以下に図面を参照して、この発明にかかる交流回転機の制御装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。
実施の形態1.
(1)実施の形態1の構成の説明.
図1は、この発明による交流回転機の制御装置の実施の形態1の構成を示すブロック図である。図1に示すように、この実施の形態1による交流回転機の制御装置は、交流回転機10を駆動するための電圧印加手段11と、電流検出手段13と、電圧指令手段15と、インバータ周波数演算手段17と、周波数補正値演算手段20を備えている。電流検出手段13の三相/dq軸座標変換器132、電圧指令手段15、インバータ周波数演算手段17、および周波数補正値演算手段20は、例えばマイクロコンピュータで構成される。
交流回転機10は、この実施の形態1では誘導電動機10Iである。電圧印加手段11は、交流回転機10の駆動回路であり、具体的にはVVVF形の三相インバータで構成され、電圧指令手段15から入力される三相電圧指令V*に基づいて、三相交流駆動電圧Vuvwを発生し、この三相交流駆動電圧Vuvwを交流回転機10に印加する。電圧印加手段11を構成するVVVF形の三相インバータは、出力する三相交流駆動電圧Vuvwの駆動電圧Vとその駆動周波数fが可変であり、三相電圧指令V*により指定された駆動電圧Vと駆動周波数fを有する三相交流駆動電圧Vuvwを発生し、この三相交流駆動電圧Vuvwを誘導電動機10Iに供給する。
電流検出手段13は、電流検出器131と、三相/dq軸座標変換器132を含む。電流検出器131は、例えば変流器を用いて構成され、三相交流駆動電圧Vuvwに基づいて、誘導電動機10Iに流れる三相の各相電流iu、iv、iwを検出し、これらの各相電流iu、iv、iwを三相/dq軸座標変換器132に供給する。三相/dq座標変換器132は、三相座標を、直交するd軸とq軸を含む回転二軸座標に変換する座標変換器であり、位相信号θが入力され、この位相信号θを用いて、各相電流iu、iv、iwから、それに対応するd軸電流値idとq軸電流値iqを発生する。三相/dq軸座標変換器132は、d軸電流値idとq軸電流値iqとともに、検出電流値Iを発生する。d軸電流値idとq軸電流値iqは、電圧指令手段15に供給される。検出電流値Iは、周波数補正値演算手段20に供給される。検出電流値Iは、この実施の形態1では、q軸電流値iqと等しくされ、次の数式1で与えられる。
電圧指令手段15は、周知の誘起電圧/駆動周波数一定制御方式(以下(E/f)一定制御方式という)または周知の駆動電圧/駆動周波数一定制御方式(以下(V/f)一定制御方式という)として構成される。(E/f)一定制御方式は、三相交流駆動電圧Vuvwに基づいて交流回転機10の内部で誘起される誘起電圧Eと駆動周波数fとの比(E/f)を一定とするように制御する。(V/f)一定制御方式は、三相交流駆動電圧Vuvwの駆動電圧Vと駆動周波数fとの比(V/f)を一定とするように制御する。この実施の形態1では、電圧指令手段15は、(E/f)一定制御方式として構成される。この(E/f)一定制御方式の電圧指令手段15は、(E/f)一定制御方式の電圧指令演算手段153と、dq軸/三相座標変換器157を有する。
インバータ周波数演算手段17は、減算器171を含む。この減算器171には、外部から周波数指令値ω*が供給され、また、周波数補正値演算手段20から周波数補正値Δωが供給される。インバータ周波数演算手段17は、次の数式2にしたがって、周波数指令値ω*から周波数補正値Δωを減算し、インバータ周波数ωiを出力する。
(E/f)一定制御方式の電圧指令演算手段153には、電流検出手段13の三相/dq軸座標変換器132からd軸電流値idとq軸電流値iqが供給され、また、インバータ周波数演算手段17からインバータ周波数ωiが供給される。この電圧指令演算手段153は、これらのd軸電流値idとq軸電流値iqとインバータ周波数ωiに基づいて、次の数式3、数式4にしたがってd軸電圧指令vd*とq軸電圧指令vq*を演算し、これらのd軸電圧指令vd*とq軸電圧指令vq*をdq軸/三相座標変換器157に供給する。dq軸/三相座標変換器157には、位相信号θが入力され、この位相信号θを用いて、d軸電圧指令vd*とq軸電圧指令vq*を三相電圧指令V*に変換し、この三相電圧指令V*を電圧印加手段11に供給する。
なお、数式3、数式4において、R
1は誘導電動機10Iの固定子抵抗、L
1はその固定子インダクタンスである。
周波数補正値演算手段20は、6つの入力部20−I1〜20−I6と、1つの出力部20−Oを有し、また、電流偏差演算器201と、定数記憶器203と、増幅ゲイン演算器210と、増幅器230と、ゼロ値出力器231と、状態信号生成器233と、出力選択器235とを内蔵する。入力部20−I1には、電流検出手段13の三相/dq軸座標変換器132から検出電流値Iが供給される。入力部20−I2には、外部から電流制限指令値Ilimitが供給される。入力部20−I3には、インバータ周波数ωiが供給される。入力部20−I4には、周波数指令値ω*が供給される。入力部20−I5には、インバータ周波数ωiと周波数指令値ω*と三相電圧指令V*の少なくとも1つが供給される。入力部20−I6には、交流回転機10、すなわちこの実施の形態1では、誘導電動機10Iに対するd軸電流指令id*が供給される。このd軸電流指令id*は、誘導電動機10Iに対する励磁電流であり、電圧指令演算手段153で使用され、この電圧指令演算手段153から供給される。出力部20−Oは、インバータ周波数演算手段17の減算器171へ周波数補正値Δωを出力する。
電流偏差演算器201は、減算器202を含み、この減算器202は、入力部20−I1、20−I2に接続される。電流偏差演算器201は、次の数式5にしたがって、検出電流値Iから電流制限指令値Ilimitを減算し、電流偏差ΔIを出力する。
定数記憶器203は、交流回転機10、この実施の形態1では誘導電動機10Iに関する各種の電気的定数を記憶する。この定数記憶器203に記憶される電気的定数には、少なくとも、誘導電動機10Iの漏れ定数σと、その回転子抵抗R2と、その回転子インダクタンスL2と、その誘導電動機10Iに対する電流制限応答速度の設定値ωxとが含まれる。
増幅ゲイン演算器210は、増幅ゲイン演算部213と、ゼロ値出力器221と、切替信号生成部223と、切替部225とを含む。定数記憶器203に記憶された電気的定数σ、R2、L2、ωxは増幅ゲイン演算部213に供給される。増幅ゲイン演算部213は、定数記憶部203と入力部20−I6に接続される。この増幅ゲイン演算部213は、定数記憶器203から供給された電気的定数σ、R2、L2、ωx、および入力部20−I6に供給されたd軸電流指令id*を用いて、次の数式6、数式7にしたがって、増幅ゲインG1、G2を演算し、これらの増幅ゲインG1、G2を切替部225の入力aへ供給する。
なお、d軸電流指令id*は、次の数式8で与えられる。
この
数式
8において、V
0は交流回転機10、すなわち実施の形態1では誘導電動機10Iの定格電圧、f
0はその基底周波数であり、K
vfは、V/f変換ゲインと呼ばれる。このV/f変換ゲインK
vfは、次の数式9で与えられる。
ゼロ値出力器221は、ゼロ値出力を切替部225の入力bに供給する。切替信号生成部223は入力部20−I5に接続される。切替信号生成部223は、入力部20−I5に供給されるインバータ周波数ωiと周波数指令値ω*と三相電圧指令V*の少なくとも1つに基づいて、交流回転機10、すなわち誘導電動機10Iの運転領域が定トルク領域にあるかどうかを判定し、この判定に基づいて切替信号SSを発生する。切替部225は、増幅ゲイン演算部213に接続された入力aと、ゼロ値出力器221に接続された入力bと、出力cを有する。交流回転機10、すなわち実施の形態1では、誘導電動機10Iが定トルク領域で運転される状態では、切替信号SSは、切替部225がその入力aを選択して出力cに出力するように動作させ、数式6、数式7に示す増幅ゲインG1、G2をその出力cから増幅器230に供給する。交流回転機10、すなわち誘導電動機10Iが定トルク領域から定出力領域に移行した状態では、切替信号SSは、切替部225がその入力bを選択して出力cに出力するように動作させ、ゼロ値出力器221からのゼロ値出力を出力cから増幅器230へ供給する。
増幅器230は、交流回転機10、すなわち誘導電動機10Iが定トルク領域で運転される状態では、増幅ゲイン演算部213から供給された増幅ゲインG1、G2を用いて、次の数式10にしたがって、周波数補正演算値Δωaを演算し、この周波数補正演算値Δωaを出力選択器235の入力aへ出力する。
ゼロ値出力器231は、ゼロ値出力を出力選択器235の入力bへ出力する。出力選択器235は、その入力aと入力bのいずれか一方を選択し、出力cへ出力する。この出力選択器235の出力cは周波数補正値Δωであり、周波数補正値演算手段20の出力部20−Oから、インバータ周波数演算手段17の減算器171へ供給される。この出力選択器235の出力cから出力される周波数補正値Δωは、増幅器230から出力される周波数補正演算値Δωaまたはゼロ値出力器231から出力されるゼロ値出力である。
状態信号生成器233は、入力部20−I1〜20−I4に接続され、入力部20−I1から検出電流値Iが、入力部20−I2から電流制限指令値Ilimitが、入力部20−I3からインバータ周波数ωiが、また入力部20−I4から周波数指令値ω*が供給される。この状態信号生成器233は、まず検出電流値Iと電流制限指令値Ilimitを比較し、その比較の結果、検出電流値Iが電流制限指令値Ilimitよりも大きく、I>Ilimitの関係にあるときには、状態信号CSにより、出力選択器235がその入力aを選択し、この入力aに供給される周波数補正演算値Δωaを、周波数補正値Δωとして出力cに出力するように動作させる。また、状態信号生成器233は、出力選択器235が入力aを選択している状態において、検出電流値Iが電流制限指令値Ilimitよりも小さく、しかもインバータ周波数ωiが周波数指令値ω*よりも大きく、ωi<ω*の関係が否定されたときには、状態信号CSにより、出力選択器235がその入力bを選択し、この入力bに供給されるゼロ値出力を、周波数補正値Δωとして出力するように動作させる。
ここで、座標変換に用いる位相信号θは、インバータ周波数ωiを、次の数式11のように積分することにより、得ることができる。
また、三相/dq軸座標変換器132において、直交するd軸とq軸を含む回転二軸座標上のd軸電流値idとq軸電流値iqのうち、d軸電流値idは位相信号θと同位相の電流成分であり、q軸電流値iqは位相信号θと直交する位相の電流成分であるとする。また、dq軸/三相座標変換器157において、直交するd軸とq軸を含む回転二軸座標上のd軸電圧指令vd*とq軸電圧指令vq*のうち、d軸電圧指令vd*は上記位相信号θと同位相の電圧指令成分であり、q軸電圧指令vq*は位相信号θと直交する位相の電圧指令成分であるとする。
(2)実施の形態1の動作の説明
図1を参照して、誘導電動機10Iに流れる電流を電流制限指令値Ilimitに制限する周波数補正値演算手段20の動作について説明する。周波数補正値演算手段20は、交流回転機10、すなわちこの実施の形態1では誘導電動機10Iが定トルク領域で運転される状態において、誘導電動機10Iに流れる電流が電流制限指令値Ilimitを超えてしまうような運転状態になったときに、インバータ周波数ωiを周波数補正値Δωにより補正することにより、誘導電動機10Iに流れる電流が電流制限指令値Ilimit以上にならないように抑制する機能を有する。
誘導電動機10Iが定トルク領域で運転される状態において、誘導電動機10Iに流れる電流が電流制限指令値Ilimitを超えるような運転状態として、例えば、周波数指令値ω*が時間的に急激に変化する急加速指令値を与えた場合、もしくは急減速指令値を与えた場合、または誘導電動機10Iにインパクト負荷などの急激な負荷変動があった場合が想定される。このような運転状態の場合には、インバータ周波数ωiを減少または増加するよう周波数補正値Δωにより調整することにより、誘導電動機10Iに流れる電流を抑制する。
