JP5143473B2 - Haz靱性に優れた高強度低降伏比鋼板の製造方法 - Google Patents
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2000≦(FRT−SCT)×t≦4000 ・・・ (1)
Cは、鋼板の強度を高める作用を有する元素である。しかしながら、C含有量が過剰になると、島状マルテンサイト(以下、「MA」と略称することがある)が過大に生成し、HAZ靱性が劣化する。そこでC含有量は、0.04%以上(好ましくは0.05%以上)、0.15%以下(好ましくは0.10%以下)と定めた。
Siは、適正量で存在する場合は、良好なHAZ靱性を確保するために有効な元素である。しかしながら、Si含有量が過剰になると、却ってHAZ靱性が劣化すると共に、溶接性も低下する。そこでSi含有量は、0.05%以上(好ましくは0.07%以上)、0.40%以下(好ましくは0.38%以下)と定めた。
Mnは、焼入性を向上させて鋼板の強度を向上させることに加えて、鋼板の靱性確保にも有効な元素である。しかしながら、Mn量が過剰になると、却って靱性が劣化する。そこでMn量を、1.20%以上(好ましくは1.25%以上)、1.70%以下(好ましくは1.60%以下)と定めた。
Pは、母材(鋼板)および溶接部の靱性に悪影響を及ぼす元素であり、その量は少ないほど好ましい。そこでP含有量の上限を、0.015%(好ましくは0.010%)と定めた。しかしPは、鋼の製造で不可避的に混入する不純物であり、工業的にその量を0%にすることは困難である。
Sは、MnとMnSを形成して、鋼の延性および母材靱性を低下させる元素であり、その量は少ないほど好ましい。そこでS量の上限を、0.005%(好ましくは0.002%)と定めた。しかしながら、Sは鋼の製造で不可避的に混入する不純物であり、工業的にその量を0%にすることは困難である。
Alは、脱酸作用を有する元素であり、またミクロ組織の微細化によって母材靱性を確保するために有効な元素である。しかしAl量が過剰になると、却って母材靱性が劣化する。そこでAl量を、0.020%以上(好ましくは0.025%以上)、0.045%以下(好ましくは0.040%以下)と定めた。
Tiは、Nと窒化物を形成し、溶接時における熱影響部(HAZ)のγ粒を微細化することによって、HAZ靱性を向上させる元素である。しかしTi量が過剰になると、却ってHAZ靱性が低下すると共に、母材靱性も低下する。そこでTi量を、0.005%以上(好ましくは0.007%以上)、0.018%以下(好ましくは0.016%以下)と定めた。
Bは、Tiと同様に、Nと窒化物を形成し、熱影響部のγ粒を微細化することによって、HAZ靱性を向上させる元素である。またBは、焼入性を高め、母材強度を向上させる作用を有する。しかしならが、B含有量が過剰になると、焼入性が増大しすぎて、母材靱性が劣化する。そこでB量を、0.0010%以上(好ましくは0.0012%以上)、0.0022%以下(好ましくは0.0019%以下)と定めた。
Nは、TiやBとTiNやBNを形成して、熱影響部のγ粒や粒内組織を微細化することによって、HAZ靱性を向上させる元素である。しかしN量が過剰になると、却ってHAZ靱性が劣化し、さらに母材靱性にも悪影響を及ぼす。そこでN量を、0.0040%以上(好ましくは0.0042%以上)、0.0080%以下(好ましくは0.0075%以下)と定めた。
Caは、微細な介在物を形成し、熱影響部のγ粒やγ粒内組織を微細化することによって、HAZ靱性を向上させる作用を有し、大入熱溶接におけるHAZ靱性の向上および安定化に寄与する元素である。しかしながらCa含有量が過剰になると、粗大な介在物を形成して、母材靱性を劣化させる。そこでCa量を、0.0015%以上(好ましくは0.0020%以上)、0.0040%以下(好ましくは0.0035%以下)と定めた。
Cu、NiおよびNbは、いずれも鋼板の高強度化のために有効な元素であり、必要に応じて鋼に含有させてもよい。詳しくは、Cuは、適量である場合はそれほどHAZ靱性を劣化させずに、固溶強化および析出強化によって母材強度を向上させる。またCuは、焼入性を向上させる作用を有する。Niは、鋼の焼入性を高めて強度を向上させる作用を有すると共に、鋼の低温靱性を向上させ、またCu割れおよび溶接高温割れを防止する作用を有する。Nbは、Cと炭化物を形成して、鋼の高強度化(特に制御圧延および制御冷却による高強度化)に有効な元素である。そこでCuを0.15%以上(好ましくは0.20%以上)の量で、Niを0.15%以上(好ましくは0.20%以上)の量で、Nbを0.005%以上(好ましくは0.008%以上)の量で、鋼に含有させることが推奨される。
