電子写真法による画像形成方法としては種々の方法が知られている。一般には光導電性物質を利用し、種々の手段によって静電荷像担持体(以下、「感光体」ともいう)上に静電潜像を形成する。次いでトナーを用いて現像することにより該静電潜像を可視像とし、必要に応じて紙などの記録媒体にトナーによる該可視像を転写した後、熱あるいは圧力により該記録媒体上にトナー画像として定着させて複写物を得るものである。このような画像形成装置としては、プリンターや複写機などがある。
近年、プリンター装置はLEDレーザービームプリンターが市場の主流になっており、より高解像度、すなわち、従来の300dpi、400dpiから、600dpi、1200dpiへと移行してきている。これに伴って、現像方式もより高精細化が要求されるようになってきている。また、複写機においてもデジタル化による高機能化が進みつつあり、プリンターと同様、高解像度・高精細化の現像方式が要求されてきている。
通常、これらプリンターや複写機に使用されるトナーは、結着樹脂と、染料、顔料、カーボンブラック、磁性体等の着色剤を主構成材料とする微粒子であり、その粒径は5〜30μm程度のものが用いられている。
トナーは、一般に結着樹脂としての熱可塑性樹脂中に、上記着色剤や必要に応じて荷電制御剤、ワックス等を溶融混合して均一に分散させた後、こうして得られた樹脂組成物を微粉砕し、分級して所望の粒子径とする、いわゆる粉砕法によって製造されている。このトナーの製造において上記構成材料が満たすべき要件としては、例えば、上記樹脂組成物は十分に脆く、経済的に可能な製造装置にて微粉砕し得るものでなければならないという点が挙げられる。ところが、樹脂組成物の脆性を高くすると、微粉砕して得られる粒子の粒径範囲が広くなり易いという問題が生じる。また、トナー化した後も、現像器内において使用中にさらに微粉化され易く、トナー粒子の破断面に着色剤が露出することによって現像性の低下を引き起こすという問題も生じる。
一方、このような粉砕法によるトナーの問題点を克服するべく、懸濁重合法による重合トナーの製造方法が提案されている。懸濁重合法は、重合性単量体に着色剤や必要に応じて多官能性単量体、連鎖移動剤、荷電制御剤やワックス等のトナー粒子中に内包する必要のある物質を溶解あるいは分散させた重合性単量体組成物を、重合開始剤とともに分散安定剤を含有する水系媒体中に懸濁させ、これを加熱等の方法で重合することによって、所望の粒径を有するトナー粒子として得るものである。この方法によれば、粉砕工程を含まないため、樹脂材料に脆性は必要なく、軟質のものであっても使用することが可能となる。また、トナー粒子表面に着色剤が露出しにくいため、均一な摩擦帯電性を有し、耐久性に優れたトナー粒子を得ることができる。さらに、分級工程の省略も可能になるため、省エネルギー化や製造時間の短縮、収率の向上等、コストの削減効果も大きくなる。
ところが、上記着色剤として用いるカーボンブラックや一部の染料、顔料の中には重合反応を阻害しやすいものがある。また、懸濁重合法によって製造した重合トナー或いは懸濁重合法によって製造した樹脂においては、使用する重合開始剤の種類によっては未反応の重合性単量体がトナー粒子或いは樹脂粒子中に残留してしまうことがある。残存する重合性単量体の量が多くなり過ぎると、個々のトナー粒子の帯電量が不均一となってカブリが生じ易くなり、また、トナー担持体の汚染や感光体へのフィルミングが発生し易くなって、画質の低下を引き起こすという問題が生じる。
また、懸濁重合法における重合開始剤の利用効率は必ずしも十分ではなく、その一部が重合反応に関与することなく分解物残渣としてトナー粒子或いは樹脂中に残留してしまうことがある。分解物残渣は、重合開始剤の分解によって生じた遊離基(ラジカル)が反応系内のほかの化合物から水素原子を引き抜いたり、ラジカル同士が不均化あるいは再結合したりして生成するもので、主にアルコールやカルボン酸、炭化水素といった化合物である。これらの分解物でも、低沸点のものであれば重合後に加熱・減圧等の操作を行うことによって留去することができ、水溶性を有するものであれば水系媒体中に溶出させることが可能である。しかし、比較的高分子量で高沸点かつ難溶性の化合物になると除去は困難となり、トナー粒子中に残留してしまうことになる。
このような分解物残渣もまた、帯電安定性の低下や、長期使用における画質低下の原因となり、定着時においては溶融したトナーが加熱ローラーに付着し易くなって、これが被定着シートを汚染する、いわゆる高温オフセットの原因の一つとなっている。また、このような分解物が多量に生成することによって重合開始剤の利用効率が低下すると、未反応の重合性単量体量を増大させる原因にもなる。
従来から、未反応の重合性単量体や重合開始剤に由来する分解物残渣がトナー粒子中に残留することを防止するための検討は盛んに行われており、以下に例示するような種々の方法が提案されている。
例えば、特定の構造を有し、かつ10時間半減期温度が120℃以下である過酸化物を重合開始剤として用いることにより、重合開始剤の分解物残渣が低減されたトナー用樹脂を製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。
また、上記重合開始剤とは異なる他の特定構造を有し、10時間半減期温度が70℃以上である重合開始剤と、それ以外の重合開始剤との共存下で重合を行うことによって、未反応モノマー(重合性単量体)の残留が抑えられたトナー用樹脂を得る方法が提案されている(特許文献2参照)。
さらに、非磁性一成分現像剤用の重合トナーの製造において、重合開始剤として分子量が250以下で、10時間半減期温度が60乃至85℃である非芳香族系有機過酸化物を用い、かつ重合温度75乃至100℃の範囲内で懸濁重合を行うことによって、重合開始剤の分解物や残存モノマー(重合性単量体)などの量が抑制された重合トナーを製造する方法が提案されている(特許文献3参照)。
上記した従来例の内、特許文献1に開示された方法は、重合開始剤として脂肪族系の有機過酸化物を用いるもので、通常のパーオキシカーボネート系有機過酸化物、モノカーボネート系有機過酸化物、ジアシル系有機過酸化物、ジカーボネート系有機過酸化物等の中でも、特に脂肪族炭化水素基の炭素数が制限されたものが包含される。この方法によれば、重合開始剤に由来する分解物は比較的低分子量のものとなる。したがって、この重合開始剤を用い、溶液重合法によってトナー用結着樹脂を作製した場合、分解物残渣は重合後の脱溶剤工程やトナー調製時の溶融混練工程で高温加熱されることによって揮発するため、トナー粒子中への残留を抑制することができるとされている。しかしながら、このような重合開始剤を懸濁重合トナーの製造に適用した場合は、上記したような高温加熱処理する工程を含まないために、トナー粒子中への残留を抑制することは困難である。また、一部の着色剤による重合阻害に対しても、これを抑えることが困難であった。
また、上記した特許文献2に開示された方法は、トナー用結着樹脂の製造工程において、水素の引き抜き反応が起こりにくいラジカルを生成する重合開始剤を用いるというものである。この方法によれば、ラジカルを長時間に渡って安定に存在させることができるため、単量体の利用効率が向上し、未反応単量体の残留を抑制することができるとされている。しかしながら、この重合開始剤は10時間半減期温度が高く、懸濁重合トナーの製造に用いる重合開始剤としては必ずしも好適とはいえない。また、この重合開始剤からは水素引き抜き反応が起こりにくいラジカルのみが生成される訳ではなく、さらに、他の重合開始剤を併用することが必要であって、分解物残渣の生成量を低減する効果は小さいことがわかった。
