Ge等のIV属半導体、GaAs、AlGaAs、GaN、InGaN、InSb、GaSb、AlNに代表されるIII−V属化合物半導体などを用いてもよい。さらに、基体1の形成材料として、例えば、ZnTe、ZnSe、ZnS、ZnO等のII−VI属化合物半導体などを用いることもできる。
また、基体1の形成材料として、熱伝導率の高い材料を用いることが好ましい。そのような材料を用いることにより、導電性膜2で発生する熱を拡散させて導電性膜2の温度上昇を抑制することができる。
導電性膜2は、入射光100の入射側から見て、エッジ部2a(端部)を画成する辺部の形状(以下では、単にエッジ部2a(端部)の形状という)が凸状の金属膜で形成される。なお、本実施形態では、導電性膜2のエッジ部2aの形状は、入射光100の入射側から見て、図2(a)に示すように、頂角θのL字状(三角状)の形状を有する。すなわち、エッジ部2aの先端部2tから延在する2つの辺部の形状はそれぞれ直線状である。また、エッジ部2aを画成する2つの辺部は、導電性膜2の先端部2tの接線方向(図2(a)中のy方向)に直交する方向(図2(a)中のx方向)に対して対称となるように構成される。なお、導電性膜2の先端部2tの接線方向に直交する方向(図2(a)中のx方向)における導電性膜2の長さは、入射光100のスポットの最大半径より大きくなるように構成される。
また、導電性膜2の基体1側の表面には、所定周期Tgの凹凸パターン5が形成される。凹凸パターン5は、幅一定の円弧状の凸部3(ただし、最内周の凸部3は扇状)と、幅一定の円弧状の凹部4とで構成され、凸部3及び凹部4が導電性膜2の先端部2tから外側に向かって同心円状に交互に配置される。なお、本実施形態では、導電性膜2の先端部2tを含む最内周部は凸部3とするが、本発明はこれに限定されず、導電性膜2の先端部2tを含む最内周部を凹部4で構成してもよい。
本実施形態では、凹凸パターン5の周期構造の基点は導電性膜2の先端部2tとする。それゆえ、凹凸パターン5は、凸部3及び凹部4間の境界壁面の法線方向、すなわち、導電性膜2の先端部2tを中心とする半径方向において周期的な構造を有する。
なお、凹凸パターン5は、後述するように凸部3及び凹部4間の境界壁面で発生した表面プラズモンが同相で伝搬し、その伝搬した表面プラズモンが導電性膜2の先端部2tを画成する金属壁面で発生した表面プラズモンと同相で重なるように構成する。すなわち、本実施形態では、導電性膜2で表面プラズモンエンハンス効果が得られるように、凹凸パターン5の周期Tg、凸部3の幅Tg1及び高さt、並びに、凹部4の幅Tg2及び深さdが適宜設定される(図2(b)参照)。
例えば、凹凸パターン5の周期Tgは、導電性膜2の先端部2t近傍で測定される光強度が、周期構造(凹凸パターン5)が無い場合に比べて大きくなるように設定される。なお、凸部3の幅Tg1と、凹部4の幅Tg2とは、同じ値であってもよいし、異なった値としてもよい。また、導電性膜2上で発生する表面プラズモンエンハンス効果を最大限利用するために、凹凸パターン5は、基点から入射光100のスポット半径以上の範囲に渡って形成されていることが好ましい。
また、本実施形態では、図2(b)に示すように、導電性膜2の基体1側とは反対側の表面は平坦面とし、その面が基体1の導電性膜2側に露出する表面と面一になるように構成する。
上述のような構成の導電性膜2の形成方法としては、例えば、次のような方法が挙げられる。まず、基体1の表面において導電性膜2を形成する領域に凹部を形成する。次いで、その凹部の底面に凹凸パターン5に対応する凹凸パターンを形成する。次いで、基体1の凹部側の表面に金属膜を積層する。そして、凹部以外の領域において基体1の表面が露出するまで金属膜を研磨する。
導電性膜2の形成材料としては、導電性の良好な材料であれば任意の材料を適用することができる。例えば、金属(例えばAu、Ag、Pt、Cu、Al、Ti、W、Ir、Pd、Mg、Cr等)、半導体(例えばSi、GaAs等)、カーボンナノチューブなどを用いることができる。
なお、本実施形態の光学素子10において、導電性膜2と基体1との間に、付着力強化、信頼性向上のために界面層を形成してもよい。この場合、界面層の厚さは、導電性膜2の厚さよりも十分薄いことが好ましい。また、界面層の形成材料としては、例えばTi、Cr等を用いることができる。
さらに、本実施形態の光学素子10を、例えば記録再生装置等に適用する場合には、動作時の記録媒体との接触による損傷を防ぐために、導電性膜2の表面に光透過性膜を形成してもよい。この場合、その光透過性膜の形成材料としては、例えばダイヤモンドライクカーボン(DLC)等の機械強度の高い材料を用いることが好ましい。また、光透過性膜の形成材料として、上述した基体1と同様の材料を用いてもよい。この場合、基体1及び光透過性膜を同じ材料で形成してもよいし、異なる材料で形成してもよい。
図3に、本実施形態の光学素子10における導電性膜2の凹凸パターン5の構成と、入射光100の偏光方向との関係を示す。本実施形態では、入射光100として直線偏光の光を用い、その偏光方向101が、導電性膜2の先端部2tの接線方向に対して直交する方向(図3中のx方向、以下、周期方向という)と一致するように、入射光100が入射される。
なお、本実施形態の光学素子10に対して用い得る入射光100としては、直線偏光の光だけでなく、偏光方向に異方性を有する光であれば任意の光を用いることができる。例えば、楕円偏光の光を用いてもよい。この場合には、入射光の主たる偏光方向が、導電性膜2の凹凸パターン5の周期方向と一致するように、入射光を照射する。さらに、本実施形態の光学素子10に対して、円偏光やランダム偏光の入射光を用いることもでき、その場合には、導電性膜2の周期方向は、任意の方向に設定することができる。
図4に、本実施形態の光学素子10における入射光100の好ましい照射位置を示す。本実施形態では、凹凸パターン5の周期構造の基点となる導電性膜2の先端部2tに最も強い表面プラズモンを励起したいので、入射光100の強度ピーク部100a(スポット中心部)を導電性膜2の先端部2tに合わせることが好ましい。
なお、入射光100のスポット形状が異方性を有する場合には、図4で説明した入射光100の強度ピーク部100aの配置条件及び図3で説明した偏光方向の条件を優先して決定することが好ましい。そして、その次に、導電性膜2の受光面積が最も大きくなるように、光学素子10の構成を決定することが好ましい。
[微小スポット径の光の生成原理]
次に、本実施形態の光学素子10において、微小なスポット径を有する高強度の光が生成される原理を図5及び6を参照しながら説明する。なお、図5は、導電性膜2に発生する表面プラズモンの様子を示す図であり、図6は、導電性膜2で発生した表面プラズモンが導電性膜2の表面を伝搬する様子を示す図である。
基体1を介して導電性膜2に照射される入射光100の電界ベクトル方向すなわち偏光方向101が導電性膜2表面の法線ベクトルの方向成分を有する場合、導電性膜2の表面には電界ベクトルと法線ベクトルの内積に応じた電荷が誘起される。そして、この誘起された電荷により、導電性膜2の基体1側の表面に、表面プラズモンが生成される。
本実施形態のように導電性膜2の表面に凹凸パターン5が形成されている場合、図5に示すように、導電性膜2の先端部2tを画成する金属壁面に表面プラズモンSP1が誘起されるとともに、凸部3及び凹部4間の境界壁面にも表面プラズモンSP2が誘起される。そして、発生した各表面プラズモンは凸部3及び凹部4間の境界壁面の法線方向、すなわち、導電性膜2の先端部2tを中心とする半径方向に沿って導電性膜2の表面を伝搬する。この際、各表面プラズモンは、導電性膜2の先端部2tから外側に向かう方向だけでなく、図6に示すように、導電性膜2の先端部2tに向かう方向にも伝搬する(図6中の破線矢印)。
本実施形態では、上述のように、導電性膜2の表面で表面プラズモンエンハンス効果が発生するように凹凸パターン5の周期Tgが設定されている。それゆえ、凸部3及び凹部4間の境界壁面で発生した各表面プラズモンSP2が導電性膜2の表面を伝搬する際、各表面プラズモンSP2の位相は互いに一致して伝搬する。そして、伝搬した表面プラズモンSP2は導電性膜2の先端部2tで表面プラズモンSP1と同相で重なる。その結果、導電性膜2の先端部2tで強い表面プラズモンが生成され(表面プラズモンエンハンス効果)、導電性膜2の先端部2t付近に、微小のスポット径を有する高強度の光(例えば近接場光等)が発生する。
上述のように、本実施形態の光学素子10では、導電性膜2の表面における表面プラズモンエンハンス効果を利用して導電性膜2の先端部2t付近に、微小スポット径を有し且つ高強度の光を生成することができる。
また、本実施形態では、表面プラズモンが集中する領域(導電性膜2の先端部2t)には、入射光100の偏光方向101と略平行となる導電性膜2のエッジ領域がほぼ存在しない。それゆえ、本実施形態では、上記図1に示す光学素子150で説明したような入射光100の偏光方向101と略平行となるエッジ領域での表面プラズモンの伝搬損失を大幅に低減することができる。すなわち、本実施形態の光学素子10によれば、上述した図1に示す光学素子150での問題を解消することができ、より高強度の光を出射することができる。
[出射光の強度分布]
次に、本実施形態の光学素子10における出射光の強度(電界強度)分布特性について説明する。ここでは、FDTD(Finite Difference Time Domain:有限差分時間領域)法による電磁界解析シミュレータを用いて、本実施形態の光学素子10における出射光の強度分布を算出した。図7(a)及び(b)に、そのシミュレーション解析における解析モデルの概要を示す。図7(a)は、解析モデルにおける光学素子10の導電性膜2の凹凸パターン5と、入射光100の偏光方向101との関係を示す図であり、図7(b)は、図7(a)中のC−C断面図である。
