実施例のヘッドレストHRは、図1および図2に示すように、シートSにおけるシートバックS1の上面に開口するステー支持部材130に、ヘッドレスト支持体(支持体)10を構成する支持ステー14を上方から差し込むことで、該シートバックS1に装着される。ヘッドレストHRは、ヘッドレスト本体12を通常位置から緊急位置へ移動させる姿勢変位機構Mと、通常時に姿勢変位機構Mの回動支持部材40を保持する保持機構Dと、車両追突時に保持機構Dによる回動支持部材40の保持を解除させる解除機構Lと、保持機構Dによる回動支持部材40の再保持を図る復帰機構Tとを、ヘッドレスト本体12の内部に収容してある。更にヘッドレストHRは、車両追突時における作動規制を図る作動範囲規定機構Uを、ヘッドレスト本体12の内部に備えている。
ヘッドレストHRは、図1および図2に示すように、シートバックS1に支持されるヘッドレスト支持体10と、このヘッドレスト支持体10に配設したヘッドレスト本体12とを有している。ヘッドレスト本体12は、ヘッドレスト支持体10の一部をなす第1固定フレーム16に対し、姿勢変位機構Mの回動支持部材(姿勢変位手段)40を介して連結されている。また、ヘッドレスト本体12の本体支持部34は、ヘッドレスト支持体10を構成する支持ステー14に対して摺動可能に配設されている。従ってヘッドレスト本体12は、回動支持部材40が回動することで支持ステー14に沿ってスライド移動し、通常位置から緊急位置へ姿勢変位しながら移動する。
ヘッドレスト支持体10は、図1、図2および図5に示すように、スチール等を材質とする1本のパイプ材を折曲成形した略U字形の支持ステー14と、支持ステー14に固定される第1固定フレーム16および第2固定フレーム18とを有している。支持ステー14は、水平に延在する連結部14Aと、この連結部14Aの左右両端から下方に向かうに従いシートバックS1の後方へ所要角度で傾斜する上方支持部14B,14Bと、この上方支持部14B,14Bの下端から鉛直に垂下して前述したステー支持部材130に差し込まれる下方支持部14C,14Cとで構成されている。連結部14Aは、回動支持部材40が第2位置(後述)に姿勢変位した際に該回動支持部材40の当接面46に当接して、回動支持部材40の回動規制を図る。各下方支持部14C,14Cには、各々4つの第1係止凹部20が下方支持部14Cの長手方向へ所要間隔に凹設され、ステー支持部材130に設けた係止突部(図示せず)に係止される。なお各支持ステー14は、2本のパイプ部材を折曲成形した別部材で構成して、第1固定フレーム16および第2固定フレーム18と連結するようにしてもよい。
図1〜図6に示すように、支持ステー14の各上方支持部14B,14Bの内側面、すなわちヘッドレストHRの内側方向には、1個の第2係止凹部22および3個の第3係止凹部23が、長手方向へ所要間隔毎に形成されている。これら第2係止凹部22および各第3係止凹部23は、逆戻り防止機構Gを構成する。第2係止凹部22および第3係止凹部23は、何れも同一のノッチ形状を呈しているが、第1係止凹部20とは傾斜面が逆になっている。
上方支持部14B,14Bの上端近傍部分に固定された第1固定フレーム16は、図1および図5に示すように、所要外郭形状のスチール板にプレス加工を施して成形したものである。すなわち第1固定フレーム16は、連結部14Aと平行に延在する平板部16Aと、この平板部16Aの左右両端から前方へ折曲して左右に対向する支持部16B,16Bと、各支持部16B,16Bの前端に曲面状に形成されて各上方支持部14B,14Bの外面に固定される取付部16C,16Cとから構成される。各支持部16B,16Bには、左右方向に軸線を整列させた一対の第1支持孔24,24が穿設される。これら第1支持孔24,24に、回動支持部材40を回動可能に支持する固定シャフト25が挿通支持される。平板部16Aには、メインスプリング50の第2アーム部53,53が当接支持されると共に、サポートスプリング105が取り付けられる。
上方支持部14B,14Bの略中間部分に固定された第2固定フレーム18は、図1および図5に示すように、所要外郭形状のスチール板にプレス加工を施して成形したものである。すなわち第2固定フレーム18は、各上方支持部14B,14B間において左右へ水平に延在するベース部18Aと、このベース部18Aの左右両端から上方へ折曲すると共に上方支持部14Bに固定される取付部18B,18Bと、各取付部18B,18Bから後方へ延出して左右に対向する支持部18C,18Cとから構成される。ベース部18Aは、左右方向における中央部分が下方へ凹設されており、保持機構Dを配設する取付ブラケット26が取り付けられる。また各支持部18C,18Cには、横方向に軸線を整列させた一対の装着孔27,27が穿設される。これら装着孔27,27に、バランサー(バランス部材)110を取り付けるためのバランサージョイント118,118が装着される。
ヘッドレスト本体12は、図1および図2に示すように、剛性を有するヘッドレストコア30と、本革、合成皮革またはファブリック等からなる表皮38と、これらヘッドレストコア30と表皮38との間に設けた発泡体39とから構成される。ヘッドレストコア30は、インジェクション成形された合成樹脂製の成形部品であって、ヘッドレストHRの前側に位置する前部半体31と、該ヘッドレストHRの後側に位置する後部半体32とからなり、両半体31,32を組み付けることで中空状に構成される。