さらに、上記した特許文献3に開示された方法は、懸濁重合法による重合トナーの製造において、使用する重合開始剤の分子量と10時間半減期温度を規定したもので、これによって分解物残渣や未反応単量体の残留を抑制しようとするものである。しかしながら、分解物の物性は、単に重合開始剤の分子量によって一義的に決まるものではなく、分解物自体の分子量や分子構造によって支配されるものである。また、未反応単量体の量についても、単に重合開始剤の10時間半減期温度によってのみ決まるものではなく、10時間半減期温度と重合温度のバランスに拠るところが大きい。また、この方法は分解物残渣のトナー粒子中への残留を抑制しようとするものであって、分解物の生成そのものを抑制するものではない。本発明者等の検討によると、分解物残渣や未反応単量体の残留に関して、未だ改善の余地があった。
以上、説明したように、懸濁重合法による重合トナーにおいて、未反応の重合性単量体や分解物残渣のトナー粒子中への残留によって引き起こされる種々の不具合を解決することができる製造方法は、未だ得られていないのが現状である。
特開昭61−114245号公報
特開平07−181731号公報
特登録3336862号公報
以下、本発明の好ましい実施の形態を挙げて、さらに詳しく説明する。
本発明者らは、重合性単量体組成物を、着色剤の共存下、水系媒体中で重合開始剤を用いて重合性単量体を重合して得られる重合トナーの製造において、特定の構造を有する重合開始剤が着色剤による重合阻害を受けにくいことを見出した。さらに、この重合開始剤の構成を最適化することによって重合開始剤の利用効率を大幅に改善することが可能であり、また、未反応の重合性単量体や分解物残渣のトナー粒子中への残留を抑制することができることを見出した。これらの知見を得て、本発明を完成するに至った。また、重合開始剤の利用効率の改善は、トナー用結着樹脂の製造においても有効である。
上述した重合トナーの代表的な製造方法として、懸濁重合法を挙げることができる。懸濁重合法は、重合性単量体に重合開始剤や、必要に応じて多官能性単量体、連鎖移動剤等を加えた重合性単量体組成物を、分散安定剤を含有する水系媒体中に懸濁させて造粒を行い、これを加熱することによって重合を行う方法である。この方法によれば、前記重合性単量体組成物中に、予め着色剤やその他トナー粒子中に含有させる必要のある物質を溶解あるいは分散させて重合を行うことにより、直接、重合トナー粒子を製造することができる。
本発明に係る懸濁重合法による重合トナーは、以下のように製造される。
まず、トナー組成物、すなわち結着樹脂となる重合性単量体に少なくとも着色剤を加え、ホモジナイザー、ボールミル、コロイドミル、超音波分散機の如き分散機を用いて、これらを均一に溶解あるいは分散させた重合性単量体組成物を調製する。このとき、上記重合性単量体組成物中には、必要に応じて多官能性単量体や連鎖移動剤、また、離型剤としてのワックスや荷電制御剤、可塑剤、さらに他の添加剤(例えば、高分子重合体や分散剤)を適宜加えることができる。
次いで、上記重合性単量体組成物を、予め用意した分散安定剤を含有する水系媒体中に懸濁させて造粒を行う。このとき、高速撹拌機もしくは超音波分散機のような高速分散機を使用して一気に所望の粒子サイズとすることにより、得られる重合トナー粒子の粒度分布をシャープにすることができる。
重合開始剤は、重合性単量体組成物を調製する際に他の添加剤とともに混合してもよく、水系媒体中に懸濁させる直前に重合性単量体組成物中に混合してもよい。また、造粒中や造粒完了後、すなわち重合反応を開始する直前に、必要に応じて重合性単量体や他の溶媒に溶解した状態で加えることもできる。
重合反応は、造粒後の懸濁液を温度50乃至90℃に昇温し、懸濁液中の液滴粒子が粒子状態を維持し、且つ粒子の浮遊や沈降が生じることがないよう、撹拌しながら行う。
上記重合開始剤は、昇温による加熱によって容易に分解し、遊離基(ラジカル)を生成する。生成したラジカルは重合性単量体の不飽和結合に付加し、付加体のラジカルを新たに生成する。そして、生成した付加体のラジカルはさらに重合性単量体の不飽和結合に付加する。重合反応は、このような付加反応を連鎖的に繰り返すことによって進行する。
重合反応の後半あるいは重合反応終了後には、未反応の重合性単量体または副生成物を除去するために、水系分散媒の一部を反応系から留去することもできる。
そして、重合反応が完了した後は、得られた重合体粒子を公知の方法によって濾過し、十分に洗浄した後、乾燥する。このようにして懸濁重合法による重合トナーが得られる。
一般に、重合反応の阻害は、重合開始剤の分解によって生成するラジカルと極めて反応しやすい物質が存在することによって引き起こされる。一部の着色剤は、重合阻害物質として働くため、このような着色剤の存在下では、重合性単量体の不飽和結合への付加反応よりも着色剤との直接的な反応が支配的となり、生成ラジカルの多くがこれに消費されるために重合阻害が生じることになる。
重合トナーの製造において、重合開始剤として、一般式(1)に示す構造を有する2官能のパーオキシエステル系有機過酸化物を使用することにより、このような重合阻害を回避できることがわかった。
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、分岐若しくは置換基があってもよい炭素数1乃至6の脂肪族炭化水素基を示し、R
3は、分岐があってもよい炭素数3乃至12の脂肪族炭化水素基を示す。)
上記2官能のパーオキシエステル系有機過酸化物を加熱すると、下式(a)に示すように、2つのO−O結合がそれぞれ開裂して構造の異なる2或いは3種類のラジカル(2種のアシルオキシラジカルは、同一構造であってもよい。)が生成する。重合阻害の回避は、これらのラジカルの重合阻害物質に対する反応活性の違いによって成し得たものと考えられる。すなわち、重合阻害物質に対してより活性を示すラジカル種の存在によって、重合阻害物質に対してより不活性な他のラジカル種は、重合阻害物質の影響を受けることなく重合性単量体との反応に寄与することが可能になると考えられる。
生成した各ラジカルが反応系内のほかの化合物から水素原子を引き抜いた場合、失活して新たにカルボン酸とジオールを生成することになる。トナー粒子中にこれらの生成物が分解物残渣として残留するのは好ましくなく、生成後、速やかに液滴内部から分散媒中に排出させることが好ましい。
前記一般式(1)中のR1乃至R3が芳香族系の炭化水素基である場合は、生成したカルボン酸やジオールを液滴内部から排出させるのが困難である。そのため、カルボン酸およびジオールの分散媒に対する溶解性の観点から、前記R1乃至R3としては脂肪族炭化水素基が用いられる。また、R1及びR2は、分岐若しくは置換基があっても良い脂肪族炭化水素基であり、炭素数はそれぞれ1乃至6である。また、置換基としては、OH基が挙げられる。R3は、分岐があっても良い脂肪族炭化水素基であり、炭素数は3乃至12である。
ところで、重合開始剤に由来する分解物残渣を本質的に低減するためには、残渣の生成量そのものを低減する必要があり、そのためには上述した水素原子の引き抜き反応を抑制し、ラジカルを効率良く利用することが重要である。
本発明において、ラジカルの利用効率はその安定性に依存しており、ラジカルの分子構造によって制御が可能であることがわかった。そして、各ラジカルの分子構造を最適化して安定性をバランスさせることにより、重合開始剤としての利用効率を飛躍的に向上させることが可能となった。