このシミュレーション解析では、基板201上に記録層を含む情報記録膜202が形成された記録媒体200に、光学素子10から光を照射した際の情報記録膜202の表面近傍における電界強度を計算した。具体的には、記録媒体200に光学素子10から光を照射した際の情報記録膜202の光学素子10側の表面から1nm内部に入った位置での電界強度を計算した(後述の表1参照)。
なお、この解析では、図7(a)に示すように、入射光100として直線偏光の光を用い、その偏光方向101を凹凸パターン5の周期方向(図7(a)中のx方向)と一致させる。なお、入射光100の電界強度分布は楕円形状とする。すなわち、図7(a)中のx方向の電界強度がピーク値の1/e2となる領域のサイズをLxとし、y方向の電界強度がピーク値の1/e2となる領域のサイズをLyとしたとき、Lx>Lyとなる光を用いる。また、このシミュレーション解析では、入射光100の光スポット中心が導電性膜2の先端部2tと一致するように入射光100を照射する場合を考える。
さらに、ここでは、比較のため、図1に示す従来の光学素子150に対しても、本実施形態と同様のシミュレーション解析を行った(比較例1)。図8(a)及び(b)に、比較例1の光学素子150に対して行ったシミュレーション解析の解析モデルを示す。図8(a)は、解析モデルにおける光学素子150の導電性膜152の凹凸パターン155と、入射光100の偏光方向101との関係を示す図であり、図8(b)は、図8(a)中のD−D断面図である。
比較例1の光学素子150に対しても、本実施形態のシミュレーション解析と同様に、直線偏光の入射光100を用いる。すなわち、図8(a)に示すように、入射光100の偏光方向101は、図8(a)中のx方向とする。そして、入射光100の電界強度分布の1/e2全幅を表すLx及びLyの関係も本実施形態のシミュレーション解析と同様の条件(Lx>Ly)とする。また、比較例1のシミュレーション解析では、導電性膜152の円形開口部156の中心と入射光100の光スポット中心とが一致するように、入射光100を照射する場合を考える。なお、比較例1のシミュレーション解析では、入射光100のパワーは本実施形態のそれと同様とする。
下記表に、シミュレーション解析で用いる本実施形態及び比較例1の光学素子の各部の形成材料、寸法パラメータ、及び、光学素子と記録媒体200との位置関係等の具体的な計算パラメータ(計算条件)をまとめて示す。なお、下記表には示さないが、本実施形態の光学素子10の導電性膜2のエッジ部2aの頂角θは90度とする。
上記表1中のグレーティング数は、凹凸パターンの凸部または凹部の数である。また、パラメータ「a」は光学素子と記録媒体200との間隔であり、パラメータ「m」は、記録媒体200の情報記録膜202の厚さである(図7(b)及び図8(b)参照)。また、パラメータ「g」は、比較例1の光学素子150の円形開口部156の径である(図8(b)参照)。なお、上記表1には、説明の便宜上、後述する第2の実施形態の計算条件も示されているが、これについては、後で詳述する。
まず、比較例1の光学素子150における出射光の強度分布の解析結果を説明する。図9〜図11に、比較例1の光学素子150対して行った上記シミュレーション解析の結果を示す。
図9(a)は、出射光の電界強度|E|2の図8(a)中のx方向における分布特性であり、横軸には円形開口部156の中心からのx方向の位置を示し、縦軸には電界強度|E|2を示す。また、図9(b)は、出射光の電界強度|E|2の図8(a)中のy方向における分布特性であり、横軸には円形開口部156の中心からのy方向の位置を示し、縦軸には電界強度|E|2を示す。なお、図9(a)及び(b)中の実線で示す特性160及び162は、導電性膜152の円形開口部156の径を100nmとした場合の強度分布特性であり、破線で示す特性161及び163は円形開口部156の径を50nmとした場合の強度分布特性である。
円形開口部156の径が100nmの場合、図9(a)及び(b)中の特性160及び162に示すように、出射光の電界強度|E|2のピーク値は0.365となった。なお、この値は、出射光の電界強度|E|2の入射光のピーク電界強度に対する比である。また、そのピーク曲線のx方向における半値幅は116nmであり、y方向における半値幅は98nmであった。それに対して、円形開口部156の径が50nmの場合には、図9(a)及び(b)中の特性161及び163から明らかなように、電界強度に明確な(大きな)ピークが現れなかった。
また、図10(a)及び(b)は、導電性膜152の円形開口部156の径を200nmとした場合の電界強度分布特性である。図10(a)は、出射光の電界強度|E|2の図8(a)中のx方向における分布特性であり、横軸には円形開口部156の中心からのx方向の位置を示し、縦軸には電界強度|E|2を示す。また、図10(b)は、出射光の電界強度|E|2の図8(a)中のy方向における分布特性であり、横軸には円形開口部156の中心からのy方向の位置を示し、縦軸には電界強度|E|2を示す。
円形開口部156の径が200nmの場合、図10(a)及び(b)中の特性164及び165に示すように、出射光の電界強度|E|2のピーク値は入射光のピーク電界強度比で5.87となった。また、そのピーク曲線のx方向における半値幅は178nmであり、y方向における半値幅は154nmであった。
また、図11に、比較例1の光学素子150における出射光の電界強度|E|2のピーク値と、導電性膜152の円形開口部156の径との関係を示す。なお、図11の横軸には、導電性膜152の円形開口部156の直径を示し、縦軸には電界強度|E|2のピーク値を示す。図11の特性から明らかなように、比較例1の光学素子150では、導電性膜152の円形開口部156の径が小さくなると電界強度が低下する。
上記図9〜図11の特性から明らかなように、比較例1の光学素子150では、導電性膜152の円形開口部156の径が小さくなると出力(電界強度)が低下する。特に、円形開口部156の径を、入射光100の実空間波長λa=538nm(基体(SiO2)の屈折率を1.45として計算)の約1/10程度となる50nmに設定すると、円形開口部156の中心(x=0)で電界強度に明確なピークが現れなくなる。これは、出射光が導電性膜152を透過する入射光100に埋もれてしまうためである。すなわち、比較例1の光学素子150では、円形開口部156の径が入射光100の実空間波長λaの約1/10程度になると、微小なスポット径を有する光を生成することが困難になる。
次に、本実施形態の光学素子10における出射光の強度分布の解析結果を説明する。図12(a)及び(b)に、本実施形態の光学素子10対して行った上記シミュレーション解析の結果を示す。
図12(a)は、出射光の電界強度|E|2の図7(a)中のx方向における分布特性であり、横軸には導電性膜2の先端部2tからのx方向の位置を示し、縦軸には電界強度|E|2を示す。また、図12(b)は、出射光の電界強度|E|2の図7(a)中のy方向における分布特性であり、横軸には導電性膜2の先端部2tからのy方向の位置を示し、縦軸には電界強度|E|2を示す。
本実施形態では、図12(a)及び(b)中の特性15及び16に示すように、出射光の電界強度|E|2のピーク値は入射光のピーク電界強度比で5.6となった。また、そのピーク曲線のx方向における半値幅は74nmであり、y方向における半値幅は102nmであった。
ここで、上述した本実施形態の光学素子10の解析結果と、比較例1の光学素子150の解析結果とを比較する。まず、電界強度特性のピーク曲線の半値幅を比較すると、本実施形態では、比較例1において円形開口部156の直径を100nmとした場合のスポットサイズとほぼ同等のサイズを有する光を生成することができることが分かる。
しかしながら、上述のように、比較例1の光学素子150において、円形開口部156の直径を100nmとした場合には、電界強度のピーク値が入射光のピーク電界強度比で0.365となる。それに対して、本実施形態の光学素子10では出射光強度のピーク値は入射光のピーク電界強度比で5.6となる。すなわち、本実施形態では、スポットサイズが比較例1と同等の場合、ピーク強度を比較例1のそれに比べて約15倍程度に増大させることができる。
このことはまた、本実施形態では、入射光100の必要なパワーを比較例1の約1/15に低減できることを意味する。すなわち、本実施形態の光学素子10では、波長よりも小さなスポット径を有し且つより高強度の光を得ることが可能であるだけでなく、入射光100の光パワー利用効率を一層向上させることも可能になる。これは、本実施形態の光学素子10では、入射光100の入射側から見て、出射光が発生する導電性膜2のエッジ部2aの形状を円形状にしないことにより、エッジ部2aにおける表面プラズモンの伝搬損失を大きく低減できたためであると考えられる。
[変形例1]
上記第1の実施形態では、導電性膜2の基体1側の表面に形成した凹凸パターン5は、幅一定の円弧状の凸部3及び凹部4で構成する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。導電性膜2上で表面プラズモンエンハンス効果が発生するような周期パターンであれば任意の周期パターンで凹凸パターン5を構成することができる。ここでは、凹凸パターン5の変形例の一例(変形例1)について説明する。
図13(a)及び(b)に、変形例1の光学素子の概略構成を示す。なお、図13(a)は、光学素子の概略下面図であり、図13(b)は、図13(a)中のE−E断面図である。なお、図13(a)及び(b)には、説明を簡略化するため導電性膜の先端部近傍のみを示す。