図3および図6に示すように、ヘッドレストコア30の底壁部30A,30Aには、支持ステー14を挿通するための挿通孔33,33が形成されている。各挿通孔33の周囲には、支持ステー14の上方支持部14B,14Bに沿って移動する環状の本体支持部34,34が形成されている。また、前部半体31の左右に位置する縦壁部分には、第2支持孔35,35が形成され、これら第2支持孔35,35に移動シャフト(第1連結部)36が挿通支持され、回動支持部材40を回動可能に支持する。
姿勢変位機構Mを構成する回動支持部材40は、図1、図5および6に示すように、合成樹脂素材をインジェクション成形した横長の単一部材である。そして、乗員の頭部がヘッドレストHRに衝突した際の衝撃力を受けても、変形や破損しない強度と剛性が付与されている。また、回動支持部材40がヘッドレスト支持体10の内側に収容された姿勢において(図2、図6参照)、該回動支持部材40の上面となる壁部の左右両側には、耳状に対をなす支持部41,41が突設されている。両支持部41,41には、前述した固定シャフト25が挿通される第1貫通孔42,42が、横方向の軸線を一致させて穿設されている。従って回動支持部材40は、両第1貫通孔42,42に貫挿した固定シャフト25により、第1固定フレーム16に枢支される。これにより回動支持部材40は、第1固定フレーム16の前下方に収容された第1位置(図2、図12(a))と、固定シャフト25を中心として第1固定フレーム16に対し約90度回動して前方へ迫り出す第2位置(図1、図12(b))との間で回動が可能となっている。そして、回動支持部材40が第1位置にある場合にヘッドレストHRは通常位置に保持され(図2)、また該回動支持部材40が第2位置に移動した場合にヘッドレストHRは緊急位置に移動する(図1)。
図5に示す如く、回動支持部材40の下部両側の前面には、一対のボス部43,43が形成されている。両ボス部43,43には、前述した移動シャフト36が挿通される第2貫通孔44が穿設されている。そして回動支持部材40は、第2貫通孔44に貫挿した移動シャフト36を介してヘッドレストコア30の前部半体31に枢支され、ヘッドレスト本体12に対する回動が可能になっている。移動シャフト36は、固定シャフト25から所要の軸間距離をもって配設され、図2および図12(a)に示すように、回動支持部材40が第1位置にある場合は、固定シャフト25の下方に位置する。また移動シャフト36は、回動支持部材40が第1位置から第2位置へ回動する際に、図1および図12(b)に示すように、固定シャフト25を中心とする円弧軌跡に沿って前上方へ移動する。そして移動シャフト36は、図1に示す如く、回動支持部材40が第2位置に臨んだ際に、固定シャフト25の略水平方向前方に位置する。
第1位置にある回動支持部材40の前面部位には、図2および図6に示すように、左右に延在する突出部45が突設され、この突出部45の上面は当接面46として構成されている。図1に示すように、回動支持部材40が第2位置に姿勢変位した際には、突出部45が支持ステー14の連結部14Aに当接すると共に、当接面46が該連結部14Aに接触し、該回動支持部材40が第2位置より上方へ回動することが規制され、乗員の頭部がヘッドレスト本体12に衝突することによる衝撃を受け止める。
固定シャフト25には、図1、図2、図5および図6に示すように、回動支持部材40を第1位置から第2位置へ回動させるダブルトーションスプリングタイプのメインスプリング50が配設されている。このメインスプリング50は、無負荷状態では、図5に2点鎖線で示すように、両捻り部51,51を連結する中央の第1アーム部52が、両捻り部51,51の端から延出した第2アーム部53,53に対し90度以上に拡開した姿勢をとり、図5に実線で示すように、第1アーム部52は垂直下方を指向する位置まで変形する。このようなメインスプリング50は、回動支持部材40における支持部41,41の間で、両捻り部51,51に挿入したスペーサ54,54を介して固定シャフト25に介装される。そして第1アーム部52は、図2および図6に示すように、回動支持部材40に形成した開口47へ挿通され、該回動支持部材40の内側当接部48に当接する。
第1固定フレーム16に固定シャフト25を介して取り付けた回動支持部材40は、図1および図2に示すように、メインスプリング50の各第2アーム部53が該第1固定フレーム16の平板部16Aに前方から当接するので、第2位置に弾力的に付勢された状態で保持される。従って、第2位置に位置する回動支持部材40を第1位置へ移動させると、メインスプリング50の第1アーム部52が、図5に実線で示す位置まで変位し、該メインスプリング50の復帰弾力が最大となる。
実施例のヘッドレストHRは、ヘッドレスト本体12が通常位置から緊急位置へ移動した際に、該ヘッドレスト本体12が通常位置へ逆戻りするのを規制する逆戻り防止機構Gを備えている。この逆戻り防止機構Gは、図3、図4および図7に示すように、ヘッドレスト本体12の外部底面に設けたロックプレート60,60と、支持ステー14の各上方支持部14B,14Bに設けた前述の第2係止凹部22および第3係止凹部23とにより構成される。
