JP5108512B2 - 速度計測方法及びこれを用いた速度計測装置 - Google Patents
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Description
もし、反射物が1つしか存在しなければ、前記の時系列信号の位相回転速度 ΔΦ/Δtすなわち符号つき角周波数から、反射物が送受信器に近づく運動速度vを、次式のように容易に求めることができる。
v=λΔΦ/Δt/2 (1)
ここで、λは波長、Δtはパルス送信の時間間隔、ΔΦは位相回転角である。運動速度vの符号は、反射物が近づく場合には、運動速度vの符号が正となり、遠ざかる場合には負となる。
MTI処理として最もよく知られているのは、時間領域において畳み込み積和で表現される通常の低域遮断フィルタを用いる処理である。この処理には次の二つの欠点がある。
1) N1個の時系列データ点を入力とする低域遮断フィルタを用いる場合、後段の速度検出・分析処理部に入力されるデータ点が (N1−1) 個目減りする。
2) 急峻な遮断特性のフィルタを得にくい。
1) データ点の目減りがない。
また、その低域遮断特性は、フィットする最大次数Mの大きさによるが、
2) 同等の遮断周波数をもつ前記の低域遮断フィルタと比較すると、はるかに急峻な遮断特性をもつ。
IEEE Transactions on Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control, Vol. 42., 927-937頁 (1995年)
そこで、本発明は、静止反射物と運動反射物との反射信号を区別し、測定誤差を低減することができる速度計測方法及びこれを用いた速度計測装置を提供することを課題とする。
各々のパルス送信時刻からの経過時間の等しい着目時刻の信号を、送信時刻の順番に並べたN点の離散的時系列信号から速度分析を行う場合を考える。このような、パルス・ドップラ速度分析用として典型的な時系列複素信号は、受信されたエコー信号に90°位相の異なる2つの搬送周波数信号を乗じて得られる1組の信号を、虚数単位を係数として線型結合して複素信号とし、この信号の、各々のパルス送信時刻を基準とする時相の等しい部分を、送信時刻の順番にならべることにより得られる(図1参照)。
このような離散的時系列信号のもつ周波数あるいは位相の分析における常套手段は、離散的フーリエ展開である。具体的には、n= 1,2,・・・, N とならんだ時系列信号を、周波数を表す指数k=−N/2,・・,0,・・,N/2の複素正弦波系
Cs(n,k) = cos [ kπ(2n−N−1)/N ] + j sin [ kπ(2n−N−1)/N ] (2)
で展開する。j は虚数単位である。
負のk は反射物が遠ざかる向きの速度に対応し、正のk は近づく向きの速度に対応する。k=±N/2 はナイキスト限界であり、正負が区別されないので、(2)式により表される (N+1)個の複素正弦波関数のうち独立なものはN個となり、これらは、直交関数系を形成している。
S0(n0)=ΣF(m)S1(n0+m−1) (3)
ここで、Σは m=1,・・・,Mの和を表す。図6では、低域遮断フィルタとして最も簡単なM=3,F(1)=−1, F(2)=2, F(3)=−1の場合について実線で示した。図5と同様の入力信号を、この低域遮断フィルタを通した後、図5と同様に速度分析すると、図7中の実線のようになる。低域遮断フィルタの働きによりクラッタ信号の振幅が1/2000倍程度に抑圧された結果、ナイキスト限界の0.3倍から0.4倍の速度にピークをもつ運動反射物のスペクトルが見えるようになっている。
P0(x)=1
P1(x)=x=cosθ
P2(x)=(1/2)(3x2−1)=(1/4)(3cos2θ+1)
P3(x)=(1/2)(5x3−3x)=(1/8)(5cos3θ+3cosθ)
P4(x)=(1/8)(35x4−30x2+3)=(1/64)(35cos4θ+20cos2θ+9)
P5(x)=(1/8)(63x5−70x3+15x)=(1/128)(63cos5θ+35cos3θ+30cosθ)
