JP5219014B2 - 糖類の直接的な表面固定化方法、糖類とタンパク質との間の相互作用を検出する方法 - Google Patents
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Description
DNA、炭化水素、脂質その他の細胞成分も互いに関連し、細胞中でイベントを行っている。かくして、細胞機能の理解を得るためには、単離した状態および相互作用した状態の双方で、これらの生体物質の機能を理解するべきである。
しかしながら、細胞は静的なものではなく、内的および外的に発生した信号が、形状、分化、生存度、代謝その他の固有特性を変化させているため、このプロセスは複雑である。
たくさんの分析ツールが一つの相互作用の同定を可能にする。ほとんどの簡便かつ有用な方法は、相互作用する標的生体物質に蛍光マーカーを標識することである。より精密な光学顕微鏡の開発が、蛍光マーカーの使用を促進し、相互作用はイン・ビボで容易に検出可能になった。
上記の相互作用のなかでも、炭化水素−タンパク質相互作用が生物の細胞間コニケーション、シグナリング、細胞接着、受精および免疫学的プロセスにおいて、重要な役割を演じる。これらの相互作用は、細菌毒性タンパク質やウイルスによる宿主細胞の感染も開始する。したがって、炭化水素−タンパク質相互作用の分子関係を理解することは、生物における生物学的プロセスについての有用な情報が得られるだけではなく、有効なバイオ医療薬の開発の助けとなる。
例えば、ビブリオコレラ毒性タンパク質は非常によく知られた病原体であり、AB5ファミリーに属し、酵素活性および毒性を有するAサブユニットおよび分子の受容体結合部位を形成する5つのBサブユニットから構成される。5つのBサブユニットは同一であり、細胞表面受容体の炭化水素部分へ五量体で付着する。
また、ビブリオコレラ毒性タンパク質は高い相互作用により、Galβ1→3GalNacβ1→4(NeuAcα2→3)Galβ1→4Glc1→1'セラミド構造を有するガングリオシドGM1と結合し、この相互作用は、AB5ファミリー毒と受容体との間の標準的な糖類−タンパク質相互作用であると認識されている。
バイオチップとは、固体表面上(固相化担体としては、シリコン基板、ガラス基板、高分子、金基板など)にDNA等の核酸、酵素や抗体のごときタンパク質、ペプチド等のバイオ分子アレイ、あるいは細胞等を固定化し、固定化されたバイオ分子アレイ等のプローブ物質に特定のターゲット物質が結合したときに生じる特異的な反応を検出するものである。
バイオチップの代表例として、基板上にDNAを高密度に固定化し、ハイブリダイゼーションにより相補的な配列の存在を検出するDNAチップ(DNAマイクロアレイ)や、タンパク質を固定化し相互作用するタンパク質を検出するタンパク質チップ(プロテインチップ)やなどがある[特許文献1、2、3、4]。
同様に、糖類を固体表面に固定化すれば、糖類チップを作製することができ、糖類を基質とするタンパク質の検出に有用である。
共有結合のため、Niらは、マレイミド活性化炭化水素を合成して、システイン含有ペプチドおよびタンパク質の部位特異的グリコシル化を行った[非特許文献2]。Nyquistらは、チオアセチルGM1糖脂質の合成にlyso−GM1を用いた[非特許文献3]。
また、糖類を直接固体表面に固定化させることではなく、化合物、抗体、脂質等のリンカーを介して、間接的に固定化させる方法が報告されているにすぎず、さらに、糖類を一つの統一された方法で固定化するのではなく、特定の糖類を特定の方法で固定化させる研究結果しか報告されていない。
チオール基(−SH)またはジスルフィド結合(−S−S−)は金などの固体表面に結合するため、アンカーとして好ましい。
また、本発明に用いる還元糖は、その直鎖構造において、末端にアルデヒド基を有する。従来、還元糖のアルデヒド基と2−アミノピリジンとの間のシッフ塩基反応に基づくピリジルアミノ化(図1)が行われており、逆相HPLC分析において高感度かつ高分離能のため糖コンジュゲートからグリカンアナログの分析に広く用いられている[非特許文献4および5]。
