以下、本発明の車両制御装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1から図5を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、内燃機関と、有段の自動変速機と、運転者によるアクセル操作に応じて変化するアクセル操作変数と変速段との関係に基づいて、変速段を算出する変速段算出手段と、算出された変速段に基づいて自動変速機の変速制御を行う変速制御手段と、少なくとも、運転者によるアクセル戻し操作によりアイドル状態となり、かつ内燃機関の回転速度が予め定められた所定回転速度以上である場合に、内燃機関への燃料の供給を停止するフューエルカット制御を実行するか否かを判定する判定手段と、判定手段による判定結果に基づいて、フューエルカット制御を実行する実行手段とを備えた車両を制御する車両制御装置に関する。
本実施形態の構成としては、以下の(A)から(D)の構成を備えていることが前提となる。
(A)変速比がステップ的に変わる有段変速装置
(B)変速比がドライバーの意思だけではなく、自動に変速できる変速装置
(C)アクセル操作を検出できる構成
(D)エンジンの燃料噴射量を自動に制御できる装置を有する構成
自動変速機が搭載された車両において、足戻しアップシフトによりフューエルカットへの進行遅れが生じる場合がある。足戻しアップシフトにより、フューエルカット制御に移行できない低回転の領域までエンジン回転数が低下してしまうと、ダウンシフト等によりエンジン回転数を上昇させるまでフューエルカットを開始できなくなってしまう問題がある。これに対して、本実施形態では、アクセル戻し速度からアイドル状態になると予測された場合、アップシフトを抑制することで、フューエルカット制御への進行タイミングを早め、燃費向上を図る。
本実施形態では、ドライバーのアクセル操作を用いて、アイドルON前にフューエルカットへの移行判断が予測される。具体的には、アクセルの操作量の変化率(または、ドライバーの意思が読める要素、例えば、駆動力の変化率)を用いて、速い足戻し時はアイドルへ移行すると予測され、ゆっくりとした足戻し時には定常走行に移行すると予測される。アイドルONによるフューエルカットへの移行があると判断された場合には、足戻しによるアップシフト先のギヤ段と、フューエルカット制御が可能なギヤ段とが比較される。比較の結果、アイドルオン時にアップシフト先のギヤ段で即時フューエルカットが実行できないと判定された場合、アップシフトが禁止される。これにより、エンジン回転数の低下が抑制されるため、アイドルオン時に早期にフューエルカット制御を実行でき、燃費の向上が可能となる。
図2は、本実施形態に係る装置の概略構成図である。図2において、符号10は有段の自動変速機、40はエンジン(内燃機関)である。自動変速機10は、電磁弁121a、121b、121cへの通電/非通電により油圧が制御されて6段変速が可能である。図2では、3つの電磁弁121a、121b、121cが図示されるが、電磁弁の数は3に限定されない。電磁弁121a、121b、121cは、制御回路130からの信号によって駆動される。
スロットル開度センサ114は、エンジン40の吸気通路41内に配置されたスロットルバルブ43の開度を検出する。また、スロットル開度センサ114は、スロットルバルブ43の開度が、予め定められた所定値であるか否かを検出するアイドルスイッチを備えている。スロットル開度センサ114のアイドルスイッチは、スロットルバルブ43の開度であるスロットル開度が、予め定められた所定開度以下の値(所定値)である場合にONとなる。一方、アイドルスイッチは、スロットル開度が、上記所定開度よりも大きな値である場合に、OFFとなる。以下、スロットル開度センサ114のアイドルスイッチがONであるアイドル状態を「アイドルオン」と記述し、アイドルスイッチがOFFである状態を「アイドルオフ」と記述する。アイドルオンである場合には、後述する制御回路130においてアイドルフラグがONとされ、アイドルオフである場合には、制御回路130においてアイドルフラグがOFFとされる。
エンジン回転数センサ116は、エンジン40の回転数(回転速度)を検出する。車速センサ122は、車速に比例する自動変速機10の出力軸120cの回転数を検出する。シフトポジションセンサ123は、シフトポジションを検出する。アクセル開度センサ115は、図示しないアクセルペダルの開度を検出する。エンジン水温センサ119は、エンジン40の冷却水温を検出する。
制御回路130は、スロットル開度センサ114、アクセル開度センサ115、エンジン回転数センサ116、エンジン水温センサ119、車速センサ122、シフトポジションセンサ123の各検出結果を示す信号を入力する。