この例の光学素子20、主に、基体21と、その一方の表面に一部に形成された導電性膜22とで構成される。なお、この例では、入射光100の偏光方向(図13(a)及び(b)中の破線矢印101)を、導電性膜22の表面に形成された凹凸パターン25の周期方向(図13(a)及び(b)中のx方向)とする。
基体21は、第1の実施形態の基体1と同様に、板状の光透過性部材で形成され、第1の実施形態と同様の形成材料で形成することができる。
導電性膜22は、第1の実施形態で説明した導電性膜2と同様の材料からなる金属膜で形成される。また、導電性膜22のエッジ部22aは、第1の実施形態の導電性膜2と同様に頂角θのL字状(三角状)の形状を有する。
さらに、導電性膜22の基体21側の表面には、幅一定の直線帯状の凸部23と、幅一定の直線帯状の凹部24とから構成される周期Tgの凹凸パターン25が形成される。なお、この例では、凸部23及び凹部24の延在方向は、入射光100の偏光方向101と直交する方向(図13(a)及び(b)中のy方向)とし、凹凸パターン25の基点は導電性膜22の先端部22tとする。なお、凹凸パターン25の周期Tg、凸部23の幅Tg1及び高さt、並びに、凹部24の幅Tg2及び深さdは、第1の実施形態と同様に、表面プラズモンエンハンス効果が得られるように適宜設定される。
上述のように、この例においても凹凸パターン25の構造は、表面プラズモンエンハンス効果が得られるように適宜設定されている。それゆえ、この例の光学素子20においても、第1の実施形態の光学素子10と同様に、導電性膜22の先端部22tの近傍に高強度で微小スポット径の出射光を生成することができ、入射光100の光パワー利用効率をより向上させることができる。なお、導電性膜の先端部における表面プラズモンの位相整合性の観点では、凹凸パターンは、第1の実施形態のように同心円状に構成することが好ましい。
[変形例2]
上記第1の実施形態及び変形例1の光学素子では、導電性膜の凹凸パターンの断面形状を矩形波状とし、凸部及び凹部の表面を平坦面とする例を説明したが、本発明はこれに限定されない。導電性膜上で表面プラズモンエンハンス効果が発生するような凹凸パターンの表面形状(導電性膜の断面形状)であれば、任意の構成にするこができる。なお、導電性膜の凹凸パターンの表面形状は、例えば用途等に応じて適宜選択される。変形例2では、導電性膜に形成される凹凸パターンの表面形状(導電性膜の断面形状)の種々の構成例について説明する。
図14〜17に、導電性膜に形成される凹凸パターンの表面形状(導電性膜の断面形状)の種々の構成例(変形例2−1〜2−4)を示す。なお、図14〜17は、各変形例の導電性膜の凹凸パターンの周期方向(図14〜17中のx方向)に沿った概略断面図である。
図14(変形例2−1)に示す導電性膜30では、その断面形状を三角波状(鋸状)とし、凹凸パターン31を、2つの斜面部31a及び31bで構成する。なお、図14に示す導電性膜30では、斜面部31a及び31bは周期方向(図14中のx方向)において交互に配置され、隣り合う斜面部31a及び31bにより、凹凸パターン31の谷部または頂部が画成される。
図15(変形例2−2)に示す導電性膜32では、その断面形状を正弦波状とし、凹凸パターン33を、円弧状凸部33aと、円弧状凹部33bとで構成する。そして、図15に示す導電性膜32では、円弧状凸部33aと、円弧状凹部33bとを周期方向(図15中のx方向)において交互に配置する。
図16(変形例2−3)に示す導電性膜34では、凹凸パターン35を、円弧突起状の凸部35aと、凸部35a間に形成された平坦面35bとで構成する。なお、本明細書では、図16に示す導電性膜34の断面形状を円弧突起状という。
また、図17(変形例2−4)に示す導電性膜36では、凹凸パターン37を、円弧溝状の凹部37bと、凹部37b間に形成された平坦面37aとで構成する。なお、本明細書では、図17に示す導電性膜36の断面形状を円弧溝状という。
図14〜17に示す種々の導電性膜の凹凸パターンにおいても、凹凸パターンの寸法を、表面プラズモンエンハンス効果が得られるように適宜設定することにより、上記第1の実施形態と同様の効果が得られる。なお、凹凸パターンの形成の容易性という観点では、第1の実施形態のように導電性膜の凹凸パターンの断面形状を矩形波状にし、凸部及び凹部の表面を平坦面とすることが好ましい。
また、導電性膜の凹凸パターンの断面形状として、上述した変形例2−1〜2−4で説明した形状以外では、例えば台形状の断面形状にしてもよい。さらに、上述した第1の実施形態及び変形例2−1〜2−4で説明した形状を適宜組み合わせて、導電性膜の凹凸パターンを構成してもよい。すなわち、第1の実施形態及び変形例2−1〜2−4でそれぞれ説明した矩形波状、三角波状、正弦波状、円弧突起状及び円弧溝状の断面形状の中から複数の形状を適宜組み合わせて、導電性膜の凹凸パターンを構成してもよい。
[変形例3]
上記第1の実施形態では、入射光100の入射側から見たときの導電性膜2のエッジ部2aの形状を頂角θのL字状(三角状)とする例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば必要とするスポット径、用途等に応じて、入射光の入射側から見たときの導電性膜のエッジ部の形状を任意の形状で構成することができる。変形例3では、導電性膜のエッジ部の種々の構成例について説明する。
図18〜22に、入射光の入射側から見たときの導電性膜のエッジ部の形状の種々の構成例(変形例3−1〜3−5)を示す。なお、図18〜22では、説明を簡略化するため、導電性膜の凹凸パターンは省略する。また、図18〜22において、第1の実施形態(図2(a))の構成と同様の構成には同じ符号を付して示す。
図18(変形例3−1)に示す光学素子40では、導電性膜41のエッジ部41aは、頂角θの凸形状を有する。ただし、この例では、エッジ部41aを画成し且つエッジ部41aの先端部41tから延在する2つの辺部41b及び41cはともに略L字状であり、辺部41b及び41cは、その途中で導電性膜41の幅が狭くなる方向に折れ曲がっている。そして、エッジ部41aを画成する2つのL字状の辺部41b及び41cは、導電性膜41の先端部41tの接線方向(図18中のy方向)に直交する方向(図18中のx方向)に対して対称である。
図19(変形例3−2)に示す光学素子42では、導電性膜43のエッジ部43aの形状を半楕円形状とする。そして、エッジ部43aは、導電性膜43の先端部43tの接線方向(図19中のy方向)に直交する方向(図19中のx方向)に対して対称形状を有する。この場合、エッジ部43aの頂角θは、エッジ部43aの先端部43tの接線方向となり、180度となる。
図20(変形例3−3)に示す光学素子44では、導電性膜45のエッジ部45aの形状を幅一定の矩形状とする。エッジ部45aは、先端部45tを含む辺部45bと、その両端からエッジ部45aの延在方向(図20中のx方向)に延在した直線状の2つの辺部45c及び45dとで構成される。また、この例の光学素子44では、エッジ部45aの先端部45tを含む辺部45bは直線状であり、その辺部45bの延在方向は、エッジ部45aの延在方向(図20中のx方向)と直交する。それゆえ、図20に示す導電性膜45では、エッジ部45aの頂角θは、180度となる。
図21(変形例3−4)に示す光学素子46では、導電性膜47のエッジ部47aの構成を、第1の実施形態の導電性膜2においてエッジ部2aの先端部47tを含む辺部47bを直線状にした構成とする。すなわち、図21に示す例では、エッジ部47aは、台形状の形状を有し、先端部47tを含む辺部47bと、その辺部47bの両端から導電性膜47の幅が広がる方向に所定の角度で延在した直線状の2つの辺部47c及び47dとで構成される。また、エッジ部47aは、先端部47tの接線方向に直交する方向(図21中のx方向)に対して対称形状を有する。なお、図21に示す光学素子46では、エッジ部47aの頂角θは、180度となる。
図22(変形例3−5)に示す光学素子48では、導電性膜49のエッジ部49aの構成を、第1の実施形態の導電性膜2のエッジ部2aにおいて先端部2tを円弧状にした構成とする。すなわち、図22に示す光学素子48では、エッジ部49aは、先端部49tを含む円弧状の辺部49bと、その辺部49bの両端から、導電性膜49の幅が広がる方向に所定の角度で延在した直線状の2つの辺部49c及び49dとで構成される。また、エッジ部49aは、先端部49tの接線方向に直交する方向(図22中のx方向)に対して対称形状を有する。なお、図22に示す光学素子48では、エッジ部49aの頂角θは、180度となる。
なお、図18〜22に示す例において、導電性膜の表面に形成する凹凸パターンは、第1の実施形態(図2(a))と同様に、同心円状に周期性を有する凹凸パターンで構成することができる。また、変形例1(図13(a))と同様に、一方向にのみ周期性を有する凹凸パターンで構成することもできる。
上記図18〜22に示す例では、入射光の入射側から見て、導電性膜のエッジ部の先端部を含む辺部が凸状または平坦である例を説明したが、本発明はこれに限定されず、エッジ部の先端部を含む辺部の形状が凹状であってもよい。図23に、その一例(変形例3−6)を示す。なお、図23において、第1の実施形態(図2(a))の構成と同様の構成には同じ符号を付して示す。
上記第1の実施形態の導電性膜2のエッジ部2aでは、その先端部2tを含む最内周部を扇状表面の凸部3で構成したが、図23に示す光学素子50では、エッジ部51aの先端部51tを含む最内周部を、幅一定の円弧状の凸部52で構成する。すなわち、図23に示す光学素子50では、エッジ部51aは、先端部51tを含む円弧凹状の辺部51bと、その辺部51bの両端から、導電性膜51の幅が広がる方向に所定の角度で延在した直線状の2つの辺部51c及び51dとで構成される。この場合、円弧状の凸部52及び凹部53からなる凹凸パターン54の周期構造の基点(基準)は先端部51tを含む円弧凹状の辺部51bとなる。それ以外は、第1の実施形態と同様の構成である。