ここで、交流回転機10に流れる電流が電流制限指令値Ilimitを超えるような場合に、インバータ周波数ωiを調節する動作をストール動作SA、交流回転機10に流れる電流が電流制限指令値Ilimit以下の場合に、周波数指令値ω*に一致するようにインバータ周波数ωiを調節する動作を回復動作RAという。実施の形態1の周波数補正値演算手段20は、誘導電動機10Iが定トルク領域で運転される状態において、誘導電動機10Iに流れる電流が電流制限指令値Ilimitを超えるような運転状態になったときに、インバータ周波数ωiを調整する動作を自動で行なう作用を有する。
具体的には、まず電流偏差演算器201が、数式5にしたがって、電流偏差ΔIを演算する。増幅器230は、交流回転機10、すなわち誘導電動機10Iが定トルク領域で運転される状態では、切替器225が増幅ゲイン演算部213で演算された増幅ゲインG1、G2を出力するので、数式10にしたがって、誘導電動機10Iの電流超過分に応じた周波数補正演算値Δωaを演算によって求める。状態信号生成器233は、まず検出電流値Iと電流制限指令値Ilimitとを比較し、その後、インバータ周波数ωiと周波数指令値ω*を比較し、状態信号CSを発生する。出力選択器235は、状態信号CSに基づき、正常運転状態ではゼロ値出力器231からのゼロ値出力を、また誘導電動機10Iに流れる電流が電流制限指令値Ilimitを超えるような運転状態では、周波数補正演算値Δωaをそれぞれ出力する。
このように状態信号生成器233により、出力選択器235の出力を、ゼロ値出力と周波数補正演算値Δωaとの間で切替制御することにより、図2に示すような電流制限動作が可能となる。図2は、電流制限動作のフローチャートを示す。図2のフローチャートは、スタートに続いて、7つのステップS11〜S17を含む。まずステップS11では、検出電流値Iが電流制限指令値Ilimitよりも大きいかどうかが状態信号生成器233で判定される。その判定結果がyesならば、ステップS12に進む。このステップS12では、出力選択器235が入力aを選択し、周波数補正演算値Δωaを周波数補正値Δωとして出力する。ステップS11の判定結果がnoならば、再びステップS11に戻る。
ステップS12からステップS13に進み、このステップS13において、再び検出電流値Iが電流制限指令値Ilimitよりも大きいかどうかが状態信号生成器233で判定される。その判定結果がyesならば、ステップS14に進み、このステップS14でストール動作SAが実行される。このステップS14でのストール動作SAが終了すれば、再びステップS13に戻る。ステップS13の判定結果がnoならば、ステップS15に進み、このステップS15で回復動作RAが実行される。このステップS15での回復動作RAが終了すれば、ステップS16に進む。
ステップS16では、インバータ周波数ωiが周波数指令値ω*より小さいかどうかが状態信号生成器233で判定される。インバータ周波数ωiが周波数指令値ω*より大きく、ステップS16の判定結果がnoならば、ステップS17に進み、このステップS17において、出力選択器235が入力bのゼロ値出力を選択し、ステップS11に戻る。ステップS16の判定結果がyesならば、ステップS13に戻る。
この図2のフローチャートによれば、検出電流値Iが電流制限指令値Ilimitを越えた場合には、ステップS12〜S15において、増幅器230により演算される周波数補正演算値Δωaを用いて、ストール動作SAと回復動作RAを繰り返し、誘導電動機10Iに流れる電流を電流制限指令値Ilimit以下となるように制御することになる。しかしながら、誘導電動機10Iに流れる電流が電流制限指令値Ilimitを維持すれば、誘導電動機10Iは常に加速を続けることになるため、ステップS16において、インバータ周波数ωiが周波数指令値ω*より大きくなり、ωi<ω*の関係が否定された場合には、ステップS17において、電流制限動作完了として周波数補正値Δωをゼロ値として通常の運転をする。
このように検出電流値Iが電流制限指令値Ilimitを越えた場合に、インバータ周波数ωiを周波数補正演算値Δωaにより補正することにより、誘導電動機10Iの電流の振幅を電流制限指令値Ilimit以下に制限することができ、それ以外では周波数補正値演算手段20の周波数補正値Δωをゼロ値とすることで、周波数指令値ω*に一致した周波数で誘導電動機10Iを制御することができる。
周波数補正値Δωによりインバータ周波数ωiを補正し、誘導電動機10Iの電流を電流制限指令値Ilimit以下に抑制する動作は、あくまでも、増幅器230の増幅ゲインG1、G2が適切に設定されている場合に限られる。例えば、増幅器230の増幅ゲインG1、G2が極端に低めに設定されていた場合には、急激な電流振幅の増大を抑制できずに、過大な電流が誘導電動機10Iに流れてしまう。また、例えば増幅器230の増幅ゲインG1、G2が極端に大きめに設定されていた場合には、制御系全体が不安定となる。このような場合には、電圧印加手段11を構成するインバータがトリップしてしまうという問題がある。
次に増幅ゲイン演算器210について説明する。増幅ゲイン演算器210は、誘導電動機10Iが定トルク領域で運転される状態において、誘導電動機10Iの電気的定数を記憶した定数記憶器203から入力される電気的定数に基づき、増幅器230で用いられる増幅ゲインG1、G2を演算し、これらの増幅ゲインG1、G2を増幅器230に設定する。定数記憶器203から入力される誘導電動機10Iの電気的定数を用いて、増幅ゲインG1、G2を適切に設定することは、実施の形態1の重要な特徴である。
実施の形態1では、誘導電動機10Iが定トルク領域で運転される状態において、誘導電動機10Iの電流超過分に応じた周波数補正演算値Δωaを演算するのに用いられる増幅器230の増幅ゲインG1、G2を、誘導電動機10Iの電気的定数に基づき、誘導電動機10Iに流れる電流を制限するのに適切なゲインとして演算し、増幅器230の増幅ゲインを演算された増幅ゲインG1、G2により自動設定している。この増幅器230は、適切な値に設定された増幅ゲインG1、G2を用いて、数式10にしたがって周波数補正演算値Δωaを演算することにより、過大な電流が誘導電動機10Iに流れてしまう問題、又は、制御系全体が不安定となる問題を解決している。誘導電動機10Iに流れる電流が電流制限指令値Ilimitを超えた場合には、誘導電動機10Iに流れる電流は、数式6、数式7に含まれる電流制限応答速度の設定値ωxに対応する速度で抑制される。
以上のように、実施の形態1では、周波数補正値演算手段20を用いることにより、誘導電動機10Iが定トルク領域で運転される状態において、電気的定数が既知の誘導電動機10Iを駆動する場合、駆動される誘導電動機10Iに対して増幅器230の増幅ゲインG1、G2を適切に設計し、自動設定することができるので、誘導電動機10Iに流れる電流を、任意の電流制限応答速度の設定値ωxで確実に抑制することができ、過大な電流が誘導電動機10Iに流れてしまう問題、又は、制御系全体が不安定となる問題を解決できる。
(3)実施の形態1における増幅ゲインG1、G2を演算する数式6、数式7の導出根拠の説明
次に増幅器230の増幅ゲインG1、G2の演算式である数式6、数式7の導出原理について説明する。図3は、図1に示す実施の形態1において、切替部225がその入力aを選択して出力cに出力し、また、出力選択器235がその入力aに供給される周波数補正演算値Δωaを選択して出力cに出力する場合における制御系の伝達特性をブロック図で表現したものである。図3において、ブロック31で示すGIMは、図1の電圧指令手段15と、電圧印加手段11と、交流回転機10と、電流検出手段13とを含むインバータ周波数ωiから検出電流値I=iqまでの電気系のみの伝達関数である。ブロック32で示すGPIは、増幅器230の伝達関数である。また、ブロック33は、Pm×Kt/(J×s)を示し、Pm、Kt、Jは、それぞれ交流回転機10の極対数、トルク定数、イナーシャであり、これにより機械系を表現する。ωrは、交流回転機10の回転周波数を電気角で表わしたものであり、ブロック33から、交流回転機10の回転周波数ωrが出力される。
伝達特性GIMを表わすブロック31から、検出電流値Iが出力され、この検出電流値Iは、減算器202に供給される。この検出電流値IはI=iqであり、この検出電流値Iは、電圧印加手段11からの出力電流を意味しており、これは交流回転機10の機械系を示すブロック33へも供給され、このブロック33から、交流回転機10の回転周波数ωrが出力される。伝達特性GPIを表わすブロック32には、減算器202から電流偏差ΔIが入力され、このブロック32から、周波数補正値Δωが減算器171へ出力される。減算器171は、減算器34へインバータ周波数ωiを出力する。この減算器34は、ブロック31の入力側に等価的に挿入されるものであり、インバータ周波数ωiから、交流回転機10の回転周波数ωrを減算し、その減算出力をブロック31へ入力する。
図3は、図2において周波数指令値ω*を一定としてブロック図を展開した図であり、この図3から実施の形態1では、検出電流値I=iqが電流制限指令値Ilimitに一致するように、増幅器230によりフィードバック制御をしていることが理解される。図4は、図3の等価ブロック図である。この図4では、左端部に減算器202が位置し、また右端部に伝達特性GIMを示すブロック31が位置し、このブロック31から検出電流値Iが右側へ出力されるように、図3が書き換えられている。この図4において、ブロック35は、伝達特性GIMSYSを表わす。このブロック35は、周波数補正値Δωから検出電流値I=iqまでの伝達関数であり、伝達特性GIMを表わすブロック31と、交流回転機10の機械系を表わすブロック33と、減算器171、34を含む。
実施の形態1における制御系の電流制限性能は、増幅器230の増幅ゲインG1、G2により決まり、その増幅ゲインG1、G2の適切な値は、図4に示す周波数補正値Δωから出力電流I=iqまでの伝達関数GIMSYSの特性から求めることができる。
図5は、実施の形態1において、周波数補正値Δω=0、すなわち周波数指令値ω*=インバータ周波数ωiとし、ω*=ωi=10[Hz]、20[Hz]、30[Hz]、40[Hz]とした場合における伝達特性GIMSYSを示す特性線図である。図5(A)は、出力振幅特性を示し、図5(B)は出力位相特性を示す。図5(A)の出力振幅特性は、伝達特性GIMSYSを表わすブロック35に対して、周波数の変化する所定振幅の入力正弦波にω*=ωiを加えた信号を供給し、そのブロック35から出力される出力信号の振幅の変化を解析した結果を示すもので、横軸は、入力正弦波の周波数を(rad/秒)で表わし、縦軸は、出力信号の振幅を(dB)で表わしたものである。図5(A)の特性m1は、ω*=ωi=10[Hz]とした場合の特性、特性m2は、ω*=ωi=20[Hz]とした場合の特性、特性m3は、ω*=ωi=30[Hz]とした場合の特性、特性m4は、ω*=ωi=40[Hz]とした場合の特性である。
図5(B)の出力位相特性は、伝達特性GIMSYSを表わすブロック35に対して、周波数の変化する所定振幅の入力正弦波にω*=ωiを加えた信号を供給し、そのブロック35からの出力される出力信号の位相の変化を解析した結果を示すもので、横軸は、入力正弦波の周波数を(rad/秒)で表わし、縦軸は、出力信号の位相を(deg)で表わしたものである。図5(B)の特性p1は、ω*=ωi=10[Hz]とした場合の特性、特性p2は、ω*=ωi=20[Hz]とした場合の特性、特性p3は、ω*=ωi=30[Hz]とした場合の特性、特性p4は、ω*=ωi=40[Hz]とした場合の特性である。
図5(A)において、特性m1は、ω*=ωi=10[Hz]≒60[rad/秒]の近傍で、特性m2は、周波数指令値ω*=ωi=20[Hz]≒120[rad/秒]の近傍で、特性m3は、周波数指令値ω*=ωi=30[Hz]≒180[rad/秒]の近傍で、また、特性m4は、周波数指令値ω*=ωi=40[Hz]≒240[rad/秒]の近傍で、それぞれ急峻な特性変化があり、この急峻な特性変化よりも低周波数領域においては、ハイパスフィルタがかかったように約20(dB/decade)で振幅が低下するが、全体的には、その急峻な特性変化の高周波数領域において、エリアAに示すような一次遅れの特性が支配的となることが理解される。