本発明において、還元糖の修飾により得られたシッフ塩基は、水溶性であるため、このシッフ塩基を還元する還元剤として、水溶性であることが要件である。また、還元性が強い場合には、糖部分を分解してしまうおそれがあるため、還元力の弱い還元剤を用いる必要がある。
これら2つの要件を満たす還元剤として、ボラン化合物が挙げられる。ボランBH3は気体であるため、シッフ塩基水溶液に通気する必要がある。また、毒性が強いため、取り扱いには注意が必要である。
ボランとルイス塩基との錯体は安定な固体であるため計量が容易であり、還元剤として市販されているため入手しやすい。ボランとルイス塩基との錯体として、例えば、BH3・HN(CH3)2が挙げられる。
(1) 還元糖を固体表面上に直接固定化する方法であって、
一般式(I):R−CHO[式中、Rは、アルデヒド基を除く還元糖の部分。]で示されるアルデヒド基を有する還元糖を、
一般式(IIa):H2N−X−SH
[式中、Xは炭素数1〜3のアルキレン基またはフェニレン基。]で示されるアミノ基およびチオール基を分子内に有するリンカー化合物、または
一般式(IIb):H2N−Y−S−S−Z−NH2
[式中、YおよびZは、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキレン基またはフェニレン基。]で示されるアミノ基およびジスルフィド結合を分子内に有するリンカー化合物と20〜40℃にて反応させて、シッフ塩基を調製し、ついで、得られたシッフ塩基をボラン化合物の存在下、20〜40℃にて還元して、
一般式(IIIa):R−CH2−NH−X−SH
[式中、RおよびXは、それぞれ、上記定義と同じである。]で示されるチオール修飾還元糖、または
一般式(IIIb):R−CH2−NH−Y−S−S−Z−NH−CH2−R
[式中、R、YおよびZは、それぞれ、上記定義と同じである。]で示されるジスルフィド修飾還元糖を調製し、ついで、
一般式(IIIa)で示されるチオール修飾還元糖または一般式(IIIb)で示されるジスルフィド修飾還元糖を固体表面に接触させることを特徴とする方法。
(2)前記ボラン化合物が、BH3・HN(CH3)2である(1)に記載の方法。
(3) 還元糖とタンパク質との間の相互作用力を測定する方法であって、
一般式(IIIa):R−CH2−NH−X−SH
[式中、Rは、アルデヒド基を除く還元糖の部分であって、Xは炭素数1〜3のアルキレン基またはフェニレン基である。]で示されるチオール修飾還元糖、または
一般式(IIIb):R−CH2−NH−Y−S−S−Z−NH−CH2−R
[式中、Rは、アルデヒド基を除く還元糖の部分であって、YおよびZは、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキレン基またはフェニレン基である。]で示されるジスルフィド修飾還元糖を原子間力顕微鏡のカンチレバーのプローブ表面に固定化し、前記還元糖の部分との間の相互作用力を測定すべきタンパク質を固体基板に固定化し、還元糖固定化プローブとタンパク質固定化固体基板との距離を変化させつつ、フォースカーブを得、
得られたフォースカーブから、前記還元糖の部分と前記タンパク質との間の結合の破断力を求め、前記破断力に基づき相互作用力を評価することを特徴とする方法。
(4)前記カンチレバーのプローブ表面が金で被覆されている(3)の方法。
(5)1または複数の還元糖が固体表面上に直接固定化されているバイオチップであって、
基板;
前記基板上に形成された1または複数の電極配線;
前記1または複数の電極配線を被覆する絶縁膜;および
前記1または複数の電極配線の各々の一領域上の絶縁膜に、電極表面に達する1または複数の孔を設けることによって形成された1または複数のセンシング部を含み、
ここに、前記1または複数の還元糖は前記1または複数のセンシング部の底部に露出した電極配線の表面に直接固定化されていることを特徴とするバイオチップ。
(6)少なくとも、作用電極、対極および参照電極を含むバイオセンサーであって、
ここに、前記作用電極は、(5)に記載のバイオチップであることを特徴とするバイオセンサー。