各ロックプレート60は、図4および図7に示すように、金属(スチールまたはステンレス等)を材質とする矩形状枠体で、ヘッドレスト本体12の外部底面に固定される各ブラケット66,66のプレート配設部68にスライド可能に装着される。各ロックプレート60の開口部における一方の内端縁部には、該開口部に挿通された上方支持部14Bに接触する端縁係止部61が形成されている。また、各ロックプレート60の外端縁部で、前記端縁係止部61が形成された部位と反対側には、スライド操作用の操作部62が設けられている。更に、ロックプレート60の端縁係止部61を形成した部位の外端縁部には、圧縮コイルスプリング64を掛止するための掛止ピン63が突設されている。なおブラケット66は、プレート配設部68を画成すると共にステー支持孔67Aを形成した部材本体67と、ヘッドレストコア30の底壁部30Aに形成した係止孔30Bに突入係止する係止爪部69とから構成されている。
図3および図4に示すように、第2係止凹部22は、ヘッドレスト本体12が緊急位置へ姿勢変位した際に、ロックプレート60による係止がなされる位置に設けられ、第3係止凹部23の側に位置してステー外面に対し略垂直な係止段部22Aと、第2固定フレーム18の側に位置して係止段部22Aの底側から該第2固定フレーム18の方向へ傾斜する傾斜部22Bを有している。一方、各第3係止凹部23は、第2係止凹部22よりも支持ステー14の先端側に位置してステー外面に対し略垂直な係止段部23Aと、第2係止凹部22の側に位置して係止段部23Aの底側から該第2係止凹部22の方向へ傾斜する傾斜部23Bを備えている。従って、支持ステー14側へ弾力的に付勢されたロックプレート60が下方(支持ステー14の先端側)から上方(第2固定フレーム18側)へ移動する際は、端縁係止部61が各第3係止凹部23の傾斜部23Bに摺動的に接触し、ヘッドレスト本体12が通常位置から緊急位置に向けて移動することを許容する。一方、支持ステー14側へ弾力的に付勢されたロックプレート60が上方(第2係止凹部22側)から下方(支持ステー14の先端側)へ移動する際は、端縁係止部61が第2係止凹部22または第3係止凹部23の係止段部22A,23Aに係止し、ヘッドレスト本体12の通常位置側への逆戻りが規制される。
実施例の逆戻り防止機構Gは、別途のリセット工具を使用することなく、ロックプレート60と第2係止凹部22との係止を解除することが可能である。すなわち、ブラケット66から露出している操作部62を指先で支持ステー14の方向へ押すと、端縁係止部61が支持ステー14の第2係止凹部22から離間し、これら端縁係止部61と第2係止凹部22との係止が解除される。従って、両ロックプレート60,60の操作部62を同時に指先で押したもとで、ヘッドレスト本体12を通常位置の方向へ押し戻すと、ヘッドレスト本体12の通常位置への復帰が許容される。
図2、図6および図8に示すように、通常時において回動支持部材40を第1位置に保持する保持機構Dが、ヘッドレスト支持体10におけるヘッドレスト本体12の内部に位置する部位において、第2固定フレーム18に固定した取付ブラケット26に配設されている。取付ブラケット26は、ヘッドレストHRの左右方向に離間して対向する第1側壁部70および第2側壁部71を有し、これら第1側壁部70および第2側壁部71の間に、保持機構Dを構成する各部材および連結アーム部材90が配設される。第1側壁部70の前端近傍および第2側壁部71の前端近傍に、貫通丸孔状の第1支持孔72,72が形成され、保持機構Dのフック部材(保持部材)80を枢支するフックシャフト78が、該第1支持孔72,72に挿通支持される。また、第1側壁部70および第2側壁部71の前述した第1支持孔72,72の後方に、貫通長孔状の第2支持孔73,73が形成され、保持機構Dを構成するロックピン81が該第2支持孔73,73にスライド可能に挿通支持される。これら第2支持孔73,73は、後上がりの傾斜状に形成されている。更に、第1側壁部70および第2側壁部71から後方へ延出した部分に、ウェイトシャフト97が遊嵌的に挿通するストッパー孔74,74が形成されている。
保持機構Dは、図8(a)および図8(b)に示すように、回動支持部材40の下方において、第1側壁部70および第2側壁部71に架設されたフックシャフト78に回動可能に取り付けたフック部材80と、該フック部材80の回動を規制するロックピン81と、フック部材80に回転力を付与するフックスプリング82とを備えている。フック部材80は、金属製または強化樹脂製のプレート状の成形部材であり、メインスプリング50により第2位置に向けて付勢されている回動支持部材40を第1位置に保持させ得る強度と剛性が付与されている。フック部材80の前部下方には枢支孔83が形成され、前述のフックシャフト78が挿通される。従ってフック部材80は、枢支孔83に貫挿したフックシャフト78により、垂直に起立した状態で取付ブラケット26に枢支される。これによりフック部材80は、取付ブラケット26の第1側壁部70および第2側壁部71間に収容された保持状態(図2、図12(a))と、フックシャフト78を中心として取付ブラケット26に対し約45度回動して前方へ迫り出す解除状態(図1、図12(b))との間で回動する。そして、フック部材80の保持状態で回動支持部材40を第1位置に保持し、該フック部材80の解除状態で、回動支持部材40が第2位置に姿勢変位することを許容する。
図2および図11に示す如く、保持状態となっているフック部材80の上部には、垂直上方に開口する係合凹部(第2連結部)84が凹設されている。この係合凹部84は、フック部材80の保持状態において、第1位置にある回動支持部材40のボス部43,43間に露出した移動シャフト(第1連結部)36に整合する。また係合凹部84は、図12(b)に示すように、フック部材80の解除状態において、回動支持部材40が第2位置に向け回動する際の移動シャフト36の移動軌跡方向である前上方を指向する。従って、フック部材80が保持状態から解除状態へ回動して変位すると、該フック部材80と移動シャフト36(回動支持部材40)との連結が解除される。