また、図18〜23に示す例では、入射光の入射側から見た導電性膜のエッジ部の全体形状が凸形状となる例を説明したが、本発明はこれに限定されない。導電性膜のエッジ部を画成する辺部をエッジ部全体に渡って直線状にしてもよい。図24に、その一例(変形例3−7)を示す。なお、図24において、第1の実施形態(図2(a))の構成と同様の構成には同じ符号を付して示す。
図24に示す光学素子55では、導電性膜56のエッジ部56aを画成する辺部は所定の方向に直線状に延在して構成される。また、この例のように、エッジ部56a全体の形状を直線状にした場合には、導電性膜56の基体1側の表面には、エッジ部56aを画成する辺部と平行となる直線帯状の凸部57及び凹部58を交互に配置して凹凸パターン59を構成することが好ましい。この場合、導電性膜56のエッジ部56a(端部)全体が、光の出射部(先端部)となる。
なお、図24に示す光学素子55において、第1の実施形態と同様に、円弧状の凸部及び凹部を交互に同心円状に配置して凹凸パターンを構成してもよい。この場合には、凹凸パターンの基点(先端部)近傍で最も強い光が生成される。
ただし、導電性膜のエッジ部の形状を細くすることにより、出射光の光スポットのサイズをより小さくすることができる。それゆえ、スポット径の微小化という観点からすれば、導電性膜のエッジ部全体の形状は、第1の実施形態や図18〜23に示す例のように、凸状にすることが好ましい。また、導電性膜の受光面の面積が大きいほど、集光効果が高くなり強い光スポットを生成することができる。それゆえ、上記スポット径の微小化及び光強度の増大の両観点からすれば、導電性膜のエッジ部の形状は、特に、第1の実施形態の形状が好ましい。
<2.第2の実施形態>
[光学素子の構成]
図25(a)及び(b)に、本発明の第2の実施形態に係る光学素子の概略構成を示す。図25(a)は、本実施形態の光学素子の概略下面図であり、図25(b)は、図25(a)中のF−F断面図である。なお、図25(a)及び(b)には、説明を簡略化するため、後述する導電性膜の凹凸パターンが形成されている領域のみを示す。
光学素子60は、主に、基体61と、その一方の表面の一部に形成された第1導電性膜62及び第2導電性膜66とで構成される。なお、本実施形態では、図25(b)に示すように、第1導電性膜62及び第2導電性膜66の基体61側とは反対側の表面が平坦面であり、その面が基体61の表面と面一になるように構成する。また、本実施形態の光学素子60では、光源(不図示)からの入射光100は、基体61を介して第1導電性膜62及び第2導電性膜66に照射される。
基体61は、板状の光透過性部材で形成され、第1の実施形態で説明した基体1と同様の形成材料で形成することができる。
第1導電性膜62は、入射光100の入射側から見たエッジ部62aの形状が凸状の金属膜で形成され、第1の実施形態で説明した導電性膜2と同様の構成である。すなわち、第1導電性膜62のエッジ部62aは、入射光100の入射側から見て、頂角θのL字状(三角状)の形状を有し、エッジ部62aの先端部62tから延在する直線状の2つの辺部で画成される。
また、第1導電性膜62の基体61側の表面には、第1の実施形態と同様に、所定周期Tgの第1凹凸パターン65が形成される。第1凹凸パターン65は、幅一定の円弧状の凸部63(ただし、最内周の凸部63は扇状)と、幅一定の円弧状の凹部64とで構成され、凸部63及び凹部64はエッジ部62aの先端部62tに対して同心円状に交互に配置される。なお、本実施形態では、第1導電性膜62の先端部62tを含む最内周部は凸部63とするが、本発明はこれに限定されず、第1導電性膜62の先端部62tを含む最内周部を凹部64で構成してもよい。
第2導電性膜66は、第1導電性膜62と同様の構成である。すなわち、第2導電性膜66のエッジ部66aの形状及び第2凹凸パターン69(凸部67及び凹部68)の構成は、それぞれ第1導電性膜62のエッジ部62aの形状及び第1凹凸パターン65と同じとする。そして、第2導電性膜66は、第1導電性膜62の先端部62tの接線方向(図25(a)中のy方向)に対して、第1導電性膜62と対称となるように配置される。この際、第1導電性膜62の先端部62tと、第2導電性膜66の先端部66tとが、所定間隔g(ギャップ)だけ離れて対向するように配置される。なお、この所定間隔gは入射光100の実空間波長λa(基体21内での空間波長)より小さくする。
なお、第1導電性膜62及び第2導電性膜66間のギャップの大きさ(g)は、例えば用途等に応じて適宜設定されるが、照射対象で必要とするスポットサイズ以下の値に設定することが好ましい。これは、本発明の光学素子から出射される光では、そのスポットサイズが導電性膜から離れると大きくなるためである。
また、本実施形態では、第1導電性膜62の第1凹凸パターン65の周期構造の基点は第1導電性膜62の先端部62tとし、第2導電性膜66の第2凹凸パターン69の周期構造の基点は第2導電性膜66の先端部66tとする。ただし、本発明はこれに限定されず、第1導電性膜62及び第2導電性膜66間のギャップは通常微小であるので、第1凹凸パターン65及び第2凹凸パターン69の周期構造の基点をともにギャップの中央としてもよい。
なお、本実施形態においても、各凹凸パターンは、凸部及び凹部間の境界壁面で発生した表面プラズモンが同相で伝搬し、その伝搬した表面プラズモンが各導電性膜の先端部を画成する金属壁面で発生した表面プラズモンと同相で重なるように構成する。すなわち、本実施形態においても、各導電性膜で表面プラズモンエンハンス効果が得られるように、各凹凸パターンの周期Tg、凸部の幅Tg1及び高さt、並びに、凹部の幅Tg2及び深さdを適宜設定する(図25(b)参照)。例えば、各凹凸パターンの周期Tgは、導電性膜間のギャップ近傍で測定される光強度が、周期構造が無い場合に比べて大きくなるように設定される。なお、各凹凸パターンにおける凸部の幅Tg1と、凹部の幅Tg2とは、同じ値であってもよいし、異なった値としてもよい。
また、本実施形態では、第1導電性膜62及び第2導電性膜66の周期方向(図25(a)及び(b)中のx方向)の各長さは、入射光100のスポットの最大半径より大きくなるように構成される。さらに、本実施形態では、表面プラズモンエンハンス効果を最大限利用するために、第1凹凸パターン65及び第2凹凸パターン69は、基点から入射光100のスポット径以上の範囲に渡って形成されていることが好ましい。
上述のような構成の第1導電性膜62及び第2導電性膜66は、第1の形態と同様にして基体61上に形成することができる。また、第1導電性膜62及び第2導電性膜66の形成材料としては、第1の実施形態で説明した導電性膜2と同様の材料を用いることができる。
また、本実施形態では、第1の実施形態と同様に、基体61と、第1導電性膜62及び第2導電性膜66との間に、付着力強化、信頼性向上のために界面層を積層してもよい。この場合、界面層の厚さは、第1導電性膜62及び第2導電性膜66の厚さよりも十分薄いことが好ましい。また、界面層の形成材料としては、例えばTi、Cr等を用いることができる。
さらに、本実施形態の光学素子60を例えば記録再生装置等に適用する場合には、第1の実施形態と同様に、第1導電性膜62及び第2導電性膜66の表面に、動作時の記録媒体との接触による損傷を防ぐために、光透過性膜を形成してもよい。この場合、その光透過性膜の形成材料としては、例えばダイヤモンドライクカーボン(DLC)等の機械強度の高い材料を用いることが好ましい。なお、光透過性膜の形成材料としては基体61と同様の材料を用いてもよい。この場合、基体61と光透過性膜とを同じ材料で形成してもよいし、異なる材料で形成してもよい。
また、本実施形態において、入射光100として偏光方向に異方性を有する入射光を用いた場合には、その主たる偏光方向が第1導電性膜62及び第2導電性膜66の対向方向(図25(a)及び(b)中のx方向)と一致するように入射光100を入射する。ただし、本実施形態では、入射光100として円偏光やランダム偏光の入射光を用いてもよく、その場合には、各導電性膜の凹凸パターンの周期方向は、任意の方向にすることができる。
さらに、本実施形態では、入射光100の強度ピーク部(スポット中心部)が、第1導電性膜62及び第2導電性膜66間のギャップの中央(中間点)と一致するように、入射光の照射位置を調整することが好ましい。
本実施形態の光学素子60では、上述のように、第1導電性膜62及び第2導電性膜66の各表面で表面プラズモンエンハンス効果がそれぞれ発生するように各凹凸パターンの周期が設定されている。それゆえ、本実施形態では、この表面プラズモンエンハンス効果により、第1導電性膜62及び第2導電性膜66間のギャップ付近に、微小のスポット径を有する高強度の光(例えば近接場光等)を発生させることができる。
また、本実施形態の光学素子60に対して、偏光方向に異方性を有する入射光100を照射し、その際、主たる偏光方向を第1導電性膜62及び第2導電性膜66の対向方向と一致するように入射光を入射した場合、次のような利点が得られる。この場合、光学素子60から出射される光の出射領域には、入射光100の偏光方向と略平行となる導電性膜のエッジ領域がほぼ存在しない。それゆえ、入射光100の偏光方向と略平行となるエッジ領域における表面プラズモンの伝搬損失を大幅に低減することができ、より高強度の光を出射することができる。
なお、本実施形態では、各導電性膜の基体61側の表面に形成した各凹凸パターンは、幅一定の円弧状の凸部及び凹部で構成する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。導電性膜上で表面プラズモンエンハンス効果が発生するような周期パターンであれば任意の周期パターンで構成することができる。例えば、変形例1(図13(a)及び(b))で説明したように、幅Tg1の直線帯状の凸部と、幅Tg2の直線帯状の凹部とからなる周期Tgの凹凸パターンを各導電性膜の表面に形成してもよい。