そこで、伝達特性GIMSYS≒GIMとして、伝達特性GIMを誘導電動機10Iの電圧方程式を線形化することで以下のように導出する。まず、誘導電動機10Iの電圧方程式より、q軸電流値iqを表わすと、次の数式12となる。
ただし、数式12において、idは誘導電動機10Iのd軸電流値、R1は誘導電動機10Iの固定子抵抗、iqは誘導電動機10Iのq軸電流値、R2は誘導電動機10Iの回転子抵抗、φd2は誘導電動機10Iの回転子磁束のd軸成分、L1は誘導電動機10Iの固定子インダクタンス、vqは誘導電動機10Iの固定子電圧のq軸電圧、L2は誘導電動機10Iの回転子インダクタンス、σは誘導電動機10Iの漏れ定数、Mは誘導電動機10Iの相互インダクタンス、ωrは誘導電動機10Iの回転周波数(電気角)、ωiは、誘導電動機10Iのインバータ周波数(電気角)である。
ここで、誘導電動機10Iの伝達特性において、インバータ周波数ωiの近傍における急峻な特性変化は、d−q軸間の干渉特性に起因する。q軸電流値iqを表わす数式12において、その第二項はd軸電流値idを含んでおり、この第二項は、d−q軸間の干渉成分である。したがって、数式12の第二項を0とすることで、インバータ周波数ωiの近傍で急峻な特性変化を考慮しない伝達特性を導出することができる。ここで、数式12の第二項を0とし、加えて、理想電源であると仮定してvq=vq*とした場合、次の数式13を得ることができる。
また、上記q軸電圧指令vq*の電圧演算式は数式4であり、数式13に数式4を代入して、次の数式14となる。
この数式14から、次の数式15を得る。
したがって数式15に基づいて、インバータ周波数ωiからq軸電流値iqまでの伝達特性GIMのDCゲインKと、折れ点周波数1/Tは、それぞれ次の数式16、数式17のようになる。
伝達特性GIMのDCゲインKは、図5(A)に横軸と平行な点線で例示され、また、その折れ点周波数1/Tは、図5(A)(B)に縦軸と平行な点線で例示される。
なお、図3、図4に示す周波数補正値Δωとインバータ周波数ωiとの関係式は、数式2であり、ここで入力である周波数指令値ω*が一定であれば、周波数補正値Δωからq軸電流値iqまでの伝達特性は、上記伝達特性GIMにマイナスの符号を付けた−GIMとなる。
次に、上記伝達特性GIMを用いて電流制限時の電流制限応答速度がωxとなるよう増幅器230の増幅ゲインG1、G2を設定する。増幅器230の伝達特性GPIは、数式10から、次の数式18となる。ここで、GIM×GPIの開ループ伝達特性がωx/sとなるよう増幅ゲインG1、G2を設定することにより、電流制限時の電流制限応答速度がωxとなる。
次の数式19の関係式から、増幅器230の増幅ゲインG1、G2が、次の数式20と数式21のように求まる。数式20により数式6が、数式21により数式7が得られる。
以上の通り、増幅器230における周波数補正演算値Δωaの演算式である数式10において、数式6、数式7に示す増幅ゲインG1、G2を用いることにより、電流制限時の電流制限応答速度を、設定値ωxとすることができる。
また、誘導電動機10Iの伝達特性GIMの折れ点周波数である1/Tが、電流制限応答速度設定値ωxの1/5以下で十分小さい場合、増幅ゲインG2の演算式を数式7と数式21に代わり、次の数式22とすることにより、低周波数領域の増幅ゲインを高くすることができ、特性改善をすることができる。
なお、上述したように、交流回転機10、実施の形態1では誘導電動機10Iが定トルク領域で運転される状態において、誘導電動機10Iに流れる電流が電流制限指令値Ilimitを超えるような運転状態として、例えば、周波数指令値ω*が時間的に急激に変化する急加速指令値を与えた場合、もしくは急減速指令値を与えた場合、誘導電動機10Iにインパクト負荷などの急激な負荷変動があった場合がある。したがって、電流制限時の電流制限応答速度の設定値ωxの設定指針としては、このような急激な電流変動に対して確実に誘導電動機10Iに流れる電流を電流制限指令値Ilimit内に制限するために、電流制限時の電流制限応答速度の設計値であるωxを、インバータ周波数ωi以上で、できるだけ高めに設定することが望ましい。
(4)実施の形態1における誘導電動機10Iの運転領域の説明
図6は、交流回転機10について、その運転領域を説明する説明図である。図6(A)は、交流回転機10の電源角周波数と出力との関係を示すグラフであり、図6(B)は、交流回転機10の電源角周波数とトルクとの関係を示すグラフである。図6(A)(B)の横軸は、交流回転機10の電源角周波数を示し、図6(A)(B)で共通に、交流回転機10の電源角周波数を示す。図6(A)の縦軸は、交流回転機10の出力を、また図6(B)の縦軸は、そのトルクを示す。
図6(A)(B)には、定トルク領域CTAと、定出力領域COAが示される。定トルク領域CTAは、図6(B)に示すように、交流回転機10が定トルクで運転される領域である。交流回転機10の内部で発生する誘起電圧をE、電圧印加手段11による交流回転機10の駆動電圧をVとし、その駆動周波数をfとしたとき、(E/f)または(V/f)を一定に保ちながら交流回転機10を駆動すれば、交流回転機10の磁束はほぼ一定になり、誘導電動機10では、すべり周波数を一定とすれば、トルクは回転速度に関係なく一定となる定トルク運転が可能となる。このような定トルク運転を行なう領域が、定トルク領域CTAである。なお、同期電動機では、すべり周波数はゼロであり、すべり周波数を一定にしたと同じことになり、(E/f)または(V/f)を一定に保ちながら同期電動機を駆動すれば、同様に定トルク領域CTAで運転される。
一方、(E/f)または(V/f)の比を一定に保ちつつ、インバータ周波数ωiを増加させ、このインバータ周波数ωiが基底周波数に到達すると、電源の制約から、駆動電圧Vを増加させることができなくなり、定トルク領域CTAから外れることになり、この駆動電圧Vを一定に保ちながら駆動周波数fを上昇させると、交流回転機10の入力は一定で、トルクはインバータ周波数ωiに反比例し、出力がほぼ一定となる定出力運転が可能となる。このような定出力運転を行なう領域が、定出力領域COAである。
実施の形態1は、交流回転機10を誘導電動機10Iとしたものであるが、この実施の形態1で説明した伝達特性GIMは、定トルク領域CTAを対象とした伝達特性であり、数式6と数式7、および数式20と数式21による増幅ゲインG1、G2も、定トルク領域CTAでは適切であるが、定出力領域COAでは、不適切な値となる。このため、実施の形態1において、切替部225は、切替信号生成部223の切替信号SSにより、誘導電動機10Iが定出力領域COAで運転される状態では、ゼロ値出力器221からのゼロ値出力を選択し、増幅器230の増幅ゲインG1、G2をゼロにし、増幅器230の周波数補正演算値Δωaをゼロとする。結果として、実施の形態1は、誘導電動機10Iが定トルク領域CTAで運転される状態において、誘導電動機10Iに流れる電流を、電流制限応答速度の設定値ωxで制限するのに有効である。
実施の形態1の変形例1A.
実施の形態1では、交流回転機10を誘導電動機10Iにより構成したが、これに限定されるものではなく、交流回転機10を、その他の交流回転機、例えば同期電動機10Sで構成しても、同様な効果を得ることができる。
図7は、この変形例1Aによる交流回転機の制御装置を示すブロック図である。この変形例1Aは、図1に示す実施の形態1における交流回転機10を同期電動機10Sに置き換え、電圧指令手段15を電圧指令手段15Aに置き換え、インバータ周波数演算手段17をインバータ周波数演算手段17Aに置き換え、さらに安定化用ハイパスフィルタ40を追加したものである。この変形例1Aにおいて、電圧印加手段11と、電流検出手段13と、周波数補正値演算手段20とは、実施の形態1と同じに構成される。電圧指令手段15A、インバータ周波数演算手段17A、および安定化用ハイパスフィルタ40は、例えばマイクロコンピュータにより構成される。
図7に示す変形例1Aでは、安定化用ハイパスフィルタ40は、電流検出手段13から検出電流値I=iqを受けて、周波数安定化用高周波成分ωhighを出力する。この変形例1Aにおけるインバータ周波数演算手段17Aは、2つの減算器171、172を含み、周波数指令値ω*と、周波数補正値演算手段20からの周波数補正値Δωと、安定化用ハイパスフィルタ40からの周波数安定化用高周波成分ωhighとに基づいて、インバータ周波数ωiを演算し、このインバータ周波数ωiを電圧指令手段15Aに供給する。減算器171には、周波数指令値ω*と、周波数補正値演算手段20から周波数補正値Δωが供給され、周波数指令値ω*から周波数補正値Δωを減算し、その減算出力ω*−Δωを減算器172に供給する。減算器172には、さらに安定化用ハイパスフィルタ40から周波数安定化用高周波成分ωhighが供給され、この減算器172は、減算出力ω*−Δωからさらに周波数安定化用高周波成分ωhighを減算し、次の数式23にしたがって、インバータ周波数ωiを演算し、このインバータ周波数ωiを電圧指令手段15Aへ供給する。
変形例1Aにおける電圧指令手段15Aは、実施の形態1と同様に、(E/f)一定制御方式として構成され、(E/f)一定制御方式の電圧指令演算手段154と、dq軸/三相座標変換器157を有する。電圧指令演算手段154は、インバータ周波数演算手段17Aからのインバータ周波数ωi、および電流検出手段13の三相/dq軸座標変換器132からのd軸電流値idとq軸電流値iqに基づいて、次の数式24と数式25にしたがって、d軸電圧指令vd*とq軸電圧指令vq*を演算し、それを出力する。
数式24、数式25において、Rは同期電動機10Sの電機子抵抗[Ω]、φ
fは同期電動機10Sの磁石磁束[Wb]である。
変形例1Aでは、周波数補正値演算手段20の増幅ゲイン演算部213は、次の数式26と数式27にしたがって、増幅ゲインG1、G2を演算する。
これらの数式26と数式27において、L
qは同期電動機10Sのq軸インダクタンス[H]であり、K
hは安定化用ハイパスフィルタ40のゲインであり、また、ω
xは電流制限応答速度の設定値である。同期電動機10Sに関する電気的定数、具体的には、同期電動機10Sのq軸インダクタンスL
qと、磁石磁束φ
fと、安定化用ハイパスフィルタ40のゲインK
hと、電流制限応答速度の設定値ω
xは、定数記憶器203に記憶され、増幅ゲイン演算部213に供給される。
変形例1Aにおける数式26と数式27の導出原理の説明について説明する。この変形例1Aでは、数式13から数式17が、次の数式28から数式32に代えられる。先ず、変形例1Aでは、同期電動機10Sのq軸電流値iqは、次の数式28で与えられる。この数式28は、実施の形態1における数式13に代わる数式である。
この数式28のq軸電圧指令vq*に、数式25を代入して次の数式29となる。この数式29は、実施の形態1における数式14に代わる数式である。
この数式29から、次の数式30を得る。この数式30は、実施の形態1における数式15に代わる数式である。
数式30から、伝達特性のDCゲインKと、折れ点周波数1/Tは、それぞれ次の数式31と数式32のようになる。この数式31と数式32は、実施の形態1における数式16と数式17に代わる数式である。
数式31と数式32に基づいて、変形例1Aでは、増幅ゲインG1、G2は、次の数式33と数式34の通り与えられる。この数式33と数式34は、実施の形態1における数式20と数式21に相当する数式であり、これらの数式33と34から、数式26と数式27が得られる。
この変形例1Aにおいても、実施の形態1と同様に、周波数補正値演算手段20を用いることにより、同期電動機10Sが定トルク領域CTAで運転される状態において、電気的定数が既知の同期電動機10Sを駆動する場合、駆動される同期電動機10Sに対して増幅器230の増幅ゲインG1、G2を適切に設計し、自動設定することができるので、同期電動機10Sに流れる電流を、任意の電流制限応答速度の設定値ωxで確実に抑制することができ、過大な電流が同期電動機10Sに流れてしまう問題、又は、制御系全体が不安定となる問題を解決できる。
実施の形態2.
