JP5153295B2 - 疲労強度に優れた浸炭部品 - Google Patents
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Description
本発明はこうした問題を解決するためになされたものである。
また下記特許文献2には「低歪み型浸炭焼入れ歯車用鋼材」についての発明が示されているが、この特許文献2に開示のものも鋼組成において本発明とは異なっている。
その他下記特許文献3には「熱処理歪の少ない肌焼鋼」についての発明が示されているが、この特許文献3に開示のものも鋼組成が本願発明とは異なっている。
2.4Si+1Cr+3.2Mo≧6・・式(1)
5≦(Ni+Mo)/C≦20 ・・式(2)
(但し式中の元素記号は対応する元素の含有質量%を表す)
ここでSi,Cr,Moを多量に添加することで歯面強度を高めることのできる理由は明らかではないが、以下の通りと考えられる。
詳しくは、焼入れによって創生したマルテンサイト相を焼戻すと硬さが低下するが、Siは焼戻しの際の軟化の開始温度を高温側に移行させ、そのことによって歯面強度を高くする働きをなす。
従ってこれらSi,Cr,Moを上記規定した量で多く含有させることで、歯面強度を従来に増して高めることができる。
即ちただ単にこれら成分を上記量で添加しただけであると、焼戻し後において硬さが不足し、却って歯面強度を低下させる原因となってしまう。
尚、本発明において残留γ量が15%以下とは、表層部における残留γ量が15体積%以下であることを意味する。
このような条件でサブゼロ処理を施すことで軟質相の残留γ相が15%以下となるまでマルテンサイトに変態させることができ、以て硬さを高めることができる。
即ちドライアイス(−78℃)や液体窒素(−196℃)等の寒剤を用いて恒温槽に、例えば1時間以上浸炭部品を保持することによって行う方法を用いることができる。
ここでサブゼロ処理は浸炭部品を液体中に保持する方法の他、ガスを用いて間接的手法等でサブゼロ処理する等、その手法については特に限定されない。
通常、浸炭部品はC量を少なくして靭延性を確保し、そして浸炭によって表面を硬くし、そのことによって全体の靭延性を確保しつつ歯面を硬くして使用する。
しかしながら本発明では浸炭による表層Cの高濃度化だけでなく、母材内部についてもC濃度を高くし、そのことによって母材自体の硬度も硬くして歯元強度を高めるようにしている、
但し全体のC量を多くして母材自体即ち歯元の硬さを硬くすると衝撃強度が低下してしまう。
そこで本発明ではC量を多くするのと併せてNi,Moを上記式(2)に規定する量で添加し、衝撃強度の低下を防いでいる。
ここでNiとMoとはCの添加量の増大による衝撃強度の低下を防ぐのに添加され、また衝撃強度低下に対する抑制効果としてNi,Mo共に同等の影響度を有することから、本発明ではC添加量に対するNi+Moの添加量の比率で規定している。
C:0.25〜0.60%
鋼の強度を保持するのに必須の元素であり、過大なトルクや衝撃荷重に耐えるための内部の硬さを確保するためにはC量の下限を0.25%とする。しかし、その含有量が多すぎると靭性が低下するため0.60%を上限とする。
軟化抵抗性を向上させるのに有効な元素であり、本発明ではSi量の下限を0.80%とする。より好ましくは1.30%以上とする。しかし、その含有量が3.00%を超えると効果が飽和するため、3.00%を上限とする。
Mnは焼入性を向上させるのに有効な元素である。その効果を得るためMn量としては0.20%以上必要である。しかし、過度の含有は素材硬さの増加により機械加工性を低下させてしまうので上限を0.50%とする。
S:≦0.005%
P,Sは不可避的に混入する不純物元素である。粒界に偏析し粒界強度を弱め、靭性を低下させるためP,Sの含有量は低い方が望ましい。そこでPの含有量は0.010%以下、Sの含有量は0.005%以下とする。
Niは衝撃強度を向上させる。但し1.50%以上でないと過大な入力トルクに対して十分な衝撃強度が得られないため、1.50%以上とする。好ましくは1.80%以上とする。一方4.50%を超えて含有させてもその効果は飽和し、経済性を損なうので4.50%を上限とする。