(7)(6)に記載のバイオセンサーの作用電極、対極および参照電極を、被検試料を含有しない対照溶液に浸漬し、前記作用電極を処理する前に、前記作用電極の第1の電気的信号を測定し;
前記バイオセンサーの作用電極、対極および参照電極を、被検試料を含有する試験溶液に浸漬し、前記作用電極を被検試料で処理した後、前記作用電極の第2の電気的信号を測定し;次いで、
第1の電気的信号と第2の電気的信号との強度差から、試験溶液中に存在する毒素タンパク質を検出する方法。
(8)第1および第2の電気的信号が、酸化還元電流値である(7)に記載の方法。
各分析手法は個別には利点があるが、制約もある。各分析手法から得られた結果を統合して、これらの分析手法の相関から正確な相互作用メカニズムを検討する。これは、細胞膜レベルでの毒性メカニズムを理解する上でも有用であろう。さらに、この分析手法は他の特異的相互作用にも適用可能である。
まず、単糖類グルコース(分子量180)へのチオール基(SH基)導入を試みた。
グルコースをチオール修飾するための反応スキームを図2に示す。ピリジルアミノ化についての先行技術や市販のキット付属のマニュアルによれば、反応は90または80℃で1時間行われる。しかしながら、この加熱条件下では、糖類が分解する可能性がある。さらに、チオール修飾の第1段階で得られるシッフ塩基が不可逆的なアマドリ転位を起こして、所望するチオール修飾還元糖が得られない可能性がある。そこで、この実施例において、反応を20〜40℃で行った。
この温度範囲で反応を行えば、上記した分解反応や副反応を抑制することができ、また室温で簡便に反応を行うことができるので、利点が多い。
このときの溶液のpHは3から4の間であった。このような低pH条件で、シッフ塩基は効率よく進行するが、ジスルフィド結合は開裂しない。
以下の反応で、還元剤の投与によりジスルフィド結合が開裂し、チオール基となる。このチオール基同士は、緩和な酸化剤によりジスルフィド結合を形成し、還元剤によりチオール基に戻る。
20℃での反応に対する吸光度データから、2時間程度で、30℃および40℃での反応と比較して低いレベルで飽和した。
また、反応時間は、反応の第1段階で得られるシッフ塩基のアマドリ転位や糖の分解が発生しないように、反応温度に依存して変化する。例えば、20℃で反応を行った場合、適当な反応時間は、2時間以内、好ましくは1時間以内、より好ましくは、15分以上30分以内である。一方、40℃では、反応が急激に進行しているため、30分以内に終了することが好ましい。
この生成物の正確な質量をMALDI−TOFにより測定した。チオール修飾グルコースの質量の計算値は289であり、MALDI−TOFによる測定値は290であった(図5)。
これらの結果から、本発明の方法により、チオール基で修飾された単糖類グルコース(GulSH)が合成されたことが確認された。
所望により、適当な酸化条件下で、チオール修飾糖類を反応させて、ジスルフィド結合を有する二量体を形成することもできる。
実施例1と同様に、5mMの多糖類を2.5mMの4−アミノフェニルジスルフィドと反応させた。ここで、多糖類として、セラミド部分を除去したGM1を用いた(図7)。反応は、20、30および40℃の各温度にて行った。実施例1でのグルコースと比較して、GM1の濃度が低いため、400nmにおける吸光度は低いが、30℃以上で、GM1がチオール修飾されることが分かった(図8)。
実施例1と同様に、カラムクロマトグラフィーにより精製して、水溶性の黄色粉末として最終生成物を得た。
カラム精製した最終生成物の正確な質量をMALDI−TOFにより測定した。チオール修飾GM1の質量の計算値は、Naを除くと1108、Naを含めた場合1130であり、MALDI−TOFによる測定値は、それぞれ、1108および1130であった(図9)。
したがって、本発明の方法により、チオール基で修飾された多糖類GM1(GM1SH)が合成されたことが確認された。この条件で得られたチオール修飾GM1を便宜上GM1SH1と表記する。
所望により、適当な酸化条件下で、チオール修飾糖類を反応させて、ジスルフィド結合を有する二量体を形成することもできる。