図8は、この発明による交流回転機の制御装置の実施の形態2を示すブロック図である。この実施の形態2では、実施の形態1における電圧指令手段15が、電圧指令手段15Bに置き換えられる。この電圧指令手段15Bは、(V/f)一定制御方式の電圧指令手段とされ、具体的には、(V/f)一定制御方式の電圧指令演算手段155と、dq軸/三相座標変換器157を有する。実施の形態2は、その他は、実施の形態1と同じに構成され、交流回転機10は、誘導電動機10Iにより構成される。電圧指令手段15Bは、例えばマイクロコンピュータにより構成される。
実施の形態2において、電圧指令演算手段155は、次の数式35に基づいて、d軸電圧指令vd*=0を出力し、また、電流検出手段13からのq軸電流値iqと、インバータ周波数演算手段17からのインバータ周波数ωiに基づいて、次の数式36にしたがって、q軸電圧指令vq*を演算し、これらのd軸電圧指令vd*とq軸電圧指令vq*を、dq軸/三相座標変換器157に供給する。
数式36におけるid*はd軸電流指令であり、誘導電動機10Iに対する励磁電流の指令値である。このd軸電流指令id*は、誘導電動機10Iの仕様が異なれば、それに対応して変えられるが、誘導電動機10Iの仕様が固定されれば、一定の値となる。この実施の形態2では、数式35に示すようにd軸電圧指令vd*は0であり、加えて、誘導電動機10Iの仕様が決まれば、d軸電流指令id*も固定値となるので、数式36から明らかなように、q軸電圧指令vq*は、インバータ周波数ωiに比例して変化し、結果として、電圧印加手段11からの駆動電圧Vと駆動周波数fとの比を一定に保持するように制御され、(V/f)一定制御方式で制御が実行される。
この実施の形態2では、周波数補正値演算手段20における増幅ゲイン演算器210の増幅ゲイン演算部213は、次の数式37と数式38にしたがって、増幅ゲインG1、G2を演算し、これらの増幅ゲインG1、G2を、誘導電動機10Iが定トルク領域で運転される状態において、増幅器230にその増幅ゲインとして供給する。
この実施の形態2では、誘導電動機10Iの漏れ定数σと、その固定子抵抗R1と、その固定子インダクタンスL1と、電流制限応答速度の設定値ωxは、定数記憶器203から増幅ゲイン演算部213に供給され、またd軸電流指令id*は、入力部20−I6を経由して、電圧指令演算手段155から増幅ゲイン演算部213に供給される。増幅ゲイン演算部213は、これらのσ、R1、L1、ωxおよびid*に基づいて、増幅ゲインG1、G2を数式37と数式38にしたがって演算し、増幅器230に供給する。
実施の形態2においても、誘導電動機10Iが定トルク領域で運転される状態において、増幅器230が、増幅ゲインG1、G2を用いて、数式10にしたがって周波数補正演算値Δωaを演算することにより、実施の形態1と同様な効果を得ることができる。
実施の形態2における増幅ゲインG1、G2の演算式37、38の導出根拠については、数式13に対して、数式36で与えられるq軸電圧指令vq*を代入することにより、数式14〜数式23と類似した式を展開することにより、数式37と数式38を得ることができる。
すなわち、まず実施の形態2では、数式36を数式13に代入することにより、次の数式39が得られる。
この数式39から、次の数式40を得る。
したがって数式40よりインバータ周波数ωiからq軸電流値iqまでの伝達特性GIMのDCゲインKと、折れ点周波数1/Tは、それぞれ次の数式41と数式42のようになる。
数式20に数式41と数式42式を代入することにより次の数式43が得られ、また数式21に数式42を代入することにより次の数式44が得られる。
なお、数式44では、R1×L2≫(1−σ)×R2×L1であるので、(1−σ)×R2×L1を0と見做している。数式43により数式37が得られ、数式44により数式38が得られる。実施の形態2では、増幅ゲインG1、G2を数式37と数式38により演算することにより、実施の形態1と同様な効果が得られる。
以上の通り、実施の形態2では、誘導電動機10Iが定トルク領域で運転される状態において、増幅器230の演算式である数式10において、数式37と数式38に示す増幅ゲインG1、G2を用いることにより、電流制限時の電流制限応答速度を、設定値ωxとすることができる。
実施の形態2の変形例2A.
実施の形態2では、交流回転機10を誘導電動機10Iにより構成したが、これに限定されるものではなく、交流回転機10を、その他の交流回転機、例えば同期電動機10Sで構成しても、同様な効果を得ることができる。
図9は、この実施の形態2の変形例2Aによる交流回転機の制御装置を示すブロック図である。この実施の形態2の変形例2Aは、実施の形態2における交流回転機10を同期電動機10Sに置き換え、電圧指令手段15Bを電圧指令手段15Cに置き換え、インバータ周波数演算手段17をインバータ周波数演算手段17Aに置き換え、さらに安定化用ハイパスフィルタ40を追加したものである。この変形例2Aにおいて、電圧印加手段11と、電流検出手段13と、周波数補正値演算手段20とは、実施の形態2と同じに構成される。電圧指令手段15Cも、例えばマイクロコンピュータにより構成される。
図9に示す実施の形態2の変形例2Aでは、安定化用ハイパスフィルタ40は、電流検出手段13から検出電流値I=iqを受けて、周波数安定化用高周波成分ωhighを出力する。変形例2Aにおけるインバータ周波数演算手段17Aは、2つの減算器171、172を含み、周波数指令値ω*と、周波数補正値演算手段20からの周波数補正値Δωと、安定化用ハイパスフィルタ40からの周波数安定化用高周波成分ωhighとに基づいて、インバータ周波数ωiを演算し、このインバータ周波数ωiを電圧指令手段15Cに供給する。減算器171には、周波数指令値ω*と、周波数補正値Δωが供給され、周波数指令値ω*から周波数補正値Δωを減算し、その減算出力ω*−Δωを減算器172に供給する。減算器172には、さらに安定化用ハイパスフィルタ40から周波数安定化用高周波成分ωhighが供給され、この減算器172は、減算出力ω*−Δωからさらに周波数安定化用高周波成分ωhighを減算し、数式23にしたがって、インバータ周波数ωiを演算し、このインバータ周波数ωiを電圧指令手段15Cへ供給する。
変形例2Aにおける電圧指令手段15Cは、(V/f)一定制御方式の電圧指令手段として構成され、図9に示すように、(V/f)一定制御方式の電圧指令演算手段156と、dq軸/三相座標変換器157を有し、電圧指令演算手段156は、インバータ周波数演算手段17Aからのインバータ周波数ωiに基づいて、次の数式45と数式46にしたがって、d軸電圧指令vd*とq軸電圧指令vq*を演算し、それをdq軸/三相座標変換器157へ出力する。
数式46において、φ
fは同期電動機10Sの磁石磁束[Wb]である。
実施の形態2の変形例2Aでは、周波数補正値演算手段20の増幅ゲイン演算部213は、次の数式47と数式48にしたがって、増幅ゲインG1、G2を演算する。
これらの数式47と数式48において、Lqは同期電動機10Sのq軸インダクタンス[H]、Rはその電機子抵抗[Ω]、Khは安定化用ハイパスフィルタ40のゲインであり、また、ωxは、実施の形態2において使用されたと同じ電流制限応答速度の設定値である。同期電動機10Sに関する電気的定数、具体的には、同期電動機10Sのq軸インダクタンスLqと、その磁石磁束φfと、その電機子抵抗Rと、安定化用ハイパスフィルタ40のゲインKhと、電流制限応答速度の設定値ωxは、定数記憶器203に記憶され、増幅ゲイン演算部213に供給される。
変形例2Aにおける数式47と数式48は、実施の形態1の変形例1Aにおける数式33と数式38と同様にして導出されるが、その導出原理の説明は省略する。この変形例2Aにおいても、周波数補正値演算手段20を用いることにより、同期電動機10Sが定トルク領域で運転される状態において、電気的定数が既知の同期電動機10Sを駆動する場合、駆動される同期電動機10Sに対して増幅器230の増幅ゲインG1、G2を適切に設計し、自動設定することができるので、同期電動機10Sに流れる電流を、任意の電流制限応答速度の設定値ωxで確実に抑制することができ、過大な電流が同期電動機10Sに流れてしまう問題、又は、制御系全体が不安定となる問題を解決できる。
なお、実施の形態1とその変形例1A、実施の形態2とその変形例2Aでは、電流検出手段13は、交流回転機10を流れる三相電流の全ての相電流iu、iv、iwを検出する構成を示したが、例えばこれらの三相電流のうち二相の電流を検出しても良く、また、電圧印加手段11の母線電流を検出し、その検出値に基づいて交流回転機10を流れる三相電流を検出する構成とすることもできる。更に、周波数補正値演算手段20へ出力する検出電流値Iについては、I=iqとする構成としたが、例えば、次の数式49にしたがって、検出電流値Iを演算することにより、交流回転機10に流れる三相電流の実効値を出力することもでき、また、電圧印加手段11の母線電流を検出し出力することもできる。
実施の形態3.
(1)実施の形態3の構成の説明
図10は、この発明による交流回転機の制御装置の実施の形態3の構成を示すブロック図である。この実施の形態3による交流回転機の制御装置は、実施の形態1における周波数補正値演算手段20を、周波数補正値演算手段20Aに置き換えたものである。実施の形態3における交流回転機10は、実施の形態1と同様に誘導電動機10Iにより構成され、電圧印加手段11と、電流検出手段13と、電圧指令手段15と、インバータ周波数演算手段17は、実施の形態1と同じに構成される。周波数補正値演算手段20Aも、例えばマイクロコンピュータにより構成される。
この実施の形態3の周波数補正値演算手段20Aは、5つの入力部20−I1〜20−I5と、1つの出力部20−Oを有する。この周波数補正値演算手段20Aでは、実施の形態1の周波数補正値演算手段20における入力部20−I6が削除されている。実施の形態1と同様に、入力部20−I1には、電流検出手段13の三相/dq軸座標変換器132から検出電流値Iが供給され、入力部20−I2には、外部から電流制限指令値Ilimitが供給され、入力部20−I3には、インバータ周波数ωiが供給され、入力部20−I4には、周波数指令値ω*が供給され、入力部20−I5には、インバータ周波数ωiと周波数指令値ω*と三相電圧指令V*の少なくとも1つが供給される。また、出力部20−Oは、インバータ周波数演算手段17の減算器171へ周波数補正値Δωを供給する。
実施の形態3における周波数補正値演算手段20Aは、電流偏差演算器201と、定数記憶器203と、増幅ゲイン演算器210Aと、増幅器230と、ゼロ値出力器231と、状態信号生成器233と、出力選択器235を内蔵する。実施の形態3における電流偏差演算器201と、定数記憶器203と、増幅器230と、ゼロ値出力器231と、状態信号生成器233と、出力選択器235は、実施の形態1と同じに構成される。増幅ゲイン演算器210Aは、実施の形態1の増幅ゲイン演算器210を置き換えたものである。実施の形態3における増幅ゲイン演算器210Aは、増幅ゲイン演算部214と、ゼロ値出力器221と、切替信号生成器223と、切替部225を有する。増幅ゲイン演算部214は、切替部225の入力bに接続され、ゼロ値出力器221は、切替部225の入力部aに接続される。
実施の形態3における増幅ゲイン演算部214には、入力部20−I3からインバータ周波数ωiが供給され、また、定数記憶器203から誘導電動機10Iの電気的定数が供給される。この増幅ゲイン演算部214は、これらのインバータ周波数ωiおよび誘導電動機10Iの電気的定数に基づいて、次の数式50と数式51にしたがって、増幅器230のゲインG1、G2を演算し、この増幅ゲインG1、G2を増幅器230に供給する。
なお、数式50、数式51において、σは誘導電動機10Iの漏れ定数、R1はその固定子抵抗、R2はその回転子抵抗、L1はその固定子インダクタンス、V0は誘導電動機10Iの定格電圧、ωiはインバータ周波数である。誘導電動機10Iの漏れ定数σ、その固定子抵抗R1、その回転子抵抗R2、その固定子インダクタンスL1、その定格電圧V0は、定数記憶器203に記憶され、増幅ゲイン演算部214に供給される。インバータ周波数ωiは、入力部20−I3から増幅ゲイン演算部214に供給される。
(2)実施の形態3における誘導電動機10Iの運転領域の説明
インバータを用いて構成される電圧印加手段11により、交流回転機10を駆動する場合、交流回転機10の運転領域は、図6に示した通り、定トルク領域CTAと、定出力領域COAを含む。実施の形態1、実施の形態1の変形例1A、実施の形態2、および実施の形態2の変形例2Aで利用した伝達特性GIMは定トルク領域を考慮した伝達特性であり、それを基にして設計した増幅器ゲインでは三相交流駆動電圧Vuvwの駆動電圧値Vが一定となる定出力領域において所望の電流制限性能を得ることができないので、交流回転機10が定出力領域COAで運転される状態において、切替部225からゼロ値出力を増幅器230に供給し、増幅ゲインG1、G2をゼロとしている。この実施の形態3は、交流回転機10が定出力領域COAで運転されている状態において、所望の電流制限性能を得ることができるようにしたものである。
(3)実施の形態3の動作の説明