Crは軟化抵抗性を向上させるのに有効な元素である。軟化抵抗性の向上効果を十分に得るためには1.00%以上が必要である。好ましくは1.30%以上とする。しかし、その含有量が2.50%を超えて多量になると素材硬さの増加をもたらし、機械加工性を低下させるため2.50%を上限とする。
Moは軟化抵抗性を向上させるのに有効な元素である。軟化抵抗性の向上効果を十分に得るためには0.50%以上が必要である。好ましくは0.70%とする。しかし、その含有量が2.00%を超えて多量になると衝撃強度が劣化するため2.00%以下とする。
Alは硬質のアルミナ系介在物を生成し、疲労特性を低下させる大きな原因になるので、本発明ではAl含有量を0.015%以下に規制する。
本発明者は、Si,Cr,Moを適量添加した鋼において、軟化抵抗性に着目し、鋭意研究を重ねた結果、Si,Cr,Moの影響度は2.4:1:3.2の比率であることと、(2.4Si+1Cr+3.2Mo)が6よりも少ないと添加の効果が十分に得られないことを見出した。
5≦(Ni+Mo)/C≦20
(Ni+Mo)/Cを5以上と限定しているのは、これよりも少ないと添加の効果が十分に得られないからであり、逆に20を超えて添加したとき、C添加量に対してNi,Moが過剰となり、Ni,Moの衝撃値低下に対する抑制効果が飽和してしまうことによる。
Nbは結晶粒微細化の効果を有する元素である。その効果が得られる0.005%以上であるためこれを下限とする。一方Nbの含有量が0.20%を超えて過剰になると衝撃特性が悪化するため、その含有量は0.20%を上限とする。
Bは結晶粒の粒界強化のために含有させる元素である。Bの含有量は粒界強化の効果が得られる0.0005%以上とする。一方0.0030%を超えて過剰に添加してもその効果は飽和するため、Bの含有量は0.0030%以下とする。
Bの粒界強化の効果は、Bを鋼中に固溶させたときに得られるが、BはNと化合物になりやすい性質があるために好ましくは他の成分、本発明ではTiと複合添加してBを鋼中に固溶させる。
Tiは結晶粒微細化の効果を有する元素であり、またBの粒界強化を発現させる元素である。Tiを含有させない場合、BはNと親和力が強いためBNを形成し、Bの粒界強化の効果が十分に得られない。Tiを添加した場合、TiがNと結合することによりBNの形成を抑止してBを固溶させることができ、Bによる粒界強化の効果を発揮させることができる。Tiの含有量はこれらの効果を得るために0.005%以上とする。一方でTiを過剰に含有させると粗大な析出物が形成され、疲労特性に悪影響を及ぼすので、その含有量は0.05%以下とする。
表1に示す化学組成の鋼を150kg高周波真空誘導炉にて溶解し鋳造した。1250℃で2時間均熱した後にφ80mmの丸棒に鍛造し、続いて920℃×2h,空冷の条件で焼きならしを行って、その後歯車試験片に加工した。
尚、歯車試験片の形状としては以下の通りとした。
I 歯元強度試験片
歯形:並歯
モジュール:2.5
歯数:28
歯幅:10mm
圧力角:20°
II 歯面強度試験片
歯形:並歯
モジュール:3.4
歯数:14
歯幅:10mm
圧力角:25°
試験片を930℃でカーボンポテンシャル1.1%(カーボンポテンシャルは浸炭ガスと平衡する被処理物の表面炭素濃度を示す。)に調整した雰囲気中で100〜200分かけて浸炭を行い、その後930℃でカーボンポテンシャル0.8%に調整した雰囲気中で100〜300分保持した。その後引き続き840℃に下げた炉内に15分保持した後80℃の油中に投入して焼入れを行なった。
この浸炭焼入れ処理では、全硬化深さが表1中の実施例及び比較例のそれぞれにおいて1〜1.2mmとなるように浸炭及び拡散の時間を調整した。
尚、比較例2については、930℃に温度調整した炉内に360分保持し、次いで840℃に加熱した炉内で15分保持させたのち、80℃の油中に投入した。
ここでサブゼロ処理は、恒温槽に−78℃のドライアイスのガスを充満させ、そして常に−75℃以下となるように保ちながら、試験片を恒温槽内で8時間保持することにより行った。
続いて180℃×2h,空冷の条件で焼戻しを実施し、その後に仕上げ加工を行った。
I.歯元強度試験
図1に示す歯車衝撃試験機10に、固定歯車12と回転歯車14とを1組として装着し、ハンマー16の振上角度を10°としてインパクトアーム18に衝撃荷重を与え、一対の歯に対して衝撃トルクを繰り返し加えた。歯元が折損するまでこれを行って、その繰返しの回数を求め、歯元の衝撃強度を評価した。