制御回路130は、周知のマイクロコンピュータによって構成され、CPU131、RAM132、ROM133、入力ポート134、出力ポート135、及びコモンバス136を備えている。入力ポート134には、上述の各センサ114、115、116、119、122、123からの信号が入力される。出力ポート135には、電磁弁駆動部138a、138b、138cが接続されている。
ROM133には、予め図1のフローチャートに示す動作(制御ステップ)が記述されたプログラムが格納されているとともに、自動変速機10のギヤ段を変速するための変速マップ及び変速制御の動作(図示せず)が記述されたプログラムが格納されている。制御回路130は、入力した各種制御条件に基づいて、自動変速機10の変速を行う。
また、制御回路130は、入力した各種制御条件に基づいて、エンジン40への燃料の供給を停止するフューエルカット制御を実行する。具体的には、制御回路130は、少なくとも、運転者によるアクセル戻し操作によりアイドルオンとなり、かつ、エンジン回転数が予め定められた所定の範囲内(後述する下限回転数Ne1以上)である場合に、フューエルカット制御を実行するか否かを判定する。この場合、制御回路130は、アイドルスイッチの状態とエンジン回転数を除く他のフューエルカット実行要件が全て満たされる場合に、フューエルカット制御を実行すると判定する。一方、制御回路130は、アイドル状態でない場合や、エンジン回転数が下限回転数Ne1未満である場合、あるいは、他のフューエルカット実行要件で満たされないものがある場合には、フューエルカット制御を実行すると判定しない。
本実施形態の制御回路130は、アクセル操作変数と変速段との関係に基づいて、変速段を算出する変速段算出手段、算出された変速段に基づいて自動変速機10の変速制御を行う変速制御手段、フューエルカット制御を実行するか否かを判定する判定手段、フューエルカット制御を実行する実行手段、および、アクセル戻し操作に応じて変化する戻し操作変数に基づいてアイドル状態となるかを予測するアイドル状態予測手段としての機能を有する。
図3は、ROM133に格納される変速マップとしての変速線の一例を示す図である。図3において、縦軸は、アクセル開度pap、横軸は、車速SPDを示す。変速線は、走行状態としてのアクセル開度papおよび車速SPDと、自動変速機10のギヤ段(変速段)の目標値である目標ギヤ段との対応関係を定めたものである。ここで、アクセル開度papは、運転者によるアクセル操作に応じて変化するアクセル操作変数である。つまり、制御回路130は、変速線に設定されたアクセル操作変数と変速段との関係に基づいて、変速段を算出する。
図3において、符号200は、自動変速機10において4速ギヤ段(変速段)が選択される動作点(車速SPDとアクセル開度papとの組み合わせ)の領域4thと、5速ギヤ段が選択される動作点の領域5thとの境界を示す変速線である。例えば、現在の動作点が、符号P1で示す動作点である場合には、自動変速機10の目標ギヤ段が、4速ギヤ段とされる。ここで、矢印Y1に示すように、運転者によるアクセル戻し操作がなされて、動作点が変速線200を越えて5thの領域に移ると、自動変速機10のギヤ段が5速ギヤ段にアップシフトされる。アクセル開度papが低開度である場合には、高速側のギヤ段を選択することで燃費の向上が期待できる。このため、アクセル戻し操作がなされて定常走行へ移行する場合等には、このようにアップシフトされることが燃費の面で有利と考えられる。
しかしながら、アクセル戻し操作により、定常走行ではなくアイドルオンとなる場合には、次に図4を参照して説明するように、フューエルカット制御に移行するまでの時間遅れが発生してしまうという問題がある。図4は、アクセル戻し操作がなされる場合の動作を示すタイミングチャートである。
図4において、(a)はアクセル開度papの推移、(b)はエンジン回転数Neの推移をそれぞれ示す。符号201は、アクセル開度papを示す。符号202は、従来の制御におけるエンジン回転数Neを示す。符号203は、本実施形態の制御がなされる場合のエンジン回転数Neを示す。また、符号pap1は、上記所定開度に対応するアクセル開度papであり、アイドルオンとアイドルオフとの境界となるアクセル開度papの閾値を示す。アクセル開度papが、所定開度pap1以下である場合に、スロットル開度センサ114のアイドルスイッチがONとなり、アイドルオンの判定がなされる。符号Ne1は、フューエルカット制御を実行可能なエンジン回転数Neの下限値(所定回転速度)である。エンジン回転数Neが、下限回転数Ne1よりも低回転である場合には、制御回路130において、フューエルカット制御を実行すると判定されない。