また、本実施形態では、各導電性膜の凹凸パターンの断面形状を矩形波状にし、凸部及び凹部の表面を平坦面とする例を説明したが、本発明はこれに限定されない。各導電性膜上で表面プラズモンエンハンス効果が発生するような、凹凸パターンの表面形状(導電体の断面形状)であれば、任意の構成にするこができる。例えば、各導電性膜の断面形状を、例えば変形例2(図14〜17)で説明したような構成にすることができる。
さらに、本実施形態では、入射光の入射側から見た各導電性膜のエッジ部の形状を頂角θのL字状(三角状)である例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、必要とするスポット径、用途等に応じて、各導電性膜のエッジ部を任意の形状で構成することができる。例えば、入射光の入射側から見た各導電性膜のエッジ部の形状を、変形例3(図18〜24)で説明したような構成にすることができる。
ここで、図26(a)及び(b)に、図20に示すエッジ部の構成例を本実施形態に適用した際の光学素子の概略構成例(変形例4)を示す。図26(a)は、変形例4の光学素子の概略下面図であり、図26(b)は、図26(a)中のG−G断面図である。なお、図26(a)及び(b)には、説明を簡略化するため、エッジ部近傍の領域のみを示す。
この例の構成では、基体71上に形成された第1導電性膜72のエッジ部72a及び第2導電性膜73のエッジ部73aは、入射光の入射側から見て、ともに幅一定の矩形状を有する。そして、この例では、第1導電性膜72のエッジ部72aの平坦な先端部と第2導電性膜73のエッジ部73aの平坦な先端部とが所定距離だけ離れて対向するように、第1導電性膜72及び第2導電性膜73が配置される。
[出射光の強度分布]
次に、本実施形態の光学素子60における出射光の強度(電界強度)分布特性について説明する。ここでは、第1の実施形態と同様に、FDTD法による電磁界解析シミュレータを用いて、本実施形態の光学素子60における出射光の強度分布を算出した。図27(a)及び(b)に、シミュレーション解析に解析モデルの概要を示す。図27(a)は、解析モデルにおける光学素子60の各導電性膜の凹凸パターンと、入射光100の偏光方向との関係を示す図であり、図27(b)は、図27(a)中のH−H断面図である。
このシミュレーション解析では、第1の実施形態と同様に、基板201上に記録層を含む情報記録膜202が形成された記録媒体200に、光学素子60から光を照射した際の情報記録膜202の表面近傍における電界強度を計算した。具体的には、記録媒体200に、光学素子60から光を照射した際の情報記録膜202の光学素子60側の表面から1nm内部に入った位置での電界強度を計算した(上記表1参照)。
なお、この解析では、図27(a)に示すように、入射光100の偏光方向101は、第1導電性膜62及び第2導電性膜66の対向方向(図27(a)中のx方向)と一致させる。入射光100の電界強度分布の1/e2全幅を表すLx及びLyの関係も第1の実施形態と同様にLx>Lyとする。また、このシミュレーション解析では、入射光100の光スポットの中心が第1導電性膜62及び第2導電性膜66間のギャップの中央と一致するように入射光100を照射する場合を考える。
第1の実施形態の説明で述べた上記表1に、本実施形態で行ったシミュレーション解析で用いる光学素子60の形成材料、寸法パラメータ、及び、光学素子60と記録媒体200との位置関係等の具体的な計算パラメータ(計算条件)をまとめて示す。なお、上記表1には示さないが、本実施形態の光学素子60の各導電性膜のエッジ部の頂角θは90度とする。
図28(a)及び(b)に、本実施形態のシミュレーション解析の結果を示す。図28(a)は、出射光の電界強度|E|2の図27(a)中のx方向における分布特性であり、横軸には第1導電性膜62及び第2導電性膜66間のギャップの中央からのx方向の位置を示し、縦軸には電界強度|E|2を示す。また、図28(b)は、出射光の電界強度|E|2の図27(a)中のy方向における分布特性であり、横軸には第1導電性膜62及び第2導電性膜66間のギャップの中央からのy方向の位置を示し、縦軸には電界強度|E|2を示す。
本実施形態では、図28(a)及び(b)中の特性80及び81に示すように、出射光の電界強度|E|2のピーク値は入射光のピーク電界強度比で16.3となった。また、そのピーク曲線のx方向における半値幅は34nmであり、y方向における半値幅は42nmであった。ここで、第1及び第2の実施形態並びに比較例1の光学素子に対して行ったシミュレーション解析の解析結果をまとめた表を以下に示す。なお、下記表には、比較例1の解析結果としては、円形開口部の開口幅が100nmの結果を示す。
上記表2から明らかなように、本実施形態の光学素子60では、比較例1に比べて、微小のスポット径を有し且つ高強度の光を生成できることが分かる。さらに、本実施形態の評価結果と第1の実施形態の評価結果との比較から明らかなように、本実施形態の光学素子60では、第1の実施形態に比べても、微小のスポット径を有し且つ高強度の光を生成できることが分かる。
この結果から、本実施形態の光学素子60のように、一対の導電性膜を入射光100の偏光方向に沿って対向して配置することにより、より一層微小のスポット径を有する光を生成することができることが分かる。また、本実施形態の光学素子60では、より一層強い出力強度の光を生成することができ、入射光の光パワー利用効率をさらに向上させることができることが分かる。
[比較例2]
ところで、従来、第2の実施形態の光学素子60に類似した構造の光学素子として、表面が三角形状の2つの導電体を所定間隔で離間して配置した光学素子(以下、ボウタイ型光学素子という)が提案されている。ここでは、この従来のボウタイ型光学素子と、第2の実施形態の光学素子60との出射光の強度(電界強度)分布特性の比較を行う。
図29に、比較例2のボウタイ型光学素子の概略構成を示す。ボウタイ型光学素子170は、基体171と、その一方の表面に形成された2つの導電体172とで構成される。そして、2つの導電体172は、互いの頂角が所定間隔だけ離れて対向するように配置される。また、比較例2のボウタイ型光学素子170では、光源(不図示)からの入射光100(伝播光)は、基体171の導電体172が形成されていない側の表面から入射される。
このようなボウタイ型光学素子170では、入射光100が基体171を介して導電体172に照射されと、一対の導電体172間の表面に電荷を誘起され、表面プラズモン共鳴が起こる。これにより、一対の導電体172間に入射光の波長より小さなスポット径を有する光が発生する。
図29に示す構成のボウタイ型光学素子170に対しても、第1の実施形態と同様に、FDTD法による電磁界解析シミュレータを用いて、出射光の強度分布を算出した。なお、このシミュレーション解析では、第1の実施形態と同様に、基板201上に記録層を含む情報記録膜202が形成された記録媒体200に、ボウタイ型光学素子170から光を照射した際の情報記録膜202の表面近傍における電界強度を計算した。具体的には、記録媒体200に、ボウタイ型光学素子170から光を照射した際の情報記録膜202のボウタイ型光学素子170側の表面から1nm内部に入った位置での電界強度を計算した。
ボウタイ型光学素子170に対するシミュレーション解析では、基体171の形成材料をSiO2とし、導電体172の形成材料をAuとした。また、導電体172の頂角θは90度とし、2つの導電体172の対向方向における各導電体172の長さlを240nmとし、各導電体172の厚さtを100nmとした。また、2つの導電体172間のギャップの大きさgは12nmとした。
なお、ボウタイ型光学素子170において、各導電体172の長さl及び厚さtを上記値に設定した理由は、次の通りである。
図30に、導電体172の厚さtを100nmとした際のボウタイ型光学素子170における導電体172の長さlと出射光の電界強度|E|2との関係を示す。この関係から明らかなように、導電体172の長さlを約240nmとすることにより出射光の電界強度|E|2が最大となることが分かる。
また、図31に、導電体172の長さlを220nmとした際のボウタイ型光学素子170における導電体172の厚さtと出射光の電界強度|E|2との関係を示す。この関係から明らかなように、導電体172の厚さtを約100nmとすることにより出射光の電界強度|E|2が最大となることが分かる。すなわち、図29に示すボウタイ型光学素子170に対するシミュレーション解析では、出射光の電界強度|E|2が最大となるような導電体172の長さl及び厚さtの値を選んだ。
また、比較例2のボウタイ型光学素子170に対するシミュレーション解析において、入射光100のパラメータ(スポット形状、波長、偏光方向、パワー等)は上記表1に示す条件と同様である。また、記録媒体200の構成条件も上記表1に示す条件と同様である。
なお、ここでは、第2の実施形態の光学素子60の各導電性膜の凹凸パターンの周期Tgを480nmとし、それ以外のパラメータ条件は表1に示す条件と同様にして、再度シミュレーション解析を行い、その解析結果を比較例2の解析結果と比較した。
図32に、比較例2のボウタイ型光学素子170に対して行ったシミュレーション解析の結果を示す。図32は、出射光の電界強度|E|2の図29中のy方向における分布特性であり、横軸には2つの導電体172間のギャップの中央からのy方向の位置を示し、縦軸には電界強度|E|2を示す。