これは、生成する各ラジカルの安定性に大きな隔たりがあると、より安定なラジカルによる重合反応が支配的となり、他のラジカルは水素原子の引き抜きが支配的となって重合に関与できなくなるためと考えられる。
パーオキシエステル系有機過酸化物は、開裂してアシルオキシラジカルとアルコキシラジカルを生成するが、通常、アシルオキシラジカルの利用効率はアルコキシラジカルに比べて高いことが知られている。
これは、以下の理由によると推察している。
アシルオキシラジカルの一般的な反応としては、下式(b)に示す脱炭酸反応が知られている。脱炭酸反応は、新たに生成するアルキルラジカル“R1・”の安定性が元のアシルオキシラジカルに比べて高いため、極めて容易に進行するといわれている。すなわち、このアルキルラジカル“R1・”による重合性単量体への付加反応が支配的となって重合が進行すると考えられる。
したがって、アシルオキシラジカルの脱炭酸反応をある程度抑制することによって、もう一方のアルコキシラジカルの利用が促進され、その結果、重合開始剤の利用効率を向上させることが可能になると考えられる。
アルキルラジカルの安定性については、例えば、メチルラジカルに比べてエチルラジカルはより安定であり、第一級アルキルに比べると第二級アルキル、第三級アルキルの順により安定となることが知られている。これは、アルキルラジカルのβ位に存在するC−H結合の数の違いによるもので、水素原子の超共役による共鳴安定化の効果によるものと考えられている。
すなわち、前記一般式(1)中のR1及びR2を、下記一般式(2)に示す構造とすることで、脱炭酸反応を適度に抑制することができ、重合開始剤としての利用効率を向上させることができる。
(式中、R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1乃至5の炭化水素基を示し、式中の炭素数の合計は6以下である。)
R1及びR2が第二級アルキル基のとき、利用効率をより効果的に向上させることができる。R1及びR2が第一級アルキル基の場合は、重合開始剤の10時間半減期温度が高くなり過ぎる傾向を示す。また、R1及びR2が第三級アルキル基の場合には、生成するアルキルラジカルの安定性が高過ぎるため、アルコキシラジカルの利用を促進させることができず、重合開始剤の利用効率が低下してしまう。
一方、前記一般式(1)中のR3は、下記一般式(3)に示す構造とすることが、特に重合開始剤の利用効率を効果的に向上させることができて好ましい。
(式中、R
6乃至R
9は、それぞれ独立に、炭素数1乃至2の炭化水素基を示し、nは1乃至3の整数であり、式中の炭素数の合計は12以下である。)
通常、アルコキシラジカルは安定性が低く、上述した水素原子の引き抜き反応を起こし易いため、ラジカルの利用効率は、アシルオキシラジカルに比べて低くなる傾向を示す。
詳細なメカニズムは不明であるが、R3を上記一般式(3)の構造とすることで、下式(c)に示すような、各酸素原子のβ位におけるC−C結合の開裂反応(以下、β開裂という)が生じ易くなると考えられる。これにより、新たに生成する安定性の高いアルキルラジカル(・(CH2)n・)は、重合性単量体への付加反応が容易であるため、重合開始剤の利用効率が向上するものと考えられる。
本発明において、前記重合開始剤の10時間半減期温度は、50乃至80℃の範囲であることが好ましい。10時間半減期温度が50℃よりも低いと、これに合わせて重合温度を低くする必要が生じ、得られる結着樹脂の分子量の制御が困難になるという不具合が生じやすい。また、重合温度が不適切であると、重合開始剤の利用効率が低下して未反応の重合性単量体や分解物残渣の生成量が増大しやすい。一方、10時間半減期温度が80℃を超える場合には、これに合わせて重合温度を高くしなければならないため、製造コストの高騰を招く。その上、重合温度を適切に高くしないと、重合開始剤の利用効率が低下して未反応の重合性単量体や分解物残渣の生成量の増大を招いてしまう場合がある。
このような条件を満足する重合開始剤の具体例としては、例えば、以下のものが例示される。
そして、前記重合開始剤の使用量は、前記重合性単量体100質量部に対し、0.5乃至10質量部の範囲であることが好ましい。重合開始剤の使用量が上記範囲内である場合、未反応単量体量や分解物残渣の生成量を抑制できることに加え、得られる樹脂の分子量の制御が容易となる。
このように、本発明は、トナーの製造に使用する重合開始剤の構造を、生成するラジカルの安定性の観点から規定したものである。そして、これによって発現される利用効率の大幅な改善という新たな効果により、未反応の重合性単量体や分解物残渣のトナー粒子中への残留が抑制されたトナーを実現しようとするものである。
すなわち、単に重合開始剤の分子量(あるいは炭素数)や10時間半減期温度のみを規定しただけでは本発明の目的を達成することは困難である。
尚、本発明に係る重合開始剤は、重合阻害物質による影響を受け易い懸濁重合法による重合トナーの製造に適用した場合において特に有効であるが、トナー用結着樹脂の製造に適用した場合においても同様の効果を得ることができる。
以上の通りであるから、本発明によれば、重合トナー或いはトナー用結着樹脂の製造において、重合阻害物質による影響を抑え、重合開始剤の利用効率を改善することができる。また、これによって、未反応の重合性単量体や重合開始剤に由来する分解物残渣のトナー粒子中への残留を抑制することが可能となる。
また、このような製造方法を用いることによって、摩擦帯電の安定性に優れ、且つ安定した画像を長期に渡って得ることができるトナーの実現が可能となる。
本発明において用いることのできる重合性単量体としては、例えば、以下のものが挙げられる。
スチレン;α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチル、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレンの如きスチレン系単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチルの如きアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルの如きメタクリル酸エステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド。
これらの重合性単量体は、単独もしくは混合して使用することができる。これらの単量体の中でも、スチレンまたはスチレン誘導体を単独で、あるいは他の単量体と混合して使用することが、トナーの現像特性および耐久性の点から好ましい。
また、本発明においては、必要に応じて連鎖移動剤を使用することができる。例えば、以下のものが挙げられる。n−ペンチルメルカプタン、イソペンチルメルカプタン、2−メチルブチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−ヘプチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、t−ノニルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、t−テトラデシルメルカプタン、n−ペンタデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、t−ヘキサデシルメルカプタン、ステアリルメルカプタンの如きアルキルメルカプタン類;チオグリコール酸のアルキルエステル類;メルカプトプロピオン酸のアルキルエステル類;クロロホルム、四塩化炭素、臭化エチレン、四臭化炭素の如きハロゲン化炭化水素類;α−メチルスチレンダイマー。