更にフック部材80には、図11に示すように、枢支孔83の後方に、ロックピン81の挿通を許容する係止カム溝85が形成されている。この係止カム溝85は、枢支孔83を円弧中心とする円弧部85Aと、この円弧部85Aの上端から前方へ延出する係止部85Bとからなる。円弧部85Aは、図12(a)および図12(b)に示すように、フック部材80が保持状態および解除状態の間を変位する際において、前述した各第2支持孔73の後端部分と左右方向において直線上に一致する。一方、係止部85Bは、図11(a)および図11(b)に示すように、フック部材80の保持状態において、各第2支持孔73,73と左右方向において直線上で一致する。
従ってロックピン81は、フック部材80の係止カム溝85を左右方向へ貫通した状態で、取付ブラケット26の各第2支持孔73,73に両端が挿通支持される。ロックピン81は、フック部材80の保持状態において、各第2支持孔73,73の前後端間および係止カム溝85における係止部85Bの前後端間をスライドし得る。そして、ロックピン81が各第2支持孔73,73の前端に位置する場合は、該ロックピン81の中間部分が係止部85Bの前端に位置し、フック部材80が解除状態に向けて変位することが規制される。一方、ロックピン81が各第2係止孔73,73の後端に位置する場合には、該ロックピン81の中間部分が係止カム溝85の円弧部85Aの上端に整合する。従って、フック部材80が解除状態に向けて回転する際にロックピン81の中間部分が円弧部85Aに沿って相対的に移動するため、フック部材80が解除状態に向けて変位することが許容される。
そしてフック部材80は、フックシャフト78に外装されたトーションスプリングタイプのフックスプリング82により、常に解除状態に変位するように付勢されている。すなわち、フックスプリング82の一方の脚部は取付ブラケット26に係止され、他方の脚部はフック部材80の前側上部に係止されている。従ってフック部材80は、回動支持部材40が第1位置にある場合には、ロックピン81が係止部85Bに係合することで保持状態に保持され、該回動支持部材40を第1位置に保持する。そして、ロックピン81が後方へスライドして円弧部85Aの上端に移動すると、係止部85Bとロックピン81との係合が解除されることに伴い、フック部材80は、フックスプリング82の付勢力により解除状態に向けて回動する。なお、図8中の符号79は、フックシャフト78に外装されたスペーサであり、フック部材80は、該スペーサ79およびフックスプリング82に挟まれた状態でフックシャフト78に枢支される。
図1および図8に示すように、車両追突時にロックピン81を後方へ移動させ、保持状態に保持されていたフック部材80が解除状態へ変位するのを許容する解除機構Lが、ヘッドレスト支持体10におけるヘッドレスト本体12の内部に位置する部位において、第2固定フレーム18に固定した取付ブラケット26に配設されている。この解除機構Lは、保持機構Dの後方においてロックピン81に連結された連結アーム部材90と、該連結アーム部材90に連結された慣性ウェイト(慣性部材)96,96とを備えている。すなわちロックピン81は、連結アーム部材90およびウェイトシャフト97を介して慣性ウェイト96,96と連係している。連結アーム部材90は、金属製または強化樹脂製の成形部材であり、左右に離間して前後方向へ平行に延在する第1アーム91および第2アーム92と、両アーム91,92とを連結する連結部93とからなる。第1アーム91および第2アーム92の前端部分には、ロックピン81が挿通する第1連結孔94が、左右方向において整合するように形成されている。これら第1連結孔94,94は、ロックピン81の外径寸法と同一の内径寸法を有する貫通丸孔状をなしており、連結アーム部材90とロックピン81とは、がたつきがない状態で相互に連結される。
また、第1アーム91および第2アーム92の後端部分には、図9および図11に示すように、慣性ウェイト96に設けた前述のウェイトシャフト97が挿通する第2連結孔95が、左右方向において整合するように形成されている。これら第2連結孔95,95は、夫々のアーム91,92の長手方向に沿って延在する所要長の貫通長孔状をなし、ウェイトシャフト97が該第2連結孔95,95に沿ってスライド可能となっている。すなわち、フック部材80に連結された連結アーム部材90と慣性ウェイト96に設けたウェイトシャフト97とは、フック部材80と独立して慣性ウェイト96の車両後方への移動を許容するクリアランスを設けて連係されている。
図8〜図11に示すように、各慣性ウェイト96,96は、連結アーム部材90の各第2連結孔95,95に挿通されたウェイトシャフト97が取り付けられ、第2固定フレーム18に回転自在に取り付けられたバランサー110内に収容されている。このバランサー110には、左右方向へ所要間隔毎に離間した合計4枚の隔壁115が形成されていて、各隔壁115には前後方向へ延在する貫通長孔状のガイド孔(ガイド部)119が形成されている。すなわち、各慣性ウェイト96,96は、各ガイド孔119に挿通したウェイトシャフト97に連結された状態で、各隔壁115,115間に形成された収容部116,116に収容される。ウェイトシャフト97は、ガイド孔119に沿ってバランサー110の前後方向へのスライドが可能となっており、各慣性ウェイト96,96は収容部116,116内で前後方向への移動が可能となっている。そして各慣性ウェイト96,96は、車両追突時に、ヘッドレストHRと共に前方へ移動するヘッドレスト支持体10およびバランサー110に対し、慣性力により車両後方へ相対的に移動する重量に設定されている。