誘導電動機10Iを定出力領域COA領域において運転する状態において、増幅ゲイン演算器210Aは、増幅器230のゲインG1、G2を数式50、数式51にしたがって演算する。
このように構成される周波数補正値演算手段20Aによれば、電気的定数が既知である誘導電動機10Iを駆動する場合、定出力領域COAにおいて駆動される誘導電動機10Iに対して、増幅器230の増幅ゲインG1、G2を適切に設計し、オンラインで設定することができるので、誘導電動機10Iに流れる電流を電流制限応答速度の設定値ωxに抑制することができる。これにより、誘導電動機10Iが定出力領域COAにおいて運転されている状態において、所望の電流制限性能を得ることができる。なお、実施の形態3では、交流回転機、すなわち誘導電動機10Iが定トルク領域CTAで運転される状態では、増幅ゲイン演算手段210Aの切替部225は、ゼロ値出力器221からのゼロ値を増幅器230へ出力する。
この実施の形態3において、電流制限応答速度の設定値ωxは、次の数式52により与えられる。
この電流制限応答速度の設定値ωxは、定数記憶器203にωxの設定値として記憶しても、また、定数記憶器203に記憶された固定子抵抗R1、固定子インダクタンスL1、漏れ定数σから、増幅ゲイン演算部214で演算することもできる。
(4)実施の形態3における増幅ゲインG1、G2を演算する数式50、数式51の導出根拠の説明
次に定出力領域COAにおける増幅器230の増幅ゲインG1、G2の設計式である数式50、51の導出原理について説明する。数式50、数式51の導出過程は、実施の形態1と同様で、定出力領域COAで駆動している誘導電動機10Iの伝達特性GIMから定出力領域COAにおける増幅器230の増幅ゲインG1、G2の設計をする。
図11は、誘導電動機10Iの運転領域が定トルク領域CTAとなる周波数指令値ω*=インバータ周波数ωi=40[Hz]と、誘導電動機10Iの運転領域が定出力領域COAとなる周波数指令値ω*=インバータ周波数ωi=50[Hz]、100[Hz]、150[Hz]、200[Hz]で誘導電動機10Iを駆動した場合において、図4に示す周波数補正値Δωから検出電流値I=iqまでの伝達特性GIMSYSを示す特性線図である。図11(A)は、伝達特性GIMSYSの出力振幅特性を示し、図11(B)は、伝達特性GIMSYSの出力位相特性を示す。図11(A)の出力振幅特性は、その伝達関数GIMSYSを表わすブロック35に対して、周波数の変化する所定振幅の入力正弦波にω*=ωiを加えた信号を供給し、そのブロック35から出力される出力信号の振幅の変化を解析した結果を示すもので、横軸は、入力正弦波の周波数を(rad/秒)で表わし、縦軸は、出力信号の振幅を(dB)で表わしたものである。図11(A)の特性m4は、ω*=ωi=40[Hz]とした場合の特性、特性m5は、ω*=ωi=50[Hz]とした場合の特性、特性m6は、ω*=ωi=100[Hz]とした場合の特性、特性m7は、ω*=ωi=150[Hz]とした場合の特性、特性m8は、ω*=ωi=200[Hz]とした場合の特性である。
図11(B)の出力位相特性は、伝達関数GIMSYSを表わすブロック35に対して、周波数の変化する所定振幅の入力正弦波にω*=ωiを加えた信号を供給し、そのブロック35から出力される出力信号の位相の変化を解析した結果を示すもので、横軸は、入力正弦波の周波数を(rad/秒)で表わし、縦軸は、出力信号の位相を(deg)で表わしたものである。図11(B)の特性p4は、ω*=ωi=40[Hz]とした場合の特性、特性p5は、ω*=ωi=50[Hz]とした場合の特性、特性p6は、ω*=ωi=100[Hz]とした場合の特性、特性p7は、ω*=ωi=150[Hz]とした場合の特性、特性p8は、ω*=ωi=200[Hz]とした場合の特性である。
なお、図11(A)(B)において、縦軸と平行な鎖線f5、f6、f7、f8は、それぞれ周波数50[Hz]、100[Hz]、150[Hz]、200[Hz]をプロットして示している。
図11(A)から、定出力領域COAの伝達特性は、定トルク領域CTAの伝達特性である一次遅れ特性と大きく異なることが理解される。また、インバータ周波数ωi以上の周波数帯域で急激な特性変化が起こり、図11(A)の出力振幅が−20dB/decade以下の傾きで急激に低下する。全体的には複雑な伝達特性となるが、インバータ周波数ωi以下の帯域では一次遅れの特性となることが理解される。また、インバータ周波数ωiが上昇するにつれて伝達特性のDCゲインが低下することが理解される。
定出力領域COAにおける伝達特性GIMは、誘導電動機10Iの電圧方程式をvq*=V0として線形化することにより次の数式53のように記述することができる。
なお、数式53において定数は、すべて誘導電動機10Iの電気的定数から決まる値である。
また、実施の形態1では、インバータ周波数ωiよりも高い周波数領域において電流制限時の電流制限応答速度ωxを設定することで高応答な電流制限が実現できるとしたが、定出力領域COAにおける伝達特性GIMは、図11(A)に示す出力振幅が−20dB/decade以下の傾きで急激に低下し、一次遅れ特性とはならない。また、位相に関しては、図11(B)の横軸と平行な直線φ−180に示す−180°以下となるため、実施の形態1に示した増幅器230のゲインG1、G2の設計では制御系が不安定化してしまう。これらの現象が、交流回転機10が定出力領域COAにおいて運転されている場合、(E/f)一定制御方式の電圧指令手段15、15Aを用いても所望の電流制限性能を得ることができないという問題の原因である。
実施の形態3では、図11(A)において一次遅れの特性を示すインバータ周波数ωi以下の周波数帯域で増幅器230のゲインを設計する。具体的には、数式53からインバータ周波数ωi以下の周波数帯域において一致する一次遅れ特性を示す伝達特性を導出し、ここで導出した伝達特性から増幅器230の増幅ゲインを設計する。
数式53を数式15と同様に、K/(1+T×s)に近似する。この場合、先ず数式53におけるラプラス演算子sをゼロとすることにより、次の数式54が得られ、これがDCゲインKとなる。
また、数式53に含まれる一次遅れ特性を抽出すると、この一次遅れ特性は、次の数式55で表わされる。
一次遅れ特性に近似した伝達特性G
IMは、数式54と数式55とを総合したものとなり、数式55の分母に含まれるσ×L
1/R
1の逆数が折れ点周波数1/Tになる。すなわち、折れ点周波数1/Tは、次の数式56で与えられる。
数式55と数式56から、数式20と数式21と同様にして、実施の形態3における増幅ゲインG1、G2は、次の数式57と数式58で与えられる。
ここで、定出力領域COAにおける伝達関数GIMの特性を考慮すると、数式57と数式58において、電流制限時の電流制限応答速度の設定値ωxをインバータ周波数ωiよりも小さい周波数に設定することで安定性を確保することができる。電流制限応答速度の設定値ωxの設定の目安としては、インバータ周波数ωiの1/5程度が良い。さらに、図11(A)に示す定出力領域COAにおける伝達特性GIMの特性では、インバータ周波数ωiが上昇するにつれて、インバータ周波数ωiの周波数帯が現われる出力振幅のピークが大きくなる傾向がある。このピーク値は伝達特性GIMの特性において、一次遅れ特性の振幅が、折れ点周波数1/Tにおける振幅と一致するか、それ以下となる。すなわち、電流制限応答速度の設定値ωxを、数式52に示す通り、一次遅れ特性の折れ点周波数(1/T)=R1/(σ×L1)とすることで、常に電流制限時の制御系を安定領域に納めることができる。この場合、制御系のゲイン余裕は3dB以上を確保することができる。
したがって、定出力領域COAにおける伝達特性GIMの特性を考慮して、増幅器230のゲインG1、G2を設計すると、数式57と数式58に、数式52を代入することにより、数式50と数式51が得られる。
ただし、一次遅れ特性の折れ点周波数(1/T)=R1/(σ×L1)が、インバータ周波数ωiよりも1/5以上離れていない場合は、電流制限応答速度の設定値ωxをωx=ωi/5として設計することで安定化することが可能である。この時、増幅器230のゲインG1、G2を設計する数式50と数式51は、ωx=ωi/5を代入して次の数式59と数式60として示すことができる。
このように、定出力領域COAにて駆動する誘導電動機10Iの電流を電流制限指令値Ilimitに制限する場合には、誘導電動機10Iを駆動するインバータ周波数ωiに応じて、上記に示す増幅器ゲインを用いることで、確実な電流制限性能を得ることが可能となる。なお、実施の形態3では、各ゲインG1、G2の演算にインバータ周波数ωiを用いたが、インバータ周波数ωiの代わりに周波数指令値ω*を使用しても同様の効果を得ることができる。
実施の形態3の変形例3A.
実施の形態3は、交流回転機10を誘導電動機10Iにより構成するものであるが、この変形例3Aは、実施の形態3における交流回転機10を他の交流回転機、例えば同期電動機10Sで構成するものである。
図12は、この変形例3Aによる交流回転機の制御装置を示すブロック図であり、交流回転機10は、同期電動機10Sで構成される。この変形例3Aでは、図10に示す実施の形態3に対し、さらに安定化用ハイパスフィルタ40が追加され、また、実施の形態3における電圧指令手段15が電圧指令手段15Aに置き換えられ、インバータ周波数演算手段17が、インバータ周波数演算手段17Aに置き換えられる。安定化用ハイパスフィルタ40、電圧指令手段15Aおよびインバータ周波数演算手段17Aは、図7に示す実施の形態1の変形例1Aと同じである。変形例3Aは、その他は、実施の形態3と同じに構成される。
この実施の形態3の変形例3Aでは、実施の形態3における数式50と数式51および数式59と数式60を、同期電動機10Sに対応して変更して増幅ゲインG1、G2を演算し、同期電動機10Sが定出力領域COAで運転される状態で、その増幅ゲインG1、G2を増幅器230に供給する。なお、実施の形態3の変形例3Aでも、各ゲインG1、G2の演算において、インバータ周波数ωiの代わりに周波数指令値ω*を使用しても同様の効果を得ることができる。
実施の形態4.
図13は、この発明による交流回転機の制御装置の実施の形態4を示すブロック図である。この実施の形態4は、図10に示す実施の形態3における電圧指令手段15を、電圧指令手段15Bに置き換えたものである。実施の形態4は、その他は、実施の形態3と同じに構成され、交流回転機10は、誘導電動機10Iにより構成される。この実施の形態4においても、実施の形態3と同じ周波数補正値演算手段20Aが使用される。
実施の形態4における電圧指令手段15Bは、図8に示す実施の形態2と同じものであり、この電圧指令手段15Bは、(V/f)一定制御方式の電圧指令手段である。この電圧指令手段15Bは、(V/f)一定制御方式の電圧指令演算手段155と、dq軸/三相座標変換器157を有する。電圧指令演算手段155には、インバータ周波数演算手段17からインバータ周波数ωiが供給され、電圧指令演算手段155は、インバータ周波数ωiに基づいて、数式35と数式36にしたがって、d軸電圧指令vd*とq軸電圧指令vq*を演算し、dq軸/三相座標変換器157に供給する。
この実施の形態4においても、実施の形態3と同様に、周波数補正値演算手段20Aの増幅ゲイン演算部214が、数式50と数式51または数式59と数式60にしたがって、増幅ゲインG1、G2を演算し、誘導電動機10Iが定出力領域COAで運転される状態において、これらの増幅ゲインG1、G2を増幅器230に供給することにより、実施の形態3と同様の効果を得ることができる。なお、実施の形態4でも、各ゲインG1、G2の演算において、インバータ周波数ωiの代わりに周波数指令値ω*を使用しても同様の効果を得ることができる。
実施の形態4の変形例4A.
実施の形態4は、交流回転機10を誘導電動機10Iにより構成するものであるが、この変形例4Aは、実施の形態4における交流回転機10を他の交流回転機、例えば同期電動機10Sで構成するものである。
図14は、この変形例4Aによる交流回転機の制御装置を示すブロック図であり、交流回転機10は、同期電動機10Sで構成される。この変形例4Aでは、図13に示す実施の形態4に対し、さらに安定化用ハイパスフィルタ40が追加され、また、実施の形態4における電圧指令手段15Bが電圧指令手段15Cに置き換えられ、インバータ周波数演算手段17が、インバータ周波数演算手段17Aに置き換えられる。変形例4Aは、その他は、実施の形態4と同じに構成される。
この変形例4Aにおける安定化用ハイパスフィルタ40は、図9に示す変形例2Aの安定化用ハイパスフィルタ40と同じであり、また変形例4Aにおけるインバータ周波数演算手段17Aは、図9に示すインバータ周波数演算手段17Aと同じである。
この実施の形態4の変形例4Aでは、実施の形態3における数式50と数式51および数式59と数式60を同期電動機10Sに対応して変更して増幅ゲインG1、G2を演算し、同期電動機10Sが定出力領域COAで運転される状態で、その増幅ゲインG1、G2を増幅器230に供給する。なお、実施の形態4の変形例4Aでも、各ゲインG1、G2の演算において、インバータ周波数ωiの代わりに周波数指令値ω*を使用しても同様の効果を得ることができる。
実施の形態5.