表面プラズモン共鳴(SPR)法は、キネティックデータ(巨大分子間の相互作用についての微視的速度定数)を収集するための手段を提供する。この原理を図11に示す。
SPR現象は、導電性薄膜において屈折率が異なる媒体の界面で発生する(図11)。入射角とエネルギー(波長)と特定の組合せで、入射光は導電性薄膜のプラズモン(電子電荷密度波)を励起する。このとき、自由電子モデルで表される自由電子挙動を示さなければならないため、導電性薄膜に用いる金属の選択が重要である。一般に、安定性のため、金が用いられる。エバネッセント波によるエネルギーの特性吸収が生じ、SPRは、特定の入射(SPR角)にて、反射光の強度の低下として見られる。
リガンドがセンサーチップに付着するか、または、分析物がリガンドに結合したとき、センサーチップ表面の濃度が増加し、SPR反応を生じ、SPR角のSPR変化として観察される(図12)。特定の屈折率の寄与(すなわち、濃度の単位変化により生じた屈折率の変化)は組成によらず様々なタンパク質で非常に似通り、他の巨大分子の値は同一のオーダーである。その結果、測定された応答は結合した分析物の質量に関連し、分析物の特性にあまり依存しない。異なる分子に対する屈折率の寄与は付随的なものであり、そのため、付着した検出分子量および結合した分析物量の双方を同じ検出原理で測定することができる。
面倒なサンプル調製を必要とせずに、吸着や分解などの動的プロセスを迅速に観察できるため、表面相互作用を検出するためのSPRの使用は有利である。吸着の速度および度合いについての情報を迅速に得ることができ、誘電特性、会合/分離キネティクスおよび特異的リガンド−分析物相互作用のアフィニティー定数の決定を可能にする。
この実施例では、相互作用キネティクスを得るための相対比較ツールとしてSPR分析を用いる。SPRの結果は定量的ではないが、定量分析としては良好なシステムである。
比較SPR相互作用分析のため、まず、AおよびBサブユニットを用いた。Aサブユニットの構造解析の結果(図13)、AサブユニットのN末端が、Bサブユニットと相互作用している。そのため、Aサブユニットは、BiACoreCM5チップのデキストランと共有結合するはずである。
Aサブユニットがデキストラン表面へ結合するとき、200μg/mLのAサブユニットを10mMの酢酸ナトリウムバッファー(pH4)と混合し、固定化効率を上昇させた。Aサブユニットを金チップ上に固定化した後、Bサブユニットを100、50、25、10または5μg/mLの濃度で、連続してインジェクションした。AおよびBサブユニット間の相互作用について記載された比較データは公開されていないため、直接分析は不可能であるが、ある程度合理的な範囲のキネティクスデータが得られた(図14)。
基本的な科学的疑問に答えるため、および、実用的なアプリケーションのため、生体分子と電子部品とを統合して機能的な装置を構築することが魅力的である。バイオエレクトロニクスの分野の主たる活動は、電子信号の形態で生体認識または生体触媒プロセスをトランスデュースするバイオセンサーの開発に関する。それゆえ、この分野は主に医療およびバイオテクノロジー工業において抗体−抗原またはDNA−タンパク質をセンシングする免疫センサーとして開発されてきた。
したがって、酸化還元電流の変化は非常に顕著であり、この実測変化は相互作用を電気化学的に検出し得る可能性のあるバイオセンサーの開発の基礎を形成する。
電気化学検出法を用いて、最初にコレラ毒素AおよびB間の相互作用分析を行った。AまたはBサブユニットは、カルボキシル基を介して予備処理した金表面に共有結合させた。
AまたはBサブユニットのいずれか一方のサブユニットを固定化した後、他方のサブユニットをハイブリダイズさせ、各段階で電流値変化を観察した。
Bサブユニットを金表面に固定化し、AサブユニットをハイブリダイズさせたときのSWV電流の変化(図16)は、Aサブユニットを金表面に固定化し、Bサブユニットをハイブリダイズさせたときの変化(図17)よりも大きかった。これは、Bサブユニット(12kDa)がAサブユニット(27kDa)よりも小さいため、同一表面上に大量に固定化されたからと考えられる。