これらの連鎖移動剤は必ずしも使用する必要はないが、使用する場合の好ましい添加量としては、重合性単量体100質量部に対して0.05乃至3質量部である。
また、本発明においては、少量の多官能性単量体を併用することができる。多官能性単量体としては、主として2個以上の重合可能な二重結合を有する化合物が用いられる。例えば、以下のものが挙げられる。ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレンの如き芳香族ジビニル化合物;エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレートの如き二重結合を2個有するカルボン酸エステル;ジビニルアニリン、ジビニルエーテル、ジビニルスルフィド、ジビニルスルホンの如きジビニル化合物;3個以上のビニル基を有する化合物。
これらの多官能性単量体は必ずしも使用する必要はないが、使用する場合の好ましい添加量は、重合性単量体100質量部に対して0.01乃至1質量部である。
本発明における懸濁重合法では、水系媒体中に添加する分散安定剤として、公知の界面活性剤や有機分散剤、無機分散剤を使用することができる。これら中でも無機分散剤は超微粉が生成しにくく、重合温度を変化させても安定性が崩れにくく、洗浄も容易でトナーに悪影響を与えにくいため、好適に使用することができる。無機分散剤としては、例えば、以下のものが挙げられる。燐酸カルシウム、燐酸マグネシウム、燐酸アルミニウム、燐酸亜鉛の如きリン酸多価金属塩;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き炭酸塩;メタ硅酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き無機塩;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムの如き水酸化物;シリカ、ベントナイト、アルミナの如き無機酸化物。
これら無機分散剤を用いる場合、そのまま水系媒体中に添加して用いてもよいが、より細かい粒子を得るため、該無機分散剤を生成し得る化合物を用いて水系媒体中にて無機分散剤粒子生成させて用いることもできる。例えば、燐酸カルシウムの場合、高速撹拌下、燐酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液とを混合して、水不溶性の燐酸カルシウムを生成させることができ、より均一で細かな分散が可能となる。この時、同時に水溶性の塩化ナトリウムが副生するが、水系媒体中に水溶性塩が存在すると、重合性単量体の水への溶解が抑制されて乳化微粒子が発生しにくくなるので、より好都合である。無機分散剤は、重合終了後に酸あるいはアルカリを加えて溶解することにより、ほぼ完全に取り除くことができる。
また、これらの無機分散剤は、重合性単量体100質量部に対して0.2乃至20質量部を単独で使用することが望ましいが、必要に応じて、0.001乃至0.1質量部の界面活性剤を併用してもよい。界面活性剤としては、例えば、以下のものが挙げられる。ドデシルベンゼン硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム。
本発明の重合トナーにおいて使用される着色剤としては、公知のものが使用できる。
黒色着色剤としては、例えば、カーボンブラック、磁性粉体を挙げることができ、また、以下に示すイエロー/マゼンタ/シアン着色剤を混合して黒色に調色しても良い。
イエロー着色剤としては、例えば、以下のものが挙げられる。縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アンスラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、アリルアミド化合物。具体的には、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、109、110、111、128、129、147、168、180が好適に用いられる。
マゼンタ着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アンスラキノン、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物が用いられる。具体的には、C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、166、169、177、184、185、202、206、220、221、254が好適に用いられる。
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アンスラキノン化合物、塩基染料レーキ化合物等が用いられる。具体的には、C.I.ピグメントブルー1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、66が好適に用いられる。
これらの着色剤は単独または混合し、更には固溶体の状態で用いることができる。黒色着色剤として磁性粉体を用いる場合、その添加量は重合性単量体100質量部に対して40乃至150質量部であることが好ましい。黒色着色剤としてカーボンブラックを用いる場合、その添加量は重合性単量体100質量部に対して1乃至20質量部であることが好ましい。また、カラートナーの場合、色相角、彩度、明度、耐候性、OHP透明性、トナー中への分散性の点から選択され、その好ましい添加量は、重合性単量体100質量部に対して1乃至20質量部である。
これらの着色剤を懸濁重合法による重合トナーに使用する場合、上述した重合阻害性の他、水相移行性にも注意を払う必要があり、必要に応じて、疎水化処理の如き表面改質を施すことが好ましい。例えば、染料系の着色剤を表面処理する好ましい方法としては、予め染料の存在下に重合性単量体を重合させる方法が挙げられ、得られた着色重合体を単量体組成物に添加する。カーボンブラックについては、上記染料と同様の処理の他に、カーボンブラックの表面官能基と反応する物質、例えば、ポリオルガノシロキサンでグラフト処理を行ってもよい。
また、磁性粉体は、四三酸化鉄、γ−酸化鉄の如き酸化鉄を主成分とするものであり、一般に親水性を有している。そのため、分散媒としての水との相互作用によって磁性粉体が粒子表面に偏在しやすく、得られるトナー粒子は表面に露出した磁性粉体のために流動性および摩擦帯電の均一性に劣るものとなる。したがって、磁性粉体はカップリング剤によって表面を均一に疎水化処理することが好ましい。使用できるカップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤が挙げられ、特にシランカップリング剤が挙げられる。
本発明のトナーは、定着性向上のために離型剤を内包させることが好ましい。使用可能な離型剤としては、例えば、以下のものが挙げられる。パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムの如き石油系ワックスおよびその誘導体;モンタンワックスおよびその誘導体;フィッシャートロプシュ法による炭化水素ワックスおよびその誘導体;ポリエチレンに代表されるポリオレフィンワックスおよびその誘導体;カルナバワックス、キャンデリラワックスの如き天然ワックスおよびその誘導体。誘導体には、酸化物やビニル系モノマーとのブロック共重合物、グラフト変性物が含まれる。さらに、高級脂肪族アルコール、ステアリン酸、パルミチン酸の脂肪酸、あるいはその化合物、酸アミドワックス、エステルワックス、ケトン、硬化ヒマシ油およびその誘導体、植物系ワックス、動物性ワックスも使用できる。これらの離型剤は単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