図15は、この発明による交流回転機の制御装置の実施の形態5を示すブロック図である。この実施の形態5は、図1に示す実施の形態1において、周波数補正値演算手段20を周波数補正値演算手段20Bに置き換えたものである。その他は、実施の形態1と同じに構成される。交流回転機10は、実施の形態1と同じ誘導電動機10Iであり、また電圧指令手段15は、実施の形態1と同じ(E/f)一定制御方式の電圧指令手段として構成され、(E/f)一定制御方式の電圧指令演算手段153とdq軸/三相座標変換器157を有する。周波数補正値演算手段20Bも、例えばマイクロコンピュータにより構成される。
実施の形態5で使用される周波数補正値演算手段20Bは、図1に示す実施の形態1における周波数補正値演算手段20における増幅ゲイン演算器210を、増幅ゲイン演算器210Bに置き換えたものである。周波数補正値演算手段20Bでは、実施の形態1の周波数補正演算手段20における入力部20−I6が削除されている。その他は、図1に示す周波数補正値演算手段20と同じに構成される。
実施の形態5で使用される増幅ゲイン演算器210Bは、第1の増幅ゲイン演算部211と、第2の増幅ゲイン演算部212と、切替信号生成器223と、切替器225を有する。切替信号生成器223と、切替器225は、図1に示す実施の形態1で使用されたものと同じである。第1の増幅ゲイン演算部211は、図1に示す周波数補正値演算器20において使用されたと同じ増幅ゲイン演算部213を用いて構成される。この増幅ゲイン演算部213は、定数記憶器203に記憶された誘導電動機10Iに関する電気的定数に基づいて、数式6と数式7または数式6と数式22にしたがって、増幅ゲインG1、G2を演算し、それらを切替部225の入力aへ供給する。
第2の増幅ゲイン演算部212は、図10に示す周波数補正値演算手段20Aにおいて使用されたと同じ増幅ゲイン演算部214を用いて構成される。この増幅ゲイン演算部214は、定数記憶器203に記憶された誘導電動機10Iの電気的定数と、入力端20−I3に供給されるインバータ周波数ωiに基づいて、数式50と数式51または数式59と数式60にしたがって、増幅ゲインG1、G2を演算し、それらを切替部225の入力bに供給する。
図15に示す実施の形態5において、誘導電動機10Iが定トルク領域CTAで運転される状態では、切替信号生成器223の切替信号SSは、切替器225が入力aに供給された増幅ゲイン演算部213からの増幅ゲインG1、G2を選択し、これを切替器225の出力cから増幅器230に供給するように動作させる。この誘導電動機10Iが定トルク領域CTAで運転される状態では、増幅器230は、実施の形態1と同様に、増幅ゲイン演算部213が数式6と数式7または数式6と数式22にしたがって演算した増幅ゲインG1、G2を用いて、数式10にしたがって周波数補正演算値Δωaを演算し、この周波数補正演算値Δωaを、出力選択器235の入力aへ供給する。
図15に示す実施の形態5において、誘導電動機10Iが定出力領域COAで運転される状態では、切替信号生成器223の切替信号SSは、切替器225が入力bに供給された増幅ゲイン演算部214からの増幅ゲインG1、G2を選択し、これらを切替器225の出力cから増幅器230に供給するように動作させる。この誘導電動機10Iが定出力領域COAで運転される状態では、増幅器230は、実施の形態3と同様に、増幅ゲイン演算部214が数式50と数式51または数式59と数式60にしたがって演算した増幅ゲインG1、G2を用いて、数式10にしたがって周波数補正演算値Δωaを演算し、この周波数補正演算値Δωaを、出力選択器235の入力aへ供給する。
結果として、実施の形態5における周波数補正値演算手段20Bは、誘導電動機10Iが定トルク領域CTAで運転される状態では、実施の形態1において増幅器230が増幅ゲイン演算部213による増幅ゲインG1、G2を用いて電流偏差ΔIを増幅する場合と同じ動作を行ない、また、誘導電動機10Iが定出力領域COAで運転される状態では、実施の形態3において増幅器230が増幅ゲイン演算部214による増幅ゲインG1、G2を用いて電流偏差ΔIを増幅する場合と同じ動作を行なう。したがって、誘導電動機10Iが、定トルク領域CTAで運転される状態でも、また、それが定出力領域COAで運転される状態でも、誘導電動機10Iに流れる電流を電流制限指令値Ilimit以下に制限することができる。
このように実施の形態5によれば、誘導電動機10Iを定トルク領域CTAから定出力領域COAまでの広範囲の速度領域において可変速駆動する場合において、電流制限を確実に行うことが可能となる。また、制御系の構成要素をそのままに、増幅器230のゲインG1、G2を切り替える構成としたことにより、制御系実装時のプログラムを簡素化することができる。なお、実施の形態5でも、増幅ゲイン演算部214による各ゲインG1、G2の演算において、インバータ周波数ωiの代わりに周波数指令値ω*を使用しても同様の効果を得ることができる。
実施の形態5の変形例5A.
図16は、実施の形態5において、交流回転機10を誘導電動機10Iから、他の交流回転機、例えば同期電動機10Sに置き換えた変形例である。この変形例5Aでは、図15に示す実施の形態5において、交流回転機10が同期電動機10Sで構成され、また、電圧指令手段15が、電圧指令手段15Aに置き換えられ、インバータ周波数演算手段17がインバータ周波数演算手段17Aに置き換えられ、さらに、安定化用ハイパスフィルタ40が追加される。変形例5Aは、その他は、図15に示す実施の形態5と同じに構成される。
変形例5Aにおける電圧指令手段15Aは、図7に示す実施の形態1の変形例1Aと同様に、(E/f)一定制御方式の電圧指令手段として構成され、(E/f)一定制御方式の電圧指令演算手段154と、dq軸/三相座標変換器157を有する。変形例5Aにおけるインバータ周波数演算手段17Aおよび安定化用ハイパスフィルタ40は、図7に示す実施の形態1の変形例1Aと同じである。
この変形例5Aでも、図15に示すと同じ周波数補正値演算手段20Bが使用される。この変形例5Aにおいて、周波数補正値演算手段20Bにおける増幅ゲイン演算部213は、同期電動機10Sが定トルク領域CTAで運転される状態で、変形例1Aと同様に、数式26と数式27にしたがって増幅ゲインG1、G2を演算し、また、増幅ゲイン演算部214は、同期電動機10Sが定出力領域COAで運転される状態で、数式50と数式51、または数式59と数式60を同期電動機10Sに対応して変形した式にしたがって、増幅ゲインG1、G2を演算する。
結果として、実施の形態5の変形例5Aにおける周波数補正値演算手段20Bは、同期電動機10Sが定トルク領域CTAで運転される状態では、実施の形態1の変形例1Aにおいて増幅器230が増幅ゲイン演算部213による増幅ゲインG1、G2を用いて電流偏差ΔIを増幅する場合と同じ動作を行ない、また、同期電動機10Sが定出力領域COAで運転される状態では、実施の形態3の変形例3Aにおいて増幅器230が増幅ゲイン演算部214による増幅ゲインG1、G2を用いて電流偏差ΔIを増幅する場合と同じ動作を行なう。したがって、同期電動機10Sが、定トルク領域CTAで運転される状態でも、また、それが定出力領域COAで運転される状態でも、同期電動機10Sに流れる電流を電流制限指令値Ilimit以下に制限することができる。
このように実施の形態5の変形例5Aによれば、同期電動機10Sを定トルク領域CTAから定出力領域COAまでの広範囲の速度領域において可変速駆動する場合において、電流制限を確実に行なうことが可能となる。また、制御系の構成要素をそのままに、増幅器230のゲインG1、G2を切り替える構成としたことにより、制御系実装時のプログラムを簡素化することができる。なお、実施の形態5の変形例5Aでも、増幅ゲイン演算部214による各ゲインG1、G2の演算において、インバータ周波数ωiの代わりに周波数指令値ω*を使用しても同様の効果を得ることができる。
実施の形態6.
図17は、この発明による交流回転機の制御装置の実施の形態6を示すブロック図である。この実施の形態6では、図8に示す実施の形態2において、周波数補正値演算手段20が、周波数補正値演算手段20Bに置き換えられる。実施の形態6は、その他は、実施の形態2と同じに構成される。この実施の形態6では、図8に示す実施の形態2と同じに、交流回転機10が誘導電動機10Iで構成され、また、(V/f)一定制御方式の電圧指令手段15Bが使用される。
この実施の形態6でも、図15に示すと同じ周波数補正値演算手段20Bが使用される。この実施の形態6において、周波数補正値演算手段20Bにおける増幅ゲイン演算部213は、誘導電動機10Sが定トルク領域CTAで運転される状態で、実施の形態2と同様に、数式37と数式38にしたがって増幅ゲインG1、G2を演算し、また、増幅ゲイン演算部214は、誘導電動機10Iが定出力領域COAで運転される状態で、数式50と数式51、または数式59と数式60にしたがって、増幅ゲインG1、G2を演算する。
結果として、実施の形態6における周波数補正値演算手段20Bは、誘導電動機10Iが定トルク領域CTAで運転される状態では、実施の形態2において増幅器230が増幅ゲイン演算部213による増幅ゲインG1、G2を用いて電流偏差ΔIを増幅する場合と同じ動作を行ない、また、誘導電動機10Iが定出力領域COAで運転される状態では、実施の形態4において増幅器230が増幅ゲイン演算部214による増幅ゲインG1、G2を用いて電流偏差ΔIを増幅する場合と同じ動作を行なう。したがって、誘導電動機10Iが、定トルク領域CTAで運転される状態でも、また、それが定出力領域COAで運転される状態でも、誘導電動機10Iに流れる電流を電流制限指令値Ilimit以下に制限することができる。
このように実施の形態6によれば、誘導電動機10Iを定トルク領域CTAから定出力領域COAまでの広範囲の速度領域において可変速駆動する場合において、電流制限を確実に行なうことが可能となる。また、制御系の構成要素をそのままに、増幅器230のゲインG1、G2を切り替える構成としたことにより、制御系実装時のプログラムを簡素化することができる。なお、実施の形態6でも、増幅ゲイン演算部214による各ゲインG1、G2の演算において、インバータ周波数ωiの代わりに周波数指令値ω*を使用しても同様の効果を得ることができる。
実施の形態6の変形例6A.
図18は、実施の形態6において、交流回転機10を誘導電動機10Iから、他の交流回転機、例えば同期電動機10Sに置き換えた変形例である。この変形例6Aでは、図17に示す実施の形態6において、交流回転機10が同期電動機10Sで構成され、また、電圧指令手段15Bが、電圧指令手段15Cに置き換えられ、インバータ周波数演算手段17がインバータ周波数演算手段17Aに置き換えられ、さらに、安定化用ハイパスフィルタ40が追加される。この変形例6Aは、その他は、図17に示す実施の形態6と同じに構成される。
変形例6Aにおける電圧指令手段15Cは、図9に示す実施の形態2の変形例2Aと同じに(V/f)一定制御方式の電圧指令手段として構成され、(V/f)一定制御方式の電圧指令演算手段156と、dq軸/三相座標変換器157を有する。変形例6Aにおけるインバータ周波数演算手段17Aおよび安定化用ハイパスフィルタ40は、図9に示す実施の形態2の変形例2Aと同じである。
この変形例6Aでも、図15に示すと同じ周波数補正値演算手段20Bが使用される。この変形例6Aにおいて、周波数補正値演算手段20Bにおける増幅ゲイン演算部213は、同期電動機10Sが定トルク領域CTAで運転される状態で、変形例2Aと同様に、数式47と数式48にしたがって増幅ゲインG1、G2を演算し、また、増幅ゲイン演算部214は、同期電動機10Sが定出力領域COAで運転される状態で、数式50と数式51、または数式59と数式60を同期電動機10Sに対応して変形した式にしたがって、増幅ゲインG1、G2を演算する。
結果として、実施の形態6の変形例6Aにおける周波数補正値演算手段20Bは、同期電動機10Sが定トルク領域CTAで運転される状態では、実施の形態2の変形例2Aにおいて増幅器230が増幅ゲイン演算部213による増幅ゲインG1、G2を用いて電流偏差ΔIを増幅する場合と同じ動作を行ない、また、同期電動機10Sが定出力領域COAで運転される状態では、実施の形態4の変形例4Aにおいて増幅器230が増幅ゲイン演算部214による増幅ゲインG1、G2を用いて電流偏差ΔIを増幅する場合と同じ動作を行なう。したがって、同期電動機10Sが、定トルク領域CTAで運転される状態でも、また、それが定出力領域COAで運転される状態でも、同期電動機10Sに流れる電流を電流制限指令値Ilimit以下に制限することができる。
このように実施の形態6の変形例6Aによれば、同期電動機10Sを定トルク領域CTAから定出力領域COAまでの広範囲の速度領域において可変速駆動する場合において、電流制限を確実に行なうことが可能となる。また、制御系の構成要素をそのままに、増幅器230のゲインG1、G2を切り替える構成としたことにより、制御系実装時のプログラムを簡素化することができる。なお、実施の形態6の変形例6Aでも、増幅ゲイン演算部214による各ゲインG1、G2の演算において、インバータ周波数ωiの代わりに周波数指令値ω*を使用しても同様の効果を得ることができる。
実施の形態7.