しかしながら、いずれサブユニットを先に金表面に固定化しても、AおよびBサブユニット間のハイブリダイゼーション後の最終電流値は誤差範囲で同レベルであった。
以上の結果から、サブユニット間の相互作用の最終判断には、いずれのサブユニットを金表面に固定化するかは影響しないが、多種のサブユニットのうちより小さなサイズ(分子量)を有するものを先に固体表面に固定化したほうが、より高い密度で配列できるため有利であると考えられる。
次に、実施例2で合成したGM1SH1およびGM1SH2の結合能を、チオール基修飾なしのGM1の結合能と比較した。
上記3種類の糖を予備処理していない金表面に直接固定化し、結合前後の電流値の変化を観察した。
GM1SH2は、GM1SH1と比較して、固定化による電流値の変化が大きく、高度に固定化されることが分かった(図18)。このことは、糖類、特に、多糖類へのチオール基修飾反応は、原料濃度を高くしたほうがよいことを示している。
上記したように、ビブリオコレラ毒素タンパク質とガングリオシドGM1の糖鎖部分との相互作用は毒性メカニズムに必要な知識である。Bサブユニットに加えて、Aサブユニットもこの相互作用に参画する。したがって、この実施例において、GM1SHを金表面に直接固定化した後、一連の相互作用を分析した。
2つのGM1SHを異なる条件で固定化した後、先にBサブユニットを糖類と接触させ、その後、Aサブユニットとハイブリダイズさせた。SWVにおける電流変化はGM1SH固定化後の電流差以外はほぼ同じであった(図19および20)。
しかしながら、酸化還元の度合いを表すCVにおける電流変化は別のパターンを示した。GM1SH1と比較して、GM1SH2は高密度で金表面に固定化されているため、Bサブユニットの結合により金表面のほとんどが覆われてしまい、酸化還元が発生しにくかったと考えられる。
チオール基を介して糖類を金表面に化学結合させた場合、糖類は表面から起立しているためにタンパク質と相互作用を起こすが、チオール基修飾なしの糖類が金表面に物理吸着している場合、糖類は表面上に横たわり、タンパク質と相互作用を起こさないと考えられる。
実施例4の結果から、糖類を金表面に固定化したチップ上で、タンパク質サブユニットのハイブリダイゼーションを観察できることが明らかとなったので、糖類チップを搭載したバイオセンサーを構築した。
電極配線13の一方の端部にはバイオ分子アレイ領域131が形成され、他方の端部にはバイオ分子アレイ領域で検出した電気的信号を取り出すためのパッド132が形成されている。
図22にバイオ分子アレイ領域131の拡大上面図を示す。バイオ分子アレイ領域131上には絶縁性レジスト膜14が形成され、この絶縁膜に1または複数の孔を設けることによって、バイオ分子を固定化するための1または複数のセンシング部131aが形成されている。
バイオ分子アレイ領域131には、センシング部131aの直径が5μm以上の場合、図22aに示すように単一のセンシング部を形成することができ、センシング部131aの直径がサブミクロン以下20nm程度までの場合、図22bに示すように複数のセンシング部を配列させることができる。
また、センシング部の大きさや個数も、使用の形態に適合させて、適宜増減することができる。
この構成を用いて、図23bに示すように、センシング部131aの底部の露出した電極表面上にチオール基を修飾した糖類プローブ2を固定化する。
その後、基板をGM1SH2の溶液に1時間浸漬して、GM1SHをSH基を介して電極表面に結合させる。
センシング部の底部にのみ糖類プローブ2が固定化されるように、前記のレジスト14はDTDPAの−SH基が結合しない材料であることが必要である。
最後に、リン酸バッファー溶液(PBS)で洗浄することによって、センシング部の底部に固定化されていない未結合の糖類を除去して、糖類チップを作製する。
本発明において、この糖類プローブ2にターゲット3であるタンパク質が結合したときの酸化還元電位の変化を検出する。
「ナノインプリンティング技術」なる用語は、ナノサイズのパターンのモールドを用いて、レジスト膜にパターンを転写する技術を意味し、レジストにモールドを圧接した後、光照射によりレジストを硬化させる光ナノインプリンティング技術;および、加熱により軟化させたレジストにモールドを圧接し、冷却によりレジストを硬化させる熱ナノインプリンティング技術を含む。