フック部材80に連結された連結アーム部材90の第2連結孔95,95と慣性ウェイト96に設けたウェイトシャフト97とのクリアランスは、通常時においてヘッドレストHRに作用する衝撃または振動を起因とした慣性ウェイト96の車両後方への移動を許容する大きさに設定されている。すなわち、車両走行中の急加速や路面変化による振動発生時、シートバックの角度変更時、ヘッドレストの着脱時または高さ位置調整時、更にはヘッドレストを叩いたり揺らす悪戯時等において慣性ウェイト96が移動する場合は、ウェイトシャフト97が第2連結孔95,95に沿って移動するだけで、連結アーム部材90は移動しないよう構成されている。これにより実施例のヘッドレストHRは、通常時において衝撃または振動が加わっても作動せず、通常時における誤作動防止が図られている。
一方、図11(b)に示すように、車両追突時にヘッドレストHRが前方へ移動すると、各慣性ウェイト96,96は、前方へ移動するヘッドレスト支持体10に対し、前述したウェイトシャフト97と第2連結孔95,95との連結部分におけるクリアランスの量を越えて車両後方へ相対的に移動する。従って、各第2連結孔95,95に挿通されたウェイトシャフト97は、各ガイド孔119に沿って後方へ移動し、移動途中に各第2連結孔95,95の後端に当接する。これにより、図12(a)に示すように、慣性ウェイト96,96の移動に追従して連結アーム部材90が後方へ移動し、該連結アーム部材90に連結されたロックピン81が第2支持孔73,73に沿って後方へスライドするので、該ロックピン81とフック部材80の係止部85Bとの係合が解除される。これに伴って、図12(b)に示すように、保持状態に保持されていたフック部材80が、フックスプリング82の付勢力により解除状態に変位すると共に、該フック部材80に連結されていた回動支持部材40が、メインスプリング50の付勢力により第1位置から第2位置へ姿勢変位する。
図1、図8および図9に示すように、ヘッドレスト本体12を緊急位置から通常位置へ復帰させた際に、保持位置に復帰したフック部材80とロックピン81とを再連結する復帰機構Tが、ヘッドレスト支持体10におけるヘッドレスト本体12の内部に位置する部位において、第1固定フレーム16に配設されている。この復帰機構Tは、第1固定フレーム16に取り付けた固定シャフト25に枢支されたレバー形態のサポートアーム(サポート部材)100と、第1固定フレーム16の平板部16Aに配設されてサポートアーム100に後方から弾性的に当接するサポートスプリング105とを備えている。
サポートアーム100の上端部には、図5、図6および図9に示すように、固定シャフト25に装着されたスペーサ54,54間の間隔と略同一の幅寸法のボス部101が形成されている。このボス部101には、固定シャフト25が左右に挿通する枢支孔101Aが、該ボス部101の左右方向へ貫通して形成されている。また、サポートアーム100の下端部は、後下方へ延出して連結アーム部材90の第1アーム91および第2アーム92の後端間に垂下する湾曲状のサポート部102が形成されている。このサポート部102には、ウェイトシャフト97が左右に挿通するサポート孔102Aが、該サポート部102の左右方向へ貫通して形成されている。このようなサポートアーム100は、両スペーサ54,54間において、固定シャフト25に対してがたつきがない状態で枢支され、サポート部102が前後方向へ移動するように回動する。そして、サポート部102のサポート孔102Aの両側開口部分は、第1アーム91および第2アーム92に形成した第2連結孔95,95に整合し、ウェイトシャフト97が該サポート孔102Aに挿通されている。従って、サポート孔102Aに挿通したウェイトシャフト97は、サポートアーム100に対して、該サポートアーム100の長手方向(ヘッドレストHRの上下方向)において移動が許容されると共に該サポートアーム100の厚み方向(ヘッドレストHRの前後方向)においてがたつきがない状態で、サポートアーム100に連結される。これにより、2個の慣性ウェイト96,96を備えた構成であっても、バランサー110の各収容部116,116内において両慣性ウェイト96,96が前後方向において斜め姿勢変位することがなく、両慣性ウェイト96,96は常にバランサー110と平行に保持される。
サポートスプリング105は、図11に示すように、第1固定フレーム16の平板部16Aに係止される取付部106と、サポートアーム100の後面中間部に当接する当接部107とからなる板バネであり、平板部16Aに取り付けた状態で常にサポートアーム100を前方へ付勢する。このサポートスプリング105は、車両追突時に慣性ウェイト96が車両後方へ移動する力より弱い付勢力で該慣性ウェイト96を車両前方へ付勢する。従って、車両追突時においては、慣性ウェイト96が車両後方へ移動する際に、サポートスプリング105の付勢力に抗してサポートアーム100が後方へ回動することで、該慣性ウェイト96の移動が許容される。
また通常時においては、サポートスプリング105に付勢されたサポートアーム100でウェイトシャフト97が保持されているので、該ウェイトシャフト97に取り付けられた慣性ウェイト96は移動前位置に保持される。また、ウェイトシャフト97に連結された連結アーム部材90が前方に保持され、フック部材80の係止部85Bとロックピン81とが係合状態に保持される。すなわち、サポートスプリング105で付勢されたサポートアーム100がウェイトシャフト97を保持するので、衝撃や振動による慣性ウェイト96のがたつきが防止されると共に、フック部材80が保持姿勢に保持される。