時刻t0においてアクセル開度pap(201)が低下すると、従来の制御では、変速線に基づくアップシフト判定がなされて自動変速機10においてアップシフトされ、符号202aに示すようにエンジン回転数Ne(202)が低下していた。これにより、アイドルオン直前のエンジン回転数Ne(符号202c参照)が、下限回転数Ne1を下回る場合があった。この場合に、時刻t1においてアクセル開度papが所定開度pap1以下となり、アイドルオンとなっても、すぐにフューエルカット制御を開始することができなかった。アイドルオンとなってから、ダウンシフトして符号202bのようにエンジン回転数Ne(202)を上昇させ、ダウンシフトが完了する時刻t2までフューエルカット制御を開始することができなかった。このように、フューエルカット制御に移行するまでの時間遅れが発生することで、燃費を向上させ得る機会を十分に活用できない可能性があった。
また、アクセル戻しによるアップシフト(符号202a)があってから続けてダウンシフト(符号202b)が行われると、フューエルカット制御が実行可能とはなるものの、変速ビジーとなる問題があった。
これに対して、本実施形態では、アクセル戻し操作により、アイドルオンとなるか否かが予測され、アイドルオンとなると予測される場合には、アップシフトが規制される。アップシフトが規制されることにより、アイドルオンとなったときに、フューエルカット制御を早期に開始可能となる。
図5は、アクセル開度papの推移の一例を示す図であり、本実施形態においてアクセル戻し操作によりアイドルオンとなるか否かを予測する方法について説明するための図である。本実施形態では、アクセル戻し操作におけるアクセル開度papの変化率(戻し速度)に基づいて、アイドルオンとなるか否かが予測される。言い換えると、運転者によるアクセル戻し操作に応じて変化する戻し操作変数としてのアクセル開度papの変化率に基づいて、アイドル状態となるかが予測される。
図5において、符号204は、ゆっくりとアクセル戻し操作がなされる場合のアクセル開度papを示す。符号205は、速いアクセル戻し操作がなされる場合のアクセル開度papを示す。ゆっくりとアクセル戻し操作がなされる場合には、その後に定常走行に移行することが予測できる。これは、運転者が加速状態から定常走行に移行することを意図している場合には、定常走行を実現できるアクセル開度papとなるまで比較的ゆっくりとアクセル戻し操作を行うと考えられるためである。符号204aに示すように、所定開度pap1よりも大きなアクセル開度papにおいて定常走行状態となると、アクセル戻し操作が終了する。
一方、速いアクセル戻し操作がなされる場合には、運転者が減速を望んでおり、アイドルオンへ移行すると予測できる。本実施形態では、このように、アクセル戻し操作におけるアクセル開度papの変化率に基づいて、アクセル戻し操作によりアイドルオンとなるか否かが予測(判定)される。アクセル開度papの変化率の大きさに対して閾値b(b≧0)が設定されている。アクセル戻し操作において、アクセル開度papの変化率の大きさ(アクセル開度papの変化率の絶対値)がこの閾値bよりも大きい場合には、アイドルオンへ移行すると判定される。
アイドルオンへ移行すると判定された場合には、次に、アクセル戻し操作に応じて変速線に基づくアップシフトを行ったとしても、アイドルオンとなったときに即座にフューエルカット制御を開始可能か否かが判定される。具体的には、アクセル戻し操作の間に変速線に従ってアップシフトした場合に、アイドルオン時の走行状態において自動変速機10で選択されているであろうギヤ段(アイドル時変速段)と、アイドルオン時にフューエルカット制御を実行可能なギヤ段とが比較される。フューエルカット制御を実行可能なギヤ段と比較して、変速線に基づくアップシフトの結果アイドルオン時に選択されているであろうギヤ段が高速側のギヤ段である場合、言い換えると、アップシフトの結果、エンジン回転数Neが、下限回転数Ne1よりも低回転となる(図4の符号202c参照)と予測される場合には、アップシフトが規制される。その結果、本実施形態の制御がなされる場合のエンジン回転数Ne(203)が、下限回転数Ne1よりも低回転となることが抑制され、時刻t1においてアイドルオンとなってから早期にフューエルカット制御を開始可能となる。
図1は、本実施形態の動作を示すフローチャートである。
まず、ステップS1では、制御回路130により、制御のための各種の情報が取得される。具体的には、制御回路130により、アクセル開度センサ115、スロットル開度センサ114、エンジン水温センサ119、および車速センサ122の検出結果や、自動変速機10の現在のギヤ段などの必要情報が入手される。
次に、ステップS2では、制御回路130により、アイドルオフの状態であるか否かが判定される。制御回路130は、ステップS1において取得したスロットル開度センサ114の検出結果を示す信号、すなわち、アイドルスイッチのON・OFFの状態を示す信号に基づいて、ステップS2の判定を行う。その判定の結果、アイドルオフの状態であると判定された場合(ステップS2−Y)にはステップS3に進み、そうでない場合(ステップS2−N)には本制御フローはリターンされる。