また、図33に、第2の実施形態の光学素子60に対して行ったシミュレーション解析の結果を示す。図33は、出射光の電界強度|E|2の図27(a)中のy方向における分布特性であり、横軸には第1導電性膜62及び第2導電性膜66間のギャップの中央からのy方向の位置を示し、縦軸には電界強度|E|2を示す。さらに、図34に、図32及び33の特性をひとつにまとめたグラフを示す。なお、図34中の破線の特性が図32の特性82であり、実線の特性が図33の特性83である。
上述したシミュレーション解析の結果、比較例2のボウタイ型光学素子170では、出射光の電界強度|E|2は入射光のピーク電界強度比で約10.6であった(図32中の特性82参照)。それに対して、第2の実施形態の光学素子60では、出射光の電界強度|E|2は入射光のピーク電界強度比で約41.5となった(図33中の特性83参照)。すなわち、第2の実施形態の光学素子60では、従来のボウタイ型光学素子170に比べて約4倍の最大電界強度が得られることが分かった(図34参照)。
また、本実施形態の光学素子60は、比較例2のボウタイ型光学素子170に対して、出射光の強度以外で次のような利点を有する。比較例2のボウタイ型光学素子170では、一対の導電体172の対向方向(図30中のx方向)の導電体172の長さlは、表面プラズモンが共鳴するように設定される。すなわち、導電体172の長さlは、表面プラズモンの共鳴条件により制限される。それに対して、本実施形態の光学素子60では、表面プラズモンの共鳴条件に関係なく、第1導電性膜62及び第2導電性膜66の対向方向における各導電性膜の長さを設定することができる。それゆえ、本実施形態は比較例2に比べて設計が容易になる。
また、比較例2のボウタイ型光学素子170の導電体172の長さlは、上述のように表面プラズモンの共鳴条件により制限されるので、十分に長くすることが困難である。それゆえ、通常、比較例2のボウタイ型光学素子170では、光照射時には、入射光の光スポット内に一対の導電体172が収まるような状態になる。この場合、導電体172のギャップ側の頂点と対向する辺部領域においても多少近接場光が発生する。また、この導電体172の辺部領域では入射光の一部が透過する。このように、導電体172のギャップ側の頂点と対向する辺部領域では、上述のような原因により漏れ光が発生し、一対の導電体172間に発生した近接場光の強度分布に影響を与える可能性がある。
それに対して、本実施形態の光学素子60では、上述のように、第1導電性膜62及び第2導電性膜66の対向方向における各導電性膜の長さを十分に長くすることができる。それゆえ、本実施形態の光学素子60では、導電性膜の形成領域を入射光の光スポットのサイズより大きくすることができるので、上述のような漏れ光の問題を解消することができる。
[変形例5]
上記第1及び第2の実施形態及び種々の変形例で説明した本発明の光学素子を、例えば熱アシスト磁気記録方式の記録再生装置に用いる場合、光学素子は磁気ヘッドに搭載される。この場合、光学素子は磁気ヘッドに集積化されて搭載されるので、光学素子の製造プロセスと、磁気ヘッドの製造プロセスとの親和性を考慮して光学素子の構成を選択する必要がある。
ここで、例えば、浮上スライダの先端部に磁気ヘッド及び光学素子を搭載する場合を考える。この場合、浮上スライダの先端面上に、磁気ヘッド及び光学素子の各構成部を順次積層するので、製造プロセス上、光学素子を構成する導電性膜は、その積層方向の厚さ、すなわち、光照射面の幅が一定であること好ましい。具体的には、例えば、浮上スライダの先端部に磁気ヘッド及び光学素子を搭載する場合、製造プロセス上、上記変形例4で説明したような構成の光学素子70(図26(a)及び(b))を選択することが好ましい。
図35に、上記変形例4の光学素子70を浮上スライダの先端面上に実装した際の光学素子70近傍の概略構成を示す。この場合、光学素子70の第1導電性膜72及び第2導電性膜73の受光面(凹凸パターン側の面)と直交する面が基体71を介してスライダ本体180の先端面S2と対向するように、第1導電性膜72及び第2導電性膜73が形成される。また、第1導電性膜72及び第2導電性膜73の対向方向が入射光100の偏光方向と一致するように、第1導電性膜72及び第2導電性膜73を形成される。さらに、第1導電性膜72及び第2導電性膜73の受光面が入射光100の入射側に配置され、且つ、第1導電性膜72及び第2導電性膜73の受光面とは反対側の端面が光射出面S3に露出するように、第1導電性膜72及び第2導電性膜73を形成する。
図35に示す実装例において、光学素子70の作製方法は次の通りである。まず、スライダ本体180の記録媒体との対向面S1に直交するスライダ本体180の先端面S2上に、例えばスパッタ等の手法により、基体71を構成する第1の絶縁層(不図示)を形成する。次いで、第1の絶縁層上に、例えばスパッタ等の手法により、第1導電性膜72及び第2導電性膜73を形成する。そして、第1導電性膜72及び第2導電性膜73上に、例えばスパッタ等の手法により、基体71を構成する第2の絶縁層を形成する。このようにして、光学素子70がスライダ本体180の先端面S2上に作製される。
図35に示す例の光学素子70の実装例では、光学素子70から射出される例えば近接場光等の微小光102のスポットサイズは、第1導電性膜72及び第2導電性膜73間の距離と、第1導電性膜72及び第2導電性膜の膜厚により決定される。それゆえ、より微小サイズの光を生成するためには、第1導電性膜72及び第2導電性膜の膜厚をより薄くする必要がある。しかしながら、第1導電性膜72及び第2導電性膜の膜厚を薄くすると、入射光100の受光面の面積が小さくなり、入射光100から微小光102への変換効率が低下する。
変形例5では、上述のような問題を解消し、且つ、例えば磁気ヘッド等の製造プロセスと親和性の高いプロセスで製造可能な光学素子の構成例を説明する。
図36に、この例の光学素子をスライダ本体180の先端面S2上に実装した際の概略構成を示す。なお、図36において、上記図35に示す変形例4の光学素子70の実装例と同様の構成には、同じ符号を付して示す。
この例の光学素子90は、基体91と、基体91の光射出面S3側に形成された第1導電性膜92及び第2導電性膜93とで構成される。なお、第1導電性膜92及び第2導電性膜93の配置形態は、上記図35に示す変形例4の光学素子70のそれと同じである。また、各導電性膜の入射光100の受光面には、変形例4の光学素子と同様に、凹凸パターンが形成される。
ただし、この例の光学素子90では、第1導電性膜92及び第2導電性膜93間の対向面92a及び93aに、第1導電性膜92及び第2導電性膜93の対向方向に沿ってそれぞれ段差を設ける。すなわち、この例では、第1導電性膜92及び第2導電性膜93間の対向面92a及び93aの形状をそれぞれ階段状にする。このような構成にすることにより、各導電体膜の先端部の厚さは、それ以外の導電性膜の領域の厚さより薄くなる。
また、この例では、第1導電性膜92の第2導電性膜93側の厚さが薄くなる先端部と、第2導電性膜93の第1導電性膜92側の厚さが薄くなる先端部とが対向するように、対向面92a及び93aを階段状にする。なお、この例では、各対向面において段差を1つ設ける例を説明したが、本発明はこれに限定されず、各対向面に複数の段差を設けてもよい。また、対向面をテイパー状にしてもよい。さらに、各対向面において、厚さが薄くなる先端部を、対向面の中央に配置してもよい。
この例の構成では、一対の導電性膜間の距離を最小にする領域(先端部)、すなわち、例えば近接場光等の微小光102を発生させたい領域のみを薄厚で形成し、導電性膜のその他の領域では膜厚を十分厚くすることができる。
それゆえ、この例の光学素子90では、変形例4の光学素子70と同程度の微小光102を射出することができる。そして、さらに、この例の光学素子90では、入射光の受光面の面積を大きくすることができるので、入射光100と導電性膜とのカップリング効率が上がり、入射光100から微小光102への変換効率の低下を抑制することができる。
なお、この例の光学素子90の製造方法では、一対の導電性膜間の各対向面を階段状に形成する工程が加わること以外は、上述した変形例4の製造方法と同様である。それゆえ、この例においても、スライダ上に磁気ヘッド及び光学素子90を搭載する際には、光学素子90の製造プロセスと、磁気ヘッドの製造プロセスとの間に高い親和性が得られる。すなわち、この例では、磁気ヘッドとの製造プロセスの親和性及び微小光のスポットサイズを維持しながら、入射光100の利用効率を向上させることができる。
なお、この例の光学素子90における各導電性膜の階段状の対向面は、例えば次のような方法(1)または(2)で形成することができる。
(1)まず、一対の導電性膜全体を、膜厚を厚くする領域の厚さで形成する。次いで、一対の導電性膜間の各対向端部の一部をエッチングして除去する。
(2)まず、一対の導電性膜全体を、膜厚を薄くする領域(対向端部)の厚さで形成する。次いで、一対の導電性膜間の各対向端部以外の領域に、導電性膜を積層する。
また、この例では、この例の光学素子90で上述した効果が得られることをシミュレーション解析で確認した。図37に、このシミュレーション解析で用いた光学素子のシミュレーションモデルの概略構成を示す。また、このシミュレーションモデルでは、光学素子90の基体91をAl2O3で形成し、第1導電性膜92及び第2導電性膜93をAuで形成する場合を考える。また、空気層310を介して光学素子90と対向する記録媒体300は、SiO2からなる基板301と、基板301上に順次形成されたCu層302、MgO層303及びFe層304(記録層)とで構成されるものとした。
また、この例では、比較のため、変形例4の光学素子70に対しても同様のシミュレーション解析を行った。なお、この解析では、変形例4の導電性膜の厚さを、変形例5の導電性膜の先端部の厚さと同じとし、両者の光学素子から同程度の光スポットが形成されるようにした。変形例5の光学素子90及び変形例4の光学素子70の具体的なシミュレーション条件を下記表にまとめた。