1994年、単一分子実験のための新たなタイプのAFM測定が投入された。単一ポリマー分子を引き延ばす力や単一結合を破壊する力は、以前測定されていたが、簡便さや正確性は当該分野を大いに刺激した。今日におけるAFM測定の主たる目的は、本質的に相互作用力を研究することにある。媒質を横切る2つの生体分子間の相互作用は生物学における基本的な問題のひとつである。
状態Aでは、基板とプローブ、すなわち、タンパク質と糖類とが十分に離れているため、プローブに負荷力は生じていない。両者を接近させていくと、状態Bにおいて、タンパク質と糖類とは接触していないが、引力が生じて、カンチレバーは下向きにたわむ。さらに両者を接近させていくと、斥力が生じ、距離に応じて負荷力は上昇し、カンチレバーは上向きにたわむ(状態C)。
基板とプローブとが十分に接近し、タンパク質と糖類とが確実に結合した状態から、今度は、基板とプローブとを離反させる。図24には描写されていないが、この実施例においては基板表面にタンパク質が固定化されているため、タンパク質と糖類とが確実に結合した状態で、基板とプローブとの間にまだ距離がある。
タンパク質と糖類とが確実に結合した状態は、別途、確認を行い、適当な距離または負荷力に達した時点で、基板とプローブとの離反を開始する。
基板とプローブとを離反させる過程において、タンパク質と糖類との結合により、プローブに負の負荷力が生じ、カンチレバーは下向きにたわむ(状態D)。さらに、基板とプローブとを離反させると、ある距離で、負荷力は急激に0となる。これは、タンパク質と糖類との結合が破断されたことを意味する。したがって、状態Dにおける最小の負荷力の絶対値を破断力Fと定義することができる。
基板上のある箇所で複数回、または、基板上の複数箇所で、複数の破断力Fを求め、複数の破断力を区分し、発生頻度のヒストグラムを作成する。このヒストグラムにガウス型ピーク解析を適用して、相互作用力を算出する。
SPRおよび電気化学分析と同様に、まず、ビブリオコレラ毒素AおよびBサブユニット間の相互作用のフォースカーブを得た。
Aサブユニットは、適当な間隔を作るために複数のリンカーを用いて金被覆カンチレバーのプローブ先端に共有結合させた(図25a)。一方、Bサブユニットは、ジチオビス(スクシンイミジルオクタノアート)をリンカーとして用いて金基板上に固定した(図25b)。
AおよびBサブユニット間の相互作用力は184.2±4.5pN(p<0.0001)となった。
この相互作用力は、他のリガンド−受容体間の相互作用力と同等であった(表1)。
つぎに、GM1SH2を金被覆カンチレバーのプローブ先端に固定化した。一方、Bサブユニットは、上記したように、ジチオビス(スクシンイミジルオクタノアート)をリンカーとして用いて金基板上に固定した。
糖類を金基板上に固定し、タンパク質をカンチレバーのプローブ先端に固定化することもできるが、タンパク質の結合部位を制御する観点から、タンパク質を金基板上に固定することが好ましい。
複数回測定したから破断力のヒストグラムを作成し、このヒストグラムにガウス型ピーク解析を適用して、相互作用力を算出した(図27)。
GM1SH2とBサブユニットとの間の相互作用力は、514.0±69.5pN(p<0.0001)となった。
このように、本発明の方法によれば、糖類を固体表面に直接固定化することができるので、糖類が関与する相互作用の力を測定することが可能となった。
Claims (8)
- 還元糖を固体表面上に直接固定化する方法であって、
一般式(I):R−CHO[式中、Rは、アルデヒド基を除く還元糖の部分。]で示されるアルデヒド基を有する還元糖を、
一般式(IIa):H2N−X−SH
[式中、Xは炭素数1〜3のアルキレン基またはフェニレン基。]で示されるアミノ基およびチオール基を分子内に有する化合物、または
一般式(IIb):H2N−Y−S−S−Z−NH2