ステップS3では、制御回路130により、アクセル開度papの変化率aが演算される。制御回路130は、例えば、ステップS1において取得したアクセル開度センサ115の検出結果を示す信号と、以前に本制御フローが実行されたときのアクセル開度センサ115の検出結果を示す信号とに基づいて、アクセル開度papの変化率aを演算する。アクセル開度papの変化率aは、アクセル踏込み操作がなされている場合には、正の値として算出され、アクセル戻し操作がなされている場合には、負の値として算出される。
次に、ステップS4では、制御回路130により、ステップS3で演算されたアクセル開度papの変化率aが所定値(−b)以下である速いアクセル戻しか否かが判定される。すなわち、アクセル開度papの変化率aの大きさ(絶対値)が、閾値bよりも大であり、かつ、アクセル戻し操作がなされている(a≦0)か否かが判定される。その判定の結果、早いアクセル戻しである(a<−b)と判定された場合(ステップS4−Y)にはステップS5に進み、そうでない場合(ステップS4−N)には本制御フローはリターンされる。つまり、ゆっくりとしたアクセル戻し(ステップS4−N)の場合、運転者が定常走行したいものと判断され、アップシフト要件が満たされればアップシフトが許可される。
ステップS5では、制御回路130により、アイドルスイッチの状態(アイドルフラグ)を除くフューエルカット成立条件が満たされているか否かが判定される。制御回路130は、アイドルフラグを含む、エンジン水温、車速SPD、エンジン回転数Ne等の走行状態に基づいてフューエルカット制御を実行するか否かを判定する。制御回路130によりフューエルカット制御を実行すると判定されるためのフューエルカット実行要件には、アイドルフラグがONであり、かつ、エンジン水温、車速SPD、エンジン回転数Ne等のパラメータが、予め定められた所定の条件を満たすことが含まれる。ステップS5では、これらのフューエルカット実行要件のうち、アイドルフラグの状態を除く要件が満たされているか否かが判定される。
制御回路130は、エンジン水温センサ119により検出されたエンジン水温、車速センサ122により検出された車速SPD、およびエンジン回転数センサ116により検出されたエンジン回転数Neに基づいてステップS5の判定を行う。その判定の結果、アイドルフラグを除くフューエルカット成立条件が満たされていると判定された場合(ステップS5−Y)には、ステップS6に進み、そうでない場合(ステップS5−N)には本制御フローはリターンされる。
ステップS6では、制御回路130により、足戻しのアップシフトギヤ段cが算出される。制御回路130は、現在の走行条件から足戻し時まで、変速線上のアップシフトするギヤ段を読む。具体的には、制御回路130は、現在の走行状態(走行条件)と、図3に示すような変速線とに基づいて、アクセル戻し操作によりアクセル開度papが所定開度pap1まで低下したときの自動変速機10のギヤ段の指令値を算出する。この指令値のギヤ段が、足戻しのアップシフトギヤ段(アイドル時変速段)cである。言い換えると、足戻しのアップシフトギヤ段cは、アクセル戻し操作により変速線に基づくアップシフトが行われる場合の、アイドルオンとなったときのギヤ段の予測値である。つまり、制御回路130は、アイドルオンとなったときの走行状態を予測し、予測された走行状態と変速線とに基づいて算出される目標ギヤ段を足戻し時のアップシフトギヤ段cとする。図3に示すように、符号P1で示す動作点が現在の動作点である場合に、矢印Y1で示すアクセル戻し操作がなされたとすると、アイドルオンとなったときのギヤ段の予測値である足戻しのアップシフトギヤ段cは、5速ギヤ段となる。
次にステップS7では、制御回路130により、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ段dが算出される。制御回路130は、現在の車速SPDまたは出力軸120cの回転数から、フューエルカット制御に移行可能なギヤ段のうち、最も高速側のギヤ段であるフューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ段dを算出する。図3に符号SPD4,SPD5に示すように、各ギヤ段に対して、フューエルカット制御に移行可能な車速SPDの領域が予め設定されている。符号SPD4は、4速ギヤ段でフューエルカット制御に移行可能な車速SPDの領域を示し、符号SPD5は、5速ギヤ段でフューエルカット制御に移行可能な車速SPDの領域を示す。フューエルカット制御に移行可能な車速SPDの領域は、フューエルカット制御に移行可能なエンジン回転数Neの領域と、各ギヤ段の変速比に基づいて算出されることができる。
制御回路130は、車速変数としての車速SPDまたは出力軸120cの回転数と、各ギヤ段の変速比とに基づいて、エンジン回転数Neが下限回転数Ne1以上となるギヤ段をフューエルカット制御を実行可能なギヤ段と判定する。フューエルカット制御を実行可能なギヤ段のうち、最も高速側のギヤ段が、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ段dとなる。