これらの離型剤の中でも、示差走差熱量計により測定されるDSC曲線において昇温時に温度40乃至130℃の領域に最大吸熱ピークのピーク温度を有するものが好ましく、さらには温度45乃至120℃の領域に有するものがより好ましい。このような離型剤を用いることにより、低温定着性に大きく寄与しつつ、離型性をも効果的に発現することができる。また、定着時以外での離型剤の染み出しが抑制され、帯電性の低下を抑制できる。また、耐高温オフセット性、低温定着性の両立を良好に達成することができる。更に、製造時においては、造粒中に離型剤成分が析出し、粒子中の離型剤の分散が不均一になるといった不具合を生じにくい。
離型剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対し1乃至30質量部であることが好ましく、3乃至20質量部であることがより好ましい。離型剤の含有量が上記の範囲内である場合、十分な添加効果が得られ、良好な耐オフセット性が得られる。また、上記範囲内であれば、他のトナー材料の分散を妨げることも無く、離型剤成分の染み出しを抑制できるため、流動性や保存性を長期にわたり良好に維持できる。
また、懸濁重合法による重合トナーの製造においては、上述した重合性単量体組成物中に極性を有する重合体を添加して重合を行ってもよい。従来、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、グリシジル基、ニトリル基の如き親水基を含有する単量体は、水性懸濁液中では溶解して乳化重合を起こすために使用が困難であった。ところが、これらの親水基を含有する単量体を、スチレン、エチレンの如きビニル化合物とのランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体の形にすることで、トナー中に導入することが可能となる。また、ポリエステル、ポリアミドの如き重縮合体、ポリエーテル、ポリイミンの如き重付加重合体の形にすることでも、トナー中への導入が可能となる。
例えば、ポリエステルはエステル結合を数多く含む、比較的極性の高い樹脂である。このポリエステルを重合性単量体組成物中に添加して重合を行った場合、水系分散媒中ではポリエステルが重合性単量体組成物の粒子の表面層に移行する傾向を示すため、重合の進行とともに粒子の表面部にポリエステルが偏在しやすくなる。その結果、得られるトナー粒子は表面状態や表面組成が均一なものとなり、摩擦帯電の均一性が向上するとともに、前述した離型剤の内包化がより強力となる。したがって、現像性と耐ブロッキング性ともに良好な重合トナーを得ることができる。
ポリエステル樹脂としては、例えばトナーの摩擦帯電性、耐久性および定着性をコントロールする上で、飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、あるいはその両者を適宜選択して使用することが可能である。
前記ポリエステルには、構成成分として少なくともアルコール成分と酸成分を含有する、通常のものを使用することができる。
2価のアルコールとして、例えば、以下のものが挙げられる。エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、又は下記一般式(4)で表されるビスフェノール誘導体、又、下記式(5)で示されるジオール類。
(式中、Rはエチレン又はプロピレン基であり、x及びyはそれぞれ1以上の整数であり、且つx+yの平均値は2乃至10である。)
(式中、R’は−CH
2CH
2−、−CH
2CH(CH
3)−、または−CH
2−C(CH
3)
2−である。)
3価以上のアルコールとして、例えば、以下のものが挙げられる。ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼン。
これらのアルコール成分は、単独で使用してもよいし、混合状態で使用してもよい。
2価のカルボン酸として、例えば、以下のものが挙げられる。ナフタレンジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸の如きジカルボン酸;無水フタル酸、無水マレイン酸の如きジカルボン酸無水物;テレフタル酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、アジピン酸ジメチルの如きジカルボン酸の低級アルキルエステル。特に、テレフタル酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、アジピン酸ジメチルの如きジカルボン酸の低級アルキルエステル又はその誘導体が好適である。
また、3価以上のカルボン酸を用いることにより、架橋させてもよい。3価以上のカルボン酸としては、以下のものが挙げられる。トリメリット酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリn−エチル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリn−ブチル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリn−ヘキシル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリイソブチル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリn−オクチル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリ2−エチルヘキシル。
また、ポリエステル樹脂の特性を損なわない程度に、1価のカルボン酸成分や1価のアルコ−ル成分を用いてもよい。1価のカルボン酸成分として、例えば、以下のものが挙げられる。安息香酸、ナフタレンカルボン酸、サリチル酸、4−メチル安息香酸、3−メチル安息香酸、フェノキシ酢酸、ビフェニルカルボン酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸。1価のアルコ−ル成分として、例えば、以下のものが挙げられる。n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、ラウリルアルコール、2−エチルヘキサノール、デカノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ドデシルアルコール。
また、材料の分散性や定着性、画像特性の改良を目的として、上記以外の重合体を重合性単量体組成物中に添加してもよい。例えば、ポリスチレンおよびポリビニルトルエンの如きスチレンおよびその置換体の単独重合体やスチレン系共重合体を単独で、あるいは混合して使用することができる。
さらに、重合性単量体を重合して得られる結着樹脂の分子量範囲とは異なる分子量の重合体を、重合性単量体組成物中に予め溶解して重合すれば、分子量分布の広い、耐オフセット性の良好な重合トナーを得ることができる。
これら重合体の添加量としては、重合性単量体100質量部に対して1乃至20質量部の範囲であることが好ましい。上記範囲内であれば、十分な添加効果が得られ、また、種々の物性設計への影響を小さくできる。