[式中、YおよびZは、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキレン基またはフェニレン基。]で示されるアミノ基およびジスルフィド結合を分子内に有する化合物と20〜40℃にて反応させて、シッフ塩基を調製し、ついで、得られたシッフ塩基をボラン化合物の存在下、20〜40℃にて還元して、
一般式(IIIa):R−CH2−NH−X−SH
[式中、RおよびXは、それぞれ、上記定義と同じである。]で示されるチオール修飾還元糖、または
一般式(IIIb):R−CH2−NH−Y−S−S−Z−NH−CH2−R
[式中、R、YおよびZは、それぞれ、上記定義と同じである。]で示されるジスルフィド修飾還元糖を調製し、ついで、
一般式(IIIa)で示されるチオール修飾還元糖または一般式(IIIb)で示されるジスルフィド修飾還元糖を固体表面に接触させることを特徴とする方法。 - 前記ボラン化合物が、BH3・HN(CH3) 2である請求項1記載の方法。
- 還元糖とタンパク質との間の相互作用力を測定する方法であって、
一般式(IIIa):R−CH2−NH−X−SH
[式中、Rは、アルデヒド基を除く還元糖の部分であって、Xは炭素数1〜3のアルキレン基またはフェニレン基である。]で示されるチオール修飾還元糖、または
一般式(IIIb):R−CH2−NH−Y−S−S−Z−NH−CH2−R
[式中、Rは、アルデヒド基を除く還元糖の部分であって、YおよびZは、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキレン基またはフェニレン基である。]で示されるジスルフィド修飾還元糖を原子間力顕微鏡のカンチレバーのプローブ表面に固定化し、前記還元糖の部分との間の相互作用力を測定すべきタンパク質を固体基板に固定化し、還元糖固定化プローブとタンパク質固定化固体基板との距離を変化させつつ、フォースカーブを得、
得られたフォースカーブから、前記還元糖の部分と前記タンパク質との間の結合の破断力を求め、前記破断力に基づき相互作用力を評価することを特徴とする方法。 - 前記カンチレバーのプローブ表面が金で被覆されている請求項3の方法。
- 1または複数の還元糖が固体表面上に直接固定化されているバイオチップであって、
基板;
前記基板上に形成された1または複数の電極配線;
前記1または複数の電極配線を被覆する絶縁膜;および
前記1または複数の電極配線の各々の一領域上の絶縁膜に、電極表面に達する1または複数の孔を設けることによって形成された1または複数のセンシング部を含み、
ここに、前記1または複数の還元糖は
一般式(IIIa):R−CH 2 −NH−X−SH
[式中、Rは、アルデヒド基を除く還元糖の部分であって、Xは炭素数1〜3のアルキレン基またはフェニレン基である。]で示されるチオール修飾還元糖、または
一般式(IIIb):R−CH 2 −NH−Y−S−S−Z−NH−CH 2 −R
[式中、Rは、アルデヒド基を除く還元糖の部分であって、YおよびZは、同一または異なって、炭素数1〜3のアルキレン基またはフェニレン基である。]で示されるジスルフィド修飾還元糖であり、かつ、前記1または複数の還元糖は前記1または複数のセンシング部の底部に露出した電極配線の表面に直接固定化されていることを特徴とするバイオチップ。 - 少なくとも、作用電極、対極および参照電極を含むバイオセンサーであって、
ここに、前記作用電極は、請求項5に記載のバイオチップであることを特徴とするバイオセンサー。 - 請求項6に記載のバイオセンサーの作用電極、対極および参照電極を、被検試料を含有しない対照溶液に浸漬し、前記作用電極を処理する前に、前記作用電極の第1の電気的信号を測定し;
前記バイオセンサーの作用電極、対極および参照電極を、被検試料を含有する試験溶液に浸漬し、前記作用電極を被検試料で処理した後、前記作用電極の第2の電気的信号を測定し;次いで、
第1の電気的信号と第2の電気的信号との強度差から、試験溶液中に存在する毒素タンパク質を検出する方法。 - 第1および第2の電気的信号が、酸化還元電流値である請求項7に記載の方法。
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