現在の動作点P1からアクセル戻し操作(矢印Y1)がなされた場合、5速ギヤ段にアップシフトされてしまうとアイドルオン時にフューエルカット制御に移行不可能であるが、4速ギヤ段のままであればアイドルオン時にフューエルカット制御に移行可能である。この場合、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ段dは、4速ギヤ段と算出される。
次に、ステップS8では、制御回路130により、足戻しのアップシフトギヤ段cが、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ段dと比較して高速側のギヤ段であるか否かが判定される。制御回路130は、ステップS6で算出された足戻しのアップシフトギヤ段cと、ステップS7で算出されたフューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ段dとの比較結果に基づいて、ステップS8の判定を行う。足戻しのアップシフトギヤ段cが、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ段dと比較して高速側のギヤ段である場合には、アイドルオンになったときにすぐにフューエルカット制御を開始することができない。このため、後述するステップS9でアップシフトを抑制する制御がなされる。一方、足戻しのアップシフトギヤ段cが、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ段dと一致するか、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ段dよりも低速側のギヤ段である場合には、アクセル戻し操作に応じて変速線に基づくアップシフトを行ったとしても、アイドルオン時に速やかにフューエルカット制御に移行可能である。このため、アップシフトは抑制されない。
ステップS8の判定の結果、足戻しのアップシフトギヤ段cが、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ段dと比較して高速側のギヤ段であると判定された場合(ステップS8−Y)にはステップS9に進み、そうでない場合(ステップS8−N)にはステップS10に進む。
ステップS9では、制御回路130により、アップシフトが抑制される。制御回路130は、アクセル戻し操作に応じて変速線に基づくアップシフト判定が行われたとしても、アップシフトの実行を規制する。これにより、現在のギヤ段よりも高速側のギヤ段へのアップシフトが抑制される。その結果、アップシフトによるエンジン回転数Neの低下が抑制され、アイドルオン時に速やかにフューエルカット制御を開始可能となる。
ステップS10では、制御回路130により、アイドルオンであるか否かが判定される。制御回路130は、スロットル開度センサ114から入力されるアイドルスイッチの状態を示す信号に基づいて、ステップS10の判定を行う。その判定の結果、アイドルオンであると判定された場合(ステップS10−Y)にはステップS11に進み、そうでない場合(ステップS10−N)には本制御フローはリターンされる。
ステップS11では、制御回路130により、フューエルカット制御が実行される。制御回路130により、エンジン40への燃料の供給を停止するフューエルカット制御が行われる。ステップS11が実行されると、本制御フローはリターンされる。
本実施形態によれば、アクセル戻し操作がなされた場合に、アクセル戻し操作の途中で、その後にアイドルオンとなってフューエルカット制御へ移行するか否かが予測される。(1)「アイドルオンとなると予測された場合であって、かつ、変速線に基づくアップシフトがなされてしまうと、アイドルオン時に、フューエルカット制御へ移行可能なギヤ段よりも高速側のギヤ段になってしまうと予測される場合」には、アップシフトが規制される。これにより、アイドルオン時にフューエルカット制御の開始が遅れてしまうことを抑制し、フューエルカット制御への移行タイミングを早めて燃費の向上を図ることができる。
一方で、(2)「アイドルオンとなると予測されない場合」や、(3)「アイドルオンとなると予測されるものの、変速線に基づくアップシフトがなされても、アイドルオン時に、フューエルカット制御へ移行可能なギヤ段にあると予測される場合」には、アップシフトは規制されない。上記(2)の場合、すなわち、アクセル戻し操作で定常走行に移行すると予測される場合に、アップシフトが行われることで、燃費の向上を図ることができる。また、上記(3)の場合に、アップシフトの規制が行われないことで、アイドルオンとなると予測される場面において、アップシフトの規制へ進む状況が限定される。アップシフトの規制を、アップシフトが規制されることで燃費向上ができる場合に限定することができる。言い換えると、アップシフトを規制した場合に、アップシフトを規制しない場合と比較して、アイドルオン時にフューエルカット制御の開始タイミングを早めることができる場合に限定してアップシフトを規制することができる。