そして、前述した逆戻り防止機構Gを解除して、ヘッドレスト本体12を緊急位置から通常位置に戻す際には、図13(a)に示すように、回動支持部材40が第2位置から第1位置へ戻る直前に、移動シャフト36がフック部材80の係止凹部84に嵌合する。更に図13(b)に示すように、ヘッドレスト本体12を通常位置を越すように押し込むと、第2支持孔73,73と係止カム溝85の係止部85Bが左右方向において整合するので、サポートスプリング105の付勢力によりサポートアーム100が前方へ押され、連結アーム部材90が前方へ移動する。従って、フック部材80に形成した係止カム溝85の係止部85Bにロックピン81が係合し、フック部材80とロックピン81との再連結が図られる。そして、ヘッドレスト本体12に対する押し戻しを解除すると、ロックピン81で保持姿勢に保持されたフック部材80により、回動支持部材40が第1位置に保持される。
なお、ウェイトシャフト97と各第2連結孔95,95とが前述したクリアランスを設けて連結されていると共に、サポートスプリング105に付勢されたサポートアーム100により、ウェイトシャフト97が通常時において第2連結孔95,95の前端に位置するため、次のような利点がある。すなわち車両追突時においては、慣性ウェイト96,96が最前の保持位置からクリアランスの量だけ車両後方へ移動するまで該慣性ウェイト96,96に負荷が掛からないので、慣性ウェイト96,96の車両後方への動き出しがスムーズになる。また、慣性ウェイト96,96が車両後方へ加速しながら移動している状態において、ウェイトシャフト97が各第2連結孔95,95の後端に衝突する如く当接するので、これにより連結アーム部材90が勢いよく後方へ引張られ、係止カム溝85の係止部85Bとロックピン81との係合解除を確実に行ない得る。
更に、図8および図15に示すように、ヘッドレスト本体12の姿勢が所要の角度範囲にある場合に慣性ウェイト96の移動による解除機構Lの作動を許容する作動範囲規定機構Uが、ヘッドレスト支持体10におけるヘッドレスト本体12の内部に位置する部位において、第2固定フレーム18に配設されている。この作動範囲規定機構Uは、第2固定フレーム18の支持部18C,18C間に配設され、車両の前後方向へ延在するガイド孔119が常に水平となるよう揺動可能な前述のバランサー110と、取付ブラケット26の第1側壁部70および第2側壁部71の後側部分に設けたストッパー孔74,74とを備えている。具体的には、図18に示すように、水平前方を基準としたシートバックS1の傾斜角度が、前傾限界角度R1〜後傾限界角度R2間の所謂通常の使用範囲となっている場合に、車両追突時におけるヘッドレストHRの作動が許容される。また、水平前方を基準としたシートバックS1の傾斜角度が、前傾限界角度R1より小さくなっている場合(前傾姿勢)または後傾限界角度R2より大きくなっている場合(後傾姿勢)には、車両追突時であってもヘッドレストHRの作動が規制されるよう構成されている。なお、ここでの通常の使用範囲とは、乗員が普通に着座した際のシートバックS1の傾斜角度範囲と、道路の上り勾配および下り勾配を考慮して設定される。すなわち、シートバックS1の前傾傾斜角度R1は、普通の着座姿勢においてシートバックS1を最大限に前方へ移動させ、かつ車両が前下がりとなった場合を想定したものである。また、シートバックS1の後傾傾斜角度R2は、普通の着座姿勢においてシートバックS1を最大限に後方へ移動させ、かつ車両が前上がりとなった場合を想定したものである。
バランサー110は、前述した取付ブラケット26およびサポートアーム100との干渉を回避する凹部111を中央に有し、連結壁部112を介して第1部分113および第2部分114に区分されている。そして、第1部分113および第2部分114には、左右方向へ離間する前述の隔壁115,115が形成されており、これら対向する隔壁115,115間に慣性ウェイト96を収容する収容部116が画成されている。バランサー110の左側壁部および右側壁部には、バランサー軸117,117が同一軸線上に形成されている。これらバランサー軸117,117の形成位置は、バランサー110の重心位置に対し、前後方向では一致すると共に上下方向では上方へ偏倚している。そして、バランサー軸117,117に回転可能に装着されるバランサージョイント118,118を、第2固定フレーム18の各支持部18C,18Cに設けた装着孔27,27に嵌合装着することで、バランサー110は第2固定フレーム18に回転自在に取り付けられる。これによりバランサー110は、前後方向における重量バランスが図られ、ヘッドレスト支持体10の姿勢が前後方向へ変化しても常に水平状態に維持される。
図10および図15に示すように、バランサー110の各隔壁115に設けた前述の各ガイド孔119は、バランサー110の水平姿勢において、車両の前後方向へ水平に延在するように形成されている。従って、各ガイド孔119に挿通したウェイトシャフト97に固定された各慣性ウェイト96,96は、バランサー110が常に水平姿勢に保持されるため、水平後方への移動が可能となっている。