P6(x)=(1/16)(231x6−315x4+105x2−5)=(1/512)(231cos6θ+126cos4θ+105cos2θ+50)
P7(x)=(1/16)(429x7−639x5+315x3−35x)=(1/210)(429cos7θ+231cos5θ+189cos3θ+175cosθ)
P8(x)=(1/128)(6435x8−12012x6+6930x4−1260x2+35)=(1/214)(6435cos8θ+3432cos6θ+2772cos4θ+2520cos2θ+1225)
である。離散的座標系についても使えるように、一般化すると、偶数(2n)次ルジャンドル多項式は、2nより低い次数のルジャンドル多項式すべてと直交する最高次数2nの偶関数と定義することができ、奇数(2n+1)次ルジャンドル多項式は、(2n+1)より低い次数のルジャンドル多項式すべてと直交する最高次数(2n+1)の奇関数と定義することができる。
具体的には、一連のN点からなる時系列信号を、まず、0次から (N−1)次の離散的ルジャンドル関数を基底として展開して、A(0)からA(N−1)までの展開係数を得て、これをもとに、一連の複素ルジャンドル係数
C(±(2n−3/2))=A(2n−2)±jA(2n−1) (1≦2n−1≦N-1)
C(±(2n−1/2))=A(2n)±j A(2n−1) (2≦2n≦N−1;n:自然数, 複号同順) (4)
を算出し、この係数の相対的な大きさにより符号つき速度分析を行う。
すなわち、
C(±(2n−1))=α(2n−1)×A(2n−2) +β(2n−1)×A(2n)±j A(2n−1) (1≦2n−1≦N−1)
C(±2n)=A(2n)±j [α(2n)×A(2n−1)+ β(2n)×A(2n+1) ] (2≦2n≦N−1;n:自然数,複号同順;α及びβ:正の実数 ) (5)
となる。
R(m)=[A(m)2+・・・+A(N−1)2] / [A(m−1)2+A(m)2+・・・+A(N−1)2] (1≦m≦N−1) (6)
を、前記の例と同様N=8の場合について示した。これらの曲線は、ドップラ周波数原点から始まり、原点から離れるにともない単調増加して、一旦最大値をとり、その後リップルする。その単調増加部分を用いることにより、図22に示すような、速度校正曲線を得ることができる。絶対値が最大の複素ルジャンドル係数の次数が求まると、その次数に対応する速度校正曲線を用いて、ルジャンドル係数の自乗和の比からドップラ速度を算出すればよい。
以下、本発明の実施形態について説明する。
図23は、本発明の一実施形態である速度計測装置を使用した超音波診断装置のブロック図であり、血流描画機能を備えている。超音波探触子1を構成する各素子は、切り替えスイッチ群2を介して、送波ビームフォーマ3と受波ビームフォーマ10に接続されている。送波ビームフォーマ3では、送受信シークエンス制御部6による制御に従って、送信波形メモリ5から送信波形選択部4により選択されて読み出された波形を用い、各素子を通じて送信されたときに指向性を持つ超音波パルスとなるような信号が生成される。この信号が、超音波探触子1の各素子により超音波パルスに変換されて生体に送信される。生体中で反射あるいは散乱されて超音波探触子1に戻ってきた超音波エコー信号は、各素子に受信されて、電気信号に変換される。受波ビームフォーマ10では、送受信シークエンス制御部6による制御に従って、指向性を持つ受信感度を生成すべく、各受波信号に遅延時間を与えて互いに加算する。遅延加算により得られた時系列信号は、やはり送受信シークエンス制御部6による制御に従って、受波メモリ選択部11により選択された受波信号メモリ12中の1つのバンクへ一旦書き込まれ、ドップラ信号分析すべきN個の時系列信号がそろったのちに読み出されて、位相回転検出器13,15、ダウン・ミキシング器14、血流信号検出・分析部16において速度を検出・分析すべく信号処理される。
P(n)=S(n+1)S(n)* /||S(n+1)||/||S(n)|| (n=1,・・・,N−1) (7)