また、従来の制御で、アクセル戻し操作により、変速線に基づいてフューエルカット制御へ移行不可能なギヤ段までアップシフトされた場合に、アイドルオンの後でダウンシフトを行うことで、フューエルカット制御を開始することは可能であった。しかしながら、この場合、アップシフトに続けてダウンシフトが行われることで、変速ビジーとなってしまう虞がある。これに対して、本実施形態によれば、上記(1)の場合に、アップシフトが規制されることにより、変速ビジーとなることを抑制しつつ、アイドルオン時にフューエルカット制御に移行することができる。
なお、本実施形態では、アイドルオンとなるか否かが、アクセル開度papの変化率に基づいて判定されたが、判定基準は、変化率には限定されない。例えば、アクセル開度papの変化量の所定時間内の積分値など、アクセル開度papの変化の度合いを表すものであれば、アイドルオンとなるか否かの判定基準とすることができる。
また、アイドルオンとなるか否かを判定するためのパラメータは、アクセル開度papには限定されない。例えば、要求駆動力など、運転者の意図が反映されるパラメータであれば、アイドルオンとなるか否かを判定するためのパラメータとされることができる。
(第1実施形態の第1変形例)
第1実施形態の第1変形例について説明する。
上記第1実施形態(図1)では、足戻しのアップシフトギヤ段cが、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ段dと比較して高速側のギヤ段である場合(ステップS8−Y)に限り、アップシフトが規制されていた(ステップS9)。これに代えて、足戻しのアップシフトギヤ段cが、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ段dと比較して高速側のギヤ段であるか否かにかかわらず、アップシフトが規制されてもよい。つまり、アクセル戻し操作により、アイドルオンとなると予測される場合には、足戻しのアップシフトギヤ段cと、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ段dとを比較することなく、アップシフトを規制するようにしてもよい。このようにしても、エンジン回転数の低下を抑制し、アイドルオン時に早期にフューエルカット制御へ移行することができる。この場合、図1のフローチャートにおいて、ステップS6からステップS8までのステップが省略される。
(第1実施形態の第2変形例)
第1実施形態の第2変形例について説明する。
上記第1実施形態(図1)では、足戻しのアップシフトギヤ段cが、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ段dと比較して高速側のギヤ段である場合(ステップS8−Y)には、現在のギヤ段よりも高速側のギヤ段へのアップシフトが禁止された。これに代えて、アイドルオン時にフューエルカット制御に移行可能なギヤ段の範囲内であれば、アップシフトを許可(許容)するようにしてもよい。
例えば、現在のギヤ段が4速ギヤ段であり、足戻しのアップシフトギヤ段cが6速ギヤ段であり、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ段dが5速ギヤ段である場合に、5速ギヤ段までのアップシフトは許可し、6速ギヤ段以上の高速側のギヤ段へのアップシフトは規制するようにしてもよい。このように、変速線に基づいて算出される目標ギヤ段が可能な限り優先されることにより、ドライバビリティの向上が可能となる。例えば、実際の減速度(エンジンブレーキ力)が、運転者の要求する減速度により合致したものとなる。
(第1実施形態の第3変形例)
第1実施形態の第3変形例について説明する。
上記第1実施形態(図1)では、アイドル時変速段である足戻しのアップシフトギヤ段cと、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ段dとの比較結果でアップシフトを規制するか否かが判定されたが、これに代えて、アクセル戻し操作の間に変速要求がなされるごとに、そのアップシフトを規制するか否かが判定されてもよい。例えば、アクセル戻し操作の間に4速ギヤ段から5速ギヤ段へのアップシフトが要求された場合に、5速ギヤ段とフューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ段dとを比較して、アップシフトを規制するか否かを判定することができる。5速ギヤ段が、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ段dよりも高速側のギヤ段である場合に、アップシフトが規制される。このようにしても、上記第1実施形態の第2変形例と同様の効果を奏することができる。