また、本発明のトナーは、荷電特性の安定化を目的として、必要に応じて荷電制御剤を含有させることができる。含有させる方法としては、トナー粒子の内部に添加する方法と外部添加する方法がある。荷電制御剤としては公知のものを利用することができるが、特に重合トナーの製造において内部添加する場合には、重合阻害性が低く、水系分散媒体への可溶化物を実質的に含まない荷電制御剤が特に好ましい。具体的な化合物としては、ネガ系荷電制御剤として、例えば、以下のものが挙げられる。サリチル酸、アルキルサリチル酸、ジアルキルサリチル酸、ナフトエ酸、ダイカルボン酸の如き芳香族カルボン酸の金属化合物;アゾ染料あるいはアゾ顔料の金属塩または金属錯体;スルホン酸又はカルボン酸基を側鎖に持つ高分子型化合物;ホウ素化合物、尿素化合物、ケイ素化合物、カリックスアレーン。また、ポジ系荷電制御剤として、以下のものが挙げられる。四級アンモニウム塩、該四級アンモニウム塩を側鎖に有する高分子型化合物、グアニジン化合物、ニグロシン系化合物、イミダゾール化合物。
これらの電荷制御剤の使用量は、結着樹脂の種類、他の添加剤の有無、分散方法を含むトナーの製造方法によって決定されるもので、一義的に限定されるものではないが、内部添加する場合は、結着樹脂100質量部に対して0.1乃至10質量部の範囲が好ましい。より好ましくは0.1乃至5質量部の範囲である。また、外部添加する場合の電荷制御剤の使用量は、好ましくはトナー粒子100質量部に対して0.005乃至1.0質量部、より好ましくは0.01乃至0.3質量部である。
本発明によって得られるトナーの重量平均粒径は、より微小な静電潜像のドットを忠実に現像し、高画質な画像を得るため、3.0乃至10.0μmであることが好ましい。
ここで、トナーの平均粒径および粒度分布は、コールターカウンターTA−II型あるいはコールターマルチサイザー(いずれもコールター社製)を用いて測定することが可能である。本発明では、コールターマルチサイザーを用い、これに個数分布と体積分布を出力するインターフェイス(日科機社製)、およびPC9801パーソナルコンピューター(NEC社製)を接続した。電解液には、1級塩化ナトリウムを用いて調製した1%のNaCl水溶液を使用した。
測定法としては、前記電解液100乃至150ml中に分散剤として界面活性剤、好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸塩を0.1乃至5ml加え、さらに測定試料を2乃至20mg加える。次いで、この電解液に超音波分散器で約1乃至3分間分散処理を施し、前記コールターマルチサイザーにより、アパーチャーとして100μmアパーチャーを用いて2μm以上の粒子の体積および個数を測定して体積分布と個数分布とを算出する。それから、重量平均粒径(D4)、個数平均粒径(D1)を求める。
本発明によって得られるトナーの平均円形度は、0.970以上であることが好ましい。平均円形度とは、トナー粒子の凹凸度合いを表す指標であり、トナーが完全な球形の場合1.000を示し、表面形状が複雑になるほど小さな値となる。すなわち、平均円形度が0.970以上であるということは、トナー形状が実質的に球形であることを意味している。このような形状を有するトナーは、帯電が均一になりやすく、カブリやスリーブゴーストの抑制に効果的である。また、トナー担持体上に形成されるトナーの穂が均一となりやすいため、現像部での制御が容易となる。さらに、球形であるが故に流動性も良好であり、現像器内でのストレスを受けにくいため、高湿度下での長期の使用においても帯電性が低下しにくい。そして、定着時においても熱や圧力がトナー全体に均一にかかりやすいため、定着性の向上にも寄与する。
なお、本発明における平均円形度は、フロー式粒子像分析装置「FPIA−3000型」(シスメックス社製)を用いて測定を行った。
具体的な測定方法としては、イオン交換水20mlに分散剤として界面活性剤、好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸塩を適量加えた後、測定試料0.02gを加える。次いで、発振周波数50kHz、電気的出力150Wの卓上型の超音波洗浄器分散機(例えば「VS−150」(ヴェルヴォクリーア社製)を用いて2分間分散処理を行い、測定用の分散液とした。その際、分散液の温度が10℃以上40℃以下となる様に適宜冷却する。
測定には、標準対物レンズ(10倍)を搭載した前記フロー式粒子像測定装置を用い、シース液にはパーティクルシース「PSE−900A」(シスメックス社製)を使用した。前記手順に従って調整した分散液を前記フロー式粒子像測定装置に導入し、トータルカウントモードで3000個のトナー粒子を計測して、解析粒子径を円相当径3.00μm以上、200.00μm以下に限定し、トナーの平均円形度を求めた。
測定にあたっては、測定開始前に標準ラテックス粒子(例えばDuke Scientific社製5200Aをイオン交換水で希釈)を用いて自動焦点調整を行う。その後、測定開始から2時間毎に焦点調整を実施することが好ましい。
なお、実施例では、シスメックス社が発行する校正証明書の発行を受けたフロー式粒子像測定装置を使用し、解析粒子径を円相当径3.00μm以上、200.00μm以下に限定した以外は、校正証明を受けた時の測定及び解析条件で測定を行った。
そして、本発明のトナーは、流動性向上剤が外部添加されていることが画質向上のために好ましい。流動性向上剤としては、ケイ酸微粉体、酸化チタン、酸化アルミニウムの如き無機微粉体が好適に用いられる。これら無機微粉体は、シランカップリング剤、シリコーンオイルまたはそれらの混合物の如き疎水化剤で疎水化処理されていることが好ましい。
本発明のトナーは、そのまま一成分系現像剤として、あるいは磁性キャリアと混合して二成分系現像剤として使用することができる。二成分系現像剤として用いる場合、混合するキャリアの平均粒径は、10乃至100μmであることが好ましく、二成分系現像剤中のトナー濃度は、2乃至15質量%であることが好ましい。
以下、本発明の製造方法について、実施例を用いて具体的に説明する。
〔実施例1〕
(顔料分散ペーストの作製)
スチレン:78.0質量部
カーボンブラック:7.0質量部
上記材料を容器中で十分プレミックスした後、これを20℃以下に保ったままアトライター(三井三池化工機製)を用いて約4時間均一に分散混合し、顔料分散ペーストを作製した。
(トナー粒子の作製)
イオン交換水1150質量部に0.1モル/リットル−Na3PO4水溶液390質量部を投入し、撹拌しながら温度60℃に加温した後、1.0モル/リットル−CaCl2水溶液58質量部を添加してさらに撹拌を続け、Ca3(PO4)2からなる分散安定剤を含む水系媒体を調製した。
一方、上記顔料分散ペーストに以下の材料を加え、アトライター(三井三池化工機製)を用いて分散混合し、重合性単量体組成物を調製した。
n−ブチルアクリレート:22.0質量部
ジビニルベンゼン:0.1質量部
飽和ポリエステル樹脂(テレフタル酸−プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA重縮合体、重量平均分子量(Mw):2万、ガラス転移温度(Tg):60℃、酸価:10mgKOH/g):8.0質量部
荷電制御剤(BONTRON E−84(オリエント化学社)):1.0質量部
上記重合性単量体組成物を60℃に加温し、これにエステルワックス(主成分C19H29COOC20H41、最大吸熱ピーク温度68.6℃)12.0質量部を添加して混合溶解した。