上記表3中の「t2」は、一対の導電性膜間の各対向面における導電性膜の先端部の厚さであり、「t1」は導電性膜の先端部以外の領域の厚さである。「Tg」は、導電性膜の凹凸パターンの周期である。「w1」は、導電性膜の凸部の幅であり、「w2」は、導電性膜の凸部の幅と凹部の幅との差である。「G」は、一対の導電性膜間の距離(ギャップ)である。また、「c」は、一対の導電性膜の対向方向における導電性膜の先端部の長さである。
また、上記表3中の「s」は、空気層310の厚さ、すなわち、光学素子90の光射出面S3と記録媒体300のFe層304の表面との距離である。「m1」は、Fe層304の厚さであり、「m2」は、MgO層303の厚さであり、「m3」は、Cu層302の厚さである。
なお、導電性膜の凹凸パターンの最適な周期は膜厚により異なるので、上記シミュレーション解析では、各変形例の凹凸パターンの周期Tgはそれぞれ最適化されている。そのため、上記表3に示すように、各変形例の周期Tgは互いに異なる。
このシミュレーション解析では、第1の実施形態と同様に、FDTD法による電磁界解析シミュレータを用いて、記録媒体内の光強度分布を算出した。具体的には、光射出面S3の面内方向において、一対の導電性膜の対向方向(図37中のx方向)、並びに、その対向方向と直交する方向(図37中のy方向)における光強度分布を算出した。その結果を図38及び39に示す。
図38は、出射光の電界強度|E|2のx方向における分布特性であり、横軸には一対の導電性膜間の中央からのx方向の位置を示し、縦軸には電界強度|E|2を示す。一方、図39は、出射光の電界強度|E|2のy方向における分布特性であり、横軸には一対の導電性膜間の中央からのy方向の位置を示し、縦軸には電界強度|E|2を示す。なお、図38及び39中にそれぞれ実線で示す特性320及び322は、変形例5の光学素子90で得られた特性であり、それぞれ破線で示す特性321及び323は、変形例4の光学素子70の特性である。
図38及び39の特性において電界強度|E|2のピーク置を比較すると、変形例5の光学素子90の電界強度|E|2のピーク値が、変形例4のそれの約1.6倍程度になっていることが分かる。また、図38及び39の特性から、変形例5の光スポット形状が変形例4より先鋭化されることが分かる。
上述したシミュレーション解析から、変形例5の構成では、微小光のスポットサイズを維持しながら、入射光100の利用効率を向上させることができることが確認された。
なお、この例では、変形例4の光学素子70の一対の導電性膜の各対向面を階段状にする例を説明したが本発明はこれに限定されない。例えば、変形例4の光学素子70の一対の導電性膜のうち一方の導電性膜のみを備える光学素子、すなわち、上記変形例3−3の光学素子44(図20)の先端部を階段状にしてもよい。この場合にも、変形例5と同様の効果が得られる。
<3.第3の実施形態>
第3の実施形態では、上記第1及び第2の実施形態や上記種々の変形例等で説明した本発明の光学素子を用いた記録再生装置(光学装置)の構成例について説明する。なお、本実施形態では、光学素子から近接場光を記録媒体に出射して情報の記録及び/または再生を行う記録再生装置について説明する。
[記録再生装置の構成]
図40に、本実施形態の記録再生装置に記録媒体を装着した際の記録再生システムの概略構成例を示す。記録再生装置210は、主に、浮上スライダヘッド211と、浮上スライダヘッド211を支持するサスペンション212と、浮上スライダヘッド211を駆動するヘッドアクチュエータ213と、記録媒体240を回転駆動させるスピンドル214とを備える。なお、記録媒体240は、スピンドル214の回転軸215に固定される。
本実施形態では、記録媒体240は、例えば、ディスク状の媒体であり、基板241と、その基板241上に形成された記録層を含む情報記録膜242とを備える(後述の図42参照)。そして、その情報記録膜242が浮上スライダヘッド211の下面と対向するように、記録媒体240がスピンドル214に装着される。なお、記録媒体240としては、例えば、光磁気記録媒体、磁気記録媒体、相変化媒体、色素媒体等を用いることができる。また、記録媒体240の表面には、記録再生装置210の動作時における浮上スライダヘッド211と記録媒体240との接触による損傷を防ぐために、適宜潤滑剤及び保護膜が薄厚で形成される。
図41に、本実施形態の記録再生装置210の浮上スライダヘッド211付近の拡大側面図を示す。本実施形態では、記録媒体240に対して情報記録を行うヘッドとして浮上スライダタイプのヘッドを用いる。浮上スライダヘッド211は、スライダ本体216と、スライダ本体216の先端部に搭載された光ヘッド220とを備える。
スライダ本体216は、記録再生装置210の動作時には、記録媒体240と対向して近接して配置される。この際、光ヘッド220もまた、記録媒体240と対向するように配置される。光ヘッド220は、上述した本発明の光学素子を備えており、その光学素子により発生した近接場光を記録媒体240に照射して、情報の記録及び/又は再生を行う。
図42及び43に、本実施形態の浮上スライダヘッド211に搭載する光ヘッド220の概略構成を示す。なお、図42は、光ヘッド220の概略断面図であり、図43は、光ヘッド220の概略下面図である。
本実施形態の光ヘッド220は、光源221と、光源221の光射出側に設けられた光学素子222とを備える。
光源221は、例えばレーザダイオード(LD:Laser Diode)等で構成される。また、本実施形態では、光源221として直線偏光の光230を射出する光源を用いる。なお、光源221としては、例えば楕円偏光、円偏光またはランダム偏光等の光を射出する光源を用いてもよい。
また、本実施形態では、光源221から射出される光230(入射光)の偏光方向231が、後述する一対の導電性膜224の対向方向(図43中のx方向)と一致するように、光源221から光学素子222に光230が照射される。
光学素子222は、上述した第1及び第2の実施形態、並びに、種々の変形例等で説明した光学素子のいずれかで構成することができる。図42及び43には、光学素子222として、第2の実施形態の光学素子(図25(a)及び(b)と同様の構成の光学素子を用いた例を示す。
光学素子222は、基体223と、基体223の光源221側とは反対側(記録媒体240側)の表面の一部に形成された一対の導電性膜224と、導電性膜224の記録媒体240側の表面に形成された光透過性膜225とを備える。
基体223は、板状の光透過性部材で形成され、第2の実施形態で説明した基体61と同様の構成である。基体223の形成材料としては、第1及び第2の実施形態で説明した基体と同様の材料を用いることができる。例えば、基体223を、光学ガラスやSiO2等の光学透明性材料で形成することができる。
一対の導電性膜224は、ともに入射光230の入射側から見たエッジ部224aの形状が凸状である金属膜で形成され、第2の実施形態の第1導電性膜62及び第2導電性膜66と同様の構成である。また、各導電性膜224に形成される凹凸パターン228は、第2の実施形態と同様に、幅一定の円弧状の凸部226(ただし、最内周の凸部226は扇状)と、幅一定の円弧状の凹部227とで構成される。そして、凸部226及び凹部227は導電性膜224のエッジ部224aの先端部から外側に向かって同心円状に交互に配置される。さらに、2つの導電性膜224は、互いの先端部が所定間隔だけ離れて対向するように配置される。
また、導電性膜224の形成材料としては、第1及び第2の実施形態で説明した導電性膜と同様の材料を用いることができる。例えば、導電性膜224を、Au、Ag、Cu等の金属膜で形成することができる。
光透過性膜225は、記録再生装置210の動作時における記録媒体240との接触による損傷を防ぐために設けられる。それゆえ、光透過性膜225の形成材料としては、例えばダイヤモンドライクカーボン(DLC)等の機械強度の高い材料を用いることが好ましい。なお、光透過性膜225の形成材料として基体223と同様の材料を用いてもよい。
上記構成の光ヘッド220では、光源221から射出された光230は、光学素子222の基体223を介して一対の導電性膜224間に入射される。これにより、各導電性膜224表面で発生する表面プラズモンエンハンス効果によって、各導電性膜の先端部分に光のエネルギーが集中し、一対の導電性膜224間に微小なスポット径を有し且つ強度の強い光、いわゆる近接場光が生成される。なお、より強い表面プラズモンエンハンス効果を得るためには、凹凸パターン228を光スポット領域内(図43中の点線で囲まれた領域)に可能な限り多く形成することが好ましい。
なお、上述のように、本実施形態の光ヘッド220内では、入射光230は、基体223を介して一対の導電性膜224間に入射されるが、本発明はこれに限定されない。基体223内の入射光230の光路に、例えば屈折率の異なる材料を用いてレンズや導波路等を形成し、光源221からの入射光230が導電性膜224に効率よく伝搬されるような構成にしてもよい。
また、本実施形態の光ヘッド220は、近接場光を用いて情報の記録及び再生の両方を行うヘッドとして用いてもよいし、記録専用ヘッドとして用いてもよい。光ヘッド220を記録専用ヘッドとして用いた場合には、再生専用のヘッドを別途設ける。この場合、再生専用ヘッドは、光ヘッド220側に設けて、記録媒体240からの反射光を検出して情報再生を行っても良い。また、再生専用ヘッドを記録媒体240を挟んで、光ヘッド220側とは反対側に設け、記録媒体240を透過した光を検出して情報再生を行ってもよい。