(第2実施形態)
図6および図7を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
上記第1実施形態では、自動変速機10が有段であり、変速比がステップ的に変化する場合について説明したが、自動変速機10は、無段変速機であってもよい。有段の自動変速機の場合、アイドル時変速段でフューエルカット制御を実行可能か否かが、アイドル時変速段の変速比に基づいて判定される。すなわち、フューエルカット制御を実行可能か否かは、アイドル状態のアクセル操作変数と変速線とに基づいて算出される変速比で判定されていることとなり、無段変速比においても同様の方法により上記判定を行うことができる。自動変速機10が無段変速機の場合であっても、有段変速機の場合と同様に、アクセル戻し操作によりアイドルオンとなると予測される場合に、アップシフトを規制することにより、フューエルカット制御の開始タイミングを早め、燃費の低減を図ることができる。
図6は、本実施形態の制御が行われる場合の動作を示すタイミングチャートである。
図6において、(c)は、アクセル開度papの推移、(d)はエンジン回転数Neの推移をそれぞれ示す。符号301は、アクセル開度papを示す。符号302は、従来の制御におけるエンジン回転数Neを示す。符号303は、本実施形態の制御がなされる場合のエンジン回転数Neを示す。また、符号pap2は、上記第1実施形態の所定開度pap1と同様の所定開度であり、アイドルオンとアイドルオフとの境界となるアクセル開度papの閾値を示す。符号Ne2は、上記第1実施形態の下限回転数Ne1と同様のフューエルカット制御を実行可能なエンジン回転数Neの下限値である。
制御回路130は、無段の自動変速機10の予め定められた変速線を記憶しており、変速線に基づいて自動変速機10の目標ギヤ比(目標変速比)を算出する。変速線は、例えば、アクセル開度に応じた、車速とエンジン回転数Ne(自動変速機10の入力軸回転数)の目標値との対応関係を定めたものである。アクセル開度が低下すると、目標ギヤ比は、高速側の変速比に変更される。言い換えると、アクセル戻し操作が行われると、自動変速機10のアップシフトの判定がなされる。これにより、従来の制御では、時刻t0から時刻t1にかけてアクセル開度pap(301)が低下すると、アップシフトによりエンジン回転数Ne(302)が低下していた。符号302aに示すように、エンジン回転数Ne(302)が低下して、下限回転数Ne2よりも低回転となると、時刻t1においてアイドルオンとなったとしても、すぐにフューエルカット制御に移行することができなかった。アイドルオンとなってから、アップシフトされ、エンジン回転数Ne(302)が下限回転数Ne2に達する時刻t3となるまで、フューエルカット制御を開始することができなかった。
これに対して、上記第1実施形態と同様に、本実施形態では、アクセル戻し操作によりアイドルオンとなると予測される場合であって、かつ、変速線に基づくアップシフトがなされてしまうと、アイドルオン時に、フューエルカット制御へ移行可能なギヤ比よりも高速側のギヤ比になってしまうと予測される場合には、アップシフトが禁止される。これにより、本実施形態の制御がなされる場合のエンジン回転数Ne(303)は、下限回転数Ne2よりも高回転のまま推移する。よって、アイドルオンとなる時刻t1において、速やかにフューエルカット制御を開始することが可能となる。
図7は、本実施形態の動作を示すフローチャートである。
ステップS21からステップS25までは、上記第1実施形態のステップS1からステップS5までと同様であることができる。すなわち、制御のための各種の情報が取得され(ステップS21)、アイドルオフの状態であると判定(ステップS22−Y)されて、アクセル開度papの変化率aが演算される(ステップS23)と、早いアクセル戻しである(a<−b)か否かが判定される(ステップS24)。早いアクセル戻しであると判定され(ステップS24−Y)、アイドルフラグを除くフューエルカット成立条件が満たされている場合(ステップS25−Y)には、ステップS26に進む。
ステップS26では、制御回路130により、足戻しのアップシフトギヤ比eが算出される。制御回路130は、現在の走行状態(走行条件)と、予め記憶された変速線とに基づいて、アクセル戻し操作によりアクセル開度papが所定開度pap2まで低下したときの自動変速機10のギヤ比の指令値(目標ギヤ比)を算出する。この指令値のギヤ比が、足戻しのアップシフトギヤ比eである。
ステップS27では、制御回路130により、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ比fが算出される。制御回路130は、現在の車速SPDまたは出力軸120cの回転数から、フューエルカット制御に移行可能なギヤ比のうち、最も高速側のギヤ比であるフューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ比fを算出する。