を計算し、P(n)の平均値Paの位相から平均位相回転速度を求める。
ここで、S(n)*はS(n)の複素共役、||S(n)|| はS(n)の絶対値である。一般に、クラッタ・エコー信号は血流エコー信号より桁違いに信号振幅が大きいので、Paは、概ねクラッタ・エコー信号の位相回転平均値と考えてよい。すなわち、隣接サンプル間位相差平均値よりクラッタ平均速度が計算される(図24のS1)。また、時系列複素信号S(n)は、受信されたエコー信号に90°位相の異なる2つの搬送周波数信号を乗じて得られる。
Sd(n)=S(n)Pa* n (n=1,・・・, N) (8)
を得る。このダウン・ミキシング処理を行うことにより、クラッタ信号を抑圧する後段の処理をより効果的に行うことができる。
Pd(n)=Sd(n+1)Sd(n)* / ||Sd(n+1)|| /||Sd(n)|| (n=1,・・・, N−1) (9)
を計算する。この隣接サンプル間位相差最大値より、消し残したクラッタ速度の最大値が評価される(図24のS3)。この位相回転最大値の大きさに応じて、血流信号検出・分析部16の遮断特性を制御するために、ルジャンドル展開係数の最低次数が決定される(図24のS4)。すなわち、位相回転最大値が大きいときには、小さいときに比べ、ルジャンドル展開係数の遮断次数Mがより高く設定され、クラッタ成分が効果的に抑圧される。
F=(L・tLL)-1LL (10)
と求めることができる。ここで、tLLはLLの転置行列、LL-1はLLの逆行列を表す。この行列を予め準備しておけば、行列演算
A=F・Sd (11)
によって迅速に、ルジャンドル展開係数を求めることができる。この展開係数A(0),・・・, A(N−1)から、式(5)に従って、C(±1) ,・・・, C(±(N−1))の複素ルジャンドル係数が生成される(図24のS5)。いいかえれば、n次ルジャンドル関数を行ベクトルL(n)で表し、これをn=0から(N−1)まで列方向に並べたN×N行列LLを転置した転置行列tLLを生成する過程と、転置行列tLLにN×N行列LLを前から乗算したものの逆行列(LL・tLL)-1を算出する過程と、N×N行列LLに逆行列(LL・tLL)-1を前から乗算する過程とによって算出された行列FFを要素が時系列信号である列ベクトルSd(n)に前から乗算して、ルジャンドル展開係数を求めることができる。前記したように別途、位相回転最大値に応じてルジャンドル展開係数の最低次数(遮断次数M)が決定され(図24のS4)、C(±1) から C(±(M+1)) までの低次数複素ルジャンドル係数の棄却の可否が判定される。
本実施形態は前記した実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような種々の変形が可能である。
(1)前記実施形態は、複素展開係数のうち最大の絶対値を持つ係数の次数mを求め、次数mを境界とした展開係数間の自乗和の比を用いてドップラ速度を算出したが、複素展開係数間の自乗和の比を用いることもできる。
(2)前記実施形態は、超音波を用いて生体内部の血流などの速度分布や速度の空間分布を表示する医療診断用の血流計や血流描画装置に用いたが、電磁波を送受信することにより、雨雲など運動する反射物を検出して描画する気象レーダーや、飛行物体を検出する航空レーダー、あるいは、近づく物体を検出する衝突防止レーダーなどのパルス・ドップラ・レーダー装置に用いることができる。
Claims (8)
- 速度計測対象物に対してN個のパルス波を所定間隔で送信し、前記パルス波の受信エコー信号を送信時刻の順番に並べた時系列信号を用いて前記速度計測対象物を構成する運動反射物の速度を計測する速度計測方法であって、
前記N個の時系列信号を0次から(N−1)次までの離散的ルジャンドル関数を基底として展開する展開ステップと、
自然数nとするとき、前記展開ステップで展開した1次以上(N−1)次以下の(2n−1)次の展開係数と(2n+1)次の展開係数との線形結合に虚数単位を乗じて、2n次の展開係数と線形結合した2n次の複素展開係数と、(2n+1)次の展開係数に虚数単位を乗じた後、2n次の展開係数と(2n+2)次の展開係数と線形結合した(2n+1)次の複素展開係数とを算出する複素展開係数算出ステップと、