図19は、この発明による交流回転機の制御装置の実施の形態7を示すブロック図である。この実施の形態7は、図15に示す実施の形態5における周波数補正値演算手段20Bを、周波数補正値演算手段20Cに置き換えたものである。その他は、実施の形態5と同じに構成される。この実施の形態7では、交流回転機10が誘導電動機10Iで構成され、また、(E/f)一定制御方式の電圧指令手段15が使用される。周波数補正値演算手段20Cも、例えばマイクロコンピュータにより構成される。
実施の形態7で使用される周波数補正値演算手段20Cは、図15に示す実施の形態5の周波数補正値演算手段20Bにおける増幅ゲイン演算器210Bを、増幅ゲイン演算器210Cに置き換えたものである。周波数補正値演算手段20Cは、その他は、周波数補正値演算手段20Bと同じに構成される。増幅ゲイン演算器210Cは、図15に示す実施の形態5の増幅ゲイン演算器210Bにおいて、さらに第1の増幅ゲイン演算部211に第1の増幅ゲイン調整部215を追加し、また第2の増幅ゲイン演算部212に第2の増幅ゲイン調整部216を追加したものである。その他は、増幅ゲイン演算器210Cは、増幅ゲイン演算器210Bと同じに構成される。
第1の増幅ゲイン調整部215は、増幅ゲイン演算部213が演算した増幅ゲインG1、G2を受けて、その大きさを調整し、その大きさを調整した増幅ゲインG1、G2を切替部225の入力aへ供給する。第2の増幅ゲイン調整部216は、増幅ゲイン演算部214が演算した増幅ゲインG1、G2を受けて、その大きさを調整し、その大きさを調整した増幅ゲインG1、G2を切替器225の入力bへ供給する。
第1、第2の増幅ゲイン調整部215、216は、交流回転機10が組み込まれた機械システムに対し、その機械システムにおける固有振動を調整するために、増幅ゲイン演算部213、214が演算した増幅ゲインG1、G2の大きさを調整する。具体的には、交流回転機10を組み込んだ機械システムが、未知の大きな慣性モーメントに基づく固有振動を有する場合に、この機械システムに組み込まれた交流回転機10に電流制限動作を行なうと、その機械システムの固有振動が電流制限応答に現われる。第1、第2の増幅ゲイン調整部215、216は、増幅ゲイン演算部213、214が演算した増幅ゲインG1、G2の大きさを調整することにより、電流制限応答に現われる固有振動を調整し、確実な電流制限性能を得ることを可能とし、これに基づいて、機械システムの固有振動を調整することが可能となる。
実施の形態7の変形例7A.
図20は、実施の形態7の変形例7Aを示すブロック図である。この変形例7Aは、実施の形態7において、交流回転機10Iを同期電動機10Sに置き換えたものであり、図7に示す変形例1Aと同様に、電圧指令手段15Aおよびインバータ周波数演算手段17Aを使用し、また、安定化用ハイパスフィルタ40を使用する。その他は、変形例7Aは、図19に示す実施の形態7と同じである。
この変形例7Aでも、図19に示す実施の形態7と同じ周波数補正値演算手段20Cが使用される。この周波数補正値演算手段20Cでは、図19に示すと同じ増幅ゲイン演算器210Cが使用され、これは実施の形態7と同じに第1、第2の増幅ゲイン調整部215、216を有する。これらの第1、第2の増幅ゲイン調整部215、216は、増幅ゲイン演算部213、214が演算した増幅ゲインG1、G2の大きさを調整することにより、同期電動機10Sを組み込んだ機械システムから電流制限応答に現われる固有振動を調整し、確実な電流制限性能を得ることを可能とし、これに基づいて、機械システムの固有振動を調整することが可能となる。
実施の形態8.
図21は、この発明による交流回転機の制御装置の実施の形態8を示すブロック図である。この実施の形態8は、実施の形態7において、電圧指令手段15を図8に示す実施の形態2と同じ電圧指令手段15Bに置き換えたものである。その他は、実施の形態8は、図19に示す実施の形態7と同じに構成される。交流回転機10は、誘導電動機10Iにより構成される。
この実施の形態8でも、図19に示す実施の形態7と同じ周波数補正値演算手段20Cが使用される。この周波数補正値演算手段20Cでは、図19に示すと同じ増幅ゲイン演算器210Cが使用され、これは実施の形態7と同じに第1、第2の増幅ゲイン調整部215、216を有する。これらの第1、第2の増幅ゲイン調整部215、216は、増幅ゲイン演算部213、214が演算した増幅ゲインG1、G2の大きさを調整することにより、誘導電動機10Iを組み込んだ機械システムから電流制限応答に現われる固有振動を調整し、確実な電流制限性能を得ることを可能とし、これに基づいて、機械システムの固有振動を調整することが可能となる。
実施の形態8の変形例8A.
図22は、実施の形態8の変形例8Aによる交流回転機の制御装置を示すブロック図である。この変形例8Aは、実施の形態8において、交流回転機10Iを同期電動機10Sに置き換えたものであり、図9に示す変形例2Aと同様に、電圧指令手段15Cおよびインバータ周波数演算手段17Aを使用し、また、安定化用ハイパスフィルタ40を使用する。その他は、変形例8Aは、図21に示す実施の形態8と同じである。
この変形例8Aにおける電圧指令手段15Cは、図9に示す実施の形態2の変形例2Aと同じに(V/f)一定制御方式の電圧指令手段として構成され、(V/f)一定制御方式の電圧指令演算手段156と、dq軸/三相座標変換器157を有する。変形例8Aにおけるインバータ周波数演算手段17Aおよび安定化用ハイパスフィルタ40は、実施の形態2の変形例2Aと同じである。
この変形例8Aでも、図19に示す実施の形態7と同じ周波数補正値演算手段20Cが使用される。この周波数補正値演算手段20Cでは、図19に示すと同じ増幅ゲイン演算器210Cが使用され、これは実施の形態7と同じに第1、第2の増幅ゲイン調整部215、216を有する。これらの第1、第2の増幅ゲイン調整部215、216は、増幅ゲイン演算部213、214が演算した増幅ゲインG1、G2の大きさを調整することにより、同期電動機10Sを組み込んだ機械システムから電流制限応答に現われる固有振動を調整し、確実な電流制限性能を得ることを可能とし、これに基づいて、機械システムの固有振動を調整することが可能となる。
実施の形態9.
図23は、この発明による交流回転機の制御装置の実施の形態9を示すブロック図である。この実施の形態9は、図15に示す実施の形態5において、電圧指令手段15を電圧指令手段15aに置き換え、また、周波数補正値演算手段20Bを、周波数補正値演算手段20Baに置き換えたものである。その他は、実施の形態9は、実施の形態5と同じに構成される。この実施の形態9では、交流回転機10は誘導電動機10Iにより構成される。電圧指令手段15aおよび周波数補正値演算手段20Baも、例えばマイクロコンピュータで構成される。
この実施の形態9で使用される電圧指令手段15aは、第1の電圧指令演算手段151と、第2の電圧指令演算手段152と、dq軸/三相座標変換器157と、電圧指令選択手段159を有する。この実施の形態9で使用される第1の電圧指令演算手段151は、第1、第2の2つの機能を持つ。第1の機能は、電圧印加手段11に誘導電動機10Iの電気的定数を測定するための測定用電圧指令vm *を供給し、誘導電動機10Iの電気的定数を測定するための測定用単相交流電圧vmを電圧印加手段11から誘導電動機10に供給する機能である。第2の機能は、測定用単相交流電圧vmにより電圧印加手段11から誘導電動機10Iに流れる電流に基づいて、電流検出手段13から出力される単相交流の測定電流imを受けて誘導電動機10Iの電気的定数を演算する機能である。
第2の電圧指令演算手段152は、(E/f)一定制御方式の電圧指令手段であり、図15と同じ電圧指令演算手段153を用いて構成され、数式3と数式4にしたがってd軸電圧指令vd*とq軸電圧指令vq*を演算し、dq軸/三相座標変換器157へ供給する。電圧指令選択手段159は、第1の電圧指令演算手段151から測定用電圧指令vm *を受ける入力部aと、dq軸/三相座標変換器157から三相電圧指令V*を受ける入力部bと、電圧印加手段11に接続された出力部cを有する。この電圧指令選択手段159は、誘導電動機10Iの電気的定数を測定する場合には、入力部aを選択して出力部cに接続し、第1の電圧指令演算手段151から測定用電圧指令vm *を電圧印加手段11に供給し、また、誘導電動機10Iを駆動する場合には、入力部bを選択して出力部cに接続し、三相電圧指令V*を電圧印加手段11に供給する。
実施の形態9で使用される周波数補正値演算手段20Baは、図15に示した実施の形態5における周波数補正値演算手段20Bに対して、入力部20−I7を追加したものである。この周波数補正値演算手段20Baは、その他は図15に示した周波数補正値演算手段20Bと同じに構成される。周波数補正値演算手段20Baは、実施の形態5と同じ電流偏差演算器201と、定数記憶器203と、増幅ゲイン演算器210Bと、増幅器230と、ゼロ値出力器231と、状態信号生成器233と、出力選択器235を内蔵する。この周波数補正値演算手段20Baにおいて、新たに追加された入力部20−I7は、第1の電圧指令演算手段151に接続され、また周波数補正値演算手段20Baの内部の定数記憶器203に接続される。
誘導電動機などの交流回転機10の電気的定数を測定する定数測定装置は、本件出願と同じ出願人による国際公開公報WO2006/008846号公報に記載されているので詳細な説明は省略するが、実施の形態9における電圧指令選択手段159が、第1の電圧指令演算手段151による測定用電圧指令vm *を選択したときには、電圧印加手段11から誘導電動機10Iに対して、その電気的定数を測定するための測定用単相交流電圧vmが供給され、この測定用単相交流電圧vmにより誘導電動機10Iに流れる単相交流の測定電流imが電流検出手段13から検出される。第1の電圧指令演算手段151は、これらの測定用電圧指令vm *と測定用単相交流電圧vmのいずれか一方、および測定電流imに基づいて、誘導電動機10Iの電気的定数を演算し、それを定数記憶器203に供給する。
実施の形態9では、交流回転機10が誘導電動機10Iであり、増幅ゲイン演算部213が数式6と数式7または数式6と数式22にしたがって、また増幅ゲイン演算部214が数式50と数式51、または数式59と数式60にしたがってそれぞれ増幅ゲインG1、G2を演算するので、これらの演算に必要な誘導電動機10Iの電気的定数を第1の電圧指令演算手段151で演算し、それら定数記憶器203に記憶する。なお、電流制限応答速度の設定値ωxは、第1の電圧指令演算手段151によって測定されることなく、定数記憶器203に記憶される。なお、実施の形態9でも、増幅ゲイン演算部214による各ゲインG1、G2の演算において、インバータ周波数ωiの代わりに周波数指令値ω*を使用しても同様の効果を得ることができる。
この実施の形態9によれば、誘導電動機10Iの電気的定数が未知の場合にも、まず第1の電圧指令演算手段151を用いて、誘導電動機10Iの電気的定数を測定し、定数記憶器203に記憶させることができる。その後、再び電圧指令選択手段159により、誘導電動機10を駆動するよう第2の電圧指令演算手段152が出力するd軸電圧指令vd*とq軸電圧指令vq*による三相電圧指令V*を選択した場合には、適切に設計された増幅器230の増幅ゲインG1、G2により周波数補正演算値Δωaを演算することができるため、所望の電流制限性能で確実に電流を電流制限指令値Ilimitに制限することが可能となる。
なお、実施の形態9において、周波数補正値演算手段20Baは、図1に示す周波数補正値演算手段20に入力部20−I7を追加した周波数補正値演算手段20a、図10に示す周波数補正値演算手段20Aに、入力部20−I7を追加した周波数補正値演算手段20Aa、または図19に示す周波数補正値演算手段20Cに入力部20−I7を追加した周波数補正手段20Caに置き換えることもできる。これらの周波数補正値演算手段20a、20Aa、20Caも、例えばマイクロコンピュータで構成され、追加された入力部20−I7は、第1の電圧指令演算手段151と定数記憶器203とに接続され、第1の電圧指令演算手段151が演算した誘導電動機10Iの電気的定数を定数記憶器203に記憶するように構成される。
実施の形態9の変形例9A.