尚、表2中の数値は各例について3対試験を行って、その平均をとって示してある。
尚、歯車衝撃試験機10の構成及び条件は次の通りである。
ハンマー16の支点から打撃点までの距離:1.2m
インパクトアーム18の回転支点から打撃点までの距離:0.14m
ハンマー16の重量:138kg
最大荷重:39.2kN
また歯車の形状は以下の通りとした。
歯形:並歯
モジュール:2.5
歯数:28
歯幅:10mm
圧力角:20°
II.歯面強度試験
トルク循環式歯車疲労試験機を用いて、一定のトルクを付与したまま歯車対を回転させ、歯面にピッティングが発生する寿命を求めた。
歯車の回転速度は2000rpmとし、106回でピッティングが発生しない最大トルクを求めた。尚使用した潤滑油は自動車用潤滑油であり、油温度は90℃に調整して使用した。
歯車の形状は以下の通りである。
歯形:並歯
モジュール:3.4
歯数:14
歯幅:10mm
圧力角:25°
尚、表2中の残留γ,表層C,表層硬さ,内部硬さの各数値は、具体的には以下のようにして求めた。
残留γ量
歯元強度試験終了後の試験片から試験に未使用の歯を切断し、ピッチ点辺りを測定個所とし、表面下0.05mm内部での残量γ量を測定した。測定面の研磨には電解研磨を用い、測定にはX線回析装置を使用した。
表層C濃度
歯元強度試験終了後の試験片から試験に未使用の歯を切断し、さらに歯幅方向に半分に切断して埋め込み、研磨を実施して測定用の試験片を作成した。表層C濃度の測定にはEPMAを用い、歯底Rに対し法線方向に表層から2mmの距離を線分析し、表層C濃度を求めた。
表層硬さ及び内部硬さ
歯元強度試験終了後の試験片から試験に未使用の歯を切断し、さらに歯幅方向に半分に切断して埋め込み、研磨を実施して測定用の試験片を作成した。測定にはビッカース硬さ試験機を用い、JIS:Z2244に規定された試験方法により測定した。尚、試験片荷重は0.294Nとした。測定個所は歯元部で表層から0.05mm内部の硬さの4点平均を表層硬さとした。
内部硬さについては、歯底R部に対し法線方向表層より2mm内側の位置を測定した。
また浸炭されていない比較例2では表層硬さが低く、歯面強度が弱いものとなっている。
またSi含有量が本発明の下限を外れて低い比較例4では歯面強度が弱く、Niが本発明の下限を外れて低い比較例5では歯元強度が弱いものとなっている。
更にCrが本発明の下限を外れて低い比較例6では歯面強度が弱く、またMoが本発明の下限を外れて低い比較例7では歯面強度,歯元強度が弱く、Si,Cr,Moの全体の量が本発明の下限を外れて低い比較例8では、同じく歯面強度が弱いものとなっている。
これに対して本発明例のものは何れも良好な特性を示している。
例えば浸炭焼入れについての上記の例はあくまで一例であって、これら処理は他の様々な態様で行うことができる。
例えば予め焼入れを行ってから浸炭焼入れを行ったり、2次焼入れを行うこと等も可能であり、更にサブゼロ処理についても上例以外の他の様々な方法にて行うことが可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で実施可能である。
Claims (3)
- 質量%で
C:0.25〜0.60%
Si:0.80〜3.00%
Mn:0.20〜0.50%
P:≦0.010%
S:≦0.005%
Ni:1.50〜4.50%
Cr:1.00〜2.50%
Mo:0.50〜2.00%
Al:≦0.015%
残部Fe及び不可避的不純物からなる組成で下記式(1),式(2)を満たし、且つ浸炭後の残留オーステナイト量が15体積%以下であることを特徴とする疲労強度に優れた浸炭部品。
2.4Si+1Cr+3.2Mo≧6・・式(1)
5≦(Ni+Mo)/C≦20 ・・式(2)
(但し式中の元素記号は対応する元素の含有質量%を表す) - 請求項1において、質量%で
Nb:0.005〜0.20%
を更に含有していることを特徴とする疲労強度に優れた浸炭部品。 - 請求項1,2の何れかにおいて、質量%で
Ti:0.005〜0.05%、及び/又はB:0.0005〜0.0030%
を更に含有していることを特徴とする疲労強度に優れた浸炭部品。
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