次にステップS28では、制御回路130により、足戻しのアップシフトギヤ比eが、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ比fと比較して高速側のギヤ比であるか否かが判定される。その判定の結果、足戻しのアップシフトギヤ比eが、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ比fと比較して高速側のギヤ比であると判定された場合(ステップS28−Y)にはステップS29に進み、そうでない場合(ステップS28−N)にはステップS30に進む。
ステップS29では、制御回路130により、アップシフトが抑制される。制御回路130は、アクセル戻し操作に応じて変速線に基づくアップシフト判定が行われたとしても、アップシフトの実行を規制する。これにより、現在のギヤ比よりも高速側のギヤ比へのアップシフトが抑制される。その結果、アップシフトによるエンジン回転数Neの低下が抑制され、アイドルオン時に速やかにフューエルカット制御を開始可能となる。
ステップS30およびS31は、上記第1実施形態のステップS10およびS11と同様であることができる。すなわち、アイドルオンであると判定された場合(ステップS30−Y)には、フューエルカット制御が実行される(ステップS31)。ステップS31が実行されると、本制御フローはリターンされる。
本実施形態によれば、アクセル戻し操作がなされた場合に、アクセル戻し操作の途中で、その後にアイドルオンとなってフューエルカット制御へ移行するか否かが予測される。(4)「アイドルオンとなると予測された場合であって、かつ、変速線に基づくアップシフトがなされてしまうと、アイドルオン時に、フューエルカット制御へ移行可能なギヤ比よりも高速側のギヤ比になってしまうと予測される場合」には、アップシフトが規制される。これにより、上記第1実施形態と同様に、アイドルオン時にフューエルカット制御の開始が遅れてしまうことを抑制し、フューエルカット制御への移行タイミングを早めて燃費の向上を図ることができる。
一方で、(5)「アイドルオンとなると予測されない場合」や、(6)「アイドルオンとなると予測されるものの、変速線に基づくアップシフトがなされても、アイドルオン時に、フューエルカット制御へ移行可能なギヤ比にあると予測される場合」には、アップシフトは規制されない。これにより、上記第1実施形態と同様に、定常走行へ移行する場合の燃費を向上させたり、アップシフトが規制されることで燃費向上ができる場合に限定してアップシフトを規制したりすることができる。
また、上記(4)の場合にアップシフトが規制されることで、変速ビジーとなることを抑制しつつ、アイドルオン時にフューエルカット制御に移行することができる。
(第2実施形態の第1変形例)
第2実施形態の第1変形例について説明する。
上記第2実施形態(図7)では、足戻しのアップシフトギヤ比eが、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ比fと比較して高速側のギヤ比である場合(ステップS28−Y)に限り、アップシフトが規制されていた(ステップS29)。これに代えて、足戻しのアップシフトギヤ比eが、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ比fと比較して高速側のギヤ比であるか否かにかかわらず、アップシフトが規制されてもよい。つまり、アクセル戻し操作により、アイドルオンとなると予測される場合には、足戻しのアップシフトギヤ比eと、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ比fとを比較することなく、アップシフトを規制するようにしてもよい。このようにしても、エンジン回転数の低下を抑制し、アイドルオン時に早期にフューエルカット制御へ移行することができる。この場合、図7のフローチャートにおいて、ステップS26からステップS28までのステップが省略される。
(第2実施形態の第2変形例)
第2実施形態の第2変形例について説明する。
上記第2実施形態(図7)では、足戻しのアップシフトギヤ比eが、フューエルカット制御に移行可能な最ハイギヤ比fと比較して高速側のギヤ比である場合(ステップS28−Y)には、現在のギヤ比よりも高速側のギヤ比へのアップシフトが禁止された。これに代えて、アイドルオン時にフューエルカット制御に移行可能なギヤ比の範囲内であれば、アップシフトを許可するようにしてもよい。
変速線に基づいて算出される目標ギヤ比が可能な限り優先されることにより、ドライバビリティの向上が可能となる。例えば、実際の減速度(エンジンブレーキ力)が、運転者の要求する減速度に、より合致したものとなる。