母材靱性やHAZ靱性を更に向上させるために、不可避不純物である酸素(O)の量を制限することが好ましい。Oは、種々の元素と酸化物を形成するが、場合によって粗大な酸化物を形成して、母材靱性やHAZ靱性を劣化させることがあるからである。そこでO量を、好ましくは0.0025%以下、より好ましくは0.0020%以下に制限することが推奨される。
熱間圧延前の加熱温度が低すぎると、圧延最終パス直前に適正な鋼板表面温度(好ましくは800℃以上)を確保できず、冷却(例えば水冷)前にフェライトが析出して母材強度が低下する。また加熱温度が低すぎると、圧下荷重が高くなり、生産性が大幅に低下する。しかし加熱温度が高すぎると、γ粒径の粗大化によって母材強度および母材靱性が劣化する。そこで熱間圧延前の加熱温度を1000℃以上(好ましくは1050℃以上)、1150℃以下(好ましくは1130℃以下)と定めた。
熱間圧延後の冷却停止温度は、MAを析出させて高強度・低降伏比を達成するために重要である。詳しくは冷却停止温度が高すぎると、MA量が少なくなって、高強度・低降伏比を得ることができない。そこで冷却停止温度を、300℃以下(好ましくは200℃以下)と定めた。
本発明は、鋼板表面から深さt/4の温度が800℃〜400℃である範囲で制御冷却を行うことが必要である。この温度域での鋼板表面から深さt/4とt/2との間の冷却速度差が小さすぎると、上記化学成分組成の鋼では、単一組織となって(複合組織とならず)低降伏比を達成できない。一方、この冷却速度差が大きすぎると、板厚方向の材質差が大きくなりすぎて(均質化が損なわれ)、延性が大幅に劣化する。そこでこの冷却速度差を、20%以上(好ましくは25%以上)、50%以下(好ましくは45%以下)と定めた。尚、この冷却速度差は、下記実施例で記載するような方法で算出することができる。また、このときに制御温度域を800〜400℃としたのは、オーステナイト領域から、フェライト、ベイナイト、マルテンサイト変態をほぼ完了する温度域であって、材質を造り込む上で重要な温度域であるという理由からである。
本発明の製造方法において、鋼板の更なる高強度化および低降伏比を達成するために、冷却速度を制御することが好ましい。詳しくは、鋼板表面から深さt/4の温度が800℃〜400℃である範囲で、鋼板表面から深さt/4での冷却速度を、好ましくは5℃/秒以上(より好ましくは10℃/秒以上)に確保することによって、鋼板の更なる高強度化を達成できる。一方この冷却速度を、好ましくは40℃/秒以下(より好ましくは35℃/秒以下)に制御することによって、一層低い降伏比を達成できる。
本発明の製造方法において、鋼板の強度および母材靱性をさらに向上させるために、FRTを制御することが好ましい。詳しくは、FRTを好ましくは800℃以上(より好ましくは820℃以上)に確保することによって、鋼板のさらなる高強度化を達成できる。一方FRTを、好ましくは900℃/以下(より好ましくは880℃/以下)に制御することによって、冷却前の組織粗大化を防止して、鋼板の靱性を高めることができる。
本発明の製造方法において、充分に低い降伏比を達成するために、FRT、SCTおよびtの関係を適正に制御することが好ましい。具体的には、FRT、SCTおよびtで特定されるパラメータP1値[=(FRT−SCT)×t]を、好ましくは2000以上(より好ましくは2500以上)、好ましくは4000以下(より好ましくは3700以下)に調整することによって、一層低い降伏比を達成できる。パラメータP1値が小さすぎると、冷却前のオーステナイトが粗大化するか、またはフェライト量が多くすぎて降伏比が上昇することがある。逆にP1値が大きすぎても、フェライト量が少なくなりすぎて降伏比が上昇することがある。尚、上記式(1)は、本発明で規定する化学成分組成、製造方法をベースとした場合において、降伏比YR:80%以下を確保できる範囲を定量化したグラフ(後記図2)に基づいて求められたものである。