次いで、重合開始剤として、2,5−ジ(イソブチリルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン5.0質量部をさらに添加して溶解した。
これを前記水系媒体中に投入し、クレアミックス(エム・テクニック社製)を用いて、温度60℃、窒素雰囲気下にて、10,000rpmで15分間撹拌して造粒を行った。
さらに、得られた懸濁液をパドル撹拌翼で撹拌しつつ、温度84℃にて10時間重合を行った。反応終了後、懸濁液を冷却し、塩酸を加えて分散安定剤を溶解した後、濾過し、水洗および乾燥してトナー粒子を得た。
別途、重合開始2時間目、5時間目および重合終了後に反応容器から懸濁液の一部を抜き取り、残存するスチレンおよびn−ブチルアクリレートの量をガスクロマトグラフィー測定装置(横河アナリティカルシステムズ社製「6890N」)を用いて測定した。得られた測定結果から重合速度を求めたところ、重合阻害は生じていないことがわかった。
上記したスチレンおよびn−ブチルアクリレートの残存量は、具体的には、抜き取った懸濁液に対して20乃至50倍量のアセトンを加え、超音波分散器で約30分間処理した後、孔径0.5μmの耐溶剤性メンブランフィルターで濾過し、この濾液について測定したものである。
シリカ微粉体100質量部を、10質量部のヘキサメチルジシラザンで処理し、さらに10質量部のシリコーンオイルで処理して、一次粒径12nm、BET比表面積が120m2/gの疎水性シリカ微粉体を調製した。次いで、上記トナー粒子100質量部に対して、該疎水性シリカ微粉体1質量部を加え、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機製)を用いて混合し、本発明のトナーを作製した。
〔実施例2〕
実施例1において、2,5−ジ(イソブチリルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン5.0質量部に代えて、2,5−ジ(2−エチルブチリルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン5.9質量部を重合開始剤として用いたこと、重合時の温度84℃を温度89℃に上げたこと以外は、同様にしてトナーを作製した。
〔比較例1〕
実施例1において、2,5−ジ(イソブチリルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン5.0質量部に代えて、t−ブチルパーオキシイソブチレート5.0質量部を重合開始剤として用いたこと、重合時の温度84℃を温度94℃に上げたこと以外は、同様にしてトナーを作製した。
〔比較例2〕
実施例1において、2,5−ジ(イソブチリルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン5.0質量部に代えて、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシイソブチレート6.8質量部を重合開始剤として用いたこと、重合時の温度84℃を温度73℃に下げたこと以外は、同様にしてトナーを作製した。
〔比較例3〕
実施例1において、2,5−ジ(イソブチリルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン5.0質量部に代えて、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート6.8質量部を重合開始剤として用いたこと、重合時の温度84℃を温度88℃に上げたこと以外は、同様にしてトナーを作製した。
〔比較例4〕
実施例1において、2,5−ジ(イソブチリルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン5.0質量部に代えて、2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン6.8質量部を重合開始剤として用いたこと、重合時の温度84℃を温度88℃に上げたこと以外は、同様にしてトナーを作製した。
〔比較例5〕
実施例1において、2,5−ジ(イソブチリルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン5.0質量部に代えて、2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン6.1質量部を重合開始剤として用いたこと、重合時の温度84℃を温度95℃に上げたこと以外は、同様にしてトナーを作製した。
尚、実施例2及び比較例1乃至5においては、重合性単量体のモル量に対する重合開始剤の活性酸素量が実施例1と等しくなるように、重合開始剤の添加量を調整している。
また、実施例1及び2、比較例1乃至4においては、使用する重合開始剤の10時間半減期温度に対して15℃高い温度を重合温度とした。
実施例1及び2、比較例1乃至5で用いた重合開始剤について、その構造と物性を表1に示す。
注)表中、炭素数は、前記一般式(1)中のR
1、R
2、R
3における夫々の炭素数を示した。また、単官能の開始剤については、R
2の炭素数をブランク(−)とした。
実施例2および比較例1乃至5について、実施例1と同様にして、スチレン及びn−ブチルアクリレートの残存量から重合速度を求めたところ、実施例2、比較例1乃至4については、いずれも重合阻害は生じていないことがわかった。比較例5は、重合温度が不適切であったためか重合速度が遅く、重合終了後も多量の重合性単量体が残留していたため、以降の評価は行わなかった。
実施例1で用いた重合開始剤に由来する分解物としては、以下の化合物が考えられる。アルコキシラジカルが水素を引き抜いて生成する副生物として、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオールが考えられ、アシルオキシラジカルが水素を引き抜いて生成する副生物として、イソ酪酸が考えられる。
また、比較例1で用いた重合開始剤に由来する分解物としては、以下の化合物が考えられる。アルコキシラジカルが水素を引き抜いて生成する副生物として、t−ブチルアルコールが考えられ、アシルオキシラジカルが水素を引き抜いて生成する副生物として、イソ酪酸が考えられる。
これらのアルコールおよびカルボン酸は、いずれも高い水溶性を有しており、生成した場合は容易に分散媒中に溶出するものと考えられる。
そこで、上記アルコールがすべて分散媒中に溶出するものと仮定して、重合終了後の分散媒中のアルコール量からアルコキシラジカルのアルコール転化率を算出した。また、上記カルボン酸がすべて分散媒中に溶出するものと仮定して、重合終了後の分散媒中のカルボン酸量からアシルオキシラジカルのカルボン酸転化率を算出した。そして、重合開始剤の利用率を以下のようにして求めた。結果を、表2に示す。
<アルコール転化率、カルボン酸転化率、重合開始剤利用率>
重合終了後に反応容器からスラリーの一部を抜き取り、孔径0.5μmのメンブランフィルターで濾過した後、濾液中のアルコール及びカルボン酸の濃度を前記ガスクロマトグラフィー測定装置を用いて測定した。得られた濃度からアルコール量およびカルボン酸量を計算により求めた。
アルコール転化率およびカルボン酸転化率は、求められたアルコール量またはカルボン酸量と使用した重合開始剤の量から、下式によって算出した。
転化率(%)=[アルコールまたはカルボン酸量(モル)/使用した重合開始剤量(モル)]×100