図15に示すように、取付ブラケット26の第1側壁部70および第2側壁部71に設けたストッパー孔74,74は、ウェイトシャフト97が遊嵌状態で挿通され、サポートアーム100によりガイド孔119の前端に保持されたウェイトシャフト97の軸中心を中心とし、かつ半径が前述のクリアランス量と同一または小さい円形状の移動規制部121と、この移動規制部121の後縁側に形成された扇形の扇状部122とで構成されている。そして、移動規制部121と扇状部122との上下の境界部分には、開口部内側へ突出した上部突角部123および下部突角部124が形成されている。
そして、図15および図18に示すように、シートバックS1が標準の使用位置にある場合に、バランサー110に水平に延在するガイド孔119は、各ストッパー孔74,74の扇状部122に臨み、ウェイトシャフト97のガイド孔119に沿う移動経路の後側に前述した移動規制部121が位置しない。従って、慣性ウェイト96に設けたウェイトシャフト97は、ガイド孔119に沿って後方へ移動することが許容され、前述したようにヘッドレストHRの作動が可能となる。
また、図16(a)および図18に示すように、シートバックS1の傾斜角度が後傾限界角度R2となった場合では、取付ブラケット26が図16(a)に示した後方傾斜状態となるものの、バランサー110に水平に延在するガイド孔119は、各ストッパー孔74,74の扇状部122に臨んでいる。すなわち移動規制部121は、ウェイトシャフト97のガイド孔119に沿う移動経路の後側に位置しない。従って、慣性ウェイト96に設けたウェイトシャフト97は、ガイド孔119に沿って後方へ移動することが許容され、前述したようにヘッドレストHRの作動が可能となる。
しかし、図16(b)および図18に示すように、シートバックS1の傾斜角度が後傾限界角度R2より大きくなった場合では、取付ブラケット26の後方傾斜角度が更に大きくなるので、バランサー110に水平に延在するガイド孔119は、各ストッパー孔74,74の扇状部122に臨まなくなる。すなわち、上部突角部123がウェイトシャフト97のガイド孔119に沿う移動経路の後側に突出し、移動規制部121は、ウェイトシャフト97のガイド孔119に沿う移動経路の後側に位置するようになる。従って、慣性ウェイト96に設けたウェイトシャフト97は、移動規制部121に当接して前述のクリアランスの量以上に後方へ移動することが規制され、ヘッドレストHRの作動が不可能となる。
一方、図17(a)および図18に示すように、シートバックS1の傾斜角度が前傾限界角度R1となった場合では、取付ブラケット26が図17(a)に示した前方傾斜状態となるものの、バランサー110に水平に延在するガイド孔119は、各ストッパー孔74,74の扇状部122に臨んでいる。すなわち移動規制部121は、ウェイトシャフト97のガイド孔119に沿う移動経路の後側に位置しない。従って、慣性ウェイト96に設けたウェイトシャフト97は、ガイド孔119に沿って後方へ移動することが許容され、前述したようにヘッドレストHRの作動が可能となる。
しかし、図17(b)および図18に示すように、シートバックS1の傾斜角度が前傾限界角度R1より小さくなった場合では、取付ブラケット26の前方傾斜角度が更に大きくなるので、バランサー110に水平に延在するガイド孔119は、各ストッパー孔74,74の扇状部に臨まなくなる。すなわち、下部突角部124がウェイトシャフト97のガイド孔119に沿う移動経路の後側に突出し、移動規制部121は、ウェイトシャフト97のガイド孔119に沿う移動経路の後側に位置するようになる。従って、慣性ウェイト96に設けたウェイトシャフト97は、移動規制部121に当接して前述のクリアランスの量以上に後方へ移動することが規制され、ヘッドレストHRの作動が不可能となる。
従って、実施例の作動範囲規定機構Lは、図15に示すように、ストッパー孔74における移動規制部121の直径および扇状部122の拡開角度Vの設定を変更することで、上部突角部123および下部突角部124の形状が変更されて、図18に示したシートバックS1の傾斜角度に対するヘッドレストHRの作動範囲を調整し得る。なお、扇状部122の水平軸線に対する上方拡開角度V1を調整すると後傾限界角度R2が変更され、シートバックS1の後傾側における作動範囲を増減調整し得る。同様に、扇状部122の水平軸線に対する下方拡開角度V2を調整すると前傾限界角度R1が変更され、シートバックS1の前傾側における作動範囲を増減調整し得る。
従って、前述のように構成された実施例のヘッドレストHRによれば、次のような作用効果を奏する。先ず、実施例のヘッドレストHRは、フック部材80と慣性ウェイト96、すなわちフック部材80に連結した連結アーム部材90と慣性ウェイト96に設けたウェイトシャフト97とが、フック部材80と独立して慣性ウェイト96の車両後方への移動を許容するクリアランスを設けて連係されているので、通常時における誤作動防止が図られる。すなわち、車両走行中の急加速や路面変化による振動発生時、シートバックS1の角度変更時、ヘッドレストHRの着脱時または高さ位置調整時、更にはヘッドレストHRを叩いたり揺らす悪戯時等、所謂通常時においてヘッドレストHRに作用する衝撃または振動により慣性ウェイト96が車両後方へ移動しても、ヘッドレストHRは作動しない。また、ウェイトシャフト97がサポートアーム100で保持されているので、ヘッドレストHRに振動や衝撃が作用しても、誤作動防止が確実に図られると共に慣性ウェイト96のがたつきが防止される。