本発明の冷却工程で生じる鋼の残留応力を低減させるために、焼戻しを行うことが有効である。しかし一般に、鋼板に焼戻しを施すと、引張強度が低下して、降伏比を増大させる傾向がある。そこで必要に応じて、冷却後の鋼板に、480℃以上(好ましくは500℃以上)、570℃以下(好ましくは550℃以下)の温度で焼戻しを施すことが好ましい。このような温度範囲であれば、強度の過度の低下(降伏比の過度の上昇)を抑えつつ、残留応力を低減できるからである。尚、焼戻し温度が480℃未満であると、引張強度(TS)よりも、降伏点(YP)の低下量が大きく、TSとYPとのバランスが崩れ、低降伏比を達成できないことがある。一方、570℃を越えると、強度が低下しすぎることがある。焼戻しの時間は、好ましくは1.5×t(板厚:mm)分以上(例えば、板厚が50mmのとき75分以上)、より好ましくは(2.0×t)分以上、好ましくは(3.5×t)分以下[より好ましくは(3.0×t)分以下]である。
Q=hA(T−Ta) ・・・ (2)
〔式(2)中、Q:熱量、h:鋼板の熱伝達率(この実施例では8000〜10000kcal/(m2・時間・℃))、A:面積、T:鋼板温度、Ta:冷却水の温度〕
により鋼板の熱伝導率を求めた。尚、熱伝導率の値は冷却方式や鋼種等によって変化するが、「鉄と鋼 1987−S1139 各種強冷却方法の電熱特性の比較検討(住友金属工業株式会社)」および「鉄と鋼 1986−S349 厚板加速冷却用スリットミラー冷却の検討(住友金属工業株式会社)」には、熱伝導率の値が記載されている。
TP+1 n=Tx(TP n+1+TP n-1)+(1−2Tx)TP n ・・・ (3)
但し、Tx=(α×Δt1)/[(Δx)2]
α=k/(ρ×c)
T:温度、P:温度計算される位置、x:時間、α:温度拡散率、
t1:温度、ρ:密度、c:比熱容量
冷却速度差(%)=(深さt/4の冷却速度−深さt/2の冷却速度)×100/
(深さt/4の冷却速度) ・・・ (4)
Claims (6)
- C:0.04〜0.15%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.05〜0.40%、Mn:1.20〜1.70%、P:0.015%以下(0%を含まない)、S:0.005%以下(0%を含まない)、Al:0.020〜0.045%、Ti:0.005〜0.018%、B:0.0010〜0.0022%、N:0.0040〜0.0080%、およびCa:0.0015〜0.0040%を夫々含有し、残部が鉄および不可避不純物からなるスラブを、1000〜1150℃の温度に加熱した後、熱間圧延を施し、熱間圧延後に鋼板表面温度を300℃以下の冷却停止温度まで冷却する際に、鋼板表面から深さt/4(tは熱間圧延後の鋼板の板厚を表す、以下同じ)の温度が800℃〜400℃である範囲で、鋼板表面から深さt/4とt/2との間の冷却速度差を20〜50%とする制御冷却を行うことを特徴とするHAZ靱性に優れた高強度低降伏比鋼板の製造方法。
- 前記冷却は、鋼板表面から深さt/4の温度が800℃〜400℃である範囲で、鋼板表面から深さt/4での冷却速度が5〜40℃/秒である請求項1に記載のHAZ靱性に優れた高強度低降伏比鋼板の製造方法。
- 熱間圧延時の最終パス直前の鋼板表面温度(FRT(℃))を800〜900℃に調整すると共に、FRTと冷却開始直前の鋼板表面温度(SCT(℃))と熱間圧延後の鋼板の板厚(t(mm))との間の関係が下記式(1)を満たすように調整する請求項1または2に記載のHAZ靱性に優れた高強度低降伏比鋼板の製造方法。
2000≦(FRT−SCT)×t≦4000 ・・・ (1) - 前記冷却後に、更に480〜570℃の温度で焼戻しを施す請求項1〜3のいずれかに記載のHAZ靱性に優れた高強度低降伏比鋼板の製造方法。
- 前記スラブは、更にCu:0.80%以下(0%を含まない)、Ni:0.80%以下(0%を含まない)およびNb:0.018%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載のHAZ靱性に優れた高強度低降伏比鋼板の製造方法。
- O量が0.0025%以下(0%を含まない)であるスラブを用いる請求項1〜5のいずれかに記載のHAZ靱性に優れた高強度低降伏比鋼板の製造方法。
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