また、こうして得られたアルコール転化率とカルボン酸転化率の値から、ラジカルの利用率を下式によって算出し、これを重合開始剤の利用率とした。
利用率(%)=[(100−アルコール転化率)+(100−カルボン酸転化率)]/2
尚、実施例2、比較例2乃至4で用いた重合開始剤からは、1,1,3,3−テトラメチルブチルアルコールや2−エチルヘキサン酸といった低水溶性の高分子量分解物が生成すると考えられるため、このような方法からは、重合開始剤の利用率を見積もることができない。
表2から明らかなように、本発明の実施例においては、アルコキシラジカルのアルコール転化率、アシルオキシラジカルの酸転化率がともに低く、重合開始剤の利用率は極めて高い。
これに対し、比較例1においては、アシルオキシラジカルのカルボン酸転化率は低いものの、アルコキシラジカルの多くが利用されることなくアルコールに転化しており、その結果、重合開始剤の利用率は低くなることがわかった。
次に、実施例1、実施例2および比較例1乃至4で得られた各トナーについて、重量平均粒径(D4)、個数平均粒径(D1)、平均円形度および分子量(ピーク分子量Mp)の測定を行った。各トナーの物性を表3に示す。尚、平均粒径と平均円形度の測定方法は上述の通りである。
また、分子量(Mp)の測定には、東ソー社製のゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)測定装置(HLC−8120GPC)を用い、以下のようにして測定した。
<分子量(Mp)の測定>
まず、試料をTHFに浸漬し、樹脂成分の濃度が0.05乃至0.6質量%となるように抽出を行い、この抽出液を孔径0.5μmの耐溶剤性メンブランフィルターで濾過して試料溶液とする。次いで、カラムを40℃のヒートチャンバー中で安定させ、この温度におけるカラムに、溶媒としてTHFを1ml/minの流速で流し、上記試料溶液を50乃至200μl注入して測定する。
試料の分子量の算出にあたっては、試料の有する分子量分布を数種の単分散ポリスチレン標準試料により作成した検量線を用い、その対数値とカウント数の関係から求める。標準ポリスチレン試料としては、Pressure Chemical Co.製あるいは東ソー社製の、分子量が6×102、2.1×103、4×103、1.75×104、5.1×104、1.1×105、3.9×105、8.6×105、2×106、4.48×106のものを、少なくとも10点程度用いるのが適当である。また、検出器にはRI(屈折率)検出器を使用する。なお、カラムとしては、103乃至2×106の分子量領域を正確に測定するために、市販のポリスチレンゲルカラムを複数組み合わせるのがよく、本発明においては、次の条件で測定される。
カラム:KF801,802,803,804,805,806,807(Shodex製)
カラム温度:40℃
solv.:THF
表3から明らかなように、本発明の実施例によるトナーは、粒度分布がシャープで高い円形度を有している。一方、比較例のトナーについて見ると、特に比較例1乃至3のトナーは、粒度分布がブロードで円形度も低い。
粒度分布や円形度のこのような違いは、これら比較例の重合工程において、多量のアルコールやカルボン酸が生成し、分散媒中に溶出したことによって、造粒安定性が損なわれ、乳化粒子が生成しやすくなったことによるものと考えられる。
〔実施例3〕
(トナー粒子の作製)
イオン交換水300質量部にポリビニルアルコール0.2質量部を溶解して水系媒体を調製した。一方、スチレン78.0質量部、n−ブチルアクリレート22.0質量部、重合開始剤として実施例1で使用した2,5−ジ(イソブチリルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン2.5質量部を混合し、単量体組成物を調製した。この単量体組成物を前記水系媒体中に投入し、TK式ホモミキサー(特殊機化工業製)を用いて15分間撹拌して懸濁分散液とした。
窒素雰囲気下、上記懸濁分散液を90℃に昇温して重合を開始し、さらに、この温度に24時間保持して重合反応を完結させた。反応終了後、懸濁分散液を冷却し、濾別し、水洗および乾燥して、スチレン/n−ブチルアクリレート共重合体であるトナー用結着樹脂Aを得た。また、反応終了後の反応容器からスラリーの一部を抜き取って、上述した方法により、アルコール転化率、カルボン酸転化率、重合開始剤利用率を計算した。結果を表4に示す。
得られたトナー用結着樹脂A100.0質量部に対し、Cuフタロシアニン(Pigment Blue 15:3)7.0質量部、ニグロシン化合物1.0質量部、パラフィンワックス(DSCにおける吸熱ピークの極大値74℃)3.0質量部を加え、ヘンシェルミキサーで混合した。次いで、130℃に加熱した二軸混練押出し機によって溶融混練し、冷却した混練物をハンマーミルで粗粉砕し、粗粉砕物をジェットミル(日本ニューマチック工業社製)で微粉砕した後、得られた微粉砕物を風力分級機で分級してトナー粒子を得た。
更に、実施例1と同様にして、上記トナー粒子100質量部に対して疎水性シリカ微粉体1質量部を加え、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機製)を用いて混合し、本発明のトナーを得た。
得られたトナーは、重量平均粒径(D4)が10.2μmであり、平均円形度が0.925であった。
〔比較例6〕
実施例3において、2,5−ジ(イソブチリルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキサンに代えて、比較例3で使用したt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエートを重合開始剤として用いたこと以外は、同様にしてトナーを作製した。
得られたトナーは、重量平均粒径(D4)が11.1μmであり、平均円形度が0.920であった。
実施例1乃至3、比較例1乃至4および比較例6で得られた各トナーについて、以下に述べる要領にしたがって画出し試験を行った。表5に、結果を示す。
<画出し試験>
試験機には、市販のフルカラーレーザービームプリンター(LBP−2040,キヤノン製)の改造機を使用した。この改造機のプロセスカートリッジにトナーを充填し、必要に応じて逐次トナーを補給しながら、常温常湿環境下(23℃,60%RH)、単色モードで16枚/分(A4サイズ紙)のプリント速度で、5000枚の画出し試験を行った。そして、画出しの前後でトナー担持体上のトナー帯電量と画像濃度を測定した。
また、5000枚の画出し試験後にトナー担持体を取り外し、トナーを拭き取った後に表面の汚染状態を顕微鏡により観察し、以下の基準で判定を行った。
A:特に汚染は見られない
B:若干の付着物が見られる
C:トナーの融着が見られる
表5に示されるように、本発明に係る実施例のトナーは、画出し試験において、初期から良好な帯電特性を有しており、5000枚画出し後もこれを維持している。その結果、画像濃度も耐久を通して高い値を示し、安定していることがわかった。また、トナー担持体表面における汚染も見られなかった。
一方、比較例のトナーについて見ると、特に比較例2乃至4、比較例6のトナーは、初期の段階から帯電性が低く、耐久枚数の増加にともなう低下が大きかった。また、これにともなって画像濃度の低下も認められた。さらに、5000枚画出し後のトナー担持体表面には付着物が確認された。以上の結果から、これら比較例の各トナーにおいては、開始剤に由来する高分子量の分解物が分解物残渣として残留しており、トナー性能に影響が生じたものと推測される。