前記各複素展開係数のうち最大の絶対値を持つ係数の自然数である次数mを決定する次数決定ステップと、
前記次数決定ステップで決定した次数mに対応する速度校正曲線を用い、(m−1)次から(N−1)次までの前記各展開係数の自乗和あるいは前記各複素展開係数の自乗和と、m次から(N−1)次までの前記各展開係数の自乗和あるいは前記各複素展開係数の自乗和との比に対応する前記時系列信号の位相回転速度の値を取得して前記運動反射物に関する符号付き速度信号を算出する速度算出ステップと
からなる速度計測方法。 - 前記展開ステップは、n次ルジャンドル関数を行ベクトルL(n)で表し、これをn=0から(N−1)まで列方向に並べたN×N行列LLを転置した転置行列tLLを生成する過程と、前記転置行列tLLに前記N×N行列LLを前から乗算したものの逆行列(LL・tLL)-1を算出する過程と、前記N×N行列LLに前記逆行列(LL・tLL)-1を前から乗算する過程とによって算出された行列FFを要素が前記時系列信号である列ベクトルSd(n)に前から乗算するステップであることを特徴とする請求項1に記載の速度計測方法。
- 静止反射物に対する前記受信エコーの大きさの変動あるいはドリフトの程度によって、前記複素展開係数を小さな次数から徐々に無視することを特徴とする請求項2に記載の速度計測方法。
- 速度計測対象物に対してN個のパルス波を所定間隔で送信し、前記パルス波の受信エコー信号を送信時刻の順番に並べた時系列信号を用いて前記速度計測対象物を構成する運動反射物の速度を計測する速度計測装置であって、
前記N個の時系列信号を0次から(N−1)次までの離散的ルジャンドル関数を基底として展開する展開手段と、
自然数nとするとき、前記展開手段で展開した1以上(N−1)次以下の(2n−1)次の展開係数と(2n+1)次の展開係数との線形結合に虚数単位を乗じて、2n次の展開係数と線形結合した2n次の複素展開係数と、(2n+1)次の展開係数に虚数単位を乗じた後、2n次の展開係数と(2n+2)次の展開係数と線形結合した(2n+1)次の複素展開係数とを算出する複素展開係数算出手段と、
前記各複素展開係数のうち最大の絶対値を持つ係数の自然数である次数mを決定する次数決定手段と、
前記決定された次数mに対応する速度校正曲線を用い、(m−1)次から(N−1)次までの前記各展開係数の自乗和あるいは前記各複素展開係数の自乗和と、m次から(N−1)次までの前記各展開係数の自乗和あるいは前記各複素展開係数の自乗和との比に対応する前記時系列信号の位相回転速度の値を取得して前記運動反射物に関する符号付き速度信号を算出する速度算出手段と
からなる速度計測装置。 - 前記展開手段は、n次ルジャンドル関数を行ベクトルL(n)で表し、これをn=0から(N−1)まで列方向に並べたN×N行列LLを転置した転置行列tLLを生成する過程と、前記転置行列tLLに前記N×N行列LLを前から乗算したものの逆行列(LL・tLL)-1を算出する過程と、前記N×N行列LLに前記逆行列(LL・tLL)-1を前から乗算する過程とによって算出された行列FFを要素が前記時系列信号である列ベクトルSd(n)に前から乗算する手段であることを特徴とする請求項4に記載の速度計測装置。
- 静止反射物に対する前記受信エコーの大きさの変動あるいはドリフトの程度によって、前記複素展開係数を小さな次数から徐々に無視することを特徴とする請求項5に記載の速度計測装置。
- 前記パルス波は、超音波であり、
前記運動反射物は、血流であることを特徴とする請求項4ないし請求項6に記載の速度計測装置。 - 前記パルス波は、超音波であり、
前記速度計測対象物は、肝臓であり、
前記肝臓の組織の運動速度の分布及び血流像を表示する表示手段を備えたことを特徴とする請求項4ないし請求項6に記載の速度計測装置。
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