さらに、熱アシスト磁気記録方式の記録媒体(磁気的に情報再生を行う媒体)に対しても、本実施形態の光ヘッド220は適用可能である。この場合、光ヘッド220から出射される近接場光を用いて記録媒体を加熱し、その状態で、光ヘッド220に集積化された磁気書き込み用ヘッドで磁気記録を行う。なお、この場合には、再生専用ヘッドとして、媒体からの漏れ磁束を磁気抵抗効果を用いて検出するヘッドを別途設ける。
[記録再生動作]
次に、本実施形態の記録再生装置210の動作を簡単に説明する。まず、記録再生装置210は、装置内部に挿入された記録媒体240をスピンドル214に装着し、記録媒体240上の所定位置に浮上スライダヘッド211を載置する。次いで、スピンドル214は、記録媒体240を高速回転させて、記録媒体240を浮上スライダヘッド211に対して相対的に高速移動させる。これにより、記録媒体240と浮上スライダヘッド211との間に空気流が発生し、浮上スライダヘッド211は記録媒体240の表面から浮上する。
この際、サスペンション212の弾性力により、スライダ本体216が記録媒体240に対して所定の浮上量で浮上しながら相対移動するように調整される。例えば、光ヘッド220の導電性膜224の記録媒体240側の表面と記録媒体240との間の距離が100nm以下となるように維持される。なお、光ヘッド220から射出される近接場光は、その発生箇所から離れるにしたがって強度が小さくなり且つスポットサイズが大きくなる。それゆえ、導電性膜224の記録媒体240側の表面と記録媒体240との距離は可能な限り小さいことが好ましい。例えば、記録媒体240と導電性膜224との間隔を10nm以下とすることが好ましい。
次いで、スライダ本体216と記録媒体240との距離が所定距離となった後、光ヘッド220は、空気層を介して記録媒体240に近接場光を照射して、情報の記録及び/又は再生を行う。本実施形態では、このようにして、本発明の光学素子で生成した近接場光を用いて、記録媒体240に情報の記録及び/又は再生を行う。
本実施形態では、本発明の光学素子を用いて近接場光を生成するので、より微小で高強度の光を用いて情報の記録及び/又は再生を行うことができる。それゆえ、本実施形態の記録再生装置では、一層高密度で且つ安定して情報の記録及び/又は再生を行うことができる。
なお、図42及び43に示す例では、光学素子222として第2の実施形態の光学素子と同様の構成の光学素子を用いる例を説明したが、本発明はこれに限定されない。本実施形態では、例えば、上記第1の実施形態で説明した光学素子や、上記種々の変形例で説明した光学素子等を適用することもでき、その場合においても本実施形態と同様の効果が得られる。
また、本実施形態では、記録再生装置の光ヘッドに本発明の光学素子を適用する例を説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば近接場光等の微小スポット径を有する光を必要とする任意の光学装置に適用可能である。
<4.第4の実施形態>
第4の実施形態では、上記第1及び第2の実施形態や上記種々の変形例等で説明した本発明の光学素子を、光検出器(光学装置)に適用した構成例について説明する。具体的には、本発明の光学素子を例えば上記非特許文献1で提案されているようなフォトダイオードに適用した構成例について説明する。
[光検出器の構成]
図44に、本実施形態の光検出器の概略構成を示す。また、図45に、本実施形態の光検出器に適用する本発明の光学素子の概略下面図を示す。
本実施形態のフォトダイオード250(光学装置)は、主に、光学素子60と、カソード電極251と、光学素子60及びカソード電極251間に形成されたSi(シリコン)メサ構造部252(受光部)とで構成される。
本実施形態では、光学素子60として、第2の実施形態の光学素子を用いる。それゆえ、ここでは光学素子60の構成の説明は省略する。なお、光学素子60の第1導電性膜62及び第2導電性膜66は、フォトダイオード250のアノード電極として作用し、逆バイアス電圧印加用の直流電源255の「−」端子に接続される。
また、本実施形態では、光学素子60に入射される入射光100を直線偏光の光とし、その偏光方向は、図44及び45に示すように、第1導電性膜62及び第2導電性膜66の対向方向(図44及び45中のx方向)とする。
カソード電極251は、光学素子60の第1導電性膜62及び第2導電性膜66の対向電極であり、負荷抵抗256を介して直流電源255の「+」端子に接続される。
Siメサ構造部252は、例えばPN接合等のように2種類の半導体を接合して構成され、この接合領域(アクティブ領域)に光が照射されることによりアクティブ領域にキャリアを生成し、光電子変換を行う。本実施形態では、Siメサ構造部252は、光学素子60の第1導電性膜62及び第2導電性膜66間のギャップ60aの直下に、光学素子60と接して配置され、光学素子60のギャップ60aで発生する近接場光を受光して、光電子変換を行う。また、Siメサ構造部252は、入射光100の波長よりも小さなサイズで構成される。
[フォトダイオードの動作及び効果]
次に、本実施形態のフォトダイオード250の動作を簡単に説明する。上記構成のフォトダイオード250では、まず、光学素子60に入射光100が照射されると、第1導電性膜62及び第2導電性膜66間のギャップ60a近傍に近接場光が発生する。この際、第1導電性膜62及び第2導電性膜66の基体61側の表面には所定周期の凹凸パターンが形成されているので、表面プラズモンエンハンス効果が発生して、ギャップ60a近傍に高強度の近接場光が発生する。次いで、発生した近接場光がSiメサ構造部252内のアクティブ領域に入射されると、Siメサ構造部252内にキャリアが生成され、電子がカソード電極251から負荷抵抗256に向かって流れる。
上述のような構成及び動作を行う本実施形態のフォトダイオード250では、次のような効果が得られる。一般に、フォトダイオードは、例えばPN接合等のように2種類の半導体を接合して構成され、この接合領域(アクティブ領域)に光が照射されることにより、光電子変換を行う。このようなフォトダイオードにおいて、その応答速度を上げるためには、次の2つの手法が考えられる。
(1)キャリアが電極に移動するまでの時間を短縮する。
(2)空乏層の容量を小さくする。
上記(1)の項目を達成するためには、空乏層の厚さを薄くする必要がある。しかしながら、単純に空乏層の厚さを薄くすると、空乏層の容量が大きくなり、上記(2)の項目を達成することとができない。すなわち、上記(1)と(2)の項目は相反する関係にある。
上記2つの項目を同時に達成するためには、空乏層の厚みを薄くするとともに、アクティブ領域のサイズを小さくする必要がある。しかしながら、アクティブ領域のサイズを小さくすると、受光感度が劣化する。それゆえ、上記2つの項目を同時に達成するためにアクティブ領域のサイズを小さくした場合には、狭いアクティブ領域に効率よく光を集中して照射する手段が必要となる。
それに対して、本実施形態では、光学素子60で生成した、微小なスポット径を有し且つ高強度の近接場光をSiメサ構造部252内のアクティブ領域に入射することができる。それゆえ、本実施形態のフォトダイオード250では、アクティブ領域を狭くしても効率よく光を集中してアクティブ領域に照射することができ、上記2つの項目を同時に達成することができる。その結果、本実施形態のフォトダイオード250では、受光感度を低下させることなく、応答速度を向上させることができる。
また、図45に示すように入射光100として直線偏光の光を用い、その偏光方向が第1導電性膜62及び第2導電性膜66の対向方向である場合、次のような効果が得られる。第2の実施形態のシミュレーション解析で説明したように、本実施形態の光学素子60で発生する近接場光の電界強度は、近接場光の発生部を円形開口部とする場合(比較例1または非特許文献1の構成)に比べて大きくなる。それゆえ、本実施形態では、例えば非特許文献1で提案されているような構成のフォトダイオードに比べて、より微小径で且つ強度の強い近接場光をSiメサ構造部252内のアクティブ領域に照射することができる。
さらに、本実施形態のフォトダイオード250で用いる光学素子60は、入射光100の偏光方向によって、発生する近接場光の電界強度が変化する。すなわち、本実施形態のフォトダイオード250の応答は、入射光100の偏光方向に対して依存性を有する。この性質を利用すると、本実施形態のフォトダイオード250を、入射光100の偏光方向の検出を超高速で行うことができる光検出器として使用することができる。
なお、本実施形態では、上述のように、入射光として偏光方向に異方性を有する光を用いることができるが、円偏光やランダム偏光の入射光を用いることもできる。入射光の偏光方向が一意に定まらない場合であっても、次の条件を満たすような場合には、本実施形態のフォトダイオード250を通常の光検出器として使用可能である。例えば、第1導電性膜62及び第2導電性膜66の対向方向における電界成分をExとし、それに垂直な方向の電界成分をEyとし、所定の観測(光検出)時間内における各電界成分の時間平均をそれぞれExave及びEyaveとする。この場合、Exave=Eyaveを満たすような系であれば通常の光検出器として使用可能である。
なお、図44及び45に示す例では、第2の実施形態の光学素子60をフォトダイオード250に適用する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。本実施形態では、例えば、上記第1の実施形態で説明した光学素子や、上記種々の変形例で説明した光学素子等を適用することもでき、その場合においても本実施形態と同様の効果が得られる。
また、本実施形態では、本発明の光学素子の出射光の受光部として、例えばPN接合等のように2種類の半導体を接合して構成されたSiメサ構造部252を用いる例を説明したが、本発明はこれに限定されない。光学素子の出射光を受光して、その受光した光を電気信号に変換することが可能な受光機構であれば、任意の受光機構を用いることができる。