図24は、実施の形態9の変形例9Aによる交流回転機の制御装置を示すブロック図である。この変形例9Aは、図16に示す実施の形態5の変形例5Aにおいて、電圧指令手段15Aを電圧指令手段15Aaに置き換え、また、周波数補正値演算手段20Bを、周波数補正値演算手段20Baに置き換えたものである。その他は、実施の形態9の変形例9Aは、実施の形態5の変形例5Aと同じに構成される。この実施の形態9の変形例9Aでは、交流回転機10は同期電動機10Sにより構成される。電圧指令手段15Aaも、例えばマイクロコンピュータにより構成される。
この変形例9Aで使用される電圧指令手段15Aaは、実施の形態9と同様に、第1の電圧指令演算手段151と、第2の電圧指令演算手段152と、dq軸/三相座標変換器157と、電圧指令選択手段159を有する。この変形例9Aで使用される第1の電圧指令演算手段151は、図23に示す第1の電圧指令演算手段151と同様に構成され、電圧印加手段11に同期電動機10Sの電気的定数を測定するための測定用電圧指令vm *を供給し、同期電動機10Sの電気的定数を測定するための測定用単相交流電圧vmを電圧印加手段11から同期電動機10Sに供給する第1の機能と、測定用単相交流電圧vmにより電圧印加手段11から同期電動機10Sに流れる電流に基づいて、電流検出手段13から出力される単相交流の測定電流imを受けて同期電動機10Sの電気的定数を演算する第2の機能を有する。第1の電圧指令演算手段151は、これらの測定用電圧指令vm *と測定用単相交流電圧vmのいずれか一方、および測定電流imに基づいて、同期電動機10Sの電気的定数を演算し、それを定数記憶器203に供給する。
第2の電圧指令演算手段152は、(E/f)一定制御方式の電圧指令手段であり、図16に示す実施の形態5の変形例5Aと同じ電圧指令演算手段154を用いて構成され、数式24と数式25にしたがってd軸電圧指令vd*とq軸電圧指令vq*を演算し、dq軸/三相座標変換器157へ供給する。電圧指令選択手段159は、図23に示すものと同じである。この電圧指令選択手段159は、同期電動機10Sの電気的定数を測定する場合には、入力部aを選択して出力部cに接続し、第1の電圧指令演算手段151から測定用電圧指令vm *を電圧印加手段11に供給し、また、同期電動機10Sを駆動する場合には、入力部bを選択して出力部cに接続し、三相電圧指令V*を電圧印加手段11に供給する。
変形例9Aで使用される周波数補正値演算手段20Baは、実施の形態9と同じに構成される。この周波数補正値演算手段20Baにおいて、新たに追加された入力部20−I7は、第1の電圧指令演算手段151に接続され、また周波数補正値演算手段20Baの内部の定数記憶器203に接続される。
この変形例9Aでは、交流回転機10が同期電動機10Sであり、増幅ゲイン演算部213が数式26と数式27にしたがって、また増幅ゲイン演算部214が、数式50と数式51、または数式59と数式60を同期電動機10Sに対応して変更した式にしたがってそれぞれ増幅ゲインG1、G2を演算するので、これらの演算に必要な同期電動機10Sの電気的定数を第1の電圧指令演算手段151で演算し、それら定数記憶器203に記憶する。なお、電流制限応答速度の設定値ωxは、第1の電圧指令演算手段151によって測定することなく、定数記憶器203に記憶される。なお、実施の形態9の変形例9Aでも、増幅ゲイン演算部214による各ゲインG1、G2の演算において、インバータ周波数ωiの代わりに周波数指令値ω*を使用しても同様の効果を得ることができる。
この変形例9Aによれば、同期電動機10Sの電気的定数が未知の場合にも、まず第1の電圧指令演算手段151を用いて、同期電動機10Sの電気的定数を測定し、定数記憶器203に記憶させることができる。その後、再び電圧指令選択手段159により、同期電動機10Sを駆動するよう第2の電圧指令演算手段152が出力するd軸電圧指令vd*とq軸電圧指令vq*による三相電圧指令V*を選択した場合には、適切に設計された増幅器230の増幅ゲインG1、G2により周波数補正演算値Δωaを演算することができるため、所望の電流制限性能で確実に電流を電流制限指令値Ilimitに制限することが可能となる。
なお、変形例9Aにおいて、周波数補正値演算手段20Baは、図7に示す周波数補正値演算手段20に入力部20−I7を追加した周波数補正値演算手段20a、図12に示す周波数補正値演算手段20Aに入力部20−I7を追加した周波数補正値演算手段20Aa、または図20に示す周波数補正値演算手段20Cに入力部20−I7を追加した周波数補正手段20Caに置き換えることもできる。これらの周波数補正値演算手段20a、20Aa、20Caも、例えばマイクロコンピュータで構成され、追加された入力部20−I7は、第1の電圧指令演算手段151と定数記憶器203とに接続され、第1の電圧指令演算手段151が演算した誘導電動機10Iの電気的定数を定数記憶器203に記憶するように構成される。
実施の形態10.
図25は、この発明による交流回転機の制御装置の実施の形態10を示すブロック図である。この実施の形態10は、図17に示す実施の形態6において、電圧指令手段15Bを電圧指令手段15Baに置き換え、また、周波数補正値演算手段20Bを、周波数補正値演算手段20Baに置き換えたものである。その他は、実施の形態10は、実施の形態6と同じに構成される。この実施の形態10では、交流回転機10は誘導電動機10Iにより構成される。電圧指令手段15Baも、例えばマイクロコンピュータで構成される。
この実施の形態10で使用される電圧指令手段15Baは、第1の電圧指令演算手段151と、第2の電圧指令演算手段152と、dq軸/三相座標変換器157と、電圧指令選択手段159を有する。この実施の形態10で使用される第1の電圧指令演算手段151は、図23に示すものと同様に構成され、電圧印加手段11に誘導電動機10Iの電気的定数を測定するための測定用電圧指令vm *を供給し、誘導電動機10Iの電気的定数を測定するための測定用単相交流電圧vmを電圧印加手段11から誘導電動機10Iに供給する第1の機能と、測定用単相交流電圧vmにより誘導電動機10Iに流れる電流に基づいて、電流検出手段13から出力される単相交流の測定電流imを受けて誘導電動機10Iの電気的定数を演算する第2の機能を有する。第1の電圧指令演算手段151は、これらの測定用電圧指令vm *と測定用単相交流電圧vmのいずれか一方、および測定電流imに基づいて、誘導電動機10Iの電気的定数を演算し、それを定数記憶器203に供給する。
第2の電圧指令演算手段152は、(V/f)一定制御方式の電圧指令手段であり、図17と同じ電圧指令演算手段155を用いて構成され、数式35と数式36にしたがってd軸電圧指令vd*とq軸電圧指令vq*を演算し、dq軸/三相座標変換器157へ供給する。電圧指令選択手段159は、図23に示すものと同じに構成される。この電圧指令選択手段159は、誘導電動機10Iの電気的定数を測定する場合には、入力部aを選択して出力部cに接続し、第1の電圧指令演算手段151から測定用電圧指令vm *を電圧印加手段11に供給し、また、誘導電動機10Iを駆動する場合には、入力部bを選択して出力部cに接続し、三相電圧指令V*を電圧印加手段11に供給する。
実施の形態10で使用される周波数補正値演算手段20Baは、実施の形態9と同じに構成される。この周波数補正値演算手段20Baにおいて、新たに追加された入力部20−I7は、第1の電圧指令演算手段151に接続され、また周波数補正値演算手段20Baの内部の定数記憶器203に接続される。
この実施の形態10では、交流回転機10が誘導電動機10Iであり、増幅ゲイン演算部213が数式37と数式38にしたがって、また増幅ゲイン演算部214が数式50と数式51、または数式59と数式60にしたがってそれぞれ増幅ゲインG1、G2を演算するので、これらの演算に必要な誘導電動機10Iの電気的定数を第1の電圧指令演算手段151で演算し、それら定数記憶器203に記憶する。なお、電流制限応答速度の設定値ωxは、第1の電圧指令演算手段151によって測定することなく、定数記憶器203に記憶される。なお、実施の形態10でも、増幅ゲイン演算部214による各ゲインG1、G2の演算において、インバータ周波数ωiの代わりに周波数指令値ω*を使用しても同様の効果を得ることができる。
この実施の形態10によれば、誘導電動機10Iの電気的定数が未知の場合にも、まず第1の電圧指令演算手段151を用いて、誘導電動機10Iの電気的定数を測定し、定数記憶器203に記憶させることができる。その後、再び電圧指令選択手段159により、誘導電動機10Iを駆動するよう第2の電圧指令演算手段152が出力するd軸電圧指令vd*とq軸電圧指令vq*による三相電圧指令V*を選択した場合には、適切に設計された増幅器230の増幅ゲインG1、G2により周波数補正演算値Δωaを演算することができるため、所望の電流制限性能で確実に電流を電流制限指令値Ilimitに制限することが可能となる。
なお、実施の形態10において、周波数補正値演算手段20Baは、図8に示す周波数補正値演算手段20に入力部20−I7を追加した周波数補正値演算手段20a、図13に示す周波数補正値演算手段20Aに入力部20−I7を追加した周波数補正値演算手段20Aa、または図21に示す周波数補正値演算手段20Cに入力部20−I7を追加した周波数補正手段20Caに置き換えることもできる。これらの周波数補正値演算手段20a、20Aa、20Caも、例えばマイクロコンピュータで構成され、追加された入力部20−I7は、第1の電圧指令演算手段151と定数記憶器203とに接続され、第1の電圧指令演算手段151が演算した誘導電動機10Iの電気的定数を記憶するように構成される。
実施の形態10の変形例10A.
図26は、実施の形態10の変形例10Aによる交流回転機の制御装置を示すブロック図である。この変形例10Aは、図18に示す実施の形態6の変形例6Aにおいて、電圧指令手段15Cを電圧指令手段15Caに置き換え、また、周波数補正値演算手段20Bを、周波数補正値演算手段20Baに置き換えたものである。その他は、変形例10Aは、実施の形態6の変形例6Aと同じに構成される。この変形例10Aでは、交流回転機10は同期電動機10Sにより構成される。電圧指令手段15Caも、例えばマイクロコンピュータにより構成される。
この変形例10Aで使用される電圧指令手段15Caは、第1の電圧指令演算手段151と、第2の電圧指令演算手段152と、dq軸/三相座標変換器157と、電圧指令選択手段159を有する。この変形例10Aで使用される第1の電圧指令演算手段151は、図23に示すものと同様に構成され、電圧印加手段11に同期電動機10Sの電気的定数を測定するための測定用電圧指令vm *を供給し、同期電動機10Sの電気的定数を測定するための測定用単相交流電圧vmを電圧印加手段11から同期電動機10Sに供給する第1の機能と、測定用単相交流電圧vmにより同期電動機10Sに流れる電流に基づいて、電流検出手段13から出力される単相交流の測定電流imを受けて交流回転機10の電気的定数を演算する第2の機能を有する。第1の電圧指令演算手段151は、これらの測定用電圧指令vm *と測定用単相交流電圧vmのいずれか一方、および測定電流imに基づいて、同期電動機10Sの電気的定数を演算し、それを定数記憶器203に供給する。
第2の電圧指令演算手段152は、(V/f)一定制御方式の電圧指令手段であり、図18と同じ電圧指令演算手段156を用いて構成され、数式44と数式45にしたがってd軸電圧指令vd*とq軸電圧指令vq*を演算し、dq軸/三相座標変換器157へ供給する。電圧指令選択手段159は、図23に示すものと同じに構成される。この電圧指令選択手段159は、同期電動機10Sの電気的定数を測定する場合には、入力部aを選択して出力部cに接続し、第1の電圧指令演算手段151から測定用電圧指令vm *を電圧印加手段11に供給し、また、同期電動機10Sを駆動する場合には、入力部bを選択して出力部cに接続し、三相電圧指令V*を電圧印加手段11に供給する。
変形例10Aで使用される周波数補正値演算手段20Baは、実施の形態9と同じに構成される。この周波数補正値演算手段20Baにおいて、新たに追加された入力部20−I7は、第1の電圧指令演算手段151に接続され、また周波数補正値演算手段20Baの内部の定数記憶器203に接続される。
この変形例10Aでは、交流回転機10が同期電動機10Sであり、増幅ゲイン演算部213が数式47と数式48にしたがって、また増幅ゲイン演算部214が、数式50と数式51、または数式59と数式60を同期電動機10Sに対応して変更した式にしたがってそれぞれ増幅ゲインG1、G2を演算するので、これらの演算に必要な同期電動機10Sの電気的定数を第1の電圧指令演算手段151で演算し、それら定数記憶器203に記憶する。なお、電流制限応答速度の設定値ωxは、第1の電圧指令演算手段151によって測定することなく、定数記憶器203に記憶される。なお、実施の形態10の変形例10Aでも、増幅ゲイン演算部214による各ゲインG1、G2の演算において、インバータ周波数ωiの代わりに周波数指令値ω*を使用しても同様の効果を得ることができる。
この変形例10Aによれば、同期電動機10Sの電気的定数が未知の場合にも、まず第1の電圧指令演算手段151を用いて、同期電動機10Sの電気的定数を測定し、定数記憶器203に記憶させることができる。その後、再び電圧指令選択手段159により同期電動機10Sを駆動するよう第2の電圧指令演算手段152が出力するd軸電圧指令vd*とq軸電圧指令vq*による三相電圧指令V*を選択した場合には、適切に設計された増幅器230の増幅ゲインG1、G2により周波数補正演算値Δωaを演算することができるため、所望の電流制限性能で確実に電流を電流制限指令値Ilimitに制限することが可能となる。
なお、変形例10Aにおいて、周波数補正値演算手段20Baは、図9に示す周波数補正値演算手段20に入力部20−I7を追加した周波数補正値演算手段20a、図14に示す周波数補正値演算手段20Aに入力部20−I7を追加した周波数補正値演算手段20Aa、または図22に示す周波数補正値演算手段20Cに入力部20−I7を追加した周波数補正手段20Caに置き換えることもできる。これらの周波数補正値演算手段20a、20Aa、20Caも、例えばマイクロコンピュータで構成され、追加された入力部20−I7は、第1の電圧指令演算手段151と定数記憶器203とに接続され、第1の電圧指令演算手段151が演算した同期電動機10Sの電気的定数を定数記憶器203に記憶するように構成される。