そして、ヘッドレスト本体12の内部に設けた作動範囲規定機構Uにより、シートバックS1が通常の使用範囲にある場合にヘッドレストHRが作動し、シートバックS1が通常の使用範囲から外れた位置にある場合には、車両追突時であってもヘッドレストHRが作動しない。すなわち、シートバックS1が通常の使用範囲にある場合には、作動範囲規定機構Uにより解除機構Lの作動が許容され、保持機構Dおよび姿勢変位機構Mが夫々作動してヘッドレストHRが作動する。これにより、ヘッドレスト本体12が通常位置から緊急位置へ姿勢変位するので、シートSに着座している乗員の頭部を受け止め得る。そして、逆戻り防止機構Gにより、ヘッドレスト本体12が通常位置の方向へ逆戻りすることがないので、乗員の頭部を適切を受け止め得る。
一方、シートバックS1が通常の使用範囲より前方へ倒れている場合には、作動範囲規定機構Uにより解除機構Lの作動が規制され、ヘッドレストHRの誤作動が防止される。更に、シートバックS1が通常の使用範囲より後方へ倒れている場合でも、作動範囲規定機構Uにより解除機構Lの作動が規制され、ヘッドレストHRの誤作動が防止される。これにより、例えばシートバックS1を後方へ寝かせた姿勢にして乗員が横になっている場合には、車両追突時であってもヘッドレストHRが作動しないので、乗員の頭部が上方へ強く押し上げられる不都合が発生しない。また、シートバックS1を後方へ寝かせた姿勢にしてヘッドレスト本体12上に物品を載せていた場合には、車両追突時であってもヘッドレストHRが作動しないので、物品が飛ばされることを防止される。更に、シートバックS1を前方へ寝かせて、ヘッドレストHRがシートクッションに接触した状態となっている場合には、車両追突時であってもヘッドレストHRが動しないので、ヘッドレストHRの作動によるシートSの破損を防止し得る。
そして、通常位置から緊急位置に姿勢変位したヘッドレスト本体12は、逆戻り防止機構Gを解除したもとで、該ヘッドレスト本体12を通常位置へ押し込むだけで、復帰機構Tによって姿勢変位機構Mと保持機構Dとが再連結され、ヘッドレスト本体12を通常位置に保持することが可能であり、作動後に再使用することができる。しかも、ヘッドレスト本体12を緊急位置から通常位置へ戻す際には、別のリセット工具を必要としないので、ヘッドレスト本体12を通常位置に戻す復帰作業を簡易かつ迅速に行ない得る。
更に、実施例のヘッドレストHRは、回動支持部材40を含む姿勢変位機構M、フック部材80を含む保持機構D、慣性ウェイト96を含む解除機構L、サポートアーム100を含む復帰機構T、バランサー110および移動規制部121を含む作動範囲規定機構U等、ヘッドレストHRを構成する全て部材および部品を、ヘッドレスト本体12の内部に収容した構成となっている。従って、ヘッドレストHRの構成部材および部品がシートバックS1内に配設されないので、該シートバックS1の大型化や使用感低下等を防止し得る。また、ヘッドレスト本体12内に全ての構成部材および部品を配設したので、シートバックS1に対してヘッドレストHRを着脱を行なったり該ヘッドレストHRの高さ調整を行なっても、各構成部材の連結不良や接続不良等が発生しないのでヘッドレストHRの作動不良を防止し得る。
(変更例)
前述した実施例では、ヘッドレスト本体12を通常位置から緊急位置へ姿勢変位させる姿勢変位機構Mとして、ヘッドレスト支持体10およびヘッドレストコア30に夫々回動可能に枢支させた回動支持部材40を例示した。しかし姿勢変位機構Mは、ヘッドレスト本体12を通常位置から緊急位置へ姿勢変位させることができればよく、例えばリンク機構やスライド機構等からなる形態であってもよい。
作動範囲規定機構Uは、バランサー110を主体とした実施例の形態に限定されず、シートバックS1の姿勢を検出し得るものであれば、他の形態であってもよい。例えば、角度検知センサや傾斜センサ等の検出手段を利用してもよい。
作動範囲規定機構Uにおける移動規制部121は、取付ブラケット26に設けたストッパー孔74,74により形成されるものに限定されず、ヘッドレスト支持体10の車両前後への角度変位に伴ってウェイトシャフト97のガイド孔119に沿う移動経路の後側に位置して、該ウェイトシャフト97の車両後方への移動を規制し得るものであれば、他の形態であってもよい。例えば、ヘッドレスト支持体10の角度変位に伴って、ウェイトシャフト97の移動経路後側へ延出するスライド部材等を設けるようにしてもよい。
保持機構Dは、回動タイプのフック部材80を主体として実施例の形態に限定されず、姿勢変位機構Mの回動支持部材40を第1位置に保持し得るものであれば、他の形態であってもよい。例えば、取付ブラケット26に対して、スライドしたり出没する形態等であってもよい。
復帰機構Tのサポートスプリング105は、実施例に示した形態に限定されず、サポートアーム100を付勢し得るものであれば、コイルスプリングや捻りスプリング等であってもよい。また、サポートアーム100は、慣性ウェイト96に設けたウェイトシャフト97を支持するものに限定されず、該慣性ウェイト96を直接支持するものであってもよい。
実施例では、フック部材80とウェイトシャフト97とが、連結アーム部材90を介して連結された形態を例示したが、これらフック部材80とウェイトシャフト97とは直接連係される形態であってもよい。この場合、ウェイトシャフト97が、ロックピン81の機能を併有するようになる。
本発明に係るヘッドレストは、車両に設置したシートのシートバックに配設され、追突事故の発生時に通常位置から緊急位置へ姿勢変位可能な可動式のヘッドレストであって、種々タイプの車両に設置されたシートのシートバックに好適に実施可能である。